【実施例】
【0038】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるべきではない。
【0039】
実施例1
La:Ni:Co:Feが原子比で1.0:1/3:1/3:1/3となるように、即ち酸化ランタン(Laとして84.99wt%)270.97gと炭酸ニッケル(Niとして46.81wt%)68.60gと塩基性炭酸コバルト(Coとして59.03wt%)54.62gとクエン酸鉄水溶液(Feとして8.20wt%)372.60gを秤量し、純水1L(リットル)に分散させた。その溶液に全金属イオンが錯体を形成するのに必要なクエン酸量より50%多いクエン酸(982g)を加え65℃で反応させた。反応終了後、得られた溶液を90℃で乾燥し、複合クエン酸塩を得た。得られた複合クエン酸塩を大気中で、600℃、6時間仮焼した後に、電気炉内でそのまま徐冷した。続いてサンプルミルで解砕して大気中、900℃で6時間焼成した。その結果、400gの複合酸化物を得た。
【0040】
この複合酸化物をCu−Kα線を用いたX線回折測定(XRD)により構造解析し、
図1に示すように立方晶系ペロブスカイト構造のLaCo
0.40Fe
0.60O
3と菱面体晶系ペロブスカイト構造のLaNi
0.60Co
0.40O
3と菱面体晶系ペロブスカイト構造のLaCoO
3に帰属できる回折ピークを確認した。X線回折測定の結果と原料の仕込み組成から、この複合酸化物はBサイトにNiとCoとFeが存在するペロブスカイト構造のLaNi
1/3Co
1/3Fe
1/3O
3であることが判った。
【0041】
次に、炭酸カリウム1.33gをイオン交換水40gに溶解させた溶液を作成した。この溶液に上記の複合酸化物であるLaNi
1/3Co
1/3Fe
1/3O
3を5.0g加え、マグネットスターラーで攪拌しながら約15時間浸漬した。
炭酸カリウム水溶液と複合酸化物からなるスラリーを、90℃で6時間蒸発乾固した後に、アルミナ製の匣鉢に移し、大気中、600℃で6時間熱処理しアンモニア分解触媒を得た。
【0042】
その後、アンモニア分解触媒をボールミルで40時間粉砕した後、粒度およびBET比表面積を測定した。粒度分布測定にはHORIBA社製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(LASER SCATTERING PARTICLE SIZE DISTRIBUTION ANALTZER)LA−920を用い、BET比表面積測定にはMOUNTECH社製の全自動比表面積計(AutoSurface Area Analyzer)Macsorb model−1208を用いた。その結果、平均粒径D
50は0.97μmであり、比表面積は2.0m
2/gであった。
【0043】
石英ガラス製のアンモニア分解反応筒(1)(
図2参照、内径4mm、長さ180mm)にシリカウール(2)を詰め、その上に上記の粉砕したアンモニア分解触媒の粉末(3)0.1gを充填し、更にそれをシリカウール(4)ではさんだ。そのアンモニア分解反応筒(1)を試験管(5)につないで電気炉(6)に入れ、600℃に設定した。(
図3参照)
【0044】
アンモニア分解反応筒(1)に97%Ar+3%H
2ガスを約1時間流し、還元処理を行なった後に、NH
3ガスとArガスとをマスフローコントローラーを用いて流量を調整し、アンモニア分解反応筒へ供給した。空間速度は4632h
−1とした。
【0045】
アンモニア分解能力の測定方法は、触媒が充填されている反応筒の後に吸収びん(7)を設置し、未反応のアンモニアガスを吸収させた後、アンモニア以外のガス出口流量を測定することで、窒素および水素への転化率を下記式を用いて算出した。その結果、アンモニアの転化率は93%であった。
なお、出口ではGC/MS(AMETEK社のProLine Mass Spectrometer)により、窒素と水素が生成し、それ以外の成分は副生していなことを確認した。
【0046】
【数1】
アンモニア分解評価後のアンモニア分解触媒をアンモニア分解反応筒(1)から取り出し、X線回折測定を行なった。その結果を
図4に示す。
図4より、アンモニア分解処理後も、母材である複合酸化物は、ペロブスカイト構造を保持していることが確認できた。
【0047】
実施例2
実施例1と同様にしてLaNi
1/3Co
1/3Fe
1/3O
3を得た。次に炭酸ナトリウム0.75gをイオン交換水40gに溶解させ、この溶液に上記のLaNi
1/3Co
1/3Fe
1/3O
3を5.0g加え、マグネットスターラーで撹拌しながら約15時間浸漬した。
炭酸ナトリウム水溶液と複合酸化物からなるスラリーを、90℃で6時間蒸発乾固した後に、アルミナ製の匣鉢に移し、大気中、600℃で6時間熱処理した。
熱処理したアンモニア分解触媒を実施例1と同様にしてボールミルで粉砕し、粒度およびBET比表面積を測定した。その結果、平均粒度D
50は1.19μm、比表面積は1.96m
2/gであった。以下、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行なった。なお、反応温度は600℃、空間速度は5311h
−1とした。その結果、アンモニアの転化率は97%であった。
【0048】
実施例3
La:Ni:Co:Feが原子比で1.0:0.20:0.40:0.40となるように、即ち酸化ランタン201.82gと炭酸ニッケル30.97gと塩基性炭酸コバルト49.31gとクエン酸鉄水溶液336.38gを秤量した以外は実施例1と同様にして複合酸化物300gを得た。
【0049】
その後、実施例1と同様にX線回折スペクトルを測定した。X線回折スペクトルから、この複合酸化物は斜方晶系ペロブスカイト構造のLaCo
0.40Fe
0.60O
3と菱面体晶系ペロブスカイト構造のLaNi
0.60Co
0.40O
3に帰属できた。X線回折測定の結果と原料の仕込み組成から、この複合酸化物はBサイトにNiとCoとFeが存在するペロブスカイト構造のLaNi
0.20Co
0.40Fe
0.40O
3であることが判った。
【0050】
次に、炭酸カリウム1.33gをイオン交換水40gに溶解させた。この溶液に上記のLaNi
0.20Co
0.40Fe
0.40O
3を5.0g加え、マグネットスターラーで撹拌しながら約15時間浸漬した。
炭酸カリウム水溶液と複合酸化物からなるスラリーを、90℃で6時間蒸発乾固した後に、アルミナ製の匣鉢に移し、大気中、600℃で6時間熱処理した。
熱処理したアンモニア分解触媒を実施例1と同様にしてボールミルで粉砕した後、粒度および比表面積を測定した。その結果、平均粒径D
50は1.35μmであり比表面積は1.1m
2/gであった。以下、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行なった。なお、反応温度は600℃、空間速度は4800h
−1とした。その結果、アンモニアの転化率は100%であった。
【0051】
実施例4
La:Sr:Ni:Co:Feが原子比で1.0:1.0:1/3:1/3:1/3となるように、即ち酸化ランタン142.17gと炭酸ストロンチウム(Srとして59.76wt%)127.53gと炭酸ニッケル35.99gと塩基性炭酸コバルト28.66gとクエン酸鉄水溶液195.49gを秤量した以外は実施例1と同様にして、複合酸化物300gを得た。
【0052】
その後、実施例1と同様にX線回折スペクトルを測定した。X線回折スペクトルから、この複合酸化物は、
図5に示すように、正方晶系層状ペロブスカイト構造のLaSrCo
0.50Fe
0.50O
4と正方晶系層状ペロブスカイト構造のLa
2NiO
4に帰属できた。X線回折測定の結果と原料の仕込み組成から、この複合酸化物はBサイトにNiとCoとFeが存在する層状ペロブスカイト構造のLaSrNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
4であることが判った。
【0053】
次に、炭酸カリウム1.33gをイオン交換水40gに溶解させた。この溶液に上記のLaSrNi
1/3Co
1/3Fe
1/3O
4を5.0g加え、マグネットスターラーで撹拌しながら約15時間浸漬した。
炭酸カリウム水溶液と複合酸化物からなるスラリーを、90℃で6時間蒸発乾固した後に、アルミナ製の匣鉢に移し、大気中、600℃で6時間熱処理した。
熱処理したアンモニア分解触媒を実施例1と同様にしてボールミルで粉砕した後、粒度および比表面積測定した。その結果、平均粒径D
50は8.01μmであり比表面積は3.97m
2/gであった。以下、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行なった。なお、反応温度は600℃、空間速度は3600h
−1とした。その結果、アンモニアの転化率は97%であった。
【0054】
実施例5
実施例4と同様にしてLaSrNi
1/3Co
1/3Fe
1/3O
4を得た。次に、炭酸ナトリウム0.75gをイオン交換水40gに溶解させた溶液を作成した。この溶液に上記のLaSrNi
1/3Co
1/3Fe
1/3O
45.0gを加え、マグネットスターラーで攪拌しながら約15時間浸漬した。
炭酸ナトリウム水溶液と複合酸化物からなるスラリーを、90℃で6時間蒸発乾固した後に、アルミナ製の匣鉢に移し、大気中、600℃で6時間熱処理した。
熱処理したアンモニア分解触媒を実施例1と同様にしてボールミルで粉砕した後、粒度およびBET比表面積を測定した。その結果、平均粒径D
50は5.29μm、比表面積は1.1m
2/gであった。以下、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行なった。なお、反応温度は600℃、空間速度は4800h
−1とした。その結果、アンモニアの転化率は100%であった。
【0055】
比較例1
炭酸カリウムを600℃で6時間熱処理した後に、ボールミルで40時間粉砕した。この粉砕粉について、実施例1と同様にしてBET比表面積を測定した。その結果、比表面積は0.22m
2/gであった。また、この粉砕粉について、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行なった。なお、反応温度は600℃、空間速度は4800h
−1とした。その結果、アンモニアの転化率は1%であった。
【0056】
比較例2
実施例1と同様にしてLaNi
1/3Co
1/3Fe
1/3O
3を得た。
この複合酸化物を40時間ボールミルで粉砕し、粒度およびBET比表面積を測定した。その結果、平均粒度D
50は0.89μm、比表面積は3.8m
2/gであった。以下、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行なった。なお、反応温度は600℃、空間速度は3533h
−1とした。その結果、アンモニアの転化率は42%であった。
【0057】
比較例3
実施例4と同様にしてLaSrNi
1/3Co
1/3Fe
1/3O
4を得た。
この複合酸化物を40時間ボールミルで粉砕し、粒度およびBET比表面積を測定した。その結果、平均粒度D
50は6.1μm、比表面積は0.96m
2/gであった。以下、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行なった。なお、反応温度は600℃、空間速度は6316h
−1とした。その結果、アンモニアの転化率は32%であった。
【0058】
比較例4
La:Co:Feが原子比で1.0:0.50:0.50となるように、即ち酸化ランタン200.71gと塩基性炭酸コバルト61.30gとクエン酸鉄水溶液418.17gを秤量した以外は実施例1と同様にして複合酸化物300gを得た。
【0059】
その後、実施例1と同様にX線回折スペクトルを測定した。X線回折スペクトルから、この複合酸化物は立方晶系ペロブスカイト構造のLaCo
0.40Fe
0.60O
3と菱面体晶系ペロブスカイト構造のLaCoO
3に帰属できた。X線回折測定の結果と原料の仕込み組成から、この複合酸化物はBサイトにCoとFeが存在するペロブスカイト構造のLaCo
0.50Fe
0.50O
3であることが判った。
【0060】
次に、炭酸カリウム1.33gをイオン交換水40gに溶解させた。この溶液に上記のLaCo
0.50Fe
0.50O
3を5.0g加え、マグネットスターラーで撹拌しながら約15時間浸漬した。
炭酸カリウム水溶液と複合酸化物からなるスラリーを、90℃で6時間蒸発乾固した後に、アルミナ製の匣鉢に移し、大気中、600℃で6時間熱処理した。
熱処理したアンモニア分解触媒を実施例1と同様にしてボールミルで粉砕した後、この複合酸化物の平均粒径D
50および比表面積を測定した。その結果、平均粒径D
50は3.22μm、比表面積は0.90m
2/gであった。以下、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行なった。なお、反応温度は600℃、空間速度は5167h
−1とした。その結果、アンモニアの転化率は65%であった。
【0061】
比較例5
実施例1と同様にしてLaNi
1/3Co
1/3Fe
1/3O
3を得た。次に炭酸マグネシウム7.9gをイオン交換40gに溶解させ、この溶液に上記のLaNi
1/3Co
1/3Fe
1/3O
3を5.0g加え、マグネットスターラーで撹拌しながら約15時間浸漬した。
炭酸マグネシウム水溶液と複合酸化物からなるスラリーを、90℃で6時間蒸発乾固した後に、アルミナ製の匣鉢に移し、大気中、600℃で6時間熱処理した。
熱処理したアンモニア分解触媒を実施例1と同様にしてボールミルで粉砕し、粒度およびBET比表面積を測定した。その結果、平均粒度D
50は1.21μm、比表面積は4.08m
2/gであった。以下、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行なった。なお、反応温度は600℃、空間速度は4200h
−1とした。その結果、アンモニアの転化率は69%であった。
【0062】
比較例6
実施例1と同様にしてLaNi
1/3Co
1/3Fe
1/3O
3を得た。次に炭酸カルシウム3.30gをイオン交換40gに溶解させ、この溶液に上記のLaNi
1/3Co
1/3Fe
1/3O
3を5.0g加え、マグネットスターラーで撹拌しながら約15時間浸漬した。
炭酸カルシウム水溶液と複合酸化物からなるスラリーを、90℃で6時間蒸発乾固した後に、アルミナ製の匣鉢に移し、大気中、600℃で6時間熱処理した。
熱処理したアンモニア分解触媒を実施例1と同様にしてボールミルで粉砕し、粒度およびBET比表面積を測定した。その結果、平均粒度D
50は1.23μm、比表面積は7.07m
2/gであった。以下、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行なった。なお、反応温度は600℃、空間速度は5517h
−1とした。その結果、アンモニアの転化率は53%であった。
【0063】
以上の結果より、BサイトにNiとCoとFeの3元素を有するペロブスカイト構造または層状ペロブスカイト構造の複合酸化物にカリウムなどのアルカリ金属またはその化合物を担持させたアンモニア分解触媒は、それらを担持しないアンモニア分解触媒よりもアンモニア分解性能が飛躍的に向上する触媒を提供することができる。
一方、カリウム化合物のみのアンモニア分解触媒や、ペロブスカイト構造または層状ペロブスカイト構造の複合酸化物のみのアンモニア分解触媒は、高い触媒能は得られなかった。
【0064】
また、BサイトにNi,Co,Feの3元素が含まれている複合酸化物にマグネシウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属またはその化合物を担持させてもアンモニア分解性能の向上は図れなかった。
よって、本発明にかかるアンモニア分解触媒は、カリウム金属もしくはナトリウム金属、またはカリウム化合物もしくはナトリウム化合物とLaとNiとCoとFeの4元素を有する複合酸化物との相互作用により高い触媒能が発現する。