(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5690171
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】避雷装置の故障診断方法と故障診断装置
(51)【国際特許分類】
H01T 4/02 20060101AFI20150305BHJP
H01T 1/16 20060101ALI20150305BHJP
G01R 31/00 20060101ALI20150305BHJP
【FI】
H01T4/02 A
H01T1/16 A
H01T1/16 G
G01R31/00
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-42234(P2011-42234)
(22)【出願日】2011年2月28日
(65)【公開番号】特開2012-181935(P2012-181935A)
(43)【公開日】2012年9月20日
【審査請求日】2013年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000242644
【氏名又は名称】北陸電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090206
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 信道
(72)【発明者】
【氏名】島崎 克彦
(72)【発明者】
【氏名】杉本 仁志
【審査官】
岡崎 克彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−043379(JP,A)
【文献】
特開2004−273362(JP,A)
【文献】
特開平04−212076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 1/00− 4/20
G01R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギャップ(1)と非線形抵抗素子(2)を直列に接続してなる被検避雷装置(A)にギャップ(1)の放電開始電圧以上のステップ電圧を直流電圧発生器(3)によって印加して当該ギャップ(1)の間で放電させ被検避雷装置(A)の装置通過過渡電流の時間応答波形を計測する計測ステップと、装置通過過渡電流の時間応答波形における被検避雷装置(A)の最大振幅又は減衰特性を、正常避雷装置の最大振幅又は減衰特性と比較し両者の差から故障を診断する評価ステップを経ることを特徴とする避雷装置の故障診断方法。
【請求項2】
ギャップ(1)と非線形抵抗素子(2)を直列に接続してなる被検避雷装置(A)にギャップ(1)の放電開始電圧以上のステップ電圧を直流電圧発生器(3)によって印加して当該ギャップ(1)の間で放電させ被検避雷装置(A)の装置通過過渡電流の時間応答波形を計測する計測ステップと、当該装置通過過渡電流の時間応答波形に対する周波数解析により被検避雷装置(A)の固有振動周波数、及び固有振動周波数での電流波高値又は強度を算出する演算ステップと、被検避雷装置(A)の固有振動周波数、及び固有振動周波数での電流波高値又は強度を、正常避雷装置の固有振動周波数、及び固有振動周波数での電流波高値又は強度と比較し両者の差から故障を診断する評価ステップを経ることを特徴とする避雷装置の故障診断方法。
【請求項3】
ギャップ(1)と非線形抵抗素子(2)を直列に接続してなる被検避雷装置(A)にギャップ(1)の放電開始電圧以上のステップ電圧を印加する直流電圧発生器(3)と、当該ギャップ(1)の間で放電した際の被検避雷装置(A)の装置通過過渡電流の時間応答波形を計測し記録する電流測定部(4)と、当該装置通過過渡電流の時間応答波形における被検避雷装置(A)の最大振幅又は減衰特性を、正常避雷装置の最大振幅又は減衰特性と比較し両者(A)の差から故障を診断する診断部(6)を備えることを特徴とする避雷装置の故障診断装置。
【請求項4】
ギャップ(1)と非線形抵抗素子(2)を直列に接続してなる被検避雷装置(A)にギャップ(1)の放電開始電圧以上のステップ電圧を印加する直流電圧発生器(3)と、当該ギャップ(1)の間で放電した際の被検避雷装置(A)の装置通過過渡電流の時間応答波形を計測し記録する電流測定部(4)と、当該装置通過過渡電流の時間応答波形に対する周波数解析により被検避雷装置(A)の固有振動周波数、及び固有振動周波数での電流波高値又は強度を算出する計算部(5)と、被検避雷装置(A)の固有振動周波数、及び固有振動周波数での電流波高値又は強度を、正常避雷装置の固有振動周波数、及び固有振動周波数での電流波高値又は強度と比較し両者(A)の差から故障を診断する診断部(6)を備えることを特徴とする避雷装置の故障診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力設備に用いられる避雷装置、特に、直列ギャップ付き避雷装置における、保守・メンテナンス技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ギャップを有する避雷設備として、各々独立した直列ギャップと非線形抵抗素子を併用する避雷設備や、直列ギャップと非線形抵抗素子を兼ね備え、且つそれらを筐体内部に収容し一体化した直列ギャップ付き避雷装置等が用いられているが、特に、各々独立した直列ギャップと非線形抵抗素子を併用する避雷設備の故障診断方法として、電流を測定する手法(例えば下記特許文献1参照)、絶縁抵抗を測定する手法、又は放電開始電圧を測定する手法が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−159909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記三つの手法のうちの第一の手法にあっては、非線形抵抗素子の両端に電源を接続しなければならず、第二の手法及び第三の手法にあっては、ギャップが健全であった場合に非線形抵抗素子の診断を行うことができない。
ギャップが健全であっても、非線形抵抗素子が故障している場合や導入当初の性能を有していない場合には、電力設備の信頼度低下を招くことから、この様な直列ギャップ付き避雷装置における、保守・メンテナンスにおいては大きな問題となる。
【0005】
従来、この様な例において、非線形抵抗素子の診断を含む故障診断を行うには、解体作業が不可欠であり、多大な労力を要するばかりか、この作業によってそれが正常品であったとしても、再度使用することが出来なくなるという問題があった。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、ギャップと非線形抵抗素子を直列に接続した避雷装置において、正常品を使用不能とすることなく非線形抵抗素子の故障診断を正確に行うことが出来る小規模な避雷装置の故障診断方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明による避雷装置の故障診断方法は、ギャップと非線形抵抗素子を直列に接続してなる被検避雷装置にギャップの放電開始電圧以上の
ステップ電圧を
直流電圧発生器によって印加して当該ギャップの間で放電させ被検避雷装置の装置通過過渡電流
の時間応答波形(
図3参照)を計測する計測ステップと、当該装置通過過渡電流
の時間応答波形における被検避雷装置の最大振幅(最大の電流波高値)又は減衰特性(減衰時間や減衰定数等)を、正常避雷装置の最大振幅又は減衰特性と比較し両評価項目の差から故障を診断する評価ステップを経ることを特徴とする。
【0008】
評価項目に演算を加える手法を採った本発明による避雷装置の故障診断方法にあっては、ギャップと非線形抵抗素子を直列に接続してなる(直列ギャップ付き)被検避雷装置にギャップの放電開始電圧以上の
ステップ電圧を
直流電圧発生器によって印加して当該ギャップの間で放電させ被検避雷装置の装置通過過渡電流
の時間応答波形を計測する計測ステップと、当該装置通過過渡電流
の時間応答波形に対する周波数解析(高速フーリエ変換等)により被検避雷装置の固有振動周波数、及び固有振動周波数での電流波高値又は強度を算出する演算ステップと、被検避雷装置の固有振動周波数、及び固有振動周波数での電流波高値又は強度を、正常避雷装置の固有振動周波数、及び固有振動周波数での電流波高値又は強度と比較し両評価情報の差から故障を診断する評価ステップを経ることを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明による避雷装置の故障診断装置は、ギャップと非線形抵抗素子を直列に接続してなる被検避雷装置にギャップの放電開始電圧以上の
ステップ電圧を印加する直流電圧発生器と、当該ギャップの間で放電した際の被検避雷装置の装置通過過渡電流
の時間応答波形を計測し記録する電流測定部と、当該装置通過過渡電流
の時間応答波形における被検避雷装置の最大振幅又は減衰特性を、正常避雷装置の最大振幅又は減衰特性と比較し両評価項目の差から故障を診断する診断部を備えることを特徴とする。
【0010】
評価項目に演算を加える手法を採った本発明による避雷装置の故障診断装置にあっては、直列ギャップ付きの被検避雷装置にギャップの放電開始電圧以上の
ステップ電圧を印加する直流電圧発生器と、当該ギャップの間で放電した際の被検避雷装置の装置通過過渡電流
の時間応答波形を計測し記録する電流測定部と、当該装置通過過渡電流
の時間応答波形に対する周波数析により被検避雷装置の固有振動周波数、及び固有振動周波数での電流波高値又は強度を算出する計算部と、被検避雷装置の固有振動周波数、及び固有振動周波数での電流波高値又は強度を、正常避雷装置の固有振動周波数、及び固有振動周波数での電流波高値又は強度と比較し両評価情報の差から故障を診断する診断部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上の如く、本発明による避雷装置の故障診断方法によれば、従来の方法では不十分であったギャップ付き避雷装置の故障判断を非破壊で行うことができる。しかも、単なる数値の比較のみならず、固有振動周波数の相対的なズレ、強度、電流波高値、又は減衰特性の著しい相違を確認することができるので、従来に増して正確な診断結果を得ることができる。
【0012】
また、電力設備に用いられる直列ギャップ付き避雷装置の保守・メンテナンスの技術向上及び効率化が図られる。
また、被検避雷装置の装置通過過渡電流−時間特性を計測する手法を採ったことにより、大掛かりな装置が不要であり、被検避雷装置への接続を現地において行うことが可能となる。
この様に破壊に至っている避雷装置を高い精度で発見することにより、避雷装置の故障に伴う停電などの影響を未然に防止でき、電力設備の信頼度維持が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による避雷装置の故障診断方法に用いる測定回路の一例を示す電気回路図である。
【
図2】本発明による避雷装置の故障診断方法が用いられる避雷装置の概要図である。
【
図3】本発明による避雷装置の故障診断方法で得られた被検避雷装置の装置通過過渡電流−時間特性の一例を示すグラフである。
【
図4】本発明による避雷装置の故障診断方法で得られた被検避雷装置の装置通過過渡電流−時間特性を高速フーリエ変換して得た強度の周波数特性の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明による避雷装置の故障診断方法(以下診断方法と記す)及びそれに用いる診断装置(以下診断装置と記す)を具体的に説明する。
本発明による故障診断方法は、
図2に示す様な単数又は複数の非線形抵抗素子(本実施の形態では酸化亜鉛素子)2とギャップ1を直列に接続してなる避雷装置(直列ギャップ付き避雷装置;以下避雷装置と記す)の診断に用いるものである。
【0015】
前記避雷装置は、抵抗、インダクタンス、及びキャパシタンスの各成分を含むため、被検避雷装置Aの一次端子x−接地端子y間に所定のステップ電圧を印加したことに伴う放電に際して、固有振動数に応じた過渡電流がギャップ1の端子間に流れる(以下装置通過過渡電流と記す)。
【0016】
本発明による診断方法は、故障した非線形抵抗素子2の抵抗、インダクタンス、キャパシタンスの値が破壊や閃絡により変化することを利用し、装置通過過渡電流の時間応答波形(装置通過過渡電流−時間特性を表現する波形)に顕れる振幅(電流波高値)、振動周波数、若しくは減衰特性等の評価項目、又はある基準値に対する装置通過過渡電流の相対的強度や固有振動周波数等の周波数解析を経て導かれる評価情報を検出し、同じステップ電圧の印加で流れる正常避雷装置の装置通過過渡電流との比較を以って被検避雷装置Aについての故障の有無を非破壊で診断するものである。
【0017】
被検避雷装置Aの装置通過過渡電流−時間特性から最大振幅又は減衰時間を導き、被検避雷装置Aの最大振幅又は減衰時間と、正常避雷装置の最大振幅又は減衰時間との格差の評価を行うことが出来る。
当該例では、被検避雷装置Aの装置通過過渡電流−時間特性を、強度(dB)−周波数特性(以下これを表現する波形を周波数応答波形と記す)に高速フーリエ変換し、強度のピーク値を得る周波数(以下ピーク周波数と記す)を固有振動数と推定する(
図4参照)。
これによって、被検避雷装置Aの固有振動数と、正常避雷装置の固有振動数との格差の評価を、時間応答波形と比べて格段に容易なものとすることができる。
【0018】
また、避雷装置を流れる装置通過過渡電流の高速フーリエ変換にて得られる固有振動数は、印加電圧の入力波形に依存しないことから、被検避雷装置Aと正常避雷装置とのピーク周波数やピーク値の差のみから印加電圧に厳しい条件を課すことなく故障の有無を診断することができる。
【0019】
加えて、電流波高値(A)又は強度(dB)が被検避雷装置Aに含まれる非線形抵抗素子2のうち故障した非線形抵抗素子2の個数及びその程度に応じて異なることから、それらの値を検証することによって被検避雷装置Aの良否のみならず故障の情況に至るまでを診断することができる。
【0020】
上記診断方法に用いる診断装置は、直流電圧発生器3、電流測定部4、及び演算手段7で構成される。
直流電圧発生器3は、被検避雷装置Aの一次端子xと接地端子yとの間に並列に接続し、被検避雷装置Aが有するギャップ1の放電開始電圧以上(例えば20kV以上)のステップ電圧を印加する能力を有するものである。
【0021】
電流測定器4は、被検避雷装置Aと直流電圧発生器3を含む閉回路中に直列に介在し、前記ギャップ1の間で放電した際の被検避雷装置Aの装置通過過渡電流を測定する。
電流測定器4は、基準時間を発生するタイマ8と記憶手段9を備え、装置通過過渡電流は、基準時間を元に測定時に与えられた時刻(タイミング)とリンクして(装置通過過渡電流−時間特性として)記憶手段9に保存する(計測ステップ)。尚、前記時刻は、予め備えている正常避雷装置の装置通過過渡電流−時間特性における時刻と同一又はそれを分割した単位時間刻みによるものである。
【0022】
演算手段7は、計算部5で、装置通過過渡電流−時間特性に対する所謂高速フーリエ変換により被検避雷装置の固有振動周波数、及び固有振動周波数での電流波高値又は強度を算出する(演算ステップ)と共に、診断部6で、正常避雷装置の固有振動周波数と、被検避雷装置Aの固有振動周波数とを比較し、正常範囲とされる固有振動周波数の帯域を逸脱した固有振動周波数を持つ被検避雷装置Aを、故障を内在した避雷装置であると判定する(評価ステップ)。
【0023】
更に、正常避雷装置と被検避雷装置Aの固有振動周波数での強度(又は電流波高値)と比較し両者の格差を判断基準に含め、固有振動周波数、及び固有振動周波数での強度(又は電流波高値)の双方から故障した非線形抵抗素子の個数及びその態様の推定結果を出力する構成としても良い。
【0024】
尚、計算部5で高速フーリエ変換を行わず、診断部6で、被検避雷装置Aと正常避雷装置の装置通過過渡電流−時間特性(
図3参照)における最大振幅又は減衰時間を比較し、双方の格差の評価し、正常範囲とされる帯域を逸脱した最高振幅又は減衰時間を持つ被検避雷装置Aを、故障を内在した避雷装置であると判定することもできる(評価ステップ)。
【0025】
上記方法は、評価ステップにおいて目視による判断を採ることも可能である。
この様な場合、電流測定部4や演算手段7には、時間応答波形(
図3参照)や周波数応答波形(
図4参照)を目視可能に表示する表示手段が必要となる。本実施の形態の表示手段は、前記記憶手段9に時刻とリンクして保存された装置通過過渡電流の評価項目、及びそれをフーリエ変換した評価情報を、正常避雷装置と同スケールでの被検避雷装置Aの時間応答波形又は周波数応答波形を、横軸を時間又は周波数とし、縦軸を装置通過過渡電流又は電流波高値若しくは強度としてディスプレイ装置や紙面等に表示する。
【符号の説明】
【0026】
1 ギャップ,2 非線形抵抗素子,3 直流電圧発生器,4 電流測定部,
5 計算部,6 診断部,7 演算手段,8 タイマ,9 記憶手段,
A 被検避雷装置,x 一次端子,y 接地端子,