【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。表1に本発明の実施例及び比較例で使用した分割型複合繊維、合成短繊維を示した。表1中の分割型複合繊維B1〜B5の断面形状は、分割型複合繊維全体の断面が円形で、ポリプロピレンとポリメチルペンテンの配置が放射状型であることを意味している。また、B1〜B3の断面は、中空型であることを意味する。B6の断面形状は、分割型複合繊維全体の断面が円形で、ポリプロピレンとエチレン−ビニルアルコール共重合体の配置が放射状型であることを意味する。B1〜B5の理論扁平度はポリメチルペンテンの値を示し、B6の理論扁平度はポリプロピレンの値を示した。表1中の「PP」はポリプロピレン、「TPX」は、ポリメチルペンテン、「EVOH」はエチレン−ビニルアルコール共重合体、「PET」はポリエチレンテレフタレート、「PE」は高密度ポリエチレンを意味する。F10及びF11の芯鞘型複合繊維の芯部と鞘部の断面積比は50:50であり、どちらも芯部がポリプロピレンである。表2に、本発明の実施例及び比較例で作製した基材の原料スラリーの配合率を示した。表2中の原料の記号は、表1の記号に該当する。スラリーの調製には、必要に応じて分散助剤、消泡剤、増粘剤を添加した。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
実施例1
スラリー1を2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、ヤンキードライヤー温度を150℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、表3に示した熱処理温度と熱処理線圧に従って、熱カレンダー処理し、実施例1の基材を作製した。
【0038】
実施例2〜10
スラリー2〜10を用いて、表3に示した熱処理温度と熱処理線圧に従った以外は、実施例1と同様にして基材2〜10を作製した。
【0039】
実施例11、12
スラリー9を用いて、表3に示した熱処理温度と熱処理線圧に従った以外は、実施例1と同様にして基材11、12を作製した。
【0040】
(比較例1)
スラリー11を2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、ヤンキードライヤー温度を150℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、表3に示した熱処理温度と線圧条件に従って熱カレンダー処理し、比較例1の基材を作製した。
【0041】
(比較例2)
スラリー12を2連式の円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、ヤンキードライヤー温度を130℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、表3に示した熱処理温度と線圧条件に従って熱カレンダー処理し、比較例2の基材を作製した。
【0042】
(比較例3)
スラリー13を、円網抄紙機と短網抄紙機の複合抄紙機を用いて湿式抄紙し、ヤンキードライヤー温度を135℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、湿式不織布を体積比率でフッ素:酸素:窒素=1:73:26の混合ガス中に1分間曝した。その後、60℃の湯で洗浄し、熱風乾燥機で70℃雰囲気に通して乾燥させた。この湿式不織布に水分を噴霧して100質量%含浸させ、130℃に加熱した一対の金属ロールに線圧500N/cm、速度3.3m/minで通してエチレン−ビニルアルコール共重合体をゲル皮膜化し、比較例3の基材を作製した。
【0043】
(比較例4)
ポリエチレンが繊維表面の一部を占めるポリプロピレン−高密度ポリエチレン混在極細繊維(平均繊維径2μm、高密度ポリエチレンの極細繊維全体に対する質量百分率:80%、繊維長2mm、断面形状:円)100%をパルパーで分散させ、長網抄紙機を用いて湿式抄紙し、ヤンキードライヤー温度を120℃にして乾燥させて湿式不織布を作製した。次いで、湿式不織布を128℃の熱風乾燥機に通して、高密度ポリエチレンを融着させた後、60℃のロールプレス機でプレスして比較例4の基材を作製した。
【0044】
[評価]
実施例及び比較例の基材について、下記の評価を行い、結果を表3に示した。
【0045】
<基材の厚み>
JIS P8118に準拠して厚みを測定し、その平均値を算出した。
【0046】
<基材の密度>
JIS P8124に準拠して基材の坪量を測定し、坪量を厚みで除して100倍した値を密度とした。
【0047】
<網パターン転写>
基材を目視確認し、抄紙網のパターン転写があるかどうかを判定した。パターン転写がある場合を「あり」、ない場合を「なし」とした。
【0048】
<ピンホール>
基材の裏側から光を当て、基材にピンホールがあるかどうかを目視で判定した。ピンホールがある場合を「あり」、ない場合を「なし」とした。
【0049】
<塗工性>
セパレータの作製において、基材に塗工したときの基材の状態を観察した。基材の切断、破れ、割れがなく、問題なく塗工できた場合を「○」、毛羽立ちや破れが生じることがあり、基材の張り具合(テンション)を弱めにすることで塗工できた場合を「△」、基材の切断、破れ、割れの何れかが頻繁に発生して塗工に支障を来たした場合を「×」とした。
【0050】
<裏抜け>
フィラー粒子を塗工してセパレータの作製する際に、塗液が基材を全く裏抜けしなかった場合を○、若干裏抜けしたが、裏面が塗工装置のロールに張り付くなどの支障がなかった場合を△、裏抜けして裏面がロールに張り付いて円滑な塗工ができないなどの支障を来たした場合を×とした。
【0051】
<耐電解液性>
50mm×50mmにした基材を80℃で24時間真空乾燥した後、透明のポリプロピレン製袋に電解液と基材を入れ、ヒートシール機を用いて封口し、ホットプレート上に載せて90℃で24時間加熱静置した。加熱後の基材の状態及び電解液の状態を観察した。基材、電解液ともに変化が認められない場合を「○」、基材の収縮や溶解、電解液の変色、ポリプロピレン製袋の膨張の何れかの現象が認められた場合を「×」とした。
【0052】
<繊維間隙>
基材の表面を電子顕微鏡で観察し、繊維間隙の有無を判定した。繊維間隙が十分ある場合を「○」、全体的に繊維間隙が少ない場合や、部分的に皮膜が形成されているために繊維間隙が偏在している場合を「△」、大半の繊維同士が長軸に沿って接触している場合や、皮膜が形成されているために繊維間隙がほとんどない場合を「×」とした。
【0053】
【表3】
【0054】
[セパレータの作製]
アルミナ(フィラー粒子)1000g、水1000g、ポリビニルブチラール(結着剤)100gを容器に入れ、撹拌機(商品名:スリーワンモーター、新東科学(株)製)で1時間攪拌して分散させ、均一な水性塗液を作製した。表4に示したアルミナの平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定したときの、質量比で積算50%のときの粒子径、すなわちD50を意味する。
【0055】
実施例13
アプリケーターを用いて、実施例1で作製した基材にアルミナ塗液を両面塗工し、熱風乾燥して塗工層厚みが8.1μmの実施例13のセパレータを作製した。
【0056】
実施例14〜19、21、23
表4に従って、実施例13と同様にして実施例14〜19、21、23のセパレータを作製した。
【0057】
実施例20、22
アプリケーターを用いて、実施例10、12で作製した基材にアルミナ塗液を片面塗工し、熱風乾燥して実施例20、22のセパレータを作製した。アルミナの平均粒子径と塗工層厚みは表4に示した。
【0058】
(比較例5)
アプリケーターを用いて、比較例1で作製した基材にアルミナ塗液を両面塗工し、熱風乾燥して塗工層厚みが4.0μmのセパレータ13を作製した。
【0059】
(比較例6、8、10)
比較例2、3、4で作製した基材をそのまま比較例6、8、10のセパレータとして用いた。
【0060】
(比較例7、9、11)
表4に従って、比較例5と同様にして比較例7、9、11のセパレータを作製した。
【0061】
[評価]
実施例及び比較例のセパレータについて、下記の評価を行い、結果を表4に示した。
【0062】
<塗工層厚み>
塗工後の基材の厚みT1から塗工前の基材の厚みT0、すなわち、<基材の厚み>に記載した方法で得られた厚みを差し引いて得られる値T2を塗工層厚みとした。
【0063】
<ピンホール>
基材と同様にして、セパレータのピンホールを目視判定した。
【0064】
<浸透性>
セパレータに電解液を滴下し、セパレータへの電解液の浸透性を判定した。電解液が10分以内に浸透した場合を「○」、滴下後10分経過しても、セパレータ表面に電解液が滴の形で残った場合を「×」とした。電解液としては、LiPF
6を1mol/l溶解させた混合溶液を使用した。混合溶液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを質量比率で3:7としたものである。
【0065】
<耐デンドライト性>
セパレータの片面に金属リチウム箔を、セパレータの反対側に正極を配置して積層し、電解液を注入してラミネートセルを100個ずつ作製した。0.5mA/cm
2で3.6Vまで定電流充電し、さらに3.6Vを24時間印加し、過充電した。この過充電中に異常電流が流れた場合を内部短絡したと見なし、過充電を中止し、ラミネートセルを開封してリチウムデンドライトの発生状態を確認した。過充電により、リチウムデンドライトが発生してセパレータを貫通したセルの割合を耐デンドライト性とした。この割合が少ないほど、耐デンドライト性に優れることを意味する。正極には、活物質のコバルト酸リチウム、導電助剤のアセチレンブラック、結着剤のポリフッ化ビニリデンを質量比率で90:5:5に混合したスラリーをアルミニウム集電体の両面に塗布したものを用いた。電解液は、<浸透性>の評価に記載したものと同様である。セパレータ8、10については、アルミナ塗工面を金属リチウム箔に接触させて配置した。
【0066】
【表4】
【0067】
実施例1〜10のリチウム二次電池用基材は、ポリプロピレンとポリメチルペンテンが相互に隣接してなる分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維と合成短繊維を含有する湿式不織布からなるため、抄紙網パターンが転写せず、ピンホールがなく、塗液の裏抜けがなく、耐電解液性に優れていた。また、ポリメチルペンテンからなる極細繊維同士の交点、合成短繊維同士の交点、該極細繊維と合成短繊維の交点がポリプロピレン及び/又は芯鞘型複合繊維の成分で接着されているため、引張強度が強く、フィラー粒子を含有する塗液の塗工性に優れていた。
【0068】
実施例11のリチウム二次電池用基材は、ポリプロピレンとポリメチルペンテンが相互に隣接してなる分割型複合繊維が分割されてなる極細繊維と、合成短繊維を含有する湿式不織布からなるため、抄紙網パターンが転写せず、ピンホールがなく、塗液の裏抜けはなかったが、熱処理温度が140℃未満だったため、極細繊維同士の交点、合成繊維同士の交点、該極細繊維と合成繊維の交点の接着が不十分な箇所があり、塗工性がやや悪かった。
【0069】
実施例12のリチウム二次電池用基材は、ポリプロピレンとポリメチルペンテンが相互に隣接してなる分割型複合繊維が分割されてなる極細繊維と、合成短繊維を含有する湿式不織布からなるため、抄紙網パターンが転写しなかったが、熱処理温度が175℃を超えていたため、熱量が過剰になり、基材の収縮が大きく、ロールに基材の一部が張り付いて層間剥離し、ピンホールが発生した。そのため、フィラー粒子を含有する塗液が裏抜けしたが、塗液の塗工性に優れていた。
【0070】
比較例1のリチウム二次電池用基材は、ポリプロピレンとポリメチルペンテンが相互に隣接してなる分割型複合繊維が分割されてなる極細繊維のみで構成された湿式不織布からなるため、抄紙網パターンの転写がなく、ピンホールがなく、耐電解液性は良かったが、基材表面の繊維間隙がほとんどなかった。
【0071】
比較例2のリチウム二次電池用基材は、合成短繊維で構成された湿式不織布からなるが、ポリプロピレンとポリメチルペンテンが相互に隣接してなる分割型複合繊維が分割されてなる極細繊維を含有しないため、抄紙網パターンが転写し、ピンホールが多数存在した。そのため、塗液が裏抜けした。
【0072】
比較例3のリチウム二次電池用基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体のゲル皮膜が基材表面及び内部に形成されているため、抄紙網のパターン転写がなく、塗液の塗工性は良かったが、ゲル皮膜が存在しない部位もあり、その部分にピンホールが存在したため、塗液が若干裏抜けした。該基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有するため、高温時の耐電解液性が悪かった。
【0073】
比較例4のリチウム二次電池用基材は、ポリプロピレン−高密度ポリエチレン混在極細繊維100%で構成された湿式不織布からなるため、耐電解液性は良かったが、抄紙網パターンが転写し、ピンホールが存在した。そのため、塗液が若干裏抜けした。また、高密度ポリエチレンの融着による皮膜形成により、繊維間隙が少なく、偏在していた。
【0074】
実施例1〜11の基材にフィラー粒子を塗工して作製したリチウム二次電池用セパレータは、ピンホールがなく、基材の繊維間隙が維持されているため、電解液の浸透性が良かった。また、フィラー粒子が満遍なく担持されているため、耐デンドライト性に優れていた。
【0075】
実施例12の基材にフィラー粒子を塗工して作製したリチウム二次電池用セパレータは、電解液の浸透性は良かったが、ピンホールがあるため、耐デンドライト性がやや劣っていた。
【0076】
比較例5のセパレータは、比較例1で作製した基材にフィラー粒子を塗工してなるため、耐デンドライト性は良かったが、電解液の浸透性が悪かった。
【0077】
比較例6のセパレータは、比較例2で作製した基材そのものであるため、電解液の浸透性は良かったが、ピンホールがあり、耐デンドライト性が悪かった。
【0078】
比較例7のセパレータは、比較例2で作製した基材にフィラー粒子を塗工してなるため、電解液の浸透性は良かったが、ピンホールがあり、耐デンドライト性が悪かった。
【0079】
比較例8のセパレータは、比較例3で作製した基材そのものであり、ゲル皮膜を有するため、電解液の浸透性が悪かった。また、ピンホールがあるため、耐デンドライト性が悪かった。
【0080】
比較例9のセパレータは、比較例3で作製した基材にフィラー粒子を塗工してなるため、電解液の浸透性と耐デンドライト性が悪かった。
【0081】
比較例10のセパレータは、比較例4で作製した基材そのものであり、繊維間隙が不十分なため、電解液の浸透性が悪かった。また、ピンホールがあるため、耐デンドライト性が悪かった。
【0082】
比較例11のセパレータは、比較例4で作製した基材にフィラー粒子を塗工してなるため、電解液の浸透性と耐デンドライト性が悪かった。