(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5690243
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダー
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20150305BHJP
【FI】
H01J37/20 E
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-171688(P2011-171688)
(22)【出願日】2011年8月5日
(65)【公開番号】特開2013-37841(P2013-37841A)
(43)【公開日】2013年2月21日
【審査請求日】2014年6月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507254610
【氏名又は名称】株式会社TSLソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】100115819
【弁理士】
【氏名又は名称】川瀬 裕之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 清一
【審査官】
遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】
特表2000−513135(JP,A)
【文献】
特開2000−251819(JP,A)
【文献】
特開平06−076777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒槽と、
該冷媒槽を貫通し、内壁が円筒状の空洞を有する冷却部と、
該冷却部の空洞内に、空洞の内壁との間に熱良導性材料層を挟んで移動自在に嵌合する熱伝導棒と、
該熱伝導棒を内部に収容するパイプ部と
を備え、
前記熱伝導棒は、先端に、試料を装着する試料装着部を有する透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダー。
【請求項2】
前記熱良導性材料層は、銅とアルミニウムのうち少なくとも1種を含む金属製の繊維層である請求項1に記載の透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダー。
【請求項3】
前記パイプ部は、先端に電子線が通過する窓部を備え、試料冷却ホルダーにおける窓部の位置が固定され、
前記熱伝導棒をパイプ部内で長手方向に前進または後進することにより、
試料を観察するときは、パイプ部の前記窓部を通過して電子線が試料に照射するように前記熱伝導棒を配置し、該熱伝導棒はパイプ部内で自在に回転させることができ、
試料を観察しないときは、パイプ部により試料を外気から遮断するように前記熱伝導棒を配置する
請求項1または2に記載の透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダー。
【請求項4】
試料装着部を取り付けるカートリッジを備え、試料装着部を取り付けたカートリッジを冷却した状態で熱伝導棒に装着する請求項1〜3のいずれかに記載の透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダーに関する。また、冷却された試料への霜の付着を効果的に抑制する透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
透過型電子顕微鏡により試料を観察する際に、試料を液体窒素等の冷媒で凍結し、冷却しながら観察することにより、水分を多く含んだ生物試料等の観察において電子線による試料ダメージを抑えることが期待できる。しかし、試料を凍結し、試料冷却ホルダーに装着し、透過型電子顕微鏡にセットするという一連の操作過程において試料表面に霜が付着しやすく、試料の観察が困難になるという問題がある。
【0003】
そこで、従来より霜の付着を抑えるための試料冷却ホルダーが提案されている。
図3は、従来の透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダーの構造を示す断面図である(特許文献1参照)。この試料冷却ホルダーは、
図3(a)に示すように、冷媒槽38と、冷媒槽38に固定され、冷媒槽38により冷却される熱伝導棒37を備える。また、熱伝導棒37を内部に収容するパイプ部36を有し、冷媒槽38には、注入口39により液体窒素等の冷媒を供給する。
【0004】
図3(b)は、
図3(a)におけるIIIBの部分拡大図である。また、
図3(c)は、
図3(b)におけるIIIC−IIICによる断面図である。熱伝導棒37の先端には、
図3(b)に示すように、試料35を装着する試料装着部31がある。熱伝導棒37は試料冷却ホルダーに基本的に固定されているため、熱伝導棒37の先端にある試料35の位置も固定されている。試料装着部31の周囲には、
図3(c)に示すように、スライドキャップ32が配置し、スライドキャップ32は、試料装着部31上を自在に摺動する。
【0005】
スライドキャップ32は、内部のスプリング32bにより矢印Aの方向に付勢され、止具34により最も矢印A寄りに配置している。スライドキャップ32は、電子線が通過する窓部32aを上下に備えているが、スプリング32bによりスライドキャップ32が最も矢印A寄りの位置にあるときは、試料装着部31はスライドキャップ32により外気から遮断されている。このため、試料35への霜の付着が抑制される。
【0006】
この試料冷却ホルダーを透過型電子顕微鏡にセットし、スライドキャップ32の先端が
図3(b)に示す矢印Bの方向に押されると、スライドキャップ32は、試料装着部31上をスライドし、電子線通過用の窓部32aが試料35の上下に配置すると、電子顕微鏡観察が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−76777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
透過型電子顕微鏡により試料を観察するときに、顕微鏡内で試料を試料ホルダー軸回りに回転移動し、電子線に対して試料を傾斜させることにより、試料を異なった方向から観察することが可能となる。しかし、特許文献1に記載された試料冷却ホルダーでは、
図3(a)に示すように、熱伝導棒37が冷媒槽38に固定されているため、試料35を冷却しながら、冷媒槽38から冷媒を散逸することなく傾斜するには、おのずと制限が生じる。
【0009】
本発明の課題は、冷媒により試料を冷却しながら、冷媒を散逸することなく、顕微鏡内で試料を360度自在に回転させることができる透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダーを提供することにある。また、凍結した試料を試料冷却ホルダーに取り付け、透過型電子顕微鏡にセットする過程で、試料表面への霜の付着を抑制する透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダーは、冷媒槽と、冷媒槽を貫通し、内壁が円筒状の空洞を有する冷却部と、冷却部の空洞内に、空洞の内壁との間に熱良導性材料層を挟んで移動自在に嵌合する熱伝導棒とを有する。また、この試料冷却ホルダーは、熱伝導棒を内部に収容するパイプ部を備え、熱伝導棒は、先端に、試料を装着する試料装着部を有する。使用する熱良導性材料層は、銅とアルミニウムのうち少なくとも1種を含む金属製の繊維層とする態様が好ましい。
【0011】
本発明の試料冷却ホルダーは、パイプ部
の先端に電子線が通過する窓部を備え
、試料冷却ホルダーにおける窓部の位置が固定されている態様が好適である。かかる態様において、熱伝導棒をパイプ部内で長手方向に前進または後進することにより、試料を観察するときは、パイプ部の窓部を通過して電子線が試料に照射するように熱伝導棒を配置し、この熱伝導棒はパイプ部内で自在に回転させることができる。一方、試料を観察しないときは、パイプ部により試料を外気から遮断するように熱伝導棒を配置する。また、試料冷却ホルダーが、試料装着部を取り付けるカートリッジを備え、試料装着部を取り付けたカートリッジを冷却した状態で熱伝導棒に装着する態様が好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダーは、冷媒により試料を冷却しながら、冷媒を散逸することなく、顕微鏡内で試料を360度自在に回転させることができるため、360度連続的に試料傾斜角を変えながら試料の観察が可能になる。また、凍結した試料を試料冷却ホルダーに装着し、透過型電子顕微鏡にセットする過程で、試料表面への霜の付着を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダーの断面図である。
【
図2】本発明の透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダーにおける冷却部の配置を示す部分断面図である。
【
図3】従来の透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダーの構造を示す断面図である。
【
図4】
図1におけるパイプ部6の先端の部分拡大図である。
【
図5】本発明の透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダーが、カートリッジを備える態様を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダーの断面図であり、
図1(a)は、電子顕微鏡により試料を観察しているときの状態を示し、
図1(b)は、試料を観察していないときの状態、すなわちシャッターを閉じ、試料を外気から遮断している状態を示す。
図1に示すように、この試料冷却ホルダーは、冷媒槽8と、冷媒槽8を貫通して配置する冷却部1と、冷却部に嵌合する熱伝導棒7と、熱伝導棒7を内部に収容するパイプ部6を備える。
【0015】
冷媒槽8には、液体窒素または液体ヘリウム等の冷媒9を注入する。冷媒槽8は、耐圧性容器18内に収容し、冷媒槽8を低温に保持するため、耐圧性容器18内は真空に調整する。この冷媒槽8を貫通した状態で冷却部1を配置し、冷却部1内に熱伝導棒7を嵌合することにより熱伝導棒7を冷却し、熱伝導棒7の先端に装着する試料を低温に維持する。熱伝導棒7は、内部を真空に保ち、断熱性を保持したパイプ部6の内部に収容することにより、低温に保持するとともに、試料の装着時や試料冷却ホルダーの電子顕微鏡へのセット時に、試料と熱伝導棒を機械的に保護する。
【0016】
図2は、本発明の透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダーにおける冷却部の配置を示す部分断面図である。
図2に示すように、冷却部1は、冷媒槽8を貫通し、内壁1aが円筒状の空洞を有する。冷却部1の円筒状の空洞内には、円柱状の熱伝導棒7が嵌合し、熱伝導棒7の外壁と空洞の内壁1aとの間に、熱良導性材料層3を備える。このため、極低温の冷媒9により冷却部1が冷却され、熱良導性材層3を通して熱伝導棒7が極低温に冷却される。
図2に示す例では、冷却部1は、内壁が円筒状の空洞を有するブロック状の部材であるが、ブロック状の部材の代わりに、
図1に示すように、内壁が円筒状のパイプを使用することもできる。
【0017】
金属は、熱伝導率が大きい点で、熱良導性材料層3に好ましく使用することができる。また、金属の中でも、銅(Cu)とアルミニウム(Al)のうち少なくとも1種を含む金属が、熱伝導棒7の冷却効率が大きい点で、より好ましい。すなわち、熱良導性材料層3には、Cu、またはAl、またはCuとAlとの合金を含有する金属が好適である。Cuの熱伝導率は398W/mKであり、Alの熱伝導率は236W/mKであり、金属の中でも熱伝導率が大きく、比較的高価でない点で、熱良導性材料層に好ましく使用できる。熱良導性材料層には、必要に応じて、銀、金、鉄などの他の金属を含めることができる。熱良導性材料層3は、綿状の繊維層とすることにより、クッション性が改善し、冷却部1の空洞内に嵌合する熱伝導棒7の滑り性を高め、熱伝導棒7を回転自在に保持し、長手方向への移動も容易化する。綿状の熱良導性材料層3は、たとえば、材料としてCuを使用する場合には、線径20μm程度の繊維からなる層を好ましく使用することができる。
【0018】
図1に示すように、熱伝導棒7は、先端に、試料を装着する試料装着部13を有する。本発明の透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダーでは、熱伝導棒7は、冷却部1の空洞内に回転自在に保持されている。したがって、熱伝導棒7を冷媒9で冷却することにより、熱伝導棒7の先端に装着する試料を冷却しながら、駆動部17により熱伝導棒7を回転移動すると、冷媒9を散逸することなく、顕微鏡内で試料を360度自在に回転させることができる。このため、電子線に対して試料を任意に傾斜させることにより、試料の観察方向を360度変えることができ、試料の微細な断層構造あるいは三次元構造を詳細に観察することができる。
【0019】
本発明の試料冷却ホルダーを
図1に例示する。
図1に示す例では、試料冷却ホルダーにおいて、パイプ部6は試料冷却ホルダー(本体)に固定されている。
図4は、
図1におけるパイプ部6の先端の部分拡大図であり、
図4(a)は、
図1(a)におけるIVAの部分拡大図であり、
図4(b)は
図1(b)におけるIVBの部分拡大図である。
図4に示すように、熱伝導棒7は、先端に、試料11を装着する試料装着部13を有し、パイプ部6は、先端に電子線が通過する窓部12を備える。パイプ部6は試料冷却ホルダー(本体)に固定されているため、試料冷却ホルダー(本体)における窓部12の位置も固定されている。
【0020】
図1(a)は、電子顕微鏡により試料を観察しているときの状態を示し、
図1(b)は、試料を観察していないときの状態を示す。したがって、
図4(a)は、電子顕微鏡により試料を観察しているときのパイプ部6の先端の状態を示し、
図4(b)は、試料を観察していないときのパイプ部6の先端の状態を示す。
【0021】
本発明の試料冷却ホルダーにおいて、熱伝導棒7は冷却部1の空洞内に移動自在に嵌合する。したがって、熱伝導棒7がパイプ部6内において長手方向に移動自在に保持されている。試料を観察するときは、駆動部17により熱伝導棒7を後進し、熱伝導棒7を
図1(a)に示すように配置する。熱伝導棒7を矢印Cの方向に後進し、
図1(a)のように配置すると、
図4(a)に示すように、熱伝導棒7の先端の試料装着部13にある試料11が、パイプ部の先端の窓部12の部位に配置するため、窓部12を通過する電子線が試料11に照射し、試料11を観察することができる。この熱伝導棒は、パイプ部内で自在に回転させることができる。
【0022】
一方、試料を観察しないときは、駆動部17により熱伝導棒7を前進し、熱伝導棒7を
図1(b)に示すように配置する。熱伝導棒7を矢印Dの方向に前進し、
図1(b)に示すように配置すると、
図4(b)に示すように、試料11と試料装着部13は、パイプ部6の先端の部屋に入り、密閉されるため、パイプ部6により試料11は外気から遮断される。したがって、外気による試料11への霜の付着を効果的に抑制することができる。
【0023】
図5は、本発明の透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダーがカートリッジを備える態様を示す断面図である。
図5(a)は、熱伝導棒7の先端に試料11を装着する前の状態を示し、
図5(b)は、熱伝導棒7の先端に試料11を装着した後の状態を示す。
図5に示す例では、試料11を装着する試料装着部13と熱伝導棒7のほかに、カートリッジ14を備え、熱伝導棒7の先端をカートリッジ14の形状に合わせて成形し、板バネ等の弾性部材15を備える。
【0024】
図5(a)に示すように、試料11を装着する試料装着部13をカートリッジ14にセットした後、矢印Eの方向に移動することにより、
図5(b)に示すように、試料11を熱伝導棒7に取り付けることができる。このように試料11を試料装着部13に装着した後、試料装着部13を取り付けたカートリッジ14を冷却した状態で熱伝導棒7に取り付けると、極低温下での試料の取り扱いが容易化して、試料の取り付けに要する時間を短縮することができるため、試料への霜の付着をより一層抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
水分を多く含んだ生物試料等を冷却することで電子線によるダメージを軽減しながら、試料の微細な断層構造あるいは三次元構造等を詳細に観察できる透過型電子顕微鏡用の試料冷却ホルダーを提供することができる。また、試料表面への霜の付着を効果的に防止できる試料冷却ホルダーを提供することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 冷却部
1a 内壁
3 熱良導性材料層
6 パイプ部
7 熱伝導棒
8 冷媒槽
9 冷媒
11 試料
12 窓部
13 試料装着部
14 カートリッジ
15 弾性部材
17 駆動部
18 耐圧性容器
31 試料装着部
32 スライドキャップ
32a 窓部
32b スプリング
34 止具
35 試料
36 パイプ部
37 熱伝導棒
38 冷媒槽