【実施例】
【0051】
以下、実施例によって、本発明をさらに説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
(a)はんだ溶解工程
試料を0.2gずつ18個採取した。質量は0.1mgの桁まで精度良く秤量した。ついで、硫酸、硝酸およびフッ化水素酸からなる酸濃度の異なる混酸を調製した(表1の混酸1〜混酸18)。混酸を構成する各酸の酸濃度(mol/L)は、表1に示すとおりである。
【0053】
なお、ここでは、はんだの組成分析の精度を検証するため、予め、メーカーにより含有元素が既知であるゲルマニウム含有はんだ(Sn-3.5Ag-0.5Cu-0.1Ni-0.1Ge)を試料として用いた。各元素の前に記載の数字は、当該元素の含有量(重量%)を示す。なお、Sn(スズ、錫)は主成分(少なくとも50%以上含有)であるため、含有量の記載はされないのが一般的である。
【0054】
試料を300mLのPTFE製ビーカーに移し、硫酸、硝酸およびフッ化水素酸からなる酸濃度の異なる混酸(混酸1〜混酸18)をそれぞれ10mlずつ加えて80℃で40分溶解した。この際の試料の溶解状態を表1に示す。丸(○)は溶解を示し、バツ(×)は、不溶解(残渣残りを含む)を示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、混酸中の硫酸濃度が3.6mol/L未満、硝酸濃度が1.3mol/L未満、フッ化水素酸濃度が0.53mol/L未満であると、ゲルマニウム含有はんだの組成成分の残渣が溶液中に残り、完全には溶解しなかった。一方、硫酸濃度3.6mol/L以上13.4mol/L以下、硝酸濃度1.3mol/L以上3.4mol/L以下、フッ化水素酸濃度0.53mol/L以上の濃度で混合し、且つ硫酸と硝酸のモル比が2.6:1以上7.9:1以下である混酸では、はんだの組成成分の残渣を残さずに、完全に溶解させることができた。
【0057】
例えば、硫酸濃度3.6mol/Lで、硝酸濃度1.3mol/Lの混酸(フッ化水素酸濃度0:フッ化水素酸を含まない)を用いた場合、ゲルマニウムを含有しないはんだは完全溶解可能であるため、フッ化水素酸がGeの溶解に寄与していると考えられる。
【0058】
また、上述の濃度範囲の混酸であれば、はんだ中にゲルマニウムを含有していても(Ge含有はんだであっても)はんだの成分を完全に溶解することができた。また、後述の(b)分析工程から分かるように、Geの含有量は、0.095%となり、メーカー提供値(Sn-3.5Ag-0.5Cu-0.1Ni-0.1Ge)と遜色の無い値が得られた。
【0059】
ここで、混酸中の硫酸濃度が4.5mol/L、硝酸濃度が1.7mol/Lをそれぞれ超えると、ビーカーやフラスコなどの容器に定容する際に溶液が発熱する。このため、操作を容易にすることを考慮すると、硫酸濃度が3.6mol/L以上4.5mol/L以下、硝酸濃度が1.3mol/L以上1.7mol/L以下、フッ化水素酸濃度0.53mol/Lで混合した混酸がより好適である。
【0060】
(b)分析工程
(a)の溶解工程で、表1の混酸10を用いて形成したはんだ溶解溶液の全量を50mLのPTFE製のフラスコに移し、純水で標線まで希釈した。この希釈溶液を試料とし、ICP発光分析装置で測定した。
【0061】
測定した結果、Agは3.54%、Alは0.001%以下、As(ヒ素)は0.001%、Au(金)は0.001%以下、Biは0.008%、Cd(カドミウム)は0.001%以下、Cuは0.47%、Fe(鉄)は0.003%、Geは0.095%、Inは0.004%、Niは0.089%、Pbは0.014%、Sb(アンチモン)は0.01%、Znは0.001%という結果が得られた(表2のNo.3参照)。
【0062】
このように、はんだに含まれる合金構成元素である銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、ゲルマニウム(Ge)に加え、数多くの不純物元素を一度に検出することができた。また、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)およびゲルマニウム(Ge)の各含有量もメーカー提供値(Sn-3.5Ag-0.5Cu-0.1Ni-0.1Ge)と遜色の無い値が得られ、はんだの組成成分方法として有効であることが検証された。
【0063】
(比較例1)
上記実施例1に対し、JIS Z 3910 はんだ分析方法にしたがって同じ試料を実施例1と同様に分析した。即ち、混酸として王水を用い、上記試料(Sn-3.5Ag-0.5Cu-0.1Ni-0.1Ge)を0.2gを10mLの混酸に溶解した。この場合においては、はんだに含まれるAgが難溶性のAgClとなるため白色の沈殿が生じる。はんだ溶解溶液の全量を50mLの全量フラスコに移して水で定容した後、ろ紙を用いて沈殿をろ過した。その後、この溶液をICP発光分析装置で測定した。
【0064】
測定した結果、Agは測定不可で、Alは0.001%以下、Asは0.001%、Auは0.001%以下、Biは0.008%、Cdは0.001%以下、Cuは0.49%、Feは0.003%、Geは0.001以下、Inは0.004%、Niは0.090%、Pbは0.015%、Sbは0.01%、Znは0.001%という結果が得られた(表3のNo.3参照)。
【0065】
このように、はんだに含まれる合金構成元素である銅(Cu)およびニッケル(Ni)については、メーカー提供値(Sn-3.5Ag-0.5Cu-0.1Ni-0.1Ge)と遜色の無い値が得られた。しかしながら、ゲルマニウム(Ge)については、含有量が検出限界以下と判断された。即ち、ゲルマニウム(Ge)は、はんだ内に含有されていないとの測定結果となった。
【0066】
その理由を調べるため、粉末状の純ゲルマニウム(純度99.99%以上)を用いて以下の比較例2および実施例2に示す実験を行った。
【0067】
(比較例2)
粉末状の純ゲルマニウム(純度99.99%以上)を用いて上記JISの分析方法に規定の混酸(王水)に溶解し、ICP発光分析装置で測定した。その測定結果から算出されたゲルマニウム(Ge)の含有量は、当初溶解したGeの量の3%以下であった。即ち、その回収率は、3%以下であった。これは、ゲルマニウム(Ge)と混酸(王水)との反応(酸分解)により、沸点の低い塩化物(GeCl
4)が形成され、揮発損失したためと考えられる。
【0068】
(実施例2)
これに対し、粉末状の純ゲルマニウム(純度99.99%以上)を本実施の形態の表1の混酸10、13、14および15を用いて溶解し、ICP発光分析装置で測定した。その測定結果から算出されたゲルマニウム(Ge)の含有量は、いずれの混酸を用いても当初溶解したGeの量の98%以上であった。よって、本実施の形態の混酸を用いた場合は、揮発損失を低減することができ、Geの分析方法として有効であることが実施例2からも明確となった。
【0069】
(実施例3)
実施例1においては、試料としてゲルマニウム含有はんだ(Sn-3.5Ag-0.5Cu-0.1Ni-0.1Ge)を用いたが、他の試料を用いて実施例1と同様に溶解および分析を行った。他の試料としては、ゲルマニウム含有はんだである試料(No.1)(Sn-3.5Ag-0.5Cu-0.03Ni-0.01Ge)、試料(No.2)(Sn-3.5Ag-0.5Cu-0.1Ni-0.02Ge)試料(No.4)(Sn-3.5Ag-0.5Cu-0.15Ni-0.01Ge)を用いた。その分析結果を表2に示す。%は、重量%である。なお、実施例1で用いたゲルマニウム含有はんだである試料(Sn-3.5Ag-0.5Cu-0.1Ni-0.1Ge)は、試料(No.3)として表2中に併記してある。
【0070】
(a)溶解工程
まず、各試料(No.1、No.2、No.4)を0.2gずつ採取した。質量は0.1mgの桁まで精度良く秤量した。ついで、硫酸、硝酸およびフッ化水素酸からなる混酸を調製した。混酸としては、各酸の酸濃度(mol/L)が表1に示す混酸10となるように調整した。
【0071】
各試料(No.1、No.2、No.4)をそれぞれ300mLのPTFE製ビーカーに移し、硫酸、硝酸およびフッ化水素酸からなる混酸10を10mlずつ加えて80℃で40分溶解した。
【0072】
(b)分析工程
次いで、混酸10を用いて溶解工程で形成したはんだ溶解溶液の全量を50mLのPTFE製のフラスコに移し、純水で標線まで希釈した。この希釈溶液を試料とし、ICP発光分析装置で測定した。
【0073】
その測定結果は、表2に示すとおりである。
【0074】
【表2】
【0075】
即ち、試料(No.1)について、Agは3.53%、Alは0.001%以下、Asは0.001%以下、Auは0.001%以下、Biは0.004%、Cdは0.001%以下、Cuは0.49%、Feは0.002%、Geは0.0093%、Inは0.003%、Niは0.031%、Pbは0.006%、Sbは0.01%、Znは0.001%という結果が得られた(表2のNo.1参照)。
【0076】
また、試料(No.2)について、Agは3.45%、Alは0.001%以下、Asは0.001%、Auは0.001%以下、Biは0.008%、Cdは0.001%以下、Cuは0.50%、Feは0.003%、Geは0.019%、Inは0.004%、Niは0.092%、Pbは0.014%、Sbは0.01%、Znは0.001%という結果が得られた(表2のNo.2参照)。
【0077】
また、試料(No.4)について、Agは3.60%、Alは0.001%以下、Asは0.001%、Auは0.001%以下、Biは0.009%、Cdは0.001%以下、Cuは0.51%、Feは0.002%、Geは0.012%、Inは0.005%、Niは0.15%、Pbは0.017%、Sbは0.01%、Znは0.001%という結果が得られた(表2のNo.4参照)。なお、上記表2のうち、No.1の欄の上段は、JISで許容されている各元素の濃度(%)を示すものである(後述する表3についても同じである)。
【0078】
このように、本実施例においても、はんだに含まれる合金構成元素である銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、ゲルマニウム(Ge)に加え、数多くの不純物元素を一度に検出することができた。また、いずれの試料(No.1、No.2、No.4)についても、実施例1の試料(No.3)の場合と同様に、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)およびゲルマニウム(Ge)の各含有量がメーカー提供値と遜色の無い値が得られ、はんだの組成成分方法として有効であることが検証された。なお、本実施例3においては、表1に示す混酸10を用いて試料を溶解し、分析を行ったが、実施例1において、試料を溶解することができた混酸11〜混酸18(表1参照)を用いた場合であっても同様に分析可能である。
【0079】
(比較例3)
上記実施例3に対し、JIS Z 3910 はんだ分析方法にしたがって上記試料(No.1、No.2,No.4)を比較例1と同様に分析した。この場合においては、はんだに含まれるAgが難溶性のAgClとなるため白色の沈殿が生じる。各はんだ溶解溶液の全量を50mLの全量フラスコに移して水で定容した後、ろ紙を用いて沈殿をろ過した。その後、この溶液をICP発光分析装置で測定した。
【0080】
その測定結果は、表3に示すとおりである。%は、重量%である。なお、試料(No.1)(Sn-3.5Ag-0.5Cu-0.03Ni-0.01Ge)、試料(No.2)(Sn-3.5Ag-0.5Cu-0.1Ni-0.02Ge)試料(No.4)(Sn-3.5Ag-0.5Cu-0.15Ni-0.01Ge)に加え、比較例1(実施例1)で用いたゲルマニウム含有はんだである試料(Sn-3.5Ag-0.5Cu-0.1Ni-0.1Ge)も、試料(No.3)として表3中に併記してある。
【0081】
【表3】
【0082】
表3に示すとおり、試料(No.1)について、Agは測定不可で、Alは0.001%以下、Asは0.001%以下、Auは0.001%以下、Biは0.003%、Cdは0.001%以下、Cuは0.52%、Feは0.002%、Geは0.001以下、Inは0.003%、Niは0.030%、Pbは0.007%、Sbは0.01%、Znは0.001%という結果が得られた(表3のNo.1参照)。
【0083】
また、試料(No.2)について、Agは測定不可で、Alは0.001%以下、Asは0.001%、Auは0.001%以下、Biは0.008%、Cdは0.001%以下、Cuは0.53%、Feは0.003%、Geは0.001以下、Inは0.004%、Niは0.097%、Pbは0.016%、Sbは0.01%、Znは0.001%という結果が得られた(表3のNo.2参照)。
【0084】
また、試料(No.4)について、Agは測定不可で、Alは0.001%以下、Asは0.001%、Auは0.001%以下、Biは0.008%、Cdは0.001%以下、Cuは0.52%、Feは0.002%、Geは0.001以下、Inは0.005%、Niは0.15%、Pbは0.017%、Sbは0.01%、Znは0.001%という結果が得られた(表3のNo.4参照)。
【0085】
このように、本比較例においても、はんだに含まれる合金構成元素である銅(Cu)およびニッケル(Ni)については、メーカー提供値(Sn-3.5Ag-0.5Cu-0.1Ni-0.1Ge)と遜色の無い値が得られた。しかしながら、ゲルマニウム(Ge)については、含有量が極めて小さく算出され、メーカー提供値とかなりの開きが確認された。これは、上記比較例2において詳細に検討したようにGe化合物の揮発損失が原因と考えられる。
【0086】
このように、はんだ分析方法としてJIS Z 3910(はんだ分析方法)は不充分であり、特に、ゲルマニウム含有はんだについてはその正確な分析が困難であることが判明した。言い換えれば、王水は、ゲルマニウム含有はんだを溶解するための酸(はんだ溶解用酸液)としては不適当であることが判明した。
【0087】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態および実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0088】
例えば、上記実施例においては、ゲルマニウム含有鉛フリーはんだを例に説明したが、ゲルマニウムを含有しないはんだに対してもはんだの組成分析方法として広く適用可能である。