(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1グランド層及び前記第2グランド層は、離散的に複数の部分領域が除去され、残された残存領域によって構成されたメッシュ構造を有することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のプリント配線板。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、装置内部の回路間、回路と装置間、又は装置間を接続する伝送線路に本発明に係るプリント配線板1を適用した例を説明する。本実施形態のプリント配線板1は、高速信号の伝送に適しており、LVDS、MIPI,HDMI(登録商標),USBなどの各種規格に基づく信号の伝送を行うことができる。
【0016】
図1Aは、本実施形態におけるプリント配線板1の保護層20の一部を剥離した状態を一方主面側から見た斜視図であり、
図1Bは、
図1Aに示すプリント配線板1を他方主面側から見た斜視図である。
【0017】
図1Aに示すように、絶縁性基材10の主面(図中Z方向側の面)には、信号線L1〜L7が図中Y方向に沿って延設されている。本実施形態では、信号線L1〜L7を構成する信号線のうち、いずれか一つの信号線を第1信号線とし、この第1信号線に併設された他の一つの信号線を第2信号線とする。図示はしないが、各信号線L1〜L7は、信号の入力端から信号の出力端までの長さが異なる。本実施形態では、相対的に長さが長い信号線を第1信号線と定義し、第1信号線よりも短い信号線を第2信号線として定義する。本実施形態において信号線の長さは、信号の入力端から信号の出力端までの長さである。信号の入力端と信号の出力端は、本実施形態のプリント配線板に実行させる機能に応じて任意に定義することができる。
【0018】
本実施形態において、第1信号線の長さは、第2信号線の長さよりも長い。第1信号線と第2信号線の長さの差は、第1信号線及び第2信号線のカーブの有無、カーブの数の差、カーブの曲率の差に起因するものであってもよいし、第1信号線及び第2信号線の各パターンの差に起因するものであってもよい。第1信号線及び第2信号線は、曲率を有するカーブ形状で構成されてもよいし、直線形状で構成されてもよいし、カーブ形状と直線形状を含む形状で構成されてもよい。第1信号線がカーブを含み第2信号線がカーブを含まない(直線状態である)場合には、第1信号線の方が第2信号線よりも長くなる場合がある。第1信号線が第1曲率半径のカーブを含み、第2信号線が第1曲率半径よりも小さい第2曲率半径のカーブを含む場合には、第1信号線の方が第2信号線よりも長くなる場合がある。
【0019】
また、本実施形態では、カーブ部分において相対的に外側に位置する信号線を第1信号線と定義し、第1信号線のカーブ部分において内側に位置する信号線を第2信号線と定義してもよい。本実施形態において、カーブ部分の外側に位置する第1信号線の長さは、カーブ部分の内側に位置する第2信号線の長さよりも長い。第1信号線、第2信号線が複数のカーブを備える場合であっても、そのうちのいずれか一つのカーブにおいて、相対的に外側に第1信号線が位置し、相対的に内側に第2信号線が位置すればよい。
なお、本実施形態の第1信号線と第2信号線は、差動伝送を行う一対の差動信号線を構成することもできる。すなわち、差動信号線において対をなす一方の信号線を第1信号線とし、その内側に位置し、第1信号線と対をなす他方の信号線を第2信号線としてもよい。
【0020】
同図には示していないが、本実施形態の信号線L1〜L7は、その延在方向を変化させるカーブ部分を含み、カーブの外側に存在する信号線を第1信号線とし、カーブの内側に存在する信号線を第2信号線とする。例えば、信号線のカーブの曲がり度合を曲率で表現できる場合には、曲率中心側に存在する信号線が第2信号線であり、曲率中心から相対的に遠い外側に存在する信号線が第1信号線である。また、同図には示していないが、本実施形態の信号線L1〜L7は、カーブ部分の上流側及び/又は下流側であって、カーブ部分に連なる直線部分を有する。第1信号線のカーブ部分に連なる直線部分は、第1信号線の直線部分であり、第2信号線のカーブ部分に連なる直線部分は、第2信号線の直線部分である。本実施形態において、カーブ部分とは、信号線の延在方向が変化する部分であり、その角度は限定されない。カーブ部分は、曲線で構成されてもよいし、頂点を含む直線により構成されてもよい。
【0021】
なお、本明細書においては、以下、第1信号線、第2信号線を含む信号線L1〜L7その他の信号線を、「信号線L100」と総称することもある。また、第1信号線を「第1信号線L110」と総称し、第2信号線を「第2信号線L120」と総称することもある。
【0022】
図1Aに示すように、本実施形態のプリント配線板1は、絶縁性基材10の一方主面側に形成された信号線L1〜L7と、信号線L1〜L7を覆う保護層20と、絶縁性基材10の他方主面側に形成されたグランド層30と、を備える。本実施形態のプリント配線板1は、いわゆるマイクロストリップライン構造を有する。グランド層30と信号線L1〜L7との間には絶縁性基材が介在する。
【0023】
本実施形態のプリント配線板1の構造は
図1Aに示すものに限定されない。本実施形態のプリント配線板1は、絶縁性基材10の一方主面側に形成された信号線L1〜L7と、信号線L1〜L7を覆う保護層(絶縁層)20と、保護層(絶縁層)20の開放主面側に設けられたグランド層(図示せず)と、絶縁性基材10の他方主面側に形成されたグランド層30とを備える、いわゆるストリップライン構造としてもよい。信号線L1〜L7は、絶縁性基材を介して形成された上下のグランド層(図示せず)に挟まれる構造としてもよい。
【0024】
本実施形態のプリント配線板1は、絶縁性基材10の一方主面側に形成された信号線L1〜L7と、絶縁性基材10の一方主面側に形成され、信号線L1〜L7に併設されたグランド線(図示せず)と、信号線L1〜L7及びグランド線を覆う保護層(絶縁層)20と、を備える、いわゆるコプレーナライン構造としてもよい。信号線L1〜L7とグランド線とは絶縁性基材10の同一主面に形成され、両者の間には保護層20(絶縁性基材)が介在する。
【0025】
図1Bに示すように、本実施形態の絶縁性基材10の裏面側には、グランド層30が形成されている。本実施形態のグランド層30は、離散的に複数の部分領域30Aが除去され、残された残存領域30Bによって構成されたメッシュ構造を有する。
図1Bに示す例では、メッシュ構造が、斜め格子パターンにより構成された例を示すが、メッシュ構造のパターン(模様)は特に限定されず、矩形形状の部分領域30Aが除去された縦格子パターン、横格子パターン、六角形状の部分領域30Aが除去されたハニカムパターン、円形形状の部分領域30Aが除去された円形パターンとすることができる。
【0026】
本実施形態のプリント配線板1の作製方法を簡単に説明する。まず、両面導体張積層板Lを準備する。この導体張積層板Lは、ポリイミド(PI)などの絶縁性基材10の両主面に接着層を介して銅などの金属箔が張り付けられた板状部材である。絶縁性基材10としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)やポリエステル(PE)や液晶ポリマー(LCP)などを用いることができる。そして、プリント配線板1の一方主面の反対側の他方主面に形成された金属箔をグランド層30として機能させる。グランド層30は、エッチング工程により所望のメッシュ構造を備える。グランド層30の残存率は所望の値に制御される。プリント配線板1の一方主面には、一般的なフォトリソグラフィ法を用いて所定領域を除去し、信号線L100(必要に応じてグランド線)を形成する。その後、信号線L100(必要に応じて形成されたグランド線)を覆うシート状の保護層20を積層し、熱処理を経て本実施形態に係るプリント配線板1を得る。
【0027】
第1実施形態においては、
図2A〜
図2Cに基づいて、メッシュ構造が斜め格子パターンである場合を例にして説明する。
【0028】
図2Aは、第1実施形態における信号線のモデルとして設定したモデル信号線L10〜L16が形成された絶縁性基材10を一方主面側から見た平面図である。
図2Aに示すように、各モデル信号線L10〜L16の回路幅は異なる値にできる。
図2Bは、第1実施形態における、斜め格子パターンのグランド層30が形成された絶縁性基材10を他方主面側から見た平面図である。
図2Cは、
図2Aと同様に、絶縁性基材10を一方主面側から見た平面図であって、他方主面のグランド層30を透視した図である。
図2Cは、モデル信号線L10〜L16とグランド層30との位置関係を示す。同図に示すように、モデル信号線L10〜L16は、各モデル信号線L10〜L16を基準とする所定幅の領域P10〜P16と対応づけられる。
【0029】
後に詳述するが、各モデル信号線L10〜L16を基準とする所定幅の領域P10〜P16に対応する領域(後述する領域D)について、グランド層30の残存率をそれぞれ変化させることができる。残存率を制御する領域は、各モデル信号線L10〜L16の各位置を基準に定義される。ちなみに、本実施形態においては、信号線L100の何れか一つの第1信号線L110の位置又は第2信号線L120の位置を基準に定義してもよいし、第1信号線110と第2信号線120の間の中央位置を基準にしてもよい。残存率が制御される領域Dは、信号線L100のカーブ部分における位置又は直線部分の位置を基準に定義される。特に限定されないが、本実施形態において、グランド層30の残存率が制御される領域は、カーブ部分のみを含む領域としてもよいし、直線部分のみを含む領域としてもよいし、カーブ部分と直線部分との両方を含む領域としてもよい。カーブ部分を含む領域に対応するグランド層30の残存率を制御する場合には、残存率を制御する領域を、第1信号線が直線ではなくなる(曲率がゼロではなくなる)カーブ部分の一方端から他方端までの領域とすることが好ましい。
【0030】
図3は
図2Cに示す領域IIIを拡大して示す図である。
図3に示すグランド層30は、離散的に複数の部分領域30Aが除去され、残された残存領域30Bによって構成された斜め格子パターンのメッシュ構造を有する。
図3に示す破線Qは、モデル信号線L16の位置に基づく基準位置である。本実施形態において、第1領域D1は、モデル信号線L16の位置を基準に定義する。例えば、同図に示すように、モデル信号線L16に対応する位置Qを基準として第1領域D1を定義する。グランド層30における第1領域D1は、モデル信号線L16に対応する位置Qを基準とする第1所定幅W1R,W1Lにより定義される。本実施形態において、先述した領域P10〜P16の位置とグランド層30の第1領域D1との位置が共通する。そして、この第1領域D1に対応するグランド層30の残存率が制御される。
【0031】
モデル信号線L10〜L16、特にモデル信号線L16に関する説明は、本実施形態の信号線L100、信号線L100に含まれる第1信号線110、第2信号線120に適用できる。
本例において、第1領域D1は、第1信号線L110(位置Q)の左右両側に定義してもよいし、何れか一方側に定義してもよい。第1信号線L110の右側の第1所定幅W1Rと第1信号線L110の左側の第1所定幅W1Lとは異なる値であってもよい。第1信号線L110と第2信号線L120との距離が短い場合には、第1信号線L110の右側又は左側の一方を狭い領域とし、他方を広い領域としてもよい。ここでは、第1領域D1の設定手法について説明したが、同様の手法を適用して第2領域D2を設定する。
【0032】
本実施形態では、第1信号線L110の位置を基準として定義された第1所定幅W1R,W1Lの第1領域D1に対応する第1グランド層30の残存率が、第2信号線L120の位置を基準として定義された第2所定幅W2R,W2Lの第2領域D2に対応する第2グランド層30の残存率よりも低くなるようにグランド層30を形成する。グランド層30の残存率は、グランドとして機能する銅などの導体の除去量(除去率)により制御する。
【0033】
以下、本実施形態におけるグランド層30の残存率の算出手法について説明する。本実施形態では、メッシュ構造を有する第1グランド層30の残存率を、残存領域の幅と、除去された部分領域の幅により定義する。本実施形態では、グランド層30をメッシュ構造にすることにより、エッチングなどのグランド層30を除去する手法により残存率を任意に制御できる。特に、グランド層30のメッシュ構造を、規則的な図形パターンで構成することにより、残存率の予測が容易に行うことができるので、エッチング処理によって所望の残存率のグランド層30を得ることができる。これにより、各信号線について任意の残存率のグランド層30を実現できる。
【0034】
図3に基づいて、グランド層30が斜め格子パターンのメッシュ構造である場合のグランド層30の残存率の算出手法を説明する。本実施形態では、グランド層30が形成された絶縁性基材10の所定領域の全面積、つまり導体が存在する部分30Bと導体が除去された部分30Aの合計に対して、導体が存在する領域30B(図中薄墨で示す部分)が占める面積の割合をグランド層30の残存率とする。グランド層30が形成された絶縁性基材10の所定領域Dは、信号線L100の延在方向に沿う長さLGと信号線の幅方向に沿う所定幅W1L,W1Rにより定義する。信号線L100の延在方向に沿う長さLGは、本例では示していないが、カーブ部分の長さに応じて定義する。所定幅W1L,W1Rは、信号線L100が配設される位置Qを基準として定義する。
【0035】
本実施形態では、
図3に示す格子パターンを形成する回路幅MLと導体が除去された部分領域の幅MSとに基づいて、グランド層30の残存率を算出する。格子パターンを形成する回路幅MLからグランド層30の残存量を算出し、部分領域の幅MSからグランド層30の欠損量を算出する。
【0036】
グランド層30のメッシュ構造が斜め格子パターン以外の場合には、グランド層30が残っている残存領域の面積と、グランド層30が除去された部分領域の面積を、幾何学的手法により適宜に算出する。また、グランド層30の残存率の算出手法はこのような幾何学的な算出手法に限定されず、カメラの撮像画像を画像解析し、色などの画像データ上の特徴に基づいて、グランド層30が残っている残存領域の面積とグランド層30が除去された部分領域の面積を求めてもよい。
【0037】
具体的に、本実施形態では、グランド層30の残存率を、例えば、下式1により求める。第1信号線L110を基準とする第1領域のグランド層30の残存率と、第2信号線L120を基準とする第2領域のグランド層30の残存率とは同様の手法により算出できる。
【数1】
【0038】
本実施形態において、第1信号線L110を基準とする第1領域D1の幅は、第2信号線L120を基準とする第2領域D2の幅よりも広くする。
図3に示すように、残存率が制御される第1領域のグランド層30は、第1信号線L110の位置Qを基準とする所定幅W1R,W1Lにより定義される幅の第1領域D1に設けられる。同様に、残存率が制御される第2領域のグランド層30は、第2信号線L120の位置Qを基準とする所定幅W2R,W2Lにより定義される幅の第2領域D2に設けられる。
【0039】
図4に、グランド層30の残存率と信号の伝送速度の比を示す。伝送速度の比は、グランド層30の残存率が100%、つまり欠損領域が無い場合の伝送速度に対する比である。
図4に示すように、グランド層30の残存率が低下するに従い、伝送速度比が高くなる。つまり、グランド層30の残存率が低下するほど、伝送速度が速くなる傾向がある。
【0040】
信号線L100の単位長さあたりのインダクタンスL、キャパシタンスCにより、インピーダンスZは、Z=√(L/C)となる。信号の伝送速度Vは、V=1/√(LC)で表わすことができる。信号線L100の対向位置に存在するグランド層30の導体の残存率を低下させると、信号線L100の単位長さあたりのキャパシタンスCを小さくできるので、伝送速度は速くなる。このように、伝送速度Vを速くすることができれば、物理長の異なる信号線に生じる伝送時間の遅延を解消できる。もちろん、インピーダンスZが一定に保たれることが好ましい。
【0041】
本実施形態では、回路長が相対的に長い第1信号線L110に対応するグランド層30の残存率を、第1信号線L110よりも短い第2信号線L120に対応するグランド層30の残存率よりも低くする。このように、回路長が相対的に長い第1信号線L110における信号の伝送速度を、第1信号線110よりも回路長が相対的に短い第2信号線L120における信号の伝送速度よりも速くすることができる。第1信号線L110は、その物理長が第2信号線L120よりも長いため、信号の伝送速度が同じであると、信号線の長さの差に応じて信号の伝送時間に差(遅延)が生じる。本実施形態では、この信号線の長さの差に起因して生じる伝送時間の差を、グランド層30の残存率によって調整(制御)する。これにより、複数の信号線L100により伝達される信号の伝送時間に差が生じることを抑制できる。この結果、伝送品質が高いプリント配線板を提供することができる。
【0042】
本実施形態において、第1信号線L110に対応するグランド層30の残存率を、第2信号線L120に対応するグランド層30の残存率よりも低くする処理は、第1信号線L110及び第2信号線L120の任意の部分について行うことができる。第1信号線L110及び第2信号線L120の長さの差が生じる部分について、上述したグランド層の残存率の制御を行ってもよいし、その長さの差が生じる部分以外の部分について行ってもよい。もちろん、長さの差が生じる部分及び長さの差が生じる部分以外の部分の両方について行ってもよい。例えば、カーブ部分について上述したグランド層の残存率の制御を行ってもよいし、直線部分について上述したグランド層の残存率の制御を行ってもよい。
【0043】
相対的に回路長が長い第1信号線L110に対応するグランド層30の領域D1の幅は、相対的に回路長が短い第2信号線L120に対応するグランド層30の領域D2の幅よりも広くすることが好ましい。本実施形態において、相対的に回路長が長い第1信号線L110に対応するグランド層30の残存率は相対的に低い。このグランド層30の残存率が低い領域を相対的に広く設定することにより、第1信号線L110に対応するグランド層30の存在率を、より低下させることができる。これにより、物理長の長い第1信号線L110の伝送速度を相対的に速くすることができ、信号の伝送時間を制御できる。
【0044】
本実施形態では、カーブ部分を有し、外側に配置される第1信号線L110に対応するグランド層30の残存率を、第1信号線L110の内側に配置される第2信号線L120に対応するグランド層30の残存率よりも低くする。このように、カーブ部分を有し、外側に配置された第1信号線L110における信号の伝送速度を、第1信号線110の内側に配置された第2信号線L120における信号の伝送速度よりも速く制御することができる。カーブ部分を含み、外側に配置された第1信号線L110は、その物理長が第2信号線L120よりも長いため、信号の伝送速度が同じであると、信号線の長さの差に応じて信号の伝送時間に差(遅延)が生じる。本実施形態では、この信号線の長さの差に起因して生じる伝送時間の差を、グランド層30の残存率によって調整(制御)する。これにより、複数の信号線L100により伝達される信号の伝送時間に差が生じることを抑制できる。この結果、伝送品質が高いプリント配線板を提供することができる。
【0045】
本実施形態において、第1信号線L110に対応するグランド層30の残存率を、第2信号線L120に対応するグランド層30の残存率よりも低くする処理は、第1信号線L110及び第2信号線L120のカーブ部分について行ってもよいし、第1信号線L110及び第2信号線L120の直線部分について行ってもよい。もちろん、カーブ部分及び直線部分の両方について行ってもよい。
【0046】
カーブ部分が外側に配置され、相対的に回路長が長い第1信号線L110に対応するグランド層30の領域D1の幅は、カーブ部分が内側に配置され、相対的に回路長が短い第2信号線L120に対応するグランド層30の領域D2の幅よりも広くすることが好ましい。本実施形態において、カーブ部分で外側に配置される第1信号線L110に対応するグランド層30の残存率は相対的に低い。このグランド層30の残存率が低い領域を相対的に広く設定することにより、カーブ部分で外側に配置される第1信号線L110に対応するグランド層30の存在率を、より低下させることができる。これにより、カーブ部分で外側に配置され、物理長の長い第1信号線L110の伝送速度を相対的に速くすることができ、信号の伝送時間を制御できる。
【0047】
第1信号線L110を基準とする第1領域D1の幅W1R,W1Lは、第1信号線L110の回路幅Lの自然数倍とすることが好ましい。特に、第1領域D1の幅を、第1信号線L110の回路幅L1の3倍以上とすることが好ましい。同様に、第2信号線L120を基準とする第2領域D2の幅W2R,W2Lは、第2信号線L120の回路幅Lの自然数倍とすることが好ましい。特に、第2領域D2の幅を、第2信号線L120の回路幅の3倍以上とすることが好ましい。本実施形態では、グランド層30の一部を抜いて(除去して)所定残存率のメッシュ構造とする領域を、信号線の回路幅Lの3倍以上とする。このようにすることで、伝送速度比を一定に保つことができ、伝送特性を向上させることができる。
【0048】
上述したように、信号線L100の伝送速度を調整するためにグランド層30の残存率を変化させると、信号線L100の特性インピーダンスが変化する。このため、本実施形態では、信号線L100の回路幅L1、L2を大きくする。本実施形態では、カーブ部分を含み、外側に配置される第1信号線L110に対応するグランド層30の残存率を調節するため、第1信号線L110の回路幅(線幅)L1を、第2信号線L120の回路幅(線幅)L2よりも太くする。これにより、グランド層30の残存率の変化に伴って生じる第1信号線L110のインピーダンスの変化を抑制することができる。
【0049】
<実施例1>
以下、本実施形態の配線板に係る第1実施例を説明する。
厚さ25mmのポリイミドの主面に、厚さ18μmの銅箔を10μmの接着剤で張り合わせた銅張積層板を準備した。この銅張積層板に0.15mmのドリルを用いてスルーホール用の孔をあけた。スルーホールは、グランドパッドGP(
図11A参照)と裏面グランド層を接続するために形成する(例えば
図11A参照)。銅箔表面とスルーホール穴に電解銅めっきにより15μmの銅めっきを形成した。続いて、フォトリソグラフィー法を用いてエッチングを行い、銅張積層板の一方主面側に信号線L100を形成し、他方主面にメッシュ構造のグランド層30を形成した。さらに、厚さ12.5μmのポリイミドと厚さ40μmの接着剤からなるカバーフィルムに銅箔露出部分を開口状態で張り付けてフレキシブルプリント配線板(FPC)を作製した。
【0050】
信号線L100の幅は100μm、長さは100mmであった。グランド層30の残存率を100%(除去部分なし)、75%、55.6%、43.8%、36%、30.6%、26.5%に変化させた配線板を得た。また、第1信号線L110に対応する第1領域の幅/第2信号線L120に対応する第2領域の幅を、各信号線L110、L120の幅の1、2、3、5、7、9倍に変化させた配線板を得た。さらに、回路幅を80〜400μmの間で10μm刻みで試作し、その中で特性インピーダンスZ
0が50Ωの配線板について伝送速度比v/v
0を算出した。
【0051】
本実施例において、信号線L100の伝送速度は、TDR(Tektronix社製 サンプリングオシロスコープTDS8200とTDRモジュール80E40)を用いて測定した。プローブとFPCとの境界から解放端までのTDR波形の時間を2tとする。TDRは反射した電圧波形を測定するので、サンプルが信号を通過するために必要な時間はtとなる。グランド層30の残存率100%(除去部分なし)のときの計測時間をt
0とすると、信号の伝送速度V
0は、V
0=L/t
0となる。ここでLはサンプルの長さである。同様に、グランド層30の残存率ごとの信号の伝送速度Vは、V=L/tとなる。伝送速度の比をV/V
0と定義する。
【0052】
メッシュ構造の設計指標と、伝送速度比との関係を
図5に示す。メッシュ構造の設計指標は、グランド層30の残存率、格子パターンを形成する回路幅ML、導体が除去された部分領域の幅MSを含む。ここで伝送速度比V/V
0とは、グランド層30に欠損部分が無い配線板の伝送速度V0に対する各配線板の伝送速度Vである。また、伝送速度比V/V
0は、グランド抜き幅P10〜P16,Dごとに計測した。グランド抜き幅とは、グランド層30の一部を抜いて(除去して)所定残存率のメッシュ構造とする領域D(D1、D2)である。本実施形態では、所定残存率のメッシュ構造とする領域D(D1、D2)を、信号線の回路幅L(L1,L2)の自然数の倍数により定義した。
【0053】
図5に示すように、グランド層30の残存率が低下するに従い、伝送速度比は大きくなる。つまり伝送速度は速くなる。なお、
図5には、各残存率のメッシュ構造(斜め格子パターン)を実現する回路幅MLと導体が除去された部分領域の幅MSとの組み合わせの例を示すが、これらに限定されない。
【0054】
また、本実施形態では、
図5に示すように、信号線L100の回路幅を太くする(大きくする)ことにより、インピーダンスZ
0=50Ωを保った状態で伝送速度比を高くできる。つまり、インピーダンス一定で伝送速度を速くすることができる。
【0055】
また、同図に示すように、グランド層30の抜き幅(領域Dの幅)が大きくなると、伝送速度比の変化量が小さくなる。グランド層30の抜き幅(領域Dの幅)/信号線の回路幅と、伝送速度比との関係を
図6に示す。伝送速度比を一定に保つ観点から、グランド層30の抜き幅、つまり、信号線L100を基準として定義された領域Dの幅が、信号線L100の回路幅Lの3倍以上とすることが好ましい。これにより、安定した伝送特性の配線板を提供できる。
【0056】
図5、6に示すように、グランド層30の残存率を低下させることにより、伝送速度を速めることができる。本実施形態のように、カーブ部分の外側の第1信号線L110に対応するグランド層30の残存率を相対的に低くすることにより、伝送速度を調整して、信号線の物理長が長いことにより生じる伝送時間の遅延を解消できる。
【0057】
図5、6に示すように、信号線の回路幅Lを太くすることにより、インピーダンスを一定に保ちつつ、伝送速度を速めることができる。本実施形態のように、カーブ部分の外側の第1信号線L110の回路幅を相対的に太くすることにより、インピーダンスを所定値に保ちつつ第1信号線L110の物理長が長いことにより生じる伝送時間の遅延を解消できる。
【0058】
図5、6に示すように、グランド層30の抜き幅(第1領域、第2領域)を信号線L100の回路幅Lの3倍以上にすることにより、伝送速度比を一定に保つことができる。
【0059】
第1実施形態では、説明を分かりやすくする観点から、直線状の信号線L100を用いてグランド層30の残存率について説明した。第1実施形態で説明した信号線L100の回路幅L、グランド層30の残存率は、信号線L100の延在方向が変化するカーブ部分において制御してもよいし、カーブ部分に連なる直線部分、カーブ部分とは独立の直線部分において制御してもよい。
【0060】
<第2実施形態>
以下、
図7A〜
図10に基づいて、第2実施形態について説明する。第2実施形態のプリント配線板1は、グランド層30のメッシュ構造が縦格子パターンにより構成される点が異なる。第2実施形態の基本的な構成及び作用は第1実施形態のそれと共通する。ここでは、重複した説明を避けるため、共通する部分については第1実施形態における説明を援用する。
【0061】
図7Aは、第2実施形態におけるモデル信号線L20〜L26が形成された絶縁性基材10を一方主面側から見た平面図である。
図7Bは、第2実施形態における、縦格子パターンのグランド層30が形成された絶縁性基材10を他方主面側から見た平面図である。
図7Cは、
図7Aと同様に、絶縁性基材10を一方主面側から見た平面図であって、他方主面のグランド層30を透視した図である。
図7Cに示すように、モデル信号線L20〜L26は、各モデル信号線L20〜L26を基準とする所定幅の領域P20〜P26と対応づけられる。この領域P20〜P26に対応する各領域Dについて、グランド層30の残存率を変化させる。
【0062】
図8は
図7Cに示す領域VIIIを拡大して示す図である。
図8に示すグランド層30は、離散的に複数の部分領域30Aが除去され、残された残存領域30Bによって構成された縦格子パターンのメッシュ構造を有する。
【0063】
モデル信号線L20〜L26に関する説明は、本実施形態の信号線L100、信号線L100に含まれる第1信号線L110、第2信号線L120に適用できる。
本実施形態の縦格子パターンのメッシュ構造のグランド層30においても、第1信号線L110を基準として定義された第1所定幅W1R,W1Lの第1領域D1に対応する第1グランド層30の残存率が、第2信号線L120を基準として定義された第2所定幅W2R,W2Lの第2領域D2に対応する第2グランド層30の残存率よりも低くなるようにグランド層30を形成する。
【0064】
図8に基づいて、グランド層30が縦格子パターンのメッシュ構造である場合のグランド層30の残存率、所定領域、及びその算出手法は、基本的に第1実施形態の算出手法と共通する。本実施形態では、
図8に示す格子パターンを形成する回路幅LLと導体が除去された部分領域の幅LSとに基づいて、グランド層30の残存率を算出する。格子パターンを形成する回路幅LLからグランド層30の残存量を算出し、部分領域の幅LSからグランド層30の欠損量を算出する。
【0065】
具体的に、本実施形態では、グランド層30の残存率を下式2により求める。
【数2】
【0066】
また、
図8に示すように、残存率が制御されるグランド層30は、信号線L100の位置Qを基準とする所定幅W1R,W1Lにより定義される幅の領域Dに設けられる。
【0067】
第1実施形態の第1実施例と同様の条件で、第2実施形態に係る第2実施例に係るプリント配線板1を作製した。第2実施例は、グランド層30のメッシュ構造を縦格子パターンとした点が異なるが、他の条件は第1実施例と共通する。伝送速度比とグランド層30の残存率との関係を
図9に示し、グランド層30の抜き幅/信号線の回路幅と伝送速度比との関係を
図10に示す。
図9及び
図10に示すメッシュ構造の設計指標と伝送速度比との関係の傾向は、
図5に示す第1実施例の結果と共通する。このようにメッシュ構造を縦格子としても、第1実施形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0068】
<第3実施形態>
図11A〜
図14に基づいて、本発明に係る第3の実施形態について説明する。
第1実施形態及び第2実施形態においては、グランド層30の残存率を制御することにより、二本の信号線の伝送速度を調節し、信号線の伝送時間の差が発生することを抑制する手法について説明した。本実施形態では、上記伝送時間差の発生を抑制する手法を、長さが異なる信号線L100を備えるプリント配線板1に適用した例を説明する。具体的に、本実施形態では、カーブを有することにより長さが異なる第1信号線110と第2信号線120を備えるプリント配線板1に適用した例を説明する。本例では、カーブ部分における配置により長さが異なる第1信号線110と第2信号線120を備えるプリント配線板1を例にして説明するが、第1信号線110と第2信号線120の長さが異なる原因は、これに限定されない。本実施形態のプリント配線板1における、第1信号線110と第2信号線120の長さが異なる原因は、カーブの有無、カーブ形状の相違であってもよいし、信号入力端及び信号出力端の位置の相違であってもよいし、配線パターンの相違であってもよい。
【0069】
図11A〜
図11Cに示すプリント配線板1は、カーブ部分C及びこれに連なる直線部分Q1,Q3を含む信号線L100を備える。本実施形態のプリント配線板1の形状は、同図に示すものに限定されず、カーブ部分Cと直線部分Q1、Q3とが独立に構成されてもよいし、カーブ部分Cと直線部分Q1、Q3との間に他の形状の信号線が形成されていてもよい。第3実施形態のプリント配線板1は、第1実施形態及び第2実施形態のプリント配線板1と基本的な部分において共通する。ここでは、重複した説明を避けるため、共通する事項については第1実施形態及び第2実施形態の説明を援用する。
【0070】
図11Aは、4本の信号線L31〜L34が形成された絶縁性基材10を一方主面側から見たプリント配線板1の平面図である。同図に示すように、各信号線L31〜L34はその延在方向を変更するカーブ部分Cを有する。以下第3実施形態の信号線を「信号線L100」とも総称する。同図に示すように、本例の信号線L31〜L34は、領域Q2において曲率を有する。
図11Aにおいて、この領域Q2にある信号線L31〜L34の一部がカーブ部分Cである。信号線L31〜L34は、その上流側において、領域Q2(カーブ部分C)に連なる曲率の無い領域Q1を有する。また、信号線L31〜L34は、その下流側において、領域Q2(カーブ部分C)に連なる曲率の無い領域Q3を有する。
図11Aにおいて示す領域Q1、Q3は直線部分である。
【0071】
図11Bは、
図11Aに示す信号線を除いた絶縁性基材を透過してグランド層の裏面側を透視した図であって、残存率及び領域幅の異なるグランド層の例を示す図である。言い換えると、
図11Bは、第3実施形態における、格子パターンのグランド層30の裏面側を絶縁性基材10側から透視した平面図である。
図11Bに示すように、グランド層30残存率、及び残存率が制御されたグランド層30が形成される領域幅は変化させることができる。
【0072】
図11Cは、
図11Aと同様に、絶縁性基材10を一方主面側から見た平面図であって、他方主面のグランド層30を透視した図である。
図11Cは、信号線L31〜L34とグランド層30との位置関係を示す。
【0073】
図12は
図11Aに示す領域XIIを拡大して示す図である。
図12に示すように、信号線31〜34は、曲率中心Xを基準とする曲率を有する。また、本実施形態では、インピーダンス整合の観点から第1信号線L31の回路幅を、第2信号線L32の回路幅よりも太く構成する。また、
図12に示すように、カーブ部分Cにおいて並列に設けられた信号線L31〜L34においては、カーブ部分の内側(曲率中心X側)の信号線L34の回路幅よりもカーブ部分の外側の信号線L33の回路幅を太くする。さらに、信号線L33の回路幅よりもカーブ部分の外側の信号線L32の回路幅を太くし、信号線L32の回路幅よりもカーブ部分の外側の信号線L31の回路幅を太くする。これにより、信号線L31〜L34のインピーダンス整合をとりながら伝送速度を制御できる。
【0074】
図13は
図11Bに示す領域XIIIを拡大して示す図である。
図13に示すグランド層30は、離散的に複数の部分領域30Aが除去され、残された残存領域30Bによって構成された扇形の格子パターンのメッシュ構造を有する。
図13に示す破線Q10(31)は、相対的に最も外側に配置された第1信号線L31の位置に基づく基準位置である。同図に示すように、第1信号線L31に対応する位置Q10(31)を基準として右側の第1所定幅W31R及び左側の第1所定幅W31Lにより第1領域D1を定義する。また、
図13に示す破線Q10(32)は、第1信号線L31よりも相対的に内側に配置された第2信号線L32の位置に基づく基準位置である。第2信号線L32に対応する位置Q10(32)を基準として右側の第2所定幅W32R及び左側の第2所定幅W32Lにより第2領域D2を定義する。絶縁性基材10の裏面側の第1領域D1に、所定残存率の第1グランド層30が形成される。絶縁性基材10の裏面側の第2領域D2に、所定残存率の第2グランド層30が形成される。
【0075】
第1領域D1は第1信号線L31の左右両側に渡って定義してもよいし、第1信号線L31の右側又は左側の一方側のみに定義してもよい。第1信号線L31の右側の第1所定幅W31Rと第1信号線L31の左側の第1所定幅W31Lとは異なる値であってもよい。第2領域D1は、第2信号線L32の左右両側に渡って定義してもよいし、第2信号線L32の右側又は左側の一方側のみに定義してもよい。第2信号線L32の右側の第2所定幅W32Rと第2信号線L32の左側の第2所定幅W32Lとは異なる値であってもよい。互いに隣り合う第1信号線31と第2信号線L32との距離が短い場合には、右側又は左側の一方を狭い領域とし、他方を広い領域としてもよい。
【0076】
本実施形態では、第1信号線L31の位置を基準として定義された第1所定幅W31R,W31Lの第1領域D1に対応する第1グランド層30の残存率が、第2信号線32の位置を基準として定義された第2所定幅W31R,W31Lの第2領域D2に対応する第2グランド層30の残存率よりも低くなるようにグランド層30を形成する。グランド層30の残存率は、第1、第2実施形態と同様に、グランドとして機能する銅などの導体の除去量(除去率)により制御する。
【0077】
図13に基づいて、グランド層30が扇形格子パターンのメッシュ構造である場合のグランド層30の残存率の算出手法を説明する。本実施形態では、グランド層30が形成された絶縁性基材10の所定領域の全面積、つまり導体が存在する部分30Bと導体が除去された部分30Aの合計に対して、導体が存在する領域30B(図中薄墨で示す部分)が占める面積の割合をグランド層30の残存率とする。グランド層30の残存率を制御する所定領域Dは、信号線の延在方向に沿う長さLGと信号線の幅方向に沿う幅により定義する。本実施形態における信号線の延在方向に沿う長さLGは、曲率を有するカーブ部分の長さに応じて定義する。所定幅は、信号線が配設される位置Q10(31)を基準として第1所定幅W31R、W31Lにより定義する。
【0078】
本実施形態では、
図13に示す扇形パターンを形成する回路幅LLと導体が除去された部分領域の幅LSとに基づいて、グランド層30の残存率を算出する。扇形の格子パターンを形成する回路幅LLからグランド層30の残存量を算出し、部分領域の幅LSからグランド層30の欠損量を算出する。本例において、カーブ部分の中心(曲率中心)Xから信号線L31の中心(図中Q10(31)上の位置),L32の中心(図中Q10(32)上の位置)までの距離を曲げ半径(曲率半径)Rとし、扇形の格子パターンを形成する回路幅LLに対応する領域の中心角をθ
Lとし、部分領域の幅LSに対応する領域の中心角をθ
Sとすると、回路幅LLと部分領域の幅LSとは以下のように計算できる。
LL=R×θ
L
LS=R×θ
S
【0079】
扇形の格子パターンを形成する回路幅LLからグランド層30の残存量を算出し、部分領域の幅LSからグランド層30の欠損量を算出する。
【0080】
具体的に、本実施形態では、グランド層30の残存率を下式3により求める。
【数3】
【0081】
第3実施形態において、第1実施例、第2実施例と同様の条件で、プリント配線板1を作製した。そして、伝送速度比とグランド層30の残存率との関係を測定した。このプリント配線板1は、信号線L100がカーブ部分Cを有し、グランド層30の領域Dもカーブ部分Cを有する点が異なるが、他の条件は第1、第2実施例と共通する。メッシュ構造の設計指標と伝送速度比との関係の傾向は、
図5、
図9に示す第1、第2実施例と共通するものであった。このように、カーブ部Cを有するプリント配線板1においても、第1、第2実施形態と同様の作用及び効果を奏することが分かった。
【0082】
同様に、第1実施例、第2実施例と同様の条件で、信号線L100がカーブ部分Q2(C)及び直線部分Q1、Q3を有し、グランド層30の領域Dもカーブ部分Q2(C)及び直線部分Q1、Q3を有するプリント配線板1を作製した。そして、伝送速度比とグランド層30の残存率との関係を測定した。このプリント配線板1のメッシュ構造の設計指標と伝送速度比との関係の傾向は、
図5、
図9に示す第1、第2実施例と共通するものであった。このように、カーブ部Q2(C)及び直線部分Q1,Q3を有するプリント配線板1においても、第1、第2実施形態と同様の作用及び効果を奏することが分かった。なお、直線部分Q1,Q3の第1領域D1、第2領域D2の定義の手法は、カーブ部分Q2(C)における第1領域D1、第2領域D2の定義の手法と共通する。
【0083】
以下、第3実施形態に係る第3実施例について説明する。
伝送用の2本の信号線L100について、それぞれの特性インピーダンスが50Ωであり、信号の伝送をしたときのインピーダンスが90Ωとなるように配線間隔等を調整して、
図11A〜
図13に示す態様のプリント配線板1を実施例3として作製した。
【0084】
図12及び
図13に示す本実施例のプリント配線板1の複数の信号線L100のうち、内側の信号線L34の長さをl1とし、外側の信号線L33の長さをl2とした。また、カーブ部分に対応する曲げ角度をθとした。長さl1と長さl2の差δl、この長さに差に応じた伝送速度比v/v
0は以下の式4で算出できる。
【数4】
【0085】
本実施例において、信号線L100が直線部分の信号線の回路幅Lを0.08mm、回路間隔Sを0.1mmとし、グランド層30の残存率を100%(除去領域はなし)とした。また、信号線L100の曲げ角度R(曲率中心Xからの距離)を5mmとした。
【0086】
本実施例のプリント配線板1の速度比は下式5により算出できるので、このようになるように外側の信号線L34の位置を基準とする第1領域D1に対応するグランド層30の残存率を算出する。
【数5】
【0087】
先に一例として
図4に示した、「グランド層30の残存率と伝送速度比v/v
0との関係」を参照し、上式により算出された伝送速度比v/v
0に基づいて、各信号線L100のグランド層30の残存率を算出する。
【0088】
本実施形態では、内側の第2信号線L34の位置を基準とする第2領域D2に対応するグランド層30の残存率は100%であり、外側の第1信号線L33の位置を基準とする第1領域D1に対応するグランド層30の残存率は79.2%であった。また、内側の第2信号線L34の回路幅L34を80μmとし、外側に隣接する第1信号線L33の回路幅L33を90μmとした。これにより、二本の信号線L34,L33における伝送時間差の発生を抑制できる。なお、本例では、第2信号線L34の位置を基準とする第2領域D2に対応するグランド層30の残存率を100%としたが、これに限定されるものではない。
【0089】
図11A〜
図13に示す実施例3のプリント配線板1について、各信号線31〜34に対応するグランド層30の残存率を算出し、
図14に示す。本例では、各信号線31〜34のすべてに伝送時間の差が生じないように、各グランド層30の残存率を算出した。
【0090】
第3実施例において、カーブ部分の最内側の信号線L34から、その外側に位置する信号線L33、信号線L32、カーブ部分の最外側の信号線L31のグランド層30の残存率を
図14に示すように順次減少させた。その結果、信号線31〜34の伝送速度が調節され、信号線31〜34の4本のすべてに伝送時間の差が生じなかった。第3実施例において、カーブ部分の最内側の信号線L34からカーブ部分の最外側の信号線L31の順に、信号線の回路幅Lを
図14に示すように順次太くした。その結果、信号線31〜34の4本すべてのインピーダンスを共通させることができた。
【0091】
このように、本実施形態では、二本の信号線L100同士の関係に限定されず、複数の信号線L100において、伝送時間の差の発生を抑制できる。つまり、カーブ部分の内側から外側に向かって、各信号線L34から信号線L31へ移行するに従い、各信号線L31〜34の位置に基づいて定義された領域Dに対応するグランド層30の残存率を順次小さくすることにより、外側に配置された信号線L31伝送速度を速くして、複数の信号線L100の物理長差に起因する伝送時間差の発生を抑制できる。また、カーブ部分の内側から外側に向かって、各信号線L100の太さを太くすることにより、各信号線L100のインピーダンスを揃えることができる。この結果、各信号線L100間においてコモンモードノイズの発生を抑制できる。
【0092】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【解決手段】絶縁性基材10と、絶縁性基材10に形成された、第1信号線L31と、第1信号線L31よりも短い第2信号線L32と、第1信号線L31及び第2信号線32と絶縁性材料10を介して形成されたグランド層30と、を有し、第1信号線L31を基準として定義され、第1所定幅W31を有する第1領域D1に対応する第1グランド層G31の残存率は、第2信号線L32を基準として定義され、第2所定幅W32を有する第2領域D2に対応する第2グランド層G32の残存率よりも低く構成する。