(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5690478
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】溶接用エンドタブ
(51)【国際特許分類】
B23K 37/06 20060101AFI20150305BHJP
【FI】
B23K37/06 R
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2009-221923(P2009-221923)
(22)【出願日】2009年9月28日
(65)【公開番号】特開2011-67846(P2011-67846A)
(43)【公開日】2011年4月7日
【審査請求日】2012年9月27日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501085142
【氏名又は名称】名東産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100044
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 重夫
(72)【発明者】
【氏名】東郷 曠
(72)【発明者】
【氏名】東郷 元伸
(72)【発明者】
【氏名】松井 繁朋
【審査官】
大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−119398(JP,A)
【文献】
特開平09−010930(JP,A)
【文献】
実開昭54−095530(JP,U)
【文献】
特開平07−276095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 37/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材(4)(4)の溶接溝(5)の端部に、開先面(11)と面一となるように配設され、溶接溝(5)を溶接線方向に延長する金属製の開先片(2)と、この開先片(2)を支持するとともに、溶接線と直交し、開先片(2)の端部からの溶接金属を直接塞き止める障壁部(6)を備えたセラミック製の基体(3)とからなる溶接用エンドタブであって、開先片(2)は、溶接溝(5)と直交する方向の幅(W)が5〜8ミリメートルの略角柱状とされ、開先片(2)と基体(3)とは有機系接着剤(9)によって接着されていることを特徴とする溶接用エンドタブ。
【請求項2】
溶接溝(5)と平行な方向の開先片(2)の幅(D)が5〜10ミリメートルとされている請求項1に記載の溶接用エンドタブ。
【請求項3】
開先片(2)と母材(4)の熱伝導率が略同値とされている請求項1又は2に記載の溶接用エンドタブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、母材同士を溶接するに際して、溶接金属の流出を防止するために溶接溝の端部に取り付けられる溶接用エンドタブに関する。
【背景技術】
【0002】
エンドタブとしては、これまで母材と同材質の金属によって形成されたスチールタブが一般的に使用されてきた。これは、一方のスチールタブから母材、他方のスチールタブまで材質の変化が無いため、溶接の連続性を維持することができ、途切れの無い良好な溶接をすることができるためである。また、スチールタブが、溶接欠陥の生じ易い溶接始終部を母材幅外に位置させるための欠陥退避部となって、溶接終了後、スチールタブを母材から5〜10ミリメートル程度離れた箇所で切除することで、溶接欠陥の生じ易い溶接始終部を取り除き、良好な溶接のみを母材に残すことができるためである。
【0003】
ところが、スチールタブは、溶接による取り付けとなるため、取り付け作業が面倒であるとともに、溶接終了後の切断作業に手間や時間を要することから、近年では、非金属製の例えばセラミック製のエンドタブが多用されるようになってきた。このセラミックタブは、専用の治具や針金、クランプ等で母材に固定することができるため、スチールタブに比べて取り付けが容易であるとともに、欠陥退避部が無いため、切断作業を行う必要も無く、また、余分な溶接を行わないため、溶接用ワイヤや溶接時間を削減することができる。
【0004】
しかしながら、セラミックタブは、上記に示したように、欠陥退避部が無いため、溶接欠陥の生じ易い溶接始終部が母材幅内に位置することとなり、良好な溶接とするためには、高度な溶接技術が必要となっていた。また、セラミックタブの熱伝導率が、母材の熱伝導率に比べて極端に低いため、セラミックタブ近傍でアンダーカットや高温割れ等の欠陥を誘発するといわれていた。さらに、セラミックタブは非導電性であるため、セラミックタブ近傍ではアークを安定的に発生させることができず、溶接欠陥の発生を助長することになるともいわれていた。
【0005】
そこで、エンドタブと母材との間に導電性の金属メッシュを介在させて、エンドタブ近傍でのアークの発生を促し、溶接欠陥の発生を抑えることが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−117490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたエンドタブでは、溶接後に溶着した金属メッシュをグラインダー等によって削り落とす等、溶接始終部の仕上げ加工が必要となり、コスト高を招いていた。
【0008】
また、金属メッシュの熱容量が母材に比べて極端に小さいことから、母材に比べて金属メッシュが早く溶解してしまい、結局のところ、エンドタブ付近でアークを安定して発生させることが困難であった。
【0009】
さらに、溶接欠陥の原因となるセラミックタブと母材との熱伝導率の差を解消しておらず、依然としてセラミックタブ近傍での欠陥発生を抑えることが困難であるとともに、溶接始終部に欠陥退避部も存在しないことから、欠陥がそのまま母材内に残存する虞もあった。
【0010】
そこで、本発明は、上記の不具合を解消して、溶接後の切断や仕上げ作業を不要とするとともに、エンドタブ内においてアーク発生を安定させ、さらに、母材との熱伝導率の差を解消して、溶接欠陥の発生を抑えることのできる溶接用エンドタブの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の溶接用エンドタブは、母材4、4の溶接溝5の端部に
、開先面11と面一となるように配設され、溶接溝5を溶接線方向に延長する金属製の開先片2と、この開先片2を支持するとともに、溶接線と直交し、開先片2の端部からの溶接金属を
直接塞き止める障壁部6を備えたセラミック製の基体3とからなる溶接用エンドタブであって、開先片2は、溶接溝5と直交する方向の幅Wが5〜8ミリメートル
の略角柱状とされ、開先片2と基体3とは有機系接着剤9によって接着されていることを特徴としている。
【0012】
また、溶接溝5と平行方向の開先片2の幅Dが5〜10ミリメートルとさ
れている。
【0013】
さらに、開先片2と母材4の熱伝導率が略同値とされている。
【発明の効果】
【0015】
この発明の溶接用エンドタブにおいては、基体がセラミック製であるから、母材への取り付けや取外しが容易であるとともに、アークによって基体の障壁部が僅かに溶解して溶接端部を被覆するため、溶接端部の仕上げ加工を省略することができる。また、金属製の開先片によって、母材の溶接溝を延長していることから、溶接用エンドタブ近傍や溶接用エンドタブ内においても、アークが安定して発生し、溶接の連続性を維持することができる。その結果、欠陥発生を抑制して、母材幅内の溶接を良好なものとすることができる。さらに、基体と開先片とが接着剤によって接着されているため、溶接金属と一体となった開先片から基体を容易に取り外すことができ、取外し作業の省力化を図ることができる。
【0016】
また、開先片の幅が5〜10ミリメートルとされていることから、スチールタブのように欠陥退避部として使用でき、溶接始終部をこの幅内に位置させることによって、母材幅内の溶接を欠陥の無い良好な溶接とすることができる。また、溶接後の溶接金属及び母材端部からの開先片の突出量が5〜10ミリメートルとなるから、セラミックタブのように溶接後の切断作業を行う必要はなく、コスト削減を図ることができる。さらに、溶接溝と直交する方向の開先片の幅が5〜8ミリメートルと肉厚となっていることによって、開先片がアーク熱によって完全には溶解されず、多層溶接等、複数回溶接を行う場合においても、アークを安定して発生させることができる。
【0017】
さらに、開先片と母材の熱伝導率を略同値とすることによって、熱伝導率の差異によって生じるアンダーカットや高温割れ等の欠陥の発生を抑制することができるとともに、溶接用エンドタブから母材への溶接の連続性を維持することができ、母材幅内の溶接をより良好なものとすることができる。
【0018】
さらにまた、有機系接着剤を用いることで、アークの熱によって分解されて接着力が低下し、溶接後の基体の取外し作業がさらに容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る溶接用エンドタブの母材への取付状態を示した斜視図である。
【
図3】溶接用エンドタブの母材への取付状態を示した平面図である。
【
図5】異なる実施形態の溶接用エンドタブを示した斜視図である。
【
図6】異なる実施形態の溶接用エンドタブの母材への取付状態を示した平面図である。
【
図7】さらに異なる実施形態の溶接用エンドタブを示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。この発明の実施形態に係る溶接用エンドタブ1は、
図1及び
図2に示すように、一対の開先片2、2と、この開先片2、2を支持する基体3から構成されている。
【0021】
開先片2は、母材4の熱伝導率と略同値の熱伝導率である例えば鋼等の金属片からなり、
図2に示すように、母材4、4の溶接溝(開先)5と直交する方向の幅Wが2〜8ミリメートル、実用上は5〜8ミリメートル、母材4、4の溶接溝5と平行な方向の幅Dが2〜20ミリメートル、実用上は5〜10ミリメートルの略角柱状に形成されている。また、開先片2の軸方向の長さは、開先片2が母材4、4の溶接溝5の端部に取り付けられた場合に、開先片2の両端面と母材4、4の表裏面とが面一となるように母材4の板厚と略同長、母材4が開先角度をもっている場合は、開先の斜辺と略同長とされている。
【0022】
基体3は、酸化アルミニウムや二酸化ケイ素等を、凡そ1300℃で焼結してなるセラミックスであり、
図1乃至
図3に示すように、母材4、4の溶接溝5より幅広に形成された略板状の障壁部6と、障壁部6と略直交する方向に向かって障壁部6の両端から延出された側壁部7、7とで平面視略コ字状に形成されている。また、一方の側壁部7の内側面8は、母材4の開先角度に合わせて傾斜しており、内側面8と開先片2の側面を接着すると、開先片2の傾斜角度と母材4の開先角度が一致するようになっている。また、側壁部7の障壁部6からの延出長さは、母材4の溶接溝5と平行な方向の開先片2の幅Dと略同等とされており、側壁部7の母材4、4側の端面と開先片2の母材4、4側の側面とが面一となる。また、基体3の高さ方向の幅は、母材4の板厚より僅かに大に形成されており、開先片2の天端面と基体3の天端面とは面一とならず、僅かに開先片2の天端面が下方に凹んだ形態となる。なお、側壁部7の母材4、4側の端面と開先片2の母材4、4側の側面とは、必ずしも面一にする必要は無く、開先片2、2のみを母材4、4側に突出させるようにしても良い。
【0023】
開先片2と基体3との接着においては、取外し作業の容易性を考え、アーク熱によって分解され、接着力の低下する有機系の接着剤9が用いられる
。
【0024】
溶接用エンドタブ1の母材4、4への取り付けにあたっては、一端に磁石を備え、他端に湾曲したアームを備えるセラミックタブ用の取り付け治具(図示せず)が用いられ、磁石を母材4に張り付けるとともに、アームによって、溶接用エンドタブ1を母材4、4の溶接溝5の端部に押し付けて固定する。この際、溶接用エンドタブ1を、予め母材4、4の下面に取り付けられた裏当て板10に載置するとともに、開先片2、2の溶接線側の側面を、母材4、4の開先面11、11と面一にして、溶接溝5を溶接線方向に延長する。なお、溶接用エンドタブ1の取り付けに際しては、取り付け治具を用いる他に、針金等で押さえつけるようにしても良い。
【0025】
溶接用エンドタブ1、1を母材4、4の溶接溝5の両端部へと取り付けた後、一方の溶接用エンドタブ1の開先片2、2に溶接ワイヤを当て、アークを発生させながら、母材4、4、他方の溶接用エンドタブ1まで連続して溶接する。即ち、溶接用エンドタブ1の開先片2、2を欠陥退避部として利用し、欠陥の発生し易い溶接始終部を開先片2、2に位置させて、母材4、4幅内に欠陥が入り込まないようにする。
【0026】
この際、
図4に示すように、開先片2、2は、溶接線側の側面がアークによって溶融し、母材4、4や溶接ワイヤ等の溶接金属と一体となる。また、溶接線と直交して、開先片2の端部からの溶接金属を塞き止める障壁部6は、アークによって僅かに溶解するが、溶解したセラミックによって溶接金属の表面が被覆されるため、仕上げの必要ない溶接端部が形成される。
【0027】
溶接完了後、母材4、4の両端部に取り付けられた溶接用エンドタブ1、1を軽くハンマー等で叩き、基体3、3のみを取り除き、溶接を完了する。
【0028】
このように、上記実施形態の溶接用エンドタブ1によれば、開先片2の熱伝導率を母材4の熱伝導率と略同値にするとともに、母材4、4の開先面11、11と開先片2、2の溶接線側の側面とが面一となるように配設していることから、アークを安定して発生させることができ、溶接の連続性を維持することが可能となるとともに、アンダーカットや高温割れ等の欠陥の発生を抑制することができる。また、開先片2、2を欠陥退避部として使用できるため、溶接始端部を開先片2、2に位置させることで、母材4、4幅内の溶接を良好なものとすることができるとともに、母材4、4の端部からの溶接金属の突出量が5〜10ミリメートルとなるため、切断の必要も無い。即ち、スチールタブとセラミックタブの双方の欠点を解消しながら、スチールタブとセラミックタブの双方の利点を備えた溶接用エンドタブ1とすることができる。
【0029】
次に、溶接用エンドタブ1の異なる実施形態を
図5に示す。この実施形態の溶接用エンドタブ1は、一方の母材4の幅が他方の母材4の幅に比べて狭く、溶接溝5の一方側面が、他方の母材4の端面によって既に溶接範囲から延長された状態となっている場合に用いられる。
【0030】
そのため、
図5に示すように、上記実施例の溶接用エンドタブ1を中央近傍で切断した形状となっており、開先片2は、狭幅の母材4側に位置される。母材4への取り付けに際しては、
図6に示すように、狭幅の母材4の開先面11と、開先片2の溶接線側の側面とが面一となるように取り付けるとともに、広幅の母材4の開先面11に基体3の先端面12を当接させて、溶接金属が外部に流出しないようにする。なお、その他の構成及び効果は、上記実施形態と同様であるため、同一機能部分を同一の符号で示して、その説明を省略する。
【0031】
次に、溶接用エンドタブ1のさらに異なる実施形態を
図7(a)(b)に示す。この実施形態の溶接用エンドタブ1は、障壁部6の両側面端部から側壁部7・・が延出されており、これら側壁部7・・の内側面8・・にそれぞれ開先片2・・が接着剤9によって取り付けられている。このように構成することによって、一方側面を溶接に用いた後、取外し、もう一度、他方側面を使用できるようになり、基体3を有効活用することができ、コスト削減を図ることができる。なお、その他の構成及びその効果は、上記実施形態と同様であるため、同一機能部分を同一の符号で示して、その説明を省略する。
【0032】
以上に、この発明の実施形態について説明したが、この発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することが可能である。例えば、
図7(c)(d)に示すように、障壁部6を、溶接溝5の幅より僅かに広い幅で後退させて、開先片2と障壁部6との間に隙間13を設けて、良好な端部余盛を形成できるようにしても良い。また、
図7(d)に示すように、広幅の母材4に接する先端面12側の角部を面取りして、母材4の開先面10との間に隙間を設けて、良好な端部余盛を形成できるようにしても良い。また、開先片2の基体3への取付形状は、上記実施形態に示したレ形に限らず、母材4、4の開先形状に合わせて例えばV形やK形等でも良い。この場合も、開先片2、2の溶接線側の側面が母材4、4の開先面11、11と面一となるようにする。
【符号の説明】
【0033】
2・・開先片、3・・基体、4・・母材、5・・溶接溝、6・・障壁部、9・・接着剤、D・・溶接溝と平行方向の開先片の幅、W・・溶接溝と直交する方向の開先片の幅