【実施例】
【0040】
以下、本発明を更に詳しく説明するために実施例によって説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0041】
(I)植物抽出エキスの製造
(1)チンピエキスの製造
ウンシュウミカンの果皮を50g採取し、これを50質量%エタノール水溶液375g中に入れて、室温(約25℃)下で24時間振とう処理した。これをろ過し、得られたろ液から水及びエタノールを減圧留去し、チンピエキスを得た。これを凍結乾燥し、チンピエキス(粉末)14.53gを得、以下に示す実施例に使用した。
【0042】
(2)バンランコンエキスの製造
タイセイの根を50g採取し、これを50質量%エタノール水溶液375g中に入れて、室温(約25℃)下で24時間振とう処理した。これをろ過し、得られたろ液から水及びエタノールを減圧留去し、バンランコンエキスを得た。これを凍結乾燥し、バンランコンエキス(粉末)10.61gを得、以下に示す実施例に使用した。
【0043】
(3)コトウニンエキスの製造
オニグルミの種子を50g採取し、これを50質量%エタノール水溶液375g中に入れて、室温(約25℃)下で24時間振とう処理した。これをろ過し、得られたろ液から水及びエタノールを減圧留去し、コトウニンエキスを得た。これを凍結乾燥し、コトウニンエキス(粉末)2.77gを得、以下に示す実施例に使用した。
【0044】
(4)ザクロエキスの製造
ザクロの果肉を50g採取し、これを50質量%エタノール水溶液375g中に入れて、室温(約25℃)下で24時間振とう処理した。これをろ過し、得られたろ液から水及びエタノールを減圧留去し、従来よりAQP3産生促進作用を有するとされるザクロエキスを得た。これを凍結乾燥し、ザクロエキス(粉末)12.81gを得、以下に示す比較例に使用した。
【0045】
(II)AQP3産生促進剤
ヒト不死化表皮正常角化細胞におけるAQP3産生量を以下の方法で測定することにより、本発明のAQP3産生促進剤の産生促進効果を評価した。
【0046】
1.細胞の培養
ヒト不死化表皮正常角化細胞(PHK16−0b、1,000,000cells/mL/本、Lot No.;09102003、ヒューマンサイエンス研究資源バンク)を、37℃の水浴で融解後、MCDB153培地(Sigma社製)中に懸濁し、6cmのシャーレに90,000cells/cm
2で播種し、37℃、5%−CO
2、加湿インキュベータ内で10日間培養した。この間、1日おきに培地を交換した。
【0047】
サブコンフルエントとなったヒト不死化表皮正常角化細胞を、トリプシン0.25質量%を含むリン酸緩衝溶液で処理後、剥離し、MCDB153培地(Sigma社製)中に懸濁し、10cmシャーレ1枚に33,000cells/cm
2で播種し、10日間培養した。この間、1日おきに培地交換をした。
【0048】
サブコンフルエントとなったヒト不死化表皮正常角化細胞を、トリプシン0.25質量%を含むリン酸緩衝溶液で処理後、剥離し、MCDB153培地(Sigma社製)中に懸濁し、24ウェルプレート(2.0cm
2/ウェル)に25,000cells/cm
2で播種し、9日間培養した。この間、1日おきに培地を交換した。
【0049】
その後、表2に示した濃度の酢酸マグネシウムと植物抽出エキスとを含む試験用培地に交換し、24時間培養した。ここで用いた試験用培地の調製方法は以下に示す。培地を除去し、ヒト不死化表皮正常角化細胞を37℃に加温したリン酸緩衝液500μLで洗浄した後、トリプシン0.25質量%を含むリン酸緩衝溶液(500μL)で処理を行い、ヒト不死化表皮正常角化細胞を2mLのエッペンドルフチューブに回収した。860×gで5分間遠心し、上清を除去した後、氷冷したリン酸緩衝液1mLで懸濁し、遠心した(860×g、5分、4℃)。上清を除去した後、ペレットを用いてmRNAの測定を行った。
【0050】
2.試験用培地の調製
MCDB153培地中に酢酸マグネシウムを0.72質量%及び0.0072質量%となるように溶解し、0.22μmメンブランフィルターで滅菌濾過し、酢酸マグネシウム添加培地を得た。また、50質量%エタノール水溶液中に、植物抽出エキスを、5質量%、2.5質量%、1質量%、0.2質量%となるように溶解し、0.22μmメンブランフィルターで滅菌濾過し、植物抽出エキス溶液を得た。
【0051】
エタノールの最終濃度が0.5質量%となるように、植物抽出エキス溶液を酢酸マグネシウム添加培地に添加し、酢酸マグネシウム及び各種植物抽出エキスの最終濃度が表2のようになる試験用培地を得た。
【0052】
3.AQP3 mRNA発現量の測定
1)細胞からのRNA抽出
RNeasy Mini kit(250)(Qiagen社製)を用いてRNAの抽出を行った。キットに付属するバッファーRLTおよびバッファーRPEはそれぞれ1mLあたり、前者には2−メルカプトエタノール10μLを、後者にはエタノール4mLを添加し、混和してから使用した。2mLのエッペンドルフチューブに回収したヒト不死化表皮正常角化細胞(24−ウェルプレートのウェル分)にバッファーRLTを350μL添加し、シリンジに20Gの注射針を取り付け、ヒト不死化表皮正常角化細胞懸濁液をそれぞれ20回通した。
【0053】
次に70容量%エタノール(エタノール:超純水=7:3)を350μL添加後、ボルテックスミキサーを用い混和した。この700μLを2mLコレクションチューブ上にセッティングしたRNeasyミニスピンカラム(キット付属品)にアプライし、18,700×gで15秒間遠心分離を行った。次に、700μLのバッファーRW1をRNeasyミニスピンカラムにアプライし、18,700×gで15秒間遠心分離を行い、カラムを洗浄した。
【0054】
更に、500μLのバッファーRPEで同様にカラムを洗浄後、再度500μLのバッファーRPEを添加し、18,700×gで2分間遠心分離を行い、カラムを洗浄した。その後、RNeasyミニスピンカラムを新しい2mLコレクションチューブの上に移し、18,700×gで1分間遠心分離を行い、洗浄液を完全に除去した。最後に、RNeasyミニスピンカラムを新しい1.5mLエッペンドルフチューブの上に移し、20μLのRNaseを含まない純水を添加して1分間放置後、18,700×gで1分間遠心分離を行い、RNAを溶出した。
【0055】
2)cDNAの合成
抽出したRNAから、High−Capacity cDNA synthesis Kit (Applied Biosystems社製)を用いてcDNAを合成した。
【0056】
1サンプルにつき、High−Capacity cDNA synthesis Kitに含まれる10×Reverse Transcription (RT)バッファー2.0μL、25×dNTP Mix(100mM)0.8μL、10×RTランダムプライマー2.0μL、MultiScribe(登録商標) リバーストランスクリプターゼ1.0 μL、RNase Inhibitor 1.0μL、ULTRASPEC WATER(Bio−Rad Laboratories社製)3.2μLを氷上で静かに混合し、2×RT Master Mixを調製した。
【0057】
Multiplate(登録商標)PCR Plates 96−well clear (Bio−Rad Laboratories社製)の各ウェルへ2×RT Master
Mixを10μLずつ、精製したRNAを1μgずつ添加し混合した。これをiQ(登録商標) サーマルサイクラー (582BR、Bio−Rad Laboratories社製) を用いてステップ1として25℃で10分間、ステップ2として37℃で120分間、ステップ3として85℃で5秒間インキュベート後、TEバッファーにて20倍希釈し、cDNA TEバッファー溶液とした。
【0058】
3)リアルタイムPCR
Multiplate(登録商標)PCR Plates 96−well clearのそれぞれのウェルへiQ SYBR Green Supermix 25μL、目的遺伝子のフォワードプライマー(5pmol/μL)3μL、リバースプライマー(5pmol/μL)3μL、cDNA TEバッファー溶液4μL、RNaseを含まない純水15μLを加えた。温度条件は熱変性95℃で15秒、アニーリング56℃で30秒、伸長反応72℃で30秒とした。PCR産物の蛍光強度をMy iQ(登録商標) single color リアルタイムPCR Detection System(Bio−Rad Laboratories社製)によりモニタリングした。
【0059】
AQP3および内部標準遺伝子として使用したGAPDHについて、表1に示すフォワードプライマーおよびリバースプライマー(Invitrogen社製)を使用した。
【0060】
【表1】
【0061】
4)データの解析
リアルタイムRT−PCRにおいて一定の蛍光強度が得られるまでのサイクル数をモニタリングし、GAPDHとAQP3のサイクル数から2−ΔΔCT法を用いて発現量を算出した。AQP3 mRNA発現量をGAPDHで補正した後、酢酸マグネシウム及びいずれの植物抽出エキスも含有しない場合(比較例1)のAQP3 mRNA発現量を1.0として、以下の実施例1〜11、及び比較例2〜14のAQP3 mRNA発現量を比較した。その結果を表2に示す。なお、AQP3 mRNA発現量とAQP3(タンパク質)の産生量とは比例する。
【0062】
【表2】
【0063】
表2の実施例1〜11の結果が示すように、酢酸マグネシウムと、チンピエキス、バンランコンエキス、コトウニンエキスからなる群より選ばれる1種以上の植物抽出エキスとを含む本発明のAQP3産生促進剤は、ヒト不死化表皮正常角化細胞におけるAQP3産生に対し、優れた産生促進効果をもたらすことが分かる。
【0064】
(III)化粧料
本発明のAQP3産生促進剤を配合した化粧料を調製し、効果を評価した。
【0065】
本発明のAQP3産生促進剤を配合した化粧料(シャンプー、コンディショナー、ヘアトニック、全身用ローション)を表3〜6に示す組成で調製した。調製方法は以下の通りである。チンピ、バンランコン、コトウニンの各抽出エキスは凍結乾燥した粉末品を用いた。なお、配合量の単位はgであり、表中の精製水の「残量」とは全量を100gとする量である。
【0066】
1.シャンプー(実施例12〜23、比較例15)
表3のA成分を75℃に加温し、撹拌しながら35℃まで冷却した。その後、撹拌を続けながらB成分を加え、さらにC成分を加えて、調製を終了した。
【0067】
【表3】
【0068】
2.コンディショナー(実施例24〜35、比較例16)
表4のD成分、E成分をそれぞれ75℃に加温し、D成分をパドルミキサーで撹拌しながら、E成分を少量ずつ加えた。E成分を全量添加後、パドルミキサーで撹拌しながら冷却して、45℃以下でF成分を加えて調製を終了した。
【0069】
【表4】
【0070】
3.ヘアトニック(実施例36〜47、比較例17)
表5のG成分、H成分、I成分の全てを40℃に加温して混合した。
【0071】
【表5】
【0072】
4.全身用ローション(実施例48〜59、比較例18)
表6のJ成分、K成分のそれぞれを80℃で加温して溶解し、K成分をJ成分に撹拌しながら徐々に加えて乳化した。その後撹拌しながら冷却し、40℃でL成分を加えて、35℃で調製を終了した。
【0073】
【表6】
【0074】
5.評価
前記実施例12〜59、比較例15〜18の化粧料について、それぞれ30〜50歳代の皮膚の乾燥を訴える男女各2名ずつの計192名に対して評価を行った。シャンプー及びコンディショナーについては毎日の入浴時に頭皮又は頭髪に適量使用し、ヘアトニックについては毎日の入浴後又は朝に頭皮又は頭髪に適量使用し、それぞれ半頭は実施例12〜47の化粧料、半頭は比較例15〜17の化粧料とし、これを6ヶ月間続けるモニター試験を行った。全身用ローションについては、1日に2回(朝、夜)、顔面、及び前腕に適宜使用し、顔面、前腕片側は実施例48〜59の化粧料、片側は比較例18の化粧料を使用し、これを6ヶ月続けるモニター試験を行った。それぞれの比較例と比べて下記の基準にて評価を行った。総スコアの結果を、シャンプーについては表7、コンディショナーについては表8、ヘアトニックについては表9、全身用ローションについては表10に示す。
【0075】
なお、この期間中、シャンプーのモニター試験対象者は、シャンプーのみ本発明のシャンプーを使用し、それ以外の頭皮または頭髪用化粧料については、通常使用しているものをそのまま使用した。コンディショナー、ヘアトニック、全身用ローションのモニター試験対象者も同様である。
なお、使用期間中に皮膚の異常を訴えたものはいなかった。
【0076】
スコア値
+3:比較例よりも非常に潤いを感じられた
+2:比較例よりもかなり潤いを感じられた
+1:比較例よりもやや潤いを感じられた
0:差がない
−1:比較例のほうがやや潤いを感じられた
−2:比較例のほうがかなり潤いを感じられた
−3:比較例のほうが非常に潤いを感じられた
【0077】
【表7】
【0078】
【表8】
【0079】
【表9】
【0080】
【表10】
【0081】
表7〜10の結果が示すように、本発明のAQP3産生促進剤を配合した実施例12〜59の化粧料では、比較例15〜18の化粧料と比べて、皮膚の乾燥の改善が認められた。