特許第5690531号(P5690531)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アンドレアス シュティール アクチエンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフトの特許一覧

<>
  • 特許5690531-内燃エンジンの作動方法 図000002
  • 特許5690531-内燃エンジンの作動方法 図000003
  • 特許5690531-内燃エンジンの作動方法 図000004
  • 特許5690531-内燃エンジンの作動方法 図000005
  • 特許5690531-内燃エンジンの作動方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5690531
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】内燃エンジンの作動方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20150305BHJP
   F02D 41/08 20060101ALI20150305BHJP
   F02N 3/02 20060101ALI20150305BHJP
【FI】
   F02D45/00 314B
   F02D45/00 362H
   F02D41/08 380
   F02N3/02 A
【請求項の数】10
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-198785(P2010-198785)
(22)【出願日】2010年9月6日
(65)【公開番号】特開2011-58492(P2011-58492A)
(43)【公開日】2011年3月24日
【審査請求日】2013年8月27日
(31)【優先権主張番号】10 2009 040 321.3
(32)【優先日】2009年9月5日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598052609
【氏名又は名称】アンドレアス シュティール アクチエンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100091867
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 アキラ
(74)【代理人】
【識別番号】100154612
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 秀樹
(74)【代理人】
【識別番号】100167151
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ガイアー
【審査官】 竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−173188(JP,A)
【文献】 特開2007−138757(JP,A)
【文献】 特開2003−106140(JP,A)
【文献】 特開2008−297914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 − 45/00
F02D 13/00 − 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃エンジン(11)を始動させる始動装置と制御装置によって制御される燃料供給装置とを備えた内燃エンジン(11)の作動方法であって、前記内燃エンジン(11)の始動時にコールドスタート条件であるかホットスタート条件であるかを検出し、検出したスタート条件に基づいて燃料供給量(x,x)を制御し、前記始動装置が、該始動装置を前記内燃エンジン(11)のクランク軸(20)と取り外し可能に結合するための連結装置(32)を有している前記方法において、
コールドスタート条件であるかホットスタート条件であるかを検出するため、前記内燃エンジン(11)の始動時に、該内燃エンジンの回転数が当初上昇しその後低下するような始動行程(26,27,28)の少なくとも1つの作動範囲で、前記始動装置が前記クランク軸(20)から切り離されている前記始動行程の終了段階の間に回転数勾配(Δn,Δn)を検出し、検出した前記回転数勾配(Δn,Δn)を、コールドスタート条件であるかホットスタート条件であるかを検知するために利用することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記始動装置が手で起動されるロープ引張り型スターターであることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項3】
コールドスタート条件であるかホットスタート条件であるかを検出するため、前記回転数勾配(Δn,Δn)を限界値(Δn限界)と比較することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
コールドスタート条件であるかホットスタート条件であるかを検出するため、温度(T)を検出することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記制御装置が制御器(12)であり、温度(T)を該制御器(12)内で測定することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項6】
温度(T)が、該温度(T)からコールドスタート条件であるかホットスタート条件であるかを一義的に判断できない温度範囲にあるときに、前記回転数勾配(Δn,Δn)を検出することを特徴とする、請求項またはに記載の方法。
【請求項7】
前記回転数勾配(Δn,Δn)が検出される前記作動範囲が、ほぼ−10℃ないしほぼ20℃の温度(T)であることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項8】
検出した前記スタート条件に依存して、コールドスタート条件に対する第1の燃料供給量(x)またはホットスタート条件に対する第2の燃料供給量(x)を選定することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
前記内燃エンジン(11)の1回目の始動行程の際に、ホットスタート条件に対する前記第2の燃料供給量(x)を選定することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項10】
コールドスタート条件に対して選定した前記第1の燃料供給量(x)を、前記内燃エンジン(11)が始動するまで継続して適用することを特徴とする、請求項またはに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の内燃エンジンの作動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃エンジン、たとえばパワーソー、切断研磨機、刈払い機等の手で操縦される作業機に使用される内燃エンジンは、非常に異なった周囲条件のもとで作動される。エンジンが酷寒時にも酷暑時にも支障なく始動するよう保証するため、始動時に温度センサを介して周囲温度を検出して始動過程を適宜制御することが知られている。
【0003】
周囲温度を測定する温度センサを使用する場合、エンジンに対し支配的なスタート条件を常に正確に検出できるとき限らない。これは、とりわけ、作業機が当初短時間停止し、従って新たな始動をホットスタート条件のもとで行わなければならないが、周囲温度が非常に低いために温度センサがコールドスタート条件を検出する場合に言えることである。
【0004】
誤検出したコールドスタート条件で内燃エンジンを始動すると、内燃エンジンが燃料過多になるため、新たな始動が困難になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、この種の内燃エンジンの作動方法において、内燃エンジンの始動を確実に可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、請求項1の構成によって解決される。
【0007】
内燃エンジンの回転数が当初上昇しその後低下するような始動行程の少なくとも1つの作動範囲で始動行程の終了段階(Auslaufphase)の間に回転数勾配を検出すること、すなわち回転数の低下と時間との関係を検出することは、内燃エンジンがコールドスタート条件のもとで回転しているのか、ホットスタート条件のもとで回転しているのかを推定するうえで信頼性のあるものである。始動行程の終了段階の間に、内燃エンジンは始動装置とは独立に回転する。終了段階の間に回転数がどの程度急速に低下するかは、潤滑油の温度に依存する内燃エンジンの摩擦に依存している。回転数の検出手段は通常内燃エンジンに設けられているので、回転数勾配を更なるコストなしに検出でき、スタート条件を特定するために利用できる。これによって、内燃エンジンの始動挙動を簡単に改善できる。
【0008】
動装置は、該始動装置を内燃エンジンのクランク軸と取り外し可能に結合するための連結装置を有し、始動装置はクランク軸から切り離されたときに回転数勾配を検出する。これによって、回転数勾配に対する始動装置の影響を阻止することができる。この場合、始動装置は有利には手で起動されるロープ引張り型スターターである。しかし、始動装置は電気始動装置であってもよい。電気始動装置は、回転数勾配を検出するために所定の時間にわたってオフにされ、それによって終了段階が生じるようにする。
【0009】
合目的には、コールドスタート条件であるかホットスタート条件であるかを検出するため、回転数勾配を限界値と比較する。限界値は一定である必要はない。
【0010】
有利には、コールドスタート条件であるかホットスタート条件であるかを検出するため、温度を検出する。有利には、温度を内燃エンジンの外側で測定し、すなわちシリンダおよびクランクケースの外側で測定し、エンジン温度とは区別する。なお温度は、内燃エンジンが配置されている作業機の外側で測定した温度である必要はない。制御装置が制御器であり、温度を該制御器内で測定すれば、簡潔な構成が得られる。これによって、温度を検出するための温度センサを制御器の回路基板上に配置することができ、その結果配線が必要なくなる。制御器内で測定した温度は、エンジン温度と周囲温度の間にある。温度を制御器内で測定することにより、制御器の外側に設けられる外部センサを必要としない。これにより簡潔な構成と簡単な組み立てが得られる。
【0011】
本発明によれば、温度が、測定した温度から、特に制御器内で測定した温度から、コールドスタート条件であるかホットスタート条件であるかを一義的に判断できない温度範囲にあるときに、回転数勾配を検出する。従って、検出した温度がスタート条件を特定するために十分でないときだけ回転数勾配を検出する。回転数勾配が検出される作動範囲は、有利にはほぼ−10℃ないしほぼ20℃の温度である。
【0012】
有利には、検出したスタート条件に依存して、コールドスタート条件に対する第1の燃料供給量またはホットスタート条件に対する第2の燃料供給量を選定する。
【0013】
コールドスタート条件のもとでは、通常は1回目の始動行程でのスタートは不可能である。それ故、本発明によれば、内燃エンジンの1回目の始動行程の際に、ホットスタート条件に対する第2の燃料供給量を選定する。従って、好ましい条件のもとにあり且つホットスタート条件であれば、1回目の始動行程でのスタートが可能である。このとき、1回目の始動行程の際に、コールドスタート条件であるかホットスタート条件であるかを検出する。有利には、コールドスタート条件に対して選定した第1の燃料供給量を、内燃エンジンが始動するまで継続して適用する。これによって、コールドスタート条件の検知後に間違ってホットスタート条件を検知しても、内燃エンジンのスタートを可能にさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
次に、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
図1】パワーソーの概略側面図である。
図2図1のパワーソーの概略断面図である。
図3】始動時の時間に対する可能な回転数推移を示すグラフである。
図4図3のグラフの1回の始動行程の拡大図である。
図5】本発明による方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1には、手で操縦される作業機の実施形態としてパワーソー1が図示されている。本発明による方法は、たとえば切断研磨機、刈払い機、芝刈り機等の他の作業機の内燃エンジンにおいても有利である。また、他の使用目的も合目的である。パワーソー1はケーシング2を有し、ケーシング2には後部グリップ3が配置されている。後部グリップ3にはスロットルコントロールレバー8とスロットルコントロールレバーロック9とが回動可能に支持されている。後部グリップ3に隣接して作動モード設定器10がケーシング2から突出している。作動モード設定器10を用いてパワーソー1をオンオフすることができる。ケーシング2には、さらに、作動時にパワーソー1を操縦するためのグリップパイプ4が配置されている。ケーシング2の後部グリップ3とは逆の側では、ソーチェーン6を周回するように駆動するガイドレール5が前方へ突出している。ソーチェーン6は、ケーシング2内に配置されている内燃エンジン11(図1では破線で示した)によって駆動される。ケーシング2からは、内燃エンジン11の始動装置を操作するための始動グリップ7が突出している。内燃エンジン11は、点火プラグ13と燃料弁16を制御する制御器12を有している。本実施形態では、燃料弁16は気化器14の領域で内燃エンジン11の吸気通路15に臨んでいる。燃料弁16をたとえば内燃エンジン11のクランクケースに臨むように構成してもよい。燃料弁16は有利には電磁弁である。
【0016】
図2には、パワーソー1の駆動部の構成が詳細に図示されている。図2が示すように、点火プラグ13は内燃エンジン11のシリンダ22内へ突出し、シリンダ22内には、ピストン21によって画成された燃焼室が形成されている。ピストン21はクランクケース23内に回転可能に支持されているクランク軸20を駆動する。クランク軸20には、内燃エンジン11側にファンホイール19が固定され、ファンホイール19の外周には制御器12が配置されている。制御器12は、たとえば、ファンホイール19で保持されている磁石によって電気エネルギーを誘導する点火モジュールである。しかしながら、内燃エンジン11にエネルギーを供給するため、クランク軸20に配置される発電機(図示せず)を用いてもよい。図2が示すように、制御器12内には温度センサ17が配置されている。温度センサ17は有利には制御器12の回路基板に固定されている。
【0017】
ファンホイール19の内燃エンジン11とは逆の側には、内燃エンジン11用の始動装置として、連結装置32を介してクランク軸20と結合可能なロープ引張り型スターター18が配置されている。内燃エンジン11のファンホイール19とは逆の側には、ソーチェーン6を駆動する駆動ピニオン25をクランク軸20と結合させている遠心クラッチ24が設けられている。
【0018】
内燃エンジン11を始動するため、操作者は始動グリップ7を引いて、連結装置32を介してクランク軸20を回転させる。燃料が燃焼室内へ到達し、内燃エンジン11が十分に運動エネルギーを有することで燃焼室内の混合気を圧縮して点火するためには、当初クランク軸20の数回転を要するので、最初に始動する場合には、内燃エンジン11の始動は好ましい条件のもとでのみ行われる。始動グリップ7を引いても内燃エンジン11の始動が行われなければ、操作者は始動グリップ7を離し、始動グリップ7は復帰ばねによりケーシング2内へ引き込まれる。その後、操作者は2回目の始動行程を行うことができる。
【0019】
図3は、複数回の始動行程における回転数nの時間tに関する推移を示している。1回目の始動行程26では、回転数は当初上昇し、その後再び低下する。回転数の低下は、始動装置18がもはや連結装置32を介してクランク軸20と結合されていないときの内燃エンジン11の終了段階に相当している。2回目の始動行程27および3回目の始動行程28においても、始動グリップ7の引き出しに相当する回転数nの上昇が行われ、その後の回転数の低下はクランク軸20の除々の停止(終了段階)に相当している。4回目の始動行程29ではじめて回転数nは始動後に著しく上昇する。ここでエンジンが始動する。
【0020】
パワーソー1は作動時に種々の作動条件のもとで作動される。非常に低温の場合、内燃エンジン11には始動用の燃料をより多く供給せねばならない。周囲温度が低いこと、すなわちエンジン外部の温度が低いことを検知するため、制御器12内に温度センサ17が設けられている。しかしながら、内燃エンジン11がすでに回転しているにもかかわらず、温度センサ17が非常に低い温度を有することがある。これは、たとえば、内燃エンジン11を切った後にケーシング2が再び低い周囲温度へ冷却され、他方内燃エンジン11はまだ完全に潤滑されているような場合である。このような場合には、制御器12内の温度センサ17がコールドスタート条件を報知しているにもかかわらず、内燃エンジン11はホットスタート条件のもとで始動する必要がある。ホットスタート条件とコールドスタート条件とを明確に区別することができるようにするため、本発明によれば、1回の始動行程の終了段階の間に回転数勾配Δnを検出する。
【0021】
1回の始動行程における回転数推移が図4に拡大して示してある。この場合、曲線30はコールドスタート条件での回転数推移を示し、曲線31はホットスタート条件での回転数推移を示している。なお、回転数勾配はクランク軸20の1回転にわたってクランク軸20の静止直前に測定するのが有利である。図4では、回転数勾配は2つの時点tとtの間に記入されており、その間隔は有利にはクランク軸20の1回転に相当している。曲線30の場合、両時点tとtの間での回転数勾配Δnは、曲線31における回転数勾配Δnよりも著しく大きい。コールドスタート条件の場合、摩擦がより大きいためにクランク軸20は著しく制動される。これは、回転数勾配Δn、Δnを検出することによって判定することができる。
【0022】
図5は、コールドスター条件なのかホットスタート条件なのかを検出する方法の過程を示している。まず、方法ステップ35で、制御器12内で測定した温度Tが下限温度(たとえば−10℃)よりも低いかどうかを調べる。もし低ければ、コールドスタート条件に対する第1の燃料供給量xを選定する。温度が−10℃よりも高ければ、方法ステップ36で、温度Tが20℃以下であるかどうかを検出する。この場合、温度Tは温度センサ17によって測定する。もし温度が20℃を越えていれば、ホットスタート条件であり、ホットスタート条件に対する第2の燃料供給量xを選定する。なお、燃料供給量x,xは、通常どおり、クランク軸の1回転あたりの燃料量に基づいて決めるか、或いは、特性曲線等を介して決めてよい。
【0023】
温度Tが−10℃と+20℃の間であれば、方法ステップ37で、1回の始動行程の終了段階の際に回転数勾配Δn,Δnを検出し、限界値Δn限界と比較する。回転数勾配Δn,Δnが限界値Δn限界よりも上であれば、コールドスタート条件であり、第1の燃料供給量xを選定する。これは、図4の実施形態の場合、曲線30における回転数勾配Δnのケースである。回転数勾配Δn,Δnが限界値Δn限界よりも下であれば、ホットスタート条件であり、第2の燃料供給量xを選定する。これは、曲線31の回転数勾配Δnのケースである。その後、選定した燃料供給量x,xを、燃料弁6を適宜制御することによって供給する。1度コールドスタート条件が検知されると、内燃エンジン11が始動するまでにこの方法は終了する。もしホットスタート条件が検知されれば、ホットスタート条件が正確に検知されたことを確定するため、更なる始動行程を行うたびに回転数勾配を監視する。もし後の始動過程でコールドスタートが検知されたならば、更なる複数回の始動行程に対し、コールドスター条件に対する第1の燃料供給量xを選定し、燃料を固定値に基づいて、或いは、特性曲線に基づいて適宜供給する。
【符号の説明】
【0024】
11 内燃エンジン
12 制御器
18 ロープ引張り型スターター
20 クランク軸
26,27,28 始動行程
32 連結装置
,x 燃料供給量
Δn,Δn 回転数勾配
Δn限界 回転数勾配の限界値
T 温度
図1
図2
図3
図4
図5