(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5690541
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】距離測定装置
(51)【国際特許分類】
G01S 17/08 20060101AFI20150305BHJP
【FI】
G01S17/08
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-220349(P2010-220349)
(22)【出願日】2010年9月30日
(65)【公開番号】特開2012-73210(P2012-73210A)
(43)【公開日】2012年4月12日
【審査請求日】2013年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100083563
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 祥二
(72)【発明者】
【氏名】永井 勝之
【審査官】
▲うし▼田 真悟
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−121146(JP,A)
【文献】
特開2006−329797(JP,A)
【文献】
特開2003−130953(JP,A)
【文献】
特開2008−286669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48− 7/51
G01S 17/00−17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測距光を発する発光部と、測定対象物からの反射測距光と、前記発光部から発せられる測距光を内部参照光として受光する受光部と、該受光部の受光感度をバイアス電圧の調整により電気的に調整する感度調整部と、該受光部からの前記反射測距光の受光信号と前記内部参照光の受光信号に基づき測距を演算する制御演算部とを具備し、該制御演算部はプリズムモード測定と、ノンプリズムモード測定とを選択して距離測定可能であり、選択された測定モードに対応して前記感度調整部により前記受光部の受光感度を変更する様制御し、
更に前記制御演算部は予め求めたバイアス電圧と受光面の応答分布との関係のデータを有し、プリズムモード測定が選択された場合に、前記バイアス電圧と応答分布とに基づき、プリズムの光軸と測距光軸とのずれ量が所定値迄は、測定で要求される精度を満たすバイアス電圧となる様前記感度調整部を制御することを特徴とする距離測定装置。
【請求項2】
前記プリズムモード測定は短距離測定モード及び長距離測定モードを有し、前記受光部の受光感度は短距離測定モード及び長距離測定モードに対してそれぞれ予め設定されている請求項1の距離測定装置。
【請求項3】
前記制御演算部は、閾値に基づき短距離測定モード又は長距離測定モードの変更を行い、前記閾値は短距離測定モードから長距離測定モードへ変更する場合と、長距離測定モードから短距離測定モードへ変更する場合とで異なる請求項2の距離測定装置。
【請求項4】
前記感度調整部は、前記受光部にバイアス電圧を印加して前記受光部の受光感度の調整を行い、前記バイアス電圧の増減に対応して増減する前記受光部の信号強度を前記バイアス電圧の増減に対応して増減するノイズ強度により除して得られるS/N特性の極大値より小さい値となる様前記バイアス電圧を設定する請求項1の距離測定装置。
【請求項5】
前記バイアス電圧は、前記極大値に対応するバイアス電圧の70%〜95%である請求項1又は請求項4の距離測定装置。
【請求項6】
前記測距光軸が前記プリズムの光軸に合致した状態で得られる測定値に対して、前記測距光軸と前記プリズムの光軸とのずれ量が前記所定値迄は、測定誤差が測定許容誤差の1/2以内となる様に前記バイアス電圧が設定される請求項1又は請求項4の距離測定装置。
【請求項7】
前記測距光軸と前記プリズムの光軸のずれは、前記プリズムの設置距離が50mに於いて、±1分のずれである請求項6の距離測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測距光を測定対象物に照射し、該測定対象物からの反射光を受光して測定対象物迄の距離を測定する距離測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光波距離測定装置により測定対象物迄の距離を測定する方法として、プリズムを測定位置に設置し、該プリズムを対象物として、該プリズムで反射された測距光を受光して測距を行うプリズムを用いた測定方式と、プリズムを使用せず、測定対象物に直接測距光を照射し、測定対象物からの反射光を受光して測距を行うノンプリズム方式の測定方法がある。
【0003】
プリズムを用いて測定を行う場合は、プリズムでの反射率が高いので、大きな光量の反射光が得られ、遠距離の測距を行うことができる。これに対し、ノンプリズム方式は、測定位置にその都度プリズムを設置する必要がないので、簡便に測距を行うことができるが、反射光が小さく遠距離の測距ができない。従って、測定状況に合わせて、適宜、測定方式を選択できる様になっていることが好ましい。
【0004】
次に、プリズムを用いた測定方式に於いて、
図4に示される様に、測距光軸1とプリズム2のプリズム光軸3がずれていた場合、或は測距光軸1が前記プリズム2の中心から外れていた場合、前記プリズム2で反射された測距光(以下反射測距光)は、前記測距光軸1からずれてしまう。この為、反射光を受光する受光部4では、受光位置が基準位置(測距光軸と対応する位置)からdだけずれてしまう。
【0005】
前記受光部4は、製造上、受光面全面に亘って均一な感度や応答性を有しているわけではなく、受光面上の部位によって感度や応答性が異なる。この為、測距光軸1とプリズム光軸3とがずれていた場合には、受光面4aの受光位置によって前記受光部4からの受光信号の応答性が異なる場合がある。受光信号の応答性が異なると、距離を測定する際にその測距値の誤差として現れる。
【0006】
従って、前記測距光軸1と前記プリズム光軸3のずれは、測定誤差の要因となる。ところで、前記測距光軸1と前記プリズム光軸3のずれが生じる要因としては、距離測定装置が自動視準機能を有し、順次視準した場合に視準誤差を生じた場合、遠距離を測距した場合に大気に揺らぎがあった場合、測量者による視準誤差があった場合等がある。一方、顧客からは、前記測距光軸1と前記プリズム光軸3とにずれがあった場合でも、両者間のずれ量が所定値迄は測距精度が所定値以下であることを要求される場合がある。
【0007】
従来は、斯かる顧客要求があった場合は、受光面4aを有する高品質の受光部4を選択して、前記測距光軸1と前記プリズム光軸3とにずれがあった場合でも、所定の測定精度を維持できる様にしていた。この為、受光部4の歩留りが悪く高価なものとなっていた。
【0008】
又、従来プリズム測定、ノンプリズム測定を行うことができる距離測定装置では、測定対象物からの反射光量が大きく異なる為、測距光射出光学系に光量調整器を設け、測距光の光量調整を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4332255号公報
【特許文献2】特許第3906818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は斯かる実情に鑑み、プリズム測定、ノンプリズム測定を簡便に行うことができる距離測定装置、更に測距光軸とプリズム光軸との間にずれを生じた場合でも、簡便な方法で誤差を生じない様にした距離測定装置の少なくとも一方を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、測距光を発する発光部と、測定対象物からの反射測距光と、前記発光部から発せられる測距光を内部参照光として受光する受光部と、該受光部の受光感度を電気的に調整する感度調整部と、該受光部からの前記反射測距光の受光信号と前記内部参照光の受光信号に基づき測距を演算する制御演算部とを具備し、該制御演算部はプリズムモード測定と、ノンプリズムモード測定とを選択して距離測定可能であり、選択された測定モードに対応して前記感度調整部により前記受光部の受光感度を変更する様制御する距離測定装置に係るものである。
【0012】
又本発明は、前記制御演算部がプリズムモード測定を選択し、前記制御演算部はプリズムモード測定では測距距離に応じ前記感度調整部により前記受光部の受光感度を変更する距離測定装置に係るものである。
【0013】
又本発明は、前記プリズムモード測定は短距離測定モード及び長距離測定モードを有し、前記受光部の受光感度は短距離測定モード及び長距離測定モードに対してそれぞれ予め設定されている距離測定装置に係るものである。
【0014】
又本発明は、前記制御演算部が、閾値に基づき短距離測定モード又は長距離測定モードの変更を行い、前記閾値は短距離測定モードから長距離測定モードへ変更する場合と、長距離測定モードから短距離測定モードへ変更する場合とで異なる距離測定装置に係るものである。
【0015】
又本発明は、前記感度調整部が、前記受光部にバイアス電圧を印加して前記受光部の受光感度の調整を行い、前記バイアス電圧の増減に対応して増減する前記受光部の信号強度を前記バイアス電圧の増減に対応して増減するノイズ強度により除して得られるS/N特性の極大値より小さい値となる様前記バイアス電圧を設定する距離測定装置に係るものである。
【0016】
又本発明は、前記感度調整部が、プリズムモード測定に於いて測距光の測距光軸がプリズムの光軸に対して所定量ずれた場合に測定誤差が所定値以下となる様に前記受光部の受光感度を減ずる様にした距離測定装置に係るものである。
【0017】
又本発明は、前記バイアス電圧が、前記極大値に対応するバイアス電圧の70%〜95%である距離測定装置に係るものである。
【0018】
又本発明は、前記測距光軸が前記プリズムの光軸に合致した状態で得られる測定値に対して測距光軸が所定量ずれた場合の誤差は、距離測定装置が有する測定精度の1/2となる様に前記バイアス電圧が設定される距離測定装置に係るものである。
【0019】
又本発明は、前記測距光軸のずれが、前記プリズムの設置距離が50mに於いて、±1分のずれである距離測定装置に係るものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、測距光を発する発光部と、測定対象物からの反射測距光と、前記発光部から発せられる測距光を内部参照光として受光する受光部と、該受光部の受光感度を電気的に調整する感度調整部と、該受光部からの前記反射測距光の受光信号と前記内部参照光の受光信号に基づき測距を演算する制御演算部とを具備し、該制御演算部はプリズムモード測定と、ノンプリズムモード測定とを選択して距離測定可能であり、選択された測定モードに対応して前記感度調整部により前記受光部の受光感度を変更する様制御するので、電気的な処理のみでプリズムモード測定と、ノンプリズムモード測定の切替えが可能であり、簡単な構成で且つ低コストでプリズムモード測定とノンプリズムモード測定が実施可能な距離測定装置を提供することができる。
【0021】
又本発明によれば、前記制御演算部がプリズムモード測定を選択し、前記制御演算部はプリズムモード測定では測距距離に応じ前記感度調整部により前記受光部の受光感度を変更するので、測距光射出光学系に光量調整手段を設けなくともプリズムモード測定又はプリズムモード測定を行うことができる。
【0022】
又本発明によれば、前記プリズムモード測定は短距離測定モード及び長距離測定モードを有し、前記受光部の受光感度は短距離測定モード及び長距離測定モードに対してそれぞれ予め設定されているので、近距離、遠距離で反射測距光の光量が異なる場合でも、測距光の光量を調整することなく対応が可能である。
【0023】
又本発明によれば、前記制御演算部は、閾値に基づき短距離測定モード又は長距離測定モードの変更を行い、前記閾値は短距離測定モードから長距離測定モードへ変更する場合と、長距離測定モードから短距離測定モードへ変更する場合とで異なるので、測定対象物がいずれか一方の閾値近傍に存在した場合でも、安定した測定が可能となる。
【0024】
又本発明によれば、前記感度調整部は、前記受光部にバイアス電圧を印加して前記受光部の受光感度の調整を行い、前記バイアス電圧の増減に対応して増減する前記受光部の信号強度を前記バイアス電圧の増減に対応して増減するノイズ強度により除して得られるS/N特性の極大値より小さい値となる様前記バイアス電圧を設定するので、測定環境の変化、或は電気回路にドリフトが生じた場合でも、安定した測定が可能となる。
【0025】
又本発明によれば、前記感度調整部は、プリズムモード測定に於いて測距光の測距光軸がプリズムの光軸に対して所定量ずれた場合に測定誤差が所定値以下となる様に前記受光部の受光感度を減ずる様にしたので、プリズムに対して測距光軸がずれた場合でも、高精度の測定が可能であり、高品質の受光部を使用しなくても所定の精度が得られ、コストの低減が図れる等の優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施例に係る距離測定装置の概略を示す図である。
【
図2】該実施例に於ける受光部について、該受光部に印加するバイアス電圧と受光信号強度、ノイズ強度及び受光信号強度/ノイズ強度比の関係を示すグラフである。
【
図3】(A)〜(F)は、プリズムに対する測距光軸のずれに対応して発生する測定誤差と受光部に印加するバイアス電圧との関係を示す図である。
【
図4】プリズムを用いた測定方法に於いて、測距光軸がプリズム中心からずれた場合を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0028】
図1に於いて、本発明の一実施例に係る距離測定装置の概略を説明する。
【0029】
図1中、11は距離測定装置、12は測定対象物としてのプリズム、13はレーザダイオード等の発光部、14はアバランシェフォトダイオード(APD)等の受光部、15は測距光軸1(
図4参照)を有する測定光路、16は測距光軸1内部に形成される内部参照光路を示しており、前記測定光路15と前記内部参照光路16に掛渡って光路切替え手段17が設けられ、該光路切替え手段17によって択一的に光路が選択され、前記測定光路15を経て反射測距光が前記受光部14に入射するか、或は前記内部参照光路16を経て内部参照光が前記受光部14に入射するかが選択される。
【0030】
又、前記測定光路15上には光量調整手段18が設けられ、内部参照光と反射測距光の光量が、同一或は略同一となる様に、前記測定光の光量を調整している。尚、前記光量調整手段18は、円板に円周方向に濃度を漸次異ならせた濃度フィルタであり、円板を回転させることで内部参照光の透過位置を変更して光量を調整するものであってもよく、或は、異なる開口面積を有する絞りを複数穿設し、測定光が通過する絞りを選択する様なものであってもよい。
【0031】
前記発光部13は、発光駆動部20により発光され、又発光を制御され、前記受光部14からの受光信号は信号処理部21に入力され、該信号処理部21で増幅、A/D変換等所要の信号処理がされて、制御演算部22に入力される。該制御演算部22は、CPU24、記憶部25等から構成され、又前記制御演算部22には操作部26が接続されている。
【0032】
又、前記受光部14には、感度調整部としてのバイアス設定部23が電気的に接続され、該バイアス設定部23は前記受光部14が所要の受光感度となる様にバイアス電圧を印加している。
【0033】
前記受光部14は、印加されるバイアス電圧に対応して、出力する受光信号が変化し、バイアス電圧が増大することで受光信号の強度が増大する。即ち、バイアス電圧の増大に伴い、前記受光部14の感度が高くなる様になっている。一方、前記受光部14から出力される受光信号に含まれるノイズは、前記受光部14に印加するバイアス電圧が、ブレイクダウン電圧に近づくにつれて急激に増大する性質を持っている。尚、ここでブレイクダウン電圧とは、前記受光部14が飽和状態となる電圧である。
【0034】
図2は、受光部14がアバランシェフォトダイオードであった場合の、バイアス印加電圧に対する受光信号、及びノイズの発生状態を示しており、
図2中、S曲線が信号曲線、N曲線がノイズ曲線、S/N曲線がS曲線をN曲線で除した場合に得られる信号・ノイズ比曲線である。図示の様に、S/N曲線は前記ブレイクダウン電圧(Vbr)に至る前に極大値(以下、極大値に対応するバイアス電圧を最適バイアス電圧値とする)となり、極大値をすぎると急激に低下し、受光部14としての機能を失うことになる。
【0035】
前記受光部14の通常の使用では、環境温度、電気回路のドリフト等の要因により、最適バイアス電圧値が変動する可能性もあり、安定性を考慮して極大値より若干小さいバイアス電圧が印加され、通常の使用では、ブレイクダウン電圧に対して90%の電圧が印加されている。
【0036】
上述した様に、前記受光部14はバイアス電圧によって感度や応答性が変化する。更に、前記受光部14の受光面は、所定の面積即ち有限の面積を有し、受光面の微小部分について考慮すると、受光面の全域に亘って同一の受光感度、受光感度/バイアス電圧特性や応答性(ここで受光感度/バイアス電圧特性とは、バイアスの変化に伴う受光感度の変化、即ち前記S/N曲線を言う)を有していない。
【0037】
従って、前記バイアス電圧を変化させた場合、受光面に於ける受光感度や応答性の分布が変化する。この受光感度や応答性の分布の変化については後述する。以下に説明する様に、本実施例では、前記受光部14の感度がバイアス電圧と相関関係にあること、及び前記バイアス電圧を変化させた場合、受光面に於ける受光信号の応答性の分布が変化することを利用している。
【0038】
又、前記バイアス電圧を下げると、前記受光部14の受光面に於ける応答性が均一化する。
【0039】
前記制御演算部22は、前記発光駆動部20を制御し、該発光駆動部20を介して前記発光部13の発光状態を制御する。前記制御演算部22は、前記受光部14が受光した反射測距光と内部参照光とに基づき測定対象物迄の距離を測定し、又前記バイアス設定部23に制御信号を発し、該バイアス設定部23から前記受光部14に印加するバイアス電圧を制御し、前記受光部14の感度を設定、或は調整する様になっている。
【0040】
又、前記記憶部25にはプリズムモードで測定を実行するプリズムモード測定プログラム、ノンプリズムモードで測定を実行するノンプリズムモード測定プログラム、更にプリズムモードで測定を実行する場合に短距離の測距を行う場合の短距離測定モードプログラム、長距離の測定を行う長距離測定モードプログラム、前記バイアス設定部23がバイアス電圧を印加する場合のバイアス電圧を制御するバイアス電圧制御プログラム等のプログラムが格納されている。
【0041】
更に、前記記憶部25には、使用される受光部14について予め得られたS曲線及びN曲線、或は前記S/N曲線が、或はS曲線及びN曲線及び前記S/N曲線が設定入力され、プリズムモードで測定を実行する際の短距離測定モードと長距離測定モードとを切替える閾値が設定入力されている。
【0042】
以下、本実施例の作動について説明する。
【0043】
本実施例に係る距離測定装置は、ノンプリズムモード測定とプリズムモード測定との2つの態様での測定が可能であり、先ずノンプリズムモード測定について説明する。前記操作部26により、測定モードをノンプリズムモード測定とする。
【0044】
測定対象物にプリズムが設置されていない場合、測定対象物からの反射光の光量は少ない。従って、ノンプリズムモード測定に設定されると、前記制御演算部22は前記バイアス設定部23に対して、前記受光部14に測定最大バイアス電圧を印加する様、指令する。ここで、測定最大バイアス電圧とは、測定に使用されるバイアス電圧の最大を意味し、上記した様にブレイクダウン電圧に対して90%の電圧となっている。
【0045】
前記発光部13より測距光が発せられ、測距光の一部が内部参照光として分割される。前記光路切替え手段17により前記測定光路15と前記内部参照光路16とが択一的に切替えられ、前記受光部14には測定対象物で直接反射された反射測距光と内部参照光とが択一的に入射し、前記内部参照光は前記光量調整手段18によって前記反射測距光と同一又は同等の光量となる様に光量調整される。尚、測定対象物の距離、反射率等により、反射測距光の光量が大きく変る場合は、バイアス電圧を調整し、測定に適する様に前記受光部14の受光感度を調整する。
【0046】
前記信号処理部21で受光信号が信号処理され、前記制御演算部22に入力される。該制御演算部22では、前記反射測距光と前記内部参照光に基づき測定対象物迄の距離が測定される。
【0047】
次に、プリズムモード測定で測距を行う場合について説明する。プリズムモード測定で測距を行う場合、前記操作部26より測定モードをプリズムモード測定に設定する。
【0048】
プリズムモード測定では、予め設定された測距距離(閾値)に応じて前記受光部14の感度、即ち該受光部14に印加されるバイアス電圧が変更される。測距距離に応じて、バイアス電圧の変更の対応は種々考えられるが、例えば設定された距離より遠い場合(反射測距光の光量が少ない場合)は、大きいバイアス電圧Vaを設定し、設定された距離より近い場合(反射測距光の光量が多い場合)は、小さいバイアス電圧Vbを設定する。
【0049】
大きいバイアス電圧Vaを前記受光部14に印加することで前記受光部14の感度が増大し、小さいバイアス電圧Vbを前記受光部14に印加することで前記受光部14の感度が減少する。
【0050】
上記した様に、前記受光部14は受光面全域で、受光/信号出力特性の分布は同一ではなく、又受光部14の個体差もある。更に、測距光軸が前記プリズム12の光軸に対して角度のずれがあった場合、或は測距光軸1が前記プリズム2の中心から外れていた場合、反射測距光は測距光軸からずれてしまう(
図4参照)。この為、反射測距光も該受光部14の中心からずれた位置に入射する。該受光部14の受光位置が中心からずれることで、該受光部14の受光信号の応答性の分布の不均一に基づく測距誤差が生じる。
【0051】
図3は、一例として、50mの距離を測定した場合の誤差の状態を示し、50mでの許容誤差を0.8mmとした場合で、プリズムに対する測距光軸のずれ(ずれ角度[分])が1分で前記許容誤差の1/2以内の誤差、即ち0.4mmが要求された場合を示している。
【0052】
尚、
図3の各図中、中心の枡が測距光軸と一致した場合の測定値を基準とし、この場合の測定誤差を0としている。更に、1枡毎に1分ずれていることを示し、更にマトリックスの上下方向が鉛直方向に、左右方向が水平方向に対応している。又、中心の枡は、鉛直、水平共にずれ角が0であり、この時の誤差を0としている。又、枡中の数値は、測距光軸がプリズム光軸に一致した場合の測定値に対する誤差を示し、単位はmmである。
【0053】
又
図3の各図は、前記受光部14に印加するバイアス電圧を前記最適バイアス電圧値より減少させた場合の、測距光軸のずれに対応する誤差の状態を示しており、
図3(A)はブレイクダウン電圧(RV)の89%、
図3(B)はブレイクダウン電圧(RV)の85%、
図3(C)はブレイクダウン電圧(RV)の83%、
図3(D)はブレイクダウン電圧(RV)の81%、
図3(E)はブレイクダウン電圧(RV)の79%、
図3(F)はブレイクダウン電圧(RV)の77%をそれぞれ示している。
【0054】
図3(A)に示される様に、バイアス電圧がブレイクダウン電圧の89%(通常の使用状態)では、図中ハッチを付した枡が、要求誤差(±0.4mm)を超えている。例えば、
図3(A)に於いて、水平角1分、鉛直角1分のずれで0.64mmの誤差を生じている。
【0055】
次に、印加するバイアス電圧をブレイクダウン電圧の85%、83%、81%、79%、77%とした場合の、測距光軸のずれに対する誤差の発生状態を示しているが、いずれの場合も要求誤差を超えていない。例えば、
図3(B)に於いて、水平角1分、鉛直角1分のずれで誤差は0.28mmとなって要求誤差を満たしている。換言すれば、バイアス電圧を減少させることで、要求精度を満たすことになる。
【0056】
尚、この現象は更にバイアス電圧を下げた場合も変らず、測距光軸のずれに対する誤差は要求誤差を超えることはない。但し、前記受光部14の感度が低下し、測定できる距離が短くなるので、実用上は70%が限度と思われる。従って、通常使用で要求誤差を満足しない受光部14であっても、バイアス電圧を調整することで使用できる状態となる。
【0057】
更に、受光部14の個体差もあり、前記極大値とバイアス電圧とは必ずしも一定でない。従って、印加するバイアス電圧は、前記最適バイアス電圧値の95%〜70%の間の適宜なバイアス電圧を選択すればよい。
【0058】
尚、具体的なバイアス電圧の値は、距離測定装置に装着する受光部14について予めデータを取得し、前記記憶部25に記憶させておく。従って、該記憶部25には、長距離測定用バイアス電圧VL、短距離測定用バイアス電圧VSが記憶され、前記制御演算部22は、プリズムモード測定で且つ短距離測定モードと長距離測定モードに対応したバイアス電圧となる様に前記バイアス設定部23を制御する。
【0059】
次に、プリズムモード測定に於ける短距離測定モードと長距離測定モードとの切替えについて説明する。
【0060】
短距離測定モードと長距離測定モードとの切替える場合の要因は、種々考えられ、1つは前記受光部14が受光する反射測距光の受光光量で切替えを判断してもよく、或は距離を要因として切替えを判断してもよい。更に、測距距離を要因とする場合、距離測定装置が焦点合せ機構を具備している場合、焦点合せ機構の焦点合わせ状態から測定対象物迄の距離を求めてもよい。以下は、距離測定装置が測距した測距結果を短距離測定モードと長距離測定モードとの切替えの要因とした場合を説明する。
【0061】
本実施例では、短距離測定モードから長距離測定モードへ切替える場合の測距距離(第1閾値)と、長距離測定モードから短距離測定モードへ切替える場合の測距距離(第2閾値)の二つを有している。短距離測定モードから長距離測定モードへ切替える場合、長距離測定モードから短距離測定モードへ切替える場合で閾値を異ならせることで、閾値近傍に測定対象物が存在した場合の測定の安定性が向上する。
【0062】
尚、第1閾値と第2閾値はどちらが大きくてもよく、要は第1閾値と第2閾値が異なっていればよい。
【0063】
又、本発明は位相差方式やパルス方式等の受光部の受光面の応答性が影響し得る距離測定装置に適用される。
【符号の説明】
【0064】
11 距離測定装置
12 プリズム
13 発光部
14 受光部
15 測定光路
16 内部参照光路
17 光路切替え手段
18 光量調整手段
20 発光駆動部
21 信号処理部
22 制御演算部
23 バイアス設定部
24 CPU
25 記憶部
26 操作部