【実施例】
【0022】
(
参考例1)
本発明の実施例にかかるトランスにつき、
図1、
図2を用いて説明する。
図1に示すごとく、ベースプレート6上に配置された磁性体からなる下コア2と、下コア2におけるベースプレート6側と反対側の面に対向配置された磁性体からなる一対の上コア3と、下コア2と上コア3との間に配置された一次コイル41及び二次コイル42とからなる。
そして、トランス1は、ベースプレート6に固定されている。
【0023】
上コア3は、一次コイル41及び二次コイル42の外側において下コア2と接触し、一次コイル41及び二次コイル42の内側において下コア2との間に上下ギャップ11を設けてなる。
一対の上コア3は、一次コイル41及び二次コイル42の外側から内側へ、互いに近付く方向に延設されると共に互いの対向面31の間に上部ギャップ12を設けてなる。
そして、上部ギャップ12には、非磁性体からなるスペーサ5が介設されている。スペーサ5は、一対の上コア3同士を連結している。
【0024】
上記トランス1は、車両に搭載されるDC−DCコンバータに組み込まれる。DC−DCコンバータは、筐体内に、トランス1を、他の電子部品や電子回路と共に収容してなる。筐体はアルミニウム等の非磁性体の金属からなる。筐体の底板部が上記ベースプレート6を構成している。
【0025】
本明細書においては、ベースプレート6におけるトランス1の搭載面の法線方向を上下方向とし、搭載面が向く方向を上方、その反対側を下方として説明する。
下コア2は、ベースプレート6の法線方向から見た形状において、略長方形状を有する。この下コア2に対して、2つの上コア3が上方から対向配置されている。一対の上コア3は下コア2における互いに平行な一対の辺部に沿った部分において接触している。
【0026】
この下コア2と上コア3との接触部14よりも内側となる部分においては、
図1(B)に示すごとく、下コア2と上コア3とは接触していない。そして、接触部14の内側において、下コア2と上コア3との間に、一次コイル41及び二次コイル42が配置されている。すなわち、下コア2の上面及び上コア3の下面は、それぞれ接触部14の内側において、凹部23、33を形成してなる。この凹部23、33は、互いに対向配置され、両者によって形成される空間に、一次コイル41及び二次コイル42が配置される。
【0027】
一次コイル41は、外表面に絶縁被膜を形成した導体線を複数回巻にて巻回してなる。二次コイル42は、略円環状の金属板からなる。そして、一次コイル41は、二次コイル42における上下両面にそれぞれ積層された状態で配置されており、二次コイル42の上下面にそれぞれ配置された一次コイル41同士は、互いに直列接続されている。
一次コイル41及び二次コイル42は互いの巻回軸を一致させた状態で積層配置され、絶縁体からなるボビン(図示略)に巻回された状態で保持されている。
【0028】
図1に示すごとく、トランス1は、2つのホルダ13によってベースプレート6に固定されている。ホルダ13は、下コア2と上コア3との接触部14が形成された部分の上方から下方へ、トランス1を押さえ込むように配設されている。ホルダ13は、例えば金属板を曲げ加工してなる部材からなり、上コア3の上面を押さえる押圧部131と、ベースプレート6に固定される一対のフランジ部132とを有する。そして、2個のホルダ13は、互いに平行な状態で配置されると共に、それぞれの押圧部131を上コア3の上面に当接させ、それぞれの一対のフランジ部132において、ビス133によってベースプレート6に固定されている。これによって、下コア2と一対の上コア3と一次コイル41と二次コイル42とからなるトランス1をベースプレート6に固定している。
【0029】
一対の上コア3の互いの対向面31は、平行に配置されており、両者の間に上部ギャップ12が形成されている。また、一次コイル41及び二次コイル42の内側において、下コア2と上コア3との間に、上下ギャップ11が形成されている。そして、上部ギャップ12に、スペーサ5が介在している。スペーサ5は、上部ギャップ12の略全域、すなわち一対の上コア3の対向面31の略全域同士の間に形成され、対向面31の略全域に接合されている。
【0030】
なお、スペーサ5は、必ずしも上部ギャップ12の略全域に形成されている必要はなく、一対の上コア3を連結する構成であれば、上部ギャップ12の一部に形成されていてもよい。ただし、振動抑制の観点から、スペーサ5の形成領域は広い方が好ましく、上部ギャップ12の略全域に形成されていることが好ましい。
スペーサ5は、例えばアルミナ等のセラミックスからなり、一対の上コア3に接着剤によって接着されている。また、スペーサ5は、例えば樹脂等、他の非磁性体であってもよい。
【0031】
次に、本例の作用効果につき説明する。
本例のトランス1は、上部ギャップ12にスペーサ5を介設してなり、スペーサ5は一対の上コア3同士を連結している。これによって、上コア3と下コア2との間に電磁吸引力が作用しても、上コア3の振動を抑制することができる。
【0032】
すなわち、一対の上コア3をスペーサ5によって連結することによって、一対の上コア3は一体化されることとなる。そうすると、上コア3の共振周波数は低くなる。これは、物体が曲げ振動する際に、その曲げ変形される方向の物体の寸法(長さ)が長いほど、共振周波数が低くなるという物理法則に基づく。つまり、曲げ変形される方向である一対の上コア3の並び方向の長さを、一対の上コア3を一体化することによって長くすることにより、共振周波数を低くすることができる。
【0033】
これにより、上コア3の共振周波数はトランス1の駆動周波数から充分に離れた低い値となる。それゆえ、上記電磁吸引力が作用しても、その変動の周波数から離れた低い共振周波数を持った、一体化された一対の上コア3は、その振動が充分に低減されることとなる。
【0034】
つまり、
図2に示すごとく、一対の上コア3が一体化されていない場合には、破線の曲線L0に示したように、共振周波数(振動加速度レベルがピークとなる周波数)が比較的高く、トランス1の駆動周波数(fd)に近い。この場合、駆動周波数(fd)における振動加速度レベルが比較的大きく、上記電磁吸引力の変動によって上コア3の振動が大きくなりやすい。
【0035】
これに対し、一対の上コア3を一体化している場合には、実線の曲線L1に示すように、共振周波数を低くすることができ、トランスの駆動周波数(fd)に対して充分に低くすることができる。この場合、駆動周波数(fd)における振動加速度レベルが小さくなり、上記電磁吸引力の変動による上コア3の振動を抑制することができる。
図2に示す駆動周波数における上コア3の振動加速度レベル(L0、L1)の差ΔLが、上記スペーサ5による振動低減効果ということができる。
このように、本例によれば、一対の上コア3の振動を抑制することができ、これによってトランス1の振動を抑制することができる。
【0036】
また、スペーサ5は非磁性体からなる。それゆえ、スペーサ5を上部ギャップ12に介設しても、上部ギャップ12の磁気的な効果は損なわれることがなく、上コア3及び下コア2に形成される磁束に影響を与えることがない。すなわち、上記構成によれば、形成される磁束に影響を与えることなく、トランス1の振動を効果的に抑制することができる。
以上のごとく、本例によれば、振動を抑制したトランスを提供することができる。
【0037】
(
参考例2)
本例は、
図3に示すごとく、下コア2の下面に、ベースプレート6と接触しない非接触面21を設けた例である。
非接触面21は下コア2の下面の面積の半分以上の面積を占めている。
すなわち、下コア2の下面には、その四隅に脚部22を配設してなる。これにより、下コア2の下面は、ベースプレート6と接触しない非接触面21となる。そして、脚部22を配置していない部分においては、非接触面21とベースプレート6との間に、空間が形成されることとなる。
【0038】
脚部22は、下コア2の下面に接着してもよいし、接着しなくてもよい。また、脚部22を下コア2の一部によって一体的に形成してもよい。
その他は、
参考例1と同様である。
【0039】
本例の場合には、トランス1の振動がベースプレート6を介して伝搬することを防ぐことができる。すなわち、スペーサ5によってトランス1の振動を抑制しても、振動を完全に防ぐことは困難な場合がある。かかる場合において、下コア2に非接触面21を設けてトランス1とベースプレート6との接触面積を小さくすることによって、トランス1の振動がベースプレート6に伝搬することを抑制し、例えばトランス1を搭載した車両等において、その車室に振動音が伝搬することを効果的に抑制することができる。
その他、
参考例1と同様の作用効果を有する。
【0040】
(
参考例3)
本例は、
図4に示すごとく、下コア2とベースプレート6との間に、振動吸収部材24を介在させた例である。
すなわち、上記
参考例2において示した下コア2の下面における非接触面21とベースプレート6との間に、グリース等からなる振動吸収部材24を配置する。この振動吸収部材24は、ベースプレート6と下コア2の下面(非接触面21)との双方に接触する。
下コア2の下面における振動吸収部材24の形成面積は、下コア2の下面の面積の半分以上の面積を占めている。
その他は、
参考例1と同様である。
【0041】
本例の場合には、振動吸収部材24が下コア2の振動を吸収し、下コア2の振動を抑制することができる。また、振動吸収部材24は下コア2とベースプレート6との間に介在していることにより、トランス1の振動がベースプレート6に伝搬することを抑制することができる。その結果、例えばトランス1を搭載した車両等において、その車室に振動音が伝搬することを効果的に抑制することができる。
その他、
参考例1と同様の作用効果を有する。
【0042】
(
参考例4)
本例は、
図5に示すごとく、振動吸収部材24を、下コア2とベースプレート6との間において、二箇所に分けて配置した例である。
具体的には、一対の上コア3のそれぞれの下方における一部に、振動吸収部材24が配設されている。そして、下コア2の下面における振動吸収部材24の合計の形成面積は、下コア2の下面の面積の半分未満の面積となっている。
その他は、
参考例3と同様である。
【0043】
本例の場合には、
参考例3に比べて振動吸収効果を大きくすることは困難であるが、トランス1の製造コストを低減することが可能である。
その他、
参考例1と同様の作用効果を有する。
【0044】
(
実施例1)
図6〜
図8に示すごとく、一対の上コア3の並び方向及び上下方向に直交する方向(
図6〜
図8におけるY方向)に、下コア2が2個に分割されている、トランス1の例である。
すなわち、本例のトランス1においては、下コア2が、
図8に示す分割線Mを境に、2つの分割コア20に分割されている。
その他は、
参考例1と同様である。
【0045】
本例のトランス1において、下コア2は、一対の上コア3の並び方向及び上下方向に直交する方向(Y方向)に、複数(2個)に分割されている。これによって、上コア3と下コア2との間に電磁吸引力が作用しても、下コア2の振動を抑制することができる。
【0046】
すなわち、上記のように下コア2を分割することによって、その共振周波数が低くなる。これは、物体が曲げ振動する際に、その振動面に直交する方向の寸法(幅)が小さいほど、共振周波数が低くなるという物理法則に基づく。つまり、振動面に直交する方向である「上記一対の上コア3の並び方向及び上下方向に直交する方向」(Y方向)に下コア2を分割して、その分割コア20の幅を小さくすることによって、下コア2の共振周波数を低くすることができる。
【0047】
これにより、上コアの共振周波数はトランスの駆動周波数から充分に離れた低い値となる。それゆえ、上記電磁吸引力が作用しても、その変動の周波数から離れた低い共振周波数を持った、分割された下コアは、その振動が充分に低減されることとなる(
図2及び同図を用いた上記
参考例1における説明も参照)。
その結果、下コア2の振動を抑制することができ、これによってトランス1の振動を抑制することができる。
その他、
参考例1と同様の作用効果を有する。
なお、本例においては、下コア2を2個に分割した例を示したが、上記Y方向に分割する態様であれば、3個以上に分割してもよい。
【0048】
(実験例1)
本例は、
図9に示すごとく、
参考例1にかかるトランス1が発生する振動音の音圧レベルを、スペーサ5を設けていないトランスが発生する振動音の音圧レベルと比較した例である。
比較例に用いた「スペーサ5を設けていないトランス」は、背景技術において説明した
図11に示す「トランス9」である。
【0049】
評価にあたっては、トランスの駆動周波数を5〜15kHzの間で徐々に変化させつつ、各駆動周波数におけるトランスの振動音の音圧レベルを測定した。すなわち、上コアの上方10cmの位置にマイクロフォンを配置して、振動音を採取し、その音圧レベルを測定した。
その結果を、
図9に示す。同図において、曲線P1で示したものが、
参考例1のトランスの音圧レベルの測定値であり、曲線P0で示したものが、比較例のトランスの音圧レベルの測定値である。
【0050】
同図から分かるように、トランスの駆動周波数を5〜15kHzの全域にわたって、
参考例1のトランスの音圧レベルは、比較例のトランスの音圧レベルよりも低かった。そして、実際の車両用のDC−DCコンバータに用いられるトランスの駆動周波数である10kHz付近において、
参考例1のトランスの音圧レベルは、比較例のトランスの音圧レベルよりも、約7dB低い。
【0051】
以上のごとく、
参考例1にかかるトランスは、振動を効果的に抑制し、その振動音を充分に抑制することができることが確認された。
【0052】
(実験例2)
本例は、
図10に示すごとく、
実施例1にかかるトランス1が発生する振動音の音圧レベルを、スペーサ5を設けていないトランスが発生する振動音の音圧レベルと比較した例である。
評価方法は、実験例1と同様である。
そして、評価結果を、
図10に示す。同図において、曲線P5で示したものが、
参考例1のトランスの音圧レベルの測定値であり、曲線P0で示したものが、比較例のトランスの音圧レベルの測定値である。
【0053】
同図から分かるように、トランスの駆動周波数を5〜15kHzの全域にわたって、
参考例1のトランスの音圧レベルは、比較例のトランスの音圧レベルよりも低かった。そして、実際の車両用のDC−DCコンバータに用いられるトランスの駆動周波数である10kHz付近において、
参考例1のトランスの音圧レベルは、比較例のトランスの音圧レベルよりも、5dB程度低い。
【0054】
以上のごとく、
実施例1にかかるトランスは、振動を効果的に抑制し、その振動音を充分に抑制することができることが確認された。
【0055】
上記
参考例1〜4及び実施例1は、適宜組み合わせることも可能であり、その場合には組み合わせた実施例の双方の作用効果を得ることが可能である。
例えば、
参考例1と
実施例1とを組み合わせることもできる。すなわち、
図1に示すごとく上部ギャップ12にスペーサ5を配置すると共に、
図6に示すごとく下コア2を分割した構成とすることもできる。この場合には、上コア3と下コア2との双方の共振周波数を低くして、上コア3と下コア2との双方の振動を抑制することができる。その結果、両者の相乗効果によって、トランス1の振動を一層効果的に抑制することが可能となる。
【0056】
また、例えば、
実施例1に
参考例2〜
参考例4のいずれかの構成を組み合わせることもできる。この場合にも、下コア2の振動を抑制しつつ、抑えきれないトランス1の振動がベースプレート6に伝搬することを抑制することができる。
その他にも、上記
参考例1〜4及び実施例1の形態は、適宜組み合わせることができる。
なお、本明細書において、「上」、「下」との表現は、便宜的に用いた表現であり、鉛直方向に対するトランスの配置姿勢は特に限定されるものではない。