特許第5690610号(P5690610)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5690610
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】光電子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/227 20060101AFI20150305BHJP
   H01J 37/09 20060101ALI20150305BHJP
   H01J 37/12 20060101ALI20150305BHJP
   H01J 37/21 20060101ALI20150305BHJP
【FI】
   G01N23/227
   H01J37/09 A
   H01J37/12
   H01J37/21 Z
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-32420(P2011-32420)
(22)【出願日】2011年2月17日
(65)【公開番号】特開2012-173008(P2012-173008A)
(43)【公開日】2012年9月10日
【審査請求日】2014年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】392004912
【氏名又は名称】株式会社菅製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】津野 勝重
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 清高
(72)【発明者】
【氏名】内藤 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】菅 育正
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 英機
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−208865(JP,A)
【文献】 米国特許第04096386(US,A)
【文献】 特開平09−171793(JP,A)
【文献】 特開2003−208866(JP,A)
【文献】 特開平03−074039(JP,A)
【文献】 特開平06−289299(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0200747(US,A1)
【文献】 小野 寛太, 尾嶋 正治, 秋永 広幸, Ernst Bauer,「放射光光電子顕微鏡によるナノスケール磁性体の磁区構造観察」,日本応用磁気学会誌,2002年12月 1日,Vol. 26, No. 12,p. 1168-1173
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/227
H01J 37/09
H01J 37/12
H01J 37/21
JSTPlus(JDreamIII)
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光を前方に配置されている試料に照射することにより前記試料から後方に向かって放出される光電子を対物レンズを介して結像させることで拡大像を得る光電子顕微鏡であって、
前記対物レンズは、前方から後方に向かって第1電極、第2電極、第3電極、および第4電極がこの順に配置されてなり、
前記第1〜第4の電極には前後方向に貫通する穴が形成されて、前記対物レンズは前方の前記試料の面から放出された前記光電子を当該穴を介して後方に通過させ、
前記第1の電極と前記第2の電極は、前記光源からの前記光が互いの電極間を通りつつ前記第1の電極の前記穴を介して前記試料に照射されるように設置されている、
ことを特徴とする光電子顕微鏡。
【請求項2】
前記第1の電極は、前記穴に近い部分が、少なくとも、前記光が照射される前記試料の面に対して平行に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の光電子顕微鏡。
【請求項3】
前記光電子の進行方向に対して前記対物レンズの後方のアース電位の位置に対物絞りを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の光電子顕微鏡。
【請求項4】
前記対物絞りが可動絞りであることを特徴とする請求項3に記載の光電子顕微鏡。
【請求項5】
前記可動絞りが、前記光電子の進行方向に対して垂直な面で孔の位置を調整することができることを特徴とする請求項4に記載の光電子顕微鏡。
【請求項6】
前記対物絞りが、前記光電子の進行方向に対して前後に移動可能であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の光電子顕微鏡。
【請求項7】
前記対物レンズは、前記対物絞りの設置位置に該対物レンズの焦点面を合わせるための調節手段を有することを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の光電子顕微鏡。
【請求項8】
前記対物絞りの設置位置における電子回折パターンを検出する検出器と、
前記電子回折パターンを前記検出器に拡大投影する中間レンズ及び投影レンズと、
を備えることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の光電子顕微鏡。
【請求項9】
光電子顕微鏡が、分子又は物質のミクロレベル又はナノレベルでの鏡像異性関係を画像として観察可能なキラリティー(Chirality)光電子顕微鏡である請求項1〜のいずれかに記載の光電子顕微鏡。
【請求項10】
光電子顕微鏡が、磁性体の磁区構造を観察することができる光電子顕微鏡である請求項1〜のいずれかに記載の光電子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の実像だけでなく、散乱電子の角度情報も図形として観察することができる光電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡には、PEEM(光電子顕微鏡)、LEEM(低エネルギー電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)、STEM(走査型透過電子顕微鏡)、SEM(走査型電子顕微鏡)などの種類があり、電子光学の立場から、PEEMは、LEEMと共通し、TEM/STEM/SEMとは著しく異なるものと認識されている。
【0003】
LEEM/PEEMでは、試料から反射または放出される電子のエネルギーが数ボルトからせいぜい数百ボルトの範囲で比較的低電圧であるため、電子をレンズ系に通すときに高電圧で加速させて高加速電圧のもとで試料の実像観察を行う。これに対して、TEM/STEMでは、全系を一定の加速電圧に固定して試料の実像観察を行うのが普通であり、SEMでは、逆に試料をビームが照射するときに電子を減速させて高分解能観察を行っている場合がある。
【0004】
また、LEEM/PEEMでは、使用するレンズの収差が大きいこと、装置内部を超高真空状態に保つ必要があること、像観察よりも分析が主体であることなどの理由から、空間分解能がTEM/STEM/SEMに比べてかなり低い。
【0005】
さらに、PEEMは、透過や反射電子ではないことから電子回折は存在しないが、後焦点面に電子ビームが収束したとき、そこにできる散乱電子の角度分布パターン(電子回折に類似のパターンであるので以下簡単のため電子回折像と記述する。)に、試料が有する対掌性などの情報が含まれていることが知られている。しかしながら、PEEMには、従来、電子回折像(ディフラクトグラム)を取り出す機構や、電子回折像を操作することによって新しい情報を取り出す機構などは備えられていなかった。これは、従来から市販されているPEEM(例えば、非特許文献1(第1図)参照)に、試料の近傍に位置する高電圧下の後焦点面にコントラスト絞りを設置できず、トランスファーレンズの後方にコントラスト絞りを設置しなければならないという問題があったからである。また、このPEEMに高倍率の対物レンズを用いると、トランスファーレンズの位置におけるディフラクトグラムは大きく縮小されるため、トランスファーレンズの後方に設置するコントラスト絞りとして、対物レンズの倍率分だけ小さい絞りを用いなければならないという問題があったからである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】R.J. Nemanich et al., Appl. Surf. Sci., 146 (1999) 287-294
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、試料の実像だけでなく、電子回折像も観察することができる光電子顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る光電子顕微鏡は後述する構成を備える。より具体的には、本発明は、
(1)光源からの光を前方に配置されている試料に照射することにより前記試料から後方に向かって放出される光電子を対物レンズを介して結像させることで拡大像を得る光電子顕微鏡であって、
前記対物レンズは、前方から後方に向かって第1電極、第2電極、第3電極、および第4電極がこの順に配置されてなり、
前記第1〜第4の電極には前後方向に貫通する穴が形成されて、前記対物レンズは前方の前記試料の面から放出された前記光電子を当該穴を介して後方に通過させ、
前記第1の電極と前記第2の電極は、前記光源からの前記光が互いの電極間を通りつつ前記第1の電極の前記穴を介して前記試料に照射されるように設置されている光電子顕微鏡;
(2)前記試料に最も近く設置される電極において、前記試料から放出された光電子が通過する該電極の穴に近い部分が、少なくとも、前記光が照射される前記試料の面に対して平行に設置されている上記(1)に記載の光電子顕微鏡;
(3)前記光電子の進行方向に対して前記対物レンズの後方のアース電位の位置に対物絞りを備える上記(1)又は(2)に記載の光電子顕微鏡;
(4)前記対物絞りが可動絞りである上記(3)に記載の光電子顕微鏡;
(5)前記可動絞りが、前記光電子の進行方向に対して垂直な面で孔の位置を調整することができる上記(4)に記載の光電子顕微鏡;
(6)前記対物絞りが、前記光電子の進行方向に対して前後に移動可能である上記(3)〜(5)のいずれかに記載の光電子顕微鏡;
(7)前記対物レンズは、前記対物絞りの設置位置に該対物レンズの焦点面を合わせるための調節手段を有する上記(3)〜(6)のいずれかに記載の光電子顕微鏡;
(8)前記対物絞りの設置位置における電子回折パターンを検出する検出器と、前記電子回折パターンを前記検出器に拡大投影する中間レンズ及び投影レンズと、を備える上記(1)〜(7)のいずれかに記載の光電子顕微鏡;
(9)光電子顕微鏡が、分子又は物質のミクロレベル又はナノレベルでの鏡像異性関係を画像として観察可能なキラリティー(Chirality)光電子顕微鏡である上記(1)〜(8)のいずれかに記載の光電子顕微鏡;
(10)光電子顕微鏡が、磁性体の磁区構造を観察することができる光電子顕微鏡である上記(1)〜(9)のいずれかに記載の光電子顕微鏡などである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、試料の実像だけでなく、電子回折像も観察することができる光電子顕微鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態として説明する光電子顕微鏡100の概略構成を示す図である。図中における試料Sから検出器70への矢印は、光源からの光を試料Sに照射することにより試料から放出された電子ビームの方向、すなわち光軸方向を示す。
図2】本発明の一実施形態において、光電子顕微鏡100に用いる対物レンズ10aの概略構成の一例を示す図である。
図3】本発明の一実施形態において、図2に示すような4つの電極からなる対物レンズ10aの第4電極4aを試料Sの面から46mmの位置に設置した場合の、第3電極3a(V1-4)の電圧と対物絞り位置(対物焦点面)との関係を調べた結果を示す図である。
図4】本発明の一実施形態において、図2に示すような4つの電極からなる対物レンズ10aの第4電極4aを試料Sの面から46mmの位置に設置した場合の、第3電極3a(V1-4)の電圧と対物レンズ10aの倍率との関係を調べた結果を示す図である。
図5】本発明の一実施形態において、対物後焦点面上の電子回折パターンを中間レンズ40,50又は投影レンズ60によって検出器70上に投影するディフラクトモードに設定した場合のカメラ長とアインツェルレンズ(中間レンズ40,50又は投影レンズ60)の電圧との関係を調べた結果を示す図である。
図6】本発明の一実施形態において、光電子顕微鏡100に用いる対物レンズ10bの概略構成の一例を示す図である。
図7】本発明の一実施形態において、3つのコニカル型の電極からなる対物レンズ10bを用いた場合の電子の軸上軌道(中段の図)及び軸外軌道(下段の図)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態として説明する光電子顕微鏡の概略構成を示す図である。光電子顕微鏡100は、光源からの光を試料Sに照射することにより試料Sから放出される光電子を加速電場によって加速し、光電子像をレンズによって拡大し、試料上で発生した光電子の強度分布を直接観察する電子顕微鏡である。前記光源からの光は、例えば、可視光、紫外線、X線、放射光などである。
【0012】
光電子顕微鏡100は、対物レンズ10、対物絞り(光電子顕微鏡では「コントラスト絞り」と呼ばれている。)20、二段偏向・スティグメータ30、中間レンズ40,50、投影レンズ60、検出器70などを備える。
【0013】
対物レンズ10は、加速電圧が印加される正の電極と、アース電極とを含む2以上の電極からなる。光電子顕微鏡100において試料Sが高電圧下に設置される場合には、試料Sから最も遠くに設置される対物レンズ10の電極はアース電位を有する。このような対物レンズ10の一例として、4つの電極からなる対物レンズ10aの概略構成を図2に示す。対物レンズ10aは、第1電極1a、第2電極2a、第3電極3a、第4電極4aなどの電極を備える。対物レンズ10aにおける4つの電極は、第1電極1a、第2電極2a、第3電極3a、第4電極4aの順で、試料Sから近い位置に設置されており、試料Sから最も遠くに設置される第4電極4aはアース電位を有する。
【0014】
対物レンズ10aの各電極は、試料Sに照射される光源からの光が第1電極1aと第2電極2aとの間を通り、光が照射されることにより試料Sから放出された光電子が各電極1a,2a,3a,4aの穴を通るように設置されている。本実施の形態においては、第1電極1aの穴の径は、第2電極2aの穴の径より大きく設定されている(より具体的には、第1電極1aの穴の直径を、第2電極2aの穴の直径の3倍より大きく設定している。)。また、第1電極1aは平面平板状であって、その平面が試料Sの面(光が照射される面)に対して平行に設置されている。さらに、対物レンズ10aの第4電極4aは試料Sの面から46mmの位置に設置されている。このような対物レンズ10aを光電子顕微鏡100に設置し、対物レンズ10aの第3電極3aに2kV〜10kVの加速電圧を印加させた場合の対物絞り位置(対物焦点面)を調べた結果を図3に示す。図3に示すように、2kV〜10kVの電圧を第3電極3aに印加させた場合には、対物絞り位置が試料Sの面から46mmよりも離れていた。このことから、光源からの光を2つの電極間を通るように電極を配置した対物レンズ10aを光電子顕微鏡100に設けることにより、アース電位となる対物レンズ10aの後焦点面付近に対物絞り20を設置できることが示された。また、図3から、対物レンズ10aの1つの電極(本実施例では第3電極3a)の電圧調節により、光軸方向で対物絞り20の設置位置を正しく調節できることが示されたので、対物レンズ10aの電極の電圧調節によって電子回折像の形成に不要な電子ビームを排除することができ、もって高いコントラストで正しい像を得ることが可能となる。従って、対物レンズ10aを光電子顕微鏡100に設けることにより、試料の実像だけでなく、対物レンズ10aの後焦点面にできる電子回折像も観察することができるようになる。これにより、物質表面や触媒、分子、粉末などの形態や化学構造などを観察・分析できるだけでなく、キラリティー(Chirality)を有する微小な物質の対掌性や磁性体、強誘電体などの磁区構造の観察も行うことが可能となる。
【0015】
また、図3及び図4に示すように、対物レンズ10aの第3電極3a(V1-4)における電圧を低くすると、対物絞り位置(対物焦点面)が試料Sの面から遠くなり、対物レンズ10aの倍率が低くなる。このことから、対物レンズ10aの後焦点面が試料Sの面から離れると、対物レンズ10aの倍率が低くなる傾向にあることがわかる。従って、対物レンズ10aを備えた光電子顕微鏡100は、対物レンズ10aの1つの電極の電圧調節により対物焦点面の位置を光軸方向に調整することができるので、対物焦点面に対物絞り20の位置を手動で調整できるようにした光電子顕微鏡100は、低倍率の試料の電子回折像も観察できるようになる。
【0016】
なお、本実施の形態においては、第1電極1aを平面平板状の構造とし、その平面が試料Sの面に対して平行に設置することとしているが、光電子が通過する第1電極1aの穴に近い部分を平面平板状の構造とし、該平面が試料Sの面に対して平行になるように第1電極1aを光電子顕微鏡100に設置し、低倍率でも試料を観察できるようにしてもよい。
【0017】
また、本実施の形態においては、試料Sに最も近く設置される2つの電極間(第1電極1aと第2電極2aとの間)を光源からの光が通るように対物レンズ10aの各電極を設けることとしているが、対物レンズ10が3以上の電極を有する場合には、光源からの光が別の電極間を通るように対物レンズ10の各電極を設置することとしてもよい。
【0018】
さらに、本実施の形態においては、対物レンズ10の後焦点面を対物絞り20の設置位置に細かく調節できるように、対物レンズ10aの第3電極3aに様々な大きさの電圧を印加できるような構成としているが、試料Sから最も遠くに設置される電極以外の電極に様々な大きさの電圧を印加できるような構成としてもよい。
【0019】
対物絞り20は、試料から放出され、対物レンズ10を通過した電子ビームの角度を制限(調整)し、像のコントラストを増大させるものである。対物絞り20には、光軸方向(Z方向)に対して垂直な面(XY平面)に1以上の孔が設けられている。対物絞り20は、1つの孔からなる固定絞りであってもよいが、異なる形状の孔を2以上有する可動絞り、孔の位置をXY平面で調整することができる可動絞り、これらを併用できる可動絞りであってもよい。また、対物絞り20は、光電子の進行方向、すなわち光軸(Z軸)方向に対して前後に移動可能な固定絞りあるいは可動絞りであってもよい。このような対物絞り20を、対物レンズ10を備える光電子顕微鏡100に設けることにより、アース電位である対物レンズ10aの後焦点面に対物絞り20の位置を手動で調整することができるようになる。また、1以上の孔を有し、孔の位置をXY平面で調整することができ、かつ、光軸方向に対して前後に移動可能な可動絞りを光電子顕微鏡100に設けることにより、電子ビームの一部を絞りによって覆い隠すように孔の位置を調整して遮断し、孔を通過する残りの電子ビームによって作られる像、すなわち、キラリティー(Chirality)を有する微小な物質の鏡像異性関係(対掌性)を示す画像を観察することが可能となる。なお、対物絞り20が有する孔は、どのような形状であってもよく、例えば、長方形、正方形、平行四辺形、扇形などの形状を挙げることができる。
【0020】
二段偏向・スティグメータ30は、二段の、偏向器と非点補正器との兼用器であり、対物絞り20を通過した電子ビームを偏向し、これにより変化する非点収差を補正するものである。この二段偏向・スティグメータ30を光電子顕微鏡100に備えることにより、対物絞り20を通過した電子ビームが作る像の方向による焦点のずれを補正することができるようになる。
【0021】
中間レンズ40,50及び投影レンズ60は、対物レンズ10の後焦点面(対物絞り20の設置位置)上の電子回折像を拡大投影するものである。これらを光電子顕微鏡100に備えることにより、対物レンズ10の後焦点面(対物絞り20の設置位置)上にできる電子回折像を観察することができるようになる。なお、図1には示していないが、本実施の形態においては、光軸方向に対して中間レンズ40の上流部分の対物レンズ10によって作られる像面付近に視野制限絞りを設けることとしているが、視野制限絞りは設けていなくてもよい。上記のように視野制限絞りを光電子顕微鏡100に設けた場合には、特定の領域から得られた電子回折像を拡大投影することができるようになる。
【0022】
検出器70は、試料の実像と電子回折像を検出するものである。試料の実像の検出から電子回折像の検出への切り替えは、中間レンズ40,50および投影レンズ60の焦点を対物絞り20上に形成された電子回折像に合わせることで実現することができる。検出器70は、例えば、電子線強度を測定する半導体機器、マルチチャンネルプレート(MCP)と蛍光板とCCDとを含む機器、シンチレータと光電子増倍管とを含む機器などである。
【0023】
対物レンズ10aを備えた光電子顕微鏡100を用いて、対物レンズ10aの電圧を固定し、対物レンズ10aの後焦点面上の電子回折パターンを検出器70に投影するディフラクトグラム観察モードに設定して、中間レンズ40,50又は投影レンズ60への電圧の印加によりフォーカス合わせを行った場合の、カメラ長(試料から検出器との距離)と中間レンズ40,50又は投影レンズ60の電圧との関係を図5に示す。なお、本実施の形態においては、中間レンズ40,50として、3つの円筒電極からなる静電レンズ(アインツェルレンズ)を用い、投影レンズ60として、5つの電極からなるレンズを用いた。中間レンズ40,50への電圧の印加は、真ん中の第2電極に対して行った。投影レンズ60への電圧の印加は、電子ビームの入射側から2番目と4番目の第2電極と第4電極に対して行った。図5に示されている横軸のカメラ長は、中間レンズ40,50又は投影レンズ60によって得られる像の倍率に相当することから、各レンズ40,50,60に印加する電圧を調節することによりカメラ長(像の倍率)を約一桁変化させることができることが示された。また、検出器70上でのカメラ長から、試料から放出された電子ビームの角度を調べることができる。
【0024】
上述においては、試料を高電圧下に設置し、試料から最も遠くに設置される対物レンズ10の電極、中間レンズ40,50及び投影レンズ60の両側の電極がアース電位にある場合に有用な光電子顕微鏡100について説明したが、以下においては、試料をアース電位に設置し、レンズ系を高電圧下に設置する光電子顕微鏡100について説明する。
【0025】
図6は、試料をアース電位に設置し、レンズ系を高電圧下に設置する光電子顕微鏡100に用いる対物レンズ10の一例として、3つのコニカル型(円錐面形状)の電極からなる対物レンズ10bの概略構成を示す図である。対物レンズ10bは、電極1b,2b,3bから構成されている。試料から最も近くに設置される電極1bには高電圧(例えば、10kVあるいは15kVなど)の加速電圧が印加される。真ん中に設置されている電極2bは、フォーカス合わせに使用する電極で電圧の可変が可能となっている。試料から最も遠くに設置される電極3bには再び加速電圧が印加される。このような対物レンズ10bを用いた場合の電子軌道を図7に示す。中段の図において軸上軌道の交わった点の平面(XY平面)に電子回折像ができる。下段の図において、試料の中心から離れた位置から光軸に平行に放出された電子が光軸と交わる点がフォーカス位置であり、この位置、すなわち、試料Sから最も遠くに設置される電極の凹部(穴)に対物絞り20bが設置される。対物絞り20bは、3軸方向で電気的に操作することができる絞りである。対物絞り20bは、例えば、3次元(X,Y,Z軸)でステージを電気的に操作することができるピエゾ駆動3軸ステージなどに絞りが設置された装置である。このような対物絞り20bを用いることにより、高電圧領域にある対物絞り20bを光軸方向に位置調整が行えるだけでなく、対物絞り20bが有する1以上の孔の穴の位置合わせや、対物絞り20bが有する2以上の異なる形状の孔の穴の選択などを行うことができるようになる。なお、この場合には、電源などは、加速電圧の高電圧下に設置される。上述のように、図6に示すような対物レンズ10b及び対物絞り20bを光電子顕微鏡100に設けることにより、試料ハンドリングが可能となり、真空系内の試料室を覗くことができる既存の装置や、高温や低温その他試料処理装置などを光電子顕微鏡100に付加することができるようになる。
【符号の説明】
【0026】
S 試料
1a,1b 第1電極
2a,2b 第2電極
3a,3b 第3電極
4a 第4電極
10,10a,10b 対物レンズ
20,20b 対物絞り(コントラスト絞り)
30 二段偏向・スティグメータ
40,50 中間レンズ
60 投影レンズ
70 検出器
100 光電子顕微鏡
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7