特許第5690621号(P5690621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5690621発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、発泡粒子及び発泡成形体
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  • 特許5690621-発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、発泡粒子及び発泡成形体 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5690621
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、発泡粒子及び発泡成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/18 20060101AFI20150305BHJP
【FI】
   C08J9/18CET
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-56790(P2011-56790)
(22)【出願日】2011年3月15日
(65)【公開番号】特開2012-193243(P2012-193243A)
(43)【公開日】2012年10月11日
【審査請求日】2014年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】511068027
【氏名又は名称】株式会社積水化成品滋賀
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100145229
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】高野 雅之
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 峻
【審査官】 村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−053543(JP,A)
【文献】 特開2010−209146(JP,A)
【文献】 特開2006−176602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂粒子と、前記ポリスチレン系樹脂粒子内に存在する発泡剤と、前記ポリスチレン系樹脂粒子の表面に存在する融着促進剤及び粉末成分とを少なくとも含む発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であり、
前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が、0.5〜1.2mmの平均粒子径を有し、
前記粉末成分が、前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子100質量部に対して、0.008〜0.025質量部含まれ、
前記融着促進剤及び前記粉末成分が、2〜7.5:1(質量比)の割合で存在し、
前記粉末成分が、100μm以下の平均粒子径を有することを特徴とする発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項2】
前記融着促進剤が、前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子100質量部に対して、0.035〜0.075質量部含まれる請求項に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を発泡させて得られた発泡粒子。
【請求項4】
請求項に記載の発泡粒子を発泡成形させて得られた発泡成形体。
【請求項5】
粘着力700gf/25mm以下のラベルを貼着しうる請求項に記載の発泡成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、発泡粒子及び発泡成形体に関する。更に詳しくは、本発明は、低粘着力のラベルでも貼着可能な発泡成形体を与えうる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、それから得られた発泡粒子及び発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリスチレン系樹脂から構成される発泡成形体は、水産物や農産物の輸送容器、食品容器等として用いられてきた。このような発泡成形体は、意匠性を向上する、内容物を表示する等のために、その表面に模様を設けることが通常行われている。模様を設ける方法としては、模様を印刷したラベルを貼り付ける方法がある。
貼り付けられたラベルは、発泡成形体から剥離することがある。その場合、再度ラベルを押し付ける必要がある。そのため、ラベルの剥離が抑制された発泡成形体の提供が望まれている。
ラベルの剥離を抑制する方法として、特開平10−15977号公報(特許文献1)に記載の方法がある。この方法は、発泡成形体の外側表面に蒸気スリット跡を設けずに、発泡成形体の表面の平滑性を向上することで、ラベルの剥離を防止する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−15977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記公報に記載された方法では、上記スリット跡を発泡成形体に与えない構造の成形金型を新設する必要があること、発泡成形体の外観、融着性を向上させるためには高い熱量が必要となり、コスト的に不利であるという課題がある。
そのため、成形金型の新設が不要であり、コスト的に問題がなく、低粘着力のラベルの貼着が可能な発泡成形体及び、この発泡成形体を与えうる発泡性スチレン系樹脂粒子の提供が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者等は、発泡成形体の製造手順及び製造中に使用される添加剤について見直した。その結果、融着促進剤の使用量が多くなると、ラベルが剥離しやすくなることを見い出した。この融着促進剤は、発泡成形体を構成する発泡粒子の融着性を向上させる目的で使用されているため、その使用量を低減することは困難である。
そこで、本発明の発明者等は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の洗浄前に存在する粉末成分に着目した。この粉末成分は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造工程で生じており、主として微小なポリスチレン系樹脂や分散剤等から構成されていると発明者等は考えている。この粉末成分は、通常、不要な成分であると考えられていたため、洗浄によりできるだけ除去されるものである。しかしながら、粉末成分と融着促進剤とが特定の範囲で表面に存在する発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、低粘着力のラベルの貼着が可能な発泡成形体を与えうることを意外にも見出すことで、本発明に至った。
【0006】
かくして本発明によれば、ポリスチレン系樹脂粒子と、前記ポリスチレン系樹脂粒子内に存在する発泡剤と、前記ポリスチレン系樹脂粒子の表面に存在する融着促進剤及び粉末成分とを少なくとも含む発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であり、
前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が、0.5〜1.2mmの平均粒子径を有し、
前記粉末成分が、前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子100質量部に対して、0.008〜0.025質量部含まれ、
前記融着促進剤及び前記粉末成分が、2〜7.5:1(質量比)の割合で存在し、
前記粉末成分が、100μm以下の平均粒子径を有することを特徴とする発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が提供される。
【0007】
また、上記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を発泡して得られた発泡粒子が提供される。
更に、上記発泡粒子を発泡成形して得られた発泡成形体が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特別な金型を使用することなく、低粘着力(例えば、700gf/25mm以下)のラベルの貼着が可能であり、融着性に優れた発泡成形体、及びこの発泡成形体を与えることができ、予備発泡時のブロッキングが抑制された発泡性スチレン系樹脂粒子及び発泡粒子を提供できる。
また、粉末成分が、100μm以下の平均粒子径を有することで、より低粘着力のラベルの貼着が可能であり、融着性に優れた発泡成形体を与えうる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を提供できる。
更に、融着促進剤が、前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子100質量部に対して、0.035〜0.075質量部含まれることで、より低粘着力のラベルの貼着が可能であり、融着性に優れた発泡成形体を与えうる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1〜5と比較例1〜2の融着促進剤量/粉末成分量と、融着率×剥離防止率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(発泡性ポリスチレン系樹脂粒子)
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子(以下、発泡性粒子ともいう)は、発泡剤と、融着促進剤と、粉末成分とを少なくとも含む。
(1)ポリスチレン系樹脂
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、基材樹脂として、ポリスチレン系樹脂を含む。
ポリスチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、i−プロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン等のスチレン系モノマーの単独重合体又はこれらの共重合体等が挙げられる。
また、ポリスチレン系樹脂としては、スチレン系モノマーと、このスチレン系モノマーと共重合可能なビニルモノマーとの共重合体も挙げられる。
【0011】
上記スチレン系モノマーと共重合可能なビニルモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜8のアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレートの他、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレート等の二官能性モノマー、無水マレイン酸、N−ビニルカルバゾール等が挙げられる。
ポリスチレン系樹脂は、スチレン系モノマー由来の成分が主成分(50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは99.8質量%以上)を占めることが好ましい。更にポリスチレン系樹脂は、スチレン由来の成分を50質量%以上含有していることが好ましく、ポリスチレンのみからなることがより好ましい。
【0012】
更に、ポリスチレン系樹脂のスチレン換算重量平均分子量は、20万〜50万が好ましい。20万より小さいと、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を発泡させて得られる発泡成形体の機械的強度が低下することがある。一方、50万より大きいと、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の発泡性が低下し、高倍率の発泡成形体を得ることができないことがある。より好ましい分子量は、24万〜40万である。
【0013】
(2)発泡剤
発泡剤は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子内に存在している。
発泡剤としては、沸点がポリスチレン系樹脂の軟化点以下であり、常圧でガス状又は液状の有機化合物が適している。例えばプロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、シクロペンタン、シクロペンタジエン、ノルマルヘキサン、石油エーテル等の炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルエチルエーテル等の低沸点のエーテル化合物、HCFC−141b、HCFC−142b、HCFC−124、HFC−134a、HFC−152a等のハロゲン含有炭化水素、炭酸ガス、窒素、アンモニア等の無機ガス等が挙げられる。これらの発泡剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。この内、炭化水素を使用するのが、オゾン層の破壊を防止する観点、及び空気と速く置換し、発泡成形体の経時変化を抑制する観点で好ましい。炭素水素の内、沸点が−45〜40℃の炭化水素がより好ましく、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン等が更に好ましい。
発泡剤の使用量は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子100質量部に対して、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは2〜7質量部である。
【0014】
(3)融着促進剤
融着促進剤は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面に存在している。
融着促進剤としては、例えば、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、12−ヒドロキシステアリン酸アマイド、ステアリン酸アマイド等が挙げられる。
また、融着促進剤は、融着促進剤と粉末成分の比で表すと、2〜7.5:1(質量比)の割合で存在している。融着促進剤の比が2未満の場合、発泡成形体を構成する発泡粒子の融着が不十分となることがある。7.5より大きい場合、ラベルの接着性が低下し、剥離することがある。より好ましい融着促進剤と粉末成分の比は、2.5〜7:1である。
融着促進剤は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子100質量部に対して、0.035〜0.075質量部使用することが好ましい。使用量が0.035質量部を下回ると、十分な融着促進効果が得られないことがある。使用量が0.075質量部を超えるとラベルの接着性が低下し、剥離することがある。使用量は、0.04〜0.06質量部がより好ましい。
【0015】
(4)粉末成分
粉末成分は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面に存在している。
粉末成分は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造工程で生じており、主として微小なポリスチレン系樹脂や分散剤等から構成されていると発明者等は考えている。
粉末成分は、平均粒子径が100μm以下であることが好ましい。100μmより大きい場合、成形体の外観を悪化させることがある。より好ましい平均粒子径は、10〜50μmである。
【0016】
粉末成分は、通常、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子100質量部に対して、0.008〜0.025質量部程度含まれている。0.008質量部よりも粉末成分の含有量を低下させるには洗浄工程の回数が多く、生産時間が長くなるが、剥離防止効果の向上が見込めず好ましくない。0.025質量部を超えると、融着を阻害するため、融着促進剤が多く必要となり、結果的にラベル剥離が引き起こされることになるため好ましくない。より好ましい粉末成分の含有量は、0.01〜0.02質量部である。
【0017】
(5)他の成分
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、公知の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、ブロッキング防止剤、発泡助剤、難燃剤、難燃助剤、気泡調整剤、充填剤、滑剤、着色剤等が挙げられる。
ブロッキング防止剤としては、ステアリン酸亜鉛が挙げられる。ブロッキング防止剤は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子100質量部に対して、0.07〜0.15質量部含まれていることが好ましい。含有量が0.07質量部よりも少ないとブロッキング防止効果が十分でないことがある。0.15質量部よりも多いと、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子表面からブロッキング防止剤が脱落し、輸送配管内に付着することで、配管が閉塞することがあり、また成形時の融着が阻害されることがある。より好ましい含有量は、0.09〜0.12質量部である。
【0018】
発泡助剤としては、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、酢酸エチル、フタル酸ジオクチル、テトラクロロエチレン等が挙げられる。
難燃剤としては、例えば、テトラブロモシクロオクタン、ヘキサブロモシクロドデカン、トリスジブロモプロピルホスフェート、テトラブロモビスフェノールA等が挙げられる。
また、難燃助剤としては、例えば、ジクミルパーオキサイドのような有機過酸化物が挙げられる。
【0019】
(6)発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の形状
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の形状は、特に限定されず、球形、円筒状、不定形等のいずれの形状も取りえる。この内、成形型内への充填性を考慮すると、球形又は円筒状であることが好ましい。
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、0.5〜1.2mmの平均粒子径を有している。平均粒子径が0.5mmよりも小さいと発泡剤の保持性が悪く、所望の発泡倍数まで発泡できないことがある。平均粒子径が1.2mmよりも大きいと発泡粒子の粒子径が大きくなるため、成形型内への充填性が劣ることがある。より好ましい平均粒子径は、0.6〜1.0mmである。
【0020】
(7)発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、例えば、ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させ、所定の粉末成分量になるまで洗浄することにより得ることができる。
ポリスチレン系樹脂粒子は、公知の方法で製造されたものを用いることができる。例えば、
(1)押出機で溶融混練したポリスチレン系樹脂をストランド状に押し出し、ストランドをカットする方法、
(2)水性媒体、スチレン系単量体及び重合開始剤をオートクレーブ内に供給し、オートクレーブ内において加熱、攪拌しながらスチレン系単量体を懸濁重合させてポリスチレン系樹脂粒子を製造する懸濁重合法、
(3)水性媒体及びポリスチレン系樹脂の種粒子をオートクレーブ内に供給し、種粒子を水性媒体中に分散させた後、オートクレーブ内を加熱、攪拌しながらスチレン系単量体を連続的にあるいは断続的に供給して、種粒子にスチレン系単量体を吸収させつつ重合開始剤の存在下にて重合させてポリスチレン系樹脂粒子を製造するシード重合法等
により得られたポリスチレン系樹脂粒子が挙げられる。なお、種粒子は、上記(2)の懸濁重合法により得られた粒子を分級することで入手できる。
【0021】
上記懸濁重合法及びシード重合法において用いられる重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、イソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシ−3,3,5トリメチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレート等の有機過酸化物やアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。これらは単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0022】
水性媒体中にポリスチレン系樹脂粒子を分散させてなる水性懸濁液は、上記懸濁重合法又はシード重合法による重合後の反応液を水性懸濁液として用いても、あるいは、上記懸濁重合法又はシード重合法によって得られたポリスチレン系樹脂粒子を反応液から分離し、このポリスチレン系樹脂粒子を別途用意した水性媒体に懸濁させて水性懸濁液を形成してもよい。
水性媒体としては、特に限定されず、例えば、水、アルコール等が挙げられる。この内、水が好ましい。
【0023】
また、上記懸濁重合法又はシード重合法において、スチレン系モノマーを重合させる際に、スチレン系モノマーの液滴又はポリスチレン系樹脂種粒子の分散性を安定させるために懸濁安定剤を用いてもよい。このような懸濁安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子や、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難水溶性無機塩等が挙げられる。難水溶性無機塩を用いる場合には、アニオン界面活性剤が通常、併用される。
上記アニオン界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、オレイン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩、β−テトラヒドロキシナフタレンスルホン酸塩等が挙げられる。この内、アルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましい。
【0024】
懸濁重合法又はシード重合法によって得られたポリスチレン系樹脂粒子を別途用意した水性媒体に懸濁させて水性懸濁液を形成する場合にも、ポリスチレン系樹脂粒子の分散性を安定させるために、上述の懸濁安定剤やアニオン界面活性剤を水性媒体中に添加してもよい。
この際、難水溶性無機塩の水性媒体中への添加量は、水性媒体100質量部に対して0.2〜2質量部であることが好ましい。0.2質量部より少ないと、水性媒体中におけるポリスチレン系樹脂粒子の分散性が低下し、ポリスチレン系樹脂粒子が塊状になってしまうことがある。2質量部より多いと、ポリスチレン系樹脂粒子を分散させてなる水性媒体の粘性が上昇して、ポリスチレン系樹脂粒子を水性媒体中に均一に分散できないことがある。
【0025】
発泡剤のポリスチレン系樹脂粒子への含浸は、スチレン系モノマーの重合後の粒子に行ってもよく、成長途上粒子に行ってもよい。重合の途中での含浸は、水性媒体中で含浸させる方法(湿式含浸法)により行うことができる。重合後の含浸は、湿式含浸法か、又は媒体非存在下で含浸させる方法(乾式含浸法)により行うことができる。また、重合の途中での含浸は、通常重合後期に行うことが好ましい。
【0026】
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、発泡剤の含浸後に、所定の粉末成分量にするために、適宜洗浄される。ここで、製造工程中、分散安定剤に無機塩を使用している場合は塩酸等の強酸により、無機塩を水溶性の塩にして取り除くことが好ましい。
次に、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に融着促進剤を粒子表面に塗布することで、本発明の発泡性粒子が得られる。塗布する方法としては攪拌機中で融着促進剤とともに発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を攪拌するのが好ましい。攪拌機としてはタンブラーミキサー、レディゲミキサー等の攪拌機が用いられる。
【0027】
(発泡粒子)
発泡粒子は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を発泡させて得ることができる。食品容器用の発泡粒子は0.014〜0.033g/cm3の範囲の嵩密度を持つことが好ましい。嵩密度が0.033g/cm3を上回ると生産性が低下することがある。0.014g/cm3を下回ると、成形品強度が低下することがある。より好ましい嵩密度は、0.015〜0.025g/cm3の範囲である。
【0028】
(発泡成形体)
発泡成形体は、発泡粒子(予備発泡粒子)を多数の小孔を有する閉鎖金型内に充填し、再び加圧水蒸気等で加熱発泡させ、発泡粒子間の空隙を埋めると共に、発泡粒子を相互に融着させることにより一体化させることで製造できる。
得られた発泡成形体は、その表面が発泡性粒子の表面に由来するため、融着促進剤と粉末成分量が、発泡性粒子の量と等しい。そのため、粘着力700gf/25mm以下の低粘着性のラベルでも容易に貼着しうる。
発泡成形体は農産箱、水産箱といった食品容器や、資材運搬用容器等の広い用途に利用できる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例における各種測定法を下記する。
<平均粒子径>
平均粒子径とはD50で表現される値である。具体的には、ふるい目開き4.00mm、目開き3.35mm、目開き2.80mm、目開き2.36mm、目開き2.00mm、目開き1.70mm、目開き1.40mm、目開き1.18mm、目開き1.00mm、目開き0.85mm、目開き0.71mm、目開き0.60mm、目開き0.50mm、目開き0.425mm、目開き0.355mm、目開き0.300mm、目開き0.250mm、目開き0.212mm、目開き0.180mmのJIS標準ふるいで分級し、その結果から得られた累積質量分布曲線を元にして累積質量が50%となる粒子径(メディアン径)を平均粒子径と称する。
【0030】
<重量平均分子量>
重量平均分子量は、下記の要領で測定されたスチレン換算重量平均分子量をいう。
即ち、ポリスチレン系樹脂30mgをクロロホルム10ミリリットルで溶解する。得られた溶液を、非水系0.45μmのクロマトディスクで濾過した後、クロマトグラフを用いて平均分子量を下記条件にて測定する。
ガスクロマトグラフ:Water社製商品名「Detector 484,Pump 510」
カラム:昭和電工社製
商品名「Shodex GPC K−806L(φ8.0×300mm)」2本
カラム温度:40℃
キャリアーガス:クロロホルム
キャリアーガス流量:1.2ミリリットル/分
注入・ポンプ温度:室温
検出:UV254nm
注入量:50マイクロリットル
検量線用標準ポリスチレン:昭和電工社製商品名「shodex」重量平均分子量:1030000及び東ソー社製の重量平均分子量:5480000,3840000,355000,102000,37900,9100,2630,495のポリスチレン
【0031】
<粉末成分量>
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子分散液を1リットル計量する。分散液を側面に孔を設け、孔部に目開き0.18mmのナイロン網を取り付けたビーカーに供する。該ビーカーに攪拌機を取り付け、270rpmで攪拌する。攪拌下で濃度50ppmのアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液を注ぎいれることで、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に付着した粉末成分を分離し、液中に分散させる。ビーカーの流れ出口にポリカップを設置し、6リットルの粉末成分分散液を採取する。
ブフナー漏斗にガラス繊維ろ紙GA−200を敷き、粉末成分分散液を吸引ろ過する。ろ過した粉末をろ紙ごと45℃のオーブンで24時間乾燥させる。
また、ビーカーに残った粉末成分が分離された発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を乾燥させる。
粉末成分が分離された発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の質量をA、ガラスろ紙の質量をB、ガラスろ紙を含む乾燥後の粉末成分の質量をCとし、以下の式にて粉末成分量を測定する。
粉末成分量(質量部)=(C−B)/(A+C−B)×100
【0032】
<粉末成分の平均粒子径>
ベックマン・コールター社製Multisizer3に孔径400μmのアパチャーを取り付け、前記の粉末成分量の測定の際に得られた粉末成分を含むろ液を適量供給し、平均粒子径を測定する。
【0033】
<嵩密度>
予備発泡粒子の嵩倍数は、JIS K6911:1995年「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準拠して測定する。具体的は、まず、予備発泡粒子を測定試料としてWg採取し、この測定試料をメスシリンダー内に自然落下させる。メスシリンダー内に落下させた測定試料の体積Vcm3をJIS K6911に準拠した見掛け密度測定器を用いて測定する。Wg及びVcm3を下記式に代入することで、予備発泡粒子の嵩密度を算出する。
予備発泡粒子の嵩密度(g/cm3)=測定試料の質量(W)/測定試料の体積(V)
【0034】
<予備発泡粒子の結合量>
予備発泡粒子をW1g用意し、この予備発泡粒子を目開きが0.5cmの篩でふるい、篩上に残った予備発泡粒子の質量W2gを測定する。W1とW2を下記式に代入することにより得られた値を予備発泡粒子の結合度とする。なお、結合度が1質量%以下を「○」、1質量%を超えるものを「×」と評価する。
予備発泡粒子の結合度(質量%)=100×W2/W1
<発泡成形体の密度>
発泡成形体(成形後、40℃で20時間以上乾燥させたもの)から切り出した試験片(例75×300×35mm)の質量(a)と体積(b)をそれぞれ有効数字3桁以上になるように測定し、式(a)/(b)により発泡成形体の密度(kg/m3)を求める。
【0035】
<発泡成形体融着率>
発泡成形体の中心に沿ってカッターナイフで深さ約5mmの切り込み線を入れる。この後、この切り込み線に沿って発泡成形体を手で二分割する。その破断面における発泡粒子について、100〜150個の任意の範囲について粒子内で破断している粒子の数(a)と粒子同士の界面で破断している粒子の数(b)とを数える。結果を、式[(a)/((ア)+(b))]×100に代入して得られた値を融着率(%)とする。融着率80%以上を○、80%未満を×と評価する。
【0036】
<ラベル剥離評価>
発泡成形品側面に粘着力600gf/25mmのラベルを貼付する。貼付後、24時間放置する。その後、任意の発泡成形品100個に対して側面に貼られたテープに剥離が生じている発泡成形品の数(a)と剥離が生じていない発泡成形品の数(b)とを数える。結果を、式[(b)/((a)+(b))]×100に代入して得られた値を剥離防止率(%)とする。剥離防止率80%以上を○とし、80%未満を×として評価する。
【0037】
[実施例1]
(樹脂粒子の製造)
内容量100リットルの攪拌機付き重合容器に、水40000g、懸濁安定剤として第三リン酸カルシウム100g及びアニオン界面活性剤としてドデシルベンゼンスルフォン酸カルシウム2.0gを供給し攪拌しながらスチレンモノマー40000g並びに重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイド96.0g及びt−ブチルパーオキシベンゾエート28.0gを添加した上で90℃に昇温して重合した。そして、この温度で6時間保持し、更に、125℃に昇温してから2時間後に冷却してポリスチレン系樹脂粒子(a)を得た。
ポリスチレン系樹脂粒子(a)を篩分けし、種粒子として粒子径0.5〜0.71mmのポリスチレン系樹脂粒子(b)を得た。
次に、内容量100リットルの攪拌機付き重合容器内に、水40000g、ポリスチレン系樹脂粒子(b)10000g、懸濁安定剤としてピロリン酸マグネシウム120.0g及びアニオン界面活性剤としてドデシルベンゼンスルフォン酸カルシウム6.0gを供給して攪拌しながら75℃に昇温した。
【0038】
次に、重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイド110.0g及びt−ブチルパーオキシベンゾエート4.0gをスチレンモノマー2000gに溶解させたものを前記内容量100リットルの重合容器に供給してから、75℃で60分保持した。
60分経過後に反応液を110℃まで150分で昇温しつつ、且つスチレンモノマー28000gを150分で重合容器内にポンプで一定量ずつ供給した上で、120℃に昇温して2時間経過後に70℃まで冷却し、ポリスチレン系樹脂粒子(c)を得た(重量平均分子量30万)。
【0039】
(発泡剤含浸)
続いて、発泡助剤としてシクロヘキサン180.0gを重合容器内に入れて密閉し100℃に昇温した。次に、発泡剤としてn−ブタン3600gをポリスチレン系樹脂粒子(c)30000gが入った重合容器内に圧入して3時間保持した。この後、30℃以下まで冷却した上で重合容器内から取り出し、塩酸20mol/Lの塩酸300mlを添加し、攪拌した。次いで、目開き0.5mmの金網にて脱水し、再度水40リットルを注ぎいれ、攪拌した後、目開き0.5mmの金網にて脱水した。この注水から脱水までを洗浄工程とし、洗浄工程を3回実施し、付着粉末成分を0.015質量%とした。脱水し乾燥させた上で13℃の恒温室内に5日間放置して発泡性ポリスチレン系樹脂粒子(a)を得た。
続いて、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子(a)の表面にブロッキング防止剤としてステアリン酸亜鉛0.1質量%及び融着促進剤として12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド0.05質量%を被覆処理した。被覆処理により、付着粉末成分量0.015質量%かつ融着促進剤量0.05質量%の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子(b)を得た。
【0040】
(予備発泡)
次いで、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子(b)を予備発泡装置にて嵩密度0.017g/cm3に予備発泡させた後に20℃で24時間熟成して予備発泡粒子を得た。予備発泡粒子の結合量は0.40質量%と良好なものであった。
(発泡成形体の製造)
続いて、得られた予備発泡粒子を成形型のキャビティ内に入れ、成形機「ACE−30QS」(積水工機製作所社製)を用いて、予備発泡粒子を蒸気圧0.7kgf/cm2で17秒間加熱することで発泡成形体を得た。次に、成形型のキャビティ内の発泡成形体を5秒間水冷した後、減圧下にて放冷して横300mm×縦430mm×高さ130mm×厚み20mmの箱型の発泡成形体を取り出した。
得られた発泡成形体は収縮もなく、熱融着率90%と熱融着性の良好なものであった。
【0041】
(ラベル貼り付け工程)
続いて、発泡成形体を24時間自然乾燥させた後、ラベラー機(積水化学工業社製)を用い、長辺側へ横370mm×縦80mmの株式会社サトー製のOPSラベルを貼り付けた。剥離防止率を表1に示す。
【0042】
実施例2
融着促進剤量を0.07質量%にすること以外は実施例1と同様にして発泡成形体を得た。融着率及び剥離防止率を表1に示す。なお、予備発泡粒子の結合量は0.50質量%と良好なものであった。
実施例3
融着促進剤量を0.04質量%にすること以外は実施例1と同様にして発泡成形体を得た。融着率及び剥離防止率を表1に示す。なお、予備発泡粒子の結合量は0.40質量%と良好なものであった。
【0043】
実施例4
発泡剤含浸後の洗浄工程を2回とすることで粉末成分量を0.02質量%にすること以外は実施例1と同様にして発泡成形体を得た。結果を表1に示す。なお、予備発泡粒子の結合量は0.50質量%と良好なものであった。
実施例5
発泡剤含浸後の洗浄工程を5回とすることで粉末成分量を0.008質量%にすること以外は実施例1と同様にして発泡成形体を得た。融着率及び剥離防止率を表1に示す。なお、予備発泡粒子の結合量は0.50質量%と良好なものであった。
【0044】
比較例1
融着促進剤量を0.012質量%にすること以外は実施例1と同様にして発泡成形体を得た。融着率及び剥離防止率を表1に示す。なお、予備発泡粒子の結合量は0.80質量%と良好であった。
比較例2
発泡剤含浸後の洗浄工程を2回とすることで粉末成分量を0.02質量%にし、融着促進剤量を0.03質量%にすること以外は実施例1と同様にして発泡成形体を得た。融着率及び剥離防止率を表1に示す。なお、予備発泡粒子の結合量は0.40質量%であった。
【0045】
比較例3
発泡剤含浸後の洗浄工程を1回とすることで粉末成分量を0.044質量%にすること以外は実施例1と同様にして発泡成形体を得た。融着率及び剥離防止率を表1に示す。なお、予備発泡粒子の結合量は0.60質量%と良好であった。
比較例4
発泡剤含浸後の洗浄工程を1回とすることで粉末成分量を0.04質量%にし、融着促進剤量を0.015質量%にすること以外は実施例1と同様にして発泡成形体を得た。融着率及び剥離防止率を表1に示す。なお、予備発泡粒子の結合量は1.10質量%と結合の多いものであった。
【表1】
【0046】
更に、実施例1〜5及び比較例1〜2について、融着促進剤量/粉末成分量と、融着率×剥離防止率との関係を図1に示す。図1に比較例1及び2のみを示している理由は、融着促進剤量と粉末成分量が実施例1〜5と近接しているためである。また、融着率×剥離防止率の値が高いほうが、融着と剥離防止をより高い次元で両立できること意味している。
表1及び図1から、融着促進剤量と粉末成分量とが特定の範囲であれば、高い融着率及び高いラベル剥離防止率の発泡成形体を得られることがわかる。
図1