(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記陰極部材は、前記取付具が陰極として兼用され、前記陰極体が前記取付具同士を通電させており、少なくとも前記取付孔とその周辺部を除く外表面を被覆する陽極要素を備える、請求項6記載の構造物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、パネル状チタンプレートの上下の重合わせ部を重ね合わせた状態で、複合プレートの固定部両側端にアンカボルトを打ち込むことによって、取水路内壁面に複合プレートを固定すると同時に、隣り合うパネル状チタンプレート同士の通電性を確保しようとしている。しかしながら、特許文献1の技術では、パネル状チタンプレートの上部重合わせ部の端縁がフリーな状態で露出しているため、上部重合わせ部が捲れ易く、下部重合わせ部との間に隙間が生じ易い。したがって、特許文献1の技術では、上下の重ね合わせ部同士の面接触を適切に維持できず、陽極体の通電性を長期間に亘って安定的に維持できない恐れがある。特に、防汚パネル部材の軽量化や低コスト化などを考慮すると、パネル状チタンプレートの厚みを薄くすることが望まれるが、パネル状チタンプレートを薄くすると、その剛性が低下して上部重合わせ部がより捲れ易くなってしまう。また、上下の重ね合わせ部の間に隙間が生じると、その隙間からパネル状チタンプレートの裏面側に微生物が入り込み、その微生物を栄養素として海生生物の付着が進行してしまう恐れがある。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、防汚パネル部材、それを設置した構造物、陰極部材および防汚パネル部材の連結構造を提供することである。
【0006】
この発明の他の目的は、陽極体の通電性を長期間に亘って安定的に確保できる、防汚パネル部材、それを設置した構造物、陰極部材および防汚パネル部材の連結構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。なお、括弧内の参照符号および補足説明などは、本発明の理解を助けるために後述する実施の形態との対応関係を示したものであって、この発明を何ら限定するものではない。
【0008】
第1の発明は、海水と接する壁面に取り付けられて、海水の電気分解によって酸素を発生させて海生生物の付着を防止する防汚パネルを形成する、防汚パネル部材であって、絶縁材によって形成される基板、および基板に貼り付けられる陽極要素を備え、基板は、板状に形成される本体、本体の一方端に形成される第1嵌合部、および本体の他端に形成され、隣り合う第1嵌合部と嵌合される第2嵌合部を含み、陽極要素は、本体の表面側を覆い、かつ一方端は第1嵌合部を覆うまで延びると共に、他端は第2嵌合部を覆うまで延びるように基板に貼り付けられ、第1嵌合部と第2嵌合部とを嵌合させたときに、隣り合う陽極要素の端部と接触して通電可能に接続さ
れ、第1嵌合部と第2嵌合部とを嵌合させたときに、隣り合う本体表面の面位置が略同一となる、防汚パネル部材である。
第2の発明は、海水と接する壁面に取り付けられて、海水の電気分解によって酸素を発生させて海生生物の付着を防止する防汚パネルを形成する、防汚パネル部材であって、絶縁材によって形成される基板、および基板に貼り付けられる陽極要素を備え、基板は、板状に形成される本体、本体の一方端に形成される第1嵌合部、および本体の他端に形成され、隣り合う第1嵌合部と嵌合される第2嵌合部を含み、陽極要素は、本体の表面側を覆い、かつ一方端は第1嵌合部を覆うまで延びると共に、他端は第2嵌合部を覆うまで延びるように基板に貼り付けられ、第1嵌合部と第2嵌合部とを嵌合させたときに、隣り合う陽極要素の端部と接触して通電可能に接続され、第1嵌合部は、本体の一方端から突出する突出部分を備え、第2嵌合部は、突出部分を受け入れて嵌合する受け部分を備える、防汚パネル部材である。
【0009】
第1
および第2の発明では、防汚パネル部材(10)は、基板(20)および陽極要素(22)を備え、海水に接する構造物(102)の壁面に海生生物が付着することを防止する防汚システム(100)に用いられる。防汚パネル部材は、複数が連結されることによって防汚パネル(12)を形成する。基板は、合成樹脂などの絶縁性を有する材質によって形成され、板状に形成される本体(24)、本体の一方端に形成される第1嵌合部(26)、および本体の他端に形成される第2嵌合部(28)を含む。なお、この発明で言う「板状」とは、外表面が平滑なものに限定されず、外表面に多少の凹凸を有するものも含む概念で使用するものである。陽極要素は、たとえばチタン製のフィルムであり、本体の表面側を覆う。そして、陽極要素の一方端は、第1嵌合部を覆うまで延び、陽極要素の他端は、第2嵌合部を覆うまで延びるように基板に貼り付けられる。なお、陽極要素は、必ずしも第1嵌合部および第2嵌合部の全体を覆う必要はなく、第1嵌合部と第2嵌合部とを嵌合させたときに、陽極要素同士が接触して通電可能であれば、第1嵌合部および第2嵌合部の一部を覆う構成としてもよい。
また、第1の発明では、第1嵌合部と第2嵌合部とを嵌合させたときに、隣り合う本体表面の面位置が略同一となる。
さらに、第2の発明では、第1嵌合部は、本体の一方端から突出する突出部分を備え、第2嵌合部は、突出部分を受け入れて嵌合する受け部分を備える。
【0010】
防汚パネル部材同士を連結して構造物の壁面に設置するときには、第1嵌合部に対して隣り合う第2嵌合部を嵌合させると共に、アンカボルト等の固定具(34)を利用して防汚パネル部材を壁面に固定する。防汚パネル部材同士を連結すると、第1嵌合部の表面を覆う陽極要素と、第2嵌合部の裏面を覆う陽極要素とが接触し、隣り合う陽極要素同士が通電可能に接続される。この際、陽極要素が第1嵌合部および第2嵌合部を覆っており、陽極要素の端縁が海水中に露出しないので、陽極要素の捲れが防止される。また、隣り合う陽極要素の端部全体が基板(第1嵌合部および第2嵌合部)によって均等に押し付けられて接触する。
【0011】
第1
および第2の発明によれば、防汚パネルを形成したときに、陽極要素の端縁が露出せず、隣り合う陽極要素の端部全体が基板によって均等に押し付けられて接触する。したがって、陽極要素の捲れが防止され、陽極体の通電性を長期間に亘って安定的に確保できる。
【0012】
第
3の発明は、
海水と接する壁面に取り付けられて、海水の電気分解によって酸素を発生させて海生生物の付着を防止する防汚パネルを形成する、防汚パネル部材であって、絶縁材によって形成される基板、および基板に貼り付けられる陽極要素を備え、基板は、板状に形成される本体、本体の一方端に形成される第1嵌合部、および本体の他端に形成され、隣り合う第1嵌合部と嵌合される第2嵌合部を含み、陽極要素は、本体の表面側を覆い、かつ一方端は第1嵌合部を覆うまで延びると共に、他端は第2嵌合部を覆うまで延びるように基板に貼り付けられ、第1嵌合部と第2嵌合部とを嵌合させたときに、隣り合う陽極要素の端部と接触して通電可能に接続され、第1嵌合部および第2嵌合部のそれぞれには、第1嵌合部と第2嵌合部とを嵌合させたときに連通するように、固定具を取り付けるための貫通孔が形成される
、防汚パネル部材である。
【0013】
第
3の発明では、防汚パネル部材(10)の第1嵌合部(26)には、第1嵌合部およびそれに貼り付けられた陽極要素(22)を貫く貫通孔(30)が設けられる。また、第2嵌合部(28)には、第1嵌合部の貫通孔と対応する位置に、第2嵌合部およびそれに貼り付けられた陽極要素を貫く貫通孔(32)が設けられる。これら貫通孔は、第1嵌合部と第2嵌合部とを嵌合させて連結するときに連通し、そこにアンカボルト等の固定具(34)が取り付けられる。したがって、固定具の締付力が第1嵌合部および第2嵌合部に直接作用し、陽極要素の端部同士がより強固に接触する。
【0014】
第
3の発明によれば、固定具の締め付けによって陽極要素の端部同士がより強固に接触するので、陽極体の通電性をより長期間に亘って安定的に確保できる。
【0015】
第
4の発明は、
海水と接する壁面に取り付けられて、海水の電気分解によって酸素を発生させて海生生物の付着を防止する防汚パネルを形成する防汚パネル部材に対して、陰極体を設けた陰極具備型防汚パネル部材であって、防汚パネル部材は、絶縁材によって形成される基板、および基板に貼り付けられる陽極要素を備え、基板は、板状に形成される本体、本体の一方端に形成される第1嵌合部、および本体の他端に形成され、隣り合う第1嵌合部と嵌合される第2嵌合部を含み、陽極要素は、本体の表面側を覆い、かつ一方端は第1嵌合部を覆うまで延びると共に、他端は第2嵌合部を覆うまで延びるように基板に貼り付けられ、第1嵌合部と第2嵌合部とを嵌合させたときに、隣り合う陽極要素の端部と接触して通電可能に接続され、防汚パネル部材の本体に対して、
当該本体の一方端から他端に向かう方向と直交する方向である幅方向に延びる陰極体
を設けた、陰極具備型防汚パネル部材である。
【0016】
第
4の発明では、陰極具備型防汚パネル部材(110,120,130)の本体(24)には、
本体の一方端から他端に向かう方向と直交する方向である幅方向に延びる陰極体(80,92)が設けられる。陰極体は、たとえば、ステンレス鋼などの金属によって板状に形成され、本体内部に埋め込まれたり、本体表面に形成した溝部(90)に嵌め込まれたりする。このような陰極具備型防汚パネル部材は、防汚パネル部材(10)に対して所定間隔で連結される。
【0017】
第
4の発明によれば、防汚パネル部材と連結するだけで、幅方向に延びる陰極の設置を行うことができるので、施工がより簡素化されて作業効率が向上する。
【0018】
第
5の発明は、海水と接する壁面を有する構造物であって、第
1ないし第3のいずれかの発明の防汚パネル部材を連結するに際して、第
4の発明の陰極具備型防汚パネル部材を所定間隔で連結して形成した防汚パネルを壁面に設置した、構造物である。
【0019】
第
5の発明では、構造物(102)は、海水と接する壁面を有し、この壁面には、複数の防汚パネル部材(10)と陰極具備型防汚パネル部材(110,120,130)とを連結して形成される防汚パネル(12)が取り付けられる。たとえば、5枚の
防汚パネル部材に対して1枚の陰極具備型
防汚パネル部材が連結される。
【0020】
第
5の発明によれば、第1
ないし第4のいずれかの発明と同様の作用効果を奏し、壁面に対する海生生物の付着が防止される。
【0021】
第
6の発明は、海水と接する壁面を有する構造物であって、第
1ないし第3のいずれかの発明の防汚パネル部材同士を連結して壁面に設置すると共に、取付孔と陰極体とを備えた陰極部材を、所定間隔で防汚パネル部材の表面上に取付孔を用いて取付具によって固定した、構造物である。
【0022】
第
6の発明では、構造物(102)は、海水と接する壁面を有し、この壁面には、複数の防汚パネル部材(10)を連結して形成される防汚パネル(12)が取り付けられる。そして、防汚パネル部材(防汚パネル)の表面上には、取付孔(62,68)と陰極体(58)とを備えた陰極部材(54)が所定間隔で取り付けられる。たとえば、防汚パネル部材を壁面に固定するアンカボルト等の固定具(34)が取付具として利用され、取付孔を介して取付具を取り付けることによって、陰極部材が固定される。
【0023】
第
6の発明によれば、第
1ないし第3のいずれかの発明と同様の作用効果を奏し、壁面に対する海生生物の付着が防止される。
【0024】
第
7の発明は、第
6の発明に従属し、陰極部材は、取付具が陰極として兼用され、陰極体が取付具同士を通電させており、少なくとも取付孔とその周辺部を除く外表面を被覆する陽極要素を備える。
【0025】
第
7の発明では、陰極部材(54)の取付具(34)には、たとえば突起部(66)が形成され、取付具が陰極として用いられる。取付具同士は、たとえば長板状に形成される陰極体(58)によって通電される。また、陰極部材の外表面は、少なくとも取付孔とその周辺部を除いて、陽極要素(60)によって覆われる。このため、第2陰極部材の陽極要素は、パネル部材(10)の陽極要素(22)と接触して通電可能に接続され、陽極体(14)の一部となる。
【0026】
第
7の発明によれば、陰極部材の取付具が陰極として兼用され、陰極部材の外表面が陽極として機能するので、海水をより効率よく電気分解できるようになる。
【0027】
第
8の発明は、第
1ないし第3のいずれかの発明の防汚パネル部材の表面上に設けられる陰極部材であって、絶縁材によって板状に形成される基板、基板に設けられる陰極体、基板および陰極体を貫くように形成される取付孔、および少なくとも取付孔とその周辺部を除く基板の外表面を被覆する陽極要素を備える、陰極部材である。
【0028】
第
8の発明では、陰極部材(54)は、防汚パネル部材(10)の表面上に取り付けられて使用される。陰極部材は、絶縁材によって板状に形成される基板(56)を備え、基板には、陰極体(58)が設けられる。また、取付孔(62,68)が基板および陰極体を貫くように形成され、基板の外表面は、少なくとも取付孔とその周辺部を除いて、陽極要素(60)によって覆われる。すなわち、陰極部材の陽極要素は、基板の裏面側まで巻き込むように基板に貼り付けられる。このため、パネル部材の表面上に陰極部材を取り付けたときには、パネル部材(10)の陽極要素(22)と第2陰極部材の陽極要素とが接触して通電可能に接続され、第2陰極部材の陽極要素も陽極体(14)の一部となる。この際、陽極要素が基板の裏面側まで巻き込まれており、陽極要素の端縁が海水中に露出しないので、陽極要素の捲れが防止される。
【0029】
第
8の発明によれば、陰極部材の外表面が陽極として機能するので、海水をより効率よく電気分解できるようになる。また、陽極要素の捲れが防止されるので、陽極体の通電性を長期間に亘って安定的に確保できる。
【0030】
第
9の発明は、海水と接する壁面に対して防汚パネル部材を連結して取り付けて、海生生物の付着を防止する防汚パネルを形成するための、防汚パネル部材の連結構造であって、一方の防汚パネル部材が有する絶縁性の基板の本体端部に形成される第1嵌合部、一方の防汚パネル部材の基板に貼り付けられ、本体表面側から第1嵌合部を覆うまで延びる第1陽極要素、他方の防汚パネル部材が有する絶縁性の基板の本体端部に形成され、第1嵌合部と嵌合される第2嵌合部、および他方の防汚パネル部材の基板に貼り付けられ、本体表面側から第2嵌合部を覆うまで延びて、第1陽極要素と接触する第2陽極要素を備える、防汚パネル部材の連結構造である。
【0031】
第
9の発明では、防汚パネル部材(10,110,120,130,140,150)を連結して防汚パネル(12)を形成する。防汚パネル部材のそれぞれは、合成樹脂などの絶縁性を有する素材によって形成される基板(20,142,152)、および基板に貼り付けられる陽極要素(22)を備えている。一方の防汚パネル部材には、基板の本体(24,144)端部に第1嵌合部(26,146)が形成され、第1陽極要素(22)が本体表面側から第1嵌合部を覆うまで延びるように貼り付けられる。また、他方の防汚パネル部材には、基板の本体(24,154)端部に第2嵌合部(26,156)が形成され、第2陽極要素(22)が本体表面側から第2嵌合部を覆うまで延びるように貼り付けられる。そして、第1嵌合部と第2嵌合部とが嵌合され、第1陽極要素と第2陽極要素とが接触する。すなわち、第
9の発明では、陽極要素が各嵌合部を覆っており、各陽極要素の端縁が海水中に露出しないので、陽極要素の捲れが防止される。また、隣り合う陽極要素(第1陽極要素および第2陽極要素)の端部全体が基板(第1嵌合部および第2嵌合部)によって均等に押し付けられて接触する。
【0032】
第
9の発明によれば、陽極要素の端縁が露出せず、隣り合う陽極要素の端部全体が基板によって均等に押し付けられて接触する。したがって、陽極要素の捲れが防止され、陽極体の通電性を長期間に亘って安定的に確保できる。
【0033】
第
10の発明は、第
9の発明に従属し、第1嵌合部と第2嵌合部とを連通する貫通孔、および貫通孔に挿通されて、防汚パネル部材を壁面に固定する固定具をさらに備える。
【0034】
第
10の発明では、第1嵌合部(26,146)と第2嵌合部(28,156)とを連通する貫通孔(30,32)が設けられ、その貫通孔に対して、防汚パネル部材(10,110,120,130,140,150)を構造物(102)の壁面に固定するためのアンカボルト等の固定具(34)が挿通される。したがって、固定具の締付力が第1嵌合部および第2嵌合部に直接作用し、陽極要素(22)の端部同士がより強固に接触する。
【0035】
第
10の発明によれば、固定具の締め付けによって陽極要素の端部同士がより強固に面接触するので、陽極体の通電性をより長期間に亘って安定的に確保できる。
【発明の効果】
【0036】
この発明によれば、防汚パネルを形成したときに、陽極要素の端縁が露出せず、隣り合う陽極要素の端部全体が基板によって均等に押し付けられて接触する。したがって、陽極要素の捲れが防止され、陽極体の通電性を長期間に亘って安定的に確保できる。
【0037】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う後述の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1−
図3を参照して、この発明の一実施例である防汚パネル部材(以下、単に「パネル部材」という。)10は、海水に接する構造物の壁面にイガイやフジツボ等の海生生物が付着することを防止する防汚システム100に用いられる。この実施例では、防汚システム100(パネル部材10)をコンクリート製ボックスカルバート型の海水路102に適用した例を示す。
【0040】
防汚システム100では、海水路102の底面、側面および天面のそれぞれに対して、複数のパネル部材10を連結して構成される防汚パネル12が取り付けられる。そして、防汚パネル12の表面に形成される陽極体14に対して、外部に設置された直流電源装置16の正極を接続して微弱電気を流すことによって、海水を電気分解して酸素を発生させる。発生した酸素は、バクテリアの栄養素となる有機物を分解するので、防汚システム100では、バクテリアの繁殖を抑制でき、バクテリアの繁殖によるスライム層の形成、それに伴う藻類の付着および海生生物の付着を防止できる。
【0041】
先ず、
図4および
図5を参照して、パネル部材10の構成について説明する。
図4および
図5に示すように、パネル部材10は、基板20およびそれに貼り付けられる陽極要素22を備え、たとえば海水路102の管軸方向(流水方向)に連結されて防汚パネル12を形成する。また、陽極要素22同士が通電可能に接続されることにより、陽極体14を形成する。基本的には、海水路102の底面、側面および天面のそれぞれには、管軸方向に1列に連結されたパネル部材10が設置されるが、海水路102が大きい場合には、パネル部材10を幅方向にも連結して設置することもできる。
【0042】
この実施例では、パネル部材10の連結方向の長さは、800mmであり、幅方向の長さは、2000mmである。このパネル部材10の大きさは、海水路102の使用中、つまり海水中での防汚工事が求められ、施工スピードの向上が求められるところ、施工作業に支障をきたさない範囲での最大の大きさに設定したものである。すなわち、連結方向の長さは、点検用マンホール(標準は900φ)からの搬入が可能な最大長さとしたものである。また、幅方向の長さは、作業性実験を行った結果、作業者(ダイバー)が支障なく水中運搬できる最大長さとしたものである。
【0043】
基板20は、絶縁性を有する材質、たとえば塩化ビニル樹脂やポリオレフィン樹脂等の合成樹脂によって形成される。基板20は、矩形の平板状に形成される本体24を含む。本体24の連結方向の一方端下部には、第1嵌合部26が形成される。また、本体の24の連結方向の他端上部には、第2嵌合部28が形成される。第1嵌合部26および第2嵌合部28は、本体24の端部から突出する矩形の断面形状を有し、本体24の幅方向の全長に亘って形成される。この実施例では、本体24の厚みは、10mmである。また、第1嵌合部26および第2嵌合部28の厚みは、4.7mmであり、その突出長さは、19.7mmである。なお、基板20を発泡性合成樹脂によって形成したり、基板20内部に中空部を形成したりすることによって、パネル部材10の軽量化を図ることもできる。
【0044】
このような基板20の表面側には、エポキシ樹脂などを主成分とする絶縁性の接着剤を用いて陽極要素22が貼り付けられる。陽極要素22は、チタンによって薄膜状に形成されるシート、フィルム或いは板であって、その厚みは、たとえば0.3mmである。具体的には、陽極要素22は、本体24の表面全体を覆い、かつその一方端は第1嵌合部26の表面側まで延びると共に、他端は第2嵌合部28の裏面側まで延びるように基板20に貼り付けられる。つまり、陽極要素22は、基板20の表面側全体を覆うだけでなく、第2嵌合部28の裏面側まで巻き込むように基板20に貼り付けられる。なお、陽極要素22は、必ずしも第1嵌合部26の表面側全体および第2嵌合部28の裏面側全体を覆う必要はなく、第1嵌合部26と第2嵌合部28とを嵌合させたときに、陽極要素22同士が接触して通電可能であり、端縁が海水中に露出しない構成であれば、第1嵌合部26および第2嵌合部28の一部を覆う構成としてもよい。
【0045】
なお、陽極要素22の表面は、白金や白金ルテニウム合金などの白金族金属の電気的触媒(図示せず)で被覆しておくことが好ましい。電気的触媒で陽極要素22の表面を被覆することによって、塩素の発生を抑制しながら、酸素を効率よく発生させることができる。
【0046】
また、パネル部材10には、第1嵌合部26およびそれに貼り付けられた陽極要素22を貫く複数(この実施例では2つ)の貫通孔30が幅方向に所定の間隔を隔てて設けられる。また、貫通孔30と対応する位置に、第2嵌合部28およびそれに貼り付けられた陽極要素22を貫く複数の貫通孔32が設けられる。貫通孔30,32は、パネル部材10を海水路102の壁面にアンカ止めする際に利用されるものであり、パネル部材10同士を連結する際、隣り合う第1嵌合部26および第2嵌合部28を嵌合させたときに、互いに連通するように形成される。ただし、貫通孔30,32は、施工時に穿孔されてもよく、また、取付強度が不足するようであれば追加穿孔されてもよい。
【0047】
図6に示すように、パネル部材10同士を連結して海水路102の壁面に設置するときには、第1嵌合部26の上に隣り合う第2嵌合部28を重ね合わせるようにして嵌合させる。そして、各貫通孔30,32にアンカボルト(固定具)34を挿通して、海水路102の壁面にパネル部材10をアンカ止めする。このとき、第1嵌合部26の表面を覆う陽極要素22と、第2嵌合部28の裏面を覆う陽極要素22とが面接触し、隣り合う陽極要素22同士が通電可能に接続される。
【0048】
このように、パネル部材10同士を連結して海水路102にアンカ止めするだけで、隣り合う陽極要素22同士が通電可能に接続される。この際、陽極要素22の他端部が第2嵌合部28に巻き込まれており、陽極要素22の端縁が海水中に露出しないので、陽極要素22(延いては陽極体14)の捲れが防止される。また、アンカボルト34の締付力が作用することにより、隣り合う陽極要素22の端部全体が基板20(第1嵌合部26および第2嵌合部28)によって均等に押し付けられて面接触する。したがって、陽極体14の通電性を長期間に亘って安定的に確保できる。
【0049】
図2および
図3に戻って、防汚システム100では、複数のパネル部材10を連結して構成される防汚パネル12の端部(4辺)のそれぞれに、第1陰極部材36が設けられる。第1陰極部材36は、レール形状を有し、海水を電気分解する際の陰極として機能すると共に、海水路102の壁面からの防汚パネル12の脱落や剥離を防止するための端部固定部材としても機能する。
【0050】
具体的には、
図7および
図8に示すように、第1陰極部材36は、ステンレス鋼などの金属によって形成されるレール部38および固定部40を含む。レール部38は、第1片42および第2片44を有し、第1片42は、長尺の矩形平板状に形成されて、防汚パネル12の端面に沿うように延びる。また、第2片44は、第1片42の一方端から直角に突出する長尺の矩形平板状に形成され、防汚パネル12の表面に沿うように延びる。つまり、レール部38は、第1片42と第2片44とによって断面L字状に形成され、その内面側と海水路102の壁面とで形成される溝部分に防汚パネル12の端部が嵌め込まれる。レール部38の長手方向の長さは、たとえば2000mmであり、第1片42および第2片44の厚みは、たとえば3mmである。
【0051】
固定部40は、第1片42の他端から第2片44と反対方向に突出する矩形板状に形成され、レール部38の長手方向に対して所定間隔ごとに形成される。固定部40の中央には、アンカ止めに利用される貫通孔46が形成される。
【0052】
また、レール部38の内面側には、陽極体14とレール部38とを絶縁するためのゴムライニング等の絶縁体48が設けられる。絶縁体48は、レール部38の内面全体を覆うと共に、その端部はレール部38の外面上部まで延びて外面側に折り返される。さらに、第1片42の外面側にも、ゴムライニング等の絶縁体50が設けられる。この絶縁体50は、レール部38の外面の海水と接する導電部分の表面積を調整し、海水をより効率よく電気分解できるようにする。また、レール部38と海水路102の他の壁面に設置された陽極体14と(たとえば側面のレール部38に対する天面の陽極体14)の短絡を防止する。絶縁体48,50の厚みは、たとえば3mmである。
【0053】
このような第1陰極部材36は、海水と接する導電部分、つまりレール部38の第2片44の外面側および固定部40が陰極として作用する。また、レール部38の内面に貼り付けた絶縁体48と海水路102の壁面とで形成される溝部分の幅は、防汚パネル12の厚み(たとえば10.3mm)より少し大きくなるように設定され、たとえば12mmである。また、その溝部分の高さは、たとえば25mmである。つまり、第1陰極部材36は、防汚パネル12の脱落や剥離を防止できる範囲内において、ある程度の自由度を有した状態で防汚パネル12を保持する。なお、隣り合う第1陰極部材36同士の導通は、ステンレス鋼などによって形成される平板状の導通体52を用いて、固定部46同士を連結することによって確保される(
図2参照)。
【0054】
また、防汚システム100では、防汚パネル12の表面側に対して、幅方向に延びる複数の第2陰極部材54が設けられる(
図2および
図3参照)。第2陰極部材54は、連結方向に対して所定間隔、たとえば5枚のパネル部材10に対して1枚程度の割合で設けられる。
【0055】
具体的には、
図9および
図10に示すように、第2陰極部材54は、基板56、陰極体58および陽極要素60を備える。基板56は、絶縁性を有する材質、たとえば塩化ビニル樹脂やポリオレフィン樹脂等の合成樹脂によって、長尺の矩形平板状に形成される。基板56の長さは、たとえば2000mmであり、その幅(連結方向の長さ)は、たとえば70mmであり、その厚みは、たとえば10mmである。基板56の内部には、陰極体58が埋め込まれる。陰極体58は、ステンレス鋼などの金属によって長尺の矩形平板状に形成され、基板56の長手方向の全長に亘って延びる。陰極体58の幅は、たとえば30mmであり、その厚みは、たとえば3mmである。
【0056】
基板56の表面側には、パネル部材10と同様の陽極要素60が貼り付けられる。具体的には、陽極要素60は、基板56の表面全体を覆い、かつその両端部が基板56の裏面側端部まで延びるように、つまり基板56の裏面側端部まで巻き込むように基板56に貼り付けられる。
【0057】
また、第2陰極部材54には、パネル部材10の貫通孔30,32に対応する位置に、基板56、陰極体58および陽極要素60を貫く取付孔62が形成される。この取付孔62は、防汚パネル12の表面側に第2陰極部材54を取り付けるために利用されるものである。この実施例では、
図3および
図11に示すように、防汚パネル12への第2陰極部材54の取り付けには、パネル部材10を連結して海水路の壁面に固定するためのアンカボルト34が利用される。なお、取付孔62は、陽極要素60とアンカボルト34との絶縁を確保できるように、陰極体58より上の部分において拡径される。また、パネル部材10の貫通孔30,32には、陽極体14とアンカボルト34とを絶縁するために、コア部材64が装着される。コア部材64は、合成樹脂やゴム等の絶縁性を有する材質によって形成され、円筒部およびその上端に形成される鍔部を備える。
【0058】
アンカボルト34を利用して、防汚パネル12に第2陰極部材54を取り付けると、パネル部材10の陽極要素22と第2陰極部材54の陽極要素60とが面接触して通電可能に接続され、第2陰極部材54の陽極要素60も陽極体14の一部となる。この際、陽極要素60の両端部が基板56の裏面側端部まで巻き込まれており、陽極要素60の端縁が海水中に露出しないので、陽極要素60の捲れが防止される。また、アンカボルト34の締付力が作用することにより、陽極要素60の両端部全体が基板56によって均等に押し付けられて面接触するので、陽極体14の通電性を長期間に亘って安定的に確保できる。なお、第2陰極部材54は、防汚パネル12の上に設置されるので、腐食などの不具合が生じた場合に交換が容易である。
【0059】
また、第2陰極部材54を固定するアンカボルト34の頭部には、突起部66が形成され、第2陰極部材54の表面から数cm程度突出するようにされる。この突起部66は、必ずしも形成される必要はないが、表面から突出した部分が陰極として作用することによって、海水をより効率よく電気分解できるようになる。
【0060】
図9および
図10に戻って、第2陰極部材54には、その長手方向両端部にも、基板56、陰極体58および陽極要素60を貫く取付孔68が形成される。この取付孔68は、防汚パネル12の表面側に第2陰極部材54を取り付けるために利用されると共に、第1陰極部材36のレール部38と第2陰極部材54の陰極体58とを導通させるために用いられる。たとえば、隣り合う第1陰極部材36同士を連結する導通体52に分岐部を形成し、その分岐部を第2陰極部材54の陰極体58と連結してアンカボルト34で固定するとよい(
図2参照)。
【0061】
なお、第2陰極部材54の取付孔68と対応する位置には、パネル部材10にも貫通孔が形成され、そのパネル部材10の貫通孔にも、陽極体14とアンカボルト34とを絶縁するためのコア部材64が装着される。また、取付孔68は、陽極要素60とアンカボルト34との絶縁を確保できると共に、導通体52を接続できるように、陰極体58より上の部分において拡径されて、長手方向端部側は切り欠かれる。
【0062】
なお、
図2および
図3では、第2陰極部材54をパネル部材10の連結部分(貫通孔30,32)に取り付ける態様を例示しているが、これに限定されず、第2陰極部材54は、パネル部材10の他の部分、たとえばパネル部材10の中央部分に取り付けることもできる。つまり、パネル部材10を壁面に固定する固定具であるアンカボルト34とは別の取付具を用いて、第2陰極部材54を防汚パネル12(パネル部材10)の表面上に取り付けることもできる。この場合の取付具は、少なくとも防汚パネル12に第2陰極部材54を固定できればよく、必ずしも海水路102の壁面に防汚パネル12および第2陰極部材54を固定するアンカボルトである必要はない。
【0063】
続いて、防汚システム100(パネル部材10)の海水路102への設置方法の一例について説明する。ここでは、海水路102の側面にパネル部材10を設置する場合を想定して説明するが、海水路102の天面および底面に対しても同様にパネル部材10を設置することができる。なお、海水路102へのパネル部材10の設置は、海水路102から海水を除去して行うようにしてもよいし、海水路102を使用中であって海水が除去できない場合は、海水中で行うようにしてもよい。
【0064】
図2および
図3を参照して、先ず、海水路102の側面に対し、下端(底面側)の第1陰極部材36を直線状に並べるようにして、アンカボルト34を用いて順次取り付ける。次に、点検用マンホール等からパネル部材10を順次搬入する。そして、先頭のパネル部材10を第1陰極部材36に支持させた状態(つまり、第1陰極部材36と海水路102の壁面とで形成される溝部分にパネル部材10の端部を嵌め込んで仮置きした状態)で、先頭のパネル部材10の第1嵌合部26に後続するパネル部材10の第2嵌合部28を重ね合わせ、各貫通孔30,32にアンカボルト34を挿通して、海水路102の壁面にパネル部材10を固定する(
図6参照)。その後、同様にして、パネル部材10を連結してアンカ止めしていくことによって、施工部分の全域に亘って防汚パネル12を形成していく。
【0065】
また、防汚パネル12を形成する際には、5枚のパネル部材10に対して1枚程度の割合で、パネル部材10同士を連結してアンカ止めすると同時に、第2陰極部材54もアンカ止めしていく(
図11参照)。
【0066】
施工部分の全域に亘って防汚パネル12が形成されると、防汚パネル12の上端(天面側)および連結方向両端にも第1陰極部材36を取り付ける。なお、連結方向両端に第1陰極部材36を取り付けるときには、先頭のパネル部材10の第2嵌合部28の下側および最後尾のパネル部材10の第1嵌合部16の上側の空間に対して、直方体状に形成されるスペーサ70を取り付けておくとよい。また、隣り合う第1陰極部材36同士、および隣り合う第1陰極部材36と第2陰極部材54とは、導通体52およびアンカボルト34を利用して通電可能に連結しておく。
【0067】
その後、防汚パネル12の表面に形成された陽極体14には、外部に設置された直流電源装置16の正極を接続し、第1陰極部材36には、直流電源装置16の負極を接続することによって、防汚システム100の海水路102への設置作業を終了する。
【0068】
この実施例によれば、陽極要素22の他端部が第2嵌合部28の裏面側まで巻き込まれており、陽極要素22の端縁が海水中に露出しないので、陽極要素22(延いては陽極体14)の捲れが防止される。また、アンカボルト34の締付力が作用することにより、隣り合う陽極要素22の端部全体が基板20によって均等に押し付けられて面接触する。したがって、陽極体14の通電性を長期間に亘って安定的に確保できる。
【0069】
また、この実施例によれば、パネル部材10の端部同士を重ね合わせるように嵌合させて海水路102にアンカ止めするだけで、隣り合う陽極要素22同士が通電可能に接続される。また、パネル部材10の大きさを、施工作業に支障をきたさない範囲での最大の大きさに設定している。したがって、壁面への取り付け作業が容易になり、施工スピードも向上するので、海水中での施工にも好適に用いることができ、コストダウンも図ることができる。
【0070】
さらに、単純な形状で標準化した1種類のパネル部材10を用いて防汚パネル12を形成するので、量産化によるコストダウンの効果が大きい。また、陽極要素22の捲れが防止され、陽極要素22(陽極体14)を薄型化することができるので、陽極要素22の薄型化によるコストダウンも図ることができる。
【0071】
なお、上述の防汚システム100では、防汚パネル12の上に第2陰極部材54を設けるようにしたが、パネル部材自体を第2陰極部材として機能させることもできる。つまり、陰極具備型の防汚パネル部材とすることもできる。以下、
図12−
図15を参照して、この発明の他の実施例であるパネル部材110の構成について説明する。
図12および
図13に示すように、パネル部材110は、
図9に示した第2陰極部材54と同様に、5枚のパネル部材10に対して1枚程度の割合で連結される。なお、パネル部材110は、簡単に言うと、
図4に示すパネル部材10の基板20の内部に陰極体を埋め込んだものであり、これ以外の部分に関しては、パネル部材10と基本的構成がほぼ同じであるので、共通する部分については同じ番号を付し、重複する説明は省略または簡略化する。後述する他の実施例である陰極具備型の防汚パネル部材120,130についても同様である。
【0072】
図14および
図15に示すように、パネル部材110は、陰極具備型の防汚パネル部材であって、基板20、陽極要素22、陰極体80を備える。基板20は、絶縁性を有する材質によって形成され、矩形の平板状に形成される本体24を含む。そして、本体24の連結方向の一方端下部には、第1嵌合部26が形成され、本体の24の連結方向の他端上部には、第2嵌合部28が形成される。第1嵌合部26および第2嵌合部28は、矩形の断面形状を有し、基板20の幅方向の全長に亘って形成される。陽極要素22は、本体24の表面全体を覆い、かつその一方端は第1嵌合部26の表面側まで延びると共に、他端は第2嵌合部28の裏面側まで延びるように基板20に貼り付けられる。また、第1嵌合部26および第2嵌合部28のそれぞれには、複数の貫通孔30,32が幅方向に所定の間隔を隔てて設けられる。
【0073】
そして、基板20の本体24内部には、陰極体80が埋め込まれる。陰極体80は、ステンレス鋼などの金属によって長尺の矩形平板状に形成され、基板20の幅方向の全長に亘って延びる。陰極体80の幅は、たとえば30mmであり、その厚みは、たとえば3mmである。また、パネル部材110には、陽極要素22、本体24および陰極体80を貫く取付孔82が形成される。この取付孔82は、パネル部材110の海水路102の壁面へのアンカ止めに利用されるものであり、陽極体14とアンカボルト34との絶縁を確保できるように、陰極体80より上の部分において拡径される(
図13参照)。なお、アンカボルト34の頭部には、突起部66が形成され、パネル部材110の表面から数cm程度突出するようにされる。この突起部66は、必ずしも形成される必要はないが、表面から突出した部分が陰極として作用することによって、海水をより効率よく電気分解できるようになる。
【0074】
さらに、パネル部材110の幅方向両端部にも、陽極要素22、本体24および陰極体80を貫く取付孔84が形成される。この取付孔84は、パネル部材110の海水路102の壁面へのアンカ止めに利用されると共に、第1陰極部材36のレール部38とパネル部材110の陰極体80との導通させるために用いられる。たとえば、隣り合う第1陰極部材36同士を連結する導通体52に分岐部を形成し、その分岐部をパネル部材110の陰極体80と連結してアンカボルト34で固定するとよい(
図12参照)。なお、取付孔84は、陽極要素22とアンカボルト34との絶縁を確保できると共に、導通体52を接続できるように、陰極体80より上の部分において拡径されて、幅方向端部は切り欠かれる。
【0075】
パネル部材110とパネル部材10とを連結して海水路102の壁面に設置するときには、パネル部材10同士を連結する場合と同様にすればよい。すなわち、第1嵌合部26の上に隣り合う第2嵌合部28を重ね合わせ、各貫通孔30,32にアンカボルト34を挿通して、海水路102の壁面にパネル部材10,110を固定するとよい。この場合にも、陽極要素22の他端部が第2嵌合部28に巻き込まれており、陽極要素22の端縁が海水中に露出しないので、陽極要素22(延いては陽極体14)の捲れが防止される。また、アンカボルト34の締付力が作用することにより、隣り合う陽極要素22の端部全体が基板20によって均等に押し付けられて面接触する。したがって、陽極体14の通電性を長期間に亘って安定的に確保できる。
【0076】
また、パネル部材110によれば、パネル部材10と連結するだけで、幅方向に延びる陰極の設置も行うことができるので、施工がより簡素化されて作業効率が向上する。また、形成した防汚パネル12(陽極体14)の表面をほぼ平滑に保つことができる。
【0077】
なお、パネル部材110の連結方向の長さは、特に限定されず、たとえば、パネル部材10と同じにすることもできるし、第2陰極部材54と同程度の長さにすることもできる。パネル部材110の連結方向の長さを短くすれば、陰極体80が腐食するなどの不具合が生じた場合に、パネル部材110の交換が容易となる。
【0078】
また、
図14に示すパネル部材110では、本体24内部に陰極体80を埋め込むと共に、アンカボルト34に突起部66を形成して陰極として作用させたが、これに限定されず、本体24の表面側に溝部90を形成し、その溝部90に嵌め込むようにして板状の陰極体92を設けることもできる。
【0079】
たとえば、
図16および
図17を参照して、この発明の他の実施例であるパネル部材120では、基板20の本体24の表面には、幅方向に延びる溝部90が形成される。陽極要素22は、溝部90内面を含む本体24の表面全体を覆い、かつその一方端は第1嵌合部26の表面側まで延びると共に、他端は第2嵌合部28の裏面側まで延びるように基板20に貼り付けられる。また、溝部90内面に貼り付けられた陽極要素22の上には、ゴムライニング等の絶縁体94が設けられ、その上からステンレス鋼などの金属によって長尺の矩形平板状に形成される陰極体92が設けられる。陰極体92は、絶縁性を有するビスまたはリベット等の固定具96を用いて基板20に固定され、その端部は、第1陰極部材36と連結される。
【0080】
このようなパネル部材120では、海水中に露出する陰極体92の表面部分が陰極として作用する。ただし、絶縁性を有する固定具96の代わりに、ステンレス鋼などの金属によって形成される導電性の固定具を用いて、陰極体92を基板20に固定してもよい。たとえば、導電性の固定具として、パネル部材120を海水路102の壁面に固定するアンカボルト36を利用して、アンカボルト36の頭部をそのまま、或いは頭部に突起部66を形成して、陰極として作用させてもよい。この場合には、絶縁性のコア部材64を用いたり、陽極要素22を大きめに切り取ったりする等して、導電性の固定具と陽極要素22との絶縁を確保する必要がある。
【0081】
また、たとえば、絶縁性の固定具96やアンカボルト36等を用いる代わりに、
図18に示すこの発明の他の実施例であるパネル部材130ように、溝部90をテーパ状に形成すると共に、陰極体92を断面台形状に形成することによって、板状の陰極体92を基板20に固定するようにしてもよい。このパネル部材130によれば、形成した防汚パネル12(陽極体14)の表面をほぼ平滑に保つことができる。
【0082】
なお、上述の各実施例(パネル部材10,110,120,130)では、第1嵌合部26および第2嵌合部28を矩形の断面形状を有するように形成したが、各嵌合部26,28の断面形状は、特に限定されず、台形状や三角形状に形成されてもよい。たとえば、
図19に示すように、端面に向かって肉厚となるように、第1嵌合部26の表面および第2嵌合部28の裏面を斜面状に形成してもよい。また、たとえば、
図20に示すように、第1嵌合部26および第2嵌合部28のそれぞれに、段差状の係止部98を形成することもできる。つまり、第1嵌合部26の表面および第2嵌合部28の裏面は、必ずしも設置する壁面に対して平行な面である必要はなく、壁面に対して斜め方向に延びる斜面や段差を有する面であってもよい。さらに、たとえば、
図21に示すように、第1嵌合部26および第2嵌合部28は、上下方向に重ね合わせるように嵌合させるだけでなく、断面溝状に形成した第2嵌合部28の溝部に第1嵌合部26を横方向から嵌め込むようにして嵌合させるようにしてもよい。
【0083】
図19および
図20に示す実施例によれば、第1嵌合部26と第2嵌合部28とを重ね合わせたときの連結方向のずれが防止されるので、パネル部材10の位置決めが容易となり、海水路102の壁面へのパネル部材10の設置作業が容易となる。また、
図21に示す実施例によれば、パネル部材10の厚み方向(表裏方向)のずれが防止されるので、パネル部材10の位置決めが容易となり、パネル部材10の設置作業が容易となる。
【0084】
なお、第1嵌合部26と第2嵌合部28とを嵌合させたときに、形成した防汚パネル12の表面側または裏面側に段差が生じるようになっても構わないが、海水の流れを阻害しないように、第2嵌合部28の表面と本体24の表面とは面一になるようにすることが好ましい。また、防汚パネル12と海水路102の壁面との間に隙間が生じないように、第1嵌合部26の裏面と本体24の裏面とは面一になるようにすることが好ましい。
【0085】
さらに、上述の各実施例では、第1嵌合部26および第2嵌合部28に貫通孔30,32を形成し、そこにアンカボルト36を取り付けることによってパネル部材10を固定するようにしたが、これに限定されない。たとえば、本体24の連結方向端部に貫通孔を形成して、その貫通孔にアンカボルト36を取り付けるようにしてもよい。ただし、アンカボルト34の締付力を第1嵌合部26および第2嵌合部28に直接作用させて、陽極要素22の端部同士をより強固に面接触させるためには、第1嵌合部26および第2嵌合部28にアンカボルト34を取り付ける方が好ましい。
【0086】
また、貫通孔30,32とは別に、パネル部材10の連結方向中央部などに貫通孔を形成し、この貫通孔を利用してパネル部材10を海水路102の壁面にアンカ止めするようにしてもよい。これによって、パネル部材10をより強固に海水路102の壁面に固定することができる。なお、このようにパネル部材10に別途形成した貫通孔を利用して、第2陰極部材54を取り付けてもよい。
【0087】
さらにまた、上述の各実施例では、第1嵌合部26および第2嵌合部28を本体24の幅方向の全長に亘って形成するようにしたが、これに限定されず、幅方向に部分的に形成することもできる。
【0088】
また、上述の各実施例では、隣り合う陽極要素22の端部同士を面接触させて通電可能に接続するようにしたが、海水路102から海水を除去して施工を実施できる場合には、陽極要素22の端部表面(つまり接触部分)に対して、通電性接着剤を塗布するようにしてもよい。これによって、隣り合う陽極要素22の端部同士は、より強固に接続され、腐食にも強くなるので、より長期に亘って確実に陽極体14の通電性を保つことができる。
【0089】
また、上述の各実施例では、陽極として作用する陽極要素22(陽極体14)の材質としてチタンを採用し、陰極として作用するアンカボルト34、第1陰極部材36のレール部38および陰極体58,80,92等の材質としてステンレス鋼を採用したが、海水を電気分解して酸素を発生できるならば、これらの材質は適宜変更しても構わない。ただし、腐食に対する耐性を有することが好ましい。なお、陰極にも電気が流れるため、一般構造用圧延鋼材(SS相当品)でも電気防食効果で腐食に対する耐性を期待できる。
【0090】
また、上述した防汚システム100では、防汚パネル12の4辺のそれぞれに、第1陰極部材36を設けると共に、連結方向の所定間隔ごとに第2陰極部材54や陰極具備型のパネル部材110,120,130を設けるようにしたが、これに限定されず、第1陰極部材36、第2陰極部材54および陰極具備型のパネル部材110,120,130等は、適宜省略することもできる。たとえば、防汚パネル12の施工長さが短いときには、第2陰極部材54および陰極具備型のパネル部材110,120,130等を設けずに、防汚パネル12の4辺のそれぞれに第1陰極部材36を設けるだけでもよいし、さらには防汚パネル12のいずれか1辺ないし3辺のみに第1陰極部材36を設けるだけでもよい。また、たとえば、連結方向の所定間隔ごとに第2陰極部材54や陰極具備型のパネル部材110,120,130等を設け、第1陰極部材36は、連結方向のみに設けることもできる。さらに、たとえば、第1陰極部材36を設けずに、連結方向の所定間隔ごとに第2陰極部材54や陰極具備型のパネル部材110,120,130等を設けて、これらを連結方向に延びる陰極用導電体によって接続することもできる。なお、防汚パネル12の連結方向端部に第1陰極部材36を設けない場合には、アンカボルト34等を用いて防汚パネル12の連結方向端部を固定するとよい。
【0091】
さらに、上述の防汚システム100では、海水路102の管軸方向(流水方向)にパネル部材10を連結して防汚パネル12を形成するようにしたが、海水路102の周方向にパネル部材10を連結することもできる。また、パネル部材10(防汚システム100)は、海水と接する壁面であればどこに適用してもよく、たとえば、上方が解放された溝型の海水路(開水路)に適用することもできるし、橋脚や海岸壁に適用することもできる。さらに、適用する壁面が湾曲面であれば、その曲率に対応した曲板状にパネル部材10を形成することもできる。
【0092】
さらにまた、上述の防汚システム100では、同一形状のパネル部材10を連結していくようにしたが、形状の異なるパネル部材を連結して防汚パネル12を形成することもできる。たとえば、
図22および
図23に示すように、形状の異なる2種類のパネル部材140およびパネル部材150を用い、これらパネル部材140,150を交互に連結することによって防汚パネル12を形成することもできる。以下、パネル部材140,150の構成について説明するが、上述したことと重複する説明は省略または簡略化する。
【0093】
パネル部材140は、基板142およびそれに貼り付けられる陽極要素22を備える。基板142は、絶縁性を有する材質によって形成され、矩形の平板状に形成される本体24を含む。そして、本体144の連結方向の両端下部のそれぞれには、第1嵌合部146が形成される。陽極要素22は、本体144の表面全体を覆い、かつその両端は第1嵌合部146の表面側まで延びる。
【0094】
一方、パネル部材150は、基板152およびそれに貼り付けられる陽極要素22を備える。基板152は、絶縁性を有する材質によって形成され、矩形の平板状に形成される本体154を含む。そして、本体154の連結方向の両端上部のそれぞれには、第2嵌合部156が形成される。陽極要素22は、本体154の表面全体を覆い、かつその両端は第2嵌合部156の裏面側まで延びる、つまり第2嵌合部156の裏面側まで巻き込むように基板152に貼り付けられる。
【0095】
パネル部材140とパネル部材150とを連結して海水路102の壁面に設置するときには、パネル部材140の第1嵌合部146の上に隣り合うパネル部材150の第2嵌合部156を重ね合わせ、上述の各実施例と同様に、アンカボルト(図示せず)等を利用して固定する。このとき、第1嵌合部146の表面を覆う陽極要素22と、第2嵌合部156の裏面を覆う陽極要素22とが面接触し、隣り合う陽極要素22同士が通電可能に接続される。なお、上述の各実施例と同様に、パネル部材140,150に対して陰極体80,92等を設けることもできるし、各嵌合部146,156の形状を変更することもできる。
【0096】
図22および
図23に示す実施例においても、防汚パネル12を形成したときに、陽極要素22の端縁が露出せず、隣り合う陽極要素22の端部全体が基板142,152によって均等に押し付けられて面接触する。したがって、陽極要素22の捲れが防止され、陽極体12の通電性を長期間に亘って安定的に確保できる。
【0097】
なお、上で挙げた寸法などの具体的数値はいずれも単なる一例であり、製品の仕様などの必要に応じて適宜変更可能である。