(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5690718
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】金属水素化物を用いた水素タンクの製造方法
(51)【国際特許分類】
F17C 11/00 20060101AFI20150305BHJP
【FI】
F17C11/00 C
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-508898(P2011-508898)
(86)(22)【出願日】2009年5月12日
(65)【公表番号】特表2011-521179(P2011-521179A)
(43)【公表日】2011年7月21日
(86)【国際出願番号】EP2009055728
(87)【国際公開番号】WO2009138406
(87)【国際公開日】20091119
【審査請求日】2012年4月27日
(31)【優先権主張番号】0853151
(32)【優先日】2008年5月15日
(33)【優先権主張国】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510225292
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジー アトミック エ オ ゼネルジー アルテルナティブ
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
(73)【特許権者】
【識別番号】509197324
【氏名又は名称】サントル ナショナル ド ラ ルシェルシュ シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ギリア,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ボツン,マキシム
(72)【発明者】
【氏名】ラトロシュ,ミッシェル
【審査官】
八木 誠
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭58−002201(JP,A)
【文献】
特開昭61−172000(JP,A)
【文献】
特開2002−156097(JP,A)
【文献】
特開2002−071098(JP,A)
【文献】
特開2002−146446(JP,A)
【文献】
特開2002−030360(JP,A)
【文献】
特開2007−270209(JP,A)
【文献】
特表2004−526659(JP,A)
【文献】
特開平09−316571(JP,A)
【文献】
特開平10−245653(JP,A)
【文献】
特開2001−257322(JP,A)
【文献】
特開平06−299272(JP,A)
【文献】
特開平06−108186(JP,A)
【文献】
特開2004−083966(JP,A)
【文献】
特開平09−209063(JP,A)
【文献】
特開2008−013375(JP,A)
【文献】
特開平09−199155(JP,A)
【文献】
特開2005−009549(JP,A)
【文献】
特開平09−236199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属水素化物粉末中に水素を吸蔵するための貯蔵タンクであって、壁(2,3,4,5)によって画定された複数の密閉基本セル(1)に分割された密閉筐体を備え、各基本セル(1)に金属水素化物粉末(6)を含有する貯蔵タンクを製造する方法において、
a)前記セル(1)を画定する壁の全てではなく、いくつかの壁によって空洞又は胞状セルを形成するように組み立てる工程、
b)金属水素化物を形成可能な材料の1以上の塊状ピース(7)であって、前記セル(1)中に自由空間(8)を残すような大きさの塊状ピース(7)を、前記空洞又は胞状セル内に配置する工程、
c)前記セル(1)を画定する最後の壁で前記セルを密閉するように組み立てる工程、
d)前記筐体の前記セル(1)の全てを製造するために必要な回数、工程a),b),c)を繰り返し、前記セルに水素を入出させるために各々の壁に1以上のオリフィスが設けられる工程、
e)筐体を密閉する工程、
f)前記筐体に水素を導入することにより、前記セル(1)の各々にある前記材料の塊状ピース(7)を前記金属水素化物粉末(6)に変化させる工程、
g)工程f)を必要に応じて繰り返す工程
を備え、
前記工程a)、b)及びc)を実行することにより各基本セル(1)を順々に製造することと、
前記工程b),c),d)及びe)が前記筐体中の保護雰囲気下で実行されることと、
前記塊状ピース(7)が、前記工程b)の前に、保護雰囲気下で機械加工を受けることとを特徴とする貯蔵タンクの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、
金属水素化物を形成可能な前記塊状ピース(7)が多面体形状を有することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法であって、
金属水素化物を形成可能な前記塊状ピース(7)が平行六面体形状を有することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法であって、
金属水素化物を形成可能な前記塊状ピース(7)が直方体形状を有することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法であって、
金属水素化物を形成可能な前記塊状ピース(7)が、各空洞に適合される寸法に大きなサイズの塊状インゴットであるブロックから切り取られることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法であって、
金属水素化物を形成可能な前記塊状ピース(7)が、各空洞に適合される寸法に大きなサイズの塊状インゴットであるブロックから保護雰囲気下で切り取られることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法であって、
前記機械加工が、粉砕、切り離し、切り取り、剥離、除去、充填、回転、ミリング、研磨、又はそれらの組合せであることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法であって、
金属水素化物を形成可能な材料が、
TiFe、LaNi5、Mm−Ni、Ti−Cr、CaNi5、Ti−Cr、Ti−Mn、Zr−Mn、Ti−Mn−V、Zr−Fe−Cr、Ti−Zr−V、Ti−Fe−Mn、Ti−Fe−Niのような、金属間化合物AB5、AB2、A2B、AB3、A2B7、A2B17;
V−Ti−Fe又はV−Ti−Cr等のバナジウム等のBCC構造を有する固溶体、Mg、Be、Ti、Zr、V、La、U、Y等の純金属、Mg−Ni、Mg−Cu等のマグネシウム合金等の金属合金;、及び、
上記に挙げられた材料のうち2種類以上の材料の混合物;から選択されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法であって、
前記セル各々の前記自由空間(8)が、前記セルの体積の少なくとも20%の割合を占めることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法であって、
前記セル各々の前記自由空間(8)が、前記セルの体積の20〜50%の割合を占めることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法であって、
前記セル各々の前記自由空間(8)が、前記セルの体積の20〜30%の割合を占めることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法であって、
前記金属水素化物粉末(6)が前記金属水素化物粉末(6)を収容する前記基本セル(1)の壁(2,3,4,5)の全てと接触することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法であって、
前記基本セル(1)の壁のすべてが熱交換器を形成することを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法であって、
さらに、水素の送入導管及び排出導管(9)を取り付ける工程と、伝熱流体を移送するための導管(10)を取り付ける工程とを備えることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属水素化物を用いて、水素を貯蔵するためのタンクの製造方法に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、金属水素化物粉末中に水素を吸蔵するための貯蔵タンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明の技術分野は、全般的には、水素を貯蔵するための技術分野、特に金属又は合金の固体水素化物として水素を吸蔵することができる金属又は合金を使用して、水素を貯蔵するための技術分野として定義される。
【0004】
石油価格の上昇及び石油備蓄の減少のため、ますます水素は重要な代替燃料となっている。
【0005】
実際に、水素はある程度無制限に利用することができる。水素は、石炭、天然ガス及び他の炭化水素から製造可能であるが、化石燃料を用いることなく、例えば再生可能エネルギー又は核エネルギーを用いる水の電気分解によっても製造可能である。
【0006】
水素はまた、低価格燃料であり、水素の経済的利益が石油単価の上昇に伴い増加する。
【0007】
水素はさらに、全ての化学燃料の中で単位重量当たりのエネルギー密度が最も高く、水素の燃焼主生成物が水であるので、特に公害を起こさない。
【0008】
しかしながら、水素の重大な欠点の一つは、特に車の駆動のために水素を使用している間、貯蔵することが難しいことである。
【0009】
伝統的に、水素は、加圧又は液化のためにかなりのエネルギー供給を要求する相当の高圧下で又は低温で液化されて、タンクに貯蔵されていた。
【0010】
高圧貯蔵又は低温貯蔵は、水素が極めて引火性が高いので、安全性に関して深刻な問題を引き起こす。従って、漏れを防止しなければならない。
【0011】
さらに、特定の金属及び合金が、これらの金属又は合金の固体水素化物状で、水素の可逆的な吸蔵及び放出を行うことができることが知られている。
【0012】
固体水素化物状での水素の吸蔵は、加圧タンク中での圧縮ガス状又は液状での貯蔵と比較すると、水素の吸蔵によりもたらされる体積貯蔵密度が高いため、非常に効率的である。
【0013】
また、固体水素化物状での水素の吸蔵は、タンク中での液状又はガス状での水素の貯蔵よりも安全性の問題を引き起こし難い。
【0014】
固体金属又は合金は、高体積密度で水素を吸収し、かつ特定の温度圧力状態の下で水素化物を生成することによって、大量の水素を吸蔵することができる。また、これらの状態を変化させることによって、水素を放出することができる。
【0015】
現在、金属水素化物を利用する水素貯蔵用のタンクや容器はすべて、容器中の水素吸蔵材料の配置、及びタンクや容器の一部である熱交換器の配置の観点から、同一の設計である。
【0016】
この水素吸蔵材料は、粉末のように見え、貯蔵操作のために要求される水素圧力に耐えることができるように設計された容器の中に投入される。
【0017】
最も実行性のあるタンクを目的として、粉末は、水素化反応の吸熱性(endothermicity)又は発熱性(exothermicity)に固有の熱交換を容易にするために、多かれ少なかれ複雑な形態の金属構造体にされる。
【0018】
実際に、金属粉末Mを検討すると、水素化物MHXを形成するために水素H2が金属マトリックスに入り込むとき、金属水素化物が形成される。
【0019】
水素の高速吸収を得ることを目的とする場合、温度上昇が水素の吸収を抑制するので、金属水素化物の形成により追い出さなければならない熱の放出が発生する。
【0020】
従って、水素化物の状態で水素を貯蔵するタンクは、熱交換を行うことを目的とする部分を含み、強制対流を伴うか否かによらず熱交換器を備える。
【0021】
この熱交換器の設計方法及び位置付け方法は、金属あるいは合金中での水素吸蔵の期間中、又は金属あるいは合金水素化物中での水素吸蔵の解除(離脱)期間中、吸収又は放出の反応速度に関して非常に重要である。
【0022】
次の化学式で示されるように、吸蔵期間中、発熱反応が起き、熱が放出される。吸蔵の解除(離脱)期間中、吸熱反応が起き、熱が金属又は合金水素化物に供給される必要がある。
【化1】
【0023】
このようなタンクの建設中、熱交換器の構造は、はじめに加圧タンクの内側に組み立てられ、次に吸蔵材料、すなわち金属又は合金が粉末として、1以上の充填オリフィスを介して複数のセルを備える熱交換器の構造中に導入される。充填は、粒状の自重流動によって達成される。粉末の流動は、本システムを振動状態に置くことで促進される。
【0024】
この技術は、粉末の流動の問題のために、制御することが難しい。
【0025】
さらに、充填レベル、すなわち充填される各セル中の材料の量が、かなりバラバラであり、制御するのはほとんど不可能である。
【0026】
さらに、取り扱い作業中の粉末は、周囲環境によって、酸化され、汚染される危険がかなり強い。
【0027】
非特許文献1は、ガスの圧力に耐える容器に挿入されたアルミニウムのフィン/チューブ型熱交換器を備えるタンクを示している。水素化物粉末は、重力によってフィンの間に確実に流し込まれる。粒状材料の技術分野の当業者には、この流し込みが完全に均一ではないことが知られている。
【0028】
非特許文献2は、放出制御用の加熱コイルと断熱体とを有する二重壁の筐体を備える水素貯蔵タンクであって、水素放出を制御するために、アンモニアが供給され、フィンを有する冷却チューブを備える水素貯蔵タンクに関する。
【0029】
タンクは、不特定の金属水素化物粉末で満たされている。
【0030】
このタンクの製造方法は、詳細に記載されていないが、上述のように明らかである。
【0031】
非特許文献3及び特許文献1(米国特許第6015041号明細書)は、熱交換器と、水及び水素の流体を収容できるシステムと、操作圧力に耐えるケーシングとを備える水素
化物タンクに関する。
【0032】
タンクの内部は、複数の区画に分割され、各区画は、例えば発泡アルミニウム等の材料中にマトリックス(間質)を含み、粉砕された金属水素化物の粒子が中に設置されるセルを形成する。
【0033】
このタンクの製造方法は、複雑であり、長時間を要し、かつ費用がかかる。
【0034】
非特許文献4は、熱交換器を備えるタンクに流入する水素化物粉末をもたらす2軸振動システムを示している。このシステムを使用する方法は、長時間を要し、かつ制御することが非常に困難である。水素化物粉末の充填は、不規則であり、タンク全体にわたって均一ではない。
【0035】
他の製造技術も存在する。この製造技術は、粉末を圧縮することによってタブレットを製造し、熱交換器のチューブにタブレットを集めることから構成される。粉末、例えばアラネート(alanate)粉末等を発泡アルミニウムの円筒体と共に同時に圧縮することもできる。
【0036】
従って、非特許文献5では、タンク中で、水素化物NaAlH4粉末が発泡アルミニウムと同時に圧縮されるタンクを示している。タブレットは、冷却及び水素吸気システムによって交差させられる。
【0037】
このタンクの製造方法も、複雑であり、長時間を要し、かつ費用がかかる。
【0038】
上述の記載から、簡易で、信頼性があり、制御可能で、再生可能で、使用し易く、操作し易い、金属水素化物粉末を使用する水素貯蔵タンクの製造方法で、限られた工程数を含み、かつ、高コストではない水素貯蔵タンクの製造方法に対する要求が存在するということがわかる。
【0039】
特に、通常タンク中に流し込まれる金属水素化物と、特定の、正確な、完全に規定されて不均一ではない充填レベルを得るために制御された充填レベルとを可能にする方法に対する要求が存在する。
【0040】
さらに、高い熱効率を有する、すなわち、水素化物が熱交換器の中に投入される複雑な熱交換器を含むタンクを得ることができる水素貯蔵タンクの製造方法に対する要求が存在する。
【0041】
製造方法の使用期間中、水素貯蔵タンク中の金属水素化物粉末の純度が維持される、金属水素化物粉末を有する水素貯蔵タンクの製造方法に対する要求も存在する。
【0042】
さらに、水素化物を活性化させ、かつ「デクレピテーション」(decrepitation)によって水素化物粉末を形成することの困難さがある。
【0043】
デクレピテーションは、水素化物自身を水素化物材料の高密度ピースに入れることによって、この高密度ピースを粉末状の多数の小ピースに崩壊することにより、水素が高密度ピースを粉末に粉砕する工程として当業者に公知である。粉末に粉砕されるピースの大きさにより、デクレピテーションは複数の水素化/脱水素化のサイクルを通してのみ達成される。
【0044】
ある特定回数のサイクルの後に−水素化反応を開始できたときからかなり減少した回数のサイクル、例えばセンチメートル単位のピースに対する5〜10サイクルの後に−これらの粉末の粒子の大きさは安定する。
【0045】
場合によっては、粉末ピース又は粒子の表面で汚染層が存在するために、この活性化を開始させることは非常に困難なことがある。
【0046】
複雑な方法が、特許文献2(フランス国特許第2894598号明細書)に示された方法のように、粉末の活性化のために使用される。
【0047】
特許文献2で記述された方法では、材料は、様々な加熱及び冷却速度で数回の熱サイクル、その熱サイクル中の水素下でのいくつかの熱サイクル、及び、水素化物の標準的な使用期間中に使用される温度間隔の外部に位置付けられる温度間隔の範囲内で、影響を受けやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0048】
【特許文献1】米国特許第6015041号明細書
【特許文献2】フランス国特許第2894598号明細書
【非特許文献】
【0049】
【非特許文献1】Daigoro Mori, Norihiko Haraikawa, ” High-pressure Metal Hydride Tank for Fuel Cell Vehicles ”, IPHE International Hydrogen Storage Technology Conference 19-22 June 2005, Lucca , Italy.
【非特許文献2】http://www.switch2hydrogen.com/
【非特許文献3】L. K. Heung,”On-board Hydrogen Storage for a city Transit Bus”, Westinghouse Savannah River Company, 1998.
【非特許文献4】D. Mosher, X. Tang, S. Arsenault, B. Laube, M. Cao, R. Brown and S. Saitta, ”High Density Hydrogen Storage System Demonstration Using NaAlH4 Complex Compound Hydrides”, United Technologies Research Center, East Hartford, Connecticut, Project ID STP 33, DOE Hydrogen program, Annual peer review, Arlington VA, May 16th, 2007.
【非特許文献5】High Density Hydrogen Storage System Demonstration Using NaAlH4 Complex Compound Hydrides D.L. Anton D.A. Mosher, UTRC, DOE Merit Review; Arlington, 2005.
【非特許文献6】G. Sandrock, ”A panoramic overview of hydrogen storage alloys from a gas reaction point of view”, Journal of Alloys and Compounds 293-295 (1999) 877-888.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0050】
本発明の目的は、上記の要求に特に適合する金属水素化物粉末中に水素を吸蔵するための貯蔵タンクの製造方法を提供することである。
【0051】
さらに、本発明の目的は、公知技術の方法の欠点、欠陥、制限及び不利な点を有さず、かつ、公知技術の問題を解決する、金属水素化物粉末中に水素を吸蔵するための貯蔵タンクの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0052】
本発明の目的及び他のさらなる目的は、以下の金属水素化物粉末中に水素を吸蔵するための貯蔵タンクの製造方法によって達成される。具体的には、金属水素化物粉末中に水素を吸蔵するための貯蔵タンクであって、壁によって画定された複数の密閉基本セルに分割された密閉筐体を備え、各基本セルに金属水素化物粉末を含有する貯蔵タンクを製造する方法において、
a)前記セル(1)を画定する壁の全てではなく、いくつかの壁によって空洞(open cavity)又は胞状セル(alveolar cell)を形成するように組み立てる工程、
b)金属水素化物を形成可能な材料の1以上の塊状(固体)ピースであって、前記セル中に自由空間を残すような大きさの塊状ピースを、前記空洞又は胞状セル内に配置する工程、
c)前記セルを画定する最後の壁で前記セルを密閉するように組み立てる工程、
d)前記筐体の前記セルの全てを製造するために必要な回数、工程a),b),c)を繰り返し
、前記セルに水素を入出させるために各々の壁に1以上のオリフィスが設けられる工程、
e)筐体を密閉する工程、
f)前記筐体に水素を導入することにより、前記セルの各々にある前記材料の塊状ピースを前記金属水素化物粉末に変化させる工程、
g)工程f)を必要に応じて繰り返す工程
を備え、
前記工程a)、b)及びc)を実行することにより各基本セル(1)を順々に製造することと、
前記工程b),c),d)及びe)が前記筐体中の保護雰囲気下で実行されることとを特徴とする貯蔵タンクの製造方法である。
【0053】
保護雰囲気は一般的に、非酸化性で湿度が無い雰囲気、例えば、アルゴン、窒素、又はこれらの混合物等のイナートガスの雰囲気を意味する。
【0054】
本発明の方法は基本的に、1以上の塊状(固体)ピースが、タンクの筐体の個々の基本セルの各々に配置されるという点で、従来技術の金属水素化物を有する水素貯蔵タンクの製造方法と異なる。1以上の塊状(固体)ピースとは、例えば、水素化により水素化物粉末に変化させ、又は直接ではないが金属水素化物粉末に変化させられる金属水素化物を形成可能な材料のピースである。
【0055】
本発明の塊状(固体)ピース、例えば、金属又は金属合金のインゴット等で、金属又は金属合金の水素化物粉末等ではない塊状(固体)ピースを使用することによって、タンクの製造及び取り付けが一般的に容易であり、タンクの製造及び取り付け時間が短縮化され、コストも低減される。
【0056】
実際に、塊状ピースは粉末よりもかなり扱い易く、さらに材料のロスも起きず、方法が実施される近くでの汚染が起きない。
【0057】
本発明の方法は、簡易で、信頼性があり、制御可能であり、かつ再生可能である。
【0058】
充填レベル、すなわち、各セル中に充填される材料の量は完全に制御下にあり、同じ状態がタンクの充填レベル全体に適用できる。
【0059】
タンクの充填は完全に、均一であり、均質であり、全体的にチェックされ、制御され、そして、従来技術の方法のようにランダムではない。
【0060】
さらに、得られた最終的なタンクは、本製造方法のために、より優れた熱効率を獲得することに対して適応でき、使用することが非常に容易である。
【0061】
本発明の方法の他の大きな利点は、本方法が、酸化に非常に敏感である水素化物粉末の取り扱い操作、及び/又は、粒子の表面が水により汚染するのを回避するという点である。
【0062】
提案した方法が繊細な粉末の取り扱い操作を回避するということに加えて、本方法により粉末の各粒子の表面をきれいにすることは不可能であるが、(水素化の開始を可能にするために)塊状ピースの表面をきれいにすることが非常に容易であるという利点も有する。
【0063】
実際、粉末は常に、同じ大きさの固体よりも非常に大きな特定の表面領域を有し、従って、粒子の表面汚染に極めて敏感である。汚染された粉末により、吸蔵可能性及び吸収速度がかなり低減、又はもっと言えば無くなるということが分かる。塊状の材料、例えばインゴット等は、非常に小さな特定の表面領域を有し、従って、取り扱い操作中、保護雰囲気の汚染にあまり敏感ではなく、きれいにすることが非常に容易である。
【0064】
さらに、セルに配置された材料は、粉末状である水素化物よりも酸化にあまり敏感ではない、金属又は金属合金である。
【0065】
従って、本方法に用いられる材料の(塊状で非粉末状の)形態と、その特徴(金属又は金属合金であり、金属水素化物ではないこと)とが、本発明の方法における有利な点である。
【0066】
本発明の方法は、金属水素化物中に水素を吸蔵するためのタンクの組立、製造及び使用を容易にするために、金属水素化物を形成する材料の特質の一つを作り上げる。
【0067】
実際、金属水素化物粉末を、塊状金属又は金属合金のデクレピテーションによって得ることができる(また、塊状材料の破壊によって金属水素化物粉末を得ることができるが、本明細書においては、これには関わらない)。
【0068】
既に上述したデクレピテーションは、水素原子を金属の結晶格子又は金属合金の結晶格子に挿入することにより、材料固有の隆起の影響下で、数回の水素化サイクルで、インゴット状の、金属又は合金のいずれかの金属材料が小さな粒子に破壊される現象である。金属又は金属合金の水素化物粉末はこの粒子に由来し、粒子の大きさは一般的に約2〜3μmである。
【0069】
概略、本発明の方法は、塊状ピースと呼ばれる塊状要素を、粉末よりもむしろ水素タンクのセルに直接導入することから構成される。
【0070】
これらのセルの壁は一般的に、材料への伝熱又は材料から除熱のために、熱交換器を形成する。
【0071】
塊状ピースは、粉末への変形に伴う固有の体積変化のために要求される空間を有する空洞に導入される。その目的は、材料が粉末に変わると、熱効率を最適化するという効果を有する各セルの壁全てと接触することが好ましく、壁が変形せず、部分的な修正が加えられず、押し返さないということである。
【0072】
金属水素化物を形成可能な材料の塊状ピースが多面体形状を有してもよい。
【0073】
金属水素化物を形成可能な材料の塊状ピースが好ましくは平行六面体形状、さらに好ましくはセルに対応する寸法の直方体形状を有してもよい。
【0074】
金属水素化物を形成可能な材料の塊状ピースは、各空洞に適合される寸法に、大きなサイズ、例えば50×50×100mmのサイズの塊状インゴットであるブロックから切り取られ、好ましくは上述したように制御された保護雰囲気、すなわち非酸化性で湿気の無い雰囲気下で切り取られてもよい。
【0075】
本明細書では、材料のブロック、例えば未加工の鋳造金属は一般的に、「インゴット(ingot)」と呼ばれる。
【0076】
材料のブロック、例えばインゴットに切り分けられ、切り取られる金属は、一般的に「ピース(piece)」と呼ばれる。
【0077】
このピースは、上述したように、一般的に多面体形状、好ましくは平行六面体形状を有する。
【0078】
本発明の方法の特に有利な態様によれば、金属水素化物を形成可能な材料の塊状ピースは、塊状ピースが空洞又は胞状セルに配置される前に(すなわち、工程b)の前に)、保護雰囲気中で、機械加工、作業を受ける。
【0079】
この機械加工は、粉砕、切り離し(切り分け)、切り取り、剥離、除去(爆破)、充填、回転、ミリング、研磨、又はそれらの組合せであってもよい。
【0080】
驚いたことに、この機械加工、例えば簡易な剥離又は除去(爆破)により、金属水素化物を形成可能な材料のピースの活性化及びデクレピテーションが、複雑な活性化操作、例えば上記特許文献2に記載された操作に必ずしも頼ることなく、極めて単純な方法で可能となる。
【0081】
非常に驚くべきことに、簡易な機械加工、例えば材料の表面の簡易な剥離又は除去(爆破)によって、デクレピテーションを前提として材料を何とか活性化してしまう。
【0082】
この活性化は、例えば熱サイクルを伴う、公知の複雑な活性化方法よりもかなり簡易であるけれども、優れた結果を生む。
【0083】
金属水素化物を形成可能な材料を、材料が固体ブロック状の非水素化状態で初めに得られるという条件で、水素化特性を有する材料全てから選択することができる。この点に関して、非特許文献6を参照することができる。
【0084】
特に、金属水素化物を形成可能な材料を、TiFe、LaNi5、Mm−Ni、Ti−Cr、CaNi5、Ti−Cr、Ti−Mn、Zr−Mn、Ti−Mn−V、Zr−Fe−Cr、Ti−Zr−V、Ti−Fe−Mn、Ti−Fe−Niのような、金属間化合物AB5、AB2、A2B、AB3、A2B7、A2B17
;V−Ti−Fe又はV−Ti−Cr等の
バナジウム等のBCC構造を有する固溶体、Mg、Be、Ti、Zr、V、La、U、Y等
の純金属、Mg−Ni、Mg−Cu等の
マグネシウム合金等の金属合金;、及び、上記に挙げられた材料のうち2種類以上の材料の混合物;から選択してもよい。
【0085】
しかしながら、純金属に対して、高温及び平衡圧での使用状態がタンクの動作に最も適合しないことに留意すべきである。
【0086】
各セル中に残される自由空間の選択は、材料に依存する粉末固有の隆起に依存する。
【0087】
自由空間の選択はまた、各セル中で、すなわち、熱交換器の各空洞中で要求される粉末密度(体積で割られる質量)に依存する。この密度は、好ましくは本発明の方法によって制御可能である。密度は伝熱性を調整し、かつ、水素化に伴う隆起が起きるが、壁を変形させない間、粉末がセルの壁や、空洞に押し付けられる方法を調整する。これらの効果は水素化物粉末の特性に依存する。従って、空隙(empty space)は、水素化物粉末の構成材料に依存して適合される。
【0088】
空隙は一般的に、デクレピテーションにより各セルの壁の変形を引き起こさず、かつ水素化物の膨張により壁が変形されることなくセルの壁によって抑制され、押戻されるように、選択される。換言すれば、各セルは、デクレピテーションの終わりで、セルの形状及び最初の体積が維持される。
【0089】
各セル中の空隙は一般的に、セルの体積の少なくとも20%の割合を占め、好ましくは20〜50%、より好ましくは20〜30%の割合を占める。塊状ピースはセルの残りの体積、例えば70〜80%を占める。
【0090】
「デクレピテーション」の終わりで、金属水素化物粉末は、粉末を収容する基本セルの壁全てと接触するが、変形又は押戻された壁と有利に接触しないことが好ましい。従って、基本セルの最初の体積又は基本セルの形状の変化を有さない。
【0091】
セルの壁全体が熱交換器を形成することが好ましく、従って、各セルにより熱交換器の空洞が画定される。換言すれば、セルの壁は、例えば、密閉された筐体に挿入される熱交換器のフィンである。
【0092】
本方法はまた、水素の送入導管及び排出導管を取り付ける工程と、伝熱流体を移送するための導管を取り付ける工程とを備えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【
図1】本発明の方法の概要説明図、又は本方法の工程f)及びg)の、より具体的な概要説明図。
【
図2】本発明の方法の概要説明図、又は本方法の工程f)及びg)の、より具体的な概要説明図であり、水素を導入するためのシステムと、タンクの熱を調整することを担う伝熱流体とを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0094】
本発明の方法の他の有利な点は、以下のように、添付図面を参照して、これに限定されない詳細な説明から明らかになるであろう。
【0095】
本発明の方法は、金属水素化物粉末中に水素を吸蔵するためのタンクであって、壁(2,3,4,5)によって画定された密閉基本セル(1)に分割された密閉筐体(チャンバ)を備え、基本セル(1)の各々に金属水素化物粉末を含有するタンクの製造方法である。
【0096】
これらのセルの一つが
図1に示されると同時に、これらのセルの4つが
図2に示される。
【0097】
基本セルを画定する壁全体が、セルの内側に存在する材料に熱をもたらし、及び/又はこの材料から熱を除去する熱交換器を形成する。
【0098】
壁(2,3,4,5)は中に空洞があってもよく、伝熱流体は壁を通じて流れ、及び/又は、これらの壁は密閉された筐体中に配置された熱交換器のフィンであってもよい。
【0099】
従って、単純化するために以下、全ての基本セル及びこれらのセルを画定する壁によって形成される構造体を、「交換器(exchanger)」と呼ぶ。
【0100】
この交換器は、交換器自身、タンクを形成する密閉された筐体の中に配置される。
【0101】
本発明の方法は、例えば後述するように置き換えられても良い。
【0102】
交換器は、一般的に金属部品を組み立てることによって作られる。
【0103】
従って、交換器を構成する金属又は合金、及び交換器の基本セルの壁は、高い熱伝達特性を有することが好ましい。
【0104】
この金属又は合金を、アルミニウム又はその合金や、導体としてはよくないが、場合によってはタンクの水素化物材料と物理化学的に相溶性があるステンレス鋼(例えば、316L)から選択してもよい。
【0105】
基本セル(1)は、任意の形状を有することができる。例えば、基本セルは、多面体、平行六面体、好ましくは直方体の形状を有することができる。
【0106】
セル(1)は、材料ピース、及び組立を容易にするために材料ピースを受けるブロックと同じ形状を有することが都合良い。
【0107】
また、セル(1)のサイズを変えることができる。この場合、これらのセルが直方体の形状を有するとき、セル(1)のサイズは、サイズ25×25×50mm、より小さなサイズ20×20×40mm、さらに小さなサイズ10×10×20mm、又は、さらに小さいサイズ、例えば2×2×4mmのようなサイズを有することができる。
【0108】
実際には、セル(1)は、熱伝達性とタンクシステムの体積との間で要求される調整により、大きくなったり、小さくなったりしてもよい。
【0109】
セル(1)のすべてが、同じ形状と、場合により同じサイズを有してもよい。また、別の場合、セル(1)が、セルの形状及び/又はサイズで相違してもよい。
【0110】
この点は、特に、複雑な形状、著しく従来技術の方法により製造された熱交換器の形状よりも複雑な形状を有する熱交換器を製造できる本発明の方法の利点の一つである。従って、本発明の方法によって作成された熱交換器は、熱交換器の最適化により適合し、かつ、タンクの熱効率の改善を行うことができる形状を有する。
【0111】
複雑な形状を有する熱交換器を収容するタンクの製造は、本発明の方法により、粉末の充填制限を回避するという事実によって可能になる。これは、製造期間中にも関わらず、セルの各々中に容易に配置することができる水素吸収材料がブロック状のピース(7)で提供されるからである。従って、材料は容易に、タンク全体に分散される。
【0112】
取り付けの間、交換器の組立により、空洞又は胞状セルが見える。
【0113】
空洞、胞状セルによって、密閉されない基本セル、言い換えればセルがわかる。セルを
画定する壁(2,3,4,5)の1以上が未だ組み立てられていない。
【0114】
各胞状セル、空洞(1)、金属水素化物を形成可能な材料の1以上のピース、ブロック(7)は、
図1の左側及び
図2の左側に示すように導入される。
【0115】
図1及び
図2において、単一のピース、ブロックが、各胞状セル内に示されているが、複数のピースが各胞状セルに導入されてもよいことは明らかである。
【0116】
金属水素化物を形成可能な材料は、非水素化物状態で、固体ブロック状で初めに得られるという条件で、水素化特性を有する材料全てから選択されることができる。この点に関して、非特許文献6を参照することができる。この材料は、TiFe、LaNi5、Mm−Ni、Ti−Cr、CaNi5、Ti−Cr、Ti−Mn、Zr−Mn、Ti−Mn−V、Zr−Fe−Cr、Ti−Zr−V、Ti−Fe−Mn、Ti−Fe−Niのような、金属間化合物AB5、AB2、A2B、AB3、A2B7、A2B17
;V−Ti−Fe又はV−Ti−Cr等の
バナジウム等のBCC構造を有する固溶体、Mg、Be、Ti、Zr、V、La、U、Y等
の純金属、Mg−Ni、Mg−Cu等の
マグネシウム合金等の金属合金;、及び、上記に挙げられた材料のうち2種類以上の材料の混合物;から選択される。
【0117】
上記のMmは、「ミッシュメタル(Mischmetal)」と呼ばれる。
【0118】
用語「ミッシュメタル」は、本技術分野の当業者に周知の用語である。「ミッシュメタル」は、自然界で鉱石中に存在する割合で、セリウム、ランタン、ネオジムその他の希土類金属の原料混合物から構成される合金である。
【0119】
異なる水素吸蔵材料により、使用される圧力及び温度次第で、異なる水素吸収能力が提供される。
【0120】
本発明の金属水素化物を形成可能な材料は、塊状(固体)ピース、ブロック(7)のように見える。
【0121】
材料が個々に分離したピースの形状のように見え、そのピースのサイズが粉末の粒子のサイズよりもかなり大きいということを、塊状(固体)ピース、ブロック(7)によって表している。
【0122】
例として、インゴット、ピースが得られるブロック、胞上セルに導入されるブロックは一般的に、インゴット等が得られるるつぼ次第で数mmから数mの最大寸法によって画定されるサイズを有する。そして、これらのインゴットを切り取ることにより得られる、塊状ピース、ブロック(7)は一般的に、1mmから数mmのオーダーの最大寸法によって画定されるサイズを有する。同時に、この同じ材料の粉末は一般的に、0.5〜10μmのサイズを有する粒子を含む。
【0123】
材料のピース、ブロック(7)が、圧縮される。そして、材料のピース、ブロック(7)が複数の微粒子の凝集によって、例えば、従来技術におけるこのような状況で粉末を圧縮することによっては、特に形成されない。そのことを、塊状(固体)によって表している。
【0124】
金属水素化物を形成可能な材料のピースは、どのような構造、形状で表されてもよい。しかしながら、ピースは一般的に、多面体形状、特に
図1及び
図2に示されるような平行六面体形状、好ましくは、直方体形状で表される。従って、例えば、サイズが10×10×20mm、又は、さらに小さいサイズ、例えば2×2×4mmのようなサイズを有する直方体形状が、一般的にピースと呼ばれる。
【0125】
材料は、一般的に鋳造によって得られる、大きいサイズのインゴットの形状(例えば、50×50×100mm、さらには100×100×200mm)であってもよい。各ピースは、インゴットから各空洞に適応される寸法に切り取られる。
【0126】
従って、塊状のピース、ブロックは、それらが大きなサイズのブロック、ピース、インゴットから得られ、そして、組立、粒子や粉末の圧縮、例えば、粉末の圧縮、又はピースの凝集によっては得られないという事実によって反映される。
【0127】
ピース、ブロックの切り取りは、非酸化状態に制御された保護雰囲気で、かつ試料の表面を保護する筐体の中で遂行されるのが好ましい。
【0128】
この切り取りを、従来の機械加工用標準的手段、例えば、切り離し、回転、ミリング、粉砕等によって遂行することができる。
【0129】
腐食していない材料を表面で露出するために、機械加工されていない表面、すなわち、未加工の鋳造インゴットの表面が、例えば紙やすりを用いた粉砕、研磨動作の間中、例えば、若干解体され、又は研磨デバイスを用いて研磨されることが好ましい。
【0130】
実際、本発明によれば、多面体のピースが機械加工によって酸化層から取り除かれる−水素化の開始を防止する−ことは、非常に重要である。
【0131】
本機械加工は、保護雰囲気下で、好ましくは、タンクに取り付けられるような、同じ密閉筐体、例えばグローブボックス(glove box)中において、実行されるべきである。
【0132】
機械加工は、しばしば水素化材料の非常に硬い性質のために粉砕によって、又は、例えば(ダイアモンド等を用いた)研磨ディスクを用いた切り離し、切り取りによって、又は、紙やすり又は簡易に鑢を用いた、解体又は研磨によって、実行されることが好ましい。
【0133】
これらの機械加工動作、例えば、粉砕、切り離し、切断は、全体的に、又は部分的に、切断動作、例えば、粉砕、切り離し、ミリング、回転とあわせてもよく、これにより、ピースが、準備され、インゴットから切り取られるということに留意されたい。
【0134】
機械加工による材料の活性化は、本発明の方法の有利な好ましい態様である。実際、数多くの他の「水素化物の活性化」方法は複雑であり、適用するのが煩雑である(特許文献2参照)。塊状の水素化物ピースを、例えば、保護雰囲気下でそのピースの解体又は研磨することによってのみ、活性化できること(及びそのピースのデクレピテーションを引き起こすこと)は驚きである。
【0135】
次に、ピースは、タンクが密閉されるまで、不活性の保護雰囲気下で保持されることが必要である。そして、タンクの密閉も、保護雰囲気下で実行される。
【0136】
各胞状セル中、そして各セル中に残された空の自由空間(8)は、各胞状セル中の要求される水素化物材料の相対密度によって決まる。
【0137】
各胞状セル中の空の自由空間(8)は全体的に、セルの体積の少なくとも20%、好ましくはセルの体積の20〜50%、さらに好ましくはセルの体積の20〜30%の割合を占める。
【0138】
例として、20〜30%の空隙率がえられることが望ましい場合、胞状セルの体積の20〜30%の自由空間(8)が各胞状セル中に残されるべきである。従って、切り取られた水素化物のプリカーサ材料のピースの体積は、胞状セルの体積の70〜80%であるべきである。
【0139】
従って、熱交換器は完全に、複数の層に形成される。
【0140】
熱交換器を段階的に組み立てる間、水素化物を形成可能な材料の1以上のピースが中に導入される胞状セルは、隣の胞状セルの壁によって密閉されるセルを形成するために、その壁によって密閉される。その他、熱交換器の表面形状の最端まで密閉される。
【0141】
この結果、熱交換器が、水素化物を形成可能な材料の1以上のピースが充填された複数のセル(1)から構成される。これらのセルは、粉末充填オリフィスを含むものではない。一般的に、水素が各セルに出入りできるために、ほんの数個の小さな孔、オリフィス(図示せず)が、セル(1)の壁(2,3,4,5)において提供される必要がある。
【0142】
数μの孔で十分であり、同時に孔により粉末が抜け出ることを防止する。
【0143】
例えば、凝集して半焼結したステンレス鋼粒子の粉末で形成されたチューブが、水素フィードを形成するのに非常に適している。この方法は当業者に公知である。
【0144】
従って、これらの「小さな」孔のサイズは、従来の方法によって製造されたタンクに粉末を通過させるために存在すべきオリフィスのサイズとあわない。
【0145】
「小さな」孔とは一般的に、円孔の場合、孔の直径、例えば1〜5mmである充填オリフィスのサイズと比較すると、孔が孔の直径によって画定されるサイズとして1〜1000μmを有することを意味する。
【0146】
従って、組み立てられた交換器を含むタンクは密封されている。
【0147】
図2では、本発明の方法による、又はさらに具体的に言えば、本方法の工程d)からg)による、タンクの調整が概略的に示されている。このタンクは、水素フィード用システムと、タンクの熱の調節を担う伝熱流体とを含む。
【0148】
水素フィードシステムは、多孔チューブ(9)から構成され、同時に伝熱流体のフィード用システムは無孔チューブ(10)を含む。
【0149】
タンク、すなわち、水素圧力に耐える容器の中に含まれる交換器の取り付けはまた、ステージ毎に実行され、流体フィードチューブは予め所定の場所に設置され、そして、交換器のプレートのステージはこれらのチューブにはめ込まれる。
【0150】
従って、数回の水素化サイクル、例えば、5〜10サイクルが、水素タンクの表面処理、仕上げ処理、製造及び調整(矢印11)のために要求される。
【0151】
水素化サイクルは、選択される水素化物材料に適応される温度圧力状態の下、タンクに水素を導入することから構成されることが好ましい。
【0152】
LaNi5に対して、例えば、室温で数bar(数百kPa)の下での水素の導入が、適している。
【0153】
TiVFeの水素化物に対しては、室温のままで、圧力は確実に少し、約百bar増加させなければならない。
【0154】
材料は必然的に、各空洞中で粉末に破壊される。当業者はこれを「デクレピテーション」と呼ぶ。そして、数サイクルの後、例えば、5〜10サイクルの後、タンクはその最適で安定した動作に至る。そして、水素化物粉末(6)は、各セル(1)の体積全体を占める。また、水素化物粉末(6)は、各セル(1)の壁(2,3,4,5)の全てと接触し、全ての壁を変形させることも、押し返すこともなく、そして、デクレピテーション後のセルの体積が相対的にセルの最初の体積に変更されることもない。
【0155】
本発明の水素貯蔵タンクの製造方法の適用可能性は、水素貯蔵の適用分野全体に関連する。
【0156】
従って、本発明の方法を、例えば、携帯電子デバイス(携帯電話、携帯コンピュータ)用のバッテリ等の移送可能なエネルギーの供給分野と同様に、移送手段、例えば、ボート、潜水艦、車、バス、トラック、建設機械、自動二輪車等を対象としたタンクの製造に使用することができる。
【0157】
大量のエネルギーを貯蔵するための固定装置はまた、潜在的な適用がある。これらは、特に発電装置、風力タービン、光起電性パネル、地熱等によって大量に提供される水素を貯蔵するためのデバイスである。
【符号の説明】
【0158】
1…基本セル,2,3,4,5…壁,6…水素化物粉末,7…塊状ピース、塊状ブロック,8…自由空間,9…多孔チューブ,10…無孔チューブ。