特許第5690721号(P5690721)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5690721非セルロース素材への親和性の低減されたセルラーゼ変異体を含む組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5690721
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】非セルロース素材への親和性の低減されたセルラーゼ変異体を含む組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/42 20060101AFI20150305BHJP
   C12P 19/14 20060101ALI20150305BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20150305BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20150305BHJP
【FI】
   C12N9/42ZNA
   C12P19/14 AZAB
   B09B3/00 304Z
   !C12N15/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】67
(21)【出願番号】特願2011-512622(P2011-512622)
(86)(22)【出願日】2009年6月3日
(65)【公表番号】特表2011-523854(P2011-523854A)
(43)【公表日】2011年8月25日
(86)【国際出願番号】US2009046159
(87)【国際公開番号】WO2009149202
(87)【国際公開日】20091210
【審査請求日】2011年2月1日
(31)【優先権主張番号】61/059,506
(32)【優先日】2008年6月6日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509240479
【氏名又は名称】ダニスコ・ユーエス・インク
(74)【復代理人】
【識別番号】100169993
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 千裕
(74)【代理人】
【識別番号】100071010
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 行造
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100138438
【弁理士】
【氏名又は名称】尾首 亘聰
(74)【代理人】
【識別番号】100138519
【弁理士】
【氏名又は名称】奥谷 雅子
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】カスカオ−ペレイラ、ルイス・ジー
(72)【発明者】
【氏名】ケイパー、シズ
(72)【発明者】
【氏名】ケレメン、ブラッドリー・アール
(72)【発明者】
【氏名】リウ・エイミー
【審査官】 渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/025164(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/074005(WO,A2)
【文献】 特開2004−065255(JP,A)
【文献】 特開2004−000140(JP,A)
【文献】 Biochem.Biophys.Res.Commun.,2003 Feb 7,301(2),p.280-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12N 9/00−9/99
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
CAplus/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離セルラーゼ変異体であって、当該変異体がセルラーゼ活性を有しならびに63の位置における置換を含む成熟型であり、該位置が配列番号3として記載された参照セロビオヒドロラーゼII(CBH2)のアミノ酸配列に対応して数えられ、該置換が該セルラーゼ変異体に該参照CBH2と比較してより負の正味電荷を生じさせるものであるとともに、該セルラーゼ変異体が、配列番号3または配列番号4とアミノ酸配列が少なくとも95%同一である親セルラーゼに由来するものであり、かつ、該変異体が、配列番号3または配列番号4のアミノ酸配列におけるR63A、R63C、R63G、R63L、R63M、R63N、またはR63Yの置換を有する変異体である、単離セルラーゼ変異体。
【請求項2】
変異体が、146、151、189、208、211、244、277および405からなる群から選択された1以上のさらなる位置におけるさらなる置換を含み、該さらなる位置は、配列番号3として記載された参照セロビオヒドロラーゼII(CBH2)のアミノ酸配列に対応して数えられるものである、請求項1に記載の単離セルラーゼ変異体。
【請求項3】
1以上のさらなる位置におけるさらなる置換が、アスパラギン酸またはグルタミン酸を中性アミノ酸で置き換えることを含むものである、請求項に記載の単離セルラーゼ変異体。
【請求項4】
1以上のさらなる位置におけるさらなる置換が、D151N、D189N、D211N、D277N、D405N、E146Q、E208QおよびE244Qからなる群のうちの1以上を含み、該位置が配列番号3として記載された参照セロビオヒドロラーゼII(CBH2)のアミノ酸配列に対応して数えられるものである、請求項に記載の単離セルラーゼ変異体。
【請求項5】
セルラーゼ変異体が、ハイポクレアジェコリーナ(Hypocrea jecorina)CBH2またはハイポクレアコニンギ(Hypocrea koningii)CBH2から選択された親セルラーゼに由来するものである、請求項1に記載の単離セルラーゼ変異体。
【請求項6】
より負の正味電荷が、該参照CBH2と比較して−1または−2である、請求項1に記載の単離セルラーゼ変異体。
【請求項7】
バイオマスを糖に転化する方法であって、当該バイオマスを請求項1に記載のセルラーゼ変異体に接触させる工程を含む、方法。
【請求項8】
燃料を製造する方法であって、
バイオマス組成物を、請求項1に記載のセルラーゼ変異体を含む酵素組成物に接触させて、糖溶液を生成する工程、および
該糖溶液を、燃料を製造するのに十分な条件下に発酵性微生物とともに温置する工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.米国連邦政府によって資金提供された研究開発の下でなされた発明への権利に関する宣言
本発明は、米国政府の支援によって、米国エネルギー省から供与された制限条件付き供与番号DE−FC36−08GO18078の下でなされた。米国政府は、本発明にある一定の権利を有する。
2.関連発明の相互参照
本出願は、米国特許仮出願番号第61/059,506号の優先権を主張し、その内容は参照によって本明細書に取り込まれる。
3.技術分野
本願開示発明は、酵素、特にセルロース変異体に関する。また、該セルロース変異体をコードする核酸、該セルロース変異体を含む組成物、さらなる有用なセルロース変異体を特定する方法、および該組成物を使用する方法も開示される。
【背景技術】
【0002】
セルロースおよびヘミセルロースは、光合成によって産生されるもっとも豊富な植物性素材である。これらの素材は、ポリマー基質を単糖類に加水分解する能力のある細胞外酵素を産生する多種類の微生物(たとえば、細菌、酵母および真菌)によって分解され、エネルギー源として用いられることができる(非特許文献1)。非再生資源の限界が近づいているので、主要な再生可能エネルギー源となるセルロースの潜在力は莫大である(非特許文献2)。生物学的プロセスによるセルロースの有効利用は、食物、飼料および燃料の不足を克服することへの一つの手段である(非特許文献3)。
【0003】
セルラーゼは、セルロース(ベータ−1,4−グルカンまたはベータD−グルコシド結合)を加水分解して、グルコース、セロビオース、セロオリゴ糖等の形成をもたらす酵素である。セルラーゼは、従来から三つの主要な種類に分類されている、すなわちエンドグルカナーゼ(EC3.2.1.4)(「EG」)、エキソグルカナーゼまたはセロビオヒドロラーゼ(EC3.2.1.91)(「CBH」)およびベータ−グルコシダーゼ([ベータ]−D−グルコシドグルコヒドロラーゼ:EC3.2.1.21)(「BG」)である(非特許文献4および5)。エンドグルカナーゼはセルロース繊維の非晶質部分に主に作用し、他方、セロビオヒドロラーゼは結晶セルロースも分解することができる(非特許文献6)。したがって、結晶セルロースの効率的な可溶化のためには、セルラーゼ系中にセロビオヒドロラーゼが存在することが要求される(非特許文献7)。ベータ−グルコシダーゼは、セロビオース、セロオリゴ糖および他のグルコシドからD−グルコース単位を切り離す作用をする(非特許文献8)。
【0004】
セルラーゼは、多種類の細菌、酵母および真菌によって産生されることが知られている。ある種の真菌は、結晶形態のセルロースを分解する能力のある完全なセルラーゼ系を産生し、その結果これらのセルラーゼは発酵によって大量に容易に産生される。多くの酵母、たとえばサッカロマイセスサレビシエ(Saccharomyces cereviciae)は、セルロースを分解する能力を欠いているので、糸状菌は特別な役割を果たす(たとえば、非特許文献9)。
【0005】
CBH、EGおよびBGの真菌セルラーゼの分類はさらに拡張されて、各分類の中に複数の構成分を含むことができる。たとえば、複数のCBH、EGおよびBGが、多様な真菌源、たとえばトリコデルマリーゼイ(Trichoderma reesei)(ハイポクレアジェコリーナ(Hypocrea jecorina)とも呼ばれる。)から
単離されており、これらは、2のCBH、すなわちCBHI(「CBH1」)およびCBHII(「CBH2」)、少なくとも8のEG、すなわちEGI(「EG1」)、EGII(「EG2」)、EGIII(「EG3」)、EGIV(「EG4」)、EGV(「EG5」)、EGVI(「EG6」)、EGVII(「EG7」)およびEGVIII(「EG8」)ならびに少なくとも5のBG、すなわちBG1、BG2、BG3、BG4およびBG5については公知の遺伝子を含んでいる。EGIV、EGVIおよびEGVIIIもキシログカナーゼ活性を有している。
【0006】
結晶セルロースをグルコースに効率的に転化するために、CBH、EGおよびBGの分類のそれぞれからの構成分を含む完全なセルラーゼ系が必要とされ、単離された成分では結晶セルロースを加水分解するのがより低度に有効である(非特許文献10)。異なった分類からのセルラーゼ成分の間に相乗関係が観察されている。とりわけ、EG型のセルラーゼとCBH型のセルラーゼとは相乗的に相互作用して、セルロースをより効率的に分解する。
【0007】
セルラーゼは、洗剤組成物の洗浄能力を高める目的のために、柔軟剤として使用するために、綿織物の感触および外観を改善するために等、織物の処理に有用であることが従来技術で知られている(非特許文献11)。改善された洗浄性能を有するセルラーゼ含有洗剤組成物(特許文献1〜3)ならびに織物の処理に用いて織物の感触および外観を改善するためのセルラーゼ含有洗剤組成物(特許文献4〜7)が開示されている。したがって、真菌および細菌中で産生されたセルラーゼは相当な関心を持たれている。とりわけ、トリコデルマ種(たとえば、トリコデルマロンギブラキアタム(Trichoderma longibrachiatum)またはトリコデルマリーゼイ)は、結晶形態のセルロースを分解する能力のある完全なセルラーゼ系を産生することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4,435,307号明細書
【特許文献2】英国特許出願公開第2,095,275号明細書
【特許文献3】英国特許出願公開第2,094,826号明細書
【特許文献4】米国特許第5,648,263号明細書
【特許文献5】米国特許第5,691,178号明細書
【特許文献6】米国特許第5,776,757号明細書
【特許文献3】英国特許出願公開第1,358,599号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Aroら、J.Biol.Chem.2001年、第276巻、p.24309−24314
【非特許文献2】Krishnaら、Bioresource Tech、2001年、第77巻、p.193−196
【非特許文献3】オオミヤら、Biotechnol Gen Engineer Rev、1997年、第14巻、p.365−414
【非特許文献4】Knowlesら、TIBTECH、1987年、第5巻、p.255−261
【非特許文献5】Schulein、Methods Enzymol、1988年、第160巻、p.234−243
【非特許文献6】NevalainenおよびPenttila、Mycota、1995年、p.303−319
【非特許文献7】Suurnakkiら、Cellulose、2000年、第7巻、p.189−209
【非特許文献8】Freer、J Biol Chem、1993年、第268巻、p.9337−9342
【非特許文献9】Woodら、Methods in Enzymology、1988年、第160巻、p.87−116
【非特許文献10】Filhoら、Can J Microbiol、1996年、第42巻、p.1−5
【非特許文献11】Kumarら、Textile Chemist and Colorist、1997年、第29巻、p.37−42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
セルラーゼ組成物はすでに開示されているけれども、新規および改善されたセルラーゼ組成物の必要が存在する。改善されたセルラーゼ組成物は、家庭用洗剤、布地の処理、バイオマス転化および紙の生産に用途がある。改善された性能を示すセルラーゼは、特に関心が高い。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の教示は、非セルロース素材への結合力を低減するように修飾されたセルラーゼ変異体に関する。一般に、このセルラーゼ変異体は、非セルロース素材の存在下において野生型のセルラーゼと比較して増加されたセルロース分解活性を有する。ある実施態様では、このセルラーゼ変異体は、野生型のセルラーゼと比較して減少された正味電荷(すなわち、野生型のセルラーゼよりも負の電荷)を有する。ある実施態様では、このセルラーゼ変異体は、野生型のセルラーゼよりも低度に正に帯電している。ある実施態様では、セルラーゼは1以上の正電荷を除くことによって修飾される。ある実施態様では、セルラーゼは1以上の負電荷を加えることによって修飾される。ある実施態様では、セルラーゼは1以上の正電荷を除くことおよび1以上の負電荷を加えることによって修飾される。
【0012】
ある実施態様では、本発明の教示はセロビオヒドロラーゼI(CBHI)またはセロビオヒドロラーゼII(CBHII)の変異体に関する。ある実施態様では、このセルラーゼ変異体は、セルラーゼ活性ならびに63、77、129、147、153、157、161、194、197、203、237、239、247、254、281、285、288、289、294、327、339、344、356、378および382からなる群から選択された1以上の位置における置換を有する成熟型であり、ここで、位置は参照体(たとえば、配列番号3のアミノ酸配列を有する野生型ハイポクレアジェコリーナCBH2セルラーゼ)に対応して数えられ、また1以上の位置における該置換はこのセルラーゼ変異体に該参照セルラーゼと比較してより負の正味電荷を生じさせる。ある実施態様では、CBH2は1以上の正電荷を除くことによって修飾され、これはある実施態様ではリシンまたはアルギニンが中性アミノ酸によって置換されること(たとえば、KまたはRがNもしくはQまたは他の中性残基によって置換されること)を伴う。ある実施態様では、CBH2は1以上の負電荷を加えることによって修飾され、これはある実施態様では中性アミノ酸が負に帯電したアミノ酸によって置換されること(たとえば、NoまたはQもしくは他の中性残基がDまたはEによって置換されること)を伴う。ある実施態様では、CBH2は1以上の正電荷を除くことおよび1以上の負電荷を加えることによって修飾され、これはある実施態様ではリシンまたはアルギニンが負に帯電したアミノ酸によって置換されること(たとえば、KまたはRがDまたはEによって置換されること)を伴う。一般に、CBH2変異体は、配列番号3のアミノ酸配列を有する野生型ハイポクレアジェコリーナCBH2と比較してリグニンの存在下において増加されたセルロース分解活性を有する。本発明の教示はさらに、成熟型CBH2中のK129E、K157E、K194E、K288E、K327E、K356E、R63Q、R77Q、R153Q、R203Q、R294Q、R378Q、N161D、N197D、N237D、N247D、N254D、N285D、N289D、N339D、N344D、N382D、Q147E、Q204E、Q239E、Q281E、D151N、D189N、D211N、D277N、D405N、E146Q、E208QおよびE244Qからなる群から選択された1以上の置換を含むCBH2変異体を提供し、ここで当該置換は配列番号3の成熟型ハイポクレアジェコリーナCBH2に従って数えられる。ある実施態様では、この変異体は、146、151、189、208、211、244、277および405からなる群から選択された1以上のさらなる位置におけるさらなる置換を含み、ここで該さらなる位置は、配列番号3として記載された参照セロビオヒドロラーゼII(CBH2)のアミノ酸配列に対応して数えられる。ある実施態様では、この1以上のさらなる位置におけるさらなる置換は、アスパラギン酸またはグルタミン酸が中性アミノ酸によって置換されること(たとえば、DまたはEがNもしくはQまたは他の中性残基によって置換されること)を含む。ある実施態様では、この1以上のさらなる位置におけるさらなる置換は、D151N、D189N、D211N、D277N、D405N、E146Q、E208QおよびE244Qからなる群のうちの1以上を含み、ここで該位置は、配列番号3として記載された参照セロビオヒドロラーゼII(CBH2)のアミノ酸配列に対応して数えられる。ある好まれる実施態様では、この1以上の位置における置換は、1、2、3、4、5、6、7、8、9および10個の位置からなる群から選択される。ある好まれる実施態様では、このセルラーゼ変異体は、ハイポクレアジェコリーナCBH2、ハイポクレアコニンギ(Hypocrea koningii)CBH2、フミコーラインソレンス(Humicola insolens)CBH2、アクレモニウムセルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)CBH2、アガリカスビスポラス(Agaricus bisporus)CBH2、フサリウムオシスポラム(Fusarium osysporum)EG、ファネロキーテクリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)CBH2、タラロマイセスエメルソニ(Talaromyces emersonii)CBH2、サーモビフィダ.フスカ(Thermobifida.fusca)6B/E3 CBH2、サーモビフィダフスカ(Thermobifida fusca)6A/E2 EGおよびセルロモナスフィミ(Cellulomonas fimi)CenA EGからなる群から選択された親セルラーゼに由来する。ある好まれる実施態様では、このセルラーゼ変異体は、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12および配列番号13からなる群の構成員とアミノ酸配列が少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%同一である親セルラーゼに由来する。ある実施態様では、より負の正味電荷は参照CBH2との比較において−1または−2である。
【0013】
本開示発明はさらに、セルラーゼ変異体を提供し、この変異体はセルラーゼ活性を有し、かつリシン残基を化学修飾して該リシン残基の正電荷が除かれている、成熟型である。ある好まれる実施態様では、該化学修飾は無水コハク酸、無水アセトキシコハク酸、無水マレイン酸、無水酒石酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水シス−アコニット酸、無水t−ニトロフタル酸、無水酢酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水ヘキサン酸、無水吉草酸、無水イソ吉草酸および無水ピバル酸からなる群から選択された化合物による処理を含む。ある好まれる実施態様では、このセルラーゼ変異体は、ハイポクレアジェコリーナセロビオヒドロラーゼI、ハイポクレアジェコリーナセロビオヒドロラーゼII、ハイポクレアジェコリーナエンドグルカナーゼI、ハイポクレアジェコリーナエンドグルカナーゼIIおよびハイポクレアジェコリーナベータ−グルコシダーゼからなる群から選択された親セルラーゼに由来する。ある好まれる実施態様では、このセルラーゼ変異体は、ハイポクレアジェコリーナCBH2、ハイポクレアコニンギCBH2、フミコーラインソレンスCBH2、アクレモニウムセルロリティカスCBH2、アガリカスビスポラスCBH2、フサリウムオシスポラムEG、ファネロキーテクリソスポリウムCBH2、タラロマイセスエメルソニCBH2、サーモビフィダ.フスカ6B/E3 CBH2、サーモビフィダフスカ6A/E2 EGおよびセルロモナスフィミCenA EGからなる群から選択された親セルラーゼに由来する。また、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12および配列番号13からなる群の構成員とアミノ酸配列が少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%同一である親セルラーゼに由来するセルラーゼ変異体も提供される。ある実施態様では、このセルラーゼ変異体は、63、77、129、147、153、157、161、194、197、203、237、239、247、254、281、285、288、289、294、327、339、344、356、378および382からなる群から選択された1以上の位置における置換を含み、ここで該位置は配列番号3として記載された参照セロビオヒドロラーゼII(CBH2)のアミノ酸配列に対応して数えられる。
【0014】
本発明の教示はさらに、K129E、K157E、K194E、K288E、K327E、K356E、R63Q、R77Q、R153Q、R203Q、R294Q、R378Q、N161D、N197D、N237D、N247D、N254D、N285D、N289D、N339D、N344D、N382D、Q147E、Q204E、Q239EおよびQ281Eからなる群から選択された1〜26の置換を含むCBH2に関する。ある実施態様では、このCBH2変異体は、i)K157E/K129E、ii)K157E/K129E/K288E/K194E、iii)K157E/K129E/K288E/K194E/K356E/K327E、iv)K157E/K129E/K288E/K194E/K356E/K327E/R153Q/R294Q/R203Q/R378Q、v)K157E/K129E/K288E/K194E/K356E/K327E/R153Q/R294Q/R203Q/R378Q/N382D/N344D/N327D/N339D、vi)K157E/K129E/K288E/K194E/K356E/K327E/R153Q/R294Q/R203Q/R378Q/N382D/N344D/N327D/N339D/N289D/N161D/Q204E/Q147E、vii)K157E/K129E/K288E/K194E/K356E/K327E/R153Q/R294Q/R203Q/R378Q/N382D/N344D/N327D/N339D/N289D/N161D/Q204E/Q147E/N285D/N197D/N254D/N247D、およびviii)K157E/K129E/K288E/K194E/K356E/K327E/R153Q/R294Q/R203Q/R378Q/N382D/N344D/N327D/N339D/N289D/N161D/Q204E/Q147E/N285D/N197D/N254D/N247D/Q239E/Q281E/R63Q/R77Qからなる群から選択された置換の組み合わせを含む。
【0015】
ある実施態様では、このCBH2変異体は、D151N、D189N、D211N、D277N、D405N、E146Q、E208QおよびE244Qからなる群から選択された1〜8の置換を含む。ある実施態様では、i)D189N/E208Q/D211N/D405およびii)D189N/E208Q/D211N/D405/E244Q/D277N/D151/E146Qからなる群から選択された置換の組み合わせを含む。
【0016】
また前出の段落に記載されたセロビオヒドロラーゼ活性を有するCBH2変異体をコードする単離された核酸も記載される。第一の側面では、本開示発明は、セロビオヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする単離された核酸であって、該ポリペプチドが第6族のグリコールヒドロラーゼの変異体であり、かつ当該核酸が野生型ハイポクレアジェコリーナCBH2に比較して正味電荷を減少する残基における置換をコードする核酸も包含する。
【0017】
他の側面では、本開示発明はCBH2変異体をコードする単離された核酸であって、当該核酸がCBH2の成熟型におけるK129E、K157E、K194E、K288E、K327E、K356E、R63Q、R77Q、R153Q、R203Q、R294Q、R378Q、N161D、N197D、N237D、N247D、N254D、N285D、N289D、N339D、N344D、N382D、Q147E、Q204E、Q239E、Q281E、D151N、D189N、D211N、D227N、D405N、E146Q、E208QおよびE244Qからなる群から選択された位置における置換を含み、当該置換が配列番号3の成熟型のハイポクレアジェコリーナCBH2に従って数えられる、核酸に関する。
【0018】
ある実施態様では、本開示発明はCBH2変異体をコードする単離された核酸を含む発現カセット、調節配列に機能しうるように連結されたCBH2変異体をコードする核酸を含む構成体、およびCBH2変異体をコードする核酸を含むベクターによって形質転換された宿主細胞に関する。本発明の教示はさらに、CBH2変異体を再生するのに適した条件下の培地中でCBH2変異体を発現する細胞を培養することによって、BH2変異体を産生する方法を提供する。
【0019】
同様に提供されるのは、前出の段落のセルラーゼ変異体を含む組成物である。ある好まれる実施態様では、この組成物はさらに、サブチリシン、中性メタロプロテアーゼ、リパーゼ、クチナーゼ、アミラーゼ、カルボヒドラーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、アラビナーゼ、ガラクタナーゼ、キシラナーゼ、オキシダーゼおよびペルオキシダーゼからなる群から選択された少なくとも1のさらなる酵素を含む。
【0020】
本明細書で提供されるのは、バイオマスを糖に転化する方法であって、当該バイオマスをセルラーゼ変異体と接触させる工程を含む方法である。同様に提供されるのは、燃料を製造する方法であって、バイオマス組成物をセルラーゼ変異体を含む酵素組成物と接触させて、糖溶液を生成する工程、および燃料を製造するのに十分な条件下に発酵性微生物とともに温置する工程を含む方法である。
【0021】
同様に提供されるのは、セルラーゼ変異体を含む組成物、たとえば洗剤組成物、たとえば飼料添加物、ならびに織物表面および/または織物を含む物品に洗剤組成物を接触させることによる洗浄および織物柔軟仕上げの方法である。また、織物表面および/または織物を含む物品にセルラーゼ変異体を接触させることによる織物柔軟仕上げの方法、たとえばけばだち防止および表面仕上げも提供される。
【0022】
本発明の他の目的、特徴および利点は以下の詳細な説明から明らかにされる。しかし、本開示発明の範囲および精神の範囲内において様々な変更および修正が本明細書の詳細な記載から当業者には明らかになろうから、詳細な説明および特定の実施例は、本開示発明の好ましい実施態様を示すけれども、例示の目的のためにのみ示されていることが理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1A】存在するリグニン阻害剤の量を増加するときの、修飾(四角印)および非修飾(丸印)トリコデルマ種セルラーゼ調製物によるAPBの糖化を示すグラフである。図1Aは24時間温置後の結果を示す。
図1B】存在するリグニン阻害剤の量を増加するときの、修飾(四角印)および非修飾(丸印)トリコデルマ種セルラーゼ調製物によるAPBの糖化を示すグラフである。図1Bは48時間温置後の結果を示す。
図2A】各種の修飾セルラーゼを比較する糖化を示すグラフである。
図2B】修飾および非修飾セルラーゼを用いた糖化の差異を示すグラフである。
図3】成熟型の各種のセルラーゼ、すなわちハイポクレアジェコリーナ(トリコデルマリーゼイとしても知られている。)CBH2(配列番号3)、ハイポクレアコニンギCBH2(配列番号4)、フミコーラインソレンスCBH2(配列番号5)、アクレモニウムセルロリティカスCBH2(配列番号6)、アガリカスビスポラスCBH2(配列番号7)、フサリウムオシスポラムEG(配列番号8)、ファネロキーテクリソスポリウムCBH2(配列番号9)、タラロマイセスエメルソニCBH2(配列番号10)、サーモビフィダフスカ6B/E3 CBH2(配列番号11)、サーモビフィダフスカ6A/E2EG CBH2(配列番号12)およびセルロモナスフィミCenA EG(配列番号13)のアミノ酸配列のアラインメントを示す図である。
図4】電荷変化の産物としてのCBH2変異体セルラーゼの、前処理トウモロコシ茎葉(PCS)アッセイのウィナーの予測に対する実測の相対度数を示すグラフである。
図5】pTTTpyr−cbh2のプラスミドマップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の教示は、非セルロース素材への結合力を低減するように修飾されたセルラーゼ変異体に関する。一般に、このセルラーゼ変異体は、非セルロース素材の存在下において野生型のセルラーゼと比較して増加されたセルロース分解活性を有する。ある実施態様では、このセルラーゼ変異体は、野生型のセルラーゼと比較して減少された正味電荷(すなわち、野生型のセルラーゼよりも負側の電荷)を有する。ある実施態様では、このセルラーゼ変異体は、野生型のセルラーゼよりも低度に正に帯電している。ある実施態様では、セルラーゼは1以上の正電荷を除くことによって修飾される。ある実施態様では、セルラーゼは1以上の負電荷を加えることによって修飾される。ある実施態様では、セルラーゼは1以上の正電荷を除くことおよび1以上の負電荷を加えることによって修飾される。
【0025】
これまでの一般的記載および以降の詳細な記載の双方とも例示および説明のためのみのものであり、本明細書に記載された構成および方法を限定するものではないことが理解されなければならない。本明細書で他様に定義されない限り、本明細書で用いられるすべての技術用語および科学用語は、本開示発明が属する分野の当業者によって普通に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書では、単数形の使用は、他様に具体的に述べられない限り複数形をも含む。「または」の使用は、他様に述べられない限り「および/または」を意味する。同様に、「含む(comprise)」、「含んでいる(comprising)」、「(単数形が)含む(comprises)」、「包含する(include)」、「包含している(including)」および「(単数形が)包含する(includes)」の語は限定することを意図していない。本明細書で引用されたすべての特許および刊行物は、かかる特許および刊行物内に開示されたすべてのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を含めて、参照によって本明細書に明示的に取り込まれる。本明細書に設けられた見出しは、本明細書全体を参照することによって把握されることができる本開示発明の様々な側面または実施態様を限定するものではない。したがって、本明細書の用語は本明細書全体を参照することによって、より完全に定義される。
【0026】
本明細書で他様に定義されない限り、本明細書で用いられるすべての技術用語および科学用語は、本開示発明が属する分野の当業者によって普通に理解されるのと同じ意味を有する。Singletonら、DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY、第2版、1994年、米国、ニューヨーク州、John Wiley and Sons社、ならびにHaleおよびMarham、THE HARPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY、1991年、米国、ニューヨーク州、Harper Perennial社は、当業者に本明細書で用いられる用語の多くの一般的辞書を提供する。本明細書に記載された方法および物質と相似または同等の任意の方法および物質が、本開示発明の実施および試験に用いられることができるけれども、好まれる方法および物質が記載される。数値範囲は、その範囲を規定する数字を包含する。他様に示されない限り、核酸は左から右に5’から3’の方向に、アミノ酸配列は左から右にアミノ基からカルボキシル基の方向に、それぞれ書かれる。本発明実施者は、当分野の定義および用語のために、特にSambrookら、MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL(第2版)、1989年、米国、ニューヨーク州、Plainview、Cold Spring Harbor Press社、およびAusubel FMら、Current Protocols in Molecular Biology、1993年、米国、ニューヨーク州、ニューヨーク、John Wiley & Sons社を参照するように要請される。本開示発明は、記載された特定の方法論、手順および試薬に、これらのものは様々なものであることができるから、限定されないことが理解されなければならない。
I.定義
【0027】
以下の用語は、本明細書全体を参照することによってより完全に定義される。
【0028】
本明細書で用いられる「ポリペプチド」の語は、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸残基の一本鎖からなる化合物をいう。本明細書で用いられる「タンパク質」の語は、「ポリペプチド」の語と同義であることができる。
【0029】
「変異体」は、C−もしくはN−末端のいずれかもしくは双方への1以上のアミノ酸の付加、アミノ酸配列中の1もしくは多数の異なる部位における1以上のアミノ酸の置換、もしくはタンパク質の一方もしくは双方の末端における、もしくはアミノ酸配列中の1以上の部位における1以上のアミノ酸の欠失によって前駆体タンパク質(たとえば、野生型タンパク質)から誘導されたタンパク質、または1以上のアミノ酸が、電荷を変えることによって(すなわち、正電荷を除くこと、負電荷を加えること、または正電荷を除くことおよび負電荷を加えることの双方によって)修飾されることを意味する。セルラーゼ変異体の調製は、従来技術で知られた任意の手段、たとえばアミノ酸の化学修飾によって、野生型タンパク質をコードするDNA配列の修飾、修飾DNA配列の好適な宿主中への形質転換、および修飾DNA配列を発現して変異体酵素を形成することによって実施されることができる。本開示発明の変異体セルラーゼは、前駆体酵素アミノ酸配列と比較して変化されたアミノ酸配列を含むペプチドを包含し、この変異体セルラーゼは前駆体酵素の特徴的なセルロース分解性質を保持するが、ある特定の側面において変えられた特性を有することができる変異体セルラーゼである。たとえば、変異体セルラーゼは、増加されたpH最適値、または増加された温度安定性もしくは酸化安定性、または非セルロース素材への減少された親和性もしくは結合性を有することができるが、その特徴的なセルロース分解性質を保持する。本開示発明に従う変異体は、セルラーゼ変異体をコードするDNA断片であって、発現されたセルラーゼ変異体の機能的活性が保持されるDNA断片に由来することができる。たとえば、セルラーゼをコードするDNA断片はさらに、5’または3’末端のいずれかにおいてセルラーゼDNA配列に付加されたヒンジまたはリンカーをコードするDNA配列またはその一部であって、コードされたセルラーゼドメインの機能的活性が保持されるDNA配列またはその一部を含むことができる。変異体および誘導体の語は、本明細書では互換的に用いられることができる。
【0030】
「同等の残基」は、その三次構造がX線結晶学によってすでに決定されている前駆体セルラーゼの三次構造のレベルにおける相同性を測定することによって定義されることもできる。同等の残基とは、アラインメント後に、セルラーゼとハイポクレアジェコリーナCBH2との特定のアミノ酸残基の2以上の主鎖原子の原子座標(NとN、CAとCA、CとCおよびOとO)が0.13nm以内、好ましくは0.1nm以内であるものと定義されることができる。アラインメントは、最善のモデルが方向と位置とを定められて、問題のセルラーゼの非水素タンパク質原子の原子座標がハイポクレアジェコリーナCBH2と最大の重なりを与えた後に初めて達成される。この最善のモデルは、利用可能な最高の分解能における回折実験データについてもっとも低いR因子を与える結晶学モデルであり、たとえば米国特許出願公開第2006/0205042参照。
【0031】
ハイポクレアジェコリーナCBH2の特定の残基に機能的に類似している同等の残基は、ハイポクレアジェコリーナCBH2の特定の残基について定義され帰属される様式で、タンパク室の構造を変え、基質との結合を修飾し、または触媒反応に寄与するような立体配座をとることができるセルラーゼのアミノ酸であると定義される。さらに、この同等の残基は、所与の残基の主鎖原子は相同の位置を占めることに基づく同等の判断基準を満たさないかも知れないけれども、その残基の側鎖原子の少なくとも2の原子座標がハイポクレアジェコリーナCBH2の対応する側鎖原子から0.13nmに存在する程度に類似した位置を占める(その三次構造がX線結晶学によってすでに得られている)セルラーゼの残基である。ハイポクレアジェコリーナCBH2の結晶構造は、Zouら、1999年(非特許文献5、前掲)に示されている。
【0032】
「核酸分子」の語は、RNA、DNAおよびcDNAを含む。遺伝暗号の縮重性の結果として、所与のタンパク質、たとえばCBH2および/またはその変異体をコードする複数のヌクレオチド配列が産生されることができることが理解される。本開示発明は、変異体セルラーゼ、たとえばCBH2をコードするすべての可能な変異体ヌクレオチド配列であって、遺伝暗号の縮重性を前提とすると、そのすべてが可能である変異体ヌクレオチド配列を考慮する。
【0033】
「非相同」な核酸構成体または配列は、該「非相同」な核酸構成体または配列がその中で発現する細胞に天然でない配列の一部を有する。制御配列に関して非相同とは、その発現をその制御配列が現に調節している同じ遺伝子を調節するように天然には機能しない制御配列(すなわち、プロモーターまたはエンハンサー)をいう。一般に、非相同核酸配列は、その中に該非相同核酸配列が存在する細胞またはゲノムの一部に内因性ではなくて、その細胞にインフェクション、トランスフェクション、形質転換、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション等によって加えられたものである。「非相同」核酸構成体は、天然細胞中に認められる制御配列/DNAコーディング配列の組み合わせと同じ、またはそれと異なる制御配列/DNAコーディング配列の組み合わせを有することができる。
【0034】
本明細書で用いられる「ベクター」の語は、異なる宿主細胞間を移動するように設計された核酸構成体をいう。「発現ベクター」とは、異質細胞中に非相同DNA断片を移入し発現する能力を有するベクターをいう。多くの原核細胞および真核細胞発現ベクターが商業的に入手可能である。適当な発現ベクターの選択は当業者の知識の範囲内である。
【0035】
したがって、「発現カセット」または「発現ベクター」とは、標的細胞中の特定の核酸の転写を可能にする一連の特定の核酸要素を有する、組換え的にまたは合成的に生成された核酸構成体である。組換え発現カセットは、プラスミド、染色体、ミトコンドリアDNA、プラスミドDNA、ウイルスまたは核酸断片中に取り込まれることができる。典型的には、発現ベクターの組換え発現カセット部分は、数ある配列の中でも、転写されるべき核酸配列およびプロモーターを含む。
【0036】
本明細書で用いられる「プラスミド」の語は、クローン化ベクターとして用いられる環状二重鎖(ds)DNA構成体をいい、多くの細菌および一部の真核生物中で染色体外自己複製遺伝要素を形成する。
【0037】
本明細書で用いられる「選択可能マーカーをコードする核酸配列」の語は、細胞中で発現する能力のある核酸配列をいい、該選択可能マーカーの発現は、発現された遺伝子を有する細胞に、対応する選択剤の存在下にまたは対応する選択的な成長条件下に成長する能力を与える。
【0038】
本明細書で用いられる「プロモーター」の語は、下流の遺伝子の転写を指令するように機能する核酸配列をいう。プロモーターは一般に、その中で標的遺伝子が発現される宿主細胞に適当なものである。プロモーターは、他の転写および複写調節核酸配列(「制御配列」とも呼ばれる。)とともに所与の遺伝子を発現するのに必要である。一般に、転写および翻訳調節核酸配列は、以下に限定されることなく、プロモーター配列、リボソーム結合部位、転写出発および停止配列、翻訳出発および停止配列、ならびにエンハンサーまたは活性化配列を含む。
【0039】
本明細書で定義される「キメラ遺伝子」または「非相同核酸構成体」とは、異なる遺伝子、たとえば調節要素の一部から構成されることができる非天然遺伝子(すなわち、宿主中に導入された遺伝子)をいう。宿主細胞の形質転換のためのキメラ遺伝子構成体は、典型的には非相同タンパク質をコードする配列に、または選択可能マーカーキメラ遺伝子では、たとえば、形質転換された細胞に抗生物質耐性を与えるタンパク質をコードする選択可能マーカー遺伝子に、機能しうるように連結された転写調節領域(プロモーター)から構成される。本開示発明の典型的なキメラ遺伝子は、宿主細胞中への形質転換のために、構造性または誘導性である形質転換調節領域、タンパク質をコードする配列およびターミネーター配列を含む。キメラ遺伝子構成体は、標的タンパク質の分泌が望まれるならば、シグナルペプチドをコードする第二のDNA配列も含む。
【0040】
核酸は、他の核酸配列と機能的関係になるように置かれると「機能しうるように連結され」ている。たとえば、分泌リーダーをコードするDNAは、それがポリペプチドの分泌に関与するタンパク質前駆体として発現されるならば、そのポリペプチドのためのDNAと機能しうるように連結されており、プロモーターまたはエンハンサーは、それが配列の転写に影響を与えるならば、そのコーディング配列と機能しうるように連結されており、またはリボソーム結合部位は、それが翻訳を促進するように位置しているならば、コーディング配列と機能しうるように連結されている。一般に、「機能しうるように連結され」とは、連結されているDNA配列が近接しており、また、分泌リーダーの場合には、近接しかつリーディングフレーム内にあることを意味する。しかし、エンハンサーは近接している必要はない。連結は、都合のよい制限部位における結合によって達成される。かかる部位が存在しないならば、合成オリゴヌクレオチドアダプター、PCR用のリンカーまたはプライマーが、慣用の実施法に従って用いられる。
【0041】
本明細書で用いられる「遺伝子」の語は、ポリペプチド鎖の産生に関わっているDNAのセグメントを意味し、このDNAのセグメントは、コーディング領域の前および後の領域、たとえば5’非翻訳(5’UTR)すなわち「リーダー」配列および3’UTRすなわち「トレーラー」配列、ならびに個々のコーディングセグメント(エキソン)間の介入配列(イントロン)を含んでいても、いなくてもよい。
【0042】
一般に、変異体セルラーゼ、たとえばCBH2をコードする核酸分子は、中程度から高度の厳密度条件下に野生型配列、たとえば本明細書に配列番号1として示される配列とハイブリダイズする。しかし、ある場合にはCBH2をコードする、実質的に異なるコドン使用頻度を有するヌクレオチド配列が用いられ、その場合にCBH2をコードするヌクレオチド配列によってコードされたタンパク質は、天然タンパク質と同じまたは実質的に同じアミノ酸配列を有する。たとえば、コーディング配列は、宿主によって特定のコドンが用いられる頻度に従って、特定の原核または真核発現系においてCBH2のより速い発現を促進するように修飾されることができる(Te’oら、FEMS Microbiology Letters、2000年、第190巻、p.13〜19、たとえば糸状菌中での発現のための遺伝子の最適化が記載されている。)。
【0043】
核酸配列は、参照核酸配列に、これらの2の配列が適度から高度の厳密度のハイブリダイゼーションおよび洗浄条件下に互いに特異的にハイブリダイズするならば、「選択的にハイブリダイズ可能」であると考えられる。ハイブリダイゼーション条件は、核酸結合複合体またはプローブの融解温度(T)を基準としている。たとえば、「最高厳密度」は典型的には約T−5℃(プローブのTの5℃下)で、「高度厳密度」はTの約5〜10℃下で、「適度」または「中程度の厳密度」はプローブのTの約10〜20℃下で、また「低度厳密度」はTの約20〜25℃下で行われる。機能的には、最高厳密度条件が用いられて、ハイブリダイゼーションプローブと厳密な同一性または厳密に近い同一性を有する配列を特定することができ、他方、高度厳密度条件が用いられて、プローブと約80%以上の配列同一性を有する配列を特定することができる。
【0044】
適度および高度厳密度ハイブリダイゼーション条件は、従来技術で周知である(たとえば、Sambrookら、1989年、第9および11章、ならびにAusubel,F.M.ら、1993年参照。これらの内容は参照によって本明細書に明示的に取り込まれる。)。高度厳密度条件の例は、50%ホルムアミド、5×SSC、5倍のDenhardt溶液、0.5%SDSおよび100μg/ml修飾キャリアDNA中約42℃におけるハイブリダイゼーション、引き続く室温で2倍SSCおよび0.5%SDS中2回の洗浄、ならびに0.1×SSCおよび0.5%SDS中42℃におけるもう2回の洗浄を含む。
【0045】
「組換え」の語は、たとえば細胞または核酸、タンパク質またはベクターに関連して用いられるときは、その細胞、核酸、タンパク質またはベクターが、非相同核酸もしくはタンパク質の導入、もしくは天然核酸もしくはタンパク質の変化によって修飾されていること、またはその細胞がそのように修飾された細胞に由来することを示す。したがって、たとえば組換え細胞は、天然(非組換え)型の細胞内に見出されない遺伝子を発現し、または他様に異常に発現された、不十分に発現された、もしくはまったく発現されていない天然遺伝子を発現する。
【0046】
本明細書で用いられる、細胞に関連した「形質転換され」、「安定に形質転換され」または「トランスジェニックの」の語は、その細胞が非天然(非相同)核酸配列をそのゲノム中に、もしくは複数世代を通して維持されるエピソームプラスミドとして一体化させたことを意味する。
【0047】
本明細書で用いられる「発現」の語は、遺伝子の核酸配列に基づいてポリペプチドが産生される過程をいう。この過程は転写および翻訳の双方を含む。
【0048】
核酸配列を細胞中に挿入する文脈における「導入され」の語は、「トランスフェクション」または「形質転換」または「形質導入」を意味し、核酸配列が真核細胞または原核細胞中に取り込まれることをいうことも含み、この場合に、核酸配列はその細胞のゲノム(たとえば、染色体、プラスミドまたはミトコンドリアDNA)中に取り込まれ、自律レプリコンに変換され、または一時的に発現されることができる(たとえば、トランスフェクトmRNA)。
【0049】
したがって、「CBH2発現」の語はcbh2遺伝子またはその変異体の転写および翻訳のことをいうということになり、その産生物は前駆体RNA、mRNA、ポリペプチド、翻訳後プロセシングを受けたポリペプチドおよびこれらの誘導体、たとえば関連した種由来のCBH2、たとえばトリコデルマコニンギ、ハイポクレアジェコリーナ(トリコデルマロンギブラキアタム、トリコデルマリーゼイまたはトリコデルマビリデ(Trichoderma viride)としても知られている。)、ハイポクレアシュワイニッチ(Hypocrea schweinitzii)を含む。例として、CBH2発現の試験は、CBH2タンパク質のためのウェスタンブロット、cbh2 mRNAのためのノーザンブロット分析および逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCT)試験、亜リン酸膨潤セルロース(PASC)およびp−ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド(PAHBAH)試験を含み、この亜リン酸膨潤セルロース(PASC)およびp−ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド(PAHBAH)試験は以下に記載されている。すなわち、(a)PASC:(Karlsson,Jら、Eur.J.Biochem、2001年、第268巻、p.6498−6507、Wood,T、Methods in Enzymology、1988年、第160巻、バイオマスの章セルロースおよびヘミセルロース(Wood,W.およびKellog,S.編)、1988年、p.19−25、米国、カリフォルニア州、Sandiego、Academic press社)および(b)PAHBAH:(Lever,M.、Analytical Biochemistry、1972年、第47巻、p.273、Berkeney,A.B.およびMutton,L.L.、Journal of Science of Food and Agriculture、1980年、第31巻、p.889、Henry,R.J.、Journal of the Institute of Brewing、1984年、第90巻、p.37)。
【0050】
「選択的スプライシング」の語は、単一の遺伝子から複数のポリペプチドのイソ型が生成される過程をいい、遺伝子の転写産物のすべてではなくその一部のプロセシングの間に非連続エキソンを一緒にスプライシングすることを含む。したがって、特定のエキソンはいくつかの代わりのエキソンの任意のひとつに接続されてメッセンジャーRNAを形成することができる。選択的スプライシングをされたmRNAは、その中の一部の部分が共通し他の部分が異なるポリペプチド(「スプライス変異体」)を産生する。
【0051】
「シグナル配列」の語は、細胞の外への成熟型のタンパク質の分泌を促進するそのタンパク質のN末端部分にあるアミノ酸の配列をいう。成熟型の細胞外タンパク質はシグナル配列を欠いており、それは分泌過程の間に切り離される。
【0052】
「宿主細胞」の語は、ベクターを含み、発現構成体の複写および/もしくは転写または転写および翻訳(発現)を支える細胞を意味する。本開示発明に用いられる宿主細胞は、原核細胞、たとえば大腸菌、または真核細胞、たとえば酵母、植物、昆虫、両生類もしくは哺乳類の細胞であることができる。一般に、宿主細胞は糸状菌である。
【0053】
「糸状菌」の語は、当業者によって認識されるいずれかのまたはすべての糸状菌を意味する。好まれる糸状菌は、アスペルギルス(Aspergillus)、トリコデルマ、フサリウム、クリソスポリウム、ペニシリウム(Penicillium)、フミコーラ、ニューロスポラ(Neurospora)またはこれらの代替性型、たとえばエメリセラ(Emericella)、ハイポクレアからなる群から選択される。無性の工業用真菌トリコデルマリーゼイが、子嚢菌ハイポクレアジェコリーナのクローン誘導体であることは今では証明されている(Kuhlsら、PNAS、1996年、第93巻、p.7755−7760参照)。
【0054】
「セロオリゴ糖」の語は、2〜8のグルコース単位を含みベータ1,4結合を有するオリゴ糖の群、たとえばセロビオースをいう。
【0055】
「セルラーゼ」、「セルロース分解酵素」または「セルラーゼ酵素」の語は、セルロースポリマーをより短いセロオリゴ糖オリゴマー、セロビオースおよび/またはグルコースに加水分解する能力のある酵素の区分をいう。セルラーゼの多数の例、たとえばエキソグルカナーゼ、エキセロビオヒドロラーゼ、エンドグルカナーゼ、およびグルコシダーゼが、セルロース分解生物、たとえば特に真菌、植物および細菌から得られている。これらの微生物からつくられた酵素は、セルロースをグルコースに転化するのに役立つ3の作用タイプ、すなわち、エンドグルカナーゼ(EG)、セロビオヒドロラーゼ(CBH)およびベータ−グルコシダーゼ(BGLまたはBglu)を有するタンパク質の混合物である。セルロース酵素のこれらの3の異なるタイプは、相乗的に作用して、セルロースおよびその誘導体をグルコースに転化する。
【0056】
多くの微生物はセルロースを分解する酵素をつくり、たとえば木材腐朽菌トリコデルマ、コンポスト菌サーモモノスポーラ(Thermomonospora)、バチルス(Bacillus)およびセルロノナス(Cellulomonas);ストレプトマイセス(Streptomyces);ならびに真菌フミコーラ、アスペルギルスおよびフサリウムである。
【0057】
ハイポクレアジェコリーナ由来のCBH2は、グリコシルヒドロラーゼファミリー6(Glycosyl Hydrolase Family6)の構成員(したがって、Cel6)であり、かつ、特にハイポクレアジェコリーナ中に同定されたそのファミリーの第一の構成員(したがって、Cel6A)であった。グリコシルヒドロラーゼファミリー6はエンドグルカナーゼとセロビオヒドロラーゼ/エキソグルカナーゼとの双方を含み、CBH2は後者である。したがって、CBH2、CBH2型タンパク質およびCel6の語句は本明細書では互換的に用いられることができる。
【0058】
本明細書で用いられる「セルロース結合ドメイン」の語は、セルラーゼのアミノ酸配列の部分またはセルラーゼまたはその誘導体のセルロース結合活性に関与する酵素の領域をいう。セルロース結合ドメインは一般に、非共有結合的にセルラーゼをセルロース、セルロース誘導体またはこれらの他の多糖等価物に結合することによって機能する。セルロース結合ドメインは、構造的に区別できる触媒コア領域によってセルロース繊維の加水分解を可能にしまたは促進し、また典型的には該触媒核とは独立に機能する。したがって、セルロース結合ドメインは、触媒コアに帰属できる有意の加水分解活性を有さない。言い換えれば、セルロース結合ドメインは、触媒活性を有する構造要素とは区別できる、セルラーゼ酵素タンパク質の三次構造の構造要素である。セルロース結合ドメインおよびセルロース結合モジュールは本明細書では互換的に用いられることができる。
【0059】
本明細書で用いられる「界面活性剤」の語は、界面活性特性を有すると従来技術で一般的に認められる任意の化合物をいう。したがって、たとえば界面活性剤はアニオン性、カチオン性およびノニオン性界面活性剤、たとえば洗剤に普通に見られるものを含む。アニオン性界面活性剤は、直鎖状または分枝状アルキルベンゼンスルホネート、アルキルまたはアルケニルサルフェート、オレフィンスルホネート、およびアルカンスルホネートを含む。両性界面活性剤は4級アンモニウム塩スルホネート、およびベタイン型両性界面活性剤を含む。かかる両性界面活性剤は、同じ分子中に正および負に帯電した基の双方を有する。ノニオン性界面活性剤は、ポリオキシアルキレンエーテル、ならびに高級脂肪酸アルカノールアミドまたはそのアルキレンオキシド付加物、脂肪酸グリセリンモノエステル等を含むことができる。
【0060】
本明細書で用いられる「セルロース含有布地」の語は、綿含有もしくは綿非含有セルロース、天然セルロース誘導体および人工セルロース誘導体を含む綿含有もしくは綿非含有セルロースブレンドからつくられた任意の縫製または非縫製布地、ヤーンまたは繊維(たとえば、ジュート、亜麻、ラミー、レーヨンおよびリヨセル(lyocell))をいう。
【0061】
本明細書で用いられる「綿含有布地」の語は、純綿もしくは綿ブレンドからつくられた縫製または非縫製布地、ヤーンまたは繊維、たとえば綿織布地、綿ニット、綿デニム、綿ヤーン、原綿等をいう。
【0062】
本明細書で用いられる「ストーンウォッシュ組成物」の語は、ストーンウォッシュセルロース含有布地に用いられる配合物をいう。ストーンウォッシュ組成物は、販売前に、すなわち製造工程の間にセルロース含有布地を修飾するために用いられる。対照的に、洗剤組成物は汚れた衣類の洗浄を目的とし、製造工程の間には用いられない。
【0063】
本明細書で用いられる「洗剤組成物」の語は、汚れたセルロース含有布地を洗濯するための洗浄媒体中で用いられることを目的とした混合物をいう。本開示発明の文脈では、かかる組成物は、セルラーゼおよび界面活性剤に加えて、追加の加水分解酵素、ビルダー、漂白剤、漂白活性化剤、青味剤および蛍光染料、ケーキ防止剤、マスキング剤、セルラーゼ活性化剤、酸化防止剤および可溶化剤を含んでもよい。
【0064】
本明細書で用いられる「cbh2遺伝子の発現の減少または排除」の語は、cbh2遺伝子がゲノムから欠失しており、それゆえ組換え宿主微生物によって発現されることができないか、あるいは機能性CBH2酵素が宿主微生物によって産生されないように、または非修飾のcbh2遺伝子または転写産物よりも有意に少ないレベルでcbh2遺伝子または転写産物が修飾されていることを意味する。
【0065】
「変異体cbh2遺伝子」の語は、ハイポクレアジェコリーナ由来のcbh2遺伝子の核酸配列が、除去、追加および/またはコーディング配列の操作によって変えられていることを意味する。
【0066】
本明細書で用いられる「精製する」の語は、一般にトランスジェニックの配列もしくはタンパク質を含有する細胞を生化学的精製および/またはカラムクロマトグラフィーに付することをいう。
【0067】
本明細書で用いられる「活性な」および「生物学的に活性な」の語は、特定のタンパク質と関連付けられた生物学的活性をいい、本明細書では互換的に用いられる。たとえば、プロテアーゼと関連付けられた酵素活性はタンパク質分解であり、したがって活性なプロテアーゼはタンパク質分解活性を有する。所与のタンパク質の生物学的活性は、当業者によって典型的にそのタンパク質に帰属される任意の生物学的活性をいうということになる。
【0068】
本明細書で用いられる「濃縮され」の語は、セルラーゼ、たとえばCBH2が、野生型または天然に存在する真菌セルラーゼ組成物中に認められるCBH2濃度に比較して大きい濃度で認められることを意味する。濃縮され、高められ、および強化されの語は本明細書では互換的に用いられる。
【0069】
野生型真菌セルラーゼ組成物は、天然に存在する真菌源によって産生されたものであり、それは1以上のBGL、CBHおよびEG成分を含み、これらの成分のそれぞれは該真菌源によって産生された割合で認められる。したがって、濃縮されたCBH組成物はCBHを変えられた割合で有し、CBHの他のセルラーゼ成分(すなわち、EG、ベータ−グルコシダーゼおよび他のエンドグルカナーゼ)に対する比は高められている。従来技術で知られた任意の手段によって、CBHを増加するか、あるいは少なくとも1の他の成分を減少(または除去)することによって、この比は増加されることができる。
【0070】
本明細書で用いられる「単離され」または「精製され」の語は、それが天然に結びついている少なくとも1の成分から分離された核酸またはアミノ酸をいう。
【0071】
したがって、例示すると、天然に存在するセルラーゼ系は、文献中に十分に公表された、広く認められている分離技術、たとえば好適なpHにおけるイオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー等によって実質的に純粋な成分に精製されることができる。たとえば、イオン交換クロマトグラフィー(普通、アニオンクロマトグラフィー)では、pH傾斜もしくは塩傾斜またはpHおよび塩傾斜の双方を用いて溶出することによって、セルラーゼ成分を分離することが可能である。精製されたCBHは、次に酵素溶液に添加されて、濃縮されたCBH溶液を得ることができる。CBHをコードする遺伝子を過剰発現する分子遺伝学方法を、場合により他のセルラーゼをコードする1以上の遺伝子の欠失と併せて用いて、微生物によって産生されたCBHの量を高めることも可能である。
【0072】
真菌セルラーゼは、1以上のCBH成分を含むことができる。異なる成分は一般に異なる等電点を有し、イオン交換クロマトグラフィー等によってそれらが分離されることが可能になる。単一のCBH成分か、あるいはCBH成分の組み合わせが酵素溶液に用いられることができる。
【0073】
酵素溶液に用いられるときは、同属体または変異体CBH2成分は一般に、バイオマスからの可溶性糖質の最大放出速度を可能にするのに十分な量で添加される。添加された同属体または変異体CBH2成分の量は、糖化されるべきバイオマスのタイプに依存し、それは当業者によって容易に決定されることができる。用いられるときは、セルラーゼ組成物中に存在する同属体または変異体CBH2成分の重量パーセントは、好ましくは1〜100であり、例示的実施例は約1、好ましくは約5、好ましくは約10、好ましくは約15、または好ましくは約20パーセント〜好ましくは約25、好ましくは約30、好ましくは約35、好ましくは約40、好ましくは約45、または好ましくは約50重量パーセントである。さらに、好まれる範囲は約0.5〜約15重量パーセント、約0.5〜約20重量パーセント、約1〜約10重量パーセント、約1〜約15重量パーセント、約1〜約20重量パーセント、約1〜約25重量パーセント、約5〜約20重量パーセント、約5〜約25重量パーセント、約5〜約30重量パーセント、約5〜約35重量パーセント、約5〜約40重量パーセント、約5〜約45重量パーセント、約5〜約50重量パーセント、約10〜約20重量パーセント、約10〜約25重量パーセント、約10〜約30重量パーセント、約10〜約35重量パーセント、約10〜約40重量パーセント、約10〜約45重量パーセント、約10〜約50重量パーセント、約15〜約60重量パーセント、約15〜約65重量パーセント、約15〜約70重量パーセント、約15〜約75重量パーセント、約15〜約80重量パーセント、約15〜約85重量パーセント、約15〜約90重量パーセント、約15〜約95重量パーセントである。しかし、用いられるときは、セルラーゼ組成物中に存在する任意のEG型成分に対する同属体または変異体CBH2成分の重量パーセントは、好ましくは約1、好ましくは約5、好ましくは約10、好ましくは約15、または好ましくは約20パーセント〜好ましくは約25、好ましくは約30、好ましくは約35、好ましくは約40、好ましくは約45、または好ましくは約50重量パーセントである。さらに、好まれる範囲は約0.5〜約15重量パーセント、約0.5〜約20重量パーセント、約1〜約10重量パーセント、約1〜約15重量パーセント、約1〜約20重量パーセント、約1〜約25重量パーセント、約5〜約20重量パーセント、約5〜約25重量パーセント、約5〜約30重量パーセント、約5〜約35重量パーセント、約5〜約40重量パーセント、約5〜約45重量パーセント、約5〜約50重量パーセント、約10〜約20重量パーセント、約10〜約25重量パーセント、約10〜約30重量パーセント、約10〜約35重量パーセント、約10〜約40重量パーセント、約10〜約45重量パーセント、約10〜約50重量パーセント、約15〜約20重量パーセント、約15〜約25重量パーセント、約15〜約30重量パーセント、約15〜約35重量パーセント、約15〜約40重量パーセント、約15〜約45重量パーセント、約15〜約50重量パーセントであることができる。
II.セルラーゼ
【0074】
セルラーゼは、セルロース(ベータ−1,4−グルカンまたはベータD−グルコシド結合)を加水分解して、グルコース、セロビオース、セロオリゴ糖等を形成する酵素として従来技術で知られている。上記のように、セルロースは伝統的に3の主な種類、すなわちエンドグルカナーゼ(EC3.2.1.4)(「EG」)、エキソグルカナーゼまたはセロビオヒドロラーゼ(EC3.2.1.91)(「CBH」)およびベータ−グルコシダーゼ([ベータ]−D−グルコシドグルコヒドロラーゼ:EC3.2.1.21)(「BG」)に分けられている。
【0075】
ある種の真菌は、エキソセロビオヒドロラーゼすなわちCBH型セルラーゼ、エンドグルカナーゼすなわちEG型セルラーゼおよびベータ−グルコシダーゼすなわちBG型セルラーゼを含む完全なセルラーゼ系を産生する。しかし、ときには、これらの系はCBH型セルラーゼおよび細菌性セルラーゼを欠き、また典型的にはCBH型セルラーゼをほとんどまたはまったく含まない。さらに、EG成分およびCBH成分は相乗的に相互作用して、セルロースをより効率的に分解することが示されている。異なる成分、すなわち多成分のまたは完全なセルラーゼ系中の各種のエンドグルカナーゼおよびエキソセロビオヒドロラーゼは、一般に異なる性質、たとえば等電点、分子量、糖化度、基質特異性および酵素作用パターンを有する。
【0076】
エンドグルカナーゼ型セルラーゼは、セルロースの低結晶化度の領域中の内部ベータ−1,4−グルコシド結合を加水分解し、エキソセロビオヒドロラーゼ型セルラーゼは、セルロースの還元性または非還元性末端からセロビオースを加水分解すると考えられる。エンドグルカナーゼ成分の作用は、エキソセロビオヒドロラーゼ成分によって認識される新しい連鎖末端を創生することによって、エキソセロビオヒドロラーゼの作用を非常に促進することができるということになる。さらに、ベータ−グルコシダーゼ型セルラーゼは、アルキルおよび/またはアリールベータ−D−グルコシド、たとえばメチルベータ−D−グルコシドおよびp−ニトリフェニルグルコシド、ならびに炭水化物のみを含むグルコシド、たとえばセロビオースの加水分解を触媒することが示されている。これは、微生物のための唯一の産生物としてグルコースを生成し、セロビオヒドロラーゼおよびエンドグルカナーゼを阻害するセロビオースを低減しまたは排除する。
【0077】
セルラーゼは、洗剤組成物に多数の用途、たとえば清浄化能力を高めること、柔軟化剤として、および綿布地の感触を改善することを見出す(Printing/Finishing、1991年、第3巻、p.5−14;Tyndall、Textile Chemist and Colorist、1992年、第24巻、p.23−26;およびKumarら、Chemist and Colorist、1997年、第29巻、p.37−42)。機構は本開示発明の一部ではないけれども、セルラーゼの柔軟化および色の保持特性は、米国特許第5,648,263号、5,691,178号および5,776,757号に例示されるようにセルラーゼ組成物中のエンドグルカナーゼ成分に帰されており、これらの米国特許は、特定のアルカリ性エンドグルカナーゼ成分を濃縮されたセルラーゼ組成物を含有する洗剤組成物は、かかる成分を濃縮されていないセルラーゼ組成物と比較して、処理された衣類に色の保持および改善された柔軟性を与えることを開示している。さらに、洗剤組成物中へのかかるアルカリ性エンドグルカナーゼ成分の使用は、(たとえば、米国特許第5,648,263号、5,691,178号および5,776,757号に記載されているように7.5〜10のアルカリ性pHにおいて最大活性を示すことによって)この洗剤組成物のpHの要求を補完することが示されている。
【0078】
セルラーゼ組成物は、綿含有布地を分解して布地の強度の低減をもたらすことも示されており(米国特許第4,822,516号)、商業的な洗剤用途にセルラーゼ組成物を用いることへの消極に寄与している。エンドグルカナーゼ成分を含むセルラーゼ組成物は、完全なセルラーゼ系を含むセルラーゼ組成物と比較して、綿含有布地の強度損失の低減を示すことが示唆されている。
【0079】
セルラーゼは、セルロース性バイオマスのエタノールへの分解に(この場合、セルラーゼがセルロースをグルコースに分解し、酵母または他の微生物がさらにグルコースを発酵してエタノールにする。)、機械パルプの処理に(Poreら、Proc.Tappi Pulping Conf.、1996年、第27〜31巻、p.693−696、米国、テネシー州、Nashville)、飼料添加物としての使用に(国際公開第91/04673号)、および穀粒の湿式粉砕に有用であることが示されている。
【0080】
ほとんどのCBHおよびEGは、セルロース結合ドメイン(CBD)からリンカーペプチドによって分離されたコアドメインからなる多ドメイン構造を有する(Suurnakkiら、2000年)。コアドメインは活性部位を含み、他方、CBDは該酵素をセルロースに結合することによってセルロースと相互作用する(van Tilbeurghら、FEBS Lett.、1896年、第204巻、p.223−227;Tommeら、Eur.J.Biochem.、1988年、第170巻、p.575−581)。CBDは、結晶セルロースの加水分解に特に重要である。示されている。結晶セルロースを分解するセロビオヒドロラーゼの能力は、CBDがないと明らかに減少する( J.、Biotechnol.、1977年、第57巻、p.15−28)。しかし、CBDの正確な役割および作用機構は、依然として推測の事柄である。CBDは、セルロースの表面における有効酵素濃度を単に増加することによって(Stahlbergら、Bio/Technol.、1991年、第9巻、p.286−290)、および/またはセルロース表面から単一セルロース鎖を解き放すことによって(Tormoら、EMBO J、1996年、第15巻、第21号、p.5739−5751)酵素活性を高めていることが示唆されている。異なる基質に対するセルラーゼドメインの効果に関するほとんどの研究が、セロビオヒドロラーゼのコアタンパク質がパパインを用いたタンパク質分解によって容易に産生されることができるので、セロビオヒドロラーゼのコアタンパク質を用いて実施されている(Tommeら、1988年)。多数のセルラーゼが科学文献に記載されており、その例は以下を含む:トリコデルマリーゼイから:Bio/Technology、1983年、第1巻、p.691−696、これはCBH1を開示している。:Teeri,Tら、Gene、1987年、第51巻、p.43−52、これはCBH2を開示している。トリコデルマ以外の種からのセルラーゼも記載されており、たとえばOoiら、Nucleic Acids Research、1990年、第18巻、第19号、これはアスペルギルスアクレアタス(Aspergillus aculeatus)によって産生されたエンドグルカナーゼF1−CMCをコードするcDNA配列を開示している。Kawaguchi Tら、Gene、1996年、第173巻、第2号、p.287−288、これはアスペルギルスアクレアタス由来のベータ−グルコシダーゼ1をコードするcDNAのクローン化および配列決定を開示している。Sakamotoら、Curr. Genet.、1995年、第27巻、p.435−439、これはアスペルギルスカワチ(Aspergillus Kawachii)IFO 4308由来のエンドグルカナーゼCMCアーゼ1をコードするcDNA配列を開示している。Saarilantら、Gene、1990年、第90巻、p.9−14、これはエルビニアカロトバーナ(Erwinia carotovana)由来のエンドグルカナーゼを開示している。Spilliaert Rら、Eur J Biochem.、1994年、第224巻、第3号、p.923−930、これはロードサーマスマリナス(Rhodothermus marinus)由来の熱安定性ベータグルカナーゼをコードするbglAのクローン化および配列決定を開示している。およびHalldorsdottir Sら、Appl Biotechnol.、1998年、第49巻、第3号、p.277−284、これはグリコシルヒドロラーゼファミリー12の熱安定性セルラーゼをコードするロードサーマスマリナス遺伝子のクローン化、配列決定および過剰発現を開示している。しかし、改善された特性、たとえば熱応力条件下または界面活性剤の存在下の改善された性能、高められた比活性、変えられた基質解裂パターンおよび/またはin vitroでの高レベルの発現を有する新規なセルラーゼの特性および特性解析の必要性が存在する。
【0081】
様々な量のCBH型、EG型およびBG型セルラーゼを含む新規かつ改善されたセルラーゼ組成物の開発は、(1)木材パルプまたは他のバイオマスを糖に分解するための組成物に(たとえば、バイオ燃料のようなバイオ化学品の製造のために)、(2)高められた清浄化能力を示す洗剤組成物に、(3)柔軟化剤としておよび/もしくは綿布地の感触を改善する(たとえば、「ストーンウォッシング」もしくは「バイオポリシング」)機能に、ならびに/または(3)飼料組成物として用いるために関心の対象となっている。
【0082】
また、本開示発明で提供されるのは、セルラーゼ変異体を含む全セルラーゼ調製物である。本明細書で用いられる「全セルラーゼ調製物」の語は、天然に存在するおよび天然に存在しないセルラーゼ含有組成物の双方をいう。「天然に存在する」組成物とは、天然に存在する源によって産生されるものであり、これは1以上のセロビオヒドロラーゼ型、1以上のエンドグルカナーゼ型および1以上のベータ−グルコシダーゼ成分を含み、これらの成分のそれぞれはその源によって産生された割合で認められる。天然に存在する組成物は、その成分酵素の割合が天然の有機体によって産生されたものから変えられていないようにセルロース分解酵素に関して修飾されていない有機体によって産生されるものである。「天然に存在しない」組成物は、(1)天然に存在する割合で、あるいは天然に存在しない、すなわち変えられた割合で成分セルロース分解酵素を一緒にすること、または(2)有機体を修飾して1以上のセルロース分解酵素を過剰発現または不十分発現すること、または(3)少なくとも1のセルロース分解酵素が欠失されるように有機体を修飾することによって産生された組成物を包含する。したがって、ある実施態様では、全セルラーゼ調製物は、欠失された様々なEGおよび/またはCBHおよび/またはベータ−グルコシダーゼの1以上を有する。たとえば、EG1は、単独でまたは他のEGおよび/またはCBHと組み合わされて欠失されることができる。
【0083】
一般に、全セルラーゼ調製物は、酵素、たとえば、(i)エンドグルカナーゼ(EG)または1,4−β−d−グルカン−4−グルカノヒドロラーゼ(EC 3.2.1.4)、(ii)エキソグルカナーゼ、たとえば1,4−β−d−グルカングルカノヒドロラーゼ(セロデキストリナーゼとしても知られている。)(EC 3.2.1.74)および1,4−β−d−グルカンセロビオヒドロラーゼ(エキソ−セロビオヒドロラーゼ、CBH)(EC 3.2.1.91)、および(iii)β−グルコシダーゼ(BG)もしくはβ−グルコシドグルコヒドロラーゼ(EC 3.2.1.21)をこれらに限定されることなく含む。
【0084】
本開示発明では、全セルラーゼ調製物は、セルロース素材の加水分解に有用である任意の微生物由来のものであることができる。ある実施態様では、全セルラーゼ調製物は糸状菌の全セルラーゼである。「糸状菌」は、真菌類(Eumycota)および卵菌類(Oomycota)の亜門のすべての糸状型を含む。ある実施態様では、全セルラーゼ調製物は、アクレモニウム(Acremonium)、アスペルギルス、エメリセラ(Emericella)、フサリウム、フミコーラ、ムコール、マイセリオフソーラ(Myceliophthora)、ニューロスポーラ(Neurospora)、スシタリジウム(Scytalidium)、シーラビア(Thielavia)、トリプロクラジウム(Tolypocladium)またはトリコデルマ種の全セルラーゼである。ある実施態様では、全セルラーゼ調製物は、アスペルギルスアクレアタス、アスペルギルスアワモリ、アスペルギルスフォチダス(Aspergillus foetidus)、アスペルギルスジャポニカ(Aspergillus japonica)、アスペルギルスニジュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルスニガー(Aspergillus niger)またはアスペルギルオリザエ(Aspergillus oryzae)の全セルラーゼである。他の実施態様では、全セルラーゼ調製物は、フサリウムバクトリジオイデス(Fusarium bactridioides)、フサリウムセレアリス(Fusarium cerealis)、フサリウムクルックウェレンス(Fusarium crookwellense)、フサリウムカルモラム(Fusarium culmorum)、フサリウムグラミネアラム(Fusarium graminearum)、フサリウムグラミナム(Fusarium graminum)、フサリウムヘテロスポラム(Fusarium heterosporum)、フサリウムネガンディ(Fusarium negundi)、フサリウムオキシスポラム(Fusarium oxysporum)、フサリウムレティクラタム(Fusarium reticulatum)、フサリウムロゼウム(Fusarium roseum)、フサリウムサンブシナム(Fusarium sambucinum)、フサリウムサルコクロウム(Fusarium sarcochroum)、フサリウムスポロトリキオイデス(Fusarium sporotrichioides)、フサリウムサルフレウム(Fusarium sulphureum)、フサリウムトルロサム(Fusarium torulosum)、フサリウムトリコセシオイデス(Fusarium trichothecioides)またはフサリウムベネナタム(Fusarium venenatum)の全セルラーゼである。他の実施態様では、全セルラーゼ調製物は、フミコーラインソレンス、フミコーララヌギノサ(Humicola lanuginosa)、ムコールミーヘイ(Mucor miehei)、マイセリオフソーラサーモフィラ(Myceliophthora thermophila)、ニューロスポーラクラッサ(Neurospora crassa)、スシタリジウムサーモフィラム(Scytalidium thermophilum)またはシーラビアテレストリス(Thielavia terrestris)の全セルラーゼである。他の実施態様では、全セルラーゼ調製物は、トリコデルマハージアナム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマコニンギ(Trichoderma koningii)、トリコデルマロンギブラキアタム(Trichoderma longibrachiatum)、トリコデルマリーゼイ、たとえばRL−P37(Sheir−Neissら、Appl.Microbiol.Biotechnology、1984年、第20巻、p.46−53;Montenecourt B.S.、Can.、1987年)、QM9414(ATCC No.26921)、NRRL 15709、ATCC 16361、56764、56466、56767またはトリコデルマビリデ、たとえばATCC 32098および32086の全セルラーゼである。ある実施態様では、全セルラーゼ調製物は、トリコデルマリーゼイRutC30の全セルラーゼであり、これはアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)からトリコデルマリーゼイATCC 56765として入手可能である。
【0085】
本開示発明に用いるのに適した市販のセルラーゼ調製物の例は、たとえばCELLUCLAST(商標)(Novozymes A/S社から入手可能)およびLAMINEX(商標)、IndiAge(商標)およびPrimafast(商標)LAMINEX BG酵素、ACCELLERASE(商標)100およびACCELLERASE(商標)1500(Danisco US社、Genencor部門から入手可能)を含む。
【0086】
本開示発明では、全セルラーゼ調製物は、セルロース素材を加水分解する能力のある酵素の発現をもたらす、従来技術で知られた任意の微生物培養方法由来のものであることができる。発酵は、セルラーゼが発現されまたは単離されるのを可能にする好適な培地中および条件下の、実験室または工業用発酵槽中の、振とうフラスコ培養、小規模または大規模発酵、たとえば連続、バッチ、流加もしくは固相発酵を含むことができる。
【0087】
一般に、セルロース素材を加水分解する能力のある酵素の産生に適した細胞培地中で、微生物は培養される。培養は、従来技術で知られた手順を用いて炭素および窒素源ならびに無機塩を含む好適な栄養培地中で行われる。好適な培地、成長およびセルラーゼの産生に適した温度範囲および他の条件は従来技術で知られている。非限定的な例として、トリコデルマリーゼイによるセルラーゼの産生のための普通の温度範囲は24℃〜28℃である。
【0088】
一般に、全セルラーゼ調製物は、発酵によって産生され最低限の回収および/もしくは精製をされた状態で、またはされない状態で用いられる。たとえば、セルラーゼが細胞によって細胞培地中に分泌されると、セルラーゼを含む細胞培地が用いられることができる。ある実施態様では、全セルラーゼ調製物は、培地および細胞を包含する発酵物質の非分画内容物を含む。あるいは、全セルラーゼ調製物は、任意の都合のよい方法、たとえば沈降、遠心分離、親和性、ろ過または従来技術で知られた任意の他の方法によって処理されることができる。ある実施態様では、全セルラーゼ調製物は、たとえば濃縮され、そしてさらなる精製なしに用いられることができる。ある実施態様では、全セルラーゼ調製物は、細胞生存率を減少しまたは細胞を殺す化学剤を含む。ある実施態様では、細胞は従来技術で知られた方法を用いて溶解されまたは透過性にされる。
III.分子生物学
【0089】
1の実施態様では、本開示発明は、真菌中で機能するプロモーターの調節下における変異体cbh2遺伝子の発現を提供する。したがって、本開示発明は、組換え遺伝学の分野のルーチンの手法に依存する(たとえば、Sambrookら、A laboratory Manual、1989年、第2版;Kriger、Gene Transfer and Expression:A laboratory Manual、1990年;およびAusubelら編、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、1994年、米国、ニューヨーク州、Greene Publishing and Wiley−Interscience社参照)。
cbh2核酸配列を変異する方法
【0090】
変異を導入する従来技術で知られた任意の方法が、本開示発明によって検討されることができる。
【0091】
本開示発明は、変異体cbh2の発現、精製および/または単離ならびに使用に関する。これらの酵素は、好ましくはハイポクレアジェコリーナ由来のcbh2遺伝子を用いる組換え方法によって調製される。発酵ブロスは精製されまたはされないで用いられることができる。
【0092】
ハイポクレアジェコリーナ由来のcbh2遺伝子の単離およびクローン化後に、従来技術で知られた他の方法、たとえば部位特異的変異誘発法が用いられて、発現されたcbh2変異体中の置換されたアミノ酸に対応する置換、付加または欠失が行われる。ここでも、部位特異的変異誘発法および発現されたタンパク質中にアミノ酸の変化を導入する他の方法は、従来技術で知られている(Sambrookら、上掲;およびAusubelら、上掲)。
【0093】
ハイポクレアジェコリーナCBH2のアミノ酸配列変異体をコードするDNAは、従来技術で知られた多様な方法によって調製される。これらの方法は、以下のものに限定されることなく、部位特異的(または、オリゴヌクレオチド媒介)変異誘発法、PCR変異誘発法およびハイポクレアジェコリーナCBH2をコードする予め調製されたDNAのカセット変異誘発法による調製を含む。
【0094】
部位特異的変異誘発法は、置換変異体を調製するための好まれる方法である。この技術は従来技術で周知である(たとえば、Carterら、Nucleic Acids Res.、1985年、第13巻、p.4431−4443およびKunkelら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1987年、第82巻、p.488参照)。手短にいうと、DNAの部位特異的変異誘発法を実施する、出発DNAは、最初に所望の変異をコードするオリゴヌクレオチドをハイブリダイズして、かかる出発DNAの一本鎖にすることによって変えられる。ハイブリダイゼーション後、ハイブリダイズされたオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて、および出発DNAの一本鎖をテンプレートとして用いて、DNAポリメラーゼが用いられて第二の鎖が合成される。したがって、所望の変異をコードするオリゴヌクレオチドが、得られた二本鎖DNA中に取り込まれる。
【0095】
PCR変異誘発法も、出発ポリペプチド、すなわちハイポクレアジェコリーナCBH2のアミノ酸配列変異体をつくるのに適している。Higuchi、PCR Protocols、1990年、p.177−183、Academic Press社:およびValleteら、Nuc.Acids Res.、1989年、第17巻、p.723−733参照。たとえば、Cadwellら、PCR Methods and Applications、1992年、第2巻、p.28−33も参照。手短にいうと、PCR中に少量のテンプレートDNAが出発物質として用いられると、テンプレートDNA中の対応する領域とは配列がわずかに異なるプライマーが用いられて、そのプライマーがそのテンプレートとは異なる位置においてのみテンプレート配列とは異なる比較的大量の特異的DNA断片が生成されることができる。
【0096】
変異体を調製するための他の方法であるカセット変異誘発法は、Wellsら、Gene、1985年、第34巻、p.315−323に記載された手法に基くものである。出発物質は、変異されるべき出発ポリペプチドDNAを含むプラスミド(または他のベクター)である。出発DNA中の1または複数のコドンが同定される。同定された1または複数の変異部位の各側上に、特有の制限エンドヌクレアーゼ部位が存在しなければならない。かかる制限部位が存在しないならば、出発ポリペプチドDNA中の適当な場所に制限部位を導入する上記のオリゴヌクレオチド媒介変異誘発法を用いて、該制限部位が生成されることができる。プラスミドDNAはこれらの部位で切断されて直線にされる。制限部位間のDNAの配列をコードするが所望の1または複数の変異を含む二本鎖オリゴヌクレオチドが、標準的な手順を用いて合成され、その際該オリゴヌクレオチドの二本鎖は別々に合成され、そして次に標準的な手法を用いて一緒にハイブリダイズされる。この二本鎖オリゴヌクレオチドはカセットと呼ばれる。このカセットは、直線にされたプラスミドにそれが直接、結合されるように、該直線にされたプラスミドの両末端と相容性である5’および3’末端を有するように設計される。このプラスミドは今、変異されたDNA配列を有する。
【0097】
上記の代わりの方法で、または上記に加えて、変異体CBH2をコードする所望のアミノ酸配列は決められることができ、またかかるアミノ酸配列変異体をコードする核酸配列は合成的に生成されることができる。
【0098】
このように調製された1または複数の変異体CBH2は、しばしば、このセルラーゼの目的とする用途に依存してさらなる修飾に付されることができる。かかる修飾は、アミノ酸配列のさらなる変更、1または複数の非相同ポリペプチドへの融合および/または共有結合的修飾を含むことができる。
IV.cbh2核酸およびCBH2ポリペプチド
A.変異体cbh2型核酸
【0099】
野生型cbh2の核酸配列は配列番号1に示される。本開示発明は、本明細書に記載された変異体セルラーゼをコードする核酸分子を包含する。核酸分子はDNA分子であることができる。
【0100】
CBH2変異体をコードするDNA配列がDNA構成体中にクローン化された後、このDNAは微生物を形質転換するために用いられる。本開示発明に従って変異体CBH2を発現する目的のために形質転換されるべき微生物は、好都合にはトリコデルマ種に由来する菌株を含むことができる。したがって、本開示発明に従って変異体CBH2セルラーゼを調製するための好まれる様式は、変異体CBH2の一部または全部をコードするDNAの少なくとも断片を含むDNA構成体によって、トリコデルマ種宿主細胞を形質転換することを含む。DNA構成体は一般にプロモーターに機能的に結合される。形質転換された宿主細胞は次に所望のタンパク質を発現するような条件下に育成される。その後、所望のタンパク質産生物は実質的な均一性まで生成されることができる。
【0101】
しかし、実際には、変異体CBH2をコードする所与のDNAのための最善の発現媒体はハイポクレアジェコリーナとは異なることがあるかもしれない。したがって、変異体CBH2の源有機体と系統発生的相似性を持つ形質転換宿主中でタンパク質を発現することがもっとも好都合かもしれない。アスペルギルスニガーが発現媒体として用いられることができる。アスペルギルスニガーを用いる形質転換手法の説明については、国際公開第98/31821号参照。この開示内容は参照によってその全体が取り込まれる。
【0102】
したがって、アスペルギルス種発現系の本明細書の記載は、例示の目的のためのみにおよび本開示発明の変異体CBH2を発現するための一つの選択肢として提供される。しかし、当業者は変異体CBH2をコードするDNAを適切であれば異なる宿主細胞中に発現したい気がするかもしれない。そこで、最適の発現宿主を決定するには変異体CBH2の源が考慮されなければならないことが理解されなければならない。さらに、当業者は、従来技術で入手できる用具を用いるルーチンの手法によって、特定の遺伝子について最適の発現系を選択する能力があるだろう。
B.変異体CBH2ポリペプチド
【0103】
本開示発明の変異体CBH2は、前駆体CBH2のアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を有する。CBH2変異体のアミノ酸配列は、前駆体アミノ酸配列の1以上のアミノ酸の置換、欠失または挿入によって前駆体CBH2のアミノ酸配列とは異なっている。好まれる実施態様では、前駆体CBH2はハイポクレアジェコリーナCBH2である。ハイポクレアジェコリーナCBH2の成熟アミノ酸配列は配列番号3に示される。したがって、本開示発明は、ハイポクレアジェコリーナCBH2中の特定の同定された残基と同等である位置にアミノ酸残基を有するCBH2変異体に関する。CBH2同属体の残基(アミノ酸)はハイポクレアジェコリーナCBH2の残基と、それが相同である(すなわち、一次あるいは三次構造における位置において対応している)か、あるいはハイポクレアジェコリーナCBH2中の特定の残基に、またはその残基の部分に機能的に類似している(すなわち、化学的もしくは構造的に結合し、反応しもしくは相互作用する、同一または類似した機能的能力を有する)ならば、同等である。本明細書で用いられる付番は、成熟CBH2アミノ酸配列の付番(配列番号3)に対応するように意図されている。
【0104】
相同を決定するアミノ酸配列のアラインメントは、好ましくは「配列比較アルゴリズム」を用いることによって決定される。比較のための配列の最適のアラインメントは、たとえばAdv.Appl.Math.1981年、第2巻、p.482の局所相同性アルゴリズムによって、Needleman & Wunsch、J.Mol.Biol.、1970年、第48巻、p.443の相同性アラインメントアルゴリズムによって、Pearson & Lipman、Proc.Nat’l Acad.Sci.USA、1988年、第85巻、p.2422の相似性検索方法によって、これらのアルゴリズムのコンピューターによる実行によって(米国、ウィスコンシン州、Madison、Science Dr、575、Genetic Computer Group社、Wisconsin Genetics Softwear Package中のGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)、または目視検査によって実施されることができる。目視検査は図形処理パッケージ、たとえばカナダ国、モントリオール、Chemical Computing Group社によるMOEを用いてもよい。
【0105】
配列相似性を決定するのに適しているアルゴリズムの例は、BLASTアルゴリズムであり、これはAltschulら、J.Mol.Biol.、1990年、第215巻、p.403−410に記載されている。BLAST解析を実施するためのソフトウェアはNational Center for Biotechnology Information(www.nih.gov)を通して公的に入手可能である。このアルゴリズムは最初に、データベース配列中の同じ長さのワードで並べられたときに、ある正の閾値スコアTに一致するか、あるいはそれを満たすクエリー配列中の長さWのショートワードを同定することによって、高スコア配列対(HSP)を同定することを含む。これらの最初の近傍ワードヒットは、これらを含むもっと長いHSPを見出すための出発点の役割をする。このワードヒットは、比較されている2の配列に沿って、累積アラインメントスコアが増えることができる限り遠くまで両方向に拡張される。累積アラインメントスコアが最大到達値から量Xだけ減少したとき;累積スコアがゼロ以下になったとき;またはいずれかの配列が末端に達したときに、ワードヒットの伸長は停止される。BLASTアルゴリズムパラメータW、TおよびXは、アラインメントの感度および速度を決定する。BLASTプログラムは初期値としてワード長さ(W)11、BLOSUM62スコアマトリクス(HenikoffおよびHenikoff、Proc.Natl.Acad.USA、1989年、第89巻、p.10915参照)アラインメント(B)50、期待値(E)10、M’5、N’−4および両ストランドの比較を用いる。
【0106】
BLASTアルゴリズムは、次に2の配列の相似性の統計解析を実施する(KarlinおよびAltschul、Proc.Natl.Acad.USA、1993年、第90巻、p.5857−5787参照)。BLASTアルゴリズムによって示される相似性の1の尺度は最小和確率(P(N))であり、これは2のヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の一致が偶然によって起きる確率の目安を与える。たとえば、試験アミノ酸配列とプロテアーゼアミノ酸配列とを比較したときの最小和確率が約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、もっとも好ましくは約0.001未満であるならば、該アミノ酸配列はプロテアーゼに相似しているとみなされる。
【0107】
本開示発明の目的のために、同一性の程度は、従来技術で知られたコンピュータプログラム、たとえばGCGプログラムパッケージ(ウィスコンシンパッケージのためのプログラムマニュアル、第8版、1994年8月、米国、53711、ウィスコンシン州、Madison、Science Dr、575、Genetic Computer Group社)(Needleman S.B.およびWunsch C.D.、Journal of Molecular Biology、1970年、第48巻、p.443―445)において提供されるGAPによって、以下のポリヌクレオチド配列比較用の設定値、すなわち5.0のGAPクリエーションペナルティおよび0.3のGAPエクステンションペナルティを有するGAPを用いて適当に決定される。
【0108】
トリコデルマリーゼイCBH2と他のセルラーゼとの間の構造アラインメントが、トリコデルマリーゼイCBH2(配列番号3)と中程度から高度の相同性、たとえば約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%またはさらに99%を有する他のセルラーゼにおける同等の/対応する位置を同定するために用いられることができる。当該構造アラインメントを得る1の方法は、GCGパッケージからのPile Upプログラムを、ギャップペナルティの初期値、すなわち3.0のギャップクリエーションペナルティおよび0.1のギャップエクステンションペナルティで用いることである。他の構造アラインメント方法は疎水性クラスター解析(Gaboriaudら、FEBS Letters、1987年、第224巻、p.149−155)およびリバーススレッディング(HuberおよびTorda、Protein Science、1998年、第7巻、p.142−149)を含む。
【0109】
各種の参照セルラーゼの成熟型の典型的アラインメントが図3に示される。参照セルラーゼは、ハイポクレアジェコリーナ(トリコデルマリーゼイとしても知られている。)CBH2、(配列番号3)、ハイポクレアキニンギCBH2(配列番号4)、フミコーラインソレンスCBH2(配列番号5)、アクレモニウムセルロリティカスCBH2(配列番号6)、アガリカスビスポラスCBH2(配列番号7)、フサリウムオシスポラムEG(配列番号8)、ファネロキーテクリソスポリウムCBH2(配列番号9)、タラロマイセスエメルソニCBH2(配列番号10)、サーモビフィダ.フスカ6B/E3 CBH2(配列番号11)、サーモビフィダフスカ6A/E2 EG(配列番号12)およびセルロモナスフィミCenA EG(配列番号13)を含む。配列は、ClustalWおよびMUSCLE多重配列アラインメントアルゴリズムを用いてアラインメントされた。図3の配列アラインメントのセルラーゼの同一性パーセントを示すマトリクスは、表1に示される。
【表1】
【0110】
配列検索は典型的には、所与の核酸配列をGenBank DNA Sequencesおよび他の公共データベース中の核酸配列と比較して評価するときに、BLASTINプログラムを用いて実施された。GenBank DNA Sequencesおよび他の公共データベース中のアミノ酸配列に対してすべてのリーディングフレームにおいてすでに翻訳されている核酸配列を検索するためには、BLASTEXプログラムが好まれる。BLASTINおよびBLASTEXの双方とも、11.0のオープンギャップペナルティおよび1.0のエクステンションギャップペナルティの初期値パラメータを用いて作動され、BLOSUM−62マトリクスを用いる(Altschulら、1997年参照)。
V.組換えCBH2変異体の発現
【0111】
本開示発明の方法は、変異体CBH2を発現する細胞を用いることに依存し、CBH2発現の特別な方法は要求されない。変異体CBH2は好ましくはこの細胞から分泌される。本開示発明は、変異体CBH2をコードする核酸配列を含む発現ベクターをすでに形質導入され、形質転換されまたはトランスフェクトされた宿主細胞を提供する。培養条件、たとえば温度、pH等は、形質導入、形質転換またはトランスフェクションの前に親宿主細胞についてすでに用いられたものであり、当業者には明らかであろう。
【0112】
1の研究方法では、真菌細胞または酵母細胞は、宿主細胞株中で変異体CBH2をコードするDNAセグメントに機能しうるように連結され、該変異体CBH2が該宿主細胞株中で発現されるように機能するプロモーターまたは生物学的に活性なプロモーター断片または1以上(たとえば、一連)のエンハンサーを有する発現ベクターをトランスフェクトされる。
A.核酸構成体/発現ベクター
【0113】
変異体CBH2をコードする天然または合成ポリヌクレオチド断片(「CBH2をコードする核酸配列」)は、真菌細胞または酵母細胞中に導入しそして複製する能力のある非相同核酸構成体またはベクター中に取り込まれることができる。本明細書に開示されたベクターおよび方法は、変異体CBH2の発現のために宿主細胞中で用いるのに適している。任意のベクターが、それが複製可能であり、かつそれが導入される細胞中で生存可能である限り、用いられることができる。多数の好適なベクターおよびプロモーターが当業者には知られており、商業的に入手可能である。クローン化および発現ベクターはSambrookら、1989年、Ausubel F Mら、1989年およびStrathernら、The Molecular Biology of the Yeast Saccharomyces、1981年にも記載されており、これらのそれぞれは参照によって本明細書に明示的に取り込まれる。真菌に適切な発現ベクターは、van den Hondel、C.A.M.J.J.ら、Bennett,J.W.およびLasure,L.L.編、More Gene Manipulations in Fungi、1991年、p.396−428、AcademicPress社に記載されている。適切なDNA配列は、多様な手順によってプラスミドまたはベクター(本明細書では「ベクター(類)」と総称される。)中に挿入されることができる。一般に、DNA配列は、標準的な手順によって適切な1または複数の制限エンドヌクレアーゼ部位中に挿入される。かかる手順および関連したサブクローン化手順は、当業者の知識の範囲内であるとみなされる。
【0114】
変異体CBH2のコーディング配列を含む組換え真菌は、変異体CBH2をコードする配列を含む非相同核酸構成体を選択された株の真菌の細胞中に導入することによって、産生されることができる。
【0115】
所望の型の変異体cbh2核酸配列が得られると、これは多様な様式で修飾されることができる。配列が非コーディングフランキング領域を含む場合には、該フランキング領域は切除、変異生成等に付される。したがって、転移、トランスバージョン、欠失および挿入が天然に存在する配列上に実施されることができる。
【0116】
選択された変異体cbh2をコードする核酸は、周知の組換え技術に従って適当なベクター中に挿入され、CBH2発現の能力のある真菌を形質転換するために用いられることができる。遺伝子暗号の本質的な縮重性のために、実質的に同じまたは機能的に同等のアミノ酸配列をコードする他の核酸配列が、変異体CBH2をクローン化し発現するために用いられることができる。したがって、コーディング領域中のかかる置換は、本開示発明によって保護される配列変異体に属すると評価される。任意およびすべてのこれらの配列変異体は、親CBH2をコードする核酸配列について本明細書に記載されたのと同じ様式で用いられることができる。
【0117】
本開示発明は、上記の変異体CBH2をコードする核酸配列の1以上を含む組換え核酸構成体も含む。この構成体は、その中に本開示発明の配列が前方向または逆方向で挿入されているベクター、たとえばプラスミドまたはウイルスベクターを含む。
【0118】
非相同核酸構成体は、変異体cbh2のためのコーディング配列を(i)孤立して;(ii)さらなるコーディング配列、たとえば融合タンパク質コーディング配列またはペプチドコーディング配列との組み合わせで(この場合、該cbh2コーディング配列が主要なコーディング配列である);(iii)適当な宿主中でのコーディング配列の発現に有効な非コーディング配列、たとえばイントロンおよび制御要素、たとえばプロモーターおよびターミネーター要素または5’および/もしくは3’非翻訳領域との組み合わせで;および/または(iv)cbh2コーディング配列が非相同遺伝子であるベクターまたは宿主の環境において、含むことができる。
【0119】
本開示発明の1の側面では、非相同核酸構成体が、変異体CBH2をコードする核酸配列をin vitro細胞中に移すために用いられ、該in vitro細胞は樹立真菌株および樹立酵母株を用いることが好まれる。変異体CBH2の長期間の産生のためには、安定な発現が好まれる。安定な形質転換体を生成するのに有効な任意の方法が、本開示発明を実施するのに用いられることができるということになる。
【0120】
適切なベクターは、典型的には選択可能マーカーをコードする核酸配列、挿入部位および適当な制御要素、たとえばプロモーターおよび停止配列を備えている。ベクターは、宿主細胞中のコーディング配列の発現に有効な、該コーディング配列に機能しうるように連結された調節配列、たとえば非コーディング配列、たとえばイントロンおよび制御要素、すなわちプロモーターおよびターミネーター要素または5’および/もしくは3’非翻訳領域を含むことができる。多数の適当なベクターおよびプロモーターが当業者に知られており、その多くは商業的に入手可能であり、および/またはSambrookら(上掲)に記載されている。
【0121】
典型的なプロモーターは、構造性プロモーターおよび誘導性プロモーターの双方を含み、その例はCMVプロモーター、SV40早期プロモーター、RSVプロモーター、EF−1アルファプロモーター、記載されているようなテットオン(tet−on)またはテットオフ(tet off)系におけるテット反応エレメント(TRE)を有するプロモーター(Clon TechおよびBASF)、ベータアクチンプロモーターおよびある種の金属塩の転化によって上方調節されることができるメタロチオニンプロモーターを含む。プロモーター配列は、発現の目的のために特定の真菌によって認識されるDNA配列である。これは、変異体CBH2ポリペプチドをコードするDNA配列に機能しうるように連結されている。かかる連結は、本開示発明の発現ベクター中の変異体CBH2ポリペプチドをコードするDNA配列の開始コドンに関してのプロモーターの位置決めを含む。プロモーター配列は、変異体CBH2ポリペプチドの発現を媒介する転写および翻訳制御配列を有する。この例は、アスペルギルスニガー、アスペルギルスアワモリまたはアスペルギルスオリザエグルコアミラーゼ、アルファアミラーゼまたはアルファグルコシダーゼをコードする遺伝子;アスペルギルスニジュランスgpdAまたはtrpC遺伝子;ニューロスポーラクラッサcbh1またはtrp1遺伝子;アスペルギルスニガーまたはリゾムコールミーヘイ(Rhizomucor miehei)アスパラギン酸プロテアーゼをコードする遺伝子;ハイポクレアジェコリーナ(トリコデルマリーゼイ)cbh1、cbh2、egl1、egl2または他のセルラーゼをコードする遺伝子由来のプロモーターを含む。
【0122】
適当な選択可能マーカーの選択は宿主細胞に依存し、異なる宿主のための適切なマーカーは従来技術で周知である。典型的な選択可能マーカー遺伝子は、アスペルギルスニジュランスまたはトリコデルマリーゼイ由来のargB、アスペルギルスニジュランス由来のamdS、ニューロスポーラクラッサまたはトリコデルマリーゼイ由来のpyr4、アスペルギルスニガーまたはアスペルギルスニジュランス由来のpyrGを含む。さらなる典型的な選択可能マーカーは、以下のものに限定されることなく、trpc、trp1、oliC31、niaDまたはleu2を含み、これらは変異体株、たとえばtrp−、pyr−、leu−等を形質転換するために用いられる非相同核酸構成体に包含される。
【0123】
かかる選択可能マーカーは、真菌によっては普通、代謝されない代謝産物を利用する能力を形質転換体に与える。たとえば、酵素アセタミダーゼをコードする、ハイポクレアジェコリーナ由来のamdS遺伝子は、形質転換体細胞にAcetamideを窒素源としてその上で成長することを可能にする。選択可能マーカー(たとえば、pyrG)は、選択的最少培地上で成長する能力を栄養要求性変異体株に回復することができ、または選択可能マーカー(たとえば、olic31)は、阻害剤もしくは抗生物質の存在下に成長する能力を形質転換体に与えることができる。
【0124】
選択可能マーカーをコードする配列は、従来技術で用いられる一般的な方法を使用して任意の適当なプラスミド中にクローン化される。典型的なプラスミドは、pUC18、pBR322、pRAXおよびpUC100を含む。pRAXプラスミドはアスペルギルスニジュランス由来のAMAL配列を有し、これはアスペルギルスニガー中で複製することを可能にする。
【0125】
本開示発明の実施は、特に示されない限り、分子生物学、微生物学、組換えDNAおよび免疫学の慣用の手法を用い、これらは当業者の技能の範囲内である。かかる手法は文献に完全に説明されている。たとえば、Sambrookら、1989年;Freshley、Animal Cell Culture、1987年;Ausubelら、1993年;およびColiganら、Current Protocol in Immunology、1991年参照。
B.CBH2産生のための宿主細胞および培養条件
(i)真菌
【0126】
かくして、本開示発明は、対応する非形質転換真菌と比較して、変異体CBH2の産生または発現をもたらすのに有効な様式で修飾され、選択されおよび培養された細胞を含む真菌を提供する。
【0127】
変異体CBH2の発現のために処理されおよび/または修飾されることができる親真菌の種の例は、以下のものに限定されることなく、トリコデルマ、たとえばトリコデルマリーゼイ、トリコデルマロンギブラキアタム、トリコデルマビリデ、トリコデルマコニンギ;ペニシリウム種、フミコーラ種、たとえばフミコーラインソレンス;アスペルギルス種、クリソスポリウムフサリウム種およびエメリセラ種を含む。
【0128】
CBH2発現細胞は、親真菌株を培養するために典型的に用いられる条件下に培養される。一般に、細胞は、生理的塩および栄養素、たとえばPourquie,J.ら、Biochemistry and Genetics of Cellulose Degradation、Aubert,J.P.ら編、1988年、p.71−86、Academic Press社、およびIlmen,M.ら、Appl.Environ.Microbiol.1977年、第63巻、p.1298−1306に記載されているようなものを含有する標準的な培地中で培養される。培養条件も標準的であり、たとえば培養物は振とう培養器または発酵槽中28℃で、所望のレベルのCBH2の発現が達成されるまで温置される。
【0129】
所与の真菌のための好まれる培養条件は、科学文献中におよび/または真菌源、たとえばアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC;www.atcc.org/)から見出されることができる。真菌の成長が達成された後、この細胞は、変異体CBH2の発現を生じさせまたは可能にするために有効な条件に曝露される。
【0130】
CBH2をコードする配列が誘導性プロモーターの制御下にある場合には、誘発剤、たとえば糖、金属塩または抗生物質が、CBH2発現を誘発するのに有効な濃度で培地に添加される。
【0131】
1の実施態様では、株はアスペルギルスニガーを含み、これは過剰発現されたタンパク質を得るために有用な株である。たとえば、アスペルギルスニガーバールアワモリ(Aspergillus niger var awamori)dgr246は、高められた量の分泌型セルラーゼを分泌することが知られている(Goedegebuurら、Curr.Genet、2002年、第41巻、p.89−98)。アスペルギルスニガーバールアワモリの他の株、たとえばGCDAP3、GCDAP4およびGAP3−4が知られている(Wardら、Appl.Microbiol.Biotechnol.、1993年、第39巻、p.738−743)。
【0132】
他の実施態様では、株はトリコデルマリーゼイを含み、これは過剰発現されたタンパク質を得るために有用な株である。たとえば、Sher−Neissら、Appl.Microbiol.Biotechnol.、1984年、第20巻、p.46−53によって記載されたRL−P37は、高められた量のセルラーゼ酵素を分泌することが知られている。RL−P37の機能的同等物は、リコデルマリーゼイ株RUT−C30(ATCC No.56765)および株QM9414(ATCC No.26921)を含む。これらの株は変異体CBH2を過剰発現するのに有用であろうと予想される。
【0133】
潜在的に有害な天然のセルロース分解活性のない変異体CBH2を得ることが望まれるときは、変異体CBH2をコードするDNA断片を有するDNA構成体またはプラスミドの導入前に1以上のセルラーゼ遺伝子を欠失させたトリコデルマ宿主細胞株を得ることが有用である。かかる株は、米国特許第5,246,853号および国際公開第92/06209号に開示された方法によって調製されることができ、これらの開示内容は参照によって本明細書に取り込まれる。宿主微生物中に1以上のセルラーゼ遺伝子を欠いている変異体CBH2セルラーゼを発現することによって、同定およびその後の精製の手順が簡略化される。クローン化されたトリコデルマ種由来の任意の遺伝子、たとえばcbh1、cbh2、egl1およびegl2遺伝子、ならびにEG IIIおよび/またはEGVタンパク質をコードする遺伝子が欠失されることができる(たとえば、それぞれ、米国特許第5,475,101号および国際公開第94/28117号参照)。
【0134】
遺伝子の欠失は、従来技術で知られた方法によって、欠失または分離されるべき所望の遺伝子の型をプラスミド中に挿入することによって達成されることができる。欠失プラスミドは次に、所望の遺伝子コーディング領域の内側の適切な1または複数の制限酵素部位で切断され、そしてその遺伝子コーディング配列またはその一部が選択可能マーカーで置き換えられる。欠失または分離されるべき遺伝子の遺伝子座からのフランキングDNA配列、好ましくは約0.5〜2.0kbのものが、選択可能マーカー遺伝子の両側に残る。適切な欠失プラスミドは、一般にその中に存在する特有の制限酵素部位を有し、フランキングDNA配列を含む欠失された遺伝子を有する断片および選択可能マーカー遺伝子が、単一の直鎖状片として除かれることを可能にする。
【0135】
選択可能マーカーは、形質転換された微生物の検知を可能にするように選択されなければならない。選択された微生物中に発現されている任意の選択可能マーカー遺伝子が適当である。たとえば、アスペルギルス種では、選択可能マーカーは、形質転換体中の該選択可能マーカーの存在がその特性に有意に影響を与えないように選択される。かかる選択可能マーカーは、アッセイ可能な産生物をコードする遺伝子であることができる。たとえば、アスペルギルス種遺伝子の機能性コピーが用いられることができ、これは、宿主株中に欠けているならば、栄養要求性表現型を示す宿主株をもたらす。同様に、選択可能マーカーはトリコデルマ種についても存在する。
【0136】
1の実施態様では、アスペルギルス種のpyrG−誘導体株は、機能性pyrG遺伝子によって形質転換され、これはかくして形質転換のための選択可能マーカーを提供する。pyrG−誘導体株は、フルオロオロチン酸(FOA)に耐性であるアスペルギルス種株の選択によって得られることができる。pyrG遺伝子は、ウリジンの生合成に要求される酵素であるオロチジン−5’−モノホスフェートデカルボキシラーゼをコードする。無傷pyrG遺伝子を有する株は、ウリジンを欠いているがフルオロオロチン酸に敏感である培地中で成長する。FOA耐性を選び出すことによって、機能性のオロチジンモノホスフェートデカルボキシラーゼ酵素を欠いており成長のためにウリジンを要求するpyrG−誘導体株を選択することが可能である。FOA選択手法を用いて、機能性オロテートピロホスホリボシルトランスフェラーゼを欠いているウリジン要求株を得ることも可能である。この酵素をコードする遺伝子の機能性コピーを有するこれらの細胞を形質転換することが可能である(BergesおよびBarreau、Curr.Genet.、1991年、第19巻、p.359−365、およびHartingsveldtら、pyrG遺伝子に基づくアスペルギルスニガーのための相同性形質転換系の開発(Development of a Homologous Transformation system for Aspergillus niger based on the pyrG)、Mol.Gen.Genet.、1986年、第206巻、p.71−75)。誘導体株の選択は、上で言及したFOA耐性手法を用いて容易に実施され、したがってpyrG遺伝子が選択可能マーカーとして好ましくは用いられる。
【0137】
第2の実施態様では、ハイポクレア種(ハイポクレア種(トリコデルマ種))のpyr4−誘導体株が機能性pyr4遺伝子によって形質転換され、これはかくして形質転換のための選択可能マーカーを提供する。pyr4誘導体株は、フルオロオロチン酸(FOA)に耐性であるハイポクレア種(トリコデルマ種)の選択によって得られることができる。pyr4遺伝子は、ウリジンの生合成に要求される酵素であるオロチジン−5’−モノホスフェートデカルボキシラーゼをコードする。無傷pyr4遺伝子を有する株は、ウリジンを欠いているがフルオロオロチン酸に敏感である培地中で成長する。FOA耐性を選び出すことによって、機能性のオロチジンモノホスフェートデカルボキシラーゼ酵素を欠いており成長のためにウリジンを要求するpyr4誘導体株を選択することが可能である。FOA選択手法を用いて、機能性オロテートピロホスホリボシルトランスフェラーゼを欠いているウリジン要求株を得ることも可能である。この酵素をコードする遺伝子の機能性コピーを有するこれらの細胞を形質転換することが可能である(BergesおよびBarreau、1991年)。誘導体株の選択は、上で言及したFOA耐性手法を用いて容易に実施されることができ、したがってpyr4遺伝子が選択可能マーカーとして好ましくは用いられる。
【0138】
1以上のセルラーゼ遺伝子を発現する能力を欠くようにpyrG−アスペルギルス種またはpyr4−ハイポクレア種(トリコデルマ種)を形質転換するために、分離されたまたは欠失されたセルラーゼ遺伝子を含む単一のDNA断片が、次に欠失プラスミドから単離され、そして適切なpyr−アスペルギルスまたはpyr−トリコデルマ宿主を形質転換するために用いられる。形質転換体は次に、それぞれ、pyrGまたはpyr4遺伝子産物を発現するそれらの能力に基づいて同定され選択され、かくして宿主株のウリジン栄養要求性を相補する。得られた形質転換体についてサザンブロット分析が次に実施されて、適切なpyr4選択可能マーカーによって欠失されるべき遺伝子のゲノムコピーのコーディング領域の一部またはすべてを置き換える二重クロスオーバー組み込み事象を特定しおよび確認する。
【0139】
上記の特定のプラスミドベクターはpyr−形質転換体の調製に関するものであるけれども、本開示発明はこれらのベクターに限定されない。各種の遺伝子が、上記の手法を用いてアスペルギルス種またはハイポクレア種(トリコデルマ種)の株中で欠失され、置き換えられることができる。さらに、任意の入手可能な選択可能マーカーが上記のとおりに用いられることができる。事実、クローン化されかくして同定された任意の宿主、たとえばアスペルギルス種またはハイポクレア種の遺伝子が、上記の戦略を用いてゲノムから欠失されることができる。
【0140】
上記のように、用いられる宿主株は、非機能性遺伝子または選択された選択可能マーカーに相当する遺伝子を欠くかまたは有するハイポクレア種(トリコデルマ種)の誘導体であることができる。たとえば、アスペルギルス種のためにpyrGの選択可能マーカーが選択されると、特定のpyrG−誘導体株が形質転換手順において受容体として用いられる。また、たとえばハイポクレア種のためにpyr4の選択可能マーカーが選択されると、特定のpyr4−誘導体株が形質転換手順において受容体として用いられる。同様に、アスペルギルスニジュランスの遺伝子、amdS、rgB、trpC、niaDと同等なハイポクレア種(トリコデルマ種)の遺伝子を含む選択可能マーカーが用いられてよい。対応する受容体株は、よって、誘導体株、たとえばそれぞれ、argB−、trpC−、niaD−でなければならない。
【0141】
CBH2変異体をコードするDNAが、次に適当な微生物中への挿入のために調製される。本開示発明によれば、CBH2変異体をコードするDNAは、機能するセルロース分解活性を有するタンパク質をコードするのに必要なDNAを含む。CBH2変異体をコードするDNA断片は、真菌のプロモーター配列、たとえばアスペルギルス中のglaA遺伝子のプロモーターまたはトリコデルマ中のegl1遺伝子のプロモーターに機能しうるように結合されることができる。
【0142】
CBH2変異体をコードするDNAの1より多いコピーが株の中で組換えられて、過剰発現を促進することができることも意図される。CBH2変異体をコードするDNAは、該変異体をコードするDNAを有する発現ベクターの構築によって調製されてよい。CBH2変異体をコードする挿入されたDNA断片を有する発現ベクターは、所与の宿主生物中で自律的に複製する能力があるか、又は該宿主のDNA中に組み込まれる能力がある任意のベクターであることができ、典型的にはプラスミドである。好まれる態様では、遺伝子の発現を得るための2種類の発現ベクターが検討される。第1は、その中でプロモーター、遺伝子コーディング領域およびターミネーター配列の全てが発現されるべき遺伝子に由来する、DNA配列を含む。遺伝子の末端削除は、不所望のDNA配列(たとえば、望まないドメインをコードする配列)を欠失することによって、それ自身の転写および翻訳調節配列の制御下で発現されるべきドメインを残すことが望まれる場合に、得られることができる。選択可能なマーカーも該ベクター上に含まれることができ、新規の遺伝子配列の複数コピーの宿主中への組み込みのための選択を可能にする。
【0143】
第2の種類の発現ベクターは予め組み立てられており、高レベルの転写に要求される配列および選択可能マーカーを含む。遺伝子またはその一部のコーディング領域が、この汎用の発現ベクター中に、発現カセットプロモーターおよびターミネーター配列の転写制御下にあるように挿入されることができることが検討される。
【0144】
たとえば、アスペルギルスでは、pRAXはかかる汎用の発現ベクターである。遺伝子またはその一部は、強いglaaプロモーターの下流に挿入されることができる。
【0145】
たとえば、ハイポクレアでは、pTEXはかかる汎用の発現ベクターである。遺伝子またはその一部は、強いglaaプロモーターの下流に挿入されることができる。
【0146】
上記のベクターでは、本開示発明のCBH2変異体をコードするDNA配列は、構造遺伝子へのリ−ディングフレームにおいて、転写および翻訳配列、すなわち適当なプロモーター配列およびシグナル配列と機能しうるように連結されなければならない。プロモーターは、宿主細胞中で転写活性を示す任意のDNA配列であることができ、また宿主細胞と相同か、あるいは非相同のタンパク質をコードする遺伝子に由来することができる。任意的なシグナルペプチドは、CBH2変異体の細胞外産生をもたらす。シグナル配列をコードするDNA配列は、好ましくは発現されるべき遺伝子に天然に付随しているものである。しかしながら、任意の適当な源、たとえばトリコデルマ由来のエキソセロビオヒドラーゼまたはエンドグルカナーゼからのシグナル配列が、本開示発明において意図される。
【0147】
本開示発明の変異体CBH2をコードするDNA配列とプロモーターとの結合および適当なベクター中への挿入に用いられる手法は、従来技術で周知である。
【0148】
上記のDNAベクターまたは構成体は、公知の技術、たとえば形質転換、トランスフェクション、マイクロインジェクション、マイクロポレーション、バイオリスティック砲撃等に従って宿主細胞に導入されることができる。
【0149】
好まれる形質転換技術では、ハイポクレア種(トリコデルマ種)中のDNAへの細胞壁の透過性が非常に低いことが考慮されなければならない。したがって、所望のDNA配列、遺伝子または遺伝子断片の取り込みは、よくても最小量である。形質転換プロセスの前に、誘導体株(すなわち、用いられた選択可能マーカーに相当する機能性遺伝子を欠いている)中のハイポクレア種(トリコデルマ種)の細胞壁の透過性を増加させるための多数の方法が存在する。
【0150】
形質転換のためにアスペルギルス種またはハイポクレア種(トリコデルマ種)を調製するための本開示発明において好まれる方法は、真菌の菌糸体由来のプロトプラストの調製を含む。Campbellら、Improvedtransformation efficiency of A.niger using homologous niaD gene for nitrate reductase、Curr.Genet.、1989年、第16巻、p.53−56参照。菌糸体は、出芽した生長性胞子から得られることができる。菌糸体は、細胞壁を消化する酵素で処理されてプロトプラストをもたらす。プロトプラストは、次に懸濁媒質中で浸透圧スタビライザーの存在によって保護される。これらのスタビライザーは、ソルビトール、マンニトール、塩化カリウム、硫酸マグネシウム等を含む。通常、これらのスタビライザーの濃度は0.8M〜1.2M間で様々である。懸濁媒質中で約1.2Mのソルビトール溶液を用いることが好ましい。
【0151】
宿主株(アスペルギルス種またはハイポクレア種(トリコデルマ種))中へのDNAの取り込みは、カルシウムイオン濃度に依存する。通常、約10mMのCaCl〜50mMのCaClが取り込み溶液において用いられる。取り込み溶液中にカルシウムイオンが必要なことの他に、一般的に含まれる他の成分は、緩衝系、たとえばTE緩衝液(10mMのTris、pH 7.4;1mMのEDTA)または10mMのMOPS、pH 6.0緩衝液(モルフォリンプロパンスルホン酸)およびポリエチレングリコール(PEG)である。ポリエチレングリコールは細胞膜を融解する作用をし、かくして媒質の含有物が宿主細胞、例としてアスペルギルス種あるいはハイポクレア種の株の細胞質へ送入されることを可能にし、またプラスミドDNAが核に移入されると考えられている。この融解はしばしば、宿主染色体中に組み込まれたプラスミドDNAの複数コピーを残す。
【0152】
通常、10〜10/mL、好ましくは2×10/mLの密度にて透過性処理に付されたアスペルギルス種のプロトプラストまたは細胞を含む懸濁液が、形質転換に用いられる。同様に、10〜10/mL、好ましくは2×10/mLの密度にて透過性処理に付されたハイポクレア種(トリコデルマ種)のプロトプラストまたは細胞を含む懸濁液が、形質転換に用いられる。適当な溶液(たとえば、1.2Mソルビトール;50mMのCaCl)中のこれらのプロトプラストまたは細胞の100μLの量が、所望のDNAと混合される。一般に、高濃度のPEGが取り込み溶液に添加される。25%PEG 4000の0.1〜1の量が、プロトプラスト懸濁液に添加されることができる。しかし、プロトプラスト懸濁液に約0.25の量を添加することが好ましい。添加物、たとえばジメチルスルホキシド、ヘパリン、スペルミジン、塩化カリウム等も取り込み溶液に添加され、形質転換を補助してもよい。
【0153】
一般に、上記混合物は次に、10〜30分間、約0℃において培養される。追加のPEGが次に混合物に添加され、所望の遺伝子またはDNA配列の取り込みをさらに増加する。25%PEG4000は、一般に形質転換混合物の量の5〜15倍の量で添加される。しかし、これより多いおよび少ない量が適当であることもある。25%PEG4000は、好ましくは形質転換混合物の量の約10倍である。PEGが添加された後、形質転換混合物は次に室温か、あるいは氷上において培養され、その後ソルビトールおよびCaCl溶液が添加される。プロトプラスト懸濁物が次に、さらに成長培地の融解アリコートに添加される。この成長培地は、形質転換体の成長のみを許容する。所望の形質転換体を生育するのに適している任意の成長培地が、本開示発明に用いられることができる。しかし、Pyr形質転換体が選択されるならば、ウリジンを含んでいない成長培地を用いることが好ましい。その後のコロニーが、ウリジンを含んでいない成長培地上に移され精製される。
【0154】
この段階では、安定な形質転換体は、不安定な形質転換体よりも速い成長速度、および、たとえばトリコデルマではウリジンを含んでいない固形成長培養培地上の不規則ではなくて滑らかな輪郭を有する円形のコロニーの形成によって、不安定な形質転換体とは識別されることができる。さらに、ある場合には、安定性のさらなる試験が、固形非選択(すなわち、ウリジンを含んでいる)培地上で形質転換体を成長させ、この培養培地から胞子を回収し、そしてのちにウリジンを含んでいない選択培地上で出芽し成長するであろうこれらの胞子のパーセントを測定することによって、行われることができる。
【0155】
上記の方法の特定の態様では、1または複数のCBH2変異体は、液状培地中における成長の後に、該CBH2変異体の適切な翻訳後プロセシングの結果として、宿主細胞から活性型で回収される。
(ii)酵母
【0156】
本開示発明は、CBH2産生のための宿主細胞として酵母の使用も意図する。加水分解性酵素をコードするいくつかの他の遺伝子が、酵母サッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の様々な株に発現されている。これらは、2のエンドグルカナーゼ(Pentillaら、Yeast、1987年、第3巻、p.175−185)、2のセロビオヒドロラーゼ(Pentillaら、Gene、1988年、第63巻、p.103−112)およびトリコデルマリーゼイ由来の1のベータ−グルコシダーゼ(CummingsおよびFowler、Curr.Genet.、1996年、第29巻、p.227−233)、アウレオバシジウムプルランス(Aureobasidium pullulans)由来のキシラナーゼ(LiおよびLjungdahl、Appl.Environ.Microbiol.、1996年、第62巻、第1号、p.209−213)、小麦由来のアルファアミラーゼ(Rothsteinら、Gene、1987年、第55巻、p.353−356)等をコードする配列を含む。さらに、ブチリビリオフィブリソルベンスエンド−[ベータ]−1,4−グルカナーゼ(END1)、ファネロキーテクリソスポリウムセロビオヒドロラーゼ(CBH1)、ルミノコッカスフラベファシエンスセロデキストリナーゼ(CEL1)およびエンドマイセスフィブリゼルセロビアーゼ(Bgl1)をコードするセルラーゼ遺伝子カセットが、サッカロマイセスセレビシエの実験室株中で成功裡に発現された(Van Rensburgら、Yeast、1998年、第14巻、p.67−76)。
C.宿主細胞中へのCBH2をコードする核酸配列の導入
【0157】
本開示発明はさらに、遺伝子操作されて、細胞外に供給された変異体CBH2をコードする核酸配列を含む細胞および細胞組成物を提供する。親細胞または細胞株は、クローニングベクターまたは発現ベクターを用いて遺伝子操作される(すなわち、形質導入され、形質転換されまたはトランスフェクトされる)ことができる。ベクターは、さらに記載されるように、たとえばプラスミド、ウイルス粒子、ファージ等の形態をしていることができる。
【0158】
本開示発明の形質転換の方法は、真菌のゲノムへの形質転換ベクターのすべてまたは一部の安定な取り込みをもたらすことができる。しかし、自己複製染色体外形質転換ベクターの維持をもたらす形質転換も意図される。
【0159】
多くの標準的なトランスフェクション方法が、大量の非相同タンパク質を発現するトリコデルマリーゼイ細胞株を産生するために用いられることができる。DNA構成体をトリコデルマのセルラーゼ産生株中に導入するための公表された方法のいくつかは、Lorito、Hayes、DiPietroおよびHarman、Curr.Genet.、1993年、第24巻、p.349−356;Goldman、VanMontaguおよびHerrera−Estrella、Curr.Genet.、1990年、第17巻、p.169−174;Pentilla、Nevalainem、Ratto、SalminenおよびKnowles、Gene、1987年、第6巻、p.155−164を、アスペルギルスイェルトンについて、HamerおよびTimberlake、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1984年、第81巻、p.1470−1474を、フサリウムバジャーについて、PodilaおよびKolattukudy、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1991年、第88巻、p.8202−8212を、ストレプトマイセスについて、Hopwoodら、The John Innes Foundation、1985年、英国、Norwichを、およびバチルスビリギジについて、DeRossi、Bertarini、RiccardiおよびMatteuzzi、FEMS Microbiol.Lett.、1990年、第55巻、p.135−138を含む。
【0160】
非相同核酸構成体(発現ベクター)を真菌(たとえば、ハイポクレアジェコリーナ)中に導入する他の方法は、以下のものに限定されることなく、粒子または遺伝子銃の使用、形質転換工程前の真菌細胞壁の透過性向上(たとえば、高濃度のアルカリ、たとえば0.05M〜0.4MのCaClまたは酢酸リチウムの使用によって)、プロトプラスト融合またはアグロバクテリウムを介した形質転換を含む。ポリエチレングリコールおよびCaClを用いたプロトプラストまたはスフェロプラストの処理による真菌の形質転換の典型的な方法は、Campbell,E.I.ら、Curr.Genet.、1989年、第16巻、p.53−56、およびPentilla、Gene、1988年、第63巻、p.11−22に記載されている。
【0161】
外来の核酸配列を宿主細胞中に導入するための周知の方法のいずれも用いられることができる。これらは、リン酸カルシウムトランスフェクション、ポリブレン、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、生物言語学、リポソーム、マイクロインジェクション、プラズマベクター、ウイルスベクターおよびクローン化されたゲノムDNA、cDNA、合成DNAまたは他の外来の遺伝子物質を宿主細胞中に導入するための他の周知の方法のいずれかの使用を含む(たとえば、Sambrookら、上掲参照)。同様に用いられるのは、米国特許第6,255,115号に記載されたアグロバクテリウムを介したトランスフェクション法である。用いられる特定の遺伝子組換え方法が、非相同遺伝子を発現する能力のある宿主細胞中に少なくとも1の遺伝子を成功裡に導入することができることのみが必要である。
【0162】
さらに、変異体CBH2をコードする核酸配列を含む非相同核酸構成体は、in vitroで転写されることができ、そして得られたRNAが周知の方法、たとえばイインジェクションによって宿主細胞中に導入されることができる。
【0163】
本開示発明はさらに、真菌セルラーゼ組成物を産生するのに用いられる、糸状菌、たとえばハイポクレアジェコリーナおよびアスペルギルスニガーの新規かつ有用な形質転換体を含む。本開示発明は、糸状菌、とりわけ変異体CBH2コーディング配列、または内因性cbhコーディング配列の欠失を含む糸状菌の形質転換体を含む。
【0164】
変異体cbh2のコーディング配列を含む非相同核酸構成体の導入に引き続いて、プロモーターを活性化し、形質転換体を選択し、またはCBH2をコードする核酸配列の発現を増幅するのに適当なように修飾された慣用の栄養培地中で、この遺伝子組換えによって修飾された細胞が培養されることができる。培養条件、たとえば温度、pH等は、発現のために選択された宿主細胞についてすでに用いられたものであり、当業者には明らかであろう。
【0165】
かかる非相同核酸構成体がその中に導入された細胞の子孫は、一般にこの非相同核酸構成体中に認められる変異体CBH2をコードする核酸配列を含むと考えられる。
【0166】
本開示発明はさらに、真菌セルラーゼ組成物を産生するのに用いられる糸状菌、たとえばハイポクレアジェコリーナの新規かつ有用な形質転換体を含む。アスペルギルスニガーも、変異体CBH2を産生するのに用いられることができる。本開示発明は、糸状菌、とりわけ変異体cbh2コーディング配列、または内因性cbh2コーディング配列の欠失を含む糸状菌の形質転換体を含む。
【0167】
糸状菌の安定な形質転換体は、一般に不安定な形質転換体よりも速い成長速度、および、たとえばトリコデルマでは固形成長培養培地上の不規則ではなくて滑らかな輪郭を有する円形のコロニーの形成によって、不安定な形質転換体とは識別されることができる。さらに、ある場合には、安定性のさらなる試験が、固形非選択培地上で形質転換体を成長させ、この培養培地から胞子を回収し、そしてのちに選択培地上で出芽し成長するであろうこれらの胞子のパーセントを測定することによって、行われることができる。
VI.組換えCBH2タンパク質の単離および精製
【0168】
一般に、細胞培養で産生された変異体CBH2タンパク質は培地中に分泌され、たとえば、細胞培地から望ましくない成分を除くことによって精製され単離されることができる。しかし、ある場合には、変異体CBH2タンパク質は、細胞溶解物からの回収を必要とする細胞型で産生されることができる。かかる場合には、変異体CBH2タンパク質は、当業者によってルーチンに用いられる技術を使用して、その中で産生された細胞から精製される。その例は、以下のものに限定されることなく、親和性クロマトグラフィー(Tilbeurghら、FEBS Lett.、1984年、第16巻、p.215)、イオン交換クロマトグラフ法(Goyalら、Bioresource Tecnol.、1991年、第36巻、p.37−50;Fliesら、Eur.J.Appl.Microbiol.、1983年、第17巻、p.314−318;Bhikhabhaiら、J.Appl.Biochem.、1984年、第6巻、p.336−345;Ellouzら、J.Chromatography、1987年、第396巻、p.307−317)、たとえば高分解能を有する物質を用いるイオン交換(Medveら、J.Chromatography、1998年、第A808巻、p.153−165)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(TomazおよびQueiroz、J.Chromatography、1999年、第A865巻、p.123−128)、および二相分配法(Brumbauerら、Bioseparation、1999年、第7巻、p.287−295)を含む。
【0169】
典型的には、変異体CBH2タンパク質は、選択された特性、たとえば特定の結合剤、たとえば抗体もしくは受容体への結合親和性を有するタンパク質、または選択された分子量範囲もしくは等電点範囲を有するタンパク質を分離するために分画される。
【0170】
所与の変異体CBH2タンパク質の発現が達成されると、それによって産生されたCBH2タンパク質は細胞または細胞培養物から精製される。かかる精製に適した典型的な手順は以下のもの、すなわち抗体−親和性クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー;エタノール沈降;逆相HPLC;シリカ上またはカチオン交換樹脂、たとえばDEAE上のクロマトグラフィー;クロマト分画;SDS−PAGE;硫酸アンモニウム沈降;および、たとえばSephadex G−75を用いるゲルろ過を含む。タンパク質精製の各種の方法が用いられることができ、かかる方法は従来技術で知られており、たとえばDeutscher、Method in Enzymoligy、1990年、第182巻、第57号、p.779;Scopes、Methods Enzymol.、1982年、第90巻、p.479−491に記載されている。選択される1または複数の精製段階は、たとえば用いられた産生工程および産生された特定のタンパク質の性質に依存する。
VII.cbh2およびCBH2の用途
【0171】
変異体cbh2核酸、変異体CBH2タンパク質および変異体CBH2タンパク質活性を含む組成物は、多種多様な用途への利用が見出され、これらの一部が以下に記載される。
【0172】
様々な量のBG型、EG型および変異体CBH型セルラーゼを含む新規かつ改善されたセルラーゼ組成物は、高められた清浄化能力、柔軟化剤としてのおよび/または綿布地の感触を改善する機能(たとえば、「ストーンウォッシング」または「バイオポリシング」)を示す洗剤組成物へ、木材パルプを糖に分解するための組成物へ(たとえば、バイオエタノールの製造のために)および/または飼料組成物への利用を見出す。各型のセルラーゼの単離および特性解析は、かかる組成物の側面を調節する能力を提供する。
【0173】
1の方法では、本開示発明のセルラーゼは洗剤組成物へまたは感触および概観を改善する布地の処理への利用を見出す。
【0174】
セルラーゼ分解産生物の加水分解の速度は、ゲノムに挿入されたcbh遺伝子の少なくとも1の追加のコピーを有する形質転換体を用いることによって増加されることができるので、セルロースまたはヘテログリカンを有する産生物は、より速い速度分解でおよびより高い程度まで分解されることができる。セルロースからの産生物、たとえば紙、綿、セルロースダイアパー等は、埋立地中でより効率的に分解されることができる。したがって、形質転換体から得られることができる発酵産生物または形質転換体そのものが、過密な埋立地に加重される多様なセルロース産生物の分解を液化によって促進するために組成物中に用いられることができる。
【0175】
分離された糖化および発酵は、それによってバイオマス中に存在するセルロース、たとえばトウモロコシ茎葉がグルコースに転化されそしてその後酵母株がグルコースをエタノールに転化するプロセスである。同時の糖化および発酵は、それによってバイオマス中に存在するセルロース、たとえばトウモロコシ茎葉がグルコースに転化されかつ同時におよび同じ反応器中で酵母株がグルコースをエタノールに転化するプロセスである。したがって、他の方法では、本開示発明の変異体CBH型セルラーゼは、バイオマスからエタノールへの分解に利用を見出す。セルロースの容易に利用可能な源からのエタノールの産生は、安定な再生可能燃料源をもたらす。
【0176】
セルロースに基づいた供給原料は、農業廃棄物、草木および他の低価値バイオマス、たとえば都市ごみ(たとえば、古紙、木花ごみ等)から構成される。任意のこれらのセルロース供給原料の発酵からも、エタノールは産生されることができる。しかし、セルロースはまず糖に転化されなければならず、その後で初めてエタノールへの転化ができる。
【0177】
非常に多彩な供給原料が、本発明の変異体CBHに用いられることができ、使用のために選択されるものは、転化が行われる地域に依存することができる。たとえば、米国中西部では、農業廃棄物、たとえば麦わら、トウモロコシ茎葉およびバガスが優位を占めるだろうし、他方、カリフォルニアではコメわらが優位を占めるだろう。しかし、任意の入手可能なセルロース性バイオマスが、任意の地域で用いられることができることが理解されなければならない。
【0178】
本開示発明の方法は、有機生産物、化学製品および燃料、プラスチックおよび他の生産物または中間品のための、化学供給原料としてのまたは微生物のための発酵供給原料としての、単糖、二糖および多糖の産生に用いられることができる。特に、処理残留物(乾燥ディスティラーズグレイン、醸造使用済み穀粒、サトウキビバガス等)の価値は、セルロースまたはヘミセルロースの部分的または完全な溶解によって上げられることができる。エタノールに加えて、セルロースおよびヘミセルロースから産生されることができる一部の化学製品は、アセトン、アセテート、グリシン、リシン、有機酸、(たとえば、乳酸)、1,3−プロパンジオール、ブタンジオール、グリセロール、エチレングリコール、フルフラール、ポリヒドロキシアルカノエート、シス,シス−ムコン酸、動物飼料およびキシロースを含む。
【0179】
高められた量のセロビオヒドロラーゼを有するセルラーゼ組成物は、エタノール産生への利用を見出す。このプロセスからのエタノールはさらに、オクタン価向上剤としてまたは直接、ガソリンの代わりに用いられることができ、燃料としてのエタノールは石油由来の生産物よりも環境に優しいのでこのことは有利である。エタノールの使用は空気の品質を改善し可能性として地域的なオゾンレベルおよびスモッグを低減することが知られている。その上、ガソリンの代わりとしてのエタノールの使用は、非再生可能エネルギーおよび石油化学供給原料への突然の移行の衝撃を和らげる上で戦略的に重要であるといえる。
【0180】
セルロース性バイオマス、たとえば木、草本植物、都市固形廃棄物および農林業廃棄物からの糖化および発酵プロセスによって、エタノールは産生されることができる。しかし、微生物によって産生された天然に存在するセルラーゼ混合物内の個々のセルラーゼ酵素の割合は、バイオマス中のセルロースからグルコースへの急速な転化のためにはもっとも効率的というわけではないかもしれない。エンドグルカナーゼは新しいセルロース鎖末端を生成する作用をし、該新しいセルロース鎖末端自体はセロビオヒドロラーゼの作用のための基質となり、それによって全セルロース系の加水分解の効率を改善することが知られている。したがって、増加されたまたは最適化されたセロビオヒドロラーゼ活性は、エタノールの産生を大幅に高めることができる。
【0181】
したがって、本発明のセロビオヒドロラーゼは、セルロースからその糖成分への加水分解に用途を見出す。1の実施態様では、変異体セロビオヒドロラーゼは、発酵性有機体の添加の前にバイオマスに添加される。第2の実施態様では、変異体セロビオヒドロラーゼは、発酵性有機体と同時にバイオマスに添加される。任意的に、他のセルロース成分がどちらの実施態様でも存在することができる。
【0182】
他の実施態様では、セルロース性供給原料は前処理されてもよい。前処理は、高められた温度および希酸、濃酸または希釈アリカリ溶液の添加によることができる。前処理溶液は、ヘミセルロース成分を少なくとも部分的に加水分解し、そして次に中和されるのに十分な時間添加される。
【0183】
セルロースへのCBH2の作用の主要産物はセロビオースであり、これは(たとえば、真菌セルラーゼ産生物中の)BG活性によるグルコースへの転化に利用可能である。セルロース性バイオマスの前処理によってか、あるいはバイオマスへの酵素作用によって、グルコースおよびセロビオースに加えて他の糖がバイオマスから入手可能にされることができる。バイオマスのセミセルロース含有量は、(セミセルロースによって)糖、たとえばキシロース、ガラクトース、マンノースおよびアラビノースに転換されることができる。かくして、バイオマス転化プロセスでは、酵素的糖化は、他の中間体または最終産生物への生物学的または化学的転化に利用可能にされる糖を産生することができる。したがって、バイオマスから生成された糖は、エタノールの生成に加えて多様なプロセスに用途を見出す。かかる転化の例はグルコースからエタノールへの発酵(M.E.Himmelら、「Fuels and Chemicals from Biomass」中のp.2−45、1997年、ACS Symposium Series 666、B.C.SahaおよびJ.Woodward編)およびグルコースから2,5−ジケト−D−グルコース(米国特許第6,599,722号)、乳酸(R.DattaおよびS−P.Tsai、p.224−236、上掲)、サクシネート(R.R.Gokarn、M.A.EitemanおよびJ.Srigher、p.237−263、上掲)、1,3−プロパンジオール(A−P.Zheng、H.BieblおよびW−D.Deckwar、p.264−279、上掲)、2,3−ブタンジオール(C.S.Gong、N.CaoおよびG.T.Tsao、p.280−293、上掲)への他の生物学的転化、およびキシロールからキシリトール(B.C.SahaおよびR.J.Bothast、p.307−319、上掲)への化学的および生物学的転化である。また、たとえば国際公開第98/21339号参照。
【0184】
本開示発明の洗剤組成物は、(セロビオヒドロラーゼ含有量にかかわらず、すなわちセロビオヒドロラーゼのない、実質的にセロビオヒドロラーゼのないまたはセロビオヒドロラーゼが高められた)セルラーゼ組成物に加えて、界面活性剤、たとえばアニオン性、非イオン性および両性界面活性剤、ヒドロラーゼ、ビルダー、漂白剤、青味剤および蛍光染料、ケーキ防止剤、溶解剤、カチオン性界面活性剤等を用いることができる。すべてのこれらの成分は洗剤分野で知られている。上記のセルラーゼ成分は、液状希釈剤で、顆粒で、乳剤で、ゲルで、ペースト等で洗剤組成物に添加されることができる。かかる形態は当業者に周知である。固形洗剤組成物が用いられるときは、セルラーゼ組成物は、好ましくは顆粒として配合される。好ましくは、顆粒はセルラーゼ保護剤を含有するように配合されることができる。より完全な議論のためには、「CBH2型成分の欠けたセルラーゼ組成物を含有する洗剤組成物」の表題の米国特許第6,162,782号参照。この内容は参照によって本明細書に取り込まれる。
【0185】
好ましくは、セルラーゼ組成物は全洗剤組成物に対して約0.00005重量パーセント〜約5重量パーセント用いられる。より好ましくは、セルラーゼ組成物は全洗剤組成物に対して約0.0002重量パーセント〜約2重量パーセント用いられる。
【0186】
さらに、変異体CBH2核酸配列は、関連した核酸配列の同定および特性解析への利用を見出す。関連した遺伝子または遺伝子産物を測定(予測または確認)するのに有用な多数の手法は、以下のものに限定されることなく、(A)DNA/RNA分析、たとえば(1)過剰発現、異所性発現および他の種における発現;(2)遺伝子ノックアウト(逆遺伝学、標的ノックアウト、ウイルス誘発遺伝子抑制(VIGS)(Baulcomb、100 Years of Virology、CalisherおよびKorizinek編、1999年、第15巻、p.189−201、米国、ニューヨ−ク州、ニューヨ−ク、Spring−Verlag社参照);(3)遺伝子のメチル化状態の分析、とりわけフランキング調節領域;および(4)in situハイブリダイゼーション;(B)遺伝子産物分析、たとえば(1)組換えタンパク質発現;(2)抗血清産生、(3)免疫学的局在決定;(4)触媒活性または他の活性の生化学アッセイ;(5)リン酸化状態;および(6)酵母2ハイブリッド分析による他のタンパク質との相互作用;(C)経路解析、たとえば遺伝子もしくは遺伝子産物をその過剰発現表現型に基づいてまたは関連した遺伝子との配列相同性によって特定の生化学的もしくシグナル経路内に置くこと;および(D)特定の代謝またはシグナル経路における単離遺伝子およびその産物の関与を測定または確認するために実施されることもでき、また遺伝子の機能を測定するのに役立つ他の分析を含む。
実験
【0187】
本開示発明は、特許請求された本開示発明の範囲を限定する意図は決してない以下の実施例においてさらに詳細に記載される。添付された図面は、本開示発明の明細事項および記載と一体部分とみなされることが意図される。以下の実施例は特許請求された本開示発明を例示するが、限定しないために提供される。
【0188】
以下に続く実験の開示では、以下の略号が適用される:M(モル濃度)、mM(ミリモル濃度);μM(マイクロモル濃度);nM(ナノモル濃度)モル(mol)(モル数);mmol(ミリモル数);μmol(マイクロモル数);nmol(ナノモル数);gm(グラム);mg(ミリグラム);μg(マイクログラム);pg(ピコグラム);L(リットル);mlおよびmL(ミリリットル);μlおよびμL(マイクロリットル);cm(センチメートル);mm(ミリメートル);μm(マイクロメートル);nm(ナノメートル);U(単位);V(ボルト);MW(分子量);sec(秒);min(s)(分);h(s)およびhr(s)(時);℃(摂氏度);QS(十分量);ND(行われていない);NA(適用不可);rpm(毎分回転数);HO(水);dHO(脱イオン水);HCl(塩酸);aa(アミノ酸);bp(塩基対);kb(キロ塩基対);kD(キロダルトン);cDNA(コピーまたは相補的DNA);DNA(デオキシリボ核酸);ssDNA(一本鎖DNA);dsDNA(二本鎖DNA);dNTP(デオキシリボヌクレオチド3リン酸);RNA(リボ核酸);MgCl(塩化マグネシウム);NaCl(塩化ナトリウム);w/v(重量対体積):g(重力);OD(光学密度);CNPG(クロロニトロフェニル−ベータ−D−グルコシド);CNP(2−クロロ−4−ニトロフェノール);APB(酸前処理バガス);PASC(リン酸膨潤セルロース);PCS(酸前処理トウモロコシ茎葉);piまたはPI(性能指数);PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動);PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)RT−PCR(逆転写PCR);およびHPLC(高圧液体クロマトグラフィー)。
【実施例1】
【0189】
トリコデルマ種セルラーゼ調製物の化学修飾およびCBH2変異体を試験するためのアッセイ
この実験は、市販のトリコデルマ種セルラーゼ調製物(LAMINEX BG酵素複合体(Danisco US社)、Genencor部門、)のコハク酸無水物によって処理してリシン残基をアセチル化することを記載する。LAMINEX BG酵素複合体のリシン残基のアセチル化は、このタンパク質の正味電荷を変える(たとえば、負電荷の増加)。他の類似した化学修飾が用いられて、リシンの正電荷を負に帯電した基に(たとえば、アセトキシコハク酸無水物、マレイン無水物、酒石酸無水物およびフタル酸無水物処理)、またはさらに2の負電荷に(たとえば、トリメリット酸無水物、シス−アコニット酸無水物および4−ニトロフタル酸無水物処理)変えることもできる。他の化学修飾が用いられて、リシン残基の正電荷を除いて非帯電の残基をもたらすことができる(たとえば、酢酸無水物、ブチル酸無水物、イソブチル酸無水物、ヘキサン酸無水物、吉草酸無水物、イソ吉草酸無水物およびピバル酸無水物処理)。
【0190】
セルラーゼ調製物上のリシン残基は、コハク酸無水物を用いて、公表された方法(Lundblad、Chemical Reagents for Ptotein Modification、Lundblad編、1984年、第3版、CRCプレス社)の変形を使用して修飾された。この反応のために、LAMINEX BG酵素複合体の236gのサンプルが、1mLの500mMのHEPES緩衝液pH8中で調製された。コハク酸無水物(Aldrich社)溶液がその粉体をDMSO中に500mg/mLの最終濃度となるように溶解することによって調製され、その後に酵素複合体が添加された。>1:100のリシンとコハク酸との比が反応管中で達成されるように、コハク酸無水物のアリコートが添加された。非修飾タンパク質参照物とするために、他の反応管がDMSOおよび酵素のみで同様の量を用いて準備された。両反応管は渦流攪拌され一晩室温に置かれた。翌日、1:10の量の1MのグリシンpH3が各反応管に添加されてコハク酸無水物反応が停止された。
【0191】
修飾および非修飾タンパク質を天然ゲル上で比較することによって、化学修飾は確認された。各反応からのアリコート(化学修飾物および非修飾物)は、100ボルトにおいてpH8.8で操作される傾斜8〜25%の天然ゲル上で分析された(Phast Systemゲル、GE Healthcare社)。タンパク質はゲルのCoomassie青染色後に目視化されて、この修飾が成功したことを確認した。染色はタンパク質バンド移行の変化を示し、セルラーゼ調製物の各種のタンパク質の電荷の変化を確認した。トリコデルマ種セルラーゼ調製物の修飾サンプルは、非修飾サンプルよりも負に帯電していた。
【0192】
修飾および非修飾(対照)タンパク質を単離するために、各サンプルの80μlアリコートがスピン脱塩カラム(Pierce社)を用いて脱塩された。脱塩サンプル(修飾なしの対照を含む。)の280nmの吸光度がNanoDrop(商標)分光光度計(Thermo社)を用いて測定され、サンプルの全タンパク質濃度を測定するために1:10のサンプル希釈の後繰り返して測定された。
ゼータ電位測定
【0193】
この実施例は、酵素および基質のゼータ電位の測定を記載する。粒子表面上の電荷の存在は、取り巻く界面領域内のイオンの分布に影響を与える。その結果は、この粒子表面の近傍の粒子の電荷と反対の電荷の対イオン濃度の増加である。イオンが粒子表面から離れると、イオンの不均一分布は最終的に均一になる。均一分布が得られる距離はデバイ長(1/κ)またはスクリーニング長と呼ばれ、下の式に示されるようにイオン強度に依存する。この式で、εは自由空間の誘電率(9.854x10−12FM−1)であり、εは液体の誘電率であり、kはボルツマン定数(1.38x10−23JK−1)であり、Tはケルビン単位の温度であり、eは電荷(1.6022x10−29C)であり、Iはモルイオン強度であり、NAはアボガドロ定数(6.022x1023モル−1)である。
【数1】
モルイオン強度は、下の式から計算されることができ、この式でCはイオン種濃度であり、Zは価数である。
【数2】
298Kにおける水の場合、デバイ長の式は下の形に単純化される。
【数3】
粒子を取り囲む液体層は2の部分として存在する。すなわち、イオンが強く結合されている内側領域(Stern層)およびイオンがより低度の強さで結合されている外側(拡散)領域である。拡散層内には境界があり、その内側ではイオンおよび粒子が安定な一体を形成する。粒子が移動すると、この境界内のイオンはそれとともに移動する。境界外のイオンは粒子とともには移動しない。この境界は流体力学的せん断面とも呼ばれ、ここにおける電位はゼータ電位と定義される。
【0194】
電気泳動光散乱では、ゼータ電位zは、下に示されたヘンリーの式を用いて測定された電気泳動移動度uから計算され、この式でεは誘電定数であり、hは溶液粘度であり、κはデバイ長の逆数であり、aは粒子半径であり、f(κa)はヘンリー関数である。
【数4】
【0195】
κの単位は長さの逆数であり、1/κは電気二重層(デバイ長)の「厚さ」である。パラメータaは粒子半径を表し、したがってκaは粒子半径と電気二重層厚さとの比である。ヘンリー関数f(κa)は粒子形状に依存するが、球については知られている。上記の式で、f(κa)はf(0)=1(ヒュッケル限界)からf(・)=1.5(スモルコフスキー限界)までの範囲にある。低誘電性(または低イオン強度)媒質中の小粒子、たとえばタンパク質の場合、f(κa)=1のヒュッケル限界がより適切なモデルである。
【0196】
タンパク質のゼータ電位は、上で概説された原理に従ってZetasizer NS(英国、Malvern Instruments社)を用いて測定された。BMI染色された布地のゼータ電位は、SurPass(オーストリア国、Anton−Parr社)を用いて、上記の原理の流動電位実施を使用して測定された。普通、クーロン単位で表される表面電荷の定義から、
【数5】
これは、正味電荷z掛ける素電荷e(1.6x10−19C)としても表される。
【数6】
したがって、正味電荷の増加によるゼータ電位の予測される変化は、下に示される。
【数7】
実施例1に記載されたように、天然ゲル手法を用いてゼータ電位を測定することも可能である(Sparksら、Journal of Lipid Research、1992年、第33巻、p.123−130)。天然ゲルを用いて測定される電気泳動移動度は、ゲルマトリクスに起因する遅延のために溶液中におけるよりも普通、より少ない。このようにして計算されたゼータ電位は、溶液に基づいた方法に比較して普通、より低い。したがって、本発明者らは、これらが天然ゲル手法によって得られたときは見掛けゼータ電位と呼ぶ。
【0197】
所与の配合物の有効電荷は、そのゼータ電位として計数される。ゼータ電位を共通の電荷尺度として用いることは、関心の対象となっている条件(たとえば、AATCC HDL洗剤)下に、異なる折り畳み(たとえば、セリンプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ等)、ならびに異なる基質(たとえば、BMIマイクロスウォッチ)との相互作用を有する酵素変異体間の比較を可能にする。異なるタンパク質折り畳みを比較するためにはゼータ電位が好まれるけれども、電気泳動移動度または測定された電荷も絶対的尺度を提供し、比較のために適当である。酵素ゼータ電位の関数としてのBMI性能は、実線によって示された標準正規分布によって十分に記述され、−9.68mVに等しい平均値μ、11.39mVの標準偏差σおよび0.4056のピーク値を持つ[A600−バックグラウンド]。上のX軸上のZスコアの関数としての、右のy軸上のBMI活性をピーク値で割ったものによって、標準的な誘導座標に、この分布は示される。Zスコアは通常、(X−μ)/σと定義され、Xはこの場合ゼータ電位である。
【表2】
【0198】
正規分布は、所与の反応条件(pH、導電度、塩の種類、洗剤キレーター等)下に各基質染色物に特有である。異なる利益または好ましい成果が、たとえばASPおよびNprE電荷ラダー型変異体の発現レベルおよびゼータ電位の場合のように、様々な折り畳みからの酵素にわたって成立する物理的特性を有する正規分布に付随する。正規分布では、ピーク値は平均値で生じる。共通のゼータ電位尺度上での酵素および基質の電荷の比較は、同じ条件下に測定された、この場合−9.68mVである平均酵素ゼータ電位がこの場合−8.97mVである基質染色物ゼータ電位と本質的に一致するときに、最適BMI性能が生じることを示す。
【0199】
標準正規分布の性能レベルは、表1−1に示されたようにそのzスコアによって好都合に記述される(AbramowitzおよびStegun、Handbook of Mathematical Functions with Formulas,Graphics,and Mathematical Tables、1964年、第9版、米国、ニューヨーク州、Dover参照)。所与の適用についての分布を定義する平均値および標準偏差を知れば、ゼータ電位への換算は直接的である。この実施例では、あるタンパク質の折り畳みについて測定された清浄化性能は、−40mV〜+20mVのゼータ電位値に限定される。その折り畳み最適値(すなわち、z=±0.65)の80%超の清浄化性能を有する変異体は−17.08mV〜−2.28mVのゼータ電位値に限定される。その折り畳み最適値(すなわち、z=±0.46)の90%超の清浄化性能を有する変異体は−14.92mV〜−4.44mVのゼータ電位値に限定される。
【0200】
異なる基質染色物(たとえば、草、体表汚れ、トマト)は同じ配合下に異なるゼータ電位を有し、同じ基質染色物は異なる配合下に異なるゼータ電位を有する(たとえば、北米のHDL、欧州の粉体皿洗い機用洗剤)。とにかく、基質染色物の電荷は変動するけれども、正規分布の標準偏差は一定を保つと予測される。所与の洗剤配合物の酵素および基質のゼータ電位を知れば、その変異体の予測される性能レベル、ならびに最適の性能レベルを達成するために必要な電荷変化の方向および大きさの迅速な特定が可能になる。所望の反応媒体中のゼータ電位の測定は、その媒体中の粒子状基質上の酵素反応の最適化を可能にする。任意の媒体中の任意の酵素反応が、同様のプロセスを用いて最適化されることができる。
様々な電荷を示す基質上の反応の最適化
【0201】
セルロース転化が従来技術で知られた技術によって評価された(たとえば、Bakerら、Appl. Biochem. Biotechnol、1998年、第70−72巻、p.395−403参照)。標準的なセルロース転化アッセイが実験に用いられた。このアッセイでは、酵素および緩衝かされた基質が容器に入れられ、ある温度である時間培養された。反応は十分な100mMグリシンpH11で停止され、反応混合物のpHが少なくともpH10にされた。反応が停止されると、反応混合物のアリコートが0.2ミクロン膜を通してろ過されて固形分が除かれた。ろ過された溶液は次に、上記のBakerらに記載された方法に従ってHPLCによって可溶性糖質の有無を分析された。
前処理トウモロコシ茎葉(PCS)のゼータ電位の測定
【0202】
トウモロコシ茎葉が記載のように2重量/重量%HSOで前処理され(Schellら、J.Appl Biochem Biotechnol、2003年、第105巻、p.69−86)、引き続いて脱イオン水で複数回洗われて4.5のpHが得られた。酢酸ナトリウムが添加されて50mMの最終濃度とされ、そしてこの溶液がpH5.0まで滴定された。反応混合物中のセルロース濃度は約7%であった。
【0203】
市販のセルラーゼ混合物、Spezyme CPおよびIndiage 44L、による糖化の前後のPCSのアリコートが、1.5mLのEppendorf遠心分離管中に施量され、その体積の1/3を占めた。サンプルは6,000rpmで5分間遠心分離され、上清がミリQ(商標)水で交換され、この工程が5回繰り返された。ミリQ(商標)水中100mg/mLのストック溶液が、すすがれたトウモロコシ茎葉から調製された。このストックは、50mLの酢酸ナトリウム緩衝液pH5.0中に1mg/mLまで希釈され、ゼータ電位測定用とされた。各基質サンプルの1mLアリコートが、汚れのない(英国)Malvern Insruments社の使い捨てZetasizer NS(商標)キュベットに移された。
【0204】
表1−2は、糖化反応の進行全体を通して、ゼータ電位で表されたPCS基質の電荷がほとんど2倍の負になったことを示す。理論に束縛されることなく、負の正味電荷の増加についての多くの説明ができ、たとえば以下に限定されることなく、リグニンの濃縮、この基質の非反応性部分、ならびにセルロース全体および他のタンパク質の非生産的結合またはファウリングによる説明ができる。性能(たとえば、反応の程度または反応速度)のための最適の酵素ゼータ電位があり、これは反応媒体条件下の基質ゼータ電位に一致する。異なるバイオマス前処理物は、初期基質電荷に劇的に影響を与えることがある。該酵素または該基質が反応の進行全体を通してゼータ電位において不一致であると、酵素−基質相互作用はもはや最適でなくなる。ほぼ10mVの変化の場合にこの効果は劇的になり、これはバイオマス転化についてそうである。
【表3】
【0205】
この状況を改善する戦略は、以下に限定されることなく、様々な電荷にわたる酵素ブレンドを供給すること;新しい最適値における異なる電荷を処理する酵素が異なる反応時間および/または転化度において供給される流加バッチプロセス手法;配合助剤、とりわけ界面活性剤(イオン性および非イオン性)または他のタンパク質の添加による基質表面電荷の調節;pH調整による基質表面電荷の調節;酵素電荷最適値をずらすための反応全体を通してのイオン強度調整;反応全体を通してイオン強度を調節するための膜ろ過、とりわけ逆浸透ろ過およびナノろ過;塩を除去してイオン強度を調節するためのキレーターの添加;および前処理プロセスによるバイオマス基質電荷の調節を含む。
【0206】
下記の実施例では以下のアッセイが用いられた。以下に与えられた手順からの何らかの逸脱は、実施例に示されている。これらの実験では、反応の完了後に生成された産生物の吸光度を測定するために、分光光度計が用いられた。
残留グルコースの測定のためのヘキソキナーゼアッセイ
【0207】
CBH2変異体を発現するハイポクレアジェコリーナ培養物上清からの残留グルコースが、ヘキソキナーゼアッセイを用いて測定された。5μlの量の上清が、96ウェルマイクロタイタープレート(Costar平底PS)中の195μlのグルコースヘキソキナーゼアッセイ(Instrumentation Laboratory社、蘭国、Breda)に加えられた。このプレートは室温で15分間培養された。培養後、吸光度が340nmODで測定された。残留グルコースを発現する培養物の上清が、さらなる検討のために合体物から除かれた。
タンパク質含有量測定のためのHPLC
【0208】
集められた培養物上清からのCBH2変異体タンパク質の濃度が、Proswift RP 2Hカラム(Dionex社)を備えたAgilent 1100(Hewlet Packard社)HPLCを用いて測定された。10マイクロリットルのサンプルが、ろ過された脱イオン水中の50μlの10%アセトニトリルと混合されて、0.01%トリフルオロ酢酸を含有する10%アセトニトリルで平衡化された後のHPLCカラムに注入された。化合物は10%〜30%アセトニトリルで0.3分〜1分の傾斜を用いて、引き続いて30%〜65%で1分〜4分の傾斜によって溶出された。CBH2変異体のタンパク質濃度は、精製野生型CBH2を用いて生成された較正曲線から決定された(6.25、12.5、25、50μg/ml)。性能指数(PiまたはPI)を計算するために、変異体によって産生された(平均)総タンパク質と、同じ施量において野生型によって産生された(平均)総タンパク質との比が、平均化された。
リン酸膨潤セルロース(PASC)による比活性の決定
加水分解アッセイ
【0209】
セルロースの加水分解:リン酸膨潤セルロース(PASC)が、公表された方法に従ってAvicelから調製された(Walseth、Tappi、1971年、第35巻、p.228;およびWood、Biochem J、1971年、第121巻、p.353−362)。この物質は、酢酸ナトリウムの最終濃度が50mM、pH5.0となるように緩衝液および水で1w/v%混合物になるまで希釈された。50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)中のPASCの1%懸濁物の100マイクロリットルが、96ウェルマイクロタイタープレート(Costar平底PS)中に分注された。CBH2欠失株からの10マイクロリットルの5mg/ml培養物上清がこのPASCに添加され、そして野生型CBH2か、あるいは変異体CBH2を発現するハイポクレアジェコリーナ細胞からの5、10、15または20μlの集められた培養物上清がそれに添加された。ハイポクレアジェコリーナ(トリコデルマリーゼイとも呼ばれる。)由来のCBH2遺伝子の欠失は、米国特許第5,861,271号および第5,650,322号に記載されている。酢酸塩緩衝液の分注量は、総量における差を埋めるように添加された。マイクロタイタープレートは密封され、熱電対付き培養器中50℃で900rpmの連続振とう下に培養された。2時間後に加水分解反応は、各ウェルに100μlのグリシン緩衝液、pH10の添加によって停止された。加水分解反応生成物はPAHBAHアッセイによって分析された。
【0210】
PAHBAHアッセイ:PAHBAH還元糖(5w/v%p−ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド)(PAHBAH、Sigma社#H9882,0.5N HCl中溶解物)、(Lever、Anal Biochem、1972年、第47巻、p.273−279)の150μlのアリコートが、空のマイクロタイタープレートのすべてのウェルに添加された。10マイクロリットルの加水分解反応上清がPAHBAH反応プレートに添加された。すべてのプレートは密封され、69℃で900rpmの連続振とう下に培養された。1時間後にプレートは氷上に5分間置かれ、そして室温で5分間720xgで遠心分離された。生成されたPAHBAH反応混合物の80μLのサンプルは、汚れていない(読み取り)プレートに移され、分光光度計において410nmで吸光度が測定された。セロビオース標準物が対照として含められた。施量応答曲線が野生型CBH2タンパク質について作られた。性能指数(PiまたはPI)を計算するために、変異体によって産生された(平均)全糖と、同じ施量で野生型において産生された(平均)全糖との比が、平均化された。
希酸前処理トウモロコシ茎葉(PCS)の加水分解による比活性の測定
【0211】
前処理トウモロコシ茎葉(PCS):トウモロコシ茎葉が記載されたように2w/w%HSOで前処理され(Schellら、Appl Biochem Biotechnol、2003年、第105巻、p.69−86)、脱イオン水で複数回洗われて4.5のpHを有するペーストが得られた。酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)が次に50mMの酢酸ナトリウムの最終濃度まで添加され、そして必要によりこの混合物は次に1N NaOHを用いてpH5.0まで滴定された。反応混合物中のセルロース濃度は、約7%であった。65マイクロリットルのこのセルロース懸濁物は、96ウェルマイクロタイタープレートにウェルごとに添加された(Nunc社平底PS)。CBH2欠失株からの10マイクロリットルの5mg/ml培養物上清がPCSに添加され、そして野生型CBH2か、あるいは変異体CBH2を発現するハイポクレアジェコリーナ細胞からの5、10、15または20μlの集められた培養物上清がそれに添加された。酢酸塩緩衝液の埋め合わせ量が、総量における差を埋めるように添加された。プレートの密封後、このプレートは熱電対付き培養器中に50℃で1300rpmの連続振とう下に5分間置かれた。このプレートは次に乾燥を防止するために80%湿度下に220rpmで振とうされながら50℃で培養された。7日後にプレートは氷上に5分間置かれ、加水分解反応が、各ウェルに100μlのグリシン緩衝液、pH10の添加によって停止された。加水分解反応生成物はPAHBAHアッセイによって分析された。
【0212】
PAHBAHアッセイ:PAHBAH還元糖試薬(5w/v%p−ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド)(PAHBAH、Sigma社#H9882,0.5N HCl中溶解物)、(Lever、Anal Biochem、1972年、第47巻、p.273−279)の150μlのアリコートが、空のマイクロタイタープレートのすべてのウェルに添加された。10マイクロリットルの加水分解反応上清がPAHBAH反応プレートに添加された。すべてのプレートは密封され、69℃で900rpmの連続振とう下に培養された。1時間後にプレートは氷上に5分間置かれ、そして室温で5分間720xgで遠心分離された。生成されたPAHBAH反応混合物の80μLのサンプルは、汚れていない(読み取り)プレートに移され、分光光度計において410nmで吸光度が測定された。セロビオース標準物が対照として含められた。施量応答曲線が野生型CBH2タンパク質について作られた。性能指数(PiまたはPI)を計算するために、変異体によって産生された(平均)全糖と、同じ施量で野生型によって産生された(平均)全糖との比が、平均化された。
エタノールの存在下における変異体CBH2の安定性
【0213】
野生型CBH2およびCBH2変異体の安定性が、49℃において4.5%エタノールの存在下に試験された。CBH2変異体を発現するハイポクレアジェコリーナ細胞の培養物上清の集合物(80μl)が、ウェルごとに10μlの40.5%EtOHを含む96ウェルプレート(Greiner社V底PS)に添加された。このプレートは密封され、熱電対付き培養器中49℃で16時間900rpmで振とうされながら培養された。培養後にプレートは氷上に5分間置かれた。残留CBH2活性が、上記のリン酸膨潤セルロース(PASC)加水分解アッセイを用いて測定された。
【0214】
残留活性を計算するために、5、10、15および20μlのEtOH培養されたCBH2の残留活性PASCアッセイへの添加によって生成された産生物の値が、5、10、15および20μlのEtOHを含まないCBH2のPASCアッセイへの添加によって生成された産生物の値によって割られた。これらの4の比の個々の値は、次に平均化されて平均残留活性を与えた。変異体についてのPIを決定するために、変異体についての平均残留活性の値が次に野生型CBH2対照の残留活性の平均によって割られた。
CBH2変異体の熱安定性
【0215】
野生型CBH2およびCBH2変異体の熱安定性が、53℃で試験された。CBH2変異体を発現するハイポクレアジェコリーナ細胞の培養物上清の集合物(80μL)が、96ウェルプレート(Greiner社V底PS)に添加された。このプレートは密封され、熱電対付き培養器中53℃で16時間900rpmで振とうされながら培養された。培養後にプレートは氷上に5分間置かれた。残留CBH2活性が、上記のリン酸膨潤セルロース(PASC)加水分解アッセイを用いて測定された。
【0216】
残留活性を計算するために、5、10、15および20μlの熱処理されたCBH2の残留活性PASCアッセイへの添加によって生成された産生物の値が、5、10、15および20μlの加熱されていないCBH2のPASCアッセイへの添加によって生成された産生物の値によって割られた。これらの4の比の個々の値は、次に平均化されて平均残留活性を与えた。変異体についてのPIを決定するために、変異体についての平均残留活性の値が次に野生型CBH2対照の残留活性の平均によって割られた。
【実施例2】
【0217】
リグニン結合の評価
フェニルプロパノイドの複雑なバイオポリマーであるリグニンは、セルロース繊維に結合して植物の細胞壁を固化し強化する、木の主要な非炭水化物成分である。これは他の細胞壁成分に架橋されているので、リグニンはセルロースおよびヘミセルロースのセルロース分解酵素への近づきやすさを最小にする。したがって、リグニンは一般にすべての植物バイオマスの消化性と関連している。特に、セルラーゼのリグニンへの結合は、セルラーゼによるセルロースの分解を低減する。リグニンは疎水性であり、見掛け上負に帯電している。したがって、セルラーゼへの負電荷の添加は、そのリグニンへの結合を低減すると考えられる。
【0218】
本明細書に記載されるように、トリコデルマ種セルラーゼ調製物が植物ポリマー成分、すなわちリグニンと結合する能力への化学修飾の効果を測定するための反応が組まれた。リグニンが、セルラーゼによる酸前処理サトウキビバガスの本格的な蒸解によって回収され(100mgLaminex BG/1gセルロース)、引き続いて正確にBerlinら(Applied Biochemistry and Biotechnology、2005年、第121巻、p.163−170)によって記載されたように、ただし、超音波処理、乾燥、粉砕および篩分は行われず、プロテアーゼを除く酸処理(0.1N HCl)および引き続く酢酸塩緩衝液(50mM酢酸ナトリウムpH5)による繰り返し洗浄をしてサンプルをpH5に戻すことが手順に追加されたことを除いて、非特異性セリンプロテアーゼによって該セルラーゼが加水分解された。手短にいえば、50μlの1.16%リグニン(バガスの完全糖化から回収された)が50mM酢酸ナトリウムpH5緩衝液中に調製され、脱塩修飾されまたはた修飾されていないトリコデルマ種セルラーゼ調製物の4μlと一緒にされた。この反応混合物を含むマイクロ遠心管が室温で1時間培養され、次に高速度で遠心分離されて不溶性物質から可溶性分が分離された。この反応管は再混合され、さらに2時間培養され、その後各管からの上清の10μlの第二のアリコートが集められた。上清サンプルはSDS−PAGEによって分析された。修飾されたトリコデルマ種セルラーゼ調製物のバンド強度の低下は、リグニン結合の低下を表していた。
【実施例3】
【0219】
バガス結合の評価
バガスは、サトウキビが粉砕されてその絞り汁が抽出された後に残るバイオマスである。バガスのセルロース(酸処理済、固形分28%、グリカン57%)2%を含む溶液が、50mM酢酸ナトリウムpH5で調製された。修飾されていないまたは化学修飾されたトリコデルマ種セルラーゼ調製物が、同じ酢酸ナトリウム緩衝液中に10倍に希釈された。希釈された酵素のアリコートがバガス溶液か、あるいは緩衝液単独と混合され、室温で1時間培養された。上清が集められ、セルラーゼの成分、すなわちベータ−グルコシダーゼの活性について分析された。
【0220】
ベータ−グルコシダーゼ活性は、クロロ−ニトロフェニル−ベータ−D−グルコシダーゼ(CNPG)アッセイを用いて測定された。CNPGアッセイは、β−グルコシダーゼがCNPGを着色産生物2−クロロ−4−ニトロフェノール(CNP)に転化する動的アッセイである。ODが、405nmにおいて37℃で10分間にわたって測定される。速度が、SpectraMaxソフトウェアを用いてVmaxとして得られ、そして次に比活性に換算される(μM CNP/秒/mgタンパク質)。手短に言えば、200μlの50mM酢酸ナトリウム緩衝液pH5.0が、96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに添加された。プレートは覆われ、Eppendorf Thermomixer中に37℃で15分間置かれて、温度と平衡化された。5μlの酵素サンプルが、50mM酢酸ナトリウム緩衝液pH5.0で連続的に希釈され、平衡化後に各ウェルに添加された。10mMのCNPGストック溶液は50mM酢酸ナトリウム緩衝液pH5.0を用いて1:5に希釈され、次に20μlの希釈CNPG溶液(2mM)が酵素サンプルを有する各ウェルに添加された。マイクロタイタープレートは、37℃に設定された分光光度計(SpectraMax、340型、Molecular Devices社)に移され、ODが9秒間間隔以下の読み込みで405nmで0〜15分間読まれた。
【0221】
バガス基質に結合されないままのセルラーゼ酵素サンプルのベータ−グルコシダーゼ活性量は、化学修飾されたトリコデルマ種セルラーゼ調製物の場合に比較的にかなり大きかった。特に、CNPGアッセイによって測定されたように、修飾されていないベータ−グルコシダーゼの50%未満はバガス基質に結合されないままであり(たとえば、50%結合されており)、他方、修飾されたbgluの約80%はバガス基質に結合されないままであった(たとえば、20%結合されていた)。総合すれば、修飾されたセルラーゼの結合データは、セルラーゼ上の正電荷を減少すると、より負に帯電した植物ポリマー基質への結合が減少することを示す。この場合、酸処理バイオマス中に残っている植物ポリマー基質はリグニンであった。類似した化学成分の植物バイオポリマーであるトウモロコシ茎葉からの酸処理バイオマスは、ゼータ電位の測定によって判明したように(表1−2参照)、糖化の課程でますますより負に帯電することを選ぶことが証明された。
【実施例4】
【0222】
酸処理バガスの糖化
様々な量のさらにあるリグニンを含む酸処理バガス(APB)中に存在するセルロースの糖化が、化学修飾されたおよび修飾されていないトリコデルマ種セルラーゼ調製物を用いて評価され、そしてHPLCによって分析されて、DP1〜DP7の糖の放出が監視された。結果がポリマー基質の転化率パーセントとして図1に示される。マイクロタイタープレートに、200μlのAPB(3.5%グルカン)がpH5の50mM酢酸ナトリウム緩衝液で調製され、様々な量のリグニンに調整された。20マイクロリットルのセルラーゼ酵素溶液(修飾されていないまたは修飾されたLAMINEX BG)がウェルに添加された。このプレートはアルミニウムプレートシーラーで覆われ、50℃で振とうされながら24時間または48時間培養器中に置かれた。反応は、100μlの100mMグリシンpH10を各ウェルに添加することによって停止された。完全な混合に続いて、マイクロタイタープレートウェルの内容物がMillipore96ウェルフィルタープレート(0.45μm、PES)を通してろ過された。ろ液は、100μlの10mMグリシンpH10を含むプレート中に希釈され、産生された可溶性糖(DP1〜DP7)の量が測定された。Agilent 1100シリーズのHPLCが、灰分除去/保護用カラム(Biorad社カタログ番号125−0118)およびAminex社LEADベース炭水化物カラム(Aminex社カタログ番号HPX−87P)を装着された。用いられた移動相は0.6ml/分の流量の水であった。Sigma社から入手した可溶性糖標準物(DP1〜DP7)はすべてミリQ水で100ml/mLまで希釈され、個々の糖のピーク面積を実際の糖濃度に換算するために用いられた。転化率パーセントは、HPLCによって測定された糖をセルロースからグルコースへの100%転化率で割ることによって計算された。
【0223】
セルラーゼのリグニンへの結合は、セルロースを分解するその効率を減少するだろう。これは、糖化反応中に存在する増加するリグニン量の存在下におけるセルロース転化率の低減として証明される。この傾向は修飾されたセルラーゼ調製物について成立する。しかし、修飾されていないセルラーゼサンプルと比較して、修飾されたセルラーゼサンプルではセルロース転化率が10%増加する。この結果は、セルラーゼの負電荷を増加することはセルラーゼのリグニンへの非産生的結合を低減することを示す。
【実施例5】
【0224】
化学修飾されたCBH2はAPBの糖化を増加
精製トリコデルマCBH1、CBH2変異体、EG1、EG2およびベータ−グルコシダーゼが、実施例1に記載されたように化学修飾された。この実験に用いられたCBH2変異体は、米国特許出願公開第2006/0205042号に記載されたように複数の置換(P98L/M134V/T154A/I2112V/S316P/S413Y)を有し、数字は野生型成熟CBH2セルラーゼに対応する。成熟CBH2変異体のアミノ酸配列は以下の通りである。
QACSSVWGQCGGQNWSGPTCCASGSTCVYSNDYYSQCLPGAASSSSSTRAA STTSRVSPTTSRSSSATPPPGSTTTRVPPVGSGTATYSGNPFVGVTLWANAYYASEVS SLAIPSLTGAMATAAAAVAKVPSFVWLDTLDKTPLMEQTLADIRAANKNGGNYAG QFVVYDLPDRDCAALASNGEYSIADGGVAKYKNYIDTIRQIVVEYSDVRTLLVIEPDS
LANL VTNLGTPKCANAQSAYLECINYA VTQLNLPNV AMYLDAGHAGWLGWPANQ DPAAQLFANVYKNASSPRALRGLATNVANYNGWNITSPPPYTQGNAVYNEKLYIHA IGPLLANHGWSNAFFITDQGRSGKQPTGQQQWGDWCNVIGTGFGIRPSANTGDSLLD
SFVWVKPGGECDGTSDSSAPRFD YHCALPDALQPAPQAGAWFQA YFVQLLTNANPS
FL(配列番号14)
【0225】
CBH1、CBH2変異体、EG1、EG2およびベータ−グルコシダーゼの化学修飾は、修飾されていないタンパク質と比較した天然ゲル上のこれらの移動度のシフトによって検証された。修飾されたCBH1、CBH2変異体、EG1、EG2およびベータ−グルコシダーゼは、より多くの負電荷を有する。すべてのタンパク質濃度はNanoDrop(商標)分光光度計(Thermo社)を用いて測定された。糖化反応はマイクロタイタープレート中で行われ、マイクロタイタープレートの各ウェルに150μlのAPB(7%グルカンがPCSについて上記されたように調製された。)が50mM酢酸ナトリウム緩衝液pH5で準備され、21μlの総タンパク質の20μlの酵素混合物が、各ウェル中の最終タンパク質とセルロースとの比が20mg/gとなるように添加された。修飾されたまたは修飾されていない精製されたBglu、CBH2変異体、EG1またはEG2をトリコデルマバックグラウンドに添加することによって6の酵素混合物がつくられ、その中のセロビオヒドロラーゼI(CBHI、Cel7a)、セロビオヒドロラーゼI I(CBHI I、Cel6a)、エンドグルカナーゼI(EGI、Cel7b)およびエンドグルカナーゼI I(EGI I、Cel5a)をコードする遺伝子が不活性化されていた(米国特許出願公開第2007/0128690号参照)。各混合物中に、72.5%トリコデルマリーゼイバックグラウンド、2.5%Bglu、15%CBH2変異体、5%EG1、5%EG2が添加され、最初の4の混合物は修飾されていない1のタンパク質を有し、第5の混合物は修飾されていないすべてのタンパク質を有し、および第6の混合物は修飾されたすべてのタンパク質を有している。プレートは50℃で72時間培養された。反応は、各ウェルに100μlの100mMグリシンpH10を添加することによって停止された。完全な混合に続いて、マイクロタイタープレートウェルの内容物がMillipore96ウェルフィルタープレート(0.45μm、PES)を通してろ過された。ろ液は、100μlの10mMグリシンpH10を含むプレート中に希釈され、産生された可溶性糖(DP1〜DP7)の量がHPLCによって測定された。Agilent 1100シリーズのHPLCが、灰分除去/保護用カラム(Biorad社カタログ番号125−0118)およびAminex社のLEADベース炭水化物カラム(Aminex社カタログ番号HPX−87P)を装着された。用いられた移動相は0.6ml/分の流量の水であった。Sigma社から入手した可溶性糖標準物(DP1〜DP7)はすべてミリQ水で100ml/mLまで希釈され、個々の糖のピーク面積を実際の糖濃度に換算するために用いられた。転化率パーセントは、HPLCによって測定された糖をセルロースからグルコースへの100%転化率で割ることによって計算された。
【0226】
図2Aは、全てのタンパク質が修飾された第6の酵素混合物(修飾されたEG2、EG1、CBH2変異体およびベータ−グルコシダーゼ)がもっとも高いセルロ−ス転化率を有し、全てのタンパク質が非修飾の第5の酵素混合物がもっとも低い転化率を有することを示す。最初の四つの酵素混合物を比較すると、非修飾CBH2を有する第2の酵素混合物が次にもっとも低い転化率を与えた。図2Bは、セルロ−ス転化における非修飾タンパク質を超える修飾タンパク質の優位性を示す。
【実施例6】
【0227】
トリコデルマリーゼイCBH2電荷ラダー変異体の調製
本開示発明の開発の間に判明したように、CBH2の表面リシン残基のサクシニル化はAPBについておよび前処理トウモロコシ茎葉についての性能を改善した。修飾CBH2変異体の電荷は、修飾されていないCBH2変異体と比較して約−17であった。この点を考慮して、CBH2の電荷ラダーが、セルラーゼ性能の適用における最適表面電荷の決定のために設計された。
【0228】
以下の配列番号1は、参照ハイポクレアジェコリーナCBH2をコードするDNA配列を記載する。
atgattgtcggcattctcaccacgctggctacgctggccacactcgcagctagtgtgcctctagaggagcggcaagcttgctcaagcgt ctggggccaatgtggtggccagaattggtcgggtccgacttgctgtgcttccggaagcacatgcgtctactccaacgactattactccc agtgtcttcccggcgctgcaagctcaagctcgtccacgcgcgccgcgtcgacgacttctcgagtatcccccacaacatcccggtcga gctccgcgacgcctccacctggttctactactaccagagtacctccagtcggatcgggaaccgctacgtattcaggcaacccttttgttg gggtcactccttgggccaatgcatattacgcctctgaagttagcagcctcgctattcctagcttgactggagccatggccactgctgcag cagctgtcgcaaaggttccctcttttatgtggctagatactcttgacaagacccctctcatggagcaaaccttggccgacatccgcaccg ccaacaagaatggcggtaactatgccggacagtttgtggtgtatgacttgccggatcgcgattgcgctgcccttgcctcgaatggcgaa tactctattgccgatggtggcgtcgccaaatataagaactatatcgacaccattcgtcaaattgtcgtggaatattccgatatccggaccct cctggttattgagcctgactctcttgccaacctggtgaccaacctcggtactccaaagtgtgccaatgctcagtcagcctaccttgagtgc atcaactacgccgtcacacagctgaaccttccaaatgttgcgatgtatttggacgctggccatgcaggatggcttggctggccggcaaa ccaagacccggccgctcagctatttgcaaatgtttacaagaatgcatcgtctccgagagctcttcgcggattggcaaccaatgtcgcca actacaacgggtggaacattaccagccccccatcgtacacgcaaggcaacgctgtctacaacgagaagctgtacatccacgctattg gacctcttcttgccaatcacggctggtccaacgccttcttcatcactgatcaaggtcgatcgggaaagcagcctaccggacagcaaca gtggggagactggtgcaatgtgatcggcaccggatttggtattcgcccatccgcaaacactggggactcgttgctggattcgtttgtctg ggtcaagccaggcggcgagtgtgacggcaccagcgacagcagtgcgccacgatttgactcccactgtgcgctcccagatgccttgc aaccggcgcctcaagctggtgcttggttccaagcctactttgtgcagcttctcacaaacgcaaacccatcgttcctgtaa*
【0229】
以下の配列番号2は、ハイポクレアジェコリーナCBH2の完全長タンパク質配列を記載する。
MIVGILTTLATLATLAASVPLEERQACSSVWGQCGGQNWSGPTCCASGSTCVYSNDYYSQCL PGAASSSSSTRAASTTSRVSPTTSRSSSATPPPGSTTTRVPPVGSGTATYSGNPFVGVTPWA NAYYASEVSSLAIPSLTGAMATAAAAVAKVPSFMWLDTLDKTPLMEQTLADIRTANKNGGNY AGQFVVYDLPDRDCAALASNGEYSIADGGVAKYKNYIDTIRQIVVEYSDIRTLLVIEPDSLA NLVTNLGTPKCANAQSAYLECINYAVTQLNLPNVAMYLDAGHAGWLGWPANQDPAAQLFANV YKNASSPRALRGLATNVANYNGWNITSPPSYTQGNAVYNEKLYIHAIGPLLANHGWSNAFFI TDQGRSGKQPTGQQQWGDWCNVIGTGFGIRPSANTGDSLLDSFVWVKPGGECDGTSDSSAPR FDSHCALPDALQPAPQAGAWFQAYFVQLLTNANPSFL*
【0230】
以下の配列番号3は、ハイポクレアジェコリーナCBH2の成熟タンパク質配列を記載する。
QACSSVWGQCGGQNWSGPTCCASGSTCVYSNDYYSQCLPGAASSSSSTRAASTTSRVSPTTS RSSSATPPPGSTTTRVPPVGSGTATYSGNPFVGVTPWANAYYASEVSSLAIPSLTGAMATAA AAVAKVPSFMWLDTLDKTPLMEQTLADIRTANKNGGNYAGQFVVYDLPDRDCAALASNGEYS IADGGVAKYKNYIDTIRQIVVEYSDIRTLLVIEPDSLANLVTNLGTPKCANAQSAYLECINY AVTQLNLPNVAMYLDAGHAGWLGWPANQDPAAQLFANVYKNASSPRALRGLATNVANYNGWN ITSPPSYTQGNAVYNEKLYIHAIGPLLANHGWSNAFFITDQGRSGKQPTGQQQWGDWCNVIG TGFGIRPSANTGDSLLDSFVWVKPGGECDGTSDSSAPRFDSHCALPDALQPAPQAGAWFQAY
FVQLLTNANPSFL*
【0231】
変異されるべく選択された残基は、保存されていない露出したリシン、アルギニン、アスパラギンおよびグルタミン残基であり、これらは負電荷を導入する置換のために選ばれた。修飾CBH2のサクシニル化リシンは質量分析法によって同定され、グルタメートへの変異誘発のために選択され、1置換について−2の電荷の差をもたらした。他の残基は、相同のCBH2配列のアミノ酸アラインメントと一緒にされたCBH2の三次元構造の解析によって置換のために選ばれた(たとえば、米国特許出願公開第2006/0205042号の図3参照、本出願公開は参照によって本明細書に取り込まれる)。CBH2アミノ酸配列アラインメントにおいて非常に活性である表面残基は、変異誘発の候補であった。しかし、ごく接近した置換の集積は避けられた。アルギニンはグルタメート(電荷−1)と置き換えられ、グルタミンおよびアスパラギンはそれぞれのカルボキシル変異体(電荷−1)によって置換された。さらに、アスパラテートおよびグルタメート残基は、電荷ラダーの完成のためにそれぞれのアミン残基への置換のために選ばれた(電荷+1)。具体的なCBH2の置換は表6−1に示され、CBH2触媒ドメインに位置するすべての位置がR63およびR77を除いて示されている。負に帯電した残基の除去によってかあるいは正に帯電した残基の導入によって、正味の正電荷が生成されることができる。同様に、正に帯電した残基の除去によってかあるいは負に帯電した残基の導入によって、正味の負電荷が生成されることができる。
【表4】
【0232】
CBH2の電荷ラダーの調製のために、表6−2に示された4段差の野生型CBH2と比較して、+8〜−32の電荷範囲にわたる10のCBH2電荷変異体(C−1〜C−10)が設計された。
【表5】
【0233】
変異体のアミノ酸配列が、GeneDesignerソフトウェア(DNA2.0)を用いてトリコデルマリーゼイにおける発現に最適化されたDNAおよびコドンに逆翻訳された。コドン最適化cbh2変異体遺伝子が合成され、CBH2表面電荷変異体(SCV)のDNAが、プライマー:GGHK22順方向5'−CACCATGATCGTGGGAATTCTTACTACTC−3'(配列番号15)およびGGTHK23逆方向5'−CTACAAAAACGAAGGGTTCGCATT−3'(配列番号16)を用いてPCRによってDNA2.0構成体から増幅された。1の実験では、部位特異的変異誘発法が用いられて、K129EおよびK157E突然変異(cbh2電荷変異体C−3)が野生型CBH2のゲノムDNA中に導入された。CBH2電荷変異体C−3は、以下のようにpTrex3GM中にクローン化され発現された。
【0234】
PCR産生物は精製され、大腸菌TOP10細胞の形質転換のためにpENTR/TOPO中にクローン化された。プラスミドDNAは単一コロニーから単離され、正しい配列が検証された。CBH2 SCVは、表6-3に示されたようにpTrex3GM、pTTTpyr(pcbh1)およびpTTTpyr(pstp1)中にクローン化された。
【表6】
【0235】
トリコデルマリーゼイ中のCBH2表面電荷変異体(SCV)。(K129EおよびK157E変異体とともに)cbh2電荷変異体C3読み取り枠を有するpTrex3GM発現ベクターを用いたトリコデルマリーゼイの遺伝子銃(biolistic)形質転換法が、以下の手順を用いて実施された。その中のセロビオヒドロラーゼI(CBHI、Cel7a)、セロビオヒドロラーゼI I(CBHI I、Cel6a)、エンドグルカナーゼI(EGI、Cel7b)およびエンドグルカナーゼI I(EGI I、Cel5a)をコードする遺伝子が不活性化されているトリコデルマリーゼイが用いられた。遺伝子銃(バイオリスティック(biolistic))形質転換法によるコデルマリーゼイ株の形質転換が、Bio−Rad社(米国、カリフォルニア州、Hercules)からのBiolistic(商標)PDS−1000/he粒子送達系(Particle Delivery System)を用いて、製造業者の指示(国際公開第05/001036号および米国特許出願公開第2006/0003408号参照)に従って実施された。形質転換体は新しいAcetamide選択プレートに移された。安定な形質転換体が、200μl/ウェルのグリシン最少培地(6.0g/Lグリシン;4.7g/L(NHSO;5.0g/L KHPO;1.0g/L MgSO・7HO;33.0g/L PIPPS;pH5.5)を含むフィルターマイクロタイタープレート(Millipore)中に接種され、炭素源としての約2%のグルコース/ソホローズ混合物、10ml/Lの100g/LのCaCl、2.5ml/Lのトリコデルマリーゼイ微量元素(400):175g/L無水クエン酸;200g/L FeSO・7HO;16g/L ZnSO・7HO;3.2g/L CuSO・5HO;1.4g/L MnSO・HO;0.8g/L HBOの滅菌後添加をされた。形質転換体は、28℃の培養器に内蔵されたOを豊富に含む室中で5日間液状培養物中で育成された。フィルターマイクロタイタープレートからの上清サンプルが真空連結管を用いることによって得られた。サンプルは、製造業者の指示に従って4〜12%NuPAGEゲル(Invitrogen社)にかけられた。このゲルはSimply Blue Stain(Invitrogen社)によって染色された。さらなるCBH2表面電荷変異体の発現はこの方法を用いて実施されることができる。
【実施例7】
【0236】
トリコデルマリーゼイにおけるCBH2電荷変異体の生成
ハイポクレアジェコリーナCBH2タンパク質をコードする配列(配列番号1)を有するTTTpyr−cbh2プラスミドが、部位評価ライブラリー(Site Evauation Library)(SEL)を作成するためにBASFClear社(蘭国、Leiden)、GeneArt社(独国、Regensburg)およびSloning Bio Technology社(独国、Puchheim)に送られた。TTTpyr−cbh2のプラスミドマップは図5に示される。ハイポクレアジェコリーナCBH2成熟タンパク質(配列番号3)のそれぞれの部位における位置ライブラリーの作成が、上記業者に要求された。CBH2完全長タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号2に示される。
【0237】
以下の配列番号1は、参照ハイポクレアジェコリーナCBH2をコードするDNA配列を記載する。
atgattgtcggcattctcaccacgctggctacgctggccacactcgcagctagtgtgcctctagaggagcggcaagcttgctcaagcgt ctggggccaatgtggtggccagaattggtcgggtccgacttgctgtgcttccggaagcacatgcgtctactccaacgactattactccc agtgtcttcccggcgctgcaagctcaagctcgtccacgcgcgccgcgtcgacgacttctcgagtatcccccacaacatcccggtcga gctccgcgacgcctccacctggttctactactaccagagtacctccagtcggatcgggaaccgctacgtattcaggcaacccttttgttg gggtcactccttgggccaatgcatattacgcctctgaagttagcagcctcgctattcctagcttgactggagccatggccactgctgcag cagctgtcgcaaaggttccctcttttatgtggctagatactcttgacaagacccctctcatggagcaaaccttggccgacatccgcaccg ccaacaagaatggcggtaactatgccggacagtttgtggtgtatgacttgccggatcgcgattgcgctgcccttgcctcgaatggcgaa tactctattgccgatggtggcgtcgccaaatataagaactatatcgacaccattcgtcaaattgtcgtggaatattccgatatccggaccct cctggttattgagcctgactctcttgccaacctggtgaccaacctcggtactccaaagtgtgccaatgctcagtcagcctaccttgagtgc atcaactacgccgtcacacagctgaaccttccaaatgttgcgatgtatttggacgctggccatgcaggatggcttggctggccggcaaa ccaagacccggccgctcagctatttgcaaatgtttacaagaatgcatcgtctccgagagctcttcgcggattggcaaccaatgtcgcca actacaacgggtggaacattaccagccccccatcgtacacgcaaggcaacgctgtctacaacgagaagctgtacatccacgctattg gacctcttcttgccaatcacggctggtccaacgccttcttcatcactgatcaaggtcgatcgggaaagcagcctaccggacagcaaca gtggggagactggtgcaatgtgatcggcaccggatttggtattcgcccatccgcaaacactggggactcgttgctggattcgtttgtctg ggtcaagccaggcggcgagtgtgacggcaccagcgacagcagtgcgccacgatttgactcccactgtgcgctcccagatgccttgc aaccggcgcctcaagctggtgcttggttccaagcctactttgtgcagcttctcacaaacgcaaacccatcgttcctgtaa*
【0238】
以下の配列番号2は、ハイポクレアジェコリーナCBH2完全長タンパク質配列を記載する。
MIVGILTTLATLATLAASVPLEERQACSSVWGQCGGQNWSGPTCCASGSTCVYSNDYYSQCL PGAASSSSSTRAASTTSRVSPTTSRSSSATPPPGSTTTRVPPVGSGTATYSGNPFVGVTPWA NAYYASEVSSLAIPSLTGAMATAAAAVAKVPSFMWLDTLDKTPLMEQTLADIRTANKNGGNY AGQFVVYDLPDRDCAALASNGEYSIADGGVAKYKNYIDTIRQIVVEYSDIRTLLVIEPDSLA NLVTNLGTPKCANAQSAYLECINYAVTQLNLPNVAMYLDAGHAGWLGWPANQDPAAQLFANV YKNASSPRALRGLATNVANYNGWNITSPPSYTQGNAVYNEKLYIHAIGPLLANHGWSNAFFI TDQGRSGKQPTGQQQWGDWCNVIGTGFGIRPSANTGDSLLDSFVWVKPGGECDGTSDSSAPR FDSHCALPDALQPAPQAGAWFQAYFVQLLTNANPSFL*
【0239】
以下の配列番号3は、ハイポクレアジェコリーナCBH2成熟タンパク質配列を記載する。
QACSSVWGQCGGQNWSGPTCCASGSTCVYSNDYYSQCLPGAASSSSSTRAASTTSRVSPTTS
RSSSATPPPGSTTTRVPPVGSGTATYSGNPFVGVTPWANAYYASEVSSLAIPSLTGAMATAA AAVAKVPSFMWLDTLDKTPLMEQTLADIRTANKNGGNYAGQFVVYDLPDRDCAALASNGEYS
IADGGVAKYKNYIDTIRQIVVEYSDIRTLLVIEPDSLANLVTNLGTPKCANAQSAYLECINY
AVTQLNLPNVAMYLDAGHAGWLGWPANQDPAAQLFANVYKNASSPRALRGLATNVANYNGWN
ITSPPSYTQGNAVYNEKLYIHAIGPLLANHGWSNAFFITDQGRSGKQPTGQQQWGDWCNVIG
TGFGIRPSANTGDSLLDSFVWVKPGGECDGTSDSSAPRFDSHCALPDALQPAPQAGAWFQAY
FVQLLTNANPSFL*
【0240】
CBH2変異体配列をコードする読み取り枠を有する精製pTTTpyr−cbh2プラスミド(pcbh1、Amp(商標)、Acetamide(商標))が、上で特定した業者から得られた。ハイポクレアジェコリーナ株(Δeg1、Δeg2、Δcbh1、Δcbh2)のプロトプラストがpTTTpyr構成体によって形質転換され、Acetamideを含む選択寒天培地上で28℃で7日間育成された。手短に言うと、ハイポクレアジェコリーナのバイオリスティック形質転換は以下の手順およびその中のセロビオヒドロラーゼI(CBHI、Cel7a)、セロビオヒドロラーゼI I(CBHI I、Cel6a)、エンドグルカナーゼI(EGI、Cel7b)およびエンドグルカナーゼI I(EGI I、Cel5a)をコードする遺伝子が不活性化されている株を用いて実施された。バイオリスティック形質転換法によるこのハイポクレアジェコリーナの形質転換は、Bio−Rad社(米国、カリフォルニア州、Hercules)からのBiolistic(商標)PDS−1000/he粒子送達系を用いて、製造業者の指示(国際公開第05/001036号および米国特許出願公開第2006/0003408号参照)に従って達成された。胞子が収穫され、Acetamide寒天上に移され、28℃で7日間培養された。胞子は155グリセロール中に収穫され、さらなる使用のために−20℃で貯蔵された。CBH2変異体タンパク質の産生のために、10μlの胞子懸濁物が、PVDFフィルタープレート中の2%のグルコース/ソホローズ混合物;6.0g/Lグリシン、4.7g/L(NHSO;5.0g/L KHPO;1.0g/L MgSO・7HO;33.0g/L PIPPS;pH5.5を補充された200μlのグリシン最少培地に添加され、炭素源としての約2%のグルコース/ソホローズ混合物、10ml/Lの100g/LのCaCl、2.5ml/Lのトリコデルマリーゼイ微量元素(400X):175g/L無水クエン酸;200g/L FeSO・7HO;16g/L ZnSO・7HO;3.2g/L CuSO・5HO;1.4g/L MnSO・HO;0.8g/L HBOの滅菌後添加をされた。各CBH2変異体は正副4通りに育成された。プレートを酸素透過性膜でシールした後、プレートは220rpmで振とうされながら28℃で6時間培養された。培地を低圧力下にマイクロタイタープレートに移すことによって、上清が収穫され、実施例1に記載されたヘキソキナーゼアッセイを用いて残留グルコースの有無について試験された。
【実施例8】
【0241】
CBH2変異体の発現、活性および性能
ハイポクレアジェコリーナ電荷変異体が、関心の対象である様々な特性について試験された。特に、セルラーゼ変異体が、実施例1に記載されたようにHPLCアッセイ(HPLC)を用いてタンパク質の発現について、PASC加水分解アッセイ(活性PASC)およびPCS加水分解アッセイ(活性PCS)を用いて比活性について、エタノールの存在下における安定性(EtOH比率)および熱安定性(熱比率)について試験された。CBH2電荷変異体の性能データが表8−1に示される。性能指数(PI)は、変異体セルラーゼの性能と親セルラーゼまたは参照セルラーゼの性能との比である。下に記載される様々な項が突然変異を記述するのに用いられる。すなわち、アップ突然変異はPI>1を有し、中立突然変異はPI≧0.5を有し、非有害突然変異はPI>0.05を有し、有害突然変異はPI=0.05を有し、合体可能突然変異は変異体が少なくとも1の特性について性能指数値≧0.5を有するような突然変異である。合体可能突然変異は、合体されて1以上の所望の特性について適切な性能指数を有するタンパク質を産み出すことができる突然変異である。突然変異が起きる位置は以下のように分類される。すなわち、非制限位置は少なくとも1の特性について20%以上の中立突然変異を有し、制限位置は活性および安定性について20%未満の中立突然変異を有する。完全制限位置は活性または安定性について中立突然変異を有しない。
【表7】

【0242】
これらのデータは、任意のCBH2を遺伝子操作するために用いられることができる。たとえ遺伝子操作されるべきCBH2が特定の位置においてハイポクレアジェコリーナCBH2のアミノ酸とは異なるアミノ酸を有していても、最良の選択である置換、たとえばハイポクレアジェコリーナCBH2野生型アミノ酸への置換を特定することによって、これらのデータが所望の特性を変える置換を見出すために用いられることができる。
【0243】
表8−1は、ハイポクレアジェコリーナCBH2の変異体についての性能指数値(PiまたはPI)を示す。0.05以下の性能指数は0.05に固定され、同表中にボールドイタリック体で示される。
【実施例9】
【0244】
CBH2変異体活性への電荷の変化の効果
この実施例では、セルラーゼ活性の前処理トウモロコシ茎葉(PCS)アッセイにおける、CBH2活性への電荷の変化の効果が評価された。手短に言うと、CBH2 CEL中のPCSウィナーの数が、正味電荷特性の変化として測定された。表9−1では、PCSアッセイでの実測されたウィナーと予測されたウィナーとの比(o/e)が測定された。ボールドイタリック体の値は、それぞれの列に列挙された10個のランダム分布の平均値プラスマイナス標準偏差値(sd)とは有意に異なっている。
【表8】
【0245】
表9−1および図4に示されたように、電荷の減少(たとえば、−1、−2)はPCSアッセイにおけるCBH2ウィナーの優位に高い度数をもたらし、他方、電荷の増加(たとえば、+1)はPCSアッセイにおけるCBH2ウィナーの優位に低い度数をもたらす。結論として、PCSに基くCBH2活性は電荷の減少と相関している。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4
図5