(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記テルル担持ガラスフリットは、前記ガラスフリットと前記テルル化合物を形成するためのTe原料化合物との混合物が焼成されてなる、請求項1または2に記載のAg電極形成用ペースト組成物。
前記混合物は、前記ガラスフリットの融点をTmとしたとき、(Tm−35)℃〜(Tm+20)℃の温度範囲で焼成されてなる、請求項3に記載のAg電極形成用ペースト組成物。
前記テルル担持ガラスフリットは、銀粉末に対する割合がモル比で、Ag:Teとして、1:0.001〜1:0.1となる範囲で配合されている、請求項1〜5のいずれかに記載のAg電極形成用ペースト組成物。
前記ガラス成分のX線回折分析により得られる回折パターンが、前記ガラスフリットに由来するハローパターンの中に、前記テルル化合物に帰属するピークを含む、請求項1〜6に記載のAg電極形成用ペースト組成物。
前記ガラス成分のX線回折分析により得られる回折パターンが、さらに、前記ガラスフリット成分および前記テルル化合物成分から構成されるテルル含有化合物に帰属するピークを含む、請求項7に記載のAg電極形成用ペースト組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ファイヤースルー法により形成される太陽電池のエネルギー変換効率等の性能は、上記のように形成されるオーミックコンタクトの品質によるところが大きい。つまり、形成される受光面電極112とシリコン基板111との接触抵抗が低減されることで、高いエネルギー変換効率が達成され得る。したがって、オーミックコンタクトを改善し、延いては曲線因子(FF)やエネルギー変換効率を高めること等を目的として、受光面電極形成用の銀ペーストの構成についての様々な提案が為されている。
例えば、特許文献1〜3には、銀ペーストのガラス成分として、テルル(Te)をガラスネットワークフォーマー元素として含むガラスフリットを用いることで、良好なオーミックコンタクトが実現できることが開示されている。
また、特許文献4には、導電性粒子と、有機バインダと、溶剤と、ガラスフリットと、TeO
2とを含有する太陽電池素子の電極形成用導電性ペーストにおいて、0.01ないし10重量%のTeO
2を含有することで、低抵抗でFFの大きい電極を形成できることが開示されている。
【0006】
ところで、太陽電池モジュールを製造するに際しては、
図13に示したような太陽電池(単セル)110の両面の電極(112、120、122)に、電流取出し用のリード線(リードフレーム:図示せず)をハンダ付けしている。そして、このリード線を用いて太陽電池110を複数枚直列に接続することによってモジュール化し、このモジュール化した状態で所定の電力の供給を可能としている。ここで、電極とリード線との接着強度(典型的には、ハンダ強度)が、接着直後から太陽電池の長期に渡る使用期間において確保されていることが、太陽電池モジュールの耐久性および信頼性の面で重要とされる。このような点も考慮し、例えば、特許文献5では、銀ペーストにNiおよびNiOの少なくとも一方を含ませることで、ハンダ強度を高めることが提案されている。
【0007】
しかしながら、前記の特許文献1〜3に開示された銀ペーストでは、接触抵抗の低い電極が形成できるもののハンダの接着強度が十分に得られず、接着強度を一層高めることが望まれていた。一方で、特許文献4に開示された銀ペーストでは、接着強度は維持されているものの、接触抵抗の低減が十分とは言えないという問題があった。なお、特許文献5に開示された銀ペーストでは、特許文献1〜4に対して接着強度の改善は図れているものの、依然としてより高い接着強度と低接触抵抗とを両立し得る銀ペーストの実現が期待されている。
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、接着強度が高く接触抵抗の低い銀(Ag)電極を形成し得るペースト組成物を提供することを目的とする。また、かかるペースト組成物の製造方法を提供することを他の目的とする。さらにかかるペースト組成物を用いて形成された電極を備える変換効率が高く信頼性に優れた太陽電池を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく、本発明により提供されるペースト組成物は、太陽電池のAg電極形成用ペースト組成物(スラリー状、インク状の形態であり得る。以下同じ。)である。このペースト組成物は、銀粉末と、ガラス成分と、有機媒体とを含んでいる。そしてかかるガラス成分は、ガラスフリットの表面にテルル化合物が担持されたテルル担持ガラスフリットを含むことを特徴としている。
すなわち、このペースト組成物において、テルル化合物は、本質的に、単独の構成成分(例えば、テルル化合物粉末等の状態)として含まれていない。このペースト組成物において、テルル化合物は、ガラスを構成する成分としてではなく、ガラスフリットと不可分一体的に結合された状態で含まれている。なお、ガラスフリットとは、例えば、ガラス原料を溶融し急冷した後に必要に応じて粉砕する等して得られる、フレーク状または粉末状のガラスである。
【0009】
かかる構成によると、ペースト組成物中においてテルル化合物はガラスフリットと一体に存在し、この状態は、Ag電極形成用ペースト組成物の調製時から、かかるペースト組成物の塗布、乾燥の間はもちろんのこと、焼成によりガラス成分が溶融してしまう迄の間、継続して維持される。このようなAg電極形成用ペースト組成物によると、テルル化合物を単独のペースト構成成分(すなわち、ガラスフリットから遊離した状態で存在する成分)として含む銀ペーストに比べて、低抵抗で高いエネルギー変換効率を実現し得る電極を形成することができる。また、このようなAg電極形成用ペースト組成物によると、ガラス成分としてテルルをネットワークフォーマーとして含むガラスフリットを含む銀ペーストに比べて、接着強度の高い電極を形成することができる。すなわち、かかるAg電極形成用ペースト組成物によると、強いハンダ強度を備えるAg電極と、高い変換効率を有する太陽電池との両立が可能なペースト組成物が実現される。
【0010】
ここで開示されるAg電極形成用ペースト組成物の好ましい一態様において、上記テルル担持ガラスフリットは、テルル(Te)をガラスネットワークフォーマー(網目形成酸化物)元素として含まないガラスを主成分とするガラス相と、テルル化合物を主成分とするテルル化合物相とを少なくとも有し、上記ガラス相と上記テルル化合物相とが界面を介して一体化されていることを特徴としている。
【0011】
すなわち、テルル担持ガラスフリットにおいて、テルル化合物は全てがガラス相に取り込まれることなく、ガラス相とは異なる結晶相として、テルル化合物相を構成している。かかるガラス相とテルル化合物相とが一体化される界面近傍においては、互いの相の成分が拡散しながら接合を形成することがあり得る。例えば、ガラス相とテルル化合物相とが拡散接合を形成している場合等を考慮することができる。ここで、ガラス相は、テルル(Te)をガラスネットワークフォーマー元素として含まず、テルル化合物相との界面近傍においてTeを例えばネットワークモディファイア(網目修飾酸化物)として含み得る。また、テルル化合物相は、ガラス相との界面近傍においてガラス相の構成成分をテルル化合物の一部として含み得る。
【0012】
ここで、本明細書における「主成分」とは、組成において当該成分が50質量%を超えて含まれることを意味し、好ましくは当該成分が70質量%以上、より好ましくは90質量%以上含まれることをいう。
したがって、「テルル(Te)をガラスネットワークフォーマー元素として含まないガラスを主成分とするガラス相」とは、当該ガラス相において、テルル(Te)をガラスネットワークフォーマー元素として含まないガラスが50質量%を超えて含まれることを意味している。例えば、テルル化合物相との界面近傍においてはガラス相中にテルルが含まれる部分があっても良いが、かかるテルルが含まれる部分はガラス相の50質量%未満であり、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。
また、「テルル化合物を主成分とするテルル化合物相」とは、当該テルル化合物相において、テルル化合物が50質量%を超えて含まれることを意味し、好ましくは当該成分が70質量%以上、より好ましくは90質量%以上含まれることをいう。例えば、ガラス相との界面近傍においてはテルル化合物相中にガラス相の構成成分が含まれる部分があっても良いが、かかるガラス相の構成成分を含む部分はテルル化合物相の50質量%未満であり、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。
【0013】
かかる構成によると、テルル担持ガラスフリットは、例えば拡散接合等により、ガラス成分とテルル化合物とが独自の相を形成してこれを保ちながら、ガラス相とテルル化合物相とが一体化されたものとなり得る。かかる結合は、例えば、吸着などによる付着の状態に比べて十分に強固であり得る。したがって、Ag電極形成用ペースト組成物中に分散された状態であっても、また該ペースト組成物を印刷および乾燥に供した後の状態においても、ガラス成分とテルル化合物とが不可分一体化された状態を長期に渡って維持することが可能とされる。これにより、より確実に、強いハンダ強度を備えるAg電極を形成できるとともに、変換効率に優れた太陽電池を実現できる、Ag電極形成用ペースト組成物が提供される。
【0014】
ここで開示されるAg電極形成用ペースト組成物の好ましい一態様において、上記テルル担持ガラスフリットは、上記ガラスフリットとTe原料化合物との混合物が焼成されてなることを特徴としている。すなわち、ここに開示されるテルル担持ガラスフリットは、例えば、ガラスフリットとTe原料化合物との混合物を焼成することにより好適に調製され得る。
かかるテルル担持ガラスフリットは、ガラス成分とテルル化合物とが強固に結合され、上記の最適な状態を長期に亘って維持可能であり得る。したがって、かかる構成によっても、強いハンダ強度と低接触抵抗とを両立し得るAg電極を形成できるAg電極形成用ペースト組成物が提供される。
なお、ここでいう「焼成」とは、ガラスフリットとテルル化合物の粉末同士を焼結により結合させることを意味するが、ガラスフリットとテルル化合物との緻密な焼結体を得ることは意味しない。なお、酸化によりTe原料化合物に含まれる炭酸や硝酸等の成分を離脱させることを含み得る。
【0015】
ここで開示されるAg電極形成用ペースト組成物の好ましい一態様において、上記混合物は、上記ガラスフリットの融点をTmとしたとき、(Tm−35)℃〜(Tm+20)℃の温度範囲で焼成されてなることを特徴としている。かかる構成によると、ガラスフリットとテルル化合物が過度に溶融するのを防ぎつつ、互いに強固に一体化させることができる。すなわち、ガラスフリットの表面にテルル化合物が適切な状態で担持されたテルル担持ガラスフリットが好適に実現され、高いハンダ強度と低接触抵抗とをより安定して両立し得るAg電極形成用ペースト組成物が提供される。
【0016】
ここで開示されるAg電極形成用ペースト組成物の好ましい一態様において、上記テルル担持ガラスフリットは、上記テルル化合物が、上記ガラスフリット100質量部に対して、酸化テルル(TeO
2)に換算した時の質量で20質量部〜60質量部の割合で担持されていることを特徴としている。ガラスフリットとテルルとの割合を上記の範囲とすることで、高ハンダ強度と低接触抵抗とをバランス良く両立することが可能とされる。
【0017】
ここで開示されるAg電極形成用ペースト組成物の好ましい一態様において、上記テルル担持ガラスフリットは、銀粉末に対する割合がモル比で、Ag:Teとして、1:0.001〜1:0.1となる範囲で配合されていることを特徴としている。かかる構成によっても、電気伝導性、高ハンダ強度、低接触抵抗等の特性をバランス良く高めることが可能とされる。
【0018】
ここで開示されるAg電極形成用ペースト組成物の好ましい一態様において、上記ガラス成分のX線回折分析により得られる回折パターンが、上記ガラスフリットに由来するハローパターンの中に、上記テルル化合物に帰属するピークを含むことを特徴としている。かかる構成によると、ガラス成分はガラスフリットと共に、少なくとも一部に結晶性のテルル化合物を確実に含むことが確認できる。かかる構成とすることにより、このAg電極形成用ペースト組成物が高ハンダ強度と高変換効率との両立が可能であることを明瞭に確認することが可能となる。
【0019】
なお、ここで開示されるAg電極形成用ペースト組成物の好ましい一態様においては、X線回折分析により得られる回折パターンが、さらに、前記ガラスフリット成分および前記テルル化合物成分から構成されるテルル含有化合物に帰属するピークを含むものであり得る。
かかる構成によると、ガラス成分が、ガラスフリットの存在を示すハローパターンと、ガラスフリットに担持されるテルル化合物に帰属するピークと、ガラスフリットとテルル化合物との反応物であるテルル含有化合物を含むことが確認できる。すなわち、ガラスフリットとテルル化合物とが界面を介して拡散結合していることが確認できる。
【0020】
ここで開示されるAg電極形成用ペースト組成物の好ましい一態様では、さらに、遷移金属粉末および遷移金属酸化物粉末の群から選択される少なくとも1種の粉末を含むことを特徴としている。
Ag電極形成用ペースト組成物に遷移金属粉末および遷移金属酸化物粉末等が含まれることで、かかるペースト組成物により形成される電極膜の接着強度の向上と、接触抵抗の低減が図られる。ここで、Ag電極形成用ペースト組成物に添加するに相応しい遷移金属粉末および遷移金属酸化物粉末としては、第4周期の遷移金属およびその酸化物の粉末が挙げられ、より好ましくは、例えば、Ni,Ti,Fe,Zn,Cu,Mnおよびこれらの酸化物の粉末が例示される。これにより、さらに高いレベルで接着強度の向上と低接触抵抗の両方が実現されたAg電極形成用ペースト組成物が実現される。
【0021】
本発明が他の側面で提供する製造方法は、銀粉末と、ガラス成分と、有機媒体とを含む太陽電池用のAg電極形成用ペースト組成物を製造する方法である。かかる製造方法は、ガラスフリットとTe原料化合物とを混合し、上記ガラスフリットの融点をTm℃としたとき、(Tm−35)℃〜(Tm+20)℃の温度範囲で焼成してテルル担持ガラスフリットを用意する工程、ガラス成分の少なくとも一部として上記テルル担持ガラスフリットを用い、該ガラス成分と銀粉末とを有機媒体に分散させる工程、を包含することを特徴としている。
ガラスフリットとTe原料化合物とは、混合した状態のまま上記の温度範囲で焼成することで、テルル化合物がガラスフリットの表面に確実に担持される。このようにして用意されるテルル担持ガラスフリットをガラス成分として用いることで、接着強度が高く接触抵抗の低いAg電極を形成可能なAg電極形成用ペースト組成物を製造できる。
【0022】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記テルル担持ガラスフリットをさらに解砕する工程を含むことを特徴としている。
ガラスフリットとTe原料化合物とは焼成により互いに結合されて、ペースト組成物を調製するには大きな凝集体を形成することが考えられる。焼結による結合は、吸着等による付着に比べて強固ではあるものの、ガラスフリットとTe原料化合物とは混合した状態のまま間隙を持って結合されているため、この凝集体は軽い解砕(例えば、手作業による圧潰や、乳鉢および乳棒等を用いた軽い混合)によって所望の粒度にまで細粒化することができる。したがって、ボールミルや粉砕機等の特別な装置を用いることなく、ペースト組成物を調製するに適した粒度(例えば、0.1μm〜5μm程度)に調製することができる。
【0023】
本発明が他の側面で提供する太陽電池は、上記のいずれかのAg電極形成用ペースト組成物を用いて形成された電極を備えることを特徴としている。ここに開示されるAg電極形成用ペースト組成物を用いると、接触抵抗が低く、かつ、接着強度の高いAg電極を形成することができる。したがって、かかるAg電極を備える太陽電池は、エネルギー変換効率が高く、長期耐久性および信頼性に優れたものであり得る。
【0024】
ここで開示される太陽電池の好ましい一態様では、上記電極が受光面電極であることを特徴としている。ここに開示されるAg電極形成用ペースト組成物は、ガラス成分としてガラスフリットを含んでいるため、ファイヤースルー法による受光面電極に好ましく用いることができる。かかる構成によると、高品質なオーミックコンタクトが形成でき、エネルギー変換効率が高く、長期耐久性および信頼性を備える太陽電池を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事項であって本発明の実施に必要な事柄(例えばペースト組成物の基板への付与方法や焼成方法、太陽電池の構成等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0027】
[Ag電極形成用ペースト組成物]
ここで開示されるペースト組成物は、太陽電池における銀(Ag)電極を形成する用途に用いられるAg電極形成用ペースト組成物である。かかるペースト組成物は、固形分として、銀粉末とガラス成分とを含んでおり、これが有機媒体に分散されて調製されている。そしてこのAg電極形成用ペースト組成物は、ガラス成分が、ガラスフリットの表面にテルル化合物が担持されたテルル担持ガラスフリットを含むことによって特徴づけられるものである。したがって、本発明の目的を実現する限りにおいて、その他の構成成分やその配合量(率)に関して厳密な制限はなく、また、この種のペースト組成物に従来より一般的に使われている分散剤等の各種の添加剤が含まれることは許容される。
【0028】
[銀(Ag)粉末]
ここで開示されるペースト組成物に主たる固形分として含まれる銀粉末は、銀(Ag)を主体とする粒子の集合体であり、典型的には、Ag単体からなる粒子の集合体である。しかし、かかる銀粉末が、Ag以外の不純物やAg主体の合金(粒子)を微量含むものであっても、全体としてAg主体の粒子の集合体であれば、ここでいう「銀粉末」に包含され得る。なお、かかる銀粉末は、従来公知の製造方法によって製造されたものでよく、特別な製造手段を要求するものではない。
【0029】
かかる銀粉末を構成する粒子の形状については特に限定されない。典型的には球状であるが、いわゆる真球状のものに限られない。球状以外には、例えばフレーク形状や不規則形状のものが挙げられる。かかる銀粉末はこのような種々の形状の粒子から構成されていてもよい。かかる銀粉末が平均粒径の小さい(例えば数μmサイズ)粒子から構成される場合には、該粒子(一次粒子)の70質量%以上が球状またはそれに類似する形状を有することが好ましい。例えば、かかる銀粉末を構成する粒子の70質量%以上がアスペクト比(すなわち、粒子の短径に対する長径の比)1〜1.5であるような銀粉末が好ましい。
【0030】
なお、太陽電池を構成する基板(例えばSi基板)の一つの面(典型的には受光面であるが、裏面であっても良い)に受光面電極としてのAg電極を形成する場合、所望の寸法(線幅、膜厚など)および形状を実現し得るようペースト組成物の塗布量および塗布形態等を考慮することができる。ここで、かかる太陽電池の受光面電極を形成するのに好適な銀粉末としては、特に制限されるものではないが、該粉末を構成する粒子の平均粒径が20μm以下であるものが適当であり、好ましくは0.01μm以上10μmであり、より好ましくは0.3μm以上5μm以下であり、例えば2μm±1μmである。なお、ここでいう平均粒径とは、レーザー回折・散乱法により計測される粒度分布における累積体積50%時の粒径、すなわちD50(メジアン径)をいう。
例えば、平均粒径の差が互いに異なる複数の銀粉末(典型的には2種類)同士を混合し、混合粉末の平均粒径が上記範囲内にあるような銀(混合)粉末を用いることもできる。上記のような平均粒径の銀粉末を用いることにより、受光面電極として好適な緻密なAg電極を形成することができる。
【0031】
ここで開示されるペースト組成物中の上記銀粉末の含有量としては、特に制限されないが、該ペースト組成物の全体を100質量%としたとき、その40質量%以上95質量%以下、より好ましくは60質量%以上90質量%以下、例えば70質量%以上80質量%以下が銀粉末となるように含有率を調整することが好ましい。製造されたペースト組成物中の銀粉末含有率が上記範囲内にあるような場合には、導電性が高く、緻密性がより向上したAg電極(膜)を形成することができる。
【0032】
[ガラス成分]
ここで開示されるペースト組成物中の固形分のうち、副成分として含まれるガラス成分は、太陽電池の受光面電極としてのAg電極をファイヤースルー法により反射防止膜の上から形成するために必須の成分であり、また、基板への接着強度を向上させる無機添加材でもあり得る。そして本発明においては、かかるガラス成分が、ガラスフリットの表面にテルル化合物が担持されたテルル担持ガラスフリットを含んでいることで、Ag電極の付着強度を更に高め、かつ、接触抵抗を低減するという効果を奏する。
【0033】
かかるテルル担持ガラスフリットにおいて、テルル化合物はガラスフリットと不可分一体的に結合された状態でありながら、ガラスを構成する成分としてではなく、結晶相として含まれている。例えば、具体的には、一個のフレーク状または粉末状のガラスフリットに対し、一個のあるいは複数個のテルル化合物粒子が結合し、ガラスフリットに担持された状態であり得る。テルル化合物粒子を担持したガラスフリットが更に複数結合するなどしていても良い。ここで、ガラスフリットとテルル化合物粒子の相対的な大きさについては特に制限はなく、いずれの方が大きくても良く、また同程度の大きさであって良い。両者の相対的な位置関係が重要である。
【0034】
かかるテルル担持ガラスフリットの構造に着目すると、テルル担持ガラスフリットは、ガラス相と、結晶質のテルル化合物相とが界面を介して一体化された構造を有している。ここで、ガラス相は、テルル(Te)をガラスネットワークフォーマー元素として含まないガラスを主成分としている。すなわち、ガラス相はTeを含んでいても良いが、Teはガラスネットワークフォーマーとしてではなく、ネットワークモディファイアとして含み得る。また、テルル化合物相は、テルル化合物を主成分とする結晶質であり、ガラス相とは結晶構造を有する点で明瞭に区別することができる。ガラス相は、1種類のガラス相で構成されていても良いし、複数種のガラス相が存在していても良い。また、テルル化合物相は、1種類のテルル化合物相で構成されていても良いし、複数種のテルル化合物相が存在していても良い。例えば、一つのガラス相に、組成の異なる複数のテルル化合物相が一体化されていても良いし、組成の異なる複数のガラス相と組成の異なる複数のテルル化合物相とが一体化されていても良い。
【0035】
これらのガラス相とテルル化合物相とは、接合界面において互いの成分が拡散することもあり得るため、例えば、界面近傍においては互いの成分を含んでいても良い。典型的には、例えば、ガラス相は、Teをテルル化合物相との界面近傍に含み得るが、ガラス相の中心付近においてはTeを含まない形態であり得る。なお、ガラス相の大きさによっては中心付近においてTeを含む形態も考えられるが、かかる場合も、Teはガラスネットワークフォーマー(すなわちガラス骨格)としては存在しないと理解できる。
また、テルル化合物相は、ガラス相との界面近傍においてガラス相の構成成分を含み得る。この場合、ガラス相の構成成分は、テルル化合物の一構成成分として含まれる。
すなわち、テルル担持ガラスフリットにおいて、ガラス相とテルル化合物相は界面を介して接合し、界面近傍において互いの成分が拡散し得るものの、一方の相が他方の相に取り込まれることはなく、本質的には独立した異なる相として存在している。
【0036】
以上のようなテルル担持ガラスフリットの特徴的な構成は、例えば、このAg電極形成用ペースト組成物のガラス成分をX線回折分析することにより容易に確認することができる。すなわち、上記の通りの構成のテルル担持ガラスフリットのX線回折パターンは、ガラス相に由来するハローパターンと呼ばれる特有の幅広のピークの中に、結晶性のピークが観測される。この結晶性のピークは、典型的には、ガラスフリットに担持されたテルル化合物に一致する。そして、テルル化合物相とガラス相との界面においてガラスフリットの構成成分がテルル化合物相に拡散している場合には、テルル化合物を構成する成分とガラスフリットを構成する成分とで形成される化合物(テルル含有化合物)のピークが検出される場合もある。例えば、一例として、ガラスフリットとして鉛系ガラスを用いた場合には、典型的には、TeO、Te
2O
5、TeO
3等のテルル酸化物に帰属するピークに加えて、Pb
3TeO
5等のテルル含有酸化物に帰属するピークが観測され得る。このように、テルル担持ガラスフリットのX線回折パターンは、その特徴的な構造に由来して、典型的には、ガラスフリットの存在を示すハローパターンと、ガラスフリットに担持されるテルル化合物に帰属するピークと、ガラスフリット成分とテルル化合物成分とからなるテルル含有化合物に帰属するピークとを含むものであり得る。
かかるテルル担持ガラスフリットの特徴的な構成は、X線回折分析以外にも、例えば、エネルギー分散型X線(EDX)分析を行うこと等でも確認することができる。
【0037】
かかるテルル担持ガラスフリットにおいて、テルル化合物を担持するガラスフリット(ガラス相であり得る。以下同じ。)の形状については特に制限はなく、典型的には、ガラスを粉砕する等して得られる、フレーク状または粉末状のガラスであって良い。また、組成についても特に制限はなく、従来よりAg電極形成用ペーストに用いられているガラスフリットと同様のものとすることができる。
このようなガラスフリットとしては、例えば、鉛系、亜鉛系、ホウケイ酸系、アルカリ系のガラス、および酸化バリウムや酸化ビスマス等を含有するガラス、またはこれら2種以上の組合せ等からなるものが例示される。より具体的には、例えば、以下に示すような代表組成(酸化物換算組成;ガラスフリット全体を100mol%とする。)を有するガラスフリットが例示される。
【0038】
[鉛系ガラス]
46〜57mol%PbO−1〜7mol%B
2O
3−38〜53mol%SiO
2
[Li含有鉛系ガラス]
0.6〜18mol%Li
2O−20〜65mol%PbO−1〜18mol%B
2O
3−20〜65mol%SiO
2
[無鉛系ガラス]
10〜29mol%Bi
2O
3−15〜30mol%ZnO−0〜20mol%SiO
2−20〜33mol%B
2O
3−8〜21mol%(Li
2O,Na
2O,K
2O)
【0039】
なお、上記の組成は代表的なものであって、基板との良好な付着性や、電極膜の形成性、反応反射防止膜への浸食性、良好なオーミックコンタクトを得る目的等で、各種の成分が調整されたり、更なるガラス修飾成分が添加されるなどしてよいことは言うまでもない。
【0040】
また、ガラスフリットに担持されるテルル化合物についても特に制限はなく、金属との化合物、酸化物、オキソ酸、水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、金属錯体(配位化合物)などの無機化合物や、テルリド、テルロキシド、テルロン等の有機化合物、およびこれらの混合物あるいは複合化物であり得る。代表的には、一般式、TeO
2,Te
2O
3,Te
2O
5,TeO
3等で表されるテルル酸化物である。
ガラスフリットに担持されるテルル化合物の割合についても特に制限はないが、例えば、おおよその目安として、上記のテルル化合物が、ガラスフリット100質量部に対して、酸化テルル(TeO
2)に換算した時の質量で20質量部〜60質量部の割合で担持されているのが好ましく、より好ましくは30質量部〜50質量部程度である。
【0041】
以上の構成のテルル担持ガラスフリットによると、ペースト組成物中においてテルル化合物はガラスフリットと均一すぎることなく不均一すぎることなく、近すぎることなく離れすぎることなく、最適な状態で存在していると考えられる。この最適な状態は、Ag電極形成用ペースト組成物の調製時から、かかるペースト組成物の塗布、乾燥(の間はもちろんのこと、焼成によりガラス成分が溶融してしまう迄の間、継続して維持される。このようなAg電極形成用ペースト組成物によると、テルル化合物を単独のペースト構成成分として含む銀ペーストに比べて、低抵抗で高いエネルギー変換効率を実現し得る電極を形成することができる。また、このようなAg電極形成用ペースト組成物によると、ガラス成分としてテルルをネットワークフォーマーとして含むガラスフリットを含む銀ペーストに比べて、接着強度の高い電極を形成することができる。すなわち、高い接着強度(例えば、ハンダ強度)を備え、かつ、接触抵抗の低いAg電極を形成することができる。
【0042】
ここに開示されるペースト組成物におけるガラス成分のうち、必ずしも全てが上記のテルル担持ガラスフリットである必要はなく、従来よりAg電極形成用ペーストに用いられているガラスフリットと混合して用いるようにしても良い。しかしながら、テルル担持ガラスフリットがガラス成分に占める割合は、70質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに望ましくは95質量%以上(すなわち、実質的にはほぼ100質量%)である。
基板(例えばSi基板)上に付与したペースト組成物(膜)を安定的に焼成し、固着させる(焼き付かせる)ためには、該ペースト組成物中に含まれるテルル担持ガラスフリットのBET法に基づく比表面積が、概ね0.1m
2/g以上10m
2/g以下の程度であることが好ましい。また、平均粒径については、0.01μm以上10μm以下、より限定的には0.1μm以上5μm以下であるのが好ましい。
【0043】
ガラス成分の含有量については特に限定されないが、例えば、ペースト組成物の全体を100質量%としたとき、およそ0.5質量%〜10質量%、好ましくは0.5質量%〜5質量%、より好ましくは1質量%〜3質量%となる量であるのが適当である。
すなわち、テルル担持ガラスフリットは、銀粉末に対する割合がモル比で、Ag:Teとして、1:0.001〜1:0.1となる範囲で配合されているのが好ましい。より好ましくは、Ag:Teとして、1:0.001〜1:0.02である。
【0044】
[遷移金属粉末および遷移金属酸化物粉末]
なお、ここで開示されるペースト組成物には、固形分として、更に、遷移金属粉末および遷移金属酸化物粉末の少なくともいずれかが含まれていても良い。遷移金属粉末および遷移金属酸化物粉末としては、周期律表の第3族から第11族に属する元素の単体もしくはその酸化物の粉末であってよく、典型的には、第一遷移元素(3d遷移元素)であるスカンジウム(Sc),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),マンガン(Mn),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),銅(Cu)および亜鉛(Zn)の単体もしくはその酸化物の粉末を考慮することができる。より好ましくは、Ni,Ti,Mnの単体あるいはその酸化物の粉末であり、さらに限定的には、NiまたはNiOであり得る。これらの粉末は、いずれか1種が単独で含まれても良いし、2種以上が含まれていても良い。
これらの粉末を構成する粒子の平均粒径としては、1nm以上200nm以下であることが適当であり、好ましくは5nm以上200nm以下であり、より好ましくは15nm以上200nm以下である。
かかる遷移金属粉末および遷移金属酸化物粉末の含有量としては、例えば、ペースト組成物の全体を100質量%としたとき、およそ0.5質量%以下程度を目安とすることができる。好ましくは0.001質量%〜0.5質量%、より好ましくは0.001質量%〜0.1質量%である。
【0045】
[有機媒体]
ここで開示されるペースト組成物は、固形分として、上記のような銀粉末、ガラス成分、および必要に応じて遷移金属および遷移金属酸化物等の粉末を含むとともに、これらの固形分を分散させるための有機媒体(典型的にはビヒクル)を含んでいる。かかる有機媒体としては、上記の固形分、とりわけ銀粉末を良好に分散させ得るものであればよく、従来のこの種のペーストに用いられているものを特に制限なく使用することができる。例えば、有機媒体を構成する溶剤として、エチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体(グリコールエーテル系溶剤)、トルエン、キシレン、ブチルカルビトール(BC)、ターピネオール等の高沸点有機溶剤を一種類または複数種組み合わせて使用することができる。
また、ビヒクルは、有機バインダとして種々の樹脂成分を含むことができる。かかる樹脂成分はペースト組成物に良好な粘性および塗膜形成能(基板に対する付着性)を付与し得るものであればよく、従来のこの種のペーストに用いられているものを特に制限なく使用することができる。例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、セルロース系高分子、ポリビニルアルコール、ロジン樹脂等を主体とするものが挙げられる。このうち、特にエチルセルロース等のセルロース系高分子が好ましい。
【0046】
かかる有機媒体がペースト組成物全体に占める割合は、5質量%以上60質量%以下であるのが適当であり、好ましくは7質量%以上50質量%以下、より好ましくは10質量%以上40質量%以下である。また、ビヒクルに含まれる有機バインダは、ペースト組成物全体の1質量%以上10質量%以下程度、より好ましくは1質量%以上7質量%以下程度の割合で含まれるのがよい。かかる構成とすることで、基板上にAg電極(膜)として均一な厚さの塗膜を形成(塗布)し易く、取扱いが容易であり、またAg電極膜を焼成する前の乾燥に長時間を要することなく好適に乾燥させることができるために好ましい。
【0047】
以上のAg電極形成用ペーストは、例えば、ここに開示される製造方法により好適に調整することができる。すなわち、本発明が提供するAg電極形成用ペースト組成物の製造方法は、以下の工程を含む。
(S10)ガラスフリットとTe原料化合物とを混合し、上記ガラスフリットの融点をTm℃としたとき、(Tm−35)℃〜(Tm+20)℃の温度範囲で焼成してテルル担持ガラスフリットを用意する工程。
(S20)ガラス成分の少なくとも一部として上記テルル担持ガラスフリットを用い、該ガラス成分と銀粉末とを有機媒体に分散させる工程。
図1に、一実施形態としてのテルル担持ガラスフリットを用意する工程(S10)のフローを、
図6に、一実施形態としてのAg電極形成用ペースト組成物の製造フロー(S20)を示した。以下、適宜図面を参照しながら、Ag電極形成用ペースト組成物の製造方法について説明を行う。
【0048】
[テルル担持ガラスフリットの用意]
ここに開示されるAg電極形成用ペースト組成物の製造方法では、まず、
図1の工程S10として示したように、ガラスフリットとTe原料化合物とを混合し(S11)、この混合物を焼成する(S12)ことでテルル担持ガラスフリット(S13)を用意する。
ガラスフリットとしては、上記で示したように従来よりAg電極形成用ペーストに用いられているガラスフリットと同様のものを特に制限なく用いることができる。
【0049】
Te原料化合物としては、典型的には適切な雰囲気での焼成によりテルル化合物を形成あるいはテルル化合物を維持し得る各種の材料を用いることができる。かかるTe原料化合物としては、例えば上記に例示した各種のテルル化合物であってよい。より具体的には、例えば、テルル化亜鉛,テルル化カドミウム,テルル化水銀,テルル化鉛,テルル化ビスマス,テルル化銀等のテルル化金属、二酸化テルル,三酸化テルル等のテルル酸化物、オルトテルル酸,亜テルル酸,オルトテルル酸等のオキソ酸とその塩、水酸化テルル等の水酸化物、塩化テルル,四臭化テルル等のハロゲン化物、硫酸ジテルリル、リン酸テルル等の塩、テルル酸,メタテルル酸等とその塩に例示される無機化合物、および、ジアリールテルリド等のテルリド、ビス(4−メトキシフェニル)テルロキシド等のテルロキシド、メチルフェニルテルロン等のテルロン等に例示される有機化合物等、およびこれらの混合物あるいは複合化物であり得る。典型的には、一般式、TeO
2,Te
2O
3,Te
2O
5,TeO
3等で表されるテルル酸化物や、Te(OH)
6で示されるテルル酸およびH
2TeO
3で示される亜テルル酸とそれらの塩等を好適に用いることができる。
【0050】
これらは、工程S11に示したように、均一に混合した後、工程S12に示したように、典型的には酸化雰囲気(例えば、大気雰囲気)において(Tm−35)℃〜(Tm+20)℃となる温度範囲で焼成する。焼成温度は、(Tm+20)℃を超過するとガラスフリットの溶融が進行し、テルル化合物がガラス相に取り込まれて(溶解して)しまうために好ましくない。焼成温度はより好ましくは(Tm+15)℃以下であり、更に好ましくはTm℃以下(すなわち、ガラスフリットの融点以下)である。また、焼成温度が(Tm−35)℃よりも低いとテルル化合物を確実に担持できない可能性が高まるために好ましくない。焼成温度は、好ましくは(Tm−30)℃以上であり、より好ましくは(Tm−20)℃以上である。これにより、ここに開示されるテルル担持ガラスフリットを用意することができる。
【0051】
なお、焼成後に得られる焼成物としてのテルル担持ガラスフリットは、全体が焼結して大きな凝集体を形成している場合もあり得る。このような場合には、工程S13に示したように、かかる凝集体を解砕し、必要に応じて工程S14に示したようにふるいにかけることで、ペースト組成物の調製に適した粒度(例えば、0.01μm〜10μm程度)のものを用いるようにしても良い。焼結による結合は吸着等による付着に比べて強固ではあるものの、ガラスフリットとTe原料化合物とは混合した状態のまま間隙を持って焼結されているため、この凝集体はボールミルや粉砕機等の特別な装置を用いることなく軽い解砕(例えば、手作業による圧潰や、乳鉢および乳棒等を用いた軽い混合)によって所望の粒度にまで容易に細粒化することができる。
【0052】
[有機媒体への分散]
次いで、
図6の工程S20に示したように、上記で用意したテルル担持ガラスフリットをガラス成分の少なくとも一部として用い、ガラス成分と銀粉末とを有機媒体に分散させる。
かかる固形分材料の有機媒体への分散は、工程S21に示したように、これらの材料を混合することによって容易に実施することができる。これらの操作は、典型的には、例えば、三本ロールミルあるいはその他の混練機を用いて、所定の混合比の銀粉末およびガラス成分をビヒクルとともに混合・撹拌するとよい。なお、かかるペースト組成物に上記の遷移金属粉末あるいは遷移金属酸化物粉末を添加する場合には、銀粉末およびガラス成分などと共にこれらの粉末を混合すればよい。なお、以上の材料を混合するにあたり、全ての材料を同時に混合するようにしても良いし、2回以上に分けて投入しても良い。また、予め一部の材料を、例えば水系溶媒やアルコール類等の媒体に分散させた分散液の形態で混合する等してもよい。これにより、工程S22に示したようにAg電極形成用ペースト組成物を調製することができる。
【0053】
[Ag電極の作製]
以上のようにして得られるここで開示されるAg電極形成用ペースト組成物は、例えば、従来より基板上に受光面電極としてのAg電極を形成するのに用いられてきた銀ペーストと同様に取り扱うことができる。すなわち、ここに開示されるAg電極形成用ペースト組成物によるAg電極の形成には、従来公知の方法を特に制限なく採用することができる。例えば、
図9に示した太陽電池10におけるAg電極(受光面電極12)を、ファイヤースルー法によりを形成する場合には、従来と同様にn
+層16や反射防止膜14を基板の受光面に形成した後に、このAg電極形成用ペースト組成物を反射防止膜14の上に所望する膜厚(例えば20μm程度)や所望の塗膜パターンとなるように供給(塗布)する。ペースト組成物の供給は、典型的には、スクリーン印刷法、ディスペンサー塗布法、ディップ塗布法等によって行うことができる。なお、かかる基板としては、シリコン(Si)製基板11が好適であり、典型的にはSiウエハである。かかる基板11の厚さとしては、所望する太陽電池のサイズや、該基板11上に形成されるAg電極12,裏面電極20,反射防止膜14等の膜厚、該基板11の強度(例えば破壊強度)等を考慮して設定することができ、一般的には100μm以上300μm以下とされ、150μm以上250μm以下が好ましく、例えば160μm以上200μmであり得る。また、本ペースト組成物は、n
+層16が薄くドーパント濃度の低いシャローエミッタ構造を有する基板11に対しても用いることができる。
【0054】
なお、ファイヤースルー法を採用しない場合には、基板11の受光面にn
+層16や反射防止膜14を形成した後に、この反射防止膜14を所望のAg電極パターンで剥離し、かかる剥離部分にAg電極形成用ペースト組成物を所望する膜厚で供給することが挙げられる。
次いで、ペースト塗布物を適当な温度(例えば室温以上であり、典型的には100℃程度)で乾燥させる。乾燥後、適当な焼成炉(例えば高速焼成炉)中で適切な加熱条件(例えば600℃以上900℃以下、好ましくは700℃以上800℃以下)で所定時間加熱することによって、乾燥塗膜の焼成を行う。これにより、上記ペースト塗布物が基板11上に焼き付けられ、
図9に示すようなAg電極12が形成される。
【0055】
ここで開示されるAg電極形成用ペースト組成物は、上述したように、該ガラス成分としてテルル化合物を担持したガラスフリットを含んでいる。このAg電極形成用ペースト組成物は、テルル化合物を単独で含むペースト組成物よりも得られるAg膜の接触抵抗が低いため、結果としてエネルギー変換効率の高い太陽電池を作製可能とする。また、このAg電極形成用ペースト組成物は、ガラスフリット中にテルル成分をガラスネットワークフォーマーとして含むペースト組成物よりも得られるAg膜の接着強度が高いため、結果として耐久性および信頼性の高い太陽電池を作製可能とする。したがって、かかるペースト組成物によると、優れた太陽電池特性(例えば、FFが78.3%以上で、かつ、Ag電極の接着強度が4N以上)を有する太陽電池が実現され得る。
【0056】
[太陽電池の作製]
なお、ここで開示されるAg電極形成用ペースト組成物を使用してAg電極(典型的には、受光面電極)を形成すること以外の太陽電池製造のための材料やプロセスは、従来と全く同様でよい。そして、特別な処理をすることなく、当該ペースト組成物によって形成されたAg電極を備えた太陽電池(典型的には結晶シリコン系太陽電池)を製造することができる。かかる結晶シリコン系太陽電池の構成の一典型例としては、上述の
図9に示される構成が挙げられる。
Ag電極形成以外のプロセスとしては、裏面電極20としてのアルミニウム電極20の形成が挙げられる。かかるアルミニウム電極20の形成の手順は以下のとおりである。例えば、先ず、上記の通り受光面に受光面電極12を形成するためのAg電極形成用ペースト組成物を印刷し、裏面にも銀ペースト(ここで開示されるAg電極形成用ペースト組成物であってよい)を所望の領域に印刷し、乾燥させる。その後、裏面の銀ペースト形成領域の一部に重なるようにアルミニウム電極ペースト材料を印刷・乾燥し、全ての塗膜の焼成を行う。通常、アルミニウム電極20が焼成されるとともに、P
+層(BSF層)24も形成され得る。すなわち、焼成によって裏面電極となるアルミニウム電極20がp型シリコン基板11上に形成されるとともに、アルミニウム原子が該基板11中に拡散することで、アルミニウムを不純物として含むp
+層24が形成されることとなる。このようにして太陽電池(セル)10を作製することができる。
【0057】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0058】
[テルル担持ガラスフリットの用意]
ガラスフリットとして、平均粒径が1.1μmで、PbO:38mol%,SiO
2:32mol%,Li
2O:12mol%の配合比で構成される鉛系(Pb系)ガラスからなるガラスフリットを用意した。
テルル化合物として、平均粒径が5μmのテルル酸粉末(Te(OH)
6,稀産金属株式会社製、純度99%以上)を用意した。
このガラスフリット100質量部に対して、Te(OH)
6を60質量部混合した。これは、酸化テルル(TeO
2)に換算した時の質量で約40質量部となる。これらの材料を、
図1に示したフローに従って混合した後、バットに広げ、450℃で30分程焼成した。これにより得られた焼成物は、焼結により凝集体を形成していたため、手で軽くほぐして解砕し、#150のふるいを通過したものを、テルル担持ガラスフリットとして用いた。なお、かかる焼成温度は、ガラスフリットの融点Tm(450℃)と同温度とした。
【0059】
[SEM観察]
上記で用意したテルル担持ガラスフリットと、このテルル担持ガラスフリットの焼成前のガラスフリットおよびテルル酸粉末の混合物とについて、それぞれ走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。テルル担持ガラスフリットをSEMにより観察した結果を
図3に、未焼成の混合物をSEMにより観察した結果を
図4に示した。
図3からわかるように、テルル担持ガラスフリットではTe化合物粒子が凝集している割合が少なく、比較的均一に分散されてガラスフリットの表面に密着するように担持されているのがわかった。また、Te化合物粒子は
図4のものに比べて丸みを失っており、Te化合物粒子とガラスフリットとが接合部でネックを形成して結合しているのが観察できた。
これに対し
図4の未焼成の混合物では、Te化合物は丸い粒状を保ったまま、比較的凝集しつつガラスフリットと混合状態にあるのがわかる。またTe化合物は丸い粒状であり、ガラスフリットとTe化合物粒子は接触している部分はあるが一体化されずに存在している様子が観察された。
【0060】
[XRD分析]
上記で用意したテルル担持ガラスフリットと、このテルル担持ガラスフリットの焼成前の混合物とについて、X線回折(XRD)分析を行った。XRD回折分析には、線源にCuKα線を用いたXRD分析装置(株式会社リガク製、Ultrax18‐TTR3−300)により、測定角2θを0°〜60°の範囲とする測定を行った。テルル担持ガラスフリットについて得られたXRDパターンを
図5に、未焼成の混合物について得られたXRDパターンを
図6に示した。
図6の未焼成の混合物のXRDパターンでは、テルル酸の鋭いピークが検出されており、ガラスとテルル酸とが一体化されずに存在していることが確認された。
これに対し、
図5のテルル担持ガラスフリットのXRDパターンは、ハローパターンに結晶のピークパターンが重畳した形態であり、得られた回折ピークはPb
3TeO
5、Te
2O
5およびTeO
3のテルル含有酸化物に帰属するピークが観測された。すなわち、テルル担持ガラスフリットには、(1)ガラスフリットに由来するガラス相と、(2)テルル酸が焼成されて形成されたテルル酸化物からなる相(Te
2O
5およびTeO
3)に加えて、(3)ガラスフリットの構成成分とテルル酸の構成成分とから構成されるテルル含有化合物(Pb
3TeO
5)が存在することが確認できた。上記のSEM観察の結果と併せて、(3)テルル含有化合物はガラス相とテルル酸化物からなる相との界面に形成されているものと考えられる。
【0061】
[評価用未焼成塗膜の作製]
(ペースト組成物A)
銀粉末として、平均粒径(D50)が2μmの銀粒子(DOWAエレクトロニクス株式会社製、AG48F)を用意した。
有機媒体として、バインダ(エチルセルロース)と有機溶剤(ターピネオール)とからなる有機ビヒクルを用意した。
図6のフローに従い、この銀粉末100質量部に対し、上記で用意したテルル担持ガラスフリット3.5質量部を加え、有機媒体と共に混合して、ペースト組成物を調製した。なお、ここでは、バインダの割合は、銀粉末とテルル担持ガラスフリットとの合計量を100質量部として6質量部となるように配合し、残部を有機溶剤とした。これにより、Ag電極形成用ペースト組成物を得た。これを、ペースト組成物Aとした。
【0062】
(ペースト組成物B)
また、銀粉末100質量部に対し、上記で用意したのと同じ、ガラスフリット(すなわち、テルルを担持しないガラスフリット)2質量部と、テルル酸1質量部とを混合した後、有機媒体と共に混合し、ペースト組成物を調製した。ここでも、有機媒体は、バインダの質量が、銀粉末とテルル担持ガラスフリットとの合計量に等しくなるように配合した。これにより、Ag電極形成用のペースト組成物を調整した。これを、ペースト組成物Bとした。
【0063】
(評価用塗膜の形成)
上記で用意したペースト組成物AおよびBをシリコン基板の表面にそれぞれ印刷し、85℃で乾燥させて有機溶剤を揮発させることで、塗膜AおよびBをそれぞれ作製した。
【0064】
[EDX分析]
上記で用意した塗膜AおよびBを基板ごと切断し、それぞれの切断面についてエネルギー分散型X線分光法(EDX)による分析を行った。分析には、SEM−EDX(SEM:株式会社日立ハイテクフィールディング製,S−4700、EDX:株式会社HORIBA製,X−max)を用いた。SEM−EDXによる分析結果を、
図7A〜
図8Cに示した。
図7Aは塗膜Aの断面のSEM観察結果であり、
図7Bは、
図7A中のTで示した位置におけるEDXスペクトルを、
図7Cは、
図7A中のGで示した位置におけるEDXスペクトルをそれぞれ示している。また、
図8Aは塗膜Bの断面のSEM観察結果であり、
図8Bは、
図8A中のTで示した位置におけるEDXスペクトルを、
図8Cは、
図8A中のGで示した位置におけるEDXスペクトルをそれぞれ示している。
【0065】
図7Aの位置「T」は、SEM観察の結果から、ガラスフリットとテルル化合物(テルル酸化物、テルル含有化合物等)の界面近傍とみられる位置であり、「G」はガラスフリットの中心付近である。
図7B〜Cより、焼成前の塗膜Aにおいて、テルル担持ガラスフリットの、ガラスフリットとテルル化合物との界面近傍では、Teが多く検出されており、一部ガラス成分であるPbが検出された。またガラスフリットの中心付近では、Pbが多く検出されている。
また、
図8A中の位置「T」は、SEM観察の結果から、テルル酸の中心付近とみられる位置であり、「G」はガラスフリットの端部である。
図8B〜Cより、焼成前の塗膜Bにおいては、ガラスフリットの成分(Pb)とテルル酸の部分とで、各々の成分が別個に検出されることが確認できた。
このことから、塗膜Aと塗膜Bとでは、ペーストを調製するのに用いた材料は同じであっても、全く異なる構成の塗膜が形成されていることが確認できた。
【0066】
[Ag電極膜の作製]
[ガラス成分の用意]
(ガラス成分a) PbO:38mol%,SiO
2:32mol%,Li
2O:12mol%の配合比で構成される鉛系(Pb系)ガラスからなるガラスフリットを用意し、ガラス成分aとした。
(ガラス成分b) 上記のガラス成分aを100重量部に対して、Te(OH)
2を60質量部混合し、450℃で30分程焼成することで、ガラスフリットにテルル化合物を担持させた焼成体を用意した。この焼成体を軽く解砕し、#150のふるいを通過したものをガラス成分b(テルル担持ガラスフリット)とした。
(ガラス成分c) PbO:52mol%,TeO
2:36mol%の配合比で構成される鉛−テルル系(Pb−Te系)ガラスからなるガラスフリットを用意し、ガラス成分cとした。
【0067】
[ペースト組成物の調製]
(1)銀粉末として、平均粒径(D50)が2μmの銀粒子(DOWAエレクトロニクス株式会社製、AG48F)を用意した。
(2)ガラス成分としては、上記で用意したガラス成分a〜cのいずれかを用いることとした。
(3)添加成分として、平均粒径(D50)が0.15μmのニッケル粒子(JFEミネラル株式会社製、117X)を用意した。
(4)有機媒体として、バインダ(エチルセルロース)と有機溶剤(ターピネオール)とからなる有機ビヒクルを用意した。
【0068】
(サンプル1)
上記で用意した(1)銀粉末、(2)ガラス成分b(テルル担持ガラスフリット)、および(3)ニッケル粒子とを混合し、(4)有機媒体と混練することで、ペースト組成物(サンプル1)を得た。各材料の配合割合は、ペースト組成物全体を100質量%としたとき、銀粉末が85質量%、ガラス成分bが2質量%、ニッケル粒子が0.06質量%、残部が有機媒体となる割合とした。なお、有機媒体は、上記バインダがペースト組成物の固形分重量を100質量部として6質量部となり、その残りが有機溶剤となるように調製した。
【0069】
(サンプル2)
サンプル1のガラス粉末bに代えて、上記のガラス成分c(Pb−Te系ガラスフリット)を用い、その他の条件はサンプル1と同様にして、ペースト組成物(サンプル2)を得た。
(サンプル3)
サンプル1のガラス粉末bに代えて、ガラス成分a(Pb系ガラスフリット)を用い、さらにTeO
2を加えて、その他の条件はサンプル1と同様にして、ペースト組成物(サンプル3)を得た。なお、ガラス成分aおよびTeO
2の割合は、ペースト組成物全体を100質量%としたとき、ガラス成分aが2質量%、TeO
2が1質量%となるように混合した。
【0070】
[評価用の太陽電池セルの作製]
上記で得られたサンプル1〜3のペースト組成物を受光面電極形成用ペーストとして用い、以下の手順で評価用の太陽電池セルを作製した。
すなわち、先ず、市販の156mm四方の大きさの太陽電池用p型単結晶シリコン基板(板厚180μm)を用意し、その表面を、フッ酸と硝酸とを混合した混酸を用いて酸エッチング処理した。次いで、上記エッチング処理で微細な凹凸構造が形成されたシリコン基板の受光面にリン含有溶液を塗布し、熱処理を行なうことによって当該シリコン基板の受光面に厚さが約0.5μmであるn−Si層(n
+層)を形成した(
図9参照)。このn−Si層上に、プラズマCVD(PECVD)法によって厚みが80nm程度の反射防止膜(窒化シリコン膜)を形成した。
その後、用意したサンプル1〜3のペースト組成物を用い、反射防止膜上にスクリーン印刷法によって受光面電極(Ag電極)となる塗膜(厚さ10μm以上30μm以下)を形成した。また、同様にして、裏面電極(Ag電極)となる塗膜をパターン状に形成した。これらの塗膜は85℃で乾燥させて次工程に供した(
図9参照)。
【0071】
次いで、所定の裏面電極用アルミニウムペーストを、シリコン基板の裏面側のAg電極パターンの一部に重なるようにスクリーン印刷(ステンレス製スクリーンメッシュSUS#165を使用した。以下同じ。)により印刷(塗布)し、膜厚が約55μmの塗布膜を形成した。次いで、このシリコン基板を焼成して、Ag電極(受光面電極)を備えた太陽電池を形成した。焼成は、近赤外線高速焼成炉を用い、大気雰囲気中で、およそ700℃以上800℃以下の焼成温度で行った。これにより、評価用の太陽電池セルが得られた。
以下、サンプル1〜3のペースト組成物を用いて作製した太陽電池をそれぞれサンプル1〜3の太陽電池等のように対応させて呼ぶ。
【0072】
[曲線因子(FF)およびエネルギー変換効率(Eff)]
ソーラーシミュレータ(Beger社製、PSS10)を用いて、サンプル1〜3の太陽電池のI−V特性を測定し、得られたI−V曲線から曲線因子(fill factor:FF)とエネルギー変換効率(Eff)を求めた。FF値およびEff値は、JIS C−8913に規定される「結晶系太陽電池セル出力測定方法」に基づいて算出した。
FF値およびEff値の算出結果を、百分率の形式で表し、表1に示した。なお、この算出値は、ソーラーシミュレータによって得られた100個のデータの平均値である。変換効率については、
図11にも示した。
【0073】
[接着強度]
次に、上記のとおり作製したサンプル1〜3の太陽電池における、銀電極の接着強度を評価した。銀電極の接着強度(剥離強度)の評価は、
図5に示したような、強度測定装置300を用いて行った。
具体的には、
図10に示した強度測定装置300の固定治具40上に固定ねじ43及び係止板44を介してガラス基板41を固定し、そのガラス基板41上にエポキシ接着材42を介して、評価用の太陽電池10の受光面側を上にし、裏面側を下にして載置し、固着した。
こうしてガラス基板41上に固着した評価用の太陽電池の上面側に位置する銀電極12上に、タブ線35をハンダ層30を介してハンダ付けし、この導電性接着フィルム30上にさらに貼り付けた。
そして、
図10に示すように、強度測定装置300を固定治具40の底面が135°になるように傾斜させ、タブ線35に予め形成されている延長部35eを鉛直方向上方に引っ張ることにより(矢印45参照)、タブ線35/ハンダ層30/銀電極12の接着強度を測定した。接着強度の測定結果を表1と
図12に示した。
【0075】
[評価]
サンプル1〜3のペースト組成物に含まれるTe成分の割合はいずれも同じであるが、ペースト組成物中のTe成分の含有形態がそれぞれ異なっている。すなわち、サンプル1のペースト組成物において、Te成分は、ガラスフリットの表面に担持されて一体化された状態で存在しているが、そのほとんどがガラスフリット(ガラス相)からは独立した状態を維持している。サンプル2のペースト組成物において、Te成分は、全てがガラス形成成分として含まれ、ガラスフリット(ガラス相)中にほぼ均一に含まれている。サンプル3のペースト組成物において、Te成分は、単独の化合物として、ガラスフリットや銀粉末等の他の材料とは独立し、これらの材料との混合物の状態で含まれている。
【0076】
曲線因子(FF)は、基本的に太陽電池の品質の目安となる指標であって、代表的な曲線因子は70%以上80%以下の範囲に入る。このFF値が70%代の後半の領域では、FF値が0.01%でも増大することで、太陽電池としての性能が大きく向上されることになる。表1の結果からは、ペースト組成物中のTe成分の含有形態によって、得られるFF値に大きな差がみられることが確認された。すなわち、Te成分が、ペースト組成物中に混合状態で含まれる場合(サンプル3)には、FF値は例えば77.93%と、比較的低い値となった。しかしながら、Te成分が、ガラス成分の一部として含まれる場合(サンプル1および2)には、FF値は、例えば78.4%程度と、比較的高い値となった。このことから、Te成分は、ペースト組成物中にガラス成分の一部として、ガラス相に含まれるかガラス相と極めて近い位置に存在することで、FF値を高める効果が一層発揮されることが確認できた。
また、変換効率(Eff)についても、曲線因子とほぼ同様の結果が得られた。すなわち、Teがガラス成分の一部として含まれるサンプル1および2については、Teがガラス成分と離れた状態で含まれるサンプル3よりもEff値が0.1%以上高い値となり、Teがガラス相に含まれるかガラス相と極めて近い位置に存在することで変換効率が高められることが確認できた。
【0077】
一方で、表1からは、ペースト組成物中のTe成分の含有形態によって、形成されるAg電極の接着強度に大きな差がみられることが確認できた。すなわち、Te成分が、ガラス相中に完全に取り込まれ、ガラス形成成分としてなっている場合(サンプル2)には、Ag電極の接着強度は例えば2.1Nと、極めて低い値となってしまうことがわかった。しかしながら、Te成分が、ガラス相に全てが取り込まれることなくガラス相からは独立して存在している場合(サンプル1および3)には、接着強度は、例えば4.1Nと、高い値が得られることがわかった。このことから、Te成分は、ペースト組成物中でガラス相に取り込まれずに存在することで、高い接着強度を維持できることが確認できた。
【0078】
サンプル1のペースト組成物は、Te成分がガラス粉末の表面に担持されており、全てがガラス相に取り込まれることなく、それでいてガラス成分の一部としてガラス相と極めて近い位置に存在している。かかるペースト組成物によると、形成されるAg電極について、FF値を高める効果と、高い接着強度の両方を実現できることが確認された。
【0079】
(サンプル4〜13)
サンプル1のニッケル粒子(Ni粒子)に代えて、表2に示す添加成分を用い、その他の条件はサンプル1と同様にして、ペースト組成物(サンプル4〜13)を得た。
すなわち、サンプル4のペースト組成物は、添加成分を含むことなく、サンプル1のペースト組成物からNi粒子を取り除いたものとした。
【0080】
サンプル5のペースト組成物は、サンプル1のNi粒子に代えて、NiO粒子を同量用いたものとした。
サンプル6のペースト組成物は、サンプル1のNi粒子に代えて、Ti粒子を同量用いたものとした。
サンプル7のペースト組成物は、サンプル1のNi粒子に代えて、Fe
2O
3粒子を同量用いたものとした。
サンプル8のペースト組成物は、サンプル1のNi粒子に代えて、ZnO粒子を同量用いたものとした。
【0081】
サンプル9のペースト組成物は、サンプル1のNi粒子に代えて、Cu粒子をペースト組成物の全体に対して0.03重量%の割合で用いたものとした。
サンプル10のペースト組成物は、サンプル9のCu粒子に代えて、CuO粒子を同量用いたものとした。
サンプル11のペースト組成物は、サンプル9のCu粒子に代えて、MnO
2粒子を同量用いたものとした。
サンプル12のペースト組成物は、サンプル9のCu粒子に代えて、Mn
2O
3粒子を同量用いたものとした。
サンプル13のペースト組成物は、サンプル9のCu粒子に代えて、Mn
3O
4粒子を同量用いたものとした。
【0082】
[評価用の太陽電池セルの作製]
上記で得られたサンプル4〜13のペースト組成物を受光面電極形成用ペーストとして用い、上記のサンプル1〜3の場合と同じ手順で評価用の太陽電池セルを作製した。サンプル4〜13のペースト組成物を用いて作製した評価用の太陽電池を、便宜上、それぞれサンプル4〜13の太陽電池等のように対応させて呼ぶ。
【0083】
[評価]
サンプル4〜13の太陽電池について、上記のサンプル1〜3の場合と同じ手順で、曲線因子(FF)を算出し、また、受光面のAg電極の接着強度の測定を行った。これらの結果を、表2に示した。なお、参考のために、サンプル1の太陽電池についての結果も併せて示した。
【0085】
表2から、ペースト組成物中に、添加成分として、元素周期律表における第4周期の遷移金属元素の単体またはその酸化物を極少量添加することで、FFおよび接着強度の両方が向上されていることが確認できた。遷移金属元素の単体またはその酸化物は、いずれにおいてもFFおよび接着強度が高く良好なAg電極膜が形成できているが、とりわけ、Ni,NiO,Ti,Mn
2O
3,Mn
3O
4を添加した場合に、FFが78.42%以上でかつ接着強度が4.1N以上と、良好なAg電極膜が得られることがわかった。