特許第5690789号(P5690789)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5690789表面処理された成形断熱材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5690789
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】表面処理された成形断熱材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/83 20060101AFI20150305BHJP
   C04B 41/84 20060101ALI20150305BHJP
   C04B 35/573 20060101ALI20150305BHJP
【FI】
   C04B35/52 E
   C04B41/84 Z
   C04B35/56 101U
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-205441(P2012-205441)
(22)【出願日】2012年9月19日
(65)【公開番号】特開2014-58428(P2014-58428A)
(43)【公開日】2014年4月3日
【審査請求日】2013年5月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101823
【弁理士】
【氏名又は名称】大前 要
(72)【発明者】
【氏名】吉田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 敏明
【審査官】 正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−177371(JP,A)
【文献】 特開平05−132384(JP,A)
【文献】 特開昭54−020991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/83
C04B 35/52
C04B 35/573
C04B 41/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂の硬化物、熱硬化性樹脂の炭素化物、等方性ピッチの炭素化物からなる群より選択された少なくとも1つの材料からなる骨材粒子と、熱硬化性樹脂からなる粘結剤と、前記骨材粒子及び前記粘結剤を溶解ないし分散させる溶剤と、からなる表面被覆剤を準備する表面被覆剤準備ステップと、
炭素繊維を交絡させた繊維フェルトと前記繊維フェルトの炭素繊維表面を被覆する炭素質からなる保護炭素層とを有する成形断熱材の表面の少なくとも一部に、前記表面被覆剤を添加する添加ステップと、
前記表面被覆剤が添加された成形断熱材を不活性雰囲気下1500〜2000℃で熱処理して、前記粘結剤を炭素化させるとともに、前記溶剤を揮発させる熱処理ステップと、
前記熱処理ステップによって形成された表面炭素層の炭素を炭化ケイ素化する炭化ケイ素化ステップと、
を有する表面処理された成形断熱材の製造方法。
【請求項2】
前記炭化ケイ素化ステップは、非酸化性雰囲気で行われる、
ことを特徴とする請求項1に記載の成形断熱材の製造方法。
【請求項3】
前記炭化ケイ素化ステップは、ケイ素源としてのシリコン及び/又は一酸化ケイ素を供給し、非酸化性雰囲気で1500〜2100℃に加熱することにより行われる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の成形断熱材の製造方法。
【請求項4】
前記粘結剤及び前記骨材粒子を、不活性雰囲気で800℃に加熱したときと、不活性雰囲気で2000℃に加熱した時と、の寸法収縮率の差が、10%以下である、
ことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の成形断熱材の製造方法。
【請求項5】
炭素繊維を交絡させた繊維フェルトと、前記繊維フェルトの炭素繊維表面を被覆する炭素質からなる保護炭素層と、を有する成形断熱材において、
前記成形断熱材の少なくとも一つの最表面には表面被覆層を有し、
前記表面被覆層は、炭化ケイ素からなり、且つ、粒子状炭化ケイ素を含む、
ことを特徴とする成形断熱材。
【請求項6】
前記表面被覆層の厚みは、150〜500μmである、
ことを特徴とする請求項5に記載の成形断熱材。
【請求項7】
前記表面被覆層の質量に占める前記粒状炭化ケイ素の質量割合が20〜80%である、
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の成形断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形断熱材に関し、詳しくは表面被覆剤による表面処理が施された成形断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維系の断熱材は、熱的安定性や断熱性能に優れ且つ軽量であることから、種々の用途で使用されている。特に、炭素繊維フェルトに樹脂材料を含浸させ炭素化させた炭素繊維成形断熱材は、形状安定性に優れ、微細な加工が可能であるため、単結晶シリコン引き上げ装置、多結晶シリコンキャスト炉、金属やセラミックスの焼結炉、真空蒸着炉等の高温炉の断熱材として使用されている。
【0003】
このような成形断熱材は、直径が5〜20μm程度の細い炭素繊維を用いているため、ハンドリング時や設置時に、炭素繊維が欠落等して粉化(発塵)するおそれがある。粉化した炭素繊維が炉内雰囲気中に放出されると、製品品質を低下させてしまうおそれがある。
【0004】
また、単結晶や多結晶シリコンなどの製造装置においては、高温炉内でSiOガスが発生したり、酸素ガスが不純物ガスとして製造雰囲気に混入したりする。SiOガスや酸素ガスは活性(反応性)が高く、炭素繊維成形断熱材とSiOガスとが反応するとSiCが生じ、また、炭素繊維成形断熱材と酸素ガスとが反応すると、一酸化炭素や二酸化炭素等炭素酸化物が生じる。これらの反応により、炭素繊維で構成されている骨格構造が崩れ、その結果として当該骨格構造が多数の空間を形成することにより得られる断熱機能が低下する。また、この劣化により特に炭素繊維が粉化して炉内雰囲気中に放出される結果、製品品質が低下する。
【0005】
上記問題に対して、特許文献1、2は、炭素繊維の発塵や劣化を防止する成形断熱材の表面処理技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4361636号
【特許文献2】特開平2005−133033号公報
【0007】
特許文献1の技術は、嵩密度0.1〜0.4g/cmの炭素質断熱部材と、炭素繊維構造体に熱分解炭素を浸透せしめた嵩密度0.3〜2.0g/cmの炭素質保護層と、該炭素質保護層よりも嵩密度の大きい熱分解炭素被膜層とを有し、上記炭素質断熱部材の表面の一部に上記炭素質保護層を接合して接合体が形成され、該接合体の表面のうち少なくとも上記炭素質断熱部材の面に熱分解炭素被膜層が形成されている複合炭素質断熱材に関する技術である。ここで、炭素質断熱部材と炭素質保護層とは、緻密炭素質中間層を介して接合されており、緻密炭素質中間層は、鱗片状黒鉛と、加熱により炭化するバインダー成分からなる緻密炭素形成用組成物を形成し、該組成物を炭化したものであるとされている。
【0008】
特許文献2の技術は、(1)炭化率が40%以上の炭素化材、(2)鱗状黒鉛、(3)粘貼剤及び(4)粘貼剤を溶かし、且つ炭素化材を分散又は溶解させる液剤からなる断熱材用コーティング剤、及び嵩密度が0.1〜0.8g/cm3の炭素化成形物の表面に、当該断熱用コーティング剤を塗工し炭素化してなる積層体に関する技術である。
【0009】
これらの技術では、鱗片状黒鉛(鱗状黒鉛)や粘貼剤(バインダー)の炭素化物が、摩擦時に炭素繊維を保護するのでハンドリング時等の粉化を抑制でき、且つ、鱗状黒鉛や炭素化物が炭素繊維に先んじて活性ガスと反応するので、炭素繊維の劣化が抑制でき、これにより断熱性能の低下が抑制できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らが鱗状黒鉛を用いる上記技術について鋭意検討したところ、次のような問題点があることを知った。
【0011】
粘貼剤(バインダー)を炭素化する熱処理工程において、鱗状黒鉛はほとんど収縮しないが、粘貼剤は大きく収縮するため、収縮率の差によって粘貼剤の炭素化物にクラックが生じやすく、このクラックによって鱗状黒鉛や粘貼剤の炭素化物の粉化が起こり易くなる。
【0012】
また、鱗状黒鉛は、高度に黒鉛構造(層構造)が発達しており、非晶質炭素に比較して比表面積が大きく、特にそのエッジ部分で活性ガスと反応し易く、鱗状黒鉛が不均一に酸化やケイ素化されて粉化するおそれがある。
【0013】
また、鱗状黒鉛は、その性質上灰分が含まれるが、この灰分が炉内に混入すると、製品性能を低下させる副反応を引き起こすおそれもある。
【0014】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、劣化や粉化を抑制し得た表面処理された成形断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための成形断熱材の製造方法に係る本発明は、次のように構成されている。
熱硬化性樹脂の硬化物、熱硬化性樹脂の炭素化物、等方性ピッチの炭素化物からなる群より選択された少なくとも1つの材料からなる骨材粒子と、熱硬化性樹脂からなる粘結剤と、前記骨材粒子及び前記粘結剤を溶解ないし分散させる溶剤と、からなる表面被覆剤を準備する表面被覆剤準備ステップと、炭素繊維を交絡させた繊維フェルトと前記繊維フェルトの炭素繊維表面を被覆する炭素質からなる保護炭素層とを有する成形断熱材の表面の少なくとも一部に、前記表面被覆剤を添加する添加ステップと、前記表面被覆剤が添加された成形断熱材を不活性雰囲気下1500〜2000℃で熱処理して、前記粘結剤を炭素化させるとともに、前記溶剤を揮発させる熱処理ステップと、前記熱処理ステップによって形成された表面炭素層の炭素を炭化ケイ素化する炭化ケイ素化ステップと、を有する表面処理された成形断熱材の製造方法。
【0016】
上記表面被覆剤には、骨材粒子と、粘結剤と、溶剤と、が含まれている。表面被覆剤の炭素化物以外の成分のうち、骨材粒子を構成する熱硬化性樹脂の硬化物及び粘結剤を構成する熱硬化性樹脂は、熱処理ステップによって炭素化し、溶剤は熱処理ステップによって揮発除去される。ここで、熱硬化性樹脂の炭素化物や等方性ピッチの炭素化物は難黒鉛化性である。このため、熱処理ステップによって、骨材粒子由来の非晶質炭素粒子と、粘結剤が炭素化してなる非晶質炭素層と、からなる表面炭素層が形成される。
【0017】
この表面炭素層に含まれる非晶質炭素粒子は、鱗状黒鉛に比べて比表面積が小さく、真空脱気等を用いることなく粘結剤を用いて容易に被覆されるので、非晶質炭素粒子を成形断熱材の表面により緻密に配置することができる。また、非晶質炭素粒子と非晶質炭素層との結合が強い。したがって、この表面炭素層は、発塵や粉化が起こり難い緻密な構造となる。
【0018】
この後、表面炭素層の炭化ケイ素化がなされて、炭化ケイ素からなる表面被覆層が完成する。この炭化ケイ素からなる表面被覆層により、成形断熱材と、SiOガスとのさらなる反応が抑制され、成形断熱材の脆化を防止できる。また、非晶質炭素からなる緻密な表面炭素層を炭化ケイ素化して表面被覆層となす場合、発塵や粉化が起こり難いという表面炭素層の性質が維持されるので、成形断熱材のハンドリング時等の発塵や、活性ガスと反応して粉化することが防止される。
【0019】
他方、表面被覆剤の骨材粒子として鱗状黒鉛を用いる場合、鱗状黒鉛と非晶質炭素層との結合が弱く、表面炭素層形成時に一部が脱離して粉化するおそれがある。さらに、鱗状黒鉛を用いた表面炭素層を炭化ケイ素化すると、鱗状黒鉛の炭化ケイ素化物と非晶質炭素層の炭化ケイ素化物との結合が弱いままとなるので、成形断熱材の粉化を十分に防止できない。また、鱗状黒鉛を用いる場合、表面炭素層に含まれる骨材粒子由来の非晶質炭素粒子や粘結剤由来の非晶質炭素層よりも灰分量が多くなってしまう。
【0020】
したがって、上記製造方法を採用することにより、化学蒸着等の特別な工程を必要とすることのない簡便な手法で、粉落ちやSiOガスによる劣化を抑制できる良質な表面被覆層が形成された(良質な表面処理が施された)成形断熱材を製造することができる。
【0021】
なお、本発明に係る成形断熱材の表面被覆層は炭化ケイ素からなるが、炭化ケイ素は炭素よりもSiOガスとの反応性が極めて低いという長所がある一方、熱伝導性が若干高いという短所がある。このため、本発明に係る成形断熱材は、SiOガスが発生し易い用途、たとえばシリコン製造装置用の断熱材に特に適している。
【0022】
ここで、表面被覆剤の添加は、刷毛、ドクターブレード、ダイコーター等の塗布器具を用いて塗布する方法や、スプレー等の噴霧器具を用いて噴霧する方法を用いることができる。
【0023】
上記構成において、前記炭化ケイ素化ステップは、ケイ素源としてのシリコン及び/又は一酸化ケイ素を供給し、非酸化性雰囲気で1500〜2100℃に加熱することにより行われる、構成とすることができる。
【0024】
炭化ケイ素化ステップが酸化性雰囲気で行われると、表面炭素層を構成する非晶質炭素が雰囲気に存在する酸化性ガスと反応し、ガス化して離脱するので、表面炭素層が脆化してしまう。このため、この酸化反応と炭化ケイ素化反応とが並行して起こると、炭化ケイ素が成形断熱材からはがれおちて粉化してしまうおそれがある。このため、炭化ケイ素化ステップは、酸化性ガスが存在しない非酸化性雰囲気(還元雰囲気、不活性雰囲気)で行うことが好ましい。より好ましくは、非酸化性雰囲気下、減圧条件で炭化ケイ素化ステップを行う。
【0025】
また、炭化ケイ素化ステップにおけるケイ素源は、安価で炭化ケイ素化効率に優れることから、シリコン及び/又は一酸化ケイ素であることが好ましい。また、シリコン及び/又は一酸化ケイ素を用いた炭化ケイ素化反応は、雰囲気温度を1500〜2100℃とすることが好ましい。また、反応時間は1〜20時間とすることが好ましい。
【0026】
ここで、ケイ素源として一酸化ケイ素を用いる場合、一酸化ケイ素ガスであることが好ましい。例えば、SiOとC、SiOとSi、SiOとSiCの反応により一酸化ケイ素ガスを発生させることができる。SiO源としては石英、C源としては黒鉛、Si源としてはシリコン、SiC源としては炭化ケイ素を使用することができる。簡便に行う方法として、石英粉末と黒鉛粉末とを黒鉛ルツボなどの容器に入れて表面炭素層近傍に配置する方法が挙げられる。また、シリコンを用いる場合、シリコン粉末を表面炭素層に接触させた状態で加熱を行うことがより好ましい。
【0027】
上記構成において、前記粘結剤及び前記骨材粒子を、不活性雰囲気で800℃に加熱したときの体積と、不活性雰囲気で2000℃に加熱した時の体積と、の寸法収縮率の差が、10%以下である構成とすることができる。
【0028】
熱処理ステップにおいて、粘結剤や硬化物である骨材粒子は、その温度がおよそ800℃となったときに炭素化され、この後の加熱によって粘結剤や骨材粒子の体積が収縮する。上記構成では、粘結剤や骨材粒子が炭素化した後における両者の寸法収縮率の差(不活性雰囲気で800℃に加熱したときと、不活性雰囲気で2000℃に加熱した時と、の寸法収縮率の差)が10%以下に規制されている。このため、粘結剤や骨材粒子の収縮率の差によるクラックの発生が抑制されるので、炭素化物の粉化が起こりにくくなり、炭化ケイ素の粉化が起こりにくくなる。より好ましくは、上記寸法収縮率の差を5%以下とする。
【0029】
ここで、収縮率は、同一のサンプルに対して、800℃で熱処理後の寸法(直径等)と、2000℃で熱処理後の寸法(直径等)とにより、次の式により算出できる。
収縮率(%)=(1−2000℃熱処理後寸法÷800℃熱処理後寸法)×100
【0030】
なお、成形断熱材を構成する炭素繊維や保護炭素層の上記収縮率もまた、骨材粒子や粘結剤の収縮率との差が、10%以下である構成とすることが好ましい。
【0031】
また、炭化ケイ素化ステップにおける反応温度は1500〜2100℃、反応時間は1〜20時間であることが好ましい。
【0032】
また、炭化ケイ素化ステップにより形成される炭化ケイ素は、β−SiC(閃亜鉛鉱型構造)であることが好ましい。
【0033】
また、粘結剤としては、フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0034】
また、骨材粒子として熱硬化性樹脂の硬化物を用いる場合には、熱処理の際に硬化物が多量のガスを放出しつつ炭素化するため、骨材粒子を炭素繊維に結着させる粘結剤の炭素化物にクラックが生じやすくなるという問題がある。他方、熱硬化性樹脂や等方性ピッチの炭素化物であれば、すでに炭素化がなされているので、このような問題がない。このため、骨材粒子としては、熱硬化性樹脂や等方性ピッチを不活性雰囲気で600〜1000℃に加熱してなる炭素化物粒子を用いることが好ましく、フェノール樹脂の炭素化物粒子や等方性ピッチ系炭素繊維のミルドを用いることがより好ましい。
【0035】
また、骨材粒子として平均粒径が5〜50μmの球状粒子や、ミルド状の炭素繊維(直径が5〜20μm、長さ0.1〜1mm)を用いると、骨材粒子由来の非晶質炭素粒子を成形断熱材の表面に、平滑性を損なうことなく、より密に配置することができるため、好ましい。
【0036】
また、炭化ケイ素化ステップにおいて、ケイ素源の量、反応温度、反応時間を調整することにより、成形断熱剤の表面炭素層のみを炭化ケイ素化し、より内部に位置する成形断熱材材料(炭素繊維及び保護炭素層)の炭化ケイ素化を防止する。
【0037】
上記課題を解決するための表面処理が施された成形断熱材に係る本発明は、次のように構成されている。
炭素繊維を交絡させた繊維フェルトと、前記繊維フェルトの炭素繊維表面を被覆する炭素質からなる保護炭素層と、を有する成形断熱材において、前記成形断熱材の少なくとも一つの最表面には表面被覆層を有し、前記表面被覆層は、炭化ケイ素からなり、且つ、粒子状炭化ケイ素を含むことを特徴とする。
【0038】
この構成では、粒子状炭化ケイ素を含んだ、炭化ケイ素からなる表面被覆層が、SiOガスとのさらなる反応を抑制することにより、炭素繊維や炭素繊維により構成される骨格構造を維持する保護炭素層の劣化を抑制することができる。
【0039】
粒子状炭化ケイ素は、平均粒径が4〜50μmの球状、及び/又は繊維径4〜20μm、長さ0.1〜1mmのミルド(短繊維)状であることが好ましい。ここで、上記製造方法にかかる本発明に用いる表面被覆剤に含まれる炭素化物粒子の平均粒径等よりも下限値が小さいのは、熱処理により収縮が起きうることを考慮したものである。
【0040】
表面被覆層の厚みは、発塵を確実に抑制し、且つ、コスト高を招かない観点から、150〜500μmとすることが好ましい。
【0041】
前記表面被覆層質量に占める前記粒状炭化ケイ素の質量割合が20〜80%である構成とすることが好ましく、40〜60%とすることがより好ましい。
【発明の効果】
【0042】
以上に説明したように、本発明によると、低コストでもってSiOガスとの反応を抑制し得た炭素繊維成形断熱材を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1図1は、本発明にかかる表面処理された成形断熱材の表面被覆層の断面の顕微鏡写真である。
図2図2は、本発明にかかる表面処理された成形断熱材の表面被覆層の顕微鏡写真である。
図3図3は、図2の拡大顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
(実施の形態)
本発明を実施するための形態を、図面を参照して以下に説明する。図1は、本発明にかかる表面処理された成形断熱材の表面被覆層の断面の顕微鏡写真であり、図2は、本発明にかかる表面処理された成形断熱材の表面被覆層の顕微鏡写真であり、図3は、図2の拡大顕微鏡写真である。
【0045】
本実施の形態に係る表面処理(表面被覆層が形成)された成形断熱材は、炭素繊維1を交絡させた繊維フェルトと繊維フェルトの炭素繊維1の表面を被覆する炭素質からなる保護炭素層とを有している。そして、図1〜3に示すように、成形断熱材の表面の少なくとも一部には、炭化ケイ素粒子3と炭化ケイ素層4とからなる表面被覆層が設けられている。また、炭化ケイ素粒子3には、粒状の炭化ケイ素3aと、ミルド(短繊維)状の炭化ケイ素3bとが含まれている。なお、保護炭素層は炭素繊維1の表面を、炭化ケイ素層4は炭化ケイ素粒子3の表面を、それぞれ被覆しているが、その厚みが極めて薄いため、図1、2において符号が付されていない。
【0046】
なお、表面被覆層が形成される(表面処理がなされる)前の成形断熱材は特に限定されることはなく、市販の成形断熱材を用いることができる。例えば、成形断熱材を構成する炭素繊維や保護炭素層として、以下に示すものを用いることができる。
【0047】
成形断熱材を構成する炭素繊維としては、特に限定されることはなく、例えば石油ピッチ系、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系、フェノール樹脂系、セルロース系等の炭素繊維を、単一種又は複数種混合して用いることができる。中でも、熱処理による黒鉛化が起こり難い炭素繊維(たとえば、等方性の石炭ピッチ系、石油ピッチ系、レーヨン系、フェノール樹脂系の炭素繊維)を用いることが好ましい。また、炭素繊維の微視的な構造としては特に限定されず、形状(巻縮型、直線型、断面形状等)が同一のもののみを用いてもよく、また異なる構造のものが混合されていてもよい。ただし、炭素繊維の種類やその微視的構造は、製造される成形断熱材の物性に影響を与えるので、用途に応じて適宜選択するのがよい。
【0048】
保護炭素層は、炭素繊維の表面全部、あるいは、炭素繊維の表面の一部を被覆しているものである。また、保護炭素層は炭素質であればよいが、好ましくは難黒鉛化性の非晶質炭素質とする。保護炭素層の由来となる化合物は特に限定されることはないが、繊維フェルトに含浸可能な樹脂材料の炭素化物を用いることが好ましい。このような樹脂材料としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が好ましい。また、熱硬化性樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。なお、熱硬化性樹脂は、熱処理による黒鉛化が起こり難い(難黒鉛化性である)という利点がある。
【0049】
炭化ケイ素粒子は、特に限定されることはないが、β−SiC(閃亜鉛鉱型構造)であることが好ましい。また、炭化ケイ素粒子の形状は、平均粒径が4〜50μmの球状粒子や、直径5〜20μm、長さ0.1〜1mmのミルド(短繊維)状であることが好ましい。
【0050】
炭化ケイ素層は、特に限定されることはないが、β−SiC(閃亜鉛鉱型構造)であることが好ましい。
【0051】
表面被覆層は、次のようにして成形断熱材の表面に形成される。骨材粒子と、粘結剤と、溶剤(例えば、エタノール)と、が混合されてなる表面被覆剤を、成形断熱材表面に塗布ないし噴霧して、成形断熱材表面の少なくとも一部に表面被覆剤を添加する。
【0052】
こののち、不活性雰囲気下、1000〜2500℃で熱処理して、粘結剤を炭素化させるとともに、溶剤を揮発させることにより、骨材粒子由来の非晶質炭素粒子と、粘結剤由来の非晶質炭素層と、からなる表面炭素層が、成形断熱材の表面に形成される。
【0053】
ここで、特に2000℃以上の温度で熱処理する場合、表面炭素層の黒鉛構造が発展することが考えられるが、本発明では、骨材粒子や粘結剤に難黒鉛化性の材料を用いているため、いずれも非晶質炭素からなる構造となる。
【0054】
こののち、非酸化雰囲気下、減圧条件で、シリコン(ケイ素の単体)及び又はSiOガスを供給し、1500〜2100℃で、1〜20時間熱処理する。この時、表面炭素層を構成する炭素材料(非晶質炭素粒子及び非晶質炭素層)が炭化ケイ素化されるが、表面炭素層が塗着された部分の成形断熱材材料(炭素繊維及び保護炭素層)の一部も炭化ケイ素化される。これにより、成形断熱材の表面に炭化ケイ素からなる表面処理層4が形成される。
【0055】
ここで、骨材粒子は、熱硬化性樹脂の硬化物、熱硬化性樹脂の炭素化物、等方性ピッチの炭素化物の少なくとも1つを用いることができるが、熱硬化性樹脂又は等方性ピッチの炭素化物を用いることが好ましい。あることがより好ましく、フェノール樹脂を600〜1000で熱処理してなる炭素化物であることがさらに好ましい。また、骨材粒子の形状は、平均粒径が5〜50μmの球状粒子であることが好ましい。なお、熱処理によって骨材粒子は収縮する可能性があるため、表面炭素層の非晶質炭素粒子の平均粒径は、骨材粒子よりも小さいもの(おおむね4〜50μm)となる。また、球状の骨材粒子に加えて、長さ0.1〜1mmのミルド(短繊維)状の炭素繊維を含ませてもよい。ミルド状の炭素繊維としては、熱処理による黒鉛化が起こり難い炭素繊維(たとえば、等方性の石炭ピッチ系、石油ピッチ系、レーヨン系、フェノール樹脂系の炭素繊維)であることが好ましい。
【0056】
また、粘結剤は、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0057】
ここで、粘結剤及び骨材粒子を、不活性雰囲気で800℃に加熱したときと、不活性雰囲気で2000℃に加熱した時と、の寸法収縮率の差が、10%以下であることが好ましい。
【0058】
熱処理において、粘結剤や骨材粒子は、その温度がおよそ800℃となったときに炭素化され、この後の加熱によって体積は収縮していく。粘結剤や骨材粒子が炭素化した後における両者の寸法収縮率の差(不活性雰囲気で800℃に加熱したときと、不活性雰囲気で2000℃に加熱した時と、の寸法収縮率の差)が10%以下に規制されていると、粘結剤や骨材粒子の収縮率の差によるクラックの発生が抑制されるので、炭素化物の粉化が起こりにくくなる。より好ましくは、上記収縮率の差を5%以下とする。また、成形断熱材を構成する炭素繊維や保護炭素層の寸法収縮率もまた、骨材粒子や粘結剤の寸法収縮率との差が、10%以下である構成とすることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
【0059】
また、粘結剤の材料である熱硬化性樹脂と、骨材粒子の材料となる熱硬化性樹脂は、同一であってもよく、異なっていてもよいが、収縮挙動を上記のように規制しやすいことから、両者を同一とすることがより好ましい。
【実施例】
【0060】
実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明する。
【0061】
(実施例1)
(表面被覆剤の作製)
骨材粒子としてのアモルファスカーボン(熱硬化性樹脂の炭素化物)の球状粒子(熱処理温度:800℃、平均粒径:15μm、真密度1.6g/cm)15質量部と、粘結剤としてのレゾール系フェノール樹脂22質量部と、工業用エタノール60質量部と、等方性ピッチ系炭素繊維のミルド(繊維径13μm、長さ0.4mm)3質量部と、を25℃雰囲気で混合して表面被覆剤を作製した。
【0062】
炭素繊維を交絡させた繊維フェルトと前記繊維フェルトの炭素繊維表面を被覆する炭素質からなる保護炭素層とを有する成形断熱材(大阪ガスケミカル製DON−1000、嵩密度0.16g/cm)を、100mm(縦)×100mm(横)×40mm(厚み)に切断した。この成形断熱材の全ての表面に、上記表面被覆剤を被覆層の厚みが約400μmとなるように、刷毛を用いて塗布した。
【0063】
この表面被覆剤添加成形断熱材を、不活性雰囲気下2000℃で5時間熱処理して、レゾール系フェノール樹脂を炭素化させるとともに工業用エタノールを揮発除去し、成形断熱材に表面炭素層を形成した。
【0064】
この表面被覆材炭素化後の成形断熱材を目視で観察したところ、空隙やクラックは確認されなかった。また、手で直接ふれたところ、手触りは滑らかであり、手に微粉末等が付着することはなかった。
【0065】
この後、表面被覆材炭素化後の成形断熱材の表面にシリコン粉末を塗布し、非酸化性雰囲気下1700℃で5時間熱処理して、表面炭素層を炭化ケイ素化して、実施例1に係る成形断熱材を作製した。
【0066】
この成形断熱材を、手で直接ふれたところ、手触りは滑らかであり、手に微粉末等が付着することはなかった。また、表面処理層のX線回析を行ったところ、表面処理層はβ−SiCからなることが確認された。
【0067】
(比較例1)
表面被覆剤として、骨材粒子としての鱗状天然黒鉛粒子(平均粒径:40μm)20質量部と、粘結剤としてのレゾール系フェノール樹脂20質量部と、工業用エタノール60質量部と、を25℃雰囲気で混合したものを用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例1に係る成形断熱材を作製した。
【0068】
(比較例2)
表面処理を行っていない成形断熱材(大阪ガスケミカル製DON−1000、嵩密度0.16g/cm)を100mm(縦)×100mm(横)×40mm(厚み)に、切断したものを、比較例2に係る成形断熱材とした。
【0069】
(粉落ち試験)
炭化ケイ素化を行う前(表面炭素層が形成された状態)の実施例1、比較例1、2に係る成形断熱材を10cm四方に裁断して、試験片を作製した。この試験片の表面にサンドペーパー#500を設置し、15gf/cmの荷重がかかるように、金属性の重りをサンドペーパー上に載置した。こののち、サンドペーパーを1cm/secで10cm引っ張り、試験前後の重量変化(減少)を測定した。試験片の表面1cmあたりの重量変化は、実施例1で0.03mg、比較例1で0.05mg、比較例2で0.1mgであった。
【0070】
粉落ち試験での重量変化は、サンドペーパーを引っ張る際の摩擦により、成形断熱材の構成材料が粉化脱離(発塵)したことによると考えられる。
【0071】
また、表面被覆剤に含まれる骨材粒子が鱗状黒鉛を用いた比較例1よりも、フェノール樹脂を炭素化させた粒子を用いた実施例1のほうが、試験片の表面1cmあたりの重量変化が0.02g低いことが分かる。
【0072】
このことは、次のように考えられる。比較例1は、比表面積が非晶質炭素よりも大きい鱗状黒鉛を骨材粒子として用いており、表面被覆層における骨材粒子が、実施例1よりも密となり難い。また、黒鉛は表面処理工程における熱処理において体積収縮が起こらないため、熱処理によって体積収縮しつつ形成される粘結剤の炭素化物にクラックが生じやすく、成形断熱材から黒鉛が脱離し易い。このため、摩擦による重量変化が大きくなる。
【0073】
以上のことから、表面炭素層を形成することにより、摩擦による発塵を抑制できることが分かる。この、発塵抑制効果は、表面炭素層の炭化ケイ素化後においても保持されるので、実施例1に係る成形断熱材の発塵抑制効果は高い。
【0074】
(ラマンスペクトル測定)
上記実施例1、比較例1に用いた表面被覆剤のみを、不活性雰囲気下2000℃で5時間熱処理して試験試料を作製した。この試験試料のラマンスペクトルを、顕微ラマン分光装置(日本電子株式会社製JRB−SY1000)を用いて測定した。励起光としては、514.5nmのArイオンレーザーを用いた。このスペクトルにおいて、黒鉛結晶の乱れを表す1360cm−1付近のピーク高さ(Dバンド)に対する、黒鉛結晶構造を表す1620cm−1付近のピーク高さ(Gバンド)の比であるR値(Dバンド/Gバンド)を算出した。この測定は、2回行った。この結果は、実施例1では0.72、0.74であり、比較例1では0.36、0.48であった。
【0075】
ここで、炭素材料のラマンスペクトルについて説明する。鱗状黒鉛などの黒鉛材料においては、Dバンドはほとんど観察されないため、R値はおおむね0.1以下である。これに対し、非晶質炭素含有割合が増加していくと、GバンドとともにDバンドが観察され、また、Gバンドのピーク位置が高波数側に移動する。そして、R値が0.7以上では、ほぼ全てが非晶質炭素となっている。
【0076】
上記結果から、比較例1の試験試料においては、非晶質と黒鉛質のほぼ中間のR値であることから、骨材粒子に起因する黒鉛材料と、粘結剤の炭素化物に由来する非晶質炭素材料とが混在していることが分かる。これに対し、実施例1の試験試料においては、骨材粒子及び粘結剤の炭素化物に由来する非晶質炭素のみが存在していることが分かる。
【0077】
また、2回の測定結果の差は、比較例1のほうが大きくなっている。これは、実施例1では、非晶質の骨材粒子を均質に配することができ、且つ、全体が非晶質であるため、光のあたる部位による測定値のずれが小さいこと、比較例1では、鱗状黒鉛を均質に配することが難しく、且つ、粘結剤由来の非晶質炭素と鱗状黒鉛とが混在しているため、光のあたる部位による測定値のずれ(変動)が大きいことによると考えられる。
【0078】
ここで、表面被覆材を構成する骨材粒子及び粘結剤を、不活性雰囲気下2000℃で5時間熱処理した場合におけるラマンスペクトルのR値は、それぞれ0.7以上である(骨材粒子及び粘結剤が黒鉛化することなく非晶質炭素となる(難黒鉛化性))ことが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
上記で説明したように、本発明によると、表面被覆処理により、SiOガスとの反応や粉化を抑制し得た長寿命な成形断熱材を実現できるので、その産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0080】
1 炭素繊維
3 炭化ケイ素粒子
3a 球状炭化ケイ素粒子
3b ミルド状炭化ケイ素粒子
4 炭化ケイ素層
図1
図2
図3