【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための成形断熱材の製造方法に係る本発明は、次のように構成されている。
熱硬化性樹脂の硬化物、熱硬化性樹脂の炭素化物、等方性ピッチの炭素化物からなる群より選択された少なくとも1つの材料からなる骨材粒子と、熱硬化性樹脂からなる粘結剤と、前記骨材粒子及び前記粘結剤を溶解ないし分散させる溶剤と、からなる表面被覆剤を準備する表面被覆剤準備ステップと、炭素繊維を交絡させた繊維フェルトと前記繊維フェルトの炭素繊維表面を被覆する炭素質からなる保護炭素層とを有する成形断熱材の表面の少なくとも一部に、前記表面被覆剤を添加する添加ステップと、前記表面被覆剤が添加された成形断熱材を不活性雰囲気下1500〜2000℃で熱処理して、前記粘結剤を炭素化させるとともに、前記溶剤を揮発させる熱処理ステップと、前記熱処理ステップによって形成された表面炭素層の炭素を炭化ケイ素化する炭化ケイ素化ステップと、を有する表面処理された成形断熱材の製造方法。
【0016】
上記表面被覆剤には、骨材粒子と、粘結剤と、溶剤と、が含まれている。表面被覆剤の炭素化物以外の成分のうち、骨材粒子を構成する熱硬化性樹脂の硬化物及び粘結剤を構成する熱硬化性樹脂は、熱処理ステップによって炭素化し、溶剤は熱処理ステップによって揮発除去される。ここで、熱硬化性樹脂の炭素化物や等方性ピッチの炭素化物は難黒鉛化性である。このため、熱処理ステップによって、骨材粒子由来の非晶質炭素粒子と、粘結剤が炭素化してなる非晶質炭素層と、からなる表面炭素層が形成される。
【0017】
この表面炭素層に含まれる非晶質炭素粒子は、鱗状黒鉛に比べて比表面積が小さく、真空脱気等を用いることなく粘結剤を用いて容易に被覆されるので、非晶質炭素粒子を成形断熱材の表面により緻密に配置することができる。また、非晶質炭素粒子と非晶質炭素層との結合が強い。したがって、この表面炭素層は、発塵や粉化が起こり難い緻密な構造となる。
【0018】
この後、表面炭素層の炭化ケイ素化がなされて、炭化ケイ素からなる表面被覆層が完成する。この炭化ケイ素からなる表面被覆層により、成形断熱材と、SiOガスとのさらなる反応が抑制され、成形断熱材の脆化を防止できる。また、非晶質炭素からなる緻密な表面炭素層を炭化ケイ素化して表面被覆層となす場合、発塵や粉化が起こり難いという表面炭素層の性質が維持されるので、成形断熱材のハンドリング時等の発塵や、活性ガスと反応して粉化することが防止される。
【0019】
他方、表面被覆剤の骨材粒子として鱗状黒鉛を用いる場合、鱗状黒鉛と非晶質炭素層との結合が弱く、表面炭素層形成時に一部が脱離して粉化するおそれがある。さらに、鱗状黒鉛を用いた表面炭素層を炭化ケイ素化すると、鱗状黒鉛の炭化ケイ素化物と非晶質炭素層の炭化ケイ素化物との結合が弱いままとなるので、成形断熱材の粉化を十分に防止できない。また、鱗状黒鉛を用いる場合、表面炭素層に含まれる骨材粒子由来の非晶質炭素粒子や粘結剤由来の非晶質炭素層よりも灰分量が多くなってしまう。
【0020】
したがって、上記製造方法を採用することにより、化学蒸着等の特別な工程を必要とすることのない簡便な手法で、粉落ちやSiOガスによる劣化を抑制できる良質な表面被覆層が形成された(良質な表面処理が施された)成形断熱材を製造することができる。
【0021】
なお、本発明に係る成形断熱材の表面被覆層は炭化ケイ素からなるが、炭化ケイ素は炭素よりもSiOガスとの反応性が極めて低いという長所がある一方、熱伝導性が若干高いという短所がある。このため、本発明に係る成形断熱材は、SiOガスが発生し易い用途、たとえばシリコン製造装置用の断熱材に特に適している。
【0022】
ここで、表面被覆剤の添加は、刷毛、ドクターブレード、ダイコーター等の塗布器具を用いて塗布する方法や、スプレー等の噴霧器具を用いて噴霧する方法を用いることができる。
【0023】
上記構成において、前記炭化ケイ素化ステップは、ケイ素源としてのシリコン及び/又は一酸化ケイ素を供給し、非酸化性雰囲気で1500〜2100℃に加熱することにより行われる、構成とすることができる。
【0024】
炭化ケイ素化ステップが酸化性雰囲気で行われると、表面炭素層を構成する非晶質炭素が雰囲気に存在する酸化性ガスと反応し、ガス化して離脱するので、表面炭素層が脆化してしまう。このため、この酸化反応と炭化ケイ素化反応とが並行して起こると、炭化ケイ素が成形断熱材からはがれおちて粉化してしまうおそれがある。このため、炭化ケイ素化ステップは、酸化性ガスが存在しない非酸化性雰囲気(還元雰囲気、不活性雰囲気)で行うことが好ましい。より好ましくは、非酸化性雰囲気下、減圧条件で炭化ケイ素化ステップを行う。
【0025】
また、炭化ケイ素化ステップにおけるケイ素源は、安価で炭化ケイ素化効率に優れることから、シリコン及び/又は一酸化ケイ素であることが好ましい。また、シリコン及び/又は一酸化ケイ素を用いた炭化ケイ素化反応は、雰囲気温度を1500〜2100℃とすることが好ましい。また、反応時間は1〜20時間とすることが好ましい。
【0026】
ここで、ケイ素源として一酸化ケイ素を用いる場合、一酸化ケイ素ガスであることが好ましい。例えば、SiO
2とC、SiO
2とSi、SiO
2とSiCの反応により一酸化ケイ素ガスを発生させることができる。SiO
2源としては石英、C源としては黒鉛、Si源としてはシリコン、SiC源としては炭化ケイ素を使用することができる。簡便に行う方法として、石英粉末と黒鉛粉末とを黒鉛ルツボなどの容器に入れて表面炭素層近傍に配置する方法が挙げられる。また、シリコンを用いる場合、シリコン粉末を表面炭素層に接触させた状態で加熱を行うことがより好ましい。
【0027】
上記構成において、前記粘結剤及び前記骨材粒子を、不活性雰囲気で800℃に加熱したときの体積と、不活性雰囲気で2000℃に加熱した時の体積と、の寸法収縮率の差が、10%以下である構成とすることができる。
【0028】
熱処理ステップにおいて、粘結剤や硬化物である骨材粒子は、その温度がおよそ800℃となったときに炭素化され、この後の加熱によって粘結剤や骨材粒子の体積が収縮する。上記構成では、粘結剤や骨材粒子が炭素化した後における両者の寸法収縮率の差(不活性雰囲気で800℃に加熱したときと、不活性雰囲気で2000℃に加熱した時と、の寸法収縮率の差)が10%以下に規制されている。このため、粘結剤や骨材粒子の収縮率の差によるクラックの発生が抑制されるので、炭素化物の粉化が起こりにくくなり、炭化ケイ素の粉化が起こりにくくなる。より好ましくは、上記寸法収縮率の差を5%以下とする。
【0029】
ここで、収縮率は、同一のサンプルに対して、800℃で熱処理後の寸法(直径等)と、2000℃で熱処理後の寸法(直径等)とにより、次の式により算出できる。
収縮率(%)=(1−2000℃熱処理後寸法÷800℃熱処理後寸法)×100
【0030】
なお、成形断熱材を構成する炭素繊維や保護炭素層の上記収縮率もまた、骨材粒子や粘結剤の収縮率との差が、10%以下である構成とすることが好ましい。
【0031】
また、炭化ケイ素化ステップにおける反応温度は1500〜2100℃、反応時間は1〜20時間であることが好ましい。
【0032】
また、炭化ケイ素化ステップにより形成される炭化ケイ素は、β−SiC(閃亜鉛鉱型構造)であることが好ましい。
【0033】
また、粘結剤としては、フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0034】
また、骨材粒子として熱硬化性樹脂の硬化物を用いる場合には、熱処理の際に硬化物が多量のガスを放出しつつ炭素化するため、骨材粒子を炭素繊維に結着させる粘結剤の炭素化物にクラックが生じやすくなるという問題がある。他方、熱硬化性樹脂や等方性ピッチの炭素化物であれば、すでに炭素化がなされているので、このような問題がない。このため、骨材粒子としては、熱硬化性樹脂や等方性ピッチを不活性雰囲気で600〜1000℃に加熱してなる炭素化物粒子を用いることが好ましく、フェノール樹脂の炭素化物粒子や等方性ピッチ系炭素繊維のミルドを用いることがより好ましい。
【0035】
また、骨材粒子として平均粒径が5〜50μmの球状粒子や、ミルド状の炭素繊維(直径が5〜20μm、長さ0.1〜1mm)を用いると、骨材粒子由来の非晶質炭素粒子を成形断熱材の表面に、平滑性を損なうことなく、より密に配置することができるため、好ましい。
【0036】
また、炭化ケイ素化ステップにおいて、ケイ素源の量、反応温度、反応時間を調整することにより、成形断熱剤の表面炭素層のみを炭化ケイ素化し、より内部に位置する成形断熱材材料(炭素繊維及び保護炭素層)の炭化ケイ素化を防止する。
【0037】
上記課題を解決するための表面処理が施された成形断熱材に係る本発明は、次のように構成されている。
炭素繊維を交絡させた繊維フェルトと、前記繊維フェルトの炭素繊維表面を被覆する炭素質からなる保護炭素層と、を有する成形断熱材において、前記成形断熱材の少なくとも一つの最表面には表面被覆層を有し、前記表面被覆層は、炭化ケイ素からなり、且つ、粒子状炭化ケイ素を含むことを特徴とする。
【0038】
この構成では、粒子状炭化ケイ素を含んだ、炭化ケイ素からなる表面被覆層が、SiOガスとのさらなる反応を抑制することにより、炭素繊維や炭素繊維により構成される骨格構造を維持する保護炭素層の劣化を抑制することができる。
【0039】
粒子状炭化ケイ素は、平均粒径が4〜50μmの球状、及び/又は繊維径4〜20μm、長さ0.1〜1mmのミルド(短繊維)状であることが好ましい。ここで、上記製造方法にかかる本発明に用いる表面被覆剤に含まれる炭素化物粒子の平均粒径等よりも下限値が小さいのは、熱処理により収縮が起きうることを考慮したものである。
【0040】
表面被覆層の厚みは、発塵を確実に抑制し、且つ、コスト高を招かない観点から、150〜500μmとすることが好ましい。
【0041】
前記表面被覆層質量に占める前記粒状炭化ケイ素の質量割合が20〜80%である構成とすることが好ましく、40〜60%とすることがより好ましい。