(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5690825
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】オレフィンメタセシス反応用触媒錯体、その製造方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07F 15/00 20060101AFI20150305BHJP
B01J 31/28 20060101ALI20150305BHJP
【FI】
C07F15/00 ACSP
B01J31/28 Z
【請求項の数】18
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-520988(P2012-520988)
(86)(22)【出願日】2010年7月7日
(65)【公表番号】特表2012-533591(P2012-533591A)
(43)【公表日】2012年12月27日
(86)【国際出願番号】EP2010059719
(87)【国際公開番号】WO2011009721
(87)【国際公開日】20110127
【審査請求日】2013年3月12日
(31)【優先権主張番号】09290578.5
(32)【優先日】2009年7月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503423096
【氏名又は名称】RIMTEC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162569
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 康秀
(74)【代理人】
【識別番号】100146282
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 直人
(72)【発明者】
【氏名】ドロッズザック レナータ
【審査官】
小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】
特表2005−515260(JP,A)
【文献】
特表2009−504401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 15/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a. ルテニウム及びオスミウムからなる群から選択される金属原子;
b. イミノ基を含み、かつ前記イミノ基の窒素原子に加えて、前記金属に配位される酸素、硫黄及びセレニウムからなる群から選択されるさらに少なくとも一個のヘテロ原子を介して前記金属に配位される二個の二座シッフ塩基配位子;
c. 前記金属に配位される求核カルベン配位子;及び
d. 前記金属に配位される、置換または未置換アルキリデン、ビニリデンまたはインデニリデン配位子である含炭素配位子
からなる触媒錯体を製造する方法であって、
a. ルテニウム及びオスミウムからなる群から選択される金属原子;
b. 二個のアニオン配位子;
c. 前記金属に配位される求核カルベン配位子;
d. 前記金属に配位される、置換または未置換アルキリデン、ビニリデンまたはインデニリデン配位子である含炭素配位子;及び
e. 中性配位子
からなるルテニウムまたはオスミウム触媒前駆体、または
a. ルテニウム及びオスミウムからなる群から選択される金属原子;
b. 一個のアニオン配位子;
c. イミノ基を含み、かつ前記イミノ基の窒素原子に加えて、前記金属に配位される酸素、硫黄及びセレニウムからなる群から選択されるさらに少なくとも一個のヘテロ原子を介して前記金属に配位される一個の二座シッフ塩基配位子;
d. 前記金属に配位される求核カルベン配位子;及び
e. 前記金属に配位される、置換または未置換アルキリデン、ビニリデンまたはインデニリデン配位子である含炭素配位子
からなるルテニウムまたはオスミウム触媒前駆体を非極性溶媒中で、かつ弱塩基の存在下に1.0〜3.0当量の二座シッフ塩基配位子と反応させる工程を含むことを特徴とする触媒錯体の製造方法。
【請求項2】
前記触媒前駆体の二個のアニオン配位子が、クロライド配位子であり、そして前記中性配位子が、ホスフィン配位子である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記触媒前駆体が、イミノ基を含み、かつ前記イミノ基の窒素原子に加えて、前記金属に配位される酸素、硫黄及びセレニウムからなる群から選択されるさらに少なくとも一個のヘテロ原子を介して前記金属に配位される二座シッフ塩基配位子、及びアニオン配位子としてのクロライドを含んでいる請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記弱塩基が、Ag2CO3である請求項1、2または3記載の方法。
【請求項5】
前記弱塩基が、前記触媒前駆体の量に対して1〜2当量の量で使用される請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記弱塩基が、前記触媒前駆体が一個のアニオン配位子及び一個の二座シッフ塩基配位子を含む場合の前駆体の量に対して0.5〜1当量の量で使用される請求項3記載の方法。
【請求項7】
前記非極性溶媒が、テトラヒドロフランである請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記反応工程が、20℃から前記非極性溶媒の沸点までの範囲内の温度で実施される請求項1記載の方法。
【請求項9】
請求項1乃至8記載の方法によって得ることができる触媒錯体。
【請求項10】
前記求核カルベン配位子が、ヘテロ原子類が、窒素原子である置換または未置換、飽和または不飽和の1,3−ジヘテロ原子環状化合物である請求項9記載の触媒錯体。
【請求項11】
前記二座シッフ塩基配位子が、次式
【化1】
(式中、S
1〜S
4は、3.5〜7.0の範囲のpK
bを有する弱塩基の存在下に、化合物がpK
a≧6.2を有するように選択される置換基であり、
Aは、
【化2】
、ヘテロアリール、置換または未置換のアルキル、ヘテロアルキルまたはシクロアルキルであり、
Bは、水素、C
1〜C
20アルキル、C
1〜C
20ヘテロアルキルアリールまたはヘテロアリールであり、ここで、各水素以外の基は、C
1〜C
10アルキル及びアリールからなる群から選択される1個以上の成分で必要に応じて置換されてもよく、
R
01、R
02、R
m1、R
m2及びR
pは、それぞれ、水素、C
1〜C
20アルキル、C
1〜C
20ヘテロアルキル、C
1〜C
20アルコキシ、アリール、アリールオキシ、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキル、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、ハロゲン、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、及びC
1〜C
20アルキル、C
1〜C
20アルコキシ及びアリールからなる群から選択される1個以上の成分で必要に応じて置換されてもよい前記水素以外の基からなる群から選択され、ここで、R
01、R
02、R
m1、R
m2及びR
pは、結合して、C
1〜C
20アルキル、C
1〜C
20ヘテロアルキル、C
1〜C
20アルコキシ、アリール、アリールオキシ、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキル、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、ハロゲン、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、及びC
1〜C
20アルキル、C
1〜C
20アルコキシ及びアリールからなる群から選択される1個以上の成分で必要に応じて置換されてもよい前記水素以外の基からなる群から選択される1個以上の成分で必要に応じて置換されてもよい、縮合環状脂肪族または芳香族環を形成することができる。)を有する化合物から誘導される請求項9記載の触媒錯体。
【請求項12】
前記含炭素配位子の置換基が、C1〜C10アルキル、C2〜C20アルキニル、C1〜C20アルコキシ、C2〜C20アルコキシカルボニル及びアリールからなる群から選択される請求項9記載の触媒錯体。
【請求項13】
前記含炭素配位子が、フェニルインデニリデンである請求項9記載の触媒錯体。
【請求項14】
式:
【化3】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、水素、ハロゲン、C
1〜C
20アルキル、C
2〜C
20アルケニル、C
2〜C
20アルキニル、C
2〜C
20アルコキシカルボニル、アリール、C
1〜C
20カルボキシレート、C
1〜C
20アルコキシ、C
2〜C
20アルケニルオキシ、C
2〜C
20アルキニルオキシ、アリールオキシ、C
1〜C
20アルキルチオ、C
1〜C
20アルキルスルホニル及びC
1〜C
20アルキルスルフィニルからなる群から独立して選択され、そしてR
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれC
1〜C
5アルキル、ハロゲン、C
1〜C
10アルコキシで、またはC
1〜C
5アルキル、C
1〜C
5アリールオキシ、ハロゲンで置換されたアリール基で、あるいは官能基で置換することができる。)を有する請求項9記載の触媒錯体。
【請求項15】
請求項9乃至14記載の触媒錯体及びキャリヤーを含むことを特徴とするオレフィンメタセシス反応用担持触媒。
【請求項16】
前記キャリヤーが、非晶質または準結晶性物質、結晶性モレキュラーシーブ及び一個以上の無機酸化物及び有機重合体を含む改質層状物質等の多孔質無機固体類からなる群から選択される請求項15記載のオレフィンメタセシス反応用担持触媒。
【請求項17】
請求項9乃至14記載の触媒錯体または請求項15乃至16記載の担持触媒のオレフィンメタセシス反応での触媒としての使用。
【請求項18】
オレフィンメタセシス重合が、開環メタセシス重合である請求項17記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンメタセシス反応用触媒錯体、その製造方法及びオレフィンメタセシス反応、特に開環メタセシス重合(ROMP)反応へのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オレフィンメタセシスが、異常な発展を示し、また有機合成において非常に多能かつ有能な手段であることが判明した。
【0003】
オレフィンメタセシス反応の成功は、多くを要求する反応条件に安定な、はっきり定義されたルテニウム触媒の多能性及び発展に主として起因する。これらの触媒は、市場から入手できるように成り、また無数の潜在的に興味のある用途に適用されたので、当分野は、新しい挑戦(課題)、例えば、触媒潜在性に向けられた。理想的な潜在オレフィンメタセシス触媒は、室温でモノマーまたは物質の存在下に触媒活性を示さないが、熱、化学または光化学活性化によって定量的に高活性形にされ、メタセシス反応を開始することができる。さらに、分解または熱崩壊に対する触媒安定性は、リガンド環境の厳密な選択によって保証されるべきである。
【0004】
DCPD重合における工業的用途は、重合開始前のモノマー−触媒混合物のより長い取り扱いを許容する、遅い開始速度を示す潜在触媒(latent catalysts)を必要としている。
【0005】
ファン デル スカーフ(Van der Schaaf)及び共同研究者等は、開始温度が、ピリジン環の置換パターンを変えることによって変えられる、温度によって活性化される遅い開始速度のオレフィンメタセシス触媒(PR
3)(Cl)
2Ru(CH(CH
2)
2−C、N−2−C
5H
4N)(式1)を開発した(Van der Schaaf, P.A.; Kolly, R.; Kirner, H.-J.; Rime, F.; Muhlebach, A.; Hafner, A. J. Organomet. Chem. 2000, 606, 65-74)。不運にも、報告された錯体の活性は、望ましくなく低く、12000当量DCPDに限定された。後に、ユング(Ung)は、トランス−(SIMes)(Cl)
2Ru(CH(CH
2)
2−C,N−2−C
5H
4N)(2)をシス類似体に部分的に異性化することによって得られる類似した、調和し得る触媒系について報告した(T.; Hejl, A.; Grubbs, R.H.; Schrodi, Y. Organometallics 2004, 23, 5399-5401)。しかし、DCPDのROMPは、触媒導入後25分で完了するので、これらの触媒は、いずれもDCPDモノマー中で長時間の保管を考慮していなかった。
【0006】
【化1】
【0007】
DCPD重合用の合理的に設計された熱安定オレフィンメタセシス触媒に対する他の方策において、ベルポート(Verpoort)等によって詳しく述べられている、O,N−二座(bidentate)シッフ塩基配位子Ru−カルベン触媒(式2,4,5、L=SIMes)の開発に、努力が向けられた。このような錯体類は、低張力環状オレフィン類の重合に対して室温で極めて不活性であり、数ヶ月間DCPD中での保管を考慮し、また熱によって活性化して、DCPDの塊状重合に対し増大した活性を生じることができるが、シッフ塩基のない対応する錯体類と同等の活性には到達していないことが、示された(EP 1 468 004; Allaert, B.; Dieltiens, N.; Ledoux, N.; Vercaemst, C.; Van Der Voort, P.; Stevens, C.V.; Linden, A.; Verpoort, F. J. Mol. Cat. A: Chem. 2006, 260, 221-226)。
【0008】
【化2】
【0009】
さらに、触媒の活性化は、多量のブレンステッド酸類(例えば、HCl)を加えることによって促進され、DCPDのROMPに対し高い触媒活性となった(EP 1?577?282; EP 1?757?613; B. De Clercq, F. Verpoort, Tetrahedron Lett., 2002, 43, 9101-9104; (b) B. Allaert, N. Dieltens, N. Ledoux, C. Vercaemst, P. Van Der Voort, C. V. Stevens, A. Linden, F. Verpoort, J. Mol. Catal. A: Chem., 2006, 260, 221-226; (c) N. Ledoux, B. Allaert, D. Schaubroeck, S. Monsaert, R. Drozdzak, P. Van Der Voort, F. Verpoort, J. Organomet. Chem., 2006, 691, 5482-5486)。しかし、多量のHClを必要とすることは、その高い揮発性及び腐食問題のために、それらの触媒を工業的に適用することを妨げている。
【0010】
最近、二座κ
2−(O,O)配位子を有する一連の潜在オレフィンメタセシス触媒が、合成された(式2,3)。錯体3が、DCPDの無溶媒重合に不活性であることが判明した。さらに、錯体3(式2、L=PCy
3、SIMes)は、光酸発生剤を含む触媒/モノマー混合物に放射線照射した際に容易に活性化されることが例証され、またDCPDのROMPに適用できることが分かった(D. M. Lynn, E. L. Dias, R. H. Grubbs, B. Mohr, 1999, WO 99/22865)。DCPDの溶液への放射線照射にもかかわらず、微量のCH
2Cl
2中の3(L=SIMes)は、1時間以内に完全にゲル化することになったが、固化された架橋モノマーは得られなかった。これは、低い触媒活性及び少ない量の活性種での操作を示すものである。さらに、触媒3の合成案は、Tl(アルキル−acac)の使用という重大な欠点をかかえている。タリウム及びその誘導体は、極めて有毒であるので、この手順の使用は、工業的に適用できない。さらに、Ag(Me
6acac)の使用は、完全な配位子交換を生じるが、所望の生成物3は、さらなる精製において全ての試みに抵抗し、より有能な金属交換元素としてタリウムを使用する配位子交換だけが、清潔にかつ優れた収量で所望の錯体3を得た(K. Keitz, R. H. Grubbs, J. Am. Chem. Soc., 2009, 131, 2038-2039)。
【0011】
要するに、前記潜在触媒類は、付随するゲル化のないモノマーと触媒の混合または予備触媒のマイクロカプセル化を許容しているので、低張力環状オレフィン類(low-strained cyclic olefins)の開環メタセシス重合に顕著に重要である。モノマーに安定な、工業的に許容できる活性化過程後に高度に活性の、かつ環境に優しい手順を用いて得られる潜在触媒の製造には、挑戦する問題が残っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、潜在シッフ塩基触媒の上記した不利を克服する、オレフィンメタセシス反応に使用するための触媒錯体を提供すること、そして特にDCPDモノマー形成に安定で、定量の緩ルイス酸(mild Lewis acid)によって容易かつ有効に活性化され、活性化後にひときわ優れた活性を示し、そして簡易、有効、温厚な(green)かつ高い収量を得る合成方法によって得られる触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この課題は、
a. ルテニウム及びオスミウムからなる群から選択される金属原子;
b. イミノ基を含み、かつ前記イミノ基の窒素原子に加えて、前記金属に配位される酸素、硫黄及びセレニウムからなる群から選択されるさらに少なくとも一個のヘテロ原子を介して前記金属に配位される二個の二座シッフ塩基配位子(bidentate Schiff base ligands);
c. 前記金属に配位される求核(nucleophilic)カルベン配位子;及び
d. 前記金属に配位される、置換または未置換アルキリデン、ビニリデンまたはインデニリデン配位子である含炭素配位子
からなる触媒錯体を製造する方法であって、
a. ルテニウム及びオスミウムからなる群から選択される金属原子;
b. 二個のアニオン配位子;
c. 前記金属に配位される求核カルベン配位子;
d. 前記金属に配位される、置換または未置換アルキリデン、ビニリデンまたはインデニリデン配位子である含炭素配位子;及び
e. 中性配位子
からなるルテニウムまたはオスミウム触媒前駆体、または
a. ルテニウム及びオスミウムからなる群から選択される金属原子;
b. 一個のアニオン配位子;
c. イミノ基を含み、かつ前記イミノ基の窒素原子に加えて、前記金属に配位される酸素、硫黄及びセレニウムからなる群から選択されるさらに少なくとも一個のヘテロ原子を介して前記金属に配位される一個の二座シッフ塩基配位子;
d. 前記金属に配位される求核カルベン配位子;及び
e. 前記金属に配位される、置換または未置換アルキリデン、ビニリデンまたはインデニリデン配位子である含炭素配位子
からなるルテニウムまたはオスミウム触媒前駆体を非極性溶媒中で、かつ弱塩基の存在下に1.0〜3.0当量の二座シッフ塩基配位子と反応させる工程を含むことを特徴とする触媒錯体の製造方法によって解決される。
【0014】
さらに、本発明は、本方法によって得ることができる触媒錯体、すなわち、a. ルテニウム及びオスミウムからなる群から選択される金属原子;
b. イミノ基を含み、かつ前記イミノ基の窒素原子に加えて、前記金属に配位される酸素、硫黄及びセレニウムからなる群から選択されるさらに少なくとも一個のヘテロ原子を介して前記金属に配位される二個の二座シッフ塩基配位子;
c. 前記金属に配位される求核カルベン配位子;及び
d. 前記金属に配位される、置換または未置換アルキリデン、ビニリデンまたはインデニリデン配位子である含炭素配位子
からなる触媒錯体に関する。
【0015】
さらに、本発明は、前記触媒錯体を含む担持触媒に関する。
【0016】
最後に、本発明は、オレフィンメタセシス反応、特に開環メタセシス重合での前記触媒錯体及び担持触媒の使用に関する。
【0017】
本発明の好ましい実施態様を、従属クレイムに記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の触媒錯体は、コア金属としてルテニウム及びオスミウムからなる群から選択される金属原子を含んでいる。好ましくは、ルテニウムを含む。
【0019】
さらに、触媒錯体は、イミノ基を含み、かつ前記イミノ基の窒素原子に加えて、前記金属に配位される酸素、硫黄及びセレニウムからなる群から選択されるさらに少なくとも一個のヘテロ原子を介して前記金属に配位される二個の二座シッフ塩基配位子を含んでいる。前記へテロ原子は、酸素であるのが好ましい。
【0020】
適切な二座シッフ塩基配位子は、例えば、本出願人の欧州特許第1468004号に記載されている。これらのシッフ塩基配位子は、一般式
【0021】
【化3】
【0022】
(式中、Zは、酸素、硫黄及びセレニウムからなる群から選択され、R’、R’’及びR’’’は、それぞれ水素、C
1−6アルキル、C
3−8シクロアルキル、アリール及びヘテロアリールからなる群から独立して選択される基であり、または
R’’とR’’’は、一緒にアリールまたはヘテロアリール基を形成し、前記各基は、必要に応じてそれぞれハロゲン原子、C
1−6アルキル、C
1−6アルコキシ、アリール、アルキルスルホネート、アリールスルホネート、アルキルホスホネ−ト、アリールホスホネート、アルキルアンモニウム及びアリールアンモニウムからなる群から独立して選択される1以上、好ましくは1〜3の置換基R
5で置換(substitute)されてもよい。)を有する。
【0023】
さらに、本発明の触媒錯体に使用するための二座シッフ塩基配位子は、本出願人の同時係属欧州特許出願EP08290747及び08290748に開示されている。
【0024】
これらのシッフ塩基配位子は、以下に示す一般式のサリチルアルジミン誘導体類から誘導される。
【0025】
【化4】
【0026】
(式中、S
1〜S
4は、前記化合物がpK
a≧6.2を有するように選択される置換基であり、Aは、
【0027】
【化5】
【0028】
、ヘテロアリール、置換または未置換のアルキル、ヘテロアルキルまたはシクロアルキルであり、
Bは、水素、C
1〜C
20アルキル、C
1〜C
20ヘテロアルキルアリールまたはヘテロアリールであり、ここで、各水素以外の基は、C
1〜C
10アルキル及びアリールからなる群から選択される1個以上の成分で必要に応じて置換(substitute)されてもよい。
R
01、R
02、R
m1、R
m2及びR
pは、それぞれ、水素、C
1〜C
20アルキル、C
1〜C
20ヘテロアルキル、C
1〜C
20アルコキシ、アリール、アリールオキシ、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキル、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、ハロゲン、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、及びC
1〜C
20アルキル、C
1〜C
20アルコキシ及びアリールからなる群から選択される1個以上の成分で必要に応じて置換(substitute)されてもよい前記水素以外の基からなる群から選択され、ここで、R
01、R
02、R
m1、R
m2及びR
pは、結合して、C
1〜C
20アルキル、C
1〜C
20ヘテロアルキル、C
1〜C
20アルコキシ、アリール、アリールオキシ、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキル、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、ハロゲン、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、及びC
1〜C
20アルキル、C
1〜C
20アルコキシ及びアリールからなる群から選択される1個以上の成分で必要に応じて置換(substitute)されてもよい前記水素以外の基からなる群から選択される1個以上の成分で必要に応じて置換(substitute)されてもよい、縮合(fused)環状脂肪族または芳香族環を形成することができる。)
【0029】
前記置換基S
1〜S
4は、水素、アミノ、置換または未置換モノまたはジアルキルアミノ、C
1〜C
20アルキル、チオアルキル、アリール及びアリールオキシからなる群から選択するのが好ましい。
【0030】
前記置換基S
1〜S
4は、水素、メトキシ、メチルチオ、アミノ、ジメチルアミノ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、t−ブチル、フェニル、フェノキシ、クロロ、ブロモ、ピペリジニル、1−ピロリジノ、4−t−ブチルフェノキシ及び2−ピリジルからなる群から選択するのがより好ましい。
【0031】
R
01、R
02、R
m1、R
m2及びR
pは、水素、メチル、イソプロピル、t−ブチル、メトキシ、ジメチルアミノ及びニトロからなる群から選択するのが好ましい。
【0032】
Bが、水素であり、Aが、
【0033】
【化6】
【0034】
であり、そしてS
1〜S
4及びR
01、R
02、R
m1、R
m2及びR
pが、以下に定義する通りである前記一般式のシッフ塩基配位子の特別な具体例:
【0035】
【表1】
【0036】
本発明の触媒錯体は、ルテニウムまたはオスミウム金属に配位される求核カルベン配位子をさらに含んでいる。
【0037】
適切な求核カルベン配位子類は、本出願人の欧州特許第1468004号に記載されている。
【0038】
求核カルベン配位子は、ヘテロ原子類が、窒素原子である置換または未置換、飽和または不飽和の1,3−ジヘテロ原子環状化合物であるのが好ましい。
【0039】
このような1,3−ジヘテロ原子環状化合物は、以下の式を有することができる。
【0040】
【化7】
【0041】
(式中、Y及びY
1は、水素、C
1〜C
20アルキル、C
2〜C
20アルケニル、C
2〜C
20アルキニル、C
2〜C
20アルコキシカルボニル、アリール、C
1〜C
20カルボキシレート、C
1〜C
20アルコキシ、C
2〜C
20アルケニルオキシ、C
2〜C
20アルキニルオキシ及びアリールオキシからなる群から独立して選択され、そしてY及びY
1は、それぞれC
1〜C
5アルキル、ハロゲン、C
1〜C
6アルコキシで、またはハロゲン、C
1〜C
5アルキルまたはC
1〜C
5アルコキシで置換(substitute)されたフェニル基で必要に応じて置換(substitute)されてもよく、そしてZ及びZ
1は、水素、C
1〜C
20アルキル、C
2〜C
20アルケニル、C
2〜C
20アルキニル、C
2〜C
20アルコキシカルボニル、アリール、C
1〜C
20カルボキシレート、C
1〜C
20アルコキシ、C
2〜C
20アルケニルオキシ、C
2〜C
20アルキニルオキシ及びアリールオキシからなる群から独立して選択され、そしてZ及びZ
1は、それぞれC
1〜C
5アルキル、ハロゲン、C
1〜C
6アルコキシで、またはハロゲン、C
1〜C
5アルキルまたはC
1〜C
5アルコキシで置換(substitute)されたフェニル基で必要に応じて置換(substitute)されてもよく、そして前記環は、前記環にさらに二重結合を導入することによって必要に応じて芳香族化することができる。)
【0042】
求核カルベン配位子は、SIMESまたはIMESであるのが好ましく、SIMESであるのが最も好ましい。
【0043】
本発明の触媒錯体は、ルテニウムまたはオスミウム金属に配位される含炭素配位子をさらに含んでいる。この含炭素配位子は、置換または未置換のアルキリデン、ビニリデン及びインデニリデン配位子からなる群から選択される。
【0044】
このようなアルキリデン、ビニリデン及びインデニリデン配位子は、例えば、WO00/15339に記載されている。
【0045】
これらの配位子の置換基は、C
1〜C
10アルキル、C
2〜C
20アルキニル、C
1〜C
20アルコキシ、C
2〜C
20アルコキシカルボニル及びアリールからなる群から選択される。
【0046】
含炭素配位子は、フェニルインデニリデン配位子であるのが最も好ましい。
【0047】
適切な含炭素配位子類は、本出願人の欧州特許第1 468 004号に記載されている。
【0048】
本発明の触媒錯体類の好ましい一群は、以下の式を有する。
【0049】
【化8】
【0050】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、水素、ハロゲン、C
1〜C
20アルキル、C
2〜C
20アルケニル、C
2〜C
20アルキニル、C
2〜C
20アルコキシカルボニル、アリール、C
1〜C
20カルボキシレート、C
1〜C
20アルコキシ、C
2〜C
20アルケニルオキシ、C
2〜C
20アルキニルオキシ、アリールオキシ、C
1〜C
20アルキルチオ、C
1〜C
20アルキルスルホニル及びC
1〜C
20アルキルスルフィニルからなる群から独立して選択され、そしてR
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれC
1〜C
5アルキル、ハロゲン、C
1〜C
10アルコキシで、またはC
1〜C
5アルキル、C
1〜C
5アリールオキシ、ハロゲンで置換(substitute)されたアリール基で、あるいは官能基で置換(substitute)することができる。)
本発明の特に好ましい錯体は、以下の式を有する。
【0051】
【化9】
【0052】
本発明の触媒錯体は、そのまままたは該触媒錯体とキャリヤーとからなる担持触媒の形で使用することができる。
【0053】
このキャリヤーは、非晶質または準結晶性物質、結晶性モレキュラーシーブ及び一個以上の無機酸化物及び有機重合体を含む改質層状物質等の多孔質無機固体類からなる群から選択することができる。
【0054】
触媒錯体は、
a. ルテニウム及びオスミウムからなる群から選択される金属原子;
b. 二個のアニオン配位子;
c. 前記金属に配位される求核カルベン配位子;
d. 前記金属に配位される、置換または未置換アルキリデン、ビニリデンまたはインデニリデン配位子である含炭素配位子;及び
e. 中性配位子
からなるルテニウムまたはオスミウム触媒前駆体、または
a. ルテニウム及びオスミウムからなる群から選択される金属原子;
b. 一個のアニオン配位子;
c. イミノ基を含み、かつ前記イミノ基の窒素原子に加えて、前記金属に配位される酸素、硫黄及びセレニウムからなる群から選択されるさらに少なくとも一個のヘテロ原子を介して前記金属に配位される一個の二座シッフ塩基配位子;
d. 前記金属に配位される求核カルベン配位子;及び
e. 前記金属に配位される、置換または未置換アルキリデン、ビニリデンまたはインデニリデン配位子である含炭素配位子
からなるルテニウムまたはオスミウム触媒前駆体を非極性溶媒中で、かつ弱塩基の存在下に1.0〜3.0当量の二座シッフ塩基配位子と反応させる工程を含むことを特徴とする方法によって製造される。
【0055】
本発明に使用するのに適したアニオン配位子は、C
1〜C
20アルキル、C
1〜C
20アルケニル、C
1〜C
20アルキニル、C
1〜C
20カルボキシレート、C
1〜C
20アルコキシ、C
1〜C
20アルケニルオキシ、C
1〜C
20アルキニルオキシ、アリール、アリールオキシ、C
1〜C
20アルコキシカルボニル、C
1〜C
8アルキルチオ、C
1〜C
20アルキルスルホニル、C
1〜C
20アルキルスルフィニル、C
1〜C
20アルキルスルホネート、アリールスルホネート、C
1〜C
20アルキルホスホネート、アリールホスホネート、C
1〜C
20アルキルアンモニウム、アリールアンモニウム、ハロゲン原子及びシアノからなる群から選択されるアニオン配位子を含む。アニオン配位子は、クロライド配位子であるのが好ましい。
【0056】
中性配位子は、式PR
3R
4R
5(R
3は、第二級アルキルまたはシクロアルキルであり、そしてR
4及びR
5は、それぞれ独立してアリール、C
1〜C
10第一級アルキル、第二級アルキルまたはシクロアルキルである)のホスフィンであるのが好ましい。中性配位子は、P(シクロヘキシル)
3、P(シクロペンチル)
3、P(イソプロピル)
3またはP(フェニル)
3であるのがより好ましい。
【0057】
本発明の触媒錯体及びその製造方法に使用される化合物類は、空気、湿気及び不純物に感じ易いので、使用する出発物質、試薬および溶媒類が、不純物を含まず、そして十分に乾燥されていることを確かめるべきである。
【0058】
本発明の方法に使用のための適切な弱塩基類は、3.5〜7の範囲のpK
b値を有する。本発明の方法に使用のための適切な塩基には、例えば、Li
2CO
3、Na
2CO
3、K
2CO
3、CuCO
3及びAg
2CO
3が挙げられる。3.68のpK
b値を有するAg
2CO
3が、特に好ましい。
【0059】
本発明の方法に使用する弱塩基のさらなる例には、カルボキシレート類が挙げられる。
【0060】
本発明の触媒錯体の製造には、好ましくは、前記触媒前駆体、シッフ塩基配位子及び弱塩基、例えば、Ag
2CO
3を、予備混合し、その後、前記予備混合物のいかなる成分とも反応しない適切な非極性溶媒を加える。本発明において、3以上の誘電率を有するいかなる酸性プロトン類を所有しない非プロトン溶媒を使用するのが好ましい。
【0061】
一般に、溶媒の誘電率は、溶媒の極性のおおまかな尺度を提供する。15未満の誘電率を有する溶媒は、一般に非極性と考えられる。技術的に、誘電率は、溶媒に浸した帯電粒子を囲む電場の電界強さを低減する溶剤の能力を評価する。それらの例を、以下の表1に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
前記した様に、本発明に使用する好ましい溶媒は、3以上の誘電率を有し、そのような溶媒には、テトラヒドロフラン、二塩化メチレン、クロロホルム及びジエチルエーテルがある。
【0064】
テトラヒドロフランが、非極性溶媒として使用するのに最も好ましい。
【0065】
次に、反応混合物を加熱攪拌する。一般に、反応は、20℃から使用する非極性溶媒の沸点までの範囲、好ましくは40℃から60℃の範囲の温度、特に好ましくは約40℃で実施される。
【0066】
一般に、反応時間は、2〜72時間である。
【0067】
反応が、完了した後、反応混合物を約0℃に冷却して、生成した副生物類を濾過によって除去する。引き続き、溶媒を、通常は減圧下に蒸発によって除去する。
【0068】
本発明の方法で使用する弱塩基の量は、一般に0.5から2.0当量の範囲内である。
【0069】
前記弱塩基は、前記触媒前駆体が一個のアニオン配位子及び一個の二座シッフ塩基配位子を含む場合の前駆体の量に対して0.5〜1当量、より好ましくは約0.6当量の量で使用されるのが好ましい。
【0070】
前記触媒前駆体が、二個のアニオン配位子を含む場合、前記弱塩基は、前駆体の量に対して1.0〜2.0当量、好ましくは約1.1当量の量で使用されるのが好ましい。
【0071】
本発明の方法で使用する前記シッフ塩基配位子の量は、前記触媒前駆体が一個のシッフ塩基配位子を含む場合の前駆体の量に対して一般に1.0〜3.0当量、好ましくは1.0〜1.5当量の範囲内、特に好ましくは約1.1当量であり、そして前記触媒前駆体が二個のアニオン配位子を含む場合の前駆体の量に対して2.0〜2.5当量、特に好ましくは約2.1当量である。
【0072】
本発明の触媒の最適な収量は、前記触媒前駆体が二個のアニオン配位子を含む場合、1当量の触媒前駆体を1.1当量の弱酸、好ましくはAg
2CO
3の存在下に2.1当量のシッフ塩基配位子と反応させることによって達成される。
【0073】
本発明の触媒の最適な収量は、前記触媒前駆体が一個のアニオン配位子と一個のシッフ塩基配位子を含む場合、1当量の触媒前駆体を0.6当量の弱酸、好ましくはAg
2CO
3の存在下に1.1当量のシッフ塩基配位子と反応させることによって達成される。
【0074】
本発明の触媒錯体は、現状のルテニウム触媒と比べてジシクロペンタジエン(DCPD)の開環メタセシス重合反応における優れた潜在性を示す。さらに、本発明の触媒は、DSC測定によって実証して、室温及び200℃に加熱した後でさえ不活性である。さらに、本発明の触媒は、従来の触媒より少量のルイス酸またはブレンステッド酸を用いて活性化することができる。
【実施例】
【0075】
以下に、酸素及び湿気に感じ易い物質の取り扱いを、アルゴン雰囲気下でシュレンク技術を用いて行った実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。THFを、溶媒の一例として使用した。
【0076】
【化10】
【0077】
〔フェニルインデニリデン−シッフ塩基−ルテニウム触媒錯体の製造の一般手順(式3)〕
化学量論量のフェニルインデニリデン触媒前駆体1(式3、ルートA)またはモノシッフ塩基前駆体2(式3、ルートB)、対応するシッフ塩基配位子及び炭酸銀(I)を、シュレンクフラスコ(50〜250ml)に加えた。フラスコを、脱気し、そしてアルゴンを再充填した。次に、乾燥THF(20ml)をシュレンクフラスコ(なおアルゴン下にある)に移し、6〜72時間攪拌した。反応混合物を、0℃で冷却して、PCy3AgCl(副生物)の白色沈殿を濾過によって除去した。濾液を、シュレンクフラスコ(250ml)に集め、溶媒を減圧下に蒸発によって除去した。粗生成物を、ヘキサン中に懸濁させ、十分に混合し、濾過した。最終生成物を、減圧下に乾燥した。
【0078】
錯体3(ルートA)
フェニルインデニリデン触媒前駆体1(式3)(0.54mmol)、2−[(4−t−ブチルフェニルイミノ)メチル]−4−メトキシフェノール(1.134mmol)、炭酸銀(I)(0.594mmol)及びTHF(10ml)を、室温で72時間上記したように反応させた。反応混合物は、
1H 及び
31P NMRでの検討によって、錯体3に定量的に変換したことが示された。
【0079】
錯体3(ルートB)
ルテニウム[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]−[2−[[(4−t−ブチルフェニルイミノ)メチル]−4−メトキシフェノリル]―[3−フェニル−1H−インデン−1−イリデン(inden-1-ylidene)]ルテニウム(II)クロライド(0.54mmol)、2−[(4−t−ブチルフェニルイミノ)メチル]−4−メトキシフェノール(0.594mmol)、炭酸銀(I)(0.324mmol)及びTHF(10ml)を、室温で24時間上記したように反応させた。反応混合物は、
1H及び
31P NMRでの検討によって、錯体3に定量的に変換したことが示された。
【0080】
錯体4(ルートA)
フェニルインデニリデン触媒前駆体1(式3)(0.54mmol)、2−[(4−t−ブチルフェニルイミノ)メチル]−5−メトキシフェノール(1.134mmol)、炭酸銀(I)(0.594mmol)及びTHF(10ml)を、室温で72時間上記したように反応させた。反応混合物は、
1H 及び
31P NMRでの検討によって、錯体4に定量的に変換したことが示された。
【0081】
錯体4(ルートB)
ルテニウム[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]−[2−[[(4−t−ブチルフェニルイミノ)メチル]−5−メトキシフェノリル]―[3−フェニル−1H−インデン−1−イリデン(inden-1-ylidene)]ルテニウム(II)クロライド(0.54mmol)、2−[(4−t−ブチルフェニルイミノ)メチル]−5−メトキシフェノール(0.594mmol)、炭酸銀(I)(0.324mmol)及びTHF(10ml)を、室温で72時間上記したように反応させた。反応混合物は、
1H 及び
31P NMRでの検討によって、錯体4に定量的に変換したことが示された。
【0082】
錯体5(ルートA)
フェニルインデニリデン触媒前駆体1(式3)(0.54mmol)、2−[(4−メチルフェニルイミノ)メチル]−5−メトキシフェノール(1.134mmol)、炭酸銀(I)(0.594mmol)及びTHF(10ml)を、室温で72時間上記したように反応させた。反応混合物は、
1H 及び
31P NMRでの検討によって、錯体5に定量的に変換したことが示された。
【0083】
錯体5(ルートB)
ルテニウム[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]−[2−[[(4−メチルフェニルイミノ)メチル]−5−メトキシフェノリル]―[3−フェニル−1H−インデン−1−イリデン(inden-1-ylidene)]ルテニウム(II)クロライド(0.54mmol)、2−[(4−メチルフェニルイミノ)メチル]−5−メトキシフェノール(0.594mmol)、炭酸銀(I)(0.324mmol)及びTHF(10ml)を、室温で24時間上記したように反応させた。反応混合物は、
1H 及び
31P NMRでの検討によって、錯体6に定量的に変換したことが示された。
【0084】
錯体6(ルートA)
フェニルインデニリデン触媒前駆体1(式3)(0.54mmol)、2−[(4−メチルフェニルイミノ)メチル]−5−メトキシフェノール(0.54mmol)、炭酸銀(I)(0.594mmol)及びTHF(10ml)を、室温で72時間上記したように反応させ、そして2−[(4−メチルフェニルイミノ)メチル]-4−メトシキフェノール(0.594mmol)を加えた。得られた混合物をさらに48時間反応させた。反応混合物は、
1H 及び
31P NMRでの検討によって、錯体6に定量的に変換したことが示された。
【0085】
錯体6(ルートB)
ルテニウム[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]−[2−[[(4−メチルフェニルイミノ)メチル]−5−メトキシフェノリル]―[3−フェニル−1H−インデン−1−イリデン(inden-1-ylidene)]ルテニウム(II)クロライド(0.54mmol)、2−[(4−メチルフェニルイミノ)メチル]−4−メトキシフェノール(0.594mmol)、炭酸銀(I)(0.324mmol)及びTHF(10ml)を、室温で24時間上記したように反応させた。反応混合物は、
1H 及び
31P NMRでの検討によって、錯体6に定量的に変換したことが示された。
【0086】
錯体7(ルートA)
フェニルインデニリデン触媒前駆体1(式3)(0.54mmol)、2−[(4−イソプロピルフェニルイミノ)メチル]−5−メトキシフェノール(1.134mmol)、炭酸銀(I)(0.594mmol)及びTHF(10、室温で72時間上記したように反応させた。反応混合物は、
1H 及び
31P NMRでの検討によって、錯体7に定量的に変換したことが示された。
【0087】
錯体7(ルートB)
ルテニウム[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]−[2−[[(4−イソプロピルフェニルイミノ)メチル]−5−メトキシフェノリル]―[3−フェニル−1H−インデン−1−イリデン(inden-1-ylidene)]ルテニウム(II)クロライド(0.54mmol)、2−[(4−イソプロピルフェニルイミノ)メチル]−5−メトキシフェノール(0.594mmol)、炭酸銀(I)(0.324mmol)及びTHF(10ml)を、室温で24時間上記したように反応させた。反応混合物は、
1H 及び
31P NMRでの検討によって、錯体7に定量的に変換したことが示された。
【0088】
【化11】
【0089】
〔触媒の性能〕
上に示した本発明のルテニウム触媒錯体(4)を、DCPDのROMPで試験した。一個だけの二座シッフ塩基配位子を含むルテニウム触媒(2a)を、参照触媒として使用した。
【0090】
【化12】
【0091】
得られた結果を、以下の表2に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
参照触媒(2a)のサリチルアルジミン配位子は、アニリン部分のオルト位置に置換基を有し、この様なオルト置換基を有するサリチルアルジミン配位子を有するこの種のルテニウム触媒は、ジシクロペンタジエンの開環メタセシス重合反応において良好な潜在性を示す。
【0094】
その様な置換基が欠けているにもかかわらず、本発明のルテニウム触媒錯体4は、DSC測定によって立証されるように室温及び200℃以上に加熱した後でさえ、不活性な、DCPDのROMP(触媒/モノマー比1:15000)におけるすぐれた潜在触媒であることが分かった。本発明のビス−置換触媒錯体4の安定性は、より反応性のモノ−置換類似体より優れており、前記参照触媒(2a)と同様に良好である(表2参照)。DCPDのROMPにおける本発明のルテニウム触媒4の改善された安定性は、中心ルテニウムの周りの立体障害の増大に一部起因する。
【0095】
高度の活性系を生じるのに1当量未満のPhSiCl
3しか必要としないので、本発明のビス−サリチルアルジミン触媒錯体4は、その化学的活性化に際し参照触媒(2a)と比べて増大した開始を実証する。DCPDのROMPが、同条件(1当量未満のPhSiCl
3)で化学的に活性化した錯体2aによって触媒される場合、低い触媒活性が、認められた。45当量のPhSiCl
3を用いる化学的活性化の後でさえ、参照触媒(2a)は、本発明のルテニウム錯体4と比べて遅い開始をなお示す。
【0096】
よって、本発明のルテニウム錯体4は、その活性化後に参照触媒(2a)より著しく性能が優れており、他の潜在触媒を用いることによって得られるものより優れている171℃及び178℃のガラス転移温度等の優れた特性を有するポリマーを得る。