【文献】
小池 秀明、外3名,“色ヒストグラムを用いた虫画像の分類”,電子情報通信学会技術研究報告,日本,社団法人電子情報通信学会,2007年 5月17日,Vol.107, No.58,p.7-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
更に前記メルクマールとして、体色、尾長、尾長と体長の比、翅生部分、翅の角度、頭部方向、後ろ脚の状態、体部の丸み、眼の特徴のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の捕獲虫類の同定方法。
前記虫領域抽出ステップは、前記虫候補領域についてエッジ検出することと、勾配方向に注目画素を設定することと、前記注目画素に隣接する類似輝度画素を順次統合することから成る、請求項1乃至3のいずれかに記載の捕獲虫類の同定方法。
前記同定ステップは、複数種のメルクマールにつき代表値を設定するステップと、その代表値につき同定対象の虫類とのユークリッド距離を算出するステップと、その距離が短い順に複数種の同定候補を決定するステップとを含む、請求項1乃至4のいずれかに記載の捕獲虫類の同定方法。
前記三次同定工程において複数種の同定候補の中から最終的に同定を行うに当たり、固有の特徴を持つ虫類に対して、その特徴を充足することを条件として候補順位の繰り上げを行う、請求項6又は7に記載の捕獲虫類の同定方法。
粘着シートによって捕虫する捕虫装置と、前記捕虫装置から回収してきた虫類の粘着した粘着シートの画像を読み込む画像読み込み手段と、前記画像読み込み手段によって読み込まれた画像を解析して捕獲された虫類を同定する解析装置と、前記解析装置において同定された結果を出力する出力手段とから成り、
前記解析装置は、前記画像読み込み手段によって読み込まれた画像に対し、虫領域と背景領域とを区別するための画像処理をする前処理手段と、前処理された画像から虫類の形態的特徴のメルクマールデータを取得する特徴抽出手段と、虫類の形態的特徴のメルクマールを標準化した標準メルクマールデータを記憶するデータ記憶手段と、前記特徴抽出手段によって抽出された虫類の形態的特徴のメルクマールデータと前記データ記憶手段において記憶されている前記標準メルクマールデータとを比較することにより、当該虫類の同定をする同定手段とを含んで構成され、
前記前処理手段は、読み込まれた前記画像からエッジを取得し、前記画像をブロック分割し、エッジを含むブロックを取得してラベリングする手段を含むことを特徴とする捕獲虫類の同定システム。
前記特徴抽出手段によって取得される前記虫類の形態的特徴のメルクマールには、少なくとも、体長、体幅、体長と体幅の比、脚長、脚長と体長の比、翅面積、翅面積と体面積の比が含まれる、請求項9に記載の捕獲虫類の同定システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、捕獲しようとする虫類を効率よく捕獲するためには、捕虫装置の誘引灯に、その捕獲しようとする虫類を強く誘引する波長の光を放出する光源を用いることが有効であり、そのために先ず、各工場等に集まる虫類を同定する必要があるところ、従来はその同定作業は、専ら人手によって行われていたために作業コストが嵩み、その削減が求められていた。また、目視による人的作業のために、時間を要するだけでなく、客観性・一貫性のある同定結果を期待することが困難であり、その改善が求められていた。
【0008】
本発明はこのような要請に応えるためになされたもので、各工場等に集まる虫類の同定作業を自動的且つ迅速に、しかも比較的低コストにて行うことができ、また、客観性及び一貫性のある同定結果を得ることが可能な捕獲虫類の同定方法及び同定システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための請求項1に係る発明は、虫類を捕獲した捕虫装置の粘着シートの画像を画像読み込み手段によって読み込む画像読み込みステップと、読み込まれた前記画像からエッジを取得することにより虫候補領域を取得する虫候補領域取得ステップと、取得された前記虫候補領域以外の背景領域を削除する背景領域削除ステップと、前記虫候補領域から虫領域を抽出する虫領域抽出ステップと、抽出された前記虫領域から少なくとも体領域、脚領域及び翅領域を抽出し、抽出された前記体領域から体長、体幅及び体長と体幅の比を算出し、前記脚領域から脚長及び脚長と体長の比を算出し、また、前記翅領域から翅面積及び翅面積と体面積の比を算出して形態的特徴のメルクマールデータを取得する特徴抽出ステップと、取得された前記メルクマールデータを、予め虫ごとに設定されて記憶されている標準メルクマールデータと照合することにより当該虫類を同定する同定ステップとから成ることを特徴とする捕獲虫類の同定方法である。
【0010】
一実施形態においては、前記メルクマールとして、更に、体色、尾長、尾長と体長の比、翅生部分、翅の角度、頭部方向、後ろ脚の状態、体部の丸み、眼の特徴のうちの少なくとも1つを含む。
【0011】
一実施形態においては、前記虫候補領域取得ステップは、読み込まれた前記画像からエッジを取得することと、前記画像をブロック分割し、エッジを含むブロックを取得してラベリングすることから成り、前記背景領域除去ステップは、前記エッジを含むブロック以外のブロックを、HSV色情報を用いて削除することから成り、また、前記虫領域抽出ステップは、前記虫候補領域についてエッジ検出することと、勾配方向に注目画素を設定することと、前記注目画素に隣接する類似輝度画素を順次統合することから成る。
【0012】
また、一実施形態においては、前記同定ステップは、同定対象虫類を有翅、無翅、巨大の3種類に分類する分類分け工程と、各虫類についてメルクマールのしきい値幅を設定し、前記同定対象虫類のメルクマール値がいずれかの虫類の前記しきい値幅内に含まれるか否かを同定し、含まれる場合に前記同定対象虫類を当該虫類と同定する一次同定工程と、前記しきい値幅を拡張し、前記一次同定工程において同定されなかった前記同定対象虫類が前記拡張されたしきい値幅内に含まれるか否かを同定し、含まれる場合に前記同定対象虫類を当該虫類と同定する二次同定工程と、複数種のメルクマールにつき代表値を設定し、その代表値につき同定対象の虫類とのユークリッド距離を算出し、その距離が短い順に複数種の同定候補を決定し、その同定候補の中から最終的に同定を行う三次同定工程とから成る。
【0013】
また、一実施形態においては、前記二次同定工程における前記しきい値幅の拡張は、捕獲確率の高い虫から行っていくこととし、前記三次同定工程において複数種の同定候補の中から最終的に同定を行うに当たり、固有の特徴を持つ虫類に対して、その特徴を充足することを条件として候補順位の繰り上げを行うこととする。
【0014】
上記課題を解決するための請求項9に係る発明は、粘着シートによって捕虫する捕虫装置と、前記捕虫装置から回収してきた虫類の粘着した粘着シートの画像を読み込む画像読み込み手段と、前記画像読み込み手段によって読み込まれた画像を解析して捕獲された虫類を同定する解析装置と、前記解析装置において同定された結果を出力する出力手段とから成り、前記解析装置は、前記画像読み込み手段によって読み込まれた画像に対し、虫領域と背景領域とを区別するための画像処理をする前処理手段と、前処理された画像から虫類の形態的特徴のメルクマールデータを取得する特徴抽出手段と、虫類の形態的特徴のメルクマールを標準化した標準メルクマールデータを記憶するデータ記憶手段と、前記特徴抽出手段によって抽出された虫類の形態的特徴のメルクマールデータと前記データ記憶手段において記憶されている前記標準メルクマールデータとを比較することにより、当該虫類の同定をする同定手段とを含んで構成されることを特徴とする捕獲虫類の同定システムである。
【0015】
一実施形態においては、前記特徴抽出手段によって取得される前記メルクマールには、少なくとも、体長、体幅、体長と体幅の比、脚長、脚長と体長の比、翅面積、翅面積と体面積の比が含まれる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る捕獲虫類の同定方法及び同定システムは上記のとおりであって、捕獲虫類の同定を、人手を介することなく、取り込んだ虫類の画像から形態的特徴のメルクマールデータを取得し、これを予め虫ごとに設定した標準メルクマールデータと比較する画像処理によって行うことができるため、各工場等に集まる虫類の同定作業を自動的且つ迅速に、しかも比較的低コストにて行うことができ、また、客観性及び一貫性のある同定結果を得ることが可能となる効果がある。
【0017】
また、本発明に係る方法においては、虫類全体のシルエットから虫類を同定するのではなく、先ず、体領域、脚領域及び翅領域の各部位を抽出し、各部位の特徴から虫を同定するという手法を用いるため、粘着捕獲された虫の向きの違いによる影響を極力少なくすることが可能となる。更に、似た色や形、大きさを持つ種類の虫が存在するという問題は、各部位の特徴数を増やすことで解決することが可能となる効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。本発明に係る捕獲虫類の同定方法は、虫類を捕獲した捕虫装置の粘着シートの画像を画像読み込み手段によって読み込む画像読み込みステップと、読み込まれた前記画像からエッジを取得することにより虫候補領域を取得する虫候補領域取得ステップと、取得された前記虫候補領域以外の背景領域を削除する背景領域削除ステップと、前記虫候補領域から虫領域を抽出する虫領域抽出ステップを含む。
【0020】
また、本発明に係る方法は更に、抽出された前記虫領域から少なくとも体領域、脚領域及び翅領域を抽出し、抽出された前記体領域から体長、体幅及び体長と体幅の比を算出し、前記脚領域から脚長及び脚長と体長の比を算出し、また、前記翅領域から翅面積及び翅面積と体面積の比を算出して形態的特徴のメルクマールデータを取得する特徴抽出ステップと、取得された前記メルクマールデータを、予め虫ごとに設定されて記憶されている標準メルクマールデータと照合することにより当該虫類を同定する同定ステップを含む。
【0021】
本発明に係る捕獲虫類の同定システムは、上記方法を実施するためのものであり、該同定システムは、
図1の簡略ブロック図に示されるように、粘着シートによって捕虫する捕虫装置1と、捕虫装置1から回収してきた虫類の粘着した粘着シートの画像を読み込む画像読み込み手段2と、画像読み込み手段2によって読み込まれた画像を解析して捕獲された虫類を同定する解析装置3と、解析装置3において同定された結果を出力する出力手段8とを含んで構成される。
【0022】
解析装置3は、画像読み込み手段2によって読み込まれた画像に対し、虫領域と背景領域とを区別するための画像処理をする前処理手段4と、前処理された画像から虫類の形態的特徴のメルクマールデータを抽出する特徴抽出手段5と、虫類の形態的特徴のメルクマールデータを標準化した標準メルクマールデータを記憶するデータ記憶手段6と、特徴抽出手段5によって抽出された抽出メルクマールデータとデータ記憶手段6において記憶されている標準メルクマールデータとを照合することにより、当該虫類の同定をする同定手段7とを含んで構成される。
【0023】
また、虫類を捕獲するための捕虫装置1としては、例えば、前面を大きく開口して前面開口部12を形成した額縁状の本体ケース11と、本体ケース11の側面の導光板挿入口16から装入される、LEDユニット13を付設した導光板と、導光板の上に重合状態にされて本体ケース11内に装填される透光性の粘着シート15とで構成されるものが用いられる(
図2参照)。その場合粘着シート15は、本体ケース11内装填時においてその粘着面が、本体ケース11の前面開口部12内に直接露呈するように配備される。
【0024】
本発明においては、同定対象となる虫類として、ユスリカ・カ、ガガンボ、チョウバエ、ノミバエ、ショウジョウバエ、クロバネキノコバエ、ニセケバエ、タマバエ、イエバエ・クロバエ、ヒラタアブ、コバチ、アリ、ヤガ、メイガ、カツオブシムシ、シバンムシ、コクヌストモドキ、ゴミムシ、ハナカクシ、アブラムシ、アオカメムシ、マルカメムシ、ヨコバイ、ウンカ、チャタテムシ、アザミウマ、カゲロウ等を想定している。
【0025】
これらの虫類はそれぞれ形態上の特徴を有しているが、その形態上の特徴はある程度分類が可能である。例えば、ヒメイエバエ、ガガンボ、イエカ、ユスリカ、チョウバエ、ノミバエ、タマバエ、クロバネキノコバエ、ニセケバエの形態的特徴を挙げると、以下のとおりとなる。
−ガガンボ、イエカ、ユスリカ、クロバネキノコバエ・・・体部が大きい(10mm以上)。
−ガガンボ、イエカ、ユスリカ、ノミバエ、タマバエ・・・脚が長くて発達している。
−キノコバエ、ニセケバエ・・・触覚が太くて短く、コブ状である。
−チョウバエ、タマバエ・・・翅の幅が広くて対称的である。
−ヒメイエバエ、ガガンボ、ノミバエ、クロバネキノコバエ、ニセケバエ・・・特徴的な翅脈を有している。
【0026】
これらの形態的特徴に鑑み、形態的特徴のメルクマールとしては、虫類の体長、体幅、体長・体幅比、体色、脚長、脚長・体長比、尾長、尾長・体長比、翅面積、翅面積・体面積比、翅生部分(体部のどの部分についているか)、翅の角度、頭部方向、後ろ脚の状態、体部の丸み度合い、眼の状態(位置、縦横比)等が考えられる。通例、本発明においては、そのうちの少なくとも体長、体幅、脚長、脚長・体長比、翅面積、翅面積・体面積比が採用される。また、本発明における虫類の同定は、捕獲した虫類を、通常の状態ではなく、粘着シートに粘着した状態において観察して行うものであるため、正面向きに粘着捕獲される場合や横向きに粘着捕獲される場合等があることも考慮される。
【0027】
以下に、本発明に係るシステム及び方法につき、
図3に示すフロー図を参照しつつ、処理ステップごとに詳述する。なお、
図3のフロー図には、虫類の同定作業である、画像読み込み手段2による処理から、読み込み画像を解析して同定し、同定結果を出力するまでのステップが示されている。
【0028】
標準メルクマールデータ作成・記憶ステップ
このステップは、虫類の同定作業に先立ち、テンプレートとして、虫類の形態的特徴のメルクマールを虫ごとに設定して標準メルクマールデータ(許容範囲)を作成し、データ記憶手段6に記憶するステップである。この標準メルクマールデータは、後述する画像読み込みステップ乃至特徴抽出ステップと同じ工程を経て、予め作成される。
【0029】
画像読み込みステップ(S11)
このステップは、工場等に設置されている捕虫装置1から回収し、必要に応じてフィルムラッピングした虫類の粘着した粘着シート15を、画像読み取り装置(画像入力装置)2にかけてその画像を読み取るステップである。画像読み取り装置2としては、例えば、2480×3503BMP画像のスキャナーや、カメラ等が用いられる。
【0030】
虫候補領域の取得ステップ(S12)
虫候補領域取得ステップは、読み込まれた画像(以下虫画像という)(
図4(A))からエッジ31を取得すること(
図4(B))と、虫画像をブロック分割し(例えば、1ブロックの範囲を200×200画素とする。)、エッジ31を含むブロックを取得してラベリング処理を行うこと(
図4(C))から成り、ラベリングした領域を虫候補領域32とする。この虫候補領域32は各虫類によって異なるため、
図4においては、4種類の虫が捕獲されているものとし、便宜上、それらを丸、星形、四角、三角を付して区別している。なお、エッジ31の取得は、一般的なエッジ検出法によって行う。
【0031】
背景領域の削除ステップ(S13)
捕獲虫類の特徴抽出のためには、虫候補領域32から虫領域を抽出する必要があり(
図5(A)参照)、虫領域の抽出のためには、虫候補領域32から背景領域を削除する必要がある。そのために、先ず、エッジ31を含まない非エッジブロック領域33のHSV色情報を取得する。次いで、エッジ31を含むエッジブロック領域、即ち、虫候補領域32と非エッジブロック領域33から、非エッジブロック領域33のHSV色情報と同じ色領域を背景と考えて削除する(
図5(B))。例えば、その際のしきい値として、abs(虫候補領域V値−非エッジブロック領域のV値)>20(V値:0〜255)を用いる。このようにして虫画像より背景を取り除くことで、残った領域は背景以外の領域、即ち、虫領域と同定することができる。
【0032】
但し、このようにして単に背景を取り除いて得られる虫領域には、本来の虫領域の他に虫の影等が含まれるため、これを虫領域として同定作業を行っても、高精度の同定は望めない。そこで、本発明においては、上記のようにして抽出された虫領域は確定的なものではなく、仮に虫領域と推定する仮虫領域34とし、これに対して更に、以下のような虫領域を確定するための画像処理を行う。
【0033】
虫領域の抽出ステップ(S14)
このステップにおいては、先ず、色情報を用いて抽出された仮虫領域34に対し、一般的なエッジ検出方法によってエッジ検出を行う(
図6(A))。
図6において符号35で示す濃色部分がエッジである。次いで、勾配方向への注目画素36を抽出し(
図6(B)に示されるように、エッジ35の内側に位置する。)、各注目画素36に隣接する各画素につき、それに隣接する4近傍の画素との輝度比較を行い、その差が一定値以内の場合(例えば、abs(統合画素輝度値−注目画素輝度値)<15(輝度値:0〜255))は、その画素を、注目画素36の輝度に統合していく。
【0034】
本発明に係る方法の取り扱い対象は虫類であって、穴あき部分は生じないため、通例、エッジ35で囲まれる部分の全体が注目画素36に統合される(
図6(C))。また、背景画素に隣接する画素37についても背景画素との間で同様の処理を行い、類似輝度画素を順次統合していく。かくして、最終的な虫領域38が得られる(
図6(C))。
【0035】
形態的特徴抽出ステップ(S15)
上記のようにして虫領域38が抽出された後、それを基にして、先ず体領域、脚領域、翅領域及び尾領域の抽出が行われる。この形態的特徴の抽出ステップは、体領域、脚領域、翅領域及び尾領域の抽出工程と、それを基にした形態的特徴のメルクマールデータの取得工程とから成る。
【0036】
体領域は、虫類の脚、翅、尾以外の領域であり、体領域の抽出のためには、先ず、虫領域38と背景領域39のHSV色情報を取得する。そして、背景領域39と異なる色の領域を体領域として抽出する。例えば、abs(体領域H値−背景領域H値)>13、abs(体領域H値−背景領域H値)≦13であってabs(体領域V値−背景領域V値)>155、あるいは、abs(体領域S値−背景領域S値)>150によって、体領域と背景領域とを識別する。
【0037】
脚領域は、言うまでもなく、体領域よりもかなり狭くて細い領域である。そこで、虫領域に対し4×4の正方ブロックを当て嵌める処理を行うと共に、エッジに挟まれた狭い部分を狭領域として抽出し、4×4の正方ブロックが当て嵌まらない部分であって、狭領域として抽出された部分を以て、脚候補領域とする。脚領域の抽出は、この脚候補領域内の細線の端点から体領域まで細線を辿ることによって行う。即ち、脚候補領域について細線化処理を行い、脚候補領域内の細線の端点から体領域内の細線の端点までを脚領域とするのである。
【0038】
翅領域の抽出は、虫画像から脚候補領域を除外した領域をラベリングし、そのうちの最大領域を以て翅領域とすることにより行う。
【0039】
尾領域の抽出は、脚候補領域の抽出の場合と同様に、体領域に対し4×4の正方ブロックを当て嵌める処理を行うと共に、エッジに挟まれた狭い部分を狭領域として抽出し、4×4の正方ブロックが当て嵌まらない部分と、狭領域として抽出された部分の重なり合った部分を以て、尾領域とする。
【0040】
次いで、上記のようにして抽出した体領域、脚領域、翅領域及び尾領域から、形態的特徴のメルクマールデータを取得する。即ち、体領域から体長及び体幅を算出し、脚領域から脚長及び脚長と体長の比を算出し、翅領域から翅面積及び翅面積と体面積の比を算出する処理がなされる。形態的特徴のメルクマールとしては、その他に体色、尾長、尾長・体長比、翅生部分、翅の角度、頭部方向、後ろ脚の状態、体部の丸み度合い、眼の位置及び縦横比等が考えられ、それらのうちの任意のものを組み合わせて採用することができる。もちろん、形態的特徴のメルクマールはこれらに限定される訳ではない。また、その特徴抽出方法も、以下に述べる方法に限定されるものではない。
【0041】
<体長、体幅及び体長・体幅比率の抽出>
体長は、体領域において骨格を検出し、その長さを計測することによって抽出する。骨格の検出及び長さの計測は、以下の工程によって行う。
−体部の重心を求める。
−体部の重心から最遠位点までの直線を1本抽出する。
−上記第1の直線と角度の異なる最遠位点までの第2の直線を1本抽出する。
−第1の直線と第2の直線を骨格と考え、その長さを計測する。
【0042】
体幅は、上記第1の直線及び第2の直線に対して直交する複数の直線を抽出し、その複数の直交直線のうち最も長い直線の長さを以て体幅とする。そして、このようにして求めた体幅値と、上記のようにして求めた体長値とから、体長・体幅比率(体長/体幅比率)を特徴の1つとして抽出する。
【0043】
<体色の抽出>
体色の特徴の抽出に当たっては、先ず、体領域からHSV表色系を用いて、黒、赤、黄、緑の4色領域を抽出する。4色領域の抽出は、先ず、黒について、例えば、0≦V値<80をしきい値として見て、これに当てはまらない部分に対し、例えば、赤:0<H値<40、黄:40<H値<70、緑:70<H値<100をそれぞれのしきい値として、各色の割合、彩度平均、明度平均を取得し、体色の特徴として抽出する。
【0044】
<脚長及び体長・脚長比の抽出>
脚長は、脚領域における端点から体領域内の端点まで辿った細線の画素数から求めることができる。また、体長と脚長の長さ比は、脚長/体長から求めることができる。
【0045】
<尾長及び体長・尾長比の抽出>
尾長は、尾領域内において作ることができる、最長直線の長さから求めることができる。また、体長と尾長の長さ比は、尾長/体長から求めることができる。
【0046】
<翅面積及び体面積・翅面積比の抽出>
翅面積は、翅領域の面積から求めることができ、体面積と翅面積の比は、翅面積/体面積から求めることができる。
【0047】
<翅生部分の抽出>
翅生部分の抽出は、翅が体部のどの部分から出ているかを検出するものである。その抽出のために、体部を前部、中間部及び後部に分割し、翅が接するそのいずれかの部分を以て翅生部分とする。
【0048】
<翅の角度の算出>
翅の角度の算出は以下のようにして行う。
−骨格の中心から翅先端方向に直線を取得する。
−直線と骨格のなす2つの角を取得する。
−取得した2つの角のうち小さい方の角度を以て、翅の角度として算出する。
【0049】
<虫の頭部方向の推定>
上記のようにして求めた翅の角度によって、虫の頭部方向を推定することができる。即ち、翅の角度が小である場合は、翅と逆方向を頭部方向とし、翅の角度が大である場合は、体部の前部と後部のうち、太い方(体幅が大)を頭部方向とする。
【0050】
<後ろ脚の抽出>
後ろ脚は、頭部方向と逆の方向から伸びる脚を以て後ろ脚とする。
【0051】
<体部の丸みの特徴抽出>
体部の丸みの特徴は、体幅のヒストグラムから近似二次関数を取得し、ヒストグラム両端の傾きの平均値から抽出することができる。
【0052】
<眼の特徴抽出>
眼の特徴抽出のために、先ず、体部分の二値化により、眼の候補となる黒色部分の抽出を行う。そして、その黒色部分のうち、骨格の先端部に位置することと、例えば、縦横比<2.0を満たす形状の部分であることの要件を併せ有する部分を以て眼と同定する。
【0053】
同定ステップ
次いで、上記方法によって抽出された特徴データを用いての同定方法について、
図7に示すフロー図を参照しつつ説明する。同定ステップは、同定対象虫を有翅、無翅、巨大の3種類に分類する分類分け工程と(S21)、一次から三次に亘る同定工程(S22、S24、S26)と、同定結果を出力する結果出力工程(S23、S25、S27)とから成る。
【0054】
有翅、無翅、巨大の3種類への分類分けは、処理の効率向上のために行うもので、先ず、巨大虫類か否かの判別を行い、巨大虫類ではないと同定された虫類について、有翅か無翅かの同定を行う。巨大か否かは、例えば、全体面積>10mm
2 の条件を満たすか否かによって同定する。通例、ガガンボやヒラタアブ等が巨大虫類に分類される。次いで、巨大虫類ではないと同定された虫類について、例えば、体・翅面積比>0.1の条件を満たすか否かの同定をし、これを満たす場合は有翅虫類(例えば、クロバネキノコバエ、アブラムシ、ショウジョウバエ、ノミバエ)に分類し、満たさない場合は無翅虫類(例えば、コクヌストモドキ、カツオブシムシ、ハネカクシ、シバンムシ)に分類する。
【0055】
一次同定工程(S22)においては、各虫類につき、そのメルクマールデータの数値幅(しきい値)を設定し、同定対象虫の特徴がいずれかの虫類のしきい値に該当するか否かを同定し、該当する場合にその同定対象虫を当該虫と同定する処理がなされる。しきい値の一例を挙げれば、捕獲確率の高い有翅のユスリカ(小黒)の場合は、体長(mm)0.50−2.00、体幅(mm)0.20−0.85)、体長・体幅比0.90−1.60、翅面積(mm
2 )0.10−1.00、体・翅面積比0.10−1.30の如きである。この一次同定工程(S22)の段階で同定できた場合は、その同定結果(虫名)が出力され(S23)、同定できなかった場合は、二次同定工程(S24)に移行する。
【0056】
二次同定工程(S24)は、上記しきい値を拡張し、一次同定工程(S22)において該当しなかった同定対象虫が、拡張されたしきい値に該当するか否かの同定をする工程である。その場合のしきい値の拡張は、捕獲確率の高い虫から行っていくことが好ましい。この二次同定工程(S24)において該当するものがあった場合は、その同定対象虫類を当該虫類と同定する処理がなされ、その結果が出力される(S25)。また、該当するものがなかった場合は、三次同定工程(S26)に移行する。
【0057】
三次同定工程(S26)は虫名の最終決定工程であって、そのサブステップとして、複数種(例えば、体長、体幅、体長・体幅比、脚長、脚長・体長比、翅面積、翅面積・体面積比、面積、体面積の9種)のメルクマールにつき代表値を設定するステップと、その代表値につき同定対象の虫類とのユークリッド距離を算出するステップと、その距離が短い順に3種類の同定候補を決定するステップとを含む。代表値は、複数サンプルの平均値を採用する。
【0058】
図8に示す例は、代表値が、クロバネキノコバエの場合が体長1.5mm、脚長0.5mmであり、ショウジョウバエの場合が体長3.0mm、脚長0.0mmであり、タマバエの場合が体長1.0mm、脚長1.5mmであり、ユスリカの場合が体長0.5mm、脚長0.5mmと設定され、同定対象の虫類の体長が1.5mmで脚長が0.5mmである場合の同定例を示すものである。この場合において、それらの代表値と同定対象の虫類とのユークリッド距離が、クロバネキノコバエが0.70、ショウジョウバエが1.58、タマバエが1.11、ユスリカが1.00のときは、その順位は1位から順に、クロバネキノコバエ、ユスリカ、タマバエ、ショウジョウバエとなる。
【0059】
決定された3種類の同定候補の中から最終的に虫名の同定がなされるが、通例、第1候補を以て同定結果とする(上記例では、同定対象の虫類はクロバネキノコバエと同定される。)が、その際、固有の特徴を持つ虫類に対して、その特徴を条件として候補順位の繰り上げを行うようにすることもできる。例えば、ノミバエについては、以下の4つの特徴のうち3つ以上を充足する場合に、第1候補に繰り上げることができる。
−体色につき黄色割合が40%以上であること
−後ろ脚が抽出されること
−翅生部分が中間部であること
−黒眼が抽出されること
【0060】
上記のとおり、本発明に係る方法においては、虫類全体のシルエットから虫類を同定するのではなく、先ず、体領域、脚領域及び翅領域の各部位を抽出し、各部位の特徴から虫を同定するという手法を用いる。これにより、粘着捕獲された虫の向きの違いによる影響を極力少なくすることが可能となる。また、似た色や形、大きさを持つ種類の虫が存在するという問題は、各部位の特徴数を増やすことで解決することが可能となる。
【0061】
この発明をある程度詳細にその最も好ましい実施形態について説明してきたが、この発明の精神と範囲に反することなしに広範に異なる実施形態を構成することができることは言うまでもない。例えば、画像読み込み手段によって読み込む粘着シートの画像として、通信網を介して遠隔地から伝送されてくる画像を用い、その同定結果を通信網を介して遠隔地に出力することも可能である。従って、この発明は添付請求の範囲において限定した以外は、その特定の実施形態に制約されるものではない。