特許第5690878号(P5690878)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5690878
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】洗濯機
(51)【国際特許分類】
   D06F 39/12 20060101AFI20150305BHJP
   D06F 23/02 20060101ALI20150305BHJP
   D06F 23/04 20060101ALI20150305BHJP
   D06F 23/06 20060101ALI20150305BHJP
【FI】
   D06F39/12 C
   D06F23/02
   D06F23/04
   D06F23/06
【請求項の数】20
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-130554(P2013-130554)
(22)【出願日】2013年6月21日
(65)【公開番号】特開2015-2906(P2015-2906A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2014年1月10日
【審判番号】不服2014-14335(P2014-14335/J1)
【審判請求日】2014年7月23日
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】503376518
【氏名又は名称】東芝ライフスタイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 健司
(72)【発明者】
【氏名】畑山 勉
(72)【発明者】
【氏名】河野 哲之
【合議体】
【審判長】 紀本 孝
【審判官】 森林 克郎
【審判官】 佐々木 正章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−227834(JP,A)
【文献】 特開平7−185194(JP,A)
【文献】 特開平6−23191(JP,A)
【文献】 特開平9−313780(JP,A)
【文献】 特開2010−172436(JP,A)
【文献】 特開2005−281443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F39/12,23/02,23/04,23/06,58/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水槽内に回転可能に設けられたステンレス製の回転槽の外面に無機の親水性材料をコーティングすることにより設けられた親水性能部を備え、洗濯行程、すすぎ行程、脱水行程を実行可能な洗濯機において、
水が接触する前から前記親水性能部の表面に親水性があらわれており、
前記水槽に水を溜めた状態で前記回転槽を回転させることにより、前記親水性能部の表面と当該親水性能部に付着した汚れとの間に水浸入させて汚れ浮き上がらせて落とす洗浄行程を備えた洗濯機。
【請求項2】
前記回転槽の側部の外面に前記親水性能部を備える請求項1に記載の洗濯機。
【請求項3】
前記回転槽の側部の外面全体に前記親水性能部を備える請求項2に記載の洗濯機。
【請求項4】
前記回転槽の側部の外面の一部に前記親水性能部を備える請求項2に記載の洗濯機。
【請求項5】
前記回転槽の底部の外面に前記親水性能部を備える請求項1から4の何れか1項に記載の洗濯機。
【請求項6】
前記回転槽の底部の外面全体に前記親水性能部を備える請求項5に記載の洗濯機。
【請求項7】
前記回転槽の底部の外面の一部に前記親水性能部を備える請求項5に記載の洗濯機。
【請求項8】
前記回転槽に取り付けられるねじにも前記親水性能部を備える請求項1から7の何れか1項に記載の洗濯機。
【請求項9】
前記回転槽の内面にも前記親水性能部を備える請求項1から8の何れか1項に記載の洗濯機。
【請求項10】
前記回転槽には多数の孔が設けられており、これら孔の端面にも前記親水性能部を備える請求項1から9の何れか1項に記載の洗濯機。
【請求項11】
前記親水性能部は、前記回転槽の外面に前記親水性材料を焼き付けることによりコーティングしたものである請求項1から10の何れか1項に記載の洗濯機。
【請求項12】
前記親水性能部は、10μm以下の厚さである請求項1から11の何れか1項に記載の洗濯機。
【請求項13】
前記親水性能部は、表面粗さが2μm以内である請求項1から12の何れか1項に記載の洗濯機。
【請求項14】
前記親水性能部は着色されている請求項1から13の何れか1項に記載の洗濯機。
【請求項15】
前記親水性能部は、ケイ素酸化物を有し、鉛筆硬度が5H以上となる性能を有する請求項1から14の何れか1項に記載の洗濯機。
【請求項16】
前記親水性能部は、水の接触角が、ガラスに対する水の接触角の下限値未満となる性能を有する請求項1から15の何れか1項に記載の洗濯機。
【請求項17】
前記回転槽は、水平な軸線または後方に向かって下降傾斜する軸線を中心に回転するドラムである請求項1から16の何れか1項に記載の洗濯機。
【請求項18】
前記ドラムの底部を補強する補強部材にも前記親水性能部を備える請求項17に記載の洗濯機。
【請求項19】
前記回転槽は、垂直な軸線を中心に回転するように構成されている請求項1から16の何れか1項に記載の洗濯機。
【請求項20】
前記回転槽の底部を補強する補強部材にも前記親水性能部を備える請求項19に記載の洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、洗濯機の水槽に種々の機能性皮膜を設けることが考えられている。例えば特許文献1には、乾燥時における消費電力の低減を図るべく、水槽の内面に断熱塗料の皮膜を備える技術が開示されている。また、この特許文献1には、撥水性である断熱塗料の皮膜に親水性を有する中空ビーズを含ませることにより、皮膜の表面に付着する水膜を広げて蒸発させ、これにより、乾燥時におけるより一層の消費電力の低減を図ることが開示されている。
【0003】
ところで、近年では、親水性による防汚機能を発揮する塗料が開発されており、このような塗料を洗濯機の水槽の内面に適用すれば、その防汚機能により水槽の内面を清潔に保つことができる。しかし、水槽の内面には、洗濯運転時あるいはすすぎ運転時に当該水槽内に溜められる水が接触するほか、脱水運転時に内部の回転槽から飛び散る水も接触する。そのため、水槽の内面は、このような防汚機能を有する塗料を適用しなくとも比較的清潔に保つことができ、従って、防汚機能を水槽の内面に保持したとしても、その機能を有効に活用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−172436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本実施形態は、親水性による防汚機能を、当該機能を最も有効に活用できる部位に適用した洗濯機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態の洗濯機は、水槽内に回転可能に設けられたステンレス製の回転槽の外面に無機の親水性材料をコーティングすることにより設けられた親水性能部を備え、洗濯行程、すすぎ行程、脱水行程を実行可能な洗濯機において、水が接触する前から前記親水性能部の表面に親水性があらわれており、前記水槽に水を溜めた状態で前記回転槽を回転させることにより、前記親水性能部の表面と当該親水性能部に付着した汚れとの間に水浸入させて汚れ浮き上がらせて落とす洗浄行程を備える

【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態に係るドラム式洗濯機の構成を概略的に示す縦断断面図
図2】第1実施形態に係る縦軸型洗濯機の構成を概略的に示す縦断側面図
図3】第2実施形態に係る図1相当図
図4】第2実施形態に係る図2相当図
図5】第3実施形態に係る図1相当図
図6】第3実施形態に係る図2相当図
図7】変形実施形態に係る図1相当図(その1)
図8】変形実施形態に係る図1相当図(その2)
図9】変形実施形態に係る図2相当図
図10】変形実施形態に係るものであり、(a)は孔の端面に親水性能部を備えない構成の一例を示す孔周辺の拡大図、(b)は孔の端面に親水性能部を備える構成の一例を示す孔周辺の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、洗濯機に係る複数の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各実施形態で実質的に同一の要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
(第1実施形態)
図1に示す洗濯機100は、回転槽の回転中心軸が水平、若しくは若干傾斜したいわゆる横軸型のドラム式の洗濯機であり、その外郭を構成する外箱101は、合成樹脂製の基台102と、基台102に結合された箱本体103とから構成されている。図1では左側となる箱本体103の前面部には、そのほぼ中央部に洗濯物出入口104が設けられている。また、箱本体103の前面部には、洗濯物出入口104を開閉する扉105が設けられている。箱本体103の前面部の上部には、操作パネル106が設けられている。操作パネル106の裏側には、洗濯機100の動作全般を制御する制御装置107が設けられている。外箱101内には、底部である背面部側が閉塞された有底円筒状の水槽108が設けられている。水槽108は、その中心軸が、図1では右方となる後方に向かって下降する若干傾斜した軸線上に位置するようにしてサスペンション109によって弾性的に支持されている。
【0009】
水槽108の背面部の外側には、モータ110が設けられている。このモータ110は、例えば直流のブラシレスモータで構成されており、アウターロータ型であり、ステータ111およびロータ112を備えている。ステータ111は、水槽108の背面部の外側に固定されている。ロータ112の中心部には回転軸113が設けられている。回転軸113は、軸受ブラケット114に軸受115を介して支承されて、水槽108の内部に挿通されている。水槽108の内部には、底部である背面部側が閉塞された有底円筒状のドラム116が設けられている。
【0010】
ドラム116は、例えばステンレスなどからなる金属製である。ドラム116は、その背面部の中心部がモータ110の回転軸113の先端部に固定され、水槽108の軸線、つまり、後方に向かって下降傾斜した軸線を中心に回転可能に設けられている。この場合、モータ110は、ドラム116を回転させる駆動装置として機能する。ドラム116の底部、換言すれば背面部の外面には、当該ドラム116の背面部を補強するための補強部材117が設けられている。この補強部材117は、例えばアルミニウムのダイキャストなどからなる金属製である。ドラム116の胴部を構成する周壁部には、多数の孔118が全域にわたって形成されている。これら孔118は、貫通しており、通水および通気が可能である。また、ドラム116の内周部には、洗濯物掻き上げ用の複数の合成樹脂製のバッフル119が設けられている。なお、水槽108は、その中心軸が傾斜しない水平な軸線上に位置するように設けてもよく、この場合、ドラム116は、水平な軸線を中心に回転可能に設けられる。
【0011】
ドラム116および水槽108は、何れも前面側が開口しており、開口部120および開口部121となっている。ドラム116の開口部120の周囲には、例えば塩水などの液体が封入された合成樹脂製のバランスリング122が設けられている。このバランスリング122は、例えばステンレスなどからなる金属製の図示しないねじによってドラム116の外面側から固定されている。水槽108の開口部121は、例えばゴムなどの弾性材料からなる環状のベローズ123を介して洗濯物出入口104に連結されている。これにより、洗濯物出入口104は、ベローズ123、水槽108の開口部121、および、ドラム116の開口部120を介して、ドラム116の内部に連なっている。
【0012】
水槽108の背面側の底部には排水口124が設けられている。この排水口124には、機内排水ホース125の一端部が接続されている。機内排水ホース125の他端部は、外箱101の基台102の前部に設けられたフィルタケース126に接続されている。フィルタケース126の前端部にはキャップ127が着脱可能に装着されている。フィルタケース126の内部には、キャップ127に一体的に設けられた図示しないリントフィルタが収納されている。また、フィルタケース126の下部には排水弁128が接続されている。この排水弁128の出口部には排水パイプ129が接続されている。排水パイプ129の先端部は、外箱101の基台102から機外に導出され、図示しない機外排水ホースに接続される。
フィルタケース126の上部には、エアトラップ130が設けられている。このエアトラップ130と外箱101内の上部に配設された水位センサ131とは、エアチューブ132によって接続されている。水位センサ131は、水槽108内の水位を、機内排水ホース125、フィルタケース126、エアトラップ130およびエアチューブ132を介して検出して制御装置107に出力する。
【0013】
外箱101内の上部には、給水弁133および給水ケース134が設けられている。給水弁133の入口部には、図示しない水道の蛇口から延びる機外給水ホースが接続される。また、給水弁133の出口部には、接続パイプ135の一端部が接続されている。接続パイプ135の他端部は、給水ケース134に接続されている。給水ケース134の内部には、図示しない洗剤類貯留部が設けられている。給水ケース134には、機内給水ホース136の一端部が接続されている。機内給水ホース136の他端部は、水槽108の上部に接続されている。水道から給水弁133を介して供給される水は、接続パイプ135、給水ケース134および機内給水ホース136を介して水槽108内に供給される。
【0014】
図2に示す洗濯機200は、回転槽の回転中心軸が垂直方向に延びるいわゆる縦軸型の洗濯機であり、その外郭を構成する外箱201の内部には、上面が開放した有底円筒状の水槽202が弾性吊持機構203によって弾性的に支持されている。この水槽202の内部には、上面が開放した有底円筒状の回転槽204が回転可能に設けられている。
回転槽204は、例えばステンレスなどからなる金属製の第1部材204aにより胴部が構成され、合成樹脂製の第2部材204bにより底部が構成されている。回転槽204の底部を構成する第2部材204bの外側には、当該第2部材204b、換言すれば回転槽204の底部を補強するための補強部材204cが設けられている。この補強部材204cは、例えばステンレス板などからなる金属製である。この回転槽204は、垂直な軸線を中心に回転するように構成されており、洗濯物を洗う洗い行程および洗濯物をすすぐすすぎ行程における洗濯槽、および、洗濯物を脱水する脱水行程における脱水槽として兼用される。回転槽204は、その周壁部に多数の孔205を有している。これら孔205は、貫通しており、通水および通気が可能である。なお、図面では、これら孔205の一部のみを示している。回転槽204の上部には、例えば塩水などの液体が封入された合成樹脂製のバランスリング206が取り付けられている。このバランスリング206は、例えばステンレスなどからなる金属製のねじ206aによって回転槽204の外面側から固定されている。回転槽204内の底部には、合成樹脂製の撹拌体207が回転可能に設けられている。
【0015】
水槽202の下部には排水経路208が設けられている。この排水経路208には排水弁209が設けられており、この排水弁209が開放されることにより、水槽202内の水が機外に排出される。また、水槽202の底部には、水位検知用のエアトラップ210が設けられている。このエアトラップ210には、エアチューブ211を介して図示しない水位センサが接続されている。この水位センサは、この場合、圧力センサからなり、エアトラップ210内の圧力に基づいて水槽202内の水位を検知する。
水槽202の下部の中央部には駆動機構部213が設けられている。この駆動機構部213は、可変速駆動が可能なモータ、クラッチ機構、減速装置、ブレーキ装置などを備えている。洗い行程時またはすすぎ行程時においては、駆動機構部213は、モータの回転力を、減速装置によって減速するとともにクラッチ機構によって撹拌体207に伝達する。脱水行程時においては、駆動機構部213は、モータの回転力を、減速装置によって減速することなくクラッチ機構によって回転槽204および撹拌体207に高速で伝達する。
【0016】
外箱201の上部には、トップカバー214が設けられている。このトップカバー214には、洗濯物出入口を開閉する例えば二つ折り式の蓋215が開閉可能に設けられている。なお、水槽202の上部には、図示しない槽カバーが開閉可能に取り付けられている。トップカバー214の前部には、操作パネル217が設けられている。操作パネル217の裏側には、洗濯機200の動作全般を制御する図示しない制御装置が設けられている。トップカバー214内の後部には、水道からの水を水槽202内に供給する図示しない給水機構部が設けられている。
【0017】
図1に示すように、上述の洗濯機100は、少なくともドラム116の側部の外面に、親水性能部の一例である親水性能膜300を備える。この場合、親水性能膜300は、ドラム116側部の外面全体に形成されている。また、図2に示すように、上述の洗濯機200は、少なくとも回転槽204の側部を構成する第1部材204aの外面に、親水性能部の一例である親水性能膜300を備える。この場合、親水性能膜300は、回転槽204側部の外面全体に形成されている。次に、この親水性能膜300について、さらに詳細に説明する。親水性能膜300は、例えばシリカ系の無機塗料など親水性能を有する塗料(以下、「親水性材料」と称する)をドラム116側部の外面あるいは回転槽204側部の外面に吹き付けてコーティングしたものである。
【0018】
この場合、ドラム116および回転槽204は何れも金属製であるから、これらドラム116の外面あるいは回転槽204の外面に親水性材料を吹き付け、これを焼き付けることによりコーティングすることができ、コーティングを強固にすることができる。なお、親水性材料の焼き付け温度は、一般的に有機物が分解する温度であると考えられている250℃よりも高い温度で設定することが好ましく、例えば300℃、500℃といった温度で設定するとよい。このような高温で親水性材料を焼き付けることにより、当該親水性材料に含まれる有機物を殆どあるいは完全に分解することができ、殆どあるいは完全に無機化された親水性能膜300を形成することができる。
【0019】
また、この種の材料をコーティングする際には、基材に材料を吹き付ける前に当該基材の表面を脱脂する脱脂処理を行うことが一般的である。本実施形態では、基材であるドラム116および回転槽204は何れもステンレス製であるから、親水性材料の吹き付け前に行う脱脂処理において、例えばPH14の強アルカリ性の脱脂剤を用いて脱脂を行うことができる。よって、基材であるドラム116の表面あるいは回転槽204の表面から殆どあるいは確実に油脂成分を除去した上で親水性材料を吹き付けることができ、ドラム116の表面あるいは回転槽204の表面に対して親水性材料が馴染みやすくなる。
【0020】
また、本実施形態では、少なくとも以下の性能を有する親水性能膜300を形成する親水性材料が適用される。即ち、本実施形態の親水性能膜300は、水の接触角が、ガラスに対する水の接触角の下限値未満となる親水性能を有する。一般的に、ガラスに対する水の接触角の下限値は20度と考えられている。従って、本実施形態では、水の接触角が20度未満である例えば13度となる親水性能膜300を形成する親水性材料が適用されている。
【0021】
また、本実施形態では、親水性能膜300を形成する親水性材料としてケイ素酸化物を含む材料が適用されており、この親水性材料により形成される親水性能膜300は、少なくとも鉛筆硬度が5H以上となる硬度特性を有する。即ち、本実施形態の親水性能膜300には、いわゆるシロキサン骨格とアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属とからなる強固な構造が形成されており、これにより、親水性能膜300は、鉛筆硬度が5H以上という強固な構造を有している。
【0022】
また、本実施形態の親水性能膜300はシラノール基を有しており、その親水性能が極めて高いものとなっている。具体的には、親水性能膜300は、当該親水性能膜300に付着した一般的な油性インクを、水を接触させるだけで取り除くことが可能なほどの親水性能を有する。よって、親水性能膜300に一般的な油性ペンのインクを付着させたとしても、その部分に水を接触させることにより、当該インクが水によって浮き上がるようにして剥離し、除去される。
【0023】
また、本実施形態の親水性能膜300は、10μm以下の厚さであり、その膜厚が極めて薄いものとなっている。即ち、一般的に親水性能を高めたい場合には、親水性材料のコーティングを繰り返す必要があり、従って、得られる親水性能部の膜厚が厚くなってしまう傾向がある。本実施形態では、1回の親水性材料のコーティングおよび焼き付けにより、極めて高い親水性能を有する親水性能膜300が形成される親水性材料が適用されている。従って、親水性材料のコーティングを繰り返さなくとも、極めて高い親水性能を有する親水性能膜300を形成することができ、これにより、親水性能膜300の膜厚を10μm以下という薄さに抑えることができる。なお、図面では、便宜上、親水性能膜300の膜厚を実際よりも厚くして示している。
【0024】
また、本実施形態の親水性能膜300は、いわゆる表面粗さが2μm以内である。本実施形態では、このように極めて平滑な表面を有する親水性能膜300が形成される親水性材料が適用されている。また、本実施形態で適用される親水性材料は、吹き付け前の状態では乳白色であるが、吹き付けた後には乳白色が殆ど認識できないほど透明となり、焼き付けた後には殆どあるいは完全に透明となる。
【0025】
本実施形態に係る洗濯機100,200によれば、水槽108,202内に回転可能に設けられた回転槽116,204の側部の外面に、極めて高い親水性能を有する親水性能膜300を備えている。この構成によれば、手が届かず清掃などのメンテナンスを容易に行うことができない回転槽116,204の側部の外面を親水性能膜300による防汚機能によって清潔に保つことができ、洗濯機100,200において、親水性による防汚機能を最も有効に活用することができる。
また、洗濯機100,200によれば、回転する回転槽116,204の側部の外面に親水性能膜300を備えているから、回転槽116,204の回転時においては、当該回転槽の表面から剥離した汚れが遠心力の作用も受けて除去されやすくなり、回転槽116,204の表面を一層清潔に維持することができる。
【0026】
また、洗濯機100,200によれば、親水性能膜300は、回転槽116,204の側部の外面全体に設けられている。よって、回転槽116,204の側部の外面全体を親水性能膜300による防汚機能によって清潔に保つことができる。また、洗濯機100,200によれば、回転槽116,204が合成樹脂製ではなく金属製であるから、回転槽116,204の金属部分の外面に親水性材料を焼き付けによりコーティングすることができる。これにより、高度に無機化された強固で耐久性を有する親水性能膜300を形成することができる。
【0027】
また、洗濯機100,200によれば、親水性能膜300は、水の接触角がガラスに対する水の接触角の下限値未満であり、また、シラノール基を有している。そのため、親水性能膜300は、極めて高い親水性能を発揮する。これにより、親水性能膜300の表面と当該親水性能膜300に付着した汚れとの間に水が浸入しやすくなり、親水性能膜300に付着した汚れを浮き上がらせるようにして除去することができる。
【0028】
また、洗濯機100,200によれば、親水性能膜300は、ケイ素酸化物を有し、鉛筆硬度が5H以上となる硬度特性を有している。よって、親水性能膜300に傷が付いたり、親水性能膜300が剥がれてしまうことを防止することができる。また、洗濯機100,200によれば、親水性能膜300は、10μm以下の厚さであり、極めて薄い親水性能膜300が実現されている。また、洗濯機100,200によれば、親水性能膜300は、その表面粗さが2μm以内であり、極めて平滑な親水性能膜300が実現されている。
【0029】
なお、洗濯機100は、さらに、ドラム116に取り付けられる金属製のねじ、あるいは、ドラム116の内面にも親水性能膜300を備える構成としてもよい。また、洗濯機200は、さらに、回転槽204に取り付けられる金属製のねじ206a、あるいは、回転槽204の内面にも親水性能膜300を備える構成としてもよい。即ち、本実施形態において親水性能膜300を形成する部分は、ドラム116の側部の外面あるいは回転槽204の側部の外面に限られるものではない。なお、金属製のねじに親水性能膜300を形成する場合には、ねじ全体に親水性能膜300を形成する必要はなく、その外面となるねじ頭の表面に親水性能膜300を形成すれば十分である。また、ドラム116あるいは回転槽204の内面に親水性能膜300を形成する場合には、内面全体に親水性能膜300を形成してもよいし、内面の一部に親水性能部300を形成してもよい。
【0030】
また、親水性能膜300は着色されていてもよい。即ち、親水性能膜300を形成する親水性材料として、基材への吹き付け後および焼き付け後において色が残る材料を適用してもよい。これにより、形成された親水性能膜300にムラが生じていないか否かを目視などにて容易に確認することができ、例えば親水性能膜300が均一に形成されていない回転槽を不良品として特定することができる。
【0031】
また、洗濯機100,200においては、洗濯行程、すすぎ行程、脱水行程などを含む洗濯コースの終了後または当該洗濯コースの実行中に、水槽108,202に水を溜めてドラム116,回転槽204を回転させる洗浄行程を実行するように設定してもよい。この洗浄行程において親水性能膜300に水が接触することにより、当該親水性能膜300に付着した汚れを除去することができる。なお、この洗浄行程では、水槽108,202の内部に溜める水の量を洗濯コースより増加させたり、ドラム116,回転槽204の回転速度を洗濯行程またはすすぎ行程における回転速度よりも速い速度で設定するとよい。
また、洗濯機100,200によれば、親水性能膜300による防錆効果も期待することができる。
【0032】
(第2実施形態)
本実施形態は、ドラム116の側部の外面全体あるいは回転槽204の側部の外面全体に親水性能膜300を設けるのではなく、ドラム116側部の外面の一部あるいは回転槽204側部の外面の一部に親水性能膜300を設けたものである。
即ち、図3あるいは図4に示すように、洗濯機100のドラム116の側部あるいは洗濯機200の回転槽204の側部において、一点鎖線で示す設定水位Lよりも低い部分には、洗濯運転時あるいはすすぎ運転時に水槽108内あるいは水槽202内に溜められる水が接触する。そのため、ドラム116側部の外面あるいは回転槽204側部の外面のうち設定水位Lよりも低い部分は、親水性能膜300を設けなくとも比較的清潔に保つことができる。しかし、ドラム116側部の外面あるいは回転槽204側部の外面のうち設定水位Lよりも高い位置にある部分は、洗濯運転時あるいはすすぎ運転時に水槽108内あるいは水槽202内に溜められる水が接触し難く、従って、汚れが残り易い。
【0033】
そのため、本実施形態では、図3あるいは図4に示すように、ドラム116側部の外面あるいは回転槽204側部の外面のうち設定水位Lよりも高い部分に親水性能膜300が設けられている。これにより、ドラム116側部の外面あるいは回転槽204側部の外面のうち特に汚れが残り易い部分に集中して親水性能を付与することができ、その親水性能による防汚機能を有効に活用することができる。また、親水性材料の使用量の低減を図ることができる。なお、設定水位Lは変更可能であるため、想定される水位に応じて、親水性能膜300を形成する領域を適宜調整するとよい。このとき、親水性能膜300を形成する領域は、例えば洗濯機100,200において設定可能な最低水位を含めて、あるいは、当該水位が変動する可能性がある範囲まで含めて広めに設定するとよい。
【0034】
(第3実施形態)
本実施形態も、ドラム116の側部の外面全体あるいは回転槽204の側部の外面全体に親水性能膜300を設けるのではなく、ドラム116側部の外面の一部あるいは回転槽204側部の外面の一部に親水性能膜300を設けたものである。
即ち、上述したように、ドラム116側部の外面あるいは回転槽204側部の外面のうち設定水位Lよりも低い部分は、水が接触し易く比較的清潔に保たれる部分ではあるが、完全に汚れが残らないわけではない。特に、ドラム116側部の外面あるいは回転槽204側部の外面のうち設定水位Lよりも低い位置にある部分は、洗濯運転時あるいはすすぎ運転時に水が接触する部分である。そのため、この部分に汚れが残ると、その汚れが経時変化などにより変質し、変質した汚れが洗濯運転中あるいはすすぎ運転中に洗濯物に転移する可能性がある。
【0035】
そのため、本実施形態では、図5あるいは図6に示すように、ドラム116側部の外面あるいは回転槽204側部の外面のうち設定水位Lよりも低い部分に親水性能膜300が設けられている。これにより、ドラム116側部の外面あるいは回転槽204側部の外面のうち、比較的清潔に保たれるものの汚れが残る可能性がある部分に集中して親水性能を付与することができ、洗濯運転時あるいはすすぎ運転時において、変質した汚れが洗濯物に転移してしまうことを防止することができる。また、親水性材料の使用量の低減を図ることができる。なお、設定水位Lは変更可能であるため、想定される水位に応じて、親水性能膜300を形成する領域を適宜調整するとよい。このとき、親水性能膜300を形成する領域は、例えば洗濯機100,200において設定可能な最低水位を含めて、あるいは、当該水位が変動する可能性がある範囲まで含めて広めに設定するとよい。
【0036】
(その他の実施形態)
本実施形態は、例えば以下のように拡張または変形することができる。
例えば図7に示すように、洗濯機100は、さらに、ドラム116の背面部を構成する底部の外面にも親水性能膜300を備える構成としてもよい。この場合、ドラム116の背面部の外面全体に親水性能膜300を設けてもよいし、ドラム116背面部の外面の一部に親水性能膜300を設けてもよい。また、図示はしないが、洗濯機200は、底部を構成する第2部材204bを例えばステンレスなどからなる金属で構成する場合には、その金属製の第2部材により形成される底部の外面にも親水性能膜300を備える構成としてもよい。この場合、金属製の底部の外面全体に親水性能膜300を設けてもよいし、金属製の底部の外面の一部に親水性能膜300を設けてもよい。
【0037】
また、例えば図8に示すように、洗濯機100は、さらに、ドラム116の背面部を構成する底部を補強する補強部材117にも親水性能膜300を備える構成としてもよい。この場合、補強部材117の表面全体に親水性能膜300を設けてもよいし、補強部材117の表面の一部に親水性能膜300を設けてもよい。また、例えば図9に示すように、洗濯機200は、さらに、回転槽204の底部を補強する補強部材204cにも親水性能膜300を備える構成としてもよい。この場合、補強部材204cの表面全体に親水性能膜300を設けてもよいし、補強部材204cの表面の一部に親水性能膜300を設けてもよい。また、補強部材204cの上面および下面の双方に親水性能膜300を設けてもよいし、補強部材204cの上面および下面の何れか一方に親水性能膜300を設けてもよい。
【0038】
また、例えば図10(a)に示すように、洗濯機100,200は、孔118,205の内周面を構成する端面118a,205aに親水性能膜300を備えない構成としてもよいし、例えば図10(b)に示すように、洗濯機100,200は、孔118,205の端面118a,205aに親水性能膜300を備える構成としてもよい。
また、上述の各実施形態および変形実施形態を適宜組み合わせて実施してもよい。
【0039】
以上に説明した各実施形態に係る洗濯機は、水槽内に回転可能に設けられた回転槽の外面に親水性能部を備える。この構成によれば、洗濯機において、手が届かず清掃などのメンテナンスを容易に行うことができない部分である回転槽の外面を清潔に保つことができ、親水性による防汚機能を最も有効に活用することができる。
【0040】
なお、上述の各実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。本実施形態およびその変形は、発明の範囲および要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
図面中、100,200は洗濯機、108,202は水槽、116はドラム(回転槽)、117,204cは補強部材、204は回転槽、118,205は孔、206aはねじ、300は親水性能膜(親水性能部)を示す。
図1
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図10