(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の第1の形態にかかるタンクを示す図であり、
図1(a)はタンクの断面図、
図1(b)は
図1(a)のA部詳細図である。タンク1は主に貯留槽3、防液堤5、底版7等から構成される。
【0017】
貯留槽3はほぼ円筒形をしており、鋼鉄製の内槽9と外槽11からなる。貯留槽3の下部は、底版7が設けられる。底版7は地面14下に設けられる。防液堤5が底版7上に貯留槽3を囲むように貯留槽3上部まで設けられる。貯留槽3内には貯留物が収容される。ここで、貯留物とは、低温液体、常温液体、高温液体、穀類等の粒状、粉状物質などをさす。防液堤5は貯留槽3に貯留される貯留物、特に液体が漏洩した際、液体がタンク1の外部へ流出することを防ぐ。防液堤5および底版7は鉄筋コンクリート製である。防液堤5には周方向緊張材15が配置されている。底版7の摺動部13と防液堤5との間の空間には充填材17が充填されており、充填材17は膨張性あるいは無収縮コンクリートあるいは無収縮モルタルである。
【0018】
底版7の全周には深さLの凹状の溝形状の摺動部13が設けられている。凹部の深さLは設計荷重や性能要求などから決定されるが、例えば防液堤5の厚み以上であることが望ましい。この摺動部13上のほぼ中央に防液堤5が設置されるが、防液堤5は底版7と鉄筋あるいは緊張材などで結合されておらず、摺動部13上で分離されている。従って、後述する充填材17が充填される前は、防液堤5は摺動部13上を摺動することができる。
【0019】
防液堤5の内部には周方向にPC緊張材である周方向緊張材15が配置されている。周方向緊張材15は緊張されており、防液堤5の周方向にプレストレス力が導入されている。防液堤5の下部には曲げモーメントが発生しておらず、従って引張力発生部はない。なお、周方向緊張材15は、図示を省略したシース管に挿入されている。
【0020】
摺動部13の凹状の溝部と防液堤5の空間は、膨張性あるいは無収縮コンクリートあるいは無収縮モルタルの充填材17で充填されているので隙間はない。従って、防液堤5は底版7に呑み込まれた状態となり、底版7と防液堤5は完全に一体化され剛結合となっている。
【0021】
防液堤5の内側と防液堤5の外部の間には、充填材17と底版7あるいは充填材17と防液堤5の長い接合部があり、且つ充填材17は膨張性あるいは無収縮性なので、防液堤5の内側と防液堤5の外部の間は高い止水性が確保されている。
【0022】
次に、本発明の実施の形態であるタンク1の施工方法について説明する。
図2はタンク1の施工工程を示す図である。まず地面を掘削した後、底版7を設ける。底版7の周辺全周にわたり凹状の溝形状の摺動部13を設ける。貯留タンク(図示されていない)が底版7上に設置された後、防液堤5を底版7の摺動部13上に貯留タンクを囲むように設ける。防液堤5内部には周方向緊張材15が配置される。
図2(a)は、防液堤5が底版7の摺動部13に設置された状態を示す図である。なお、図中、周方向緊張材15が白抜きとなっているのは、周方向緊張材15が緊張されていないことを意味する(以下同様である)。
【0023】
次いで防液堤5の周方向緊張材15を緊張し、防液堤5にプレストレス力を導入する。
図2(b)は、防液堤5の周方向緊張材15を緊張し、プレストレス力が導入され、防液堤5がB方向に摺動した状態を示す図である。なお、図中、周方向緊張材15が黒塗りとなっているのは、周方向緊張材15が緊張されていることを意味する(以下同様である)。
【0024】
防液堤5の周方向緊張材15を緊張し、プレストレス力を導入すると、防液堤5にはB方向に摺動しようとする力が作用する。防液堤5は底版7に拘束されていないので、防液堤5は底版7の摺動部13上をB方向に摺動し、十分なプレストレス力が防液堤5に付与される。防液堤5がB方向に摺動するので、防液堤5に鉛直方向の曲げモーメントは発生せず、防液堤5下部外側に引張力が発生することが防がれる。
【0025】
防液堤5の周方向緊張材15を緊張し、防液堤5がB方向に摺動した後、
図2(c)に示すように、充填材17を底版7の摺動部13の凹状の溝部と防液堤5との空間に充填する。充填材17は膨張性あるいは無収縮コンクリートあるいは無収縮モルタルであり、充填後に収縮することはなく、完全に溝部と防液堤5との空間を隙間なく充たすことができる。この結果、防液堤5は底版7に呑み込まれた状態になり、底版7と防液堤5は一体化され剛結合となる。
【0026】
充填材17を充填することにより、防液堤5の内側と防液堤5の外部は充填材17と底版7あるいは充填材17と防液堤5の長い接合部が生まれ、且つ充填材17が膨張性あるいは無収縮性であるので、防液堤5の内側と防液堤5の外部の間は止水性が確保される。この止水性をより確実にするため、充填材17が充填される底版7および防液堤5のコンクリート面を粗くする、あるいは反応性接着剤を塗布したりして、底版7および防液堤5と充填材17との密着性を増すことを行ってもよい。
【0027】
周方向緊張材15を緊張し、防液堤5にプレストレス力を導入すると、防液堤5は半径方向に10〜20ミリ程度摺動するが、防液堤5は必ずしも全周が均一に摺動せず、摺動後に防液堤5の中心位置が摺動前とずれることがある。このずれを防ぐために、周方向緊張材15を緊張する際、防液堤5と底版7の摺動部13の溝部の壁との間に周方向に複数のミニジャッキなどを設置し、摺動を制御することを行ってもよい。
【0028】
周方向緊張材15を緊張する際、摺動部13には防液堤5の重量荷重が掛かっており、この荷重により摺動部13と防液堤5の接触面には防液堤5の摺動を妨げようとする摩擦力が作用し、防液堤5が容易に摺動しないことがある。これを防ぐため、防液堤5を上部と下部に分けて施工し、防液堤5の下部を構築後、周方向緊張材15を緊張し、防液堤5下部を摺動させた後、防液堤5下部の上に防液堤5の上部を構築してもよい。これにより防液堤5の下部を摺動する時、接触面に掛かる防液堤5の重量荷重が半減され、防液堤5に作用する摩擦力を低減でき、摺動を容易にすることができる。
【0029】
図3はタンク1の施工方法の別の実施形態を示す図である。なお、タンク施工方法の第1の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
【0030】
まず、
図3(a)に示すように底版7の摺動部13上に防液堤5を設置する。この後、
図3(b)に示すように防液堤5の周方向緊張材のうち、下方周方向緊張材15aを除いた周方向緊張材15を緊張し、防液堤5にプレストレス力を導入する。下方周方向緊張材15aとは防液堤5に配置される周方向緊張材15のうち、防液堤5の最下方あるいは最下方を含む位置に配置される周方向緊張材のことである。防液堤5は底版7に拘束されていないので、防液堤5は摺動部13上をC方向に摺動し、防液堤5に曲げモーメントは発生せず、防液堤5には十分なプレストレス力が付与される。
【0031】
次いで
図3(c)の如く、底版7の凹状の溝部の空間のうち防液堤5の内側の空間のみを充填材17で充填する。次に
図3(d)に示すように防液堤5の下方周方向緊張材15aを緊張する。これにより、防液堤5をさらにD方向に移動させようとする力が作用し、既に充填した防液堤5の内側の充填材17を圧縮し、防液堤5と充填材17、あるいは底版7と充填材17の密着性を増加させることができる。最後に
図3(e)に示すように底版7と防液堤5の外側の空間に充填材17を充填する。以上により、防液堤5と底版7はより堅固に一体化され、剛結合となり、より高い剛結度と共に、より高い止水性が確保される。
【0032】
このように本発明の実施形態にかかるタンク1によれば、摺動部13を有するため、周方向緊張材15を緊張した際に防液堤5に曲げモーメントや引張力の発生部が発生することがなく、このため十分なプレストレス力が付与された防液堤5を得ることができ、また、防液堤5と底版7との間に充填される充填材17と防液堤5、底版7との接触長が長く、このため、底版7と防液堤5の間に確実な止水性が確保され、かつ底版7と防液堤5が一体化され、防液堤5と底版7とが剛結合されたタンク1を得ることができる。特に、防液堤5と底版7との飲み込み深さLを防液堤5の幅以上とすることで、より高い止水性およびより強固な剛結合を得ることができる。
【0033】
また、充填材17の充填した後に下方周方向緊張材15aを緊張すれば、防液堤5に底版7と防液堤5の内側の充填材17を圧縮する力が作用し、より高い止水性が確保され、底版7と防液堤5がより堅固に一体化され、剛結合となったタンク1の施工方法を得ることができる。
【0034】
次に、本発明の第2の実施の形態にかかるタンクについて説明する。なお、
図1に示す第1の実施の形態にかかるタンク1と同一の機能を果たす構成要素には、
図1と同一番号を付し重複した説明を省略する。
図4は第2の実施の形態にかかるタンクの防液堤5と底版7との接合部近傍の拡大図である。
図4に示すように、第2の形態では底版7の摺動部13の形状は段差形状である。
【0035】
図4に示すように底版7の摺動部13は段差形状をしており、防液堤5の下部の外側に摺動部13の壁がなく開いた空間になっている。摺動部13の段差の高さL’は第1の実施の形態における凹状の溝形状深さLよりも大きく取られる。すなわち、段差の高さL’は、摺動部13の段差形状部と防液堤5の接触面積が第1の形態と同等以上となるように、例えば第1の形態の溝深さLの2倍以上(すなわち防液堤5の厚みの2倍以上)であることが望ましい。ただし、ジベルなどで剛結度を高めるための処置を施すことで、段差の高さL’は第1の形態の溝深さLと同等程度にすることも可能である。
【0036】
防液堤5と底版7に設けられた段差との間には充填材17が充填される。充填材17は膨張性あるいは無収縮コンクリートあるいは無収縮モルタルである。防液堤5の周方向緊張材15は防液堤5の最下部まで配置され、最下部の周方向緊張材15は摺動部13の段差部に掛かっている。摺動部13の防液堤5の下部の外側は凹状の溝形状と異なり、開いた空間となっているので、防液堤5の最下部まで配置された周方向緊張材15を容易に緊張することができ、防液堤5の下部により大きなプレストレス力が付与されている。
【0037】
次に、第2の実施の形態にかかるタンクの施工方法について説明する。なお、既に説明した凹状の溝形状の摺動部を持つタンク施工方法と重複する部分の説明は省略する。
【0038】
図5(a)に示すように、段差形状の摺動部13の上に防液堤5を設ける。防液堤5の内部に周方向緊張材15を最下部までを配置する。この防液堤5の最下部および最下部を含む位置に配置され、底版7の段差部に掛かる位置にある周方向緊張材を下方周方向緊張材15aと称する。
【0039】
次に
図5(b)に示すように、防液堤5の周方向緊張材うち下方周方向緊張材15aを除く周方向緊張材15を先に緊張する。これにより、防液堤5にプレストレス力が導入され、防液堤5はE方向に摺動部13上を摺動する。防液堤5は底版7に拘束されていないので、十分なプレストレス力が付与され、また鉛直方向の曲げモーメントは発生しない。次いで、
図5(c)に示すように、段差形状の摺動部13と防液堤5の間の空間に充填材17を充填する。
【0040】
最後に
図5(d)に示すように、防液堤5の下方周方向緊張材15aを緊張する。この時、防液堤5の外側に摺動部13の壁がなく、下方周方向緊張材15aの緊張作業は容易に行うことができる。下方周方向緊張材15aは摺動部13の段差部に掛かっており、この下方周方向緊張材15aを緊張することで、防液堤5にさらにF方向の力が作用し、防液堤5は充填材17を圧縮する。これにより、充填材17は摺動部13の段差および防液堤5との密着性がさらに高まり、より高い止水性を確保できる。また、防液堤5にF方向の力が作用することと、摺動部13の高い段差によって、防液堤5は底版7に突き当たる状態になり、防液堤5は底版7と一体化し剛結合となる。
【0041】
このように、第2の実施の形態にかかるタンクは、第1の実施の形態にかかるタンク1と同様の効果を得ることができる。また、底版7の摺動部13の形状が段差形状という簡単な形状であり、鉛直方向の下方に設けられた下方周方向緊張材15aが段差形状にかかる位置であるため、底版7と防液堤5の間により高い止水性を有し、より強固な剛結合をもつタンクを得ることができる。
【0042】
また、防液堤5の最下部の下方周方向緊張材15aは充填材17を充填した後、緊張されるため、防液堤5にはさらに防液堤5を内側に摺動させようとする力が作用しており、防液堤5は充填材17を圧縮する。このため、防液堤5は、摺動部13の段差に突き当たった状態になり、防液堤5と底版7はより一体化され剛結合となる。また、底版7および防液堤5と圧縮された充填材17の間の長い接合面により、高い止水性が確保される。
【0043】
次に、第3の実施の形態のタンクについて説明する。
図6は、第3の実施の形態にかかるタンクの防液堤5と底版7との接合部近傍の拡大図を示す図である。
【0044】
図6に示すように防液堤5の下方の両側面は防液堤テーパ部31を有している。防液堤5の内部には、周方向緊張材15が設けられる。周方向緊張材15は緊張されており、防液堤5にはプレストレス力が付与されている。底版7には溝状に凹形状の摺動部13が設けられる。摺動部13の側面(凹計上側面)は、防液堤テーパ部31に対応した形状の摺動部側面テーパ部33が設けられる。防液堤テーパ部31と摺動部側面テーパ部33との間には、充填材17が充填される。
【0045】
第3の実施の形態にかかるタンクによれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。また、防液堤5と摺動部13はそれぞれ防液堤テーパ部31、摺動部側面テーパ部33が設けられるため、防液堤5は充填材17を介して底版7に咬み合わされ、防液堤5は底版7に対し上方および横方向にロックされた状態となり、底版7と防液堤5はより確実に一体化し剛結合となり、かつ高い止水性を得ることができる。
【0046】
次に、第4の実施の形態のタンクについて説明する。
図7は、第4の実施の形態にかかるタンクの防液堤5と底版7との接合部近傍の拡大図である。
【0047】
第4の実施の形態では、
図7(a)に示すように、防液堤5に鉛直方向緊張材37が設けられている。底版7は凹状の溝形状の摺動部13を有する。摺動部13のほぼ中央に防液堤5が設けられる。防液堤5の内部には、周方向緊張材15およびシース管35に収められた鉛直方向緊張材37が配置される。シース管35は防液堤5の下部で径が拡大した拡径部39を有している。鉛直方向緊張材37の緊張材下端41は底版7の摺動部13の内部に固定されている。なお、緊張材下端41は底版7に固定されなくても、図面に垂直な方向にU字状に曲げられて隣接するシース管35で上方に向けて配置されても良い。この場合は、鉛直方向緊張材37の両端が上方から緊張される。鉛直方向緊張材37は防液堤5の下部において、シース管35との間に隙間を有するため、防液堤5は水平方向に移動が可能となっている。
【0048】
図7(b)に示すように、周方向緊張材15を緊張して防液堤5にプレストレス力が付与されると、鉛直方向緊張材37はシース管35の拡径部39の中で横方向に移動可能なので、防液堤5は底版7に拘束されず、摺動部13上をG方向に摺動する。このため、十分なプレストレス力が防液堤5に付与される。防液堤5に鉛直方向曲げモーメントは生じない。
【0049】
次に、防液堤5の鉛直方向緊張材37を緊張する。鉛直方向緊張材37を緊張した後、シース管35はグラウト用チューブ(図示していない)でグラウトが充填される。この後、底版7の摺動部13の溝部と防液堤5の空間に充填材17(図示していない)を充填し、底版7と防液堤5を一体化する。
これにより、防液堤5は鉛直方向緊張材37を有するにも拘らず、底版7に拘束されず十分なプレストレス力が付与され、底版7と一体化され、剛結合とすることができる。
【0050】
第4の実施の形態にかかるタンクによれば、第1の実施の形態にかかるタンク1と同様の効果を得ることができる。また、鉛直方向緊張材37を配置し、鉛直方向のプレストレス力を付与することができるため、鉛直方向曲げモーメントおよび引張力発生部のない防液堤5を有するタンクを得る事ができる。
【0051】
本発明の実施の形態については、タンクの防液堤について説明したが、本発明は防液堤だけに限定されるものでなく、タンクの壁体そのものであっても良い。また、底版7の摺動部13と防液堤5の接合部に、別途止水部材を設けてもよい。
【0052】
図8は接合部に止水部材を設けた例を示している。
図8(a)示すように止水板19を充填材17が充填される空間に突出するように、摺動部13の側面および防液堤5に埋め込んでおくこともできる。この場合には、防液堤5が摺動後、充填材17を充填し、止水板19の面を充填材17で覆うことにより、摺動部13および防液堤5と充填材17の接合面の止水性を確実にすることができる。
【0053】
また、
図8(b)に示すように止水シール20を摺動部13の側面および防液堤5に貼り付けておくこともできる。この場合、防液堤5が摺動後、充填材17を充填し、止水シール20と充填材17の接触面の高い密着性により、摺動部13および防液堤5と充填材17の接合面を確実に止水することができる。
【0054】
また、底版7および防液堤5と充填材17の接合部、および/または底版7と防液堤5の接合部に接合部材を設けてもよい。例えば、
図9(a)に示すように、頭付きジベル21をその頭を充填材17が充填される空間に突出するように摺動部13の側面と防液堤5に埋め込み固定することができる。防液堤5が摺動後、この空間に補強筋23を配した後、充填材17を充填することで、ジベル21により、摺動部13、充填材17と防液堤5の間はより一体化し、強固な剛結合が得ることができる。なお、ジベル21は頭付ではなく棒状のものでも良い。
【0055】
また、
図9(b)に示すように、交差させたU型ジベル25を摺動部13の側面と防液堤5に埋め込み固定し、摺動部13が摺動した後、充填材17を充填することもできる。U型ジベル25により、摺動部13、充填材17と防液堤5は、より一体化し強固な剛結合が得られる。
【0056】
更に、
図9(c)に示すように、シース管27付きアンカー29の一端を防液堤5に固定し、他端を底版7にシース管27を介して埋め込んでもよい。防液堤5が摺動した後、シース管27にグラウトし、アンカー29の他端を底版7に固定し、充填材17を充填することで、アンカー29により摺動部13、充填材17と防液堤5はより一体化し強固な剛結合を得ることができる。
【0057】
さらに、防液堤5の最下部の摺動部13との接触面に防液堤5の摺動を容易にするための鋼材等を埋め込んでもよい。例えば、
図10(a)に示すように、防液堤5の摺動部13との接触面にひげ筋45を有するそり状鋼材43を埋め込むこともできる。そり状鋼材43の防液堤5が摺動する方向の角部にR部47が設けられる。ひげ筋45により、強固に防液堤5に固定され、角部にR部47を持つそり状鋼材43は、防液堤5と摺動部13の摩擦係数を低減し、防液堤5をより容易に摺動させることができる。また、
図10(b)に示すように、摺動部13に摩擦低減部材49を設置し、防液堤5の内面下部の角部のR部47を有する、コンパクトなサイズのR材50を設置することもできる。R材は例えば鋼材であり、摩擦低減部材49は、防液堤5とのすべりが良好なシート状もしくは板状の部材である。摩擦低減部材49とはビニールシートやテフロン(登録商標)板あるいは塗布された滑剤等である。この他、R材等を用いずに、防液堤5と摺動部13との摩擦係数を減らすために、防液堤5と摺動部13との間に摩擦低減部材49を設置するだけでもよい。
【0058】
また、摺動部13の近傍には、防液堤5が摺動する際に生じる貯留槽の歪を吸収するための歪吸収部51を設けてもよい。この歪吸収部51は、例えば
図11(a)に示すように、貯留槽の外槽11のコーナー部、即ち底版7と防液堤5が接合する隅角部に、外槽11を折り曲げたヒダを底版7の外周上面のコーナー部に円形状に配したものである。
図11(b)に示すように、周方向緊張材15を緊張し、防液堤5にプレストレス力を導入した際、防液堤5はH方向に摺動し内側の貯留槽を圧縮し、貯留槽の外槽11に圧縮歪を惹起するが、この歪吸収部51が収縮し、貯留槽の外槽11への圧縮歪を吸収することができる。
【0059】
防液堤等とその底版の結合を従来方法により剛結合とした場合、前述した課題の他にも更なる問題が発生する場合が考えられる。
LNG地上タンクなど多くのタンクは海外からの貯液物の受け入れ上、臨海部の軟弱地盤かつ将来の圧密沈下が予想される箇所に構築される。
図12はこのような地盤に従来方法で構築されたタンクの通常運転時の状態を示したものである。
タンク60は地面から順に埋立土層61、支持地盤63、未圧密地盤65からなる地盤に構築されている。タンク60にLNG66が貯液される通常運転時は、LNG66の重量によりタンク60にI方向の力が作用し、タンク60は変形している。即ち、底版7は撓み、埋立土層61、支持地盤63、未圧密地盤65は不等沈下している。この不等沈下は大きく2つの沈下からなっている。ひとつは弾性沈下であり、I方向の力がなくなるとほぼ元に戻る沈下である。もう一方は圧密沈下であって、I方向の力がなくなっても未圧密地盤65に残る沈下であり、通常、時間の経過に伴い沈下量が増加する。
図12(b)はこの通常運転状態におけるJ部詳細図であり、不等沈下により防液堤5と底版7に引張応力発生部67、69がそれぞれ発生する。上述した2つの沈下量の和が大きくなると過大な引張応力(67、69)が生じ、タンク60は破壊する恐れがある。すなわち、タンク60の施工時のみならず、使用開始後にも引張応力が生じる場合がある。従来方法ではこの引張応力に耐えるために多量の鉄筋やコンクリートを使用したりするが、これにより施工コストの増加し、工期の長期化などの問題が発生する。
【0060】
この更なる問題を解決するための本発明による第5の実施の形態を説明する。
図13から
図15は第5の実施の形態に基づくタンクの施工方法の説明図である。なお、
図1に示す第1の実施の形態にかかるタンク1と同一の機能を果たす構成要素には、
図1と同一番号を付し重複した説明を省略する。また、以下の発明においては、タンクの変形(沈下)として弾性沈下のみを扱うものとする。
【0061】
図13(a)に示すように、貯留槽3の周囲に防液堤5を構築する。次いで
図13(b)に示すように防液堤5に配した周方向緊張材15を緊張し、防液堤5にプレストレス力を導入する。これにより防液堤5は摺動部13上を摺動する。したがって、プレストレス力の導入に伴う引張応力は発生しない。
【0062】
次に、
図14(a)に示すようにタンク70に水71を張る。この水張りはタンク70の漏れ等有無の確認のために行われる水張り試験を兼ねても良い。通常、タンクに張る水71の量はLNGなどタンクに貯液される貯液物の重量の約1倍〜1.5倍程度にて試験が行われている。タンク70には、張られた水71の荷重がK方向に作用し、地盤は弾性沈下し、底版7は撓む。
図14(b)に示すように、この時、防液堤5と底版7(摺動部13)との間のギャップ72には、まだ充填材が充填されておらず、剛結合となっていない。従って、底版7は防液堤5の下端部に対し回転方向に自由に動くことができる。即ち、防液堤5の下端部および底版7の端部には、防液堤5と底版7とを剛結合することにより発生する引張応力は発生していない。この状態で、
図15(a)および
図15(b)に示すように、底版7の摺動部13と防液堤5の間の溝部空間に充填材17を充填し、底版7と防液堤5を剛結合とする。この際、ギャップ72には、充填材17が充填される。防液堤5には、必要に応じてあらかじめ内外を貫通する充填材投入孔74が設けられる。底版7の摺動部13と防液堤5の内側の溝部空間およびギャップ72への充填材17の充填およびエア抜きには、充填材投入孔74が用いられる。底版7と防液堤5とが剛結合された状態で水を抜く。水を抜くと、弾性沈下はほぼ元に戻る。このため、底版7と防液堤5には、応力が生じる。しかし、その後、タンク70の使用を開始し、タンク70に貯留物を貯留した際には、底版7と防液堤5に生じていた応力は、水張り試験にて用いられた水の重量分の弾性沈下による底版7および防液堤5の変形分だけ打ち消される。
【0063】
第5の実施の形態によれば、底版7と防液堤5を剛結合とする前に、タンクに水を張り、地盤およびタンクに一時的に弾性沈下を生じせしめる。この状態で底版7と防液堤5を剛結合とすることで、タンク70に貯液物を貯液した通常運転時に生じる弾性沈下に伴う底版7と防液堤5の変形を、あらかじめ加えた状態で剛結合されるため、水張り試験にて用いられた水の重量分だけ後に発生する引張応力を打ち消すことができる。すなわち、タンク60使用時における不等沈下による引張応力を緩和することができる。
【0064】
なお、
図16(a)に示すように、防液堤5が摺動部13と接触する防液堤5下面に緩衝部材73を設けてもよい。この緩衝部材73はゴムパッドなどが用いられ、
図16(b)の如く、底版7が撓む時に、底版7の摺動部13と防液堤5の下面の間の動きを緩衝する効果を有する。
また、
図17(a)に示すように、防液堤5の下端部に面取り部75を設けるだけでもよい。この面取り部75は
図17(b)の如く、タンクの底版7が撓む時に、底版7の摺動部13と防液堤5の下面の動きを容易にし、防液堤5の下端部の破損を防止することができる。
【0065】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。