(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5690922
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】間接ラッチ手段を備える直動型操作装置
(51)【国際特許分類】
B60K 20/02 20060101AFI20150305BHJP
【FI】
B60K20/02 A
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-508426(P2013-508426)
(86)(22)【出願日】2011年4月21日
(65)【公表番号】特表2013-525201(P2013-525201A)
(43)【公表日】2013年6月20日
(86)【国際出願番号】EP2011056404
(87)【国際公開番号】WO2011138177
(87)【国際公開日】20111110
【審査請求日】2013年3月12日
(31)【優先権主張番号】102010028624.9
(32)【優先日】2010年5月5日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500045121
【氏名又は名称】ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AG
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(72)【発明者】
【氏名】ルドガー ラケ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ギーファー
【審査官】
広瀬 功次
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−189558(JP,A)
【文献】
特開2005−273819(JP,A)
【文献】
特開2001−159463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 20/02−20/08
G05G 1/00−25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シフトバイワイヤ式多段変速機においてレンジを選択するための操作装置であって,ハウジング(1)と,直動可能な操作ノブ(2)と,係合力又は復元力を発生させるためのラッチ部材としてのラッチピン(5)及びラッチ凹部(6)を含むラッチ手段(4)とを備えた操作装置において,前記操作ノブ(2)の直線歯(12)と係合するラッチ歯車(11)を備え,前記ラッチピン(5)は前記ラッチ歯車(11)と接続する回転ラッチ部材で構成され,前記ラッチ凹部(6)は前記ハウジング(1)と直接的又は間接的に接続した固定ラッチ部材で構成されており、
前記ラッチ凹部(6)が,同一形状を有すると共に周方向で無端状に配置され,前記ラッチ凹部(6)は、前記ラッチ歯車(11)と同心的に配置され,かつ,アクチュエータ(9)により回転可能とされていることを特徴とする操作装置。
【請求項2】
請求項1に記載の操作装置において,前記ラッチピン(5)は,前記ラッチ歯車(11)に一体的に配置されていることを特徴とする操作装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の操作装置において,前記ラッチ歯車(11)は,セクター歯車で構成されていることを特徴とする操作装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の操作装置において,前記ラッチ凹部(6)は,円弧又は円周に沿って配置されていることを特徴とする操作装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の操作装置において,前記ラッチ凹部(6)は,前記ラッチ歯車(11)と同心的に回転可能なアクチュエータ歯車(7)と接続し,該アクチュエータ歯車(7)は,電動モータで作動するアクチュエータ(9)と係合していることを特徴とする操作装置。
【請求項6】
請求項5に記載の操作装置において,前記ラッチ凹部(6)は,前記アクチュエータ歯車(7)と一体成形されていることを特徴とする操作装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の操作装置において,前記アクチュエータ歯車(7)は,前記アクチュエータ(9)と噛合部で接続していることを特徴とする操作装置。
【請求項8】
請求項7に記載の操作装置において,前記噛合部は,オートロック構造であることを特徴とする操作装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の操作装置において,前記噛合部は,ウォーム歯車(8)で構成されていることを特徴とする操作装置。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項に記載の操作装置において,操作装置の位置センサ(15)は,前記ラッチ歯車(11)の軸から情報を検知することを特徴とする操作装置。
【請求項11】
請求項10に記載の操作装置において,操作装置の位置センサは,ラッチ歯車の回転軸から一対のピニオン(13,14)を介して間接的に情報を検知することを特徴とする操作装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,シフトバイワイヤ制御式多段変速機を対象とする請求項1の上位概念部分に記載した形式の操作装置,例えば自動変速機又はアクチュエータ作動式シフト変速機等に適用される操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の多段変速機は,一般的にドライバーの手元に配置された操作装置により操作又は制御される。この場合に操作装置は,通常はシフトレバー,シフトグリップ又はセレクトレバー等であり,これらは,例えば車両の前部座席間,又は車室内における他の領域,即ちセンターコンソール等に配置されている。
【0003】
このような多段変速機用の操作装置に対し,最近では多様な構造上の要件,特に人間工学上の要件が課されている。例えば,安全上の理由および人間工学的観点から,電子制御式変速機においても,変速機が作動する際のリアルな感覚をドライバーに伝達するため,レンジ選択に際して,操作装置側からドライバーに対して変速機の実際のシフト状態又は作動状態に関する感覚的フィードバックを与えることが要求されている。その際,特に,変速機の現在のシフト状態について,ドライバーが瞬時に視覚的に理解可能であるか,又はシフトレバーを握っている場合に直感的に感じ取れることが求められている。
【0004】
ドライバーに対し,その都度のシフトレバー位置に応じて変速機の現在の作動状態,実際に選択されているレンジ,又はシフト結果に関する明確なフィードバックを伝達できることが望ましい。
【0005】
電動式又はシフトバイワイヤ式の多段変速機にあっては,車室内の操作レバーとエンジンルーム内の車両変速機との間に機械的な連結が存在しない。操作装置から車両変速機へのシフト指令は,シフトバイワイヤ式変速機においては電気信号又は電子信号として伝達され,更に,変速機内で電気的又は電気油圧的な信号変換が行われる。
【0006】
この場合,変速機アクチュエータと作動レバーとが機械的に連結されていないため,シフトロックの発生又は許容できないシフト指令等に関する変速機の状態が,操作レバーの状態に瞬時に反映されず,ドライバーは操作レバーの状態から実際の作動状態を直接的に知覚することができない。これに対して,従来の機械的に操作される多段変速機の場合,例えばシフトレバーと変速機とがワイヤやロッド等で機械的に連結している場合には,シフトレバー位置が基本的に変速機の実作動状態と一致する。機械的に操作される変速機は,一般的にそれ自体が多重安定状態(シフト状態が複数又は全てのシフトレバー位置で安定している状態)にあり,シフトレバーも多重安定状態にあるため,変速機はドライバーがその都度選択したシフト状態に常に維持され,シフトレバーも変速機に対応するシフト位置に維持される。
【0007】
従って,ドライバーは,一方では実際のシフトレバー位置から変速機の現在のシフト状態と,設定されているレンジとを推測可能であり,他方ではシフトレバー位置が変速機の実際のシフト状態と違わないことを確認できるのである。
【0008】
シフトバイワイヤ式の多段変速機の場合には,変速機アクチュエータとシフトレバーとが機械的に連結されていないため,原理的には特定の状況下において,シフトレバー位置と変速機のシフト状態とが一致しない場合がある。
【0009】
例えば,自動駐車機能を有する最新の自動変速機においては,ドライバーが車両から離れた場合に,所要に応じて変速機側で駐車ブレーキを自動的に作動させることにより,無人車両の転がり走行を防止する。換言すれば,自動駐車機能が付与されている場合には,その都度シフトレバーで実際に選択されているレンジに関わらず,駐車ブレーキを自動的に作動させる。例えば,ドライバーがシフトレバーをニュートラル又は特定の走行段にセットした後,変速機又は車両の自動駐車機能により駐車ブレーキが自動的に作動するのである。
【0010】
この場合,シフトレバー位置は実際のシフト状態と対応しない。例えば,ドライバーがシフトレバー位置に基づいて,変速機がニュートラル又は特定の走行段にあると判断しても,実際には変速機において駐車ブレーキが作動している。
【0011】
この問題に対処するため,従来技術に係るシフトバイワイヤ式多段変速機のシフトレバーは,多くの場合,作動が終了する度に常に同一の中央位置に復帰する単安定性の操作装置として構成されている。単安定性のシフトレバーにおいては,変速機の実際の作動状態に関するフィードバック情報が,独立した別の表示装置により示される。そして,ドライバーがシフトレバー位置の目視により,又はシフトレバーからの触感フィードバックにより,変速機の作動状態を把握することは不可能である。
【0012】
更に,単安定性のシフトレバーにおいては,機械的なシフト論理を実行して許容できないシフト指令を退けるため,例えばいわゆるキーロックやシフトロック等を行うために,複雑なアクチュエータが必要となり,無視できない設置スペース及びコスト増につながる場合がある。加えて,このようなアクチュエータによれば,操作装置であるシフトレバーの近傍で不所望な騒音が往々にして発生する。
【0013】
既知の単安定性シフトレバーには,シフトレバーを常に中央位置に復帰させる新たな操作コンセプトにドライバーが慣熟する必要があるという,更なる欠点がある。このような操作コンセプトは,安定なシフトレバー位置に基づく従来の変速機操作とは顕著に異なっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述した背景に鑑み,本発明の課題は,従来技術における前記の欠点を解消することにできる車両変速機用の操作装置を提案することである。本発明によれば,特に省スペースで構造が簡潔であり,シフトレバー位置が安定であり,かつ操作部材を確実かつ容易に係合させ得る操作装置を実現することが可能である。また,変速機の実際のシフト状態に関して視覚的及び触感的なフィードバックを確実に伝達することが可能である。更に,アクチュエータによるシフトレバー位置制御を容易に実行することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題は,請求項1に記載した特徴を有する操作装置により解決される。
【0016】
また,本発明の好適な実施形態は従属請求項に記載したとおりである。
【0017】
先ず,本発明に係る操作装置は,それ自体は既知の構成要素として,ハウジングと,直動可能な操作ノブと,操作ノブを所定位置で係合させる係合力,又は操作ノブを所定のシフト位置に戻すための復元力を発生させるラッチ手段とを備える。この場合,ラッチ手段は,それ自体は既知のラッチピン及びラッチ凹部をラッチ部材として備え,これら両ラッチ部材によって係合力及び復元力を生じさせるものである。
【0018】
本発明に係る操作装置は,操作ノブの直線歯と係合するラッチ歯車を更に備えている。この場合,ラッチピン及びラッチ凹部の一方が,ラッチ歯車と係合する,旋回又は回転可能なラッチ部材を構成する。また,ラッチピン及びラッチ凹部の他方は,ハウジングに直接的又は間接的に接続した固定ラッチ部材を構成する。
【0019】
換言すれば,本発明に係る操作装置における直動型操作ノブは,例えば操作ノブの傾き等により操作ノブの直動が妨げられることなく,所要の係合状態を達成するものである。これは,本発明において,直動機能と係合機能とが互いに分離されているからである。即ち,従来のラッチ部のように,操作ノブの直動をガイドするための直動ガイドに直接係合力が作用するのではなく,直動ガイドとは分割された,ラッチ歯車と固定ラッチ部材との間で係合力が発生するのである。
【0020】
本発明は,何れのラッチ部材がラッチ歯車と接続し,それにより操作ノブと係合するか,又は何れのラッチ部材が直接的又は間接的にハウジングにより担持されているかに関わりなく実施することができる。例えば,ラッチピンがラッチ歯車と接続され,それにより操作ノブとも接続される場合には,ラッチ凹部がハウジングにより直接的又は間接的に担持されることとなる。逆に,ラッチ凹部をラッチ歯車と接続させることで操作ノブと定位置で係合させる場合には,ラッチピンがハウジングにより直接的又は間接的に担持されることとなる。
【0021】
更に,第1ラッチ部材を先ずラッチ歯車と係合させる態様又は具体的構造は,本発明を実施する上でさほど重要でない。しかし,第1ラッチ部材をラッチ歯車と一体化することにより部品点数を減少させ,製造コストを低下させることが望ましい。
【0022】
本発明の更なる実施形態においては,ラッチ歯車がセクター歯車として構成されている。このような構成とする背景は,操作ノブが移動するガイドに沿ってその全長を動いた場合でも,通常ラッチ歯車が完全に一回転,又は数回転するにはガイド長さが足りない点にある。ラッチ歯車の不要な角度部分を省くことで材料を節約し,また,ラッチ手段の設置領域において更なるスペースを確保することができる。
【0023】
基本的に,ラッチピンがラッチ凹部との間における所要の相対運動経路に沿ってラッチ凹部の表面に接触する限り,ラッチ凹部は,所要に応じて直線形状又は平面形状等の任意形状とすることが可能である。しかしながら,ラッチ凹部は,円弧又は円周に沿って湾曲した形状であることが望ましい。なぜなら,円弧又は円周に沿ってラッチ凹部を配置し,本発明に従って基本的にラッチ凹部とラッチピンが相対回転させることで,ラッチ凹部とラッチピンが係合するために実際に必要とされる任意の角度を自由に実現することができ,より長いラッチ経路及び/又はより多くのラッチ係合位置を設けることが可能となるからである。
【0024】
この実施形態も,ラッチ凹部が操作ノブと共に移動する配置とされており,従ってラッチ凹部が操作ノブと噛合い係合するラッチ歯車上に配置されているか否か,又はラッチ凹部がハウジングに固定された第2ラッチ部材を構成しているか否かに関わらずに採択することができる。
【0025】
このような背景に鑑み,本発明の更なる好適な実施形態においても,ラッチ凹部は同一形状で円周上に沿って連続的に配置される。この場合,第2ラッチ部材は第1ラッチ部材に対して,即ちラッチ歯車に対して同心円上に位置しており,アクチュエータによって第2ラッチ部材の回転が制御される。
【0026】
上記の実施形態において,ラッチ凹部における各ラッチ位置と操作ノブの各作動位置との間には,もはや固定的な対応関係が存在しない。なぜなら,ラッチ凹部が連続的に配置され,同一形状をもって繰り返されるラッチプロセスを実行するように円周上に配置されているためである。更に,このような実施形態においては,ハウジングにより担持される第2ラッチ部材とハウジングとの間の相対回転運動が,アクチュエータによって迅速に制御可能である。この場合も,アクチュエータにより制御可能な第2ラッチ部材がラッチ凹部及びラッチピンの何れであるか,ラッチ凹部がラッチ歯車に配置されているか,又はラッチ凹部が第2ラッチ部材を構成しているかに左右されるものではない。
【0027】
換言すれば,この実施形態においては,操作ノブの移動経路に沿う直動位置は,第2ラッチ部材の回転位置をアクチュエータで制御することにより,迅速に変更することが可能である。その際にアクチュエータは,ラッチ凹部とラッチピンからなるラッチ手段全体を回転させることで,操作ノブの位置を制御する。即ち,アクチュエータから操作ノブへの動力伝達は,ラッチ凹部とラッチピンとの相対運動を伴わず,ラッチ手段全体を介して行われるのである。
【0028】
アクチュエータにより可及的に僅かな力で,しかも騒音発生を最小限に抑えた状態で,操作ノブの位置を制御することができる。それは,ラッチ手段が回転可能に設置されており,更に,操作ノブが直動ガイド上を移動するため,発生する摩擦抵抗が極めて小さいためであり,一方,ラッチ凹部とラッチピンの相対位置は不変のままである。そのため,例えばアクチュエータが電動モータで作動する場合には,操作ノブを変位させるに必要となるアクチュエータの性能は最少であり,サイズも最小で十分となる。
【0029】
従って,このような実施形態においては,特に操作ノブの位置と変速機の作動状態が実際には一致していない場合,アクチュエータによってごく単純かつ確実な方法で,操作ノブの位置が更新される。このような構成の実際の適用例は,最新の自動変速機に装備された自動駐車機能,例えばドライバーが車両を離れた場合に,シフトレバーでどの走行段が入力されているか,即ち操作装置の操作ノブがどこに設定されているかに関わらず,駐車ブレーキを自動的に作動させる機能である。
【0030】
この場合,操作ノブの位置は本発明により極めて単純かつ実用的に,騒音を発生させずに更新可能であり,変速機において駐車ブレーキ機能が自動設定されていると共に,操作ノブも駐車ブレーキ位置を占めるため,変速機作動状態につき,ドライバーに対して所望の正しい視覚的及び触感的なフィードバックが与えられる。
【0031】
更に本発明は,第2ラッチ部材がアクチュエータにより所望の位置まで回動する限り,アクチュエータがどのように第2ラッチ部材を作動させるかに関わらずに実施することができる。しかし,本発明の特に好適な実施形態において,第2ラッチ部材は,ラッチ歯車に対して同心回転可能としたアクチュエータ歯車に接続する。この場合,アクチュエータ歯車は電動モータで作動するアクチュエータと係合する。なお,第2ラッチ部材はアクチュエータ歯車と一体化させ,又はアクチュエータ歯車上に直接形成することが望ましい。
【0032】
電動モータで作動するアクチュエータからアクチュエータ歯車への,及びそれに伴い更に第2のラッチ部材への動力伝達は,基本的には摩擦ベルト又は歯付きベルト等,任意の方法で実施可能である。しかしながら,アクチュエータ歯車は,電動モータ作動のアクチュエータにより噛合い係合部を介して作動させるのが望ましい。その場合,アクチュエータとアクチュエータ歯車との間の噛合い係合部はオートロック式,特にウォーム歯車として構成するのが望ましい。
【0033】
ウォーム歯車には,所要スペースが最小でかつ伝達比が大きいという利点があり,更に基本的にオートロック式であるため,例えば操作ノブを手動操作している間にアクチュエータ歯車を拘束するための追加手段が不要である。電動モータ作動のアクチュエータが停止している場合,アクチュエータ歯車と,アクチュエータ歯車に接続している第2ラッチ部材とは,実はウォーム歯車によって回動が阻まれている。従って操作ノブを手動操作すると,第1及び第2ラッチ部材の間に相対運動が起こり,操作ノブが直線移動経路に沿って移動するのに伴い,所望の係合作用が発生する。
【0034】
本発明の更なる好適な実施形態においては,操作装置の位置センサが,ラッチ歯車の回転軸の位置を検知する。操作装置のコントローラは,位置センサにより移動経路に沿う操作ノブのその都度の実際位置を把握する。この実施形態によれば,特に省スペースで堅固な角度センサにより,ラッチ歯車の回転軸の回転角度から操作ノブの位置を検知することが可能である。
【0035】
本発明の更に好適な実施形態において,操作装置の位置センサによりラッチ歯車の回転軸位置を間接的に検知するために,ラッチ歯車の回転軸にピニオンを配置し,該ピニオンの回転を更なるピニオンに伝達する構成とすることも可能である。
【0036】
この場合に角度センサは,ラッチ歯車の回転位置を検知し,それによって操作ノブの位置を検知するように更なるピニオンと接続している。この実施形態では,ラッチ歯車の回転軸上における僅かな軸線方向スペースのみがセンサに必要とされるため,特に省スペースの効果が大きい。加えて,この実施形態によれば,ラッチ歯車の支持安定性も向上する。
【0037】
ラッチ歯車をセクター歯車として構成する場合には,上記の実施形態のような位置センサは,セクター歯車が触れることのない角度部分に設置可能であるため,特に省スペース効果に優れている。これにより,外形寸法が最小であり,車両の内部スペースパッケージにおいて極めて柔軟に設置可能な操作装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
以下,本発明を図示の実施形態について詳述する。
【
図1】本発明に係る操作装置の一実施形態を操作ノブがP位置にある状態で示す斜視図である。
【
図2】
図1の操作装置を操作ノブがR位置にある状態で示す操作装置の斜視図である。
【
図3】
図1及び
図2の操作装置を操作ノブがN位置にある状態で示す,
図2と同様な斜視図である。
【
図5】
図1〜
図4の操作装置におけるセンサプレート及び歯車の噛合いを示しす,
図2〜
図4と同様な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は,本発明に係る操作装置の一実施形態の斜視図であり,操作装置のラッチ手段及びアクチュエータの機構が容易に理解できるよう,ハウジングの開放状態で示すものである。
【0040】
図1にはハウジング後半部1が示されており,操作ノブ2は,直動ガイド3に沿ってハウジング1内部を直動できるように取り付けられている。そのため,車両変速機においてシフト制御に際して,ドライバーは,操作ノブ2を直動させてP,R,N,Dの異なるレンジを選択することができる。
【0041】
人間工学的及び操作フィール上の観点から必要とされる,感覚的に判別できる操作ノブ2の係合を,本発明においては,直動ガイド3に直接係合としてではなく,ラッチ手段4による間接的な係合として達成する。そのためにラッチ手段4はラッチピン5とラッチ凹部6を有し,ラッチピン5とラッチ凹部6はバネ負荷状態で係合する。ラッチ凹部6は同一の形状であり,アクチュエータ歯車7の内側に沿って連続的に配置されている。アクチュエータ歯車7は,ウォーム歯車8を介して,電動モータで作動するアクチュエータ9と係合する。ラッチピン5のバネケース10は,アクチュエータ歯車7と同心上に配置されており,アクチュエータ歯車7と同軸上で回転する。
【0042】
ラッチピン5のバネケース10と一体的に形成されたラッチ歯車11は,操作ノブ2に取り付けられた直線歯12と係合する。その際にラッチ歯車11は,図示のとおり,操作ノブ2の移動に伴って実際に生じる回転角度のみをカバーするセクター歯車として構成されている。
図1は,ラッチ歯車11の一部を破断することにより,本来であればラッチ歯車11の後方に配置されているために見えないラッチピン5を示している。セクター歯車として構成したラッチ歯車11の実際の形状は,
図2〜
図5に示すとおりである。
【0043】
通常操作ノブ2がドライバーによって操作され,直線歯12とラッチ歯車11の係合よりラッチ歯車11が回動すると,バネケース10及びラッチピン5が回動する。その結果,ラッチピン5がアクチュエータ歯車7の内側にあるラッチ凹部6と接触する。その際,ウォーム歯車8によってアクチュエータ歯車7の回動が阻まれているため,ドライバーが操作ノブ2から感知することのできる係合力,即ち所望の復元力が発生する。
【0044】
操作ノブ2の切替え操作は,
図2〜
図4に示すとおりである。
図2において操作ノブ2は,
図1のP位置からR位置まで移動しており,対応してラッチ歯車11と,ラッチ歯車11に一体化されたバネケース10及びバネケース10に内蔵されたラッチピン5(
図2ではラッチ歯車11の背後にあるために見えない)が回動し(
図1と対比),
図1に示したラッチ凹部6との係合位置から,
図2に示したラッチ凹部6との隣接する係合位置まで移動している。これに伴って操作ノブ2は,直動ガイド3上の対応するギア位置Rにおいて再び係合し,その係合は感知可能である。
【0045】
同様に,操作ノブ2は
図3に示すN位置まで,そして最終的に
図4に示すD位置まで移動する。その際,ラッチ歯車11と,ラッチ歯車11に接続するラッチピン5は,それぞれラッチ凹部6の更なる係合位置まで回動する。係合力はその都度,ラッチ歯車11及び直線歯12を介して操作ノブ2に伝達される。
【0046】
上述した
図1〜
図4に示す操作ノブ2の操作に際し,電動モータで作動するアクチュエータ9は,常にオフ状態にある。そのため,アクチュエータ9のウォーム歯車8と係合しているアクチュエータ歯車7も回転が阻まれ,同様にアクチュエータ歯車7の内側のラッチ凹部6も回転が阻まれる。このように,
図1〜
図4で示す操作に際し,ラッチピン5とラッチ凹部6とで構成されるラッチ手段4(
図1参照)は,通常の受動式ラッチ手段と同様に機能している。
【0047】
しかし,車両変速機の自動駐車機能が実行されると直ちに,例えばドライバーが事前に駐車ブレーキを選択することなく車両を停めて離れる際に,操作ノブ2の位置が,アクチュエータ9により車両変速機内部で自動的に選択された駐車ブレーキ位置に直ちに更新可能である。そのため,車両に戻った際にドライバーは,操作ノブ2が変速機の作動状態に対応するP位置にあるのを見出すこととなり,変速機のシフト状態に関してドライバーに不明瞭性を感じさせることはない。
【0048】
操作ノブ2が,変速機の作動状態に対応する位置に自動更新される機能は,図示の実施形態において,電動モータで作動するアクチュエータ9により達成される。このアクチュエータ9は,ウォーム歯車8によってアクチュエータ歯車7を回転させ,それに伴ってアクチュエータ歯車7内部のラッチ凹部6をも回転させる。このようにラッチ凹部6が回転するとラッチピン5も回転し(
図1を参照),アクチュエータ歯車7の回転がラッチ凹部6,ラッチピン5及びラッチピン5に接続したラッチ歯車11に伝達される。ラッチ歯車11の回転は,更にラッチ歯車11と噛合った直線歯12を介して操作ノブ2に直動として伝達され,これにより操作ノブ2を変速機の作動状態に対応するギア位置まで移動させる。
【0049】
このようなアクチュエータにより操作ノブを元の位置まで復帰させる際には,ラッチピン5とラッチ凹部6との間の係合を維持する必要があり,解除してはならない。そのためのアクチュエータ9は,最小のサイズとすることができる。同様の理由から,例えばアクチュエータ9が操作ノブ2をP位置まで復帰させる場合,実用上不快な騒音が全く発生しない。
【0050】
図示の実施形態においては,アクチュエータ9が操作ノブ2に及ぼす復帰力又は操作力は,アクチュエータ9から,アクチュエータ歯車7と共に回転するラッチ凹部6及びラッチピン5を介して伝達され,ラッチ凹部6とラッチピン5の間に相対運動は発生しない。そのため,このような構成とした操作装置は,誤操作の際の過負荷保護機能が既に備わっている。
【0051】
例えば,操作ノブ2がアクチュエータ9により移動して元の位置まで復帰している間に,ドライバーが操作ノブ2を掴んだとする。(又は操作ノブ2が抵抗力によってその動きを阻まれたとする。)その場合,ラッチピン5及びラッチ凹部6で構成されるラッチ手段4においては,ラッチ凹部6が,動きを阻まれたラッチピン5に対して摺動することより,操作ノブ2に伝達される力が制限される。このように,操作装置の個々の構成部材に対する過負荷が,既に構造的に回避されているため,アクチュエータ9に対して,従来技術では必要とされていた追加的な過負荷保護機能(例えば過熱防止機能)を省くことができる。
【0052】
更に,アクチュエータ9で操作ノブ2の位置を変えることで,操作装置の更なる機能を引き出すことができ,特に自動変速機のシフトロック機能及びステアリングロック機能が実現可能である。このような機能においては,例えばエンジンを始動させ,又は変速機をP位置から走行位置まで移動させる前にブレーキを踏む等,ドライバーが所定の作動条件を実行するまで,変速機は所定レンジに留まる。安全性の観点から必要とされるこれらの作動条件がドライバーによって達成されないと,操作ノブ2は,その時点で許容することのできないレンジ位置から,変速機の実際の作動状態に対応するレンジ位置まで,アクチュエータ9により移動される。これにより,ドライバーに対して実際に許容される変速機の作動状態を明示することが可能である。
【0053】
図5は,その都度実際の操作ノブ2の位置を検知するために必要となるセンサとして,一対のピニオン13,14及びセンサプレート15を示す。ピニオン13,14によりラッチ歯車11の実際の回転角度位置が検知され(これにより操作ノブ2の実際の直動位置が検知可能である),センサプレート15上の角度センサ(図示せず)に伝達される。この場合に角度センサは,
図5のセンサプレート15においてラッチ歯車11部分と接触しない領域,すなわち裏側領域に特に配置する。この配置によれば,図示のとおり操作装置が非常にコンパクトで面的な形状となる。
【0054】
最後に,
図6に示すように,内蔵されたラッチ手段及びアクチュエータ9も含め,操作装置全体は最小サイズで構成されており,非常に薄型である。従って,本発明に係る操作装置は,その都度所望される車両の設置位置において柔軟に設置可能である。アクチュエータ9により操作ノブ2が移動される際にも,騒音の発生が最小限に抑えられるため,遮音手段も不要である。
【0055】
本発明によれば,総合的な観点から非常に省スペースで,騒音発生を抑えた,しかも簡潔な構造のシフトバイワイヤ作動式多段変速機用の操作装置が実現される。その際,ラッチ手段が操作ノブに直接作用せずに操作ノブから分離しているため,操作ノブが移動する際に動きが鈍ったり傾いたりしない。同時に,ラッチ手段からドライバーに対して,シフト位置が達成されたことを示す触感的なフィードバックが確実に行われる。更に,シフトバイワイヤ制御式の車両変速機におけるシフトレバーにより,変速機が実際に選択しているシフト状態を常に視覚的及び触感的に反映することが可能である。これは,シフトバイワイヤ制御式車両変速機における従来の単安定型操作装置と対比して決定的な優位性である。
【0056】
本発明によれば,特に電子制御式車両変速機に実際に適用する場合に,人間工学的特性,操作性,スペースの活用性及び対費用効果等を向上することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 ハウジング
2 操作ノブ
3 直動ガイド
4 ラッチ手段
5 ラッチピン
6 ラッチ凹部
7 アクチュエータ歯車
8 ウォーム歯車
9 アクチュエータ
10 バネケース
11 ラッチ歯車
12 直線歯
13,14 ピニオン
15 センサプレート