(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
JIS K 7244−4「プラスチック―動的機械特性の試験方法―第4部:引張振動―非共振法」に準拠して測定される前記架橋発泡体の20℃における引張損失係数の値が0.2以下である請求項1又は2記載の靴底用部材。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の靴底用部材について以下にその実施の形態を例示しつつ説明する。
図1は、本実施形態の靴底用部材を用いて形成される靴を示したものである。
該靴1は、アッパー材2と靴底用部材3,4とを有している。
該靴1は、前記靴底用部材として、ミッドソール3、及び、アウターソール4を有している。
本実施形態の靴底用部材は、比重が0.3以下、アスカーC硬度が55以下、且つ、圧縮永久歪が40%以下の架橋発泡体によって形成されている。
なお、前記架橋発泡体は、インナーソール、ミッドソール、アウターソールなどの形成に使用される際には、これらに適度なクッション性を発揮させる上においてJISK 7244−4「プラスチック―動的機械特性の試験方法―第4部:引張振動―非共振法」に準拠して測定される20℃における引張損失係数の値が0.2以下であることが好ましい。
【0016】
前記架橋発泡体の比重が0.3以下であるのは、本実施形態の靴底用部材に対して優れた軽量性を発揮させるためである。
靴底用部材を形成する前記架橋発泡体の比重は、0.25以下であることが好ましい。
ただし、過度に低比重な架橋発泡体は、圧縮永久歪を40%以下とすることが困難になるおそれがあるとともに製造自体が困難になるおそれを有する。
従って、架橋発泡体は、圧縮永久歪が40%以下となるように製造することが容易をなる点において、比重が0.05以上であることが好ましい。
なお、架橋発泡体の比重とは、JIS K7112のA法「水中置換法」によって、23℃の温度条件下において測定される値を意味する。
【0017】
また、前記架橋発泡体のアスカーC硬度が55以下であるのは、本実施形態の靴底用部材を軟質性に優れたものとするためである。
靴底用部材を形成する前記架橋発泡体のアスカーC硬度は、45以下であることが好ましい。
ただし、靴底用部材は、過度に低硬度な架橋発泡体で形成されると、当該靴底用部材を備えたシューズの履き心地を低下させるおそれを有する。
従って、前記架橋発泡体のアスカーC硬度は、10以上であることが好ましい。
なお、架橋発泡体のアスカーC硬度とは、JIS K7312のタイプCによるスプリング硬さ試験を23℃において実施した際の瞬時値を意味する。
より具体的には、アスカーC硬度は、例えば、型内発泡成形などによって所定形状とされた架橋発泡体から表皮部分を除去して10mm以上の厚みを有する板状の測定試料を作製し、該測定試料に対してJIS K7312に基づく測定を実施することによって求めることができる。
【0018】
本実施形態において、前記架橋発泡体の圧縮永久歪が40%以下になっているのは、シューズの使用時に圧縮変形を受けた靴底用部材をシューズの使用後に使用前の状態に復元させ易くするためである。
この圧縮永久歪とは、ASTM D395A法(定荷重法)に基づいて測定される値である。
具体的には、圧縮永久歪は、測定試料に対して23℃の温度条件下0.59MPaの圧力を22時間加え、前記測定試料を圧力から開放した30分後に該測定試料の厚みを測定して求められる値を意味する。
【0019】
本実施形態の架橋発泡体に、上記のような特性を発揮させる上においては、前記架橋発泡体を形成するポリマー組成物が特定の分子運動性となっていることが重要である。
即ち、架橋発泡体に上記のような特性を発揮させるためには、結晶構造又は準結晶構造などによって分子運動が強く規制されている結晶性領域、及び、分子鎖が比較的自由に分子運動ができるアモルファス領域を架橋発泡体の気泡膜中に適度な割合で形成させるとともに該アモルファス領域において適度な割合で架橋又は擬似架橋を形成させることが重要である。
【0020】
より具体的には、架橋発泡体に上記のような特性を発揮させるためには、該架橋発泡体を構成しているポリマー組成物を、パルスNMRで測定した際に下記不等式で示す条件を満足する状態にする必要がある。
なお、スピン−スピン緩和時間は、例えば、ブルカーオプティクス社製のパルスNMR、型名「minispecmq20」を用い、25℃の温度におけるSolid Echo法による測定を実施することなどで求めることができる。
【0022】
前記架橋発泡体を構成しているポリマー組成物は、上記のような特性をより確実に発揮させる上において、パルスNMRで測定した際に下記不等式で示す条件を満足することが好ましい。
【0024】
ここで上記不等式は、25℃におけるパルスNMR測定により、スピン−スピン緩和時間が0.02ms未満のs相、スピン−スピン緩和時間が0.02ms以上0.1ms未満のm相、及び、スピン−スピン緩和時間が0.1ms以上のl相に前記ポリマー組成物を区分して求められるものである。
【0025】
パルスNMRにおいては、パルス磁場を加えた後の経過時間をt(ms)とし、t=0における磁化をM
0、時間tにおける磁化をM(t)とすると、スピン−スピン緩和時間(T
2)は、下記式に基づいて求められる。
なお、下記式中の「W」はワイブル係数を表す。
【0027】
そして、測定対象をn個の成分に分解した際に、i番目(i<n)の成分に関し、t=0におけるこのi成分の磁化をM
0iとし、i成分のワイブル係数をW
iとするとi成分のスピン−スピン緩和時間(T
2i)、及び、i成分の割合F
iは、下記式に基づいて求められる。
例えば、ワイブル係数Wiは、W
S=2、W
M=1、W
L=1を用いることができる。
このような緩和時間の求め方については、S.Yamasaki et al Polymer 48 4793 (2007)などに開示されている。
【0030】
そして、[F
S/T
2S]の項については、具体的には、パルスNMRでの測定結果におけるスピン−スピン緩和時間が0msよりも大きく0.02ms未満となるs相の全体に占める割合(F
S)と該s相の緩和時間の総合計値(T
2S[ms])とを求め、前記s相の割合(F
S)をスピン−スピン緩和時間の合計値(T
2S)で除して求められる。
【0031】
また、同様に[F
M/T
2M]の項は、スピン−スピン緩和時間が0.02ms以上0.1ms未満となるm相の全体に占める割合(F
M)と該m相の緩和時間の総合計値(T
2M)とを求め、前記m相の割合(F
M)をスピン−スピン緩和時間の合計値(T
2M)で除して求められる。
【0032】
さらに、[F
L/T
2L]の項は、スピン−スピン緩和時間が0.1ms以上となるl相の全体に占める割合(F
L)と該l相の緩和時間の総合計値(T
2L)とを求め、前記l相の割合(F
L)をスピン−スピン緩和時間の合計値(T
2L)で除して求められる。
【0033】
これらの各項は、単にs相、m相、及び、l相の割合だけでなく、それぞれの相のスピン−スピン緩和時間を分母とした指標となっている。
この点について、s相を例にして詳細に説明すると、同じs相を構成している成分でも、スピン−スピン緩和時間が短い成分の方がスピン−スピン緩和時間が長い成分に比べて架橋発泡体に対して硬度や衝撃緩衝性を発揮させる機能が高い。
このことから架橋発泡体の形成に用いるポリマー組成物を単にs相、m相、及び、l相の含有割合だけを指標として設計するよりも、緩和時間を分母とし、前記含有割合を分子とした指標を用いて前記ポリマー組成物を設計することで各相が架橋発泡体の硬度や衝撃緩衝性に与える影響を正確に把握することができる。
例えば、ポリマー組成物におけるs相の含有割合がm相やl相に比べて小さなものであって当該s相がスピン−スピン緩和時間の短い成分を主体にしている第一の場合と、スピン−スピン緩和時間が第一の場合よりも長い成分を主体としたs相が第一の場合よりもm相やl相に対して多くの割合でポリマー組成物中に含有されている第二の場合とを考えると、前記指標は、第一の場合の方が第二の場合に比べて分子の値が小さくなるものの分母の値も小さくなるため、両者の間で大きな違いを生じない。
そして、架橋発泡体に対する硬度や衝撃緩衝性を与える効果の大きさについても、本発明者が見出した事実によれば、第一の場合と第二の場合とで大きな差が生じるものではない。
このように架橋発泡体の特性は、各相の含有割合をスピン−スピン緩和時間で割った値を指標とすることで正確に表現することができる。
【0034】
なお、このs相の指標は、架橋発泡体の特性を決定付ける重要な要素であるために、前記の[F
S/T
2S]の項については、下記条件を満足する値となっていることが好ましい。
1≦[F
S/T
2S]≦20
【0035】
また、[F
L/T
2L]、[F
M/T
2M]の項については、変形に対する復元性及び柔軟性を架橋発泡体に付与するために、下記条件を満足する値となっていることが好ましい。
0.1≦[F
L/T
2L]≦10
1≦[F
M/T
2M]≦30
【0036】
なお、一般的なポリマーであればスピン−スピン緩和時間(T
2S、T
2M、T
2L)や各相の含有割合(F
S、F
M、F
L)が、架橋前後において大きく変動することが無い。
そのため、非架橋な状態でパルスNMR測定を実施して前記の不等式に示した関係を満足するポリマーを調製し、該ポリマーを架橋発泡体を形成させるためのポリマー組成物のベースポリマーとして採用すれば、前記の不等式に示した関係を満足する架橋発泡体を高い確率で得ることができる。
【0037】
また、一般的なポリマーであれば発泡しているか否かによってスピン−スピン緩和時間や各相の含有割合を大きく異ならせることが無い。
そのため前記の不等式に示した関係を満足する架橋発泡体が得られるか否かをより確実に予測することが必要な場合であれば、前記ベースポリマーによる非発泡な架橋体試料を作製し、該試料に対してパルスNMR測定を実施して前記予測を行えば良い。
【0038】
なお、s相、m相、及び、l相の含有割合は、例えば、結晶性ポリマーであれば、主として結晶相がパルスNMR測定においてs相となって観測され、主としてアモルファス相がm相やl相となって観測される。
また、ハードセグメントとソフトセグメントとを有するブロック共重合体であれば、主としてハードセグメント部分がパルスNMR測定においてs相となって観測され、主としてソフトセグメント部分がm相やl相となって観測される。
【0039】
従って、例えば、密度の異なる(結晶化度の異なる)何種類かのポリエチレンについてパルスNMR測定を実施してスピン−スピン緩和時間と各相の含有割合とについてデータを採取しておけば、当該緩和時間や含有割合が結晶化度によってどのような傾向を示すかを把握することができる。
即ち、架橋発泡体のベースポリマーをポリエチレンとするような場合には、必ずしも、用いるポリエチレンのパルスNMR測定を予め実施しなくても、他のポリエチレンについて実施したパルスNMR測定の結果から架橋発泡体のスピン−スピン緩和時間や各相の含有割合を予測することができる。
【0040】
また、ブロック共重合体に関しても、同様にハードセグメントとソフトセグメントとの割合が異なる何種類かのものに対してパルスNMR測定を実施することでハードセグメントとソフトセグメントとの割合によってスピン−スピン緩和時間と割合とがどのように変化するかを把握することができる。
【0041】
さらに、前記ポリマー組成物に複数のポリマーを含有させる場合においては、個々のポリマーについてスピン−スピン緩和時間(T
2S、T
2M、T
2L)と各層の含有割合(F
S、F
M、F
L)とを測定し、ポリマー組成物における配合割合に応じたこれらの加重平均値を算出することにより架橋発泡体のスピン−スピン緩和時間と割合とを予測することができる。
【0042】
即ち、[F
S/T
2S]の項は、結晶化度の高い結晶性ポリマーや、ハードセグメントの含有率の高いブロック共重合体をより多くポリマー組成物に含有させることで高い値を示すようになる。
また、逆に[F
L/T
2L]や[F
M/T
2M]の項は、結晶化度の低い結晶性ポリマーや、ソフトセグメントの含有率の高いブロック共重合体をより多くポリマー組成物に含有させることで高い値を示すようになる。
【0043】
該ポリマー組成物の主成分たるベースポリマーは、本実施形態においては、特に限定が加えられるものではなく、従来の靴底用部材の形成に利用されているポリマーと同様のものとすることができる。
【0044】
前記ベースポリマーとしては、オレフィン系のものであれば、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−4−メチル−ペンテン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、1−ブテン−1−ヘキセン共重合体、1−ブテン−4−メチル−ペンテン、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、プロピレン−メタクリル酸共重合体、プロピレン−メタクリル酸メチル共重合体、プロピレン−メタクリル酸エチル共重合体、プロピレン−メタクリル酸ブチル共重合体、プロピレン−メチルアクリレート共重合体、プロピレン−エチルアクリレート共重合体、プロピレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体等から選択される1種又は2種以上を採用することができる。
【0045】
また、オレフィン系以外のものであれば、前記ベースポリマーとしては、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン等のポリウレタン系ポリマー;スチレン−エチレン−ブチレン共重合体(SEB)、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、SBSの水素添加物(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS))、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、SISの水素添加物(スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS))、スチレン−イソブチレン−スチレン共重合体(SIBS)、スチレン−ブタジエン−スチレン−ブタジエン(SBSB)、スチレン−ブタジエン−スチレン−ブタジエン−スチレン(SBSBS)、ポリスチレン、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS樹脂)等のスチレン系ポリマー等から選択される1種又は2種以上を採用することができる。
【0046】
さらに、本実施形態において前記ベースポリマーとして採用可能なポリマーを挙げると、例えば、フッ素樹脂やフッ素ゴムなどのフッ素系ポリマー;ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド610などのポリアミド系樹脂やポリアミド系エラストマーといったポリアミド系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系樹脂;シリコーン系エラストマー;ブタジエンゴム(BR);イソプレンゴム(IR);クロロプレン(CR);天然ゴム(NR);スチレンブタジエンゴム(SBR);アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR);ブチルゴム(IIR)などが挙げられる。
【0047】
このようなポリマーを架橋発泡させて架橋発泡体を形成させるためには、一般的な架橋発泡体の形成に利用されている架橋剤、及び、発泡剤を本実施形態においても用いることができる。
該架橋剤としては、例えば、有機過酸化物、マレイミド系架橋剤、硫黄、フェノール系架橋剤、オキシム類、ポリアミン等を採用することが可能であるが、なかでも有機過酸化物が好ましい。
【0048】
該有機過酸化物としては、例えば、ジクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート、ベンゾイルペルオキシド、p−クロロベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルベンゾエート、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド等から選択される1種又は2種以上を採用することができる。
【0049】
前記有機過酸化物は、本実施形態のポリマー組成物中に含有されるポリマーの合計100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下となる割合で架橋発泡体の形成に使用されることが好ましい。
【0050】
また、前記架橋発泡体は、前記架橋剤とともに架橋助剤を併用して架橋密度を調整させることができる。
この架橋助剤としては、例えば、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレート、トリメリット酸トリアリルエステル、トリアリルイソシアネート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリアリルエステル、トリシクロデカンジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート等から選択される1種又は2種以上を採用することができる。
【0051】
また、前記架橋発泡体は、クレー、タルク、シリカ、カーボンブラックといった表面エネルギーの高い無機物粒子をポリマー組成物にブレンドし、当該無機物粒子によってポリマー組成物中に擬似架橋点を形成させるようにしてもよい。
【0052】
前記発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、ジメチル−2,2’−アゾビスブチレート、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチル−プロピオンアミジン]等のアゾ化合物;N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)等のニトロソ化合物;4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホニルヒドラジド等のヒドラジン誘導体;p−トルエンスルホニルセミカルバジド等のセミカルバジド化合物;トリヒドラジノトリアジンなどの有機系熱分解型発泡剤から選択される1種又は2種以上を採用することができる。
【0053】
また、前記発泡剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等の重炭酸塩、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等の炭酸塩;亜硝酸アンモニウム等の亜硝酸塩、水素化合物などの無機系熱分解型発泡剤から選択される1種又は2種以上を採用することができる。
【0054】
さらに、メタノール、エタノール、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の各種脂肪族炭化水素類などの有機系発泡剤、空気、二酸化炭素、窒素、アルゴン、水などの無機系発泡剤も前記架橋発泡体を形成させる際の発泡剤として用いることができる。
【0055】
前記架橋発泡体に含有させるその他の添加剤としては、分散剤、加工助剤、耐侯剤、難燃剤、顔料、離型剤、帯電防止剤、抗菌剤、消臭剤等が挙げられる。
【0056】
このような架橋発泡体を形成させる方法としては、特に限定されることなく、従来公知の方法を採用することができる。
なお、本実施形態においては、本発明の靴底用部材を上記のように例示しているが、本発明の靴底用部材は、上記例示に限定されるものではない。
本発明の靴底用部材は、上記のような架橋発泡体のみによって形成させてもよく、或いは、軽量性、軟質性、圧縮変形に対する優れた復元性等の効果が著しく損なわれない範囲において布帛や樹脂シート等の他の素材を併用して形成させてもよい。
また、上記において具体的に記載がなされていない事項であっても、本発明の効果が著しく損なわれない範囲においては、従来公知の技術事項を本発明の靴底用部材に採用することができる。
【実施例】
【0057】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
(予備検討1)
ハードセグメントとソフトセグメントとを有するスチレン系エラストマー(以下「TPS1」ともいう)、3種類のオレフィン系エラストマー(以下「TPO1」、「TPO2」、「TPO3」ともいう)、及び、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下「EVA1」ともいう)を用意し、非架橋な状態でパルスNMRを用いて25℃におけるスピン−スピン緩和時間(T
2S、T
2M、T
2L)と各相(s相、m相、l相)の含有割合(F
S、F
M、F
L)とを測定した。
また、これらのポリマーを使って作製した架橋発泡体についてもパルスNMRでスピン−スピン緩和時間と各相の含有割合とを測定した。
結果を、下記表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
(予備検討2)
前記予備検討1のスチレン系エラストマー(TPS1)と1番目のオレフィン系エラストマー(TPO1)とを質量比(TPS1/TPO1)で、それぞれ「80/20」、「70/30」、「60/40」となる割合でブレンドした混合樹脂で架橋発泡体を作製した。
そして、この架橋発泡体をパルスNMRで測定し、25℃におけるスピン−スピン緩和時間(T
2S、T
2M、T
2L)及び各相(s相、m相、l相)の割合(F
S、F
M、F
L)を求めた。
また、この混合樹脂による架橋発泡体をパルスNMRで測定した結果を予測すべく、表1の架橋発泡体のデータ(No.1−2、No.2−2)に基づいた加重平均値を計算により求めた。
即ち、「80/20」の架橋発泡体の「T
2L」の値は、表1における「TPS1」の「T
2L」の値が「0.245」で、「TPO1」の「T
2L」の値が「0.220」であることから、「(0.245×80+0.220×20)/100」の式を計算して「0.240」となるものと予測した。
また、その他のスピン−スピン緩和時間(T
2S、T
2M)や各相の割合(F
S、F
M、F
L)の予測値についても同様に加重平均値を計算により求めた。
この加重平均による予測値と架橋発泡体を実測した値とを下記表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
また、非架橋な状態でスピン−スピン緩和時間(T
2S、T
2M、T
2L)、及び、各相の割合(F
S、F
M、F
L)が下記表3に記載の値となるスチレン系エラストマー(以下「TPS2」ともいう)と、先のオレフィン系エラストマー(TPO1)とを質量比(TPS2/TPO1)で「80/20」となる割合でブレンドした混合樹脂で架橋発泡体を作製した。
この架橋発泡体をパルスNMRで測定し、25℃におけるスピン−スピン緩和時間(T
2S、T
2M、T
2L)及び各相の割合(F
S、F
M、F
L)を求めた。
また、この架橋発泡体をパルスNMRで測定した結果を予測すべく、表1におけるオレフィン系エラストマー(TPO1)の非架橋な状態でのデータ(No.2−1)と、下記表3に示したスチレン系エラストマー(TPS2)の非架橋な状態でのデータ(No.6−1)に基づいた加重平均値を計算により求めた。
この予測値を架橋発泡体の実測値とともに表3に併せて示す。
【0063】
【表3】
【0064】
上記の表に示された結果からも、架橋前のポリマーなどに対してパルスNMRでスピン−スピン緩和時間や各相の割合を測定することで、当該ポリマーを用いて架橋発泡体を作成した際に、この架橋発泡体のスピン−スピン緩和時間や各相の含有割合がどのような値となるかを予測することが容易になることがわかる。
即ち、上記表に示された結果から、架橋発泡体が下記不等式を満たすか否かを事前に予測することが容易であることがわかる。
【数7】
【0065】
(実施例、比較例)
前記の予備検討に用いたスチレン系エラストマー(TPS1,TPS2)、オレフィン系エラストマー(TPO1)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA1)に加え、別のスチレン系エラストマー(TPS3、TPS4)とオレフィン系エラストマー(TPO4)とを用意した。
そして、下記表5〜7に示すような配合で架橋発泡体を作製した。
なお、このスチレン系エラストマー(TPS3、TPS4)とオレフィン系エラストマー(TPO4)を非架橋な状態においてパルスNMRで測定し、25℃におけるスピン−スピン緩和時間と各相の含有割合とを測定した結果は下記表4に示す通りであった。
【0066】
【表4】
【0067】
この架橋発泡体のアスカーC硬度、及び、圧縮永久歪を測定した結果、及び、パルスNMRによる測定を行った結果を表5、6に併せて示す。
また、
図2に実施例3、及び、比較例1のパルスNMR測定グラフを示す。
なお、
図2において、「Data.1」で示されているのは実施例3の測定結果であり、「Data.2」で示されているのは比較例1の測定結果である。
また、得られた架橋発泡体について、JIS K 7244−4「プラスチック―動的機械特性の試験方法―第4部:引張振動―非共振法」に準拠して20℃における引張損失係数(tanδ)の値を測定した。
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
【0070】
【表7】
【0071】
上記表5〜7において示されているデータの内、アスカーC硬度と圧縮永久歪との関係をグラフ化し、且つ、実施例、比較例とに区分したものを
図3に示す。
なお、
図3において丸印で示されたデータが実施例1〜14の架橋発泡体のデータであり、四角で示されたデータが比較例1〜7の架橋発泡体のデータである。
そして、この
図3においては、同じアスカーC硬度を示す架橋発泡体であっても、実施例の架橋発泡体の方が圧縮永久歪が小さいことが示されている。
これらの結果からも、本発明によれば、軽量且つ軟質でありながら使用後においては使用時に受けた圧縮変形に対する優れた復元性を示す靴底用部材を提供し得ることがわかる。
【0072】
(参考実験)
以下に示す2種類の市販のエチレン−酢酸ビニル共重合体について、非架橋な状態でパルスNMRを使って25℃における緩和時間と各相(s相、m相、l相)の割合と測定し、[(F
M/T
2M+F
L/T
2L)/(F
S/T
2S)]の値を計算した。
EVA2:東ソー社製、エチレン−酢酸ビニル共重合体(VA10%)、商品名「ウルトラセン540」
EVA3:東ソー社製、エチレン−酢酸ビニル共重合体(VA20%)、商品名「ウルトラセン631」
その結果を下記表8に示す。
【0073】
【表8】
【0074】
上記の結果は、架橋発泡体をパルスNMRで測定したものではなく非架橋な状態で測定を行ったものであるが、これまでの実験結果から、通常、これらを架橋発泡させても下記の不等式を満足するものにはならないことがわかる。
【数8】
即ち、エチレン−酢酸ビニル共重合体からなる架橋発泡体が主として用いられている従来の靴底用部材は、本発明の靴底用部材とは違って、軽量且つ軟質でありながら使用後において使用時に受けた圧縮変形に対する優れた復元性を示すものではないことが上記結果から理解することができる。
架橋発泡体によって一部又は全部が形成されている靴底用部材であって、前記架橋発泡体がパルスNMRによる特定の測定結果を示すポリマー組成物で形成されていることを特徴とする靴底用部材などを提供する。