特許第5690986号(P5690986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5690986
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】害虫集積装置および害虫集積方法
(51)【国際特許分類】
   A01M 1/02 20060101AFI20150312BHJP
   A01M 1/22 20060101ALI20150312BHJP
   A01M 5/02 20060101ALI20150312BHJP
   A01K 67/00 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   A01M1/02 Z
   A01M1/22 Z
   A01M1/22 B
   A01M5/02
   A01K67/00 D
【請求項の数】21
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2014-517305(P2014-517305)
(86)(22)【出願日】2013年8月22日
(86)【国際出願番号】JP2013004958
(87)【国際公開番号】WO2014030353
(87)【国際公開日】20140227
【審査請求日】2014年4月14日
(31)【優先権主張番号】特願2012-185362(P2012-185362)
(32)【優先日】2012年8月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(73)【特許権者】
【識別番号】512221256
【氏名又は名称】近藤電子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391039520
【氏名又は名称】宮崎みどり製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(72)【発明者】
【氏名】山内 高圓
(72)【発明者】
【氏名】松本 由樹
(72)【発明者】
【氏名】近藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山内 高尚
【審査官】 有家 秀郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−204514(JP,A)
【文献】 特開2006−15032(JP,A)
【文献】 特開2006−67810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/02
A01M 1/06
A01M 1/22
A01M 5/02
A01K 67/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワクモやトリサシダニなどのダニ類が生息する領域に設置され、ダニ類を誘引して集積する装置であって、
表面に電荷の偏りによって帯電層を形成し得る素材からなる集積部と、
該集積部の帯電層を形成し前記領域に設置した状態において、該集積部の帯電層から電荷が漏洩することを防止する電荷漏洩防止部と、を備えている
ことを特徴とする害虫集積装置。
【請求項2】
前記帯電層が
コロナ放電によって形成されたものである
ことを特徴とする請求項1記載の害虫集積装置。
【請求項4】
前記集積部が、
表面に凹凸を備えている
ことを特徴とする請求項1または2記載の害虫集積装置。
【請求項5】
前記集積部と別体に設けられた帯電発生手段を備えており、
該帯電発生手段は、
コロナ放電により前記集積部に前記帯電層を形成する機能を有するものである
ことを特徴とする請求項1、2または4記載の害虫集積装置。
【請求項6】
前記帯電層が
電荷分離によって形成されたものである
ことを特徴とする請求項1記載の害虫集積装置。
【請求項8】
前記集積部が、
表面に凹凸を備えている
ことを特徴とする請求項1または6記載の害虫集積装置。
【請求項9】
前記集積部と別体に設けられた帯電発生手段を備えており、
該帯電発生手段は、
電荷分離により前記集積部に前記帯電層を形成する機能を有するものである
ことを特徴とする請求項1、6または8記載の害虫集積装置。
【請求項10】
前記帯電発生手段は、
前記集積部との間に摩擦帯電を生じさせて、
該摩擦帯電によって前記集積部に前記帯電層を形成するものである
ことを特徴とする請求項9記載の害虫集積装置。
【請求項13】
ワクモやトリサシダニなどのダニ類を集積させ、ダニ類を誘引して集積する方法であって、
表面に電荷の偏りによって帯電層を形成し得る集積部に帯電層を形成し、
該帯電層が形成された集積部を、該集積部の帯電層から電荷が漏洩することを防止する電荷漏洩防止部に保持させた状態で前記ダニ類が生息する領域に設置する
ことを特徴とする害虫集積方法。
【請求項14】
前記帯電層をコロナ放電によって形成する
ことを特徴とする請求項13記載の害虫集積方法。
【請求項16】
前記集積部が、
表面に凹凸を備えている
ことを特徴とする請求項13または14記載の害虫集積方法。
【請求項17】
前記帯電層を電荷分離によって形成する
ことを特徴とする請求項13記載の害虫集積方法。
【請求項19】
前記集積部が、
表面に凹凸を備えている
ことを特徴とする請求項13または17記載の害虫集積方法。
【請求項20】
摩擦帯電によって前記集積部の前記帯電層を形成する
ことを特徴とする請求項13、17または19記載の害虫集積方法。
【請求項21】
前記ダニ類が生息する領域に該ダニ類が形成したコロニーから該ダニ類を拡散させる
ことを特徴とする請求項13、14、16、17、19または20記載の害虫集積方法。
【請求項22】
前記ダニ類が生息する領域に該ダニ類が形成したコロニーに対して、木酢液からなる拡散液を供給する
ことを特徴とする請求項21記載の害虫集積方法。
【請求項23】
前記ダニ類の生息状況を検査する検査装置であって
前記ダニ類を集積させるために該ダニ類の生息状況を検査する検査領域に配置される集積部を備えた集積手段と、
該集積手段の集積部に集積した該ダニ類によって形成されたコロニーの状況に基いて前記検査領域における該ダニ類の生息状況を評価する解析手段と、を備えており、
前記集積手段が、
請求項1、2、4、5、6、8、9または10のいずれかに記載の害虫集積装置の集積部である
ことを特徴とする害虫検査装置。
【請求項24】
前記解析手段は、
前記コロニーの面積と、
前記コロニーに存在する特定のダニ類の数と、を求め、
該特定のダニ類の数と前記コロニーの面積に基いて、前記検査領域の前記ダニ類の生息状況を評価するものである
ことを特徴とする請求項23記載の害虫検査装置。
【請求項25】
前記特定のダニ類が、
吸血した吸血ダニ類である
ことを特徴とする請求項24記載の害虫検査装置。
【請求項26】
前記解析手段が、
前記吸血ダニ類の体表面の色に基いて、該吸血ダニ類を他の前記ダニ類から識別するものである
ことを特徴とする請求項25記載の害虫検査装置。
【請求項27】
前記ダニ類の体表面の色が、
RGBカラーモデルにおいて、R82−99、G47−67およびB69−82の範囲内である場合に、該ダニ類を吸血ダニ類と判断する
ことを特徴とする請求項26記載の害虫検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫集積装置、害虫集積方法および害虫検査装置に関する。さらに詳しくは、静電気によってワクモ(学名:Dermanyssus gallinae)やトリサシダニ(学名:Ornithonyssus sylviarum)などの害虫を誘引してコロニーを形成させることができる害虫集積装置と害虫集積方法および誘引した害虫を評価することができる害虫検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の養鶏産業は、日本、ヨーロッパ、東南アジア、アメリカ、北米、南米を含む世界各国において盛んに行われている。各国において、鳥インフルエンザ等の伝染性病気は法定伝染病として、国がウィルスの伝播を管理している。一方、家畜の飼育環境の管理は、ウィルスの鶏舎内への進入を制限する為に、閉鎖型鶏舎(例えば、ウインドレス鶏舎)などを導入することにより、ほぼ完全に隔離された環境を作り出すことができるが、事業主の企業努力により委ねられているのが現況である。
【0003】
更に近年では、動物愛護管理法の改正に伴い、飼育環境や技術の改善、保全に努める事が義務付けられ、企業努力の負担が増えつつある。一方、飼育環境の悪化に伴い増加する害虫のうち、とくにワクモは家禽生産に直接的な被害をもたらし、その影響は全世界的に顕在化しつつある。
しかしながら、ワクモの増加と飼育環境の良否との関係には不明な点が多く、駆除するタイミングや効果的な手法が確立されていないのが現況である。
【0004】
これらワクモの生活環境において、梅雨時などの高温多湿環境の持続は、ワクモの大繁殖を引き起こす。特に閉鎖鶏舎では体長約0.5〜1.0mmのワクモが大繁殖するといった問題ある。このワクモは、とくに物体間の隙間等の狭い場所(例えば、鶏のケージを形成する金属部材のヒンジ部)を好み、かかる場所に巣(コロニー)を形成する。そして、吸血するときに、かかる隙間等から這い出し、ケージ内にいる鶏に寄生して鶏の血を吸引する。このようなワクモによって吸血された鶏は、採卵率の減少や、品質の低下を招く問題があるため、ワクモによる被害をなくすことは、養鶏業者の経営において非常に重要な事項である。
【0005】
以上のように、事業主はワクモの駆除で養鶏業の生産性の低下を招くばかりでなく、かなりの労力とコストを強いられているにも関わらず、ワクモを調査するツールもないのが現状である。
したがって、ワクモを駆除する指標となるべくツールを開発する技術の開発は、養鶏業者にとって生産性の向上に貢献できるだけでなく、飼育環境の改善にもつながることから、ワクモを駆除することは養鶏業者にとっても重要な事項である。
【0006】
なお、ワクモは、鶏舎内の鶏に対して被害を与えるほかに、鶏舎内で作業をする作業者に取り付いて吸血する場合があり、この場合、ヒトは長期間に渡って皮膚炎や痒みを伴ったり、アレルギー症状を引き起こすこともある。したがって、ワクモを駆除することは、飼育環境の改善だけでなく、作業者の作業環境の改善にもつながる。
【0007】
従来、ワクモの駆除は、殺虫剤等の薬剤を散布することによる駆除が一般的であった。しかし、かかる薬剤は、人間や鶏にも毒性を有する物質が含まれている場合があり、使用方法に制限がある。このため、鶏舎に薬剤を散布する場合、鶏を別の場所に移動させなければならないが、この移動は鶏にとってストレスとなるので、このストレスにより採卵率が減少するといった問題もある。
また、薬剤は、鶏舎内において、鶏を収容するためのケージにおけるヒンジなどの狭い場所には入っていかないので、このような場所に入り込んでいるワクモを駆除することはできない。しかも、薬剤を複数回に渡って散布する場合、ワクモの中には、薬剤に対して抵抗力を獲得する個体が出現する場合があり、かかるワクモが増殖した場合、通常の薬剤では対応することができないといった問題もある。
【0008】
ところで、近年、薬剤を用いずに、電気を用いて害虫を捕える技術が開発されている。具体的には、電界による静電誘導を利用することによって物理的に害虫等を捕える技術が開発されている(例えば、特許文献1〜3)。かかる技術は、一対の離間した電極に高電圧を印加することによって発生する電界によって、電極に近づいた害虫に静電誘導を発生させて、害虫を電極に吸着させるという技術である。つまり、静電吸着の原理を利用した技術である。かかる静電吸着の原理は以下のとおりである。
【0009】
まず、一対の電極間に高電圧を印加すれば、一対の電極間には電位差が形成され、両電極間に電界が形成される。この電界に害虫等が侵入すれば、害虫等に対して静電誘導を発生させることができる。つまり、静電誘導によって、かかる害虫等の体表面に電荷に偏りを生じさせることができる。すると、かかる状態の害虫等を、体表面に生じた電荷の偏りと電極の間に生じるクーロン力によって電極に吸着させることで害虫等を捕えることができる。かかる技術では、薬剤を用いず、しかも、防虫網等では捕らえ難いアブラムシ類やダニ類などの小さな害虫も捕えることができるという利点があり、鶏舎のワクモの捕集にも適用が考えられる。
【0010】
一方、フェロモンや光(例えば、紫外線)など害虫等が好む色などを発光等させることによって害虫等を所定の場所に誘引させる技術も開発されている(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−204514号公報
【特許文献2】特開2006−255690号公報
【特許文献3】特開2010−279270号公報
【特許文献4】特開2009−261317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかるに、静電誘導によって害虫を捕える技術では、電極によって形成された電界にたまたま(偶然)侵入した害虫を捕えるという技術にしかすぎず、害虫を電界に誘引する効果は得られない。言い換えれば、静電誘導を利用した技術では、偶然に侵入した害虫を粘着性を有する糸で形成された巣で捕えるというクモの巣と同様の技術にすぎない。このため、静電誘導によって害虫を捕える技術では、害虫が電極に形成される電界内に侵入しない限り、害虫を捕えることができないという問題がある。しかも、静電誘導を生じさせるために電極に高電圧を印加する必要があるので、使用する場所や取り扱いに制限があるといった問題もある。
【0013】
一方、光等によって害虫を誘引する技術は、害虫を誘引する機能を有するものの、誘引した害虫を捕えるという機能は有していない。しかも、誘引する光を用いる場合、常に光を照射させておく必要があるので、使用できる場所も制限されるし、かかる光が人や他の動物にとっては好ましくない場合もある。
【0014】
以上のごとく、ワクモ等の害虫等を誘引しつつ、誘引した害虫等を誘引場所に留めておくことができ、しかも使用制限が少なく誰でも簡単に取り扱うことができる装置の開発が望まれている。
【0015】
本発明は上記事情に鑑み、ワクモ等の害虫等を誘引しかつ誘引したワクモ等を留めておくことができる装置であって、誰でも簡単に取り扱うことができる害虫集積装置と害虫集積方法および誘引した害虫を評価することができる害虫検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1発明の害虫集積装置は、ワクモやトリサシダニなどのダニ類が生息する領域に設置され、ダニ類を誘引して集積する装置であって、表面に電荷の偏りによって帯電層を形成し得る素材からなる集積部と、該集積部の帯電層を形成し前記領域に設置した状態において、該集積部の帯電層から電荷が漏洩することを防止する電荷漏洩防止部と、を備えていることを特徴とする。
第2発明の害虫集積装置は、第1発明において、前記帯電層がコロナ放電によって形成されたものであることを特徴とする。
第4発明の害虫集積装置は、第1または第2発明において、前記集積部が、表面に凹凸を備えていることを特徴とする。
第5発明の害虫集積装置は、第1、第2または第4発明において、前記集積部と別体に設けられた帯電発生手段を備えており、該帯電発生手段は、コロナ放電により前記集積部に前記帯電層を形成する機能を有するものであることを特徴とする。
第6発明の害虫集積装置は、第1発明において、前記帯電層が電荷分離によって形成されたものであることを特徴とする。
第8発明の害虫集積装置は、第1または第6発明において、前記集積部が、表面に凹凸を備えていることを特徴とする。
第9発明の害虫集積装置は、第1、第6または第8発明において、前記集積部と別体に設けられた帯電発生手段を備えており、該帯電発生手段は、電荷分離により前記集積部に前記帯電層を形成する機能を有するものであることを特徴とする。
第10発明の害虫集積装置は、第9発明において、前記帯電発生手段は、前記集積部との間に摩擦帯電を生じさせて、該摩擦帯電によって前記集積部に前記帯電層を形成するものであることを特徴とする。
第13発明の害虫集積方法は、ワクモやトリサシダニなどのダニ類を集積させ、ダニ類を誘引して集積する方法であって、表面に電荷の偏りによって帯電層を形成し得る集積部に帯電層を形成し、該帯電層が形成された集積部を、該集積部の帯電層から電荷が漏洩することを防止する電荷漏洩防止部に保持させた状態で前記ダニ類が生息する領域に設置することを特徴とする。
第14発明の害虫集積方法は、第13発明において、前記帯電層をコロナ放電によって形成することを特徴とする。
第16発明の害虫集積方法は、第13または第14発明において、前記集積部が、表面に凹凸を備えていることを特徴とする。
第17発明の害虫集積方法は、第13発明において、前記帯電層を電荷分離によって形成することを特徴とする。
第19発明の害虫集積方法は、第13または第17発明において、前記集積部が、表面に凹凸を備えていることを特徴とする。
第20発明の害虫集積方法は、第13、第17または第19発明において、摩擦帯電によって前記集積部の前記帯電層を形成することを特徴とする。
第21発明の害虫集積方法は、第13、第14、第16、第17、第19または第20のいずれかの発明において、前記ダニ類が生息する領域に該ダニ類が形成したコロニーから該ダニ類を拡散させることを特徴とする。
第22発明の害虫集積方法は、第21発明において、前記ダニ類が生息する領域に該ダニ類が形成したコロニーに対して、木酢液からなる拡散液を供給することを特徴とする。
第23発明の害虫検査装置は、前記ダニ類の生息状況を検査する検査装置であって前記ダニ類を集積させるために該ダニ類の生息状況を検査する検査領域に配置される集積部を備えた集積手段と、該集積手段の集積部に集積した該ダニ類によって形成されたコロニーの状況に基いて前記検査領域における該ダニ類の生息状況を評価する解析手段と、を備えており、前記集積手段が、請求項1、2、4、5、6、8、9または10のいずれかに記載の害虫集積装置の集積部であることを特徴とする。
第24発明の害虫検査装置は、第23発明において、前記解析手段は、前記コロニーの面積と、前記コロニーに存在する特定のダニ類の数と、を求め、該特定のダニ類の数と前記コロニーの面積に基いて、前記検査領域の前記ダニ類の生息状況を評価するものであることを特徴とする。
第25発明の害虫検査装置は、第24発明において、前記特定のダニ類が、吸血した吸血ダニ類であることを特徴とする。
第26発明の害虫検査装置は、第25発明において、前記解析手段が、前記吸血ダニ類の体表面の色に基いて、該吸血ダニ類を他の前記ダニ類から識別するものであることを特徴とする。
第27発明の害虫検査装置は、第26発明において、前記ダニ類の体表面の色が、RGBカラーモデルにおいて、R82−99、G47−67およびB69−82の範囲内である場合に、該ダニ類を吸血ダニ類と判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1発明によれば、集積部に帯電層を形成させれば、集積部にワクモやトリサシダニなどのダニ類を集めることができる。そして、集積部に集まったワクモ等のダニ類を集積部に留まらせておくことができる。しかも、集積部が電荷漏洩防止部によって保持されているので、集積部の帯電層に生じた電荷の偏りを長時間に渡って維持できる。つまり、ワクモ等のダニ類が活動する時間帯(例えば、夕方から翌朝にかけての時間帯)の間、集積部の帯電状態を維持できるので、より大きなコロニーを集積部に形成させることができる。このため、本発明の害虫集積装置を鶏舎の所定の場所に配置すれば、鶏に寄生しているワクモ等のダニ類や、鶏舎や鶏のケージなどの隙間に侵入していたワクモ等のダニ類であっても、集積部に集積させることができる。そして、集積部に集積したワクモ等のダニ類を駆除すれば、鶏舎内のワクモ等のダニ類を効率良く駆除することができる。
第2発明によれば、集積部の帯電層を、コロナ放電によって帯電させている。すると、コロナ放電で発生させることができるイオン量を容易に調整できるので、所望の電荷を有する帯電層を形成することができる。しかも、効率的かつ短い時間で帯電層を形成することができる。
第4発明によれば、集積部の表面に凹凸が形成されているので、この凹凸が集積部に集まったワクモ等のダニ類の隠れ場所となる。このため、ワクモ等のダニ類がよりコロニーを形成し易い環境となるので、集積部にワクモ等のダニ類を長時間集積した状態にさせておくことができる。
第5発明によれば、帯電発生手段によって集積部の帯電層を簡便に形成することができる。しかも、帯電発生手段がコロナ放電によって帯電層を形成するので、集積部に帯電層を簡便に形成することができる。
第6発明によれば、集積部の帯電層を、物体の摩擦による摩擦帯電、密着している物体の引き剥がしによる剥離帯電、物体の衝突による衝突帯電など物体の接触または分離の際に生じる電荷分離によって帯電させている。このため、集積部の帯電層を形成するために高電圧の電圧を外部から印加する必要がないので、装置を安全かつ簡便に取り扱うことができる。
第8発明によれば、集積部の表面に凹凸が形成されているので、この凹凸が集積部に集まったワクモ等のダニ類の隠れ場所となる。このため、ワクモ等のダニ類がよりコロニーを形成し易い環境となるので、集積部にワクモ等のダニ類を長時間集積した状態にさせておくことができる。
第9発明によれば、帯電発生手段によって集積部の帯電層を簡便に形成することができる。
第10発明によれば、帯電発生手段が摩擦帯電による電荷分離によって帯電層を形成するので、集積部に帯電層を簡便に形成することができる。しかも、摩擦帯電であるので帯電層をより簡便で安全に形成することができる。
第13発明によれば、帯電層が形成された集積部をワクモ等のダニ類が生息する領域に設置するだけで、集積部近傍のワクモ等のダニ類を集積部に集めることができる。そして、集積部に集まったワクモ等のダニ類を集積部に留まらせておくことができる。しかも、集積部が電荷漏洩防止部によって保持されているので、集積部の帯電層に生じた電荷の偏りを長時間に渡って維持できる。つまり、ワクモ等のダニ類が活動する時間帯(例えば夕方から翌朝にかけての時間帯)の間、集積部の帯電状態を維持できるので、より大きなコロニーを集積部に形成させることができる。このため、ワクモ等のダニ類が発生した鶏舎において、かかる集積部を所定の場所に配置するだけで、鶏に寄生しているワクモ等のダニ類や、鶏舎や鶏のケージなどの隙間に侵入していたワクモ等のダニ類を集積部に集積させることができる。そして、集積部に集積したワクモ等のダニ類を駆除すれば、鶏舎内のワクモ等のダニ類を効率良く駆除することができる。
第14発明によれば、集積部の帯電層をコロナ放電によって形成しているので、集積部の帯電層を所望の電圧に帯電させた状態とすることができる。しかも、帯電層をコロナ放電によって帯電させるので、帯電層をより効率的かつ短い時間で形成できるから、簡便に実施できる。
第16発明によれば、集積部の表面に凹凸が形成されているので、この凹凸が集積部に集まったワクモ等のダニ類の隠れ場所となる。このため、ワクモ等のダニ類がよりコロニーを形成し易い環境となるので、集積部にワクモ等のダニ類を長時間集積した状態にさせておくことができる。
第17発明によれば、集積部の帯電層を、物体の摩擦による摩擦帯電、密着している物体の引き剥がしによる剥離帯電、物体の衝突による衝突帯電など物体の接触または分離の際に生じる電荷分離によって帯電させている。このため、集積部の帯電層を形成するために高電圧の電圧を外部から印加する必要もないので、安全かつ簡便に実施できる。
第19発明によれば、集積部の表面に凹凸が形成されているので、この凹凸が集積部に集まったワクモ等のダニ類の隠れ場所となる。このため、ワクモ等のダニ類がよりコロニーを形成し易い環境となるので、集積部にワクモ等のダニ類を長時間集積した状態にさせておくことができる。
第20発明によれば、帯電層を摩擦帯電によって形成しているので、集積部の帯電層を簡便に帯電させた状態とすることができる。しかも、摩擦帯電であるので、帯電層をより簡便で安全に形成することができる。
第21発明によれば、コロニー内に生息するワクモ等のダニ類をコロニーから追い出すことによって、ワクモ等のダニ類の駆除効率をより向上させることができる。
第22発明によれば、木酢液からなる拡散液をコロニーに対して散布等によって供給するだけで、ワクモの集積効率を向上させることができる。しかも、天然由来成分である木酢液を用いるので、鶏などの家禽等にも使用者である人にとっても安全に取り扱うことができる。
第23発明によれば、集積部を検査領域に配置すれば、検査領域内のワクモ等のダニ類を集積部に集積させてコロニーを形成させることができる。そして、解析手段によって集積部のワクモのコロニーの生息状況から、検査領域に生息するワクモ等のダニ類の状況を評価することができる。つまり、集積部を検査領域に配置しコロニーの形成状況を観察するだけで、鶏舎内におけるワクモ等のダニ類の状況を把握することができる。言い換えれば、鶏等の飼育環境の状況を評価することができるのである。すると、かかるワクモ等のダニ類の生息状況に応じて適切な対応(例えば、駆除するタイミングや、飼料による対処方法など)をとることができる。
第24発明によれば、集積部に確実にワクモ等のダニ類を集積させることができるので、集積部に形成されたコロニーに基いて検査領域に生息するワクモ等のダニ類の状況を適切に評価することができる。
第25発明によれば、吸血ダニ類の数に基いて検査領域のワクモ等のダニ類の生息状況を把握することができるので、検査領域の飼育環境を適切に評価することができる。
第26発明、第27発明によれば、吸血することによって変化するワクモ等のダニ類の体表面の色に基いて、吸血ダニ類と他のワクモ等のダニ類を区別(識別)するので、コロニーに存在する吸血ダニ類の数を正確かつ簡便に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の害虫集積装置1の概略説明図であって、(A)は断面図であり、(B)はワクモが集積装置1の集積部10に集積してコロニーWCを形成した状態の斜視図である。
図2】本実施形態の害虫集積装置1を用いた本実施形態の害虫集積方法の概略説明図であり、(A)はウインドレス鶏舎CHの斜視図であり、(B)はウインドレス鶏舎内に本実施形態の害虫集積装置1を設置した状態の概略説明図である。
図3】本実施形態の害虫集積装置1の集積部10にワクモが集積する経路の概略説明図である。
図4】本実施形態の害虫集積装置1の集積部10に静電気Eを帯電させるための帯電発生手段20の概略説明図であり、(A)は本実施形態の害虫集積装置1の集積部10と帯電発生手段20の概略説明図であり、(B)は帯電発生手段20の帯電形成部の概略説明図であり、(C)は集積部10に静電気Eを帯電させた状態の概略説明図である。
図5】本実施形態の害虫集積装置1にヒータHを設けた状態の概略説明図であり、(A)は概略斜視図であり、(B)は概略断面図であり、(C)は本実施形態の害虫集積装置1から集積部10を除いた状態の概略説明図である。
図6】実施例の実験装置近傍のケージにおける測定点の状態を示した図であり、(A)は実験装置配置直前の状態を示した図であり、(B)は実験装置を配置して2日後の状態を示した図である。
図7】実施例の実験装置の集積部におけるワクモのコロニーの状況を示した図であり、(A)は実験装置の設置30分後の状況を示した図であり、(B)は1時間後の状況を、(C)は48時間後の状況を示した図である。
図8】実施例の比較実験のケージにおける測定点の状態を示した図であり、(A)は実験装置配置直前の状態を示した図であり、(B)は実験装置を配置して3日後の状態を示した図である。
図9】実施例の実験装置における静電気環境の有無が集積効率に与える影響を示した図である。
図10】木酢液による忌避効果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の害虫集積方法は、表面に静電気を帯電させた集積部を有する害虫集積装置を用いてワクモ等のダニ類を集積させる方法である。
本発明は、今回初めて見出されたワクモ等のダニ類が静電気に集まるという性質に基いて完成された発明である。
【0020】
本発明の害虫集積装置を用いた害虫集積方法は、ワクモ(学名: Dermanyssus gallinae)を集積させるのに適しているが、集積させる対象となる害虫は、ワクモに限定されず、ワクモと同様の性質を有するトリサシダニ(学名:Ornithonyssus sylviarum)など、家禽や家畜など哺乳類を吸血するダニ類にも適用することができる。とくに、対象となるダニ類のうち、ワクモのようにコロニーを形成するものであれば、より効果的に本発明の害虫集積装置の集積部に留まらせておくことができる。
以下では、本発明の害虫集積装置の集積部に集積させる対象となるダニ類の一例として、家禽産業において重大な被害をもたらしているワクモを集積部に集積させた場合について、説明する。
【0021】
また、本明細書において、集積とは、ワクモやトリサシダニなどのダニ類の各個体が積み重なった状態やコロニー(巣)を形成した状況を含む概念である。
【0022】
まず、本発明の害虫集積方法について説明する前に、害虫集積装置の概略について説明する。なお、本実施形態の害虫集積装置についての詳細は後述する。
【0023】
(害虫集積装置1の説明)
図1に示すように、害虫集積装置1は、集積部10と、この集積部10を保持する電荷漏洩防止部3と、を備えている。
【0024】
(集積部10について)
図1に示すように、集積部10は、表面10sに静電気Eを帯電させることができる素材であって、その表面に帯電層を形成できる部材である。電荷漏洩防止部3は、集積部10に帯電層を形成した状態において、かかる集積部10を保持した状態で地面等に設置したときに、集積部10の帯電層に帯電した静電気Eが地面等に逃げるのを防止する素材で形成された部材である。
【0025】
なお、図1(B)に示すように、害虫集積装置1には、収容部10を電荷漏洩防止部3に保持した状態で収容することができるベース部2が設けられているのが好ましい。このベース部2が設けられていれば、電荷漏洩防止部3に集積部10を保持した状態で持ち運んだりする際の取り扱いが容易となる。
【0026】
また、本明細書にいう害虫集積装置に用いる静電気とは、害虫集積装置の集積部において、電荷の偏りが生じた現象のことをいい、摩擦や接触などによって集積部に電荷の偏りを形成する場合はもちろん、コロナ放電装置から放出された帯電したイオンによって集積部に電荷の偏りを形成した場合のことも含む概念であるが、詳細については後述する。
【0027】
(害虫集積方法の説明)
つぎに、本実施形態の害虫集積方法について説明する。
図2において、符号CHは、閉鎖型鶏舎(ウインドレス鶏舎)(以下、単に鶏舎という)を、符号KGは鶏用のケージを、符号PWは鶏舎内の通路を示している。この鶏舎CHは、窓がなく、鶏舎内の温度や湿度等を調整する機能を有する温湿度調整装置などが設けられているものであればとくに限定されない。また、ケージKGは、鶏を収容することができるもの、例えば、鶏卵採取用に使用される一般的なケージあればとくに限定されない。
【0028】
以下では、鶏舎CHにおいて、害虫集積装置1を使用してワクモを集積する方法を説明する。
【0029】
まず、害虫集積装置1の集積部10の表面10sに静電気Eを帯電させた帯電層を形成する。例えば、集積部10がアクリル樹脂製の場合、集積部10の表面10sをポリエステル製の布などでこすることによって集積部10の表面10sに帯電層を形成することができる。また、コロナ放電装置から帯電したイオンを集積部10の表面10sに供給することによって集積部10の表面10sに帯電層を形成することも可能である。なお、集積部10の表面10sに帯電層を形成する方法などの詳細は後述する。
【0030】
つぎに、図2(B)に示すように、上記のごとき集積部10の表面10sに帯電層を形成した害虫集積装置1を、鶏舎CH内の通路に配置する。このとき、隣接する害虫集積装置1の集積部10を約1〜1.5m間隔で配置する。言い換えれば、一の集積部10によって半径約1〜1.5mの領域がカバーできるように配置する。かかる状況となるように配置すれば、効率良くワクモを集積部10に集積させることができる。そして、所定の時間(例えば、24時間)静置した後、害虫集積装置1を回収する。
【0031】
なお、一般的に、ワクモは、昼間の時間帯は巣に留まり、夜間になると巣から這い出てきて活発に行動をすることから、害虫集積装置1を鶏舎CHに配置する時間帯は、夕方から明け方に掛けての時間帯が好ましい。
【0032】
以上のごとく、静電気Eを帯電させた集積部10を有する害虫集積装置1をワクモが生息する鶏舎CH内に配置するだけで、集積部10近傍のワクモを集積部10に集めることができる。例えば、図1に示しように、害虫集積装置1の集積部10の表面10s上や集積部10と電荷漏洩防止部3の隙間にワクモを集めることできる。
【0033】
しかも、図1に示すように、集積部10に集まってきたワクモを留めておくことができる。その理由は、以下のように推察される。
まず、集積部10に集まってきたワクモの数がある程度となれば、各個体がそれぞれ重なりあうように積み重なり(集積して)、集積部10に巣WC(以下、コロニーWCという)を形成する。一旦、コロニーWCが形成されれば、ワクモはコロニーWCに留まるという習性を有するので、ワクモを集積部10に留めておくことができるのである。
つまり、本発明の害虫集積方法は、集積する(コロニーを形成する)というワクモの性質を利用しているのである。
【0034】
したがって、ワクモが発生した(ワクモに汚染された)鶏舎CH内において、害虫集積装置1の集積部10を所定の場所に配置するだけで、鶏CKに寄生しているワクモや、鶏舎CHや鶏のケージKGなどの隙間に侵入していたワクモを集積部10に集積させることができる。そして、集積部10に集積したワクモを駆除すれば、鶏舎CH内のワクモを効率良く駆除することができる。
【0035】
また、ワクモのコロニーWCは、害虫集積装置1を配置した時間に比例して大きくなる。一方、ワクモのコロニーWCの大きさは、集積部10から所定の範囲の領域に生息するワクモの数にも比例する。そして、ワクモのコロニーWCの大きさは、コロニーWC内に生息するワクモの数の増加に伴って大きくなる。したがって、ワクモを効率良く駆除する上では、生息するワクモが多いと推定される場所に、ある程度長期間、集積部10を配置しておくことが好ましい。
【0036】
(ワクモの集積経路について)
また、ワクモが集積部10に集まる経路は、以下のような経路が想定することができる。
図3に示すように、鶏舎CH内の隙間(例えば、図3(A)では、ケージKGの金属部材のヒンジ部)に形成したコロニーWC内のワクモが、直接、集積部10に集まる経路が想定される。一方、鶏舎CH内の隙間から這い出したワクモは、一旦、鶏CKを介して集積部10に集まるといった経路を想定することができる。
【0037】
さらにまた、静電気Eによって形成された集積部10の帯電層にワクモが集まる現象は、発明者らによって初めて見出された現象である。その理由は現在のところ不明であるが、以下のこともその一因となっていると推認できる。
【0038】
ワクモは、鶏舎CHの隙間等にコロニーWCを形成し、このコロニーWCと鶏CKの間を往復するというライフスタイルを有する。具体的には、ワクモは、コロニーWCから鶏CKまで移動し、鶏CKの血を吸血し、再びコロニーWCまで移動するといった生活を送っている。このワクモが好んで吸血する鶏などの鳥類の血液は、人間等の血液と異なり、その内部の電荷が偏りを有しているといわれている。
【0039】
また、ワクモの繁殖には、鳥類の血液が必須であるともいわれている。鳥類、とくに鶏の血液は有核赤血球を持ち、ヒトの赤血球に比べると同じ血液量に含まれるDNA成分やゲノム量が大きく異なる。DNA成分やゲノムは負に帯電していることから、大量に吸血したワクモが帯電した血液内成分の影響を受け、ワクモの自発的行動に何らかの影響を及ぼす可能性が推察される。
とくに繁殖期を迎えるワクモにおいて、体内または体外の電荷の変動を生命活動の重要な要素に位置づけている可能性があると推認できる。例えば、静電気がワクモに対して繁殖行動を誘引させる要因であり、ワクモは、繁殖のために静電気が帯電した集積部10にコロニーWCを形成した、と想定することもできる。
【0040】
まとめると、害虫集積装置1では、ワクモの性質に起因して、静電気Eを帯電させた集積部10にワクモを集積させることができる。そして、集積部10に集積したワクモを駆除すれば、ワクモを効率良く駆除することができる。
また、本発明の害虫集積装置1は、集積部10によってワクモを集積させるだけでなく、新たなワクモの増殖を抑制することが可能となる。例えば、集積部10に帯電させた電気量に基いてコロニーWCの質を制御すれば、効果的な駆除に必要な薬物開発の応用に貢献できる可能性がある。
【0041】
(電荷分離による帯電)
集積部10の表面10sに帯電させる方法はとくに限定されないが、例えば、異なる部材(物体)間を接触または分離等によって生じる電荷分離により帯電させることができる。
具体的には、異種の物体の摩擦による摩擦帯電、密着している物体の引き剥がしによる剥離帯電、異種の物体の衝突による衝突帯電など、異種の物体を接触または分離することによって、両者の接触等した表面(いわゆる界面)にそれぞれ異なる正または負の電荷を残留させることができる。つまり、かかる電荷分離によって、集積部10の表面10sと、この表面10sに接触等させた部材の表面にそれぞれ正または負の静電気Eを帯電させることができる。
【0042】
かかる方法で帯電させると、集積部などに外部電源などから高電圧を印加しないので、高電圧を印加して静電気を発生させるような場合に比べて害虫集積装置1の取り扱いが容易となる。具体的には、高電圧を印加した場合、絶縁破壊が発生すると、両電極間や電極と被放電対象物体等の間などに電流が流れるので、人や動物等にとって非常に危険である。しかし、本実施形態の害虫集積方法に使用する害虫集積装置1の集積部10では、その表面10sを電荷分離によって形成しているので、外部電源から高電圧を印加する装置等に比べてより安全に取り扱うことができる。
【0043】
さらに、集積部10には、電源を接続する配線等も不要となるので、地面、通路PWや壁等から離れた場所(例えば、鶏舎CH内のケージKGの上部など)でも自由に集積部10を配置することができる(図2(B)参照)。このため、鶏舎CH内のより広い範囲の領域に集積部10を設置できるから、鶏舎CH内のほぼ全域をカバーすることができる。この場合、集積部10に帯電層を形成するために、外部から集積部10に対して高電圧を印加する必要もないので、集積部10を鶏舎CH内に配置する際に、その取り扱いを安全に行うことができる。
【0044】
また、集積部10の表面10sに静電気Eを帯電させる方法としては、電荷分離による帯電方法のうち摩擦帯電によって生じた静電気Eを帯電させる方法を採用することができる。具体的には、集積部10と異なる材質の部材を、集積部10の表面10sに接触させてすり合わす(摩擦)によって発生させることができる。
【0045】
例えば、上述したように、例えば、集積部10がアクリル樹脂製の場合、ポリエステル製の布を集積部10の表面10sに接触させ、こすり合わすことによって摩擦帯電を集積部10の表面10sに形成することができる。この場合、集積部10の表面10sの帯電層を摩擦帯電によって形成しているので、集積部10の帯電層の形成を誰でも簡便に帯電させた状態とすることができ、しかも摩擦帯電であるので帯電層の形成をより簡便で安全に行うことができる。
【0046】
また、図1または図3に示したように、集積部10は、電荷漏洩防止部3の上面3sに集積部10の底面10bが略接するように保持されている。この電荷漏洩防止部3は、電気を通しにくい素材で形成された部材である。このため、かかる状態において、集積部10に静電気Eを帯電させても、この静電気Eは、電荷漏洩防止部3を伝って外部に漏洩しない。つまり、集積部10は、絶縁された状態に維持されるので、長時間に渡って集積部10に静電気Eを帯電させておくことができるのである。
したがって、鶏舎CH内において、ワクモが活動する時間帯(例えば夕方から翌朝にかけての時間帯)に、害虫集積装置1の集積部10を配置しても、集積部10の帯電状態を維持できるので、より大きなコロニーWCを集積部10に形成させることができる。
【0047】
また、集積部10は、電荷漏洩防止部3の上面3sに集積部10の底面10bが略接するように配置した状態において、底面10bと電荷漏洩防止部3の上面3sとの間に隙間10hが形成することができる構造が好ましい。
この集積部10の底面10bと電荷漏洩防止部3の上面3sとの間に形成された隙間10hは、集積部10に集まったワクモにとって隠れ場所となる。ワクモは、上述したように、鶏舎CH内における狭い隙間を好み、かつかかる隙間にコロニーWCを形成する。このため、かかる隙間10hによって、ワクモがよりコロニーWCを形成し易い環境となるので、集積部10にワクモを長時間集積した状態にさせておくことができる。
【0048】
なお、集積部10に集積されたワクモは最終的に駆除されるが、集積部10に集積したワクモの駆除方法は、とくに限定されない。例えば、後述するように、集積部10にワクモが集積した状態において、ワクモが死滅する程度の熱(例えば、65度以上)を集積部10に供給する機能を集積部10に設けてもよい。例えば、図5に示すように、集積部10と電荷漏洩防止部3の間にヒータHを設けてもよい。このヒータHによって、集積部10にワクモのコロニーWCが形成された後、集積部10の温度を約65度以上とすれば、ワクモを効率良く駆除することができる。
【0049】
(コロナ放電による帯電)
また、上記例では、集積部10の表面10sに帯電させる方法として、電荷分離により帯電させる方法を説明したが、コロナ放電により帯電させる方法を採用してもよい。具体的には、コロナ放電によって発生したイオンを集積部10の表面10sに導けば、集積部10の表面10sに電荷的な偏りが生じた帯電層を形成することができる。この場合、コロナ放電で発生させるイオン量を調整すれば、帯電層の帯電状態を調整することができるので、所望の電荷を有する帯電層を簡単に形成することができる。しかも、効率的かつ短い時間で帯電層を形成することができる。詳細は、後述する。
【0050】
(害虫集積装置1の詳細な説明)
上記例では、害虫集積方法について説明したが、以下では、かかる害虫集積方法を実現するための害虫集積装置1について詳細に説明する。
【0051】
図1に示すように、害虫集積装置1は、集積部10と、この集積部10を保持する電荷漏洩防止部3と、を備えている。
【0052】
(集積部10について)
図1に示すように、集積部10は、表面10sに静電気Eを帯電させることができる素材であって、その表面に帯電層を形成できる部材である。集積部10は、表面の帯電層に静電気を帯電させることができるものであれば、その素材はとくに限定されない。例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、フッ素樹脂のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ塩化ビニル、硝子、鉄などの金属などを採用することができる。なお、集積部10の素材として、アクリル樹脂を採用すれば、厚さを約3mmとした場合であっても十分な強度を保つことができるので好ましい。
【0053】
また、集積部10は、その形状および大きさはとくに限定されない。例えば、鶏舎CHの通路やケージKGの上などに配置する場合には、図1に示すように、長辺が約300mm、短辺が約200mmの平面視略長方形の略板状の部材を採用することができる。かかる大きさに形成すれば、鶏舎CHの通路やケージKGの上などに配置しても採卵等をする作業者の邪魔にならないし、設置等する場合に取り扱い易くなる、ので好ましい。
【0054】
また、集積部10は、その厚さが3mm〜5mmであることが好ましい。かかる厚さにすると、表面10sで形成された静電気Eによって生じる電界を集積部10の底面10bまで到達させることができる。電界を集積部10の底面10bまで到達させれば、集積部10の底面10bと電荷漏洩防止部3の上面3sとの間に形成された隙間10h内部まで侵入させ、かかる隙間10h内にコロニーWCを形成させることができる。つまり、集積部10に集まったワクモを、より長時間集積部10に留まらせておくことができるので、集積部10に大きなコロニーWCを効率的よく形成させることができる。
【0055】
(電荷漏洩防止部3について)
図1に示すように、電荷漏洩防止部3は、その形状が集積部10の形状と略相似形であって、その大きさが集積部10の大きさと略同じとなるように形成されている。そして、この電荷漏洩防止部3は、その上面3sに集積部10を保持した状態で地面等に設置したときに、集積部10の帯電層に帯電された静電気Eが地面等に逃げるのを防止する素材で形成された部材である。
【0056】
具体的には、電荷漏洩防止部3は、その表面抵抗率が1010Ω以上かつ体積抵抗率が10Ω・m以上の部材(いわゆる不導体)で形成されたものが好ましい。電荷漏洩防止部3の表面抵抗率、体積抵抗率のいずれかが上記の値よりも小さい場合には、この電荷漏洩防止部3の上面3sに配置した集積部10の帯電層に帯電した電荷(表面電荷)が電荷漏洩防止部3を介して漏洩し易くなるからである。上記の条件は、電荷漏洩防止部3の素材として、合成樹脂に気泡を含ませた発泡性合成樹脂(例えば、発泡ポリスチレン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂、等を採用すれば満たすことができる。
【0057】
以上のごとき構成であるから、図1に示すように、集積部10の表面10sに静電気Eを帯電させた帯電層を形成すれば、集積部10にワクモを集めることができる。しかも、図1に示すように、集積部10に集まったワクモにコロニーWCを形成させることができる。つまり、集積部10に集まったワクモを集積部10に留まらせておくことができるのである。
【0058】
また、集積部10が上記のごとき条件を満たす素材で形成された電荷漏洩防止部3によって保持されていれば、集積部10の表面10sの帯電層に生じた電荷の偏り(つまり、帯電した静電気E)を長時間に渡って維持できる。つまり、ワクモが活動する時間帯(例えば、夕方から翌朝にかけての時間帯)の間、集積部10の帯電状態を維持できるので、より大きなコロニーを集積部10に形成させることができる。
【0059】
また、集積部10の表面10sに帯電させる静電気Eは、上述したように、異なる部材(物体)間を接触または分離等によって生じる電荷分離により帯電させたものを採用することができる。電荷分離により帯電させた静電気Eは、異種の物体の摩擦による摩擦帯電、密着している物体の引き剥がしによる剥離帯電、異種の物体の衝突による衝突帯電など、異種の物体を接触または分離することによって、両者の接触等した表面(いわゆる界面)にそれぞれ異なる正または負の電荷を残留させることができる。
【0060】
とくに、電荷分離によって発生させることができる静電気Eは、その発生する電荷の大きさおよび極性が、接触または分離する二つの物体(部材)の種類によってある程度調整することができる、という利点がある。
例えば、集積部10の素材としてアクリル樹脂を採用し、他方の部材としてナイロン製の繊維を採用し、両者を擦り合わすようにして接触させれば、集積部10の表面10sに負極(−極)の電荷を帯電させることができる。つまり、集積部10の素材と他方の部材の素材を適宜選択することによって、集積部10に正極の電荷を有する帯電層を形成したり、負極の電荷を有する帯電層をそれぞれ任意に形成したりすることができるのである。しかも、両者の接触抵抗や接触時間を調整することによって、約5kv〜10kvの静電気Eを集積部10の帯電層に帯電させることができる。
【0061】
つまり、集積部10を、上記のごとき電荷分離によって帯電させれば、集積部10の帯電層を形成するために高電圧の電圧を外部から印加する必要もないから、害虫集積装置1を安全かつ簡便に取り扱うことができるのである。
【0062】
(帯電発生手段20の説明)
また、本実施形態の害虫集積装置1は、上記のごとき電荷分離によって集積部10の帯電層を形成する機能を有する帯電発生手段20を備えている、のが好ましい。
例えば、図4に示すように、この帯電発生手段20は、略矩形状の部材であって、正面と背面を貫通する帯電形成部を備えている。この帯電形成部は、害虫集積装置1または集積部10を収容可能な大きさに形成されており、その内部上方には、ローラ21が設けられている。このローラ21は、回転可能に取り付けられており、しかも、帯電形成部内に害虫集積装置1または集積部10を収容したときに、集積部10の表面10sとローラ21の表面21sとが接するように取り付けられている。
【0063】
以上のごとき構成とすれば、害虫集積装置1または集積部10を帯電発生手段20の帯電形成部に挿入するだけで、集積部10の表面10sに摩擦帯電による電荷分離によって帯電層を容易に形成することができる。そして、図4(C)に示すように、帯電発生手段20の帯電形成部の背面の開口から排出された集積部10の表面10sには、摩擦帯電による静電気Eを帯電させた帯電層を形成することができる。つまり、帯電形成手段20の帯電形成部に集積部10を挿入するだけで、より簡便に集積部10に帯電層を形成することができる。しかも、かかる帯電層は、ローラ21の表面21sと集積部10の表面10sをこすれ合わすだけの摩擦帯電によって形成された静電気Eによって帯電されているので、帯電層の形成をより簡便で安全に行うことができる。
【0064】
また、ローラ21は、集積部10に対して相対的に移動することができる構造が好ましい。例えば、図4(B)に示すように、ローラ21自体が帯電形成部の軸方向(図4(B)では左右方向)に沿って摺動可能に設けられていれば、より効率的に集積部10の表面10sに帯電層を形成することができる。
さらに、ローラ21は、上下に揺動可能に設けられていれば、害虫集積装置1または集積部10の大きさや厚さが変動した場合であっても、ローラ21の表面21sと集積部10の表面10sを確実に接触させた状態にできる。
さらにまた、図4に示すように、帯電形成部の内部下方にローラRを設ければ、害虫集積装置1または集積部10を収容したり、取り出したりし易くすることができる。
【0065】
なお、図4(C)に示すように、この静電気Eを帯電させた集積部10は、電気を通しにくい素材で形成された絶縁部材30内に収容すれば、かかる集積部10の取り扱いをより安全かつ簡便に行うことができる。
【0066】
また、上記例では、帯電発生手段20の帯電形成部に設けられたローラ21によって集積部10の表面10sに摩擦帯電による電荷分離によって帯電層を形成する場合について説明した。しかし、集積部10の表面10sに帯電層を形成する手段は上記手段に限定されない。例えば、帯電発生手段20の帯電形成部がコロナ放電を発生させることができるコロナ放電器を設けた構成を採用してもよい。
【0067】
例えば、帯電発生手段20の帯電形成部の内部上方にコロナ放電部器を設ける。コロナ放電器は、コロナ放電によりイオンを発生させるイオン発生部と、発生したイオンを外部に放出するためのイオン放出部を有している。そして、帯電形成部内に集積部10が収容された状態において、イオン放出部が集積部10の表面10sと対向するように、帯電形成部内にコロナ放電器を配設する。つまり、イオン放出部から放出されたイオンが集積部10の表面10sに供給(照射)されるように、帯電形成部内にコロナ放電器を配設する。すると、帯電発生手段20の帯電形成部に害虫集積装置1または集積部10を帯電発生手段20の帯電形成部に挿入して、コロナ放電部を作動させれば、集積部10の表面10sに静電気Eを帯電させた帯電層を形成することができる。しかも、コロナ放電器を使用すれば、上述した摩擦帯電によって帯電層を形成する場合に比べて、より短い時間で帯電層を形成することができる。
また、コロナ放電器を使用して帯電層を形成すれば、上述した摩擦帯電によって帯電層を形成する場合に比べて、集積部10の表面10sに大量の電荷を有する帯電層を形成することができるので、集積部10がワクモを集めるという効果をより長時間維持することができる。
さらに、コロナ放電部は、帯電発生手段20の帯電形成部内に収容された状態、つまり外部から隔離された状態であるので、取り扱いをより安全に行うことができる。
【0068】
また、集積部10は、電荷漏洩防止部3の上面3sに集積部10の底面10bが略接するように配置した状態において、底面10bと電荷漏洩防止部3の上面3sとの間に隙間10hを形成することができる構造が好ましい。この場合、この隙間10hが、集積部10に集まったワクモの隠れ場所となる。すると、ワクモにとってよりコロニーWCを形成し易い環境となるので、集積部10にワクモを長時間集積した状態にさせておくことができる。
【0069】
この隙間10hは、ワクモが侵入し、かかる場所においてコロニーWCを形成することができるものであれば、その大きさおよび形状は、とくに限定されず、また隙間10hを形成方法もとくに限定されない。
例えば、図1に示すように、集積部10の底面10bには、平面視略四角錐の複数の凸部を設けた構造を採用することができる。この複数の凸部が設けられた集積部10の底面10bは、その断面が断面略三角形に形成できる。つまり、隣接する凸部間に谷間部(凹部)を形成することができるのである。この集積部10の底面10bと荷漏洩防止部3の上面3sを対向するように配置すれば、複数の凸部の頂点部が電荷漏洩防止部3の上面3sと接するが、凹部は荷漏洩防止部3の上面3sに接しない状態とすることができる。このため、凹凸表面と電荷漏洩防止部3の上面3sとの間で囲まれた空間つまり隙間10hを形成することができる。ワクモが集積部10に集まった状態において、この凹凸によって形成された隙間10hが、集積部10に集まったワクモの隠れ場所となる。すると、ワクモにとってよりコロニーWCを形成し易い環境となるので、集積部10にワクモを長時間集積した状態にさせておくことができる。
【0070】
なお、図5に示すように、集積部10と電荷漏洩防止部3の間にヒータHを設けた構成を採用してもよい。このヒータHは、上述したように、集積部10にワクモが死滅する程度の熱(例えば、65度以上)を供給する機能を有するものが好しい。このヒータHは、時間によって温度を瞬間的に変更することができる機能を有していればより好ましい。
【0071】
例えば、かかるヒータHが設けられた害虫集積装置1を鶏舎CH内に配置した状態において、設置初期では、集積部10の表面10s温度が鶏の体温に近い約30〜40度程度に設定する。かかる温度にすることによって、ワクモをより集積部10に集積させることが可能となる。そして、ワクモが集積部10にコロニーWCを形成し終えた段階では、瞬間的に集積部10の表面10sの温度を65度以上になるようする。この場合、集積部10の表面10sが65度以上になれば、ワクモが死滅する温度以上となるので、集積部10にワクモを集積させた状態で確実にワクモを駆除することができる。
【0072】
ヒータHおよび電荷漏洩防止部3の構成は、とくに限定されないが、例えば、以下のような構成とすることができる。
ヒータHは、電気エネルギーを熱エネルギーに変換し集積部10熱を供給するためのヒータ部と、ヒータ部の熱を調整するための温度コントローラと、を備えており、ヒータ部にはヒータ部の熱を感知し、感知した温度を温度コントローラに送信する温度センサーが設けられている。
また、電荷漏洩防止部3には、その形状が上面3sから下方に向かってヒータ部収容空間3h設けられている。このヒータ部収容空間3hは、ヒータ部と略相似形の形状であり、大きさがヒータ部より若干大きくなるように形成されている。
【0073】
すると、図5(B)および(C)に示すように、ヒータ部収容空間3hにヒータHのヒータ部を収容すれば、ヒータ部の表面Hsと電荷漏洩防止部3の上面3sを略面一となるように配置できる。この場合、集積部10に集まったワクモが集積部10と電荷漏洩防止部3との間に形成された隙間10hに侵入するときの邪魔にならないので、よりスムースに隙間10h内にワクモを侵入させることができる。
【0074】
(拡散液の説明)
上述したように、静電気を帯電させた集積部を有する本発明の害虫集積装置をワクモが生息する鶏舎内に配置するだけで、集積部近傍のワクモを集積部に集めることは可能である(図1および図2参照)。
【0075】
つまり、本発明の害虫集積装置をワクモが生息する領域に配置すれば、領域内に生息するワクモの数を確実に減少させることができるので、集積部近傍に存在するコロニーの規模を小さくさせることはできる。
しかし、ケージの金属部材のヒンジ部などの鶏舎内の隙間に形成されたワクモのコロニー自体を駆除することは難しい。ワクモの棲家であるコロニー自体が存続可能な状況(例えば、コロニーで繁殖を行うワクモが生息している状況)が維持される以上、ある程度の数のワクモは、かかるコロニーに生息しつづける、つまり、鶏舎内に生息しつづけるものと予想される。
【0076】
上述したような鶏舎内の隙間に形成されたコロニーに生息するワクモをコロニーから追い出すことができれば、追い出したワクモを本発明の害虫集積装置の集積部に集積させることができるので、ワクモの駆除効率をより向上させることができる。
例えば、ワクモに対して忌避効果を有する拡散液を、散布や噴霧等によってコロニー(つまりコロニーに生息するワクモ)に供給すれば、コロニーに生息するワクモを拡散させることができる。この拡散液は、コロニーに対して散布等で供給した際に拡散液が鶏に対して安全でストレス(例えば、産卵数の減少等)とならないものが好ましい。
【0077】
ワクモに対して忌避効果を有し、かつ鶏に対してストレスを与えない拡散液として木酢液を挙げることができる。この木酢液は、天然物由来の成分であって害虫に対して忌避効果を有するとされているので、好ましい。例えば、忌避効果を有しつつ、鶏に対してストレスを与えない濃度となるように調製した木酢液を採用することがきる。
【0078】
本発明の害虫集積装置の集積部の近傍のコロニーが存在しそうな場所に対して上記のごとき調製した木酢液(以下、単に調製木酢液という)を散布すれば、調製木酢液が有するワクモ忌避効果によってコロニーからワクモが離れるように拡散させることができる。しかも、調製木酢液を散布等することによって、(微)粒子状の調製木酢液をコロニーに吸着させることができるので、忌避効果を長時間持続させることができる。このため、調製木酢液を散布等したコロニーにワクモが再度集積するのを防止することができる。言い換えれば、拡散させたワクモに対して、別の場所で新たにコロニーを形成させるような状況となるようにワクモをおくことができるのである。
【0079】
かかる状況となるように追いやられたワクモは、上述したように、ある程度の時間が経過するとコロニーを形成するという性質を有しているので、本実施形態の害虫集積装置の集積部を調製木酢液を散布した近傍に配置しておけば、コロニーから追いやられたワクモを害虫集積装置の集積部に集めることができる。
【0080】
したがって、本実施形態の害虫集積装置の集積部と調製木酢液を併用すれば、徘徊するワクモはおろか、コロニー内を棲家として繁殖しながら生息するワクモであっても、本実施形態の害虫集積装置の集積部に集積させることができるので、ワクモの集積効率をより向上させることができる。しかも、木酢液は、天然由来成分であるので、鶏にも使用者である人にとっても安全に取り扱うことができる。さらに、コロニーに対して木酢液を散布等によって供給するだけの簡便な作業だけなので、作業効率を抑制しつつ、ワクモの集積効率を向上させることができる。また、木炭などを生産する際に副産物として得られる木酢液を使用すれば、一般的な農薬に比べて安価に入手することができるので、経済的でもある、
【0081】
上記例では、拡散液として木などから得られた、天然の木酢液を利用した場合について説明したが、ワクモに対する忌避効果を有するものであれば、天然の木酢液に限定されず、合成した木酢液や竹酢液なども使用してもよい。例えば、合成の木酢液を使用する場合には、上記のごときワクモに対する忌避効果を有する木酢液に含まれる有機酸や揮発性化合物がかかる木酢液と同様の成分比となるように人工的に調製した人工木酢液なども使用してもよい。
【0082】
なお、拡散液をコロニーに対して供給する方法は、とくに限定されず、例えば、霧吹きや噴霧器などを挙げることができる。このような霧吹き等が、特許請求の範囲の拡散手段に相当する。また、拡散手段は、上記器具等に限定されず、コロニーに対して拡散液を散布等で供給できるものであれば、とくに限定されない。
【0083】
(害虫検査装置の説明)
上述したような害虫集積装置1を利用すれば、鶏舎などのワクモの生息状況を評価することも可能である。以下では、上述したような害虫集積装置1を利用した害虫検査装置について説明する。
【0084】
害虫検査装置は、ワクモを集積させるために検査領域に配置される集積部を備えた集積手段と、かかる集積部に集積したワクモによって形成されたコロニーWCの状況に基いて検査領域のワクモの生息状況を評価する解析手段数と、を備えている。
【0085】
この害虫検査装置の集積手段は、上述した本実施形態の害虫検査装置1を使用しており、その集積部に害虫検査装置1の集積部10を使用している。このため、上述したように、検査領域内のワクモを確実に集積することができるから、検査領域のワクモの生息状況を適切に評価できるのである。
【0086】
なお、集積手段は、ワクモを集積させることができるものであれば、とくに限定されないが、上述した本実施形態の害虫検査装置1を使用すれば、効率良くワクモを集積できるので好ましい。
【0087】
害虫検査装置の解析手段は、集積部10の画像を撮影する撮影手段と、この撮影手段によって撮影された画像に基いて集積部10に集積したワクモのコロニーWCを検出しそのコロニーWCの面積を算出するコロニー検出部と、コロニー検出部が検出したコロニーWCに存在するワクモの数を測定するワクモ検出部と、を備えている。
【0088】
撮影手段は、集積部10に集積したワクモのコロニーWCを撮影することができるものであればとくに限定されない。例えば、CCDカメラなどを使用することができるが、デジタル画像として撮影できるものが好ましい。
【0089】
コロニー検出部は、撮影手段によって測定された測定画像データを受信し、この測定画像データから、コロニーWCを識別し、識別されたコロニーWCの面積を計算することができるものである。コロニー検出部は、集積部10の他の部位やコロニーWC以外の物体とコロニーWCを識別でき、識別されたコロニーWCの面積を算出できるものであればよく、とくに限定されない。
例えば、画像中の明暗や色の変化に基いてコロニーWCを検出し、検出された領域の面積を画像ドット数などによって算出する機能を有したプログラム等をコロニー検出部として使用することができる。また、コロニーWCを円で近似して、その円の面積をコロニーWCの面積と推定する機能を有したプログラム等もコロニー検出部として使用できる。
【0090】
ワクモ検出部は、コロニー検出部によって検出されたワクモのコロニーWC内のワクモの数を測定することができるものである。ワクモ検出部は、コロニーWC内のワクモの数を算出することができるものであればよく、とくに限定されない。
例えば、測定画像データがデジタル画像の場合、ワクモ検出部は、コロニーWC内の明暗や色の変化と特定の色や明るさの領域の面積によって、コロニーWC内のワクモ個体を識別できる機能を有したプログラム等をワクモ検出部として使用できる。
なお、ワクモ検出部は、コロニーWC内全体について、ワクモ個体を識別してワクモの数を算出するものでもよいが、コロニーWC内の所定の面積の領域に存在するワクモの数を算出し、そのワクモの数とコロニーWCの面積によってコロニーWC内に存在するワクモの数を推定するものでもよい。
【0091】
解析手段は、上記のごときワクモ検出部やコロニー検出部によって算出された、コロニーWCの面積やそのコロニーWC内のワクモの数に基づいて、検査領域(集積部10から所定の範囲の領域)のワクモの生息状況を推定する機能を有する解析部を備えている。
【0092】
具体的には、解析部は、コロニーWCのワクモの数と面積に基いて、検査領域内に生息するワクモの数を推定する機能を備えている。かかる推定ができる理由は、以下のとおりである。
集積部10に集積したワクモは、検査領域内に生息するワクモが集積部10に移動して集積したものであると推定できる。検査領域内に生息するワクモのうち、所定の時間内に集積部10に集積するワクモの数は、検査領域内に生息する全てのワクモの数に対応していると考えられる。つまり、検査領域内に生息する全てのワクモの数が多ければ、所定の時間内に集積部10に集積するワクモの数は増加し、検査領域内に生息する全てのワクモの数が少なければ、所定の時間内に集積部10に集積するワクモの数は減少する。したがって、所定の時間内に集積部10に集積するワクモの数を把握することができれば、検査領域内に生息するワクモの数を推定することができるのである。
なお、解析部は、検査領域内の吸血量などを推定する機能を有してもよい。吸血量を推定することができれば、飼養鶏のストレスを直接計測することになるので、生産に与える影響を数値で確認できる、という利点が得られる。
【0093】
以上のごとき構成であるから、本実施形態の害虫検査装置では、集積部10を検査領域に設置し、集積部10にワクモを集積させてコロニーWCを形成させれば、コロニーWCの状況を解析手段によって解析することによって、検査領域内に存在するワクモの生息状況を評価することができる。つまり、鶏舎CH内におけるワクモの生息状況を把握することができる。言い換えれば、鶏CK等の飼育環境の状況を評価することができるのである。すると、かかるワクモの生息状況に応じて適切な対応(例えば、駆除するタイミングや、飼料による対処方法など)をとることができる。
【0094】
とくに、ワクモ検出部が、ワクモの体表面の色を識別できる機能を有するものが好ましい。この場合、コロニーWC内のワクモのうち、吸血したワクモ(以下、単に吸血ワクモという)をその他表面の色に基いて、他のワクモと識別(区別)して検出し、この吸血ワクモの数だけを測定してもよい。集積部10のコロニーWC内に存在する吸血ワクモの割合は、検査領域内の吸血ワクモの割合と対応するものと考えることができる。そして、ある領域内の吸血ワクモの割合は、その領域内の総ワクモ数と対応していると考えられる。すると、コロニーWC内の全てのワクモの数を把握しなくても、吸血ワクモの数を把握すれば、簡便に検査領域内のワクモの生息状況を把握することができる。しかも、吸血ワクモは識別しやすいので、全てのワクモの数を把握するよりも、推定精度の向上も期待できる。
【0095】
吸血ワクモは、以下のように判断することができる。
吸血ワクモは、その体表面が吸血した血液の色(例えば、赤褐色に近い色)を呈するようになる。例えば、RGBカラーモデルによって評価した場合には、吸血ワクモの体表面の色は、R82−99、G47−67およびB69−82の範囲内の色となる。このため、撮影手段によって測定されたデジタル画像データについて、上記色の領域の数や面積を検出すれば、吸血ワクモの数を推定することができる。しかも、所定の色の数や領域を計測するだけであるので、ワクモの数をより簡便かつ迅速に計測できる。
【0096】
なお、上記例では、本実施形態の害虫集積装置1をワクモを集めて捕えたり検査したりするために使用する場合について説明したが、本実施形態の害虫集積装置1は、ワクモと同様の性質を有するワクモ以外のダニ、ハエなどの節足動物などにおいても同様の目的に使用し得る可能性を有する。
【実施例1】
【0097】
コロニーに存在するワクモの数を、画像処理によって測定できることを確認した。
実験では、鶏舎内の所定の測定点に形成されたワクモのコロニーを撮影し、その撮影画像を目視によって確認して測定されたコロニーに存在する吸血ワクモの数と、画像処理によって検出されコロニー内に存在する吸血ワクモの数とを比較した。
【0098】
鶏舎は、窓がない鶏舎(いわゆるウインドレス鶏舎)を使用した。このウインドレス鶏舎は、内部に作業用の通路が設けられており、通路の両側には3段の金属製の鶏用ケージが配置された鶏舎である。
このウインドレス鶏舎内に養鶏されていた鶏は、採卵用に飼育されたものであり、鶏の総数は、約90羽であった。
【0099】
ワクモのコロニーの撮影は、CCDカメラ(Panasonic社製、型番:DMC-FT20)を用いて行った。撮影した条件は、ワクモが集積しているケージのつなぎ目、ワイヤーに対して水平角に対して上部20度から、5cmの距離にレンズを固定し、フラッシュ撮影する。なお、ワクモの大きさが、上記CCDカメラの約1000〜5600画素となるように撮影した。つまり、1mm四方が、3819画素に相当するように撮影した。
【0100】
画像処理による吸血ワクモの数の検出は、CCDカメラで撮影した画像データを受信し解析する機能を有するデジタル画像解析手段を使用した。
このデジタル画像解析手段として、ノート型PC(Acer社製、型番:Aspire5750)を使用した。このノート型PCは、ハードディスク(HDD)を有するものを使用し、データ等の記憶部としてこのHDDを使用した。
また、吸血ワクモの数は、PCにインストールされている画像解析処理プログラムソフト(WinRoof V6.5、三谷商事株式会社製)によって算出した。
吸血した吸血ワクモはその体表面の色が変化するので、その色となっている画像のドット数を吸血ワクモ(吸血痕)の数とした。本実験では、RGBカラーモデルにおいて、R82−99、G47−67およびB69−82の範囲内の色を吸血ワクモの色と判断した。
【0101】
結果として、目視によって確認して測定されたコロニー内に存在する吸血ワクモの数と、画像処理によって検出されたコロニー内に存在する吸血ワクモの数とは、ほぼ同じ数となることが確認された。つまり、RGBカラーモデルにおいて、R82−99、G47−67およびB69−82の範囲内の色を吸血ワクモと判断し、かつ、上記条件で撮影を行えば、画像処理でも吸血ワクモの数(つまり、吸血痕の数)を検出することができることが確認された。
【実施例2】
【0102】
本発明の害虫集積方法および害虫集積装置の有効性を確認した。
実験では、集積部に摩擦帯電によって帯電層を形成した後、かかる集積部をワクモが存在する鶏舎内に配置することによって集積部にワクモが集積することを確認した。また、鶏舎内における集積部近傍のワクモ数の測定実験を行い本発明の装置および方法の有効性を確認した。
【0103】
実験に使用した装置および条件は、以下のとおりである。
【0104】
集積部には、素材としてアクリル樹脂を採用し、その大きさが、短辺の長さ(幅)175mm、長辺の長さ(長さ)250mmの板状に形成した厚さ5mmのアクリルパネルを使用した。なお、アクリルパネルは、その下面に凹凸が形成されているものを使用した。
電荷漏洩防止部は、素材として発泡ポリスチレン樹脂を採用し、その大きさが、短辺の長さ(幅)175mm、長辺の長さ(長さ)250mmの板状に形成した厚さ20mmの発泡ポリスチレン(以下、単に発泡スチロールという)を使用した。そして、集積部として使用したアクリルパネルを、電荷漏洩防止部として使用した発泡スチロールの上に重ねるように配置したもの(以下、実験装置という)を使用した。
【0105】
集積部の静電気を帯電させた帯電層は、以下の操作によって形成した。
集積部の表面に摩擦を生じさせるための部材として、ポリアミド樹脂によって形成された繊維を有する布を使用した。かかる布を用いて、集積部の表面を連続的に接触するようにこすることによって集積部の表面に摩擦帯電による帯電層を形成した。
なお、帯電層の電圧は、帯電初期の電圧が約3.0〜5.0kV、2時間後および8時間後の電圧が約2.0〜3.0kVであった。
帯電層の電圧の測定は、静電電位測定器(シシド静電気株式会社製、型番;STATIRON−M2)を用いてアクリルパネルの表面上方約2cmの位置の電圧を測定した。
【0106】
鶏舎は、窓がない鶏舎(いわゆるウインドレス鶏舎)を使用した。このウインドレス鶏舎は、内部に作業用の通路が設けられており、通路の両側には3段の金属製の鶏用ケージが配置された鶏舎である。
なお、実験装置は、ウインドレス鶏舎内の通路において、作業者の邪魔にならないように通路端に配置した。
また、ウインドレス鶏舎内に養鶏されていた鶏は、採卵用に飼育されたものであり、鶏の総数は、約90羽であった。
【0107】
鶏舎内のワクモの数の増減は、所定の測定点に形成されたワクモのコロニー内に生息するワクモ数を測定することによって把握した。
このワクモ数は、ワクモコロニーをデジタル撮影した画像データの吸血痕のドット数(以下、デジタル画像解析ワクモ吸血反応ドット数という)を計測し、この吸血痕のドット数からコロニー内に存在するワクモの数を推定した。
このデジタル画像解析ワクモ吸血反応ドット数の測定には、集積部を撮影するCCDカメラ(Panasonic社製、型番:DMC-FT20)と、CCDカメラで撮影した画像データを受信し解析する機能を有するデジタル画像解析手段を使用した。
デジタル画像解析手段として、ノート型PC(Acer社製、型番:Aspire5750)を使用した。このノート型PCは、ハードディスク(HDD)を有するものを使用し、データ等の記憶部としてこのHDDを使用した。また、このPCには、画像解析処理プログラムソフト(WinRoof V6.5、三谷商事株式会社製)がインストールされており、このソフトを用いてCCDカメラによって撮影された画像データからワクモによる吸血反応をドットとして解析した。そして、そのソフトが有する、解析されたドットの数からワクモの数を算出する機能を用いてワクモの数を推定した。
なお、ワクモの吸血痕とは、吸血にともなって変化するワクモの体表面の色を上述した計測方法によって計測したものであり、吸血痕の数が吸血したワクモの数に相当する。言い換えれば、吸血痕の数からワクモの数を推計することができるのである。例えば、コロニー内に生息するワクモが10個体である場合、吸血痕からワクモの1個体に相当するドットを補正することによって、ワクモの数を算出する。すると、コロニー内に生息するワクモの数を10個体であると推定することができるのである。
【0108】
この測定実験は、以下の操作で行った。
まず、鶏舎内の所定の測定点を所定の同時刻にCCDカメラにてワクモのコロニー近傍に配置し、同一角度、同一距離の同一条件の下で撮影した。そして、CCDカメラで撮影した画像データに基いて測定点におけるコロニー内に生息するワクモ数を算出した。
【0109】
なお、実験装置近傍の測定点は、実験装置から水平方向に約0.5m、上方に約2m離れた3段ケージのうち2段目のケージの上部のヒンジ部を測定点とした。
また、比較実験として、実験装置から十分に離れた距離のケージにおけるワクモのコロニーの状態も観測した。この比較実験の測定点は、実験装置から水平方向に約2.5m、上方に2m離れた3段ケージのうち2段目のケージの上部のヒンジ部を測定点とした。
【0110】
実験結果を図6図7および図8に示す。
【0111】
図6は、実験装置近傍のケージにおける測定点の状態を示した図であり、図6(A)は実験装置配置直前の状態を示した図であり、図6(B)は実験装置を配置して2日後の状態を示した図である。
図6に示すように、ケージにおける測定点のワクモのコロニーは、その大きさが、図6(A)のコロニーに比べて図6(B)のコロニーの大きさが明確に小さくなっていたことが確認できた。
また、図6(A)および図6(B)のコロニーに生息するワクモの数をデジタル画像解析ワクモ吸血反応ドット数に基いて算出した。その結果、図6(A)では1682(気温27.7度、湿度63%)であり、図6(B)では701(気温28.1度、湿度69%)であった。これを補正計算し、ワクモの数に換算すると、ケージにおける測定点のコロニー内に生息するワクモの数は、実験装置を設置する前では489個体であったのが、設置後ではその数が141個体に激減していることが確認できた。したがって、コロニーの大きさに比例して、ワクモの数も減少したことが確認できた。
【0112】
図7は、実験装置の集積部におけるワクモのコロニーの状況を示した図であり、図7(A)は実験装置の設置30分後の状況を示した図であり、図7(B)は1時間後の状況を、図7(C)は48時間後の状況を示した図である。
図7に示すように、実験装置の集積部にワクモが集まることが確認できた(図7(A)参照)。しかも、集積部に集まるワクモの数は、時間の経過に比例して増加し、各個体が集積するようにコロニーを形成することが確認できた(図7(B)参照)。また、集積部に形成されたコロニーは、時間の経過に比例して、図7(A)、図7(B)そして図7(C)の順に大きくなることが確認できた。
【0113】
図8は、比較実験のケージにおける測定点の状態を示した図であり、図8(A)は実験装置配置直前の状態を示した図であり、図8(B)は実験装置を配置して3日後の状態を示した図である。
図8に示すように、ワクモのコロニーは、その大きさが、図8(A)のコロニーに比べて図8(B)のコロニーの大きさが明確に大きくなっていたことが確認できた。
また、図8(A)および図8(B)のコロニーに生息するワクモの数をデジタル画像解析ワクモ吸血反応ドット数に基いて算出した。その結果、図8(A)では511(気温27.7度、湿度63%)であり、図8(B)では1168(気温28.1度、湿度69%)であった。これを補正計算し、ワクモの数に換算すると比較実験のケージにおける測定点のコロニー内に生息するワクモの数は、実験装置を設置する前では203個体であり、設置後ではその数が402個体に激増していることが確認できた。したがって、コロニーの大きさに比例して、ワクモの数も増加したことが確認できた。言い換えれば、比較実験では、実験装置近傍の測定点におけるコロニーの状況とは全く逆の結果となったことが確認できた。
【0114】
以上の結果から、ワクモは、静電気が帯電した場所に集まる習性を有すること確認できた。言い換えれば、静電気を帯電させることによってワクモを誘引させることができる可能性があることが推認された。
つまり、(1)ウインドレス鶏舎内に配置した本発明の害虫集積装置の集積部に摩擦帯電によって帯電層を形成すればワクモを集積させることができることが確認できた。一方、(2)本発明の害虫集積装置の集積部から半径約1〜1.5m以内のケージにおける狭いヒンジ間に形成されたコロニーは、その大きさが本発明の害虫集積装置の集積部を配置した時間にほぼ比例して小さくなり、かつかかるコロニー内に生息するワクモ数も減少したことが確認できた。したがって、(1)および(2)とから、本発明の害虫集積装置の集積部近傍に生息するワクモを集積部に集めることができることが推認された。言い換えれば、本発明によって、ケージのヒンジなどの狭い隙間に生息するワクモを作業者が駆除し易いところまで誘い出し、かつかかる場所に留めておくことが可能であることが確認できた。
【実施例3】
【0115】
本発明の害虫検査装置の有効性を確認した。
実験では、帯電層を形成した集積部を鶏舎内に配置し、集積部に集積したワクモにコロニーを形成させ、コロニー内に存在するワクモの数を計測することによって、鶏舎内の検査領域内に生息するワクモの生息状況を把握できることを確認した。
【0116】
実験に使用した、集積部、電荷漏洩防止部、集積部の表面に静電気を帯電させる操作、本害虫検査装置を配置した鶏舎および集積部に形成されたワクモのコロニー内に存在するワクモの数を測定装置およびその操作方法は、実施例2で用いた装置および条件を使用した。
【0117】
その結果を以下に示す。
【0118】
(1)集積部に集積したワクモの状況について
集積部を鶏舎内に配置して2日後に集積部に集積したワクモの状況を計測した。
集積部のワクモのコロニー内に存在するワクモの数をデジタル画像解析ワクモ吸血反応ドット数に基いて算出した結果、かかる集積部のワクモのコロニー内に存在するワクモの数は、約4530個体(気温27.8度、湿度57%)であると推定することができた。
【0119】
(2)検査領域内のワクモの状況について
上記所定の測定点におけるワクモのコロニー内に生息するワクモの状況を、集積部を鶏舎内に配置する前と配置した後で上述と同様にコロニー内に生息するワクモの数をデジタル画像解析ワクモ吸血反応ドット数に基いて算出した。
まず、集積部を鶏舎内に配置する前では、上記所定の測定点におけるコロニー内に生息するワクモは、489個体であった(気温27.7度、湿度63%)。ついで、集積部を鶏舎内に配置した後では、上記所定の測定点におけるコロニー内に生息するワクモは、141個体であった(気温28.1度、湿度69%)。つまり、ケージにおける測定点のコロニー内に生息するワクモの数は、集積部を設置する前では、489個体であったのが、設置後ではその数が141個体に、激減していることが確認できた。言い換えれば、集積部を設置する前と後では、71%のワクモが減少していた。
【0120】
以上の結果から、集積部に集積されたワクモの数は、4530個体であると推定することができた。一方、集積部から所定の領域内(検査領域内)に形成されたワクモのコロニー内に生息するワクモの数は、集積部設置前と後では、約348個体(71%)(489個体から141個体へ)が減少していた。なお、実施例1に示したとおり、集積部から半径約1〜1.5m以外の測定点におけるワクモのコロニーでは、その内部に生息するワクモの数が時間の経過とともに増加したことが確認されていた。すると、集積部に集積されたワクモ(約4530個体)のうち、約348個体が検査領域内の測定点のコロニー(ワクモ約489個体が形成するコロニー)から集積部に移動したものであると推定することができた。したがって、集積部に集積したワクモの数から、検査領域内に生息するワクモは、約6380個体であると推定することができた。つまり、鶏舎内において、ワクモが約6000個体/m存在していたということが推定できた。
【0121】
よって、本発明の害虫検査装置を使用することによって、検査領域内に生息するワクモの生息状況を評価することができることが推認された。つまり、本発明によって、鶏舎内におけるワクモの生息状況を把握することができるので、鶏舎内の鶏等の飼育環境の状況をも評価することができることが推認された。
【実施例4】
【0122】
本発明の害虫集積方法および害虫集積装置の集積部における静電気環境が集積効率に与える影響を確認した。
実験では、集積部に帯電層を形成したものと、集積部に帯電層が形成されるのを防止した状態のものを、それぞれワクモが存在する鶏舎内に配置することによって、集積部に形成された静電気環境がもたらすワクモの集積効率に与える影響を明らかとすることができた。
【0123】
実験に使用した、集積部、電荷漏洩防止部、集積部の表面に静電気を帯電させる操作は、実施例2で用いた装置および条件を使用した。なお、集積部に帯電層が形成された状態の集積部を有する装置を、以下単に帯電装置という。
また、対照区として、集積部に帯電層が形成されない状態にした集積部を有する装置(以下、単に非帯電装置という)を使用した。本実験では、帯電防止剤(イオライザー、春日電機株式会社製、型番;♯3000)と帯電防止装置(イオナイザー、バイオメディカル社製、型番;BMS−SJ−1900)を利用して、集積部に帯電層が形成されることを防止した。
帯電防止剤を使用する場合には、帯電防止剤を集積部に吹き付けて集積部の表面に皮膜が形成されたことを確認した後、集積部を所定の場所に設置した。
また、帯電防止装置を使用する場合には、帯電防止装置(イオナイザー、バイオメディカル社製、型番;BMS−SJ−1900)から集積部にイオンを照射して除電されていることを確認した後、集積部を所定の場所に設置した。
【0124】
鶏舎内の6か所を選別し各々の設置個所において、帯電装置と非帯電装置を隣接して配置した。設置時間は、10分間とした。設置後10分が経過した後、各装置の集積部に集積されたワクモの総数を計測した。なお、かかる操作をそれぞれの設置箇所において、3回行った。計測方法は、集積装置に誘引したワクモをすべてA3用紙上に集め、確認できるすべてのワクモを目視により計測した。そして、両装置におけるワクモの総数および平均値を比較した。
なお、ワクモの同定は、以下のように行った。
まず、捕獲した害虫をクロロホルムを用いて深麻酔処置を行った。深麻酔処置時間は、30分以上とした。そして、深麻酔処置した害虫を、無水アルコールに24時間浸漬した。24時間浸漬後の害虫を、1%〜5%のイオン液体で処理した後、カーボンテープを用いて試料台に保定して走査型電子顕微鏡(SEM)(日立社製、型番;TM3030)を用いて各害虫を観察した。
【0125】
実験結果を図9に示す。
【0126】
図9に示すように、設置場所毎に生息する総ワクモ数が異なった場合においても、10分間という短い時間にもかかわらず、帯電装置を用いることによって、帯電装置あたり平均約200匹のワクモを集積できることが確認できた。
そして、図9に示すように、帯電装置に集積できたワクモの総数および平均値と、非帯電装置に集積できたワクモの総数および平均値には、有意な差が確認された。つまり、帯電装置には、対照区に比べて集まるワクモ数が増加することが明らかとなった。鶏舎内に点在するワクモのコロニーは、偏在しているため、設置個所毎に集積できるワクモ数にばらつきが生じるものの、集積部に帯電層を形成することによって、集積するワクモの存在が明確となった。
【0127】
以上の結果から、本発明の害虫集積装置の集積部に帯電層を形成することによって、集積部に帯電層を形成しない場合に比べて有意にワクモを集積することができたことが確認できた。つまり、害虫集積装置の集積部に静電気環境を設けることによってワクモを効率的に集積させることができたことが確認できた。
【実施例5】
【0128】
本発明の害虫集積方法および害虫集積装置において、拡散液として木酢液を用いた場合の有効性を確認した。
【0129】
実験に使用した、集積部、電荷漏洩防止部、集積部の表面に静電気を帯電させる操作は、実施例2で用いた装置および条件を使用した。
拡散液としては、宮崎みどり製薬社製の木酢液を原液のまま使用した。ワクモのコロニーに対する供給方法としては、霧吹きを用いて鶏舎内のケージの繋ぎに形成されたワクモのコロニーに対して約2ml/mとなるように木酢液を散布した。
【0130】
実験に使用した木酢液は、広葉樹樹皮由来の木酢液であり、かかる木酢液中に含まれる成分をガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、この木酢液には、主成分として、例えば、メタノール1.78g/l、酢酸29.29g/l、プロピオン酸1.17g/lなどの低級アルコールおよびカルボン酸を含有していた。また、かかる木酢液には、例えば、フェノール0.24g/l、グアイアコール0.19g/l、メチルグアイアコール0.11g/l、シリンゴール0.18g/lおよびシクロテン0.10g/lが0.01w/v%以上の濃度で存在していた(詳細は宮崎大学工学部紀要 第27号、p51〜61参照)。
【0131】
また、実験に使用した木酢液を走査型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分析装置を組み合わせた装置(SEM−EDX)(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、型番;卓上顕微鏡:TM3030・エネルギー分散型X線分析装置:SwiftED3000)を用いて分析し実験に使用した木酢液に含有されていた成分等を確認した。
【0132】
まず、鶏舎内の所定の5箇所を選別し、各箇所に実験装置を設置した。設置時間は、5分間とした。設置後5分が経過した後、各実験装置の集積部に集積されたワクモを計測した。各箇所において、かかる操作をそれぞれ9回行った。なお、各箇所における集積されたワクモの積算値を対照区とした。
つぎに、上記選別した5箇所近傍のコロニーに対して木酢液を散布した。木酢液を散布したコロニーは、目視によって発見できたものを対象とした。木酢液を散布後、約3時間が経過した後、各箇所において、対照区で設置したのと同一の場所に各実験装置を設置した。設置時間は、5分間とした。設置後5分が経過した後、各実験装置の集積部に集積されたワクモを計測した。各箇所において、かかる操作をそれぞれ9回行った。なお、各対照区と同一箇所における集積されたワクモの積算値を実験区とした。
なお、算出方法は、実施例4で用いた方法を使用し、すべてのワクモを目視により計測した。
【0133】
実験結果を図10に示す。
【0134】
図10は、集積装置に集積できたワクモ数と木酢液の忌避効果の関係を示した図である。
図10に示すように、実験区の各実験装置毎のワクモ集積数と、対照区の各実験装置毎のワクモ集積数では、実験区の方が対照区よりも明らかに多くのワクモを集積することができることが確認できた。
【0135】
以上の結果から、拡散液として木酢液を用いることによって、木酢液を用いなかった場合に比べてワクモの集積数を確実に増加させることができることが確認できた。したがって、拡散液として用いた木酢液と、本発明の害虫集積装置の相乗効果によって、本発明の害虫集積装置の集積部に集積することができるワクモの集積効率を向上させることができたことが確認できた。つまり、本発明の害虫集積装置の集積部が有するワクモを集めるという効果と、木酢液が有するワクモに対する忌避効果の相乗効果によって、ワクモの集積効率を向上させることができたものと推察された。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の害虫集積装置、害虫集積方法および害虫検査装置は、ワクモやワクモと同様の性質を有するダニ類やノミ類、ハエなどの節足動物などの害虫を駆除することに適している。
【符号の説明】
【0137】
1 害虫集積装置
3 電荷漏洩防止部
10 集積部
10s 集積部の表面
10h 集積部と電荷漏洩防止部の間の隙間
CH 鶏舎
KG ケージ
WC ワクモのコロニー
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
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図8