特許第5690987号(P5690987)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 浅尾 高行の特許一覧

<>
  • 特許5690987-持針器 図000002
  • 特許5690987-持針器 図000003
  • 特許5690987-持針器 図000004
  • 特許5690987-持針器 図000005
  • 特許5690987-持針器 図000006
  • 特許5690987-持針器 図000007
  • 特許5690987-持針器 図000008
  • 特許5690987-持針器 図000009
  • 特許5690987-持針器 図000010
  • 特許5690987-持針器 図000011
  • 特許5690987-持針器 図000012
  • 特許5690987-持針器 図000013
  • 特許5690987-持針器 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5690987
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】持針器
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/06 20060101AFI20150312BHJP
【FI】
   A61B17/06 330
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-127773(P2014-127773)
(22)【出願日】2014年6月20日
【審査請求日】2014年6月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598162746
【氏名又は名称】浅尾 高行
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 高行
【審査官】 森林 宏和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−135218(JP,A)
【文献】 特開2006−000521(JP,A)
【文献】 特開平09−084799(JP,A)
【文献】 特開平09−294746(JP,A)
【文献】 特開昭56−080240(JP,A)
【文献】 特開2011−200404(JP,A)
【文献】 特開2007−289424(JP,A)
【文献】 特開2012−228311(JP,A)
【文献】 実開昭53−132787(JP,U)
【文献】 特表平08−509878(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/055684(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 13/00 − 18/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端から針尻の距離がLgの弯曲した医療用縫合針をジョーで把持する持針器であって、
ジョーの把持面のジョー操作側に、把持する弯曲した医療用縫合針の太さより幅広で、
かつ、ジョーの長手方向に長く開口された間隙が形成されていて、
該間隙の、ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁の両端の点が、ジョー先端から
Lg以上の距離にあるP点と、ジョー先端からLg未満の距離にあるQ点であって、該P
点と該Q点とを直線状、または、なめらかに連続した曲線状に開口する縁をなしている、
持針器。
【請求項2】
先端から針尻の距離がLgの弯曲した医療用縫合針で、弾性限界に弯曲を伸展した先端
から針尻の距離がLxである縫合針をジョーで把持する持針器であって、
ジョーの把持面のジョー操作側に、把持する弯曲した医療用縫合針の太さより幅広で、
かつ、ジョーの長手方向に長く開口された間隙が形成されていて、
該間隙の、ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁の両端の点が、ジョー先端から
Lg以上の距離にあるP点と、ジョー先端からLg未満の距離にあるQ点であって、該点
と該Q点とを直線状、または、なめらかに連続した曲線状に開口する縁をなしていて、か
つまた、
該間隙が、ジョーの把持面を延長した面において前記Q点からジョー長手方向にジョー
先端かLx以上の距離のR点まで開口されている、持針器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弯曲した医療用縫合針を把持する持針器に関する。特に内視鏡下手術に用いる持針器を対象とする。本発明の第一の工夫は、持針器に開口した孔または間隙の利用にある。
【0002】
本発明の第二の工夫は、弯曲針を持針器で縫合部に持ち込む方法について、「弯曲針の弾性変形」を利用する、というユニークな発想である(たとえば図3参照)。
【0003】
従来から、患部組織などの縫合のために用いる持針器(縫合器)について、その本体に孔をあけ、針を通貫したり、保持したりして使い勝手を改良したものが公知である。(特許文献1−6)
【0004】
また、内視鏡下手術にて、弯曲針で患部組織等を縫合するには、弯曲した医療用縫合針1を狭い挿入管内に持針器(図1(a))で把持し通過させる必要がある(図1(b))。
【0005】
ここで、「狭い挿入管」とは、体壁を通して体腔内に手術器具を挿入するための器具であり、針(トロッカーまたはトロカール(trocar))と筒(カニューラ)から成るものであって、その直径は2〜30mmのものが適宜用いられる。
【0006】
たとえば特許文献6にも、弯曲針を持針器で縫合部に持ち込むことが記載されている。(「円弧状に湾曲した形状の針をトロカール管に通すためには、トロカール管の長軸方向と平行に針を把持しなければならない。」特許文献6[0003])
【0007】
以降挿入管を「トロッカー」と記載する。
【0008】
従来の持針器・縫合器は、必ずしも内視鏡下手術での使い勝手を考えたものではなく、特に弯曲針をトロッカーに通過させることへの考慮がなされていなかった。
【0009】
本発明の第二の工夫は、弯曲針の弾性変形を利用している。弾性変形させてトロッカーを通過させるという発想がなかったため、内視鏡下手術で弯曲針を使用する際には、その矢高(円弧の高さ)に相当する内径以上の太い内径のトロッカーが用いられていた。(特許文献6の図3にもこのことが見て取れる)
【0010】
しかしトロッカーが太いと患者負担が大きくなる。そのため内径10mm以下の細いトロッカーを使うときには縫合しやすい弯曲針を使えず、術者側の負担が大きかった。それで縫合に思わぬ時間を要していた。
【0011】
また、弯曲針を弾性変形限界以上に伸展してトロッカーを通過させることも行われているが、曲がりを伸ばした針で縫合するのは難しい。しかも、弯曲針の伸展作業に手間取って、かえって時間をロスしてしまう問題もあった。
【0012】
【特許文献1】実開昭49-61885「手術用持針器」]
【特許文献2】実開昭53-122090「TN型深部持針器」
【特許文献3】実開昭55-065007「TND型持針器」
【特許文献4】特公昭62-60099「医療用縫合器」
【特許文献5】特開平09-56719「医療用糸付針の誘導具」
【特許文献6】特開平09-084799「持針器」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、弯曲針のトロッカー通過を簡便かつ迅速に行うことができ、かつまた、通過後の内視鏡下手術で使い勝手のよい持針器を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
持針器に開口した間隙を設けたこと、および、弯曲針の弾性変形を利用したことが本発明の本質である。
【0015】
より詳しくは、医療用縫合針の「針先端」を把持面で挟み、糸入れ溝や糸入れ口のある「針後端」を持針器の間隙に入れた針姿勢をつくり、その針姿勢にて、弯曲針をトロッカー内にて弾性変形で伸展させ、狭い内径のトロッカーでもうまく通過できるようにした。
【0016】
以降、『糸入れ溝や糸入れ口のある「針後端」』を「針尻」と記載する。図2は従来の持針器20で、その把持部の基部にある間隙200を利用して、前記の針姿勢をつくることが困難なことを示している。一方、図2(c)、図3(c)は本案の持針器21によるトロッカー通過を示している。
【0017】
従来持針器20では、針尻がトロッカーにつっかかる、トロッカー内部で伸展させたら針が把持できなくなる、等々の問題でトロッカー通過は不可能であった(図3(a)参照)。
【0018】
本発明の持針器21は、より長い間隙210を有し、針先端を把持、「針尻」を間隙210に入れた体勢で弯曲針を弾性変形してトロッカー通過を可能ならしめた、ということである。
【0019】
間隙210は、ジョーの把持面のジョー操作側に、把持する弯曲した医療用縫合針の太さより幅広で、かつ、ジョーの長手方向に長く開口された間隙である(図3(c)参照)。
【0020】
本発明の持針器を再記すると、[01]-[03]。その従属態様が[04]である。[03]は[02]、[02]は[01]の態様をそれぞれより詳しく規定したものである。
【0021】
[01] 先端から針尻の距離が「Lg」の弯曲した医療用縫合針をジョーで把持する持針器であって、 ジョーの把持面のジョー操作側に、把持する弯曲した医療用縫合針の太さより幅広で、かつ、ジョーの長手方向に長く開口された間隙が形成されていて、該間隙の、ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁が、ジョー先端から「Lg」未満の距離にある持針器である。
【0022】
[02] [01]の持針器で、さらに、間隙の、ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁の両端の点が、ジョー先端から「Lg」以上の距離にある「P」点と、ジョー先端から「Lg」未満の距離にある「Q」点であって、該「P」点と該「Q」点とを直線状、または、なめらかに連続した曲線状に開口する縁をなしている特徴を兼備した持針器である。
【0023】
[03] [02]の持針器で、さらに、弾性限界に弯曲を伸展した先端から針尻の距離が「Lx」である縫合針をジョーで把持する持針器であって、間隙が、ジョーの把持面を延長した面において前記「Q」点からジョー長手方向にジョー先端から「Lx」以上の距離の「R」点まで開口されている特徴を兼備した持針器である。
【0024】
[04] ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁の周縁でジョーを閉じたとき形成する面が、なめらかな凹曲面であると、トロッカー通過時の糸の損傷がなく好適である。ゆえにジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁と、該縁の周縁の表面に、平滑化物理加工及び/又は平滑化化学処理をするのが好適で、かかる加工や処理でなめらかな面にするのが望ましい。
【0025】
[01]-[04]を順に補足する。
【0026】
[01]のQ(=ジョー先端から「Lg」未満の距離にある点)の条件があれば、弯曲針を把持したときに針尻が間隙の位置にくるので、トロッカー通過のための針姿勢をとりやすい。すなわち、「Lg」未満の距離にあるQの位置に間隙があれば、弯曲針の針尻を操作側にして針先端をジョーで把持すれば、針尻は、間隙に入る。
【0027】
また[02]の態様、すなわち、P(=ジョー先端から「Lg」以上の距離にある点)の条件があれば、トロッカー内で針尻はS(=ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁)を斜行して移動する。この針尻の移動がスムーズであれば伸展しやすい。
【0028】
比較的短い弯曲針であれば、図11に示すように針尻がS(=ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁)の位置にあったままトロッカー通過できる。
【0029】
[02]で「なめらかに連続した」とは数学的不連続がないことである。前記のようにトロッカー通過時には、ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁(S)に、針尻が接触移動する。その移動時に、糸の脱落や内壁が削られてコンタミネーションの原因となることのないように縁(S)の周縁は平滑であることが望ましい。開口する縁(S)の両端であるPとQを直線状にむすぶ、または、なめらかに連続した曲線状にむすんで開口する縁(S)を形成してよい。
【0030】
図4は、[03]の態様を示すものである。同図に、P=ジョー先端から「Lg」以上の距離にある点、Q=ジョー先端から「Lg」未満の距離にある点、R=ジョー先端から「Lx」以上の距離の点、S=ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁を明示した。
【0031】
R(=ジョー先端から「Lx」以上の距離の点)まで間隙が長く開口されていれば、図2(c)、図3(c)に示すように弾性限界まで変形させた弯曲針を支障なくトロッカー3を通過させることができる。
【0032】
図5は、[03]の態様の本発明例である。この例の持針器でトロッカー通過させる様子を図6(a)から図6(d)に明示した。
【0033】
図8が、本発明持針器の試作器の写真である。この試作器でL(弯曲前の針長)が22mmの針を内径7mmのトロッカー通過テストを実施した。その前後の針の写真を図7に示す。トロッカー通過後に弾性復帰するので弯曲が確保され、内視鏡下の縫合が楽にできる。
【0034】
図9が、L(弯曲前の針長)が22mmの針を内径7mmのトロッカー通過に好適な本発明持針器の設計例である。Rの位置は明示されていないが、ジョー先端から「Lx」以上の距離という条件を満たす任意の位置を主に使用する持針器の弾性限界を実測して適宜決めればよい。
【0035】
図9からわかるように、弯曲針1はトロッカー3(図9では図示せず)の内壁に針の腹を押さえられるように弾性変形する。そのとき、針尻はS(=ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁)を接触移動する。
【0036】
図10が、S(=ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁)を示すイメージ図である。このSの部位、および、その周縁は針尻の接触移動にて、糸の脱落、針尻との相互作用で糸が損傷されること、あるいは、間隙内壁が削られてコンタミネーションの原因となることのないように、平滑化物理加工及び/又は平滑化化学処理するのが望ましい[04]。
【0037】
弯曲針のLgが比較的小さいものであれば、図11に示すように針尻がS(=ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁)の位置にあったままトロッカー通過できる。
【0038】
図11と同様の状態[針尻がS(=ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁)の位置にあったままトロッカー通過できる状態]が、弯曲針のLgが比較的大きいものであっても実現されることが、針尻がトロッカー内壁を削ってコンタミネーションを起こすことを避ける意味で望ましい。
【0039】
そこで、図12(a)に示すように、P点を持針器の操作側に伸ばし出来る限りR点に接近させるのがよい。つまり、間隙の中にオーバーハングされた天蓋(てんがい)状の構造部位「T」を形成するのがよい。この態様の試作器を図13に示す。 [ここで「天蓋(てんがい)」という表現は上部にオーバーハングするように覆いかぶさって蓋(ふた)をするように間隙を塞いでいる、という意味で採用したものである。]
【0040】
このようにすれば、弯曲針のLgが比較的大きいものであっても、トロッカー内で、弯曲針の弯曲を伸展させて先端から針尻の距離が「Lx」となった状態でも、針尻がS(=ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁)の位置にあったままトロッカーを通過できる。
【0041】
さらに図12(b)に示すように、前記のジョーの把持面を延長した天蓋状の構造部位「T」が、P点やR点のあるべき部位をも閉塞し、間隙が図でいうところの上方に通貫されない態様がきわめて好適である。
【0042】
このようにすれば、トロッカー通過中に針尻が持針器の外部に出ることはなくなるので、針尻がトロッカー内壁を削ってコンタミネーションを起こすことがなくなり望ましい。
【0043】
以上のように図12(b)、図13で説明した天蓋状の構造部位「T」を有する態様が、[01]-[03]に記載された態様に含まれることは言うまでもない。(天蓋状の構造部位「T」は、[01]-[03]の態様において、あってもなくてもよい。)
【発明の効果】
【0044】
弯曲した医療用縫合針のトロッカー通過を簡便かつ迅速に行うことができる。トロッカー通過後に弾性復帰するので弯曲が確保されて内視鏡下の縫合が楽にできる。
【0045】
特に、トロッカー通過時に伸展された針尻が持針器の内部の「S」に収まるような天蓋状の構造部位「T」(図12)を設けた態様であれば、針尻がトロッカー通過時にトロッカー内壁を削ってコンタミネーションを起こすことも避けられる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】1を2で把持して(a)、3を通過させる操作(b)を示す。
図2】従来の持針器20で図1の通過操作を行うときの問題点の説明図。
図3】本発明の持針器21による通過操作を説明する図。
図4】21の態様[3]を説明する図。
図5】21の態様[3]を説明する図。
図6】21による操作を説明する図。
図7】21の試作機で3通過前後のL=22mmの1の写真。
図8】21の試作機の写真。
図9】L=22mm弯曲針、3の内径=7mmの場合の21設計例。
図10】態様[4]のなめらかな凹曲面を示すイメージ図。
図11】態様[1]の説明。通過操作完了まで針尻は21の内壁にある。
図12】天蓋状の構造部位「T」の説明図
図13】天蓋状の構造部位「T」の態様を有する本発明の試作器。[写真は「Q」点側から撮影したもので、態様[4]のなめらかな凹曲面を示す。「T」部はジョーに隠れている。]
【符号の説明】
【0047】
1 弯曲した医療用縫合針
2 持針器
20 従来の持針器
200 20のジョー把持部の操作側の間隙
21 本発明の持針器
210 21のジョー把持部の操作側の間隙
3 トロッカー
L 1の長さ(弯曲加工前の針長)
Lg 1の先端から針尻の距離(弦に対応する)
Lx 1の弯曲を弾性限界に伸展した先端から針尻の距離
P ジョー先端から「Lg」以上の距離にある点
Q ジョー先端から「Lg」未満の距離にある点
R ジョー先端から「Lx」以上の距離の点
S ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁
T ジョーの把持面を延長した天蓋状の構造部位
【要約】
【課題】 内視鏡下手術用の持針器であって、狭い内径のトロッカーに弯曲針を通過させるのに好適であり、かつ、内視鏡下手術手技での使い勝手を改善した持針器の提供。
【解決手段】 ジョーの把持面のジョー操作側に、把持する弯曲した医療用縫合針の太さより幅広で、かつ、ジョーの長手方向に長く開口された間隙を形成した持針器。先端を把持し、間隙に針尻を入れた体勢として、トロッカーの狭い管内に弯曲針が弯曲を伸展する弾性変形をして通過するのに好適なものとした。さらに、トロッカー通過時に伸展された針尻が持針器の内部に収まるような構造として、針尻がトロッカー通過時にトロッカー内壁を削ってコンタミネーションを起こすことも避けられるようにした。
【選択図】 図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13