【課題を解決するための手段】
【0014】
持針器に開口した間隙を設けたこと、および、弯曲針の弾性変形を利用したことが本発明の本質である。
【0015】
より詳しくは、医療用縫合針の「針先端」を把持面で挟み、糸入れ溝や糸入れ口のある「針後端」を持針器の間隙に入れた針姿勢をつくり、その針姿勢にて、弯曲針をトロッカー内にて弾性変形で伸展させ、狭い内径のトロッカーでもうまく通過できるようにした。
【0016】
以降、『糸入れ溝や糸入れ口のある「針後端」』を「針尻」と記載する。
図2は従来の持針器20で、その把持部の基部にある間隙200を利用して、前記の針姿勢をつくることが困難なことを示している。一方、
図2(c)、
図3(c)は本案の持針器21によるトロッカー通過を示している。
【0017】
従来持針器20では、針尻がトロッカーにつっかかる、トロッカー内部で伸展させたら針が把持できなくなる、等々の問題でトロッカー通過は不可能であった(
図3(a)参照)。
【0018】
本発明の持針器21は、より長い間隙210を有し、針先端を把持、「針尻」を間隙210に入れた体勢で弯曲針を弾性変形してトロッカー通過を可能ならしめた、ということである。
【0019】
間隙210は、ジョーの把持面のジョー操作側に、把持する弯曲した医療用縫合針の太さより幅広で、かつ、ジョーの長手方向に長く開口された間隙である(
図3(c)参照)。
【0020】
本発明の持針器を再記すると、[01]-[03]。その従属態様が[04]である。[03]は[02]、[02]は[01]の態様をそれぞれより詳しく規定したものである。
【0021】
[01] 先端から針尻の距離が「Lg」の弯曲した医療用縫合針をジョーで把持する持針器であって、 ジョーの把持面のジョー操作側に、把持する弯曲した医療用縫合針の太さより幅広で、かつ、ジョーの長手方向に長く開口された間隙が形成されていて、該間隙の、ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁が、ジョー先端から「Lg」未満の距離にある持針器である。
【0022】
[02] [01]の持針器で、さらに、間隙の、ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁の両端の点が、ジョー先端から「Lg」以上の距離にある「P」点と、ジョー先端から「Lg」未満の距離にある「Q」点であって、該「P」点と該「Q」点とを直線状、または、なめらかに連続した曲線状に開口する縁をなしている特徴を兼備した持針器である。
【0023】
[03] [02]の持針器で、さらに、弾性限界に弯曲を伸展した先端から針尻の距離が「Lx」である縫合針をジョーで把持する持針器であって、間隙が、ジョーの把持面を延長した面において前記「Q」点からジョー長手方向にジョー先端から「Lx」以上の距離の「R」点まで開口されている特徴を兼備した持針器である。
【0024】
[04] ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁の周縁でジョーを閉じたとき形成する面が、なめらかな凹曲面であると、トロッカー通過時の糸の損傷がなく好適である。ゆえにジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁と、該縁の周縁の表面に、平滑化物理加工及び/又は平滑化化学処理をするのが好適で、かかる加工や処理でなめらかな面にするのが望ましい。
【0025】
[01]-[04]を順に補足する。
【0026】
[01]のQ(=ジョー先端から「Lg」未満の距離にある点)の条件があれば、弯曲針を把持したときに針尻が間隙の位置にくるので、トロッカー通過のための針姿勢をとりやすい。すなわち、「Lg」未満の距離にあるQの位置に間隙があれば、弯曲針の針尻を操作側にして針先端をジョーで把持すれば、針尻は、間隙に入る。
【0027】
また[02]の態様、すなわち、P(=ジョー先端から「Lg」以上の距離にある点)の条件があれば、トロッカー内で針尻はS(=ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁)を斜行して移動する。この針尻の移動がスムーズであれば伸展しやすい。
【0028】
比較的短い弯曲針であれば、
図11に示すように針尻がS(=ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁)の位置にあったままトロッカー通過できる。
【0029】
[02]で「なめらかに連続した」とは数学的不連続がないことである。前記のようにトロッカー通過時には、ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁(S)に、針尻が接触移動する。その移動時に、糸の脱落や内壁が削られてコンタミネーションの原因となることのないように縁(S)の周縁は平滑であることが望ましい。開口する縁(S)の両端であるPとQを直線状にむすぶ、または、なめらかに連続した曲線状にむすんで開口する縁(S)を形成してよい。
【0030】
図4は、[03]の態様を示すものである。同図に、P=ジョー先端から「Lg」以上の距離にある点、Q=ジョー先端から「Lg」未満の距離にある点、R=ジョー先端から「Lx」以上の距離の点、S=ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁を明示した。
【0031】
R(=ジョー先端から「Lx」以上の距離の点)まで間隙が長く開口されていれば、
図2(c)、
図3(c)に示すように弾性限界まで変形させた弯曲針を支障なくトロッカー3を通過させることができる。
【0032】
図5は、[03]の態様の本発明例である。この例の持針器でトロッカー通過させる様子を
図6(a)から
図6(d)に明示した。
【0033】
図8が、本発明持針器の試作器の写真である。この試作器でL(弯曲前の針長)が22mmの針を内径7mmのトロッカー通過テストを実施した。その前後の針の写真を
図7に示す。トロッカー通過後に弾性復帰するので弯曲が確保され、内視鏡下の縫合が楽にできる。
【0034】
図9が、L(弯曲前の針長)が22mmの針を内径7mmのトロッカー通過に好適な本発明持針器の設計例である。Rの位置は明示されていないが、ジョー先端から「Lx」以上の距離という条件を満たす任意の位置を主に使用する持針器の弾性限界を実測して適宜決めればよい。
【0035】
図9からわかるように、弯曲針1はトロッカー3(
図9では図示せず)の内壁に針の腹を押さえられるように弾性変形する。そのとき、針尻はS(=ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁)を接触移動する。
【0036】
図10が、S(=ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁)を示すイメージ図である。このSの部位、および、その周縁は針尻の接触移動にて、糸の脱落、針尻との相互作用で糸が損傷されること、あるいは、間隙内壁が削られてコンタミネーションの原因となることのないように、平滑化物理加工及び/又は平滑化化学処理するのが望ましい[04]。
【0037】
弯曲針のLgが比較的小さいものであれば、
図11に示すように針尻がS(=ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁)の位置にあったままトロッカー通過できる。
【0038】
図11と同様の状態[針尻がS(=ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁)の位置にあったままトロッカー通過できる状態]が、弯曲針のLgが比較的大きいものであっても実現されることが、針尻がトロッカー内壁を削ってコンタミネーションを起こすことを避ける意味で望ましい。
【0039】
そこで、
図12(a)に示すように、P点を持針器の操作側に伸ばし出来る限りR点に接近させるのがよい。つまり、間隙の中にオーバーハングされた天蓋(てんがい)状の構造部位「T」を形成するのがよい。この態様の試作器を
図13に示す。 [ここで「天蓋(てんがい)」という表現は上部にオーバーハングするように覆いかぶさって蓋(ふた)をするように間隙を塞いでいる、という意味で採用したものである。]
【0040】
このようにすれば、弯曲針のLgが比較的大きいものであっても、トロッカー内で、弯曲針の弯曲を伸展させて先端から針尻の距離が「Lx」となった状態でも、針尻がS(=ジョーの把持面のジョー操作側に開口する縁)の位置にあったままトロッカーを通過できる。
【0041】
さらに
図12(b)に示すように、前記のジョーの把持面を延長した天蓋状の構造部位「T」が、P点やR点のあるべき部位をも閉塞し、間隙が図でいうところの上方に通貫されない態様がきわめて好適である。
【0042】
このようにすれば、トロッカー通過中に針尻が持針器の外部に出ることはなくなるので、針尻がトロッカー内壁を削ってコンタミネーションを起こすことがなくなり望ましい。
【0043】
以上のように
図12(b)、
図13で説明した天蓋状の構造部位「T」を有する態様が、[01]-[03]に記載された態様に含まれることは言うまでもない。(天蓋状の構造部位「T」は、[01]-[03]の態様において、あってもなくてもよい。)