(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5691007
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】ダイヤモンド微粒子を含む分散体
(51)【国際特許分類】
C08L 61/14 20060101AFI20150312BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20150312BHJP
C01B 31/06 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
C08L61/14
C08K3/04
C01B31/06
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-56578(P2012-56578)
(22)【出願日】2012年3月14日
(65)【公開番号】特開2013-189546(P2013-189546A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2014年6月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】太田 大
【審査官】
細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−149071(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/089933(WO,A1)
【文献】
特開2008−150250(JP,A)
【文献】
特開平08−337883(JP,A)
【文献】
特開2012−136416(JP,A)
【文献】
特開平10−046086(JP,A)
【文献】
特開平03−141142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
C01B 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド構造を有する微粒子と、ビスフェノールスルホン酸ポリマー(1)と、含窒素カチオン性ポリマー(2)と、媒体とを含む分散体。
【請求項2】
媒体が、有機溶剤または水である請求項1記載の分散体。
【請求項3】
ダイヤモンド構造を有する微粒子が、レーザー光回折・散乱を測定原理とした粒度分布計で測定したときの、メジアン径が、4〜100nmである請求項1または2記載の分散体
【請求項4】
ビスフェノールスルホン酸ポリマーが、下記一般式(1)で表される構造単位と、下記一般式(2)で表される構造単位とを有する請求項1〜3いずれか記載の分散体。
一般式(1)
【化1】
(式中、Yは下記に示す置換基のいずれかを表す。)
【化2】
一般式(2)
【化3】
(式中、Xは−CR
1(R
2)−、または、−SO
2−を表す。
ここで、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、水素原子、または、炭素数1〜6のアルキル基である。
Zは下記に示す置換基のいずれかを表す。)
【化4】
【請求項5】
ビスフェノールスルホン酸ポリマーが、下記一般式(3)で表される構造単位と、下記一般式(4)で表される構造単位とを有する請求項4記載の分散体。
一般式(3)
【化5】
一般式(4)
【化6】
【請求項6】
ビスフェノールスルホン酸ポリマーが、下記一般式(5)で表されるポリマーである請求項4記載の分散体。
一般式(5)
【化7】
(式中、Xは−CR
1(R
2)−、または、−SO
2−を表す。
ここで、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、水素原子、または、炭素数1〜6のアルキル基である。
YおよびZは、それぞれ独立に、下記に示す置換基のいずれかを表す。
nは7〜40の整数を表す。)
【化8】
【請求項7】
ビスフェノールスルホン酸ポリマーの重量平均分子量が、5,000〜30,000である請求項1〜6のいずれか一項に記載の分散体。
【請求項8】
ビスフェノールスルホン酸ポリマーが、ダイヤモンド構造を有する微粒子の総重量100部に対し20重量部から50重量部の範囲で含まれている請求項1〜7のいずれか一項に記載の分散体。
【請求項9】
含窒素カチオン性ポリマーが、ポリジアリルジアルキルアンモニウムクロライド、ジアリルアミン硫酸塩・アクリルアミド共重合物、ジシアンジアミド・ポリアルキレンポリアミン重縮合物、および、ジアルキルアミン・アンモニア・エピクロルヒドリン重縮合物からなる群から選択されるいずれかのうち少なくとも1つである請求項1〜8いずれか一項に記載の分散体。
【請求項10】
含窒素カチオン性ポリマーが、ダイヤモンド構造を有する微粒子の総重量100部に対し50重量部から500重量部の範囲で含まれている請求項1〜9のいずれか一項に記載の分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒体にダイヤモンド構造を有する微粒子を分散させてなる分散体に関する。特に粒径ナノメーター単位の超微粒子ダイヤモンド構造を有する微粒子を媒体に分散した分散体に関する。
【0002】
粒径ナノメーター単位の超微粒子ダイヤモンドは、1nmから100nm、特に限定的には4nmから40nmの粒径を有し、ここではナノダイヤモンド又はUltra Dispersed Diamond又はUDDとも称される。
【背景技術】
【0003】
従来、電気絶縁性、銅の約5倍の高い熱伝導性、地上最高の硬度など有用な特性を持つダイヤモンドは、化学的に安定で溶媒に溶けず、粒で使うことしか出来ないので、工業的用途は研磨剤と工具コーティングしかなかった。
【0004】
最近になり超微粒ダイヤモンド粒子を、例えばメッキ膜のような金属薄膜中に含有させること自体は知られてきており(特許文献1等参照)、また超微粒ダイヤモンド粒子により金属薄膜の物理的強度を増大させようとする試み、潤滑性を向上させて耐摩耗性を改善すること、低誘電率を利用して各種電子部品に用いようとする試みも行われている。
【0005】
例えば、高爆薬の爆発により製造したUDDの金メッキ浴を用いて作製した金―ダイヤモンド複合膜の場合、金中のUDD濃度は1重量%を超える濃度になることはなく、金薄膜層の深部よりも表面の方がUDD濃度が高いという問題があるものであるが、それでも金の単一薄膜に比較して、金―UDD複合膜は一応の高硬度を示し、耐摩耗性がある程度向上したことが記載されている。(非特許文献1参照)
【0006】
また、「層中にUDD粒子を分散した金属薄膜層」として、ナノメーター単位の粒径を有するUDD単位が数個〜数百個、分離困難な状態で凝集し、粒度分布が狭いUDD粉体、及び、このUDDを含み分散安定性に優れた水性懸濁液を用い、メッキ法(電解又は無電解メッキ)により達成することができる、と記載されている。(特許文献2等参照)
【0007】
しかしながら、実際の工業現場においては、めっき浴は、pHの幅が広く、且つ常に浴が攪拌されている動的な状況においては、水性懸濁液添加時にショックを受けやすく、めっきされる前にUDDが再び凝集を起こしやすいといった決定的な欠点があり使用できないのが現状である。
【0008】
また、UDDの再凝集を抑えるために、ナノダイヤモンドコロイド溶液と組成物のマトリックス成分を混合均一溶液として、濃縮していく過程で、相分離が起きる前に均一なゲルを起こさせて、超分散を保ちつつ媒体を除去してナノダイヤモンド組成物を得ることができるとされているが(特許文献3等参照)、この水性コロイド液は実質pHのショックに耐えられず、pHが4の弱酸性液に添加した場合やpHが9の弱アルカリ性液へ添加した場合などは、UDDが再凝集を起こし、ナノレベルの凝集体ではなくなってしまう問題がある。
【0009】
更に、凝集しやすいUDDを水中で安定分散状態を維持させる方法として、水とエタノールの混合液にナノダイヤモンドを添加し、導入剤としてポリエチレングリコールユニット含有高分子アゾ重合剤(AZOPEG)を添加し、溶存酸素を除去後、60〜90℃に過熱し、20〜40時間攪拌し反応させることを特徴とするUDDの分散方法が紹介されており、UDDの巨大凝集体のない安定的な分散を得ることそれをメッキに使用する事によりUDDの凝集体の少ない共析メッキを得た、とされている。(特許文献4等参照)
【0010】
しかし、残存溶存酸素による発泡や共析時の発泡による共析膜の不均一性については全く考慮されておらず、めっきにおいては界面活性剤のめっき膜への濡れ低下をおこすことから共析はできても、次工程でめっき膜からUDD微粒子が容易にめっき膜から脱落をおこすこと、加えて20〜40時間の反応時間は長すぎて工業的に現実的ではない。
【0011】
また、親水性ポリマー又はイオン性官能基が導入されたUDD微粒子をイオン性又は非イオン性の界面活性剤とともに分散させた分散液を金属めっき液に添加してUDD微粒子を金属めっき液に添加して、粒子を安定して分散させた複合めっき液を製造する方法が記載されている。さらにこの方法では、UDD微粒子を安定に分散するためにイオン性官能基をUDD微粒子に導入する手段としてUDD微粒子をアゾ系ラジカル開始剤とを反応させる手段、親水性ポリマーをUDD粒子に導入する場合には直接高分子鎖をつけることが提案されている。(特許文献5、6等参照)
【0012】
しかしながら、このようなアゾ系ラジカル開始剤はさまざまな表面官能基をもつUDD微粒子には、官能基を安定に導入することが困難であり、かつ長時間の反応時間を要するため、UDD粒子表面を均一に揃えるとことが困難である。
【0013】
また、めっき方法としてめっき液にカチオン、すなわち含窒素高分子ポリマーを添加することでめっき成長を平坦化させる内容の記載がある(特許文献7等参照)。この文献中の含窒素高分子ポリマーとしては、ポリジアルキルアミノエチルアクリレート4級塩、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジン4級塩、ポリビニルアミジン、ポリアリルアミンおよびポリアミンスルホン酸よりなる群から選ばれるとされるが、添加量は数ppmとかなり低い。故にUDD粒子に水などの媒体中で安定化した場合でもUDD粒子への吸着による分散維持安定化効果が得られず、UDD粒子が沈降してしまうといった問題を抱えている。こういった僅かな添加量で効果を発揮するカチオン薬剤の添加はその種類と添加量を少し間違えるだけで、逆効果となる場合が多く最適な条件を見出すことができないのが現状である。
【0014】
また、UDD粉末を蒸留水中に超音波を用いて分散させて遠心分離してコロイド液体を得、これを平滑基板上に塗布乾燥させて作製したヒドロゾルのコロイド薄膜の場合には150℃に加熱しても水がとれないため、UDD粉末の長期保存のため有効な方法であることが記載されている。(非特許文献2等参照)しかし、ヒドロゾルの多くは、加水されただけの場合にはUDD粒子同士表面のエネルギー障壁が高いが故に粒子同士が引き付けあって凝集することはないが、表面張力が低い、即ち粒子間同士に働くエネルギー障壁を低くするような界面活性剤などが添加されているような状況下では、いきなり粒子同士の吸着力が大きくなり、その結果凝集・沈降する例が多くUDD粉末を超音波のみで分散だけでは、再度またその凝集体を解して使用しなければならなくなるなど、簡単に取り扱える例は少ない。
【0015】
凝集しやすいUDDは、上記の記載から分かるように、水などの媒体中で例えばナノサイズ(体積平均D50メジアン径で数百ナノメートルを下回る範囲)で分散したとしても
容易に再凝集する性質を持っており、分散状態を保持できないのが現状である。
【0016】
これは、ナノサイズの分散を必須とするドラッグデリバリーシステム用担持体や、複合めっきなどの工業製品への応用を阻害している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開昭61−249276号公報
【特許文献2】特許第3913118号公報
【特許文献3】特開2007−119265号公報
【特許文献4】特開2008−150250号公報
【特許文献5】特開2011−149071号公報
【特許文献6】特開2004−18909号公報
【特許文献7】特開2005−29818号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】New Diamond and Frontier Technology(in Russia) Vol.9,No.4(1999) pp.273-282
【非特許文献2】Journal of Chemical vapor deposition Vol.6,No.1 (1997)pp.35-39
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、ダイヤモンド構造を有する微粒子、特に粒径ナノメーター単位のUDDが、経時での分散状態に変化がなく、イオン性が異なる場合であっても凝析しない、あるいは高速攪拌された状況などの外的ショックがあっても粒子の凝集が起こりにくい分散体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、様々な分散剤がある中で、アニオン性ビスフェノールスルホン酸ポリマーを用いることにより、煩雑で長い処理を要する官能基導入工程などを要せず性能のばらつきの差が大きいダイヤモンド構造を有する微粒子(UDD微粒子)の水などを媒体とするナノ分散そのものが可能になり、詳しくは、ポリマーによるナノサイズの物理吸着を行ったUDD微粒子はポリマーが粒子表面から脱落しないことを見い出し、尚且つその分散体に更に含窒素カチオンポリマーを加えることで分散体粒子沈降をまったく起こさず、硬い、あるいは化学的に非常に安定なUDD微粒子の性能を極限まで発揮しやすくなることを見出すに至った。結果、様々な陽イオンが存在し凝集しやすくなる状況であっても、PHが7未満の領域で経時や80℃保存において分散が壊れず、よって増粘することもなく、かつ攪拌しても起泡性がないなどの画期的な特徴を持つ分散体であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0021】
すなわち、本発明は、ダイヤモンド構造を有する微粒子と、ビスフェノールスルホン酸ポリマー(1)と、含窒素カチオンポリマー(2)と、媒体とを含む分散体に関する。
【0022】
また、本発明は、媒体が、有機溶媒または水である上記分散体に関する。
【0023】
また、本発明は、ダイヤモンド構造を有する微粒子が、レーザー光回折・散乱を測定原理とした粒度分布計で測定したときの、メジアン径が、4〜100nmであるである上記分散体に関する。
【0024】
また、本発明は、ビスフェノールスルホン酸ポリマーが、下記一般式(1)で表される構造単位と、下記一般式(2)で表される構造単位とを有する上記分散体に関する。
【0025】
一般式(1)
【化1】
(式中、Yは下記に示す置換基のいずれかを表す。)
【0026】
【化2】
【0027】
一般式(2)
【化3】
【0028】
(式中、Xは−CR
1(R
2)−、または、−SO
2−を表す。
ここで、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、水素原子、または、炭素数1〜6のアルキル基である。
Zは下記に示す置換基のいずれかを表す。)
【0029】
【化4】
【0030】
また、本発明は、ビスフェノールスルホン酸ポリマーが、下記一般式(3)で表される構造単位と、下記一般式(4)で表される構造単位とを有する上記分散体に関する。
【0031】
一般式(3)
【化5】
【0032】
一般式(4)
【化6】
【0033】
また、本発明は、ビスフェノールスルホン酸ポリマーが、下記一般式(5)で表されるポリマーである上記分散体に関する。
【0034】
一般式(5)
【化7】
【0035】
(式中、Xは−CR
1(R
2)−、または、−SO
2−を表す。
ここで、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、水素原子、または、炭素数1〜6のアルキル基である。
YおよびZは、それぞれ独立に、下記に示す置換基のいずれかを表す。
nは7〜40の整数を表す。)
【0036】
【化8】
【0037】
また、本発明は、ビスフェノールスルホン酸ポリマーの重量平均分子量が、5,000〜30,000である上記分散体に関する。
【0038】
また、本発明は、ビスフェノールスルホン酸ポリマーが、ダイヤモンド構造を有する微粒子の総重量100部に対し20重量部から50重量部の範囲で含まれている上記分散体に関する。
【0039】
また、本発明は、含窒素カチオン性ポリマーが、ポリジアリルジアルキルアンモニウムクロライド、ジアリルアミン硫酸塩・アクリルアミド共重合物、ジシアンジアミド・ポリアルキレンポリアミン重縮合物、および、ジアルキルアミン・アンモニア・エピクロルヒドリン重縮合物からなる群から選択されるいずれかのうち少なくとも1つである上記記載の分散体に関する。
【0040】
また、本発明は、含窒素カチオン性ポリマーが、ダイヤモンド構造を有する微粒子の総重量100部に対し50重量部から500重量部の範囲で含まれている上記記載の分散体に関する。
【発明の効果】
【0041】
本発明により、粒径ナノメーター単位のUDDが、経時での分散状態に変化がなく、高速攪拌された状況などの外的ショックがある場合や、PHが7未満の場合であってもUDDの凝集が起こりにくい分散体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
UDDの本質的な問題は、UDDそのものを如何に作るかではなく、UDDを凝集させずに如何に金属膜の中に安定に均一にとりいれるか、あるいは潤滑性の向上の場合には、オイルの中で凝集することなく安定に分散できて性能を発揮できるか、あるいは電子部品に加工する場合には、樹脂などバインダー樹脂中に均一に分散できるかといった加工適性を付与しなければならないことである。
【0043】
故に、例えば金属膜の中にUDD粒子を最適な形状で、即ち一次粒子、4〜100nmの状態で取り込むには、電解あるいは無電解めっきなど既存の手法が考えられるが、その場合のUDD粒子は粉状態ではなく、一次粒子が添加しやすい水分散体の状態で提供されることが好ましい。
【0044】
ところが加工適性が付与されたUDD粒子、例えば水分散体の多くは、UDD粒子自体が持つ強い吸着力が原因で安定となる凝集体を作りやすく、一度凝集体を作ると細かくすることが困難となる。
【0045】
本発明の分散体は、UDD粒子、ビスフェノールスルホン酸ポリマー、含窒素カチオン性ポリマーと媒体を含むものである。ビスフェノールスルホン酸ポリマーを用いることにより、ビスフェノールスルホン酸ポリマーがUDD粒子の疎水性表面に吸着してその表面を親水化するため、それにより、従来UDD分散に使用されていた、例えば、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等や界面活性剤にくらべ、優れた安定性を与えることができる。また、粒子表面を官能基導入することなく、容易にアニオン性を与えることができる、よって、その吸着によりUDD粒子表面にマイナスの電荷を与え粒子間にマイナスの静電反発力を作用させることで高い分散効果を得ることが出来、即ち粒子同士がひきつけあわないでいられるような状況を保っていられるので、40℃や80℃などの高い保存温度や、外的ショックがある環境や、幅広いPH領域(4〜12)において粘度変化などの分散状態の変化がなく、メジアン径が変わらない安定した分散液になる。
【0046】
本発明の分散体は、ダイヤモンド構造を有する微粒子と、ビスフェノールスルホン酸ポリマーと媒体とを、ボールミル、ビーズミルなどのメディア分散機などの公知の分散機・攪拌機で分散して得られる。必要に応じ、ビスフェノールスルホン酸ポリマーの粒子表面への物理吸着能力の向上を目的に比較的高温での90度の条件で加熱分散を行ってもよい。その上で含窒素カチオン性ポリマーを媒体に溶かし、双方を混合して得られる。
【0047】
更に上記ビスフェノールスルホン酸ポリマーにより適正に表面を被覆されたダイヤモンド粒子を含む分散体に含窒素カチオン性ポリマーと混合する際、あるいは混合した後に必要に応じ超音波ホモジナイザーなどによる分散安定化処理を行ってもよい。
【0048】
(ダイヤモンド構造を有する微粒子、UDDについて)
本発明で用いられるダイヤモンド構造を有する微粒子は、粒径ナノメーター単位の超微粒子ダイヤモンド(以下UDD)微粒子であることが好ましい。
【0049】
本発明で用いられるUDD微粒子は、特に限定されるものではなく、市販のもの、火薬、起爆剤、水または炭酸ガスなどを原料とした1963年ウクライナで発見された合成方法によって得られた材料、具体的には特許第4245310号公報、第2799337号公報に記載されるような材料が好適に用いられる。
【0050】
また、レーザー光回折・散乱を測定原理とした粒度分布計で測定したときの、メジアン径が、4〜100nmのものが入手可能であるが、中でもメジアン径4〜40nmの範囲であることが、ナノ分散体を作成する上で好ましいものである。
【0051】
本発明におけるメジアン径は、体積分布等の測定から得られるUDD粒子の存在比率から求めることができる。レーザー回折・散乱法では原理上体積分布を測定しており(現在では粒子の形状を球形と仮定し、ソフトウェアで個数基準などに換算することは容易。) 、沈降法は質量基準の測定法だが測定の過程で試料の密度が必要なため体積分布も得られる。動的光散乱法では、信号の相対強度として存在比率が求められるのが一般的も、体積分布も出力可能な測定装置があれば特に限定されるものではない。
【0052】
そして上記装置によって測定されたメジアン径(d50)は、UDD粒子をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる径を意味する。測定原理は、粒子に光を照射した時、各粒子径により散乱される散乱光量とパターンが異なることを利用したレーザー回折・散乱法の粒度分布計、例えば、日機装(株)から販売されているマイクロトラック等により測定ができるが、メジアン径が測定可能な装置であれば特に限定されるものではない。
【0053】
(ビスフェノールスルホン酸ポリマーについて)
本発明で用いられるビスフェノールスルホン酸ポリマーは、スルホン酸基(−SO
3H、または、−SO
3Na)を分子中に含むビスフェノール型骨格を有するポリマーである。これらは、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。ビスフェノールスルホン酸ポリマーは、以下に述べる、一般式(1)で表される構造単位と、一般式(2)で表される構造単位とを有するポリマーが好ましく、更に好ましくは一般式(3)で表される構造単位と、一般式(4)で表される構造単位とを有するポリマー、および、一般式(5)で表されるポリマーのいずれかである。
【0054】
ここで、一般式(5)で表されるポリマーにおけるnは7〜40の整数であり、15〜25の整数であることが好ましい。
【0055】
一般式(5)で表されるポリマーにおけるR
1およびR
2は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、水素原子、メチル基、またはエチル基であることが好ましい。
【0056】
本発明で用いられるビスフェノールスルホン酸ポリマーの重量平均分子量は5,000〜30,000であることが好ましい。特に10,000〜30,000であることが好ましい。
【0057】
重量平均分子量が5,000より小さすぎると粒子表面への粒子表面への吸着能が低下するため、分散しても粒子表面から水中で剥がれやすくなり、粒子が経時で沈降分離するなどの不具合を生じる。また、重量平均分子量が30,000より大きすぎると、分散時の粘度が上がりすぎる結果、分散が安定しないなどの不具合を生じる。
【0058】
なお、一般式(3)で表される構造単位と、一般式(4)で表される構造単位とを有するポリマーとしては、小西化学工業株式会社から、WSR−SP28が市販されている。また、一般式(5)で表されるポリマーとしては、日本製紙ケミカル株式会社から、ビスパーズP125、ビスパーズP215が市販されている。
【0059】
このビスフェノールスルホン酸ポリマーは、ダイヤモンド構造を有する微粒子総重量100部に対して10〜100部の量で分散体中に含まれることが好ましく、さらに好ましくは、20〜50部の範囲が選ばれる。この含有量が10部より少ない場合には、分散体としての分散性が不十分となって経時での粘度増加を起こす結果、保存安定性が低下する恐れがあり、100部より多い場合は、UDD粒子同士をかえって二次凝集させてしまう結果、加えて離脱成分が多くなり表面張力低下を起こすため、泡を抱きやすくなる結果、添加される溶媒へのショックも大きくなる傾向がみられる。
【0060】
(含窒素カチオン性ポリマーについて)
本発明で用いられる含窒素カチオン性ポリマーは、水中で解離したとき陽イオンとなるものであり、第四級アンモニウム塩系ポリマーが好ましく、代表的なものとしては、ポリジアリルジアルキルアンモニウムクロライド、ジアリルアミン
塩酸塩・アクリルアミド共重合物、ジシアンジアミド・ポリアルキレンポリアミン重縮合物、または、ジアルキルアミン・アンモニア・エピクロルヒドリン重縮合物等が挙げられる。
【0061】
これら含窒素カチオン性ポリマーとして特に好ましいものは、ポリジアリルジアルキルアンモニウムクロライドである。
【0062】
ここで、ポリジアリルジアルキルアンモニウムクロライドは、ジアリルジアルキルアンモニウムクロライドを重合したものであって、下記一般式(6)で表される。
【0064】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、アルキル基を表わす。
nは1以上の整数を表す。)
【0065】
具体的には、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドが挙げられ、センカ株式会社から「ユニセンスFPA100L」として販売されている。
【0066】
また、ジアリルアミン
塩酸塩・アクリルアミド共重合物は、ジアリルアミン
塩酸塩とアクリルアミド共重合物とを共重合したものであって、下記一般式(7)で表される。
【0068】
(式中、mおよびnは、それぞれ独立に、1以上の整数を表す。
ここで、一般式(7)は構成単位の共重合比を表したものであり、ブロック共重合体ではない。)
【0069】
ジアリルアミン
塩酸塩・アクリルアミド共重合物としては、センカ株式会社から「ユニセンス
KCA100L」として販売されている。
【0070】
また、ジシアンジアミド・ポリアルキレンポリアミン重縮合物は、ジシアンジアミドとポリアルキレンポリアミンとを重縮合したものであって、下記一般式(8)で表される。
【0072】
(式中、mおよびnは、それぞれ独立に、1以上の整数を表す。
ここで、式中のいずれかの窒素原子とHClは塩を形成している。)
【0073】
ジシアンジアミド・ポリアルキレンポリアミン重縮合物としては、センカ株式会社から「ユニセンスKHP10L」として販売されている。
【0074】
また、ジアルキルアミン・アンモニア・エピクロルヒドリン重縮合物は、ジアルキルアミンとアンモニアとエピクロルヒドリンとを重縮合したものであって、下記一般式(9)で表される。
【0076】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、アルキル基を表わす。
mおよびnは、それぞれ独立に、1以上の整数を表す。
ここで、一般式(9)は構成単位の共重合比を表したものであり、ブロック共重合体ではない。)
【0077】
具体的には、ジメチルアミン・アンモニア・エピクロルヒドリン重縮合物が挙げられ、センカ株式会社から「ユニセンスKHE100L」として販売されている。
【0078】
ここで、一般式(6)で表されるポリマーにおけるnは5〜20の整数であり、10〜15の整数であることが好ましい。nが10より小さい場合には、カチオン性が弱すぎアニオン成分が混合するとショックにより凝集する傾向がある。またnが10より大きい場合には、粘度が高くなる傾向がある。
【0079】
式(6)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、アルキル基を表し、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基であり、更に好ましくはメチル基、またはエチル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0080】
一般式(7)、(8)のポリマーは構成単位の共重合比を表したものであり、ブロック共重合体ではない。式中、mおよびnは、それぞれ独立に、1以上の整数を表す。mがnより大きい場合にはカチオン性が高くなる一方、nがmより大きい場合には粘度が高くなるため、mとnは等比が好ましい。
【0081】
ここで、一般式(9)のポリマーは公知のグアニジン化合物から誘導された縮合型カチオンであり、構造中に第2、3級アミノ基を有する。ここで、式中のいずれかの窒素原子とHClは塩を形成している。
【0082】
上記含窒素カチオン性ポリマーは、ダイヤモンド構造を有する微粒子の総重量100部に対し50重量部から500重量部の範囲で含まれていることが好ましく、50重量部より少ないとビスフェノールスルホン酸ポリマーのアニオン性が強く、PH変化に伴う凝集を起こしやすく、また500重量部を超えた量である場合には、カチオン成分の凝集剤役割が強くなりダイヤモンド粒子を凝析させてしまう。従って前述群の含窒素カチオン性ポリマーの添加量には最適な範囲が存在する。
【0083】
(媒体について)
本発明に利用できる媒体は、親水性の媒体が好ましく、水、水系有機溶媒、親水性の官能基を有するバインダー樹脂などに好適に用いられる。しかし、非親水性と称される溶媒やバインダー樹脂を用いても、UDD同士が凝集しにくい分散状態となるので、分散体を全く使わない系に比べると、良好な結果を与える。
【実施例】
【0084】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明の技術思想を逸脱しない限り、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、以下「重量%」「重量部」は単に「%」「部」と記載する。実施例において、重量平均分子量は、GPC測定値(PEG換算)である。pHは25℃で電気化学計器社製ガラス電極式水素イオン濃度計を用い、導電率は25℃でHORIBA社製CONDUCTIVITY METER DS−12を用い、粘度は25℃でトキメック社製B型粘度計を用い測定した。また、平均粒子径は、日機装(株)製マイクロトラックUPAを用い、体積頻度%でメジアン径D50を測定した値である。
【0085】
表1に示した原料を用い実施例及び比較例の分散体を作成した。ビスフェノールスルホン酸ポリマーとしては、以下の化合物を用いた。
ビスパーズP125(ビスフェノールS型スルホン酸ポリマー)(日本製紙ケミカル株式会社製:重量平均分子量1万)
WSR−SP28(ビスフェノールS型スルホン酸ポリマー)(小西化学工業株式会社製:重量平均分子量1.8万)
【0086】
まず、実施例1〜10および比較例1〜4では、ラボラトリーディゾルバー(ディスパーマットCL54(VMA−Getzmann社製):チャンバー容量250cc)を用いて、0.8mm径のジルコニアビーズ充填率50%の条件下で250ccチャンバー平均滞留時間10分になるまで粗分散を行った後、0.1mm径のジルコニアビーズ充填率80%の条件下で250ccチャンバー平均滞留時間60分になるまで本分散を実施した。その分散体に含窒素カチオン性ポリマーをナノダイヤモンド粒子100部に対し、100部となるよう濃度を調整、総量を追加イオン交換水で調整し総計10KGの分散体を得た。
それぞれに対し、混合時の粗大粒子除去を目的として、ブランソン社超音波ホモジナイザーModel450Dを用い、連続発振振幅値100%、消費電力150Wのエネルギーで10分間分散を行った。その後この分散液に1M/Lの塩酸を加え、系を安定化させたのちに粒度・PH・粘度の分散体特性を計測し、判断した。実施例1〜10は、ナノダイヤモンド粒子、ビスフェノールスルホン酸ポリマー、含窒素カチオン性ポリマーの3成分を含む分散体が、水素イオン濃度7以上であっても7未満の場合であっても非常に安定でナノ分散が維持できていることが証明された。
【0087】
比較例1〜4は含窒素ポリマーを除いた他は、実施例1〜10の手順とまったく同様にして分散液を作成し評価したところ、PH7以上のアニオン性が強い領域では、分散安定性が良好だが、水素イオン濃度の高い領域、PHが7未満の領域では安定性がすぐに失われ実用に耐えうるものではなかった。
【0088】
表1
【表1】
【0089】
【表1】
【0090】
本発明により、分散が難しいナノダイヤモンド粒子を、ビスフェノールスルホン酸ポリマーを用いて分散した分散体を温度変化や時間経過にともなう凝集抑制を目的として含窒素カチオンポリマーと媒体とを含む分散体が、メジアン径を1次粒子に限りなく小さくすることができるが故ナノダイヤモンド粒子本来の性能を引き出しつつ、かつ温度変化を伴う経時での粘度及び粒度の変化が小さい、画期的で工業的に利用価値のある分散体を提供することが出来る。