【実施例】
【0023】
(1)無機バインダーの調製
透明無機バインダーは、メチルトリエトキシシラン(以下、MTESと書く)、硝酸、水を様々な組成で混合溶解し、粘性が出るまで70℃程度で加熱濃縮して調製した。また、ポリビニルブチラール(以下、PVBと書く)含有無機バインダーは、上記組成に加え、PVBを固形分率で7.5〜15mass%添加して、常温下で透明溶液になるまで12時間以上撹拌して調製した。
【0024】
(2)チタニアコート剤の調製
調製した無機バインダーに所定量のチタニア光触媒(JRC-TIO-4(2)、触媒学会チタニア参照触媒またはA-100、石原産業(株))を撹拌混合してチタニアコート剤を調製した。バインダーの粘性が高いので、チタニアコート剤として用いる場合には、塗布する際にエタノール溶媒で1.4倍程度に希釈した。JRC-TIO-4(2)とA-100の純度及び平均粒径は以下のとおりである。
・JRC-TIO-4(2):純度:99.5%以上、平均粒径:21 nm
・A-100:純度:98%、平均粒径:0.15μm
【0025】
(3)多孔質体
火山礫をセメントで結合した多孔質体(大有コンクリート工業(株))、コンクリートブロック(普通セメント(W/C: 41)、大有コンクリート工業(株))、合成ゼオライトA-4(東ソー(株)、ゼオラム)を被コーティング材として用いた。
【0026】
<無機バインダーの組成分析>
無機バインダーを常温乾燥させて固形体とし、蛍光X線分析により行った。
【0027】
<接着率の測定>
無機バインダーの接着性の強度については、下記の吸着率の式に示したように、10gの合成ゼオライトA-4に対して、1gの無機バインダーを用いて成形体を作製したとき、80℃で1時間の加熱処理後に全体の何パーセントを接着することができたかによる接着率で評価した。
接着率 =(接着した部分の重量/成形体全重量)X100(%)
【0028】
<溶出pHの測定>
セメント結合多孔質体やコンクリートブロック(普通セメント(W/C: 41))を500mLの純水(pH6)中に常温下で24時間浸漬させた後、水のpHをユニバーサル試験紙により調べた。
【0029】
<吸水率の測定>
吸水率を下記の式により算出した。
吸水率(Q)= (m1− m2)/ m2 X100 (%)
水中(21.3℃)24h浸漬後のコート試料の質量:m1 (g)
105℃X24h 乾燥後の質量:m2 (g)
【0030】
<密度の測定>
密度を下記の式より算出した。
密度= 質量/体積 (g/cm
3)
【0031】
<光触媒活性の評価>
光触媒活性を評価するため、A-100 よりも光触媒活性の高いJRC-TIO-4(2)を用いて、セメント結合多孔質体及びコンクリートブロックには20 mass%含有チタニアコート剤で、合成ゼオライトA-4には、30 mass%含有チタニアコート剤を用いてチタニアコートを行った。それぞれ以下に示した前処理を行った後に、光触媒活性をアセトアルデヒドの分解により調べた。
【0032】
・コンクリートブロック:表面積:50 cm
2、水に浸漬させた後、110℃で2時間加熱処理、168時間UV照射(ブラックライト、1.0 mW / cm
2)。
・火山礫多孔質体:表面積:50 cm
2、水に浸漬させた後、110℃で2時間加熱処理、168時間UV照射(ブラックライト、1.0 mW / cm
2)。
・ゼオライト:水に浸漬させた後、105℃で24時間加熱処理、直径90 mmシャーレ(63.6cm
2)に敷き詰め、168時間UV照射(ブラックライト、1.0 mW / cm
2)。
【0033】
表1に示すように、MTESに対して水と硝酸の添加量を変えることにより、乾燥後のバインダー固形体の透明性、接着性、硬度が変化した。水の添加量を多くするほど、透明性と接着性は低くなり、バインダー固形体は硬くなった。硝酸の添加量を多くするほど、透明性は低く、接着性は高くなり、バインダー固形体は硬くなった。
MTES:水:硝酸の組成を、モル比で1:4:2.5X10
-5〜2.5X10
-4、及び1:4.5:2.5X10
-4と組成を最適化して加熱濃縮することにより、接着性を有した透明な無機バインダーを合成できることがわかった。しかしながら、MTES、硝酸、水のみから調製した無機バインダーを用いて作製したゼオライト成形体では、組成を最適化しても、手による加圧により容易に破壊するような低い接着性と硬度しか示さなかった。
【0034】
【表1】
【0035】
次に、接着性を向上させるため、最適化した無機バインダーにPVBの添加量を変えて添加し、接着性を調べたところ、表2に示すように、固形分比率(PVB/(CH
3SiO
3/2 +PVB)×100(mass%))で15mass%のPVBを添加することにより、手による加圧で破壊しない十分な接着性を付与することができた。
【0036】
【表2】
【0037】
表3に、水を過剰量加えて作製したPVB非含有無機バインダー及び15mass%のPVBを含有するPVB含有無機バインダー(MTES:水:硝酸=1:4:2.5X10
-5)固形体の組成分析を行った結果を示す。無機バインダーの組成分析について、主成分であるメチルトリエトキシシランが完全に加水分解重合したと仮定して計算すると、以下のような組成になる。
・メチルシルセスキオキサン(CH
3SiO
3/2):85 mass%
・PVB(-[(C
7O
2H
12)-CH
2]
n-): 15 mass%
【0038】
過剰の水を添加して作製したPVB非含有無機バインダー固形体の組成では、メチルシルセスキオキサン(CH
3SiO
3/2)でのC:Si:O=1:1:1.5の原子比に対して、Cの原子比が0.8と低い値を示したが、ほぼ一致した結果が得られ、加水分解重合反応が十分に進んでいたことが推測できる。一方、PVB含有無機バインダー固形体での組成では、計算上ではCの原子比が1.2程度となるところが、1.5と大きい値が得られた。
これより、PVB含有無機バインダー固形体では、加水分解重合反応が十分に進んでいないことによる残留炭素の存在が示唆された。そこで、このPVB含有無機バインダー固形体を24時間水中に浸漬後、105℃で24時間加熱処理を行った後に組成分析を行ったところ、C の原子比は1.0に低下した。この値はPVB非含有無機バインダー固形体でのCの原子比0.8にPVBの添加によるC の増加分0.2を加えた値と一致しているので、残留炭素を除去できたと考えられる。
以上の結果より、常温乾燥による硬化後に水中浸漬し、105℃程度で加熱処理することが残留炭素の除去に効果的であることがわかった。
【0039】
【表3】
【0040】
表4に示すように、その他の有機シランについて、エタノール溶媒を用いず、水、硝酸または、水、硝酸、PVBを添加して混合撹拌することにより、均一で安定な透明バインダーが調製できるかどうかを調べた。
その結果、MTESに水、硝酸、PVBを添加した場合のみに、均一で安定な透明バインダーが調製でき、しかも、強度な接着性を有していることがわかった。これは、MTESが加水分解することにより生じるエタノールにPVBが溶解するためである。MTESはコスト的にも安価であるため、最適な有機シランといえる。トリメトキシビニルシシランを用いた場合、水と硝酸を添加して透明な溶液を調製することはできたが、接着率は71%と低い結果であった。
トリメトキシビニルシシラン溶液にPVBを添加した場合、均一に溶解させることはできず不均一なバインダーではあったが、接着率は98%と向上した。この溶液に均一にPVBを溶解させるためには、エタノール溶媒の添加が必須である。
【0041】
【表4】
【0042】
セメント結合多孔質体をPVB含有ビニルシランコート、PVB含有メチルシランコート及びPVB+20mass%チタニア(A-100)含有メチルシランコートしたものを比較した。
セメント結合多孔質体のビニルシランとメチルシランコートでは、両者とも密着性の高い皮膜が作製できた。これは多孔質体表面にコート剤が浸透することで、作製皮膜へのアンカー効果が得られることによると考えられる。コンクリートブロックのコートにおいても同様の効果が得られる。また、通常、ガラス等のコートでは、皮膜の硬化に数時間以上を要するのに対して、コンクリートブロックやセメント結合多孔質体をコートした場合、1時間程度で皮膜の硬化が見られた。
セメント結合多孔質体の20mass%チタニア(A-100)含有メチルシランコートの前後において、コート剤を常温乾燥して得た固形体の組成分析を行ったところ、コート後ではセメント成分より溶出したと考えられるカルシウムが約0.2 mass%検出された。このことより、コンクリートブロックやセメント結合多孔質体のコートでは、溶出カルシウムの共存により、皮膜の硬化が促進されたと考えられる。
【0043】
これらの試料の吸水率・密度・溶出pHについて調べた結果を表5に示す。比較として、コンクリートブロックについてのデータも示した。
コンクリートブロックの溶出pHが11で、未コートのセメント結合多孔質体の溶出pHは9でアルカリ性を示した。それに対して、メチルシランコート試料の溶出pHは7の中性を示し、アルカリ溶出を抑制した。また、ビニルシランコート及び20 mass%チタニアコート試料の溶出pHは6と使用した純水のpHと全く変わらず、アルカリ溶出を完全に防止した。
吸水率では、コンクリートブロックが7.0 %であるのに対して、未コートのセメント結合多孔質体で25%と高い吸水率を示した。この吸水率の値はメチルシランコートした場合には23%、チタニアコートした場合には20 %と5ポイント以内の低下であったのに対し、ビニルシランコートでは12%と半分以下に低下した。
密度については、未コートのセメント結合体で1.4 g/ml、ビニルシランコートした場合に1.2 g/ml、メチルシランコートした場合で1.3 g/ml、20mass%チタニア(A-100)含有メチルシランコートした場合で1.4 g/mlと3つの試料間で顕著な差は見られなかった。
これらの結果より、20mass%チタニア(A-100)含有メチルシランコートはセメント結合多孔質体の有する吸水性を保持しながら、アルカリ溶出の防止に非常に効果的に働くことが明らかとなった。
【0044】
【表5】
【0045】
合成ゼオライトA-4に30 mass%チタニア(JRC-TIO-4(2))配合バインダーを用いて、また、セメント結合多孔質体及びコンクリートブロックに、20 mass%チタニア(JRC-TIO-4(2))配合バインダーを用いて作製したチタニアコート試料について、アセトアルデヒドの分解による光触媒活性を調べたところ、30 mass%チタニアコートした合成ゼオライトA-4では、6時間のUV照射を要したのに対して、20 mass%チタニアコートしたコンクリートブロックでは、2.5時間のUV照射でほぼ分解することができた。20 mass%チタニアコートしたセメント結合多孔質体も光触媒活性を示すことがわかった。
【0046】
以上の説明からも明らかなように、本発明は、各種有機シランの中でも、安価な有機シランであるメチルトリエトキシシランより調製した無機バインダーを用いて、軽量骨材である火山礫をセメントで結合した多孔質体の吸水率を低下させることなくアルカリ溶出を抑制することができた。常温乾燥により強固に固化させることができるので、焼結させることなく、光触媒活性を有したチタニアコート多孔質体の作製が可能である。