【実施例1】
【0021】
図1は本発明の一実施例の林業専用道または森林作業道の土留め擁壁を道路とともに模式的に示した断面図である。
図2は
図1の土留め擁壁の具体的な構造を示した断面図である。
図3は
図2の土留め擁壁の正面図、
図4は
図2の土留め擁壁の平面図である。
この土留め擁壁6を構築する場合、まず、地山における設定した道路位置の谷側部分を掘削して、固い地盤7を露出させる。掘削した部分を破線で示す。固い地盤7の上に最下段のカゴ枠1を配置し、カゴ枠1内に土砂や栗石を充填する。
次いで、最下段の中詰め材充填カゴ枠1の上に2段目のカゴ枠1を下段のカゴ枠1に対して道路幅方向山側にずらして配置し、前記と同様にカゴ枠1内に土砂や栗石を充填する。これにより、図示例では2段の中詰め材充填カゴ枠1からなるカゴ枠擁壁部4が得られる。カゴ枠1の前後の空間に先に掘削した土砂を埋め戻す。
次いで、上段の中詰め材充填カゴ枠1の上に鋼製のL形擁壁材2を配置し、L形擁壁材2の内側に土砂を充填する。この場合、土砂をL形擁壁材の高さの半分まで充填・転圧した段階で、補強メッシュ3を水平に配置し、その前端をL形擁壁材2の前壁の高さ中間位置に連結する。さらに土砂を充填し、次いで、土砂を転圧して、L型擁壁部5を形成する。
こうして、カゴ枠擁壁部4の上にL型擁壁部5を設けた土留め擁壁6が得られる。
なお、設定した道路位置の山側部分を切り取る作業は、土留め擁壁6の構築の作業工程に合わせて、適宜に行うとよい。
図1において、10は築造された道路面、mは現況地山線、nは道路の山側の模式的に示した切土壁面である。道路の山側及び土留め擁壁の谷側には通常、図示のように林地となっている。aは道路の幅員、bは道路築造の土工領域(施工範囲)を示す。
図3に示すように、実施例の土留め擁壁におけるカゴ枠擁壁部4の高さは0.5m、L型擁壁部5の高さは1.0mである。1つのL形擁壁材2の幅は1.0m、1つのカゴ枠1の幅は2.0mである。なお、
図4の平面図では、L型擁壁材2における後述するL形溶接金網12の底面部12bと補強メッシュ3とが重なって見えるので、区別のためにその重なって見える部分を破線で示している。
【0022】
前記L形擁壁材2の詳細を
図5〜
図8に示す。このL形擁壁材2は、溶接金網をL形に屈曲してな
図8に示すL形溶接金網12と、
図5〜
図7に示すようにL形溶接金網12の左右両端部にそれぞれ取り付けられる、溶接金網の線材より大径の線材をL形溶接金網12のL形に添うように折曲したL形鉄線枠13と、前記L形鉄線枠13の底面部13bの背面側端部と前面部13aの天端とを連結する補強用の斜め材14と、L形溶接金網12の前面部12aの高さ中間部において前面部に前端を連結された水平な補強メッシュ3とを備えている。
前記L形溶接金網12の溶接金網は径6mmの鉄線を縦横100mm間隔の格子状に溶接したものである。L形溶接金網12の上端縁に山形鋼の上部梁材16を溶接固定し、前記斜め材14の上端部は天端プレート17を介して上部梁材16に固定されている。斜め材14の下端部とL形鉄線枠13の底面部13bの背面側端部とはそれぞれの端部に形成したフック部14a、13cを互いに係合させている。
前記L形鉄線枠13の鉄線径は16mmである。18は植生シートである。
前記補強メッシュ3は、溶接金網を同じく、径6mmの鉄線を縦横100mm間隔の格子状に溶接したものである。
前記L形溶接金網12の前面の高さ中間部に中間梁材19が一体に溶接固定されている。そして、あまり長くないコイルスプリング20が、中間梁材19とL形溶接金網12の前面部12aの縦線12a
1と横線12a
2と補強メッシュ3の鉄線3aとに絡まるように取り付けられており、このコイルスプリング20で補強メッシュ3の前端部が中間梁材19とL形溶接金網12に取り付けられている。
【0023】
前記カゴ枠1の詳細を
図9〜
図11に示す。このカゴ枠1は、溶接金網をL形に折曲した
図11のような2つのL形金網25、26(一方のL形金網26は2点鎖線で輪郭のみを図示)の一方のL形金網25の左右両端にL形の前面枠27を取り付けてなるL形のカゴ枠半体29と、他方のL形金網26の左右両端にL形の後面枠28を取り付けてなるL形のカゴ枠半体30とを、
図9のように対向させ、カゴ枠1の正面から見た左右両端においてそれぞれ、前面枠27の底部27bの先端と後面枠28の底部28bの先端とを互いに係合させてコ字形に組み立て、さらに前面枠27の上端に固定した上部桁材31と後面枠28の上端に固定した上部桁材32との間を上部梁材33で連結し、前面枠27の前面部27aの高さ中間部と後面枠28の後面部28aの高さ中間部とを中間梁材34で連結している。中間梁材34の前後端部はいずれもフック状に折曲しており、前端部は、隣接するカゴ枠1の2つの前面枠27の前面部27aの両者に引っ掛け、後端部は、隣接するカゴ枠1の2つの後面枠28の2つの後面部28aの両者に引っ掛けて、連結している。
【0024】
上記の通り本発明の土留め擁壁は、カゴ枠1と鋼製のL形擁壁材2とで構築するが、カゴ枠1及び鋼製のL形擁壁材2は現場で組み立てできるので、プレキャストのL型擁壁ブロックなどと比べて、単位当たり重量が大きく違うことで現場への部材搬入や据付が極めて容易であり、林業専用道や森林作業道の築造が容易になり、かつ施工費も安くできる。
カゴ枠1の中詰材充填を含む組み立てには、フトン籠のような特殊技能を必要とせず、施工が簡単である。また、鋼製L形擁壁材2も、上述の通りL形溶接金網12とL形鉄線枠13と斜め材14と補強メッシュ3とで構成することができ、その組み立ては容易であり特殊技能を必要としないので、施工が簡単である。したがって、工期短縮を図ることができる。これにより、林業専用道または森林作業道を容易にかつ安価に作ることができるとともに、年間の林業専用道または森林作業道の開設延長を長くすることが可能となる。
また、カゴ枠擁壁部4とL型擁壁部5との組み合わせであり、L型擁壁部5が最上段なので、L型擁壁部5の底面部上の土砂を前壁部に接する範囲まで転圧することができる。したがって、L型擁壁部の前壁部を道路側に極力接近させることが可能であり、中詰め材充填カゴ枠だけを積層設置するカゴ枠擁壁と比べて、道路幅方向の土工領域bを狭く済ませることができる。したがって、道路の山側や谷側の林地を多く残すことができ、樹木保全の観点から、林業専用道または森林作業道の構築方法として優れている。例えば、
図12に示した中詰め材充填カゴ枠のみを積層設置する従来のカゴ枠擁壁の場合、幅員aが4.0mの道路を作る場合、土工領域bが6.6m程度となるが、本発明の工法によれば、土工領域bが5.7m程度で済む(
図1、
図2参照)。
また、カゴ枠擁壁部4とL型擁壁部5との組み合わせであり、L型擁壁部5の前壁部が土圧を有効に支えることができるので、中詰め材充填カゴ枠だけを積層設置するカゴ枠擁壁と比べて、擁壁高さを低くすることができ、掘削量も少なく施工が簡単になり、施工コストを縮減できる。
また、カゴ枠1及びL形擁壁材2は、それぞれ壁面が鉛直面なので、道路のカーブに合わせて曲線状に配列する施工も、特殊な部材を使用せず自在にかつ容易に行うことができる。いわゆるヘアピンカーブにも容易に対応できる。
また、カゴ枠1及びL形擁壁材2は、L型擁壁ブロックと比べて、変形に対する自在性が顕著であり、特殊な部材を使用せずに道路勾配に合わせた施工を自在にかつ容易に行うことができ、坂道となることの多い林業専用道または森林作業道の施工法として極めて優れている。
【0025】
カゴ枠の中詰材料は、石礫と土砂から選択できるので、透水性が必要な箇所には石礫を中詰し、壁面を緑化したい場合は土砂を中詰することができる。
なお、仮にL形擁壁材のみで土留め擁壁を構築した場合、L型土留め擁壁には一般に土砂を中詰めするので、透水性が必要な箇所には適さないが、本発明ではカゴ枠と組み合わせる構造なので、前記の通り、透水性が必要な箇所にも設置できる。
一般的にはL型擁壁の壁面の緑化は難しい。すなわち、L型土留め擁壁は壁面が鉛直なので、その鉛直壁面に種が付着しても落下する恐れが高く、このため、L形土留め擁壁の壁面に良好な緑化を施すことは難しい。しかし、L型土留め擁壁でも高さが1m程度であれば、L型土留め擁壁の基礎平坦部および天端部法面からの植生により、緑化が可能となる。本発明の場合、L型擁壁材2によるL型擁壁部5の高さは概ね1m程度とするので、L型擁壁部5のすぐ下のカゴ枠擁壁部4の露出した上面(L型土留め擁壁の基礎平坦部に相当)、及びL型擁壁部天端法面からの植生により、L型擁壁部5の壁面の緑化も可能となる。したがって、本発明の土留め擁壁は、L型擁壁部があっても壁面全体の緑化が十分可能である。
【0026】
上記実施例の土留め擁壁6は、中詰め材充填カゴ枠1が2段であるが、3段以上とすることも考えられる。また、中詰め材充填カゴ枠1が1段の場合も考えられる。
カゴ枠1内に充填する中詰材は土砂、石礫のいずれでもよいが、複数段の中詰め材充填カゴ枠の一部の中詰め材を石礫、他を土砂とする場合もある。
L形擁壁材の高さはカゴ枠高さの約2倍であるが、厳格に2倍である必要はない。
上述の実施例では、道路の舗装については言及しなかったが、必要に応じて舗装することができる。なお、林業専用道は一般には砂利道であるが、勾配が7%を超える場合は舗装する。また、森林作業道は一般に舗装はしない。