特許第5691121号(P5691121)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 宇部興産株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5691121
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】宇宙機用耐熱導電性白色塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/16 20060101AFI20150312BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20150312BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20150312BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   C09D183/16
   C09D183/04
   C09D7/12
   C09D5/24
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2008-169638(P2008-169638)
(22)【出願日】2008年6月27日
(65)【公開番号】特開2010-6994(P2010-6994A)
(43)【公開日】2010年1月14日
【審査請求日】2011年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092820
【弁理士】
【氏名又は名称】伊丹 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100103274
【弁理士】
【氏名又は名称】千且 和也
(72)【発明者】
【氏名】渡壁 秀治
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 武
(72)【発明者】
【氏名】藤本 康弘
(72)【発明者】
【氏名】青木 文雄
【審査官】 服部 芙美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−091179(JP,A)
【文献】 特公平04−022190(JP,B2)
【文献】 特公平05−079711(JP,B2)
【文献】 国際公開第2005/019358(WO,A1)
【文献】 特開平10−086900(JP,A)
【文献】 特表平11−510555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00− 10/00
C09D101/00−201/10
B05D 1/00− 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着材及び無機充填剤が有機溶剤に分散又は溶解され、
前記無機充填剤が平均粒子径2μm未満の酸化亜鉛を主成分とし、前記結着材がポリメタロカルボシランとシリコーン樹脂の混合物である耐熱導電性白色塗料を含む宇宙機用耐熱導電性白色塗料であって、
塗装し焼付けを行なった後の塗膜の特性が、耐熱性300℃以上、表面抵抗10Ω/sq.以下、及び明度88%以上となることを特徴とする宇宙機用耐熱導電性白色塗料
【請求項2】
前記結着材100重量部に対して、前記酸化亜鉛の含有量が100〜300重量部であることを特徴とする請求項1記載の宇宙機用耐熱導電性白色塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙機などに用いられ、耐熱性や導電性を兼ね備えた耐熱導電性白色塗料及び宇宙機用耐熱導電性白色塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人工衛星やロケットなどの宇宙機の開発が行われている。宇宙機の中で、例えば水星探索用の人工衛星などは、地球よりも太陽に近づくため、250℃以上の温度に曝されることになる。そのため、人工衛星の本体は、ポリイミドなどからなる熱制御フィルムによって包装することによって温度制御を行っている。しかし、人工衛星に設置されるアンテナのような異型物は、熱制御フィルムで覆うことが困難であるので、アンテナについては、塗料により温度を制御することが考えられる。
【0003】
従来の耐熱性塗料としては、例えば、特許文献1には、ポリメタロカルボシラン、シリコーン樹脂、粒状の無機充填材、及び短繊維状の無機充填材を分散した塗料が開示され、高温下での使用に耐え得ることが示されている。
【特許文献1】特開平4−91179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、250℃以上の高温に曝される宇宙空間においては、(a)250℃以上の高温に耐えうる耐熱性を有すること、(b)電気機器の保護及びチリの付着を防ぐため導電性を有すること、(c)輻射熱を反射する必要があることから白色であること、という特性を満たす必要があるところ、特許文献1に記載された耐熱性塗料は、これら特性を十分に有していない。
【0005】
そこで、本発明は、宇宙機のアンテナなどの厳しい環境に曝される部品などに用いられ、耐熱性や導電性を兼ね備えた耐熱導電性白色塗料及び宇宙機用耐熱導電性白色塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、結着材とともに有機溶剤に分散又は溶解される無機充填剤を平均粒径2μm未満の酸化亜鉛とすることにより、十分な白さと耐熱性や導電性を兼ね備えることを見出した。すなわち、本発明は、結着材及び無機充填剤が有機溶剤に分散又は溶解され、前記無機充填剤が平均粒径2μm未満の酸化亜鉛を主成分とすることを特徴とする耐熱導電性白色塗料である。また、前記耐熱導電性白色塗料を含むことを特徴とする宇宙機用耐熱導電性白色塗料である。
【発明の効果】
【0007】
以上のように、本発明によれば、宇宙機のアンテナなどの厳しい環境に曝される部品などに用いられ、耐熱性や導電性を兼ね備えた耐熱導電性白色塗料及び宇宙機用耐熱導電性白色塗料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る耐熱導電性白色塗料において、結着材は、ポリメタロカルボシランとシリコーン樹脂の混合物であることが好ましい。
【0009】
ポリメタロカルボシランは、有機ケイ素重合体であり、公知のものを用いることができる。例えば、特公昭61−49335号公報、特公昭62−60414号公報、特公昭63−37139号公報、及び特公昭63−49691号公報に記載の方法に従って調製することができる。ポリメタロカルボシランの代表的な製法は、数平均分子量が200〜1000のポリカルボシランとチタンあるいはジルコニウムのアルコキシドとを反応させる方法である。この反応によって、ポリカルボシランの骨格中のケイ素原子の一部が、酸素原子を介してチタン原子あるいはジルコニウム原子と結合する。これにより、数平均分子量が700〜100000の架橋重合体であるポリチタノカルボシランなどのポリメタロカルボシランが得られる。
【0010】
シリコーン樹脂としては、メチルフェニルポリシロキサンなどのポリアルキルフェニルシロキサン、ジメチルポリシロキサン、及びジフェニルポリシロキサンの純シリコーン樹脂などがあり、またこれら純シリコーン樹脂をアルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、又はエポキシ樹脂などの変性用樹脂と反応させた変性シリコーンなどでもよく、ポリアルキルフェニルシロキサンであることが好ましく、メチルフェニルポリシロキサンであることがさらに好ましい。シリコーン樹脂は、ポリメタロカルボシラン100重量部当たり、10〜900重量部であることが好ましく、50〜500重量部であることがさらに好ましい。シリコーン樹脂の配合割合が過度に小さいと焼付け塗膜の可撓性が低下し、その割合が過度に高くなると焼付け塗膜の耐熱性及び耐食性が低下する。
【0011】
本発明に係る耐熱導電性白色塗料において、無機充填剤は、平均粒子径2μm未満の酸化亜鉛を主成分とするが、マグネシウム、カルシウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ホウ素、アルミニウム及びケイ素の酸化物、炭化物、窒化物及びホウ化物、並びにリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム及び亜鉛のホウ酸塩、リン酸塩及びケイ酸塩など他の無機充填剤が本発明の効果に影響を与えない範囲で含まれても良い。酸化亜鉛の平均粒子径は、2μm未満であり、0.5〜1.9μmであることが好ましい。このように酸化亜鉛の平均粒子径を調整することにより、塗装し焼付けを行なった後の塗膜の特性が、耐熱性300℃以上、表面抵抗10Ω/sq.以下、及び明度(L*)88%以上となる耐熱導電性白色塗料が得られる。明度(L*)は、色の濃度を表し、0.00%〜100.00%の値まであり、0.00%が真っ黒、100.00%が真っ白を意味し、例えば変角分光システムを用いて測定することができる。平均粒子径が2μm未満の酸化亜鉛は、ロータリー空気式分級機や遠心分級機などを用いて分級により得ることができ、平均粒子径は、散乱型レーザ回折/粒子径分散測定装置によって測定することができる。酸化亜鉛の純度は、99%以上であることが好ましく、99.9〜99.999%であることがさらに好ましい。純度が低いと、白色度が低下し、純度が高すぎると導電性が低下するおそれがある。
【0012】
酸化亜鉛の含有量は、結着材100重量部に対して、酸化亜鉛が100〜300重量部であることが好ましく、100重量部〜200重量部であることがさらに好ましい。酸化亜鉛の含有量が上記範囲より少ないと塗料の白色度及び導電性の低下を招き、上記範囲より多いと、塗料中の無機充填剤の結着性が低下し塗料の欠落の原因となり好ましくない。
【0013】
本発明に係る耐熱導電性白色塗料において、有機溶剤は、結着材が分散又は溶解可能なものであれば制限なく用いることができる。このような有機溶剤として、トルエン、キシレン、1−ブタノール、イソブタノール、酢酸ブチル、ミネラルスピリット、ソルベントナフサ、エチルセロソロブ、及びセロソルブアセテートが挙げられ、キシレンが好ましい。また、本発明の効果に影響を与えない範囲で溶媒を2種ないしそれ以上混合しても良い。有機溶剤の使用量は、結着材や無機充填剤の種類や含有量等に応じて種々異なるが、本発明の開示に従って当業者が適宜決定することができる。
【0014】
本発明に係る耐熱導電性白色塗料は、金属基材、又はセラミック、耐火レンガ、若しくはCFRPなどの非金属基材に塗布される。基材は、アセトンやシンナーなどの有機溶剤により脱脂後、サンドプラスト等で下地処理されていることが好ましい。下地処理の際に用いられる下地処理剤は、例えば、オキツモ社製No.903やNo.983、日本ペイント社製ハイポン20等を使用することができる。これら基材に、本発明に係る耐熱導電性白色塗料が刷毛塗り、ロールコータ、スプレー、及び浸漬などの公知の手段で塗布される。塗布量は20〜100g/mであることが好ましい。塗布量が過度に小さいと塗膜にピンホールが発生しやすくなり、耐食性が低下する。塗布量が過度に大きいと塗膜が高温下又は冷熱サイクルに曝される際に塗膜にクラックが発生しやすくなる。焼付け温度は150℃以上が好ましく、200℃以上がさらに好ましい。焼付け温度が過度に低いと塗料成分である結着材の硬化が十分に起こらず、塗膜の強度が低くなると共に耐衝撃性も低下する。なお、塗料の塗装後に被塗装物が150℃以上の使用環境に置かれる場合は、焼付けを省略することもできる。
【実施例1】
【0015】
実施例1
次に、耐熱導電性白色塗料の製造について説明する。500mlポリエチレン製広口ビンに結着材としてのポリチタノカルボシランとメチルフェニルポリシロキサンの混合物(これらの割合が(47.4重量%):(52.6重量%))の45.7重量%のキシレン/1−ブタノール溶液(チラノワニス、宇部興産社製VN−100)70.0g、無機充填剤としての酸化亜鉛(高純度化学社製3N、平均粒子径1μm)70.0g、キシレン3.0g及びジルコニアボール(東ソー製YTZボール)91.7gを入れ密栓をした後、ポットミル機に設置し20℃の環境下で、20rpmの回転速度で24時間かけ酸化亜鉛を結着材等に均一分散させて実施例1に係る耐熱導電性白色塗料を得た。実施例1に係る耐熱導電性白色塗料について、東京計器社製E型粘度計を用いて25℃の時の粘度を測定した。その結果を表1に示す。
【0016】
次に、この実施例1に係る耐熱導電性白色塗料を用いて塗装を行った。40mm×40mm、厚み1mmのアルミニウム板をシンナーで脱脂後、320番のサンドペーパーで一方向に向かって全面を5回研磨し表面を清浄化した。清浄化した後、アルミニウム板の清浄化した面を上にして平らな場所に置き、アルミニウム板の清浄化した面に実施例1に係る耐熱導電性白色塗料をスプレー(アネスト岩田社製W−101)を用いて全面に塗装した。塗装されたアルミニウム板はそのままの状態で、3分間室温で静置した後、再度、実施例1に係る耐熱導電性白色塗料を塗装した。同様の塗装を更に2回繰り返した。塗装が完了したアルミニウム板はそのままの状態で、30分間室温で静置した。その後、熱風乾燥機(ヤマト科学社製DK−400)にアルミニウム板の塗装面を上にして平らに置いた状態で、60℃で10分間、80℃で10分間、100℃で10分間、160℃で10分間、200℃で10分間乾燥させた。次いで、乾燥させたアルミニウム板をアルミニウム板の塗装面を上にして平らに置いた状態で熱風乾燥機(エスペック社製STPH−201)を用いて、250℃で10分間及び380℃で10分間熱処理をして塗装を定着及び硬化させて、アルミニウム板の片面を実施例1に係る耐熱導電性白色塗料で塗装し焼付けしたアルミニウム板Aを得た。実施例1に係る耐熱導電性白色塗料の塗装厚みは0.14mmであった。このアルミニウム板Aについて、カラーテクノシステム社製変角分光システムを用いて、塗装表面の明度(L*)を測定した。その結果を表1に示す。
【0017】
次に、実施例1に係る耐熱導電性白色塗料を別の塗装に用いた。100mm×100mm、厚み3mmのアルミニウム板に変えた以外は、上記と同様に耐熱導電性白色塗料の塗装を行なって、アルミニウム板の片面を実施例1に係る耐熱導電性白色塗料で塗装し焼付けしたアルミニウム板Bを得た。実施例1に係る耐熱導電性白色塗料の塗装厚みは0.07mmであった。このアルミニウム板Bについて、表面抵抗計(シムコジャパン社製ST−3型)を用いて23℃で、アルミニウム板Bの塗装表面の抵抗を測定した。その結果を表1に示す。
【0018】
実施例2〜6
表1及び2に示す配合で耐熱導電性白色塗料を作製した以外は、実施例1と同様の製造方法により実施例2乃至6に係る耐熱導電性白色塗料を得た。また、実施例2乃至6に係る耐熱導電性白色塗料を用いて実施例1と同様に塗装したアルミニウム板A及びBを得た。それらを用いて実施例1と同様に粘度、明度、及び表面抵抗を測定した。結果を表1及び2に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
比較例1〜5
表3及び4に示す配合で耐熱導電性白色塗料を作製した以外は、実施例1と同様の製造方法により比較例1乃至5に係る耐熱導電性白色塗料を得た。また、比較例1乃至5に係る耐熱導電性白色塗料を用いて実施例1と同様に塗装し焼付けしたアルミニウム板A及びBを得た。それらを用いて実施例1と同様に粘度、明度、及び表面抵抗を測定した。結果を表3及び4に示す。
【0021】
【表3】
【0022】
【表4】
【0023】
実施例7
実施例4に係る耐熱導電性白色塗料が塗装され焼付けされた前記アルミニウム板A及びBについて、塗装面を上にして平らに置いた状態で熱風乾燥機(エスペック社製STPH−201)を用いて、大気中、350℃で100時間処理を行なった。アルミニウム板Aについては白色度、アルミニウム板Bについては導電性を測定したところ、熱処理前と変化はなかった。
【0024】
実施例8
実施例4に係る耐熱導電性白色塗料が塗装され焼付けされた前記アルミニウム板A及びBについて塗装面を上にして平らに置いた状態で熱風乾燥機(エスペック社製STPH−201)を用いて、大気中、400℃で1.5時間処理を行なった。アルミニウム板Aについては白色度、アルミニウム板Bについては導電性を測定したところ、熱処理前と変化はなかった。
【0025】
実施例7及び8より、一般的な有機系白色塗料であれば高温に放置すると分解により着色が起き、また導電性も何らかの影響を受けると考えられるが、本発明に係る耐熱導電性白色塗料においては、高温で熱処理を行っても白色度及び導電性を維持することができることが分かる。