特許第5691129号(P5691129)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5691129ポリイミドフィルム、その製造方法、ポリイミド金属積層体および回路基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5691129
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】ポリイミドフィルム、その製造方法、ポリイミド金属積層体および回路基板
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/04 20060101AFI20150312BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20150312BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20150312BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20150312BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   C08J7/04 FCFG
   C08J5/18
   B32B15/088
   B32B27/34
   H05K1/03 610N
【請求項の数】11
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2009-33775(P2009-33775)
(22)【出願日】2009年2月17日
(65)【公開番号】特開2009-263625(P2009-263625A)
(43)【公開日】2009年11月12日
【審査請求日】2011年12月7日
(31)【優先権主張番号】特願2008-94198(P2008-94198)
(32)【優先日】2008年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(74)【代理人】
【識別番号】100129610
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 暁子
(72)【発明者】
【氏名】幸田 政文
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕章
(72)【発明者】
【氏名】山根 俊文
【審査官】 中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−214840(JP,A)
【文献】 特開平07−035913(JP,A)
【文献】 特開昭62−250037(JP,A)
【文献】 特開平01−213341(JP,A)
【文献】 特開2005−173410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J7/04−7/06
B05D1/00−7/26
B32B1/00−43/00
C08G73/00−73/26
C08J5/00−5/02;5/12−5/22
C09D1/00−10/00;101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムを準備する工程と、
この自己支持性フィルムの片面または両面に、下記式(1)で表されるアルミニウムキレート化合物と、ノニオン系界面活性剤および下記式(2)で表されるアルミニウムアルコラート化合物とを含む溶液を塗布する工程と、
アルミニウムキレート化合物を含む溶液を塗布した自己支持性フィルムを加熱、イミド化する工程と
を有するポリイミドフィルムの製造方法。
【化1】
(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1〜8の直鎖または分岐アルキル基を表す。)
【化2】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1〜6の直鎖または分岐アルキル基を表し、Rは、炭素数1〜8の直鎖または分岐アルキル基を表す。)
【請求項2】
前記ノニオン系界面活性剤が、シリコン系界面活性剤およびポリエチレングリコール系界面活性剤より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウムアルコラート化合物が、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートである請求項1または2に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウムキレート化合物が、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)である請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記自己支持性フィルムをイミド化する際の最高加熱温度が350〜520℃である請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法により製造されるポリイミドフィルム。
【請求項7】
請求項6に記載のポリイミドフィルムの、製造時にアルミニウムキレート化合物を含む溶液を塗布した面に金属層を積層してなるポリイミド金属積層体。
【請求項8】
接着剤を介してポリイミドフィルムに金属箔を積層してなる請求項7に記載のポリイミド金属積層体。
【請求項9】
乾式メッキまたは湿式メッキによりポリイミドフィルムに金属層を形成してなる請求項7に記載のポリイミド金属積層体。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載のポリイミド金属積層体に回路を形成してなる回路基板。
【請求項11】
30μm以下のピッチの金属配線部分を含む請求項10に記載の回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性が改良され、さらには表面平滑性にも優れたポリイミドフィルム、およびその製造方法に関する。また本発明は、このポリイミドフィルムを用いたポリイミド金属積層体およびポリイミド回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、熱的性質および電気的性質に優れているため、電子機器類の用途に広く使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリイミドフィルムは接着性に問題があり、エポキシ樹脂系接着剤などの耐熱性接着剤を介して銅箔などの金属箔と接合した際に、十分に大きな接着強度が得られないことがあった。また、ポリイミドフィルムに金属蒸着やスパッタリングにより金属層を設けても、十分に剥離強度の大きな積層体が得られないことがあった。
【0004】
さらに、特許文献1には、ポリイミドフィルムの優れた特性を保持したままで、接着性(スパッタリング性および金属蒸着性を含む)の改良されたポリイミドフィルムとして、ポリアミック酸溶液から得られた自己支持性フィルムにアルミニウム化合物を含む溶液を塗布した後、乾燥し、次いで420℃以上の温度で加熱してイミド化を完了させて得られる、フィルム表面のアルミニウム含有量が1−1000ppmであるポリイミドフィルムが開示されている。
【0005】
また、特許文献1には、上記のアルミニウム含有量が1−1000ppmであるポリイミドフィルムの片面または両面に耐熱性接着剤によって金属箔が積層されている積層体が開示されている。特許文献2には、アルミニウム含有量が1−1000ppmであるポリイミドフィルムの片面または両面に蒸着法、スパッタリング法などにより直接金属または金属酸化物を積層した積層体が開示されている。特許文献3には、ポリアミック酸溶液から得られた自己支持性フィルムにアルミニウム化合物を含む溶液を塗布した後、乾燥し、次いで420℃以上の温度で加熱してイミド化を完了させて得られるポリイミドフィルム上に、湿式めっきプロセスによって金属導電層を形成してなるポリイミド金属積層体、およびポリイミド回路基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−158276号公報
【特許文献2】特開平11−240106号公報
【特許文献3】特開2005−225228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、芳香族ポリイミドフィルムの優れた特性を保持しつつ、接着性、スパッタリング性や金属蒸着性、金属メッキ性が良好であり、かつ表面平滑性に優れたポリイミドフィルムを提供することである。さらには、このポリイミドフィルムを用いたポリイミド金属積層体および回路基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の事項に関する。
【0009】
1. ポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムを準備する工程と、
この自己支持性フィルムの片面または両面に、下記式(1)で表されるアルミニウムキレート化合物を含む溶液を塗布する工程と、
アルミニウムキレート化合物を含む溶液を塗布した自己支持性フィルムを加熱、イミド化する工程と
を有するポリイミドフィルムの製造方法。
【0010】
【化1】
(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1〜8の直鎖または分岐アルキル基を表す。)
【0011】
2. 自己支持性フィルムの片面または両面に、上記式(1)で表されるアルミニウムキレート化合物を含む溶液を塗布する工程において、塗布する溶液はさらにノニオン系界面活性剤を含むことを特徴とする上記1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0012】
3. ノニオン系界面活性剤が、シリコン系界面活性剤およびポリエチレングリコール系界面活性剤より選ばれる少なくとも1種である上記2に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0013】
4. 自己支持性フィルムの片面または両面に、上記式(1)で表されるアルミニウムキレート化合物を含む溶液を塗布する工程において、塗布する溶液はさらにアルコキシ基を少なくとも1つ有するアルミニウムアルコラート化合物を含むことを特徴とする上記1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0014】
5. 前記アルミニウムアルコラート化合物が、下記式(2)で表される化合物である上記4に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0015】
【化2】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1〜6の直鎖または分岐アルキル基を表し、Rは、炭素数1〜8の直鎖または分岐アルキル基を表す。)
【0016】
6. 前記アルミニウムアルコラート化合物が、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートである上記4に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0017】
7. 前記アルミニウムキレート化合物が、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)である上記1〜6のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0018】
8. 前記自己支持性フィルムをイミド化する際の最高加熱温度が350〜520℃である上記1〜7のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0019】
9. 上記1〜8のいずれかに記載の方法により製造されるポリイミドフィルム。
【0020】
10. 少なくとも一方の面のアルミニウム量が0.1〜52%であり、この面の500倍の光学顕微鏡観察で網目模様の凹凸が見られないポリイミドフィルム。
【0021】
11. 上記9に記載のポリイミドフィルムの、製造時にアルミニウムキレート化合物を含む溶液を塗布した面に金属層を積層してなるポリイミド金属積層体。
【0022】
12. 接着剤を介してポリイミドフィルムに金属箔を積層してなる上記11に記載のポリイミド金属積層体。
【0023】
13. 乾式メッキまたは湿式メッキによりポリイミドフィルムに金属層を形成してなる上記11に記載のポリイミド金属積層体。
【0024】
14. 上記11〜13のいずれかに記載のポリイミド金属積層体に回路を形成してなる回路基板。
【0025】
15. 30μm以下のピッチの金属配線部分を含む上記14に記載の回路基板。
【発明の効果】
【0026】
本発明では、上記式(1)で表されるアルミニウムキレート化合物、好ましくは上記式(1)で表されるアルミニウムキレート化合物とノニオン系界面活性剤、或いは上記式(1)で表されるアルミニウムキレート化合物とアルコキシ基を少なくとも1つ有するアルミニウムアルコラート化合物とを含む溶液をポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムの表面に塗布し、これを加熱、イミド化する。このようにして得られるポリイミドフィルムのアルミニウムキレート変性面(アルミニウムキレート化合物を含む溶液を塗布した面)は、接着性、スパッタリング性や金属蒸着性、金属メッキ性が改良されると共に、表面平滑性にも優れている。上記式(1)で表されるアルミニウムキレート化合物を含む溶液を塗布することにより優れた接着性改良効果を得ることができ、さらにノニオン系界面活性剤および/またはアルコキシ基を少なくとも1つ有するアルミニウムアルコラート化合物を用いることにより、溶液の塗布性が向上し、アルミニウムキレート変性面の表面がより平滑になる。
【0027】
本発明のポリイミドフィルムは、アルミニウムキレート変性面に接着剤を使用して金属箔を接着する、あるいは乾式メッキ(金属蒸着やスパッタリング)または湿式メッキにより金属層を設けることにより、密着性に優れ、十分な剥離強度を有するポリイミド金属積層体を得ることができる。
【0028】
さらに、このポリイミド金属積層体から、サブトラクティブ法またはセミアディティブ法により回路を形成することで、回路基板が得られる。本発明のポリイミドフィルムのアルミニウムキレート変性面は表面が平滑であるため、例えばピッチが30μm以下、さらには20μm以下の微細な金属配線でも良好に形成することができる。このような微細な配線を形成する場合、使用するポリイミドフィルムは表面が平滑であることがより求められ、例えば、ポリイミドフィルムの表面に網目模様の凹凸が見られるような場合、その凹凸に沿って金属が残存したり、除去されたりして良好な配線を形成できないことがある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、湿式メッキ法により本発明のポリイミド金属積層体を得るための代表的な製造工程の例である。
図2図2は、本発明のポリイミド両面回路基板を得るための代表的な製造工程の例の第一工程である。
図3図3は、本発明のポリイミド両面回路基板を得るための代表的な製造工程の例の第二工程である。
図4図4は、本発明のポリイミド両面回路基板を得るための代表的な製造工程の例の第三工程である。
図5図5は、実施例1のポリイミドフィルムのアルミニウムキレート変性面の電子顕微鏡写真である。
図6図6は、比較例1のポリイミドフィルムのアルミニウムキレート変性面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明においては、ポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムの片面または両面に、上記式(1)で表されるアルミニウムキレート化合物、好ましくは上記式(1)で表されるアルミニウムキレート化合物とノニオン系界面活性剤或いはアルコキシ基を少なくとも1つ有するアルミニウムアルコラート化合物とを含む溶液を塗布した後、加熱、イミド化してポリイミドフィルムを製造する。
【0031】
ポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムは、ポリイミドを与えるポリイミド前駆体の有機溶媒溶液に必要であればイミド化触媒、有機リン化合物や無機微粒子を加えた後、支持体上に流延塗布し、自己支持性となる程度(通常のキュア工程前の段階を意味する)にまで加熱して製造される。
【0032】
ポリイミド前駆体としては、特に制限はないが、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとから製造されるものが好ましい。
【0033】
中でも、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下単にBPDAと略記することもある。)とパラフェニレンジアミン(以下単にPPDと略記することもある。)と場合によりさらに4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(以下単にDADEと略記することもある。)とから製造されるポリイミド前駆体が好ましい。この場合、PPD/DADE(モル比)は100/0〜85/15であることが好ましい。
【0034】
また、ピロメリット酸二無水物(以下単にPMDAと略記することもある。)、あるいは3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とピロメリット酸二無水物との組み合わせである芳香族テトラカルボン酸二無水物と、ベンゼンジアミンあるいはビフェニルジアミンなどの芳香族ジアミンとから製造されるポリイミド前駆体も好ましい。芳香族ジアミンとしては、パラフェニレンジアミン、あるいはPPD/DADEが90/10〜10/90である芳香族ジアミン、あるいはトリジン(オルト体、メタ体)が好ましい。この場合、BPDA/PMDAは0/100〜90/10であることが好ましい。
【0035】
また、ピロメリット酸二無水物とパラフェニレンジアミンおよび4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとから製造されるポリイミド前駆体も好ましい。この場合、DADE/PPDは90/10〜10/90であることが好ましい。
【0036】
ポリイミド前駆体の合成は、有機溶媒中で、略等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとをランダム重合またはブロック重合することによって達成される。また、予めどちらかの成分が過剰である2種類以上のポリイミド前駆体を合成しておき、各ポリイミド前駆体溶液を一緒にした後反応条件下で混合してもよい。このようにして得られたポリイミド前駆体溶液はそのまま、あるいは必要であれば溶媒を除去または加えて、自己支持性フィルムの製造に使用することができる。
【0037】
ポリイミド前駆体溶液の有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
ポリイミド前駆体溶液には、必要に応じてイミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子などを加えてもよく、特にイミド化触媒を加えることが好ましい。
【0039】
イミド化触媒としては、置換もしくは非置換の含窒素複素環化合物、該含窒素複素環化合物のN−オキシド化合物、置換もしくは非置換のアミノ酸化合物、ヒドロキシル基を有する芳香族炭化水素化合物または芳香族複素環状化合物が挙げられ、特に1,2−ジメチルイミダゾール、N−メチルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−イミダゾール、5−メチルベンズイミダゾールなどの低級アルキルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾールなどのベンズイミダゾール、イソキノリン、3,5−ジメチルピリジン、3,4−ジメチルピリジン、2,5−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、4−n−プロピルピリジンなどの置換ピリジンなどを好適に使用することができる。イミド化触媒の使用量は、ポリアミド酸のアミド酸単位に対して0.01−2倍当量、特に0.02−1倍当量程度であることが好ましい。イミド化触媒を使用することによって、得られるポリイミドフィルムの物性、特に伸びや端裂抵抗が向上するので好ましい。
【0040】
有機リン含有化合物としては、例えば、モノカプロイルリン酸エステル、モノオクチルリン酸エステル、モノラウリルリン酸エステル、モノミリスチルリン酸エステル、モノセチルリン酸エステル、モノステアリルリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのモノリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのモノリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのモノリン酸エステル、ジカプロイルリン酸エステル、ジオクチルリン酸エステル、ジカプリルリン酸エステル、ジラウリルリン酸エステル、ジミリスチルリン酸エステル、ジセチルリン酸エステル、ジステアリルリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノネオペンチルエーテルのジリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのジリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのジリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのジリン酸エステル等のリン酸エステルや、これらリン酸エステルのアミン塩が挙げられる。アミンとしてはアンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0041】
無機微粒子としては、微粒子状の二酸化チタン粉末、二酸化ケイ素(シリカ)粉末、酸化マグネシウム粉末、酸化アルミニウム(アルミナ)粉末、酸化亜鉛粉末などの無機酸化物粉末、微粒子状の窒化ケイ素粉末、窒化チタン粉末などの無機窒化物粉末、炭化ケイ素粉末などの無機炭化物粉末、および微粒子状の炭酸カルシウム粉末、硫酸カルシウム粉末、硫酸バリウム粉末などの無機塩粉末を挙げることができる。これらの無機微粒子は二種以上を組合せて使用してもよい。これらの無機微粒子を均一に分散させるために、それ自体公知の手段を適用することができる。
【0042】
ポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムは、上記のようなポリイミド前駆体の有機溶媒溶液、あるいはこれにイミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子などを加えたポリイミド前駆体溶液組成物を支持体上に流延塗布し、自己支持性となる程度(通常のキュア工程前の段階を意味する)、例えば支持体上より剥離することができる程度であり、温度100〜180℃で2〜60分間程度加熱して製造される。ポリイミド前駆体溶液は、ポリイミド前駆体を10〜30質量%程度含むものが好ましい。また、ポリイミド前駆体溶液としては、ポリマー濃度が8〜25質量%程度であるものが好ましい。支持体としては、例えばステンレス基板、ステンレスベルトなどが使用される。
【0043】
本発明では、剥離された自己支持性フィルムの片面または両面にアルミニウムキレート化合物を含む溶液をほぼ均一に、好ましくは均一にきれいに塗布する必要がある。そのため自己支持性フィルムは、フィルムの片面または両面にアルミニウムキレート化合物を含む溶液をほぼ均一に、好ましくは均一にきれいに塗布できるフィルムであり、このような状態のフィルムが得られるように加熱温度や加熱時間などの加熱条件を適宜選択する必要がある。このようなフィルムを得るために自己支持性フィルム中に含まれる溶媒やポリイミド前駆体のイミド化をコントロールする必要がある。
【0044】
その加熱減量が20〜40質量%の範囲にあること、さらに加熱減量が20〜40質量%の範囲で且つイミド化率が8〜40%の範囲にあることが、自己支持性フィルムの力学的性質が十分となり、自己支持性フィルムの上面にアルミニウムキレート化合物を含む溶液をきれいに塗布しやすくなり、イミド化後に得られるポリイミドフィルムに発泡、亀裂、クレーズ、クラック、ひびワレなどの発生が観察されないために好ましい。
【0045】
なお、上記の自己支持性フィルムの加熱減量とは、測定対象のフィルムを420℃で20分間乾燥し、乾燥前の質量W1と乾燥後の質量W2とから次式によって求めた値である。
【0046】
加熱減量(質量%)={(W1−W2)/W1}×100
また、上記の自己支持性フィルムのイミド化率は、特開平9−316199記載のカールフィッシャー水分計を用いる手法で求めることができ、例えば、IR(ATR)で測定し、フィルムとフルキュア品との振動帯ピーク面積の比を利用して、イミド化率を算出することができる。振動帯ピークとしては、イミドカルボニル基の対称伸縮振動帯やベンゼン環骨格伸縮振動帯などを利用できる。
【0047】
本発明においては、このようにして得られた自己支持性フィルムの片面または両面に、下記式(1)で表されるアルミニウムキレート化合物、好ましくは下記式(1)で表されるアルミニウムキレート化合物並びにノニオン系界面活性剤及び/又はアルコキシ基を少なくとも1つ有するアルミニウムアルコラート化合物を含む溶液を塗布する。
【0048】
【化3】
式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1〜8の直鎖または分岐アルキル基を表す。R、RおよびRは同一でも異なっていてもよい。
【0049】
、RおよびRとしては、炭素数2〜4の直鎖または分岐アルキル基であることが好ましく、エチル基またはイソブチル基であることがより好ましく、全てエチル基であることが特に好ましい。
【0050】
上記式(1)で表されるアルミニウムキレート化合物の具体例としては、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(メチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(sec−ブチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(ヘキシルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(iso−オクチルアセトアセテート)に代表される式(1)中のR、R、Rのそれぞれが炭素数1〜8の直鎖または分岐アルキル基のものなどを挙げることができる。また、川研ファイン株式会社製、ALCH−TB(式(1)中のR、R、Rがエチル基またはイソブチル基であるアルミニウムキレート化合物)等の市販品を使用することもできる。
【0051】
アルミニウムキレート化合物は単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。
【0052】
本発明において使用するアルミニウムキレート化合物を含む溶液には、ノニオン系界面活性剤を混合してもよい。ノニオン系界面活性剤としては、用いる有機溶媒に可溶で、イミド化のための加熱処理時に分解・揮発するものであれば特に限定されない。
【0053】
好ましいノニオン系界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤、ポリエチレングリコール系界面活性剤が挙げられ、シリコーン系界面活性剤が特に好ましい。ポリエチレングリコール系界面活性剤と比較して、シリコーン系界面活性剤は少量で高い表面平滑性向上効果が得られる。
【0054】
シリコーン系界面活性剤としては、シリコーンオイルを用いることができ、メチル基の一部にフェニル基等の有機基を導入した変性シリコーンオイルを用いることもできる。
【0055】
シリコーン系界面活性剤は市販されており、例えば東レ・ダウコーニング社製L77、FZ−2105、FZ−2123、FZ−2118、L7604、L7002、FZ−2120、FZ−2101、FZ−3196、L7001等を使用することができる。
【0056】
ポリエチレングリコール系界面活性剤としては、溶媒に対する溶解性の点から、分子量が比較的小さいもの(好ましくは分子量1000以下)が好ましく、エチレングリコールを好適に用いることができる。
【0057】
ノニオン系界面活性剤は単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。
【0058】
また、本発明において使用するアルミニウムキレート化合物を含む溶液には、アルコキシ基を少なくとも1つ有するアルミニウムアルコラート化合物を混合してもよい。
【0059】
本発明において使用するアルミニウムアルコラート化合物は、アルコキシ基を少なくとも1つ、好ましくは1つまたは2つ有し、用いる有機溶媒に可溶であれば特に限定されない。
【0060】
アルミニウムアルコラート化合物としては、下記式(2)で表されるアルミニウムジアルコラートが好ましい。
【0061】
【化4】
式中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1〜6の直鎖または分岐アルキル基を表す。RおよびRは同一でも異なっていてもよい。RおよびRとしては、炭素数1〜4の直鎖または分岐アルキル基であることが好ましく、エチル基、イソプロピル基またはイソブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることが特に好ましい。
【0062】
は、炭素数1〜8の直鎖または分岐アルキル基を表す。Rとしては、炭素数1〜4の直鎖または分岐アルキル基であることが好ましく、エチル基、イソプロピル基またはイソブチル基であることがより好ましく、エチル基であることが特に好ましい。
【0063】
アルミニウムアルコラート化合物の具体例としては、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、ブチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、ヘキシルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、オクチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、エチルアセトアセテートアルミニウムヘキシレートイソプロピレート、ヘキシルアセトアセテートアルミニウムジイソブチレート、ベンジルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート等を挙げることができる。
【0064】
アルミニウムアルコラート化合物は単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。
【0065】
また、1種以上のノニオン系界面活性剤と1種以上のアルミニウムアルコラート化合物とを併用することもできる。
【0066】
塗布するアルミニウムキレート化合物溶液の有機溶媒としては、使用するアルミニウムキレート化合物を溶解し得るもの、好ましくは使用するアルミニウムキレート化合物とノニオン系界面活性剤及び/またはアルミニウムアルコラート化合物とを溶解し得るものであればよく、N,N−ジメチルアセトアミドなど、ポリイミド前駆体溶液の有機溶媒(自己支持性フィルムに含有されている溶媒)と同じものを挙げることができる。また、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒(好ましくは炭素数1〜5、さらに好ましくは炭素数1〜4の直鎖または分岐アルキル基のアルコール)、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、脂環族炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒を使用することもできる。有機溶媒は、ポリイミド前駆体溶液と相溶する溶媒であることが好ましく、ポリイミド前駆体溶液の有機溶媒と同じものが好ましい。有機溶媒は2種以上の混合物であってもよい。
【0067】
塗布液中のアルミニウムキレート化合物の濃度は、0.01〜10質量%程度が好ましく、0.02〜7質量%程度がより好ましく、1〜6質量%程度がさらに好ましく、2〜5質量%が特に好ましい。0.01質量%未満では、十分な接着性改良効果を得ることが難しくなる。一方、アルミニウムキレート化合物の濃度が高くなりすぎると、得られるポリイミドフィルムの特性が低下してくることがある。
【0068】
ノニオン系界面活性剤を使用する場合、塗布液中の界面活性剤の濃度は、シリコン系界面活性剤の場合は10〜10000ppm程度が好ましく、20〜2000ppm程度が特に好ましい。ポリエチレングリコール系界面活性剤の場合は0.1〜40%程度が好ましく、1〜20%程度が特に好ましい。ノニオン系界面活性剤の濃度がこれより低いと、十分な表面平滑性向上効果を得ることが難しくなる。一方、ノニオン系界面活性剤の濃度が高くなりすぎると、得られるポリイミドフィルムの平滑性が失われることがある。
【0069】
アルミニウムアルコラート化合物を使用する場合、塗布液中のアルミニウムアルコラート化合物の濃度は、アルミニウムキレート化合物100質量部に対し0.1〜20質量部程度が好ましく、0.5〜10質量部程度がさらに好ましく、1〜8質量部程度が特に好ましい。アルミニウムアルコラート化合物の濃度がこれより低いと、十分な表面平滑性向上効果を得ることが難しくなる。一方、アルミニウムアルコラート化合物の濃度が高くなりすぎると、得られるポリイミドフィルムの平滑性が失われることがある。
【0070】
塗布液は、本発明の特性を損なわない範囲で、他の添加成分を含んでいてもよい。
【0071】
上記の塗布液の塗布量は適宜決めることができ、例えば、自己支持性フィルムの支持体と接していた側の面、その反対側の面ともに、1〜50g/mが好ましく、2〜30g/mがさらに好ましく、3〜20g/mが特に好ましい。塗布量は、両方の面が同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0072】
塗布液は、公知の方法で塗布することができ、例えば、グラビアコート法、スピンコート法、シルクスクリーン法、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法などの公知の塗布方法を挙げることができる。
【0073】
本発明においては、次いで、アルミニウムキレート化合物を含む溶液を塗布した自己支持性フィルムを加熱処理・イミド化してポリイミドフィルムを得る。
【0074】
イミド化のための加熱温度は、350〜520℃が好ましく、380〜500℃がより好ましい。520℃を超えると、湿式メッキによりポリイミドフィルムに金属層を積層した時に、金属層の強度が低下してくることがある。
【0075】
加熱処理は、最初に約100〜400℃の温度においてポリマーのイミド化および溶媒の蒸発・除去を約0.05〜5時間、特に0.1〜3時間で徐々に行なうことが適当である。特に、この加熱処理は段階的に、約100〜170℃の比較的低い温度で約0.5〜30分間加熱処理し、次いで170〜350℃の比較的高温で約0.5〜30分間加熱処理し、さらに最高加熱温度350〜520℃の高い温度で加熱処理することが好ましい。また、170℃以上の連続加熱処理においては、ピンテンタ、クリップ、枠などで、少なくとも長尺の固化フィルムの長手方向に直角の方向の両端縁を固定して加熱処理を行うことが好ましい。特に厚みの薄いフィルムを製造する場合には、加熱処理時間は短くてもよい。
【0076】
本発明により得られるポリイミドフィルムの厚みは特に限定されるものではないが、厚さが150μm以下、好ましくは5〜120μmとすることができる。
【0077】
本発明によれば、表面のアルミニウム量(アルミニウム原子換算もしくはアルミニウム金属換算)が0.1〜52%、好ましくは1〜20%、さらに好ましくは3〜15%、特に好ましくは4〜9%であり、このアルミニウムキレート変性面の表面は平滑で、500倍の光学顕微鏡観察では特異的な網目模様の凹凸が見られないポリイミドフィルムを得ることができる。ポリイミドフィルム表面のアルミニウムの量が0.1%未満では、十分な接着性が得られない場合があり、また、52%を超えると、ポリイミドフィルムの機械的特性が低下し、接着性も低下してくる場合がある。
【0078】
ポリイミドフィルム表面のアルミニウム量は、走査型X線光電子分光装置により測定することができる。
【0079】
また、本発明のポリイミドフィルムは、熱膨張係数(50〜200℃)が5×10−6〜25×10−6cm/cm/℃であることが好ましい。
【0080】
本発明により得られるポリイミドフィルムは接着性、スパッタリング性や金属蒸着性、金属メッキ性が良好であり、アルミニウムキレート化合物を含む溶液を塗布した面(アルミニウムキレート変性面)に接着剤を使用して金属箔を接着する、あるいは乾式メッキ(金属蒸着やスパッタリング)または湿式メッキにより金属層を設けることにより、密着性に優れ、十分な剥離強度を有する、例えば90度剥離強度が0.1N/mm以上であるポリイミド金属積層体を得ることができる。金属層の積層は公知の方法に従って行なうことができる。
【0081】
本発明のポリイミド金属積層体は、本発明のポリイミドフィルムの片面あるいは両面のアルミニウムキレート変性面に耐熱性接着剤層を設け、さらに金属箔を重ね合わせ、少なくとも一対の加圧部材で連続的に加圧、または加熱・加圧して得ることができる。
【0082】
加圧部材としては、一対の圧着金属ロール(圧着部は金属製、セラミック溶射金属製のいずれでもよい)、ダブルベルトプレスおよびホットプレスが挙げられ、特に加圧下に熱圧着および冷却できるものが好ましく、その中でも特に液圧式のダブルベルトプレスが好ましい。
【0083】
使用する耐熱性接着剤としては、電子分野で使用されている耐熱性接着剤であれば特に制限はなく、例えばポリイミド系接着剤、エポキシ変性ポリイミド系接着剤、フェノール変性エポキシ樹脂接着剤、エポキシ変性アクリル樹脂系接着剤、エポキシ変性ポリアミド系接着剤などが挙げられる。
【0084】
この耐熱性接着剤層は、それ自体電子分野で実施されている任意の方法で設けることができ、例えばポリイミドフィルムに接着剤溶液を塗布・乾燥してもよく、別途に形成したフィルム状接着剤とポリイミドフィルムとを貼り合わせてもよい。
【0085】
本発明において使用する金属箔としては、単一金属あるいは合金、例えば、銅、アルミニウム、金、銀、ニッケル、ステンレスの金属箔が挙げられるが、好適には圧延銅箔、電解銅箔などの銅箔が挙げられる。金属箔の厚さは特に制限はないが、0.1μm〜10mm、特に10〜60μmが好ましい。
【0086】
厚さ1〜10μmの極薄銅箔を基材として使用する場合は、取り扱い性の良いキャリア付銅箔を好適に用いることができる。キャリア付銅箔のキャリア層としては、特に制限はないが、厚さ5μm〜150μmの圧延銅箔や電解銅箔が好ましい。キャリア層は極薄銅箔から容易に力学的に剥離できることが好ましく、剥離強度が0.01〜0.3N/mmであることが好ましい。
【0087】
本発明の積層体には、他の基材、例えばセラミックス、ガラス基板、シリコンウエハーや、同種あるいは異種の金属あるいはポリイミドフィルムなどをさらに耐熱性接着剤によって接着してもよい。
【0088】
本発明のポリイミド金属積層体は、本発明のポリイミドフィルムの片面あるいは両面のアルミニウムキレート変性面に、直接金属を、蒸着法、スパッタリング法などの積層法により積層することによっても得ることができる。
【0089】
金属の積層は、例えば、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法などの物理化学的な蒸着法によって行なうことができる。蒸着法においては、真空度が10−5〜1Pa程度、蒸着速度が5〜500nm/秒程度、さらに、蒸着基板(フィルム)の温度が20〜600℃程度であることが好ましい。スパッタリング法においては、特にRFマグネットスパッタリング法が好適であり、その際の真空度が100Pa以下、特に0.1〜1Pa程度、基板温度が200〜450℃程度、金属層の形成速度が0.05〜50nm/秒程度であることが好ましい。
【0090】
金属膜の材質としては、特に限定されないが、銅または銅合金、アルミニウム、錫、錫合金、パラジウムなどが好適である。下地層としてクロム、チタン、パラジウムなどを使用し、表面層として銅を使用してもよい。
【0091】
得られる金属層(膜)の厚みは、使用する目的に応じて適宜選択でき、通常1μm以下程度である。
【0092】
また、このようにして得られた金属層に、銅メッキなどの金属メッキ法により、金属メッキ層を形成してもよい。金属メッキ層の材質としては、銅、銅合金、銀などが挙げられる。金属メッキ層の形成方法としては、無電解メッキ法あるいは電解メッキ法のいずれでもよい。金属メッキ層の厚みは約1〜40μm程度であることが好ましい。
【0093】
また、スパッタ法や蒸着法を含めて金属薄膜形成を連続ロールで行なうことが好ましい。
【0094】
本発明のポリイミド金属積層体は、本発明のポリイミドフィルムの片面あるいは両面のアルミニウムキレート変性面に湿式メッキ法により金属層を設けることによっても得ることができる。
【0095】
本発明における湿式めっきプロセスとしては特に制限はないが、例えば次の工程によって達成される。
【0096】
湿式めっきプロセス:
1)脱脂・表面調整工程:例えば、表面調整剤で25〜80℃、15秒〜30分間浸漬処理。
2)触媒付与工程:例えば、センシタイザー、例えば塩化錫等の水溶性第1錫塩1〜50g/L、塩酸等の酸5〜100mL/Lを含有し、pH1〜5の溶液を用いてセンシタイジング、水洗、キャタリスト、例えば塩化Pd等の水溶性Pd塩0.01〜1g/L、塩酸等の酸0.01〜1mL/Lを含有し、pH1〜5のパラジウム活性化溶液に10〜50℃で5秒〜5分間浸漬、あるいは/および水溶性Ag塩(硝酸銀等)0.1〜2g/Lを含有し、pH5〜8の銀活性化溶液に10〜50℃で5秒〜5分間浸漬して、触媒付与。
3)無電解めっき用下地処理層形成工程:亜鉛イオン(硝酸亜鉛等)を0.001〜5mol/L、インジウムイオン(硝酸インジウム等)を0.00001〜0.1mol/L含有する処理液に50〜90℃で1分以上浸漬することによって処理し、亜鉛含有酸化インジウム下地層を形成。
4)触媒付与工程:例えば、水溶性Pd塩(塩化Pd等)などの水溶性金属塩0.01〜1g/Lを含有し、pH1〜5の水溶液に10〜80℃で5秒〜5分間浸漬、スプレー、塗布法で接触。
5)無電解金属めっき工程:例えば、硫酸銅等の水溶性金属塩0.01〜0.5mol/L、ホルムアルデヒド等の還元剤0.1〜1mol/L、EDTA等の錯化剤0.01〜1mol/Lを含有し、pH9〜14の溶液に10〜70℃で5〜60分間浸漬。
6)電気銅めっき工程:硫酸銅等の水溶性銅塩0.1〜0.5mol/L、硫酸等の酸1.5〜3mol/Lを含有し、pH0.1〜2の溶液に10〜30℃、陰極電流密度1〜4A/dmで5〜60分間電解。
【0097】
このようなプロセスとして、上村工業株式会社のジントラプロセスや、メルテックス株式会社のメルプレートG・Siプロセス等で下地層を形成したうえで電極めっきを積み上げていく方法が挙げられる。
【0098】
ジントラプロセスでは、特開2003−247076号公報に示されるように、セラミック(ソーダライムガラス)上に密着性のよい金属膜を得ている。このジントラプロセスは、めっき基材上に薬液浸漬でSn、Ag、Pdを有する触媒層を形成した後、無電解めっきにより亜鉛含有水酸化インジウム下地層を形成し、更に処理液に浸漬して触媒金属層を形成して無電解銅めっきを施すものである。更に無電解銅めっき層を電極として電解銅めっきを施し、必要な膜厚を得ることができる。
【0099】
メルプレートG・Siプロセス(メルテックス株式会社)は、セラミック上の無電解のNiめっきプロセスであり、Niめっき後に同様に無電解および電解銅めっきによって導電金属層を得ることができる。
【0100】
また特開2007−56343号公報に示されるように、アルカリ処理により脱脂したのち塩基性アミノ酸処理により芳香族ポリイミドフィルムの金属酸化物で変性された表面を改質し、下地金属層形成の為の触媒を付与した後、無電解置換銅めっきによりニッケル下地層を形成し、ニッケル表面を銅に置換し、銅置換めっき層を含めたニッケル下地層を電極層として電解銅めっきによって導電金属層を形成することによりポリイミド銅積層体を得ることができる。
【0101】
本発明のポリイミド金属積層体について、代表的な製造工程の一例を、図1を用いて説明する。
【0102】
図1において、101は本発明のポリイミドフィルム(表面がアルミニウムキレート変性されたポリイミドフィルム)である。工程11では、通常の脱脂洗浄処理の後、下地層形成のための触媒102を付与し、工程12で無電解めっきにより亜鉛含有水酸化インジウム下地層103を形成する。次に、工程13で無電解銅めっきのための触媒104を付与した後、工程14で無電解銅めっきにより電解銅めっきのための電極層105を形成する。更に、工程15で電解銅めっきにより導電金属層106を形成して、ポリイミド銅積層体が得られる。工程11から工程15はすべて湿式プロセスである。
【0103】
次に、本発明のポリイミド両面回路基板について、代表的な製造工程の一例を、図2図4を用いて説明する。ここでは、両面回路の一括形成の代表例を示してある。図2図4において、101〜105は図1と同じである。
【0104】
まず、工程200で、フィルム101に表裏を導通させるための貫通孔206を空ける。孔の加工方法は、パンチ加工、レーザー加工などが挙げられ、表裏を貫通させるものであれば何でも良い。工程201から工程204までは、基板の両面および貫通孔内を同時に処理することを除いては図1と同じであり、各々工程11から工程14に対応する。
【0105】
表裏および貫通孔内に電解銅めっきのための電極層105が形成されたポリイミド基材に、工程205で、ドライフィルムタイプのネガ型フォトレジスト207を表裏に貼り付ける。次に、工程206では、マスクに描画された回路パターンを露光によりフォトレジストに転写して、回路を形成しない部位208を感光させる。そして、工程207の現像により、回路を形成する部位の未露光レジストを取り除く。
【0106】
ここでは、回路厚みの得やすいネガ型のドライフィルムフォトレジストを示したが、ポジ型の場合は回路を形成する部位を感光させれば良く、また必要な厚さが得られれば液状のフォトレジストを用いても良い。
【0107】
次に、工程208では、レジストを除去した部位に、回路を形成するために、電解銅めっきで導電層209を形成する。ここで不用となったレジストは、工程209で、アルカリ溶液などで除去する。更に、工程210で、回路非形成部位の不用な無電解銅めっき層および下地層をマイクロエッチ等で除去することにより、両面ポリイミド回路基板が得られる。
【0108】
ここで、工程206および工程207以外はすべて湿式プロセスである。
【0109】
ここでは導電層として銅を形成する場合を示したが、湿式めっき可能な金属であれば何ら制限されることはない。また、良質な導電層の厚みを十分に得るための例として、ここでは電解銅めっきのための導電層として無電解銅めっき層を形成しているが、要求性能により無電解めっきだけでもよいし、下地層を導電層とした電解めっきだけでもよいし、電解めっきの電極層として無電解めっきで形成された金属とは異なる金属を電解めっきにより形成してもよい。また、セラミック上へのめっきに対して下地層形成が不要なプロセスであれば、本発明においても下地層の形成は必須ではない。
【0110】
また、上記の方法では湿式メッキにより導電層(金属層)を設けているが、乾式メッキ(金属蒸着やスパッタリング)により導電層を設けてもよい。
【実施例】
【0111】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0112】
(評価方法)
ポリイミドフィルム表面のアルミニウム量は、PHI社製Quantum2000走査型X線光電子分光装置により測定した。
【0113】
ポリイミドフィルム表面の電子顕微鏡による観察は、ポリイミドフィルムの観察面を金属酸化物により表面処理した後、日本電子株式会社製JSM−6460LA電子顕微鏡を使用し、加速電圧10kV、1×10−3MPaの真空度において行なった。
【0114】
ポリイミドフィルムの機械的強度は、幅4mmのサンプルを用い、オリエンテック社製テンシロンAR6000シリーズ、万能引張試験機UTM−II−20、フラットタイプ自動平衡式記録計R−840を用い、チャック間30mm、引張速度2mm/分の条件で測定した。
【0115】
ポリイミドフィルム金属積層体の90度ピール強度は、幅1cmのサンプルを用い、オリエンテック社製テンシロンAR6000シリーズ、万能引張試験機UTM−II−20、フラットタイプ自動平衡式記録計R−840を用い、引き剥がし速度40mm/分の条件で測定した。
【0116】
<参考例1>
(塗工液の調製)
サンプル瓶に、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)3.80g、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(ALCH)0.20g、水0.03g、シリコン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング社製FZ−2101)0.10gおよびN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)96.00gを測り取り、均一になるまで攪拌して、塗工液1を得た。
【0117】
<参考例2〜12>
(塗工液の調製)
参考例1と同様にして、表1に示す組成の塗工液2〜12を得た。
【0118】
【表1】
表中、ALCH−TBは化学式(1)中のR、R、Rがエチル基またはイソブチル基である、川研ファイン株式会社製アルミニウムキレート化合物であり、ALCHはエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートであり、EGはエチレングリコール、DMAcはN,N−ジメチルアセトアミド、IPAはイソプロピルアルコールである。
【0119】
<参考例13>
(塗工液の調製)
サンプル瓶に、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)3.80g、ヘキシルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート0.20g、水0.03g、シリコン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング社製FZ−2101)0.10gおよびN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)96.00gを測り取り、均一になるまで攪拌して、塗工液13を得た。
【0120】
<参考例14>
(ポリアミック酸溶液Aの調製)
ポリアミック酸の合成は以下のようにして行なった。
【0121】
攪拌機、窒素導入管および還流管を備えた300mlガラス製反応容器に、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)183g、モノステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン塩0.1g及び平均粒径0.08μmのコロイダルシリカ0.1g(固形分)を加え、攪拌しながら、窒素流通下、パラフェニレンジアミン10.81gを添加し、50℃に保温して完全に溶解させた。この溶液に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物29.229gを除々に添加し、添加終了後、50℃に保ったまま5時間反応を続けた。その後、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸2水和物0.2381gを溶解させた。溶液が均一となった後、1,2−ジメチルイミダゾール0.961gを加え、再び均一となるまで攪拌した。
【0122】
得られたポリアミック酸溶液A(ポリイミド前駆体溶液)は褐色粘調液体であり、25℃における溶液粘度は約1800ポイズであった。
【0123】
<参考例15>
(ポリアミック酸溶液Bの調製)
ポリアミック酸の合成は以下のようにして行なった。
【0124】
攪拌機、窒素導入管および還流管を備えた300mlガラス製反応容器に、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)183g、モノステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン塩0.1g及び平均粒径0.08μmのコロイダルシリカ0.1g(固形分)を加え、攪拌しながら、窒素流通下、パラフェニレンジアミン10.81gを添加し、50℃に保温して完全に溶解させた。この溶液に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物29.229gを除々に添加し、添加終了後、50℃に保ったまま5時間反応を続けた。その後、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸2水和物0.2381gを溶解させた。
【0125】
得られたポリアミック酸溶液B(ポリイミド前駆体溶液)は褐色粘調液体であり、25℃における溶液粘度は約1500ポイズであった。
【0126】
<実施例1、2、4〜7、9〜13、参考例R3、R8
(アルミニウムキレート変性層を有するポリイミドフィルムの製造)
表3に示すポリアミック酸溶液A又はポリアミック酸溶液Bをガラス基板上に流延塗布し、135℃で3分間乾燥した後、基板から剥離して自己支持性フィルムを得た。
【0127】
この自己支持性フィルムをフレーム上に拘束し、表3に示すように、表1に示した塗工液を塗布した(塗布量:5g/m)。そして、このフィルムを連続加熱炉へ挿入し、炉内における温度が120℃から最高加熱温度が450℃程度となる条件で当該フィルムを加熱、イミド化して、表3に示す厚み25μmのアルミニウムキレート変性層を有するポリイミドフィルム(試料1〜13)を得た。
【0128】
但し、実施例12では、イミド化のための熱処理を加熱温度500℃とした。
【0129】
但し、実施例13では、イミド化のための熱処理を加熱温度520℃とした。
【0130】
(試料1の表面特性評価および機械的特性評価)
実施例1で得られた試料1のポリイミドフィルムのアルミニウムキレート変性面のアルミニウム量(アルミニウム原子換算)をX線光電子分光により測定したところ、5.77%であった。また、このポリイミドフィルムの電子顕微鏡によるアルミニウムキレート変性面の観察結果を図5に示す。電子顕微鏡によるアルミニウムキレート変性面の観察からは、特異的な模様は見られなかった。このアルミニウムキレート変性層を有するポリイミドフィルムの機械的強度は、引張強度が390MPa、伸びが28.5%、引張弾性率が8.7GPaであった。
【0131】
(試料1〜13の表面特性評価)
実施例1、2、4〜7、9〜13、参考例R3、R8で得られたアルミニウムキレート変性層を有するポリイミドフィルム(試料1〜13)のアルミニウムキレート変性面を、500倍の光学顕微鏡により表面を目視で観察した結果、図5に示す1000倍の電子顕微鏡写真と同様に、表面に網目模様など特異的な模様は認められなかった。
【0132】
(湿式メッキによるポリイミドフィルム金属積層体の製造)
得られたアルミニウムキレート変性層を有するポリイミドフィルム(試料1〜13)を用いて、アルミニウムキレート変性層への湿式メッキによる金属薄膜の形成・ポリイミドフィルム金属積層体の作製は以下のようにして行なった。まず、表2に示したメッキプロセス(上村工業社製ジントラプロセス)により、得られたポリイミドフィルムのアルミニウムキレート変性面に下地層および無電解銅メッキによる銅薄膜を形成した。更に、硫酸銅系電解メッキ液を用いて、電流密度3A/dmで30分間電解銅メッキを行なった。そして、これを200℃で60分間、150℃で24時間熱処理して、銅厚み10μmのポリイミドフィルム金属積層体(メッキ試料1〜13)を得た。この積層体(メッキ試料1〜13)の90度ピール強度、及び150℃で168時間エージングを行なった後の90度ピール強度を測定した結果を表4に示す。
【0133】
【表2】
【0134】
<比較例1>
(アルミニウムキレート変性層を有するポリイミドフィルムの製造)
塗工液1に代えて、表1に示した塗工液11を使用し、実施例1と同様にしてアルミニウムキレート変性層を有するポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムの電子顕微鏡によるアルミニウムキレート変性面の観察結果を図6に示す。電子顕微鏡(1000倍)によるアルミニウムキレート変性面の観察において、網目模様が認められた。
【0135】
<比較例2>
(アルミニウムキレート変性層を有するポリイミドフィルムの製造)
実施例1と同様にして得た自己支持性フィルムに、表1に示した塗工液12を塗布したところ、塗工液が弾いて均一にきれいに塗布できなかった。
【0136】
【表3】
【0137】
【表4】
【0138】
実施例1、2、4〜7、9〜13、参考例R3、R8と比較例1とを比較すると、比較例1のフィルムのアルミニウム化合物を塗布した面の500倍の光学顕微鏡観察では、図6に示す1000倍の電子顕微鏡写真と同様の表面に網目状の凹凸模様が観察された。そのため、狭ピッチの回路を形成する際には、エッチングの際の銅の残り、配線の侵食が起こることが予想され、電気信頼性に優れた電子回路が得られない可能性が考えられる。
【0139】
それに対し、実施例1、2、4〜7、9〜13、参考例R3、R8のフィルムのアルミニウム化合物を塗布した面の500倍の光学顕微鏡観察では、図5に示す1000倍の電子顕微鏡写真と同様に、図6に示すのと同様な表面に網目状の凹凸模様が観察されなかった。そのため、狭ピッチの回路を形成する際には、エッチングの際の銅の残りがないか、極めて低減され、配線の侵食が起こりにくく、電気信頼性に優れた電子回路が得られると考えられる。
【0140】
(接着剤によるポリイミドフィルム金属積層体の製造)
試料1と金属との接着シートを介したポリイミドフィルム金属積層体を以下のようにして作製した。接着シート(デュポン社製、Pyralux LF)を介して、電解銅箔(日鉱金属株式会社製、BHY−13H−T、18μm)とポリイミドフィルムのアルミニウムキレート変性面とを重ね合わせ、これを3MPa、180℃、5分間の条件で加熱圧着した後、180℃の熱風オーブン中で1時間熱処理して、ポリイミドフィルム金属積層体を得た。この積層体の90度ピール強度は1.5N/mmであった。
【0141】
(回路基板の製造1)
回路形成は、湿式メッキによる銅薄膜形成後、セミアディティブ法により行なった。
【0142】
実施例1で得られるメッキ試料1に、厚み15μmのドライフィルムタイプのフォトレジストSPG−152(旭化成社製)を温度70℃、圧力0.45MPaにてラミネート後、30μmピッチのパターンを投影露光機を用いて160mJ露光した。その後、30℃の1%炭酸ナトリウム水を用いて0.2MPaで30秒間スプレー現像を行ない、回路形成部のフォトレジストを除去した。そして、通常の酸性脱脂、酸洗の後、硫酸銅系メッキ液を用いて、電流密度2A/dmで30分間電解メッキを行ない、銅厚み8μmの回路パターンを形成した。1%苛性ソーダ水溶液を用いてドライフィルムレジストを剥離した後、塩化鉄系のソフトエッチング液C−800(旭電化工業社製)を0.05MPaで1分間スプレーして、パターン未形成部の無電解銅層および下地層を除去し、ポリイミド回路基板を得た。このポリイミド回路基板について、3M社製スコッチテープを用いてパターンの引き剥がしテストを行ない、20倍の実態顕微鏡で観察した結果、パターンの剥離は観察されなかった。
【0143】
(乾式メッキによるポリイミドフィルム金属積層体の製造)
乾式メッキによる金属薄膜の形成・ポリイミドフィルム金属積層体の作製は以下のようにして行なった。まず、試料1をスパッタリング装置内の基板フォルダーに設置し、2×10−4Pa以下の真空に排気後、アルゴンを導入して0.67Paとした後、電極に13.56MHzの高周波電力300wで10分間プラズマ処理により、アルミニウムキレート変性面のクリーニングを行なった。続いて、アルゴン0.67Pa雰囲気下、アルミニウムキレート変性面上に15nmのNiCr薄膜を形成し、さらにその上に0.4μmの銅薄膜を形成し、大気中に取り出した。さらに、酸性硫酸銅水溶液の電解メッキ液を用いて、金属膜が20μmとなるように銅メッキを施して、ポリイミドフィルム金属積層体を得た。この積層体の90度ピール強度は1.35N/mmであった。さらに、この積層体を150℃で24時間エージングを行なった後の90度ピール強度は0.57N/mmであった。
【0144】
(回路基板の製造2)
回路形成は、乾式メッキによる銅薄膜形成後、セミアディティブ法により行なった。
【0145】
試料1をスパッタリング装置内の基板フォルダーに設置し、2×10−4Pa以下の真空に排気後、アルゴンを導入して0.67Paとした後、電極に13.56MHzの高周波電力300wで10分間プラズマ処理により、アルミニウムキレート変性面のクリーニングを行なった。その後、続いて、アルゴン0.67Pa雰囲気下、アルミニウムキレート変性面上に15nmのNiCr薄膜、その上に0.4μmの銅薄膜を形成し、大気中に取り出した。そして、得られた銅薄膜を有するポリイミドフィルムに、厚み15μmのドライフィルムタイプのフォトレジストSPG−152(旭化成社製)を温度70℃、圧力0.45MPaにてラミネート後、30μmピッチのパターンを投影露光機を用いて160mJ露光した。その後、30℃の1%炭酸ナトリウム水を用いて0.2MPaで30秒間スプレー現像を行ない、回路形成部のフォトレジストを除去した。そして、通常の酸性脱脂、酸洗の後、硫酸銅系メッキ液を用いて、電流密度2A/dmで30分間電解メッキを行ない、銅厚み8μmの回路パターンを形成した。1%苛性ソーダ水溶液を用いてドライフィルムレジストを剥離した後、塩化鉄系のソフトエッチング液C−800(旭電化工業社製)を0.05MPaで1分間スプレーして、パターン未形成部の無電解銅層を除去した。さらに、日本化学産業製FLICKER−MHに45℃で5分間浸漬し、NiCr層を除去し、ポリイミド回路基板を得た。このポリイミド回路基板について、3M社製スコッチテープを用いてパターンの引き剥がしテストを行ない、20倍の実態顕微鏡で観察した結果、パターンの剥離は観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0146】
以上のように、本発明によれば、芳香族ポリイミドフィルムの優れた特性を保持しつつ、接着性、スパッタリング性や金属蒸着性、金属メッキ性が良好であり、かつ表面平滑性に優れたポリイミドフィルムを製造することができる。
【符号の説明】
【0147】
101 表面がアルミニウムキレート変性されたポリイミドフィルム
102 下地層形成のための触媒
103 無電解めっきによる亜鉛含有水酸化インジウム下地層
104 無電解銅めっきのための触媒
105 電解銅めっきのための電極層
106 電解銅めっきによって形成した導電金属層
206 表裏を導通させるための貫通孔
207 ドライフィルムタイプのネガ型フォトレジスト
208 回路を形成しない部位
209 電解銅めっきで形成した導電層
図1
図2
図3
図4
図5
図6