特許第5691220号(P5691220)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5691220非水系二次電池用炭素材料、負極及び非水系二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5691220
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】非水系二次電池用炭素材料、負極及び非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20150312BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   H01M4/587
   H01M4/36 A
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2010-79558(P2010-79558)
(22)【出願日】2010年3月30日
(65)【公開番号】特開2011-210683(P2011-210683A)
(43)【公開日】2011年10月20日
【審査請求日】2013年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005968
【氏名又は名称】三菱化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石渡 信亨
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智洋
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−203499(JP,A)
【文献】 特開2007−095494(JP,A)
【文献】 特開2006−310232(JP,A)
【文献】 特許第2938430(JP,B1)
【文献】 特開2003−308838(JP,A)
【文献】 特開2001−291516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料(A)に25℃におけるpKaが5.6以上7以下の有機酸のアルカリ金属塩(B)が添着されている非水電解液二次電池用炭素材料(C)であって、該アルカリ金属塩(B)の添着量が、該炭素材料(A)に対して0.01wt%以上、10wt%以下であり、該炭素材料(C)のBET比表面積が1m/g以上、8m/g以下であり、粒
径(d50)が1μm以上、50μm以下であることを特徴とする、非水電解液二次電池用炭素材料(C)。
【請求項2】
25℃におけるpKaが5.6以上7以下の有機酸が不飽和カルボン酸であることを
特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池用炭素材料(C)。
【請求項3】
25℃におけるpKaが5.6以上7以下の有機酸のアルカリ金属塩(B)がマレイ
ン酸リチウム塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池用炭素材料(C)。
【請求項4】
炭素材料(C)のタップ密度が0.7g/cm以上、1.3g/cm以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用炭素材料(C)
【請求項5】
炭素材料(A)のBET比表面積が4m/g以上、11m/g以下であり、タップ密度が0.7g/cm以上、1.3g/cm以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用炭素材料(C)
【請求項6】
集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備えると共に、該活物質層が、請求項1〜のいずれか1項に記載の炭素材料(C)を含有することを特徴とする、非水電解液二次電池用負極。
【請求項7】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに、電解質を備えると共に、該負極が、請求項に記載の非水電解液二次電池用負極であることを特徴とする、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池に用いる炭素材料と、その材料を用いて形成された負極と、その負極を有する非水系二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴い、高容量の二次電池に対する需要が高まってきている。特に、ニッケル・カドミウム電池や、ニッケル・水素電池に比べ、よりエネルギー密度の高く、大電流充放電特性に優れたリチウムイオン二次電池が注目されてきている。
リチウムイオン二次電池の負極材料としては、コストと耐久性の面で、黒鉛材料や非晶質炭素が使用されることが多い。しかしながら、非晶質炭素材料は、実用化可能な材料範囲での可逆容量の小ささ故、また黒鉛材料は、高容量化のために負極材料を含む活物質層を高密度化すると、材料破壊により初期サイクル時の充放電不可逆容量が増え、結果として、高容量化に至らないといった問題点があった。
【0003】
上記問題点を解決するため、例えば、炭素材料として、特許文献1には、黒鉛を使用することが記載されている。特に、黒鉛化度の大きい黒鉛をリチウムイオン二次電池用の負極活物質として用いると、黒鉛のリチウム吸蔵の理論容量である372mAh/gに近い容量が得られ、活物質として好ましいことが知られている。
前記炭素材料負極表面には通常、非水系電解液との反応によりSEI(Solid Electrolyte Interphace)と呼ばれる保護皮膜が形成され、負極の化学的安定性が保たれている。しかしながら、上記SEI被膜生成や副反応生成物としてガスが発生することにより、初期サイクル時の充放電不可逆容量が増え、結果として、高容量化に至らないといった問題点があった。特に、リチウム一次電池で一般的に使用されるプロピレンカーボネート(PC) は高沸点溶媒であり、低温でも高いイオン電導度を
発現できるという点で好ましい有機溶媒であるにも関わらず、黒鉛系電極を用いた場合には、Liイオンに溶媒和したPCが黒鉛相間へ共挿入することにより黒鉛系負極活物質の層間剥離劣化がおこり、さらに溶媒と電極の分解反応が激しいため、リチウムの黒鉛層間への挿入・脱離が行えないので、十分な容量が得られないといった問題点があった。
【0004】
上記副反応に由来する不可逆容量の低減、及びサイクル特性向上のために各種負極活物質材料の表面に高分子化合物や不飽和カルボン酸誘導体を被覆し炭素材料の表面改質をする技術が知られている。例えば、特許文献1には、不飽和カルボン酸のリチウム塩をポリフッ化ビニリデンとN−メチル−2−ピロリドンからなるスラリー中に分散させて得られるペーストを集電体に塗布し、乾燥して薄板状にすることにより負極を作製する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特許第2938430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら本発明者らの検討によると、特許文献1に記載の技術では、不飽和カルボ
ン酸Liを負極活物質、ポリフッ化ビニリデンとN−メチル−2−ピロリドンからなるスラリー中に混合分散することにより負極を作成していたため、結着材とジカルボン酸リチウム塩の混合層が負極活物質表面に被覆されているため、特に結着材として使用しているポリフッ化ビニリデンが電解液に膨潤することにより、ジカルボン酸リチウム塩の被覆効
果が低下するという問題があった。また、負極活物質の結着材として添加しているポリフッ化ビニリデンの結着効果が低下することにより、電極強度が低下するという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は炭素材料負極表面と非水系電解液との反応を抑制することにより、初期サイクル時にみられる充放電不可逆容量が小さいという特性を有するリチウムイオン二次電池を作製するための負極材を提供し、その結果として、高容量のリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、炭素材料(A)に25℃におけるpKaが5.6以上の有機酸又は該有機酸重合物のアルカリ金属塩(B)を炭酸接触処理にて添着し、それを負極材に用いることにより、初回充電時において、電解液との過剰な副反応を抑制して、初期サイクル時にみられる充放電不可逆容量を十分に小さくすることが可能となるため、高容量のリチウムイオン二次電池を得られることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明の趣旨は、炭素材料(A)に25℃におけるpKaが5.6以上7以下の有機酸のアルカリ金属塩(B)が添着されている非水電解液二次電池用炭素材料(C)であって、該アルカリ金属塩(B)の添着量が、該炭素材料(A)に対して0.01wt%以上、10wt%以下であり、該炭素材料(C)のBET比表面積が1m/g以上、8m/g以下であり、粒径(d50)が1μm以上、50μm以下であることを特徴
とする非水電解液二次電池用炭素材料(C)に存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の炭素材料は、それを非水系二次電池用活物質として用いることにより、負極と電解液の副反応、特にPCの共挿入反応を抑制し、PC系電解液中で高初期効率、高容量の非水系二次電池を提供することができる
また、本発明の非水系二次電池用負極材料の製造方法によれば、上述の利点を有する負極材料を平易な工程で製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の内容を詳細に述べる。なお、以下に記載する発明構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨をこえない限り、これらの形態に特定されるものではない。
<炭素材料(A)>
本発明の非水系二次電池用炭素材料である炭素材料(A)は、本願の効果を発揮する炭素材料であれば特に制限されない。以下に代表的な炭素材料を記載するが、本発明は下記記載内容に特に制限されない。
【0012】
・炭素材料(A)の種類
炭素材料(A)の例としては、黒鉛から非晶質のものにいたるまで種々の黒鉛化度の炭素材料が挙げられる。
また、その炭素材料(A)にpKaが5.6以上の有機酸又は該有機酸重合物のアルカリ金属塩(B)を添着させることができる空隙構造を持つものが好ましい。これらの条件を満足し、商業的にも容易に入手可能であるという点で、黒鉛又は黒鉛化度の小さい炭素材料が特に好ましい。
【0013】
なお、黒鉛粒子を炭素材料(A)として用いると、他の負極活物質を用いた場合よりも、高電流密度での充放電特性の改善効果が著しく大きいので好ましい。
黒鉛は、天然黒鉛、人造黒鉛の何れを用いてもよい。黒鉛としては、不純物の少ないも
のが好ましく、必要に応じて種々の精製処理を施して用いる。また、黒鉛化度の大きいものが好ましく、具体的には、X線広角回折法による(002)面の面間隔(d002)が、3.37Å(0.337nm)未満のものが好ましい。
【0014】
人造黒鉛の具体例としては、コールタールピッチ、石炭系重質油、常圧残油、石油系重質油、芳香族炭化水素、窒素含有環状化合物、硫黄含有環状化合物、ポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、天然高分子、ポリフェニレンサイルファイド、ポリフェニレンオキシド、フルフリルアルコール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂などの有機物を、通常2500℃以上、通常3200℃以下の範囲の温度で焼成し、黒鉛化したものが挙げられる。
【0015】
また、黒鉛化度の小さい炭素材料としては、有機物を通常2500℃以下の温度で焼成したものが用いられる。有機物の具体例としては、コールタールピッチ、乾留液化油などの石炭系重質油;常圧残油、減圧残油などの直留系重質油;原油、ナフサなどの熱分解時に副生するエチレンタール等の分解系重質油などの石油系重質油;アセナフチレン、デカシクレン、アントラセンなどの芳香族炭化水素;フェナジンやアクリジンなどの窒素含有環状化合物;チオフェンなどの硫黄含有環状化合物;アダマンタンなどの脂肪族環状化合物;ビフェニル、テルフェニルなどのポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラールなどのポリビニルエステル類、ポリビニルアルコールなどの熱可塑性高分子などが挙げられる。
【0016】
更に黒鉛化度の小さい炭素材料を得る場合、有機物の焼成温度は通常600℃以上、好ましくは900℃以上、より好ましくは950℃以上である。その上限は、炭素材料に付与する所望の黒鉛化度等により異なるが、通常2500℃以下、好ましくは2000℃以下、より好ましくは1400℃以下の範囲である。焼成する際には、有機物に燐酸、ホウ酸、塩酸などの酸類、水酸化ナトリウム等のアルカリ類を混合してもよい。
【0017】
炭素材料(A)としては、炭素材料(A)に金属粒子、及び金属酸化物粒子等の粒子を任意の組み合わせで適宜混合して用いても良い。また、個々の粒子中に複数の材料が混在するものであってもよい。例えば、黒鉛の表面を黒鉛化度の小さい炭素材料で被覆した構造の炭素質粒子や、黒鉛粒子を適当な有機物で集合させ再黒鉛化した粒子でも良い。更に、前記複合粒子中にSn、Si、Al、BiなどLiと合金化可能な金属を含んでいても良い。
【0018】
・炭素材料(A)の物性
本発明における炭素材料(A)は以下の物性を示すものである。なお、本発明における測定方法は特に制限はないが、特段の事情がない限り実施例に記載の測定方法に準じる。
(1)炭素材料(A)の表面官能基量
本発明の非水系二次電池用炭素材料である炭素材料(A)は、通常下記式1で表される、表面官能基量O/C値が1%以上、10以%下であり、2%以上3.6%以下では好ましく、2.6%以上3%以下であると更に好ましい。この表面官能基量O/C値が小さすぎると、pKaが5.6以上の有機酸又は該有機酸重合物のアルカリ金属塩(B)との親和性が低下し、負極表面と被覆材の相互作用が弱くなり、被覆材がはがれやすくなる傾向があり、大きすぎるとO/C値の調整が困難となり、製造処理を強く長時間行う必要が生じたり、工程数を増加させる必要が生じたりする傾向があり、生産性の低下、コストの上昇を招く虞がある。
【0019】
式1
O/C値(%)=X線光電子分光法(XPS)分析におけるO1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたO原子濃度/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面
積に基づいて求めたC原子濃度 × 100
本発明における表面官能基量はX線光電子分光法(XPS)を用いて測定することができる。
【0020】
表面官能基量O/C値は、X線光電子分光法測定としてX線光電子分光器を用い、測定対象を表面が平坦になるように試料台に載せ、アルミニウムのKα線をX線源とし、マルチプレックス測定により、C1s(280〜300eV)とO1s(525〜545eV)のスペクトルを測定する。得られたC1sのピークトップを284.3eVとして帯電補正し、C1sとO1sのスペクトルのピーク面積を求め、更に装置感度係数を掛けて、CとOの表面原子濃度をそれぞれ算出する。得られたそのOとCの原子濃度比O/C(O原子濃度/C原子濃度)を炭素材料の表面官能基量O/C値と定義する。
【0021】
(2)炭素材料(A)の粒径
炭素材料(A)の粒径については特に制限が無いが、使用される範囲として、d50が
50μm以下、好ましくは30μm以下、更に好ましくは25μm以下、1μm以上、好ましくは4μm以上、更に好ましくは10μm以上である。この粒径範囲を超えると極板化した際に、筋引きなどの工程上の不都合が出ることが多く、また、これ以下であると、表面積が大きくなりすぎ電解液との活性を抑制することが難しくなる。
【0022】
なお粒径の測定方法は、界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートの0.2質量%水溶液10mLに、炭素材料0.01gを懸濁させ、市販のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置に導入し、28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、測定装置における体積基準のメジアン径として測定したものを、本発明におけるd50と定義する。
【0023】
(3)炭素材料(A)のBET比表面積(SA)
本発明の炭素材料(A)のBET法で測定した比表面積については、4m/g、以上
11m/g以下を満たすことが好ましい。通常4m/g以上、好ましくは5m/g
以上である。また、通常11m/g以下、好ましくは9m/g以下、より好ましくは8m/g以下である。比表面積がこの範囲を下回ると、Liが出入りする部位が少なく、高速充放電特性出力特性に劣り、一方、比表面積がこの範囲を上回ると、活物質の電解液に対する活性が過剰になり、初期不可逆容量が大きくなるため、高容量電池を製造できない可能性がある。
なおBET比表面積の測定方法は、比表面積測定装置を用いて、窒素ガス吸着流通法によりBET1点法にて測定する。
【0024】
(4)炭素材料(A)のX線構造解析(XRD)
炭素材料(A)のX線構造解析(XRD)から得られる、Rhombohedral(
菱面体晶) に対するHexagonal(六方体晶)の結晶の存在比(3R/2H)は0.20以上であることが好ましい。3R/2Hがこの範囲を下回ると、高速充放電特性の低下を招く虞がある。
【0025】
なお、X線構造解析(XRD)の測定方法は、0.2mmの試料板に炭素材料を配向しないように充填し、X線回折装置で、CuKα線にて出力30kV、200mAで測定する。得られた43.4°付近の3R(101)、及び44.5°付近の2H(101)の両ピークからバックグラウンドを差し引いた後、強度比3R(101)/2H(101)を算出できる。
【0026】
(5)炭素材料(A)のタップ密度
本発明の炭素材料(A)のタップ密度は、0.7g/cm以上が好ましく、1g/c
以上がより好ましい。また、1.3g/cm以下が好ましく、1.1g/cm以下がより好ましい。タップ密度が低すぎると、高速充放電特性に劣り、タップ密度が高すぎると、粒子内炭素密度が上昇し、圧延性に欠け、高密度の負極シートを形成することが難しくなる場合がある。
【0027】
本発明において、タップ密度は、粉体密度測定器を用い、直径1.6cm、体積容量20cmの円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して、炭素材料を落下させて、セルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを1000回行なって、その時の体積と試料の重量から求めた密度をタップ密度として定義する。
【0028】
(6)炭素材料(A)のラマンスペクトル(Raman)スペクトル
炭素材料(A)のラマンR値は、1580cm−1付近のピークPの強度Iと、1360cm−1付近のピークPの強度Iとを測定し、その強度比R(R=I/I)を算出して定義する。その値は0.15以上であることが好ましい。また、0.4以下であることが好ましく、0.3以下ではより好ましい。ラマンR値がこの範囲を下回ると、粒子表面の結晶性が高くなり過ぎて、高密度化した場合に電極板と平行方向に結晶が配向し易くなり、負荷特性の低下を招く虞がある。一方、この範囲を上回ると、粒子表面の結晶が乱れ、電解液との反応性が増し、充放電効率の低下やガス発生の増加を招く虞がある。
【0029】
ラマンスペクトルはラマン分光器で測定できる。具体的には、測定対象粒子を測定セル内へ自然落下させることで試料充填し、測定セル内にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、測定セルをこのレーザー光と垂直な面内で回転させながら測定を行なう。
アルゴンイオンレーザー光の波長 :514.5nm
試料上のレーザーパワー :25mW
分解能 :4cm−1
測定範囲 :1100cm−1〜1730cm−1
ピーク強度測定、ピーク半値幅測定:バックグラウンド処理、スムージング処理(単純平均によるコンボリューション5ポイント)
【0030】
(7)炭素材料(A)の製造方法
本発明の炭素材料(A)は、その原料として、黒鉛化されている炭素粒子であれば特に限定はないが、天然黒鉛、人造黒鉛、並びにコークス粉、ニードルコークス粉、樹脂の黒鉛化物の粉体等が挙げられる。これらのうち、天然黒鉛が好ましく、中でも球形化処理を施した球状黒鉛が特に好ましい。
【0031】
球形化処理に用いる装置としては、例えば、衝撃力を主体に粒子の相互作用も含めた圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を繰り返し粒子に与える装置を用いることができる。具体的には、ケーシング内部に多数のブレードを設置したローターを有し、そのローターが高速回転することによって、内部に導入された炭素材料に対して衝撃圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を与え、表面処理を行なう装置が好ましい。また、炭素材料を循環させることによって機械的作用を繰り返して与える機構を有するものであるのが好ましい。好ましい装置として、例えば、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所社製)、クリプトロン(アーステクニカ社製)、CFミル(宇部興産社製)、メカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン社製)、シータコンポーザ(徳寿工作所社製)等が挙げられる。これらの中で、奈良機械製作所社製のハイブリダイゼーションシステムが好ましい。
【0032】
本発明の炭素材料は、上記の表面処理による球形化工程を施すことにより、鱗片状の天然黒鉛が折りたたまれる、もしくは周囲エッジ部分が球形粉砕されることにより球状とさ
れた母体粒子に、粉砕により生じた主に5μm以下の微粉が付着してなり、表面処理後の黒鉛粒子の表面官能基量O/C値が1%以上、4%以下となる条件で、球形化処理を行うことにより製造される。この際には、機械処理のエネルギーにより黒鉛表面の酸化反応を進行させ、黒鉛表面に酸性官能基を導入することができるよう、活性雰囲気下で行うことが好ましい。例えば前述の装置を用いて処理する場合は、回転するローターの周速度を30〜100m/秒にするのが好ましく、40〜100m/秒にするのがより好ましく、50〜100m/秒にするのが更に好ましい。また、処理は、単に炭素質物を通過させるだけでも可能であるが、30秒以上装置内を循環又は滞留させて処理するのが好ましく、1分以上装置内を循環又は滞留させて処理するのがより好ましい。
【0033】
<pKaが5.6以上の有機酸のアルカリ金属塩及び/又は該有機酸重合物のアルカリ金属塩(B)>
本発明の非水電解液二次電池用炭素材料(C)は、25℃におけるpKaが5.6以上の有機酸のアルカリ金属塩(B)及び/又は該有機酸重合物のアルカリ金属塩(B)を炭素材料(A)に添着させたものである。なお、好ましくは、pKaが5.6以上の有機酸のアルカリ金属塩(B)である。(本発明では、単に有機酸のアルカリ金属塩(B)と呼ぶ場合がある。)
一般に、非水電解液二次電池用炭素材料は、電解液との副反応、特にPC電解液との副反応が抑制できず、サイクル時の不可逆容量が大きくなるとされてきた。しかしながら、炭素材料(A)にpKaが5.6以上の有機酸のアルカリ金属塩及び/又は該有機酸重合物のアルカリ金属塩(B)を添着させることにより、電解液との副反応、特にPC電解液との副反応を抑制する効果が向上するため、今まで電解液との副反応による充放電効率の低下が大きいことが問題であった非水電解液二次電池用炭素材料が、高い充放電効率を得ることができる。これにより、電解液との副反応、特にPC電解液との副反応抑制効果に優れた非水電解液二次電池用炭素材料(C)を提供することが可能となる。
【0034】
・25℃におけるpKaが5.6以上の有機酸のアルカリ金属塩
25℃におけるpKaが5.6以上の有機酸としては、例えば、化学便覧(基礎編II)pII―334〜343、丸善出版(2004)やCRC Handbook of che
mistry and Physics、7th Edition、p8−43 〜 8−5
6、CRC Press (1995)に記載の有機酸のアルカリ金属塩が挙げられる。これらの中では、pKaの値の下限値は、通常5.6以上、より好ましくは5.8以上であり、上限値は、特に制限はされないが好ましくは7以下である。pKaが5.6以上の有機酸のアルカリ金属塩が好ましい理由は、非水電解液二次電池用炭素材料(C)に炭酸処理工程を施すことによって、アルカリ金属塩と炭酸中の水素との置換反応が起こるためである。なお、有機酸の中には2個以上のpKa値を示す化合物があるが、順に例えば第一酸解離定数をpKa1、第二酸解離定数をpKa2と示す。本発明における化合物のpKa値とは、酸解離定数が複数ある場合は、一番数字が大きいものを選択するとする。
【0035】
pKaの値が5.6より小さい有機酸のアルカリ金属塩を用いると、後述に記載のアルカリ金属塩と25℃におけるpKa値が5.6以下の無機酸との反応が進行せず、電解液との副反応を十分に抑制できず、不可逆容量が十分に低下させることが出来ない。
25℃におけるpKa値が5.6以上の有機酸のアルカリ金属塩としては、アルカリ金属元素が有機酸に結合されている限り、特に限定はされないが、非水系二次電池内で使用する理由から、アルカリ金属元素は、非水系二次電池中で悪影響を及ぼさない点でリチウムが好ましい。また、pKa値が5.6以上の有機酸としては化学便覧(基礎編II)pII−340〜343、丸善出版(2004)に記載された、イソクエン酸(pKa3=5.84)、クエン酸(pKa3=5.69)、シクロヘキサンカルボン酸(pKa2=6.64)、シクロヘキサン−1,1−ジカルボン酸(pKa2=5.73)、ジメチルマロン酸(pKa1=5.68)、マレイン酸(pKa2=5.83)、2,4,6−トリク
ロロフェノール(pKa1=6.42)、2’−アデノシンリン酸(pKa3=5.95)、3’−アデノシンリン酸(pKa3=5.72)、5’−アデノシンリン酸(pKa3=6.31)、5’−アデノシン二リン酸(pKa4=6.31)、5’−アデノシン三リン酸(pKa5=6.44)、イソニコチン酸(pKa2=6.30)、4−イソプロピルトロポロン(pKa1=6.72)、5’−イソシンリン酸(pKa3=6.22)、エリオクロームブラックT(pKa1=6.38)、キシレノールオレンジ(pKa4=6.09)、D−グルコース−1−リン酸(pKa1=5.98)、テノイルトリフルオロアセトン(pKa1=6.20)、トリフルオロアセチルアセトン(pKa4=6.09)、トロポロン(pKa1=6.68)、ブロモクレゾールパープル(pKa1=6.17)、ブロモチモールブルー(pKa1=6.88)、メチルチモールブルー(pKa4=6.85)、CyDTA(H6L)−1,2−s(pKa5=5.98)、EDDA(HL)(pKa3=6.90)、EDMA(HL)(pKa2=6.90)、EDTA(HL)(pKa5=6.36)TTHA(H10L)(pKa8=6.10)などが挙げられ、その中でも炭素−炭素二重結合を有し、炭素材料(A)表面のラジカルによって容易に重合されることから、不飽和カルボン酸のアルカリ金属塩が好ましく、その中でも、マレイン酸(pKa2=5.8)のアルカリ金属塩が好ましい。ここに示したpKaの値は、化学便覧(基礎編II)pII−334〜343、丸善出版(2004)に記載された値である。
【0036】
これらpKaが5.6以上の有機酸のアルカリ金属塩は、炭素材料(A)に対する添着量は特に限定されないが、特定の範囲内に制御すると、電解液との副反応、特にPC電解液との副反応が抑制され、初回充放電効率が改善されるなどの利点がある。
例えば、25℃におけるpKaの値が5.6以上の有機酸のアルカリ金属塩の添着量が少なすぎると、炭素材料(A)への十分な被覆効果が得られず、電解液との副反応抑制効果特性が発現しなくなる傾向があり、また多すぎると、活物質の充填密度が低下するために電池の容量が小さくになる傾向がある。
【0037】
また、25℃におけるpKaが5.6以上の有機酸の重合物のアルカリ金属塩は、上述した25℃におけるpKaが5.6以上の有機酸を単位構造として含む重合物のアルカリ金属塩である。単位構造としてpKaが5.6以上の有機酸のアルカリ金属塩は、そのモノマーに比べ、電解液の膨潤性が低下し、炭素材料表面への電解液接触を抑制することができるため好ましい。また、同様の理由で、pKaが5.6以上の有機酸としては、重合性を有する不飽和カルボン酸が好ましい。
【0038】
・有機酸のアルカリ金属塩(B)の添着量
そのような理由から、25℃でのpKaの値が5.6以下の有機酸のアルカリ金属塩の好ましい添着量は炭素材料(A)に対して、下限値が、通常、0.01wt%以上、好ましくは、0.1wt%以上、更に好ましくは、0.5%以上であり、上限値が通常、10wt%以下、好ましくは5wt%以下、更に好ましくは、2wt%以下、特に好ましくは1wt%以下である。この量が多すぎると、負極活物質量が減少することによる可逆容量の低減を招くという理由でやはり好ましくない。また、この量が少なすぎると黒鉛表面および細孔内に十分な水溶性高分子(B)が添着されず電解液の副反応を十分に抑制できないため不可逆容量が低減されず、好ましくない。
【0039】
ここで述べる有機酸のアルカリ金属塩(B)の添着量は、一般的な上記湿式添着法や上記乾式添着法を用いて炭素材料(A)に有機酸のアルカリ金属塩(B)を添着する場合においては、炭素材料(A)に加えた有機酸のアルカリ金属塩(B)の使用量と定義する。
一方で、上記の例外として、使用量よりも添着量が少なくなる工程もある。例えば、有機酸のアルカリ金属塩(B)が黒鉛表面への吸着性を有することを利用して、過剰な有機酸のアルカリ金属塩(B)水溶液中に炭素材料(A)を入れて攪拌し、ろ過により余分な
有機酸のアルカリ金属塩(B)水溶液を除去した後、窒素雰囲気下で、乾燥することにより炭素材料(A)に有機酸のアルカリ金属塩(B)を添着(吸着)する工程が挙げられる。上記工程においては、ろ過により余分な有機酸のアルカリ金属塩(B)水溶液を除去するために、炭素材料(A)に加えた有機酸のアルカリ金属塩(B)の使用量が添着量と必ずしも一致せず、使用量よりも添着量が少ない量となることがある。これらのような工程において作製した炭素材料(A)への有機酸のアルカリ金属塩(B)の添着量の算出には、例えば、熱重量分析(TG)を用いることが出来る。一般的な上記湿式添着法や上記乾式添着法を用いた工程により有機酸のアルカリ金属塩(B)を添着させた炭素材料(A)を基準として、本手法により有機酸のアルカリ金属塩(B)を添着させた炭素材料(A)の熱重量減少率との比を算出することにより、本手法により有機酸のアルカリ金属塩(B)を添着させたサンプル添着樹脂量を規定することができる。
【0040】
<非水系二次電池用炭素材料(C)の製造方法>
本発明の非水系二次電池用炭素材料(C)は、炭素材料(A)に、有機酸のアルカリ金属塩(B)が添着された構造をとるように製造されれば、本発明の負極材料を製造する方法は特に制限されない。添着の態様は特に制限されないが炭素材料(A)の細孔の内部(細孔部)や外面(外周部)に、有機酸のアルカリ金属塩(B)が添着された態様が好ましく、具体的には以下の2つの手法が挙げられる。
【0041】
・手法(i)
炭素材料(A)への有機酸のアルカリ金属塩(B)の添着の手法(i)は 、例えば、
有機酸水溶液中にカルボキシル基に対し水酸化リチウムを1:1のモル数となるように混合して作成した有機酸のアルカリ金属塩(B)を水に溶解させ、ミキサーにて炭素材料(A)と混合した後、窒素雰囲気下で、乾燥する工程が挙げられる。
【0042】
有機酸のアルカリ金属塩(B)水溶液の濃度は特に制限は無いが、せん断速度40s−1における水溶液の粘度が8000cP以下であることが好ましく、5000cP以下であることがより好ましく、2000cP以下であることが、更に好ましい。この範囲を超えると炭素材料(A)の細孔に有機酸のアルカリ金属塩(B)水溶液が十分に浸透せず、添着された樹脂が不均一になる虞がある。
【0043】
上記乾燥温度については、通常400℃以下、350℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましく、250℃以下が更に好ましい。また、50℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、150℃以上が更に好ましい。この温度以上では、上記イオン結合、及び/または水素結合可能な官能基が脱離してしまい、黒鉛表面に存在する含酸素官能
基との相互作用が弱くなり、安定な添着状態を維持できなくなる虞がある。一方で、この温度以下では十分な速度で水分が乾燥しないために、生産性の低下が懸念される。
【0044】
・手法(ii)
また、炭素材料(A)への有機酸のアルカリ金属塩(B)の添着の別の手法(ii)としては、例えば、水溶性高分子が黒鉛表面への吸着性を有することを利用して、過剰な有機酸のアルカリ金属塩(B)水溶液中に炭素材料(A)を入れて攪拌し、ろ過により余分な有機酸のアルカリ金属塩(B)水溶液を除去した後、窒素雰囲気下で、乾燥することにより炭素材料(A)に有機酸のアルカリ金属塩(B)を添着する工程も挙げられる。
【0045】
過剰に用いる有機酸のアルカリ金属塩(B)水溶液の濃度は特に制限は無いが、水溶液の粘度が2000cP以下であることが好ましく、1000cP以下であることがより好ましく、800cP以下であることが、更に好ましい。この範囲を超えると余分な有機酸のアルカリ金属塩(B)水溶液をろ過により除去する工程の作業効率が大幅に低下する虞がある。
【0046】
上記有機酸のアルカリ金属塩(B)水溶液中で炭素材料を攪拌する方法については、サンプル容器内部でブレードやカッターにより混合溶液層を攪拌する攪拌層型、サンプル容器自体が回転することにより混合溶液層自体を転動攪拌させる転動層型、振動モーターや超音波振動子を用いて溶液媒体に力学的エネルギーを与えることにより混合溶液層を攪拌する振動型などが挙げられる。
【0047】
上記乾燥温度については、通常400℃以下、350℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましく、250℃以下が更に好ましい。また、50℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、150℃以上が更に好ましい。この温度以上では、上記イオン結合、及び/または水素結合可能な官能基が脱離してしまい、黒鉛表面に存在する含酸素官能
基との相互作用が弱くなり、安定な添着状態を維持できなくなる虞がある。一方で、この温度以下では十分な速度で水分が乾燥しないために、生産性の低下が懸念される。
上記手法(i)、(ii)にて、炭素材料(A)に有機酸のアルカリ金属塩(B)を添着させた後、25℃におけるpKa値が5.6以下の無機酸と接触させる酸接触処理を行う。このとき、上記有機酸のアルカリ金属塩(B)を添着させた炭素材料(A)を乾燥させる工程を省略することもできる。
【0048】
・酸接触処理
本発明では、素材料(A)に有機酸のアルカリ金属塩(B)を添着させた後、25℃におけるpKa値が5.6以下の無機酸と接触させる酸接触処理を行うことで、本発明の非水系二次電池用炭素材料(C)を製造することが好ましい。
25℃におけるpKa値が5.6以下の無機酸の例としては、塩酸、硝酸、炭酸、硫酸、臭素酸、フッ酸、ホウ酸及びヨウ素酸などが挙げられ、炭酸接触処理が好ましい。
【0049】
この炭酸接触処理は炭酸水溶液を直接接触させてもよく、大気中に暴露することにより、結果的に二酸化炭素と水を接触させても良い。
液相接触処理の場合、処理時間は、通常1分以上、好ましくは5分以上、より好ましくは以上10分、また通常、3時間以下、好ましくは2時間以下、 より好ましくは、1時間以下である。
【0050】
一方、気相接触処理の場合、処理時間は、通常5分以上、好ましくは15分以上、より好ましくは以上30分、また通常、72時間以下、好ましくは60時間以下、より好ましくは、48時間以下である。
この処理時間が短すぎると、有機酸のアルカリ金属塩(B)を添着させた炭素材料(A)に均一に酸処理を施すことが出来ず、酸処理時間が長すぎると、
生産性の低下に繋がる傾向がある。
【0051】
処理温度は、通常0℃以上、好ましくは5℃以上、より好ましくは、10℃以上、また通常、100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは、60℃以下である。この処理温度が高すぎると、有機酸のアルカリ金属塩(B)の変質の虞がある。また、有機酸のアルカリ金属塩(B)のpKa値が低下してしまう虞があるため好ましくない。一方、この処理温度が低すぎると、十分に有機酸のアルカリ金属塩(B)とpKa値が5.6以下の無機酸の中和反応が十分に進行しない場合がある。
【0052】
<非水系二次電池用炭素材料(C)>
上記製造方法で得られた非水系二次電池用炭素材料(C)は、炭素材料(C)のBET比表面積が1m/g以上、8m/g以下であり、粒径(d50)が1μm以上、50
μm以下であるという物性を示し、更に以下のような特性を持つ。
本発明の炭素材料(A)に有機酸のアルカリ金属塩(B)が添着された特定の非水系二
次電池用炭素材料(C)においては、電解液と炭素材料表面の接触を防ぐことにより、SEI(Solid Electrolyte Interphace)と呼ばれる保護皮膜の形成や副反応生成物としてのガス発生を抑制することができる。さらに、有機酸のアルカリ金属塩(B)の持つ置換基が有する、アニオン、及びカチオン交換能により、充放電の際に、非水系二次電池用炭素材料(C)の表面におけるLiイオンと電解液溶媒の脱溶媒和反応が促進されるため、リチウムの黒鉛層間への挿入・脱離がスムーズになり、充放電不可特性が向上する。本発明のような炭素材料(A)に有機酸のアルカリ金属塩(B)が添着されていない一般的な前記炭素材料負極は、その表面に通常、非水系電解液との反応によりSEI保護皮膜が形成され、負極の化学的安定性が保たれている。しかしながら、上記SEI被膜生成や副反応生成物としてガスが発生することにより、初期サイクル時の充放電不可逆容量が増え、結果として、高容量化を達成しづらい。特に、リチウム一次電池で一般的に使用されるプロピレンカーボネート(PC)は高沸点溶媒であり、低温でも高いイオン電導度を発現できるという点で好ましい有機溶媒であるにも関わらず、黒鉛系電極を用いた場合には、Liイオンに溶媒和したPCが黒鉛相間へ共挿入することにより黒鉛系負極活物質の層間剥離劣化がおこり、さらに溶媒と電極の分解反応が激しいため、リチウムの黒鉛層間への挿入・脱離が行えないので、十分な容量が得られにくい。
【0053】
(1)非水系二次電池用炭素材料(C)のBET比表面積(SA)
本発明の非水系二次電池用炭素材料(C)のBET法で測定した比表面積については、1m/g以上、8m/g以下を満たし、下限において好ましくは2m/g以上であ
り、上限において好ましくは7m/g以下、より好ましくは6m/g以下である。
比表面積がこの範囲を下回ると、Liが出入りする部位が少なく、高速充放電特性出力特性に劣り、一方、比表面積がこの範囲を上回ると、活物質の電解液に対する活性が過剰になり、初期不可逆容量が大きくなるため、高容量電池を製造できない可能性がある。
【0054】
なおBET比表面積の測定方法は、比表面積測定装置を用いて、窒素ガス吸着流通法によりBET1点法にて測定する。
本発明では、非水系二次電池用炭素材料(C)の表面を有機酸のアルカリ金属塩(B)でどの程度覆っているかの指標として、該炭素材料(C)のBET比表面積をSAC、上
記炭素材料(A)のBET比表面積をSAとしたとき、BET比表面積の低下率(%):(SA-SA)/SA×100を算出することが出来る。この値が10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、20%以上であることが更に好ましい。また、80%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、60%以下であることが更に好ましい。この値より大きいと炭素材料(C)表面の反応活性低下し、充放電負荷特性が低下する虞がある。一方、この値より小さいと、電解液と炭素材料表面の接触を十分に防ぐことができず、不可逆容量が大きくなる虞がある。
【0055】
(2)非水系二次電池用炭素材料(C)の粒径
炭素材料(C)の粒径については特に制限が無いが、使用される範囲として、d50が
50μm以下、好ましくは30μm以下、更に好ましくは25μm以下、1μm以上、好ましくは4μm以上、更に好ましくは10μm以上である。この粒径範囲を超えると極板化した際に、筋引きなどの工程上の不都合が出ることが多く、また、これ以下であると、表面積が大きくなりすぎ電解液との活性を抑制することが難しくなる。
【0056】
なお粒径の測定方法は、界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートの0.2質量%水溶液10mLに、炭素材料0.01gを懸濁させ、市販のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置に導入し、28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、測定装置における体積基準のメジアン径として測定したものを、本発明におけるd50と定義する。
【0057】
(3)非水系二次電池用炭素材料(C)のタップ密度
本発明の炭素材料(C)のタップ密度は、0.7g/cm以上が好ましく、1g/cm以上がより好ましい。また、1.3g/cm以下が好ましく、1.1g/cm以下がより好ましい。タップ密度が低すぎると、高速充放電特性に劣り、タップ密度が高すぎると、粒子内炭素密度が上昇し、圧延性に欠け、高密度の負極シートを形成することが難しくなる場合がある。
本発明において、タップ密度は、粉体密度測定器を用い、直径1.6cm、体積容量20cmの円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して、炭素材料を落下させて、セルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを1000回行なって、その時の体積と試料の重量から求めた密度をタップ密度として定義する。
【0058】
(4)非水系二次電池用炭素材料(C)の表面官能基量
本発明の炭素材料(C)の下記式1で表される表面官能基量(O/C値)は、通常、1%以上、30%以下であり、2%以上20%以下では更に好ましく、2.6%以上15%以下であると最も好ましい。この表面官能基量O/C値が小さすぎると、炭素材料(C)表面におけるLiイオンと電解液溶媒の脱溶媒和反応性が低下し、充放電不可特性が低下する虞があり、大きすぎると、電解液との反応性が増し、充放電効率の低下やガス発生の増加を招く虞がある。
【0059】
式1
O/C値(%)=X線光電子分光法(XPS)分析におけるO1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたO原子濃度/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度×100
本発明における表面官能基量はX線光電子分光法(XPS)を用いて測定することができる。
【0060】
表面官能基量O/C値は、X線光電子分光法測定としてX線光電子分光器を用い、測定対象を表面が平坦になるように試料台に載せ、アルミニウムのKα線をX線源とし、マルチプレックス測定により、C1s(280〜300eV)とO1s(525〜545eV)のスペクトルを測定する。得られたC1sのピークトップを284.3eVとして帯電補正し、C1sとO1sのスペクトルのピーク面積を求め、更に装置感度係数を掛けて、CとOの表面原子濃度をそれぞれ算出する。得られたそのOとCの原子濃度比O/C(O原子濃度/C原子濃度)を炭素材料の表面官能基量O/C値と定義する。
【0061】
(5)非水系二次電池用炭素材料(C)のX線構造解析(XRD)
炭素材料(C)のX線構造解析(XRD)から得られる、Rhombohedral(
菱面体晶) に対するHexagonal(六方体晶)の結晶の存在比(3R/2H)は0.20以上であることが好ましい。3R/2Hがこの範囲を下回ると、高速充放電特性の低下を招く虞がある。
【0062】
なお、X線構造解析(XRD)の測定方法は、0.2mmの試料板に炭素材料を配向しないように充填し、X線回折装置で、CuKα線にて出力30kV、200mAで測定する。得られた43.4°付近の3R(101)、及び44.5°付近の2H(101)の両ピークからバックグラウンドを差し引いた後、強度比3R(101)/2H(101)を算出できる。
【0063】
(6)非水系二次電池用炭素材料(C)のラマンスペクトル(Raman)スペクトル
炭素材料(C)のラマンR値は、1580cm−1付近のピークPの強度Iと、1360cm−1付近のピークPの強度Iとを測定し、その強度比R(R=I/I)を算出して定義する。その値は0.15以上であることが好ましい。また、0.4以下
であることが好ましく、0.3以下ではより好ましい。ラマンR値がこの範囲を下回ると、粒子表面の結晶性が高くなり過ぎて、高密度化した場合に電極板と平行方向に結晶が配向し易くなり、負荷特性の低下を招く虞がある。一方、この範囲を上回ると、粒子表面の結晶が乱れ、電解液との反応性が増し、充放電効率の低下やガス発生の増加を招く虞がある。
【0064】
ラマンスペクトルはラマン分光器で測定できる。具体的には、測定対象粒子を測定セル内へ自然落下させることで試料充填し、測定セル内にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、測定セルをこのレーザー光と垂直な面内で回転させながら測定を行なう。
アルゴンイオンレーザー光の波長 :514.5nm
試料上のレーザーパワー :25mW
分解能 :4cm−1
測定範囲 :1100cm−1〜1730cm−1
ピーク強度測定、ピーク半値幅測定:バックグラウンド処理、スムージング処理(単純平均によるコンボリューション5ポイント)
【0065】
<他の炭素材料(D)との混合>
上述した本発明の非水系二次電池用炭素材料(C)は、何れか一種を単独で、又は二種以上を任意の組成及び組み合わせで併用して、リチウムイオン二次電池の負極材料として好適に使用することができるが、一種又は二種以上を、他の一種又は二種以上のその他炭素材料(D)と混合し、これを非水系二次電池、好ましくはリチウムイオン二次電池の負極材料として用いても良い。
【0066】
上述の非水系二次電池用炭素材料(C)にその他炭素材料(D)を混合する場合、非水系二次電池用炭素材料(C)とその他炭素材料(D)の総量に対する非水系二次電池用炭素材料(C)の混合割合は、通常10重量%以上、好ましくは20重量%以上、また、通常90重量%以下、好ましくは80重量%以下の範囲である。その他炭素材料(D)の混合割合が、前記範囲を下回ると、添加した効果が現れ難い傾向がある。一方、前記範囲を上回ると、非水系二次電池用炭素材料(C)の特性が現れ難い傾向がある。
【0067】
その他炭素材料(D)としては、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質被覆黒鉛、非晶質炭素の中から選ばれる材料を用いる。これらの材料は、何れかを一種を単独で用いても良く、二種以上を任意の組み合わせ及び組成で併用しても良い。
天然黒鉛としては、例えば、高純度化した鱗片状黒鉛や球形化した黒鉛を用いることができる。天然黒鉛の体積基準平均粒径は、通常8μm以上、好ましくは12μm以上、また、通常60μm以下、好ましくは40μm以下の範囲である。天然黒鉛のBET比表面積は、通常3.5m/g以上、好ましくは、4.5m/g以上、また、通常8m/g以下、好ましくは6m/g以下の範囲である。
【0068】
人造黒鉛としては、炭素材料を黒鉛化した粒子等が挙げられ、例えば、単一の黒鉛前駆体粒子を粉状のまま焼成、黒鉛化した粒子などを用いることができる。
非晶質被覆黒鉛としては、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛に非晶質前駆対を被覆、焼成した粒子や、天然黒鉛や人造黒鉛に非晶質をCVDにより被覆した粒子を用いることができる。
【0069】
非晶質炭素としては、例えば、バルクメソフェーズを焼成した粒子や、炭素前駆体を不融化処理し、焼成した粒子を用いることができる。
非水系二次電池用炭素材料(C)とその他炭素材料(D)との混合に用いる装置としては、特に制限はないが、例えば、回転型混合機の場合:円筒型混合機、双子円筒型混合機、二重円錐型混合機、正立方型混合機、鍬形混合機、固定型混合機の場合:螺旋型混合機
、リボン型混合機、Muller型混合機、Helical Flight型混合機、P
ugmill型混合機、流動化型混合機等を用いることができる。
【0070】
<非水系二次電池用負極>
本発明の非水系二次電池用負極(以下適宜「電極シート」ともいう。)は、集電体と、集電体上に形成された活物質層とを備えると共に、活物質層は少なくとも本発明の非水系二次電池用炭素材料(C)とを含有することを特徴とする。更に好ましくはバインダを含有する。
【0071】
バインダとしては、分子内にオレフィン性不飽和結合を有するものを用いる。その種類は特に制限されないが、具体例としては、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン・イソプレン・スチレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体などが挙げられる。このようなオレフィン性不飽和結合を有するバインダを用いることにより、活物質層の電解液に対する膨潤性を低減することができる。中でも入手の容易性から、スチレン−ブタジエンゴムが好ましい。
【0072】
このようなオレフィン性不飽和結合を有するバインダと、前述の活物質とを組み合わせて用いることにより、負極板の強度を高くすることができる。負極の強度が高いと、充放電による負極の劣化が抑制され、サイクル寿命を長くすることができる。また、本発明に係る負極では、活物質層と集電体との接着強度が高いので、活物質層中のバインダの含有量を低減させても、負極を捲回して電池を製造する際に、集電体から活物質層が剥離するという課題も起こらないと推察される。
【0073】
分子内にオレフィン性不飽和結合を有するバインダとしては、その分子量が大きいものか、或いは、不飽和結合の割合が大きいものが望ましい。具体的に、分子量が大きいバインダの場合には、その重量平均分子量が通常1万以上、好ましくは5万以上、また、通常100万以下、好ましくは30万以下の範囲にあるものが望ましい。また、不飽和結合の割合が大きいバインダの場合には、全バインダの1g当たりのオレフィン性不飽和結合のモル数が、通常2.5×10−7以上、好ましくは8×10−7以上、また、通常1×10−6以下、好ましくは5×10−6以下の範囲にあるものが望ましい。バインダとしては、これらの分子量に関する規定と不飽和結合の割合に関する規定のうち、少なくとも何れか一方を満たしていればよいが、両方の規定を同時に満たすものがより好ましい。オレフィン性不飽和結合を有するバインダの分子量が小さ過ぎると機械的強度に劣り、大き過ぎると可撓性に劣る。また、バインダ中のオレフィン性不飽和結合の割合が小さ過ぎると強度向上効果が薄れ、大き過ぎると可撓性に劣る。
【0074】
また、オレフィン性不飽和結合を有するバインダは、その不飽和度が、通常15%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上、また、通常90%以下、好ましくは80%以下の範囲にあるものが望ましい。なお、不飽和度とは、ポリマーの繰り返し単位に対する二重結合の割合(%)を表す。
本発明においては、オレフィン性不飽和結合を有さないバインダも、本発明の効果が失われない範囲において、上述のオレフィン性不飽和結合を有するバインダと併用することができる。オレフィン性不飽和結合を有するバインダに対する、オレフィン性不飽和結合を有さないバインダの混合比率は、通常150重量%以下、好ましくは120重量%以下の範囲である。
【0075】
オレフィン性不飽和結合を有さないバインダを併用することにより、塗布性を向上することができるが、併用量が多すぎると活物質層の強度が低下する。
オレフィン性不飽和結合を有さないバインダの例としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、澱粉、カラギナン、プルラン、グアーガム、ザンサンガム(キサ
ンタンガム)等の増粘多糖類、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル類、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のビニルアルコール類、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のポリ酸、或いはこれらポリマーの金属塩、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのアルカン系ポリマー及びこれらの共重合体などが挙げられる。
【0076】
本発明においては、炭素材料(A)に有機酸のアルカリ金属塩(B)が添着された本発明の非水系二次電池用炭素材料(C)と、上述のオレフィン性不飽和結合を有するバインダとを組み合わせて用いた場合、活物質層に用いるバインダの比率を従来に比べて低減することができる。具体的に、本発明の負極材料と、バインダ(これは場合によっては、上述のように不飽和結合を有するバインダと、不飽和結合を有さないバインダとの混合物であってもよい。)との重量比率は、それぞれの乾燥重量比で、通常90/10以上、好ましくは95/5以上であり、通常99.9/0.1以下、好ましくは99.5/0.5以下の範囲である。バインダの割合が高過ぎると容量の減少や、抵抗増大を招きやすく、バインダの割合が少な過ぎると極板強度が劣る。
【0077】
本発明の負極は、上述の本発明の負極材料とバインダとを分散媒に分散させてスラリーとし、これを集電体に塗布することにより形成される。分散媒としては、アルコールなどの有機溶媒や、水を用いることができる。このスラリーには更に、所望により導電剤を加えてもよい。導電剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック、平均粒径1μm以下のCu、Ni又はこれらの合金からなる微粉末などが挙げられる。導電剤の添加量は、本発明の負極材料に対して通常10重量%以下程度である。
【0078】
スラリーを塗布する集電体としては、従来公知のものを用いることができる。具体的には、圧延銅箔、電解銅箔、ステンレス箔等の金属薄膜が挙げられる。集電体の厚さは、通常4μm以上、好ましくは6μm以上であり、通常30μm以下、好ましくは20μm以下である。
このスラリーを、集電体である厚さ18μmの銅箔上に、負極材料が14.5±0.3mg/cm付着するように、ドクターブレードを用いて幅5cmに塗布し、室温で風乾を行った。更に110℃で30分乾燥後、直径20cmのローラを用いてロールプレスして、活物質層の密度が1.70±0.03g/cmになるよう調整し電極シートを得た。
【0079】
スラリーを集電体上に塗布した後、通常60℃以上、好ましくは80℃以上、また、通常200℃以下、好ましくは195℃以下の温度で、乾燥空気又は不活性雰囲気下で乾燥し、活物性層を形成する。
スラリーを塗布、乾燥して得られる活物質層の厚さは、通常5μm以上、好ましくは20μm以上、更に好ましくは30μm以上、また、通常200μm以下、好ましくは100μm以下、更に好ましくは75μm以下である。活物質層が薄すぎると、活物質の粒径との兼ね合いから負極としての実用性に欠け、厚すぎると、高密度の電流値に対する十分なLiの吸蔵・放出の機能が得られにくい。
【0080】
活物質層における炭素材料(C)の密度は、用途により異なるが、容量を重視する用途では、好ましくは1.55g/cm3以上、とりわけ1.60g/cm3以上、更に1.65g/cm3以上、特に1.70g/cm3以上が好ましい。密度が低すぎると、単位体積あたりの電池の容量が必ずしも充分ではない。また、密度が高すぎるとレート特性が低下するので、1.9g/cm以下が好ましい。
【0081】
以上説明した本発明の非水系二次電池用炭素材料(C)を用いて非水系二次電池用負極
を作製する場合、その手法や他の材料の選択については、特に制限されない。また、この負極を用いてリチウムイオン二次電池を作製する場合も、リチウムイオン二次電池を構成する正極、電解液等の電池構成上必要な部材の選択については特に制限されない。以下、本発明の負極材料を用いたリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池の詳細を例示するが、使用し得る材料や作製の方法等は以下の具体例に限定されるものではない。
【0082】
<非水電解液二次電池>
本発明の非水電解液二次電池、特にリチウムイオン二次電池の基本的構成は、従来公知のリチウムイオン二次電池と同様であり、通常、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに電解質を備える。負極としては、上述した本発明の負極を用いる。
正極は、正極活物質及びバインダを含有する正極活物質層を、集電体上に形成したものである。
【0083】
正極活物質としては、リチウムイオンなどのアルカリ金属カチオンを充放電時に吸蔵、放出できる金属カルコゲン化合物などが挙げられる。金属カルコゲン化合物としては、バナジウムの酸化物、モリブデンの酸化物、マンガンの酸化物、クロムの酸化物、チタンの酸化物、タングステンの酸化物などの遷移金属酸化物、バナジウムの硫化物、モリブデンの硫化物、チタンの硫化物、CuSなどの遷移金属硫化物、NiPS、FePS等の遷移金属のリン−硫黄化合物、VSe、NbSeなどの遷移金属のセレン化合物、Fe0.25V0.75S2、Na0.1CrSなどの遷移金属の複合酸化物、LiCoS、LiNiSなどの遷移金属の複合硫化物等が挙げられる。
【0084】
これらの中でも、V、V13、VO、Cr、MnO、TiO、MoV、LiCoO、LiNiO、LiMn、TiS、V、Cr0.25V0.75S2、Cr0.5V0.5S2などが好ましく、特に好ましいのはLiCoO、LiNiO、LiMnや、これらの遷移金属の一部を他の金属で置換したリチウム遷移金属複合酸化物である。これらの正極活物質は、単独で用いても複数を混合して用いてもよい。
【0085】
正極活物質を結着するバインダとしては、公知のものを任意に選択して用いることができる。例としては、シリケート、水ガラス等の無機化合物や、テフロン(登録商標)、ポリフッ化ビニリデン等の不飽和結合を有さない樹脂などが挙げられる。これらの中でも好ましいのは、不飽和結合を有さない樹脂である。正極活物質を結着する樹脂として不飽和結合を有する樹脂を用いると酸化反応時に分解される恐れがある。これらの樹脂の重量平均分子量は通常1万以上、好ましくは10万以上、また、通常300万以下、好ましくは100万以下の範囲である。
【0086】
正極活物質層中には、電極の導電性を向上させるために、導電材を含有させてもよい。導電剤としては、活物質に適量混合して導電性を付与できるものであれば特に制限はないが、通常、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛などの炭素粉末、各種の金属の繊維、粉末、箔などが挙げられる。
正極板は、前記したような負極の製造と同様の手法で、正極活物質やバインダを溶剤でスラリー化し、集電体上に塗布、乾燥することにより形成する。正極の集電体としては、アルミニウム、ニッケル、SUSなどが用いられるが、何ら限定されない。
【0087】
電解質としては、非水系溶媒にリチウム塩を溶解させた非水系電解液や、この非水系電解液を有機高分子化合物等によりゲル状、ゴム状、固体シート状にしたものなどが用いられる。
非水系電解液に使用される非水系溶媒は特に制限されず、従来から非水系電解液の溶媒
として提案されている公知の非水系溶媒の中から、適宜選択して用いることができる。例えば、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート類;1,2−ジメトキシエタン等の鎖状エーテル類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、1,3−ジオキソラン等の環状エーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等の鎖状エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類などが挙げられる。
【0088】
これらの非水系溶媒は、何れか一種を単独で用いても良く、二種以上を混合して用いても良い。混合溶媒の場合は、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含む混合溶媒の組合せが好ましく、環状カーボネートが、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートの混合溶媒であることが、低温でも高いイオン電導度を発現でき、低温充電不可特性が向上するという点で特に好ましい。中でもプロピレンカーボネートが非水系溶媒全体に対し、2wt%以上80wt%以下の範囲が好ましく、5wt%以上70wt%以下の範囲がより好ましく、10wt%以上60wt%以下の範囲がさらに好ましい。プロピレンカーボネートの割合が上記より低いと低温でのイオン電導度が低下し、プロピレンカーボネートの割合が上記より高いと、黒鉛系電極を用いた場合にはLiイオンに溶媒和したPCが黒鉛相間へ共挿入することにより黒鉛系負極活物質の層間剥離劣化がおこり、十分な容量が得られなくなる問題がある。
【0089】
非水系電解液に使用されるリチウム塩も特に制限されず、この用途に用い得ることが知られている公知のリチウム塩の中から、適宜選択して用いることができる。例えば、LiCl、LiBrなどのハロゲン化物、LiClO、LiBrO、LiClOなどの過ハロゲン酸塩、LiPF、LiBF、LiAsFなどの無機フッ化物塩などの無機リチウム塩、LiCFSO、LiCSOなどのパーフルオロアルカンスルホン酸塩、Liトリフルオロスルフォンイミド((CFSONLi)などのパーフルオロアルカンスルホン酸イミド塩などの含フッ素有機リチウム塩などが挙げられ、この中でもLiClO、LiPF、LiBF、が好ましい。
【0090】
リチウム塩は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。非水系電解液中におけるリチウム塩の濃度は、通常0.5M以上、2.0M以下の範囲である。
また、上述の非水系電解液に有機高分子化合物を含ませ、ゲル状、ゴム状、或いは固体シート状にして使用する場合、有機高分子化合物の具体例としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系高分子化合物;ポリエーテル系高分子化合物の架橋体高分子;ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールなどのビニルアルコール系高分子化合物;ビニルアルコール系高分子化合物の不溶化物;ポリエピクロルヒドリン;ポリフォスファゼン;ポリシロキサン;ポリビニルピロリドン、ポリビニリデンカーボネート、ポリアクリロニトリルなどのビニル系高分子化合物;ポリ(ω−メトキシオリゴオキシエチレンメタクリレート)、ポリ(ω−メトキシオリゴオキシエチレンメタクリレート−co−メチルメタクリレート)、ポリ(ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン)等のポリマー共重合体などが挙げられる。
【0091】
上述の非水系電解液は、更に被膜形成剤を含んでいても良い。被膜形成剤の具体例としては、ビニレンカーボネート、ビニルエチルカーボネート、メチルフェニルカーボネートなどのカーボネート化合物、エチレンサルファイド、プロピレンサルファイドなどのアルケンサルファイド;1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトンなどのスルトン化合物;マレイン酸無水物、コハク酸無水物などの酸無水物などが挙げられる。更に、ジフェニルエーテル、シクロヘキシルベンゼン等の過充電防止剤が添加されていても良い。上記添加剤を用いる場合、その含有量は通常10重量%以下、中でも8重量%以下、更には5重量%以下、特に2重量%以下の範囲が好ましい。上記添加剤の含有量が多過ぎると
、初期不可逆容量の増加や低温特性、レート特性の低下等、他の電池特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0092】
また、電解質として、リチウムイオン等のアルカリ金属カチオンの導電体である高分子固体電解質を用いることもできる。高分子固体電解質としては、前述のポリエーテル系高分子化合物にLiの塩を溶解させたものや、ポリエーテルの末端水酸基がアルコキシドに置換されているポリマーなどが挙げられる。
正極と負極との間には通常、電極間の短絡を防止するために、多孔膜や不織布などの多孔性のセパレータを介在させる。この場合、非水系電解液は、多孔性のセパレータに含浸させて用いる。セパレータの材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエーテルスルホンなどが用いられ、好ましくはポリオレフィンである。
【0093】
本発明のリチウムイオン二次電池の形態は特に制限されない。例としては、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ等が挙げられる。また、これらの形態の電池を任意の外装ケースに収めることにより、コイン型、円筒型、角型等の任意の形状にして用いることができる。
【0094】
本発明のリチウムイオン二次電池を組み立てる手順も特に制限されず、電池の構造に応じて適切な手順で組み立てればよいが、例を挙げると、外装ケース上に負極を乗せ、その上に電解液とセパレータを設け、更に負極と対向するように正極を乗せて、ガスケット、封口板と共にかしめて電池にすることができる。
【0095】
<電池の性能>
上述のように作製した電池は以下の様な性能を示すものである。
負荷逆容量は、通常、50mAh/g以下、好ましくは40mAh/g以下、より好ましくは35mAh/g以下である。負極密度が高すぎると、負極活物質の割れが生じて反応活性表面が増大し、負荷逆容量が増大する傾向がある。
【0096】
初回効率は、通常、60%以上、好ましくは80%以上下、より好ましくは85%以上である。初回効率が低すぎると、初回の不可逆容量が大きく、高容量電池に用いることができない傾向がある。なお、測定方法は実施例に記載の方法に準じる。
【実施例】
【0097】
次に実施例により本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
(測定方法)
(1)粒径d50
粒径の測定方法は、界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(例として、ツィーン20(登録商標))の0.2質量%水溶液10mLに、炭素材料0.01gを懸濁させ、市販のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「HORIBA製LA−920」に導入し、28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、測定装置における体積基準のメジアン径として測定したものを、本発明におけるd50と定義する。
【0098】
(2)BET比表面積(SA)
BET比表面積の測定方法は、例えば大倉理研社製比表面積測定装置「AMS8000」を用いて、窒素ガス吸着流通法によりBET1点法にて測定する。具体的には、試料(炭素材料)0.4gをセルに充填し、350℃に加熱して前処理を行った後、液体窒素温度まで冷却して、窒素30%、He70%のガスを飽和吸着させ、その後室温まで加熱して脱着したガス量を計測し、得られた結果から、通常のBET法により比表面積を算出し
た。
【0099】
(3)タップ密度
タップ密度は、粉体密度測定器である(株)セイシン企業社製「タップデンサーKYT−4000」を用い、直径1.6cm、体積容量20cmの円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して、炭素材料を落下させて、セルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを1000回行なって、その時の体積と試料の重量から求めた密度をタップ密度として定義する。
【0100】
(4)不可逆容量測定方法
非水系二次電池を用いて、下記の測定方法で電池充放電時の不可逆容量を測定した。
0.16mA/cmの電流密度でリチウム対極に対して5mVまで充電し、更に、5mVの一定電圧で充電容量値が350mAh/gになるまで充電し、負極中にリチウムを
ドープした後、0.33mA/cmの電流密度でリチウム対極に対して1.5Vまで放電を行なった。このときの充電容量(350mAh/g)と放電容量の比を100倍したものを初回効率として算出した。
【0101】
(i)電極シートの作製
本発明の有機酸のアルカリ金属塩が添着された炭素材料を負極材料として用い、活物質層密度1.70±0.03g/cmの活物質層を有する極板を作製した。具体的には、負極材料20.00±0.02gに、1質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩水溶液を20.00±0.02g(固形分換算で0.200g)、及び重量平均分子量27万のスチレン・ブタジエンゴム水性ディスパージョン0.50±0.05g(固形分換算で0.2g)を、キーエンス製ハイブリッドミキサーで5分間撹拌し、30秒脱泡してスラリーを得た。
【0102】
このスラリーを、集電体である厚さ18μmの銅箔上に、負極材料が14.5±0.3mg/cm付着するように、ドクターブレードを用いて幅5cmに塗布し、室温で風乾を行った。更に110℃で30分乾燥後、直径20cmのローラを用いてロールプレスして、活物質層の密度が1.70±0.03g/cmになるよう調整し電極シートを得た。
【0103】
(ii)非水電解液二次電池の作製
上記方法で作製した電極シートを直径12.5mmの円盤状に打ち抜き、リチウム金属箔を直径14mmの円板状に打ち抜き対極とした。両極の間には、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒(容量比=1:5:4)に、LiPFを1mol/Lになるように溶解させた電解液を含浸させたセパレータ(多孔性ポリエチレンフィルム製)を置き、2016コイン型電池をそれぞれ作製した。
【0104】
実施例1
前記測定法で測定した粒径d50、タップ密度、SAがそれぞれ、15.9μm、1.08g/cm、7.7m2/gである炭素材料(A)100gに、5%マレイン酸Li水溶液(マレイン酸:和光純薬1級 pK1=1.84、pK2=5.83)20gを添加し、ミキサーで20分攪拌した後、110℃、3時間、窒素雰囲気化で乾燥してサンプルを得た。このサンプルを大気中にて湿度60%の室内にて24時間保管した。前記測定法で粒径d50、SAを測定した。結果を表1に示す。前記測定法に従い、電池性能試験を行ったこの結果を表2に示す。
【0105】
比較例1
実施例1の核黒鉛に用いた炭素材料をそのまま用い、実施例1と同様の電池性能試験を
おこなった結果を表2に示す。
比較例2
実施例1の5%マレイン酸Li水溶液を5%コハク酸Li水溶液(コハク酸:和光純薬特級 pK1=3.99、pK2=5.20)に変えた以外は、実施例1と同様に行いサンプルを得た。これについて、実施例1と同様の測定をおこなった。この結果を表1、2に示す。
【0106】
比較例3
実施例1の5%マレイン酸Li水溶液を5%フマル酸Li酸水溶液(フマル酸:和光純
薬特級pK1=3.07、pK2=4.58)に変えた以外は、実施例1と同様に行いサンプルを得た。これについて、実施例1と同様の測定をおこなった。この結果を表1、2に示す。
【0107】
比較例4
前記測定法で測定した粒径d50、タップ密度、SAがそれぞれ、18.5μm、1.08g/cm、6.8m/gである炭素材料(A)の5%マレイン酸Li水溶液を5%マレイン酸水溶液に変更した以外は実施例2と同様に行いサンプルを得た。これについて、実施例1と同様の測定をおこなった。この結果を表1、2に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
以上から、実施例1で得られた有機酸のアルカリ金属塩(B)を添着させ処理を行った非水電解液二次電池用炭素材料(C)は、pKa≧5.6の有機酸のアルカリ金属塩(B)を添着していない比較例1、pKa≦5.6の有機酸を添着した比較例2、3と比較して初回効率が大きく向上した。また炭素材料(A)にpKa≧5.6の有機酸のみを添着した比較礼4と比較しても初回効率が大きく向上した。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の炭素材料は、非水系二次電池用の炭素材料として用いることにより、電解液との副反応、特にPC電解液との副反応を抑制し、含PC電解液中での初期効率の良好な非水系二次電池用負極材を提供することができる。また、当該材料の製造方法によれば、その工程数が少ない故、安定して効率的且つ安価に製造することができる。