特許第5691259号(P5691259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5691259
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20150312BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20150312BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   H01L29/78 652N
   H01L29/78 653A
   H01L29/78 652T
   H01L29/06 301G
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-141744(P2010-141744)
(22)【出願日】2010年6月22日
(65)【公開番号】特開2012-9502(P2012-9502A)
(43)【公開日】2012年1月12日
【審査請求日】2012年11月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 建策
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 巨裕
(72)【発明者】
【氏名】高谷 秀史
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】森本 淳
(72)【発明者】
【氏名】副島 成雅
(72)【発明者】
【氏名】石川 剛
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 行彦
【審査官】 杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−164541(JP,A)
【文献】 特開2007−288009(JP,A)
【文献】 特開2009−088385(JP,A)
【文献】 特開平06−151867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/06
H01L 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(1)と、前記基板(1)の表面に形成された第1導電型のドリフト層(2)と、前記ドリフト層(2)の表面に形成された第2導電型のベース層(3)とを有する半導体基板(4)に対して、半導体素子が備えられるセル領域と該セル領域を囲む外周耐圧構造を構成する外周領域とを形成することで構成される半導体装置であって、
前記ベース層は、前記セル領域から前記外周領域にわたって、底面が同一平面とされており、前記ベース層のうち前記セル領域よりも外側の前記外周領域に位置する部分において前記セル領域の部分と同じ不純物濃度かつ該セル領域の部分よりも厚さが薄くされた電界緩和層(3a)を構成しており、前記外周領域には、前記セル領域および前記電界緩和層(3a)を囲み、かつ、前記電界緩和層(3a)の表面から前記ドリフト層(2)に達する電界終端部(13)が備えられていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記電界終端部(13)は、前記電界緩和層(3a)の表面から前記ドリフト層(2)に達する溝部(14)と、前記溝部(14)内に配置された絶縁部材(15)によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記電界終端部(13)は、前記セル領域および前記電界緩和層(3a)を囲むように同心状に配置された複数の前記溝部(14)と、前記溝部(14)内に配置された複数の前記絶縁部材(15)によって構成されていることを特徴とする請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記電界終端部(13)は、前記電界緩和層(3a)の表面から前記ドリフト層(2)に達する第1導電型層(16)であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記外周領域には、前記ベース層(3)を表面から除去した凹部(12)が形成されることによってメサ構造が構成されており、
前記電界終端部(13)は、前記凹部(12)内に形成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項6】
前記外周領域には、前記ベース層(3)を表面から除去した凹部(12)が形成されることによってメサ構造が構成されており、
前記電界終端部(13)は、前記凹部(12)の外周に形成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項7】
前記凹部(12)における前記セル領域側の段差部から前記電界終端部(13)までの距離が1〜10000μmとされていることを特徴とする請求項5またはに記載の半導体装置。
【請求項8】
前記ベース層(3)および前記電界緩和層(3a)は、不純物濃度が1×1016〜2.5×1017cm-3であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素子が形成されたセル領域とセル領域を囲む外周耐圧構造が形成された外周領域とを有する半導体装置に関し、特に、トレンチゲート構造の縦型パワーMOSFETに適用して好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1や特許文献2において、縦型パワーMOSFETやダイオードなどの素子が形成されたセル領域の周囲を囲む外周耐圧構造が開示されている。図13は、特許文献1に示される従来の外周耐圧構造を示した断面図である。
【0003】
この図に示されるように、外周耐圧構造は、n型ドリフト層J1の表面にp型層J2が形成された半導体基板に対して形成された凹部J3からなるメサ構造と、メサ構造の側壁及び底面に形成されたp型の電界緩和層J4にて構成されている。メサ構造を構成する凹部J3は、p型層J2からn型ドリフト層J1に至る深さで構成されている。電界緩和層J4は、メサ構造の段差部において、p型層J2から凹部J3内におけるn型ドリフト層J1の表面に至る構造とされている。このような電界緩和層を形成することで等電位線が外周領域に向かって緩やかに伸び、電界集中が緩和されるため、耐圧向上を図ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−74524号公報
【特許文献2】特開2007−165604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1、2に開示された外周耐圧構造では、電界緩和層が形成された領域と接する場所に、材質が不連続となる不連続点や、電界緩和層が屈曲した構造となる屈曲部が存在している。例えば、特許文献1の構造の場合、図13に示した領域R1においてn型半導体とp型半導体という材質の不連続点が存在し、領域R2において電界緩和層の屈曲部が存在している。このため、これらの箇所に電界が集中し、耐圧低下の要因となる可能性がある。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、電界緩和層に接する場所に材質の不連続点が生じることを無くすと共に電界緩和層の屈曲部をなくし、より耐圧向上を図ることが可能な半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、第2導電型のベース層(3)の底面がセル領域から外周領域にわたって同一平面となるように構成することにより、
ベース層のうちセル領域よりも外側の外周領域に位置する部分においてセル領域の部分と同じ不純物濃度かつ該セル領域の部分よりも厚さが薄くされた電界緩和層(3a)を構成し、外周領域に、セル領域および電界緩和層(3a)を囲み、かつ、電界緩和層(3a)の表面からドリフト層(2)に達する電界終端部(13)を備えることを特徴としている。
【0008】
このように、底面が平坦なベース層(3)を用いて外周耐圧構造を構成するための電界緩和層(3a)を形成している。このため、電界緩和層(3a)に屈曲部が無い構造とすることができると共に、電界緩和層(3a)が接する半導体がドリフト層(2)しかないため、材質の不連続点が存在しないようにできる。これにより、半導体装置の耐圧をより向上させることが可能となる。
【0009】
例えば、請求項2に記載したように、電界終端部(13)を、電界緩和層(3a)の表面からドリフト層(2)に達する溝部(14)と、溝部(14)内に配置された絶縁部材(15)によって構成することができる。この場合、請求項3に記載したように、電界終端部(13)を、セル領域および電界緩和層(3a)を囲むように同心状に配置された複数の溝部(14)と、溝部(14)内に配置された複数の絶縁部材(15)によって構成することができる。
【0010】
また、請求項4に記載したように、電界終端部(13)を、電界緩和層(3a)の表面からドリフト層(2)に達する第1導電型層(16)とすることもできる。
【0011】
請求項5に記載したように、外周領域にベース層(3)を表面から除去した凹部(12)を形成することによってメサ構造を構成し、この凹部(12)内に電界終端部(13)を配置することができる。また、請求項6に記載したように、凹部(12)の外周に電界終端部(13)を形成しても良い。勿論、メサ構造を構成する凹部(12)を形成しなくても良い。
【0012】
請求項7に記載の発明では、凹部(12)におけるセル領域側の段差部から電界終端部(13)までの距離が1〜10000μmとされていることを特徴としている。
【0013】
メサ構造を構成する凹部(12)の段差部から電界終端部(13)までの距離は基本的には任意であるが、1μm以下とするとマスクずれなどを考慮すると形成が難しく、10000μm以上とするとチップサイズ増大が懸念されることから、1〜10000μmにすると好ましい。
【0014】
請求項8に記載の発明では、ベース層(3)および電界緩和層(3a)は、不純物濃度が1×1016〜2.5×1017cm-3であることを特徴としている。
【0015】
このように、電界緩和層(3a)の不純物濃度を1×1016〜2.5×1017cm-3とすることにより、1200V以上の高い耐圧を得ることが可能となる。
【0016】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態にかかる炭化珪素(以下、SiCという)半導体装置の断面図である。
図2】(a)は、シミュレーションモデルとして用いた本実施形態にかかるSiC半導体装置の断面図であり、(b)は、(a)に示したモデルのブレークダウン時における等電位線分布を示した図である。
図3】逆バイアス時のドレイン電圧に対するドレイン電流との関係を示した図である。
図4図2(a)に示したモデルのうちp型ベース3および電界緩和層3aの不純物濃度を変化させて耐圧との関係を調べた結果を示した図である。
図5】電界緩和層3aの厚みと耐圧の関係を調べた結果を示す図である。
図6図1に示すSiC半導体装置の製造工程を示した断面図である。
図7図6に続くSiC半導体装置の製造工程を示した断面図である。
図8図7に続くSiC半導体装置の製造工程を示した断面図である。
図9】本発明の第2実施形態にかかるSiC半導体装置の断面図である。
図10】本発明の第3実施形態にかかるSiC半導体装置の断面図である。
図11】本発明の第4実施形態にかかるSiC半導体装置の断面図である。
図12】本発明の第5実施形態にかかるSiC半導体装置の断面図である。
図13】従来の外周耐圧構造を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0019】
(第1実施形態)
本発明の一実施形態について説明する。本実施形態では、セル領域に半導体素子としてnチャネルタイプの縦型パワーMOSFETを形成したSiC半導体装置について説明する。図1は、本実施形態にかかるSiC半導体装置の断面図である。以下、この図に基づいて本実施形態のSiC半導体装置の構造について説明する。
【0020】
図1に示すように、SiC半導体装置は、縦型パワーMOSFETが形成されたセル領域と、セル領域を囲む外周耐圧構造が形成された外周領域を備えた構造とされている。図1ではSiC半導体装置におけるセル領域および外周領域の一部しか図示していないが、SiC半導体装置の中央部がセル領域とされ、セル領域を中心として外周領域が配置された構成とされている。
【0021】
SiC半導体装置は、例えば1×1019cm-3以上の不純物濃度とされたn+型基板(基板)1と、n+型基板1よりも低濃度、例えば1×1015〜5×1016cm-3の不純物濃度とされたn-型ドリフト層2と、例えば1×1016〜5×1018cm-3の不純物濃度とされたp型ベース層3とを有した半導体基板4を用いて形成されている。これらn+型基板1、n-型ドリフト層2およびp型ベース層3はすべてワイドギャップ半導体であるSiCによって構成されている。
【0022】
半導体基板4におけるセル領域には、n-型ドリフト層2よりも高濃度、例えば1×1018〜5×1020cm-3の不純物濃度とされたn+型ソース領域5が備えられている。また、半導体基板4の表面側には、n+型ソース領域5およびp型ベース層3を貫通してn-型ドリフト層2まで達するトレンチ6が形成されている。このトレンチ6の内壁面を覆うようにゲート絶縁膜7が形成されていると共に、このゲート絶縁膜7の表面にドープトPoly−Siによって構成されたゲート電極8が備えられている。そして、ゲート電極8を覆うように酸化膜などで構成された層間絶縁膜9が形成され、この層間絶縁膜9の上にソース電極10が形成されている。ソース電極10は、層間絶縁膜9に形成されたコンタクトホール9aを通じてn+型ソース領域5およびp型ベース層3に電気的に接続されている。
【0023】
さらに、セル領域を含めて半導体基板4の裏面側、つまりn+型基板1のうちn-型ドリフト層2とは反対側の面にドレイン電極11が形成されている。このような構成により、縦型パワーMOSFETが構成されている。そして、図1では縦型パワーMOSFETの1セル分しか図示していないが、図1に示した縦型パワーMOSFETのセルが複数セル集まってセル領域が構成されている。なお、ゲート電極8は、図1とは別断面において層間絶縁膜9に形成されたコンタクトホールを通じて外部との電気的接続が行えるようになっている。
【0024】
一方、外周領域についても、半導体基板4にはp型ベース層3が延設されている。p型ベース層3の底面は、セル領域から外周領域に至るまで平坦(同一平面)とされている。本実施形態では、このp型ベース層3のうち外周領域に位置する部分を電界緩和層3aとして機能させる。
【0025】
また、外周領域には、p型ベース層3を部分的に除去して形成した凹部12にて構成されるメサ構造が構成されている。このメサ構造を構成する凹部12は、p型ベース層3よりも浅い深さで形成されている。凹部12の下方に残されたp型ベース層3の厚みは、p型ベース層3の不純物濃度に応じて設定され、例えばp型ベース層3の不純物濃度が1×1017cm-3の場合には0.4μm以上の厚みとされる。
【0026】
さらに、メサ構造を構成する凹部12の底面内、具体的には凹部12によってp型ベース層3に形成されるセル領域側の段差部から1〜10000μm離間した位置に、セル領域および電界緩和層3aを囲むように電界終端部13が形成されている。この電界終端部13によって、電界緩和層3aが分断されている。
【0027】
本実施形態の場合、電界終端部13は、p型ベース層3を貫通してn-型ドリフト層2に達する溝部14と溝部14内に埋め込まれた絶縁部材15によって構成されている。ここではセル領域に形成されたゲート絶縁膜7および層間絶縁膜9が外周領域にも延設されており、これらゲート絶縁膜7や層間絶縁膜9の一部によって絶縁部材15が構成されている。本実施形態の電界終端部13は、例えば等間隔に複数備えられており、各電界終端部13がセル領域を同心状に囲む枠状とされている。
【0028】
なお、メサ構造を構成する凹部12の段差部から電界終端部13までの距離は基本的には任意であるが、1μm以下とするとマスクずれなどを考慮すると形成が難しく、10000μm以上とするとチップサイズ増大が懸念されることから、1〜10000μmにすると好ましい。
【0029】
このように、本実施形態のSiC半導体装置では、p型ベース層3を用いて外周耐圧構造を構成するための電界緩和層3aを形成している。このため、電界緩和層3aに屈曲部が無い構造とすることができると共に、電界緩和層3aが接する半導体がn-型ドリフト層2しかないため、材質の不連続点が存在しないようにできる。これにより、SiC半導体装置の耐圧をより向上させることが可能となる。
【0030】
図2および図3は、本実施形態にかかるSiC半導体装置の耐圧について調べたシミュレーション結果を示したものである。
【0031】
図2(a)は、シミュレーションモデルとして用いた本実施形態にかかるSiC半導体装置の断面図であり、図2(b)は、図2(a)に示したモデルのブレークダウン時における等電位線分布を示した図である。このシミュレーションでは、n-型ドリフト層2の不純物濃度を5×1015cm-3とし、p型ベース層3および電界緩和層3aの不純物濃度を1×1017cm-3としている。なお、図2(b)では等電位線を70V間隔で示してある。
【0032】
この図に示されるように、ブレークダウン時の等電位線は偏り無く広い範囲に広がっており、電界終端部13に至ると終端している。電界緩和層3aとn-型ドリフト層2とによって形成されるPN接合によって空乏層が形成され、この空乏層によって等電位線が外周領域側に広げられるため、等電位線が外周領域において偏り無く広い範囲に広がるのである。これは、電界が偏り無く発生しており、電界集中が発生していないことを表している。つまり、等電位分布に歪が発生していると、その箇所で電界集中が生じていることになるが、そのような歪がないことから電界集中が発生していないと言える。このシミュレーション結果からも、より耐圧向上が図れていると言うことができる。
【0033】
図3は、逆バイアス時のドレイン電圧に対するドレイン電流との関係を示した図である。この図に示されるように、ドレイン電圧が1900Vとなるまでドレイン電流が発生していない。このように、ドレイン電圧が1900Vという高い値となるまで耐圧を持たせることが可能となる。
【0034】
また、図4は、図2(a)に示したモデルのうちp型ベース3および電界緩和層3aの不純物濃度を変化させて耐圧との関係を調べた結果を示した図である。この図に示されるように、p型ベース層3および電界緩和層3aの不純物濃度に応じて耐圧が変化していることが分かる。そして、SiC半導体装置では、例えば1200V以上の耐圧を狙って設計が行われており、電界緩和層3aの不純物濃度が少なくとも1×1016cm-3以上あれば、耐圧を1200V以上とすることができる。
【0035】
ただし、電界緩和層3aが濃すぎると、耐圧が再び低下する。上述したように、電界緩和層3aとn-型ドリフト層2とによるPN接合によって空乏層が形成されるために等電位線が図2(b)に示すように広がるのであるが、電界緩和層3aが濃すぎると、電界緩和層3a内に伸びる空乏層の幅が狭くなり過ぎ、逆に耐圧が低下してくるためである。この電界緩和層3aの不純物濃度の上限値を確認したところ、2.5×1017cm-3であった。したがって、電界緩和層3aの不純物濃度を1×1016〜2.5×1017cm-3とすることにより、1200V以上の高い耐圧を得ることが可能となる。
【0036】
図5は、電界緩和層3aの厚みと耐圧の関係を調べた結果を示す図である。このシミュレーションでも、p型ベース層3および電界緩和層3aの不純物濃度を1×1017cm-3としている。
【0037】
上記図4に示したように、基本的には電界緩和層3aの不純物濃度によって耐圧を設計することができるが、電界緩和層3aの厚みが薄すぎると、所望の耐圧が得られなくなることがある。これは、電界緩和層3aに含まれる不純物の総量も耐圧に依存しているためと考えられる。このため、図5に示すように、電界緩和層3aの厚さが薄くなると耐圧が低下していき、例えば、p型ベース層3および電界緩和層3aの不純物濃度を1×1017cm-3とした場合には、電界緩和層3aの厚みが0.4μmになると耐圧が1200Vとなった。したがって、例えば、p型ベース層3および電界緩和層3aの不純物濃度を1×1017cm-3とする場合には、電界緩和層3aの厚みを0.4μm以上に設計することで所望の耐圧を得ることが可能となる。
【0038】
なお、ここでは1200V以上の耐圧を得ることを前提として電界緩和層3aの不純物濃度や厚みについて述べたが、要求される耐圧設計は様々であり、それに応じて電界緩和層3aの不純物濃度や厚みを設計すればよい。
【0039】
次に、上記のように構成されるSiC半導体装置の製造方法について説明する。図6図8は、図1に示すSiC半導体装置の製造工程を示した断面図である。
【0040】
図6(a)に示す工程〕
まず、例えば1×1019cm-3以上の不純物濃度とされたn+型基板1の表面上に、例えば1×1015〜5×1016cm-3の不純物濃度とされたn-型ドリフト層2と、例えば1×1016〜5×1018cm-3の不純物濃度とされたp型ベース層3とが順に積層された半導体基板4を用意する。n-型ドリフト層2およびp型ベース層3は、例えばn+型基板1の表面へのエピタキシャル成長によって形成することができる。また、半導体基板4の裏面にドレイン電極11を形成しておく。
【0041】
図6(b)に示す工程〕
p型ベース層3の表面にLTO(Low temperature Oxidation)等で構成された図示しないマスクを配置したのち、フォトリソグラフィ工程によってマスクのうちメサ構造を構成するための凹部12の形成予定領域を開口させる。そして、マスク上からRIE(Reactive Ion Etching)等によるエッチングを行い、凹部12を形成する。この後、マスクを除去する。
【0042】
図7(a)に示す工程〕
再びLTO等で構成された図示しないマスクを配置したのち、フォトリソグラフィ工程によってマスクのうち電界終端部13の形成予定領域を開口させる。そして、マスク上からRIE等によるエッチングを行い、凹部12内に溝部14を形成する。この後、マスクを除去する。
【0043】
図7(b)に示す工程〕
さらに、n+型ソース領域5の形成予定領域が開口したイオン注入用のマスクを配置したのち、例えば窒素等のn型不純物のイオン注入および活性化熱処理を行うことにより、セル領域におけるp型ベース層3の表層部の所定領域にn+型ソース領域5を形成する。そして、マスクを除去したのち、今度はトレンチ6の形成予定領域が開口するマスクを配置し、そのマスクを用いたエッチングを行うことにより、トレンチ6を形成する。その後、マスクを除去し、ゲート酸化等により、ゲート絶縁膜7を形成する。このとき、セル領域だけでなく外周領域も絶縁膜が形成されることになり、溝部14内に絶縁部材15の一部が形成される。
【0044】
図8(a)に示す工程〕
セル領域および外周領域全域にドープトPoly−Siを成膜したのち、エッチバックもしくは所望マスクを用いてパターニングすることで、ゲート電極8を形成する。続いて、セル領域および外周領域全域にLTO等の層間絶縁膜9をデポジションする。これにより、溝部14内が完全に埋め込まれる。したがって、絶縁部材15も構成され、電界終端部13が形成される。
【0045】
図8(b)に示す工程〕
層間絶縁膜9の表面にコンタクトホール9a等の形成予定領域が開口するマスクを配置したのち、このマスクを用いて層間絶縁膜9をパターニングし、コンタクトホール9a等を形成する。
【0046】
その後、層間絶縁膜9の表面にソース電極10を形成する。これにより、コンタクトホール9a内にもソース電極10が埋め込まれ、ソース電極10がn+型ソース領域5およびp型ベース層3と電気的に接続される。これにより、本実施形態にかかるSiC半導体装置を形成することができる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態のSiC半導体装置によれば、p型ベース層3を用いて外周耐圧構造を構成するための電界緩和層3aを形成している。このため、電界緩和層3aに屈曲部が無い構造とすることができると共に、電界緩和層3aが接する半導体がn-型ドリフト層2しかないため、材質の不連続点が存在しないようにできる。これにより、SiC半導体装置の耐圧をより向上させることが可能となる。
【0048】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して電界終端部13の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0049】
図9は、本実施形態にかかるSiC半導体装置の断面図である。この図に示されるように、本実施形態では、溝部14および絶縁部材15が1つのみ備えられた構造となっている。つまり、1つの枠状の溝部14および絶縁部材15によって電界終端部13を構成している。このように、電界終端部13を構成する溝部14および絶縁部材15は一本だけでも良く、複数本備えられていなくても良い。
【0050】
なお、このような構造のSiC半導体装置の製造方法は第1実施形態とほぼ同様であり、上述した図7(a)の工程の際の溝部14の形成時、マスクパターンを変更して溝部14が1つのみ形成されるようにする点のみ変更すれば良い。
【0051】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態も、第1実施形態に対して電界終端部13の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0052】
図10は、本実施形態にかかるSiC半導体装置の断面構成を示した図である。この図に示されるように、本実施形態では、電界終端部13を第1実施形態のような溝部14および絶縁部材15によって構成するのではなく、n+型層16によって構成している。n+型層16は、例えば、メサ構造を構成する凹部12を形成したのち、n型不純物をイオン注入し、さらにこれを活性化熱処理することで形成される。
【0053】
このように、電界緩和層3aと導電型が異なるn+型層16によって電界終端部13を構成しても良い。
【0054】
なお、このような構造のSiC半導体装置の製造方法も第1実施形態とほぼ同様であるが、溝部14の形成工程に代えて、n+型層16の形成工程を行う点を変更する必要がある。n+型層16の形成工程については、凹部12を形成した後に、n+型層16の形成予定領域が開口するマスクを用いたn型不純物のイオン注入および活性化熱処理工程を行えば済むが、n+型ソース領域5の形成工程と同時に行うことで、製造工程の簡略化を図ることが可能となる。
【0055】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して電界終端部13の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0056】
図11は、本実施形態にかかるSiC半導体装置の断面構成を示した図である。この図に示されるように、本実施形態では、メサ構造を構成する凹部12が外周領域全域ではなく、外周領域の最外周に至る前までとし、凹部12よりもさらに外周側に電界終端部13が配置される構造としている。
【0057】
このように、電界終端部13がメサ構造を構成する凹部12の外側に配置されていても構わない。
【0058】
このような構造のSiC半導体装置の製造方法も第1実施形態とほぼ同様であるが、溝部14の形成工程が第1実施形態と異なっている。すなわち、第1実施形態では、メサ構造を構成する凹部12を形成した次の工程で溝部14を形成したが、溝部14の形成工程をトレンチ6の形成工程と同時に行うようにし、ゲート絶縁膜7の形成工程や層間絶縁膜9の形成工程の際に、溝部14内にこれら絶縁膜が配置されるようにすればよい。なお、ゲート電極8を形成する際のドープトPoly−Siを成膜したときに、溝部14内がドープトPoly−Siで埋め込まれることになるが、ドープトPoly−Siをパターニングする際に溝部14内のドープトPoly−Siが除去されるようにしている。
【0059】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態について説明する。本実施形態は、第4実施形態に対して電界終端部13の構成を変更したものであり、その他に関しては第4実施形態と同様であるため、第4実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0060】
図12は、本実施形態にかかるSiC半導体装置の断面構成を示した図である。この図に本実施形態では、メサ構造を構成する凹部12の外側に配置された溝部14内がセル領域のトレンチゲートと同じ構造とされている。つまり、溝部14内をゲート絶縁膜7とポリシリコン17によって埋め込んだ構造としている。
【0061】
このように、電界終端部13がメサ構造を構成する凹部12の外周に配置されるようにしつつ、電界終端部13をセル領域に備えられるトレンチゲートと同じ構造とすることも可能である。
【0062】
なお、このような構造のSiC半導体装置の製造方法は第4実施形態とほぼ同様である。ただし、第4実施形態では、ゲート電極8を形成する際に溝部14内に形成されるドープトPoly−Siを除去してしまっているが、これを除去せずに残すようにすれば良い。
【0063】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、セル領域に備えられる半導体素子として縦型パワーMOSFETを例に挙げて説明したが、p型ベース領域3が備えられる構造のものであれば、他の構造の半導体素子であっても良い。例えば、n+型基板1の導電型をp型に反転させたIGBTや、p型ベース領域3をアノード、n-型ドリフト層2およびn+型基板1をカソードとするPNダイオード等に関しても、本発明を適用することができる。
【0064】
また、上記各実施形態では、メサ構造を構成する凹部12を形成したが、凹部12を形成しない構造の半導体装置とすることもできる。
【0065】
また、上記各実施形態では、第1導電型がn型、第2導電型がp型となるSiC半導体装置について説明したが、各構成要素の導電型が反転させたSiC半導体装置に対しても、本発明を適用することができる。
【0066】
また、上記各実施形態では半導体装置の一例としてワイドバンドギャップ半導体であるSiCを例に挙げて説明したが、他の半導体に適用することもできる。特に、高耐圧が期待できるワイドバンドギャップ半導体に適用すると好ましく、例えばGaNやダイヤモンド等に対しても本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 n+型基板
2 n-型ドリフト層
3 p型ベース層
3a 電界緩和層
4 半導体基板
5 n+型ソース領域
6 トレンチ
7 ゲート絶縁膜
8 ゲート電極
9 層間絶縁膜
9a コンタクトホール
10 ソース電極
11 ドレイン電極
12 凹部
13 電界終端部
14 溝部
15 絶縁部材
16 n+型層
17 ドープトPoly−Si
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
図11
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図13