特許第5691317号(P5691317)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5691317-タイヤ 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5691317
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 5/14 20060101AFI20150312BHJP
   B29D 30/06 20060101ALN20150312BHJP
【FI】
   B60C5/14 Z
   B60C5/14 A
   !B29D30/06
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-201920(P2010-201920)
(22)【出願日】2010年9月9日
(65)【公開番号】特開2012-56454(P2012-56454A)
(43)【公開日】2012年3月22日
【審査請求日】2013年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100105706
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 浩二
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 峻
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−241855(JP,A)
【文献】 特開平04−247933(JP,A)
【文献】 特開平08−258506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/00
B60C 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分中にエラストマー成分が分散した熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムの片面または両面にゴム層が積層されてなる積層体をインナーライナーとして使用したタイヤであって、インナーライナーの継ぎ目がスプライスシートで被覆され、スプライスシートの100%モジュラスMsとゴム層の100%モジュラスMgの比aが1.0超3.0以下であり、スプライスシートの厚さt(mm)が0.2超2.0以下であり、aとtの積が0.3超4.5以下であることを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
MsとMgの比aが1.1〜2.8であり、厚さt(mm)が0.3〜1.5であり、aとtの積が0.5〜4.0であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
スプライスシートにより被覆されるタイヤ周方向の長さが継ぎ目の両側それぞれ10mm以上であり、スプライスシートのタイヤ周方向の長さが100mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項4】
スプライスシートを構成するゴム成分のポリマー組成がゴム層を構成するゴム成分のポリマー組成と同一であり、スプライスシートとゴム層との室温での剥離力が20N/25mm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項5】
熱可塑性樹脂が、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項6】
熱可塑性樹脂が、エチレン−ビニルアルコール共重合体と、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれる少なくとも1種のナイロン成分とを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項7】
エラストマー成分が、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、および無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムとゴムの積層体をインナーライナーに用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの内面に配したインナーライナーの継ぎ目を補強するために、従来より、その継ぎ目をスプライスシートで被覆することが行われている。たとえば、特許文献1は、厚みが0.2mm以下であり、かつ厚みa(mm)と加硫前の200%モジュラスm(kgf/cm)の積a・mが2.5〜15であるスプライスシートを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−247933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂フィルムとゴムの積層体をインナーライナーに用いた場合、樹脂フィルムとゴムの界面が剥離して、スプライス故障が起こりやすく、従来品のスプライスシートで被覆しても、十分に剥離を抑制することができないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、樹脂フィルムとゴムの界面の剥離が、樹脂フィルムとゴムの弾性率差が大きいために、樹脂フィルムとゴムの界面に応力集中が起こることに起因することを見出し、本発明に至った。
【0006】
本発明のタイヤは、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分中にエラストマー成分が分散した熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムの片面または両面にゴム層が積層されてなる積層体をインナーライナーとして使用したタイヤであって、インナーライナーの継ぎ目がスプライスシートで被覆され、スプライスシートの100%モジュラスMsとゴム層の100%モジュラスMgの比aが1.0超3.0以下であり、スプライスシートの厚さt(mm)が0.2超2.0以下であり、aとtの積が0.3超4.5以下であることを特徴とする。
【0007】
好ましくは、MsとMgの比aが1.1〜2.8であり、厚さt(mm)が0.3〜1.5であり、aとtの積が0.5〜4.0である。
好ましくは、スプライスシートにより被覆されるタイヤ周方向の長さが継ぎ目の両側それぞれ10mm以上であり、スプライスシートのタイヤ周方向の長さが100mm以下である。
好ましくは、スプライスシートを構成するゴム成分のポリマー組成がゴム層を構成するゴム成分のポリマー組成と同一であり、スプライスシートとゴム層との室温での剥離力が20N/25mm以上である。
【0008】
好ましくは、熱可塑性樹脂が、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
好ましくは、熱可塑性樹脂が、エチレン−ビニルアルコール共重合体と、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれる少なくとも1種のナイロン成分とを含む。
好ましくは、エラストマー成分が、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、および無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0009】
熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムとゴム層の積層体からなるインナーライナーの継ぎ目を、そのゴム層よりもモジュラスが高くかつ特定の厚さのスプライスシートで被覆したことにより、フィルムとゴムの界面にかかる負荷が小さくなり、界面剥離を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、インナーライナーの継ぎ目の一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
積層体をインナーライナーとして使用してタイヤを製造するときは、通常、タイヤ成形用ドラムの上に、インナーライナー用の積層体を巻きつけ、その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、成形後、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとし、次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫する。
【0012】
タイヤ成形用ドラムの上にインナーライナー用の積層体を巻きつけたとき、巻きつけ始端部と巻きつけ終端部の接合部が形成されるが、それがインナーライナーの継ぎ目となる。本発明では、その継ぎ目をスプライトシートで被覆する。
【0013】
図1は、インナーライナーの継ぎ目の一例の断面図である。インナーライナー1は、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルム2の両面にゴム層3,4が積層されてなる積層体5からなる。積層体5の巻きつけ始端部11と巻きつけ終端部12は重ね合わされ、インナーライナーの継ぎ目13を形成している。継ぎ目13はスプライトシート6で被覆されている。
タイヤを使用すると、インナーライナー1はタイヤの周方向に伸ばされ、インナーライナーの継ぎ目13には左右に引き離されるように力が加わり、フィルム2とゴム層3,4とは弾性率差が大きいために、フィルム2とゴム層3,4の界面に応力集中が起こり、フィルム2とゴム層3,4の界面が剥離しやすい。たとえば、14が剥離起点となって、フィルム2とゴム層4の界面が剥離する。
【0014】
本発明は、スプライスシート6として、ゴム層3,4よりもモジュラスが高くかつ特定の厚さのシートを用いることにより、フィルム2とゴム層3,4の界面の剥離を抑制するものである。
【0015】
本発明においては、スプライスシートの100%モジュラスMsとゴム層の100%モジュラスMgの比aが1.0超3.0以下であるようなスプライスシートを使用する。すなわち、スプライスシートの100%モジュラスMsは、ゴム層の100%モジュラスMgよりも大きく、ゴム層の100%モジュラスMgの3倍以下でなければならない。MsとMgの比aは、好ましくは、1.1〜2.8である。比aが小さすぎると界面剥離を抑制する効果が小さく、逆に大きすぎるとスプライスシートとゴム層の弾性率差が大きく、両者の界面で剥離しやすくなる。
【0016】
フィルム2の両面にゴム層3,4が積層されてなる積層体5を用いる場合には、MsとMgの比aは、いずれのゴム層に対しても、前記の数値範囲に入る必要がある。すなわち、ゴム層3の100%モジュラスをMgで表し、ゴム層4の100%モジュラスをMgで表すと、スプライスシートの100%モジュラスMsは次の両方の式を満足する必要がある。
1.0<Ms/Mg≦3.0
1.0<Ms/Mg≦3.0
【0017】
100%モジュラスは次のように測定する。
JIS K6251に基づき引張試験を行い、応力−歪曲線から100%歪を与える弾性率を求める。
【0018】
本発明においては、厚さが0.2mmよりも大きく、2.0mm以下のスプライスシートを使用する。すなわち、本発明において使用するスプライスシートの厚さは、0.2mm超2.0mm以下であり、好ましくは0.3〜1.5mmである。スプライスシートの厚さが薄すぎるとフィルムとゴム層の界面剥離を抑制する効果が小さく、逆に厚すぎるとタイヤの重量や剛性が局所的に大きくなり、均一なタイヤとならない。
【0019】
また、スプライスシートの100%モジュラスMsとゴム層の100%モジュラスMgの比(Ms/Mg)をaで表し、mm単位で表したスプライスシートの厚さをtとすれば、aとtの積は0.3超4.5以下である必要がある。好ましくは、aとtの積は0.5〜4.0である。aとtの積が小さすぎると界面剥離を抑制する効果が小さく、逆に大きすぎると界面剥離を抑制する効果が小さく、タイヤの重量や剛性が局所的に大きくなり、均一なタイヤとならない。aが大きい場合は、tは小さくても剥離を抑制する効果があり、aが小さい場合にはtが大きくなければ剥離を抑制する効果が得られない。
【0020】
スプライスシートにより被覆されるタイヤ周方向の長さは、継ぎ目の両側それぞれ10mm以上であり、スプライスシートのタイヤ周方向の長さは100mm以下であることが好ましい。すなわち、図1において、LおよびLはいずれも10mm以上であり、L+Lは100mm以下であることが好ましい。より好ましくは、Lは10〜30mmであり、Lは10〜30mmである。LおよびLが小さすぎるとスプライス部を被覆する面積が小さくなり、結果的に界面剥離を抑制する効果が小さくなる。また、逆に大きすぎるとタイヤ重量が大きくなり、自動車燃費が悪化してしまう。
【0021】
スプライスシートを構成するゴム成分のポリマー組成は、インナーライナーのゴム層との接着性の観点から、ゴム層を構成するゴム成分のポリマー組成と同一であることが好ましい。ゴム成分の具体的なポリマー組成については、後述する。
【0022】
加硫後のスプライスシートとゴム層との室温での剥離力は、20N/25mm以上であることが好ましく、30N/25mm以上であることがより好ましい。剥離力が小さすぎるとインナーライナーのゴム層とスプライスシートの界面で剥離が生じやすくなる。
【0023】
加硫後のスプライスシートとゴム層との室温での剥離力は、加硫後のタイヤから、スプライスシートで被覆した部分の試料を切り出し、幅25mmに切断し、その短冊状試験片の剥離強度を、JIS−K6256に従い、測定する。
【0024】
スプライスシートは、高モジュラスの単一のゴム層からなるシートであってもよいし、接着層と高剛性の裏打層の積層シートであってもよい。
【0025】
スプライスシートが単一のゴム層からなるシートである場合、スプライスシートを構成するゴム成分(ポリマー組成)としては、ジエン系ゴムおよびその水添物、オレフィン系ゴム、含ハロゲンゴム、シリコーンゴム、含イオウゴム、フッ素ゴム等を挙げることができる。ジエン系ゴムおよびその水添物としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)(高シスBRおよび低シスBR)、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR等が挙げられる。オレフィン系ゴムとしては、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体(変性EEA)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー等が挙げられる。含ハロゲンゴムとしては、臭素化ブチルゴム(Br−IIR)や塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)等のハロゲン化ブチルゴム、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体(BIMS)、ハロゲン化イソブチレン−イソプレン共重合ゴム、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM)等が挙げられる。シリコーンゴムとしては、メチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム等が挙げられる。含イオウゴムとしては、ポリスルフィドゴム等が挙げられる。フッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコーン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム等が挙げられる。なかでも、インナーライナーのゴム層との接着性の観点から、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、含ハロゲンゴムが好ましく、より好ましくは、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、臭素化ブチルゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴムである。ゴム成分は、2種以上のゴム成分の混合物であってもよい。
【0026】
スプライスシートを構成するゴム組成物は、ゴム成分以外に、補強剤(フィラー)、加硫剤(架橋剤)、加硫促進助剤、加硫促進剤、スコーチ防止剤、老化防止剤、素練促進剤、有機改質剤、軟化剤、可塑剤、粘着付与剤など、一般にタイヤの製造において使用される各種添加剤を含むことができる。
【0027】
スプライスシートが単一のゴム層からなるシートである場合、スプライスシートの100%モジュラスMsは、ゴム層を構成する成分、たとえばフィラー、架橋剤、ゴム成分、の選択により、制御することができる。具体的には、フィラーとして使用するカーボンブラックの粒径を小さくすると100%モジュラスは上がり、逆に使用するカーボンブラックの粒径を大きくすると100%モジュラスは下がる。また、架橋剤としての硫黄の量を調整することによって、または加硫促進剤の種類を選択することによって、架橋密度を上げれば、100%モジュラスは上がる。
【0028】
スプライスシートが接着層と裏打層の積層シートである場合、接着層を構成する材料としては、ゴム成分に粘着付与剤を配合した組成物を使用することができる。接着層を構成するゴム成分としては、前記のスプライスシートが単一のゴム層からなるシートである場合におけるそのゴム層を構成するゴム成分と同一のものを使用することができるが、なかでも、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、含ハロゲンゴムが好ましい。粘着付与剤としては、天然樹脂系粘着付与剤、合成樹脂系粘着付与剤およびオリゴマー系粘着付与剤があり、天然樹脂系粘着付与剤としては、クロマン・インデン系樹脂、テルペン系樹脂、ロジン誘導体等が挙げられ、合成樹脂系粘着付与剤としては、アルキルフェノール・アセチレン系樹脂、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド系樹脂、石油樹脂、キシレン・ホルムアルデヒド系樹脂等が挙げられ、オリゴマー系粘着付与剤としては、ポリブテン等が挙げられるが、なかでもテルペン系樹脂、アルキルフェノール・アセチレン系樹脂、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド系樹脂が好ましい。裏打層としては、樹脂を主成分とするフィルムや、繊維を使用することができる。繊維は、引き揃えた繊維であってもよいし、織物であってもよいし、不織布であってもよい。裏打層の表面は離型性を有することが好ましい。離型性は、たとえば、離型剤を塗布することにより、付与することができる。
【0029】
スプライスシートが接着層と裏打層の積層シートである場合に、スプライスシートの100%モジュラスMsを高くするには、高剛性の裏打層を選択すればよい。
【0030】
インナーライナーとして使用する積層体を構成するフィルムは、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなる。
【0031】
熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂(たとえばナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)など)、ポリエステル系樹脂(たとえばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)など)、ポリニトリル系樹脂(たとえばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタアクリロニトリルなど)、ポリメタアクリレート系樹脂(たとえばポリメタアクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタアクリル酸エチルなど)、ポリビニル系樹脂(たとえば酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PDVC)、ポリ塩化ビニル(PVC)など)、セルロース系樹脂(たとえば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース)、フッ素系樹脂(たとえばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)など)、イミド系樹脂(たとえば芳香族ポリイミド(PI))などを挙げることができる。
なかでも、好ましい熱可塑性樹脂は、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
より好ましくは、熱可塑性樹脂は、エチレン−ビニルアルコール共重合体と、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれる少なくとも1種のナイロン成分との混合物である。
【0032】
本発明において、熱可塑性エラストマー組成物とは、熱可塑性樹脂成分中にエラストマー成分が分散したものをいう。熱可塑性エラストマー組成物中において、熱可塑性樹脂成分がマトリックス相を構成し、エラストマー成分が分散相を構成している。
【0033】
熱可塑性エラストマー組成物を構成する熱可塑性樹脂成分としては、前記の熱可塑性樹脂と同一のものを挙げることができる。
【0034】
熱可塑性エラストマー組成物を構成するエラストマー成分としては、ジエン系ゴムおよびその水添物(たとえば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)など)、オレフィン系ゴム(たとえば、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、ブチルゴム(IIR)など)、アクリルゴム(ACM)、含ハロゲンゴム(たとえば、Br−IIR、Cl−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)など)、シリコーンゴム(たとえば、メチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴムなど)、含イオウゴム(たとえば、ポリスルフィドゴム)、フッ素ゴム(たとえば、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム)、熱可塑性エラストマー(たとえば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、酸変性オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー)などを挙げることができる。
なかでも、好ましいエラストマー成分は、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、および無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0035】
熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分とを、たとえば2軸混練押出機等で、溶融混練し、連続相(マトリックス相)を形成する熱可塑性樹脂成分中にエラストマー成分を分散相として分散させることにより、製造することができる。熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分の質量比率は、限定するものではないが、好ましくは10/90〜90/10であり、より好ましくは15/85〜90/10である。
【0036】
熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、各種添加剤を含むことができる。
【0037】
熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムとゴム層との積層体は、圧延したゴムシートにフィルムを貼り合わせることにより、製造することができる。
【実施例】
【0038】
(1)熱可塑性エラストマー組成物フィルムの作製
100質量部のナイロン6/66(宇部興産株式会社製「UBEナイロン」5033B)を2質量部のp−sec−ブチルフェニルグリシジルエーテルで変性することにより得られた変性ナイロン20質量部、エチレン−ビニルアルコール共重合体(日本合成化学工業株式会社製「ソアノール」(登録商標)A4415、以下「EVOH」と略す。)30質量部、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体(三井化学株式会社製「タフマー」(登録商標)MP0620、以下「変性EP」と略す。)50質量部を、2軸混練機(日本製鋼所製)に投入し、混練機温度220℃で溶融ブレンドした後、押出機から連続してストランド状に排出し、水冷後カッターで切断することによりペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物を、インフレーション成形装置にてチューブ状に押し出し、厚さ60μmの熱可塑性エラストマー組成物のフィルムを作製した。
【0039】
(2)ゴムシートの作製
天然ゴム(NUSIRA社製SIR20)50質量部、スチレンブタジエンゴム−1(日本ゼオン株式会社製「NIPOL」(登録商標)1502)30質量部、スチレンブタジエンゴム−2(旭化成ケミカルズ株式会社製「タフデン」(登録商標)1000)20質量部、カーボンブラック(三菱化学株式会社製「ダイアブラック」(登録商標)E、平均粒径48μm)60質量部、酸化亜鉛(正同化学工業株式会社製亜鉛華3種)3質量部、ステアリン酸(日油株式会社製ビーズステアリン酸)0.5質量部、粘着剤−1(田岡化学工業株式会社製「スミカノール」610)5質量部、粘着剤−2(BARA CHEMICAL社製「スミカノール」507A)5質量部、硫黄(細井化学工業株式会社製油処理イオウ)1質量部、および加硫促進剤−1(大内新興化学株式会社製「ノクセラー」CZ−G)1質量部をバンバリーミキサー(神戸製鋼所製)に投入し、130℃で3分間混合し、ゴム組成物を得た。得られたゴム組成物を圧延し、厚さ0.5mmのゴムシートを作製した。
【0040】
(3)積層体の作製
上記(1)で作製した熱可塑性エラストマー組成物フィルムの両面に、上記(2)で作製したゴムシートを貼り合わせ、積層体を作製した。
【0041】
(4)スプライスシートの作製
天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、カーボンブラック、酸化亜鉛、ステアリン酸、粘着剤、硫黄、および加硫促進剤を、表1に示す配合比率でバンバリーミキサー(神戸製鋼所製)に投入し、130℃で3分間混合した。混練物をストランド状に押出し、水冷した後、防着剤を通して樹脂用ペレタイザーでペレット化し、ゴム組成物を得た。得られたゴム組成物を圧延し、表1に示す厚さのスプライスシートを作製した。
なお、スプライスシートの作製に使用した原料は、カーボンブラック、加硫促進剤以外は、上記(2)のゴムシートの作製に使用した原料と同一のものである。カーボンブラック−1は三菱化学株式会社製「ダイアブラック」(登録商標)A(平均粒径19μm)、カーボンブラック−2は三菱化学株式会社製「ダイアブラック」(登録商標)H(平均粒径31μm)、カーボンブラック−3は三菱化学株式会社製「ダイアブラック」(登録商標)E(平均粒径48μm)、カーボンブラック−4は三菱化学株式会社製「ダイアブラック」(登録商標)G(平均粒径80μm)、加硫促進剤−2は大内新興化学株式会社製「ノクセラー」NS−Pである。
【0042】
(5)タイヤの作製
タイヤ成形用ドラムの上に、上記(3)で作製した積層体を巻きつけ、その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、成形後、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとし、インナーライナーの継ぎ目を、上記(4)で作製したスプライスシートで被覆し(L1=15mm,L2=15mm)、次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫し、タイヤを作製した。
【0043】
(6)評価
上記(2)で作製したゴムシートの100%モジュラスMgおよび上記(4)で作製したスプライスシートの100%モジュラスMsを測定し、Ms/Mgの比aを算出した。
また、上記(5)で作製したタイヤについて、スプライスシートとゴム層との室温での剥離力(加硫後)を測定した。また、タイヤをリム15×6JJに組み込み、内圧200kPaとして、排気量1800ccのFF乗用車に装着し、実路上を30,000km走行した。その後、タイヤをリムから外し、タイヤの内面に配置された積層体のスプライス部を観察し、剥離の有無を判定した。30本のタイヤについて試験し、インナーライナーの継ぎ目において積層体のフィルムとゴムの界面に剥離が観察されたものの本数を、スプライス故障発生個数とする。
評価結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
比較例1は、積層体のゴム層を構成するゴム組成物と同一組成のゴム組成物で作製したスプライスシートを使用したものである。室内耐久試験の走行距離延長試験で、スプライス故障の発生が観察された。
実施例1は、比較例1のカーボンブラック−3(平均粒径48μm)を平均粒径31μmのカーボンブラック−2に変更したものである。室内耐久試験の走行距離延長試験でスプライス故障の発生は観察されなかった。
比較例2は、比較例1のカーボンブラック−3(平均粒径48μm)を平均粒径19μmのカーボンブラック−1に変更したものである。aとtの積が本発明に規定する範囲を外れており、室内耐久試験の走行距離延長試験で、30本中2本のスプライス故障が発生した。
比較例3は、比較例1のカーボンブラック−3(平均粒径48μm)を平均粒径80μmのカーボンブラック−4に変更したものである。比aおよびaとtの積が本発明に規定する範囲を外れており、室内耐久試験の走行距離延長試験で、30本中2本のスプライス故障が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のタイヤは、自動車、航空機等のタイヤとして好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 インナーライナー
2 フィルム
3 ゴム層
4 ゴム層
5 積層体
6 スプライトシート
11 巻きつけ始端部
12 巻きつけ終端部
13 継ぎ目
14 剥離起点
図1