特許第5691682号(P5691682)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5691682
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】タイヤトレッド用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/06 20060101AFI20150312BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20150312BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20150312BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20150312BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20150312BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20150312BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20150312BHJP
   C08F 236/10 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   C08L9/06
   C08L9/00
   C08L7/00
   C08K3/36
   C08K3/04
   C08K5/54
   B60C1/00 A
   C08F236/10
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-53845(P2011-53845)
(22)【出願日】2011年3月11日
(65)【公開番号】特開2012-188563(P2012-188563A)
(43)【公開日】2012年10月4日
【審査請求日】2014年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 裕記
【審査官】 上前 明梨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−022288(JP,A)
【文献】 特開2009−275178(JP,A)
【文献】 特開2006−152200(JP,A)
【文献】 特開2010−270207(JP,A)
【文献】 特開2009−114427(JP,A)
【文献】 特開2011−246561(JP,A)
【文献】 特開2009−197118(JP,A)
【文献】 特開2010−285511(JP,A)
【文献】 特開平04−073073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/00
C08C 19/00−19/44
C08F 6/00−246/00
C09F 301/00
B60C 1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能基がヒドロキシル基、アルコキシリル基、エポキシ基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基から選ばれる少なくとも1種である変性溶液重合スチレンブタジエンゴムを60〜90重量%、ブタジエンゴムを5〜30重量%、天然ゴム又はポリイソプレンゴムを5〜30重量%含むジエン系ゴム100重量部に対し、カーボンブラック及びシリカからなるフィラーを配合し、該フィラーの総量が55重量部以上80重量部以下かつ該フィラー総量に占めるシリカの割合を60〜90重量%になるようにすると共に、シランカップリング剤を前記シリカ量に対して6〜15重量%配合し、かつ前記変性溶液重合スチレンブタジエンゴムが、重量平均分子量が100万〜150万、ビニル結合量が30〜60%、スチレン含有量が30〜50重量%であり、前記ブタジエンゴムの分子量分布(Mw/Mn)が4.0以下であり、前記シリカの窒素吸着比表面積が120〜180m2 /gであることを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
請求項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤトレッド用ゴム組成物に関し、更に詳しくは、転がり抵抗及び加工性を悪化させることなく、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性を向上するようにしたタイヤトレッド用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気入りタイヤには、転がり抵抗が低く、かつ湿潤路面でのグリップ性能(ウェットグリップ性能)が優れること、更に耐摩耗性が優れることが求められる。転がり抵抗を低減するため、トレッド部を構成するタイヤトレッド用ゴム組成物には、例えば、カーボンブラックに代えてシリカを多く配合したり、シリカ及びカーボンブラックのフィラー総量を減量したり、ガラス転移点(Tg)が低いポリマーを配合したりすることが行われている。しかし、カーボンブラックの代わりにシリカを多量に配合したゴム組成物は耐摩耗性が悪化し、フィラー総量を減量したゴム組成物はウェットグリップ性能及び耐摩耗性が悪化し、低Tgポリマーを配合したゴム組成物はウェットグリップ性能が悪化するという問題があった。またシリカを多量に配合するとゴム組成物のゴム粘度が増大し、加工性が悪化するという問題があった。
【0003】
この対策として、特許文献1は、溶液重合スチレンブタジエンゴム、乳化重合スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴムからなるゴム成分にシリカを配合したタイヤ用ゴム組成物を提案している。このゴム組成物には、低転がり抵抗、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性の3機能を改良する効果が認められる。しかし、需要者のこれらの3機能に対する要求レベルは高いため、上述したゴム組成物が必ずしも充分であるとは言えず更なる改善の余地があった。またこのゴム組成物では加工性を悪化させないという問題が解決されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−23295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、転がり抵抗及び加工性を悪化させることなく、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性を向上するようにしたタイヤトレッド用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、官能基がヒドロキシル基、アルコキシリル基、エポキシ基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基から選ばれる少なくとも1種である変性溶液重合スチレンブタジエンゴムを60〜90重量%、ブタジエンゴムを5〜30重量%、天然ゴム又はポリイソプレンゴムを5〜30重量%含むジエン系ゴム100重量部に対し、カーボンブラック及びシリカからなるフィラーを配合し、該フィラーの総量が55重量部以上80重量部以下かつ該フィラー総量に占めるシリカの割合が60〜90重量%になるようにすると共に、シランカップリング剤を前記シリカ量に対して6〜15重量%配合し、かつ前記変性溶液重合スチレンブタジエンゴムが、重量平均分子量が100万〜150万、ビニル結合量が30〜60%、スチレン含有量が30〜50重量%であり、前記ブタジエンゴムの分子量分布(Mw/Mn)が4.0以下であり、前記シリカの窒素吸着比表面積が120〜180m2 /gであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物によれば、変性溶液重合スチレンブタジエンゴムを60〜90重量%、ブタジエンゴムを5〜30重量%、天然ゴム又はポリイソプレンゴムを5〜30重量%含むジエン系ゴム100重量部に対し、カーボンブラック及びシリカからなるフィラーの総量を80重量部以下かつ該フィラー総量に対するシリカの割合が60〜90重量%になるようにすると共にシランカップリング剤を前記シリカ量に対して6〜15重量%配合したので、転がり抵抗及び加工性を悪化させることなく、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性を向上することができる。特に、分子量分布(Mw/Mn)が4.0以下のブタジエンゴムの配合量を30重量%以下にし、フィラー総量が80重量部以下で、そのうちのシリカ比率を90重量%以下にし、更に、変性溶液重合スチレンブタジエンゴムが、重量平均分子量が100万〜150万、ビニル結合量が30〜60%、スチレン含有量が30〜50重量%であり、ブタジエンゴムの分子量分布(Mw/Mn)が4.0以下であり、シリカの窒素吸着比表面積が120〜180m2 /gであるようにしたので、ウェットグリップ性能と耐摩耗性を向上することが出来る。
【0008】
本発明においては、変性溶液重合スチレンブタジエンゴムの官能基が、ヒドロキシル基、アルコキシリル基、エポキシ基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基から選ばれる少なくとも1種であるので、転がり抵抗及び加工性を損なうことなく、ウェット性能及び耐摩耗性をより高度に両立することが出来る。
【0009】
尚、シリカの窒素吸着比表面積はISO9277に準拠して測定するものとする。
【0010】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤは、転がり抵抗及び加工性を維持しながら、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物において、ゴム成分はジエン系ゴムであり、そのジエン系ゴムはジエン系ゴム100重量%中、変性溶液重合スチレンブタジエンゴム(以下、「変性S−SBR」という。)を60〜90重量%、ブタジエンゴム(以下、「BR」という。)を5〜30重量%、天然ゴム(以下、「NR」という。)又はポリイソプレンゴム(以下、「IR」という。)を5〜30重量%含む。尚、ここでいうゴムの量は、油添量を除いたゴム分の正味の量である。
【0012】
変性S−SBRは、分子末端に官能基を有するように溶液重合で製造した末端変性スチレンブタジエンゴムである。官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、アルコキシル基、エポキシ基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基等を例示することが出来る。このような変性S−SBRは、通常の方法、例えば特許第3488926号に開示の方法により製造することが出来る。また、市販品の中から適宜選択して使用しても良い。
【0013】
本発明では、変性S−SBRを配合することにより、シリカとの親和性を高くし分散性を改善するため、転がり抵抗の低減と耐摩耗性の確保を両立することが出来る。ジエン系ゴム100重量%中の変性S−SBRの配合量は60〜90重量%、好ましくは55〜85重量%にする。変性S−SBRの配合量が60重量%より小さいとウェットグリップ性能を確保する効果が得られない。変性S−SBRの配合量が90重量%より大きいと粘度上昇により加工性が悪化する。
【0014】
また、変性S−SBRは、重量平均分子量が100万〜150万、ビニル結合量が30〜60%、スチレン含有量が30〜50重量%であるものを使用する。変性S−SBRの特性をこのような範囲にすることにより、転がり抵抗を維持しながらウェットグリップ性能と耐摩耗性とを向上することが出来る。
【0015】
特に、変性S−SBRの重量平均分子量を100万〜150万、好ましくは110万〜140万の範囲にすることで耐摩耗性を向上することが出来る。変性S−SBRの重量平均分子量が100万より小さいと耐摩耗性が悪化する。変性S−SBRの重量平均分子量が150万より大きいと粘度増加により加工性が悪化する。変性S−SBRの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算により測定するものとする。
【0016】
また、変性S−SBRのビニル結合量を30〜60%、好ましくは33〜57%の範囲にすることで、ウェットグリップ性能と耐摩耗性を向上することが出来る。変性S−SBRのビニル結合量が30%より小さいとウェットグリップ性能が悪化する。変性S−SBRのビニル結合量が60%より大きいと耐摩耗性が悪化する。
【0017】
また、変性S−SBRのスチレン含有量を30〜50重量%、好ましくは35〜45重量%の範囲にすることで、転がり抵抗を低くすると共にゴム強度を高くして耐摩耗性を確保することができる。変性S−SBRのスチレン含有量が20重量%より小さいとウェットグリップ性能が悪化する。変性S−SBRのスチレン含有量が60重量%より大きいと転がり抵抗もしくは耐摩耗性が悪化する。
【0018】
尚、未変性のスチレンブタジエンゴムを使用した場合は、変性したスチレンブタジエンゴムと比較してゴム中のシリカ分散性が劣るため、転がり抵抗やウェットグリップ性能などの多性能を両立することが出来ない。また、乳化重合スチレンブタジエンゴムは、溶液重合スチレンブタジエンゴムと比較してゴム分子中のミクロ構造の選択性が乏しく、高次元に多性能を両立することが出来ない。
【0019】
本発明では、BRを配合することによりゴム組成物の耐摩耗性を確保する。ジエン系ゴム100重量%中のBRの配合量は5〜30重量%、好ましくは8〜27重量%にする。BRの配合量が5重量%より小さいとゴム組成物の耐摩耗性が悪化する。BRの配合量が30重量%より大きいとウェットグリップ性能が悪化する。
【0020】
また、BRは、分子量分布Mw/Mnが4.0以下、好ましくは2.5〜3.5のものを使用する。ウェットグリップ性能及び加工性を両立するためには、BRの分子量分布Mw/Mnをこのような範囲にすることが好ましく、規定の範囲内に収めることでウェットグリップ性能及び加工性を向上することが出来る。本明細書においてBRの分子量分布Mw/Mnは、BRの重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比で定義されるものとする。またBRの重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算により測定するものとする。
【0021】
本発明では、NR又はIRを配合することにより、耐摩耗性と転がり抵抗を両立することが出来る。ジエン系ゴム100重量%中のNR又はIRの配合量は5〜30重量%、好ましくは8〜27重量%にする。NR又はIRの配合量が5重量%より小さいと転がり抵抗を維持することが出来ない。NR又はIRの配合量が30重量%より大きいとウェットグリップ性能が悪化する。
【0022】
本発明において、カーボンブラック及びシリカからなるフィラーを配合しそのフィラー総量がジエン系ゴム100重量部に対して55重量部以上80重量部以下、好ましくは55〜75重量部になるように配合する。また、このカーボンブラック及びシリカからなるフィラー総量に占めるシリカの割合を60〜90重量%、好ましくは65〜85重量%にする。カーボンブラック及びシリカの配合量の合計をこの範囲にすることにより、ゴム組成物の転がり抵抗、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性を両立することが出来る。また、上述した変性S−SBRの配合により、シリカとゴムとの親和性が向上し、シリカの分散性が改善するため、加工性、転がり抵抗、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性を両立することが出来る。
【0023】
ジエン系ゴム100重量部に対するフィラー総量が80重量部より大きいと転がり抵抗と加工性が悪化する。また、フィラー総量に対するシリカの割合が60重量%より小さいと転がり抵抗が悪化する。フィラー総量に対するシリカの割合が90重量%より大きいと耐摩耗性及び加工性が悪化する。
【0024】
シリカとしては、窒素吸着比表面積(N2 SA)が120〜180m2 /gであるものを使用する。このような特定のシリカを使用することでウェットグリップ性能と耐摩耗性と加工性を両立することが出来る。シリカの窒素吸着比表面積(N2 SA)が120m2 /gより小さいと耐摩耗性が悪化する。シリカの窒素吸着比表面積(N2 SA)が180m2 /gより大きいと加工性が悪化する。
【0025】
また、本発明では、シリカとシランカップリング剤とを共に配合することにより、シリカの分散性を向上し、加工性の向上と転がり抵抗の低下などの多性能を両立することが可能となる。シランカップリング剤は、シリカ配合量に対して6〜15重量%、好ましくは7〜10重量%配合する。シリカ配合量に対するシランカップリング剤の配合量が6重量%より小さいと耐摩耗性及び加工性が悪化する。シランカップリング剤の配合量が15重量%以上としても、分散性向上効果が小さいために所望の改善効果を望めない。
【0026】
シランカップリング剤としては、特に制限されるものではないが、硫黄含有シランカップリング剤が好ましく、例えばビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等を例示することができる。
【0027】
タイヤトレッド用ゴム組成物には、上述したカーボンブラック及び充填剤以外にも、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤などのタイヤトレッド用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。このようなゴム組成物は、公知のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0028】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、空気入りタイヤに好適に使用することができる。このタイヤトレッド用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤは、転がり抵抗及び加工性を悪化させることなく高度に維持すると共に、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性を向上することが出来る。
【0029】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
表1〜3に示す配合からなる19種類のタイヤトレッド用ゴム組成物(実施例1〜6、比較例1〜13)を、表4に示す配合剤を共通配合として含むように調製した。先ず、硫黄、加硫促進剤を除く成分を1.8Lの密閉型ミキサーで5分間混練し放出する。このマスターバッチを室温で放冷した後、オープンロールに供し硫黄、加硫促進剤を加えて混練することにより調製した。尚、表1〜3において、フィラー総量はシリカ及びカーボンブラックの配合量の合計を表わし、シリカ比率はフィラー総量に占めるシリカの重量比率を表わし、シランカップリング剤比率は、シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量に対する割合を表わす。また、表1〜3において、変性S−SBR1及び2、S−SBR1及び2、並びにBRの配合量を夫々の上段に示すと共に、油展オイルを除いた正味のゴム成分の配合量を、夫々の下段に括弧付きで示した。更に、使用した変性S−SBR1及び2、S−SBR1及び2について、変性基の種類、スチレン含有量、シス量、トランス量、ビニル量、重量平均分子量、ガラス転移点(Tg)、及び油添量を表5に示した。
【0031】
得られた19種類のタイヤトレッド用ゴム組成物の加工性の指標としてムーニー粘度を以下の方法で測定した。
【0032】
加工性;ムーニー粘度
得られたゴム組成物の加工性を、ムーニー粘度(ML1+4 )により評価した。ムーニー粘度(ML1+4 )は、JIS K6300に準拠して、ムーニー粘度計にてL型ロータ(38.1mm径、5.5mm厚)を使用し、予熱時間1分、ロータの回転時間4分、100℃、2rpmの条件で測定した。得られた結果は、比較例1の値の逆数を100とする指数として表1に示した。この指数が大きいほどムーニー粘度が低く加工性が優れることを意味する。尚、指数値が98以上であれば許容範囲内(従来レベル)であるものとする。
【0033】
また得られた19種類のタイヤトレッド用ゴム組成物を所定形状の金型中で、160℃、20分間プレス加硫して加硫ゴムサンプルを作製し、下記に示す方法でウェットグリップ性能、転がり抵抗、及び耐摩耗性を測定した。
【0034】
ウェットグリップ性能;tanδ(0℃)
得られた加硫ゴムサンプルのウェットグリップ性能を、ウェットグリップ性能の指標であることが知られているtanδ(0℃)により評価した。tanδ(0℃)は、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件下で、温度0℃の損失正接tanδ(0℃)を測定した。得られた結果は、比較例1の値を100とする指数として表1に示した。この指数が大きいほどウェットグリップ性能が優れることを意味する。
【0035】
転がり抵抗;tanδ(60℃)
得られた加硫ゴムサンプルの転がり抵抗を、転がり抵抗の指標であることが知られているtanδ(60℃)により評価した。tanδ(60℃)は、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件下で、温度60℃の損失正接tanδ(60℃)を測定した。得られた結果は、比較例1の値の逆数を100とする指数として表1に示した。この指数が大きいほどtanδ(60℃)が小さく低発熱で転がり抵抗が優れることを意味する。尚、指数値が98以上であれば許容範囲内(従来レベル)であるものとする。
【0036】
耐摩耗性
得られた加硫ゴムサンプルを、JIS K6264に準拠して、ランボーン摩耗試験機(岩本製作所社製)を使用して、荷重49N、スリップ率25%、時間4分、室温の条件で摩耗量を測定した。得られた結果は、比較例1の摩耗量の逆数を100とする指数として表1に示した。この指数が大きいほど耐摩耗性が優れることを意味する。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
【表5】
【0042】
なお、表1〜3及び5において使用した原材料の種類を下記に示す。
NR:天然ゴム、SIR20
変性S−SBR1:末端変性溶液重合スチレンブタジエンゴム、旭化成社製E581、ゴム成分100重量部に対しオイル分37.5重量部を含む油展品
変性S−SBR2:末端変性溶液重合スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製NS530、ゴム成分100重量部に対しオイル分20.0重量部を含む油展品
S−SBR1:溶液重合スチレンブタジエンゴム、JSR社製HP755B、ゴム成分100重量部に対しオイル分37.5重量部を含む油展品
S−SBR2:溶液重合スチレンブタジエンゴム、旭化成社製タフデン1834、ゴム成分100重量部に対しオイル分37.5重量部を含む油展品
BR1:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol BR1220、分子量分布Mw/Mn=2.9
BR2:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol BRX5000、分子量分布Mw/Mn=6.4、ゴム成分100重量部に対し低分子量成分を40重量部含む
シリカ1:Rhodia Silica社製ZEOSIL 115GR、窒素吸着比表面積=116m2 /g
シリカ2:Rhodia Silica社製ZEOSIL PREMIUM 200MP、窒素吸着比表面積=204m2 /g
シリカ3: Rhodia Silica社製ZEOSIL 1165MPGR、窒素吸着比表面積=162m2 /g
CB:カーボンブラック、キャボットジャパン社製ショウブラックN234
カップリング剤:EVONIK DEGUSSA社製SI69
アロマオイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
【0043】
また、表4において使用した原材料の種類を下記に示す。
加工助剤:SCHILL&SEILACHER社製Struktol A50P
亜鉛華:正同化学社製酸化亜鉛3種
ステアリン酸:千葉脂肪酸社製ビーズステアリン酸桐
老化防止剤:フレキシス社製SANTOFLEX 6PPD
ワックス:大内新興化学工業社製サンノック
加硫促進剤:大内新興化学工業社製ノクセラーCZ−G
硫黄:アクゾノーベル社製クリステックスHS OT 20
【0044】
表1及び3の結果から明らかなように、実施例1〜6のタイヤトレッド用ゴム組成物は、いずれも比較例1と比べ加工性及び転がり抵抗を良好に維持しながらウェットグリップ性能及び耐摩耗性を向上することが出来た。
【0045】
一方、表1の結果から明らかなように、比較例2のタイヤトレッド用ゴム組成物は、天然ゴムの代わりに低Tgであるスチレンブタジエンゴムを使用したがウェットグリップ性能が悪化した。比較例3のタイヤトレッド用ゴム組成物は、分子量分布Mw/Mnが4.0より大きいブタジエンゴムを使用したため加工性及びウェットグリップ性能が悪化した。
【0046】
また、表2の結果から明らかなように、比較例4のタイヤトレッド用ゴム組成物は、変性S−SBR2の重量平均分子量が100万より小さいためウェットグリップ性能及び耐摩耗性が悪化した。比較例5のタイヤトレッド用ゴム組成物は、変性S−SBR1の代わりに未変性のS−SBR1を使用したため耐摩耗性が悪化した。比較例6のタイヤトレッド用ゴム組成物は、変性S−SBR1が60重量%未満、BRが30重量%を超えるため加工性及びウェットグリップ性能が悪化した。比較例7のタイヤトレッド用ゴム組成物は、変性S−SBR1が60重量%未満、NRが30重量%を超えるためウェットグリップ性能が悪化した。比較例8のタイヤトレッド用ゴム組成物は、シリカ1の窒素吸着比表面積が120m2 /g未満であるためウェットグリップ性能及び耐摩耗性が悪化した。比較例9のタイヤトレッド用ゴム組成物は、シリカ2の窒素吸着比表面積が180m2 /gを超えるため加工性が悪化した。
【0047】
表3の結果から明らかなように、比較例10のタイヤトレッド用ゴム組成物は、フィラー総量が80重量部より大きいため加工性及び転がり抵抗が悪化した。比較例11のタイヤトレッド用ゴム組成物は、全フィラー中に占めるシリカの比率が90重量%より大きいため加工性及び耐摩耗性が悪化した。比較例12のタイヤトレッド用ゴム組成物は、全フィラー中に占めるシリカの比率が60重量%より小さいため転がり抵抗が悪化した。比較例13のタイヤトレッド用ゴム組成物は、シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の6重量%より小さいため加工性及耐摩耗性が悪化した。