【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、省エネルギー革新技術開発事業/挑戦研究/冷凍機一体型高温超電導誘導同期駆動システムの研究開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1において、前記永久磁石の軸長をLmとし、前記インナー磁気抵抗部の軸長をLiとするとき、Li/Lmをαとするとき、αは0.10〜0.63の範囲内に設定されているリニアモータ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現状のリニアモータでは、磁石が作る磁場と励磁コイル部とが作る磁場による磁場の偏りにより、推力が発生する構造となっている。しかしながらこのリニアモータでは、励磁コイル部が形成する磁場が永久磁石の内部を充分に透過せず、殆どヨーク部を透過するだけで推進力に寄与しない場合がある。このため可動子を軸線に沿って可動させる推進力の向上については、改善の余地がある。
【0005】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、軸線の方向に沿って可動する可動子の推力を高めるのに有利なリニアモータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)様相1に係るリニアモータは、(i)軸受をもつ基部と、(ii)基部に設けられ軸線回りに設けられたリング状をなす励磁コイル部と励磁コイル部を覆い且つ軸線回りに設けられたリング状をなすアウターヨークとを有する固定子と、(iii)固定子に対して軸線が延設された方向に沿って往復移動可能に軸受に支持されたシャフトとシャフトの外周側に設けられ且つ軸線回りのリング状をなすヨーク材料で形成されたインナーヨークと固定子のアウターヨークの内周面に微小隙間を介して対面するとともに軸線回りのリング状をなし外周面および内周面に異なる磁極をもつ永久磁石とを有する可動子とを具備しており、
(iv)固定子のアウターヨークは、
励磁コイル部の外周側を覆うリング状をなす外周アウターヨーク部と、励磁コイル部の各軸端を覆い且つ外周アウターヨーク部に連設されたリング状をなす軸端アウターヨーク部と、励磁コイル部の内周側に位置するように軸端アウターヨーク部に連設された互いに対向する第1内周アウターヨーク部および第2内周アウターヨーク部と、励磁コイル部の内周側において第1内周アウターヨーク部および第2内周アウターヨーク部の間に設けられヨーク材料よりも磁気抵抗が高い軸線回りのリング状をなすアウター磁気抵抗部とを具備しており、
(v)可動子のインナーヨークは、
(v−1)永久磁石の内周側において互いに対向すると共に永久磁石の内周側を覆うリング状をなす第1内周インナーヨーク部および第2内周インナーヨーク部と、(v−2)永久磁石の軸端に対向するように第1内周インナーヨーク部および第2内周インナーヨーク部の各軸端から固定子に向けて径外方向に突出する突出ヨーク部と、(v−3)永久磁石の内周側に設けられ、ヨーク材料よりも磁気抵抗が高いリング状をなし、且つ、軸線に沿って軸線を通過する断面において、励磁コイル部への励磁電流の通電時に、磁束をアウターヨーク部およびインナーヨーク部を透過させると共に、第1内周インナーヨーク部と第2内周インナーヨーク部との間を透過する磁束を減らし、永久磁石の内部において斜め方向に透過させる磁路を形成させるインナー磁気抵抗部とを具備する。
【0007】
励磁コイル部に交流の励磁電流が通電されると、リング状の励磁コイル部の軸端に異なる磁極が交互に発生する。これに基づく磁束がインナーヨーク、永久磁石、アウターヨークを透過する磁路が形成され、磁路により可動子が固定子に対して軸線に沿って交互に往復移動する。励磁コイル部への励磁電流の通電時に、軸線に沿って軸線を通過する断面において、インナー磁気抵抗部は、磁束を永久磁石の内部に斜め方向に透過させる磁路を形成させる。
【0008】
斜め方向に通過する磁路のベクトルは、軸線に対して垂直な方向に向かう軸直角成分と、軸線と平行な方向に向かう推力成分とからなる。ここで、永久磁石の内部を斜め方向に透過し、アウタヨークへ入る磁束で形成される磁路が斜めに配向(径方向から軸線方向への傾きを大きく)すれば、軸線と平行な方向に向かう可動子の推力成分を増加させることができる。このように可動子の推力成分が増加すれば、可動子を軸線に沿って往復移動させる推力を増加させることができる。
【0009】
(2)様相2に係るリニアモータによれば、上記様相において、永久磁石の軸長をLmとし、インナー磁気抵抗部の軸長をLiとするとき、Li<Lmとされている。この場合、軸線と平行な方向に向かう推力成分を増加させるのに有利である。仮に、Li>Lmの場合には、可動子の往復移動に支障をきたすおそれがある。
【0010】
(3)様相3に係るリニアモータによれば、上記様相において、永久磁石の軸長をLmとし、インナー磁気抵抗部の軸長をLiとするとき、Li/Lmをαとするとき、αは0.10〜0.63の範囲内に設定されている。後述する
図7に示すように、リニアモータの効率および力率を増加させるのに有利である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、可動子のインナーヨークは、永久磁石の内周側において互いに対向すると共に永久磁石の内周側を覆うリング状をなす第1内周インナーヨーク部および第2内周インナーヨーク部と、永久磁石の軸端に対向するように第1内周インナーヨーク部および第2内周インナーヨーク部の各軸端から固定子に向けて径外方向に突出する突出ヨーク部と、インナー磁気抵抗部とを有する。インナー磁気抵抗部は、永久磁石の内周側に設けられており、ヨーク材料よりも磁気抵抗が高いリング状をなす。インナー磁気抵抗部は、軸線に沿って軸線を通過する断面において、励磁コイル部への励磁電流の通電時において、磁束をアウターヨークおよびインナーヨークに透過させると共に、第1内周インナーヨーク部と第2内周インナーヨーク部との間を透過する磁束を減らし、且つ、永久磁石の内部に斜め方向に透過させる磁路を形成させる。
【0012】
このようなインナー磁気抵抗部が形成されている本発明によれば、インナーヨークと永久磁石とアウターヨークとを磁束が透過するにあたり、軸線に沿って軸線を通過する断面において、永久磁石の内部を斜め方向に透過する磁束の割合を高めることができる。このため、軸線と平行な方向に向かう可動子の推力成分が増加する。このように可動子の推力成分が増加すれば、可動子を軸線に沿って往復移動させる推力が増加する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
アウターヨークに形成されているアウター磁気抵抗部は軸線回りのリング状をなしており、励磁コイル部の内周側において第1内周アウターヨーク部および第2内周アウターヨーク部の間に設けられており、ヨーク材料よりも高い磁気抵抗をもつ。
【0015】
インナーヨークに形成されているインナー磁気抵抗部は軸線回りのリング状をなしており、永久磁石の内周側に設けられており、ヨーク材料よりも高い磁気抵抗をもつ。アウター磁気抵抗部およびインナー磁気抵抗部は、エアギャップ、または、ヨーク材料よりも磁気抵抗が高い材料で形成されている。磁気抵抗が高い材料としては、非磁性材料(常磁性材料も含む)で形成できる。非磁性材料としてはオーステナイト系のステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、樹脂を例示できる。樹脂は公知の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0016】
インナー磁気抵抗部は、永久磁石の内周側に設けられており、ヨーク材料よりも磁気抵抗が高い。インナー磁気抵抗部は、軸線に沿って軸線を通過する断面において、励磁コイル部への励磁電流の通電時に磁束をアウターヨーク部およびインナーヨーク部を透過させると共に永久磁石の内部を斜め方向に透過させる磁路を形成させる。
【0017】
(実施形態1)
以下、本発明の実施形態1について
図1及び
図2を参照して説明する。
図1および
図2は、軸線Pに沿って軸線Pを通過する断面を示す。請求項1に係る本実施形態のリニアモータ1は、基部2と固定子3と可動子4とを有する。基部2はハウジングであり、駆動室20と、駆動室20に配置されたフレクシャベアリングと呼ばれる軸受21とをもつ。固定子3は軸線Pをもち、基部2の駆動室20に固定されている。固定子3は、軸線P回りに設けられたリング状をなす励磁コイル部30と、励磁コイル部30を覆い且つ軸線P回りに設けられたリング状をなすアウターヨーク32とを有する。
【0018】
可動子4は、固定子3に対して軸線Pが延設された方向に沿って往復移動可能に軸受21に支持されている。軸線Pは水平方向に沿っており、可動子4が水平方向に沿って移動する形態とされている。但し、場合によっては、軸線Pが鉛直方向に沿っており、可動子4が鉛直方向に沿って移動する形態でも良い。また場合によっては、軸線Pが鉛直方向に対して斜めに沿っており、可動子4が鉛直方向に対して斜め方向に沿って移動する形態でも良い。
【0019】
図1に示すように、可動子4は、軸線Pに沿って往復移動可能に支持されたシャフト40と、シャフト40の外周側に設けられ且つ軸線P回りのリング状をなすインナーヨーク42と、固定子3のアウターヨーク32の内周面32iに微小隙間を介して対面する磁極を有する永久磁石45とを有する。
【0020】
固定子3のアウターヨーク32は高い透磁率をもつ軟磁性材料で形成されており、励磁コイル部30の外周面30p側を覆うリング状をなす外周アウターヨーク部320と、励磁コイル部30の各軸端30e,30fを覆う軸線P回りのリング状をなす軸端アウターヨーク部322と、励磁コイル部30の内周面30i側に位置するように軸端アウターヨーク部322に連設された互いに対向する第1内周アウターヨーク部324および第2内周アウターヨーク部325とを有する。更に
図1に示すように、励磁コイル部30の内周面30i側において、エアギャップで形成されたアウター磁気抵抗部328が設けられている。アウター磁気抵抗部328はヨーク材料よりも高い磁気抵抗をもつ。
図1に示すように、アウター磁気抵抗部328は、軸線P回りのリング状をなしており、第1内周アウターヨーク部324と第2内周アウターヨーク部325との間に設けられており、第1内周アウターヨーク部324と第2内周アウターヨーク部325とを軸長方向に分離させている。なお、第1内周アウターヨーク部324と第2内周アウターヨーク部325とは、外周アウターヨーク部320によって一体的に連設されている。
【0021】
図2は可動子4を示す。
図2に示すように、可動子4のインナーヨーク42は高い透磁率をもつ軟磁性材料で形成されており、永久磁石45の内周面45i側において互いに対向すると共に永久磁石45の内周面45i側を覆うリング状をなす第1内周インナーヨーク部421および第2内周インナーヨーク部422と、永久磁石45の軸端45e,45fに対向するように内周インナーヨーク部421,422の各軸端から固定子3に向けて径方向(矢印D方向)に突出する複数(2個)の突出ヨーク部423とを有する。突出ヨーク部423は、インナーヨーク42とアウターヨーク32との間の磁気抵抗を低下させる機能を果たす。本実施形態では、永久磁石45の外周面45p側はN極として着磁され、永久磁石45の内周面45i側はS極として着磁されている。なお、本実施形態によれば、永久磁石45の軸長Lmは永久磁石45の厚みtよりも長い(Lm>2t)。
【0022】
図2に示すように、インナーヨーク42は、ヨーク材料よりも高い磁気抵抗をもつ樹脂(熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂)で形成された中間接合部48によりシャフト40の外周面40p側に固定されている。インナーヨーク42の内周面42iは中間接合部48に一体的に接合されている。インナーヨーク42において、永久磁石45の内周面45i側には、軸線P回りのリング状をなすエアギャップで形成されたインナー磁気抵抗部428が設けられている。インナー磁気抵抗部428はエアギャップで形成されているため、ヨーク材料よりも高い磁気抵抗をもつ。なお
図1に示すように、永久磁石45の軸端45e,45fと突出ヨーク部423との間には、第3磁気抵抗部として機能するエアギャップ5が軸線P回りのリング状に形成されており、アウターヨーク32に対面している。エアギャップ5は永久磁石45の軸端45e,45fに対面しており、エアギャップ5における磁束の透過を抑えている。
【0023】
図1および
図2は、軸線Pに沿ってこれを通過する断面を示す。この断面において、インナー磁気抵抗部428は、励磁コイル部30への励磁電流の通電時には、磁束が永久磁石45の内部を外周面45pおよび内周面45iに対して斜め方向に透過する磁路を形成させる。アウター磁気抵抗部328およびインナー磁気抵抗部428はエアギャップで形成されている。エアギャップはヨーク材料よりも高い磁気抵抗を有する。
図2に示すように、インナー磁気抵抗部428は、永久磁石45の内周面45iと中間接合部48と内周インナーヨーク部421,422とにより軸線P回りでリング状に区画されている。
【0024】
図1に示す軸直角線Hは軸線Pに対して垂直とされており、中立位置(励磁コイル部30に励磁電流が通電されていない状態)において永久磁石45の軸長寸法の中間点を軸直角方向に通る。軸直角線Hを介して、インナーヨーク42、アウターヨーク32、インナー磁気抵抗部428、アウター磁気抵抗部328は、対称形状とされていることが好ましい。なお
図2に示すように、内周インナーヨーク部421,422には段状の係合部429が形成されており、永久磁石45が係合部429に係合した状態で接着剤により内周インナーヨーク部421,422に固定されている。
【0025】
さて、励磁コイル部30に交流の励磁電流が通電されると、励磁コイル部30の一方の軸端30eおよび他方の軸端30fに、異なる磁極(N極,S極)が交互に発生する。この結果、可動子4が固定子3に対して軸線Pに沿って矢印X1,X2方向に繰り返して往復移動する。ここで、可動子4が矢印X1方向に前進するとき、励磁コイル部30の一方の軸端30eはS極となり、励磁コイル部30の他方の軸端30fはN極となる。可動子4が矢印X2方向に後退するとき、励磁コイル部30の一方の軸端30eはN極となり、他方の軸端30fはS極となる。このように励磁コイル部30の軸端30e,30fの磁極は交互に入り替わる。
【0026】
図3は、励磁コイル部30に励磁電流を通電していないときにおいて可動子4が中立位置に存在するとき、可動子4を矢印X1方向に移動させるように励磁コイル部30に励磁電流を通電させた場合について磁路解析した基本状態を模式的に示す。前述したように、インナーヨーク42において、永久磁石45の内周面45i側には、軸線P回りのリング状をなす磁気抵抗が高いエアギャップで形成されたインナー磁気抵抗部428が設けられている。インナー磁気抵抗部428は、第1内周インナーヨーク部421および第2内周インナーヨーク部422を軸長方向に磁気回路的に分離させている。この結果、第1内周インナーヨーク部421を透過する磁束がインナー磁気抵抗部428を介して軸線Pと平行な方向に沿って第2内周インナーヨーク部422に直接透過することが抑制されている。同様に、第2内周インナーヨーク部422を透過する磁束がインナー磁気抵抗部428を介して軸線Pと平行な方向に沿って第1内周インナーヨーク部421に直接透過することが抑制される。
【0027】
このような本実施形態によれば、インナーヨーク42と永久磁石45とアウターヨーク32とを径方向(矢印D方向)に沿って透過する磁束は、軸線Pに対して軸直角方向に沿って配向するよりも、軸線Pに沿った方向(軸線Pと平行な方向に沿った方向)に配向し易くなる。
【0028】
即ち、励磁コイル部30に励磁電流を通電させる通電時において、永久磁石45のうち軸線Pと平行な方向に沿っている内周面45pおよび外周面45iに対して、永久磁石45の内部を軸線Pの軸直角方向に透過する磁束の割合が低くなる。換言すれば、
図3に示すように、本実施形態によれば、永久磁石45の内周面45pおよび外周面45iに対して筒形状の永久磁石45の内部において斜めに透過する磁束部分φc(
図3参照)の割合が高くなる。斜めとは、軸線Pと平行な方向および軸直角方向の双方に対して斜めを意味する。
【0029】
上記したように本実施形態によれば、インナー磁気抵抗部428がインナーヨーク42に設けられている。このため、永久磁石45の内周面45pおよび外周面45iに対して(軸線Pが延びる方向に対して)、磁束部分φc(
図3参照)を永久磁石45の内部において斜め方向に透過させるように配向させる割合が高くなる。この場合、第1内周インナーヨーク部421と第2内周インナーヨーク部421との間を軸線Pに沿った方向において透過する磁束を、インナー磁気抵抗部428は減らす。
【0030】
ここで、斜め方向に通過する磁束部分φcのベクトルVは、軸線Pに対して垂直な方向に向かう軸直角成分Vpと、軸線Pと平行な方向に向かう推力成分Vhとからなる(
図3参照)。
図3において磁束部分φcは模式化されて図示されている。ここで、永久磁石45の内周面45pおよび外周面45iは軸線Pに対して平行な方向に沿っている。このため、永久磁石45の内周面45pおよび外周面45iに対して磁束が永久磁石45の内部を斜め方向に透過する割合が増加すれば、磁束が軸直角方向に配向している割合が多い比較形態に比較して、軸線Pと平行な方向に向かう推力成分Vhを増加させることができる。このように推力成分Vhが増加すれば、可動子4を軸線Pに沿って往復移動させる可動子推進駆動力Fを増加させることができる。ここで、磁束が永久磁石45の内周面45pおよび外周面45iに対して斜めに配向すればするほど、軸線Pと平行な方向に向かう推力成分Vhを増加させることができる。このように推力成分Vhが増加すれば、可動子4を軸線Pに沿って往復移動させる可動子推進駆動力Fを増加させることができる。
【0031】
ここで、インナー磁気抵抗部428のうち軸線Pに沿った軸長Liを増加させれば、永久磁石45の内周面45pおよび外周面45iに対して永久磁石45の内部を斜め方向に透過させるように配向させる磁束部分φcの割合が高くなるようにも考えられる。しかしながら距離Liを増加させれば、永久磁石45の内周面45pおよび外周面45i間において永久磁石45の内部を斜めに透過する磁束部分φcの透過距離が長くなるため、かえって永久磁石45の内部を内周面45pおよび外周面45i間において透過するときにおける磁気抵抗が増加し、可動子推進駆動力Fが低下するおそれがある。そこで本実施形態によれば、
図1,
図2,
図3に示すように、軸線Pに沿った長さを軸長とするとき、可動子4が中立位置に存在する状態において、永久磁石45の軸長をLmとし、インナー磁気抵抗部428の軸長をLiとするとき、Li<Lmの関係とされていることが好ましい。この場合、磁気シミレーションの結果、軸線Pと平行な方向に向かう推力成分を増加させるのに有利である。
【0032】
ここで、
図2に示すように、インナー磁気抵抗部428の軸長をLiとし、2個の突出ヨーク部423の最短の間隔距離をLpとし、アウターヨーク32の全軸長をLallとするとき、Lall>Lp>Lm>Liの関係とされていることが好ましい。これは本発明者が実施した試験により確認されている。なおエアギップ5の軸長L3は(Lp−Lm)/2に相当する。
【0033】
本実施形態によれば、
図1から理解できるように、リング状の励磁コイル部30は単数であり、励磁コイル部30で同軸的に包囲されているリング状の永久磁石45も単数であるリニアモータ1を対象とするものであり、単純な構造で足りる。
【0034】
なお
図4は比較形態を示す。同一機能を奏する部位には同一の符号を付する。比較形態では、アウター磁気抵抗部328はエアギャップで形成されているものの、インナー磁気抵抗部428は形成されていない。比較形態ではインナー磁気抵抗部428が形成されておらず、第1内周インナーヨーク部421および第2内周インナーヨーク部422が一体的に連設されている。このため、第1内周インナーヨーク部421および第2内周インナーヨーク部422を軸長方向に沿って連続して透過する磁束部分φwの割合が増加する。ひいては、永久磁石45の内部を軸線Pに対して斜め方向ではなく軸直角方向に沿って配向する磁束部分φxの割合が増加する。このような比較形態では、本実施形態とは異なり、永久磁石45の内部を斜め方向に透過する磁路が形成されにくいため、可動子の推力向上に限界がある。なお磁束部分φw,φxは模式化されて図示されている。
【0035】
(実施形態2)
図5は実施形態2を示す。本実施形態は前記した実施形態と基本的には同様の構成、同様の作用効果を有する。すなわち、永久磁石45の内周面45pおよび外周面45iに対して磁束が永久磁石45の内部を永久磁石45を斜め方向に透過させる割合が増加する。このため、磁束が軸直角方向に配向している割合が多い比較形態に比較して、軸線Pと平行な方向に向かう推力成分Vhを増加させることができる。この結果、可動子4を軸線Pに沿って往復移動させる可動子推進駆動力Fを増加させることができる。
【0036】
本実施形態によれば、前述したようにアウター磁気抵抗部328はエアギャップで形成されているものの、インナー磁気抵抗部428Bは、ヨーク材料よりも高い磁気抵抗をもつ樹脂材料で中間接合部48と一体的に形成されている。磁気抵抗が高い樹脂材料としては、公知の熱硬化性樹脂または公知の熱可塑性樹脂が例示される。樹脂には、透磁率が低い補強繊維等の埋設物質が埋設されていても良い。インナー磁気抵抗部428Bの材質を変更すれば、これの磁気抵抗を調整でき、インナー磁気抵抗部428B付近の磁束の配向の調整を期待できる。実施形態1と同様に、Lall>Lp>Lm>Liの関係とされていることが好ましい。
【0037】
(実施形態3)
図6は実施形態3を示す。本実施形態は前記した実施形態と基本的には同様の構成、同様の作用効果を有する。インナー磁気抵抗部428Cは、ヨーク材料よりも磁気抵抗が高い材料で形成されている。磁気抵抗が高い材料としては、非磁性材料(常磁性材料も含む)で形成でき、オーステナイト系のステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属が挙げられる。すなわち、シャフト40は、シャフト本体400とシャフト本体400から径外方向(矢印D方向)に延設されたフランジ部410とを有する。フランジ部410はインナー磁気抵抗部428Cを形成しており、リング状をなす第1内周インナーヨーク部421および第2内周インナーヨーク部422を磁気的に分離させている。インナー磁気抵抗部428Cの材質を変更すれば、これの磁気抵抗を調整でき、インナー磁気抵抗部428C付近の磁束の配向の調整を期待できる。
【0038】
本実施形態においても、フランジ部410はインナー磁気抵抗部428Cを形成しており、リング状をなす第1内周インナーヨーク部421および第2内周インナーヨーク部422を軸長方向において分離させているため、前記した実施形態と同様に、インナー磁気抵抗部428Cは、永久磁石45の内部をこれの外周面45pおよび内周面45i(軸線Pと平行な方向)に対して斜め方向に透過する磁束による磁路を形成させることができる。前述したように、軸線Pと平行な方向に対して斜め方向に通過する磁束のベクトルは、軸線Pに対して垂直な方向に向かう軸直角成分と、軸線Pと平行な方向に向かう推力成分とからなる。このように永久磁石45を斜め方向に透過する磁束が斜めに配向する割合が高まれば、軸線Pと平行な方向に向かう推力成分が増加する。このように推力成分が増加すれば、可動子4を軸線Pに沿って往復移動させる推力が増加する。斜めに配向すればするほど、軸線Pと平行な方向に向かう推力成分が増加する。このように推力成分が増加すれば、可動子4を軸線Pに沿って往復移動させる推力を増加させることができる。
【0039】
本実施形態によれば、実施形態1と同様に、Lall>Lp>Lm>Liの関係とされていることが好ましい。この場合、磁気シミレーションの結果、軸線Pと平行な方向に向かう推力成分を増加させるのに有利である。
【0040】
(試験例)
図7および
図8は本発明者等が磁気シミレーションで試験した試験例を示す。この場合、インナー磁気抵抗部428の軸長をLiとし、2個の突出ヨーク部423の最短の間隔距離をLpとし、アウターヨーク32の全軸長をLallとするとき、Lall>Lp>Lm>Liの関係とされている。このように同様に、Li<Lmの関係とされている。
【0041】
本試験例によれば、磁気シミレーションにより、Li/Lmをα(ギャップ比)とするとき、αを0から0.7に向けて変化させつつ増加率および力率の変化を試験した。α=0は、インナー磁気抵抗部428が存在しない状態を意味する。α=0.7は、インナー磁気抵抗部428の軸長が永久磁石45の軸長の70%を示す状態を意味する。試験結果を
図8に示す。
図8において、◆印は効率を示し、■印は力率を示す。
図8は、α(ギャップ比)=0のとき(インナー磁気抵抗部428がない状態)を基準とした効率と力率の増加率を示す。ここで、効率および力率は以下の式で定義される。
効率=出力/有効電力
出力=F×v
ここで、F:推力、v:速度
有効電力=VIcosθ
ここで、V:電圧(実行値)、I:電流(実行値)、cosθ:力率、
θ:電圧と電流の位相差
図8から理解できるように、磁気シミレーションの結果、αが増加するにつれて効率が増加し、αが更に増加するにつれて、効率が低下する山形の特性が得られた。また、αが増加するにつれて力率が増加し、αが更に増加するにつれて、力率が低下する山形の特性が得られた。効率を高めることを考慮すると、αは0.10〜0.63の範囲内が好ましく、0.17〜0.54の範囲内がより好ましく、0.22〜0.42の範囲内が更に好ましい。力率を高めることを考慮すると、αは0.10〜0.54の範囲内が好ましく、0.17〜0.54の範囲内が更に好ましい。Lall>Lp>Lm>Liの関係とされていることが好ましい。本発明に係る各実施形態について、αは上記した範囲に設定されていることが好ましい。
【0042】
(実施形態4)
図9は本発明の実施形態4を示す。本実施形態は実施形態1と同様な構成を有しており、同様な作用効果を有する。基部2には、圧縮室61を区画する円筒形状のシリンダ60が保持されている。シャフト40の先端部には、軸線Pに沿って圧縮室61を往復移動するピストン62が保持されている。励磁コイル部30に交流の励磁電流が通電されると、可動子4は矢印X1,X2方向に軸線Pに沿って繰り返して往復移動する。これによりピストン62が矢印X1方向に前進すると、ピストン62は圧縮作用を果たし、圧縮室61の流体を圧縮させる。ピストン62が矢印X2方向に後退すると、ピストン62は吸引作用を果たし、流体を圧縮室61に吸引させる。本実施形態においても、リニアモータ1の効率および力率を増加させることを考慮すると、αは0.10〜0.63の範囲内に設定されていることが好ましい。Lall>Lp>Lm>Liの関係とされていることが好ましい。
【0043】
(実施形態5)
図10は本発明の実施形態5を示す。本実施形態は実施形態1と同様な構成を有しており、同様な作用効果を有する。本実施形態はパルス管冷凍機に適用している。パルス管冷凍機は、熱交換器70と、蓄冷器71と、コールドヘッド72と、パルス管73と、パルス管高温端74と、バッファタンク75とを有する。シャフト40の先端部には、圧縮室61を往復移動するピストン62が保持されている。励磁コイル部30に交流の励磁電流が通電されると、可動子4はピストン62と共に矢印X1,X2方向に軸線Pに沿って繰り返して所定のストロークで往復移動する。ここでピストン62が矢印X1方向に前進すると、ピストン62は圧縮作用を果たし、圧縮室61のガス冷媒を圧縮させる。圧縮されたガス冷媒は熱交換器70、蓄冷器71、コールドヘッド72、パルス管73、パルス管高温端74を順に流れ、バッファタンク75に至る。これに対してピストン62が矢印X2方向に後退すると、ピストン62は吸引作用を果たし、ガス冷媒を圧縮室61に吸引させる。この場合、ガス冷媒はバッファタンク75、パルス管高温端74、パルス管73、コールドヘッド72、蓄冷器71、熱交換器70を介して圧縮室61に吸引される。本実施形態によれば、ピストン62の推力を高めることができるため、圧縮室61の流体を効果的に圧縮させたら、流体を効果的に圧縮室61に吸引させることができる。このように振動流または往復動流を外部に供給させることができる。流体はガスでも液体でもミストでも良い。
【0044】
本実施形態においても、Li/Lmをαとするとき、リニアモータ1の効率および力率を増加させることを考慮すると、αは0.10〜0.63の範囲内に設定されていることが好ましい。Lall>Lp>Lm>Liの関係とされていることが好ましい。
【0045】
(その他)
上記した実施形態によれば、永久磁石45の外周面45p側はN極として着磁され、永久磁石45の内周面45i側はS極として着磁されているが、これに限らず、永久磁石45の外周面45p側はS極として着磁され、永久磁石45の内周面45i側はN極として着磁されていても良い。本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。