(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1のフィルタ部、前記第2のフィルタ部及び前記第3のフィルタ部の各々は、通過帯域に2つの共振点が位置するように構成された二重モードフィルタであることを特徴とする請求項1に記載の弾性波フィルタ。
通過帯域において互いに異なる周波数の共振点が少なくとも2箇所に形成され、且つ通過帯域において互いに隣接する共振点同士における弾性波の位相が180°変わるように、前記圧電基板上に入力側IDT電極及び出力側IDT電極を弾性波の伝搬方向に沿って配置すると共に、これらIDT電極を弾性波の伝搬方向における一方側及び他方側から挟むように一対の反射器を設けた縦モード共振型の第4のフィルタ部を備え、
この第4のフィルタ部の前記入力側IDT電極及び前記出力側IDT電極は、前記入力ポート及び前記出力ポートに夫々接続され、
前記第4のフィルタ部の前記共振点のうち低域側の共振点は、通過帯域内における第3の周波数において、前記第3のフィルタ部における前記共振点のうち高域側の共振点と互いに重なり合うように、且つこの高域側の共振点と同じ位相となっていることを特徴とする請求項1または2に記載の弾性波フィルタ。
【背景技術】
【0002】
弾性波例えば弾性表面波の共振を利用したバンドパスフィルタとして、入力側IDT(インターディジタルトランスデューサー)電極及び出力側IDT電極を弾性波の伝搬方向に沿って例えば水晶などの圧電基板上に配置すると共に、これらIDT電極を弾性波の伝搬方向における一方側及び他方側から挟むように一対の反射器を設けた縦モード共振型フィルタが知られている。このフィルタにおいて弾性波は、例えば反射器間、IDT電極間及び各々のIDT電極の内部にて夫々共振を起こす。これらの共振点(共振周波数)は、例えば反射器とIDT電極との中心間距離やIDT電極間の中心間距離を調整することにより、位置(周波数)が調整される。
【0003】
これら3つの共振点は、互いに異なる周波数となり、また互いに隣接する共振点の位相が180°ずつずれるように、具体的には低周波数側の共振点における弾性波の位相が例えば0°の時に、当該共振点から高周波数側に向かうにつれて共振点の位相が順番に180°及び0°となるように形成される。このフィルタでは、これら3つの共振点のうち少なくとも2つの共振点を利用して、通過帯域が設定される。即ち、3つの共振点のうち一の共振点により通過帯域の下端周波数が設定され、3つの共振点のうち他の共振点により通過帯域の上端周波数が設定される。
【0004】
このような縦モード共振型フィルタを利用して通過帯域を広域化する手法として、例えば特許文献1に記載されているように、2つの縦モード共振型フィルタを入力ポートと出力ポートとの間において互いに並列に接続した構成が知られている。この構成では、2つの縦モード共振型フィルタの各々の通過帯域を互いに位置ずれさせることによって、これら2つの通過帯域によりいわば一つの通過帯域を形成している。
【0005】
ここで、このようなフィルタの通過帯域を更に広域化する手法として、各々の縦モード共振型フィルタにおいて互いに隣接する共振点同士の間隔を大きく広げる方法が挙げられる。しかし、共振点の間隔を広げるとインピーダンスが高くなったり、通過帯域においてリップルが発生したりするなど、フィルタの周波数特性が劣化してしまう。一方、既述の水晶に代えて、この水晶よりも電気機械結合係数の大きな例えばリチウムタンタレート(LT)や四ホウ酸リチウム(LBO)を圧電基板として用いることにより、フィルタの通過帯域は更に広域化すると考えられる。しかし、このような電気機械結合係数の大きな圧電基板は、温度変化による特性の変動が大きいので、通過帯域の近傍における減衰量が劣化して(小さくなって)しまうおそれがある。また、LBOは、潮解性があるので、フィルタの製造プロセスが複雑になってしまう。
特許文献2〜4には、縦モード共振型フィルタを複数並列に接続した構成が記載されているが、既述の課題については記載されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、縦モード共振型フィルタを用いてバンドパスフィルタを構成するにあたり、通過帯域内におけるリップルの発生を抑えながら、通過帯域の広域化を図ることのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の弾性波フィルタは、
通過帯域の低域側及び高域側に各々阻止域を設けた弾性波フィルタにおいて、
入力側IDT電極及び出力側IDT電極を各々備えた第1のフィルタ部、第2のフィルタ部及び第3のフィルタ部と、
これら第1のフィルタ部、第2のフィルタ部及び第3のフィルタ部の各々の入力側IDT電極に共通に接続された入力ポートと、
これら第1のフィルタ部、第2のフィルタ部及び第3のフィルタ部の各々の出力側IDT電極に共通に接続された出力ポートと、を備え、
前記第1のフィルタ部、前記第2のフィルタ部及び前記第3のフィルタ部の各々は、通過帯域において互いに異なる周波数の共振点が少なくとも2箇所に形成され、且つ通過帯域において互いに隣接する共振点同士における弾性波の位相が180°変わるように、圧電基板上に前記入力側IDT電極及び前記出力側IDT電極を弾性波の伝搬方向に沿って配置すると共に、これらIDT電極を弾性波の伝搬方向における一方側及び他方側から挟むように一対の反射器を設けた縦モード共振型フィルタであり、
前記第1のフィルタ部における前記共振点のうち高域側の共振点と、前記第2のフィルタ部における前記共振点のうち低域側の共振点と、が通過帯域内における第1の周波数において互いに重なり合うように、且つ前記第2のフィルタ部における前記共振点のうち高域側の共振点と、前記第3のフィルタ部における前記共振点のうち低域側の共振点と、が通過帯域内における第2の周波数において互いに重なり合うように、前記第1のフィルタ部、前記第2のフィルタ部及び前記第3のフィルタ部が各々構成され、
前記第1の周波数における前記第1のフィルタ部及び前記第2のフィルタ部の各々の共振点同士が互いに同じ位相となり、前記第2の周波数における前記第2のフィルタ部及び前記第3のフィルタ部の各々の共振点同士が互いに同じ位相となっていることを特徴とする。
【0009】
前記第1のフィルタ部、前記第2のフィルタ部及び前記第3のフィルタ部の各々は、通過帯域に2つの共振点が位置するように構成された二重モードフィルタであっても良い。
通過帯域において互いに異なる周波数の共振点が少なくとも2箇所に形成され、且つ通過帯域において互いに隣接する共振点同士における弾性波の位相が180°変わるように、前記圧電基板上に入力側IDT電極及び出力側IDT電極を弾性波の伝搬方向に沿って配置すると共に、これらIDT電極を弾性波の伝搬方向における一方側及び他方側から挟むように一対の反射器を設けた縦モード共振型の第4のフィルタ部を備え、
この第4のフィルタ部の前記入力側IDT電極及び前記出力側IDT電極は、前記入力ポート及び前記出力ポートに夫々接続され、
前記第4のフィルタ部の前記共振点のうち低域側の共振点は、通過帯域内における第3の周波数において、前記第3のフィルタ部における前記共振点のうち高域側の共振点と互いに重なり合うように、且つこの高域側の共振点と同じ位相となっていても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、3つの縦モード共振型のフィルタ部を入力ポートと出力ポートとの間に並列に接続し、第1のフィルタ部の高域(高周波数)側の共振点と、第2のフィルタ部の低域(低周波数側)側の共振点と、が通過帯域内における第1の周波数において互いに重なり合うように、且つ第2のフィルタ部の高域側の共振点と、第3のフィルタ部の低域側の共振点と、が通過帯域内における第2の周波数において互いに重なり合うようにしている。そして、第1の周波数における第1のフィルタ部及び第2のフィルタ部の各々の共振点同士が互いに同じ位相となり、また第2の周波数における第2のフィルタ部及び第3のフィルタ部の各々の共振点同士が互いに同じ位相となるようにしている。そのため、これら3つのフィルタ部の各々の通過帯域によりいわば一つの広い通過帯域を形成することができるので、通過帯域におけるリップルの発生を抑えながら、通過帯域を広域化できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の弾性波フィルタの実施の形態の一例について、
図1を参照して説明する。このフィルタは、縦モード共振型のフィルタ部20を複数例えば3つ備えており、例えば比帯域(通過帯域÷中心周波数×100)が0.5%の通過帯域が形成されると共に、この通過帯域よりも低周波数側及び高周波数側に各々阻止域が設けられたバンドパスフィルタとなっている。これらフィルタ部20は、例えば水晶などからなる圧電基板10上において、弾性波の伝搬方向に対して直交する方向に互いに間を置いて配置されている。
【0013】
ここで、弾性波の伝搬方向に対して直交する方向の一方側及び他方側を夫々手前側及び奥側と呼ぶと共に、これら3つのフィルタ部20について、奥側から手前側に向かって、第1のフィルタ部1、第2のフィルタ部2及び第3のフィルタ部3と呼ぶことにする。各々のフィルタ部1〜3は、後で詳述するように、通過帯域に2つの共振点を配置した2重モードフィルタとなっている。
【0014】
各々のフィルタ部1〜3は、入力側IDT(インターディジタルトランスデューサー)電極13及び出力側IDT電極14を弾性波の伝搬方向に沿って配置すると共に、これらIDT電極13、14を弾性波の伝搬方向における一方側及び他方側から挟むように反射器15、15を設けて構成されている。各々のIDT電極13、14には、複数本の電極指6及び一対のバスバー7、7が設けられており、各々の反射器15には、複数本の反射器電極指8及び一対の反射器バスバー9、9が設けられている。
【0015】
ここで、
図1に示すように、互いに隣接する電極指6及び反射器電極指8について、この電極指8の中心線と、反射器電極指8の中心線と、の距離を「D1」とする。また、IDT電極14におけるIDT電極13側の電極指8の中心線と、IDT電極13におけるIDT電極14側の電極指8の中心線と、の距離を「D2」とする。距離D1及び距離D2は、第1のフィルタ部1では例えば各々0.521λに設定され、第2のフィルタ部2では例えば夫々0.521λ及び0.5λに設定されている。また、第3のフィルタ部3では、前記距離D1、D2は、例えば夫々0.521λ及び0.5λに設定されている。尚、「λ」は圧電基板10上を伝搬する弾性波の波長である。また、後述の「f」は、λ=V/f(V:弾性表面波の速度)で表される周波数である。
【0016】
第1のフィルタ部1の入力側IDT電極13の手前側のバスバー7、第2のフィルタ部2の入力側IDT電極13の奥側のバスバー7及び第3のフィルタ部3の手前側のバスバー7は、共通の入力ポート21に接続されている。また、第1のフィルタ部1の出力側IDT電極14の手前側のバスバー7、第2のフィルタ部2の出力側IDT電極14の奥側のバスバー7及び第3のフィルタ部3の手前側のバスバー7は、共通の出力ポート22に接続されている。従って、フィルタ部1〜3は、入力ポート21及び出力ポート22の間において互いに電気的に並列に接続されている。各々のIDT電極13、14において、信号ポート(入力ポート21あるいは出力ポート22)25に接続されているバスバー7に対向するバスバー7は、各々接地されている。
【0017】
ここで、これらフィルタ部1〜3における各々のIDT電極13、14の配置レイアウトについて詳述する。第1のフィルタ部1と第3のフィルタ部3とは、出力ポート22から取り出される電気信号の位相が互いに同じになるように、信号ポート25から各々のフィルタ部1、2を見た時の互いのIDT電極13(14)が同じレイアウトとなるように配置されている。一方、第2のフィルタ部2は、出力ポート22から取り出される電気信号の位相がこれら第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3とは180°変わるように、IDT電極13、14が配置されている。
【0018】
始めに、第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3の配置レイアウトについて、具体的に説明する。第1のフィルタ部1の入力側IDT電極13では、弾性波の伝搬方向を左右方向と呼ぶと、例えば左端の電極指6が奥側のバスバー7に接続され、当該電極指6の右側の電極指6は、手前側のバスバー7に接続されている。こうして奥側のバスバー7に接続されている電極指6と、手前側に接続されている電極指6と、が弾性波の伝搬方向に沿って交互に互い違いに配置されている。第3のフィルタ部3の入力側IDT電極13についても、奥側のバスバー7に接続されている電極指6と、手前側のバスバー7に接続されている電極指6とは、第1のフィルタ部1における入力側IDT電極13と同じレイアウトで配置されている。従って、これら入力側IDT電極13、13では手前側のバスバー7、7に入力ポート21が各々接続されていることから、入力ポート21から見た時の入力側IDT電極13のレイアウトは、第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3において互いに揃っている。
【0019】
出力側IDT電極14についても同様に、第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3の各々において、左端の電極指6が奥側のバスバー7に接続され、この電極指6の右側の電極指6が手前側のバスバー7に接続されており、これら電極指6、6が弾性波の伝搬方向に沿って交互に配置されている。従って、これら出力側IDT電極14、14では手前側のバスバー7、7に出力ポート22が各々接続されていることから、出力ポート22から見た時の出力側IDT電極14の配置レイアウトは、第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3において互いに揃っている。
【0020】
続いて、第2のフィルタ部2について説明する。この第2のフィルタ部2の入力側IDT電極13では、左端の電極指6が奥側のバスバー7に接続され、この電極指6の右側の電極指6が手前側のバスバー7に接続されている。そして、奥側のバスバー7に接続されている電極指6と、手前側のバスバー7に接続されている電極指6とが弾性波の伝搬方向に沿って交互に配置されている。
【0021】
ここで、入力ポート21は、第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3では手前側のバスバー7に接続されているが、第2のフィルタ部2の入力側IDT電極13では、奥側のバスバー7に接続されている。そのため、入力ポート21から見ると、即ち第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3の各々の入力側IDT電極13を手前側から見ると共に、第2のフィルタ部2の入力側IDT電極13を奥側から見ると、第2のフィルタ部2の入力側IDT電極13は、これら第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3における各々の入力側IDT電極13、13とは電極指6のレイアウトが異なっている。具体的には、入力ポート21に接続されているバスバー7から伸びる電極指6は、第2のフィルタ部1の入力側IDT電極13では左端に配置されているが、第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3では、左側から2番目に配置されている。従って、第2のフィルタ部2の入力側IDT電極13において発生する弾性波は、第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3の各々の入力側IDT電極13、13とは位相が180°変わることになる。
【0022】
一方、第2のフィルタ部2の出力側IDT電極14では、左端の電極指6が手前側のバスバー7に接続され、この電極指6の右側の電極指6が奥側のバスバー7に接続されている。そして、これら電極指6、6が弾性波の伝搬方向に沿って交互に配置されている。従って、第2のフィルタ部2の出力側IDT電極14を手前側から見た時の電極指6の配置レイアウトは、第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3における各々の出力側IDT電極14、14における配置レイアウトとは上下対称となっている。
【0023】
この時、出力ポート22は、第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3では手前側のバスバー7に接続されているが、第2のフィルタ部2の出力側IDT電極14では、奥側のバスバー7に接続されている。そのため、出力ポート22から第2のフィルタ部2の出力側IDT電極14を見た時の電極指6のレイアウトは、第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3における各々の出力側IDT電極14、14を出力ポート22から見た時のレイアウトと揃っていることになる。
【0024】
従って、第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3では、出力ポート22から取り出される電気信号の位相が互いに同位相となる。一方、第2のフィルタ部2では、出力ポート22から取り出される電気信号の位相は、これら第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3とは逆位相となる。このようにフィルタ部1〜3を構成した理由について、以下に詳述する。
【0025】
各々のフィルタ部1〜3は、
図1の下側に弾性波の共振の様子を模式的に示すように、反射器15、15間の領域、IDT電極13、14の各々の内部及びIDT電極13、14間の領域において弾性波が夫々共振を起こすように、既述の各寸法D1、D2や互いに隣接する電極指6、6間のピッチ、互いに隣接する反射器電極指8、8のピッチあるいはこれら電極指6及び反射器電極指8の厚さ寸法などが設定されている。
【0026】
そして、これら反射器15、15間の領域、IDT電極13、14の内部及びIDT電極13、14間の領域にて共振する弾性波の共振点(共振周波数)のうち、IDT電極13、14の内部及びIDT電極13、14間の領域にて共振する弾性波の共振点が通過帯域内に位置するように、既述の各寸法が調整されている。即ち、フィルタ部1〜3の各々は、通過帯域内に2つの共振点が配置された2重モードフィルタとなっている。ここで、各々のフィルタ部1〜3において通過帯域内に位置する2つの共振点のうち低周波数(低域)側の共振点及び高周波数(高域)側の共振点を夫々共振点f
1及び共振点f
2と呼ぶ。そして、第1のフィルタ部1、第2のフィルタ部2及び第3のフィルタ部3の各々の共振点f
1、f
2について、添え字「1」、「2」及び「3」をを夫々付す。
【0027】
第1のフィルタ部1では、
図2の上段に模式的に示すように、低周波数側の共振点f
11が通過帯域の下端に位置するように、既述の各寸法が調整されている。第2のフィルタ部2では、
図2の上側から2段目に示すように、低周波数側の共振点f
12は、第1のフィルタ部1の高周波数側の共振点f
21と重なり合う(同じ周波数となる)ように、既述の各寸法が調整されている。また、第3のフィルタ部3では、
図2の上側から3段目に示すように、低周波数側の共振点f
13は、第2のフィルタ部2の高周波数側の共振点f
22と重なり合うように、既述の各寸法が設定されている。そして、この第3のフィルタ部3の高周波数側の共振点f
23は、通過帯域の上端に位置している。
【0028】
ここで、第1のフィルタ部1の共振点f
21(第2のフィルタ部2の共振点f
12)における周波数を「第1の周波数」、第2のフィルタ部2の共振点f
22(第3のフィルタ部3の共振点f
13)における周波数を「第2の周波数」と呼ぶと、第1のフィルタ部1の共振点f
21と第2のフィルタ部2の共振点f
12とは、第1の周波数において互いの位相が同位相となっている。また、第2のフィルタ部2の共振点f
22と第3のフィルタ部3の共振点f
13とは、第2の周波数において互いの位相が同位相となっている。従って、これらフィルタ部1〜3を入力ポート21と出力ポート22との間において互いに並列に接続しているので、各々のフィルタ部1〜3において共振点f
1と共振点f
2とにより形成される通過帯域が打ち消し合うことなく互いに重なり合い、
図2の下段に示す広帯域な通過帯域が形成されることになる。
【0029】
図3は、既述の
図2に示した各フィルタ部1〜3の特性を実際にシミュレーションして、各々の特性を一つの同じグラフ上に描画した結果を示している。また、
図4は、これらフィルタ部1〜3を合成した場合に(既述の
図1のフィルタにて)得られる特性をシミュレーションした結果を示している。
図4に示すように、各フィルタ部1〜3を合成すると、各共振点f
11、f
21(f
12)、f
22(f
13)及びf
23に各々対応する3つのピークが形成されていることが分かる。尚、
図3及び
図4は、各共振点を判別しやすくするために、ミスマッチ状態(整合していない)状態の特性を示しており、また横軸については通過帯域の中心周波数f
0で規格化した周波数を示している。
そして、以上のフィルタ部1〜3を合成すると共に整合回路にて整合すると、
図5に示すように、通過帯域においてリップルの生成が抑えられた状態で、広帯域な通過帯域が得られる。尚、
図5は、縦軸における0dB付近を拡大して描画している。
【0030】
ここで、従来のフィルタにおいて得られる特性について、2つの2重モードの縦モード共振型フィルタを互いに並列に接続した時に得られる特性を
図6に示す。この例では、2つの縦モード共振型フィルタのうち低域側のフィルタにおける高周波数側の共振点と、高域側のフィルタにおける低周波数側の共振点とについて、互いに同位相となり、且つ互いに同じ周波数となるようにしている。そして、この従来のフィルタの整合を取ると、
図7の特性が得られるが、この特性は本発明(既述の
図5)と比べて通過帯域が狭帯域となっていることが分かる。言い換えると、本発明では、従来(
図7)よりも帯域幅が1.5倍程度となる。尚、
図6はミスマッチ状態の特性、
図7は縦軸における0dB付近を拡大した特性を示している。
【0031】
上述の実施の形態によれば、3つのフィルタ部1〜3を入力ポート21と出力ポート22との間に並列に接続し、第1のフィルタ部1の高域側の共振点f
21と、第2のフィルタ部2の低域側の共振点f
12とを互いに重ね合わせると共に、第2のフィルタ部2の高域側の共振点f
22と、第3のフィルタ部3の低周波数側の共振点f
13と、を互いに重ね合わせている。そして、第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3では出力ポート22から取り出される電気信号の位相が互いに同位相となり、一方第2のフィルタ部2では出力ポート22から取り出される電気信号の位相がこれら第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3とは逆位相となるようにしている。そのため、各々のフィルタ部1〜3において第1の周波数及び第2の周波数において互いに重なり合う共振点同士(共振点f
21及び共振点f
12同士、共振点f
22及び共振点f
13同士)が同位相となるので、これら3つのフィルタ部1〜3の各々の通過帯域によりいわば一つの広い通過帯域を形成することができる。従って、通過帯域におけるリップルの発生を抑えながら、通過帯域を広域化できる。
【0032】
以下、
図1の他の構成例について述べる。
図8は、各々のフィルタ部1〜3については既述の
図1と同じレイアウトで配置すると共に、各々のIDT電極13、14において入力ポート21及び出力ポート22の接続位置を変えた例を示している。即ち、入力ポート21は、各々の入力側IDT電極13において、第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3では奥側のバスバー7に各々接続され、第2のフィルタ部2では手前側のバスバー7に接続されている。また、各々の出力側IDT電極14において、出力ポート22は、第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3では奥側のバスバー7に接続され、第2のフィルタ部2では手前側のバスバー7に接続されている。
【0033】
図9は、奥側から手前側に向かって第2のフィルタ部2、第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3をこの順番で配置した例を示している。入力ポート21及び出力ポート22は、各々のフィルタ部1〜3に対して既述の
図1と同じ構成で接続されている。即ち、入力ポート21は、各々の入力側IDT電極13において、第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3では手前側のバスバー7に各々接続され、第2のフィルタ部2では奥側のバスバー7に接続されている。また、各々の出力側IDT電極14において、出力ポート22は、第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3では手前側のバスバー7に接続され、第2のフィルタ部2では奥側のバスバー7に接続されている。
【0034】
図10は、既述の
図1において、第2のフィルタ部2における出力側IDT電極14の上下を入れ替えた例を示している。即ち、この出力側IDT電極14では、左端の電極指6が奥側のバスバー7に接続され、この電極指6の右側の電極指6が手前側のバスバー7に接続されている。そして、入力ポート21については、
図1と同様に各々の入力側IDT電極13のバスバー7に接続されている。また、出力ポート22については、第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3では
図1と同じ出力側IDT電極14のバスバー7に接続されている。この時、第2のフィルタ部2の出力側IDT電極14では、出力ポート22は、手前側のバスバー7に接続されている。従って、
図10においても、第2のフィルタ部2において出力ポート22から取り出される電気信号の位相は、第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3とは逆位相となっている。
【0035】
以上述べたように、本発明のフィルタは、3つのフィルタ部1〜3を入力ポート21と出力ポート22との間に並列に接続すると共に、第1の周波数及び第2の周波数において各々互いに重なり合う共振点同士の位相が各々同位相となるように、これらフィルタ部1〜3を配置レイアウトや、入力ポート21及び出力ポート22の接続位置が調整される。
【0036】
続いて、既述の各例よりも通過帯域を更に広域化する手法について以下に述べる。
図11は、
図1のように各フィルタ部1〜3を配置すると共に、第3のフィルタ部3の手前側に、第4のフィルタ部4を配置している。第4のフィルタ部4は、入力側IDT電極13、出力側IDT電極14及び一対の反射器15、15を備えており、出力ポート22から取り出される電気信号の位相が第2のフィルタ部2と同位相となるように構成されている。具体的には、第4のフィルタ部4における入力側IDT電極13及び出力側IDT電極14は、第2のフィルタ部2における入力側IDT電極13及び出力側IDT電極14と同じ配置レイアウトを採っている。また、第4のフィルタ部4では入力側IDT電極13の奥側のバスバー7が入力ポート21に接続され、出力側IDT電極14の奥側のバスバー7が出力ポート22に接続されている。従って、
図11では、出力ポート22から取り出される電気信号の位相は、第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3では互いに同位相となり、第2のフィルタ部2及び第4のフィルタ部4では互いに同位相で且つ第1のフィルタ部1及び第3のフィルタ部3とは逆位相となっている。
【0037】
そして、通過帯域内における第4のフィルタ部4の2つの共振点のうち低周波数側の共振点を共振点f
14、高周波数側の共振点を共振点f
24と呼ぶと、
図12に模式的に示すように、第4のフィルタ部4の共振点f
14は、通過帯域内のある周波数(第3の周波数)において、第3のフィルタ部3の高周波数側の共振点f
23と重なり合っている。また、これら共振点f
14と共振点f
23とは、第3の周波数において互いに同位相となっている。
【0038】
従って、この例では、
図13及び
図14に示すように、各フィルタ部1〜4を合成すると、各共振点f
11、f
21(f
12)、f
22(f
13)、f
23(f
14)及びf
24に各々対応する4つのピークが形成されていることが分かる。そして、このフィルタを整合回路において整合させると、
図15に示すように、既述の
図1の例よりも広帯域な通過帯域となる。尚、
図13及び
図14は、各共振点を判別しやすくするために、ミスマッチ状態(整合していない)状態の特性を示しており、また横軸については通過帯域の中心周波数f
0で規格化した周波数を示している。また、
図15については縦軸における0dB付近を拡大して描画している。この時得られる帯域幅は、従来(
図7)と比べて2.0倍程度となる。
【0039】
このように4つのフィルタ部1〜4を配置する場合であっても、これら4つのフィルタ部1〜4が入力ポート21と出力ポート22との間に並列に接続されるように、且つ第1の周波数、第2の周波数及び第3の周波数において互いに重なり合う共振点同士の位相が各々同位相となるように、既述の
図8〜
図10のように、各々のフィルタ部1〜4の配置レイアウトや入力ポート21及び出力ポート22の接続されるバスバー7を調整しても良い。また、各フィルタ部1〜4の配置位置を互いに入れ替えても良い。
図16は、奥側から手前側に向かって第1のフィルタ部1、第4のフィルタ部4、第3のフィルタ部3及び第2のフィルタ部2をこの順番で配置した例を示している。
【0040】
以上の例では、フィルタ部20を3つあるいは4つ配置したが、5つ以上配置しても良い。この場合であっても、各々のフィルタ部20は、入力ポート21と出力ポート22との間において並列に接続されると共に、一のフィルタ部20における高周波数側の共振点と、当該フィルタ部20に対して通過帯域が高周波数側に位置する他のフィルタ部20における低周波数側の共振点とが重なり合い、且つ互いに重なり合う共振点同士が同位相となる。
【0041】
以上の各例において、あるフィルタ部20における高周波数側の共振点と、当該フィルタ部20に対して通過帯域が高周波数側に位置する他のフィルタ部20における低周波数側の共振点とが重なり合うように各々のフィルタ部20の各寸法を調整するにあたって、「重なり合う」とは、互いに同じ周波数となることを意味しているだけではなく、これら共振点同士が僅かにずれている場合も含む。即ち、これら共振点同士が互いに僅かに位置ずれしても、通過帯域内に発生するリップルが極微量であり、特性の劣化がほぼないことから、共振点同士が例えば0.01%程度位置ずれしていても良い。具体的には、共振点f
21と共振点f
12とが互いに重なり合う場合において、例えば共振点f
21がある周波数f
nの時には、共振点f
12はf
n×0.01%以内であれば良い。
【0042】
また、以上のフィルタ部20として、各々通過帯域内に2つの共振点が位置する2重モードを利用したが、通過帯域内に3重モードが各々位置するようにして、3重モードを利用しても良い。この場合であっても、複数のフィルタ部20のうち一のフィルタ部20における高周波数側の共振点と、当該一のフィルタ部20に対して通過帯域が高域側に位置する他のフィルタ部20における低周波数側の共振点と、が同じ周波数にて重なり合うように、且つ同位相となるように各々のフィルタ部20の各寸法が調整される。具体的には、第1のフィルタ部1の共振点がf1、f2、f3(f1<f2<f3)、第2のフィルタ部2の共振点がf4、f5、f6(f4<f5<f6)、第3のフィルタ部3の共振点がf7、f8、f9(f7<f8<f9)の場合には、f3=f4、f6=f7となるように各々のフィルタ部1〜3を構成する。そして、共振点f1、f3、f4、f6、f7、f9の位相が例えば0°の時に、共振点f2、f5、f8の位相が180°となるように設定する。