【実施例】
【0062】
次に、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に何等限定されない。
【0063】
実施例1
金属細線として線径0.28mmのオーステナイト系ステンレス鋼線(SUS304)を一本使用して網目の目幅が縦5mm、横4mmの円筒状の編組金網を作製し、これを一対のローラ間に通して球帯状基体用の補強材としての帯状の編組金網を準備し、この帯状の編組金網と密度1.12Mg/m
3、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シートIとを重ね合わせて重合体を形成し、内側に該帯状の編組金網を配置して、帯状の編組金網が二回、膨張黒鉛シートIが合計5回となるように重合体をうず巻状に捲回して最外周に膨張黒鉛シートIを配置した筒状基体を作製した。この筒状基体においては、膨張黒鉛シートIの幅方向の両端部はそれぞれ帯状の編組金網の幅方向に突出(はみ出し)している。
【0064】
金属細線として線径0.15mmのオーステナイト系ステンレス鋼線(SUS316)を一本使用して網目の目幅が縦2.01mm、横0.70mm(マイクロスコープにて測定)の部分凸球面状中間層用の補強材としての円筒状の編組金網を連続的に編むと共に該円筒状の編組金網の内部の二つの層間に前記膨張黒鉛シートIと同様の膨張黒鉛シートIを連続的に挿入し、該膨張黒鉛シートIの挿入開始端から該膨張黒鉛シートIを二つの層間に挿入した円筒状の編組金網を、一対の円筒ローラ間の隙間に供給して該膨張黒鉛シートIの厚さ方向に加圧して円筒状の編組金網を扁平状の編組金網にし、この扁平状の編組金網の網目に膨張黒鉛シートIの膨張黒鉛を充填すると共に扁平状の編組金網の一部と膨張黒鉛シートの膨張黒鉛とが共に外表面に露出し、扁平状の編組金網の他の部分が膨張黒鉛シートIに埋設するように互いに圧着して、外表面での編組金網からなる面の占有面積率が34.5%であると共に編組金網の幅方向の両側に膨張黒鉛シートIの膨張黒鉛が充填されない部分を有する部分凸球面状中間層用シートを作製した。
【0065】
該部分凸球面状中間層用シートを、前記筒状基体の外周面に2回捲回して筒状母材を形成した。
【0066】
前記膨張黒鉛シートIと同様の密度1.12Mg/m
3、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シートIを別途準備する一方、解膠剤として作用する硝酸を含有した分散媒としての水にアルミナ水和物としてベーマイト(アルミナ一水和物:Al
2O
3・H
2O)を分散含有した水素イオン濃度(pH)が2を呈するアルミナゾルを準備し、このアルミナゾルにh−BN粉末及びPTFE粉末を分散含有した水性ディスパージョンであって、h−BN45.0質量%とPTFE50.0質量%及びベーマイト5.0質量%を含む潤滑組成物を固形分として50質量%分散含有した水性ディスパージョン(h−BN22.5質量%、PTFE25.0質量%及びベーマイト2.5質量%)を、該膨張黒鉛シートIの一方の表面にローラ塗りし、乾燥して該潤滑組成物からなる固体潤滑剤の被覆層(h−BN45.0質量%、PTFE50.0質量%及びベーマイト5.0質量%)を膨張黒鉛シートの一方の表面に形成し、膨張黒鉛シートとこの膨張黒鉛シートの一方の表面を被覆した固体潤滑剤の被覆層とからなる複層シートを作製した。
【0067】
前記部分凸球面状中間層用の補強材となる編組金網と同様の線径0.15mmのオーステナイト系ステンレス鋼線(SUS316)を一本使用して網目の目幅が縦2.01mm、横0.70mmの円筒状の編組金網を連続的に編むと共に該円筒状の編組金網の内部の二つの層間に該複層シートを連続的に挿入し、該複層シートの挿入開始端から該複層シートを二つの層間に挿入した円筒状の編組金網を、一対の円筒ローラ間の隙間に供給して該複層シートの厚さ方向に加圧して円筒状の編組金網を扁平状の編組金網にし、複層シートと当該扁平状の編組金網とを一体化し、該編組金網の網目に複層シートの膨張黒鉛シートIの膨張黒鉛を充填すると共に外表面に編組金網の一部と複層シートの被覆層の固体潤滑剤とが共に露出し、編組金網の他の部分が複層シートの被覆層及び膨張黒鉛シートに埋設するように互いに圧着して、外表面での編組金網からなる面の占有面積率が34.5%であると共に外表面に編組金網からなる面と被覆層の固体潤滑剤からなる面とが混在して露出した外層用シートを作製した。
【0068】
前記筒状母材の外周面に該外層用シートを、その固体潤滑剤が露出した側の面を外側にして捲回し、予備円筒成形体を作製した。
【0069】
この予備円筒成形体を
図19に示す金型の段付きコアに挿入し、該予備円筒成形体を金型の中空部に配置した。
【0070】
金型の中空部に配した予備円筒成形体をコア軸方向に294N/mm
2(3トン/cm
2)の圧力で圧縮成形し、中央部の貫通孔を規定すると共に球帯状基体用の補強材としての帯状の編組金網が露出した円筒内面と部分凸球面状面と部分凸球面状面の大径側及び小径側の環状端面とにより規定された球帯状基体と、球帯状基体の部分凸球面状面に一体的に形成されていると共に径方向に積層された複数の部分凸球面状中間層と、該部分凸球面状中間層のうちの最外側の部分凸球面状中間層の部分凸球面状面に一体的に形成された外層とを備えた球帯状シール体を作製した。
【0071】
得られた球帯状シール体において、球帯状基体は、線径が0.28mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦5mm、横4mmの圧縮された編組金網からなる球帯状基体用の補強材と、この補強材の編組金網の網目を充填し、かつこの補強材の編組金網と混在一体化されていると共に圧縮された膨張黒鉛を含む耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々は、線径が0.15mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦2.01mm、横0.70mmの圧縮された編組金網からなる部分凸球面状中間層用の補強材と、この補強材の編組金網の網目を充填し、かつ補強材と混在一体化されて圧縮された膨張黒鉛を含む部分凸球面状中間層用の耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々の外表面での部分凸球面状中間層用の補強材からなる面の占有面積率は、34.5%であり、外層は、線径が0.15mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦2.01mm、横0.70mmの編組金網からなる外層用の補強材と、潤滑組成物からなる固体潤滑剤と、膨張黒鉛を含む外層用の耐熱材とが圧縮されて外層用の補強材の編組金網の網目に固体潤滑剤及び外層用の耐熱材が充填されてなり、該外層の外表面は、外層用の補強材からなる面と固体潤滑剤からなる面とが露出して混在した平滑な混成面に形成されており、該外層の外表面での外層用の補強材からなる面の占有面積率は、34.5%である。
【0072】
実施例2
前記実施例1と同様にして筒状基体を作製した。この筒状基体においては、膨張黒鉛シートIの幅方向の両端部はそれぞれ球帯状基体用の補強材となる帯状の編組金網の幅方向に突出(はみ出し)している。
【0073】
金属細線として線径0.15mmのオーステナイト系ステンレス鋼線(SUS316)を一本使用して網目の目幅が縦1.24mm、横0.64mm(マイクロスコープにて測定)の部分凸球面状中間層用の補強材としての円筒状の編組金網を連続的に編むと共に該円筒状の編組金網の内部の二つの層間に前記膨張黒鉛シートIと同様の膨張黒鉛シートIを連続的に挿入し、該膨張黒鉛シートIの挿入開始端から該膨張黒鉛シートIを挿入した円筒状の編組金網を、一対の円筒ローラ間の隙間に供給して該膨張黒鉛シートIの厚さ方向に加圧して円筒状の編組金網を扁平状の編組金網にし、この編組金網の網目に膨張黒鉛シートIの膨張黒鉛を充填すると共に編組金網の一部と膨張黒鉛シートIの膨張黒鉛とがと共に外表面に露出し、編組金網のその他の部分が膨張黒鉛シートIに埋設するように互いに圧着して、外表面での編組金網からなる面の占有面積率が42.1%であると共に編組金網の幅方向の両側に膨張黒鉛シート膨張黒鉛が充填されない部分を有する部分凸球面状中間層用シートを作製した。
【0074】
該部分凸球面状中間層用シートを、前記筒状基体の外周面に2回捲回して筒状母材を形成した。前記実施例1と同様にして、膨張黒鉛シートIの一方の表面に固体潤滑剤の被覆層(h−BN45.0質量%、PTFE50.0質量%及びベーマイト5.0質量%)を形成した複層シートを作製した。
【0075】
前記部分凸球面状中間層用シートを形成する編組金網と同様の網目の目幅が縦1.24mm、横0.64mmの円筒状の編組金網を連続的に編むと共に該円筒状の編組金網の内部の二つの層間に該複層シートを連続的に挿入し、該複層シートの挿入開始端から該複層シートを挿入した円筒状の編組金網を、一対の円筒ローラ間の隙間に供給して該複層シートの厚さ方向に加圧して円筒状の編組金網を扁平状の編組金網に変形し、複層シートと当該編組金網とを一体化し、該編組金網の網目に複層シートの膨張黒鉛シートIの膨張黒鉛を充填すると共に外表面に編組金網の一部と複層シートの膨張黒鉛シートIの膨張黒鉛とが共に露出し、編組金網の他の部分が複層シートの被覆層及び膨張黒鉛シートに埋設するように互いに圧着して、外表面での編組金網からなる面の占有面積率が42.1%であると共に外表面に編組金網からなる面と固体潤滑剤からなる面とが混在して露出した外層用シートを作製した。
【0076】
前記筒状母材の外周面に該外層用シートを、その固体潤滑剤が露出した側の面を外側にして捲回し、予備円筒成形体を作製し、以下実施例1と同様の方法で中央部の貫通孔を規定すると共に球帯状基体用の補強材としての帯状の編組金網が露出した円筒内面と部分凸球面状面の大径側及び小径側の環状端面とにより規定された球帯状基体と、球帯状基体の部分凸球面状面に一体的に形成されていると共に径方向に積層された複数の部分凸球面状中間層と、該部分凸球面状中間層のうちの最外側の部分凸球面状中間層の部分凸球面状面に一体的に形成された外層とを備えた球帯状シール体を作製した。
【0077】
得られた球帯状シール体において、球帯状基体は、線径が0.28mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦5mm、横4mmの圧縮された編組金網からなる球帯状基体用の補強材と、この補強材の編組金網の網目を充填し、かつこの補強材の編組金網と混在一体化されていると共に圧縮された膨張黒鉛を含む耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々は、線径が0.15mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.24mm、横0.64mmの圧縮された編組金網からなる部分凸球面状中間層用の補強材と、この補強材の円筒状の編組金網の網目を充填し、かつ補強材と混在一体化されて圧縮された膨張黒鉛を含む部分凸球面状中間層用の耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々の外表面での部分凸球面状中間層用の補強材からなる面の占有面積率は、42.1%であり、外層は、線径が0.15mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.24mm、横0.64mmの編組金網からなる外層用の補強材と、潤滑組成物からなる固体潤滑剤と、膨張黒鉛を含む外層用の耐熱材とが圧縮されて外層用の補強材の編組金網の網目に固体潤滑剤及び外層用の耐熱材が充填されてなり、該外層の外表面は、外層用の補強材からなる面と固体潤滑剤からなる面とが露出して混在した平滑な混成面に形成されており、該外層の外表面での外層用の補強材からなる面の占有面積率は42.1%である。
【0078】
実施例3
前記実施例1において、各耐熱材としての膨張黒鉛シートに、第一燐酸アルミニウム4.0質量%及び膨張黒鉛を含む密度1.12Mg/m
3、厚さ0.4mmの膨張黒鉛シートIIを使用した以外は前記実施例1と同様の構成材料及び同様の方法で球帯状シール体を作製した。
【0079】
得られた球帯状シール体において、球帯状基体は、線径が0.28mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦5mm、横4mmの圧縮された編組金網からなる球帯状基体用の補強材と、この補強材の編組金網の網目を充填し、かつこの補強材の編組金網と混在一体化されていると共に圧縮された第一燐酸アルミニウムと膨張黒鉛を含む耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々は、線径が0.15mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦2.01mm、横0.70mmの圧縮された編組金網からなる部分凸球面状中間層用の補強材と、この補強材の編組金網の網目を充填し、かつ補強材と混在一体化されて圧縮された第一燐酸アルミニウム及び膨張黒鉛を含む部分凸球面状中間層用の耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々の外表面での部分凸球面状中間層用の補強材からなる面の占有面積率は、34.5%であり、外層は、線径が0.15mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦2.01mm、横0.70mmの編組金網からなる外層用の補強材と、潤滑組成物からなる固体潤滑剤と、第一燐酸アルミニウム及び膨張黒鉛を含む外層用の耐熱材とが圧縮されて外層用の補強材の編組金網の網目に固体潤滑剤及び外層用の耐熱材が充填されてなり、該外層の外表面は、外層用の補強材からなる面と固体潤滑剤からなる面とが露出して混在した平滑な混成面に形成されており、該外層の外表面での該外層用の補強材からなる面の占有面積率は、34.5%である。
【0080】
実施例4
前記実施例2において、各耐熱材としての膨張黒鉛シートに、五酸化燐1.0質量%、第一燐酸アルミニウム4.0質量%及び膨張黒鉛を含む密度1.12Mg/m
3、厚さ0.4mmの膨張黒鉛シートIIIを使用した以外は前記実施例2と同様の構成材料及び実施例1と同様の方法で球帯状シール体を作製した。
【0081】
得られた球帯状シール体において、球帯状基体は、線径が0.28mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦5mm、横4mmの圧縮された編組金網からなる球帯状基体用の補強材と、この補強材の編組金網の網目を充填し、かつこの補強材の編組金網と混在一体化されていると共に圧縮された第一燐酸アルミニウム4.0重量%、五酸化燐1.0質量%及び膨張黒鉛を含む耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々は、線径が0.15mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.24mm、横0.64mmの圧縮された編組金網からなる部分凸球面状中間層用の補強材と、この補強材の円筒状の編組金網の網目を充填し、かつ補強材と混在一体化されて圧縮された第一燐酸アルミニウム4.0重量%、五酸化燐1.0質量%及び膨張黒鉛を含む耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々の外表面での部分凸球面状中間層用の補強材からなる面の占有面積率は、42.1%であり、外層は、線径が0.15mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.24mm、横0.64mmの編組金網からなる外層用の補強材と、潤滑組成物からなる固体潤滑剤と、第一燐酸アルミニウム4.0重量%、五酸化燐1.0質量%及び膨張黒鉛を含む外層用の耐熱材とが圧縮されて外層用の補強材の編組金網の網目に固体潤滑剤及び外層用の耐熱材が充填されなり、該外層の外表面は、外層用の補強材からなる面と固体潤滑剤からなる面とが露出して混在した平滑な混成面に形成されており、該外層の外表面での外層用の補強材からなる面の占有面積は、42.1%である。
【0082】
比較例1(特許文献2の実施例3相当)
金属細線として線径0.28mmのオーステナイト系ステンレス鋼線(SUS304)を一本使用して網目の目幅が縦5mm、横4mmの円筒状の編組金網を作製し、これを一対のローラ間に通して帯状の編組金網とし、これを球帯状基体用の補強材とした。球帯状基体用の耐熱材となる膨張黒鉛シートに、密度1.12Mg/m
3、厚さ0.4mmの膨張黒鉛シートIを使用し、この膨張黒鉛シートIと該帯状の編組金網とを重ね合わせて重合体を形成し、内側に帯状の編組金網を配置して該重合体をうず巻き状に捲回して最外周に膨張黒鉛シートIを配した筒状母材を作製した。この筒状母材においては、膨張黒鉛シートIの幅方向の両端部はそれぞれ球帯状基体用の補強材となる帯状の編組金網の幅方向に突出(はみ出し)している。
【0083】
外層用の耐熱材として、密度0.3Mg/m
3、厚さ1.35mmの膨張黒鉛シートIを使用した。外層用の補強材として、線径0.15mmのオーステナイト系ステンレス鋼線(SUS304)を連続的に編んだ網目の目幅が縦3.5mm、横2.5mmの円筒状の編組金網を使用し、該円筒状の編組金網の内面に外層用の耐熱材となる膨張黒鉛シートIを連続的に挿入し、該膨張黒鉛シートIの挿入開始端から該膨張黒鉛シートIを挿入した円筒状の編組金網を、円筒ローラと外周面に軸方向に沿って複数個の環状凹溝を有するローラとの隙間(隙間Δ1は0.50mmとした。)に供給して該膨張黒鉛シートIの厚さ方向に加圧し、さらに別の一対の円筒ローラ間の隙間(隙間Δ2は0.45mmとした。)に供給し、加圧して扁平にされた編組金網の網目に膨張黒鉛シートIの膨張黒鉛を密に充填すると共に該膨張黒鉛シートI中に編組金網が埋設するように膨張黒鉛シ−トと編組金網と互いに圧着して、膨張黒鉛シートIの面と編組金網からなる面とを面一にすると共に外表面で該編組金網からなる面と膨張黒鉛シートの膨張黒鉛からなる面とが点在して露出した外層用の複合シートを作製した。
【0084】
潤滑組成物として、前記実施例1と同様の水性ディスパージョン(h−BN45.0質量%とPTFE50.0質量%及びベーマイト5.0質量%を含む潤滑組成物を固形分として50質量%分散含有した水性ディスパージョン(h−BN22.5質量%、PTFE25.0質量%及びベーマイト2.5質量%)を使用し、この水性ディスパージョンを、該複合シートの前記環状凹溝を有するローラによって加圧された側の表面にローラ塗りし、乾燥して該複合シートの一方の表面に潤滑組成物からなる固体潤滑剤の被覆層(h−BN45.0質量%とPTFE50.0質量%及びベーマイト5.0質量%)を形成した外層用の複層シートを作製した。
【0085】
前記筒状母材の外周面に該外層用の複層シートをその被覆層を外側にして捲回し、予備円筒成形体を作製し、以下前記実施例1と同様の圧縮成形により、中央部の貫通孔を規定する円筒内面、部分凸球面状面並びに部分凸球面状面の大径側及び小径側の環状端面により規定された球帯状基体と、球帯状基体の部分凸球面状面に一体的に形成された外層とを備えた球帯状シール体を作製した。
【0086】
得られた球帯状シール体において、球帯状基体は、圧縮された膨張黒鉛を含む球帯状基体用の耐熱材と、線径が0.28mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦5mm、横4mmの圧縮された編組金網からなると共に球帯状基体用の耐熱材の圧縮された膨張黒鉛シートIに絡み合って当該膨張黒鉛シートIと構造的一体性を有する球帯状基体用の補強材とを具備しており、外層は、圧縮された編組金網からなる補強材と、該補強材の編組金網の網目を充填し、かつ補強材の編組金網の網目に充填されていると共に圧縮された膨張黒鉛シートIからなる耐熱材と、被覆層の固体潤滑剤とを具備しており、平滑な外層の外表面は、被覆層の固体潤滑剤からなっている(
図22及び
図23参照)。
【0087】
比較例2(特許文献2の実施例6相当)
前記比較例1と同様の球帯状基体用の補強材としての円筒状の編組金網を使用した。球帯状基体用の耐熱材としての膨張黒鉛シートに、第一燐酸アルミニウム4.0質量%及び膨張黒鉛を含む密度1.12Mg/m
3、厚さ0.4mmの膨張黒鉛シートIIを使用し、この膨張黒鉛シートIIと帯状の編組金網を重ね合わせて重合体を形成し、内側に帯状の編組金網を配置して重合体をうず巻き状に捲回して最外周に膨張黒鉛シートIIを配した筒状母材を作製した。この筒状母材においては、膨張黒鉛シートIIの幅方向の両端部はそれぞれ球帯状基体用の補強材となる帯状の編組金網の幅方向に突出(はみ出し)している。
【0088】
外層用の耐熱材としての膨張黒鉛シートに、第一燐酸アルミニウム4.0質量%及び膨張黒鉛を含む密度0.3Mg/m
3、厚さ1.35mmの膨張黒鉛シートIIを使用した。前記比較例1と同様の線径0.15mmのオーステナイト系ステンレス鋼線(SUS304)を使用して網目の目幅が縦3.5mm、横2.5mmの外層用の耐熱材としての円筒状の編組金網を連続的に編むと共に該円筒状の編組金網の内面に外層用の耐熱材としての膨張黒鉛シートIIを連続的に挿入し、以下前記比較例1と同様の方法で外層用の耐熱材の表面と外層用の補強材の表面とを面一に形成すると共に該補強材の表面と耐熱材の表面とが露出した外層用の複合シートを作製した。
【0089】
前記比較例1と同様にして、外層用の複合シートの一方の表面に固体潤滑剤の被覆層(h−BN45.0質量%とPTFE50.0質量%及びベーマイト5.0質量%)を形成した外層用の複層シートを作製した。
【0090】
前記筒状母材の外周面に該外層用の複層シートをその被覆層を外側にして捲回し、予備円筒成形体を作製し、以下前記実施例1と同様の圧縮成形により、中央部の貫通孔を規定する円筒内面、部分凸球面状面並びに部分凸球面状面の大径側及び小径側の環状端面により規定された球帯状基体と、球帯状基体の部分凸球面状面に一体的に形成された外層とを備えた球帯状シール体を作製した。
【0091】
得られた球帯状シール体において、球帯状基体は、第一燐酸アルミニウム4.0重量%及び膨張黒鉛を含む圧縮された膨張黒鉛シートIIからなる耐熱材と、線径が0.28mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦5mm、横4mmの編組金網からなると共に圧縮された膨張黒鉛シートIIに絡み合って構造的一体性を有する球帯状基体用の補強材とを有しており、外層は、圧縮された編組金網からなる補強材と、該補強材の編組金網の網目を充填すると共に圧縮された膨張黒鉛シートIIからなる耐熱材と、被覆層の固体潤滑剤とを具備しており、平滑な外層の外表面は、被覆層の固体潤滑剤からなっている。
【0092】
比較例3(特許文献2の実施例8相当)
球帯状基体用の補強材として前記比較例1と同様の帯状の編組金網を使用した。球帯状基体用の耐熱材となる膨張黒鉛シートに、五酸化燐1.0質量%、第一燐酸アルミニウム4.0質量%及び膨張黒鉛を含む密度1.12Mg/m
3、厚さ0.4mmの膨張黒鉛シートIIIを使用し、この膨張黒鉛シートIIIと帯状の編組金網との重合体をうず巻き状に捲回して最外周に該膨張黒鉛シートIIIを配して筒状母材を作製した。この筒状母材においては、膨張黒鉛シートIIIの幅方向の両端部はそれぞれ球帯状基体用の補強材となる帯状の編組金網の幅方向に突出(はみ出し)している。
【0093】
外層用の耐熱材として、五酸化燐1.0質量%、第一燐酸アルミニウム4.0重量%及び膨張黒鉛を含む密度0.3Mg/m
3、厚さ1.35mmの膨張黒鉛シートIIIを使用した。外層用の補強材として、前記比較例1と同様の線径0.15mmのオーステナイト系ステンレス鋼線(SUS304)を連続的に編んだ網目の目幅が縦3.5mm、横2.5mmの円筒状の編組金網を使用し、該円筒状の編組金網の内面に外層用の耐熱材としての膨張黒鉛シートIIIを連続的に挿入し、以下前記比較例1と同様の方法で外層用の耐熱材としての膨張黒鉛シートIIIの五酸化燐1.0質量%、第一燐酸アルミニウム4.0重量%及び膨張黒鉛からなる面と外層用の補強材としての編組金網からなる面とを面一にすると共に外表面で該編組金網からなる面と膨張黒鉛シートIIIの五酸化燐1.0質量%、第一燐酸アルミニウム4.0重量%及び膨張黒鉛からなる面とが点在して露出した外層用の複合シートを作製した。
【0094】
前記比較例1と同様にして、外層用の複合シートの一方の表面に固体潤滑剤の被覆層(h−BN45.0質量%とPTFE50.0質量%及びベーマイト5.0質量%)を形成した外層用の複層シートを作製した。
【0095】
前記筒状母材の外周面に該外層用の複層シートをその被覆層を外側にして捲回し、予備円筒成形体を作製し、以下前記実施例1と同様の圧縮成形により、中央部の貫通孔を規定する円筒内面、部分凸球面状面並びに部分凸球面状面の大径側及び小径側の環状端面により規定された球帯状基体と、球帯状基体の部分凸球面状面に一体的に形成された外層とを備えた球帯状シール体を作製した。
【0096】
得られた球帯状シール体において、球帯状基体は、第一燐酸アルミニウム4.0質量%、五酸化燐1.0質量%及び膨張黒鉛を含む圧縮された膨張黒鉛シートIIIからなる耐熱材と、線径が0.28mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦5mm、横4mmの編組金網からなると共に圧縮された膨張黒鉛シートIIIに絡み合って構造的一体性を有する球帯状基体用の補強材とを有しており、外層は、圧縮された編組金網からなる補強材と、該補強材の編組金網の網目を充填すると共に圧縮された膨張黒鉛シートIIIからなる耐熱材と、被覆層の潤滑剤とを具備しており、平滑に形成されている外層の外表面は、被覆層の固体潤滑剤からなっている。
【0097】
次に、上記した実施例1ないし実施例4及び比較例1ないし比較例4で得た球帯状シール体を
図20に示す排気管球面継手に組み込み、摩擦異常音の発生の有無及びガス漏れ量(l/min)及び摩耗量について試験した結果を説明する。
【0098】
<摩擦異常音発生の有無の試験条件>
コイルバネによる押圧力(スプリングセットフォース):1177N
揺動角度:±3°
加振周波数:12Hz
温度(
図20に示す凹球面部302の外表面温度):室温(25℃)〜500℃
試験回数:12サイクル(300万回)
相手材(
図20に示す径拡大部301の材質):SUS304
【0099】
<試験方法と測定方法>
室温(25℃)において12Hzの加振周波数で±3°の揺動運動を1回として45,000回行ったのち、該揺動運動を継続しながら雰囲気温度を500℃の温度まで昇温(昇温中の揺動回数45,000回)し、500℃の温度に到達した時点で115,000回の揺動運動を行い、ついで該揺動運動を継続しながら雰囲気温度を室温まで降温(降温中の揺動回数45,000回)するという全揺動回数250,000回を1サイクルとして12サイクル(3,000,000回)行う。
【0100】
摩擦異常音の発生の有無の評価は、上記の(1)揺動回数50万回、(2)揺動回数100万回、(3)揺動回数150万回、(4)揺動回数200万回、(5)揺動回数250万回及び(6)揺動回数300万回の時点で、次の判定レベルにて行った。
【0101】
<摩擦異常音の判定レベル>
記号:0 摩擦異常音の発生なし。
記号:0.5 集音パイプで摩擦異常音の発生を確認できる。
記号:1 排気管球面継手の摺動部位から約0.2m離れた位置で摩擦異常音の発 生を確認できる。
記号:1.5 排気管球面継手の摺動部位から約0.5m離れた位置で摩擦異常音の発 生を確認できる。
記号:2 排気管球面継手の摺動部位から約1m離れた位置で摩擦異常音の発生を 確認できる。
記号:2.5 排気管球面継手の摺動部位から約2m離れた位置で摩擦異常音の発生を 確認できる。
記号:3 排気管球面継手の摺動部位から約3m離れた位置で摩擦異常音の発生を 確認できる。
記号:3.5 排気管球面継手の摺動部位から約5m離れた位置で摩擦異常音の発生を 確認できる。
記号:4 排気管球面継手の摺動部位から約10m離れた位置で摩擦異常音の発生 を確認できる。
記号:4.5 排気管球面継手の摺動部位から約15m離れた位置で摩擦異常音の発生 を確認できる。
記号:5 排気管球面継手の摺動部位から約20m離れた位置で摩擦異常音の発生 を確認できる。
以上の判定レベルの総合判定において、記号:0から記号:2.5までを摩擦異常音の発生なし(合格)と判定し、記号3から記号5までを摩擦異常音の発生あり(不合格)とした。
【0102】
また、上記試験条件における試験回数300万回終了後の各実施例1ないし実施例4及び比較例1ないし比較例3からなる球帯状シール体の外層の摩耗量を測定した。
【0103】
<ガス漏れ量の試験条件>
コイルバネによる押圧力(スプリングセットフォース):588N
揺動角度:±3°
加振周波数(揺動速度):1.6Hz
温度(
図20に示す凹球面部302の外表面温度):室温(25℃)〜500℃
揺動回数:300万回
相手材(
図20に示す径拡大部301の材質):SUS304
【0104】
<試験方法>
室温において1.6Hzの加振周波数で±3°の揺動運動を継続しながら温度を500℃まで昇温し、その温度を保持した状態で揺動運動を継続し、揺動回数が100万回、200万回及び300万回に到達した時点でのガス漏れ量について測定した。
【0105】
<ガス漏れ量の測定方法>
図20に示す排気管球面継手の上流側排気管100の開口部を閉塞し、下流側排気管200側から、49kPa(0.5kgf/cm
2)の圧力で乾燥空気を流入し、継手部分(球帯状シール体46の面47と径拡大部301との摺接部、球帯状シール体46の円筒内面38と上流側排気管100の管端部101との嵌合部及び環状端面40と上流側排気管100に立設されたフランジ部102との当接部)からのガス漏れ量を流量計にて、(1)試験初期(開始前)、(2)揺動回数4サイクル(100万回)、(3)揺動回数8サイクル(200万回)及び(4)揺動回数12サイクル(300万回)後の静止中立状態及び加振状態でのガス漏れ量を測定した。
【0106】
表1及び表2は上記試験結果を示す。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
上記表2の摩耗量において、実施例1ないし実施例4からなる球帯状シール体の揺動回数300万回後の外層の表面状態は最外層の金網からなる補強材が摩滅し、その下層に位置する二層目の補強材が露出していたのに対し、比較例1ないし比較例3からなる球帯状シール体の外層は、揺動回数125万回で最外層の金網からなる補強材が摩滅し、その下層に位置する膨張黒鉛を含む耐熱材が露出していた。表中の摩耗量の*印は、揺動回数125万回終了時点の摩耗量である。
【0110】
表1及び表2に示す試験結果から、実施例1ないし実施例4からなる球帯状シール体は、摩擦異常音の評価において、比較例1ないし比較例3からなる球帯状シール体よりも優れていることがわかる。比較例1ないし比較例3からなる球帯状シール体に摩擦異常音が発生したのは、表2に示す摩耗量の試験結果から、揺動回数125万回終了後において、摺動摩擦面に膨張黒鉛を含む耐熱材のみが露出した面になっており、相手材とはこの露出した耐熱材との摺動摩擦に移行したためと推察される。
【0111】
以上のように、本発明の球帯状シール体によれば、外層が相手材との摺動摩擦によって摩滅、消失して、相手材との摺動が部分凸球面状中間層に移行しても、該部分凸球面状中間層の夫々は、線径が0.10〜0.20mmの金属細線を用いて編まれた網目の目幅が縦1.0〜3.0mm、横0.5〜2.5mmの編組金網からなる部分凸球面状中間層用の補強材と、この補強材の編組金網の網目を充填し、かつ当該補強材と混在一体化されて圧縮された膨張黒鉛を含む耐熱材とを具備しており、部分凸球面状中間層の夫々の外表面での部分凸球面状中間層用の補強材からなる面の占有面積率は、30〜60%であるので、相手材とは常に部分凸球面状中間層用の補強材からなる面と部分凸球面状中間層用の耐熱材からなる面とが混在した外表面で摺動し、部分凸球面状中間層用の耐熱材及び補強材の夫々に負荷される荷重が低減される結果、微小な揺動運動や軸方向の過大な入力が長期間連続して負荷された場合においても、相手材表面に摺動摩擦痕等の損傷を生じさせることが極めて少なく、損傷に起因する相手材表面の粗面化を極力防止でき、結果として、部分凸球面状中間層の部分凸球面状面と相手材との間のシール性の低下を極力防止できると共に異常摩擦音の発生を極力防止することができる球帯状シール体及びその製造方法を提供することができる。