【実施例】
【0033】
以下には、本発明の非水電解質ハロゲン電池の使用方法について具体的に説明する。
【0034】
[実施例1]
(評価セルの作製)
正極は次のようにして作製した。まず、導電材としてのケッチェンブラック(三菱化学製ECP−6000)146mgと、結着材としてのテフロンバインダー(ダイキン工業製、テフロンは登録商標)12mgと、酸化還元触媒としての電解二酸化マンガン(三井鉱山製)10mgとを乾式で乳鉢を用いて練り合わせてシート状の正極合材を得た。この正極合材3mgを6mm×30mmのPtメッシュ(ニラコ製)に圧着して0.2cm
2の正極とした。また、負極には厚さ0.4mmで6mm×30mmの金属リチウム(本城金属製)を用いた。イオン伝導媒体としての電解液は、次のようにして調製した。まず、支持塩としてのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(関東化学製)1mol/Lを、電解液溶媒としてのジメチルスルホキシドに溶解させて溶液を調製した。この溶液12mLにヨウ素(アルドリッチ製)165mg(0.054mol/L)を溶解させて電解液とした。このようにして得られた正極、負極、電解液を用いて、次のように評価セルを作製した。まず、
図2に示すように、正極22及び負極24をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内でビーカーセル20にセットし、電解液26を注入した。次に、ビーカーセル20の開放部にプラスチック製の蓋28を取り付け、ビーカーセル20を密閉して評価セル(F型セル)とした。なお、ビーカーセル内の空間にはアルゴンが充填されている。また、ビーカーセル20の容量は約30mlである。このようにして得られた評価セルを実施例1とした。
【0035】
(充放電試験)
組み立てた評価セルを北斗電工製の充放電装置(HJ1001SM8A)に接続し、正極と負極との間で0.010mAの電流を流して放電させた。
図3は、実施例1の放電曲線である。初期の開放電圧は3.92Vであった。また、正極合材あたり100mAh/gまで放電した後の電圧は3.7Vを維持していた。
【0036】
[実施例2]
ヨウ素を110mg(0.036mol/L)溶解させて電解液を調製した以外は、実施例1と同様の工程を経て実施例2の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図4は、実施例2の放電曲線である。初期の開放電圧は3.96Vであった。3.7Vまでの放電での放電容量は正極合材あたり60mAh/gであった。
【0037】
[実施例3,4]
電解液溶媒としてジメチルスルホキシドとジフェニルスルホキシドとの混合溶媒(質量比2:1)を用いて電解液を調製した以外は、実施例1と同様の工程を経て実施例3の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図5は、実施例3の放電曲線である。初期の開放電圧は3.89Vであった。また、正極合材あたり100mAh/gを超えても3.85V以上の開放電圧を維持していた。また、ジメチルスルホキシドとジフェニルスルホキシドとの混合溶媒の質量比を1:1とした以外は、実施例3と同様の工程を経て実施例4の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図6は、実施例4の放電曲線である。初期の開放電圧は3.84Vであった。正極合材あたり200mAh/gを超えても3.79Vを維持していた。
【0038】
[比較例1]
電解液溶媒としてエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒(体積比3:7、富山薬品製)を用いて電解液を調製した以外は実施例1と同様の工程を経て比較例1の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図7は、比較例1の放電曲線である。初期の開放電圧は3.54Vであり、3.4V付近に平坦部が観測された。
【0039】
[比較例2]
支持塩として0.4mol/Lのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを用い、電解液溶媒としてN−メチル−N−プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドを用いて電解液を調製した以外は実施例1と同様の工程を経て比較例2の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図8は、比較例2の放電曲線である。初期の開放電圧は3.67Vであり、3.35V付近に平坦部が観測された。
【0040】
[比較例3]
電解液溶媒としてジメトキシエタン(アルドリッチ製)を用いた以外は実施例1と同様の工程を経て比較例3の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図9は、比較例3の放電曲線である。初期の開放電圧は3.62Vであり、3.35V付近に平坦部が観測された。
【0041】
[実施例5]
電解液溶媒としてジエチルサルファイト(アルドリッチ製)を用いた以外は実施例1と同様の工程を経て実施例5の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図10は、実施例5の放電曲線である。初期の開放電圧は3.63Vであり、正極合材あたり100mAh/gを放電しても3.5V以上を維持していた。
【0042】
[実施例6,7]
電解液溶媒としてテトラメチレンスルホキシド(アルドリッチ製)を用いた以外は実施例1と同様の工程を経て実施例6の評価セルを作製した。作製した評価セルを充放電装置に接続し、正極と負極との間で0.010mAの電流を流して、正極合材あたり110mAh/gまで放電させたのち、正極合材あたり110mAh/gまで充電させた。
図11は、実施例6の充放電曲線である。初期の開放電圧は3.93Vであり、充放電における作動電圧は3.9V以上であった。また、実施例6と同様の工程を経て実施例7の評価セルを作製した。作製した評価セルを充放電装置に接続し、正極と負極との間で0.010mAの電流を流して3.8Vまで放電させた。
図12は、実施例7の放電曲線である。初期の開放電圧は3.93Vであり、3.8Vまでの放電での放電容量は正極合材あたり330mAh/gであった。
【0043】
[実施例8,9]
電解液溶媒としてテトラメチレンスルホン(アルドリッチ製)を用いて電解液を調製した以外は実施例1と同様の工程を経て実施例8の評価セルを作製した。作製した評価セルを充放電装置に接続し、正極と負極との間で0.010mAの電流を流して、正極合材あたり105mAh/gまで放電させたのち、正極合材あたり105mAh/gまで充電させた。
図13は、実施例8の充放電曲線である。初期の開放電圧は3.81Vであり、充放電における作動電圧は3.65V以上であった。また、実施例8と同様の工程を経て実施例9の評価セルを作製した。作製した評価セルを充放電装置に接続し、正極と負極との間で0.010mAの電流を流して、正極合材あたり310mAh/gまで放電させたのち、正極合材あたり310mAh/gまで充電させた。
図14は、実施例9の充放電曲線である。初期の開放電圧は3.81Vであり、充放電における作動電圧は3.6V以上であった。
【0044】
[実施例10]
実施例3と同様の工程を経て実施例10の評価セルを作製した。作製した評価セルを充放電装置に接続し、正極と負極との間で0.010mAの電流を流して、正極合材あたり100mAh/gまで放電させたのち、正極合材あたり100mAh/gまで充電させた。
図15は、実施例10の充放電曲線である。初期の開放電圧は3.89Vであり、充放電における作動電圧は3.8V以上であった。
【0045】
[実施例11]
電解液溶媒としてテトラメチレンスルホキシドとジフェニルスルホキシドの混合溶媒((質量比7:3)を用いて電解液を調製した以外は実施例1と同様の工程を経て実施例11の評価セルを作製した。作製した評価セルを充放電装置に接続し、正極と負極との間で0.010mAの電流を流して、正極合材あたり250mAh/gまで放電させたのち、正極合材あたり250mA/gまで充電させた。
図16は、実施例11の充放電曲線である。初期の開放電圧は3.91Vであり、充放電における作動電圧は3.75V以上であった。
【0046】
[実施例12]
電解液溶媒としてリン酸トリメチル(アルドリッチ製)を用いて電解液を調製した以外は実施例1と同様の工程を経て実施例12の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図17は、実施例12の放電曲線である。初期の開放電圧は4.081Vであり、正極合材あたり110mAh/gまで放電した後の電圧は4.003Vを維持していた。
【0047】
[実施例13]
実施例12において、正極合材あたり110mAh/gまで放電したのち、放電電流を0.025mAに変えて正極合材あたり800mAh/gまで放電した。
図18は、実施例13の放電曲線である。初期の開放電圧は3.98Vであり、放電後の電圧は3.91Vを維持していた。
【0048】
[実施例14]
ヨウ素を200mg(0.066mol/L)溶解させて電解液を調製した以外は、実施例12と同様の工程を経て実施例14の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図19は、実施例14の放電曲線である。初期の開放電圧は4.09Vであり、正極合材あたり1930mAh/gまで放電した後の電圧は3.90Vを維持していた。
【0049】
[実施例15]
電解液溶媒としてリン酸トリブチル(アルドリッチ製)を用いて電解液を調製した以外は実施例1と同様の工程を経て実施例15の評価セルを作製した。作製した評価セルを充放電装置に接続し、正極と負極との間で0.010mAの電流を流して、正極合材あたり150mAh/gまで放電させたのち、正極合材あたり150mAh/gまで充電させた。
図20は、実施例15の充放電曲線である。初期の開放電圧は3.84Vであり、充放電における作動電圧は3.6V以上であった。
【0050】
[実施例16]
電解液溶媒としてリン酸トリエチル(アルドリッチ製)を用いて電解液を調製した以外は実施例1と同様の工程を経て実施例16の評価セルを作製した。作製した評価セルを充放電装置に接続し、正極と負極との間で0.020mAの電流を流して、正極合材あたり800mAh/gまで放電させたのち、正極合材あたり800mAh/gまで充電させた。
図21は、実施例16の充放電曲線である。初期の開放電圧は4.07Vであり、充放電における作動電圧は3.93V以上であった。
【0051】
[実施例17]
支持塩として1mol/LのLiPF
6を用いた以外は、実施例14と同様の工程を経
て実施例17の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図22は、実施例17の放電曲線である。初期の開放電圧は4.14Vであり、正極合材あたり450mAh/gまで放電した後の電圧は3.97Vを維持していた。
【0052】
[実施例18]
ヨウ素を2400mg(0.79mol/L)溶解させて電解液を調製した以外は、実施例12と同様の工程を経て実施例18の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図23は、実施例18の放電曲線である。初期の開放電圧は4.029Vであり、正極合材あたり350mAh/gまで放電した後の電圧は3.92Vを維持していた。
【0053】
[実施例19]
導電材として活性炭(クレハ化学製、RP20)を90質量部と、結着材としてのテフロンバインダーを10質量部と、を乾式で乳鉢を用いて練り合わせてシート状の正極合材を得た。これを用いて正極を作製した以外は実施例14と同様の工程を経て実施例19の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図24は、実施例19の放電曲線である。初期の開放電圧は4.032であり、正極合材あたり300mAh/gまで放電した後の電圧は、3.91Vを維持していた。
【0054】
[実施例20]
ヨウ素165mgに代えて、1mol/Lの臭素を溶解したリン酸トリメチル(アルドリッチ製)を2mL溶解させて電解液とした以外は、実施例12と同様の工程を経て実施例20の評価セルを作成し、充放電試験を行った。
図25は、実施例20の放電曲線である。初期の開放電圧は4.3Vであり、正極合材あたり300mAh/g放電しても3.8V以上を維持していた。
【0055】
[比較例4]
電解液溶媒としてエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒(体積比3:7、富山薬品製)を用いて電解液を調製した以外は実施例20と同様の工程を経て比較例4の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図26は、比較例4の放電曲線である。初期の開放電圧は4.06Vであり、3.7V付近に平坦部が観測された。
【0056】
[実施例21]
1mol/Lの臭素を溶解したリン酸トリメチルの添加量を1mLとした以外は、実施例20と同様の工程を経て実施例21の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図27は、実施例21の放電曲線である。初期の開放電圧は、4.21Vであり、3.8Vまでの放電での放電容量は正極合材あたり100mAh/gであった。
【0057】
[実施例22]
1mol/Lの臭素を溶解したリン酸トリメチルの添加量を3mLとした以外は、実施例20と同様の工程を経て実施例22の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図28は、実施例22の放電曲線である。初期の開放電圧は、4.20Vであり、正極合材あたり200mAh/gまで放電しても4.0Vを維持していた。
【0058】
[実施例23]
電解液溶媒としてリン酸トリエチルを用いて電解液を調製した以外は実施例20と同様の工程を経て実施例23の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図29は、実施例23の放電曲線である。初期の開放電圧は、4.30Vであり、正極合材あたり200mAh/gまで放電しても3.8Vを維持していた。
【0059】
[実施例24]
ヨウ素165mgに代えて、ヨウ化モノクロリド(アルドリッチ製)30mgを用いて電解液を調製した以外は、実施例12と同様の工程を経て実施例24の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図30は、実施例24の放電曲線である。初期の開放電圧は、4.31Vであり、正極合材あたり200mAh/gまで放電しても3.8Vを維持していた。
【0060】
[比較例5]
電解液溶媒としてエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒(体積比3:7、富山薬品製)を用いて電解液を調製した以外は実施例24と同様の工程を経て比較例6の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図31は、比較例5の放電曲線である。初期の開放電圧は4.126Vであり、正極合材あたり100mAh/gまで放電しても3.45Vを維持していた。
【0061】
[実施例25]
ヨウ素165mgに代えて、ヨウ化モノブロミド(アルドリッチ製)30mgを用いて電解液を調製した以外は実施例12と同様の工程を経て実施例25の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図32は、実施例25の放電曲線である。初期の開放電圧は4.21Vであり、正極合材あたり200mAh/gまで放電しても3.8Vを維持していた。
【0062】
[実施例26]
電解液溶媒としてリン酸トリエチルとリン酸トリブチルの混合溶媒(体積比4:1)を用い、ヨウ化モノブロミドの添加量を184mgとした以外は、実施例25と同様の工程を経て実施例26の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図33は、実施例26の放電曲線である。初期の開放電圧は4.26Vであり、正極合材あたり700mAh/gまで放電しても3.8Vを維持していた。
【0063】
[実施例27]
ヨウ化モノブロミドの添加量を950mgとした以外は、実施例25と同様の工程を経て実施例27の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図34は、実施例27の放電曲線である。初期の開放電圧は4.38Vであり、正極合材あたり1000mAh/gまで放電しても4.0Vを維持していた。
【0064】
[比較例6]
電解液溶媒としてエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒(体積比3:7、富山薬品製)を用いて電解液を調製した以外は実施例27と同様の工程を経て実施例28の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図35は、比較例6の放電曲線である。初期の開放電圧は4.156Vであり、正極合材あたり100mAh/gまで放電したときの電圧は3.6Vであった。
【0065】
[実施例28]
ヨウ素165mgに代えて、ヨウ化トリクロリド(アルドリッチ製)830mgを用いて電解液を調製した以外は、実施例12と同様の工程を経て実施例28の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図36は、実施例28の放電曲線である。初期の開放電圧は4.71Vであり、正極合材あたり100mAh/gまで放電しても4.65Vを維持していた。
【0066】
[実施例29]
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに代えて、LiPF
6を用いて電解液を調製し、ヨウ化トリクロリドの添加量を350mgとした以外は、実施例28と同様の工程を経て実施例29の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図37は、実施例29の放電曲線である。初期の開放電圧は4.68Vであり、正極合材あたり100mAh/gまで放電しても4.4Vを維持していた。
【0067】
[比較例7]
電解液溶媒としてプロピレンカーボネート(関東化学製)を用いた以外は実施例29と同様の工程を経て比較例7の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図38は、比較例7の放電曲線である。初期の開放電圧は4.45Vであり、正極合材あたり60mAh/gまで放電すると4.2Vまで電圧が低下した。
【0068】
[比較例8]
電荷液溶媒として3−メトキシプロピオニトリル(和光純薬工業製)を用いた以外は実施例29と同様の工程を経て比較例8の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図39は、比較例8の放電曲線である。初期の開放電圧は4.27Vであり、正極合材あたり20mAh/gまで放電すると4.0Vまで電圧が低下した。
【0069】
[実施例30]
ヨウ化トリクロリドの添加量を1650mgとした以外は実施例28と同様の工程を経て実施例30の評価セルを作製し、充放電試験を行った。
図40は、実施例30の放電曲線である。初期の開放電圧は、4.70Vであり、正極合材あたり1000mAh/gまで放電しても4.4Vを維持していた。
【0070】
[出力特性評価]
実施例6,12および比較例1の評価セルについて、各評価セルを充放電装置に接続し、放電電流密度を正極面積あたりで0.05mA/cm
2から25mA/cm
2まで変化させ、各電流における放電開始10秒後の電圧を測定した。
図41は、このときの放電電流密度と電圧との関係を示すグラフである。本発明の電池では、大きな放電電流であっても電圧を高く維持できることがわかった。
【0071】
[ラマンスペクトル分析]
実施例1〜4,10の電解液溶媒として用いたジメチルスルホキシド(DMSO)および実施例12〜14,17〜19の電解液溶媒として用いたリン酸トリメチル(TMP)について、ヨウ素を添加しないものとヨウ素を添加したものとを用意し、ラマンスペクトルを測定した。ラマンスペクトル分析は、レーザラマン分光システム(日本分光(株)製、NRS−3300)を用い、波長532nmの励起光で行った。
図42は、DMSOのラマンスペクトル測定結果である。
図42において、ヨウ素を含むものでは、ヨウ素を含まないものと比較してDMSOのS=O伸縮に基づく1045〜1055cm
-1付近のシグナルが低波数側にシフトし、強度が弱くなった。このような差異は、DMSOとヨウ素とが分子錯体を形成し、二重結合が弱まったことに起因するものと推察された。また、
図43及び
図44は、TMPのラマンスペクトル測定結果である。TMPでは、特徴的なピークが2つ観察され両者が離れているため、高波数側のものを
図43、低波数側のものを
図44に示した。
図43において、ヨウ素を含むものでは、ヨウ素を含まないものと比較してTMPのP=O伸縮に起因する1270〜1280cm
-1付近のシグナルの強度が弱くなった。また、
図44において、ヨウ素を含むものでは、ヨウ素を含まないものと比較してTMPのO−P−O対称伸縮に起因する730〜740cm
-1付近のシグナルが低波数側にシフトし、強度が弱くなった。このような差異は、TMPとヨウ素とが分子錯体を形成したことに起因するものと推察された。
【0072】
リン酸トリメチル(TMP)について、臭素を添加しないものと臭素を添加したものとを用意し、上述と同様にしてラマンスペクトルを測定した。
図45及び
図46はTMPのラマンスペクトルである。TMPでは、特徴的なピークが2つ観察され両者が離れているため、高波数側のものを
図45、低波数側のものを
図46に示した。
図45において、臭素を含むものでは、臭素を含まないものと比較してTMPのP=O伸縮に起因する1270〜1280cm
-1付近のシグナルが高波数側にシフトした。また、
図46において、臭素を含むものでは、臭素を含まないものと比較してTMPのO−P−O対称伸縮に起因する730〜740cm
-1付近のシグナルが高波数側にシフトした。このような差異は、TMPと臭素とが分子錯体を形成したことに起因するものと推察された。
【0073】
[実験結果]
表1には、実施例1〜11及び比較例1〜3の初期の電圧および60mAh/g放電時の電圧を示した。また、表2には、実施例12〜19の初期の電圧及び60mAh/g放電時の電圧を示した。また、表3には実施例20〜23及び比較例4の初期の電圧及び60mAh/g放電時の電圧を示した。また、表4には、実施例24〜30及び比較例5〜8の初期の電圧及び60mAh/g放電時の電圧を示した。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【0078】
表1,2に示すように、実施例1〜19では、いずれも理論電圧である3.57Vよりも高い電圧が得られた。また、放電容量60mAh/gの時点において、比較例1〜3のものでは3.5V以下であったのに対し、実施例1〜19ではいずれも3.5V以上であり、作動電圧をより高めることができた。
【0079】
実施例のうち、含リン有機化合物を用いた実施例12〜19では、初期の開放電圧が4Vを超えるものが多く、含リン有機化合物を用いると作動電圧をより高めることができた。また、含リン有機化合物を用いた実施例12〜19では、放電に伴う電圧低下が小さく、全体的に作動電圧を高めることができた。なかでも、酸素を介してリンと結合している炭化水素基の炭素数が2以下である実施例12〜14,16〜17では、作動電圧をより高めることができた。
【0080】
実施例のうち、含硫黄有機化合物を用いた実施例1〜11において、酸素を介することなく硫黄と炭化水素基が結合している実施例1〜4,6〜11では、作動電圧をより高めることができた。なかでも、環状構造を含む電解液溶媒を用いた実施例3〜4,6〜11では、作動電圧をより高めることができた。このうち、スルホキシド化合物を用いた実施例3〜4,5〜7,10,11では、作動電圧をより高めることができ、酸素と二重結合した硫黄を含む環状構造を有する実施例6,7では、作動電圧をさらに高めることができた。なお、実施例3などに用いたジフェニルスルホキシドは、単独ではリチウム塩を十分に溶解させることができないため、他の電解液溶媒と共に用いた。
【0081】
ヨウ素濃度のみが異なる実施例1と実施例2とを比較すると、ヨウ素濃度が0.054mol/Lの実施例1のほうが、ヨウ素濃度が0.036mol/Lの実施例2より初期の開放電圧が小さく、放電容量60mAh/gの時点での電圧が大きかったが、大きな差は認められなかった。また、ヨウ素濃度のみが異なる実施例12,14,18を比較すると、ヨウ素濃度が0.66mol/Lの実施例14、ヨウ素濃度が0.054mol/Lの実施例12、ヨウ素濃度が0.79mol/Lの実施例18の順に初期の開放電圧が小さくなり、放電容量60mAh/gの時点での電圧が小さくなったが、大きな差は認められなかった。このことから、ヨウ素濃度の最適値はあるものの、0.01mol/L以上飽和濃度以下の濃度であれば、作動電圧を高めることができるものと推察された。
【0082】
電解質の種類のみが異なる実施例14と実施例17とを比較すると、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下LiTFSIとも称する)を用いた実施例14のほうがLiPF
6を用いた実施例17より初期の開放電圧が小さく、放電容量60mAh/gの時点での電圧が大きかったが、大きな差は認められなかった。このことから、支持塩は特に限定されず、これら以外の支持塩を用いても、作動電圧を高めることができると推察された。
【0083】
正極のみが異なる実施例14と実施例19とを比較すると、導電材としてのケッチェンブラックと触媒としての二酸化マンガンを含む実施例14のほうが導電材としての活性炭を含み触媒を含まない実施例19より初期の開放電圧が大きく、放電容量60mAh/gの時点での電圧が大きかったが、大きな差は認められなかった。このことから、正極にヨウ素の酸化還元触媒を含むほうが作動電圧をより高めることができ、正極の種類にかかわらず作動電圧を高めることができると推察された。
【0084】
なお、比較例1では、電解液溶媒として炭素と酸素との二重結合部位を有するものを用いているが、初期の開放電圧は理論値の3.57Vより低かった。このことから、酸素と他の元素との二重結合部位を有するだけでは作動電圧を高めるのに十分でないことがわかった。また、比較例2では、電解液溶媒として硫黄と酸素との二重結合を有するものを用いているが、放電容量60mAh/gの時点にける電圧が3.37Vと低かった。また、比較例1〜3ではいずれも支持塩として、リチウムをカチオンとしTFSIをアニオンとする塩であるLiTFSIを用いており、TFSIは硫黄と酸素との二重結合を有している。これらのことから、硫黄と酸素との二重結合が存在するだけでは作動電圧を高めるのに十分でないことがわかった。なお比較例1〜3に含まれる硫黄と酸素との二重結合を有する化合物は、アニオンを構成するものであり、ヨウ素と分子錯体を形成するものではない。また、比較例3では、電解液溶媒として酸素と他の元素との二重結合部位を有しないものを用いており、放電容量60mAh/gの時点における電圧が3.42Vと低かった。以上のことから、実施例のものでは、主に、硫黄と酸素との二重結合やリンと硫黄との二重結合がヨウ素との分子錯体の形成に関与し、電池の作動電圧を高めているものと推察された。
【0085】
ハロゲンとして臭素を用いた場合、表3に示すように、実施例20〜23では、いずれも理論電圧である4.10Vよりも高い電圧が得られた。また、放電容量60mAh/gの時点において、比較例4のものでは3.9V以下であったのに対し、実施例20〜23ではいずれも3.9V以上であり、作動電圧をより高めることができた。
【0086】
ハロゲンとしてヨウ化モノクロリドを用いた場合、表4に示すように、実施例24では、理論電圧である3.98Vよりも高い電圧が得られた。また、放電容量60mAh/gの時点において、比較例5のものでは理論電圧以下であったのに対し、実施例24では理論容量以上であり、作動電圧をより高めることができた。
【0087】
ハロゲンとしてヨウ化モノブロミドを用いた場合、表4に示すように、実施例25〜27では、いずれも理論電圧である3.83Vよりも高い電圧が得られた。また、放電容量60mAh/gの時点において、比較例6のものでは理論電圧以下であったのに対し、実施例25〜27ではいずれも理論電圧以上であり、作動電圧をより高めることができた。
【0088】
ハロゲンとしてヨウ化トリブロミドを用いた場合、表4に示すように、実施例28〜30では、いずれも理論電圧である4.19Vよりも高い電圧が得られた。また、放電容量60mAg/gの時点において、比較例7,8では4.2V程度まで電圧が低下しているのに対し、実施例28〜30では4.4Vを維持しており、作動電圧をより高めることができた。
【0089】
以上より、ハロゲンと分子錯体を形成する電解液溶媒を用いることで、作動電圧をより高めることができることがわかった。なお、上述した実施例では、ハロゲンとして、ヨウ素、臭素、ヨウ化モノクロリド、ヨウ化モノブロミド、ヨウ化トリクロリドのいずれを用いても作動電圧を高めることができたことから、ハロゲンは、実施例で用いたもの以外でも、同様の効果が得られるものと推察された。例えば、塩素やヨウ化トリブロミドなどでもよいと推察された。