特許第5691781号(P5691781)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5691781
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】非水電解質ハロゲン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20150312BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20150312BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20150312BHJP
【FI】
   H01M10/0569
   H01M10/052
   H01M10/0568
【請求項の数】19
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2011-92007(P2011-92007)
(22)【出願日】2011年4月18日
(65)【公開番号】特開2012-195269(P2012-195269A)
(43)【公開日】2012年10月11日
【審査請求日】2014年1月23日
(31)【優先権主張番号】特願2011-46510(P2011-46510)
(32)【優先日】2011年3月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志賀 亨
【審査官】 市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−020960(JP,A)
【文献】 特開平10−003924(JP,A)
【文献】 特開平11−238513(JP,A)
【文献】 特開昭60−189167(JP,A)
【文献】 特開昭61−019074(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを放出する材料を負極活物質とする負極と、
ハロゲンを正極活物質とする正極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、リチウムイオン、ハロゲン、及び、ハロゲンと分子錯体を形成する非水系溶媒、を含み、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた非水電解質ハロゲン電池。
【請求項2】
前記非水系溶媒は、硫黄と酸素との二重結合を1以上有する含硫黄有機化合物、及び、リンと酸素との二重結合を1以上有する含リン有機化合物からなる群より選ばれた1種以上を含む、請求項1に記載の非水電解質ハロゲン電池。
【請求項3】
前記非水系溶媒は、スルホキシド化合物、スルホン化合物、及び、ホスフィンオキシド化合物からなる群より選ばれた1種以上を含む、請求項2に記載の非水電解質ハロゲン電池。
【請求項4】
前記含リン有機化合物は、酸素と二重結合したリンが、直接又は酸素を介して炭化水素基と結合している、請求項2又は3に記載の非水電解質ハロゲン電池。
【請求項5】
前記含リン有機化合物は、酸素と二重結合したリンが、酸素を介して炭化水素基と結合している、請求項2〜4のいずれか1項に記載の非水電解質ハロゲン電池。
【請求項6】
前記含リン有機化合物は、前記炭化水素基の炭素数が2以下である、請求項4又は5に記載の非水電解質ハロゲン電池。
【請求項7】
前記含硫黄有機化合物は、酸素と二重結合した硫黄が、直接又は酸素を介して炭化水素基と結合している、請求項2〜6のいずれか1項に記載の非水電解質ハロゲン電池。
【請求項8】
前記含硫黄有機化合物は、酸素と二重結合した硫黄が、直接炭化水素基と結合している、請求項2〜7のいずれか1項に記載の非水電解質ハロゲン電池。
【請求項9】
前記含硫黄有機化合物は、前記炭化水素基の炭素数が10以下である、請求項7又は8に記載の非水電解質ハロゲン電池。
【請求項10】
前記含硫黄有機化合物は、環状構造を有するものである、請求項2〜9のいずれか1項に記載の非水電解質ハロゲン電池。
【請求項11】
前記含硫黄有機化合物は、酸素と二重結合した硫黄を環状構造に含むものである、請求項2〜10のいずれか1項に記載の非水電解質ハロゲン電池。
【請求項12】
前記非水系溶媒は、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド、ジエチルサルファイト、テトラメチレンスルホキシド、テトラメチレンスルホン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、及び、リン酸トリブチルからなる群より選ばれた1種以上を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の非水電解質ハロゲン電池。
【請求項13】
前記イオン伝導媒体は、ハロゲン濃度が、0.01mol/L以上飽和濃度以下である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の非水電解質ハロゲン電池。
【請求項14】
前記イオン伝導媒体は、前記ハロゲンとしてヨウ素(I2)、臭素(Br2)、ヨウ化モノブロミド(IBr)、ヨウ化モノクロリド(ICl)、及び、ヨウ化トリクロリド(ICl3)からなる群より選ばれた1種以上を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の非水電解質ハロゲン電池。
【請求項15】
前記イオン伝導媒体は前記ハロゲンとしてヨウ素を含み、開放電圧が3.57V以上である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の非水電解質ハロゲン電池。
【請求項16】
前記イオン伝導媒体は、前記ハロゲンとして臭素を含み、開放電圧が4.10V以上である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の非水電解質ハロゲン電池。
【請求項17】
前記イオン伝導媒体は、前記ハロゲンとしてヨウ化モノブロミドを含み、開放電圧が3.98V以上である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の非水電解質ハロゲン電池。
【請求項18】
前記イオン伝導媒体は、前記ハロゲンとしてヨウ化モノクロリドを含み、開放電圧が3.83V以上である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の非水電解質ハロゲン電池。
【請求項19】
前記イオン伝導媒体は、前記ハロゲンとしてヨウ化トリクロリドを含み、開放電圧が4.19V以上である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の非水電解質ハロゲン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質ハロゲン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機非水系極性溶媒に活性炭正極およびリチウム金属負極を浸漬してなる電池において、有機非水系極性溶媒にハロゲンを添加したものが提案されている(特許文献1参照)。このようにハロゲンを添加することで、端子電圧が3.8V以上の高電圧部分がなくなり、放電電圧を平坦にすることができるとされている。また、リチウムイオンとハロゲンとを含む非水電解液を介して炭素正極と金属リチウムからなる負極を配置した電池が提案されている(特許文献2参照)。この電池では、高容量且つ高出力のエネルギー蓄電デバイスを実現できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−168973号公報
【特許文献2】特開2009−64584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した特許文献1,2のものでは、放電時に金属リチウム負極からリチウムイオンが溶出し、正極ではハロゲンがハロゲンイオンになり、充電時にはこの逆の反応が生じると考えられる。具体的には、例えばハロゲンがヨウ素である場合、充放電時には、負極では式(1)の反応が、正極では式(2)の反応が生じると考えられる。リチウムの標準電極電位は−3.04Vであり、ヨウ素の標準電極電位は+0.53Vであることから、このような電池では、作動電圧の理論的な最大値は3.57Vとなる。しかしながら、理論電圧では作動電圧が十分でないことがあり、作動電圧をより高めることが望まれていた。
【0005】
【化1】
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、リチウムイオンとハロゲンとを含むイオン伝導媒体を用いたものにおいて、作動電圧をより高めることのできるハロゲン電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、リチウムイオンとハロゲンとを含むイオン伝導媒体を用いた非水電解質ハロゲン電池において、ハロゲンと分子錯体を形成する非水系溶媒をイオン伝導媒体に用いたところ、作動電圧をより高めることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の非水電解質ハロゲン電池は、
リチウムイオンを放出する材料を負極活物質とする負極と、
ハロゲンを正極活物質とする正極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、リチウムイオン、ハロゲン、及び、ハロゲンと分子錯体を形成する非水系溶媒、を含み、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
この非水電解質ハロゲン電池では、リチウムイオンとハロゲンとを含むイオン伝導媒体を用いた非水電解質ハロゲン電池において、作動電圧をより高めることができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、イオン伝導媒体中のハロゲン分子が非水系溶媒と分子錯体を形成することにより、正極反応が生じる電位が高まるためと考えられる。ここで、分子錯体とは、同種又は2種以上の安定な分子が一定の割合で直接に結合してできる化合物をいい、分子化合物とも称することができる。なお、ハロゲンと分子錯体を形成するか否かは、ラマンスペクトルにおける、所定の結合の伸縮に起因するピークが、ハロゲンを添加した際に移動するか否かにより判断するものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の非水電解質ハロゲン電池10の一例を模式的に示す説明図である。
図2】ビーカーセル20の構成の概略を示す説明図である。
図3】実施例1の放電曲線である。
図4】実施例2の放電曲線である。
図5】実施例3の放電曲線である。
図6】実施例4の放電曲線である。
図7】比較例1の放電曲線である。
図8】比較例2の放電曲線である。
図9】比較例3の放電曲線である。
図10】実施例5の放電曲線である。
図11】実施例6の充放電曲線である。
図12】実施例7の放電曲線である。
図13】実施例8の充放電曲線である。
図14】実施例9の充放電曲線である。
図15】実施例10の充放電曲線である。
図16】実施例11の充放電曲線である。
図17】実施例12の放電曲線である。
図18】実施例13の放電曲線である。
図19】実施例14の放電曲線である。
図20】実施例15の充放電曲線である。
図21】実施例16の充放電曲線である。
図22】実施例17の放電曲線である。
図23】実施例18の放電曲線である。
図24】実施例19の放電曲線である。
図25】実施例20の放電曲線である。
図26】比較例4の放電曲線である。
図27】実施例21の放電曲線である。
図28】実施例22の放電曲線である。
図29】実施例23の放電曲線である。
図30】実施例24の放電曲線である。
図31】比較例5の放電曲線である。
図32】実施例25の放電曲線である。
図33】実施例26の放電曲線である。
図34】実施例27の放電曲線である。
図35】比較例6の放電曲線である。
図36】実施例28の放電曲線である。
図37】実施例29の放電曲線である。
図38】比較例7の放電曲線である。
図39】比較例8の放電曲線である。
図40】実施例30の放電曲線である。
図41】放電電流密度と電圧との関係を示すグラフである。
図42】ヨウ素を加えたDMSOのラマンスペクトルである。
図43】ヨウ素を加えたTMPのラマンスペクトル(高波数側)である。
図44】ヨウ素を加えたTMPのラマンスペクトル(低波数側)である。
図45】臭素を加えたTMPのラマンスペクトル(高波数側)である。
図46】臭素を加えたTMPのラマンスペクトル(低波数側)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の非水電解質ハロゲン電池は、リチウムイオンを放出する材料を負極活物質とする負極と、ハロゲンを正極活物質とする正極と、前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものである。
【0012】
本発明の非水電解質ハロゲン電池の負極は、リチウムイオンを放出する材料を負極活物質とするものである。負極活物質は、例えば金属リチウムやリチウム合金のほか、リチウムイオンを吸蔵放出する炭素質物質などが挙げられる。リチウム合金としては、例えば、アルミニウムやシリコン、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウムなどとリチウムとの合金が挙げられる。リチウムイオンを放出する炭素質物質としては、例えば黒鉛、コークス、メソフェーズピッチ系炭素繊維、球状炭素、樹脂焼成炭素などが挙げられる。負極は、これらの負極活物質を単独で用いるものとしてもよい。また、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成して用いてもよい。導電材は、電池の性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、活性炭、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート上、ネット上、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0013】
本発明の非水電解質ハロゲン電池において、正極は、ハロゲンを正極活物質とする。この正極活物質は、イオン伝導媒体に溶解したハロゲンにより供給される。この正極は、例えば導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。導電材と結着材の混合比は特に限定されないが、導電材100質量部に対して、結着材が3質量部以上15質量部以下であることが好ましく、5重量部以上10重量部以下であることがより好ましい。導電性を十分に高めるとともに強度を高めることができるからである。また、正極に用いられる導電材、結着材、溶剤、集電体などは、それぞれ負極で例示したものを用いることができる。この正極は、ハロゲンの酸化還元触媒を含んでいることが好ましい。酸化還元触媒により、正極活物質であるハロゲンの還元反応が促進され、正極活物質としての機能が向上すると考えられるためである。この酸化還元触媒としては、例えばニッケルや二酸化マンガンなどを用いることができる。
【0014】
本発明の非水電解質ハロゲン電池のイオン伝導媒体は、リチウムイオンと、ハロゲンと、ハロゲンと分子錯体を形成する非水系溶媒と、を含み、リチウムイオンを伝導するものである。このイオン伝導媒体は、ハロゲンと分子錯体を形成する非水系溶媒に、ハロゲンと、支持塩と、を溶解した非水系電解液としてもよい。ハロゲンは、ヨウ素(I2)、臭素(Br2)、塩素(Cl2)などの単体でもよいし、ヨウ素、臭素及び塩素から選ばれた2種以上の元素の化合物でもよい。このうち、ヨウ素(I2)、臭素(Br2)、ヨウ化モノブロミド(IBr)、ヨウ化モノクロリド(ICl)、ヨウ化トリクロリド(ICl3)などが、取り扱いが容易であり好ましい。
【0015】
イオン伝導媒体における非水系溶媒は、ハロゲンと分子錯体を形成するものである。ここで、分子錯体とは、同種又は2種以上の安定な分子が一定の割合で直接に結合してできる化合物をいい、分子化合物とも称することができる。なお、ハロゲンと分子錯体を形成するか否かは、ラマンスペクトルにおける、酸素とその他の原子との結合など所定の結合の伸縮に起因するピークが、ハロゲンを添加した際に移動するか否かにより判断するものとしてもよい。例えば、ハロゲンがヨウ素である場合には、低波数側に移動するか否かにより判断するものとしてもよい。また、ハロゲンが臭素である場合には、高波数側に移動するか否かにより判断するものとしてもよい。
【0016】
この非水系溶媒は、硫黄と酸素との二重結合を1以上有する含硫黄有機化合物、および、リンと酸素との二重結合を1以上有する含リン有機化合物のうち1種以上を含むものであることが好ましい。このうち、含リン有機化合物を含むものであれば、作動電圧をより高めることができ好ましい。なお、含硫黄有機化合物や含リン有機化合物は、酸素との二重結合を1個有するものとしてもよいし、2個以上有するものとしてもよい。酸素との二重結合を2個以上有する含硫黄有機化合物は、1つの硫黄に対して2つの酸素が結合することにより2個の2重結合を有するものとしてもよい。また、酸素との二重結合を2個以上有する含リン有機化合物は、1つのリンに対して2つの酸素が結合することにより2個の2重結合を有するものとしてもよい。なお、非水系溶媒は、非プロトン性溶媒であることが好ましい。
【0017】
含硫黄有機化合物は、酸素と二重結合した硫黄が、直接又は酸素を介して炭化水素基と結合しているものとしてもよい。このうち、直接炭化水素基と結合していることがより好ましい。作動電圧をより高めることができるからである。ここで、炭化水素基としては、鎖状(直鎖でもよいし分岐鎖を有していてもよい)の炭化水素基や環状の炭化水素基が好ましく、炭素数は1〜20が好ましい。鎖状の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基、ウンデカニル基、ドデカニル基などの飽和炭化水素基;ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基などの不飽和炭化水素基などが挙げられる。また、環状の炭化水素基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などの環状飽和炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基などが挙げられる。また、これらの炭化水素基は置換基を有していてもよい。また、硫黄と結合する2つの炭化水素基は同種でもよいし異種でもよい。また、炭化水素基は、酸素と二重結合した硫黄を含む環状構造を形成していてもよい。なお、炭化水素基は、各々、炭素数10以下が好ましく、6以下がより好ましい。
【0018】
含硫黄有機化合物は、環状構造を有するものであることが好ましい。こうすれば、作動電圧をより高めることができる。環状構造は、酸素と二重結合した硫黄と結合するフェニル基などの環状の炭化水素基で構成されるものでもよいが、酸素と二重結合した硫黄を環状構造に含むものであることがより好ましい。こうすれば、作動電圧をより高めることができる。
【0019】
含硫黄有機化合物としては、1つの硫黄に1つの酸素が二重結合したスルホキシド化合物や、1つの硫黄に2つの酸素が二重結合したスルホン化合物などが挙げられる。スルホキシド化合物としては、鎖状の炭化水素基が硫黄に直接結合した化合物であるジメチルスルホキシド(式(3))やジエチルスルホキシド、環状の炭化水素基が硫黄に直接結合した化合物であるジフェニルスルホキシド(式(4))、鎖状の炭化水素基が硫黄に酸素を介して結合した化合物であるジエチルサルファイト(式(5))、硫黄を環状構造に含む化合物であるテトラメチレンスルホキシド(式(6))などが挙げられる。また、スルホン化合物としては、鎖状の炭化水素基が硫黄に直接結合した化合物であるジメチルスルホンやジエチルスルホン(式(7))、硫黄を環状構造に含む化合物であるスルホラン(式(8))や3−メチルスルホラン(式(9))、ジメチルスルホランなどが挙げられる。
【0020】
【化2】
【0021】
含リン有機化合物は、酸素と二重結合したリンが、直接又は酸素を介して炭化水素基と結合しているものとしてもよい。このうち、酸素を介して炭化水素基と結合していることがより好ましい。作動電圧をより高めることができるからである。ここで、炭化水素基としては、含硫黄有機化合物の説明で列挙した炭化水素基などを用いることができる。ここで、酸素と二重結合したリンと結合する3つの炭化水素基は同種でもよいし異種でもよい。また、炭化水素基は、酸素と二重結合したリンを含む環状構造を形成していてもよい。なお、炭化水素基は、各々、炭素数4以下が好ましく、2以下がより好ましい。こうすれば、作動電圧をより高めることができる。
【0022】
含リン有機化合物としては、1つのリンに1つの酸素が二重結合したホスフィンオキシド化合物や、1つのリンに2つの酸素が二重結合した化合物などが挙げられる。なお、上述したホスフィンオキシド化合物は、炭化水素とリンとの結合に酸素を介するものを含まないホスフィンオキシド化合物のほか、酸素を介するものを1つ含むホスフィン酸化合物や、酸素を介するものを2つ含むホスホン酸化合物、全ての炭化水素基が酸素を介して結合するリン酸化合物をも含むものである。ホスフィンオキシド化合物としては、鎖状の炭化水素基が酸素を介してリンに結合した化合物であるリン酸トリメチル(式(10))やリン酸トリブチル(式(11))、リン酸トリエチル(式(12))、環状の炭化水素基が酸素を介してリンに結合した化合物であるリン酸トリフェニル、鎖状の炭化水素基が直接リンに結合した化合物であるトリエチルホスフィンオキシド(式(13))、環状の炭化水素基が直接リンに結合した化合物であるトリフェニルホスフィンオキシドなどが挙げられる。
【0023】
【化3】
【0024】
イオン伝導媒体は、ハロゲンと分子錯体を形成する非水系溶媒の他に、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ−ブチロラクトン(γ−BL)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジオキサン、ヘキサエトキシシクロトリフォスファゼン、3−メトキシプロピオニトリルなど従来の二次電池やキャパシタに使われる有機溶媒、又はそれらの混合溶媒を含むものとしてもよい。また、例えば、ポリフッ化ビニリデンやポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリルなどの高分子のほか、アミノ酸誘導体や、ソルビトール誘導体などの糖類などと混合してゲル状として用いてもよい。
【0025】
イオン伝導媒体において、ハロゲンと分子錯体を形成する非水系溶媒に対するハロゲンの濃度は特に限定されないが、0.01mol/L以上が好ましい。このうち、0.02mol/L以上が好ましく、0.03mol/L以上がより好ましく、0.05mol/L以上がさらに好ましい。ハロゲンの濃度が0.01mol/L以上では、正極活物質としての機能を十分に発揮することができ、十分な充放電容量を得られると考えられるからである。また、イオン伝導媒体に含まれるハロゲンの濃度は、飽和濃度(最大で溶媒とハロゲンがモル比で1:1まで)以下であることが好ましく、1.0mol/L以下がより好ましい。飽和濃度以下であれば、ハロゲンがイオン伝導媒体に溶存しているため、リチウムイオンの伝導を阻害しにくいと考えられるからである。このうち、作動電圧をより高めることを考慮すれば、ハロゲンがヨウ素(I2)の場合にはヨウ素の濃度は0.054mol/Lより高く0.79mol/L未満が好ましく、ハロゲンが臭素(Br2)の場合には臭素の濃度は0.077mol/Lより大きく0.20mol/L未満が好ましく、ハロゲンがヨウ化モノクロリド(ICl)の場合にはヨウ化モノクロリドの濃度は0.015mol/L以上が好ましく0.070mol/L以上がより好ましく0.30mol/L以上が更に好ましく、ハロゲンがヨウ化モノブロミド(IBr)の場合にはヨウ化モノブロミドの濃度は0.012mol/L以上が好ましく0.74mol/L以上がより好ましく0.38mol/L以上が更に好ましく、ハロゲンがヨウ化トリクロリド(ICl3)の場合にはヨウ化トリクロリドの濃度は0.12mol/L以上0.59mol/L以下が好ましい。
【0026】
イオン伝導媒体において、支持塩は、特に限定されるものではないが、例えば、LiPF6,LiClO4,LiBF4,Li(CF3SO22Nなどの公知の支持塩を用いることができる。このような支持塩を含むイオン伝導媒体は、リチウムイオンを含むこととなる。支持塩の濃度としては、0.1mol/L以上2.0mol/L以下であることが好ましく、0.8mol/L以上1.2mol/L以下であることがより好ましい。
【0027】
本発明の非水電解質ハロゲン電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、非水電解質ハロゲン電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0028】
本発明の非水電解質ハロゲン電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図1は、本発明の非水電解質ハロゲン電池の一例を模式的に示す説明図である。この非水電解質ハロゲン電池10は、リチウム金属箔からなる負極14と正極16とをイオン伝導媒体18を介して対向して配置したものである。このうち、正極16は、導電材16bやバインダ16cを混合したあと白金メッシュなどの集電体16aにプレス成形して作製されている。また、イオン伝導媒体18は、リチウムパークロレート等のリチウム塩のほかにハロゲンを含む非水系電解液である。このイオン伝導媒体18において、非水系溶媒は、ハロゲンと分子錯体を形成する化合物である。
【0029】
このような本発明の非水電解質ハロゲン電池では、作動電圧を理論値より高めることができる。また、本発明の非水電解質ハロゲン電池以外のものでも、初期の開放電圧が理論値より高いことはあったが、高い電圧を維持するものはなかった。これに対し、本発明の非水電解質ハロゲン電池では、初期の作動電圧を高めるだけでなく、高電圧を維持できる。ここで、理論値は、負極が金属リチウムである場合、以下のように求めた値とする。まず、ハロゲンがヨウ素である場合、負極では式(14)の反応が、正極では式(15)の反応が生じると考えられる。リチウムの標準電極電位は−3.04Vであり、ヨウ素の標準電極電位は+0.53Vであることから、作動電圧の理論的な最大値は3.57Vとなる。また、ハロゲンが臭素である場合、負極では式(14)の反応が、正極では式(16)の反応が生じると考えられる。リチウムの標準電極電位は−3.04Vであり、臭素の標準電極電位は+1.06Vであることから、作動電圧の理論的な最大値は4.10Vとなる。また、ハロゲンが塩素である場合、負極では式(14)の反応が、正極では式(17)の反応が生じると考えられる。リチウムの標準電極電位は−3.04Vであり、塩素の標準電極電位は+1.35Vであることから、作動電圧の理論的な最大値は4.39Vとなる。また、ハロゲンが単体でなく化合物である場合には、ハロゲン中の元素の比率に応じて単体の理論値を相加平均した値を作動電圧の理論値とする。例えば、ヨウ化モノクロリドでは、ヨウ素と塩素を1:1の比率(at%)で含むから、(3.57×1+4.39×1)/(1+1)=3.98(V)を作動電圧の理論値とする。また、ヨウ化モノブロミドでは、ヨウ素と臭素を1:1の比率で含むから、(3.57×1+4.10×1)/(1+1)=3.83(V)を作動電圧の理論値とする。また、ヨウ化トリクロリドでは、ヨウ素と塩素を1:3の比率で含むから、(3.57×1+4.39×3)/(1+3)=4.19(V)を作動電圧の理論値とする。なお、理論値は、負極が金属リチウムでない場合にも、上述のように求めた値としてもよい。
【0030】
【化4】
【0031】
なお、例えば、ジメチルスルホキシドと溶存ハロゲンとの分子錯体は、溶媒分子骨格内のS=O部位にハロゲンが配位する形で形成される。すなわち、S=O部位のπ結合とハロゲンのσ結合との電気的な相互作用により錯体が形成されると考えられている(ジャーナル オブ アメリカンケミカルソサエティ 85巻、3125頁、1963年 参照)。このことから、本発明において、イオン伝導媒体に含まれる溶媒は、含硫黄有機化合物においてはS=O部位のπ結合とハロゲン分子のσ結合との電気的な相互作用により、溶媒分子にハロゲンが配位して分子錯体を形成していると考えられる。また、含リン有機化合物においてはP=O部位のπ結合とハロゲン分子のσ結合との電気的な相互作用により、溶媒分子にハロゲンが配位して分子錯体を形成していると考えられる。
【0032】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0033】
以下には、本発明の非水電解質ハロゲン電池の使用方法について具体的に説明する。
【0034】
[実施例1]
(評価セルの作製)
正極は次のようにして作製した。まず、導電材としてのケッチェンブラック(三菱化学製ECP−6000)146mgと、結着材としてのテフロンバインダー(ダイキン工業製、テフロンは登録商標)12mgと、酸化還元触媒としての電解二酸化マンガン(三井鉱山製)10mgとを乾式で乳鉢を用いて練り合わせてシート状の正極合材を得た。この正極合材3mgを6mm×30mmのPtメッシュ(ニラコ製)に圧着して0.2cm2の正極とした。また、負極には厚さ0.4mmで6mm×30mmの金属リチウム(本城金属製)を用いた。イオン伝導媒体としての電解液は、次のようにして調製した。まず、支持塩としてのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(関東化学製)1mol/Lを、電解液溶媒としてのジメチルスルホキシドに溶解させて溶液を調製した。この溶液12mLにヨウ素(アルドリッチ製)165mg(0.054mol/L)を溶解させて電解液とした。このようにして得られた正極、負極、電解液を用いて、次のように評価セルを作製した。まず、図2に示すように、正極22及び負極24をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内でビーカーセル20にセットし、電解液26を注入した。次に、ビーカーセル20の開放部にプラスチック製の蓋28を取り付け、ビーカーセル20を密閉して評価セル(F型セル)とした。なお、ビーカーセル内の空間にはアルゴンが充填されている。また、ビーカーセル20の容量は約30mlである。このようにして得られた評価セルを実施例1とした。
【0035】
(充放電試験)
組み立てた評価セルを北斗電工製の充放電装置(HJ1001SM8A)に接続し、正極と負極との間で0.010mAの電流を流して放電させた。図3は、実施例1の放電曲線である。初期の開放電圧は3.92Vであった。また、正極合材あたり100mAh/gまで放電した後の電圧は3.7Vを維持していた。
【0036】
[実施例2]
ヨウ素を110mg(0.036mol/L)溶解させて電解液を調製した以外は、実施例1と同様の工程を経て実施例2の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図4は、実施例2の放電曲線である。初期の開放電圧は3.96Vであった。3.7Vまでの放電での放電容量は正極合材あたり60mAh/gであった。
【0037】
[実施例3,4]
電解液溶媒としてジメチルスルホキシドとジフェニルスルホキシドとの混合溶媒(質量比2:1)を用いて電解液を調製した以外は、実施例1と同様の工程を経て実施例3の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図5は、実施例3の放電曲線である。初期の開放電圧は3.89Vであった。また、正極合材あたり100mAh/gを超えても3.85V以上の開放電圧を維持していた。また、ジメチルスルホキシドとジフェニルスルホキシドとの混合溶媒の質量比を1:1とした以外は、実施例3と同様の工程を経て実施例4の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図6は、実施例4の放電曲線である。初期の開放電圧は3.84Vであった。正極合材あたり200mAh/gを超えても3.79Vを維持していた。
【0038】
[比較例1]
電解液溶媒としてエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒(体積比3:7、富山薬品製)を用いて電解液を調製した以外は実施例1と同様の工程を経て比較例1の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図7は、比較例1の放電曲線である。初期の開放電圧は3.54Vであり、3.4V付近に平坦部が観測された。
【0039】
[比較例2]
支持塩として0.4mol/Lのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを用い、電解液溶媒としてN−メチル−N−プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドを用いて電解液を調製した以外は実施例1と同様の工程を経て比較例2の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図8は、比較例2の放電曲線である。初期の開放電圧は3.67Vであり、3.35V付近に平坦部が観測された。
【0040】
[比較例3]
電解液溶媒としてジメトキシエタン(アルドリッチ製)を用いた以外は実施例1と同様の工程を経て比較例3の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図9は、比較例3の放電曲線である。初期の開放電圧は3.62Vであり、3.35V付近に平坦部が観測された。
【0041】
[実施例5]
電解液溶媒としてジエチルサルファイト(アルドリッチ製)を用いた以外は実施例1と同様の工程を経て実施例5の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図10は、実施例5の放電曲線である。初期の開放電圧は3.63Vであり、正極合材あたり100mAh/gを放電しても3.5V以上を維持していた。
【0042】
[実施例6,7]
電解液溶媒としてテトラメチレンスルホキシド(アルドリッチ製)を用いた以外は実施例1と同様の工程を経て実施例6の評価セルを作製した。作製した評価セルを充放電装置に接続し、正極と負極との間で0.010mAの電流を流して、正極合材あたり110mAh/gまで放電させたのち、正極合材あたり110mAh/gまで充電させた。図11は、実施例6の充放電曲線である。初期の開放電圧は3.93Vであり、充放電における作動電圧は3.9V以上であった。また、実施例6と同様の工程を経て実施例7の評価セルを作製した。作製した評価セルを充放電装置に接続し、正極と負極との間で0.010mAの電流を流して3.8Vまで放電させた。図12は、実施例7の放電曲線である。初期の開放電圧は3.93Vであり、3.8Vまでの放電での放電容量は正極合材あたり330mAh/gであった。
【0043】
[実施例8,9]
電解液溶媒としてテトラメチレンスルホン(アルドリッチ製)を用いて電解液を調製した以外は実施例1と同様の工程を経て実施例8の評価セルを作製した。作製した評価セルを充放電装置に接続し、正極と負極との間で0.010mAの電流を流して、正極合材あたり105mAh/gまで放電させたのち、正極合材あたり105mAh/gまで充電させた。図13は、実施例8の充放電曲線である。初期の開放電圧は3.81Vであり、充放電における作動電圧は3.65V以上であった。また、実施例8と同様の工程を経て実施例9の評価セルを作製した。作製した評価セルを充放電装置に接続し、正極と負極との間で0.010mAの電流を流して、正極合材あたり310mAh/gまで放電させたのち、正極合材あたり310mAh/gまで充電させた。図14は、実施例9の充放電曲線である。初期の開放電圧は3.81Vであり、充放電における作動電圧は3.6V以上であった。
【0044】
[実施例10]
実施例3と同様の工程を経て実施例10の評価セルを作製した。作製した評価セルを充放電装置に接続し、正極と負極との間で0.010mAの電流を流して、正極合材あたり100mAh/gまで放電させたのち、正極合材あたり100mAh/gまで充電させた。図15は、実施例10の充放電曲線である。初期の開放電圧は3.89Vであり、充放電における作動電圧は3.8V以上であった。
【0045】
[実施例11]
電解液溶媒としてテトラメチレンスルホキシドとジフェニルスルホキシドの混合溶媒((質量比7:3)を用いて電解液を調製した以外は実施例1と同様の工程を経て実施例11の評価セルを作製した。作製した評価セルを充放電装置に接続し、正極と負極との間で0.010mAの電流を流して、正極合材あたり250mAh/gまで放電させたのち、正極合材あたり250mA/gまで充電させた。図16は、実施例11の充放電曲線である。初期の開放電圧は3.91Vであり、充放電における作動電圧は3.75V以上であった。
【0046】
[実施例12]
電解液溶媒としてリン酸トリメチル(アルドリッチ製)を用いて電解液を調製した以外は実施例1と同様の工程を経て実施例12の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図17は、実施例12の放電曲線である。初期の開放電圧は4.081Vであり、正極合材あたり110mAh/gまで放電した後の電圧は4.003Vを維持していた。
【0047】
[実施例13]
実施例12において、正極合材あたり110mAh/gまで放電したのち、放電電流を0.025mAに変えて正極合材あたり800mAh/gまで放電した。図18は、実施例13の放電曲線である。初期の開放電圧は3.98Vであり、放電後の電圧は3.91Vを維持していた。
【0048】
[実施例14]
ヨウ素を200mg(0.066mol/L)溶解させて電解液を調製した以外は、実施例12と同様の工程を経て実施例14の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図19は、実施例14の放電曲線である。初期の開放電圧は4.09Vであり、正極合材あたり1930mAh/gまで放電した後の電圧は3.90Vを維持していた。
【0049】
[実施例15]
電解液溶媒としてリン酸トリブチル(アルドリッチ製)を用いて電解液を調製した以外は実施例1と同様の工程を経て実施例15の評価セルを作製した。作製した評価セルを充放電装置に接続し、正極と負極との間で0.010mAの電流を流して、正極合材あたり150mAh/gまで放電させたのち、正極合材あたり150mAh/gまで充電させた。図20は、実施例15の充放電曲線である。初期の開放電圧は3.84Vであり、充放電における作動電圧は3.6V以上であった。
【0050】
[実施例16]
電解液溶媒としてリン酸トリエチル(アルドリッチ製)を用いて電解液を調製した以外は実施例1と同様の工程を経て実施例16の評価セルを作製した。作製した評価セルを充放電装置に接続し、正極と負極との間で0.020mAの電流を流して、正極合材あたり800mAh/gまで放電させたのち、正極合材あたり800mAh/gまで充電させた。図21は、実施例16の充放電曲線である。初期の開放電圧は4.07Vであり、充放電における作動電圧は3.93V以上であった。
【0051】
[実施例17]
支持塩として1mol/LのLiPF6を用いた以外は、実施例14と同様の工程を経
て実施例17の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図22は、実施例17の放電曲線である。初期の開放電圧は4.14Vであり、正極合材あたり450mAh/gまで放電した後の電圧は3.97Vを維持していた。
【0052】
[実施例18]
ヨウ素を2400mg(0.79mol/L)溶解させて電解液を調製した以外は、実施例12と同様の工程を経て実施例18の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図23は、実施例18の放電曲線である。初期の開放電圧は4.029Vであり、正極合材あたり350mAh/gまで放電した後の電圧は3.92Vを維持していた。
【0053】
[実施例19]
導電材として活性炭(クレハ化学製、RP20)を90質量部と、結着材としてのテフロンバインダーを10質量部と、を乾式で乳鉢を用いて練り合わせてシート状の正極合材を得た。これを用いて正極を作製した以外は実施例14と同様の工程を経て実施例19の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図24は、実施例19の放電曲線である。初期の開放電圧は4.032であり、正極合材あたり300mAh/gまで放電した後の電圧は、3.91Vを維持していた。
【0054】
[実施例20]
ヨウ素165mgに代えて、1mol/Lの臭素を溶解したリン酸トリメチル(アルドリッチ製)を2mL溶解させて電解液とした以外は、実施例12と同様の工程を経て実施例20の評価セルを作成し、充放電試験を行った。図25は、実施例20の放電曲線である。初期の開放電圧は4.3Vであり、正極合材あたり300mAh/g放電しても3.8V以上を維持していた。
【0055】
[比較例4]
電解液溶媒としてエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒(体積比3:7、富山薬品製)を用いて電解液を調製した以外は実施例20と同様の工程を経て比較例4の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図26は、比較例4の放電曲線である。初期の開放電圧は4.06Vであり、3.7V付近に平坦部が観測された。
【0056】
[実施例21]
1mol/Lの臭素を溶解したリン酸トリメチルの添加量を1mLとした以外は、実施例20と同様の工程を経て実施例21の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図27は、実施例21の放電曲線である。初期の開放電圧は、4.21Vであり、3.8Vまでの放電での放電容量は正極合材あたり100mAh/gであった。
【0057】
[実施例22]
1mol/Lの臭素を溶解したリン酸トリメチルの添加量を3mLとした以外は、実施例20と同様の工程を経て実施例22の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図28は、実施例22の放電曲線である。初期の開放電圧は、4.20Vであり、正極合材あたり200mAh/gまで放電しても4.0Vを維持していた。
【0058】
[実施例23]
電解液溶媒としてリン酸トリエチルを用いて電解液を調製した以外は実施例20と同様の工程を経て実施例23の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図29は、実施例23の放電曲線である。初期の開放電圧は、4.30Vであり、正極合材あたり200mAh/gまで放電しても3.8Vを維持していた。
【0059】
[実施例24]
ヨウ素165mgに代えて、ヨウ化モノクロリド(アルドリッチ製)30mgを用いて電解液を調製した以外は、実施例12と同様の工程を経て実施例24の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図30は、実施例24の放電曲線である。初期の開放電圧は、4.31Vであり、正極合材あたり200mAh/gまで放電しても3.8Vを維持していた。
【0060】
[比較例5]
電解液溶媒としてエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒(体積比3:7、富山薬品製)を用いて電解液を調製した以外は実施例24と同様の工程を経て比較例6の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図31は、比較例5の放電曲線である。初期の開放電圧は4.126Vであり、正極合材あたり100mAh/gまで放電しても3.45Vを維持していた。
【0061】
[実施例25]
ヨウ素165mgに代えて、ヨウ化モノブロミド(アルドリッチ製)30mgを用いて電解液を調製した以外は実施例12と同様の工程を経て実施例25の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図32は、実施例25の放電曲線である。初期の開放電圧は4.21Vであり、正極合材あたり200mAh/gまで放電しても3.8Vを維持していた。
【0062】
[実施例26]
電解液溶媒としてリン酸トリエチルとリン酸トリブチルの混合溶媒(体積比4:1)を用い、ヨウ化モノブロミドの添加量を184mgとした以外は、実施例25と同様の工程を経て実施例26の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図33は、実施例26の放電曲線である。初期の開放電圧は4.26Vであり、正極合材あたり700mAh/gまで放電しても3.8Vを維持していた。
【0063】
[実施例27]
ヨウ化モノブロミドの添加量を950mgとした以外は、実施例25と同様の工程を経て実施例27の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図34は、実施例27の放電曲線である。初期の開放電圧は4.38Vであり、正極合材あたり1000mAh/gまで放電しても4.0Vを維持していた。
【0064】
[比較例6]
電解液溶媒としてエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒(体積比3:7、富山薬品製)を用いて電解液を調製した以外は実施例27と同様の工程を経て実施例28の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図35は、比較例6の放電曲線である。初期の開放電圧は4.156Vであり、正極合材あたり100mAh/gまで放電したときの電圧は3.6Vであった。
【0065】
[実施例28]
ヨウ素165mgに代えて、ヨウ化トリクロリド(アルドリッチ製)830mgを用いて電解液を調製した以外は、実施例12と同様の工程を経て実施例28の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図36は、実施例28の放電曲線である。初期の開放電圧は4.71Vであり、正極合材あたり100mAh/gまで放電しても4.65Vを維持していた。
【0066】
[実施例29]
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに代えて、LiPF6を用いて電解液を調製し、ヨウ化トリクロリドの添加量を350mgとした以外は、実施例28と同様の工程を経て実施例29の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図37は、実施例29の放電曲線である。初期の開放電圧は4.68Vであり、正極合材あたり100mAh/gまで放電しても4.4Vを維持していた。
【0067】
[比較例7]
電解液溶媒としてプロピレンカーボネート(関東化学製)を用いた以外は実施例29と同様の工程を経て比較例7の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図38は、比較例7の放電曲線である。初期の開放電圧は4.45Vであり、正極合材あたり60mAh/gまで放電すると4.2Vまで電圧が低下した。
【0068】
[比較例8]
電荷液溶媒として3−メトキシプロピオニトリル(和光純薬工業製)を用いた以外は実施例29と同様の工程を経て比較例8の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図39は、比較例8の放電曲線である。初期の開放電圧は4.27Vであり、正極合材あたり20mAh/gまで放電すると4.0Vまで電圧が低下した。
【0069】
[実施例30]
ヨウ化トリクロリドの添加量を1650mgとした以外は実施例28と同様の工程を経て実施例30の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図40は、実施例30の放電曲線である。初期の開放電圧は、4.70Vであり、正極合材あたり1000mAh/gまで放電しても4.4Vを維持していた。
【0070】
[出力特性評価]
実施例6,12および比較例1の評価セルについて、各評価セルを充放電装置に接続し、放電電流密度を正極面積あたりで0.05mA/cm2から25mA/cm2まで変化させ、各電流における放電開始10秒後の電圧を測定した。図41は、このときの放電電流密度と電圧との関係を示すグラフである。本発明の電池では、大きな放電電流であっても電圧を高く維持できることがわかった。
【0071】
[ラマンスペクトル分析]
実施例1〜4,10の電解液溶媒として用いたジメチルスルホキシド(DMSO)および実施例12〜14,17〜19の電解液溶媒として用いたリン酸トリメチル(TMP)について、ヨウ素を添加しないものとヨウ素を添加したものとを用意し、ラマンスペクトルを測定した。ラマンスペクトル分析は、レーザラマン分光システム(日本分光(株)製、NRS−3300)を用い、波長532nmの励起光で行った。図42は、DMSOのラマンスペクトル測定結果である。図42において、ヨウ素を含むものでは、ヨウ素を含まないものと比較してDMSOのS=O伸縮に基づく1045〜1055cm-1付近のシグナルが低波数側にシフトし、強度が弱くなった。このような差異は、DMSOとヨウ素とが分子錯体を形成し、二重結合が弱まったことに起因するものと推察された。また、図43及び図44は、TMPのラマンスペクトル測定結果である。TMPでは、特徴的なピークが2つ観察され両者が離れているため、高波数側のものを図43、低波数側のものを図44に示した。図43において、ヨウ素を含むものでは、ヨウ素を含まないものと比較してTMPのP=O伸縮に起因する1270〜1280cm-1付近のシグナルの強度が弱くなった。また、図44において、ヨウ素を含むものでは、ヨウ素を含まないものと比較してTMPのO−P−O対称伸縮に起因する730〜740cm-1付近のシグナルが低波数側にシフトし、強度が弱くなった。このような差異は、TMPとヨウ素とが分子錯体を形成したことに起因するものと推察された。
【0072】
リン酸トリメチル(TMP)について、臭素を添加しないものと臭素を添加したものとを用意し、上述と同様にしてラマンスペクトルを測定した。図45及び図46はTMPのラマンスペクトルである。TMPでは、特徴的なピークが2つ観察され両者が離れているため、高波数側のものを図45、低波数側のものを図46に示した。図45において、臭素を含むものでは、臭素を含まないものと比較してTMPのP=O伸縮に起因する1270〜1280cm-1付近のシグナルが高波数側にシフトした。また、図46において、臭素を含むものでは、臭素を含まないものと比較してTMPのO−P−O対称伸縮に起因する730〜740cm-1付近のシグナルが高波数側にシフトした。このような差異は、TMPと臭素とが分子錯体を形成したことに起因するものと推察された。
【0073】
[実験結果]
表1には、実施例1〜11及び比較例1〜3の初期の電圧および60mAh/g放電時の電圧を示した。また、表2には、実施例12〜19の初期の電圧及び60mAh/g放電時の電圧を示した。また、表3には実施例20〜23及び比較例4の初期の電圧及び60mAh/g放電時の電圧を示した。また、表4には、実施例24〜30及び比較例5〜8の初期の電圧及び60mAh/g放電時の電圧を示した。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【0078】
表1,2に示すように、実施例1〜19では、いずれも理論電圧である3.57Vよりも高い電圧が得られた。また、放電容量60mAh/gの時点において、比較例1〜3のものでは3.5V以下であったのに対し、実施例1〜19ではいずれも3.5V以上であり、作動電圧をより高めることができた。
【0079】
実施例のうち、含リン有機化合物を用いた実施例12〜19では、初期の開放電圧が4Vを超えるものが多く、含リン有機化合物を用いると作動電圧をより高めることができた。また、含リン有機化合物を用いた実施例12〜19では、放電に伴う電圧低下が小さく、全体的に作動電圧を高めることができた。なかでも、酸素を介してリンと結合している炭化水素基の炭素数が2以下である実施例12〜14,16〜17では、作動電圧をより高めることができた。
【0080】
実施例のうち、含硫黄有機化合物を用いた実施例1〜11において、酸素を介することなく硫黄と炭化水素基が結合している実施例1〜4,6〜11では、作動電圧をより高めることができた。なかでも、環状構造を含む電解液溶媒を用いた実施例3〜4,6〜11では、作動電圧をより高めることができた。このうち、スルホキシド化合物を用いた実施例3〜4,5〜7,10,11では、作動電圧をより高めることができ、酸素と二重結合した硫黄を含む環状構造を有する実施例6,7では、作動電圧をさらに高めることができた。なお、実施例3などに用いたジフェニルスルホキシドは、単独ではリチウム塩を十分に溶解させることができないため、他の電解液溶媒と共に用いた。
【0081】
ヨウ素濃度のみが異なる実施例1と実施例2とを比較すると、ヨウ素濃度が0.054mol/Lの実施例1のほうが、ヨウ素濃度が0.036mol/Lの実施例2より初期の開放電圧が小さく、放電容量60mAh/gの時点での電圧が大きかったが、大きな差は認められなかった。また、ヨウ素濃度のみが異なる実施例12,14,18を比較すると、ヨウ素濃度が0.66mol/Lの実施例14、ヨウ素濃度が0.054mol/Lの実施例12、ヨウ素濃度が0.79mol/Lの実施例18の順に初期の開放電圧が小さくなり、放電容量60mAh/gの時点での電圧が小さくなったが、大きな差は認められなかった。このことから、ヨウ素濃度の最適値はあるものの、0.01mol/L以上飽和濃度以下の濃度であれば、作動電圧を高めることができるものと推察された。
【0082】
電解質の種類のみが異なる実施例14と実施例17とを比較すると、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下LiTFSIとも称する)を用いた実施例14のほうがLiPF6を用いた実施例17より初期の開放電圧が小さく、放電容量60mAh/gの時点での電圧が大きかったが、大きな差は認められなかった。このことから、支持塩は特に限定されず、これら以外の支持塩を用いても、作動電圧を高めることができると推察された。
【0083】
正極のみが異なる実施例14と実施例19とを比較すると、導電材としてのケッチェンブラックと触媒としての二酸化マンガンを含む実施例14のほうが導電材としての活性炭を含み触媒を含まない実施例19より初期の開放電圧が大きく、放電容量60mAh/gの時点での電圧が大きかったが、大きな差は認められなかった。このことから、正極にヨウ素の酸化還元触媒を含むほうが作動電圧をより高めることができ、正極の種類にかかわらず作動電圧を高めることができると推察された。
【0084】
なお、比較例1では、電解液溶媒として炭素と酸素との二重結合部位を有するものを用いているが、初期の開放電圧は理論値の3.57Vより低かった。このことから、酸素と他の元素との二重結合部位を有するだけでは作動電圧を高めるのに十分でないことがわかった。また、比較例2では、電解液溶媒として硫黄と酸素との二重結合を有するものを用いているが、放電容量60mAh/gの時点にける電圧が3.37Vと低かった。また、比較例1〜3ではいずれも支持塩として、リチウムをカチオンとしTFSIをアニオンとする塩であるLiTFSIを用いており、TFSIは硫黄と酸素との二重結合を有している。これらのことから、硫黄と酸素との二重結合が存在するだけでは作動電圧を高めるのに十分でないことがわかった。なお比較例1〜3に含まれる硫黄と酸素との二重結合を有する化合物は、アニオンを構成するものであり、ヨウ素と分子錯体を形成するものではない。また、比較例3では、電解液溶媒として酸素と他の元素との二重結合部位を有しないものを用いており、放電容量60mAh/gの時点における電圧が3.42Vと低かった。以上のことから、実施例のものでは、主に、硫黄と酸素との二重結合やリンと硫黄との二重結合がヨウ素との分子錯体の形成に関与し、電池の作動電圧を高めているものと推察された。
【0085】
ハロゲンとして臭素を用いた場合、表3に示すように、実施例20〜23では、いずれも理論電圧である4.10Vよりも高い電圧が得られた。また、放電容量60mAh/gの時点において、比較例4のものでは3.9V以下であったのに対し、実施例20〜23ではいずれも3.9V以上であり、作動電圧をより高めることができた。
【0086】
ハロゲンとしてヨウ化モノクロリドを用いた場合、表4に示すように、実施例24では、理論電圧である3.98Vよりも高い電圧が得られた。また、放電容量60mAh/gの時点において、比較例5のものでは理論電圧以下であったのに対し、実施例24では理論容量以上であり、作動電圧をより高めることができた。
【0087】
ハロゲンとしてヨウ化モノブロミドを用いた場合、表4に示すように、実施例25〜27では、いずれも理論電圧である3.83Vよりも高い電圧が得られた。また、放電容量60mAh/gの時点において、比較例6のものでは理論電圧以下であったのに対し、実施例25〜27ではいずれも理論電圧以上であり、作動電圧をより高めることができた。
【0088】
ハロゲンとしてヨウ化トリブロミドを用いた場合、表4に示すように、実施例28〜30では、いずれも理論電圧である4.19Vよりも高い電圧が得られた。また、放電容量60mAg/gの時点において、比較例7,8では4.2V程度まで電圧が低下しているのに対し、実施例28〜30では4.4Vを維持しており、作動電圧をより高めることができた。
【0089】
以上より、ハロゲンと分子錯体を形成する電解液溶媒を用いることで、作動電圧をより高めることができることがわかった。なお、上述した実施例では、ハロゲンとして、ヨウ素、臭素、ヨウ化モノクロリド、ヨウ化モノブロミド、ヨウ化トリクロリドのいずれを用いても作動電圧を高めることができたことから、ハロゲンは、実施例で用いたもの以外でも、同様の効果が得られるものと推察された。例えば、塩素やヨウ化トリブロミドなどでもよいと推察された。
【符号の説明】
【0090】
10 非水電解質ハロゲン電池、14 負極、16 正極、16a 集電体、16b 導電材、16c バインダ、18 イオン伝導媒体、20 ビーカーセル、22 正極、24 負極、26 電解液、28 蓋。
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