(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シートクッション側及びシートバック側のいずれか一方に取り付けられ内歯歯車及び該内歯歯車と同心でその内周側に配置された第1筒部を有する第1部材と、シートクッション側及びシートバック側のいずれか他方に取り付けられ前記内歯歯車よりも少ない歯数で該内歯歯車と噛合する外歯歯車及び該外歯歯車と同心でその内周側に配置され前記第1筒部が遊挿される第2筒部を有する第2部材と、前記第1筒部の外周面及び前記第2筒部の内周面の間に形成された環状の偏心空間に配置され該偏心空間から軸方向に突出する突起部を有する一対の楔部材と、これら一対の楔部材を周方向において互いに離隔する方向に付勢する付勢手段と、前記第1筒部と同心の軸線を有し回転に伴い周方向に沿って前記突起部を押圧することで前記一対の楔部材を回転させて前記内歯歯車及び前記外歯歯車の噛み合い位置を周方向に移動させる入力部材とを備えるシートリクライニング装置において、
加工誤差で前記付勢手段の付勢荷重が最大となる状態において、前記入力部材が前記楔部材を押圧する押圧点における押圧方向線を、前記楔部材が前記第1筒部に接触する内側接触点における接線及び前記第2筒部に接触する外側接触点における接線の中間線方向に設定したことを特徴とするシートリクライニング装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2では、入力部材が楔部材を押圧する押圧点が楔部材の突起部に設定されることで、楔部材と第1部材及び第2部材との各接触点(外側接触点、内側接触点)に対し、前記押圧点が軸方向にオフセットされている。従って、押圧方向線の設定によっては、楔部材に対し軸方向成分のオフセット荷重が加わり、駆動時に第1部材又は第2部材との楔部材の外側接触面及び内側接触面に不均一な荷重が加わることになる。この場合、例えば楔部材が偏磨耗してその摺動悪化、耐久性悪化、異音発生を余儀なくされる。
【0007】
本発明の目的は、徒に加工精度を増加することなく楔部材を回転させるために必要な入力部材の駆動力を低減でき、且つ、楔部材に加わる軸方向成分のオフセット荷重による偏磨耗を抑制することができるシートリクライニング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、シートクッション側及びシートバック側のいずれか一方に取り付けられ内歯歯車及び該内歯歯車と同心でその内周側に配置された第1筒部を有する第1部材と、シートクッション側及びシートバック側のいずれか他方に取り付けられ前記内歯歯車よりも少ない歯数で該内歯歯車と噛合する外歯歯車及び該外歯歯車と同心でその内周側に配置され前記第1筒部が遊挿される第2筒部を有する第2部材と、前記第1筒部の外周面及び前記第2筒部の内周面の間に形成された環状の偏心空間に配置され該偏心空間から軸方向に突出する突起部を有する一対の楔部材と、これら一対の楔部材を周方向において互いに離隔する方向に付勢する付勢手段と、前記第1筒部と同心の軸線を有し回転に伴い周方向に沿って前記突起部を押圧することで前記一対の楔部材を回転させて前記内歯歯車及び前記外歯歯車の噛み合い位置を周方向に移動させる入力部材とを備えるシートリクライニング装置において、加工誤差で前記付勢手段の付勢荷重が最大となる状態において、前記入力部材が前記楔部材を押圧する押圧点における押圧方向線を、前記楔部材が前記第1筒部に接触する内側接触点における接線及び前記第2筒部に接触する外側接触点における接線の中間線方向に設定したことを要旨とする。
【0009】
同構成によれば、前記押圧方向線を、前記内側接触点における接線及び前記外側接触点における接線の中間線方向に設定したことで、前記入力部材が前記楔部材を押圧した際に、該楔部材が前記偏心空間の間隔の狭い方から広い方へ抜ける際の摩擦抵抗を軽減でき、前記楔部材を回転させるために必要な前記入力部材の駆動力を低減できる。加えて、前記楔部材に加わる軸方向成分のオフセット荷重による偏磨耗を抑制することができ、該楔部材の耐久性能を向上させることができる。
【0010】
また、前記入力部材が前記楔部材を押圧する前記押圧点を前記突起部に配置したことで、例えば前記楔部材の周方向における先端部(両楔部材が互いに対向する先端部とは反対側の先端部)に配置する場合に比べて、前記押圧点を前記内側接触点及び前記外側接触点に近付けることができる。これにより、例えば前記第1部材又は前記第2部材の加工誤差による前記偏心空間の誤差で前記内側接触点又は前記外側接触点に誤差を生じた場合や、前記楔部材又は前記入力部材の加工誤差で前記押圧方向線に誤差を生じた場合でも、該押圧方向線を前記内側接触点と前記外側接触点との間に位置させるための許容量を増大することができる。
【0011】
なお、前記押圧方向線は、前記楔部材を押圧する前記入力部材の押圧面の法線方向又は前記入力部材に押圧される前記楔部材の被押圧面の法線方向として定義されるものである。一方、前記中間線方向は、前記内側接触点及び前記外側接触点間に挟まれるとともに、前記内側接触点における前記接線及び前記外側接触点における前記接線の交点を通る直線方向として定義されるものである。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシートリクライニング装置において、加工誤差で前記中間線方向に対して前記押圧方向線に誤差が生じる方向を、前記押圧点を支点に径方向内側に向けたことを要旨とする。
【0013】
通常、前記外側接触点における前記楔部材の接触面(外側接触面)は、前記内側接触点における前記楔部材の接触面(内側接触面)に比べて回転中心からの径方向の距離が大きくなるため、前記楔部材を抜く初期の段階では、前記外側接触面を離脱するために必要なトルクが前記内側接触面を離脱するために必要なトルクよりも大きくなる。同構成によれば、加工誤差で前記中間線方向に対して前記押圧方向線に誤差が生じる方向を、前記押圧点を支点に径方向内側に向けたことで、前記外側接触面の離脱を積極的に促進して前記楔部材を回転させるために必要な前記入力部材の駆動力を低減できる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のシートリクライニング装置において、前記入力部材が前記楔部材を押圧する前記押圧点を、前記突起部の径方向における中心よりも径方向外側寄りに配置したことを要旨とする。
【0015】
同構成によれば、前記押圧点を、前記突起部の径方向における中心よりも径方向外側寄りに配置したことで、加工誤差で前記中間線方向に対して前記押圧方向線が前記押圧点を支点に径方向内側に向くように誤差が生じた際に、前記押圧方向線を前記内側接触点と前記外側接触点との間により確実に位置させることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシートリクライニング装置において、加工誤差で前記付勢手段の付勢荷重が最大となる状態において、前記入力部材は、前記楔部材と面接触の状態で該楔部材を押圧することを要旨とする。
【0017】
同構成によれば、加工誤差で前記付勢手段の付勢荷重が最大となって、前記楔部材を回転等するために必要な初期駆動荷重が最大になるとき、即ち前記入力部材又は前記楔部材に必要な強度が最大になるとき、前記入力部材及び前記楔部材を面接触させることで各々に加わる荷重を分散することができる。これにより、前記入力部材及び前記楔部材の当接部位における各々の磨耗を抑制することができ、前記入力部材又は前記楔部材の耐久性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、徒に加工精度を増加することなく楔部材を回転させるために必要な入力部材の駆動力を低減でき、且つ、楔部材に加わる軸方向成分のオフセット荷重による偏磨耗を抑制することができるシートリクライニング装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1〜
図6を参照して本発明の一実施形態について説明する。
図1に示すように、自動車などの車両に搭載される車両用シート1は、その座面を形成するシートクッション2を備える。そして、シートクッション2の後端部には、背もたれ部を形成するシートバック3がリクライニング装置4を介して傾斜するように回動可能に連結されている。このリクライニング装置4は、幅方向(シート幅方向)両側に対で設けられており、両リクライニング装置4は、
図2に示すように、幅方向に延在する略円筒状の金属パイプからなる連結シャフト5に連結されている。そして、片側のリクライニング装置4は、これを回転駆動する駆動装置6に駆動連結されている。従って、駆動装置6に駆動された当該側のリクライニング装置4の回転が、連結シャフト5を介して反対側のリクライニング装置4に伝達されることで、両リクライニング装置4が同期して作動するようになっている。
【0021】
図2に示すように、リクライニング装置4は、シートクッション2の骨格(シートクッションフレーム)に締結されるロアアーム11を備えるとともに、該ロアアーム11の側面に締結される第1部材としてのロアプレート21を備える。このロアプレート21は、金属板の半抜き(ハーフブランキング)により成形されたもので、幅方向内側から略円形に凹設された凹部22を有する。この凹部22には、内歯歯車23が形成されている。また、上記凹部22の中央部には、第1筒部としての円筒状のボス部24が凹部22(内歯歯車23)と同心で幅方向内側に突出形成されている。内歯歯車23の内周側に配置されるボス部24は、バーリング加工により成形されたもので、その内周面はシャフト穴25を形成する。
【0022】
一方、リクライニング装置4は、シートバック3の骨格(シートバックフレーム)に締結される第2部材としてのアッパプレート31を備える。このアッパプレート31は、金属板の半抜きにより成形されたもので、前記凹部22の内径よりも小さい外径を有して幅方向外側(ロアプレート21側)に略円形に突設された凸部32を有する。この凸部32には、外歯歯車33が形成されている。また、凸部32の中央部には、円筒状のボス部34が凸部32(外歯歯車33)と同心で幅方向内側に突出形成されている。このボス部34は、バーリング加工により成形されたもので、その内周面にはその内径と同等の外径を有する第2筒部としての円環状のブッシュ35が圧入にて固着されている。外歯歯車33の内周側に配置されるブッシュ35の内径は、ロアプレート21のボス部24の外径よりも大きく設定されており、ブッシュ35にはボス部24が遊挿されている。
【0023】
ここで、内歯歯車23は、外歯歯車33よりも所定枚数(本実施例では1枚)だけ多い歯数を有している。そして、内歯歯車23の歯形は外歯歯車33と噛み合うように成形されている。
図3に示したように、内歯歯車23及び外歯歯車33が噛み合う状態では、内歯歯車23の中心軸と外歯歯車33の中心軸とが偏心している。従って、内歯歯車23及び外歯歯車33の噛み合う角度位置(以下、単に「噛合い位置」ともいう)が周方向に順次移動すると、1回転するごとにアッパプレート31はロアプレート21に対して上記歯数の差分相当の角度だけ回動する。
【0024】
図2に示すように、内歯歯車23及び外歯歯車33の噛み合う状態では、ボス部24の外周面24a及びブッシュ35の内周面35aが中心軸の径方向で対向している。そして、内歯歯車23及び外歯歯車33の偏心した噛合いにより、ボス部24の外周面24a及びブッシュ35の内周面35aの間に、
図3に示すように、環状の偏心空間Sが形成されている。すなわち、この偏心空間Sは、内歯歯車23及び外歯歯車33の噛み合う角度位置及びその反対側の角度位置で中心軸の径方向の距離がそれぞれ最大及び最小になっている。
【0025】
偏心空間Sには、これら内歯歯車23及び外歯歯車33の噛み合う角度位置及びその反対側の角度位置で周方向で2分された一対の楔部材40a,40bが装着されている。これら楔部材40a,40bは、偏心空間Sの形状に合わせて互いに対称形状をなす劣弧状に成形されており、内歯歯車23及び外歯歯車33の噛合い位置側となる周方向先端部側に向かって中心軸の径方向の板厚が徐々に大きくなるように形成されている。また、楔部材40a,40bの軸方向の幅は、基本的にボス部24及びブッシュ35(内歯歯車22a及び外歯歯車24a)の軸方向の幅と同等に設定されている。そして、楔部材40a,40bの内歯歯車23及び外歯歯車33の噛合い位置側寄りとなる周方向中間部には、幅方向内側(
図3において紙面に直交する手前側)となる軸方向に突起部41が突設されている。従って、突起部41は、ボス部24及びブッシュ35の先端から幅方向内側に露出している。なお、楔部材40a,40bの前記噛合い位置側の周方向先端部は、内周側の角部が突起部41まで切り欠かれて係止部42を形成する。
【0026】
そして、これら楔部材40a,40bは、
図4に示すように、付勢手段としての保持スプリング45によって周方向において互いに離隔する方向に、即ち内歯歯車23及び外歯歯車33の偏心量を増加させる側に付勢されている。すなわち、この保持スプリング45は、アッパプレート31の幅方向内側で楔部材40a,40bの外周側に配置される優弧形状のばね部45cと、該ばね部45cの両端から中心軸と平行に屈曲された対の端末45a,45bとを有して、いわゆるΩ形状に成形されている。保持スプリング45は、両端末45a,45bが該当の楔部材40a,40bの係止部42に係止されることで、楔部材40a,40bを内歯歯車23及び外歯歯車33の偏心量が増加する側に付勢する。これにより、楔部材40a,40bを介して、内歯歯車23及び外歯歯車33の噛合い位置が保持される。つまり、リクライニング装置4は、一対の楔部材40a,40bの摩擦力、保持スプリング45の付勢力でロアプレート21に対するアッパプレート31の回転角度を保持している。
【0027】
ロアプレート21のシャフト穴25には、幅方向に軸線の延びる入力部材としての駆動シャフト50が挿通・軸支されている。すなわち、駆動シャフト50は、軸方向中間部において、円柱状の軸部51を有しており、該軸部51においてシャフト穴25に回転自在に支持されている。
【0028】
また、駆動シャフト50は、軸部51の軸方向内側に隣接配置された扇形状のカム部52を有する。このカム部52は、ブッシュ35の内径よりも大きい外径を有する円板形状の一部を径方向に開放するように切り欠いてなり、幅方向で対向する楔部材40a,40bの突起部41よりも薄肉側の先端部の端面を覆っている。そして、カム部52の周方向における両先端面は、該当の楔部材40a,40bの突起部41に当接可能な押圧面55を形成する。従って、カム部52(駆動シャフト50)が回転すると、その回転方向で押圧面55に対向するいずれかの楔部材40a,40bの突起部41の端面(以下、被押圧面44ともいう)が当該押圧面55に押圧される。このとき、楔部材40a,40bは、保持スプリング45の付勢力に抗して周方向における厚肉側の両先端部間の間隙46(
図3参照)を狭くしながら、あるいはこれに伴って厚肉側の両先端部同士を当接させながら、一体回転する。このとき、両楔部材40a,40bの移動により、内歯歯車23及び外歯歯車33の噛合い状態を保ったままアッパプレート31が公転し、この公転時におけるアッパプレート31の自転数として駆動シャフト50の回転が減速される。すなわち、アッパプレート31は、駆動シャフト50の1回転ごとに内歯歯車23及び外歯歯車33の歯数の差分相当の角度だけロアプレート21に対し回動する。なお、
図4に示すように、駆動シャフト50は、軸方向外側端部にセレーション軸53を有するとともに、軸方向内側端部にセレーション軸54を有する。このセレーション軸54は、連結シャフト5の幅方向各端部に嵌合している。
【0029】
シャフト穴25を貫通する軸部51のロアプレート21側の端部は、ワッシャ56を介して金属板からなる止め輪57により軸方向に係止されるとともに、駆動シャフト50のアッパプレート31側の端部は、保持スプリング45を押さえるためのカバー58を介して金属板からなる止め輪59により軸方向に係止されている。つまり、駆動シャフト50は、軸方向において両止め輪57,59間に位置決めされている。さらに、
図2に示すように、ロアプレート21及びアッパプレート31の各々には、それらの内歯歯車23及び外歯歯車33の噛合状態が軸方向に外れないように相手側の部材(ロアプレート21又はアッパプレート31)を軸方向に挟み込む押さえプレート26,36が取着されている。
【0030】
ロアアーム11には、前記駆動装置6が締結されている。この駆動装置6は、
図1に示す駆動源としての電動モータ61と、
図2に示すように、電動モータ61の回転軸に固着されたウォーム62と、該ウォーム62に噛合するウォームホイール63と、該ウォームホイール63と一体回転するピニオン64と、該ピニオン64に噛合するとともに前記駆動シャフト50のセレーション軸53に嵌合する伝達ギヤ65とを備える。従って、例えば適宜の操作スイッチの操作により電動モータ61が正方向又は逆方向に駆動されると、ウォーム62の回転がウォームホイール63、ピニオン64及び伝達ギヤ65を介して当該側の駆動シャフト50に伝達される。これにより、ロアプレート21のシャフト穴25周りに当該駆動シャフト50が回転する。また、駆動シャフト50が回転は、連結シャフト5を介して反対側の駆動シャフト50に伝達される。これにより、ロアプレート21のシャフト穴25周りに幅方向両側の駆動シャフト50が同期して回転する。そして、各駆動シャフト50の回転に伴い、前述の態様でその1回転ごとに内歯歯車23及び外歯歯車33の歯数の差分相当の角度だけロアプレート21に対しアッパプレート31が回動する。
【0031】
次に、カム部52(駆動シャフト50)の押圧面55による突起部41(楔部材40a,40b)の被押圧面44の押圧態様について説明する。
図5及び
図6に示すように、カム部52の図示時計回りの回転に伴いその押圧面55が、両楔部材40a,40bのうちの一方(ここでは楔部材40a)の突起部41の被押圧面44を、押圧点Pにおいて押圧するものとする。すなわち、
図6に拡大して併せ示したように、押圧面55の先端が湾状に成形されているのに対し被押圧面44全体が直線状に成形されており、基本的に点接触となる押圧面55と被押圧面44との当接点が押圧点Pに相当する。そして、実質的に回転伝達力として作用し得る方向である押圧点Pにおける被押圧面44の法線方向を押圧方向線Fで表すものとする。一方、楔部材40aが実質的に楔として作用するボス部24の外周面24aとの接触点及びブッシュ35の内周面35aとの接触点をそれぞれ、内側接触点C1及び外側接触点C2で表すものとする。そして、これら内側接触点C1におけるボス部24の外周面24aの接線及び外側接触点C2におけるブッシュ35の内周面35aの接線をそれぞれ、T1及びT2で表すものとする。
【0032】
ここで、
図5に示すように、加工誤差などに起因して両楔部材40a,40bの周方向における厚肉側の先端部間の間隙46が最も狭くなる組付け状態にあるときには、その付勢力によって最もきつく絞られる保持スプリング45の付勢荷重FSは最大であって、両楔部材40a,40bを回転等するための初期駆動荷重が最大になっている。このとき、押圧方向線Fは、内側接触点C1及び外側接触点C2間に挟まれるとともに、両接線T1,T2の交点を通る直線方向である中間線方向Mに一致するように設定されている。
【0033】
一方、
図6に示すように、加工誤差などに起因して前記間隙46が最も広くなる組付け状態にあるときには、その付勢力によって最も緩く絞られる保持スプリング45の付勢荷重FSは最小であって、両楔部材40a,40bを回転等するための初期駆動荷重が最小になっている。このとき、押圧方向線Fは、両接線T1,T2の中間線方向Mに対しカム部52の中心軸を中心とする内周側、即ち押圧点Pを支点にカム部52の中心軸を中心とする内周側に向いている。つまり、押圧方向線Fは、両接線T1,T2の中間線方向Mに一致する状態(
図5の状態)を基準にすると、加工誤差で中間線方向Mに対して押圧方向線Fに誤差の出る方向は、押圧点Pを支点にカム部52の中心軸を中心とする径方向内側に向けられている。
【0034】
なお、本実施形態では、
図5に示す初期駆動荷重が最大になる状態では、カム部52の押圧面55は、突起部41の被押圧面44と面接触の状態でこれを押圧するように設定されている。これは、加工誤差で楔部材40a,40bの初期駆動荷重が最大になるとき、即ちカム部52又は楔部材40a,40bに必要な強度が最大になるとき、カム部52の押圧面55及び突起部41の被押圧面44を面接触させることで各々に加わる荷重を分散するためである。このときの押圧点Pは、加工誤差で前記面接触の状態に収束する直近の押圧点Pとして定義される。
【0035】
次に、本実施形態の動作について説明する。
まず、各駆動シャフト50が回転停止している状態では、両楔部材40a,40bが保持スプリング45により、周方向において互いに離隔する方向に付勢されていることで、即ち内歯歯車23及び外歯歯車33の偏心量を増加させる側に付勢されていることでそれらの噛合い位置が保持される。これにより、ロアプレート21に対するアッパプレート31の回転角度が保持されて、シートバック3が所定傾斜角度に保持される。
【0036】
一方、駆動装置6により各駆動シャフト50が回転駆動されると、回転方向に応じていずれか一方の楔部材40a,40bの被押圧面44(突起部41)がカム部52の押圧面55により押圧される。そして、楔部材40a,40bは、保持スプリング45の付勢力に抗して周方向における厚肉側の両先端部間の間隙46を狭くしながら、あるいはこれに伴って厚肉側の両先端部同士を当接させながら、一体回転する。これにより、アッパプレート31は、駆動シャフト50の1回転ごとに内歯歯車23及び外歯歯車33の歯数の差分相当の角度だけロアプレート21に対し回動し、シートクッション2に対しシートバック3が傾動する。
【0037】
このとき、特に加工誤差で楔部材40a,40bの初期駆動荷重が最大になるとき、押圧方向線Fを両接線T1,T2の中間線方向Mに一致するように設定したことで、カム部52(駆動シャフト50)が楔部材40a,40bを押圧した際に、該楔部材40a,40bが偏心空間Sの間隔の狭い方から広い方へ抜ける際の摩擦抵抗が軽減され、楔部材40a,40bを回転させるために必要な駆動シャフト50の駆動力が低減される。加えて、突起部41を通じて楔部材40a,40bに加わる軸方向成分のオフセット荷重による偏磨耗が抑制される。
【0038】
また、駆動シャフト50が楔部材40a,40bを押圧する押圧点Pを突起部41に配置したことで、例えば楔部材40a,40bの周方向における先端部(両楔部材40a,40bが互いに対向する先端部とは反対側の先端部)に配置する場合に比べて、押圧点Pが内側接触点C1及び外側接触点C2に近付けられる。
【0039】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、加工誤差で保持スプリング45の付勢荷重FSが最大になるとき、押圧方向線Fを、内側接触点C1における接線T1及び外側接触点C2における接線T2の中間線方向Mに設定したことで、駆動シャフト50が楔部材40a,40bを押圧した際に、該楔部材40a,40bが偏心空間Sの間隔の狭い方から広い方へ抜ける際の摩擦抵抗を軽減でき、楔部材40a,40bを回転させるために必要な駆動シャフト50の駆動力を低減できる。加えて、楔部材40a,40bに加わる軸方向成分のオフセット荷重による偏磨耗を抑制することができ、該楔部材40a,40bの耐久性能を向上させることができる。つまり、例えば衝突時の荷重受け面となる楔部材40a,40bの周方向の長さを確保して十分な強度を維持しながらも、前記した偏磨耗を抑制することができる。
【0040】
また、駆動シャフト50が楔部材40a,40bを押圧する押圧点Pを突起部41に配置したことで、例えば楔部材40a,40bの周方向における先端部(両楔部材40a,40bが互いに対向する先端部とは反対側の先端部)に配置する場合に比べて、押圧点Pを内側接触点C1及び外側接触点C2に近付けることができる。これにより、例えばロアプレート21又はアッパプレート31の加工誤差による偏心空間Sの誤差で内側接触点C1又は外側接触点C2に誤差を生じた場合や、楔部材40a,40bの加工誤差で押圧方向線Fに誤差を生じた場合でも、該押圧方向線Fを内側接触点C1と外側接触点C2との間に位置させるための許容量を増大することができる。そして、ロアプレート21や、アッパプレート31、楔部材40a,40b等に要求される加工精度を軽減することができる。
【0041】
(2)本実施形態では、加工誤差で中間線方向Mに対して押圧方向線Fに誤差が生じる方向を、押圧点Pを支点に径方向内側に向けたことで、外側接触面の離脱を積極的に促進して楔部材40a,40bを回転させるために必要な駆動シャフト50の駆動力を低減できる。
【0042】
(3)本実施形態では、加工誤差で保持スプリング45の付勢荷重FSが最大となって、楔部材40a,40bを回転等するために必要な初期駆動荷重が最大になるとき、即ち駆動シャフト50又は楔部材40a,40bに必要な強度が最大になるとき、駆動シャフト50(押圧面55)及び楔部材40a,40b(被押圧面44)を面接触させることで各々に加わる荷重を分散することができる。これにより、駆動シャフト50及び楔部材40a,40bの当接部位における各々の磨耗を抑制することができ、駆動シャフト50又は楔部材40a,40bの耐久性能を向上させることができる。
【0043】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・
図7に示すように、カム部52(駆動シャフト50)は、加工誤差に関わらず突起部41(楔部材40a,40b)の被押圧面44に必ず点接触するように、円弧形状の押圧面71を有してもよい。
【0044】
あるいは、
図8に示すように、突起部41(楔部材40a,40b)は、加工誤差に関わらずカム部52(駆動シャフト50)の押圧面55に必ず点接触するように、円弧形状の被押圧面72を有してもよい。このとき、押圧方向線Fは、押圧点Pにおける押圧面55の法線方向で表される。
【0045】
これらの場合、加工誤差が生じても駆動シャフト50及び楔部材40a,40bが常に点接触になるため、押圧点Pの位置誤差や押圧方向線Fの方向誤差を抑えることができる。
【0046】
・前記実施形態において、中間線方向Mは、特に両接線T1,T2のなす鋭角の2等分線であってもよい。この場合、駆動シャフト50が楔部材40a,40bを押圧した際に、該楔部材40a,40bが偏心空間Sの間隔の狭い方から広い方へ抜ける際の摩擦抵抗を略最小にでき、ひいては楔部材40a,40bを回転させるために必要な駆動シャフト50の駆動力を略最小にできる。
【0047】
・前記実施形態において、カム部52(駆動シャフト50)が突起部41(楔部材40a,40b)を押圧する押圧点Pを、突起部41の径方向における中心よりも径方向外側寄りに配置してもよい。これにより、加工誤差で中間線方向Mに対して押圧方向線Fが押圧点Pを支点に径方向内側に向くように誤差が生じた際に(
図6参照)、押圧方向線Fを内側接触点C1と外側接触点C2との間により確実に位置させることができる。
【0048】
・前記実施形態において、ブッシュ35は、アッパプレート31に一体形成されていてもよい。
・前記実施形態において、内歯歯車23の歯数は、外歯歯車33の歯数よりも2枚以上多くてもよい。
【0049】
・前記実施形態において、駆動シャフト50は、適宜の操作ハンドルにより手動で回転させてもよい。
・前記実施形態においては、ロアプレート21及びアッパプレート31をそれぞれシートクッション2側及びシートバック3側に配設したが、これらの関係は逆であってもよい。
【0050】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(イ)請求項1〜4のいずれか一項に記載のシートリクライニング装置において、
前記入力部材及び前記楔部材の当接部位におけるいずれか一方を直線形状とし、いずれか他方を円弧形状にすることを特徴とするシートリクライニング装置。同構成によれば、加工誤差が生じても前記入力部材及び前記楔部材が常に点接触になるため、前記押圧点の位置誤差や前記押圧方向線の方向誤差を抑えることができる。