【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)本発明者は上記した課題のもとに水系リチウム−空気二次電池について鋭意開発を進めている。そして、
図3に示すように、金属リチウムを有する負極と、空気が供給される正極と、負極と正極との間において負極側から正極側に向けて、水遮断性およびリチウムイオン伝導性を有すると共にLiおよびM(M=Al,Ga,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種)を主要成分として含むリチウムイオン伝導材料で形成されたガラスセラミックス層と、第1水系電解液を備えるA部と、陽イオン交換膜と、第2水系電解液を備えるB部とをこの順に具備する水系リチウム−空気二次電池について本出願人等は開発を進めている。これは、負に帯電した陽イオン交換膜が静電反発により、正極の電極反応で生成したOH
-イオンがB部からA部へ透過することを抑え、ガラスセラミックス層の表面がアルカリ性溶液に曝されないようにすることを狙った技術である。しかしながら、後述の本発明者の詳細な実験結果で説明するように、実際には、
図6に示すように、陽イオン交換膜で隔たれた正極側のB部における水系電解液のLi
+イオン濃度が上昇すると、陽イオン交換膜で隔たれたガラスセラミックス層側のA部の水系電解液におけるプロトンが陽イオン交換膜を介してイオン交換し、結果として、B部のLiイオンがA部に移動し、A部に残されたOH
-イオンによりLiOHが形成され、A部の電解液が強アルカリ性となり、ガラスセラミックス層のアルカリ腐食が発生するおそれがある。本発明はこれに対処する。
【0016】
すなわち、本発明の様相1に係る水系リチウム−空気二次電池は、金属リチウムを有する負極と、空気が供給される正極と、水遮断性およびリチウムイオン伝導性を有すると共にLiおよびM(M=Al,Ga、Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種)を主要成分として含むリチウムイオン伝導材料で形成されたガラスセラミックス層と、第1水系電解液(以下、第1電解液ともいう)を備えるA部と、陽イオン交換膜と、第2水系電解液(以下、第1電解液ともいう)を備えるB部とをこの順に具備しており、A部の第1水系電解液は、中性域のリチウム塩を含有してpH12以下、pH4以上の範囲に設定されており、
B部の第2水系電解液はアルカリ性で、且つ、
A部の第1水系電解液のリチウムイオン濃度≧B部の第2水系電解液のリチウムイオン濃度であることを特徴とする。
【0017】
本発明の様相1に係る水系Li-空気二次電池によれば、水遮断性の高リチウムイオン伝導性をもつガラスセラミック層を、Li金属負極を保護する保護層として用いる。本様相によれば、放電生成物であるLiOHを水系電解液中へ溶解、沈殿させ、貯蔵出来る利点が得られる。しかしながら、ガラスセラミックス層は強いアルカリ液に接触れると、アルカリ腐食を引き起こすおそれがあるため、電解液中のLiOHの濃度をあまり高く出来ないと言う事情がある。
【0018】
そこで本発明の様相1によれば、負極と正極との間に介在する水系の電解液部を陽イオン交換膜によりA部とB部とに分離している。これにより正極の放電反応によりB部において生成したOH
-イオンがA部に透過することを抑制する。このためA部の第1電解液が強アルカリになることが抑えられる。よって、アルカリに対して安定性が必ずしも充分ではないガラスセラミックス層の表面のアルカリ腐食を抑制させることができる。即ち、負に帯電した陽イオン交換膜が静電反発により、正極の電極反応で生成したOH
-イオンがB部からA部へ透過することを抑え、A部の第1水系電解液中のLiOHの濃度が抑えられ、ひいてはガラスセラミックス層の表面がアルカリ性溶液に曝されないようにできる。ガラスセラミックス層の表面の安定性および耐久性が向上する。
【0019】
さらに本様相によれば、水系電解液中に陽イオン交換膜を設置してA部およびB部は分離されている。この場合、電池の放電反応において負極側のA部で生成したLi
+イオンは、陽イオン交換膜を通過して、B部へ移動可能である。しかし、正極の放電反応で生成したB部の第2電解液におけるOH
-イオンは、陽イオン交換膜の静電反発により、B部からA部へ移動することが制限され、B部の第2電解液におけるLiOH濃度が次第に増加する。このようにB部の第2電解液におけるLiOH濃度が次第に高くなってアルカリが強くなると、B部の第2電解液におけるLi
+イオンとA部の第1水系電解液におけるH
+イオンが、陽イオン交換膜を介してイオン交換し、それぞれ反対側の槽に等量移動することが考えられる(
図6参照)。このためB部側では、酸性の要因となるH
+イオンによるアルカリの中和反応が生じる。これに対して、A部の第1電解液側では、Li
+イオン濃度が増加し、A部に残留するOH
-イオンにより、LiOH濃度増加し、結果として、A部の電解液は強アルカリ性(pH値13以上)に変化し、ガラスセラミックス層の安定性が低下するものと考えられる。そこで本様相によれば、この現象を回避する為に、A部の第1電解液には中性域のLi塩が予め溶解されており、
A部の第1電解液のLi+イオン濃度≧B部の第2電解液のLi+イオン濃度とされており、A部の第1電解液のpH値は4以上、12以下の範囲内の中性域付近とされている。A部の第1電解液のpH値は4以上、5以上、6以上にできる。更にpH値は11以下、10以下、9以下にできる。
【0020】
A部の第1電解液のLi+イオン濃度≧B部の第2電解液のLi+イオン濃度とされているため、B部の第2水系電解液からA部の第1水系電解液へのLi
+の移動が抑制される。このためA部の第1電解液におけるLiOH濃度が高くなることが抑制され、ひいてはA部の第1電解液が強アルカリになることが抑制される。従ってガラスセラミックス層の安定性および耐久性が確保される。
B部の第2水系電解液はアルカリ性とされている。Li+イオン濃度をA部>B部の関係となる場合、Li+イオンの濃度勾配により、Li+イオン濃度が高いA部から、Li+イオン濃度が低いB部側にLi+イオンが移動するおそれが考えられる。しかしながら、B部の第2電解液をアルカリ性に維持しておけば、B部の第2電解液のH+濃度が低下しており、ひいてはA部のLi+イオンとB部のH+イオンとのイオン交換が制限される。この場合、Li+イオン濃度が高いA部からB部へのLi+イオンの移動は制限されると考えられる。
【0021】
(2)本発明の様相2に係る水系リチウム−空気二次電池によれば、上記様相において、リチウムイオン伝導材料(リチウムイオン伝導層)の母材は、Li
1-xM
x(Ge
1-yTi
y)
2-x(PO
4)
3(x=0〜0.8、y=0〜1.0)の組成式を有する。このようなガラスセラミックス層はLATPとも称される。M=Al,Ga,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種を意味する。Li
1-xM
x(Ge
1-yTi
y)
2-x(PO
4)
3が挙げられる。xは0〜0.8の範囲、特に0.1〜0.7の範囲が好ましい。yは0〜1.0の範囲、特に0.1〜0.9の範囲が好ましい。Li
1.35Ti
1.75Al
0.25P
0.9Si
0.1O
12,が例示される。リチウムイオン伝導層は、NASICON型の結晶構造を有する水遮断性の高リチウムイオン伝導性をもつ母材(LATP)で形成されていることが好ましい。
【0022】
このガラスセラミックス層では、ガラス相がセラミックス粒子の粒界を埋めている。このようなイオン伝導性ガラスセラミックス層は、酸化物無機固体電解質である。厚み方向のイオン伝導性としては1×10
−5S/cm(25℃)以上、1×10
−4S/cm(25℃)以上、1×10
−3S/cm(25℃)以上にできる。中性域のリチウム塩のpHとしては4〜10が例示される。イオン伝導性ガラスセラミックス層の厚みは10〜1,000μmが好ましい。
【0023】
(3)本発明の様相3に係る水系リチウム−空気二次電池によれば、上記した様相において、リチウム塩は、LiCl、LiBr、LiI、LiNO
3のうちの少なくとも1種であることを特徴とする。A部の第1水系電解液のpH値を4〜12の範囲内の中性域付近とするのに有利である。
【0024】
(4)本発明の様相4に係る水系リチウム−空気二次電池によれば、上記様相において、負極とガラスセラミックス層との間に反応防止層が設けられていることを特徴とする。上記したガラスセラミックス層と、Li金属を備える負極と直接接触させると、リチウムが還元力が強いため、ガラスセラミックス層に影響を与えるおそれがある。具体的に、ガラスセラミックス層の構成成分であるチタンが還元されるおそれがある。そこで、Li金属を備える負極とガラスセラミックス層との間に、反応防止層が介在されている。反応防止層はリチウムイオン伝導性をもち、金属リチウムに対して安定なものが好ましい。反応防止層は、リチウムリン酸窒化物(LiPON,組成式:Li
3-xPO
4-yN
y)、ポリマー固体電解質、有機系電解液等が挙げられる。ポリマー固体電解質としては、ポリエチレンオキサイドにビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム塩を含有させたものが挙げられる。有機系電解液の溶媒としてはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。