(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して制御装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。また、以下の実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよく、実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0019】
[1.装置構成]
本実施形態の車載ヘッドランプの光軸制御装置は、
図1に示す車両10に搭載されている。この車両10は、エンジン7を駆動源として走行するガソリン車両である。エンジン7で発生する駆動力は、変速機9や図示しない動力伝達経路を介して、各車輪11のうちの駆動輪に伝達される。
また、車両10の前部には左右一対のヘッドランプ5が設けられる。各々のヘッドランプ5には、光の照射方向を上下に調整するためのアクチュエーター6(調整手段)が内蔵され、車両10の姿勢に応じて光軸角度を傾動調整する。
【0020】
例えば、
図2中に模式的に示すように、ヘッドランプ5の光源5aの周囲に配置されるリフレクター5bが、上下方向に揺動自在に設けられる。リフレクター5bの揺動中心軸5cの向きは、車両10の車幅方向とされる。このリフレクター5bに対して、水平方向(車両前後方向)に伸縮するアクチュエーター6のロッド6aの先端がピン接合される。このような構造により、ロッド6aの水平方向への伸縮作動量に応じてリフレクター5bが揺動し、光軸角度が上下方向に調整される。なお、ロッド6aを駆動するアクチュエーター6は、後述する光軸制御装置1によって制御される。
【0021】
本実施形態のアクチュエーター6は、車両10の停止時だけでなく走行中にも光軸角度を調整する調整手段である。ただし、車両10が走行している状態で無制限に光軸角度を調整するのではなく、光軸補正を行うのに適した走行状態でのみ光軸角度を調整するように制御される。
【0022】
本車両10には、上記のエンジン7及びヘッドランプ5を制御するための電子制御装置として、光軸制御装置1及びエンジン制御装置8が設けられる。これらの制御装置は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両10に設けられたCAN,FlexRay等の通信ラインを介して互いに接続される。これらの制御装置は、図示しないイグニッションスイッチの操作位置がアクセサリ位置やオン位置(エンジン7が始動している状態に対応する位置)であるときに通電されて、各種制御を開始する。
【0023】
エンジン制御装置8は、エンジン7に関する点火系,燃料系,吸排気系及び動弁系といった広汎なシステムを制御する電子制御装置であり、運転者の出力要求等に応じてエンジン7の各シリンダに導入する空気量,燃料噴射量及び点火タイミングを制御するものである。また、エンジン7には、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサー16が併設されており、ここで検出されたエンジン回転数Neの情報が光軸制御装置1及びエンジン制御装置8に伝達されている。
【0024】
エンジン制御装置8の内部では、後述するアクセルセンサー15で検出されたアクセル操作量θ
ACや車輪速センサー14で検出された車輪速Vt,燃料噴射量,エンジン回転数Ne等に基づく所定の演算手法により、エンジン7から出力されるエンジントルクTeの値が随時演算されている。このエンジントルクTeとは、例えばエンジン7の出力軸から出力されるトルクの値であり、エンジン7から変速機9に入力されるトルクである。ここで演算されたエンジントルクTeの値は、光軸制御装置1に伝達される。なお、エンジントルクTeの値は、実際のエンジン7の制御にも用いられる。
【0025】
光軸制御装置1は、ヘッドランプ5の光量や配光状態,光軸角度等を制御する電子制御装置である。光軸制御装置1の入力側には、
図2に示すように、前述のエンジン制御装置8,ドアセンサー12,ハイトセンサー13,車輪速センサー14,アクセルセンサー15,舵角センサー19及びヨーレートセンサー20が接続されている。
【0026】
ドアセンサー12は、車両10の両側面の各ドア17のそれぞれに設けられた開閉センサーであり、各ドア17の開閉の状態を検出して、これに対応する開閉信号Pを出力するものである。これらの開閉信号Pは、光軸制御装置1に伝達される。
【0027】
ハイトセンサー13は、車輪11を車体に対して懸架するサスペンション装置に併設されたセンサーであり、サスペンションスプリング18の伸縮量に対応する車高Hを検出するものである。
図1では、ハイトセンサー13が車両10の後輪のサスペンション装置に一個のみ設けられたものを例示するが、前輪及び後輪の両方のサスペンション装置にそれぞれハイトセンサー13を設けてもよい。
【0028】
ハイトセンサー13で検出される車高Hは、ハイトセンサー13が設けられた位置での地面からの高さに対応するパラメーターであり、言い換えると車両10の傾斜の度合いに対応するパラメーターである。また、車高Hの変動は車体の振動に対応し、振動が大きいほど車高Hの経時変動の振幅や変動頻度(振動数)が増加する。ここで検出された車高Hの情報は、車両10の姿勢や振動状態を把握するための指標として光軸制御装置1に伝達される。
【0029】
車輪速センサー14は、車輪11を支持する車軸の回転角及びその角速度を検出(または演算)するものである。車軸の回転角の単位時間あたりの変化量は車輪11の回転数に比例し、スリップが生じていなければ車輪11の回転数は車輪速Vt(車速)に比例する。ここで検出(または演算)された車輪速Vtの情報は、光軸制御装置1及びエンジン制御装置8に伝達される。なお、車輪速センサー14で検出された車軸の回転角に基づいて、光軸制御装置1で車輪速Vtを演算する構成としてもよい。
【0030】
アクセルセンサー15は、アクセルペダルの踏み込み量に対応する操作量θ
AC(アクセル操作量)を検出するストロークセンサーである。アクセル操作量θ
ACは、運転者の加速要求に対応するパラメーターであり、すなわちエンジン7への出力要求に対応するものである。ここで検出されたアクセル操作量θ
ACの情報は、光軸制御装置1及びエンジン制御装置8に伝達される。
【0031】
舵角センサー19は、ステアリングの操舵角θ
ST(あるいは、操舵輪の舵角)を検出するセンサーである。また、ヨーレートセンサー20は、車両10に作用するヨーレートYを検出するものである。ヨーレートYとは、垂直軸周りの車両10の回転速度(水平面内での回転運動の角速度)である。これらのセンサーで検出された操舵角θ
ST及びヨーレートYの情報はともに光軸制御装置1に伝達される。
【0032】
[2.制御構成]
[2−1.制御の概要]
光軸制御装置1の出力側には、前述のアクチュエーター6が接続されている。本実施形態の光軸制御装置1は、入力された情報に基づいてヘッドランプ5の光軸制御を実施する。ここでいう光軸制御とは、車両10の姿勢に応じてアクチュエーター6の作動量(ロッド6aの伸縮作動量)を制御することにより、ヘッドランプ5の光軸角度(俯角)を自動的に傾動調整する制御である。
【0033】
具体的には、ハイトセンサー13で検出された車高Hに基づいて車両10のピッチ角θ
p(前後方向の傾斜)を推定し、そのピッチ角θ
pに応じて照射距離を確保するようにアクチュエーター6のロッド6aを駆動する制御である。例えば、車両10が水平な路面に停車している状態を基準状態として、ピッチ角θ
pが増大するほど光軸角度を小さくし、ピッチ角θ
pが減少するほど光軸角度を大きくするように、アクチュエーター6を駆動する。言い換えれば、前傾姿勢の傾向が強まるほど照射方向を上向きとし、後傾姿勢の傾向が強まるほど照射方向を下向きとするように、アクチュエーター6のロッド6aを駆動する。
【0034】
また、本実施形態では車両10の状態を以下の三通りに分類する。光軸制御装置1は、以下の(1)または(2)の状態であるときに光軸制御を実施する。
(1)車両10が停止状態(停止中)である
(2)車両10が走行中であり、静走行状態である
(3)車両10が走行中であり、動走行状態である
【0035】
上記の(1)には、例えばエンジン7を始動させた直後のアイドリング停車時が含まれる。なお、車両10が一旦走行を開始した後の停車時(例えば、信号待ちの一時停止時等)は、乗員数や積荷の変化がないことから車両10の姿勢が変化していないものと考えられるため、上記の(1)には含まれない状態(光軸制御を実施しない状態)としてもよい。
【0036】
上記の(2)には、例えば一定の車速での走行時(定速走行時やオートクルーズ時)が含まれる。静走行状態とは、車両10のピッチ方向及びロール方向の姿勢が停車時の姿勢にほぼ維持されたまま走行を継続している状態を意味する。つまり、停車時と比較して、走行路面を基準としたピッチ方向及びロール方向の姿勢がほぼ同一であって、その姿勢が動的に変動するわけではなく、ある程度の時間は維持されるような比較的安定した走行状態のときには、光軸角度が調整される。
これに対して上記の(3)は、(2)以外の走行状態に対応する。つまり、車両10の姿勢が動的に変化している比較的不安定な走行状態のときには、光軸角度を調整しない。
【0037】
[2−2.制御ブロック構成]
図2に示すように、光軸制御装置1には、演算部2,判別部3及び制御部4が設けられる。これらの演算部2,判別部3及び制御部4の各機能は、電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
【0038】
演算部2は、上記の光軸制御に係る演算を行うものであり、変速比演算部2a,駆動トルク演算部2b,抵抗トルク演算部2c,ピッチ影響トルク演算部2d,移動距離演算部2e及びロール角演算部2fを備える。なお、
図3はそれぞれの演算部で演算されるパラメーターの流れを模式的に示している。
【0039】
変速比演算部2aは、エンジン7と駆動輪との間の変速比Rを演算するものである。この変速比Rとは、エンジントルクTeに対する駆動輪の駆動トルクTdの割合に対応するパラメーターであり、変速機9のギヤ比に対応するものである。ここでは、エンジン回転数Ne及び車輪速Vtの比に基づいて変速比Rが演算される。ここで演算された変速比Rの情報は、駆動トルク演算部2bに伝達される。なお、エンジン制御装置8が変速機9の作動状態を把握している場合には、変速比Rの情報をエンジン制御装置8から受け取る構成としてもよい。
【0040】
駆動トルク演算部2b(駆動トルク演算手段)は、車両10の駆動トルクTd、すなわち駆動輪に作用する駆動トルクTdを演算するものである。ここでは、エンジン制御装置8から伝達されるエンジントルクTeと変速比演算部2aから伝達される変速比Rとに基づいて、車両10の駆動トルクTdが演算される。駆動トルクTdの値は、例えば以下の式1に従って演算される。ここで演算された駆動トルクTdの値は、ピッチ影響トルク演算部2dに伝達される。
(駆動トルクTd)=(エンジントルクTe)×(変速比R) …(式1)
【0041】
抵抗トルク演算部2c(抵抗トルク演算手段)は、車両10の走行時の抵抗トルクTrを演算するものである。抵抗トルクTrとは、車両10の走行速度に依存するトルクの減少分を意味し、空気抵抗や車輪11の摩擦抵抗等によって駆動トルクTdとは逆方向に車両10を動かそうとするトルクがこれに相当する。ここでは、車輪速Vtに基づいて抵抗トルクTrが演算される。例えば、車輪速Vtの二乗に比例して抵抗が増大するような演算モデルに基づいて、抵抗トルクTrの値が演算される。ここで演算された抵抗トルクTrの値は、ピッチ影響トルク演算部2dに伝達される。
【0042】
ピッチ影響トルク演算部2d(ピッチ影響トルク演算手段)は、車両10のピッチ角θ
p(車両10のピッチ方向の姿勢)に影響を与えるピッチ影響トルクTpを演算するものである。ここでは、以下の式2に従って、駆動トルクTdから抵抗トルクTrを減算したものがピッチ影響トルクTpとして演算される。ここで演算されたピッチ影響トルクTpの値は、判別部3に伝達される。
(ピッチ影響トルクTp)=(駆動トルクTd)−(抵抗トルクTr) …(式2)
【0043】
なお、車両10のピッチ角θ
pは車両10に作用する前後方向の加速度に依存するパラメーターである。例えば、前後方向の加速度が同一であれば、車両10が降坂路を惰性走行しているときであっても、あるいは加速時であっても、車両10のピッチ角θ
pは同一となる。一方、前後方向の加速度は、駆動トルクTdから抵抗トルクTrを減じたピッチ影響トルクTpの大きさに依存する。したがって、ピッチ影響トルクTpを参照することで、車両10の走行状態や路面勾配にかかわらずピッチ角θ
pを精度よく推定することが可能となり、すなわち、車両10の姿勢を精度よく推定することが可能となる。
【0044】
移動距離演算部2eは、車輪速Vtに基づき、車両10の移動距離Lを演算するものである。ここでいう移動距離Lとは、車両10のイグニッションスイッチがオン操作されたときの位置から車両10が移動した距離である。ただし、車両10の何れかのドア17が開放された場合には、移動距離Lがリセットされるものとする。移動距離Lは、車両10の姿勢に影響を与える乗員数や積荷が変化しない状態で走行した距離に相当する。
【0045】
ここでは例えば、以下の式3に従って、前回の演算周期で得られた移動距離の前回値L′に基づいて、移動距離Lが累積的に演算される。なお、式3中のkは所定の係数であり、k・Vtは前回の演算周期からの車両10の移動距離に対応する。したがって、車両10が停止している場合には、移動距離Lの値は変化しない。ここで演算された移動距離Lの情報は、判別部3に伝達される。
(移動距離L)=(前回値L′)+k・Vt …(式3)
【0046】
ロール角演算部2f(ロール角演算手段)は、車両10のロール角θ
y(車両10のロール方向の姿勢)を演算するものである。ロール角θ
yは、車両10に作用する横加速度G
y(左右方向の加速度)に依存するパラメーターであり、車両10の重量が一定であればロール角θ
yを横加速度G
yの関数として記述することができる。また、車両10に作用する横加速度G
yは、旋回半径,車両の走行速度及びヨーレートに応じた大きさとなる。このような特性を利用して、ロール角演算部2fは、舵角センサー19で検出された舵角θ
ST,ヨーレートセンサー20で検出されたヨーレートY,車輪速Vt等に基づきロール角θ
yを演算する。ここで演算されたロール角θ
yの情報は、判別部3に伝達される。
【0047】
なお、横加速度G
yの具体的な演算手法は任意であるが、舵角θ
ST[rad]、車輪速Vt[m/s]、旋回半径Z[m]、ヨーレートY[rad/s]を用いて横加速度G
y[m/s
2]を表現すると、以下の式4〜6で求めることができる。
(横加速度G
y)=(車輪速Vt)×(ヨーレートY) …(式4)
(ヨーレートY)=(車輪速Vt)/(旋回半径Z) …(式5)
(旋回半径Z)={(定数Ca)−(定数Cb)×(車輪速Vt)
2 }/(舵角θ
ST) …(式6)
【0048】
したがって、車輪速Vtと、ヨーレートセンサー20から検出されたヨーレートYを使用して、式4から横加速度G
yを求めてもよい。また、車輪速Vtと舵角θ
STを用いて式5と式6から演算したヨーレートYを使用して、式4から横加速度G
yを求めてもよい。また、式4〜式6より横加速度G
yは車輪速Vtと舵角θ
STに依存することと、ロール角θ
yは横加速度G
yに依存していることから、ロール角θ
yと車輪速Vtと舵角θ
STとの関係を予めマップ化,数式化しておき、これらのマップや数式等をロール角演算部2fに予め記憶させておいてもよい。
【0049】
判別部3(判別手段)は、ピッチ影響トルク演算部2dで演算されたピッチ影響トルクTpに基づき、車両10が静走行状態であるか、それとも動走行状態であるかを判別するものである。つまりここでは、車両10の走行状態が上記の(2),(3)のどちらであるのかが判定される。判別部3は、ピッチ影響トルクTpの値と車両10の状態との対応関係を規定するマップや演算式等を予め記憶しており、これらのマップや演算式等を用いて車両10の状態を判別する。
【0050】
例えば、
図4に示すように、ピッチ影響トルクTpが所定の正の値Tmaxを超える場合や所定の負の値Tmin未満である場合には、車両10の走行状態が動走行状態であると判断する。同様に、ロール角θ
yが所定の正の角度θmaxを超える場合や所定の負の角度θmin未満である場合には、車両10の走行状態が動走行状態であると判断する。
【0051】
一方、ピッチ影響トルクTpがTmin以上でTmax以下の範囲内にあり、かつ、ロール角θ
yがθmin以上でθmax以下の範囲内にある場合には、静走行状態であると判断する。
図4中で車両10が静走行状態であると判定される領域は、斜線でハッチングを施された範囲である。なお、正のトルクは車両10を前進方向に駆動する力に相当し、負のトルクは車両10を後退方向に駆動する力に対応する。ここで判別された車両10の走行状態は、制御部4に伝達される。
【0052】
制御部4(制御手段)は、移動距離演算部2eで演算された移動距離Lやドアセンサー12からの開閉信号P,判別部3での判別結果等に基づいて、光軸制御を実施するものである。
まず、車両の停車時であって移動距離LがL=0であるときには、車両10の状態が上記の(1)に該当するため、制御部4は光軸制御を実施する。例えば、イグニッションスイッチがアクセサリ位置に操作されているときや、エンジン7を始動させた直後のアイドリング停車時には、車両10の姿勢の変化に応じてオートレベリングが実施される。
【0053】
また、車両10が停車中であっても移動距離LがL=0でない場合には、光軸制御を実施しない。例えば、車両10の発進後に交差点で信号待ちのために一時停止している状態では、車両10の姿勢が発進前の停止時の姿勢から変化していないと考えられるため、光軸制御を禁止してアクチュエーター6を停止状態に維持する。
【0054】
一方、車両の走行時には、車両10の走行状態が静走行状態であるときに光軸制御を実施し、動走行状態であるときに光軸制御を禁止する。つまり、車両10の状態が上記の(2)であるときにオートレベリングが実施され、上記の(3)である場合にオートレベリングが不実施とされる。
なお、光軸制御が始まると、車両10のピッチ角θ
pがハイトセンサー13で検出された車高Hに基づいて推定演算され、ピッチ角θ
pに応じて制御部4からアクチュエーター6に駆動信号が出力される。これにより、ヘッドランプ5の光軸角度が自動的に傾動調整され、光の照射距離が確保される。
【0055】
[3.フローチャート]
[3−1.移動距離の算出]
図5は、光軸制御装置1で実行される光軸制御の手順を説明するための模式的なフローチャートである。このフローチャートに示される制御は、車両のイグニッションスイッチがアクセサリ位置やオン位置に操作されて光軸制御装置1に通電されたときに開始され、予め設定された所定周期(例えば、数十[ms]サイクル)で繰り返し実施される。本実施形態では、光軸制御装置1で積算される移動距離Lの初期設定値をL=0とし、このフローの開始時に移動距離演算部2eの移動距離Lの値がリセットされるものとする。
【0056】
ステップS10では、光軸制御装置1の入力側に接続された各種センサー類からの情報が読み込まれる。例えば、ドアセンサー12からの開閉信号P,車輪速センサー14からの車輪速Vtの情報,ハイトセンサー13からの車高Hの情報,舵角センサー19からの舵角θ
STの情報,ヨーレートセンサー20からのヨーレートYの情報,エンジン制御装置8からのエンジントルクTe,エンジン回転数センサー16からのエンジン回転数Neの情報等が光軸制御装置1に入力される。なお、エンジン7が始動していないときのエンジントルクTe及びエンジン回転数Neの値はともに0である。
【0057】
ステップS12では、ドアセンサー12からの開閉信号Pに基づき、車両10の何れかのドア17が開放されているか否かが判定される。開放されたドア17がある場合にはステップS14へ進んで移動距離演算部2eで移動距離LがL=0にリセットされ、全てのドア17が閉まっている場合にはステップS16へ進んで移動距離演算部2eで移動距離Lの積算値が算出される。
【0058】
[3−2.駆動トルクなしの状態での制御]
ステップS18では、駆動トルクTdが発生しているか(Td≠0であるか)、それとも発生していないか(Td=0であるか)が判定される。ここでは、例えばエンジントルクTeが0であるか否かが判定される。エンジン7のエンジントルクTeがTe=0のときには駆動トルクTdが発生していないため、ステップS20へ進む。一方、エンジン7が始動している場合(アイドリング時や通常走行時等)にはTe≠0であり、すなわち駆動トルクTdが発生しているため、ステップS28へ進む。なお、エンジントルクTeの代わりにエンジン回転数Neを用いて駆動トルクの有無を判定してもよい。また、演算誤差や制御誤差を考慮して、エンジントルクTeの判定閾値を0の代わりに任意の定数としてもよい。
【0059】
ステップS20では、車高Hの変動に基づき、車体が振動しているか否かが判定される。例えば、車高Hの経時変動の振幅(または振動数)が所定値以上であるときに車体が振動していると判定され、ステップS44へ進む。一方、車体が振動していないと判定されたときには、車両姿勢が安定しているものとみなしてステップS22へ進む。
【0060】
ステップS22では、車高Hに基づいて車両10のピッチ角θ
pが推定され、そのピッチ角θ
pに応じてアクチュエーター6の駆動目標値が算出される。続くステップS24では、駆動目標値に応じた駆動信号がアクチュエーター6に出力され、ヘッドランプ5の光軸角度が自動的に傾動調整される。
【0061】
[3−3.駆動トルクありの状態での制御(車両停止時)]
ステップS18で駆動トルクTdが発生していると判定された場合にはステップS28へ進み、移動距離演算部2eで演算された車両10の移動距離LがL=0であるか否かが判定される。ここでL=0となるのは、例えばエンジン7の始動直後や何れかのドア17が開放されたときであり、車両10がまだ発進していない状態に限られる。したがって、移動距離LがL=0であれば、車両10が停止しているものと判断され、ステップS30へ進む。一方、L≠0のときには車両10が走行しているものと判断され、ステップS32へ進む。なお、ステップS28での判定では、0の代わりに任意の定数を移動距離Lの判定閾値としてもよい。
【0062】
ステップS30では、アクセルセンサー15で検出されたアクセル操作量θ
ACの情報に基づき、アクセルが開状態であるか否かが判定される。例えば、θ
AC=0であるときにはステップS20へ進み、θ
AC≠0であるときにはステップS44へ進む。なお、移動距離Lと同様に、0の代わりに任意の定数をアクセル操作量θ
ACの判定閾値としてもよい。
【0063】
上記のステップS28〜S30の判定により、車両10の停止中であってもアクセルペダルの踏み込み操作が検出されている場合には、ステップS44に進む。ステップS44では光軸制御が実施されず、すなわちアクチュエーター6が非駆動とされて光軸角度の調整が禁止される。したがって、車両10の停止時に光軸制御が実施されるのは、車両10が安定した車両姿勢で停止しているときのみとなる。
【0064】
[3−4.駆動トルクありの状態での制御(車両走行時)]
ステップS28で車両10が走行中であると判断された場合にはステップS32へ進み、駆動トルクTdの値が演算される。このとき変速比演算部2aでは、エンジン回転数Neと車輪速Vtとから変速比Rが演算され、この変速比Rの値が駆動トルク演算部2bに伝達される。一方、駆動トルク演算部2bでは、変速比RにエンジントルクTeを乗じたものが駆動トルクTdとして演算される。
【0065】
また、これに続くステップS34では、抵抗トルクTrの値が演算される。ここでは、抵抗トルク演算部2cで車輪速Vtに基づいて抵抗トルクTrが演算される。さらに続くステップS36では、ピッチ影響トルク演算部2dで駆動トルクTdから抵抗トルクTrを減算した値がピッチ影響トルクTpとして演算される。
【0066】
ステップS38では、判別部3においてピッチ影響トルクTpがTmin以上かつTmax以下の範囲内にあるか否かが判定される。ここで、Tmin≦Tp≦Tmaxである場合にはステップS40へ進み、引き続き車両の走行状態が判定される。一方、Tmin≦Tp≦Tmaxでない場合には、車両10が動走行状態であると判断され、ステップS44へ進む。つまりこの場合、車両10のピッチ方向の姿勢が動的に変化している比較的不安定な走行状態であると判断され、光軸制御が禁止される。
【0067】
ステップS40では、ロール角演算部2fでロール角θ
yの値が演算される。ここでは、舵角θ
ST,車輪速Vt及びヨーレートYに基づいてロール角θ
yが演算され、判別部3に伝達される。続くステップS42では、判別部3においてロール角θ
yがθmin以上かつθmax以下の範囲内にあるか否かが判定される。ここで、θmin≦θ
y≦θmaxである場合には車両10が静走行状態であると判断され、ステップS22へ進む。つまり、車両10のピッチ方向及びロール方向の姿勢が停車時の姿勢を維持しており、安定した走行を継続している状態であると判断され、光軸制御が実施される。
【0068】
一方、θmin≦θ
y≦θmaxでない場合には、車両10が動走行状態であると判断され、ステップS44へ進む。つまりこの場合、車両10のロール方向の姿勢が動的に変化している比較的不安定な走行状態であると判断され、光軸制御が禁止される。
【0069】
[4.効果]
上記の車載ヘッドランプの光軸制御装置1では、光軸制御の開始条件の判定に際して、車両10の走行状態が静走行状態と動走行状態とに区別して認識される。これらの静走行状態,動走行状態は、車両10のピッチ方向の姿勢及びロール方向の姿勢がともに安定的に維持されているか否かを基準として判別される。そして、ピッチ方向の姿勢の判別には、駆動輪に作用する駆動トルクTd及び抵抗トルクTrの値が用いられ、ロール方向の姿勢の判別にはロール角θ
yの値が用いられる。
【0070】
このように、光軸角度の調整を許可または禁止するための判定条件に駆動輪の駆動トルクTd,抵抗トルクTr及びロール角θ
yを用いることで、光軸補正を行うのに適した車両10の走行状態を高い精度で判別することができる。
例えば、エンジン回転数Neを用いた走行時の状態判定手法では、高速定速走行(オートクルーズ)の状態を判別することが困難であるが、本実施形態の手法では静走行状態の一種である高速定速走行の状態を精度よく判別することができ、状態の判別精度を向上させることができる。
【0071】
また、駆動トルクTdの値と、車両10の走行速度に依存するトルクの減少分である抵抗トルクTrの値とをともに参照することで、車両10の走行状態や路面勾配にかかわらず、車両10の走行状態を精度よく推定することが可能となる。また、登坂路や降坂路の走行時のように低速かつピッチ方向の姿勢が変化しうる走行状態をも高精度に判別することが可能となる。これに加えて、本実施形態の手法ではロール角θ
yを参照しているため、例えば高速道路のランプウェイを一定速度で走行したような場合に増大しうるロール方向の姿勢の変化を高精度に推定することも可能となる。
【0072】
したがって、アクチュエーター6に過度な負担をかけることなく光軸補正を実施することが可能な走行状態の判定精度を向上させることができ、ヘッドランプ5のコストを抑えつつ利便性をさらに向上させた光軸制御を実施することができる。また、光軸角度の調整に係るアクチュエーター6等の部品寿命を延長することができ、コストと利便性とのバランスを改善して良好な費用対効果を獲得することができる。
【0073】
また、上記の車載ヘッドランプの光軸制御装置1では、ロール角θ
yの値がθmin≦θ
y≦θmaxである場合に車両10の走行状態が静走行状態であると判定される。つまり、静走行状態と判定されるロール角θ
yの値の幅を所定範囲に限定することで、ロール角を検出する装置や加速度(重力加速度や前後加速度,横加速度等)を検出する装置等を用いることなく車両10のロール方向の姿勢に与えられる影響を考慮することができ、走行状態の判別精度を向上させることができる。
【0074】
また、上記の車載ヘッドランプの光軸制御装置1では、駆動トルクTdから抵抗トルクTrを減じる演算を通してピッチ影響トルクTpが演算され、このピッチ影響トルクTpの値がTmin≦Tp≦Tmaxである場合に車両10の走行状態が静走行状態であると判定される。つまり、静走行状態と判定されるピッチ影響トルクTpの値の幅を所定範囲に限定することで、車速や路面勾配等を用いることなく車両10のピッチ方向の姿勢に与えられる影響を考慮することができ、走行状態の判別精度を向上させることができる。
【0075】
さらに、ピッチ影響トルクTpは車両10の走行状態や路面勾配にかかわらずピッチ角θ
pに対応した値となるため、車両10の走行状態の判別精度を格段に向上させることができる。これに加えて、車両10の加減速による姿勢の変化と路面勾配による姿勢の変化とを同一のロジックで高精度に判定することができ、演算構成をシンプルにすることができる。これにより、制御の信頼性を向上させることができる。
【0076】
また、上記の車載ヘッドランプの光軸制御装置1では、舵角θ
ST,車輪速Vt及びヨーレートYに基づいてロール角θ
yを演算しており、簡素な構成で高精度にロール角θ
yを求めることができ、車両10の走行状態の判別精度を向上させることができるというメリットがある。
【0077】
なお、ピッチ影響トルクTpの演算に際し、車輪速Vtに基づいて抵抗トルクTrを演算しているため、例えば高速定速走行時(オートクルーズ時)のように車両10が高速で走行している状態での空気抵抗の影響を加味して姿勢を判断することが可能となり、ピッチ影響トルクの値を高精度で把握することができ、走行時の光軸制御性を向上させることができる。
【0078】
また、上記の車載ヘッドランプの光軸制御装置1では、駆動トルク演算部2bにおいてエンジントルクTeと変速比Rとに基づいて駆動トルクTdが演算される。このように、エンジントルクTeと変速比Rとに基づく演算により、駆動輪に作用する駆動トルクTdの値を高い精度で把握することができる。したがって、エンジン7を動力源として走行する車両10(例えば、ガソリン車両)の走行状態の判別精度を向上させることができる。
【0079】
[5.変形例]
上述の実施形態では、エンジン7を駆動源とするガソリン車両に光軸制御装置1を適用したものを例示したが、走行用モーター(電動機や電動発電機等)を駆動源とした電気自動車や走行モーター及びエンジン7を併用したハイブリッド車両,ディーゼル車両等への適用も可能である。上記の光軸制御装置1を電気自動車に適用した場合には、走行用モーターから出力されるモータートルクTmの値に基づいて車両10の駆動トルクTdを演算すればよい。
【0080】
例えば、変速比演算部2aが走行用モーターと駆動輪との間の回転比(変速比)を演算するとともに、駆動トルク演算部2bがこの回転比にモータートルクTmを乗じたものを駆動トルクTdとすることが考えられる。モータートルクTmは、走行用モーターを制御する電子制御装置から受け取る構成としてもよいし、アクセルセンサー15で検出されたアクセル操作量θ
ACやブレーキペダルの踏み込み操作量,車輪速Vtの情報等に基づいて駆動トルク演算部2b内で演算してもよい。なお、電気自動車には走行用モーターと駆動輪との間に変速機を介装しないものがあるが、この場合は回転比(変速比)を1にしてもよいし、モータートルクTmを駆動トルクTdとして演算してもよい。
【0081】
このように、モータートルクTmに基づく演算(あるいは、モータートルクTmと回転比とに基づく演算)により、駆動トルクTdの値を高い精度で把握することができ、延いてはピッチ影響トルクTpの値を高い精度で把握することができる。したがって、走行用モーターを動力源として走行する車両においても、走行状態の判別精度を向上させることができる。
【0082】
なお、ハイブリッド車両の場合には、エンジン側のトルク分と走行用モーター側のトルク分とを合算したものを駆動トルクTdとして駆動トルク演算部2bで演算すればよい。
また、上述の実施形態では、静走行状態の判定閾値である値Tmax,Tminの符号がそれぞれ正,負であるものを例示したが、具体的なこれらの値Tmax,Tminの設定に関しては任意である。なお、駆動トルクTdがTd=0の状態が最も安定した走行状態であると考えられるため、静走行状態と判定される駆動トルクTdの範囲内に0(または0に近い微小な値)が含まれることが好ましい。