特許第5692034号(P5692034)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5692034
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】オイルポンプロータ
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/10 20060101AFI20150312BHJP
【FI】
   F04C2/10 321A
【請求項の数】1
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-273866(P2011-273866)
(22)【出願日】2011年12月14日
(65)【公開番号】特開2013-124597(P2013-124597A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2013年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】306000315
【氏名又は名称】株式会社ダイヤメット
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 篤司
(72)【発明者】
【氏名】新妻 永一郎
【審査官】 尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4393943(JP,B2)
【文献】 特許第4650180(JP,B2)
【文献】 特開平11−264381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n(nは自然数)枚の外歯が形成されたインナーロータと、該外歯と噛み合うn+1枚の内歯が形成されたアウターロータと、流体が吸入される吸入ポートおよび流体が吐出される吐出ポートが形成されたケーシングとを備え、両ロータが噛み合って回転するときに両ロータの歯面間に形成されるセルの容積変化により流体を吸入、吐出することによって流体を搬送するオイルポンプに用いられ、
前記インナーロータが、その基礎円biに外接してすべりなく転がる第1外転円Diによって創成される外転サイクロイド曲線を歯先の歯形とし、基礎円biに内接してすべりなく転がる第1内転円diによって創成される内転サイクロイド曲線を歯溝の歯形として形成され、
前記アウターロータが、その基礎円boに外接してすべりなく転がる第2外転円Doによって創成される外転サイクロイド曲線を歯溝の歯形とし、基礎円boに内接してすべりなく転がる第2内転円doによって創成される内転サイクロイド曲線を歯先の歯形として形成されており、
インナーロータの基礎円biの直径をφbi、第1外転円Diの直径をφDi、第1内転円diの直径をφdi、アウターロータの基礎円boの直径をφbo、第2外転円Doの直径をφDo、第2内転円doの直径をφdo、インナーロータとアウターロータとの偏心量をeとするとき、
φbi=n・(φDi+φdi),φbo=(n+1)・(φDo+φdo)の関係にあり、
また、φDi+φdi=2e、あるいはφDo+φdo=2e、
かつφDo>φDi,φdi>φdo,(φDi+φdi)<(φDo+φdo)を満たしてインナーロータとアウターロータとが構成されたオイルポンプロータにおいて、
インナーロータとアウターロータのクリアランスをtとするとき、
φDi+φdi=2eの場合は、
0.3≦((φDo+φdo)−(φDi+φdi))・(n+1)/t≦0.6
又は、φDo+φdo=2eの場合は、
0.3≦((φDo+φdo)−(φDi+φdi))・n/t≦0.6
を満たしてインナーロータとアウターロータとが構成され
インナーロータの外歯とアウターロータの内歯とが近接する全ての位置において、インナーロータの外歯とアウターロータの内歯の最小歯間隙間の偏差を10μm以下としたことを特徴とするオイルポンプロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インナーロータとアウターロータとの間に形成されるセルの容積変化によって流体を吸入、吐出するオイルポンプロータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のオイルポンプは、n(nは自然数)枚の外歯が形成されたインナーロータと、この外歯に噛み合うn+1枚の内歯が形成されたアウターロータと、流体が吸入される吸入ポートおよび流体が吐出される吐出ポートが形成されたケーシングとを備えており、インナーロータを回転させることによって外歯が内歯に噛み合ってアウターロータを回転させ、両ロータ間に形成される複数のセルの容積変化によって流体を吸入、吐出するようになっている。
【0003】
セルは、その回転方向前側と後側で、インナーロータの外歯とアウターロータの内歯とがそれぞれ接触することによって個別に仕切られ、かつ両側面をケーシングによって仕切られており、これによって独立した流体搬送室を構成している。そして、各セルは外歯と内歯との噛み合いの過程の途中において容積が最小となった後、吸入ポートに沿って移動するときに容積を拡大させて流体を吸入し、容積が最大となった後、吐出ポートに沿って移動するときに容積を減少させて流体を吐出する。
【0004】
上記のような構成を有するオイルポンプは、小型で構造が簡単であるため自動車の潤滑油用ポンプや自動変速機用オイルポンプ等として広範囲に利用されている。自動車に搭載される場合、オイルポンプの駆動手段としてはエンジンのクランク軸にインナーロータが直結されてエンジンの回転によって駆動されるクランク軸直結駆動や電動モータにインナーロータが直結されて駆動される場合等がある。
【0005】
上記のようなオイルポンプについては、ポンプが発する騒音の低減とそれに伴う機械効率の向上を目的として、インナーロータとアウターロータとを組み合わせた状態で噛み合い位置から180゜回転した位置におけるインナーロータの歯先とアウターロータの歯先との間に適切な大きさのチップクリアランスが設定されている。
【0006】
ところで、インナーロータriとアウターロータroの歯形を決定するために必要な条件としては、まず、インナーロータriについて、第1外転円Di’(直径φDi’)および第1内転円di’(直径φdi’)の転がり距離が1周で閉じなければならない、つまり第1外転円Di’および第1内転円di’の転がり距離がインナーロータriの基礎円bi’(直径φbi’)の円周に等しくなければならないことから、
φbi’=n・(φDi’+φdi’)
となる。
【0007】
同様に、アウターロータroについて、第2外転円Do’(直径φDo’)および第2内転円do’(直径φdo’)の転がり距離がアウターロータroの基礎円bo’(直径φbo’)の円周に等しくなければならないことから、
φbo’=(n+1)・(φDo’+φdo’)
となる。
つぎに、インナーロータriとアウターロータroとが噛み合うことから、両ロータri,roの偏心量をe’として、
φDi’+φdi’=φDo’+φdo’=2e’
となる。
上記の各式から、
n・φbo’=(n+1)・φbi’
となり、インナーロータriおよびアウターロータroの歯形はこれらの条件を満たして構成される。
ここで
φDo’=φDi’+t/2、φdo’=φdi’−t/2
(t:インナーロータriの外歯とアウターロータroの内歯のクリアランス)を満たすことで、図14図15に示すように先端部分のクリアランスt/2(チップクリアランスtt)だけでなく、歯面間のクリアランス(サイドクリアランスts)も形成される。
【0008】
以上の関係を満たして構成された従来例1のオイルポンプロータを図13から図15に示す。このオイルポンプロータは、インナーロータriの基礎円bi’がφbi’=44.80mm、第1外転円Di’がφDi’=3.60mm、第1内転円di’がφdi’=2.80mm、歯数n=7、アウターロータroの外径がφ65mm、基礎円bo’がφbo’=51.20mm、第2外転円Do’がφDo’=3.663mm、第2内転円do’がφdo’=2.737mm、歯数(n+1)=8、偏心量e’=3.2mmとなっている。
【0009】
このように構成された特許文献1のオイルポンプロータ(以下、従来品1という)においては、インナーロータの歯先の歯形がアウターロータの歯溝の歯形より小さく、かつインナーロータの歯溝の歯形がアウターロータの歯先の歯形よりも大きくなるように両ロータが構成されているので、バックラッシュが適切な大きさに設定されるとともに、チップクリアランスttが適切な大きさに設定され、これによりチップクリアランスttを小さく維持した状態で、バックラッシュを大きく確保することができる。これにより、特に、オイルポンプロータに供給される油圧や、このオイルポンプロータを駆動するトルクが安定している状態においては、インナー側の外歯とアウター側の内歯との衝突に起因した騒音の発生を抑制することができる。
【0010】
しかしながら、このようにアウターロータの第2外転円Do’および第2内転円do’の直径を調節することにより、チップクリアランスtt=t/2を確保すると、図14および図15に示すように、必然的にサイドクリアランスtsが大きくなってしまうことになる。したがって、オイルポンプロータの静粛性について、次のような課題が残されていた。すなわち、オイルポンプロータに発生する油圧が微小で、かつこのオイルポンプロータを駆動するトルクが変動した場合に、アウター側の内歯とインナー側の外歯とが衝突し、この際の衝突エネルギが音に変わり、この音が可聴音レベルに達して騒音となる可能性があった。
【0011】
このような点を考慮したオイルポンプロータ(例えば特許文献2)が提案されており、このオイルポンプロータは、図7図8に示すように、n(nは自然数)枚の外歯11が形成されたインナーロータ10と、該外歯11と噛み合うn+1枚の内歯21が形成されたアウターロータ20と、流体が吸入される吸入ポートおよび流体が吐出される吐出ポートが形成されたケーシング50とを備え、両ロータ10,20が噛み合って回転するときに両ロータ10,20の歯面間に形成されるセルの容積変化により流体を吸入、吐出することによって流体を搬送するオイルポンプに用いられ、前記インナーロータ10が、その基礎円biに外接してすべりなく転がる第1外転円Diによって創成される外転サイクロイド曲線を歯先の歯形とし、基礎円biに内接してすべりなく転がる第1内転円diによって創成される内転サイクロイド曲線を歯溝の歯形として形成され、前記アウターロータ20が、その基礎円boに外接してすべりなく転がる第2外転円Doによって創成される外転サイクロイド曲線を歯溝の歯形とし、基礎円boに内接してすべりなく転がる第2内転円doによって創成される内転サイクロイド曲線を歯先の歯形として形成されており、インナーロータ10の基礎円biの直径をφbi、第1外転円Diの直径をφDi、第1内転円diの直径をφdi、アウターロータ20の基礎円boの直径をφbo、第2外転円Doの直径をφDo、第2内転円doの直径をφdo、インナーロータ10とアウターロータ20との偏心量をeとするとき、φbi=n・(φDi+φdi),φbo=(n+1)・(φDo+φdo)の関係にあり、また、φDi+φdi=2e、あるいはφDo+φdo=2e、かつφDo>φDi,φdi>φdo,(φDi+φdi)<(φDo+φdo)を満たしてインナーロータ10とアウターロータ20とが構成されており、前記アウターロータ20の歯先と前記インナーロータ10の歯溝とが正対する噛み合い位置におけるバックラッシュ、並びに、前記セルの容積が増大および減少する過程におけるバックラッシュが、前記セルの容積が最大となる位置におけるバックラッシュに比べて小さくされている。
【0012】
上記特許文献2のオイルポンプロータでは、両ロータ10,20のがたつきが小さく、静粛性の優れたオイルポンプの実現が可能になる。特に、オイルポンプロータに発生する油圧が微小で、かつこのオイルポンプロータを駆動するトルクが変動しても、アウター側の内歯21とインナー側の外歯11との衝突による騒音発生を確実に抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第3734617号公報
【特許文献2】特許第4485770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記特許文献2のオイルポンプでは、前記アウターロータ20の歯先と前記インナーロータ10の歯溝とが正対する噛み合い位置におけるバックラッシュ、並びに、前記セルCの容積が増大および減少する過程におけるバックラッシュが、前記セルの容積が最大となる位置におけるバックラッシュに比べて小さく形成しており、前記アウターロータ20の歯先と前記インナーロータ10の歯溝とが正対する噛み合い位置におけるバックラッシュが小さいため、オイルポンプロータを駆動するトルクが変動しても、アウター側の内歯とインナー側の外歯との衝突による騒音発生を確実に抑制することが出来るが、アウターロータ20の増減速による回転変動に伴う振動音の発生が懸念される。
【0015】
図9図12は、従来例2のオイルポンプロータにおけるインナーロータ10の回転角と歯間隙間との関係を示す図面である。尚、この場合の歯間隙間とは回転駆動時におけるアウターロータ20の内歯21と前記インナーロータ10の外歯11との該外歯回転方向の隙間を意味し、同図は、I、II、III、VIの位置の歯間隙間とインナーロータ10の回転角θとの関係を示し、回転角θはインナーロータ10の1歯分である角度までを示している。Iの位置はアウターロータ20の歯溝とインナーロータ10の歯先が噛み合う位置であり、Iの位置の噛合いが1歯分の回転角θの1/2程回転すると、Iの位置の歯間隙間が僅かに増加し、VIの位置の歯間隙間が急激に減少し、「噛合いの切り替り点」においてIの位置からVIの位置に噛合いが切り替わる。尚、IIの位置とIIIの位置の歯間隙間にもばらつきがあることが判る。
【0016】
次に、図10では、「噛合いの切り替り点」におけるIの位置とVIの位置の歯間隙間の変位速度を矢印YI,YVIでそれぞれ図示しており、両者の変位速度が同期していないため、噛合いの切り替り時において歯当り音が発生する。
【0017】
また、図11では、インナーロータ10の回転角θにおいて、0度〜「噛合いの切り替り点」までの角度の範囲では、Iの位置の歯間隙間が略一定をなした後、僅かに歯間隙間が増加して「噛合いの切り替り点」に至ることから、「噛合いの切り替り点」の図中左側ではアウターロータ20は僅かに回転速度が低下する「微減速」である。一方、「噛合いの切り替り点」から図中右側に向かってVIの位置の歯間隙間の変化の傾きが零になるまでの間は、歯間隙間が減少するから、この間はアウターロータ20の回転が増速し、以後は歯間隙間が緩やかに増加する「微減速」となることが分かり、このように「噛合いの切り替り点」の前後において、アウターロータ20は微減速から増速へと切り替わることにより、振動音が発生することが懸念される。
【0018】
さらに、容積効率を向上させることを目的として前記セルCの最大となる位置におけるバックラッシュを小さくすることで液密性を向上させようとすると、各歯間のバックラッシュが全体として小さくなり、インナーロータの歯先とアウターロータの歯溝が正対して噛み合う位置におけるバックラッシュが小さくなり過ぎることで、歯形バラツキによる歯同士が干渉を起こし騒音になる可能性があった。
【0019】
そこで、本発明は、インナーロータの歯形とアウターロータの歯形とを適切な形状に設定するとともに、両ロータ間の最小歯間隙間を一定にすることができ、これにより、静粛性の向上と容積効率の向上を図ることができるオイルポンプロータを提供することを目的とする。
ここで最小歯間隙間とは回転方向と関係なくインナーロータの外歯11とアウターロータの内歯21との最接近隙間を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
請求項1の発明は、n(nは自然数)枚の外歯が形成されたインナーロータと、該外歯と噛み合うn+1枚の内歯が形成されたアウターロータと、流体が吸入される吸入ポートおよび流体が吐出される吐出ポートが形成されたケーシングとを備え、両ロータが噛み合って回転するときに両ロータの歯面間に形成されるセルの容積変化により流体を吸入、吐出することによって流体を搬送するオイルポンプに用いられ、
【0021】
前記インナーロータが、その基礎円biに外接してすべりなく転がる第1外転円Diによって創成される外転サイクロイド曲線を歯先の歯形とし、基礎円biに内接してすべりなく転がる第1内転円diによって創成される内転サイクロイド曲線を歯溝の歯形として形成され、
【0022】
前記アウターロータが、その基礎円boに外接してすべりなく転がる第2外転円Doによって創成される外転サイクロイド曲線を歯溝の歯形とし、基礎円boに内接してすべりなく転がる第2内転円doによって創成される内転サイクロイド曲線を歯先の歯形として形成されており、
【0023】
インナーロータの基礎円biの直径をφbi、第1外転円Diの直径をφDi、第1内転円diの直径をφdi、アウターロータの基礎円boの直径をφbo、第2外転円Doの直径をφDo、第2内転円doの直径をφdo、インナーロータとアウターロータとの偏心量をeとするとき、
φbi=n・(φDi+φdi),φbo=(n+1)・(φDo+φdo)の関係にあり、
また、φDi+φdi=2e、あるいはφDo+φdo=2e、
かつφDo>φDi,φdi>φdo,(φDi+φdi)<(φDo+φdo)を満たしてインナーロータとアウターロータとが構成されたオイルポンプロータにおいて、
インナーロータとアウターロータのクリアランスをtとするとき、
φDi+φdi=2eの場合は、
0.3≦((φDo+φdo)−(φDi+φdi))・(n+1)/t≦0.6
又は、φDo+φdo=2eの場合は
0.3≦((φDo+φdo)−(φDi+φdi))・n/t≦0.6
を満たしてインナーロータとアウターロータとが構成され
インナーロータの外歯とアウターロータの内歯とが近接する全ての位置において、インナーロータの外歯とアウターロータの内歯の最小歯間隙間の偏差を10μm以下としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1の構成によれば、静粛性に優れたオイルポンプの実現が可能になり、特に、噛み合い切り替わり前後の歯間隙間の変位速度を同期でき、かつ噛み合いの歯間隙間を略均一にできるため、歯当たり音、アウターロータの回転変動による騒音が抑制され、しかも容積効率を向上させることを目的として、前記セルCの最大となる位置における最小歯間隙間を小さくすることで、液密性を向上させようとした場合も他の位置における最小歯間隙間が小さくならず歯同士の干渉を防ぎ、騒音を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施例1を示すオイルポンプロータの平面図である。
図2】同上、図1のオイルポンプロータの噛み合い部分を示す拡大図である。
図3】同上、最小歯間隙間の位置を示すオイルポンプロータの平面図である。
図4】本発明のオイルポンプと従来例2のオイルポンプにおけるロータ回転数と音圧との関係を示すグラフである。
図5】本発明のオイルポンプロータと従来例1及び2のオイルポンプロータの最小歯間隙間の比較を示すグラフである。
図6】同上、最小歯間隙間とインナーロータの回転角との関係を示すグラフである。
図7】従来例2を示すオイルポンプロータの平面図である。
図8】同上、図7のオイルポンプの噛み合い部分を示す拡大図である。
図9】同上、歯間隙間とインナーロータの回転角との関係を示すグラフである。
図10】同上、歯間隙間とインナーロータの回転角との関係を示すグラフであり、歯間隙間の変位速度を矢印で図示している。
図11】同上、歯間隙間とインナーロータの回転角との関係を示すグラフであり、アウターロータの微減速と増速と微減速の範囲を図示している。
図12】同上、歯間隙間とインナーロータの回転角との関係を示すグラフであり、IとVIの噛合い区間を図示している。
図13】従来例1のオイルポンプロータを示す平面図である。
図14】同上、図13のオイルポンプの噛み合い部分を示す拡大図である。
図15】同上、オイルポンプの噛み合い部分を示し、アウターロータの歯先とインナーロータの歯溝とが噛み合う状態を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須条件であるとは限らない。各実施例では、従来とは異なるオイルポンプロータを採用することにより、従来にないオイルポンプロータが得られ、そのオイルポンプロータを記述する。
【実施例1】
【0027】
以下、本発明の実施例1を添付図面を用いて詳述する。尚、従来例と同一箇所には同一符号を付して説明する。図1図3に示すように、オイルポンプは、n(nは自然数、本実施形態においてはn=7)枚の外歯が形成されたインナーロータ10と、各外歯と噛み合うn+1(本実施例においては8)枚の内歯が形成されたアウターロータ20とを備え、これらインナーロータ10とアウターロータ20とがケーシング50の内部に収納されている。
【0028】
インナーロータ10,アウターロータ20の歯面間には、両ロータ10,20の回転方向に沿ってセルCが複数形成されている。各セルCは、両ロータ10,20の回転方向前側と後側で、インナーロータ10の外歯11とアウターロータ20の内歯21とがそれぞれ接触することによって個別に仕切られ、かつ両側面をケーシング50によって仕切られており、これによって独立した流体搬送室を形成している。そして、セルCは両ロータ10,20の回転に伴って回転移動し、1回転を1周期として容積の増大、減少を繰り返すようになっている。
【0029】
インナーロータ10は、回転軸に取り付けられて軸心Oiを中心として回転可能に支持されており、インナーロータ10の基礎円biに外接してすべりなく転がる第1外転円Diによって創成される外転サイクロイド曲線を歯先の歯形とし、基礎円biに内接してすべりなく転がる第1内転円diによって創成される内転サイクロイド曲線を歯溝の歯形として形成されている。
【0030】
アウターロータ20は、軸心Ooをインナーロータ10の軸心Oiに対して偏心(偏心量:e)させて配置され、軸心Ooを中心としてケーシング50の内部に回転可能に支持されており、アウターロータ20の基礎円boに外接してすべりなく転がる第2外転円Doによって創成される外転サイクロイド曲線を歯溝の歯形とし、基礎円boに内接してすべりなく転がる第2内転円doによって創成される内転サイクロイド曲線を歯先の歯形として形成されている。
【0031】
インナーロータ10の基礎円biの直径をφbi、第1外転円Diの直径をφDi、第1内転円diの直径をφdi、アウターロータ20の基礎円boの直径をφbo、第2外転円Doの直径をφDo、第2内転円doの直径をφdoとするとき、インナーロータ10とアウターロータ20との間には以下の関係式が成り立つ。なお、ここでは寸法単位をmm(ミリメートル)とする。
【0032】
まず、インナーロータ10について、第1外転円Diおよび第1内転円diの転がり距離が1周で閉じなければならない。つまり、第1外転円Diおよび第1内転円diの転がり距離が基礎円biの円周に等しくなければならないことから、
φbi=n・(φDi+φdi)…(Ia)
同様に、アウターロータ20について、第2外転円Doおよび第2内転円doの転がり距離が基礎円boの円周に等しくなければならないことから、
φbo=(n+1)・(φDo+φdo)…(Ib)
【0033】
また、第2外転円Doによって形成されるアウターロータ20の歯溝の形状に対する第1外転円Diによって形成されるインナーロータ10の歯先の形状、および第1内転円diによって形成されるインナーロータ10の歯溝の形状に対する第2内転円doによって形成されるアウターロータ20の歯先の形状が、噛み合いの過程で両ロータ10,20の歯面間に設けられるバックラッシュを大きく確保するために、
φDo>φDi、およびφdi>φdo
【0034】
を満たさなければならない。ここで、バックラッシュとは、噛み合いの過程においてインナーロータ10の荷重のかかる歯面とは反対側の歯面とアウターロータ20の歯面との間にできる間隙である。
また、インナーロータとアウターロータとが噛み合うことから、
φDi+φdi=2eおよびφDo+φdo=2eのうちいずれか一方を満たさなければならない。
【0035】
さらに、本発明では、インナーロータ10をアウターロータ20の内側で良好に回転させるとともに、チップクリアランスを確保しつつ、バックラッシュの大きさの適正化を図り、噛み合い抵抗を低減させるために、インナーロータ10とアウターロータ20の噛み合い位置において、インナーロータ10の基礎円biとアウターロータ20の基礎円boとが接しないように、アウターロータ20の基礎円boの径を大きくしている。すなわち、
(n+1)・φbi<n・φbo
を満たす。
この式と、式(Ia)および(Ib)とから、
(φDi+φdi)<(φDo+φdo)
が得られる。なお、前述した噛み合い位置とは、図2に示すように、アウター側の内歯21の歯溝とインナー側の外歯11の歯先とが正対したときの位置をいう。
さらに、インナーロータとアウターロータのクリアランスをtとするとき、
φDi+φdi=2eの場合は、
0.3≦((φDo+φdo)−(φDi+φdi))・(n+1)/t≦0.6…(Ic)
又は、φDo+φdo=2eの場合は、
0.3≦((φDo+φdo)−(φDi+φdi))・n/t≦0.6…(Ic)
【0036】
を満たしてインナーロータ10とアウターロータ20とが構成されている(以下、(φDo+φdo)−(φDi+φdi)をアウターロータ20の内歯21とインナーロータ10の外歯11の歯丈の差という)。尚、「クリアランスt」の単位は(式Ic)において、mm(ミリメートル)である。また、歯丈は基礎円の法線方向の歯の大きさである。
【0037】
また、図2に示した歯溝と歯先が正対する噛み合い位置(図1では最下部)におけるアウターロータ20の内歯21とインナーロータ10の外歯11の最小歯間隙間tsは、内歯21と外歯11の回転方向両側にそれぞれ設けられるサイドクリアランスである。尚、内歯21は回転方向と反回転方向に歯間隙間を有するから、本実施例では小さい方の隙間を最小歯間隙間と称して説明する。
【0038】
図3は、最小歯間隙間tsの位置を示す。インナーロータ10を反時計方向に回転駆動する場合、前記セルCの容積が増大する位置(図3中では右側)では、外歯11の回転方向側と内歯21の反回転方向側に最小歯間隙間tsができ、前記セルCの容積が減少する位置(図3中では左側)では、外歯11の反回転方向側と内歯21の回転方向側に最小歯間隙間tsができ、また、歯先と歯先が正対する否噛み合い位置(図1では最上部)では、外歯11と内歯21の先端間に最小歯間隙間tsができ、この最小歯間隙間tsはクリアランスtのほぼ1/2である。
【0039】
また、上記(式Ic)を満たすことにより、図3に示すように、インナーロータ10の外歯11とアウターロータ20の内歯21とが近接する全ての位置(歯溝と歯先が正対する噛み合い位置、前記セルCの容積が増大および減少する位置及び歯先と歯先が正対する位置)において、インナーロータ10の外歯11とアウターロータ20の内歯21の最小歯間隙間tsを略等しくすることができ、この例では、全ての位置における最小歯間隙間tsを40μmに設定し、この設定した値に対する最小歯間隙間tsの偏差を10μm、好ましくは5μm以下の範囲に入るように構成している。設定した最小歯間隙間tsに対して全ての位置の最小歯間隙間tsが好ましくは5μm以下の範囲に収まる。
【0040】
なお、本実施例においては、以上の関係を満たして構成されたインナーロータ10(基礎円biがφbi=44.8mm、第1外転円DiがφDi=3.60mm、第1内転円diがφdi=2.80mm、歯数n=7)およびアウターロータ20(外径がφ65.0mm、基礎円boがφbo=51.24mm、第2外転円DoがφDo=3.625mm、第2内転円doがφdo=2.78mm)が、偏心量e=3.20mmで組み合わされてオイルポンプロータを構成している。なお、本実施例においては、両ロータの歯幅(回転軸方向の大きさ)は13.2mmに設定されている。これにより、歯丈の差が0.005mmとされている。また、クリアランスtがt=0.08mm(80μm)、最小歯間隙間tsがts=0.037〜0.041mm(37〜41μm)で、(式Ic)の値が0.5である。このように最小歯間隙間tsはクリアランスtのほぼ1/2であり、偏差は5μm以内に収まる。
【0041】
ケーシング50には、両ロータ10,20の歯面間に形成されるセルCのうち、容積が増大過程にあるセルCに沿って円弧状の吸入ポート(図示せず)が形成されているとともに、容積が減少過程にあるセルCに沿って円弧状の吐出ポート(図示せず)が形成されている。
【0042】
セルCは、外歯11と内歯21との噛み合いの過程の途中において容積が最小となった後、吸入ポートに沿って移動するときに容積を拡大させて流体を吸入し、容積が最大となった後、吐出ポートに沿って移動するときに容積を減少させて流体を吐出するようになっている。
【0043】
上記(式Ic)は、歯丈の差にインナーロータ10の歯数n、またはアウターロータ20の歯数(n+1)を掛け、クリアランスtで割った値を示し、全ての位置における最小歯間隙間tsを小さく設定することができると共に、最小歯間隙間tsのばらつきを小さくすることができる範囲を規定しており、歯数nが多くなると、歯丈の差を小さくする必要があり、逆に歯数nが小さくなると、歯丈の差を大きく取る必要があり、歯数nの増減により変化する歯丈の差とクリアランスtとを比例関係の所定範囲内に規定している。
【0044】
このようにφDi+φdi=2eの場合は、0.3≦((φDo+φdo)−(φDi+φdi))・(n+1)/t≦0.6、又は、φDo+φdo=2eの場合は、0.3≦((φDo+φdo)−(φDi+φdi))・n/t≦0.6とすることで、最小歯間隙間tsの均一化と縮小化を可能にして噛み合い騒音などの低減と容積効率の向上を図ることができ、0.3を越えない、または0.6を越えると、最小歯間隙間tsの均一化が難しくなる。
【0045】
図5に、従来技術1(特許文献1)によるオイルポンプロータにおけるインナーロータの回転角度位置ごとの歯間隙間(図5における破線)と、従来品2(特許文献2)によるオイルポンプロータにおけるインナーロータの回転角度位置ごとの歯間隙間(図5における一点鎖線)と、本実施例によるオイルポンプロータにおけるインナーロータの回転角度位置ごとの歯間隙間(図5における実線)とを比較するグラフを示す。このグラフから、本実施例によるオイルポンプロータである「発明品」は、全ての位置における最小歯間隙間を小さく且つ略均一にしている。これにより、従来技術では歯間隙間の小さい領域での歯形バラツキによる歯干渉が懸念される問題があったが、開発品では適切な歯間隙間を確保していることからこれを回避することが容易になり、スムーズな回転が実現できる。尚、図5では、インナーロータの回転角が0°から180°までの歯間隙間しか記載していないのは、180°から360°(0°)までは、図5に示す180°から0°までの歯間隙間の変化と同様であるため記載を省略したものである。
【0046】
さらに、図6は、従来例で示した図9図12のグラフを「発明品」に適用したグラフであり、同図の印YI,YVIに示すように、変位速度が同期しているため、VIの位置の噛合い開始がスムーズに行われ、歯当り音を抑制することができ、また、「噛合いの切り替り点」以降においてIの位置とVIの位置の歯間隙間の差も僅か(偏差5μm以内、同図では1〜3μm)であり、噛み合い率が向上し、噛合機械音を抑制することができると共に、アウターロータ20の増減速がないから、アウターロータ20の回転騒音を抑制することができ、全体として、静粛性を向上することができる。
尚、図4に本発明のオイルポンプと従来品のオイルポンプにおけるロータ回転数と音圧との関係を示し、発明品が静粛性を向上することが判る。
【0047】
また、インナーロータ10の外歯11とアウターロータ20の内歯21とが近接する全ての位置(歯溝と歯先が正対する噛み合い位置、前記セルCの容積が増大および減少する位置及び歯先と歯先が正対する位置)において、インナーロータ10の外歯11とアウターロータ20の内歯21の最小歯間隙間tsが略等しいから容積効率を向上させることを目的として、前記セルCの最大となる位置における最小歯間隙間を小さくすることで、液密性を向上させようとした場合も各歯で最小歯間隙間が小さくなり過ぎることはないから適切な歯間隙間を確保することができ、これにより歯同士の干渉を防ぎ、騒音を抑えることができる。
【0048】
このように本実施例では、n(nは自然数)枚の外歯が形成されたインナーロータと、該外歯と噛み合うn+1枚の内歯が形成されたアウターロータと、流体が吸入される吸入ポートおよび流体が吐出される吐出ポートが形成されたケーシングとを備え、両ロータが噛み合って回転するときに両ロータの歯面間に形成されるセルの容積変化により流体を吸入、吐出することによって流体を搬送するオイルポンプに用いられ、
【0049】
前記インナーロータが、その基礎円biに外接してすべりなく転がる第1外転円Diによって創成される外転サイクロイド曲線を歯先の歯形とし、基礎円biに内接してすべりなく転がる第1内転円diによって創成される内転サイクロイド曲線を歯溝の歯形として形成され、
【0050】
前記アウターロータが、その基礎円boに外接してすべりなく転がる第2外転円Doによって創成される外転サイクロイド曲線を歯溝の歯形とし、基礎円boに内接してすべりなく転がる第2内転円doによって創成される内転サイクロイド曲線を歯先の歯形として形成されており、
【0051】
インナーロータの基礎円biの直径をφbi、第1外転円Diの直径をφDi、第1内転円diの直径をφdi、アウターロータの基礎円boの直径をφbo、第2外転円Doの直径をφDo、第2内転円doの直径をφdo、インナーロータとアウターロータとの偏心量をeとするとき、
φbi=n・(φDi+φdi),φbo=(n+1)・(φDo+φdo)の関係にあり、
また、φDi+φdi=2e、あるいはφDo+φdo=2e、
【0052】
かつφDo>φDi,φdi>φdo,(φDi+φdi)<(φDo+φdo)を満たしてインナーロータとアウターロータとが構成されたオイルポンプロータにおいて、
インナーロータとアウターロータのクリアランスをtとするとき、
φDi+φdi=2eの場合は、
0.3≦((φDo+φdo)−(φDi+φdi))・(n+1)/t≦0.6
又は、φDo+φdo=2eの場合は、
0.3≦((φDo+φdo)−(φDi+φdi))・n/t≦0.6
【0053】
を満たしてインナーロータとアウターロータとが構成され
インナーロータの外歯とアウターロータの内歯とが近接する全ての位置において、インナーロータの外歯とアウターロータの内歯の最小歯間隙間の偏差を10μm以下としたから、静音性に優れたオイルポンプの実現が可能になり、特に、最小歯間隙間tsを均一にできるため、噛合い歯の切り替り点における歯当り音、振動音、歯合機械音の発生を抑制してオイルポンプロータの静粛性を確実に実現することができ、しかも、セルのシール性を向上して容積効率を向上することができる。ここで、最小歯間隙間tsの偏差は10μm、好ましくは5μm以下の範囲に入るように設定している。
【0054】
また、実施例上の効果としてφDi+φdi=2eの場合は、0.3≦((φDo+φdo)−(φDi+φdi))・(n+1)/t≦0.6、又は、φDo+φdo=2eの場合は0.3≦((φDo+φdo)−(φDi+φdi))・n/t≦0.6の条件で、インナーロータと各歯間隙間tsを偏差5μm以下で一定化することにより、クリアランスtを小さく抑えた場合でも、噛合い部に適切な隙間量である最小歯間隙間tsを確保することができるため、部品精度のバラツキを吸収して外歯11と内歯21の干渉を回避することができ、円滑な回転が得られ易く機械効率が向上し、さらに、最小歯間隙間tsを小さく押え、例えば最小歯間隙間tsを35μm〜45μm、好ましくは37.5μm〜42.5μmとすることで最大セル容積位置での外歯11と内歯21間のシール性が増し、容積効率の向上を図ることができる。
尚、本発明は、前記実施形態に限定されるものでは無く、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 インナーロータ
11 外歯
20 アウターローラ
21 内歯
50 ケーシング
Di インナーロータの外転円(第1外転円)
Do ウターロータの外転円(第2外転円)
di インナーロータの内転円(第1内転円)
do アウターロータの内転円(第2内転円)
C セル
bi インナーロータの基礎円
bo アウターロータの基礎円
Oi インナーロータの軸心
Oo アウターロータの軸心
t クリアランス
ts 最小歯間隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15