【実施例1】
【0027】
以下、本発明の実施例1を添付図面を用いて詳述する。尚、従来例と同一箇所には同一符号を付して説明する。
図1〜
図3に示すように、オイルポンプは、n(nは自然数、本実施形態においてはn=7)枚の外歯が形成されたインナーロータ10と、各外歯と噛み合うn+1(本実施例においては8)枚の内歯が形成されたアウターロータ20とを備え、これらインナーロータ10とアウターロータ20とがケーシング50の内部に収納されている。
【0028】
インナーロータ10,アウターロータ20の歯面間には、両ロータ10,20の回転方向に沿ってセルCが複数形成されている。各セルCは、両ロータ10,20の回転方向前側と後側で、インナーロータ10の外歯11とアウターロータ20の内歯21とがそれぞれ接触することによって個別に仕切られ、かつ両側面をケーシング50によって仕切られており、これによって独立した流体搬送室を形成している。そして、セルCは両ロータ10,20の回転に伴って回転移動し、1回転を1周期として容積の増大、減少を繰り返すようになっている。
【0029】
インナーロータ10は、回転軸に取り付けられて軸心Oiを中心として回転可能に支持されており、インナーロータ10の基礎円biに外接してすべりなく転がる第1外転円Diによって創成される外転サイクロイド曲線を歯先の歯形とし、基礎円biに内接してすべりなく転がる第1内転円diによって創成される内転サイクロイド曲線を歯溝の歯形として形成されている。
【0030】
アウターロータ20は、軸心Ooをインナーロータ10の軸心Oiに対して偏心(偏心量:e)させて配置され、軸心Ooを中心としてケーシング50の内部に回転可能に支持されており、アウターロータ20の基礎円boに外接してすべりなく転がる第2外転円Doによって創成される外転サイクロイド曲線を歯溝の歯形とし、基礎円boに内接してすべりなく転がる第2内転円doによって創成される内転サイクロイド曲線を歯先の歯形として形成されている。
【0031】
インナーロータ10の基礎円biの直径をφbi、第1外転円Diの直径をφDi、第1内転円diの直径をφdi、アウターロータ20の基礎円boの直径をφbo、第2外転円Doの直径をφDo、第2内転円doの直径をφdoとするとき、インナーロータ10とアウターロータ20との間には以下の関係式が成り立つ。なお、ここでは寸法単位をmm(ミリメートル)とする。
【0032】
まず、インナーロータ10について、第1外転円Diおよび第1内転円diの転がり距離が1周で閉じなければならない。つまり、第1外転円Diおよび第1内転円diの転がり距離が基礎円biの円周に等しくなければならないことから、
φbi=n・(φDi+φdi)…(Ia)
同様に、アウターロータ20について、第2外転円Doおよび第2内転円doの転がり距離が基礎円boの円周に等しくなければならないことから、
φbo=(n+1)・(φDo+φdo)…(Ib)
【0033】
また、第2外転円Doによって形成されるアウターロータ20の歯溝の形状に対する第1外転円Diによって形成されるインナーロータ10の歯先の形状、および第1内転円diによって形成されるインナーロータ10の歯溝の形状に対する第2内転円doによって形成されるアウターロータ20の歯先の形状が、噛み合いの過程で両ロータ10,20の歯面間に設けられるバックラッシュを大きく確保するために、
φDo>φDi、およびφdi>φdo
【0034】
を満たさなければならない。ここで、バックラッシュとは、噛み合いの過程においてインナーロータ10の荷重のかかる歯面とは反対側の歯面とアウターロータ20の歯面との間にできる間隙である。
また、インナーロータとアウターロータとが噛み合うことから、
φDi+φdi=2eおよびφDo+φdo=2eのうちいずれか一方を満たさなければならない。
【0035】
さらに、本発明では、インナーロータ10をアウターロータ20の内側で良好に回転させるとともに、チップクリアランスを確保しつつ、バックラッシュの大きさの適正化を図り、噛み合い抵抗を低減させるために、インナーロータ10とアウターロータ20の噛み合い位置において、インナーロータ10の基礎円biとアウターロータ20の基礎円boとが接しないように、アウターロータ20の基礎円boの径を大きくしている。すなわち、
(n+1)・φbi<n・φbo
を満たす。
この式と、式(Ia)および(Ib)とから、
(φDi+φdi)<(φDo+φdo)
が得られる。なお、前述した噛み合い位置とは、
図2に示すように、アウター側の内歯21の歯溝とインナー側の外歯11の歯先とが正対したときの位置をいう。
さらに、インナーロータとアウターロータのクリアランスをtとするとき、
φDi+φdi=2eの場合は、
0.3≦((φDo+φdo)−(φDi+φdi))・(n+1)/t≦0.6…(Ic)
又は、φDo+φdo=2eの場合は、
0.3≦((φDo+φdo)−(φDi+φdi))・n/t≦0.6…(Ic)
【0036】
を満たしてインナーロータ10とアウターロータ20とが構成されている(以下、(φDo+φdo)−(φDi+φdi)をアウターロータ20の内歯21とインナーロータ10の外歯11の歯丈の差という)。尚、「クリアランスt」の単位は(式Ic)において、mm(ミリメートル)である。また、歯丈は基礎円の法線方向の歯の大きさである。
【0037】
また、
図2に示した歯溝と歯先が正対する噛み合い位置(
図1では最下部)におけるアウターロータ20の内歯21とインナーロータ10の外歯11の最小歯間隙間tsは、内歯21と外歯11の回転方向両側にそれぞれ設けられるサイドクリアランスである。尚、内歯21は回転方向と反回転方向に歯間隙間を有するから、本実施例では小さい方の隙間を最小歯間隙間と称して説明する。
【0038】
図3は、最小歯間隙間tsの位置を示す。インナーロータ10を反時計方向に回転駆動する場合、前記セルCの容積が増大する位置(
図3中では右側)では、外歯11の回転方向側と内歯21の反回転方向側に最小歯間隙間tsができ、前記セルCの容積が減少する位置(
図3中では左側)では、外歯11の反回転方向側と内歯21の回転方向側に最小歯間隙間tsができ、また、歯先と歯先が正対する否噛み合い位置(
図1では最上部)では、外歯11と内歯21の先端間に最小歯間隙間tsができ、この最小歯間隙間tsはクリアランスtのほぼ1/2である。
【0039】
また、上記(式Ic)を満たすことにより、
図3に示すように、インナーロータ10の外歯11とアウターロータ20の内歯21とが近接する全ての位置(歯溝と歯先が正対する噛み合い位置、前記セルCの容積が増大および減少する位置及び歯先と歯先が正対する位置)において、インナーロータ10の外歯11とアウターロータ20の内歯21の最小歯間隙間tsを略等しくすることができ、この例では、全ての位置における最小歯間隙間tsを40μmに設定し、この設定した値に対する最小歯間隙間tsの偏差を10μm、好ましくは5μm以下の範囲に入るように構成している。設定した最小歯間隙間tsに対して全ての位置の最小歯間隙間tsが好ましくは5μm以下の範囲に収まる。
【0040】
なお、本実施例においては、以上の関係を満たして構成されたインナーロータ10(基礎円biがφbi=44.8mm、第1外転円DiがφDi=3.60mm、第1内転円diがφdi=2.80mm、歯数n=7)およびアウターロータ20(外径がφ65.0mm、基礎円boがφbo=51.24mm、第2外転円DoがφDo=3.625mm、第2内転円doがφdo=2.78mm)が、偏心量e=3.20mmで組み合わされてオイルポンプロータを構成している。なお、本実施例においては、両ロータの歯幅(回転軸方向の大きさ)は13.2mmに設定されている。これにより、歯丈の差が0.005mmとされている。また、クリアランスtがt=0.08mm(80μm)、最小歯間隙間tsがts=0.037〜0.041mm(37〜41μm)で、(式Ic)の値が0.5である。このように最小歯間隙間tsはクリアランスtのほぼ1/2であり、偏差は5μm以内に収まる。
【0041】
ケーシング50には、両ロータ10,20の歯面間に形成されるセルCのうち、容積が増大過程にあるセルCに沿って円弧状の吸入ポート(図示せず)が形成されているとともに、容積が減少過程にあるセルCに沿って円弧状の吐出ポート(図示せず)が形成されている。
【0042】
セルCは、外歯11と内歯21との噛み合いの過程の途中において容積が最小となった後、吸入ポートに沿って移動するときに容積を拡大させて流体を吸入し、容積が最大となった後、吐出ポートに沿って移動するときに容積を減少させて流体を吐出するようになっている。
【0043】
上記(式Ic)は、歯丈の差にインナーロータ10の歯数n、またはアウターロータ20の歯数(n+1)を掛け、クリアランスtで割った値を示し、全ての位置における最小歯間隙間tsを小さく設定することができると共に、最小歯間隙間tsのばらつきを小さくすることができる範囲を規定しており、歯数nが多くなると、歯丈の差を小さくする必要があり、逆に歯数nが小さくなると、歯丈の差を大きく取る必要があり、歯数nの増減により変化する歯丈の差とクリアランスtとを比例関係の所定範囲内に規定している。
【0044】
このようにφDi+φdi=2eの場合は、0.3≦((φDo+φdo)−(φDi+φdi))・(n+1)/t≦0.6、又は、φDo+φdo=2eの場合は、0.3≦((φDo+φdo)−(φDi+φdi))・n/t≦0.6とすることで、最小歯間隙間tsの均一化と縮小化を可能にして噛み合い騒音などの低減と容積効率の向上を図ることができ、0.3を越えない、または0.6を越えると、最小歯間隙間tsの均一化が難しくなる。
【0045】
図5に、従来技術1(特許文献1)によるオイルポンプロータにおけるインナーロータの回転角度位置ごとの歯間隙間(
図5における破線)と、従来品2(特許文献2)によるオイルポンプロータにおけるインナーロータの回転角度位置ごとの歯間隙間(
図5における一点鎖線)と、本実施例によるオイルポンプロータにおけるインナーロータの回転角度位置ごとの歯間隙間(
図5における実線)とを比較するグラフを示す。このグラフから、本実施例によるオイルポンプロータである「発明品」は、全ての位置における最小歯間隙間を小さく且つ略均一にしている。これにより、従来技術では歯間隙間の小さい領域での歯形バラツキによる歯干渉が懸念される問題があったが、開発品では適切な歯間隙間を確保していることからこれを回避することが容易になり、スムーズな回転が実現できる。尚、
図5では、インナーロータの回転角が0°から180°までの歯間隙間しか記載していないのは、180°から360°(0°)までは、
図5に示す180°から0°までの歯間隙間の変化と同様であるため記載を省略したものである。
【0046】
さらに、
図6は、従来例で示した
図9〜
図12のグラフを「発明品」に適用したグラフであり、同図の印YI,YVIに示すように、変位速度が同期しているため、VIの位置の噛合い開始がスムーズに行われ、歯当り音を抑制することができ、また、「噛合いの切り替り点」以降においてIの位置とVIの位置の歯間隙間の差も僅か(偏差5μm以内、同図では1〜3μm)であり、噛み合い率が向上し、噛合機械音を抑制することができると共に、アウターロータ20の増減速がないから、アウターロータ20の回転騒音を抑制することができ、全体として、静粛性を向上することができる。
尚、
図4に本発明のオイルポンプと従来品のオイルポンプにおけるロータ回転数と音圧との関係を示し、発明品が静粛性を向上することが判る。
【0047】
また、インナーロータ10の外歯11とアウターロータ20の内歯21とが近接する全ての位置(歯溝と歯先が正対する噛み合い位置、前記セルCの容積が増大および減少する位置及び歯先と歯先が正対する位置)において、インナーロータ10の外歯11とアウターロータ20の内歯21の最小歯間隙間tsが略等しいから容積効率を向上させることを目的として、前記セルCの最大となる位置における最小歯間隙間を小さくすることで、液密性を向上させようとした場合も各歯で最小歯間隙間が小さくなり過ぎることはないから適切な歯間隙間を確保することができ、これにより歯同士の干渉を防ぎ、騒音を抑えることができる。
【0048】
このように本実施例では、n(nは自然数)枚の外歯が形成されたインナーロータと、該外歯と噛み合うn+1枚の内歯が形成されたアウターロータと、流体が吸入される吸入ポートおよび流体が吐出される吐出ポートが形成されたケーシングとを備え、両ロータが噛み合って回転するときに両ロータの歯面間に形成されるセルの容積変化により流体を吸入、吐出することによって流体を搬送するオイルポンプに用いられ、
【0049】
前記インナーロータが、その基礎円biに外接してすべりなく転がる第1外転円Diによって創成される外転サイクロイド曲線を歯先の歯形とし、基礎円biに内接してすべりなく転がる第1内転円diによって創成される内転サイクロイド曲線を歯溝の歯形として形成され、
【0050】
前記アウターロータが、その基礎円boに外接してすべりなく転がる第2外転円Doによって創成される外転サイクロイド曲線を歯溝の歯形とし、基礎円boに内接してすべりなく転がる第2内転円doによって創成される内転サイクロイド曲線を歯先の歯形として形成されており、
【0051】
インナーロータの基礎円biの直径をφbi、第1外転円Diの直径をφDi、第1内転円diの直径をφdi、アウターロータの基礎円boの直径をφbo、第2外転円Doの直径をφDo、第2内転円doの直径をφdo、インナーロータとアウターロータとの偏心量をeとするとき、
φbi=n・(φDi+φdi),φbo=(n+1)・(φDo+φdo)の関係にあり、
また、φDi+φdi=2e、あるいはφDo+φdo=2e、
【0052】
かつφDo>φDi,φdi>φdo,(φDi+φdi)<(φDo+φdo)を満たしてインナーロータとアウターロータとが構成されたオイルポンプロータにおいて、
インナーロータとアウターロータのクリアランスをtとするとき、
φDi+φdi=2eの場合は、
0.3≦((φDo+φdo)−(φDi+φdi))・(n+1)/t≦0.6
又は、φDo+φdo=2eの場合は、
0.3≦((φDo+φdo)−(φDi+φdi))・n/t≦0.6
【0053】
を満たしてインナーロータとアウターロータとが構成され
、
インナーロータの外歯とアウターロータの内歯とが近接する全ての位置において、インナーロータの外歯とアウターロータの内歯の最小歯間隙間の偏差を10μm以下としたから、静音性に優れたオイルポンプの実現が可能になり、特に、最小歯間隙間tsを均一にできるため、噛合い歯の切り替り点における歯当り音、振動音、歯合機械音の発生を抑制してオイルポンプロータの静粛性を確実に実現することができ、しかも、セルのシール性を向上して容積効率を向上することができる。ここで、最小歯間隙間tsの偏差は10μm、好ましくは5μm以下の範囲に入るように設定している。
【0054】
また、実施例上の効果としてφDi+φdi=2eの場合は、0.3≦((φDo+φdo)−(φDi+φdi))・(n+1)/t≦0.6、又は、φDo+φdo=2eの場合は0.3≦((φDo+φdo)−(φDi+φdi))・n/t≦0.6の条件で、インナーロータと各歯間隙間tsを偏
差5μm以下で一定化することにより、クリアランスtを小さく抑えた場合でも、噛合い部に適切な隙間量である最小歯間隙間tsを確保することができるため、部品精度のバラツキを吸収して外歯11と内歯21の干渉を回避することができ、円滑な回転が得られ易く機械効率が向上し、さらに、最小歯間隙間tsを小さく押え、例えば最小歯間隙間tsを35μm〜45μm、好ましくは37.5μm〜42.5μmとすることで最大セル容積位置での外歯11と内歯21間のシール性が増し、容積効率の向上を図ることができる。
尚、本発明は、前記実施形態に限定されるものでは無く、種々の変形実施が可能である。