特許第5692066号(P5692066)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5692066
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】導電性ペーストおよび金属薄膜
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20150312BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20150312BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20150312BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   H01B1/22 A
   H01B5/14 Z
   H01B13/00 503Z
   H05K1/09 A
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-512770(P2011-512770)
(86)(22)【出願日】2011年1月6日
(86)【国際出願番号】JP2011050081
(87)【国際公開番号】WO2011083813
(87)【国際公開日】20110714
【審査請求日】2013年12月25日
(31)【優先権主張番号】特願2010-2701(P2010-2701)
(32)【優先日】2010年1月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小木 浩二
(72)【発明者】
【氏名】鮎澤 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】近藤 孝司
(72)【発明者】
【氏名】木津本 博俊
(72)【発明者】
【氏名】八塚 剛志
【審査官】 小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−181946(JP,A)
【文献】 特開2008−243946(JP,A)
【文献】 特開2009−062523(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/041213(WO,A1)
【文献】 特開2005−044771(JP,A)
【文献】 特開2002−008441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01B 5/14
H01B 13/00
H05K 1/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属微粒子(A)、分岐型ポリエステル(B)および有機溶剤(C)を含有する導電性ペーストであって、
前記金属微粒子(A)の平均粒径が1×10-3μm以上5×10-1μm以下であり、
前記分岐型ポリエステル(B)が3官能以上のポリカルボン酸化合物および/または3官能以上のポリオール化合物に起因する分岐点を有し、
前記分岐型ポリエステル(B)の酸価が30当量/106g以上200当量/106g以下であり、
前記分岐型ポリエステル(B)が、イソフタル酸残基、オルソフタル酸残基およびシクロヘキサンジカルボン酸残基のうちの1種以上と、炭素数3〜5の直鎖アルキルジオールの炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜4の直鎖アルキル基で置換した化合物とを、共重合成分として含有し、
前記分岐型ポリエステル(B)を構成する全ポリカルボン酸化合物残基と全ポリオール化合物残基の合計を200モル%としたとき、イソフタル酸残基とオルソフタル酸残基とシクロヘキサンジカルボン酸残基の合計が70モル%以上であり、炭素数3〜5の直鎖アルキルジオールの炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜4の直鎖アルキル基で置換した化合物の残基の合計が20モル%以上であり、
前記分岐型ポリエステル(B)のガラス転移温度が40℃未満であり、
前記分岐型ポリエステル(B)100重量部に対して前記金属微粒子(A)600〜1500重量部である、
導電性ペースト。
【請求項2】
前記分岐型ポリエステル(B)を構成する全ポリカルボン酸化合物残基と全ポリオール化合物残基の合計を200モル%としたとき、オルソフタル酸残基とシクロヘキサンジカルボン酸残基の合計が20モル%以上50モル%以下である請求項1に記載の導電ペースト。
【請求項3】
前記金属微粒子(A)の含有率が導電性ペースト全体の20重量%以上80重量%以下である請求項1または2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
さらに硬化剤(D)を含有する請求項1〜3いずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の導電性ペーストを基材に塗布して形成した塗膜に対して、加熱処理、カレンダー処理および焼成処理から選ばれる少なくとも1つの処理を施す工程を含む金属薄膜積層体の製造方法。
【請求項6】
前記基材が絶縁性フィルムである請求項5に記載の金属薄膜積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂バインダーとして特定のポリエステル樹脂を用いた導電性ペースト、それを用いた金属薄膜積層体の製造方法、金属薄膜およびその応用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子等の導電性微粒子を媒体に分散させた導電性ペーストによりスクリーン印刷やディスペンサーを用いて回路を描画し、導電回路を形成する技術が汎用されている。ここで使用される導電性微粒子は粒径が数μm以上のフレーク状のものが一般にもちられ、回路の厚みを10μm以上にして導電性を確保している。導電回路は近年、急速に高密度化が進んでいる。より緻密な回路の形成を可能にするため、より微細な金属微粒子の開発がなされている。
【0003】
微粒子の製造方法は、生成される相によって、固相法、気相法、液相法に分類される。固相法の粉砕によるプロセスでは粒子径は0.1μm程度が限界である。ナノ粒子と呼ばれる粒径が数十nm以下の粒子の製造では、ビルドアッププロセスである気相法と液相法が適している。気相法の例としては、高温蒸気の冷却による物理的凝縮法および気相化学反応による粒子生成法が挙げられる。
【0004】
一方、液相法は粒子の構成成分が単一の場合だけでなく、多成分系にも適応できること、製造工程を多様化できること、粒径の制御が比較的容易であること、粒子の表面修飾が簡単に行えること等の利点を有し、種々の方法が検討されている。液相法には、共沈法、ゾル−ゲル法、ゲル−ゾル法、逆ミセル法、ホットソープ法、噴霧熱分解法などが提案されている。金属微粒子も保護ポリマーの存在下で金属塩を溶液中で還元する方法によりコロイド状態で合成されている。例えば、特許文献1には直鎖状脂肪族ポリエーテルを含有する金属微粒子分散体が開示されている。また、特許文献2にはピロリドン基を有するポリマーにより安定化された金属超微粒子分散体が開示されている。
【0005】
金属微粒子の粒径を低減することによって、金属微粒子間の焼成温度を大幅に下げることができることが知られている。例えば、特許文献3には、粒径100nm以下の金属微粒子を分散した分散体を用いて、金属薄膜を形成する方法が開示されている。この方法により電気回路や配線を形成できる。しかし、ナノ粒子に代表される微粒子は、表面積が非常に大きいため、極めて凝集し易い。そのため、バインダー樹脂や分散剤は金属微粒子に吸着することによって、微粒子の凝集を防止し、分散体の流動性を確保するという分散体を安定化させる役割を果たさなくてはならない。分散体の安定化のためには金属微粒子が微細化するほど、多量のバインダー樹脂や分散剤が必要になる。そのため、本来、低温焼成できる金属微粒子からなる分散体を用いても、バインダー樹脂や分散剤が導電性の向上を阻害する。バインダー樹脂や分散剤を昇華あるいは分解蒸発等により除く操作が必要になる。また、焼成によりフィルムやガラス等の基材との接着性が悪化することが起こりやすい。
【0006】
焼成工程を経た後にも金属薄膜層と基材との接着性を発現させるためには、不揮発性の樹脂バインダーを含有する分散体を用いることが有利であると考えられが、その反面、樹脂バインダーは焼成工程を経た後も塗膜中に残留し金属微粒子間の接続を妨げる傾向が強く、低体積抵抗率の金属薄膜層を得ることは実際には容易でない。そのためか、金属ナノ粒子の分散体に樹脂系バインダーを用い、高導電性の金属薄膜を得られたとする特許文献4、特許文献5等、ごく少数しか存在しない。特許文献4では、不特定の樹脂が使用可能であるとされているが、実施例において有効性が示されているのは特定の1銘柄のレゾール型フェノール樹脂の場合のみである。特許文献5においては、分子中に分岐単位と水酸基とを有するポリエステル樹脂を使用することが開示されているが、基材との密着性および体積抵抗率において、いまだ十分な性能を達成するに至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−9120号公報
【特許文献2】特開平5−224006号公報
【特許文献3】特許第2561537号明細書
【特許文献4】特許第4155821号明細書
【特許文献5】特開2009−62523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
導電性ペーストや導電性インキを利用して金属薄膜積層体を形成し、これによって導電回路を形成する技術が汎用されている。導電回路の高密度化を達成するための方策の一つとして、回路幅や回路厚みを縮小することがなされる。導電性を確保しつつ、そのような変更を実現するために、使用される金属フィラーも微粒子化が進められている。一方、導電回路形成に関する作業性を確保するためには、金属微粒子分散体の凝集を防ぎ、適度な粘度を保持することが必要であるが、分散した金属微粒子を安定化させるためには、有機物を金属微粒子の表面に吸着させることが有効である。しかしながら、吸着した有機物は成膜後には導電性を低下させる。一般に、分散体での安定性と成膜後の導電性は相反する。
【0009】
本発明の課題は、導電性ペーストの分散安定性とこの導電性ペーストを用いて形成された金属薄膜積層体の金属薄膜層の低体積抵抗率(高導電性、低電気抵抗)および基材に対する高い密着性を両立できる導電性ペーストを提供することである。なお、本発明における金属薄膜とは、金属のみからなる薄膜のみを指すものではなく、金属とその他の物質、例えば分岐型ポリエステル(B)、有機溶剤(C)、硬化剤(D)、分散剤(E)およびこれらのいずれか相互の反応生成物から選ばれる1種以上の物質との混合物からなる薄膜をも指す。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、
(1) 金属微粒子(A)、分岐型ポリエステル(B)および有機溶剤(C)を含有する導電性ペーストであって、
前記金属微粒子(A)の平均粒径が1×10-3μm以上5×10-1μm以下であり、
前記分岐型ポリエステル(B)が3官能以上のポリカルボン酸化合物および/または3官能以上のポリオール化合物に起因する分岐点を有し、
前記分岐型ポリエステル(B)の酸価が30当量/106g以上200当量/106g以下であり、
前記分岐型ポリエステル(B)が、イソフタル酸残基、オルソフタル酸残基およびシクロヘキサンジカルボン酸残基のうちの1種以上と、炭素数3〜5の直鎖アルキルジオールの炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜4の直鎖アルキル基で置換した化合物とを、共重合成分として含有し、
前記分岐型ポリエステル(B)を構成する全ポリカルボン酸化合物残基と全ポリオール化合物残基の合計を200モル%としたとき、イソフタル酸残基とオルソフタル酸残基とシクロヘキサンジカルボン酸残基の合計が70モル%以上であり、炭素数3〜5の直鎖アルキルジオールの炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜4の直鎖アルキル基で置換した化合物の残基の合計が20モル%以上であり、
前記分岐型ポリエステル(B)のガラス転移温度が40℃未満であり、
前記分岐型ポリエステル(B)100重量部に対して前記金属微粒子(A)600〜1500重量部である、
導電性ペースト。
(2) 前記分岐型ポリエステル(B)を構成する全ポリカルボン酸化合物残基と全ポリオール化合物残基の合計を200モル%としたとき、オルソフタル酸残基とシクロヘキサンジカルボン酸残基の合計が20モル%以上50モル%以下である(1)に記載の導電ペースト。
(3) 前記金属微粒子(A)の含有率が導電性ペースト全体の20重量%以上80重量%以下である(1)または(2)に記載の導電性ペースト。
(4) さらに硬化剤(D)を含有する(1)〜(3)いずれかに記載の導電性ペースト。
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の導電性ペーストを基材に塗布して形成した塗膜に対して、加熱処理、カレンダー処理および焼成処理から選ばれる少なくとも1つの処理を施す工程を含む金属薄膜積層体の製造方法。
(6) 前記基材が絶縁性フィルムである(5)に記載の金属薄膜積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の導電性ペーストは、分散安定性が優れ、かつ、基材上に塗布して加熱乾燥処理することにより、体積抵抗率の低い金属薄膜層を有する金属薄膜積層体を形成することが可能である。また、本発明の好ましい実施態様においては、カレンダー処理および/または焼成処理を行うことにより、さらに導電性の高い金属薄膜層を得ることができる。本発明の好ましい実施態様においては体積抵抗率1×10−1Ω・cm以下の金属薄膜層を得ることができ、より好ましい実施態様においては1×10−3Ω・cm以下、更に好ましい実施態様においては1×10−4Ω・cm以下、もっとも好ましい実施態様においては1×10−5Ω・cm以下の体積抵抗率を示す金属薄膜層を得ることができる。また、本発明の導電性ペーストから金属薄膜層を形成させ、金属薄膜積層体、電磁波シールド金属薄膜、めっき用導電層、金属配線、導電回路等の装置を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の導電性ペーストは、主として金属微粒子(A)、分岐型ポリエステル(B)および有機溶剤(C)からなる導電性ペーストであって、前記金属微粒子(A)の平均粒径が1×10−3μm以上5×10−1μm以下であり、前記分岐型ポリエステル(B)が3官能以上のポリカルボン酸化合物および/または3官能以上のポリオール化合物に起因する分岐点を有し、前記分岐型ポリエステル(B)が分子中に特定範囲の濃度のカルボキシル基を含有し、前記分岐型ポリエステル(B)を構成する全ポリカルボン酸化合物残基と全ポリオール化合物残基の合計を200モル%としたとき、イソフタル酸残基とオルソフタル酸残基とシクロヘキサンジカルボン酸残基の合計が70モル%以上であり、炭素数3〜5の直鎖アルキルジオールの炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜4の直鎖アルキル基で置換した化合物の残基の合計が20モル%以上であり、前記分岐型ポリエステル(B)のガラス転移温度が40℃未満であり、前記分岐型ポリエステル(B)100重量部に対して前記金属微粒子(A)600〜1500重量部含有する、ことを特徴とする導電性ペーストである。
【0013】
本発明に用いられる金属微粒子(A)の平均粒径は、電界放射型走査電子顕微鏡により不作為に選択した5視野の金属微粒子を観察し、各視野の中央から最も近い20個の粒子を選択し、合計100個の金属微粒子の直径を測定して平均値をもとめる方法による。なお、個々の金属微粒子の直径測定において、観察形状が円形でない場合には、最長部長さと最短部長さの平均値をその粒子の直径とする。
【0014】
本発明に用いられる金属微粒子(A)の平均粒径の上限は5×10−1μm以下であり、好ましくは2.5×10−1μm以下、より好ましくは1×10−1μm以下、さらに好ましくは8×10−2μmである。金属微粒子の平均粒径が大きすぎると、金属微粒子が沈降しやすくなり導電性ペーストの分散安定性に悪影響を及ぼす場合があり、また導電ペーストで細線を形成する場合に細線再現性が劣る場合がある。
【0015】
金属微粒子(A)の平均粒径の下限は特に限定されないが、5×10−3μm以上であることが好ましく、より好ましくは1×10−2μm以上、更に好ましくは4×10−2μm以上である。金属微粒子の平均粒径が小さすぎると、金属微粒子の分散が困難となり、安定な分散状態を保持するためには大量の樹脂バインダーやその他の分散剤が必要となり、高導電性の金属薄膜を得るのが困難になる場合がある。本発明で用いる金属微粒子は、平均粒径が5×10−1μm以下であれば、異なる粒径の物を混合して使用してもかまわない。
【0016】
本発明で使用する金属微粒子(A)としては、加熱処理によって微粒子間が融着するものでも、融着しないものでも使用可能であるが、融着するものがより好ましい。金属の種類としては、銅、ニッケル、コバルト、銀、白金、金、モリブデン、チタン等が挙げられ、特に銀、銅が好ましい。これらの金属微粒子は、市販品を用いてもよいし、公知の方法を用いて調製することも可能である。また、異種の金属を積層した構造のもの、有機物あるいは無機物に金属めっきを施したものでもかまわない。
【0017】
本発明で使用する金属微粒子(A)の形状は特に限定されない。球状、偏平状、樹枝状、棒状等の形状の粒子、あるいはこれらのいずれかあるいは複数種が混合したものや凝集した構造のものであってもよい。
【0018】
本発明の金属微粒子(A)の含有率は導電性ペーストの20〜80重量%であることが好ましく、35〜55重量%がより好ましく、更に好ましくは35〜45重量%である。金属微粒子(A)が導電性ペーストに占める含有率が低すぎると、一回の塗布乾燥で金属薄膜層の厚みをかせぐことが困難になる。また、導電性ペーストの粘度が低くなるため、塗膜ににじみが起こりやすくなる。樹脂バインダー(B)と金属微粒子(A)の重量比は導電性ペーストの分散安定性、塗膜と基材との密着性、塗膜の導電性等に影響する。この重量比は樹脂バインダー(B)100重量部に対し、金属微粒子(A)を600〜1500重量部で用いることが好ましく、800〜1200重量部が特に好ましい。樹脂バインダー(B)を用いることにより、塗膜の導電性を損なわない程度の少量の使用でも金属微粒子(A)の凝集を防ぐことができ、導電性ペーストの分散安定性、塗膜と基材の密着性にも優れる。
【0019】
本発明の分岐型ポリエステル(B)は、イソフタル酸残基、オルソフタル酸残基およびシクロヘキサンジカルボン酸残基のうちの1種以上を共重合成分として含有する。シクロヘキサンジカルボン酸残基はシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸残基であることがさらに好ましい。これらの二塩基酸化合物を共重合成分として含有することにより、分岐型ポリエステル樹脂(B)の溶剤溶解性が改良され、金属微粒子(A)の分散性と分散安定性が効果的に改善される、との効果を発揮する。
【0020】
本発明の分岐型ポリエステル(B)を構成する全ポリカルボン酸化合物残基と全ポリオール化合物残基の合計を200モル%としたとき、本発明の分岐型ポリエステル(B)を構成するイソフタル酸残基とオルソフタル酸残基とシクロヘキサンジカルボン酸残基の合計は70モル%以上である。オルソフタル酸残基とシクロヘキサンジカルボン酸残基の合計が20モル%以上50モル%以下であるとより好ましい。二塩基酸化合物をこのような比率で共重合することで、得られる分岐型ポリエステル樹脂(B)の溶剤溶解性がさらに改良され、金属微粒子(A)の分散性と分散安定性がさらに効果的に改善される、との効果を発揮する。本発明の分岐型ポリエステル(B)を構成するイソフタル酸残基、オルソフタル酸残基およびシクロヘキサンジカルボン酸残基以外のポリカルボン酸化合物残基としては、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸残基、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸残基等を使用することができる。
【0021】
前記分岐型ポリエステル(B)は、炭素数3〜5の直鎖アルキルジオールの炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜4の直鎖アルキル基で置換した化合物を共重合成分として含有する。これらのジオール化合物を共重合成分として含有することにより、分岐型ポリエステル樹脂(B)の溶剤溶解性が改良され、金属微粒子(A)の分散性と分散安定性が効果的に改善される。
【0022】
前記分岐型ポリエステル(B)を構成する全ポリカルボン酸化合物残基と全ポリオール化合物残基の合計を200モル%としたとき、本発明の分岐型ポリエステル(B)を構成する、炭素数3〜5の直鎖アルキルジオールの炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜4の直鎖アルキル基で置換した化合物の残基の合計は20モル%以上であり、これらのジオール化合物を共重合する事で、分岐型ポリエステル樹脂(B)の溶剤溶解性がさらに改良され、金属微粒子(A)の分散性と分散安定性がさらに効果的に改善される、との効果を発揮する。炭素数3〜5の直鎖アルキルジオールの炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜4の直鎖アルキル基で置換した化合物の具体的な例としては、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール等であり、特に2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール等の、1,3−プロパンジオールの2位の炭素に結合した水素を炭素数1〜4の直鎖アルキル基で置換した化合物の残基が好ましい。炭素数3〜5の直鎖アルキルジオールの炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜4の直鎖アルキル基で置換した化合物以外のポリオール化合物残基としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール等の直鎖脂肪族グリコールを使用することができる。
【0023】
本発明の分岐型ポリエステル(B)は、3官能以上のポリカルボン酸化合物および/または3官能以上のポリオール化合物に起因する分岐点を有する。3官能以上のポリカルボン酸としては芳香族ポリカルボン酸が好ましく、具体例としてはトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の1分子中に3個以上のカルボキシル基を有する化合物を挙げることができ、複数種を併用することも可能である。一方、3官能以上のポリオール化合物としては脂肪族ポリオールが好ましく、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の1分子中に3個以上の水酸基を有する化合物を挙げることができ、複数種を併用することも可能である。また、3官能以上のポリカルボン酸と3官能以上のポリオール化合物を併用することも可能である。
【0024】
前記分岐型ポリエステル(B)を構成する全ポリカルボン酸化合物残基と全ポリオール化合物残基の合計を200モル%としたとき、3官能以上のポリカルボン酸化合物および3官能以上のポリオール化合物の合計の共重合比率は、0.1モル%以上10モル%以下であることが好ましくは、より好ましくは0.3〜5モル%、さらに好ましくは1〜3モル%である。前記分岐成分の共重合比率が低すぎると得られる分岐型ポリエステル(B)の分子末端数が少なくなり、分子末端に十分な量の極性基を導入出来なくなり、高すぎると分岐型ポリエステル(B)の重合過程でゲル化を起こす可能性が高く生産安定性に問題を生じる傾向がある。
【0025】
本発明の分岐型ポリエステル(B)は、30当量/10g以上200当量/10g以下の酸価を有し、40当量/10g以上180当量/10g以下であることがより好ましい。分岐型ポリエステル(B)に酸価を付与する方法としては、上記3官能以上のポリカルボン酸、ポリオール化合物を共重合させた分岐型ポリエステルを重合後、種々の多価カルボン酸無水物を不活性ガス雰囲気下に溶融混合させる事で主に分子末端に開環付加させることで得ることができる。具体的な多価カルボン酸無水物としては、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’−ビス(ベンゾイルオキシ)エチレンテトラカルボン酸無水物、琥珀酸無水物等が挙げられるがトリメリット酸無水物が反応性の観点で最も好ましい。これら分子中に導入されたカルボキシル基は、分岐型ポリエステル分子を金属微粒子表面に効果的に吸着させペースト状態での金属微粒子の分散性及び分散安定性を高める効果がある。
【0026】
本発明の分岐型ポリエステル(B)は、ガラス転移温度が40℃未満である。40℃以上ではポリイミドフィルム等の基材表面と金属微粒子ペーストを塗布・乾燥して得られる微粒子金属分散層との界面密着性が得られにくいという弊害が発生する。分岐型ポリエステル(B)のガラス転移温度を40℃未満に設定する方法としては、例えば、分岐型ポリエステル(B)の酸成分を構成するイソフタル酸残基、オルソフタル酸残基、シクロヘキサンジカルボン酸残基以外のポリカルボン酸化合物として炭素数4以上の脂肪族系二塩基酸化合物を30モル%未満の範囲で共重合させる方法、或いはジオール成分として炭素数5以上の脂肪族ジオール化合物を共重合させる方法を挙げることができる。炭素数4以上の脂肪族系二塩基酸化合物としてはアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸等が挙げられる。一方、炭素数5以上の脂肪族系ジオール化合物としては1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール等が挙げられる。
【0027】
本発明の分岐型ポリエステル(B)の数平均分子量は、金属微粒子の分散性、基材との接着性等から4,000〜100,000が好ましく、8,000〜50,000が特に好ましい。
【0028】
本発明の導電性ペーストに使用される有機溶剤(C)は、分岐型ポリエステル(B)を溶解するものから選ばれる。有機溶剤(C)は、導電性ペースト中で金属微粒子(A)を分散させる役割に加えて、導電性ペーストの粘度と流動性を調整する役割がある。有機溶剤(C)の例として、アルコール、エーテル、ケトン、エステル、芳香族炭化水素、アミド等が挙げられる。好ましい例としてはエチルカルビトールアセテート、ブチルセロソルブアセテート、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、n−ブチルアルコール、sec.−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等を挙げることができる。
【0029】
本発明の導電性ペーストには、必要に応じ、硬化剤(D)を配合しても良い。本発明に使用できる硬化剤(D)としてはフェノール樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート化合物、エポキシ樹脂等が挙げられる。硬化剤の使用量は分岐型ポリエステル(B)の1〜30重量%の範囲が好ましい。硬化剤(D)を配合することによって、基材と本発明の導電ペーストから形成される導電層の界面の密着性を更に向上させるとの効果が発揮される場合がある。
【0030】
本発明の導電性ペーストは、金属微粒子(A)に対して分散機能を持つ分岐型ポリエステル(B)を必須成分として含んでいるが、さらに他の分散剤を配合してもかまわない。分散剤としてはステアリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸等の高級脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩、燐酸エステル、スルホン酸エステル等が挙げられる。分散剤の使用量は分岐型ポリエステル(B)の0.1〜10重量%の範囲が好ましい。
【0031】
本発明の導電性ペーストを製造する方法としては、粉体を液体に分散する一般的な方法を用いることができる。例えば、金属微粒子(A)と分岐型ポリエステル(B)の溶液、必要により追加の溶媒からなる混合物を混合した後、超音波法、ミキサー法、3本ロール法、ボールミル法等で分散を施せばよい。これらの分散手段のうち、複数を組み合わせて分散を行うことも可能である。これらの分散処理は室温で行ってもよく、加熱して行ってもよい。
【0032】
本発明の導電性ペーストを用いて基材上に金属薄膜層を形成するには、液状分散体を基材に塗布する場合に用いられる一般的な方法を用いることができる。例えばスクリーン印刷法、ディップコーティング法、スプレー塗布法、スピンコーティング法、インクジェット法、凸版印刷法、凹版印刷法等が挙げられる。印刷あるいは塗布により形成された塗膜から、加熱、減圧、送風あるいはこれらの複合等の操作により、あるいは自然乾燥により、溶剤の少なくとも一部を蒸発させることにより、金属薄膜層を形成することができる。
【0033】
金属薄膜層の形成方法によっては、塗布作業性や得られる金属薄膜層の性能に、導電性ペーストの粘度が大きな影響を及ぼす場合がある。一般的に、導電性ペーストの粘度を下げるために有機溶剤の配合比率を高めると金属微粒子の沈降が起き易い傾向にあるが、分岐型ポリエステル(B)を分散媒に含むことにより、低粘度であっても金属微粒子の沈降を抑えることができる傾向にある。
【0034】
金属薄膜層を形成後、金属薄膜層が破壊されない範囲でカレンダー処理(加圧処理)をすることが好ましい。カレンダー処理により金属薄膜層の導電性が向上する傾向がある。カレンダー処理とは一般的には金属ロールと弾性ロールの間で材料に応じた線圧、たとえば1〜100kg/cmの加圧処理を行うことである。カレンダー処理は、分岐型ポリエステル(B)のガラス転移温度以上の温度に加熱して行うことが特に好ましい。カレンダー処理は金属薄膜層に他の層を積層した状態で行っても良い。
【0035】
本発明より得られる導電性の金属薄膜層に、更に焼成処理を施すことが好ましい。焼成処理は金属微粒子の粒径が100nm以下の場合に特に高い効果を発揮する傾向にある。金属微粒子の結晶化度や酸化度等の表面状態により異なるが、いわゆるナノ粒子では表面活性が大きく、一般に知られているバルクの融点よりもはるかに低い温度で融着を始める。なお、本発明において焼成処理とは、金属微粒子(A)の少なくとも一部に融着を生じる加熱処理を指し、分岐型ポリエステル(B)の分解や揮散は必ずしも要しないものとする。
【実施例】
【0036】
本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明は実施例になんら限定されるものではない。なお、実施例に記載された測定値は以下の方法によって測定したものである。また、特記しない限り、部は重量部を表すものとする。
【0037】
以下、実施例中の本文及び表に示した化合物の略号はそれぞれ以下の化合物を示す。
T:テレフタル酸
I:イソフタル酸
O:オルソフタル酸
SIPA:5−スルホイソフタル酸ナトリウム
HOPA:水添オルソフタル酸
AA:アジピン酸
SA:セバシン酸
TMA:無水トリメリット酸
NPG:ネオペンチルグリコール
EG:エチレングリコール
PD:1,5−ペンタンジオール
HD:1,6−ヘキサンジオール
2MD:2−メチル−1,3−プロパンジオール
BEPD:2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール
DEG:ジエチレングリコール
【0038】
樹脂組成:試料を重クロロホルムに溶解し、400MHzの核磁気共鳴(NMR)スペクトル装置(Varian製)を用いてH−NMR法により定量した。測定条件は、室温、d1=26sである。
【0039】
数平均分子量:試料を、樹脂濃度が0.5重量%程度となるようにテトラヒドロフランに溶解し、孔径0.5μmのポリ四フッ化エチレン製メンブランフィルターで濾過したものを測定用試料として、テトラヒドロフランを移動相とし示差屈折計を検出器とするゲル浸透クロマトグラフィーにより、数平均分子量を測定した。流速は1mL/分、カラム温度は30℃とした。カラムには昭和電工製KF−802、804L、806Lを用いた。分子量標準には単分散ポリスチレンを使用した。
【0040】
比重:水温30℃の塩化カルシウム水溶液中に試料約0.1gを投入し、塩化カルシウム濃度を調整し樹脂が浮き沈みしなくなった際の塩化カルシウム水溶液の比重を比重計で測定し、その値をもって樹脂比重とした。
【0041】
酸価:樹脂0.2gを20mlのテトラヒドロフランに溶解後、0.1N−NaOHエタノール溶液でフェノールフタレインを指示薬として測定した。測定値を樹脂固形分10g中の当量で示した。
【0042】
ガラス転移温度:試料5mgをアルミニウム製サンプルパンに入れて密封し、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量分析計DSC−220を用いて、200℃まで、昇温速度20℃/分にて測定し、ガラス転移温度以下のベースラインの延長線と遷移部における最大傾斜を示す接線との交点の温度で求めた。
【0043】
導電性:横河M&C社製直流精密測定器ダブルブリッジ2769−10を用いて測定した。導電性は体積抵抗率(単位:Ω・cm)で表した。
【0044】
分散安定性:導電性ペーストを30℃で24時間静置した後の沈殿の有無を観察した。
○---沈殿なし。
△---少しの沈殿が認められ、沈殿量は全金属微粒子の20重量%以下である。
×---多量の沈殿がある。沈殿量は全金属微粒子の20重量%を越える。
【0045】
基材密着性:基材に対する金属薄膜層の密着性を常温におけるテープ剥離テストにより評価した。剥離テストは住友スリーエム製スコッチテープを貼り、これを剥がした際の金属薄膜層の剥離状態を観察した。
○---剥離なし
△---一部、剥離する
×---全面剥離する
【0046】
用いた金属微粒子
銀微粒子(1):
硝酸銀をアスコルビン酸とドデシルアミンによりヘキサン中で還元することにより得た。洗浄、乾燥後、透過型電子顕微鏡により観察したところ、平均粒径60nmの球状の粒子であった。
銀微粒子(2):
硝酸銀を水素化ホウ素ナトリウムとドデシルアミンによりヘキサン中で還元することにより得た。洗浄、乾燥後、透過型電子顕微鏡により観察したところ、平均粒径830nmの球状の粒子であった。
銀微粒子(3):
硝酸銀をアスコルビン酸とオクチルアミンによりヘキサン中で還元することにより得た。洗浄、乾燥後、透過型電子顕微鏡により観察したところ、平均粒径143nmの球状の粒子であった。
【0047】
合成例1 カルボキシル基含有分岐ポリエステル(b1)の合成
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器にイソフタル酸ジメチル131.9部、ネオペンチルグリコール48.0部、1,6−ヘキサンジオール122.0部、及びテトラブトキシチタネート0.1部を仕込み、150〜230℃で180分間加熱し、エステル交換を行った後、無水フタル酸43.7部、無水トリメリット酸3.8部、を追加しエステル化反応を200〜250℃で60分行った。次いで260℃まで昇温しつつ、系を徐々に減圧し、10分後に0.3mmHg以下とした。この条件で60分反応後、反応系を窒素雰囲気下に常圧に戻し系の温度を220℃に設定した。無水トリメリット酸1.9部を添加し、常圧窒素雰囲気下、220℃で45分攪拌し、淡黄色透明なポリエステル(b1)を得た。得られた樹脂の分析結果を表1、2に示す。
【0048】
合成例2 カルボキシル基含有分岐ポリエステル(b2)の合成
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器にイソフタル酸ジメチル131.9部、ネオペンチルグリコール48.0部、1,6−ヘキサンジオール122.0部、及びテトラブトキシチタネート0.1部を仕込み、150〜230℃で180分間加熱し、エステル交換を行った後、無水フタル酸42.9部、無水トリメリット酸3.8部、を追加しエステル化反応を200〜250℃で60分行った。次いで260℃まで昇温しつつ、系を徐々に減圧し、10分後に0.3mmHg以下とした。この条件で60分反応後、反応系を窒素雰囲気下に常圧に戻し系の温度を220℃に設定した。無水トリメリット酸3.8部を添加し、常圧窒素雰囲気下、220℃で45分攪拌し、淡黄色透明なポリエステル(b2)を得た。得られた樹脂の分析結果を表1、2に示す。
【0049】
合成例3 カルボキシル基含有分岐ポリエステル(b3)の合成
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器にイソフタル酸ジメチル131.9部、ネオペンチルグリコール48.0部、1,6−ヘキサンジオール122.0部、及びテトラブトキシチタネート0.1部を仕込み、150〜230℃で180分間加熱し、エステル交換を行った後、無水フタル酸44.1部、無水トリメリット酸3.8部、を追加しエステル化反応を200〜250℃で60分行った。次いで260℃まで昇温しつつ、系を徐々に減圧し、10分後に0.3mmHg以下とした。この条件で60分反応後、反応系を窒素雰囲気下に常圧に戻し系の温度を220℃に設定した。無水トリメリット酸1部を添加し、常圧窒素雰囲気下、220℃で45分攪拌し、淡黄色透明なポリエステル(b3)を得た。得られた樹脂の分析結果を表1、2に示す。
【0050】
合成例4 カルボキシル基含有分岐ポリエステル(b4)の合成
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器にイソフタル酸ジメチル97.0部、2−メチル−1,3−プロパンジオール153.0部、2−ブチル−2−エチル1,3−プロパンジオール48.0部、及びテトラブトキシチタネート0.1部を仕込み、150〜230℃で180分間加熱し、エステル交換を行った後、水添無水フタル酸45.4部、アジピン酸26.3部、無水トリメリット酸3.8部、を追加しエステル化反応を200〜250℃で60分行った。次いで260℃まで昇温しつつ、系を徐々に減圧し、10分後に0.3mmHg以下とした。この条件で60分反応後、反応系を窒素雰囲気下に常圧に戻し系の温度を220℃に設定した。無水トリメリット酸1.9部を添加し、常圧窒素雰囲気下、220℃で45分攪拌し、淡黄色透明なポリエステル(b4)を得た。得られた樹脂の分析結果を表1、2に示す。
【0051】
合成例5 カルボキシル基含有分岐ポリエステル(b5)の合成
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器にイソフタル酸ジメチル131.9部、2−メチル−1,3−プロパンジオール99.0部、1,5−ペンタンジオール94.0部、及びテトラブトキシチタネート0.1部を仕込み、150〜230℃で180分間加熱し、エステル交換を行った後、水添無水フタル酸45.4部、無水トリメリット酸3.8部、を追加しエステル化反応を200〜250℃で60分行った。次いで260℃まで昇温しつつ、系を徐々に減圧し、10分後に0.3mmHg以下とした。この条件で60分反応後、反応系を窒素雰囲気下に常圧に戻し系の温度を220℃に設定した。無水トリメリット酸1.9部を添加し、常圧窒素雰囲気下、220℃で45分攪拌し、淡黄色透明なポリエステル(b5)を得た。得られた樹脂の分析結果を表1、2に示す。
【0052】
比較合成例6 カルボキシル基を付加しない分岐ポリエステル(b6)の合成
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器にイソフタル酸ジメチル131.9部、ネオペンチルグリコール48.0部、1,6−ヘキサンジオール122.0部、及びテトラブトキシチタネート0.1部を仕込み、150〜230℃で180分間加熱し、エステル交換を行った後、無水フタル酸44.4部、無水トリメリット酸3.8部、を追加しエステル化反応を200〜250℃で60分行った。次いで260℃まで昇温しつつ、系を徐々に減圧し、10分後に0.3mmHg以下とした。この条件で60分反応後、無水トリメリット酸を付加させる事無く反応を終了し、淡黄色透明なポリエステル(b6)を得た。得られた樹脂の分析結果を表1、2に示す。
【0053】
比較合成例7 カルボキシル基含有分岐ポリエステル(b7)の合成
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器にテレフタル酸ジメチル95.1部、イソフタル酸ジメチル94.1部、無水トリメリット酸3.8部、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール73.0部、エチレングリコール81.0部、及びテトラブトキシチタネート0.1部を仕込み、150〜230℃で180分間加熱し、エステル交換を行った後、30分で反応系を250℃に昇温し、次いで260℃まで昇温しつつ、系を徐々に減圧し、10分後に0.3mmHg以下とした。この条件で60分反応後、反応系を窒素雰囲気下に常圧に戻し系の温度を220℃に設定した。無水トリメリット酸1.9部を添加し、常圧窒素雰囲気下、220℃で45分攪拌し、淡黄色透明なポリエステル(b7)を得た。得られた樹脂の分析結果を表1、2に示す。
【0054】
比較合成例8 カルボキシル基含有ポリエステル(b8)の合成
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器にイソフタル酸ジメチル135.8部、ネオペンチルグリコール48.0部、1,6−ヘキサンジオール122.0部、及びテトラブトキシチタネート0.1部を仕込み、150〜230℃で180分間加熱し、エステル交換を行った後、無水フタル酸43.7部を追加しエステル化反応を200〜250℃で60分行った。次いで260℃まで昇温しつつ、系を徐々に減圧し、10分後に0.3mmHg以下とした。この条件で60分反応後、反応系を窒素雰囲気下に常圧に戻し系の温度を220℃に設定した。無水トリメリット酸1.9部を添加し、常圧窒素雰囲気下、220℃で45分攪拌し、淡黄色透明なポリエステル(b8)を得た。得られた樹脂の分析結果を表1、2に示す。
【0055】
比較合成例9 カルボキシル基含有分岐ポリエステル(b9)の合成
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器にテレフタル酸ジメチル92.2部、イソフタル酸ジメチル97.0部、無水トリメリット酸3.8部、エチレングリコール99.2部、ジエチレングリコール42.4部、及びテトラブトキシチタネート0.1部を仕込み、150〜230℃で180分間加熱し、エステル交換を行った後、30分で反応系を250℃に昇温し、次いで260℃まで昇温しつつ、系を徐々に減圧し、10分後に0.3mmHg以下とした。この条件で60分反応後、反応系を窒素雰囲気下に常圧に戻し系の温度を220℃に設定した。無水トリメリット酸1.9部を添加し、常圧窒素雰囲気下、220℃で45分攪拌し、淡黄色透明なポリエステル(b9)を得た。得られた樹脂の分析結果を表1、2に示す。
【0056】
比較合成例10 カルボキシル基含有分岐ポリエステル(b10)の合成
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器にイソフタル酸ジメチル131.9部、ネオペンチルグリコール48.0部、1,6−ヘキサンジオール122.0部、及びテトラブトキシチタネート0.1部を仕込み、150〜230℃で180分間加熱し、エステル交換を行った後、無水フタル酸42.2部、無水トリメリット酸3.8部、を追加しエステル化反応を200〜250℃で60分行った。次いで260℃まで昇温しつつ、系を徐々に減圧し、10分後に0.3mmHg以下とした。この条件で60分反応後、無水トリメリット酸を添加する事なく反応を終了し、淡黄色透明なポリエステル(b10)を得た。得られた樹脂の分析結果を表1、2に示す。
【0057】
比較合成例11 スルホン酸金属塩基含有ポリエステル(b11)の合成
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器にイソフタル酸ジメチル126.1部、5−スルホイソフタル酸ナトリウム14.8部、ネオペンチルグリコール48.0部、1,6−ヘキサンジオール122.0部、及びテトラブトキシチタネート0.1部を仕込み、150〜230℃で180分間加熱し、エステル交換を行った後、無水フタル酸44.4部、を追加しエステル化反応を200〜250℃で60分行った。次いで260℃まで昇温しつつ、系を徐々に減圧し、10分後に0.3mmHg以下とした。この条件で60分反応後、無水トリメリット酸3.8部を添加し、常圧窒素雰囲気下、220℃で45分攪拌し、淡黄色透明なポリエステル(b11)を得た。得られた樹脂の分析結果を表1、表2に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
実施例1
下記の配合割合の組成物を3本ロールで練り合わせた。
ポリエステル(b1)の溶液 8.3部
(エチルカルビトールアセテート/ブチルセロソルブアセテート=1/1(重量比)の24重量%溶液)
銀微粒子(1)(平均粒径60nm) 23.0部
得られた練り合わせ物にエチルカルビトールアセテートとブチルセロソルブアセテート各々9.3部を加え、プラネタリーミキサーで10分間攪拌混合し、固形分濃度50重量%の導電性ペーストを得た。
得られた導電性ペーストを厚さ25μmのポリイミドフィルム上に、乾燥後の厚みが2μmになるように塗布し、120℃で10分間乾燥して金属薄膜層を得た。次いで、100℃、線圧50kg/cmでクロムめっきロールとゴムロールからなるカレンダーロールに通した。さらに、180℃で1時間熱処理し、銀微粒子の焼成を進めた。導電性ペーストの分散安定性と金属薄膜層の基材密着性および導電性の測定結果を表3に示す。カレンダー処理をせずに焼成処理を施した場合の導電性も表3に示した。
【0061】
実施例2〜5及び比較例6〜11
実施例1と同様にして表3、表4に記載した配合比率の導電性ペーストを得た。実施例1と同様に評価した。結果を表3、表4に示した。
比較例12、13
金属微粒子として銀粒子(1)の代わりに銀粒子(2)を用い、実施例1同様の方法で金属薄膜層を形成し、実施例1同様に評価した。結果を表4に示した。
【0062】
実施例14、15
金属微粒子として銀粒子(1)の代わりに銀粒子(3)を用い、実施例1同様の方法で金属薄膜層を形成し、実施例1同様に評価した。結果を表4に示した。
【0063】
実施例16、17及び比較例18〜20
金属微粒子として銀粒子(1)又は(3)を用い、銀微粒子と分岐型ポリエステル(b1)の配合比率を表4の様に変化させ、実施例1同様の方法で導電性薄膜を形成し、実施例1同様に評価した。結果を表4に示した。但し、比較例19では3本ロールによる練り合わせ物がペースト状にならず、基材上に薄く塗布する事が出来なかった。
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
表3、表4に示されたとおり、本発明の金属微粒子分散体は金属粒子の分散安定性に優れ、本導電性ペーストから形成された金属薄膜層は基材との密着性に優れている。加えて優れた導電性能を発揮する事が分かる。比較例6はバインダーとして配合される分岐型ポリエステル樹脂が酸価を有さない場合、比較例7は分岐型ポリエステル樹脂の酸成分が本請求の範囲から外れ、かつガラス転移温度も請求範囲外となる場合、比較例8はポリエステル樹脂が分岐構造を有さない場合である。また、比較例9は酸成分、グリコール成分共に本請求範囲から外れ、ガラス転移温度も請求範囲外となる場合である。更に比較例10は本発明の分岐型ポリエステル樹脂の酸価が本請求の範囲から外れる例、比較例11は磁気テープ用バインダーとして磁性粒子の分散効果に優れるスルホン酸金属塩基を含有するポリエステル樹脂を用いた場合の例であるが、分岐構造が無く、酸価も本請求範囲から外れるものである。比較例12,13は金属粒子の粒子径が本発明の請求範囲を満たさない場合である。また比較例18〜20は銀微粒子と分岐型ポリエステル樹脂の配合比率が本発明の請求範囲から外れる例である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の導電性ペーストは、分散安定性が優れ、かつ、基材上に塗布し加熱乾燥処理することにより、基材上に基材との密着性に優れた、体積抵抗率の低い金属薄膜を形成することが可能である。得られた金属薄膜は金属/樹脂積層体、電磁シールド金属薄膜、めっき用導電層、金属配線材料、導電材料等に用いることができる。