(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記環状アセタール骨格を有するジオール単位以外のジオール単位が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール及び1,4−シクロヘキサンジメタノールからなる群から選ばれる1種以上のジオールに由来するジオール単位である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
前記ジカルボン酸単位が、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,7−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる1種以上のジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
主として、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂及びポリメチルメタクリレート−スチレン樹脂からなる群から選ばれる1種以上の樹脂を含む樹脂層を少なくとも1層有する、請求項7に記載の多層シート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ポリエステル樹脂組成物]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ジカルボン酸単位とジオール単位とを含み、該ジオール単位中1〜60モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位であるポリエステル樹脂(A)70〜99.5質量%、及び平均粒子径1μm以下であり、前記ポリエステル樹脂(A)の屈折率に対して屈折率の絶対値差が0.02以下であるコアシェル型ゴム0.5〜30質量%を含有する。本発明では、平均粒子径1μm以下であり、ポリエステル樹脂(A)の屈折率に対して屈折率の絶対値差が0.02以下である特定のコアシェル型ゴムを所定量含有させることで、透明性を損なうことなく耐衝撃性を改善することができる。
【0012】
(ポリエステル樹脂(A))
本発明のポリエステル樹脂組成物に用いられるポリエステル樹脂(A)は、ジカルボン酸単位とジオール単位とを含み、該ジオール単位中1〜60モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位であるポリエステル樹脂である。
【0013】
ポリエステル樹脂(A)のジオール単位において、環状アセタール骨格を有するジオール単位の含有量は、高い透明性及び耐熱性の観点から、ジオール単位中1〜60モル%、好ましくは10〜55モル%、より好ましくは20〜50モル%である。
環状アセタール骨格を有するジオール単位は、下記の一般式(1)又は(2)で表される化合物に由来する単位が好ましい。
【0016】
式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立して、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。R
3は、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。
R
1及びR
2は、炭素数1〜10、好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは炭素数4〜8の脂肪族炭化水素基が好ましい。その具体例としては、−CH
2−、−CH
2CH
2−、−CH
2CH
2CH
2−、−CH
2CH(CH
3)−、−CH
2CH
2CH
2CH
2−、−CH
2C(CH
3)
2−等の2価の脂肪族炭化水素基が挙げられる。
R
3は、炭素数1〜10、好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは炭素数4〜8の脂肪族炭化水素基が好ましい。その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等の1価の脂肪族炭化水素基が挙げられる。
【0017】
前記一般式(1)又は(2)で表される化合物としては、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、又は5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンが特に好ましい。
【0018】
また、環状アセタール骨格を有するジオール単位以外のジオール単位としては特に制限はされない。該ジオール単位を構成しうる化合物としては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテルジオール類;1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6−デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7−デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロドデカンジメタノール等の脂環式ジオール類;4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ)、4,4’−スルホニルビスフェノール(ビスフェノールS)等のビスフェノール類;上記ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物;及び上記芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物等が例示できる。
本発明のポリエステル樹脂組成物の機械的性能及び経済性等の観点からは、前記ジオール単位は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール及び1,4−シクロヘキサンジメタノールからなる群から選ばれる1種以上のジオールに由来するジオール単位が好ましく、特にエチレングリコールに由来するジオール単位が好ましい。例示した化合物に由来するジオール単位は単独で使用することもできるし、複数を併用することもできる。
【0019】
また、本発明のポリエステル樹脂組成物に用いられるポリエステル樹脂(A)のジカルボン酸単位としては特に制限はされない。該ジカルボン酸単位を構成しうる化合物としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2−メチルテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が例示できる。
本発明のポリエステル樹脂組成物の機械的性能及び耐熱性の観点からは、前記ジカルボン酸単位は、芳香族ジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位が好ましく、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,7−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる1種以上のジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位がより好ましい。特にテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、及びイソフタル酸からなる群から選ばれる1種以上のジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位が好ましく、中でも、経済性の面からテレフタル酸に由来するジカルボン酸単位が最も好ましい。例示した化合物に由来するジカルボン酸単位は単独で使用することもできるし、複数を併用することもできる。
【0020】
ポリエステル樹脂(A)を製造する方法に特に制限はなく、任意の方法を適用することができる。例えばエステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法または溶液重合法を挙げることができる。エステル交換触媒、エステル化触媒、エーテル化防止剤、また重合に用いる重合触媒、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤等も任意のものを用いることができる。
エステル交換触媒として、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウム等の化合物、またエステル化触媒として、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウム等の化合物、またエーテル化防止剤としてアミン化合物等が例示される。
重縮合触媒としてはゲルマニウム、アンチモン、スズ、チタン等の化合物が例示される。また熱安定剤としてリン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸等の各種リン化合物を加えることも有効である。その他光安定剤、耐電防止剤、滑剤、酸化防止剤、離型剤等を加えてもよい。
環状アセタール骨格を有するジオール単位を構成しうる化合物(例えば前記一般式(1)又は(2)で表される化合物)の添加時期は特に限定されず、エステル化反応若しくはエステル交換反応終了後に添加してもよい。またその際、直接エステル化法において、スラリー性改善のために水を加えてもよい。
【0021】
ポリエステル樹脂(A)の溶融粘度は、測定温度240℃、剪断速度100s
-1で測定した際に、好ましくは700〜5000Pa・s、より好ましくは800〜4000Pa・s、更に好ましくは1000〜3000Pa・sの範囲である。溶融粘度が上記範囲にあると成形性に優れるポリエステル樹脂組成物とすることができ、例えばコアシェル型ゴムの種類、組合せ、添加量等を適宜選択し、上記粘度範囲にあるポリエステル樹脂(A)に含有させることで透明性、耐熱性、耐衝撃性を兼ね揃えた成形体を簡便に製造することが可能となる。溶融粘度の測定は、実施例に記載の方法で行うことができる。
【0022】
本発明のポリエステル樹脂組成物におけるポリエステル樹脂(A)の含有量は、ポリエステル樹脂組成物に対して70〜99.5質量%、好ましくは80〜99質量%、更に好ましくは90〜97質量%である。ポリエステル樹脂(A)の含有量が99.5質量%を超えると、コアシェル型ゴムを十分な量で含有させることができないことから耐衝撃性が不十分となる。またポリエステル樹脂(A)の含有量が70質量%未満では、耐熱性の低下や透明性の低下が生じてしまう。
【0023】
(コアシェル型ゴム)
本発明のポリエステル樹脂組成物は、特定のコアシェル型ゴムを含有する。これにより、本発明のポリエステル樹脂組成物は、耐衝撃性に優れる。
コアシェル型ゴムは、ゴム状重合体をガラス状重合体で取り囲んだ構造である。コアシェル型ゴムとしては、ブタジエン−アクリロニトリル−スチレン系コアシェル型ゴム(ABS系コアシェル型ゴム),メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン系コアシェル型ゴム(MBS系コアシェル型ゴム),メチルメタクリレート−ブチルアクリレート−スチレン系コアシェル型ゴム(MAS系コアシェル型ゴム),オクチルアクリレート−ブタジエン−スチレン系コアシェル型ゴム(MABS系コアシェル型ゴム),アルキルアクリレート−ブタジエン−アクリロニトリル−スチレン系コアシェル型ゴム(AABS系コアシェル型ゴム),ブタジエン−スチレン系コアシェル型ゴム(SBR系コアシェル型ゴム),メチルメタクリレート−ブチルアクリレート系コアシェル型ゴム(MA系コアシェル型ゴム)などが挙げられる。好ましくはMBS系コアシェル型ゴム,MAS系コアシェル型ゴム,SBR系コアシェル型ゴムであり、より好ましくはMBS系コアシェル型ゴム、SBR系コアシェル型ゴムであり、特に好ましくはMBS系コアシェル型ゴムである。コアシェル型ゴムは上記したものに限らず、株式会社カネカ製KANE ACE Bシリーズ、Mシリーズ、FMシリーズ(いずれも商品名)を使用することができ、これらを単独で使用することもでき、また複数を併用することもできる。
【0024】
MBS系コアシェル型ゴムはブタジエン−スチレン系共重合体(コア成分)に、メタクリル酸メチル成分及び所望により芳香族ビニル成分、シアン化ビニル成分、他のメタクリル酸エステル成分(シェル成分)を、例えば、塊状重合、懸濁重合、塊状・懸濁重合、溶液重合又は乳化重合などの方法でグラフト重合させたものである。その中でも特に、乳化重合法でグラフト重合させたものが好ましい。
【0025】
MBS系コアシェル型ゴムを構成する他のメタクリル酸エステルとしては、炭素数2〜4のアルキルエステルが挙げられる。また芳香族ビニルとしては、例えば、スチレン、ハロゲン化スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレンなどが例示されるが、特にスチレンが好ましい。またシアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、α−ハロゲン化アクリロニトリルなどが例示され、特にアクリロニトリルが好適である。
【0026】
コアシェル型ゴムの平均粒子径は1μm以下であり、好ましくは0.8μm以下、更に好ましくは0.7μm以下である。コアシェル型ゴムの平均粒子径が1μmを超えると、コアシェル型ゴムに光が当たって散乱する確率が増加して透明性が低下する。コアシェル型ゴムの平均粒子径は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0027】
コアシェル型ゴムの屈折率は、ポリエステル樹脂(A)の屈折率との絶対値差が0.02以下であり、好ましくは0.018以下、更に好ましくは0.015以下である。前記の屈折率の絶対値差が0.02を超えると、ポリエステル樹脂(A)とコアシェル型ゴムとの界面で光が散乱しやすくなり透明性が低下する。屈折率はJIS K 7142に準拠し23℃においてアッベ屈折計により測定することもでき、また文献値(ポリマーハンドブック第4版、JOHN WILEY&SONS社等)をもとに計算して求めることもできる。
【0028】
本発明のポリエステル樹脂組成物におけるコアシェル型ゴムの含有量は、ポリエステル樹脂組成物に対して0.5〜30質量%、好ましくは1〜25質量%、更に好ましくは3〜20質量%である。コアシェル型ゴムの含有量が30質量%を超えると、コアシェル型ゴムの凝集が発生し、透明性の低下が生じてしまう。また、押出や成形不良が発生したり、引張強度や耐熱性等の物性が大幅に低下するため好ましくない。コアシェル型ゴムの含有量が0.5質量%未満では、コアシェル型ゴムを十分な量で含有させることができないことから耐衝撃性が不十分となる。
【0029】
[ポリエステル樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法としては、特に限定されないが、ポリエステル樹脂(A)の重合反応をコアシェル型ゴムの存在下で行う方法、又は重合工程において重合釜から抜き出しを行う前の溶融状態のポリエステル樹脂(A)にコアシェル型ゴムを添加する方法、ポリエステル樹脂(A)をペレット化した後にコアシェル型ゴムをドライブレンドする方法、更にそのドライブレンドしたものを押出機等で溶融混練する方法、押出機等を用いて溶融したポリエステル樹脂(A)にコアシェル型ゴムを添加する方法が採用される。これらのなかでも添加量を任意に調整することが簡単であることから、ポリエステル樹脂(A)のペレットにコアシェル型ゴムをドライブレンドし押出機等で溶融混練する方法がよい。
【0030】
ポリエステル樹脂(A)とコアシェル型ゴムとの混合、混練には公知の装置を用いることができ、例えばタンブラー、高速ミキサー、ナウターミキサー、リボン型ブレンダー、ミキシングロール、ニーダー、インテンシブミキサー、単軸押出機、二軸押出機などの混合、混練装置を挙げることができる。また、ゲートミキサー、バタフライミキサー、万能ミキサー、ディゾルバー、スタティックミキサーなどの液体混合装置を用いることもできる。また、高濃度のコアシェル型ゴムを含む樹脂とポリエステル樹脂とを上記の方法、装置にて混合することもできる。
【0031】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、増量剤、艶消し剤、乾燥調節剤、帯電防止剤、沈降防止剤、界面活性剤、流れ改良剤、乾燥油、ワックス類、フィラー、着色剤、補強剤、発泡剤、表面平滑剤、レベリング剤、硬化反応促進剤などの各種添加剤、成形助剤を含有してもよい。また、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、アクリロニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリイミド、AS樹脂等の樹脂、オリゴマーを含有してもよい。
【0032】
[ポリエステル樹脂組成物の成形体]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、任意の方法により成形することができ、射出成形体、押出成形体、シート、シート成形品、未延伸フィルム、延伸フィルム、インジェクションブローボトル、ダイレクトブローボトル、発泡体など種々の用途に用いることができる。
【0033】
(多層シート)
本発明の多層シートは、本発明のポリエステル樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有し、好ましくは、本発明のポリエステル樹脂組成物からなる少なくとも1層と本発明のポリエステル樹脂組成物以外からなる少なくとも1層とを有する。また、本発明のポリエステル樹脂組成物以外からなる少なくとも1層が、主として、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂及びポリメチルメタクリレート−スチレン樹脂からなる群から選ばれる1種以上の樹脂を含む樹脂層であることが好ましい。本発明の多層シートがスキン層及びコア層からなる場合、多層シートのスキン層、コア層は本発明のポリエステル樹脂組成物がいずれか一方に使用されていれば特に限定されないが、耐衝撃性及び耐熱性向上の観点からスキン層が本発明のポリエステル樹脂組成物からなる層であることが好ましい。
【0034】
本発明のポリエステル樹脂組成物と多層化可能な樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、1,4−シクロヘキサンジメタノール変性ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート−スチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、技術的に容易に多層化できる樹脂としてポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂及びポリメチルメタクリレート−スチレン樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂が特に好ましく用いられる。
【0035】
本発明の多層シートの製造方法としては、共押出法、共押出ラミネート法、押出ラミネート法、ドライラミネート法等の公知の積層化技術を用いることができる。またこれらの積層化のために樹脂間に適当な接着剤あるいは接着性樹脂を用いてもよい。
【0036】
本発明の多層シートの各層の厚みは、用途、層を形成する樹脂の種類、層の数等に応じて決められるが、通常は10μm〜10mmである。また、多層シートの総厚みは用途により異なり、例えば、食品向けシートでは0.1〜1mm、建材、商品ディスプレイ用等の厚物シートでは1〜40mmの厚みで使用される。本発明のポリエステル樹脂組成物層と他樹脂層との層数の合計は通常6層までである。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。
【0038】
本実施例及び比較例で使用した原料を以下に示す。
(1)MBS系コアシェル型ゴム:B−521(商品名、株式会社カネカ製)、屈折率1.54
(2)MBS系コアシェル型ゴム:M−300(商品名、株式会社カネカ製)、屈折率1.56
(3)MA系コアシェル型ゴム:M−400(商品名、株式会社カネカ製)、屈折率1.49
(4)スチレン−ブタジエン共重合体:Nipol NS310S(商品名、日本ゼオン株式会社製)、ブロック状ゴム状重合体(直径1〜5mm程度に粉砕して使用)、屈折率1.53
(5)ブタジエンゴム:Nipol BR1220(商品名、日本ゼオン株式会社製)、ブロック状ゴム状重合体(直径1〜5mm程度に粉砕して使用)、屈折率1.52
(6)PET:UNIPET RT553C(商品名、日本ユニペット株式会社製)、屈折率1.57
(7)PC:E−2000(商品名、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製)
【0039】
〔評価方法〕
次に本実施例及び比較例中の多層シートの評価方法は以下の通りである。
(1)コアシェル型ゴム又はゴム状重合体の平均粒子径
成形体の超薄切片をオスミウム酸で染色し、透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影して染色されたゴム状重合体の平均粒子径(μm)を求めた。
(2)耐衝撃性
耐衝撃性はTダイ押出成型法で得られた0.35mm厚の単層シート及び多層シートを23℃、相対湿度50%の雰囲気下で48時間調湿後、同条件下にてオリエンテック社製フィルムインパクト試験機(型式IFT−60)を用いて衝撃穴開け強さを測定した。試験温度は23℃及び−20℃の2種類で行った。具体的には振り子の先端に取り付けた半球状の衝撃球が衝撃によって試験片に穴を開けるのに必要な仕事量をシート厚みで割った値で評価した。
(3)耐熱性
0.35mm厚の単層シート及び多層シートの押出方向を縦、幅方向を横として、縦横100mmの正方形試験片を切り出し、この試験片を5℃刻みのオーブン内で30分加熱し、加熱後の縦及び横方向の収縮率が1%を越えない最高温度とした。
(4)全光線透過率及び曇価
全光線透過率及び曇価は、JIS−K−7105、ASTM D1003に準じて0.35mm厚の単層シート及び多層シートを48時間調湿後、23℃、相対湿度50%の雰囲気下で測定した。使用した測定装置は、日本電色工業社製の曇価測定装置(型式:COH−300A)である。
【0040】
製造例1及び2
〔ポリエステル樹脂(A−1)及び(A−2)の製造〕
充填塔式精留塔、分縮器、全縮器、コールドトラップ、撹拌機、過熱装置、窒素導入管を備えた150リットルのポリエステル樹脂製造装置に表1に記載した量のテレフタル酸及びエチレングリコールを仕込み、常法にてエステル化反応を行った。得られたエステルに表1に記載した量の解重合用エチレングリコール及び二酸化ゲルマニウムを加え、225℃、窒素気流下で解重合を行った。生成する水を留去しつつ3時間反応を行った後、215℃、13.3kPaでエチレングリコールを留去した。得られたエステルに表1に記載した量のテトラ−n−ブチルチタネート、酢酸カリウム、リン酸トリエチル、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエテチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンを添加し、225℃13.3kPaで3時間反応を行った。得られたエステルを昇温、減圧し、最終的に270℃、高真空下(300Pa以下)で重縮合反応を行い、所定の溶融粘度となったところで反応を終了しポリエステル樹脂(A−1)及び(A−2)を得た。
尚、表1中の略記の意味は下記の通りである。
・PTA:テレフタル酸
・SPG:3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエテチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン
・EG:エチレングリコール
・GeO
2:二酸化ゲルマニウム
・TBT:テトラ−n−ブチルチタネート
・AcOK:酢酸カリウム
・TEP:リン酸トリエチル
【0041】
ポリエステル樹脂(A−1)及び(A−2)の評価方法は以下の通りである。
(1)環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合
ポリエステル樹脂中の環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合は、ポリエスエル樹脂20mgを重クロロホルム1gに溶解し、
1H−NMR測定を行い、ピーク面積比から算出した。測定装置としてFT−NMR装置(日本電子(株)製、商品名:JNM−AL400)を用い、400MHzで測定した。
(2)ガラス転移温度
ポリエステル樹脂のガラス転移温度は示差走査熱量計((株)島津製作所製、商品名:DSC/TA−50WS)を使用し、試料約10mgをアルミニウム製非密封容器に入れ、窒素ガス(30ml/min)気流中昇温速度20℃/minで測定し、DSC曲線の転移前後における基線の差の1/2だけ変化した温度をガラス転移温度とした。
(3)分子量(数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mn)
ポリエステル樹脂2mgをクロロホルム20gに溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレンで検量したものをMn、Mw/Mnとした。GPCは、東ソー株式会社製TOSOH 8020に東ソー株式会社製カラムGMHHR−Lを2本、TSK G5000HRを1本接続し、カラム温度40℃で測定した(いずれも商品名)。溶離液はクロロホルムを1.0ml/minの流速で流し、UV検出器で測定した。
(4)溶融粘度
測定装置としてキャピログラフ装置((株)東洋精機製作所製、商品名:Capirograph 1C)を用い、温度:240℃、予熱時間:1min、ノズル径:1mm、ノズル長:10mm、剪断速度:100(1/sec)で測定を行った。
(5)屈折率
測定装置として多波長アッベ屈折計((株)アタゴ製、商品名:DR−M2)を用い、JIS K 7142に準拠し23℃において測定波長589nmの条件にて測定を行った。
【0042】
【表1】
【0043】
実施例1
、2、4、6、参考例1、2
〔ポリエステル樹脂組成物の製造〕
ポリエステル樹脂(A−1)又は(A−2)に、表2及び3に記載された種類及び配合量のコアシェル型ゴムをドライブレンドしたのち押出機で溶融混練して、表2及び3に記載のポリエステル樹脂組成物を製造した。
【0044】
〔単層シートの製造方法〕
ポリエステル樹脂組成物を、ベント付65mm二軸押出機を用いてベント脱揮を行いながら押出しTダイ押出法で単層シート(厚み0.35mm)を製造した。単層シートの評価結果を表2に示す。
【0045】
〔多層シートの製造方法〕
コア層原料を、ベント付65mm二軸押出機を用いてベント脱揮を行いながら押出し、一方、ゴム状重合体をスキン層原料へブレンドし、ベント付30mm二軸押出機を用いてベント脱揮を行いながら押出し、マルチマニホールドタイプのダイを用いて2種3層の多層シート(多層シート総厚み:約0.35mm、スキン層厚み:約0.04mm)を製造した。多層シートの評価結果を表3に示す。
【0046】
比較例1〜6
表4〜6に記載された種類及び配合量のポリエステル樹脂に、表4〜6に記載された種類及び配合量のゴム状重合体をドライブレンドしたのち押出機で溶融混練して、表4〜6に記載のポリエステル樹脂又はポリエステル樹脂組成物を製造した。得られたポリエステル樹脂又はポリエステル樹脂組成物を用いて上記と同様にして単層及び多層シートを製造した。単層及び多層シートの評価結果を表4〜6に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
【表6】
【0052】
ゴム状重合体を全く含まない比較例1の単層シートは、耐衝撃性に劣り、特に低温での耐衝撃性に劣る。ポリエステル樹脂との屈折率の絶対値差が0.02を超える比較例2の単層シートは、全光線透過率が低くかつ曇価が高く、透明性に劣る。コアシェル型ゴムではないゴム状重合体を含む比較例3及び5の単層シートは、全光線透過率が低くかつ曇価が高く、透明性に劣る。環状アセタール骨格を有するジオール単位を全く含まないポリエステル樹脂からなり、ゴム状重合体を全く含まない比較例4の単層シートは、耐熱性に劣り、しかも耐衝撃性、特に低温での耐衝撃性に劣る。また、ゴム状重合体を全く含まない比較例6の多層シートは、耐衝撃性に劣り、特に低温での耐衝撃性に劣る。
これに対し、本発明のポリエステル樹脂組成物からなる実施例1〜3のシート及び本発明のポリエステル樹脂組成物からなる層を有する実施例4〜6の多層シートは、いずれも優れた透明性、耐熱性及び耐衝撃性を両立できる。実施例1〜6では、全光線透過率が90.5〜91.7%と高く、ヘイズが1.1〜4.8%と低く、ゴムを含有していない比較例1と比較して透明性は損なわれていない。また、耐熱温度は95〜145℃であり、比較例1と比較して耐熱性は損なわれていない。その一方で、実施例1〜6におけるフィルムインパクト値は比較例1と比較して大きく、実施例1〜6では、透明性及び耐熱性を損なうことなく耐衝撃性が改善されていることがわかる。