(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施の形態としての溶融はんだ薄膜被覆装置、薄膜はんだ被覆部材及びその製造方法について説明する。
図1に示す薄膜はんだ被覆部材製造システム#1は、薄膜はんだ被覆部材10を製造するシステムであり、洗浄槽11、乾燥部12、第1搬送部13及び溶融はんだ薄膜被覆装置100を備えている。以下で、母材の一例となる条部材31を投入する側(部材供給側)を上流側としたとき、条部材31が流れて行く(進行する)方向を下流側という。
【0028】
条部材31は図示しない部材供給部を構成する、例えば、巻付用のリール等にロール状に巻かれている。条部材31は所定の幅を有し、かつ、長尺状を有した銅部材、洋白や、コバール部材等から構成される。本例においては、母材として長尺のコバール部材を用いた。
【0029】
図1において、洗浄槽11は部材供給部の下流側に設けられ、洗浄槽11には洗浄用の液体11aが収容されている。洗浄用の液体11aにはイソ
プロピルアルコール(IPA)等が使用される。洗浄槽11の下流側には乾燥部12が設けられる。乾燥部12にはブロアーが使用される。乾燥部12の下流側には第1搬送部13が設けられる。第1搬送部13には制動用のローラー部材が使用される。制動用のローラー部材は、例えば、通常の従動ローラーに比べて上・下ローラーのニップ部位の圧着力が高めに設定されている。
【0030】
後述する第2搬送部23に設けられた駆動式のローラー部材で条部材31を搬送するとともに、この第1搬送部13の制動用のローラー部材で、条部材31に所定のテンションを付与し、所定の速度で条部材が搬送されるようになされている。この目的のために第1搬送部13の制動用のローラー部材に駆動用のモーターを設けても良いし、駆動用のモーターは設けずに第2搬送部23に設けられた駆動式のローラー部材に対して従動するようにしても良い。本例の場合には、第1搬送部13の制動用のローラー部材は、従動するものとして説明する。
【0031】
<溶融はんだ薄膜被覆装置100の構成例>
図1に示した第1搬送部13の下流側には溶融はんだ薄膜被覆装置100が配置されている。溶融はんだ薄膜被覆装置100は、洗浄後の条部材31を取り込み、所定の温度に加熱された多元系の溶融はんだ7(溶融はんだ)で条部材31を被覆し、その膜厚を制御した後に、当該条部材31を冷却した薄膜はんだ被覆部材10を排出するものである。
【0032】
溶融はんだ薄膜被覆装置100は箱体を成す本体部101を有しており、本体部101はその天板部位の所定の位置に開口部104を有している。この開口部104を境にして左側と右側とに搬送路が分かれている。当該本体部101の内部の左側面(上流側)には搬入口102が設けられ、その右
側面(下流側)には搬出口103を備えている。
【0033】
開口部104を境にした本体部101の内・外部にかけて、部品取付用の縦長部材14が設けられている。縦長部材14には従動式の搬送ローラー46及びガイド用の2つの突起部42,43や、図示しないスライド部材等を有している。搬送ローラー46は縦長部材14の斜め右上方に取り付けられる。
【0034】
縦長部材14の左側の本体部101の背面側には2個の従動式の搬送ローラー44,45が取り付けられ、その右側の背面側にも、2個の従動式の搬送ローラー47,48が取り付けられている。本体部101の内部には、予備加熱部15、チャンバー16、はんだ槽17、吹付部19、冷却部20及び制御部50が設けられている。
【0035】
予備加熱部15は搬入口102の下流側であって、2個の搬送ローラー44,45の間に設けられている。予備加熱部15にはエアーヒーターが使用される。搬送ローラー45の下流側にはチャンバー16及びはんだ槽17が配置されている。
【0036】
はんだ槽17には溶融はんだの一例を構成する多元系はんだ組成の溶融はんだ7が収容されている。溶融はんだ7には、例えば、鉛(Pb)、銀(Ag)、ビスマス(Bi)、インジウム(In)、錫(Sn)から成る五元系はんだ組成(Pb−0.5Ag−3Bi−2In−4Sn:はんだ#6064(千住金属工業社製))が使用される。溶融はんだ7の溶融温度は295℃程度である。
【0037】
はんだ槽17の上部を覆うようにチャンバー16が取り付けられ、チャンバー16内には窒素(N2)ガス等の不活性ガスが充満されている。この例で、チャンバー16の上部には蓋部60が設けられており、蓋部60には2つの開口部61,62が設けられ、条部材31に対して、開口部61ははんだ槽17への入口部、開口部62ははんだ槽17からの出口部を構成する。
【0038】
はんだ槽17内には従動式の搬送ローラー41が設けられる。搬送ローラー41は本体部101の前後で軸受け部材65に軸支されている。軸受け部材65は蓋部60に一体的に取り付けられており、さらに上下方向にスライド自在に縦長部材14に支持されている。すなわち、縦長部材14、蓋部60及び軸受け部材65は、一体的に上下方向にスライド可能となっている。
【0039】
搬送ローラー41には、はんだ食われを防止するために、カーボン(炭素)ローラーが使用される。上述の条部材31は開口部61から搬送ローラー41でUターンし、開口部62に至る。なお、チャンバー16の内側面に図示しない超音波ホーンを取り付けても良い。超音波ホーンを用いると母材のはんだ付け部に付着している酸化膜や汚れを強力な振動で剥がし取り、はんだを金属的に付着させることができる。
【0040】
チャンバー16の上部には吹付部19が取り付けられている。吹付部19には熱ガスを出射する広角平口のエアーナイフ又はガスノズル91,92(
図2参照)が使用される。熱ガスには、窒素等の不活性ガスが使用される。
【0041】
吹付部19の上部側には冷却部20が設けられている。この例で、冷却部20は第1ファン21及び第2ファン22を有している。第1ファン21は、縦長部材14の下方付近に設けられる。第2ファン22は本体部101の上部側に露出した縦長部材14の上方部位に取り付けられる。第1ファン21及び第2ファン22には冷却用のプロペラ式や、シロッコ式等の送風機が使用される。
【0042】
この例で、搬送ローラー47と搬送ローラー48との間であって、本体部101の内部の天板部位から懸垂する形態で第2搬送部23が設けられる。第2搬送部23には駆動式のローラー部材が使用される。ローラー部材には図示しないモーターが係合される。
【0043】
条部材31の経路は開口部104から搬送ローラー46でUターンし、開口部104を再度通過して搬送ローラー47に至る。上述の5個の搬送ローラー44,45,46,47,48には金属ローラーや、耐熱性のゴムローラー、樹脂ローラー等の従動式のローラー部材が使用される。
【0044】
上述の本体部101の所定の位置には制御部50が設けられる。制御部50には予備加熱部15や、はんだ槽17、吹付部19、第1ファン21、第2ファン22、第2搬送部23等が接続される。装置外部の乾燥部12の制御及び第1搬送部13が駆動用のモーターを備え、このモーターの制御をする必要がある場合、制御部50には、当該乾燥部12及び第1搬送部13を駆動するモーター等が接続される。本例の場合は、第1搬送部13は従動ローラーの場合であり、以下、制御部50が乾燥部12を含めてこれらを一括制御する場合について説明する。
【0045】
ここで、
図2及び
図3を参照して、吹付部19におけるガスノズル91,92の配置例及びそれらの機能例について説明する。
図2に示す吹付部19には1組のガスノズル91,92が設けられる。各々のガスノズル91,92は広角平口を有しており、膜厚制御時、熱ガスブローによりはんだ槽17で被膜した条部材31から余剰の被膜した溶融はんだ7を削ぎ落すようになされる(
図3参照)。ガスノズル91,92には、例えば、ステンレス製のフラットノズル(シルベント社製のSilvent971)が使用される。
【0046】
ガスノズル91は、ノズル本体部901及び導管93を有している。ノズル本体部901の一端は広角平口部903となされている。広角平口部903の開口幅は、本例の場合、条部材31の幅にほぼ等しい長さに設定されている。ノズル本体部901の他端には導管93が接続され、当該導管93にはN2ガスが導かれる。導管93には
図4に示すヒーター95が取り付けられ、N2ガスの温度は、溶融はんだ7の溶融温度以上に設定される。本例の場合、はんだの溶融温度は295度であるから、温度300℃程度に加熱するようになされる。導管93には、
図4に示す流量調整バルブ97を介してN2ボンベ99等が接続される。
【0047】
ガスノズル92は、ノズル本体部902及び導管94を有している。ノズル本体部902の一端はガスノズル91と同様にして広角平口部904となされている。広角平口部904の開口幅は、本例の場合、条部材31の幅にほぼ等しい長さに設定されている。ノズル本体部902の他端には導管94が接続され、当該導管94には同様にしてN2ガスが導かれる。導管94には同様にしてヒーター96が取り付けられ、N2ガスを温度300℃程度に加熱する。導管94は、流量調整バルブ98を介してN2ボンベ99に接続される。上述のように広角平口部903,904の開口幅は、本例の場合、条部材31の幅にほぼ等しい長さに設定したが、必要に応じて、開口幅は設定できるものである。
【0048】
ガスノズル91,92の広角平口部903,904の吹き出し温度(先端温度)は、溶融はんだの溶融温度以上に設定される。上述の例で、300℃程度に維持される。本例の場合、ガスノズル91は、その広角平口部903が条部材31の搬送面に平行となるように配置され、ガスノズル92も、その広角平口部904が条部材31の搬送面に平行となるように配置される。この平行配置は熱ガスを条部材31の搬送面に均等に吹き付けるためである。
【0049】
図3において、白抜き矢印は所定の搬送速度で移動する条部材31の搬送方向である。
図3に示す吹付部19によれば、ガスノズル91が条部材31の左側に配置され、水平線Lhに対して角度+
θ(時計回りプラス基準)だけ傾けた状態で、図示しない固定部材に取り付けられる。ガスノズル92は条部材31の右側に配置され、反対に水平線Lhに対して角度−θ(同基準)だけ傾けた状態で、図示しない固定部材に取り付けられる。
【0050】
ガスノズル91は、図示しない流量調整バルブ97,98によって調整された熱ガスを条部材31の左側面に向けて吹き出すようになされる。ガスノズル92は流量調整バルブ97,98によって調整された熱ガスを条部材31の右側面に向けて吹き出すようになされる。これにより、所定の搬送速度で搬送される条部材31の左・右側の両面から熱ガスブロー(条部材31の両面ブロー)により、はんだ槽17から引き上げ直後の余分な溶融はんだ7を削ぎ落とすことができる。従って、片面2μm〜5μmレベルから更に薄膜化に向けた、薄膜はんだ溶融メッキ制御を実現できるようになる。
【0051】
なお、上述のように広角平口部903,904の開口幅は、本例の場合、条部材31の幅にほぼ等しい長さに設定したが、必要に応じて、設定できるものである。また、ガスノズル91,92の配置は、本例では条部材31の搬送面に平行となるように配置したが、条部材31に対して所定の角度を持って配置しても良いし、また、条部材31に対する熱ガスの吹き付け角度(θ)は必要に応じて可変させても良い。
【0052】
続いて、
図4及び
図5を参照して、溶融はんだ薄膜被覆装置100の制御系の構成例について説明する。
図4に示す溶融はんだ薄膜被覆装置100によれば、制御部50には、予備加熱部15や、はんだ槽17、吹付部19、第1ファン21、第2ファン22、第2搬送部23等の他に、乾燥部12、操作部24及びモニタ28が接続されている。
【0053】
制御部50は、システム全体を制御するために、例えば、ROM51(Read Only Memory)、RAM52(Random Access Memory)、中央演算装置(Central Processing Unit:以下CPU53という)及びメモリ部54を有している。ROM51には、例えば、薄膜はんだ被覆部材製造システム#1の全体を制御するためのシステムプログラムDpが格納されている。
【0054】
制御部50は、操作部24の起動操作により、ROM51に記憶されているシステムプログラムDpを読み出してRAM52に展開し、ここに展開されたシステムプログラムDpに従って、薄膜はんだ被覆部材製造システム#1を起動する。制御部50にはイン
フリッ
ヂ工業製のDFC−100L型のコントローラが使用される。
【0055】
操作部24は図示しないテンキーやタッチパネル等のキー入力部を有している。操作部24は、薄膜はんだ被覆部材10の膜厚制御時、多元系はんだ組成に対応した膜厚制御条件等を設定する際に操作される。薄膜はんだ被覆部材10の膜厚制御条件には、溶融はんだ7の溶融温度、熱ガスの流量や温度等が含まれる。
【0056】
例えば、五元系はんだ組成の#6064はんだに対応した条部材31の予熱温度、溶融はんだ7の溶融温度、N2ガスの流量値及び熱ガスの温度値等を設定する操作がなされる。操作部24で操作設定された膜厚制御条件は操作データD24として制御部50に出力される。この例で、操作部24で設定された多元系はんだの組成に対応した膜厚制御条件を示す操作データD24がCPU53を介してRAM52等に記憶される。
【0057】
モニタ28は液晶表示装置(LCD)から構成され、表示データD28に基づいて多元系はんだの組成に対応し膜厚制御条件等をモニタ28に表示する。表示データD28は、膜厚制御時、多元系はんだ組成に対応したN2ガスの流量値や、熱ガスの温度値を表示するためのデータであり、制御部50からモニタ28へ出力される。上述のメモリ部54には薄膜はんだ被覆部材10の膜厚制御に必要な多元系はんだ組成の溶融はんだ7に対応した制御データD54が格納されている。
図5に示す表図によれば、メモリ部54には条部材31への溶融はんだ7の目標の膜厚Δt[μm]、吹付部19における熱ガス、例えば、N2ガスの流量Q[NL/min]、熱ガスの温度T[℃]等の記述欄が設けられている。
【0058】
目標の膜厚Δt=1.5〜2.0[μm]に対してN2ガスの流量値Q1及び熱ガスの温度値T1が記述される。目標の膜厚Δt=1.0〜1.5[μm]に対してN2ガスの流量値Q2及び熱ガスの温度値T2が記述される。目標の膜厚Δt=0.5〜1.0[μm]に対してN2ガスの流量値Q3及び熱ガスの温度値T3が記述される。目標の膜厚Δt=0.0〜0.5[μm]に対してN2ガスの流量値Q4及び熱ガスの温度値T4が記述される。メモリ部54に記述される流量値Q1や、熱ガスの温度値T1等は、実験で確かめた経験値が記述される。
【0059】
例えば、条部材31が銅部材でその搬送速度が3m/minで、多元系はんだ組成の溶融はんだ7に、五元系はんだ組成(Pb−0.5Ag−3Bi−2In−4Sn)のはんだ#6064を使用した場合、その溶融温度が295℃で、目標の膜厚Δt=1.5〜2.0[μm]に対してN2ガスの流量値Q1=60NL/min及び、熱ガスの温度値T1=300℃が記述される。
【0060】
この例では、目標の膜厚Δt[μm]に対応するN2ガスの流量Q[NL/min]や、熱ガスの温度T[℃]等は、制御データD54としてメモリ部54から読み出し可能となっている。溶融はんだ7の目標の膜厚Δt[μm]は操作部24を介して制御部50に設定される。制御部50は、溶融はんだ7の組成に対応した熱ガスの温度T及びN2の流量Qを吹付部19に設定し、条部材31から溶融はんだ7を削ぎ落とすことにより、当該条部材31への溶融はんだ7の膜厚を制御するようになされる。
【0061】
制御部50の内部のメモリ容量が不足する場合は、外部記憶装置を接続して目標の膜厚Δtに対応するN2ガスの流量値及び熱ガスの温度値等を測定し、測定途中のデータを記憶するようにしてもよい。外部記憶装置には(株)キーエンス製のGR−3500型のデータロガーが使用される。
【0062】
制御部50は、操作データD24に基づくフィードフォワード制御により膜厚制御を実行する。例えば、条部材31への溶融はんだ7の目標の膜厚Δt[μm]をアドレスにして、溶融はんだ7の組成に対応した熱ガスの温度T及び流量Qを示す制御データD54をメモリ部54から読み出す。制御部50は、例えば、溶融はんだ7として五元系の溶融はんだ7(#6064はんだ)の材料名をヘッダ情報として記述し、制御データD54をヘッダ情報に付加したデータストリーム形式の吹付制御データD19を熱ガス調整部90に設定する。
【0063】
例えば非接触型の測定機器を利用して、リアルタイムに条部材31への溶融はんだ7の被覆量(膜厚量)を検知できるのであれば、条部材31への溶融はんだ7の被覆量検知に基づくフィードバック制御により膜厚制御を実行してもよい。フィードバック制御によれば、条部材31への溶融はんだ7の膜厚が多い場合は、熱ガスの温度T及びN2の流量Qをいずれも高く設定して条部材31から削ぎ落とす溶融はんだ7を多くする。反対に、条部材31への溶融はんだ7の膜厚が少ない場合は、熱ガスの温度T及びN2の流量Qをいずれも低く設定して条部材31から削ぎ落とす溶融はんだ7を少なくする。
【0064】
上述の制御部50は表示データD28に基づいてモニタ28を表示制御したり、操作部24から操作データD24を入力して、乾燥部12や予備加熱部15、はんだ槽17、第1ファン21、第2ファン22、第2搬送部23、熱ガス調整部90等の入出力を制御する。
【0065】
乾燥部12は、制御部50からブロアー制御信号S12を入力し、ブロアー制御信号S12に基づいて洗浄後の条部材31にエアーを吹き付けて乾燥する。ブロアー制御信号S12は乾燥部12に装備された、図示しないブロアーを駆動する信号であり、制御部50から乾燥部12へ出力される。
【0066】
第2搬送部23は、条部材搬送時、制御部50からローラー駆動信号S23を入力し、ローラー駆動信号S23に基づいて従動する第1搬送部13との協働により条部材31に所定のテンションを維持しながら、当該条部材31を溶融はんだ薄膜被覆装置100に送出する。ローラー駆動信号S23は第2搬送部23に装備された、図示しない駆動ローラーを回転するためのモーターを駆動する信号であり、制御部50から第2搬送部23へ出力される。
【0067】
予備加熱部15は、制御部50からヒーター駆動信号S15を入力し、ヒーター駆動信号S15に基づいて洗浄後の条部材31に熱風を吹き付けて加熱する。ヒーター駆動信号S15は予備加熱部15に装備された図示しないエアーヒーターを駆動する信号であり、制御部50から
予備加熱部15へ出力される。
【0068】
はんだ槽17は、制御部50からはんだ槽制御信号S17を入力し、はんだ槽制御信号S17に基づいて多元系組成のはんだ(#6064等)を加熱し、溶融温度273〜295℃程度の溶融はんだ7とする。はんだ槽制御信号S17ははんだ槽17に装備された、図示しないヒーターを駆動する信号であり、制御部50からはんだ槽17へ出力される。
【0069】
吹付部19は、ガスノズル91,92の他に熱ガス調整部90、ヒーター95,96、流量調整バルブ97,98及びN2ボンベ99を有している。流量調整バルブ97,98にはN2ボンベ99が接続され、N2ガスをガスノズル91,92に供給する。この例では、溶融はんだの溶融温度がガスノズル91,92の先端の温度を
溶融はんだの溶融温度が273〜295℃
であるときには300℃とするために、ガスノズル91,92のノズル本体の温度、及び、ヒーター95,96の発熱温度が決定される。
【0070】
熱ガス調整部90は、膜厚制御時、制御部50から吹付制御データD19を入力し、はんだ槽17から引き上げられた直後の条部材31に吹付制御データD19に基づいて熱ガスを吹き付けるようになされる。吹付制御データD19には、流量調整バルブ97,98を回転するための図示しないモーターを駆動するデータや、N2ガスを加熱するためのヒーター95,96を駆動するデータ等が含まれる。吹付制御データD19は制御部50から熱ガス調整部90へ出力される。熱ガス調整部90は、吹付制御データD19をデコードしてヒーター駆動信号S95,S96及びバルブ調整信号S97,S98を発生する。
【0071】
ヒーター95は熱ガス調整部90からヒーター駆動信号S95を入力し、ヒーター駆動信号S95に基づく目標温度(300℃)となるように導管93(
図2,3参照)を介してN2ガスを加熱する。ヒーター96は熱ガス調整部90からヒーター駆動信号S96を入力し、ヒーター駆動信号S96に基づく目標温度となるように導管94(
図2,3参照)を介してN2ガスを加熱する。
【0072】
流量調整バルブ97は熱ガス調整部90からバルブ調整信号S97を入力し、バルブ調整信号S97に基づく目標の流量値となるようにN2ガスの流量Qを調整する。流量調整バルブ98は熱ガス調整部90からバルブ調整信号S98を入力し、バルブ調整信号S98に基づく目標の流量値となるようにN2ガスの流量Qを調整する。
【0073】
第1ファン21は、条部材搬送時、制御部50からファン制御信号S21を入力し、ファン制御信号S21に基づいて膜厚調整後の条部材31の一方の側に、本体部101の内部(内部温度)のエアーを送風して当該条部材31を冷却する。ファン制御信号S21は第1ファン21に装備された図示しないモーターを駆動する信号であり、制御部50から第1ファン21へ出力される。
【0074】
第2ファン22は、条部材搬送時、制御部50からファン制御信号S22を入力し、ファン制御信号S22に基づいて膜厚調整後の条部材31の他方の側に、本体部101の上部(室温)のエアーを送風して当該条部材31を冷却する。ファン制御信号S22は第2ファン22に装備された図示しないモーターを駆動する信号であり、制御部50から第2ファン22へ出力される。これらにより、溶融はんだ薄膜被覆装置100の制御系を構成する。
【0075】
<薄膜はんだ被覆部材10の構成例>
続いて、
図6を参照して、薄膜はんだ被覆部材10の構成例について説明する。
図6に示す薄膜はんだ被覆部材10は、所定の厚みtの条部材31と、その条部材31の表裏を被覆する膜厚Δtのはんだ層7’とを備えている。
【0076】
はんだ層7’は薄膜はんだ被覆部材製造システム#1において、溶融はんだ7の膜厚が制御されて成るものであって、所定の温度(295℃)に加熱された溶融はんだ7が収容され、当該溶融はんだ7を収容したはんだ槽17内に条部材31が浸漬され、はんだ槽17内に浸漬された条部材31を、はんだ槽17から引き上げられ、引き上げ直後の条部材31に、溶融はんだ7の組成に対応した溶融温度以上の温度T℃及び所定の流量QNL/minの熱ガスを吹き付けられて当該条部材31から溶融はんだ7を削ぎ落とされることにより条部材31の表裏に残留したものである。
【0077】
<薄膜はんだ被覆部材10の製造方法>
続いて、
図7〜
図9を参照して、
図6に示した薄膜はんだ被覆部材10の形成例(その1〜5)について説明する。この例では、
図1〜
図5に示した薄膜はんだ被覆部材製造システム#1を利用して273〜295℃程度の温度に加熱された、五元系はんだ組成の溶融はんだ7(#6064はんだ)で条部材31を被覆し、その後、膜厚制御した後、当該条部材31を冷却することにより、薄膜はんだ被覆部材10を製造する場合を前提とする。
【0078】
まず、
図7の(A)において、薄膜はんだ被覆部材10の母材となる条部材31を準備する。条部材31には、長尺状のコバール(KOV−H:Fe−Ni−Co)部材をロール状に巻いたものを準備する。コバール部材は、金属の中で熱膨張率が常温付近で低く、硬質ガラスに近いので、硬質ガラスの封着や、ICリードフレームに適用して好適である。
【0079】
条部材31が準備できたら、薄膜はんだ被覆部材製造システム#1に条部材31をセットする。この例では、最初に手作業で、図示しない部材供給部から条部材31を繰り出して洗浄槽11に導き、
図7の(B)において条部材31を洗浄可能な状態にセットする。その後、条部材31の先端部を乾燥部12及び、第1搬送部13を経由して、溶融はんだ薄膜被覆装置100の内部へ導く。
【0080】
この例では、溶融はんだ薄膜被覆装置100内において、はんだ槽17からガスノズル91,92へ向けて条部材31を垂直(鉛直)方向に取り出すために、更に、手作業で、搬入口102から本体部101の内部に導いた条部材31を搬送ローラー44、予備加熱部15、搬送ローラー45、突起部42、はんだ槽17内の搬送ローラー41、縦長部材14の突起部43、搬送ローラー46、本体部101の内部の搬送ローラー47、第2搬送部23及び搬送ローラー48に至り搬出口103から排出するようにセットする。
【0081】
このとき、搬送ローラー41の軸受け部材65を縦長部材14に収納する形態(スライド部材に沿って)で、チャンバー16上部の蓋部60と共に引き上げ、はんだ槽17内から搬送ローラー41を上部へ露出する。そして、条部材31の先端部(往路)を蓋部60の開口部61に通し、その後、当該条部材31の先端部を搬送ローラー41に巻き付ける。そして、条部材31の先端部(復路)を開口部62に通す。
【0082】
その後、縦長部材14から軸受け部材65をスライドさせて降下させ、はんだ槽17の内部に搬送ローラー41に巻き付けた状態の条部材31を埋没させる。これにより、搬送ローラー41に巻き付けられた条部材31を垂直(鉛直)方向に取り出せるようになる。なお、薄膜はんだ被覆部材製造システム#1における自動化の前処理が完了するが、最初の数mは、はんだ層の無い条部材31がそのまま排出される。
【0083】
作業者は、操作部24を操作して自動運転を行うためのデータを設定する。例えば、熱ガス調整部90には、制御部50から吹付制御データD19が設定される。吹付制御データD19は五元系はんだ組成の溶融はんだ7(#6064はんだ)に対応した熱ガスの温度値T1=300℃、及び、流量値Q1=60NL/minを吹付部19に設定するためのデータである。
【0084】
第2搬送部23には搬送速度=3m/minで条部材31を搬送するためのローラー駆動信号S23が設定される。はんだ槽17には溶融温度=295℃ではんだを溶融するためのはんだ槽制御信号S17が設定される。
【0085】
そして、操作部24を操作して薄膜はんだ被覆部材製造システム#1を起動すると、
図7の(B)に示した洗浄槽11では洗浄用の液体11aによって条部材31の表裏や側面が洗浄される。その後、
図7の(C)において、洗浄後の条部材31を乾燥する。このとき、乾燥部12はブロアー制御信号S12を入力し、ブロアー制御信号S12に基づいて工場内のエアーを取り込み、洗浄後の条部材31の表裏や側面等に残留した洗浄用の液体を吹き飛ばして排気する。
【0086】
第1搬送部13ではローラー制動信号S13を入力し乾燥後の条部材31を溶融はんだ薄膜被覆装置100内へ搬入する際に、ローラー制動信号S13に基づいてテンション(張力)を掛けるためにその搬送負荷を重くする。また、第2搬送部23では第1搬送部13によってテンションが掛けられた状態の条部材31を引っ張るように、設定された搬送速度で移動(搬送)する。第2搬送部23はローラー駆動信号S23に基づいて搬送速度=3[m/min]程度で条部材31を搬送する。
【0087】
次に、
図8の(A)において、乾燥後の条部材31を予備加熱する。このとき、予備加熱部15はヒーター駆動信号S15を入力し、本体部101の内部に搬入された条部材31にヒーター駆動信号S15に基づく熱(温)風を加えて、残存アルコール成分を除去すると共に、条部材31自体の温度を高める(予備加熱する)。
【0088】
更に、
図8の(B)において、溶融はんだ7が収容されたはんだ槽17に予備加熱後の条部材31を浸漬する。もちろん、チャンバー16内にはN2ガスが充満され、チャンバー16内がN2ガス雰囲気になされる。はんだ槽17は、はんだ槽制御信号S17を入力し、はんだ槽制御信号S17に基づいてはんだ槽17の溶融はんだ7の溶融温度を295℃に保持する。はんだ槽17の内部の搬送ローラー41では条部材31の搬送方向が下方向から上方向へ反時計回りにUターンされる。
【0089】
また、はんだ槽17上のチャンバー16内のN2ガス雰囲気において、第2搬送部23がローラー駆動信号S23に基づいて連続して駆動されていることで、はんだ槽17から条部材31が引き上げられる。その際に、第1搬送部13と第2搬送部23との間において、第1搬送部13が条部材31の搬送方向に対して制動を加え、第2搬送部23が条部材31を引っ張ることで、条部材31にテンションが加わった状態となされる。
【0090】
次に、
図9において、引き上げ直後の条部材31に、溶融はんだ7の組成に対応した溶融温度以上の温度T及び所定の流量Qの熱ガスを吹き付けて条部材31から溶融はんだ7を削ぎ落として、薄膜はんだ被覆部材10への溶融はんだ7の膜厚を制御する。この膜厚制御によれば、制御部50が熱ガス調整部90に吹付制御データD19を出力して、溶融はんだ7の組成に対応した熱ガスの温度値T1=300℃、及び、流量値Q1=60NL/minに設定し、条部材31から溶融はんだ7を削ぎ落とすようにガスノズル91,92を制御する。
【0091】
ガスノズル91,92では、はんだ槽17から引き上げられた直後の条部材31に、五元系の溶融はんだ7(#6064はんだ)の組成に対応した溶融温度以上の温度値T1=300℃、及び、所定の流量値Q1=60NL/minの熱ガスを吹き付ける。これにより、当該条部材31への溶融はんだ7の膜厚が制御され、膜厚数μmのはんだ層7’で条部材31が被覆される。この膜厚数μmのはんだ層7’で被覆された条部材31は薄膜はんだ被覆部材10となる。
【0092】
次に、薄膜はんだ被覆部材10(条部材31)の一方の側(片面)を冷却する。このとき、第1ファン21は、はんだ層7’が被覆された条部材31に、ファン制御信号S21に基づいて本体部101内のエアーを吹き付けて冷却する。そして、片面冷却後の薄膜はんだ被覆部材10の他方の側(両面)を冷却する。このとき、薄膜はんだ被覆部材10は一旦、本体部101の上部に導かれ、第2ファン22は、片面冷却後の薄膜はんだ被覆部材10に、ファン制御信号S21に基づいて本体部101の上部のエアーを吹き付けて冷却する。
【0093】
このとき、搬送ローラー46は、薄膜はんだ被覆部材10の搬送方向を上方向から下方向へ時計回りにUターンする。このUターン搬送によって、両面冷却後の薄膜はんだ被覆部材10が、再び、本体部101の内部に取り込まれる。本体部101の内部では、薄膜はんだ被覆部材10が搬送ローラー47、第2搬送部23及び搬送ローラー48に至り、搬出口103から排出される。排出された薄膜はんだ被覆部材10は、例えば、空のリール等に巻き付けられる。これにより、
図6に示した長尺状の薄膜はんだ被覆部材10を得ることができる。
【0094】
続いて、
図10及び
図11を参照して、熱ガスブロー有無における薄膜はんだ被覆部材10,30の表面やその断面等の画像を比較しながら、五元系はんだ組成のはんだ層7’(#6064はんだ)の被覆状態例について説明をする。まず、
図10の(A)及び(B)を参照しながら、熱ガスブロー有無における薄膜はんだ被覆部材10,30の表面の状態例について説明する。薄膜はんだ被覆部材10,30は、本発明に係る薄膜はんだ被覆部材製造システム#1を使用して得たものである。
【0095】
図10の(A)に示す写真図によれば、熱ガスブロー無しの場合であって、膜厚30μmのはんだ層7’を有した薄膜はんだ被覆部材30の表面画像が得られた。その観察には表面分析機器(SEM)を使用した。薄膜はんだ被覆部材30の表面画像は、倍率50倍(以下で×50と記述する)、100倍(×100)、500倍(×500)に拡大した3種類である。
【0096】
図10の(B)に示す写真図によれば、熱ガスブロー有りの場合であって、上述の表面分析機器を使用して、膜厚2μm以下のはんだ層7’を有した薄膜はんだ被覆部材10を観察し、その表面画像を得た。薄膜はんだ被覆部材10の表面画像も、倍率50倍(×50)、100倍(×100)、500倍(×500)に拡大した3種類である。
【0097】
ここで熱ガスブロー無し(30μm厚)の薄膜はんだ被覆部材30と、熱ガスブロー有り(2μm以下厚)の薄膜はんだ被覆部材10とを比較すると、倍率50倍及び100倍の表面画像では、相違点が見られないが、倍率500倍の表面画像から明確なように、熱ガスブロー有りの薄膜はんだ被覆部材10の表面状態は、凹凸が少なくなり平滑になっていることが確認できた。
【0098】
次に、
図11の(A)及び(B)を参照して、熱ガスブロー有無における薄膜はんだ被覆部材10
,30の断面の状態例について説明する。
図11の(A)に示す写真図によれば、熱ガスブロー無しの場合の薄膜はんだ被覆部材30の断面画像が得られた。その観察には上述の表面分析機器の断面撮像機能を利用した。薄膜はんだ被覆部材30の断面画像は、倍率900倍(×900)、3000倍(×3000)に拡大した2種類である。倍率900倍の断面画像から膜厚30μmのはんだ層7’が確認できる。
【0099】
図11の(B)に示す写真図によれば、上述の表面分析機器を使用して熱ガスブロー有りの場合の薄膜はんだ被覆部材10を観察し、その断面画像を得た。薄膜はんだ被覆部材10の断面画像も、倍率900倍(×900)、3000倍(×3000)に拡大した2種類である。倍率900倍の断面画像から膜厚2μm以下のはんだ層7’を確認できた。
【0100】
ここで熱ガスブロー無し(30μm厚)の薄膜はんだ被覆部材30と、熱ガスブロー有り(2μm以下厚)の薄膜はんだ被覆部材10とを比較すると、倍率900倍の断面画像において、薄膜はんだ被覆部材30では、10μm単位のスケール表示を基準にして、その約3倍の膜厚30μmのはんだ層7’が確認できる。これに対して、薄膜はんだ被覆部材10によれば、10μm単位のスケール表示の1/5程度、すなわち、2μm以下のはんだ層7’が被着しているのが確認できる。
【0101】
また、倍率3000倍の断面画像では薄膜はんだ被覆部材30のはんだ層7’が視野から外れているが薄膜はんだ被覆部材10によれば、1μm単位のスケール表示からも明らかなように、その2倍程度の2μm以下のはんだ層7’が被着しているのが確認できた。
【0102】
次に、
図12〜
図15を参照して、熱ガスブロー有無における薄膜はんだ被覆部材10,30の元素マッピング(Elemental mapping)画像やその点分析表を比較しながら、五元系はんだ組成のはんだ層7’(#6064はんだ)の元素分析結果を説明する。この元素マッピング画像はX線を用いた元素分析の一方法において、特定のエネルギーのX線の計数率を信号として電子プローブを走査することで各点からのX線放出量の違いを画像化したものである。
【0103】
例えば、試料上に電子ビームを二次元走査しながら各元素毎に固有のX線の強度を測定し、その強度に応じた輝度変調を、走査信号と同期させてモニタ上に表示させることにより、二次元の元素分布像を得る手法である(エネルギー分散型X線分光分析: Energy Dispersive X-ray Spectroscopy;EDS)。
【0104】
図12の(A)に示す電子顕微鏡画像は、熱ガスブロー無しの場合であって、膜厚30μmのはんだ層7’を有した薄膜はんだ被覆部材30の倍率5000倍の断面の画像である。
図12の(B)〜(I)に示す各々の元素マッピング画像は、熱ガスブロー無しの場合であって、薄膜はんだ被覆部材30を構成する、鉄(Fe)の特性X線を示すKa1線の画像、コバルト(Co)の特性X線を示すKa1線の画像、ニッケル(Ni)の特性X線を示すKa1線の画像、錫(Sn)の特性X線を示すLa1線の画像、鉛(Pb)の特性X線を示すMa1線の画像、ビスマス(Bi)の特性X線を示すMa1線の画像、インジウム(In)の特性X線を示すLa1線の画像、及び、銀(Ag)の特性X線を示すLa1線の画像である。
【0105】
ここで、Sn系合金にBiを添加したはんだは、従来から極めて広範囲な融点を持つはんだ合金が作成されることから、熱ガスブロー無しの場合と、熱ガスブロー有りの場合の両者についてBiの濃化について説明する。ここにBiの濃化とは、はんだ層7’が凝縮する際に融液部分にBiが集中して濃くなる現象をいう。Biの濃化の有無は、例えば、濃度10.0を基準にして検証する。Biの濃度が10.0を越える場合は濃化有りとし、Biの濃度が10.0未満である場合は濃化無しと判定する場合を例に採る。
【0106】
図12の(F)に示したPbのMa1線の画像及び、
図12の(G)に示したBiのMa1線の画像によれば、ほぼ同等な元素マッピング画像が得られている(Biの濃度がPbの濃度とあたかも同程度に検出されて見える)。しかし、これはPbとBiのエネルギーのピークが近いためである。そこで、
図13の(A)及び(B)に示す点分析において、Bi濃度の検証を行った。
【0107】
図13の(A)に示す電子顕微鏡画像において、熱ガスブロー無しの場合のはんだ層7’に3点(スペクトル1〜スペクトル3)、そのはんだ層7’と条部材31との境界部分に1点(スペクトル4)、条部材31に2点(スペクトル5、スペクトル6)の合計6点の位置に存在する元素Fe、Co、Ni、Ag、In、Sn、Pb、Biの割合(トータル=100、例えば、百分率%)を分析した。
【0108】
図13の(B)に示す表図によれば、横軸に元素Fe、Co、Ni、Ag、In、Sn、Pb、Biが記述され、縦軸にスペクトル1〜6が記述されている。スペクトル1には、Fe、Co、Ni及びAgの各々=0.00、In=2.90、Sn=85.14、Pb=11.96及び、Bi=0.00が記述され、スペクトル2には、Fe、Co、Ni及びAgの各々=0.00、In=2.83、Sn=2.47、Pb=94.70及びBi=0.00が記述され、スペクトル3には、Fe、Co、Ni及びAgの各々=0.00、In=2.58、Sn=2.64、Pb=93.19及びBi=0.00が記述されている。
【0109】
スペクトル4には、Fe=2.49、Co=0.00、Ni=18.12、Ag=0.00、In=2.06、Sn=30.91、Pb=46.42及び、Bi=0.00が記述されている。スペクトル5には、Fe=3.87、Co=0.00、Ni=96.13、Ag、In、Sn、Pb及びBiの各々=0.00が記述され、スペクトル6には、Fe=52.96、Co=17.16、Ni=29.88、Ag、In、Sn、Pb及びBiの各々=0.00が記述されている。
【0110】
点分析の結果から元素マッピング画像で見られるような、はんだ層7’の中でBi濃化は見られないことがこの表図が示している。本発明のように熱ガスブロー有りの場合でも、はんだ層7’の中でBi濃化は見られないことが確認された。以下で、熱ガスブロー有りの場合における薄膜はんだ被覆部材10の元素マッピング画像やその点分析表を記載する。
【0111】
図14の(A)に示す電子顕微鏡画像は、熱ガスブロー有りの場合であって、膜厚2μm以下のはんだ層7’を有した薄膜はんだ被覆部材10の倍率5000倍の断面の画像である。この画像によれば、熱ガスブロー無しの場合に比べて、下地処理のNi−Snメッキが溶融はんだ7(#6064はんだ)へ拡散していることが確認された。これは、溶融はんだ7が熱ガスブロー処理で高温(300℃)に曝されたことにより、NiやSn等の拡散が進行したと考えられる。
【0112】
図14の(B)〜(I)に示す各々の元素マッピング画像は、熱ガスブロー有りの場合であって、薄膜はんだ被覆部材10を構成する、FeのKa1線の画像、CoのKa1線の画像、NiのKa1線の画像、SnのLa1線の画像、PbのMa1線の画像、BiのMa1線の画像、InのLa1線の画像、及び、AgのLa1線の画像である。
【0113】
ここでも、
図14の(F)に示したPbのMa1線の画像及び、
図14の(G)に示したBiのMa1線の画像によれば、ほぼ同等な元素マッピング画像が得られている。しかし、これもPbとBiのエネルギーのピークが近いためである。そこで、
図15の(A)及び(B)に示す点分析において、Bi濃度の検証を行った。
【0114】
図15の(A)に示す電子顕微鏡画像において、熱ガスブロー有りの場合のはんだ層7’に4点(スペクトル2〜スペクトル5)の位置に存在する元素Ag、In、Sn、Pb、Biの割合(トータル=100、例えば、百分率%)を分析した。
【0115】
図15の(B)に示す表図によれば、横軸に元素Ag、In、Sn、Pb、Biが記述され、縦軸にスペクトル2〜5が記述されている。スペクトル2には、Ag=0.00、In=2.74、Sn=4.24、Pb=93.02及びBi=0.00が記述され、スペクトル3には、Ag=0.00、In=2.64、Sn=3.50、Pb=87.58及びBi=3.90が記述されている。
【0116】
スペクトル4には、Ag=0.00、In=2.40、Sn=3.48、Pb=94.12及び、Bi=0.00が記述され、スペクトル5には、Ag=0.00、In=2.59、Sn=5.14、Pb=92.27、Bi=0.00が記述されている。上述の点分析の結果から、本発明のように熱ガスブロー有りの場合でも、はんだ層7’の中でBi濃化は見られないことが確認された。
【0117】
このように実施形態としての溶融はんだ薄膜被覆装置100によれば、はんだ槽17から引き上げられた条部材31に、例えば、五元系はんだ組成(Pb−0.5Ag−3Bi−2In−4Sn)に対応した温度値T1=300℃及び流量値Q1=60NL/minのN2ガスを吹き付ける吹付部19を備えるものである。
【0118】
この構成によって、五元系はんだ組成に対応した条部材31から余分な溶融はんだ7を削ぎ落とすことができるので、条部材31へ被覆される溶融はんだ7の膜厚を均一かつ2μm厚以下に制御できるようになった。これにより、従来方式に比べて膜厚の極めて薄い薄膜はんだメッキを実現できるようになった。しかも、生産タクトタイムの短縮、及び、生産トータルコストの低減を図ることができた。電気メッキや無電解メッキ等に依存することなく、短時間に母材に数ミクロン単位に薄く溶融はんだメッキを行うことができるようになった。
【0119】
また、実施形態としての薄膜はんだ被覆部材10及びその製造方法によれば、溶融はんだ7が収容されたはんだ槽17から引き上げ直後の条部材31に、溶融はんだ7(#6064はんだ)の組成に対応した溶融温度以上の温度値T1=300℃、及び、所定の流量値Q1=60NL/minのN2ガスを吹き付けて当該条部材31から溶融はんだ7を削ぎ落とすことにより、薄膜はんだ被覆部材10への溶融はんだ7の膜厚を制御するようになされる。
【0120】
この構成によって、従来方式に比べてコート面の安定性及び平坦性に優れた膜厚の薄いはんだ層7’を有した薄膜はんだ被覆部材10を製造できるようになった。これにより、携帯電話機や、ゲーム機等の電子回路のシールドケース用の素材を再現性良く製造できるようになる。
【0121】
なお、溶融はんだ7については、#6064はんだの場合について説明したが、これに限られることはなく、五元系のPb−1Ag−8Bi−1In−4Sn、溶融温度250〜297℃の#6038はんだ(千住金属工業社製)や、二元系のSn−5Sb、溶融温度240〜243℃のM10はんだ(千住金属工業社製)や、三元系のSn−3Ag−0.5Cu、溶融温度217〜220℃のM705はんだ(千住金属工業社製)等においても、本発明を適用できることは言うまでもない。
【0122】
また、ガスノズル91,92の配設位置とチャンバー16の上部位置との間に、ホッパーや、ドレイン等のような構造物を設け、削ぎ落とされた溶融はんだ7の飛沫成分(飛沫物)を当該ホッパー等で回収し、当該構造物から延在するはんだ搬送路で積極的に、当該飛沫物をはんだ槽17に導く(戻す)ようにしてもよい。構造物を十分な温度に維持しておくことで、飛沫物の凝固が抑えられる。
【0123】
更に、N2ガス等による熱風は、溶融はんだ7の削ぎ落とし効果のみならず、エアーカーテンの効果を有している。熱風により削ぎ落とされた飛沫物がエアーカーテン機能によってガスノズル91,92よりも上部へ飛散する事態を防止できるようになる。
【0124】
なお、はんだ槽として、噴流用のノズルを設け、当該ノズルより溶融はんだが噴流する形式のはんだ槽を用いても良い。この場合、はんだ表面に出来るはんだ酸化物、いわゆるドロス発生が抑制される効果がある。なお、溶融はんだ噴流熱風には不活性ガスに代えて通常のエアーを使用してもよい。この場合、飛沫物(酸化物)がはんだ槽17に落下しても、酸化物ははんだ槽17の溶融はんだ7の表面に漂い、溶融はんだ7と混ざることがなく、本体部101に酸化物が付着した場合であっても、ガスノズル91,92で容易に落とすことができる。