特許第5692220号(P5692220)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5692220延伸装置およびそれを用いたポリイミドフィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5692220
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】延伸装置およびそれを用いたポリイミドフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/06 20060101AFI20150312BHJP
   B29C 55/14 20060101ALI20150312BHJP
   B65H 23/025 20060101ALI20150312BHJP
   B29K 79/00 20060101ALN20150312BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20150312BHJP
【FI】
   B29C55/06
   B29C55/14
   B65H23/025
   B29K79:00
   B29L7:00
【請求項の数】12
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-509487(P2012-509487)
(86)(22)【出願日】2011年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2011057863
(87)【国際公開番号】WO2011125662
(87)【国際公開日】20111013
【審査請求日】2014年1月28日
(31)【優先権主張番号】特願2010-81384(P2010-81384)
(32)【優先日】2010年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-81321(P2010-81321)
(32)【優先日】2010年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(74)【代理人】
【識別番号】100129610
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 暁子
(72)【発明者】
【氏名】藤永 猛
(72)【発明者】
【氏名】名越 康浩
(72)【発明者】
【氏名】酒井 敏仁
(72)【発明者】
【氏名】池内 博通
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−67000(JP,A)
【文献】 特開2001−316006(JP,A)
【文献】 特開昭62−268629(JP,A)
【文献】 特開昭63−1665(JP,A)
【文献】 特開2009−203055(JP,A)
【文献】 特開2004−2880(JP,A)
【文献】 特開平4−223135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/00−55/30
B65H 23/00−23/34,27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムを送り出すための送り出し機構と、
前記送り出し機構から送り出されたフィルムを、前記送り出し機構から送り出されるフィルムの速度よりも速い速度で引き取る引き取り機構と、
前記送り出し機構と前記引き取り機構との間でフィルムの幅(TD)方向両端部に配置された2組のフィルム押えユニットと、
を有し、
前記フィルム押えユニットは、
フィルムの搬送経路の上方に、フィルムの搬送(MD)方向に間隔をあけて並列に配置された複数の上押えローラと、
前記複数の上押えローラと協働してフィルムを上下から挟むようにフィルムの搬送経路の下方に上押えローラと対向配置された複数の下押えローラと、
を有し、
前記上押えローラおよび前記下押えローラは、回転軸の方向に対する垂線方向をフィルムのMD方向下流側に向かってフィルムのTD方向外側に傾て回転自在に支持されており、
フィルムのMD方向について前記複数の上押えローラのそれぞれがフィルムを押さえ付ける範囲を考えたとき、フィルムのMD方向に隣接する2つの範囲が互いに接しているかまたは部分的に重なるように、前記上押えローラの長さ、間隔およびフィルムのTD方向に対する回転軸の傾き角度が設定されていることを特徴とする延伸装置。
【請求項2】
前記複数の上押えローラを支持する上プレートと、前記上プレートと対向配置されて前記複数の下押えローラを支持する下プレートとをさらに有する請求項1に記載の延伸装置。
【請求項3】
前記上プレートおよび前記下プレートの少なくとも一方が上下方向に移動可能に支持されている請求項2に記載の延伸装置。
【請求項4】
前記複数の上押えローラおよび前記複数の下押えローラの少なくとも一方が、複数の弾性部材を介して個々に上下に弾性変位可能に支持されている請求項2または3に記載の延伸装置。
【請求項5】
前記送り出し機構と前記引き取り機構との間に、搬送中のフィルムを加熱する加熱炉をさらに有し、前記フィルム押えユニットの少なくとも一部は前記加熱炉の内部に配置されている請求項1から4のいずれか1項に記載の延伸装置。
【請求項6】
前記加熱炉はフィルムのための入口側開口部および出口側開口部を有し、前記入口側開口部および前記出口側開口部を介して、前記複数の上押えローラのうちの一部および前記複数の下押えローラのうちの一部が前記加熱炉の外部に配置されている請求項5に記載の延伸装置。
【請求項7】
前記加熱炉は、熱風により前記フィルムを加熱する請求項5または6に記載の延伸装置。
【請求項8】
前記上押えローラおよび下押えローラは、周面に粗面処理が施されている請求項1から7のいずれか1項に記載の延伸装置。
【請求項9】
前記送り出し機構と前記引き取り機構とは、いずれもローラである請求項1から8のいずれか1項に記載の延伸装置。
【請求項10】
前記送り出し機構および前記引き取り機構の少なくとも一方が吸引ローラである請求項9記載の延伸装置。
【請求項11】
ポリイミド前駆体の溶媒溶液を支持体上にキャストし、自己支持性フィルムとする第1工程と、
前記自己支持性フィルムを搬送しながら加熱処理する第2工程とを有し、
前記第2工程は、延伸装置によって前記自己支持性フィルムをMD方向に延伸することを含むポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記延伸装置は、請求項1から10のいずれか1項に記載の延伸装置であり、フィルムとして前記自己支持性フィルムを延伸することを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項12】
前記第2工程は、前記延伸装置を用いたMD方向に延伸の後に、前記自己支持性フィルムをTD方向に延伸することを含む請求項11に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムの製造工程においてフィルムを搬送方向に延伸するために用いられる延伸装置に関する。また本発明は、延伸装置を使用して延伸する工程を含むポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムの製造方法において、製造途中のフィルムをその搬送方向(MD:machine Direction)に延伸した後、幅方向(TD:Transverse Direction)に延伸する逐次二軸延伸が行なわれている。フィルムを延伸することによって、延伸方向でのフィルムの線膨張係数を小さくすることができる。
【0003】
これらフィルムの一例としてポリイミドフィルムが挙げられる。ポリイミドフィルムは、軽量で、柔軟性、フィルム強度および耐熱性等の諸特性において優れていることから、種々の分野、特に電子・電気分野において、例えばフレキシブル配線基板材料およびCOF用基板材料等として使用されている。
【0004】
延伸によりポリイミドフィルムを製造する方法としては、ポリアミック酸などのポリイミド前駆体の溶媒溶液を、支持体上にキャストして得た自己支持性フィルム(ゲル状フィルム、ゲルフィルム等とも呼ばれる)を支持体から剥がし、その後イミド化が進行しない程度の加熱温度下で、MD方向に間隔をあけて配置された2組のローラの周速差を利用してフィルムをMD方向に引っ張ることによって延伸し、さらにMD方向に延伸した自己支持性フィルムをテンター装置などを利用して両端を把持しながらTD方向に延伸して加熱する方法(熱キュアとも呼ばれる)が知られている。
【0005】
特許文献1には、閉環触媒および脱水剤を含有するポリアミド酸の有機溶媒溶液を支持体表面にキャストし、ポリアミド酸をイミド化して自己支持性を有し固形分5〜50重量%のゲルフィルムの連続体を成形させ、このゲルフィルムを走行方向に1.1〜1.9倍延伸し、TD方向に走行方向の延伸倍率の0.9〜1.3倍の倍率で延伸することを特徴とするポリイミドフィルムが開示されている。
【0006】
従来、フィルムをMD方向に延伸する方法としては、フィルムのMD方向に間隔をあけて配置された2組のローラの周速差を利用してフィルムをMD方向に引っ張ることによって延伸する方法が知られている。しかし、従来の延伸では、MD方向への延伸時にフィルムがTD方向に収縮する、いわゆるネックインという現象が生じる。
【0007】
ネックインが生じると、次工程でフィルムをTD方向に延伸する際、収縮した量に加えて所望の延伸量をTD方向で延伸しなければならず、その影響で総延伸量を多くする必要がある。延伸量を多くすることによって、フィルム切れが発生しやすくなり、フィルムの製造効率が低下する。また、延伸量を多くすることによって延伸装置の機械的な負担も大きくなる。加えて、ネックインが生じるとTD方向のフィルム特性が不均一になることも考えられる。
【0008】
そこで、特許文献2には、単位面積当たりに照射する熱量を向上させた独特のヒータ装置を備えることで、延伸を行なうために必要な熱量を短い搬送距離でフィルムに与え、それによってネックイン量を低減させることのできる延伸装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
特許文献1:特開2004−2880号公報
特許文献2:特開2003−123942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、特許文献2に開示された延伸装置は、ヒータ装置に特徴があり、フィルムの加熱を必要とする。しかし、フィルムの延伸には加熱を必要としない場合もあり、その場合はネックインを低減させることはできない。
【0011】
本発明は、加熱を必要としない場合であってもネックインを良好に抑制できる延伸装置を提供することを目的とする。
【0012】
また本発明は、ポリイミドの自己支持性フィルムのMD方向への延伸に適した延伸装置を用いることによって、ネックインを抑制でき、さらにTD方向への延伸も容易で、より効率よく製造できるポリイミドフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の延伸装置は、フィルムを送り出すための送り出し機構と、送り出し機構から送り出されたフィルムを、送り出し機構から送り出されるフィルムの速度よりも速い速度で引き取る引き取り機構と、送り出し機構と引き取り機構との間でフィルムの幅(TD)方向両端部に配置された2組のフィルム押えユニットと、を有する。フィルム押えユニットは、フィルムの搬送経路の上方に、フィルムの搬送(MD)方向に間隔をあけて並列に配置された複数の上押えローラと、複数の上押えローラと協働してフィルムを上下から挟むようにフィルムの搬送経路の下方に上押えローラと対向配置された複数の下押えローラと、を有し、上押えローラおよび下押えローラは、回転軸をフィルムのMD方向下流側に向かってフィルムのTD方向外側に傾いて回転自在に支持されている。
【0014】
本発明の延伸装置は、複数の上押えローラを支持する上プレートと、上プレートと対向配置されて複数の下押えローラを支持する下プレートとをさらに有することができる。この場合、上プレートおよび下プレートの少なくとも一方が上下方向に移動可能に支持されていることが好ましい。また、複数の上押えローラおよび複数の下押えローラの少なくとも一方が、複数の弾性部材を介して個々に上下に弾性変位可能に支持されていることがより好ましい。
【0015】
送り出し機構と引き取り機構との間に、搬送中のフィルムを加熱する加熱炉をさらに有していてもよく、この場合、フィルム押えユニットの少なくとも一部は加熱炉の内部に配置されていることが好ましい。また、加熱炉はフィルムのための入口側開口部および出口側開口部を有し、入口側開口部および出口側開口部を介して、複数の上押えローラのうちの一部および複数の下押えローラのうちの一部が加熱炉の外部に配置されていてもよい。
【0016】
また、加熱炉は、熱風により前記フィルムを加熱してもよい。
【0017】
さらに、ネックインをより良好に抑制するために、上押えローラおよび下押えローラは、周面に粗面処理が施されていることが好ましい。
【0018】
また、前記送り出し機構と前記引き取り機構とは、いずれもローラであることが、実用性の観点から好ましい。さらに、前記送り出し機構および前記引き取り機構の少なくとも一方が吸引ローラであることが好ましい。
【0019】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、
ポリイミド前駆体の溶媒溶液を支持体上にキャストし、自己支持性フィルムとする第1工程と、
自己支持性フィルムを搬送しながら加熱処理する第2工程とを有し、
第2工程は、延伸装置によって自己支持性フィルムをMD方向に延伸することを含むポリイミドフィルムの製造方法であって、
延伸装置は、上記本発明の延伸装置であり、フィルムとして自己支持性フィルムを延伸することを特徴とする。
【0020】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法において、第2工程は、上記延伸装置で自己支持性フィルムをMD方向に延伸した後に、自己支持性フィルムをTD方向に延伸することを含むのが好ましく、この場合は本発明の効果がより効果的に発揮される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の延伸装置は、フィルム押えユニットによりフィルムのTD方向両端部を挟持しながら延伸することにより、フィルムの加熱を必要としない場合であっても、ネックインを抑制しながらフィルムを良好に延伸することができる。特に、MD方向の延伸の後にTD方向の延伸を行なう逐次二軸延伸フィルムの製造に際しては、ネックインが抑制されている分、TD方向への余分な延伸が必要なくなるので、TD方向の延伸時におけるフィルム切れの抑制および延伸装置への機械的な負担の軽減が可能となる。また、所望の線膨張係数を有する延伸フィルムを得ることができる。
【0022】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法によれば、本発明の延伸装置を用いて自己支持性フィルムをMD方向へ延伸する場合、加熱条件によらずに、ネックインを抑制しながら自己支持性フィルムを搬送方向に延伸でき、結果的にポリイミドフィルムをより効率よく製造できる。特に、第2工程が、上記延伸装置による延伸の後にTD方向の延伸を行なう場合は、ネックインが抑制されるためTD方向への余分な延伸の必要がなくなるので、TD方向の延伸時におけるフィルム切れを抑制でき、所望の線膨張係数を有するポリイミドフィルムをより効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態による延伸装置の概略側面図である。
図2図1に示す延伸装置を上方から見たときのフィルム押えユニットの配置を示す概略図である。
図3】複数の上押えローラの好ましい配置を示す図である。
図4】押えローラの取り付け位置がずれた場合のフィルム押えユニットの模式的側面図である。
図5】上押えローラの配置の他の例を示す模式図である。
図6】逐次二軸延伸フィルムの製造フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1を参照すると、フィルムFの製造工程においてフィルムFを搬送方向に延伸するのに用いられる、本発明の一実施形態による延伸装置1が示されている。
【0025】
延伸装置1は、フィルムFを送り出すための送り出し機構である繰り出しローラ10、および送り出されたフィルムFを、送り出し機構が送り出すフィルムFの速度よりも速い速度で引き取るための引き取り機構である巻き取りローラ20を有している。繰り出しローラ10および巻き取りローラ20は、それぞれ不図示の駆動機構によって個別に回転駆動され、フィルムFは、繰り出しローラ10側から巻き取りローラ20側へ搬送される。巻き取りローラ20は、その周速が繰り出しローラ10の周速よりも大きく、両者の周速差によりフィルムFは繰り出しローラ10と巻き取りローラ20との間で引っ張られ、その結果、フィルムFがMD方向に延伸される。繰り出しローラ10と巻き取りローラ20との周速比を適宜設定することでフィルムFの延伸率を調整することができる。
【0026】
繰り出しローラ10および巻き取りローラ20としては、この種の延伸装置で一般に用いられる任意のローラを用いられ、フィルムを所望の延伸率で延伸するためには、ローラ表面でのフィルムFの滑りが生じないようにすることが重要である。フィルムFの滑りを生じさせないようにするためには、繰出ローラ10および巻き取りローラ20の少なくとも一方を、フィルムFを負圧により吸引すべく多数の吸引孔を表面に有する吸引ローラ(サクションローラ)とすることができる。また、送り出し機構および引き取り機構は、複数のローラからなるローラ群で構成することもでき、この場合も、少なくとも一つのローラを吸引ローラとすることができる。
【0027】
繰り出しローラ10と巻き取りローラ20との間には、搬送途中のフィルムFを加熱する加熱炉30が設置されている。加熱炉30は、入口側開口部31および出口側開口部32を有している。フィルムFは、入口側開口部31を通って加熱炉30に入り、出口側開口部32を通って加熱炉30から出るまでの間、不図示の熱源によって加熱され、フィルムFの加熱された部分が優先的に延伸される。
【0028】
加熱炉30の内部には2組のフィルム押えユニット40が、図2に示すようにフィルムFの幅方向両端部に設置されている。
【0029】
各フィルム押えユニット40は、繰り出しローラ10から巻き取りローラ20までのフィルムFの搬送経路を間において上下に対向配置された上プレート42および下プレート45を有する。
【0030】
上プレート42は、エアシリンダ、油圧シリンダまたは電動シリンダなどのリニアアクチュエータ41によって、下プレート45との対向方向である上下方向に移動可能に支持されており、下面側には複数の上押えローラ43を回転自在に支持している。複数の上押えローラ43は、図2に示すように、フィルムFのMD方向(矢印方向)に間隔をあけて並列に配置され、かつ、回転軸43xがフィルムFのTD方向に対してフィルムFのMD方向下流側に向かってフィルムFの外側に傾けた姿勢で支持されている。これにより、上押えローラ43は、フィルムFのMD方向下流側から見たときに、外周面がフィルムFのTD方向斜め外側を向いている。
【0031】
各上押えローラ43の長さ、直径、間隔およびフィルムFのTD方向に対する傾きは、互いに同じであることが好ましいが、長さ、直径、間隔および傾きの少なくとも1つが異なっていてもよい。
【0032】
下プレート45は、その上面側に、複数のばね47および複数のサブプレート45aを介して複数の下押えローラ46を個別に支持する。ばね47は、その下端が下プレート45に固定されており、上プレート42から下プレート45へ向かう力を受けて弾性変形することができる。このようなばね47としては、例えば圧縮コイルばねを用いることができる。各ばね47の上端にはそれぞれサブプレート45aが1つずつ固定されており、各サブプレート45aは、それぞれ1つの下押えローラ46を回転自在に支持している。よって、複数の下押えローラ46は、複数のばね47を介して個々に上下に弾性変位可能に支持されている。
【0033】
このようにして支持された複数の下押えローラ46は、フィルムFの搬送経路の下方に位置する。各下押えローラ46は、各上押えローラ43と協働してフィルムFを上下から挟むことができるように、それぞれ対応する上押えローラ43と上下方向で対向する位置に配置されている。したがって、下押えローラ46も、上押えローラ43と同様、フィルムFのMD方向に間隔をあけて並列に配置され、かつ、フィルムFのMD方向下流側から見たときに、外周面がフィルムFのTD方向斜め外側を向いている。各下押えローラ46の長さ、直径、間隔および傾きは、対向する上押えローラ43の長さ、直径、間隔および傾きと同じであれば、互いに異なっていてもよいし同じであってもよい。上押えローラ43と下押えローラ46とによってフィルムFを挟み込む力(加圧力)は、リニアアクチュエータ41により上押えローラ43の上下方向での位置を適宜設定することによって調整することができる。
【0034】
前述のように、フィルム押えユニット40は加熱炉30の内部に配置されるが、本形態では、フィルム押えユニット40全体が加熱炉30の内部に配置されるのではなく、フィルムFのMD方向上流側および下流側において、フィルム押えユニット40の一部が入口側開口部31および出口側開口部32から突出している。これによって、一部の上押えローラ43および下押えローラ46も、フィルムFのMD方向上流側および下流側において入口側開口部31および出口側開口部32から突出している。
【0035】
以上説明したように構成された本実施形態の延伸装置1によれば、繰り出しローラ10から送り出されたフィルムFは、巻き取りローラ20で巻き取られるまでの間の搬送経路で加熱炉30によって加熱され、この加熱された領域で延伸される。フィルムFが延伸される領域においてフィルムFは、TD方向両端部がフィルム押えユニット40の複数の上押えローラ43および複数の下押えローラ46によって上下から挟み込まれる。これら上押えローラ43および下押えローラ46は回転自在に支持されているので、フィルムFがこれらに挟まれながら繰り出しローラ10側から巻き取りローラ20側へ搬送されると、上押えローラ43および下押えローラ46は、フィルムFとの摩擦によって回転する。
【0036】
上押えローラ43および下押えローラ46は、回転軸がフィルムFのMD方向下流側に向かってフィルムFのTD方向斜め外側に向けて支持されているので、上押えローラ43および下押えローラ46が回転すると、フィルムFのTD方向両端部には、上押えローラ43および下押えローラ46との摩擦によりフィルムFのTD方向外向きの力が働く。この力は、延伸によってフィルムFの幅が縮小されるのに対してフィルムFを拘束するような力を与え、その結果、フィルムFのネックインが抑制される。このように、本実施形態によれば、フィルムFのTD方向両端部を上押えローラ43および下押えローラ46によって機械的に拘束しているので、加熱条件によらずにネックインを抑制することができる。しかも、上押えローラ43および下押えローラ46の回転は、フィルムFの搬送に従うものであり、フィルムFのMD方向については、上押えローラ43および下押えローラ46によるフィルムFの拘束力は小さいので、フィルムFの延伸に与える影響は殆どない。
【0037】
また、上押えローラ43および下押えローラ46はそれぞれフィルムFのMD方向に間隔をあけて複数ずつ配置されているため、フィルムFのネックインを生じる可能性のある領域を、フィルムFのMD方向にわたって広い範囲で挟持することができる。その結果、フィルムFのネックインを効果的に抑制することができる。
【0038】
この効果をより効果的に発揮させるためには、例えば図3に示すように上押えローラ43a〜43iを有する場合、フィルムFのMD方向について各上押えローラ43a〜43iがフィルムFを押さえ付ける範囲a〜iを考えたとき、フィルムFのMD方向に隣接する2つの範囲(aとb、bとc、cとd、dとe、eとf、fとg、gとh、hとi)が互いに接しているか、または部分的に重なるように、上押えローラ43a〜43iの長さ、間隔およびフィルムFのTD方向に対する回転軸の傾き角度を設定することが好ましい。もちろん、複数の下押えローラ(図3では不図示)は、上押えローラ43a〜43iと対応させて、上押えローラ43a〜43iと同じ数だけ、かつ各々が上押えローラ43a〜43iと対向するように配置される。
【0039】
このように複数の上押えローラ43a〜43iおよび下押えローラを配置することで、フィルムFのMD方向について範囲aから範囲iまで、何れかの上押えローラおよび下押えローラの対によってフィルムFが挟み込まれるため、ネックインをより効果的に抑制することができる。
【0040】
本実施形態では、複数の上押えローラ43および複数の下押えローラ46でフィルムFを挟持するので、ネックインを効果的に抑制するためには、すべての上押えローラ43および下押えローラ46の対でフィルムFが挟持されることが重要である。すなわち、各上押えローラ43は、上プレート42の下面に対して垂直な方向での距離が互いに等しくなるように取り付けられ、また、各下押えローラ46は、下プレート45の上面に対して垂直な方向での距離が互いに等しくなるように取り付けられることが重要である。
【0041】
しかし、実際には、上押えローラ43および下押えローラ46の、それぞれ上プレート42および下プレート45への取り付けのばらつきなどにより、例えば、図4に示すように、1つの下押えローラ46eが、下プレート45の上面に対して他の下押えローラ46a〜46d、46f〜46iよりも突出した位置に取り付けられた場合、その下押えローラ46eとそれに対向する上押えローラ43eとでのみフィルムFが挟持されてしまう。
【0042】
このような場合でも、本実施形態では、すべての下押えローラ46は個々にばね47を介して下プレート45に支持されており、かつ、上プレート42の位置をリニアアクチュエータ41により上下に調整できるように構成されているので、リニアアクチュエータ41により上プレート42を下プレート45側へ接近させることにより、突出した位置にある下押えローラ46eを支持しているばね47を、対向する上押えローラ43eにより圧縮させ、すべての下押えローラが上押えローラとでフィルムFを挟持できるようにすることができる。
【0043】
また、ばね47を介して下押えローラ46を下プレート45上に支持し、かつ、上プレート42をリニアアクチュエータ41により上下に移動可能とすることで、以下のような効果を奏することもできる。
【0044】
一般に、フィルムFをMD方向に延伸する場合、延伸率が高くなればなるほどネックインの量も増える。よって、フィルムFを高い延伸率で延伸する場合は、それに応じてより強い力でフィルムFのTD方向両端部を挟持することが好ましい。本実施形態では上記のようにばね47を介しての下押えローラ46の支持と、リニアアクチュエータ41による上押えローラ43の上下移動可能な構造とを組み合わせることで、上押えローラ43と下押えローラ46とによるフィルムFの挟持力を、フィルムFの延伸率などに応じて調整することができる。
【0045】
なお、上述した形態では、上プレート42がリニアアクチュエータ41により上下移動可能とされている例を示したが、下プレート45が上下方向に移動可能であってもよいし、上プレート42および下プレート45の両方が上下方向に移動可能であってもよい。同様に、上述した形態では、複数の下押えローラ46が複数のばね47によって個々に下プレート45に支持されている例を示したが、複数の上押えローラ43が複数のばねによって個々に上下に弾性変位可能に支持されていてもよいし、上押えローラ43および下押えローラ4の両方が個々に上下に弾性変形可能に支持されていてもよい。
【0046】
加熱炉30の加熱方式は、フィルムFを軟化させることが出来る程度に加熱できるものであれば任意であってよく、例えば、赤外線による加熱や熱風による加熱、およびそれらの併用が挙げられる。均一な延伸のためには、フィルム全体をできるだけ均一に加熱できることが好ましい。特に本実施形態では、フィルムFのTD方向両端部にフィルム押えユニット40が設置されており、フィルムFのTD方向両端部は他の部分に比べてやや加熱されにくい構造となっている。よって、装置の簡便性、コスト等を合わせて考えると、本実施形態においては、赤外線による加熱方式よりは、フィルムFと接する上押えローラ43および下押えローラ46も加熱され、それによってフィルムFの幅方向両端部を間接的にも加熱できる熱風方式による加熱炉を用いることが好ましい。
【0047】
加熱炉30は、搬送途中のフィルムFを加熱するものであることから、その構造上、フィルムFの通過用の入口側開口部31および出口側開口部32を有しており、これら入口側開口部31および出口側開口部32を通じて、加熱炉30内で加熱された空気の一部が流出する。よって、加熱炉30内の温度および開口部31、32のサイズによっては、加熱炉30の外部であってもこれら開口部31、32の付近でフィルムFが延伸されることがある。
【0048】
そこで本実施形態では、図1および図2に示すように、フィルム押えユニット40はフィルムFのMD方向上流側および下流側が入口側開口部31および出口側開口部32を介して加熱炉30の外に配置されることによって、複数の上押えローラ43のうち一部のローラ、および複数の下押えローラ46のうち一部のローラが、加熱炉30の外部に配置されている。これによって、延伸によるネックインの発生をより効果的に抑制することができる。もちろん、入口側開口部31および出口側開口部32からの加熱された空気の流出をそれ程考慮しなくてよい場合は、フィルム押えユニット40全体を加熱炉30の内部に配置してもよい。
【0049】
また、本実施形態では、図2および図3に示したように、複数の上押えローラ43(したがって下押えローラ46も)が、フィルムFのMD方向上流側から下流側へ向かって、フィルFのTD方向外側にずれて配置された例を示した。これは、上押えローラ43の回転軸を矩形状の上プレート42の幅方向と平行に配置し、上プレート42自体を傾けた姿勢で設置したことによる。しかし、例えば図5に示すように、複数の上押えローラ43自体をその回転軸43xが上プレート42のTD方向に対して斜めになるように取り付け、フィルムFのTD方向での各上押えローラ43の位置を等しく配置することも可能である。この場合は、もちろん下押えローラ46も同様に配置される。このような上押えローラ43および下押えローラ46の配置によっても、延伸時のネックインを良好に抑制できる。
【0050】
また、上述したように本実施形態では、上押えローラ43および下押えローラ46がフィルムFの搬送に伴って回転し、このフィルムFの搬送に伴う回転をスムーズに行なわせることが、ネックインの良好な抑制のために重要である。上押えローラ43および下押えローラ46のスムーズな回転のためには、これら押えローラ43、46の周面にサンドブラスト加工やエンボス加工といった梨地などの粗面処理を施し、フィルムFとの間に働く摩擦力が大きくなるようにすることが好ましい。あるいは、上押えローラ43および下押えローラ46をゴムローラとしたり、さらにはこれらゴムローラを、空気圧で膨張させた中空のエアローラとしたりすることなどによって、フィルムFとの間に働く摩擦力を大きくしてもよい。
【0051】
フィルムFのTD方向に対する上押えローラ43および下押えローラ46の回転軸の傾き角は、フィルムFのMD方向への延伸率に応じて設定するのが好ましい。延伸率が高くなればなるほど、フィルムFのネックイン量が大きくなるため、それだけフィルムFのTD方向両端部をネックインが生じないように拘束する必要がある。フィルムFのTD方向への拘束力を大きくするためには、上記傾き角度は大きいほうが好ましい。しかし、傾き角度を大きくし過ぎると、フィルムFのMD方向での拘束力が大きくなり、延伸を適切に行なえなくなるおそれが生じる。このことから、傾き角度には適切な範囲があり、その好ましい範囲は、0°よりも大きく45°未満であり、より好ましくは0°よりも大きく30°以下、さらに好ましくは0°よりも大きく15°以下である。
【0052】
上述した実施形態では、本発明における送り出し機構および引き取り機構として、それぞれ少なくとも1つの繰り出しローラおよび少なくとも1つの巻き取りローラを有する機構を示した。しかし、送り出し機構および引き取り機構はローラによりフィルムを搬送する機構に限定されるものではなく、例えば、フィルムのTD方向端部を把持しながらフィルムのMD方向に移動するフィルム把持部材をフィルムの送り出し側および引き取り側においてフィルムのTD方向両側に配置し、引き取り側のフィルム把持部材を、送り出し側の把持部材から送り出されるフィルムの速度よりも速い速度で移動させるようにすることによって、これら送り出し側および引き取り側の把持部材をそれぞれ送り出し機構および引き取り機構として用いることもできる。また、送り出し機構および引き取り機構の少なくとも一方を、ローラと把持部材の組み合わせで構成することもできる。
【0053】
次に、上述した本形態の延伸装置1を用いた二軸延伸フィルムの製造工程の一例を、図6を参照して説明する。
【0054】
まず、溶融させた樹脂をフィルム状に成型することによって製膜する(S101)。フィルムの成型方法としては、溶融押出成型法(extrusion−molding)、溶液流延法(solution−casting)、およびカレンダー法(calendaring)などが挙げられる。
【0055】
次いで、成型されたフィルムをローラで搬送しながら、そのMD方向に延伸する(S102)。この延伸では、通常、ネックインが生じるが、上述した本実施形態の延伸装置1を用いることにより、ネックインが抑制される。
【0056】
MD方向に延伸されたフィルムは、次いで、TD方向に延伸される(S103)。TD方向への延伸には、テンター装置などを用いることができる。従来は、MD方向への延伸によってネックインが生じているため、所望の延伸量に加えてネックインによって縮小した幅の量だけ余分に延伸する必要があり、それによってフィルム切れが発生することがあり、また、延伸装置にかかる機械的な負担も大きかった。
【0057】
しかし、本実施形態では、MD方向への延伸に上述した延伸装置1を用いることによりネックインは抑制されているため、TD方向への延伸率を従来のように大きくする必要はない。その結果、フィルム切れを大幅に低減して、フィルムを所望の延伸率でTD方向に延伸することができ、所望の線膨張係数を有するフィルムを得ることができる。
【0058】
最後に、TD方向に延伸されたフィルムを硬化(キュア)させ(S104)、ローラに巻き取る(S105)ことで、二軸延伸フィルムが製造される。フィルムを硬化させる方法としては、加熱、触媒の利用、紫外線(UV)の照射、電子線の照射及びそれらの併用がある。
【0059】
以上のように、フィルムをTD方向に延伸するのに上述した延伸装置1を用いることで、所望の延伸率でMD方向およびTD方向に延伸され、それによりMD方向およびTD方向に所望の熱線膨張係数を有する二軸延伸フィルムを、TD方向に延伸したときのフィルム切れを大幅に低減して製造することができる。
【0060】
本発明の延伸装置は種々のフィルムのMD方向への延伸に用いることができるが、フィルムの中でもポリイミドフィルム
の製造における自己支持性フィルムのMD方向への延伸に特に好ましく用いることができる。
【0061】
以下に、自己支持性フィルムのMD方向への延伸に上述した延伸装置を用いたポリイミドフィルムの製造方法の一例を説明する。
【0062】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、ポリイミド前駆体の溶媒溶液を支持体上にキャストし、自己支持性フィルムとする第1工程と、第1工程で得られた自己支持性フィルムを搬送しながら加熱する第2工程とを有し、第2工程は、前記延伸装置で自己支持性フィルムのMD方向に延伸することを含む。
より具体的には、本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、図6に示すように、ポリイミド前駆体の溶媒溶液を支持体上にキャストし(S101)、自己支持性フィルムとする第1工程と、この自己支持性フィルムを搬送しながら、イミド化及び/又は延伸を含む熱処理などを目的とする加熱する第2工程とを有する。第2工程は、自己支持性フィルムを搬送方向に延伸すること(S102)と、次いで幅方向に延伸すること(S103)と、熱キュアすること(S104)と、を含む。熱キュアにより最終的に製造されたポリイミドフィルムは、ローラに巻き取られる(S105)。
【0063】
以上の製造方法において、「ポリイミド前駆体の溶媒溶液を支持体上にキャストする」工程、「自己支持性フィルムをMD方向に延伸する」工程、「TD方向に延伸する」工程、「熱キュアする」工程、および「最終的に製造されたポリイミドフィルムをローラに巻き取る」工程は、それぞれ図6における「製膜」工程(S101)、「MD延伸」工程(S102)、「TD延伸」工程(S103)、「キュア」工程(S104)および「巻き取り」工程(S105)に相当する。
【0064】
本発明の延伸装置は、これら各工程のうちMD延伸工程で使用される。よって、本発明の延伸装置をポリイミドフィルムのMD延伸に用いる場合、上述した延伸装置の説明中の「フィルムF」は「自己支持性フィルム」を意味する。
【0065】
本発明においては、ポリイミドフィルムを、熱イミド化、化学イミド化、または熱イミド化と化学イミド化とを併用した方法で製造することができる。
【0066】
以下、第1工程および第2工程を詳細に説明する。
【0067】
<第1工程>
第1工程において自己支持性フィルムを形成するためのポリイミド前駆体としては、公知の酸成分とジアミン成分とから得られるポリアミック酸などの公知のポリイミド前駆体を用いることができる。
【0068】
本発明では、最終的に製造されるポリイミド層は、1層で構成されても、成分の異なる多層で構成されてもよい。ポリイミドフィルムを構成する層のうちで少なくとも1層は、耐熱性ポリイミドで構成される層であることが好ましい。多層構造の例としては、耐熱性ポリイミドで構成される層の片面または両面に熱圧着性ポリイミドで構成される層が形成された例、表面が平滑性に優れる層と他面が易滑性に優れる層で形成された例、少なくとも1層が透明性又は非透明性に優れる層で形成された例、などが挙げられる。
【0069】
最終的に製造されるポリイミドフィルムに対応して、自己支持性フィルムも、1層で構成されても、ポリイミド前駆体の成分が異なる多層で構成されてもよい。
【0070】
耐熱性ポリイミドとしては、
(1)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物及び1,4−ヒドロキノンジベンゾエート−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物より選ばれる成分を少なくとも1種含む酸成分、好ましくはこれらの酸成分を少なくとも70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上含む酸成分と、
(2)ジアミン成分としてp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、m−トリジン及び4,4’−ジアミノベンズアニリドより選ばれる成分を少なくとも1種含むジアミン、好ましくはこれらのジアミン成分を少なくとも70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上含むジアミン成分とから得られるポリイミドなどを用いることができる。
【0071】
耐熱性ポリイミドを構成する酸成分とジアミン成分との組み合わせの例として、次のものが挙げられる。
1)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)と、p−フェニレンジアミン(PPD)と、必要により4,4−ジアミノジフェニルエーテル(DADE)を含む組み合わせ。この場合、PPD/DADE(モル比)は100/0〜85/15であることが好ましい。
2)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物(PMDA)と、p−フェニレンジアミンと必要により4,4−ジアミノジフェニルエーテルを含む組み合わせ。この場合、BPDA/PMDAは0/100〜90/10であることが好ましい。PPDとDADEを併用する場合、PPD/(DADEは、例えば90/10〜10/90が好ましい。
3)ピロメリット酸二無水物と、p−フェニレンジアミン及び4,4−ジアミノジフェニルエーテルの組み合わせ。この場合、DADE/PPDは90/10〜10/90であることが好ましい。
4)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンとを主成分(合計100モル%中の50モル%以上)として得られるものを挙げることができる。
【0072】
上記1)〜4)において、4,4−ジアミノジフェニルエーテル(DADE)の一部又は全部を、目的に応じて3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、又は下記に示す他のジアミンに置き換えても良い。
【0073】
これらのものは、プリント配線板、フレキシブルプリント回路基板、TABテープ等の電子部品の素材として用いられ、広い温度範囲にわたって優れた機械的特性を有し、長期耐熱性を有し、耐薬品性および耐加水分解性に優れ、熱分解開始温度が高く、加熱収縮率と線膨張係数が小さい、難燃性に優れるために好ましい。
【0074】
耐熱性ポリイミドを得ることができる酸成分として、上記に示す酸成分の他に目的の特性を損なわない範囲で、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス[(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、などの酸二無水物成分を用いることができる。
【0075】
耐熱性ポリイミドを得ることができるジアミン成分として、上記に示すジアミン成分の他に目的の特性を損なわない範囲で、m−フェニレンジアミン、2,4−トルエンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)プロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンなどのビス(アミノフェノキシ)ベンゼン類、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニルなどのジアミン成分を用いることができる。
【0076】
一方、熱圧着性ポリイミドは、
(1)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物及び1,4−ヒドロキノンジベンゾエート−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物などの酸二無水物より選ばれる成分を少なくとも1種含む酸成分、好ましくはこれらの酸成分を少なくとも70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上含む酸成分と、
(2)ジアミン成分としては、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンなどのジアミンより選ばれる成分を少なくとも1種含むジアミン、好ましくはこれらのジアミン成分を少なくとも70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上含むジアミン成分とから得られるポリイミドなどを用いることができる。
【0077】
熱圧着性ポリイミドを得ることができる酸成分とジアミン成分との組合せの一例としては、
(1)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の酸二無水物より選ばれる成分を少なくとも1種含む酸成分、好ましくはこれらの酸成分を少なくとも70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上含む酸成分と、
(2)ジアミン成分としては、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンなどのジアミンより選ばれる成分を少なくとも1種含むジアミン、好ましくはこれらのジアミン成分を少なくとも70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上含むジアミン成分とから得られるポリイミドなどを用いることができる。
【0078】
熱圧着性ポリイミドを得ることができるジアミン成分として、上記に示すジアミン成分の他に本発明の特性を損なわない範囲で、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−トルエンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)プロパン、などのジアミン成分を用いることができる。
【0079】
ポリイミド前駆体の合成は、公知の方法で行うことができ、例えば、有機溶媒中で、略等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物などの酸成分とジアミン成分とをランダム重合またはブロック重合することによって達成される。また、予めどちらかの成分が過剰である2種類以上のポリイミド前駆体を合成しておき、各ポリイミド前駆体溶液を一緒にした後反応条件下で混合してもよい。このようにして得られたポリイミド前駆体溶液はそのまま、あるいは必要であれば溶媒を除去または加えて、自己支持性フィルムの製造に使用することができる。
【0080】
また溶解性に優れるポリイミドでは、ポリイミド前駆体溶液を150〜250℃に加熱するか、またはイミド化剤を添加して150℃以下、特に15〜50℃の温度で反応させて、イミド環化した後溶媒を蒸発させる、もしくは貧溶媒中に析出させて粉末とする。その後、該粉末を有機溶媒に溶解してポリイミドの有機溶媒溶液を得ることができる。
【0081】
ポリイミド前駆体溶液の有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0082】
ポリイミド前駆体溶液には、必要に応じてイミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子や有機微粒子などの微粒子などを加えてもよい。
【0083】
イミド化触媒としては、置換もしくは非置換の含窒素複素環化合物、該含窒素複素環化合物のN−オキシド化合物、置換もしくは非置換のアミノ酸化合物、ヒドロキシル基を有する芳香族炭化水素化合物または芳香族複素環状化合物が挙げられ、特に1,2−ジメチルイミダゾール、N−メチルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、5−メチルベンズイミダゾールなどの低級アルキルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾールなどのベンズイミダゾール、イソキノリン、3,5−ジメチルピリジン、3,4−ジメチルピリジン、2,5−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、4−n−プロピルピリジンなどの置換ピリジンなどを好適に使用することができる。イミド化触媒の使用量は、ポリアミド酸のアミド酸単位に対して0.01〜2倍当量、特に0.02〜1倍当量程度であることが好ましい。イミド化触媒を使用することによって、得られるポリイミドフィルムの物性、特に伸びや端裂抵抗が向上することがある。
【0084】
また、化学イミド化を意図する場合には、通常、脱水閉環剤と有機アミンを組み合わせた化学イミド化剤をポリイミド前駆体溶液中に含有させる。脱水閉環剤としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、および無水酢酸、無水プロピオン酸、無水吉草酸、無水安息香酸、トリフルオロ酢酸二無水物等の酸無水物が挙げられ、有機アミンとしては、ピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0085】
ポリイミド前駆体溶液としては、支持体上にキャストすることができ、自己支持性フィルムを支持体より剥離でき、その後第2工程で少なくとも一方向に延伸できる自己支持性フィルムが形成できるものであれば、ポリマーの種類、重合度、濃度など、溶液に必要に応じて配合する各種の添加剤の種類、濃度など、ポリイミド前駆体溶液の粘度などは適宜設定することができる。
【0086】
ポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体の濃度は、好ましくは5〜30質量%、より好ましくは10〜25質量%、さらに好ましくは15〜20質量%である。ポリイミド前駆体溶液の溶液粘度は、100〜10000ポイズ、好ましくは400〜5000ポイズ、さらに好ましくは1000〜3000ポイズが好ましい。
【0087】
第1工程において自己支持性フィルムを製造するには、単層または複層の押出形成用ダイスを備える製膜装置を使用して、前記ダイスに、1種または複数の種類のポリイミド前駆体の溶媒溶液を供給し、ダイスの吐出口(リップ部)から単層または複層の薄膜状体として支持体(エンドレスベルトやドラムなど)上に押出して、ポリイミド前駆体の溶媒溶液の略均一な厚さの薄膜を形成し、キャスティング炉の内部で、支持体(エンドレスベルトやドラムなど)を移動させながらポリイミド前駆体のイミド化が完全には進まない温度かつ有機溶媒の一部または大部分が除去できる温度に加熱し、自己支持性フィルムを支持体から剥離する。
【0088】
また、多層ポリイミドフィルムを製造する場合においては、最初に特定の組成のポリイミド前駆体の溶媒溶液から、自己支持性フィルムを形成した後、その表面に異なる組成のポリイミド前駆体の溶媒溶液をキャストしてキャスティング炉で加熱して多層の自己支持性フィルムを製造することもできる。
【0089】
第1工程において、支持体としては、公知の材料を用いることができるが、表面がステンレス材料などの金属材料、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂材料からなるものが好ましく、ステンレスベルト、ステンレスのロール、ポリエチレンテレフタレートのベルトなどを挙げることができる。支持体の表面は、溶剤の薄膜が均一に形成できることが好ましい。支持体の表面は、平滑でも、表面に溝やエンボスが形成されていても良い。特に平滑であることが好ましい。
【0090】
キャスティング炉の内部での加熱温度は、ポリイミド前駆体のイミド化が完全には進まない温度かつ有機溶媒の一部または大部分が除去できる温度であればよく、例えば30〜200℃の範囲であり、熱イミド化の場合(化学イミド化剤を添加しない場合)は好ましくは100〜200℃である。
【0091】
自己支持性フィルムは、半硬化状態またはそれ以前の乾燥状態である。この半硬化状態またはそれ以前の状態とは、加熱および/または化学イミド化によって自己支持性の状態にあることを意味する。自己支持性フィルムは、支持体から剥がせるものであればよく、溶媒含有率やイミド化率はどのような範囲でも良い。
【0092】
また、自己支持性フィルムは、支持体と剥離した後、さらに必要に応じて自己支持性フィルムの片面または両面に、溶液(例えば、表面処理剤、ポリイミド前駆体、ポリイミドなどを含んでも良い)などを塗工、吹き付け、浸漬などを行い、さらに必要に応じて主として塗工溶媒を乾燥や抽出などの手段で除去してもよい。
【0093】
表面処理剤としては、シランカップリング剤、ボランカップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、アルミニウム系キレート剤、チタネート系カップリング剤、鉄カップリング剤、銅カップリング剤などの各種カップリング剤やキレート剤などを挙げることが出来る。
【0094】
自己支持性フィルムの溶媒含有量およびイミド化率は、製造を意図するポリイミドフィルムにより適宜設定できる。ここで、溶媒含有量とは、前駆体溶液中の溶媒の他に、生成水分を含む揮発可能な成分の含有量を意味する。例えば、テトラカルボン酸成分として3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を80モル%以上含み、ジアミン成分としてp−フェニレンジアミンを80モル%以上含むポリイミド前駆体からポリイミドフィルムを製造する場合、好ましくは熱イミド化によりポリイミドフィルムを製造する場合、イミド化率は、1〜80%、好ましくは5〜40%であり、溶媒含有率は、好ましくは10〜60質量%、より好ましくは25〜45質量%である。
【0095】
また、例えば、テトラカルボン酸成分として、ピロメリット酸二無水物を80モル%以上含み、p−フェニレンジアミンを80モル%以上含むポリイミド前駆体からポリイミドフィルムを製造する場合、好ましくは熱イミド化によりポリイミドフィルムを製造する場合、イミド化率は、50〜100%、好ましくは70〜100%であり、ポリイミド前駆体の溶媒含有率は、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは20〜70質量%である。
【0096】
第1工程において製造した自己支持性フィルムは、必要により表面処理剤塗布等を行った後、第2工程に送られる。
【0097】
<第2工程>
第2工程においては、第1工程で製造した自己支持性フィルムを、加熱処理(延伸および熱キュア)して所望の物性を有するポリイミドフィルムとする。本発明では、自己支持性フィルムのMD方向への延伸の際に、前述の延伸装置を用いる。自己支持性フィルムのMD方向への延伸では、自己支持性フィルムのTD方向両端部を、前述のように斜めに配置された複数の上押えローラおよび下押えローラを有するフィルム押えユニットで挟持しながら延伸するので、ネックインの発生を良好に抑制することができる。
【0098】
MD方向への延伸後、自己支持性フィルムはテンター装置によりTD方向に延伸されることが好ましい。従来の方法では、MD方向への延伸によってネックインが生じているため、所望の延伸量に加えて、ネックインによって縮小した幅の量だけ余分に延伸する必要があり、それによってフィルム切れが発生することがあり、また、延伸装置にかかる機械的な負担も大きかった。しかし、本発明では、MD方向への延伸に前述した延伸装置を用いることによりネックインが抑制されているため、TD方向への延伸率を従来のように大きくする必要はない。その結果、フィルム切れを大幅に低減して、フィルムを所望の延伸率でTD方向に延伸することができ、所望の線膨張係数を有するポリイミドフィルムを得ることができる。
【0099】
自己支持性フィルムは、所定温度の加熱ゾーンの中を、所定の速度で移動することで搬送され、その間に自己支持性フィルムが熱処理されてイミド化が進行し(熱キュア)、最終的にポリイミドフィルムが得られる。
【0100】
自己支持性フィルムのTD方向への延伸にはテンター装置を用いることができる。テンター装置は、自己支持性フィルムのTD方向両端部を把持する1対のテンターチェーンを有し、このテンターチェーンの間隔を、チェーンがMD方向に移動している間に拡大するように変化させることで自己支持性フィルムをTD方向に延伸することができる。また、熱キュアにおいても、自己支持性フィルムを搬送するのにテンター装置を用いることができる。よって、テンター装置を用いて、自己支持性フィルムのTD方向への延伸および熱キュアを、連続してまたは同時に行なうことができる。
【0101】
第2工程の熱キュアでは、最高温度が、200〜600℃の範囲、好ましくは350〜550℃の範囲、特に好ましくは300〜500℃の範囲となるような条件で、例えば約0.05〜5時間で徐々に加熱されることが好ましい。好ましくは最終的に得られるポリイミドフィルム中の有機溶媒および生成水等からなる揮発物の含有量が1重量%以下になるように、自己支持性フィルムから溶媒などを充分に除去するとともに前記フィルムを構成しているポリマーのイミド化を充分に行う。
【0102】
加熱ゾーンは、温度勾配を有していることも好ましく、また加熱温度の異なるいくつかブロックに分かれていてもよい。1例を挙げると、約100〜170℃の比較的低い温度で約0.5〜30分間第一次加熱処理し、次いで170〜220℃の温度で約0.5〜30分間第二次加熱処理して、その後、220〜400℃の高温で約0.5〜30分間第三次加熱処理し、必要により400〜600℃の高い温度で第四次高温加熱処理する。また、別の1例では、80〜240℃で第一次加熱処理し、必要により中間加熱温度で加熱処理し、350〜600℃で最終加熱処理する。
【0103】
上記の加熱処理は、熱風炉、赤外線加熱炉などの公知の種々の加熱装置を使用して行うことができる。自己支持性フィルムの初期加熱温度、中間加熱温度および/または最終加熱温度などの加熱処理は、窒素、アルゴンなどの不活性ガスや、空気などの加熱ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0104】
以上の製造方法により、ポリイミドフィルムは長尺状に製造されるので、一般的には、テンター装置によりTD方向に保持した自己支持性フィルムの両端部を切断除外した部分を、ロール状に巻いて保存され、次の加工に提供される。
【0105】
ポリイミドフィルムの厚みは、適宜選択すればよく特に限定されるものではないが、厚さが150μm以下、好ましくは5〜120μm、より好ましくは8〜80μm、より好ましくは6〜50μm、さらに好ましくは7〜40μm、特に好ましくは8〜35μmとすることができる。
【0106】
以上説明したように、ポリイミドフィルムの製造工程のうち、自己支持性フィルムをイミド化及び/又は熱処理などする第2工程で、図1等に示した延伸装置を用いている。この延伸装置は、ネックインを良好に抑制できるため、次に行なうTD方向への延伸の際のフィルム切れを低減できる。その結果、所望の延伸率でMD方向およびTD方向に延伸され、所望の線膨張係数を有する熱寸法安定性に優れたポリイミドフィルムを効率よく製造することができる。例えば、ポリイミドフィルムの線膨張係数をMD方向、TD方向ともに5〜15ppm/℃の範囲に制御することができる。
【実施例】
【0107】
(実施例1)
実施例1では、様々な条件でポリイミドフィルム(自己支持性フィルム)をMD方向に延伸したときのネックイン率を求めた。
【0108】
(実施例1−1)
溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミドを用いて、ジアミン成分としてのp−フェニレンジアミン(PPD)と、酸成分としての3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)とを重合反応させて、ポリアミック酸溶液(ポリイミド前駆体溶液)を得た。得られたポリアミック酸溶液を支持体上に流延し、加熱することにより部分イミド化された自己支持性フィルムを得た。
【0109】
次に、図1に示すように構成された延伸装置1を用いて、幅270mmに製膜されたポリイミドフィルム(自己支持性フィルム)をMD方向に延伸し、ネックイン率を測定した。使用した延伸装置1は、フィルム押えユニット40が、上押えローラ43および下押えローラ46をそれぞれ10本ずつ有していた。上押えローラ43および下押えローラ46は、回転軸の傾き角度が25°、直径が20mm、長さが50mmであった。また、隣接するローラの軸間ピッチは22mmであった。上押えローラ43および下押えローラ46の材質はステンレス製(SUS304)であり、表面にショットブラス処理を施すことによって、表面粗さRaを2〜3μmとした。上プレート42にエアシリンダ(直径63mm)を接続し、エアシリンダに圧力0.06MPaのエアを導入することによって、上押えローラ43と下押えローラ46とで自己支持性フィルム(ポリイミドフィルム)を把持した。また、加熱炉30は、加熱方式が熱風によるものを用い、加熱炉30内を、温度が120℃、熱風の平均風速が0.7m/sとなるように設定した。加熱炉30による自己支持性フィルムの加熱時間は15秒とした。また、加熱炉30はフィルム全幅を加熱できる幅を有し、入口側開口部および出口側開口部から一部の上押えローラ43および下押えローラ46が均等に加熱炉30の外部へ出て自己支持性フィルムを把持する構成とした。
【0110】
延伸率は、延伸前のフィルムのMD方向での長さをLb、延伸後の長さをLaとしたとき、それぞれの長さLb、Laを測定し、以下の計算式、
【0111】
【数1】
により求めた。ネックイン率は、延伸前のフィルムの幅をWb、延伸後の幅をWaとしたとき、それぞれの幅Wb、Waを測定し、以下の計算式、
【0112】
【数2】
により求めた。
【0113】
延伸の結果、延伸率は9.17%、ネックイン率は、0.74%であった。
【0114】
(実施例1−2)
下押えローラ46を、ばね47を介さずに支持したこと、および加熱炉30の加熱方式が赤外線の照射によるものであることの他は実施例1−1と同様に構成された延伸装置を用いて自己支持性フィルム(ポリイミドフィルム)を延伸し、実施例1−1と同様にして延伸率およびネックイン率を求めた。延伸の結果、延伸率は8.67%、ネックイン率は2.24%であった。
【0115】
(比較例1−1)
フィルム押えユニット40を備えていない延伸装置を用い、他の条件は実施例1−2と同じにして自己支持性フィルム(ポリイミドフィルム)を延伸し、実施例1−1と同様にして延伸率およびネックイン率を求めた。延伸の結果、延伸率は9.24%、ネックイン率は5.73%であった。
【0116】
実施例1−1、1−2、および比較例1−1の主な延伸条件、および求めた延伸率、ネックイン率を表1に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
表1より、フィルム押えユニットによりフィルムのTD方向両端部を挟持しながら延伸することで、そうでない場合と比較して、同程度の延伸率でありながらもネックイン率が半分以下に低減されることがわかる。特に、下押えローラをばねで支持すること、およびフィルムを熱風で加熱することを組み合わせることで、ネックイン率をさらに低減させることができる。
【0119】
(実施例2)
実施例2では、ポリイミドフィルム(自己支持性フィルム)を延伸したときの装置の設定延伸率と、自己支持性フィルムを延伸後に熱キュアを実施して得たポリイミドフィルムから計測した実延伸率と、熱線膨張係数との関係を調べた。
線膨張係数は、セイコーインスツル株式会社製の熱機械的分析装置TMA/SS6100を使用し、20℃/分の速度で昇温したときの50〜200℃の平均線膨張係数を測定した。
【0120】
(実施例2−1)
製膜されたポリイミドフィルム(自己支持性フィルム)を、実施例1−1で用いたものと同じ延伸装置1を用いてMD方向に延伸した。延伸率は12%に設定した。上押えローラ43と下押えローラ46とにより自己支持性フィルム(ポリイミドフィルム)を挟持させるためにエアシリンダに導入したエアの圧力は0.06MPaに設定した。次いで、このMD方向に延伸された自己支持性フィルム(ポリイミドフィルム)を、テンター装置を用いてTD方向に延伸し、逐次二軸延伸フィルムを得た。このときの幅方向の延伸率は12%に設定した。延伸温度および時間は140〜170℃×143秒とした。
【0121】
その後、同一のテンター装置にて連続して熱キュアを実施した。熱キュアでは、最終的な加熱温度が480℃となるように加熱炉内で280秒間加熱を行った。
得られたポリイミドフィルムの線膨張係数を測定したところ、MDについては6.11ppm/℃、TDについては4.80ppm/℃であった。また、実施例1と同様にして求めた実延伸率は、MDについては11.8%、TDについては15.4%で、ネックイン率は0.18%であった。
【0122】
(比較例2−1)
フィルム押えユニット40を備えていない延伸装置を用い、他の条件は実施例2−1と同じにして自己支持性フィルム(ポリイミドフィルム)をMD方向およびTD方向に延伸し、逐次二軸延伸フィルムを得た。それぞれの延伸率の設定は12%とした。得られた二軸延伸フィルムの線膨張係数を測定したところ、MDについては4.33ppm/℃、TDについては11.22ppm/℃であった。また、実延伸率は、MD方向については11.9%、TD方向については8.0%で、ネックイン率は6.93%であった。
【0123】
実施例2−1および比較例2−1の主な延伸条件および熱線膨張係数等の測定結果を表2に示す。
【0124】
【表2】
【0125】
表2より、実施例2−1では、MD延伸時にフィルム押えユニットによりネックインがほとんど生じていないことがわかる。ネックインがほとんど生じないことにより、所望のTD延伸が確実に行われ、それによりTD方向の線膨張係数も低下している。
【0126】
一方、比較例2−1では、フィルム押えユニットを用いていないため、MD延伸時に大きくネックインが生じている。それにより、実施例2−1と同じTD方向の装置設定延伸率にもかかわらず、実延伸率はネックインが生じた分、小さくなっている。その結果、TD方向の線膨張係数が大きくなっている。この値を下げるには、TD方向の装置設定延伸率をさらに大きくしなければならず、テンター装置に負担をかけることになる。
【0127】
(実施例3)
実施例3では、自己支持性フィルムの延伸率の異なる複数種のポリイミドフィルムを製造し、得られたポリイミドフィルムについてMD方向およびTD方向の線膨張係数を測定した。延伸は、MD方向およびTD方向、あるいは、MD方向のみについて実施し、MD方向への延伸に、図1等に示した、上押えローラ43および下押えローラ46を有する延伸装置を用いた。線膨張係数は、セイコーインスツル株式会社製の熱機械的分析装置TMA/SS6100を使用し、20℃/分の速度で昇温したときの50〜200℃の平均線膨張係数を測定した。
【0128】
また、上記により得られたポリイミドフィルムとの比較のため、比較例として、フィルム押えユニットを有していない従来の延伸装置を用いたこと以外は上記と同様に延伸率の異なる複数種のポリイミドフィルムを製造し、得られたポリイミドフィルムについて、上記と同様にしてMD方向およびTD方向の線膨張係数を測定した。
【0129】
得られたポリイミドフィルムの延伸率および線膨張係数を表3に示す。なお、表3中の「延伸率」は、延伸装置の設定延伸率である。また、フィルム押えユニットの欄において、「○」はフィルム押えユニットが備えられている延伸装置を用いてMD延伸したことを意味し、「×」はフィルム押えユニットが備えられていない延伸装置を用いてMD延伸したことを意味する。
【0130】
【表3】
【0131】
表3より、MD延伸については、いずれの延伸率においても、フィルム押えユニットを備えていない延伸装置で延伸したフィルムと比べてフィルム押えユニットを備えた延伸装置で延伸したフィルムのほうが、MDにおける線膨張係数が小さいことがわかる。TDにおける線膨張係数の低減効果は、MD延伸とほぼ同様の傾向を示し、延伸率が高いほど顕著である。例えば、実施例3−1と比較例3−1との間では、TDでの線膨張係数の低減効果は約20%であるが、MD延伸率を高くした実施例3−3と比較例3−3との間では、TDでの線膨張係数の低減効果は約50%となる。また、TD延伸を実施しない実施例3−2と比較例3−2との間では、両者のTDでの線膨張係数はほぼ同じであるが、TD延伸率を高くした実施例3−4と比較例3−4との間では、TDでの線膨張係数の低減効果は約70%にも達する。また、低減効率を高めることにより参考例3−5では、未延伸の比較例3−6に対して、線膨張係数を15ppm/℃程度から5ppm/℃程度まで低減できている。
【0132】
フィルム押えユニットが無い場合に比べ、ある場合の方が線膨張係数をより低い範囲まで制御することができる。具体的には、線膨張係数をMD方向、TD方向ともに5〜15ppm/℃の範囲に制御することができる。
【符号の説明】
【0133】
1 延伸装置
10 繰り出しローラ
20 巻き取りローラ
30 加熱炉
40 フィルム押えユニット
41 リニアアクチュエータ
42 上プレート
43 上押えローラ
45 下プレート
45a サブプレート
46 下押えローラ
47 ばね
図1
図2
図3
図4
図5
図6