特許第5692272号(P5692272)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5692272
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】耐久型防水・防湿性コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/16 20060101AFI20150312BHJP
   C09D 143/04 20060101ALI20150312BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20150312BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20150312BHJP
   H01R 13/52 20060101ALI20150312BHJP
   H01R 13/00 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   C09D133/16
   C09D143/04
   C09D7/12
   C09K3/18 102
   C09K3/18 103
   H01R13/52 Z
   H01R13/00 B
【請求項の数】11
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2013-72207(P2013-72207)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-231168(P2013-231168A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2013年3月29日
(31)【優先権主張番号】特願2012-84246(P2012-84246)
(32)【優先日】2012年4月2日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 浩治
(72)【発明者】
【氏名】椛澤 誠
(72)【発明者】
【氏名】森田 正道
(72)【発明者】
【氏名】山口 央基
【審査官】 安藤 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−016940(JP,A)
【文献】 特開平02−028270(JP,A)
【文献】 特開昭64−045411(JP,A)
【文献】 特開2009−046575(JP,A)
【文献】 特開2000−086996(JP,A)
【文献】 特表2011−510802(JP,A)
【文献】 特表2004−519534(JP,A)
【文献】 特表2005−528499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00〜C09D201/10
C09K3/18
H01R3/00〜H01R43/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)下記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有アクリル酸エステルをラジカル重合して得られる重合体であって、下記(1)又は(2)に示す重合体からなる含フッ素ポリマー
(1)該フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルと下記一般式(2)で表されるアルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを含む単量体成分をラジカル重合させることによって得られる重合体、
(2)下記一般式(3)で表されるアルコキシシリル基含有メルカプタンの存在下で、該フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルをラジカル重合させることによって得られる重合体、
及び
(II)フッ素系溶剤
を含有し、かつ
固形分濃度が0.2〜2重量%である
ことを特徴とする、電子部品のコネクタ用耐久型防水・防湿性コーティング組成物
【化1】
(式中、Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、置換若しくは非置換のフェニル基、又は炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基であり、Yは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1〜10の脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の環状脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香脂肪族基、−CH2CH2N(R1)SO2基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル
基である。)、−CH2CH(OY1)CH2基(但し、Y1は水素原子またはアセチル基である。)、又は-(CH2)nSO2-基(nは1〜10)であり、Rfは炭素数4〜6の直鎖状または
分岐状のフルオロアルキル基である。);
【化2】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜4のアルコキシ基であり、Rは、ラジカル重合性不飽和結合を含む基である。);
【化3】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜4のアルコキシ基であり、R10は、炭素数1〜12の直鎖状のアルキレン基である。)。
【請求項2】
(1)に示す含フッ素ポリマーが、
アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーの使用量が、単量体成分として用いるフルオロアルキル基含有アクリル酸エステル100重量部に対して、0.1〜20重量部であり、かつ
さらに、単量体成分として、高軟化点モノマーを用いて得られる共重合体であり、また、(2)に示す含フッ素ポリマーが、
アルコキシシリル基含有メルカプタンの使用量が、単量体成分として用いるフルオロアルキル基含有アクリル酸エステル100重量部に対して、0.1〜5重量部であり、かつさらに、単量体成分として、高軟化点モノマーを用いて得られる共重合体であり、かつ、フッ素系溶剤が、ハイドロフルオロエーテルである、
請求項1に記載の電子部品のコネクタ用耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
【請求項3】
含フッ素ポリマーが、アルコキシシリル基含有メルカプタンの存在下で、該フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルをラジカル重合させることによって得られる重合体であって、更に、単量体成分として、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを用いて得られる共重合体である、請求項1又は2に記載の電子部品のコネクタ用耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
【請求項4】
高軟化点モノマーが、該高軟化点モノマーからなるホモポリマーのガラス転移点又は融点が100℃以上となるモノマーである、請求項2又は3に記載の電子部品のコネクタ用耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
【請求項5】
含フッ素ポリマーが、下記一般式(5):
【化4】
(式中、Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シア
ノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、置換若しくは非置換のフェニル基、又は炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基である。Yは、直接結合、酸素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい炭素数1〜10の脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の環状脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香脂肪族基、−CH2CH2N(R1)SO2基(但し、R1は炭素数
1〜4のアルキル基である。)、−CH2CH(OY1)CH2基(但し、Y1は水素原子またはアセチル基である。)、又は-(CH2)nSO2-基(nは1〜10)である。Rfは、炭素数
の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基である。R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜4のアルコキシ基である。R5‘は、ラジカル重合性不飽和結合を含む基に由来する2価の基である。R11は、H又はCHであり、R12は、炭素数4〜20で水素原子に対する炭素原子の比率が0.58以上の飽和アルキル基を有する基であ
る。l、m及びnは、それぞれ1以上の整数であって、l、m及びnの合計は、重量平均分子量が3,000〜500,000となる数値である。尚、l、m、及びn付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)で表される構造部分を有するものである、請求項1〜のいずれかに記載の電子部品のコネクタ用耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
【請求項6】
含フッ素ポリマーが、下記一般式(6):
【化5】
(式中、Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、置換若しくは非置換のフェニル基、又は炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基である。Yは、直接結合、酸素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい炭素数1〜10の脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の環状脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香脂肪族基、−CH2CH2N(R1)SO2基(但し、R1は炭素数
1〜4のアルキル基である。)、−CH2CH(OY1)CH2基(但し、Y1は水素原子またはアセチル基である。)、又は-(CH2)nSO2-基(nは1〜10)である。Rfは、炭素数
の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基である。R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜4のアルコキシ基である。R10は、炭素数1〜12の直鎖状のアルキレン基である。nは、重量平均分子量が3,000〜500,000となる数値である。)で表される末端にアルコキシシリル基を有するポリマーを含むものである、請求項1〜のいずれか記載の電子部品のコネクタ用耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
【請求項7】
更に、パーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物を含有する請求項1〜のいずれかに記載の電子部品のコネクタ用耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
【請求項8】
パーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物の含有量が、含フッ素ポリマー100重量部に対して1〜20重量部である、請求項に記載の電子部品のコネクタ用耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載の耐久型防水・防湿性コーティング組成物に被処理物を接
触させる工程を含む、耐久型防水・防湿性皮膜の形成方法。
【請求項10】
被処理物が電子部品のコネクタである、請求項に記載の耐久型防水・防湿性皮膜の形成方法。
【請求項11】
請求項1〜のいずれかに記載の耐久型防水・防湿性コーティング組成物によって防水・防湿性皮膜が形成された電子部品のコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の基材に対して耐摩耗性に優れた防水性及び防湿性を有する皮膜を形成できるコーティング組成物、及び耐化学的浸食性が要求される電子部品に対して、その機能を阻害することなく、耐摩耗性に優れた防水及び防湿性皮膜を形成することが可能なコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、タブレットに代表される多機能携帯端末が普及するに伴い、防水及び防湿性を付与する方法が課題となっている。これらのデバイスは、小型の筐体内部に極めて多くの電子部品を配列しているために余分な隙間がほとんどなく、従来から用いられているシリコーンゴムでパッキンすることは難しい。また、HumiSeal(米国Chase Corp.社製)に代表される非フッ素系防水・防湿コーティング剤は100μm以上の非常に分厚い膜厚で製膜しないと、十分な防水・防湿性能を発揮できない。
【0003】
フルオロアルキル(メタ)アクリレートホモポリマーをフッ素系溶剤に溶解した形態のフッ素系防水・防湿コーティング剤は、膜厚1μm以下で十分な防水・防湿性能を発揮できるので、多機能携帯端末への使用が注目されている。しかしながら、従来のフッ素系防水・防湿コーティング剤は、耐摩耗性が十分ではなく、生産ラインで作業者や組立装置が誤って防水・防湿加工部分に触れたり、消費者が防水・防湿加工した充電コネクター、イヤホンジャックを繰り返し使用することで、フッ素系ポリマーが剥がれて、初期の防水・防湿性能を維持できない問題があった。
【0004】
その他、ポリフルオロアルキル基含有重合体を不燃性の低沸点溶剤に溶解した溶液を電子部品表面に塗布し、溶剤を乾燥させることにより、ポリフルオロアルキル基含有重合体からなる被覆膜を形成する方法が知られている(下記特許文献1参照)。しかしながら、この方法で用いる処理液は、使用が禁止されている特定フロンを溶剤として用いているために、現在では用いることができない。
【0005】
下記特許文献2には、炭素数6のパーフルオロアルキル基を含む(メタ)アクリレートモノマーと官能基含有モノマーとの共重合体と、その共重合体を溶解できるフッ素系溶剤からなるフッ素系表面改質組成物が開示されている。この共重合体の官能基として、基材と化学反応できるか、あるいは、親和性が良好なものを選択すると、塗膜の耐摩耗性が向上することが期待される。しかしながら、上記方法では、パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレートモノマーにわずか数重量%程度の官能基含有モノマーを共重合するだけで、フッ素系溶剤に対する溶解性が低下するという問題がある。このため、十分な量の官能基を導入することができず、塗膜の耐摩耗性を十分に向上させることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−189693号公報
【特許文献2】特開2009−57530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、各種の基材に対して、耐摩耗性に優れた良好な防水及び防湿性能を有する皮膜を形成できるコーティング組成物を提供すること、及び耐化学的浸食性が要求される電子部品に対して、その機能を阻害することなく、耐摩耗性に優れた防水及び防湿性皮膜を形成することが可能なコーティング組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、フルオロアルキル基を有し、α位に置換基を有することのあるアクリル酸エステルを単量体として用い、該フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルとアルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを含む単量体成分をラジカル重合して得られる重合体、又は該フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルをアルコキシシリル基含有メルカプタンの存在下でラジカル重合して得られる重合体は、フッ素系溶剤、特に、化学的浸食性が低く、環境に対する悪影響が少ないハイドロフルオロエーテルに対する溶解性が良好であることを見出した。そして、該含フッ素ポリマーをフッ素系溶剤に溶解した組成物は、電子部品を含む各種の材料に対して悪影響を及ぼすことなく、耐摩耗性に優れた防水・防湿皮膜を形成することができることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の耐久型防水・防湿性コーティング組成物、及び耐久型防水・防湿性皮膜の形成方法を提供するものである。
項1.
(I)カルボキシル基に対して直接又は2価の有機基を介してエステル結合したフルオロアルキル基を有し、α位に置換基を有することのあるフルオロアルキル基含有アクリル酸エステルをラジカル重合して得られる重合体であって、下記(1)又は(2)に示す含重合体からなるフッ素ポリマー
(1)該フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルとアルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを含む単量体成分をラジカル重合させることによって得られる重合体、
(2)アルコキシシリル基含有メルカプタンの存在下で、該フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルをラジカル重合させることによって得られる重合体、
及び
(II)フッ素系溶剤
を含有することを特徴とする耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
項2. フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルが、下記一般式(1):
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、置換若しくは非置換のフェニル基、又は炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基であり、Yは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1〜10の脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の環状脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香脂肪族基、−CH2CH2N(R1)SO2基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH2CH(OY1)CH2基(但し、Y1は水素原子またはアセチル基である。)、又は-(CH2)nSO2-基(nは1〜10)であり、Rfは炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基である。)で表される化合物である、上記項1に記載の耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
項3. フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルが、一般式(1)において、Rfが炭素数4〜6の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基であり、Xが水素以外の原子又は基である、α位が置換されたカルボン酸エステルである、上記項2に記載の耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
項4. 含フッ素ポリマーが、フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルとアルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを含む単量体成分をラジカル重合させることによって得られる重合体であって、更に、単量体成分として、高軟化点モノマーを用いて得られる共重合体である、上記項1〜3のいずれかに記載の耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
項5. 含フッ素ポリマーが、アルコキシシリル基含有メルカプタンの存在下で、該フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルをラジカル重合させることによって得られる重合体であって、更に、単量体成分として、高軟化点モノマーを用いて得られる共重合体である、上記項1〜3のいずれかに記載の耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
項6. 含フッ素ポリマーが、アルコキシシリル基含有メルカプタンの存在下で、該フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルをラジカル重合させることによって得られる重合体であって、更に、単量体成分として、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを用いて得られる共重合体である、上記項1〜3、及び5のいずれかに記載の耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
項7. アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーが、式(2)
【0012】
【化2】
【0013】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基であって、R、R及びRの少なくとも一つはアルコキシ基であり、Rは、ラジカル重合性不飽和結合を含む基である。)で表される化合物である、上記項1〜4及び6のいずれかに記載の耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
項8. アルコキシシリル基含有メルカプタンが、一般式(3):
【0014】
【化3】
【0015】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基であって、R、R及びRの少なくとも一つはアルコキシ基である。R10は、炭素数1〜12の直鎖状のアルキレン基である。)で表される化合物である、上記項1〜3、5〜7のいずれかに記載の耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
項9. 高軟化点モノマーが、該高軟化点モノマーからなるホモポリマーのガラス転移点又は融点が100℃以上となるモノマーである、上記4〜8のいずれかに記載の耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
項10. 含フッ素ポリマーが、下記一般式(5):
【0016】
【化4】
【0017】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、置換若しくは非置換のフェニル基、又は炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基である。Yは、直接結合、酸素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい炭素数1〜10の脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の環状脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香脂肪族基、−CH2CH2N(R1)SO2基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH2CH(OY1)CH2基(但し、Y1は水素原子またはアセチル基である。)、又は-(CH2)nSO2-基(nは1〜10)である。Rfは、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基である。R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基であって、R、R及びRの少なくとも一つはアルコキシ基である。R5‘は、ラジカル重合性不飽和結合を含む基に由来する2価の基である。R11は、H又はCHであり、R12は、炭素数4〜20で水素原子に対する炭素原子の比率が0.58以上の飽和アルキル基を有する基である。l、m及びnは、それぞれ1以上の整数であって、l、m及びnの合計は、重量平均分子量が3,000〜500,000となる数値である。尚、l、m、及びn付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)で表される構造部分を有するものである、上記項1〜4、7及び9のいずれかに記載の耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
項11. 含フッ素ポリマーが、下記一般式(6):
【0018】
【化5】
【0019】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、置換若しくは非置換のフェニル基、又は炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基である。Yは、直接結合、酸素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい炭素数1〜10の脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の環状脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香脂肪族基、−CH2CH2N(R1)SO2基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH2CH(OY1)CH2基(但し、Y1は水素原子またはアセチル基である。)、又は-(CH2)nSO2-基(nは1〜10)である。Rfは、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基である。R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基であって、R、R及びRの少なくとも一つはアルコキシ基である。R10は、炭素数1〜12の直鎖状のアルキレン基である。nは、重量平均分子量が3,000〜500,000となる数値である。)で表される末端にアルコキシシリル基を有するポリマーを含むものである、上記項1〜3、5〜9のいずれか記載の耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
項12. フッ素系溶剤が、ハイドロフルオロエーテルである上記項1〜11のいずれかに記載の耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
項13. 更に、パーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物を含有する上記項1〜12のいずれかに記載の耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
項14. パーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物の含有量が、含フッ素ポリマー100重量部に対して1〜20重量部である、上記項1〜13のいずれかに記載の耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
項15. 固形分濃度が0.2〜2重量%である、上記項1〜14のいずれかに記載の電子部品のコネクタ用耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
項16. 被処理物が電子部品である、上記項1〜15のいずれかに記載の耐久型防水・防湿性コーティング組成物。
項17. 上記項1〜16のいずれかに記載の耐久型防水・防湿性コーティング組成物に被処理物を接触させる工程を含む、耐久型防水・防湿性皮膜の形成方法。
項18. 被処理物が電子部品である、上記項17に記載の耐久型防水・防湿性皮膜の形成方法。
項19. 上記項15に記載の耐久型防水・防湿性コーティング組成物によって防水・防湿性皮膜が形成された電子部品のコネクタ。
項20. 下記一般式(5):
【0020】
【化6】
【0021】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、置換若しくは非置換のフェニル基、又は炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基である。Yは、直接結合、酸素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい炭素数1〜10の脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の環状脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香脂肪族基、−CH2CH2N(R1)SO2基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH2CH(OY1)CH2基(但し、Y1は水素原子またはアセチル基である。)、又は-(CH2)nSO2-基(nは1〜10)である。Rfは、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基である。R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基であって、R、R及びRの少なくとも一つはアルコキシ基である。R5‘は、ラジカル重合性不飽和結合を含む基に由来する2価の基である。R11は、H又はCHであり、R12は、炭素数4〜20で水素原子に対する炭素原子の比率が0.58以上の飽和アルキル基を有する基である。l、m及びnは、それぞれ1以上の整数であって、l、m及びnの合計は、重量平均分子量が3,000〜500,000となる数値である。尚、l、m、及びn付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)で表される構造部分を有する、含フッ素ポリマー。
項21. 一般式(6):
【0022】
【化7】
【0023】
(式中、Xは、フッ素原子又は塩素原子である。Yは、直接結合、酸素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい炭素数1〜10の脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の環状脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香脂肪族基、−CH2CH2N(R1)SO2基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH2CH(OY1)CH2基(但し、Y1は水素原子またはアセチル基である。)、又は-(CH2)nSO2-基(nは1〜10)である。Rfは、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基である。R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基であって、R、R及びRの少なくとも一つはアルコキシ基である。R10は、炭素数1〜12の直鎖状のアルキレン基である。nは、重量平均分子量が3,000〜500,000となる数値である。)で表される含フッ素ポリマー。
【0024】
以下、本発明のコーティング組成物について具体的に説明する。
【0025】
含フッ素ポリマー
本発明のコーティング組成物に配合する含フッ素ポリマーは、カルボキシル基に対して直接又は2価の有機基を介してエステル結合したフルオロアルキル基を有し、α位に置換基を有することのあるアクリル酸エステル(以下、「フルオロアルキル基含有アクリル酸エステル」ということがある)を単量体成分として用いて得られる重合体であって、該アルコキシシリル基含有アクリル酸エステルとアルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを含む単量体成分を共重合して得られる共重合体、又は該フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルをアルコキシシリル基含有メルカプタンの存在下でラジカル重合して得られる重合体である。
【0026】
以下、本発明の含フッ素ポリマーを得るための各成分について、説明する。
【0027】
(i)単量体成分
(1)フルオロアルキル基含有アクリル酸エステル
本発明組成物で用いるフッ素系ポリマーの製造に用いる単量体成分のうちで、フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルは、α位に置換基を有することのあるアクリル酸に対して、フルオロアルキル基が直接又は2価の有機基を介してエステル結合したものである。
【0028】
上記したフルオロアルキル基含有アクリル酸エステルの好ましい具体例としては、下記一般式(1):
【0029】
【化8】
【0030】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、置換若しくは非置換のフェニル基、又は炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基であり、Yは、直接結合、酸素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい炭素数1〜10の脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の環状脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香脂肪族基、−CH2CH2N(R1)SO2基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH2CH(OY1)CH2基(但し、Y1は水素原子またはアセチル基である。)、又は-(CH2)nSO2-基(nは1〜10)であり、Rfは炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基である。)で表されるアクリル酸エステルを例示できる。
【0031】
上記一般式(1)において、Rfで表されるフルオロアルキル基は、少なくとも一個の水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基であり、全ての水素原子がフッ素原子で置換されたパーフルオロアルキル基も包含するものである。
【0032】
上記一般式(1)で表されるアクリル酸エステルでは、後述するフッ素系有機溶媒、特に、ハイドロフルオロエーテルに対する溶解性が良好である点で、Rfが炭素数4〜6の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基であることが好ましく、特に、炭素数4〜6の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基であることが好ましい。尚、Rfが炭素数4〜6の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基である場合には、形成される皮膜の耐防水性をより向上させるために、上記一般式(1)において、Xで表されるα位の置換基が水素原子以外の基又は原子であるα位置換アクリル酸エステルであることが好ましい。特に、α位の置換基Xが、メチル基、塩素原子又はフッ素原子である場合には、低価格の原料を用いて、良好な防水性を有する皮膜を形成できる。特に、α位の置換基Xがメチル基である場合には、電子部品に対する腐食作用が小さい点で好ましい。
【0033】
上記した一般式(1)で表されるアクリル酸エステルの具体例は、次の通りである。
【0034】
【化9】
【0035】
【化10】
【0036】
【化11】
【0037】
上記したフルオロアルキル基含有アクリル酸エステルは、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0038】
(2)アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマー
本発明で用いるアルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーは、下記組成式(2)
【0039】
【化12】
【0040】
で表されるものである。上記一般式(2)において、R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基であって、R、R及びRの少なくとも一つはアルコキシ基である。アルコキシ基としては、メトキシ基、メトキシ基などが好ましく、R、R及びRが全てメトキシ基又はエトキシ基であることが特に好ましい。Rは、ラジカル重合性不飽和結合を含む基である。
【0041】
上記したアルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを単量体成分として含むことによって、アルコキシシリル基を側鎖に含む含フッ素ポリマーが形成され、このアルコキシシリル基が基材に対する密着性の向上に寄与する。
【0042】
該アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーとしては、具体的には、下記式で表されるモノマーを例示できる。
【0043】
【化13】
【0044】
上記各式において、R、R及びRは、上記に同じであり、Rは水素原子、メチル基、又はClであり、nは1〜10の整数である。
【0045】
上記したアルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーは、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0046】
(ii) アルコキシシリル基含有メルカプタン
アルコキシリル基含有メルカプタンは、連鎖移動剤として作用するものであり、ポリマーの重合度を調整すると共に、その一部が、形成されるフッ素系ポリマーに結合して、末端に存在するアルコキシシリル基が基材に対する密着性の向上に寄与し,耐摩耗性に優れた含フッ素ポリマーを作製することが可能である。
【0047】
アルコキシシリル基含有メルカプタンとしては、少なくとも一個のアルコキシ基を含むアルコキシシリル基と、メルカプト基を有する化合物であれば特に限定なく使用できる。好ましいアルコキシシリル基含有メルカプタンとしては、下記一般式(3):
【0048】
【化14】
【0049】
で表される化合物を挙げることができる。
【0050】
上記一般式(3)において、R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基であって、R、R及びRの少なくとも一つはアルコキシ基である。アルコキシ基としては、メトキシ基が好ましく、R、R及びRが全てメトキシ基であることが特に好ましい。R10は、炭素数1〜12の直鎖状のアルキレン基である。
【0051】
上記したアルコキシシリル基含有メルカプタンは、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0052】
上記一般式(3)で表されるアルコキシシリル基含有メルカプタンでは、後述するフッ素系溶剤に対する溶解性の観点より、R10が、炭素数1〜4の直鎖状のアルキレン基であることが好ましい。
【0053】
(iii)含フッ素ポリマーの製造方法
以下、本発明で用いる含フッ素ポリマーの製造方法について、フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルとアルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを含む単量体成分をラジカル重合させることによって得られる含フッ素ポリマー(以下、「含フッ素ポリマー1」ということがある)と、アルコキシシリル基含有メルカプタンの存在下で、フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルをラジカル重合させることによって得られる含フッ素ポリマー(以下、「含フッ素ポリマー2」ということがある)に分けて記載する。
【0054】
(1)含フッ素ポリマー1
含フッ素ポリマー1は、フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルとアルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを必須成分として含む単量体成分をラジカル重合させることによって得ることができる。
【0055】
アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーの使用量は、単量体成分として用いるフルオロアルキル基含有アクリル酸エステル100重量部に対して、0.1〜20重量部程度とすることが好ましい。
【0056】
含フッ素ポリマー1では、フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルとアルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーに加えて、必要に応じて、単量体成分として、高軟化点モノマーを用いることができる。該高軟化点モノマーは、該高軟化点モノマーからなるホモポリマーのガラス転移点又は融点が100℃以上、好ましくは120℃以上のモノマーである。この場合、ガラス転移点が存在するポリマーについてはガラス転移点が100℃以上であることが必要であり、ガラス転移点が存在しないポリマーについては、融点が100℃以上であることが必要である。
【0057】
尚、ガラス転移点と融点は、それぞれJIS K7121-1987「プラスチックの転移温度測定方法」で規定される補外ガラス転移終了温度(Teg)、及び融解ピーク温度(Tpm)とする。
【0058】
この様な条件を満足する高軟化点モノマーを、上記したフルオロアルキル基含有アクリル酸エステル及びアルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーと共に単量体成分として用いることによって、得られる含フッ素ポリマーから形成される皮膜は、優れた防水・防湿性能を有するものとなる。更に、含フッ素ポリマーから形成される皮膜は、硬度が向上して、耐摩耗性などの耐久性が良好となる。
【0059】
特に、高軟化点モノマーを単量体成分として用いて得られる含フッ素ポリマーから形成される皮膜は、被処理物表面に付着した水滴の除去性能を示す指標となる動的撥水性が非常に良好である。このため、プリント基板などの被処理物表面に水が付着した場合にも、水切れが良く、水による故障発生の可能性を大きく低減することができる。尚、動的撥水性については、後述する実施例に記載した水の転落角によって評価することができる。
【0060】
上記した高軟化点モノマーの使用量は、フルオロアルキル基含有アクリル酸エステル100重量部に対して、1〜30重量部程度とすることが好ましく、1〜20重量部程度とすることがより好ましい。
【0061】
高軟化点モノマーとしては、特に、下記一般式(4)
CH=C(R11)COOR12 (4)
(式中、R11は、H又はCHであり、R12は、炭素数4〜20で水素原子に対する炭素原子の比率が0.58以上の飽和アルキル基を有する基である。)で表される(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。一般式(4)において、炭素数4〜20で水素原子に対する炭素原子の比率が0.58以上の飽和アルキル基の具体例としては、イソボルニル、ボルニル、フェンシル(以上はいずれもC1017, 炭素原子/水素原子=0.58)、アダマンチル(C1015, 炭素原子/水素原子=0.66)、ノルボルニル(C12, 炭素原子/水素原子=0.58)などの架橋炭化水素環を有する基が挙げられる。これらの架橋炭化水素環は、カルボキシル基に直接結合してもよく、或いは、炭素数1〜5の直鎖状又は分枝鎖状のアルキレン基を介して、カルボキシル基に結合していてもよい。これらの架橋炭化水素環には、更に、水酸基やアルキル基(炭素数、例えば1〜5)が置換していても良い。
【0062】
本発明で使用できる高軟化点モノマーの具体例としては、上記した一般式(4)で表される(メタ)アクリル酸エステルの他に、メチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等を挙げることができる。
【0063】
一般式(4)で表される(メタ)アクリル酸エステルとしては、イソボルニル基を有する(メタ)アクリレート、ノルボルニル基を有する(メタ)アクリレート、アダマンチル基を有する(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの内で、ノルボルニル基を有する(メタ)アクリレートとしては、3-メチル-ノルボルニルメチル(メタ)アクリレート、ノルボルニルメチル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、1,3,3-トリメチル-ノルボルニル(メタ)アクリレート、ミルタニルメチル(メタ)アクリレート、イソピノカンファニル(メタ)アクリレート、2-{[5-(1’,1’,1’-トリフルオロ-2’-トリフルオロメチル-2’-ヒドロキシ)プロピル]ノルボルニル }(メタ)アクリレート等を例示でき、アダマンチル基を有する(メタ)アクリレートとしては、2-メチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-1-アダマンチル(メタ)アクリレート、1-アダマンチル-α-トリフルオロメチル(メタ)アクリレート等を例示できる。
【0064】
本発明では、含フッ素ポリマーを得るための単量体成分として、更に、必要に応じて、その他の単量体も用いることができる。その他の単量体は、含フッ素ポリマーを得るために用いる単量体成分の総量を基準として、20重量%程度以下であればよく、10重量%以下であることが好ましい。
【0065】
その他の単量体としては、フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルと共重合可能な単量体であればよく、得られる含フッ素ポリマーの性能に悪影響を及ぼさない限り、広範囲に選択可能である。例えば、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、アリルエステル化合物、不飽和基含有エーテル化合物、マレイミド化合物、(メタ)アクリル酸エステル、アクロレイン、メタクロレイン、環化重合可能な単量体、N−ビニル化合物などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0066】
重合方法については特に限定はないが、フッ素系溶剤中で溶液重合を行うことが好ましい。この方法によれば、形成される含フッ素ポリマーがフッ素系溶剤に対して溶解性が良好であることから、沈殿物が形成されることなく、円滑にラジカル重合反応を進行させることができる。
【0067】
フッ素系溶剤としては、分子中にフッ素原子を有し、形成される含フッ素ポリマーの溶解性が良好な溶媒であれば、炭化水素化合物、アルコール、エーテル等のいずれであってもよく、また、脂肪族及び芳香族のいずれであってもよい。例えば、塩素化フッ素化炭化水素(特に、炭素数2〜5)、特にHCFC225(ジクロロペンタフルオロプロパン)、HCFC141b(ジクロロフルオロエタン)、CFC316(2,2,3,3-テトラクロロヘキサフルオロブタン,)、バートレルXF(化学式 C10)(デュポン社製)、ヘキサフルオロ−m−キシレン、ペンタフルオロプロパノール、フッ素系エーテル等を用いることができる。
【0068】
特に、最終的に目的とするコーティング組成物の溶媒としてハイドロフルオロエーテルを用いる場合には、重合反応時の溶媒としても同様のハイドロフルオロエーテルを用いることによって、含フッ素ポリマーの分離工程などを省略して効率よくコーティング組成物を得ることができる。
【0069】
フッ素系溶剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0070】
フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルをフッ素系溶剤中でラジカル重合させる場合には、例えば、該フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルを溶媒に溶解させ、得られた溶液を攪拌しながら重合開始剤を添加することによって、重合反応を進行させることができる。
【0071】
重合開始剤としては、公知のラジカル重合反応用の重合開始剤であれば特に限定なく使用できる。例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾイソ酪酸メチル、アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ系開始剤;過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ベンゾフェノン誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、ベンゾケトン誘導体、フェニルチオエーテル誘導体、アジド誘導体、ジアゾ誘導体、ジスルフィド誘導体などを用いることができる。これらの重合開始剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0072】
重合開始剤の使用量は、特に限定されないが、通常、単量体成分として用いるフルオロアルキル基含有アクリル酸エステル100重量部に対して、0.01〜10重量部程度とすることが好ましく、0.1〜1重量部程度とすることがより好ましい。
【0073】
フッ素系溶剤中におけるフルオロアルキル基含有アクリル酸エステルの濃度については特に限定的ではないが、通常、10〜50重量%程度とすることが好ましく、20〜40重量%程度とすることがより好ましい。
【0074】
重合温度、重合時間などの重合条件は、単量体成分の種類、その使用量、重合開始剤の種類、その使用量などに応じて適宜調整すればよいが、通常、50〜100℃程度の温度で4〜10時間の重合反応を行えばよい。
【0075】
上記した方法で得られる含フッ素ポリマー1の重量平均分子量は、3,000〜500,000程度、好ましくは5,000〜300,000程度である。含フッ素ポリマーの重量平均分子量は、溶出溶媒としてHCFC225/ヘキサフルオロイソプロパノール(=90/10重量)混合溶媒を用いたGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により求めたものである(標準ポリメチルメタクリレート換算)。
【0076】
上記した方法で得られる含フッ素ポリマー1は、フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルとアルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーに基づく構成単位を有する共重合体である。また、高軟化点モノマーを用いた場合には、高軟化点モノマーに基づく構造単位を含むものとなる。
【0077】
これらの内で、例えば、高軟化点モノマーとして、上記式(4)で表される(メタ)アクリル酸エステルを用いて得られた共重合体は、下記化学式(5)で表される構造部分を有する共重合体となる。この共重合体によれば、耐摩耗性に優れ、防水・防湿性能が良好であって、更に、撥水性に優れ水切れが良好な被膜を形成できる。
【0078】
【化15】
【0079】
上記化学式(5)において、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、置換若しくは非置換のフェニル基、又は炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基である。Yは、直接結合、酸素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい炭素数1〜10の脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の環状脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香脂肪族基、−CH2CH2N(R1)SO2基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH2CH(OY1)CH2基(但し、Y1は水素原子またはアセチル基である。)、又は-(CH2)nSO2-基(nは1〜10)である。Rfは、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基である。R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基であって、R、R及びRの少なくとも一つはアルコキシ基である。R5‘は、組成式(2)における基Rに由来する2価の基、即ち、ラジカル重合性不飽和結合を含む基に由来する2価の基である。R11は、H又はCHであり、R12は、炭素数4〜20で水素原子に対する炭素原子の比率が0.58以上の飽和アルキル基を有する基である。l、m及びnは、それぞれ1以上の整数であって、l、m及びnの合計は、重量平均分子量が3,000〜500,000となる数値である。尚、l、m、及びn付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。
【0080】
(2)含フッ素ポリマー2
含フッ素ポリマー2は、上記したアルコキシシリル基含有メルカプタンの存在下で、フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルをラジカル重合させることによって得ることができる。
【0081】
アルコキシシリル基含有メルカプタンの使用量は、単量体成分として用いるフルオロアルキル基含有アクリル酸エステル100重量部に対して、0.01〜25重量部程度とすることが好ましく、0.1〜5重量部程度とすることがより好ましい。
【0082】
含フッ素ポリマー2においても、含フッ素ポリマー1と同様に、必要に応じて、単量体成分として、高軟化点モノマー及びその他のモノマーを用いることができる。高軟化点モノマー及びその他のモノマーの具体例は、含フッ素ポリマー1と同様であり、使用量も含フッ素ポリマー1と同様である。
【0083】
更に、含フッ素ポリマー2を製造する際に、必要に応じて、単量体として、含フッ素ポリマー1の製造で用いたアルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを用いても良い。アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーの種類及び使用量は、含フッ素ポリマー1と同様とすればよい。アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを用いることによって、含フッ素ポリマー2についても、基材への密着性がより一層向上する。
【0084】
重合開始剤の種類、使用量などは含フッ素ポリマー1と同様である。
【0085】
その他の重合条件についても、含フッ素ポリマー1と同様とすればよい。
【0086】
上記した方法で得られる含フッ素ポリマー2の重量平均分子量は、3,000〜500,000程度、好ましくは5,000〜300,000程度である。含フッ素ポリマーの重量平均分子量は、溶出溶媒としてHCFC225/ヘキサフルオロイソプロパノール(=90/10重量)混合溶媒を用いたGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により求めたものである(標準ポリメチルメタクリレート換算)。
【0087】
上記した方法で得られる含フッ素ポリマー2は、単量体として用いた一般式(1)のフルオロアルキル基含有アクリル酸エステルの重合体のポリマー鎖に一般式(3)のアルコキシシリル基含有メルカプタンが結合した下記一般式(6):
【0088】
【化16】
【0089】
で表される、末端にアルコキシシリル基を有するポリマーを含むものとなる。上記一般式(6)において、X、Y、Rf、R、R、R及びR10は前記に同じであり、nは前記した重量平均分子量に対応する数値、即ち、一般式(6)のポリマーの重量平均分子量が3,000〜500,000となる数値である。
【0090】
更に、高軟化点モノマーを用いた場合には、含フッ素ポリマー2は、上記一般式(6)で表される構造のほかに、高軟化点モノマーに基づく構造単位を含むものとなり、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを用いた場合には、該アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーに基づく構成単位を有するものとなる。
【0091】
尚、前述した通り、上記一般式(6)において、Xが塩素原子又はフッ素原子であるポリマーは、低価格の原料を用いて得られ、良好な防水性を有する皮膜を形成できる有用性の高いポリマーであり、従来知られていない新規なポリマーである。
【0092】
耐久型防水・防湿性コーティング組成物
本発明のコーティング組成物は、上記した方法で得られる含フッ素ポリマー1又は含フッ素ポリマー2をフッ素系溶剤に溶解したものである。
【0093】
上記した方法で得られる含フッ素ポリマー1及び含フッ素ポリマー2は、いずれもフルオロアルキル基を含むことによって、良好な撥水性能を有するものとなり、該ポリマーから形成される皮膜は、良好な防水性能を示す。
【0094】
更に、単量体成分としてアルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを用いて得られた含フッ素ポリマー1は、側鎖に存在するアルコキシシリル基によって、各種の基材に対して良好な結合性を示すと共に、架橋性を有するものとなり、形成される皮膜は耐摩耗性及び防水・防湿性能が良好となる。
【0095】
アルコキシシリル基含有メルカプタンの存在下にラジカル重合反応を行って得られた含フッ素ポリマー2についても、重合反応時に存在するアルコキシシリル基含有メルカプタンの少なくとも一部がポリマー鎖に結合しており、その末端に存在するアルコキシシリル基によって、各種の基材に対して良好な結合性を示すと共に、架橋性を有するものとなる。これにより、形成される皮膜は耐摩耗性に優れたものとなり、更に、防水・防湿性能も良好となる。
【0096】
更に、単量体成分として高軟化点モノマーを用いた場合には、含フッ素ポリマー1及び含フッ素ポリマー2のいずれについても、形成される皮膜の撥水性が向上して、水切れが良好になる。
【0097】
本発明の防水・防湿性コーティング組成物では、フッ素系溶剤を用いることによって、上記した含フッ素ポリマーを安定に溶解することができ、沈殿などの生じ難い安定性の良好なコーティング組成物とすることができる。
【0098】
フッ素系溶剤としては、分子中にフッ素原子を有し、形成される含フッ素ポリマーの溶解性が良好な溶媒であれば、炭化水素化合物、アルコール、エーテル等のいずれであってもよく、また、脂肪族及び芳香族のいずれであってもよい。例えば、塩素化フッ素化炭化水素(特に、炭素数2〜5)、特にHCFC225(ジクロロペンタフルオロプロパン)、HCFC141b(ジクロロフルオロエタン)、CFC316(2,2,3,3-テトラクロロヘキサフルオロブタン,)、バートレルXF(分子式C10)(デュポン社製)、ヘキサフルオロ−m−キシレン、ペンタフルオロプロパノール、フッ素系エーテル等を用いることができる。
【0099】
本発明では、特に、フッ素系溶剤として、ハイドロフルオロエーテルを用いることが好ましい。ハイドロフルオロエーテルは各種の材料に対する化学的浸食性が低い溶剤であり、溶剤による悪影響を排除することが強く要求される電子部品に対するコーティング組成物の溶媒として、特に適した溶媒である。更に、ハイドロフルオロエーテルは、速乾性、低環境汚染性、不燃性、低毒性などの優れた性能を有する理想的な溶剤である。
【0100】
本発明では、ハイドロフルオロエーテルとしては、
式: C2m+1-O-C2z+1
[式中、mは1〜6の数、zは1〜6の数である。]
で示される化合物が好ましい。この様なハイドロフルオロエーテルとしては、例えば、米国3M社のノベックHFE7100(化学式C4F9OCH3),7200(化学式C4F9OC2H5),7300(化学式 C2F5CF(OCH3)C3F7)などを用いることができる。
【0101】
本発明では、特に、一般式(1)において、Rfが炭素数4〜6の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基であって、Xが水素原子以外の基又は原子である、α位置換のフルオロアルキル基含有アクリル酸エステルを単量体成分として得られる含フッ素ポリマーをハイドロフルオロエーテルに溶解したコーティング組成物が好ましい。Rfが炭素数4〜6のフルオロアルキル基であるα位置換のフルオロアルキル基含有アクリル酸エステルから形成される含フッ素ポリマーは、ハイドロフルオロエーテルに対する溶解性が良好であって、形成される皮膜は、優れた防水性と防湿性を有し、且つ、基材との結合性が良好な耐摩耗性に優れた皮膜となる。
【0102】
本発明のコーティング組成物では、該組成物中における含フッ素ポリマーの濃度は、固形分濃度として0.01〜30重量%程度であることが好ましく、0.1〜20重量%程度であることがより好ましい。特に、処理対象物が電子部品のコネクタなどの場合には、固形分濃度を0.2〜2重量%程度とすることによって、通電性を阻害することなく、耐摩耗性が良好で優れた防水及び防湿性能を有する皮膜を形成できる。
【0103】
本発明のコーティング組成物は、上記した方法でフッ素化溶媒中でラジカル重合反応を行った後、必要に応じて、ポリマーの濃度を調整した後、そのままコーティング用組成物として用いてもよく、或いは、ラジカル重合反応を行った後、含フッ素ポリマーを分離した後、フッ素系溶剤に溶解してコーティング組成物としてもよい。本発明では、特に、ハイドロフルオロエーテルを溶媒として用いて重合反応を行った後、必要に応じて、ハイドロフルオロエーテルを用いてポリマー濃度を調整してコーティング組成物とすることによって、効率よく目的とするコーティング組成物を得ることができる。
【0104】
本発明のコーティング組成物には、更に、必要に応じて、パーフルオロポリエーテル(PFPE)骨格を有する化合物(以下、「PFPE化合物」ということがある)を配合することができる。PFPE化合物を配合することによって、含フッ素ポリマーから形成される皮膜のすべり性が向上し、耐摩耗性が大きく向上する。
【0105】
本発明では、PFPE化合物としては、下記一般式(7)で表される化合物を用いることができる。
【0106】
A−B−R−B−A (7)
上記式において、A及びAは、同一又は異なって、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1−16アルキル基、又は基:−SiQ3−k(式中:Yは、水酸基、加水分解可能な基、又は炭化水素基を示し、Qは−Z−SiR3−j(Zは二価の有機基であり、Rは水酸基又は加水分解可能な基であり、RはC1−22アルキル基又はQ’であり、Q’はQと同義であり、jは各Q及びQ’において、それぞれ独立して0〜3の整数であって、jの総和は1以上である。)を示し、kは1〜3の整数を示す。)を示す。B及びBは、同一又は異なって、単結合又は2価の有機基を示し、Rはパーフルオロポリエーテル基を示す。
【0107】
上記式(7)において、A及びAで表される基の内で、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1−16アルキル基における「C1−16アルキル基」は、直鎖または分枝鎖の炭素数1〜16のアルキル基であり、好ましくは、直鎖または分枝鎖の炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくは直鎖の炭素数1〜3のアルキル基である。
【0108】
1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されているC1−16アルキル基としては、好ましくはCFH−C1−15パーフルオロアルキレン基であり、さらに好ましくはC1−16パーフルオロアルキル基である。
【0109】
該C1−16パーフルオロアルキル基は、直鎖または分枝鎖の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基であり、好ましくは、直鎖または分枝鎖の炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であり、より好ましくは直鎖の炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、具体的には−CF、−CFCF、または−CFCFCFである。
【0110】
上記式(7)中、Rは、パーフルオロポリエーテル基であり、具体的には、例えば、−(OC−(OC−(OC−(OCF−を表す。ここに、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0または1以上の整数であって、a、b、cおよびdの和が少なくとも1であれば特に限定されるものではないが、好ましくは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であり、より好ましくは、それぞれ独立して0以上100以下の整数であり、さらに好ましくは、a、b、cおよびdの和は、10以上100以下である。また、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。これら繰り返し単位のうち、−(OC)−は、−(OCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCF)−、−(OCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCF(CF))−、−(OC(CFCF)−、−(OCFC(CF)−、−(OCF(CF)CF(CF))−、−(OCF(C)CF)−および−(OCFCF(C))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCFCF)−、−(OCF(CF)CF)−および−(OCFCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCF)−である。また、−(OC)−は、−(OCFCF)−および−(OCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCF)−である。
【0111】
一の態様において、Rは、−(OC−(式中、bは1以上の整数である)であり、好ましくは−(OCFCFCF−である。
【0112】
別の態様において、Rは、−(OC−(OCF−(式中、cおよびdは、それぞれ独立して1以上の整数であり、添字cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)であり、好ましくは−(OCFCF−(OCF−である。また、本態様において、Rは、微量の−(OC−(好ましくは、−(OCFCFCFCF−)および−(OC−(好ましくは、−(OCFCFCF−)を含んでいてもよく、例えば(a+b)/(a+b+c+d)が0.3以下となる割合で含んでいてもよい。
【0113】
上記式(7)中、B及びBは、同一又は異なって、直接結合又は2価の有機基を表す。
【0114】
上記「2価の有機基」とは、本明細書において用いられる場合、炭素を含有する2価の基を意味する。かかる2価の有機基としては、特に限定されるものではないが、炭化水素基からさらに1個の水素原子を脱離させた2価の基が挙げられる。
【0115】
上記「炭化水素基」とは、本明細書において用いられる場合、炭素および水素を含む基を意味する。かかる炭化水素基としては、特に限定されるものではないが、1つまたはそれ以上の置換基により置換されていてもよい、炭素数1〜20の炭化水素基、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。上記「脂肪族炭化水素基」は、直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれであってもよく、飽和または不飽和のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、1つまたはそれ以上の環構造を含んでいてもよい。なお、かかる炭化水素基は、その末端または分子鎖中に、1つまたはそれ以上のN、O、S、Si、アミド、スルホニル、シロキサン、カルボニル、カルボニルオキシ等を有していてもよい。
【0116】
上記「炭化水素基」の置換基としては、特に限定されるものではないが、例えば、ハロゲン原子;1個またはそれ以上のハロゲン原子により置換されていてもよい、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−10シクロアルキル基、C3−10不飽和シクロアルキル基、5〜10員のヘテロシクリル基、5〜10員の不飽和ヘテロシクリル基、C6−10アリール基、5〜10員のヘテロアリール基等が挙げられる。
【0117】
上記B及びBは、好ましくは、直接結合、C1−20アルキレン基、または−(CH−X”−(CH−である。上記式中、X”は、−O−、または−(Si(RO)−または、−O−(CHu−(Si(RO)−(式中、Rは、各出現において、それぞれ独立して、C1−6アルキル基を表し、vは1〜100の整数であり、uは1〜20の整数である)を表し、好ましくは−O−である。sは、1〜20の整数であり、好ましくは、1〜3の整数、より好ましくは1または2である。tは、1〜20の整数であり、好ましくは、2〜3の整数である。これらの基は、フッ素原子およびC1−3アルキル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0118】
上記B及びBの具体的な例としては、直接結合の他に、例えば:
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CHO(CHSi(CHOSi(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHOSi(CHOSi(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)10Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)20Si(CH(CH
などが挙げられる。
【0119】
上記式(7)において、A及びAで表される基の内で、基:Y3−kSi−におけるYは、水酸基、加水分解可能な基、または炭化水素基を表す。水酸基は、特に限定されないが、加水分解可能な基が加水分解して生じたものであってよい。
【0120】
上記「加水分解可能な基」とは、本明細書において用いられる場合、加水分解反応により、化合物の主骨格から脱離し得る基を意味する。かかる加水分解可能な基としては、特に限定されるものではないが、−OR、−OCOR、−O−N=C(R、−N(R、−NHR、ハロゲン原子(これら式中、Rは、各出現において、それぞれ独立して、置換または非置換のC1−3アルキル基を表す)などが挙げられる。
【0121】
上記Yは、好ましくは、水酸基、−O(R)(式中、RはC1−12アルキル基、好ましくはC1−6アルキル基、より好ましくはC1−3アルキル基を表す)、C1−12アルキル基、C2−12アルケニル基、C2−12アルキニル基、またはフェニル基であり、より好ましくは、−OCH、−OCHCH、−OCH(CH)である。これらの基は、例えば、フッ素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、およびC2−6アルキニル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0122】
上記式(7)中、基:Y3−kSi−におけるQは、−Z−SiR3−jを表す。
【0123】
上記Zは、各出現において、それぞれ独立して、2価の有機基を表す。
【0124】
上記Zは、好ましくは、式(7)における分子主鎖の末端のSi原子とシロキサン結合を形成するものを含まない。
【0125】
上記Zは、好ましくは、C1−6アルキレン基、または−(CHs’−O−(CHt’−(式中、s’は、1〜6の整数であり、t’は、1〜6の整数である)であり、より好ましくはC1−3アルキレン基である。これらの基は、例えば、フッ素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、およびC2−6アルキニル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0126】
上記Rは、各出現において、それぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表す。好ましくは、Rは、−OR(式中、Rは、置換または非置換のC1−3アルキル基、より好ましくはメチル基を表す)である。
【0127】
上記Rは、各出現において、それぞれ独立して、C1−22アルキル基、またはQ’を表す。上記Q’は、Qと同意義である。
【0128】
上記jは、各QおよびQ’において、それぞれ独立して、0〜3から選択される整数であり、jの総和は1以上である。各QまたはQ’において、上記jが0である場合、そのQまたはQ’中のSiは、水酸基および加水分解可能な基を有さないことになる。したがって、上記jの総和は、少なくとも1以上でなければならない。
【0129】
パーフルオロポリエーテル基を有する分子主鎖の末端のSi原子に結合する、−Q−Q’0−5鎖の末端のQ’において、上記nは、好ましくは2であり、より好ましくは3である。
【0130】
上記QにおけるRの少なくとも1つがQ’である場合、Q中にZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子が2個以上存在する。かかるZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数は最大で5個である。
【0131】
一の態様において、Q中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数は1個(すなわち、Q中にSi原子は1個のみ存在する)または2個である。
【0132】
上記式(7)中、kは、1〜3から選択される整数であり、好ましくは2以上、より好ましくは3である。kを3とすることにより、基材との結合が強固となり、高い耐摩耗性を得ることができる。
【0133】
一の態様において、本発明で用いるPFPE化合物は、QにおけるRが、C1−22アルキル基である式(7)で表される化合物である。
【0134】
一の態様において、本発明で用いるPFPE化合物は、QにおけるRの少なくとも1つがQ’である式(7)で表される化合物である。
【0135】
上記式(7)で表されるPFPE化合物は、特に限定されるものではないが、5×10〜1×10の平均分子量を有し得る。かかる範囲のなかでも、1,000〜30,000の平均分子量を有することが、耐摩耗性の観点から好ましい。なお、本発明において「平均分子量」は数平均分子量を言い、「平均分子量」は、19F−NMRにより測定される値とする。
【0136】
本発明のコーティング組成物では、PFPE化合物を配合する場合には、PFPE化合物の配合量は、耐摩耗性向上の効果を十分に奏するためには、該組成物に含まれる含フッ素ポリマー100重量部に対して1〜20重量部程度とすることが好ましい。
【0137】
本発明のコーティング組成物の適用対象については特に限定はなく、プラスチック、金属、セラミックス等の各種の基材に対して、耐摩耗性が良好で優れた防水及び防湿性能を有する皮膜を形成できる。特に、コネクタ、筐体、プリント基板、半導体などを含む電子部品を処理対象とする場合には、本発明のコーティング組成物を用いることによって、化学的浸食性の低い溶剤を利用して、耐摩耗性に優れた防水、防湿性皮膜を形成できるので、電子部品の性能を阻害することなく、良好な防水、防湿性能を付与することが可能となる。
【0138】
本発明のコーティング組成物による処理方法については、特に限定はなく、本発明のコーティング組成物を処理対象物に接触させればよい。通常は、本発明のコーティング組成物中に被処理物を浸漬した後、湿度20〜70%程度以上の大気中で乾燥すればよい。その他、本発明のコーティング組成物を処理対象物に刷毛塗り、スプレー、スピンコート等の方法で接触させる方法なども適用できる。
【0139】
これにより、本発明のコーティング組成物に含まれる含フッ素ポリマーのポリマー末端又は側鎖に導入したアルコキシシラン基が、大気中の湿気により加水分解してシラノール基に変換され、基材と反応して、密着性が向上する。また、基材と反応しかなったシラノール基同士が縮合して二次元または三次元的に架橋して強固な膜が形成される。
【0140】
処理時の温度については特に限定はなく、通常は、室温で処理を行えばよい。処理時間についても特に限定はないが、例えば、浸漬法の場合には、1秒〜24時間程度の浸漬時間とすればよい。
【0141】
尚、より高い耐摩耗性を有する皮膜を形成するためには、本発明のコーティング組成物による処理に先だって、基材表面の油分を取り除くために、基材をアセトン、ハイドロフルオロエーテルなどで洗浄した後、乾燥することが好ましい。更に、上記の洗浄に加えて、UVオゾン、酸素プラズマなどで、前処理するとより、皮膜の耐摩耗性をより向上させることができる。
【0142】
また、本発明のコーティング組成物による処理に先立って、必要に応じて、被処理物に対してプライマー処理を施すことによって、コーティング組成物から形成される皮膜の結合性を向上させて、耐摩耗性をより向上させることができる。プライマー処理は、常法に従って、シランカップリング剤を用いる場合のプライマー処理と同様の条件で処理を行えばよい。
【発明の効果】
【0143】
本発明の防水・防湿性コーティング組成物によれば、各種の基材に対して、耐摩耗性に優れた防水及び防湿性被膜を形成することができる。特に、溶剤として、ハイドロフルオロエーテルを用いる場合には、基材に対して化学的浸食を生じることなく、しかも、環境などに悪影響を及ぼすことなく、良好な防水及び防湿性皮膜を形成できる。
【0144】
更に、PFPE化合物を配合した場合には、含フッ素ポリマーから形成される皮膜のすべり性が向上し、耐摩耗性が大きく向上する。
【0145】
このため、本発明の防水・防湿性コーティング組成物によれば、特に、電子部品を処理対象とする場合に、電子部品の性能を阻害することなく、耐摩耗性を有する良好な防水、防湿性能を付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0146】
図1】実施例1〜6及び比較例1〜3におけるHFE7200中への浸漬時間と、対水静的接触角の初期接触角に対する比率との関係を示すグラフ。
図2】実施例7〜8及び比較例4〜6における拭き取り回数と、対水静的接触角の初期接触角に対する比率との関係を示すグラフ。
図3】実施例11〜13及び比較例10における摩耗回数と、対水静的接触角の初期接触角に対する比率との関係を示すグラフ。
図4】実施例14〜16及び比較例11〜13における摩耗回数と、対水静的接触角の初期接触角に対する比率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0147】
以下、製造例及び実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0148】
製造例1 (Rf(C6)α-Clアクリレート/MPS=100/5.21(重量比)重合体)
四つ口フラスコに、α−クロロアクリル酸(パーフルオロヘキシル)エチル(CH2=C(Cl)COOCH2CH2C6F13:以下、「Rf(C6)α-Clアクリレート」略記することがある)35g、メルカプトプロピルトリメトキシシラン(以下、「MPS」略記することがある)1.824g、及びパーフルオロヘキシルメチルエーテル(C2F5CF(OCH3)C3F7:「HFE7300」と略記することがある)66gを仕込み、10分間窒素バージし、80℃に加熱した。これにアゾビスイソブチロニトリル(以下、「AIBN」と略記することがある)0.127gを投入し、6時間反応した。
【0149】
室温に冷却した後、メタノールで含フッ素ポリマーを析出させ、減圧乾燥した。これをパーフルオロブチルエチルエーテル(C4F9OC2H5:「HFE7200」と略記することがある)で希釈して、後述する実施例で用いる所定の濃度の溶液を調製した。
【0150】
溶出液としてフッ素系溶剤[HCFC225/ヘキサフルオロイソプロパノール=90/10(重量)]を使用したGPCで分子量を測定した結果、重量平均分子量は22,100であった。
【0151】
製造例2 (Rf(C6)α-Clアクリレート/MPS=100/3.08(重量比)重合体)
MPSの使用量を1.079gとすること以外は製造例1と同じ方法で、含フッ素ポリマーを合成し、後述する実施例で用いる所定濃度のHFE7200溶液を調製した。得られたポリマーの重量平均分子量は36,900であった。
【0152】
製造例3 (Rf(C6)α-Clアクリレート/MPS=100/1.04(重量比)重合体)
MPSの使用量を0.365gとすること以外は製造例1と同じ方法で、含フッ素ポリマーを合成し、後述する実施例で用いる所定濃度のHFE7200溶液を調製した。得られたポリマーの重量平均分子量は42,300あった。
【0153】
製造例4 (Rf(C6)メタクリレート/MPS=100/1.04(重量比)重合体)
製造例1において、Rf(C6)α-Clアクリレートに代えて、メタクリル酸(パーフルオロヘキシル)エチル(CH2=C(CH3)COOCH2CH2C6F13:以下、「Rf(C6)メタアクリレート」略記することがある)を使用し、MPSの使用量を0.365gとすること以外は、製造例1と同じ方法で、後述する実施例で用いる所定濃度のHFE7200溶液を調製した。得られたポリマーの重量平均分子量は6,800であった。
【0154】
製造例5 (Rf(C6)メタクリレート/MPS=100/0.45(重量比)重合体)
MPSの使用量を0.159gとすること以外は製造例4と同じ方法で、含フッ素ポリマーを合成し、後述する実施例で用いる所定濃度のHFE7200溶液を調製した。得られたポリマーの重量平均分子量は13,400であった。
【0155】
製造例6 (Rf(C6)メタクリレート/MPS=100/0.23(重量比)重合体)
MPSの使用量を0.080gとすること以外は、製造例4と同じ方法で、含フッ素ポリマーを合成し、所定濃度のHFE7200溶液を調製した。得られたポリマーの重量平均分子量は25,000であった。
【0156】
製造例7 (Rf(C6)メタクリレート/iBMA/MPS=100/14.58/1.424(重量比)重合体)
四つ口フラスコに、Rf(C6)メタクリレート60.24gメタクリル酸イソボルニル(以下、iBMAと略することがある)8.78g、MPS0.858g、及びパーフルオロブチルエチルエーテル(C4F9OC2H5:以下、「HFE7200」と略記することがある)280.0gを仕込み、10分間窒素バージし、70℃に加熱した。これにAIBN0.298gを投入し、6時間反応した。
【0157】
室温に冷却した後、反応溶液を一部アルミカップ上に取り出し、110℃にて1時間常圧にて乾固させることで,重合溶液中のポリマーの樹脂固形分濃度を算出した。その後、重合溶液を所定量のHFE7200で希釈することで,後述する実施例で用いる所定の濃度の溶液を調製した。
【0158】
製造例1と同様の方法でGPCにて分子量を測定した結果、得られたポリマーの重量平均分子量は16,700であった。
【0159】
製造例8(Rf(C6)メタクリレート/iBMA/MPS/TMSMA=100/14.58/1.507/2.383(重量比)重合体)
四つ口フラスコに、Rf(C6)メタクリレート30.72g、iBMA4.48g、MPS0.463g、メタクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピル(以下、「TMSMA」と略記することがある)0.732g、及びHFE7200140.6gを仕込み、10分間窒素バージし、70℃に加熱した。これにAIBN0.156gを投入し、6時間反応した。
【0160】
室温に冷却した後、製造例7と同様の手法にて重合溶液中のポリマーの樹脂固形分濃度を算出した。その後,重合溶液を所定量のHFE7200で希釈することで,後述する実施例で用いる所定の濃度の溶液を調製した。
【0161】
製造例1と同様の方法でGPCにて分子量を測定した結果、得られたポリマーの重量平均分子量は14,200であった。
【0162】
製造例9 Rf(C6)メタクリレート/iBMA/TMSMA=100/14.49/2.373(重量比)重合体)
四つ口フラスコに、Rf(C6)メタクリレート91.81g、iBMA13.30g、TMSMA2.179g、及びHFE7200420.03gを仕込み、10分間窒素バージし、70℃に加熱した。これにAIBN0.464gを投入し、6時間反応した。
【0163】
室温に冷却した後、製造例7と同様の手法にて重合溶液中のポリマーの樹脂固形分濃度を算出した。その後,重合溶液を所定量のHFE7200で希釈することで,後述する実施例で用いる所定の濃度の溶液を調製した。
【0164】
製造例1と同様の方法でGPCにて分子量を測定した結果、得られたポリマーの重量平均分子量は118,800であった。
【0165】
比較製造例1 (Rf(C6)α-Clアクリレート/MPS=100/0(重量比)重合体)
MPSを使用することなく、それ以外は製造例1と同じ方法で、含フッ素ポリマーを合成し、後述する比較例で用いる所定濃度のHFE7200溶液を調製した。得られたポリマーの重量平均分子量は171,900であった。
【0166】
比較製造例2 (Rf(C6)メタクリレート/MPS=100/0(重量比)重合体)
MPSを使用することなく、それ以外は製造例4と同じ方法で、含フッ素ポリマーを合成し、後述する比較例で用いる所定濃度のHFE7200溶液を調製した。得られたポリマーの重量平均分子量は269,600であった。
【0167】
比較製造例3 (Rf(C8)メタクリレート/MPS=100/0(重量比)重合体)
製造例1において、Rf(C6)α-Clアクリレートに代えて、メタクリル酸パーフルオロオクチル(CH2=C(CH3)COOC8F17:以下、「Rf(C8)メタアクリレート」略記することがある)を使用し、MPSを使用することなく、それ以外は製造例1と同じ方法で、後述する比較例で用いる所定濃度のHFE7200溶液を調製した。得られたポリマーの重量平均分子量は228,300であった。
【0168】
比較製造例4 Rf(C6)メタクリレート/iBMA/TMSMA=100/14.49/0(重量比)重合体)
TMSMAを使用することなく、それ以外は製造例9と同じ方法で、含フッ素ポリマーを合成し、製造例7と同様の手法にて重合後のポリマーの樹脂固形分濃度を算出した。その後,樹脂固型分濃度を算出した溶液をHFE7200で希釈することで,後述する実施例で用いる所定の濃度の溶液を調製した。
【0169】
得られたポリマーの重量平均分子量は115,000であった。
【0170】
実施例1〜6及び比較例1〜3
シリコンウエハを被処理物として用い、アセトン中で30分間超音波洗浄を行い、次いで、HFE7200に浸漬した後、乾燥することによって、前処理を行った。
【0171】
上記した方法で前処理を行ったシリコンウエハを、製造例1〜6及び比較製造例1〜3で得られた各含フッ素ポリマーのHFE7200溶液(樹脂固形分濃度0.2重量%)に浸漬した後、大気中(20℃、湿度30%)で一昼夜放置して、試験片を作製した。
【0172】
これらの各試験片について、対水静的接触角を測定して初期接触角を求めた後、室温(20℃)で所定時間、HFE7200に浸漬した。その後、大気中に引き上げて1分間放置した後、対水静的接触角を測定し、初期接触角に対する比率を計算し、これにより溶剤に対する耐久性を評価した。下記表1及び表2に、HFE7200中への浸漬時間と、対水静的接触角の初期接触角に対する比率を示し、図1に、HFE7200中への浸漬時間と、対水静的接触角の初期接触角に対する比率との関係をグラフとして示す。
【0173】
また、上記した方法でシリコンウエハ上に形成された薄膜をカッターナイフで切削して調製した凹凸をレーザー顕微鏡VK-9710(KEYENCE社製)で測定することにより算出した膜厚は、約50nmであった。
【0174】
【表1】
【0175】
【表2】
【0176】
以上の結果から明らかなように、MPSの存在下に、フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルを重合して得られた含フッ素ポリマーをハイドロフルオロエーテルに溶解した、製造例1〜6のコーティング液によれば、溶剤浸漬耐久性に優れた撥水性を有する皮膜を形成できることが判る。
【0177】
実施例7〜8及び比較例4〜6
製造例2及び5で得られた各含フッ素ポリマーのHFE7200溶液と、比較製造例1〜3で得られた各含フッ素ポリマーのHFE7200溶液を用いて、実施例1と同様の方法でシリコンウエハを浸漬処理して試験片を作製した。
【0178】
これらの各試験片について、対水静的接触角を測定して初期接触角を求めた後、ラビングテスター(井元製作所製ラビングテスター「耐摩耗試験機151E 3連仕様」)のホルダに紙製ウェス(商標名:キムワイプ、日本製紙クレシア製)を装着し、荷重100gにて所定回数、表面の拭き取りを行い、その後対水静的接触角を測定し、初期接触角に対する比率を計算して、拭き取りに対する耐摩耗性を評価した。下記表3に、拭き取り回数と、対水静的接触角の初期接触角に対する比率を示し、図2に、拭き取り回数と、対水静的接触角の初期接触角に対する比率との関係をグラフとして示す。
【0179】
【表3】
【0180】
以上の結果から明らかなように、製造例2及び5で得られたコーティング液によれば、拭き取りに対する耐摩耗性に優れた撥水性皮膜を形成できることが判る。
【0181】
実施例9〜10及び比較例7〜9
製造例2及び5で得られた各含フッ素ポリマーのHFE7200溶液と、比較製造例1〜3で得られた各含フッ素ポリマーのHFE7200溶液を用いて、以下の方法で防湿性と防錆性を評価した。結果を下記表4に示す。
【0182】
* 防湿性の評価方法
防湿性は透湿度(カップ法、JIS Z0208)により評価した。透湿度(g/m・day)は、防湿膜を透過する水蒸気量で定義され、この値が小さいほど防湿性が良好である。
【0183】
試験方法としては、支持シートとして、建材用透湿防水シート(JIS A6111・2004適合品)を円(直径70mm)の形状に切り出したものを使用し、各含フッ素ポリマーの2重量%HFE7200溶液を調製し、スピンコート法により、透湿防水シート上に製膜(膜厚 約100nm)して、透湿度を測定した。支持シートのみの透過度は約4000g/m・dayであった。
【0184】
*防錆性の評価方法
防錆性は、塩水噴霧試験(JIS Z 2371)により、以下の条件にて評価した。
【0185】
試験片の角度:鉛直軸に対し20±5°
塩濃度:5重量%、pH6.5〜7.2
噴霧温度:60±1℃
基板としては、JIS H 3100(C1100P) バフ研磨加工、サイズ2.0×15×60mmの銅基板(日本テストパネル工業製)を用い、各含フッ素ポリマーの2%HFE7200溶液に1回浸漬することにより製膜した(膜厚 約100nm)。塩水噴霧後、96時間後の外観を、◎(全く変化なし)、○、△、×、××(ひどく変色=未処理)の五段階で評価した。
【0186】
【表4】
【0187】
以上の結果から明らかなように、製造例2及び5で得られたコーティング液によれば、防湿性及び防錆性に優れた皮膜を形成できることが判る。
【0188】
尚、防湿性が良好となる理由については明確ではないが、ポリマー末端のアルコキシシラン基がポリマー分子同士を架橋させることと、ポリマーと基材の密着性を向上させることが一因として寄与しているものと推定される。
【0189】
実施例11〜13及び比較例10
製造例7〜9で得られた各含フッ素ポリマーのHFE7200溶液と、比較製造例4で得られた各含フッ素ポリマーのHFE7200溶液を用いて、実施例1と同様の方法でシリコンウエハを浸漬処理して試験片を作製した。
【0190】
これらの各試験片について、実施例7〜8及び比較例4〜6と同様の手法で荷重を500g、摩擦子をスチールウールとして耐摩耗性を評価した。下記表5に、摩擦子をスチールウールとした時の摩耗回数と、対水静的接触角の初期接触角に対する比率を示し、図3に、摩耗回数と、対水静的接触角の初期接触角に対する比率との関係をグラフとして示す。
【0191】
【表5】
【0192】
以上の結果から明らかなように、製造例7〜9で得られたコーティング液によれば、スチールウールを摩擦子としたときの耐摩耗性に優れた撥水性皮膜を形成できることが判った。
【0193】
実施例14〜16及び比較例11〜13
製造例9で得られた含フッ素ポリマーのHFE7200溶液(樹脂固型分濃度2重量%)と比較製造例4で得られた含フッ素ポリマーのHFE7200溶液(樹脂固型分濃度2重量%)と調製した。また、これらの含フッ素ポリマーのHFE7200溶液とパーフルオロポリエーテル(PFPE)骨格を有する化合物のHFE7200溶液(樹脂固型分濃度2重量%)を重量比90/10にて混合して、樹脂固形分濃度2重量%の溶液を調製した。尚、パーフルオロポリエーテル(PFPE)骨格を有する化合物としては、PFPE骨格を有するシラン化合物(ダイキン工業製、オプツールDSX)と、未変性PFPEオイル(ダイキン工業製、デムナムS-20)を用いた。(以下,オプツールDSXをDSX、デムナムS-20をS-20と略記する場合がある。)
これらの溶液を用いて、実施例1と同様の方法でシリコンウエハを浸漬処理して試験片を作製した。得られた各試験片について、実施例7〜8及び比較例4〜6と同様の手法で荷重を250g、摩擦子をスチールウールとして耐摩耗性を評価した。下記表6に、摩擦子をスチールウールとした時の摩耗回数と、対水静的接触角の初期接触角に対する比率を示し、図4に、摩耗回数と、対水静的接触角の初期接触角に対する比率との関係をグラフとして示す。
【0194】
【表6】
【0195】
以上の結果より明らかなように、フッ素ポリマーとPFPE化合物とのブレンド溶液で調製した試験片(実施例14、15)はPFPE未添加の実施例16、比較製造例11~13よりも、スチールウールを摩擦子としたときの耐摩耗性に優れた撥水性皮膜を形成できることが判った。
【0196】
実施例17及び比較例14
市販スマートフォン(サムスン電子製Galaxy S II)を充電後にその電源を切り、micro USB部位が上向きになるように垂直に立てた。micro USBのレセプタクルのプラグ嵌合口内部に、各種濃度(0.1, 0.2, 0.5, 1, 2, 5, 10重量%)に調整した製造例9のコーティング剤、又は比較製造例4のコーティング剤をスポイトで満たした後、ただちにmicro USBの開口部が下に向くようにスマートフォンを回転させて、コーティング剤を排出することにより、プラグ嵌合口内部をコーティング処理した。処理後、温度25℃、湿度60%の環境で1時間処理した後、以下の試験を実施した。
【0197】
・初期評価
電極(5極)の接触抵抗を測定することにより、初期の導通性の程度を評価した。5極共に接触抵抗が50mΩ未満の場合、導通性あり(○)とし、1極でも50mΩ以上であれば、導通不良(×)とした。次に、micro USBが上向きになるように垂直に立て、スポイトで水道水をプラグ嵌合口内部に満たした後、ただちにmicro USBを下向きにし、1cmの高さから机の上に落とすことにより、水道水を排出した。プラグ嵌合口内部に残留した水の弾き方(撥水性)を以下の基準で目視判定した。撥水性が高いほど、プラグ嵌合口内部に残留する水滴が少なくなり、電極の電界腐蝕が起こりにくいことを意味する。
◎:非常に良く弾く(接触角110°程度)
○:良く弾く(接触角100°程度)
△:弾く(接触角90°程度)
×:(接触角50〜80°程度)
××:(接触角50°以下)
【0198】
・挿抜試験
防水加工したmicro USB にプラグを5000回抜き差しした後、接触抵抗を測定した。次に、初期と同様に撥水性を評価した。次にスマートフォンの電源をオンにし、micro USBが上向きになるように垂直に立て、スポイトで水道水をプラグ嵌合口内部に満たした後、水が入ったままの状態で10分間放置した。micro USBを下向きにし、1cmの高さから机の上に落とすことにより、水道水を排出した。実体顕微鏡(倍率30倍)でUSB電極の変色の程度を以下の5段階で観察することにより、電界腐食の有無を判定した。
◎:全く変色しない
○:わずかに変色
△:やや変色
×:変色
××:ひどく変色
【0199】
以上の試験結果を下記表7に示す。
【0200】
【表7】
【0201】
以上の結果から明らかなように、製造例9のコーティング剤を用いた場合には、比較製造例4のコーティング剤を用いた場合と比較して、撥水性及び電界腐食について良好な結果が得られた。特に、製造例9のコーティング剤は、コーティング剤の固形分濃度が0.2〜2重量%の範囲において、初期の導通性が確保され、挿抜試験後の撥水性が良好で、電界腐蝕が起こりにくかった。
図1
図2
図3
図4