(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5692373
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/44 20060101AFI20150312BHJP
H01L 31/0216 20140101ALI20150312BHJP
【FI】
C23C16/44 G
H01L31/04 240
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-517811(P2013-517811)
(86)(22)【出願日】2011年9月21日
(86)【国際出願番号】JP2011071499
(87)【国際公開番号】WO2012164767
(87)【国際公開日】20121206
【審査請求日】2013年9月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-118815(P2011-118815)
(32)【優先日】2011年5月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】東 正久
(72)【発明者】
【氏名】森元 陽介
【審査官】
村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−079251(JP,A)
【文献】
特表2006−515717(JP,A)
【文献】
特開2006−257472(JP,A)
【文献】
特開平02−080396(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/070714(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00−16/56
H01L 31/0216
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜処理対象の粒状基板が搭載される主面を有するトレイと、
前記粒状基板が前記主面上で転動するように前記主面を水平に維持したままで前記トレイを一定期間振動させた後、前記主面上に搭載されたすべての前記粒状基板に膜が形成される所定の位置に前記トレイを停止させる転動機構と、
停止した前記トレイの前記主面上で静止した前記粒状基板の露出した表面に薄膜を形成する薄膜形成機構と
を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記薄膜形成機構が、前記トレイの前記主面上において前記薄膜の原料ガスをプラズマ化して、前記粒状基板の前記表面に前記薄膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記粒状基板がシリコン基板であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記粒状基板上に形成される薄膜が太陽電池の反射防止膜であることを特徴とする請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
トレイの主面上に成膜処理対象の粒状基板を搭載するステップと、
前記粒状基板が前記主面上で転動するように、前記主面を水平に維持したままで前記トレイを振動させるステップと、
前記主面上に搭載されたすべての前記粒状基板に膜が形成される所定の位置に前記トレイを停止させた後に、前記主面上で静止した前記粒状基板の露出した表面に薄膜を形成するステップと
を含み、前記トレイを振動させるステップと前記薄膜を形成するステップとを含む成膜工程を複数回繰り返すことを特徴とする成膜方法。
【請求項6】
前記薄膜を形成するステップが、前記トレイの前記主面上において前記薄膜の原料ガスをプラズマ化して、前記粒状基板の前記表面に前記薄膜を形成することを特徴とする請求項5に記載の成膜方法。
【請求項7】
前記粒状基板がシリコン基板であることを特徴とする請求項5に記載の成膜方法。
【請求項8】
前記粒状基板上に形成される薄膜が太陽電池の反射防止膜であることを特徴とする請求項7に記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状基板の表面に膜を形成する成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板の表面に膜を形成するために、プラズマ化学気相成長(CVD)法などの方法が使用されている。基板が球体形状などの粒状基板である場合、基板の上方からデポダウン形式で成膜を行う方法では、粒状基板の一定の上面のみしか膜が形成されない。粒状基板の表面全体に薄膜を形成する方法として、球体を転動させながら球体表面に硬質カーボン膜を成膜する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−228027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば太陽電池の製造製造において、表面全体で均一に反射防止膜が形成された粒状基板を、粒状基板間で膜厚のばらつきを小さく製造することが求められている。
【0005】
上記要求に応えるために、本発明は、粒状基板の表面全体で均一に膜を形成でき、且つ膜厚分布の差が小さい成膜装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、(イ)成膜処理対象の粒状基板が搭載される主面を有するトレイと、(ロ)粒状基板が主面上で転動するように
主面を水平に維持したままでトレイを一定期間振動させた後、
主面上に搭載されたすべての粒状基板に膜が形成される所定の位置にトレイを停止させる転動機構と、(ハ)停止したトレイの主面上で静止した粒状基板の露出した表面に薄膜を形成する薄膜形成機構とを備える成膜装置が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、(イ)トレイの主面上に成膜処理対象の粒状基板を搭載するステップと、(ロ)粒状基板が主面上で転動するように
、主面を水平に維持したままでトレイを振動させるステップと、(ハ)
主面上に搭載されたすべての粒状基板に膜が形成される所定の位置にトレイを停止させた後に、主面上で静止した粒状基板の露出した表面に薄膜を形成するステップとを含み、トレイを振動させるステップと薄膜を形成するステップとを含む成膜工程を複数回繰り返す成膜方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、粒状基板の表面全体で均一に膜を形成でき、且つ膜厚分布の差が小さい成膜装置及び成膜方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る成膜装置の構成を示す模式図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る成膜装置を高周波プラズマCVD装置として構成した例を示す模式図である。
【
図4】比較例の成膜装置により形成される粒状基板の成膜対象領域を示す模式図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る成膜装置により形成される粒状基板の成膜対象領域を示す模式図である。
【
図6】比較例の成膜方法による成膜エリアを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであることに留意すべきである。又、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施形態は、構成部品の構造、配置などを下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
本発明の実施形態に係る成膜装置1は、粒状基板の表面に膜を形成する成膜装置である。成膜装置1は、
図1に示すように、成膜処理対象の粒状基板50が搭載される主面11を有するトレイ10と、粒状基板50が主面11上で転動するようにトレイ10を一定期間振動させた後、所定の位置にトレイ10を停止させる転動機構20と、停止したトレイ10の主面11上で静止した粒状基板50の露出した表面に薄膜を形成する薄膜形成機構30とを備える。
図1に示した成膜装置1では、制御装置40が、粒状基板50を搭載したトレイ10を一定期間振動させた後で所定の位置に停止させるように転動機構20を制御し、且つ、停止したトレイ10上で静止した粒状基板50の表面に薄膜を形成するように薄膜形成機構30を制御する。ここで、トレイ10が停止する所定の位置とは、トレイ10の主面11上に搭載されたすべての粒状基板50に膜が形成される位置である。
【0012】
薄膜形成機構30が、粒状基板50に膜が形成される成膜エリア310をトレイ10の上方に形成する。形成された成膜エリア310に粒状基板50を曝すことにより、粒状基板50の露出した表面に膜が形成される。成膜エリア310が形成される範囲は薄膜形成機構30の構造に依存する。
【0013】
粒状基板50は、例えば結晶シリコン系太陽電池に使用されるシリコン(Si)基板であり、粒径は1〜数mm程度である。粒状基板50が太陽電池用基板である場合、
図1に示した成膜装置1によって、例えば窒化シリコン(SiNx)からなる反射防止膜などが形成される。
【0014】
成膜装置1の成膜処理対象である粒状基板50の形状は、例えば
図1に示すような球形状、
図2に示すDカット形状、或いは立方体形状などの多面体形状などである。「Dカット形状」は、全体として略球体であるが平坦な面を有する形状である。また、粒状基板50が、真球体以外の例えば楕円体である場合や表面に凹凸がある場合にも、本発明の実施形態が適用される。粒状基板50は、転動機構20がトレイ10を振動させることによって主面11上で転動する形状の基板である。そして、主面11上で静止した粒状基板50の表面の露出した領域に、薄膜が形成される。
【0015】
トレイ10には、例えばカーボン、ステンレス鋼、アルミニウム、セラミックなどが採用可能である。また、トレイ10は例えば平板形状であり、平面である主面11上を粒状基板50が容易に転動する。
【0016】
図3に、成膜装置1を高周波プラズマCVD装置として構成した例を示す。
図3に示した成膜装置1においては、チャンバー31内のトレイ10の主面11上に処理対象の粒状基板50を搭載する。排気装置32によりチャンバー31内を減圧して所定のガス圧にした後、導入口33から原料ガス300をチャンバー31内に導入する。接地されたトレイ10と電極34間に高周波電源35から高周波電力を供給することにより、チャンバー31内の原料ガス300がプラズマ化される。
【0017】
図3に示した高周波プラズマCVD装置では、トレイ10の主面11の周囲でプラズマが形成された領域が成膜エリア310である。形成されたプラズマに粒状基板50を曝すことにより、粒状基板50の露出した表面に膜が形成される。具体的には、制御装置40によって転動機構20と高周波電源35が制御され、粒状基板50の表面に薄膜が形成される。即ち、転動機構20が、粒状基板50を搭載したトレイ10を一定期間振動させた後に停止させる。そして、薄膜形成機構30が、停止したトレイ10上で静止した粒状基板50の表面に薄膜を形成する。
【0018】
なお、トレイ10はヒータ36の上に配置される。これにより、成膜工程中の粒状基板50の温度を任意に設定できる。
【0019】
図3は、転動機構20としてスラスト構成を採用した例を示している。即ち、スラスト構成を有する支持棒21がチャンバー31内部に挿入されている。トレイ10は支持棒21にチャッキングされている。支持棒21を動作させることにより、トレイ10が摺動動作する。
【0020】
なお、摺動動作以外のトレイ10の動作により、主面11上の粒状基板50を転動させてもよいことはもちろんである。例えば、主面11と垂直方向にトレイ10を細かく振動させることによって、粒状基板50を転動させてもよい。
【0021】
なお、高周波プラズマCVD装置以外の、例えば他の方式で粒状基板50の表面に膜を成長させるCVD装置や、粒状基板50の表面に膜を堆積させるスパッタ装置などの、半導体製造プロセスに使用される成膜装置として成膜装置1を構成することができる。
【0022】
図1に示した成膜装置1を用いて粒状基板50の表面に成膜する方法の例を、以下に説明する。
【0023】
先ず、トレイ10の主面11上に処理対象の粒状基板50を搭載する。
【0024】
次いで、転動機構20によって、例えば主面11と平行方向に、トレイ10を素早くスライドさせる。このとき、トレイ10を一往復乃至数往復させる。これにより、粒状基板50は主面11上で転動する。トレイ10の移動速度は、主面11上で粒状基板50が転動するように、粒状基板50の形状や粒径などを考慮して適宜設定される。
【0025】
トレイ10の往復運動を停止させると、主面11上で粒状基板50は様々な姿勢で静止する。この状態で、デポダウン形式により粒状基板50の露出した表面に、薄膜形成機構30により膜を形成する。
【0026】
一定時間成膜した後、薄膜形成機構30による膜の形成を中断し、転動機構20によってトレイ10を再度振動させる。これにより、表面の少なくとも一部に膜が形成された粒状基板50を主面11上で転動させる。その後、トレイ10の振動を停止させると、前回とは異なる姿勢で粒状基板50が主面11上で静止する。この状態で、粒状基板50の新たに露出した表面に膜を形成する。
【0027】
上記のトレイ10を振動させるステップと粒状基板50の表面に薄膜を形成するステップとを含む成膜工程を複数回繰り返すことにより、粒状基板50の表面全体に均一に膜が形成される。
【0028】
例えば、粒状基板50の表面に形成する膜の所望の膜厚が80nmであるときに、1回の成膜工程によって数nmの膜が形成される場合には、成膜工程を20〜30回程度繰り返す。
【0029】
他の成膜装置によってトレイ10上で粒状基板50と転動させないで成膜した場合には、
図4に破線で示すように、粒状基板50の上面のみが成膜対象領域である。このため、粒状基板50の全面に膜を形成することができない。一方、トレイ10上で粒状基板50を転動させることによって、
図5に破線で示したように、粒状基板50の表面全体を成膜対象領域とすることができる。
【0030】
更に、実施形態の成膜装置1を用いてトレイ10が停止した状態で粒状基板50の表面に薄膜を形成することにより、トレイ10を振動させながら粒状基板50の表面に成膜する場合と比べて、粒状基板50間の膜厚ばらつきを向上することができる。
【0031】
例えば、
図3に示したように成膜装置1を高周波プラズマCVD装置として構成した場合には、成膜エリア310は電極34の直下に形成される。このため、トレイ10を摺動させた場合に、
図6に示すようにトレイ10の主面11の外周に近い領域に配置された粒状基板50は、成膜エリア310の外側に出る状態になる。この場合、成膜エリア310の外側にある粒状基板50の表面に膜は形成されない。一方、トレイ10の主面11の中央領域に配置された粒状基板50には、常に膜が形成される。その結果、トレイ10に搭載された複数の粒状基板50に膜厚の差が生じる。
【0032】
これに対し、トレイ10を停止させてから粒状基板50に薄膜を形成する場合には、常にすべての粒状基板50が成膜エリア310内にある状態で成膜工程を行うことができる。例えば、すべての粒状基板50が成膜エリア310内にあるように、複数の粒状基板50をトレイ10に搭載する。この状態でトレイ10を一往復摺動させることにより、転動した粒状基板50はすべて成膜エリア310内に戻る。これにより、粒状基板50の表面に形成される膜の膜厚分布を小さくすることができる。
【0033】
以上に説明したように、本発明の実施形態に係る成膜装置1によれば、トレイ10を振動させる毎に主面11上で粒状基板50が転動し、粒状基板50の表面の異なる領域が主面11上で露出する。そして、成膜エリア310内で静止した粒状基板50の露出した面に薄膜を形成する工程を繰り返すことによって、粒状基板50の表面全体で均一に膜を形成できる。更に、粒状基板50間の膜厚ばらつきを低減できる。
【0034】
成膜装置1を用いた成膜方法は、Dカット形状の粒状基板50の表面全体に均一に膜を形成するために有効である。近年、集光効率の高い太陽電池としてDカット形状のSi基板の研究が進められており、太陽電池の反射防止膜を形成する場合になどに成膜装置1は有望である。
【0035】
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。即ち、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の成膜装置及び成膜方法は、粒状基板の表面全体で均一に且つ膜厚分布の差を無く製造する用途に利用可能である。