特許第5692440号(P5692440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5692440車両接近通報装置及び車両接近通報装置の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5692440
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】車両接近通報装置及び車両接近通報装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60Q 5/00 20060101AFI20150312BHJP
【FI】
   B60Q5/00 650B
   B60Q5/00 620Z
   B60Q5/00 630Z
   B60Q5/00 640Z
   B60Q5/00 650A
   B60Q5/00 660B
   B60Q5/00 660G
   B60Q5/00 660H
   B60Q5/00 630B
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-75030(P2014-75030)
(22)【出願日】2014年4月1日
(62)【分割の表示】特願2011-88399(P2011-88399)の分割
【原出願日】2011年4月12日
(65)【公開番号】特開2014-122038(P2014-122038A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2014年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】陌間 純朗
(72)【発明者】
【氏名】工藤 嘉大
(72)【発明者】
【氏名】笹丸 浩一
(72)【発明者】
【氏名】遠田 吏己歩
(72)【発明者】
【氏名】北村 友勝
【審査官】 林 政道
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−136831(JP,A)
【文献】 特開2005−343360(JP,A)
【文献】 特開2006−199106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車速を検出する車速検出手段と、
前記車両の制動操作を検出する制動検出手段と、
前記車速検出手段で検出された前記車速の大きさに応じて、接近通報音を発音する第一発音手段と、
前記制動検出手段で検出された前記制動操作の入力パターンに基づき、前記接近通報音とは異なる検査専用音を発音する第二発音手段と
を備えたことを特徴とする、車両接近通報装置。
【請求項2】
前記車両の変速操作を検出する変速検出手段を備え、
前記第二発音手段が、前記変速検出手段で検出された前記変速操作と前記制動操作とを組み合わせた入力パターンに基づき、前記検査専用音を発音する
ことを特徴とする、請求項1記載の車両接近通報装置。
【請求項3】
前記検査専用音を発音するための入力パターンの受付時間を、前記車両の起動時から所定時間が経過するまでの間とする
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の車両接近通報装置。
【請求項4】
前記第二発音手段が、前記第一発音手段よりも優先して前記発音を実施する
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の車両接近通報装置。
【請求項5】
前記第二発音手段に接続され、前記車速検出手段で検出される前記車速を模擬した模擬車速信号を出力する外部検査手段を備え、
前記第二発音手段が、前記模擬車速信号の入力パターンに基づき、前記検査専用音を発音する
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の車両接近通報装置。
【請求項6】
車両に搭載される接近通報装置の制御方法であって、
前記車両の車速を検出し、
前記車両の制動操作を検出し、
前記車速の大きさに応じて前記接近通報装置に接近通報音を発音させるとともに、
前記制動操作の入力パターンに基づいて前記接近通報装置に前記接近通報音とは異なる検査専用音を発音させる
ことを特徴とする、車両接近通報装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の接近を周囲に通報する車両接近通報装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行用の駆動源としての電動モータを搭載した電気自動車(充電池式電気自動車や燃料電池自動車やハイブリッド車両も含む)が普及しつつある。電動モータは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンといった内燃機関と比較して駆動音が小さく、静音性に優れているというメリットがある。一方、その静音性によって周囲の歩行者が車両の接近に気付きにくく、歩行者に却って不安感を与える場合があることが指摘されている。
【0003】
このような事態を踏まえて、国土交通省の主導により学識経験者,視覚障害者団体,自動車メーカー団体等からなる対策検討委員会が開催され、車両の接近を周囲に気付かせるための装置に関するガイドラインが審議されている。平成22年1月に策定されたガイドラインでは、EV走行が可能な車両に対し、車両の接近を想起させる音を発音する車両接近通報装置を搭載すべき旨の報告がなされている。
【0004】
車両接近通報装置の具体例としては、例えば特許文献1に記載のように、車速に応じて音の周波数成分や発音方向を制御するもの等が提案されている。この技術では、車外に向けて音を放射するスピーカが車両に設けられており、車両の走行状態に応じて外部に音が発せられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−136831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両の製造工程における車両接近通報装置の動作試験は、車両の製造工場のライン上や販売会社での整備検査等で実施される。すなわち、他の工程作業や整備点検作業が実施されている暗騒音が大きい状態で、スピーカから発せられる音を確認する官能検査が実施される。
【0007】
一方、上述のガイドラインでは、車両接近通報装置の音色の種類として、サイレンやチャイム,メロディ音や警報器の音等の耳に付きやすい音が不適当である旨が謳われており、これらの聞き分けやすい音色を車両接近通報装置の音色として設定することが事実上できない。さらに、上述のガイドラインでは、車両が時速20[km/h]で走行する際に発する走行音の大きさを超えない程度の音量とすべき旨の記載もあり、車両接近通報装置の音量を必要以上に増大させることも難しい。
【0008】
このように、車両接近通報装置から発せられる音は、周囲に対して耳障りとならない音色及び音量に設定される。そのため、官能検査時における音の確認及び識別が困難であり、試験の作業性及び作業効率を向上させることが難しいという課題がある。特に、車両接近通報装置から発せられる音として、一般のエンジン音を模した音色で、一般のエンジン音よりも小さい音量のものが設定されたような場合には、その音がスピーカから発せられた音であるのか、それとも暗騒音に含まれる音であるのかを区別することが難しい。
【0009】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑み創案されたもので、車両接近通報装置の官能検査時における作業性及び作業効率を向上させることである。
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)ここで開示する車両接近通報装置は、車両の車速を検出する車速検出手段と、前記車両の制動操作を検出する制動検出手段とを備える。また、前記車速検出手段で検出された前記車速の大きさに応じて、接近通報音を発音する第一発音手段と、前記制動検出手段で検出された前記制動操作の入力パターンに基づき、前記接近通報音とは異なる検査専用音を発音する第二発音手段とを備える。
前記接近通報音は、前記車両の接近を周囲に想起させる連続音であり、例えばエンジン音を模擬した音であることが好ましい。一方、前記検査専用音は、音量,音程,音色の少なくとも一つが前記接近通報音とは相違し、前記接近通報音から識別される連続音又は間欠音であって、例えばビープ音やブザー音等の電子音やメロディ音としてもよい。
【0011】
(2)また、前記車両の変速操作を検出する変速検出手段を備え、前記第二発音手段が、前記変速検出手段で検出された前記変速操作と前記制動操作とを組み合わせた入力パターンに基づき、前記検査専用音を発音することが好ましい。
【0012】
(3)また、前記検査専用音を発音するための入力パターンの受付時間を、前記車両の起動時から所定時間が経過するまでの間とすることが好ましい。
(4)また、前記第二発音手段が、前記第一発音手段よりも優先して前記発音を実施することが好ましい。
【0013】
(5)また、前記第二発音手段に接続され、前記車速検出手段で検出される前記車速を模擬した模擬車速信号を出力する外部検査手段を備え、前記第二発音手段が、前記模擬車速信号の入力パターンに基づき、前記検査専用音を発音することが好ましい。
(6)また、開示の車両接近通報装置の制御方法は、車両に搭載される接近通報装置の制御方法であって、前記車両の車速を検出し、前記車両の制動操作を検出し、前記車速の大きさに応じて前記接近通報装置に接近通報音を発音させるとともに、前記制動操作の入力パターンに基づいて前記接近通報装置に前記接近通報音とは異なる検査専用音を発音させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
開示の車両接近通報装置及び車両接近通報装置の制御方法によれば、制動操作の入力パターンに基づいて検査専用音を発音させることにより、車両接近通報装置に検査機能を付与することができ、結線状態や車両接近通報装置の動作を容易に確認することができる。また、検査専用音を接近通報方法とは異なる音にすることができるため、暗騒音が大きい環境での試験時であっても、検査専用音を容易に確認及び識別することができる。さらに、検査専用音を発音するための条件と接近通報音を発音するための条件とが相違するため、試験時にのみ検査専用音を発音させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態に係る車両接近通報装置を例示するブロック構成図である。
図2図1の車両接近通報装置での制御を説明するためのタイムチャートである。
図3図1の車両接近通報装置で実施されるフローチャートの例である。
図4】変形例に係る車両接近通報装置を説明するための図であり、(a),(b)はブロック構成図、(c)は検査専用音を発音する制御の開始条件に係る車速の入力パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照して制御装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
【0017】
[1.装置構成]
本実施形態の車両接近通報装置は、図1に示す車両10に適用される。この車両10は、走行用バッテリの電力で電動モータを駆動源として走行する電気自動車であり、その内部には車両接近通報ECU1が備えられる。車両接近通報ECU1は、周知のマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイス又は組み込み電子デバイスであり、車両10の接近を周囲に通報(報知)するための車両接近通報制御を実施する電子制御装置である。車両接近通報ECU1には、スピーカ4,スタートスイッチ5,シフトポジションセンサ6,ブレーキスイッチ7及び車輪速センサ8が接続される。
【0018】
スピーカ4は、車両10の外部に対して発音するための音響装置である。スピーカ4の取付位置は任意であり、例えば車室外に設けられる。あるいは、車両10の外部に対して発音される位置とし、例えば車両10の前端部や側面部,後部等に設けられる。スピーカ4から発せられる音の種類及び音量は、車両接近通報ECU1によって制御される。
【0019】
スタートスイッチ5は、電動モータを起動するための電源スイッチであり、エンジンを搭載した車両のイグニッションキースイッチに相当する。本実施形態の車両接近通報ECU1への通電状態は、車両10の電動モータへの通電状態に対応する。すなわち、車両10の電動モータの起動と同時に車両接近通報ECU1も起動し、電動モータへの電力供給が遮断されると車両接近通報ECU1も動作を停止する。
【0020】
シフトポジションセンサ6(変速検出手段)は、シフトレバーの操作位置SP(シフトポジション)を検出するものである。ここでいうシフトレバーには、変速機を操作するためのレバー装置だけでなく、電動モータを操作するためのレバー装置(すなわちセレクターレバー)が含まれる。例えば、車両10がエンジン及びセミオートマチック変速機を備えたハイブリッド車両である場合には、シフトポジションセンサ6が変速機のギヤ段に対応する操作位置SP(例えば、パーキングレンジ,1速レンジ,2速レンジ等)を検出する。
【0021】
本実施形態では、車両10が電気自動車であるため変速機を搭載しないが、電動モータの出力特性を選択するためのセレクタレバーが設けられており、シフトポジションセンサ6はその出力特性に対応する操作位置SP〔例えば、パーキング(P)位置,走行(D)位置,中立(N)位置等〕を検出する。
【0022】
ブレーキスイッチ7(制動検出手段)は、ブレーキペダルの踏み込み操作の有無を検出するものである。ここでは、例えばブレーキペダルが踏み込まれているときにオン信号(BR=1)が出力され、ブレーキ操作がないときにオフ信号(BR=0)が出力される(あるいは、オン信号が出力されない状態となる)。また、車輪速センサ8(車速検出手段)は、車速V(車両10の走行速度)に対応するパラメータである車輪の回転速度を検出するものである。通常の走行時には、車輪速が車速(車両10の走行速度)に応じた値を持つ。
上記のシフトポジションセンサ6,ブレーキスイッチ7及び車輪速センサ8で検出された操作位置SPの情報やブレーキ操作の有無を示す信号BR,車速Vの情報は、車両接近通報ECU1に伝達される。
【0023】
[2.制御構成]
車両接近通報ECU1は、二種類の制御を実施する。
第一の制御は、車両10の外部に対してスピーカ4から接近通報音を発音する制御である。接近通報音とは、車両10の接近を周囲に気付かせるための音(車両の接近を周囲に想起させる音)であり、例えば一般のエンジン音を模擬した音色の連続音である。また、接近通報音の音量は一般的に、通常のエンジンの音量以下の音量に設定される。
以下、接近通報音を発音するための条件のことを通報音条件と呼ぶ。接近通報音は、通報音条件の成立時に発音され、通報音条件の非成立時にその発音が停止される。
【0024】
第二の制御は、車両接近通報ECU1の検査専用音をスピーカ4から発音する制御である。検査専用音とは、車両接近通報ECU1に接続されるセンサ及びスピーカ4等の結線状態や車両接近通報ECU1の正常動作を確認するための官能検査用の音であり、例えばビープ音やブザー音等の電子音である。また、検査専用音の音量は接近通報音よりも大音量に設定される。つまり検査専用音は、接近通報音とは異なる音であって、暗騒音に埋もれにくい音色及び音量とされる。少なくとも、音量,音程,音色のうちの一つが接近通報音とは相違し、互いに識別される連続音又は間欠音であることが好ましい。
【0025】
検査専用音を発音するための条件は二つあり、以下、これらの条件のことを第一検査音開始条件,第二検査音開始条件と呼ぶ。検査専用音はこれらの二つの条件が成立した場合にのみ発音される。また、検査専用音の発音中にその発音を停止するための条件のことを検査音終了条件と呼ぶ。
【0026】
車両接近通報ECU1には、これらの二種類の制御を実施するための機能を実現するソフトウェア又はハードウェアとして、通常発音制御部2及び検査発音制御部3が設けられる。
通常発音制御部2(第一発音手段)は、通報音条件の成立時に、車速Vの大きさに応じて接近通報音を発音するものである。通報音条件は、電動モータが車両10を駆動している状態であって、車速Vが所定速度未満であること(車速Vが所定範囲内であること)とされる。
【0027】
例えば、車速Vが時速25[km/h]未満で走行しているときに、通報音条件が成立するものとする。また、接近通報音は、通報音条件が成立しない場合には発音されない。すなわち、電動モータが起動していない場合(スタートスイッチ5がオフ操作されている場合)や車速Vが所定速度以上である場合、車両10が停止している場合等がこれに該当する。
このように、通常発音制御部2は、車両10が比較的低速で走行している状態ではスピーカ4から接近通報音を発音させ、車両10が接近していることを周囲に知らしめるように機能する。
【0028】
検査発音制御部3(第二発音手段)は、第一検査音開始条件及び第二検査音開始条件の成立時に検査専用音を発音するものである。第一検査音開始条件及び第二検査音開始条件は、車速V,制動操作及び変速操作を組み合わせた入力パターンに基づいて判定される。検査発音制御部3には、これらの開始条件に対応して、第一条件判定部3a及び第二条件判定部3bが設けられる。
【0029】
また、検査発音制御部3は、通常発音制御部2とは独立してこれらの開始条件を判定し、接近通報音の発音時であってもこれに優先して検査専用音を制御する。つまり、通報音条件と第一検査音開始条件及び第二検査音開始条件とがともに成立したような場合には、検査専用音を発音する制御が接近通報音を発音する制御よりも優先的に実施される。
【0030】
第一条件判定部3aは、第一検査音開始条件を判定するものである。例えば、第一検査音開始条件は、以下の全ての条件が成立することとされる。ここでの判定結果は、第二条件判定部3bに伝達される。
(1)車両接近通報ECU1の起動時からの経過時間が所定時間X以内である
(2)車速Vが0[km/h]である
(3)ブレーキスイッチ7の出力信号がオン信号(BR=1)である
(4)シフトレバーの操作位置SPがパーキング(P)以外の位置である
なお、車両接近通報ECU1の起動時からの経過時間が所定時間Xを超えると条件(1)が不成立となるため、その後第一検査音開始条件が成立することはない。
【0031】
第二条件判定部3bは、第一検査音開始条件の成立後に、第二検査音開始条件を判定するものである。第一検査音開始条件と同様に、第二検査音開始条件も車速V,制動操作及び変速操作の入力パターンの組み合わせに基づいて判定される。ただし、第二検査音開始条件は、第一検査音開始条件が成立して初めて判定される。したがって、仮に上記の条件(1)〜(4)の何れかが成立しない場合には、第二検査音開始条件は判定されない。第二検査音開始条件は、例えば、以下の全ての条件が成立することとされる。
(5)第一検査音開始条件の成立時からの経過時間が第二所定時間Y以内である
(6)上記の(2), (3)の成立中にシフトレバーがP位置とP位置以外との間で
交互に三回操作される
【0032】
条件(6)中の「P位置以外」とは、P位置を除く任意の操作位置を意味する。つまり、P位置でない状態からP位置への操作が三回繰り返された場合(例えば、シフトレバーがN位置から順に、P位置、R位置、P位置、D位置、P位置と操作された場合)に、条件(6)が成立する。第二検査音開始条件が成立すると、検査発音制御部3は検査専用音をスピーカ4から発音させる。
【0033】
また、第二条件判定部3bは、第二検査音開始条件が成立後に、検査音終了条件を判定する。検査音終了条件は、下記の何れかの条件が成立することである。これらの何れかの条件が成立したとき、検査発音制御部3はスピーカ4に検査専用音の発音を停止させる。
(7)電動モータが起動していない(スタートスイッチ5がオフ操作)
(8)検査音の発音開始時からの経過時間が第三所定時間Z以上である
(9)車速Vが0[km/h]でない(例えば、車両が走行を開始した)
【0034】
ここで図2を用いて、上記の二種類の制御の開始条件が判定されるタイミングを説明する。時刻t1にスタートスイッチ5がオン操作されると、電動モータ及び車両接近通報ECU1が起動する。この時点から、通常発音制御部2では通報音条件の判定が開始されるとともに、検査発音制御部3では第一検査音開始条件が判定される。
このとき、検査専用音は第一検査音開始条件及び第二検査音開始条件が成立しない限り発音されない。一方、これらの条件が成立すると、検査専用音を発音する制御が優先され、スピーカ4から検査専用音が発音されることになる。
【0035】
条件(6)の操作受付可能時間は、第一検査音開始条件が成立してからYである。また、第一検査音開始条件に含まれる条件(1)及び第二検査音開始条件に含まれる条件(5)の制限を受けて、検査用の入力操作が受け付けられる時間は最長でもX+Yとなる。これにより、検査専用音を発音するための入力パターンの受付時間は、車両の起動時から所定時間が経過するまでの間となる。
【0036】
また、時刻t1から時間X+Yが経過した時刻t2以降は、検査専用音の発音制御が開始されない。時刻t2以降に開始されるのは、通常の通報音の制御のみである。なお、仮に時刻t2の直前に検査専用音を発音する制御が開始されたとすると、その検査音の発音開始時から第三所定時間Zが経過した時刻t3以降は検査専用音が発音されない。
言い換えると、検査専用音は、第一検査音開始条件が成立してから所定時間が経過するまでの間でのみ発音され、少なくとも車両10の起動時から時間X+Y+Zが経過した後には発音されない。
【0037】
[3.フローチャート] 図3は車両接近通報ECU1で実行される制御手順を例示するフローチャートである。このフローは、車両接近通報ECU1の内部において所定の周期(例えば数[ms]周期)で繰り返し実施される。フローチャート中のフラグFは、第一検査音開始条件の成否を意味するフラグである。
【0038】
すなわち、第一検査音開始条件の成立時にF=1に設定され、それ以外のときにはF=0(車両接近通報ECU1の起動時における初期値)とする。フラグFの値は、車両接近通報ECU1が起動している間は保持されるものとする。また、本フローチャート中のタイマーT1,T2は経過時間を計測するためのカウンターであり、初期値は車両接近通報ECU1の通電開始時に0である。
【0039】
ステップA10では、第一条件判定部3aにおいて、フラグFがF=0であるか否かが判定される。第一検査音開始条件の非成立時にはF=0であるため、続くステップA20へ進む。なお、第一検査音開始条件の成立後には、ステップA60へと進む。
ステップA20では、第一条件判定部3aにおいて、タイマーT1による計時が開始される。すでにタイマーT1による計時が始まっている場合には、その値が積算されてカウントが継続される。条件(1)に係る経過時間は、このタイマーT1によって計測される。
【0040】
続くステップA30では、第一条件判定部3aにおいて、タイマーT1で計測された経過時間が所定時間X以下であるか否かが判定される。ここでT1≦Xである場合には条件(1)が成立するため、ステップA40へ進む。一方、T1>Xである場合には条件(1)が非成立であり、すなわち第一検査音開始条件が成立しないため、ステップA120へ進む。なお、T1>Xになった後もタイマーT1の計時は停止しないため、車両接近通報ECU1の起動時から所定時間Xが経過するまでにステップA40の第一検査音開始条件が成立しなければ、その後検査専用音が発音されることはない。
【0041】
ステップA40では、第一条件判定部3aにおいて、条件(2)〜(4)が成立する否かが判定される。これらの条件が成立すると第一検査音開始条件が成立することになり、ステップA50でフラグFがF=1に設定される。一方、条件(2)〜(4)が成立しない場合にはステップA120へ進む。
【0042】
ステップA50に続くステップA60では、第二条件判定部3bにおいて、タイマーT2による計時が開始される。すでにタイマーT2による計時が始まっている場合には、その値が積算されてカウントが継続される。条件(5)に係る経過時間は、このタイマーT2によって計測される。続くステップA70では、第二条件判定部3bにおいて、タイマーT2で計測された経過時間が第二所定時間Y以下であるか否かが判定される。
【0043】
ここでT2≦Yである場合には条件(5)が成立するため、ステップA80へ進む。一方、T2>Yである場合には条件(5)が非成立であり、すなわち第二検査音開始条件が成立しないため、ステップA120へ進む。なお、T2>Yになった後もタイマーT2の計時は停止しないため、第一検査音開始条件の成立時から第二所定時間Yが経過するまでにステップA80の第二検査音開始条件が成立しなければ、その後検査専用音が発音されることはない。
【0044】
ステップA80では、第二条件判定部3bにおいて、条件(6)が成立するか否かが判定される。この条件が成立すると第二検査音開始条件が成立することになり、ステップA90に進む。一方、条件(6)が成立しない場合にはステップA120へ進む。
ステップA90では、検査発音制御部3から発音信号が出力され、スピーカ4から検査専用音が発音される。また、続くステップA100では、第二条件判定部3bにおいて、条件(7)〜(9)が成立するか否かが判定される。
【0045】
ここで条件(7)〜(9)が成立しない場合には制御がステップA90に戻り、検査専用音の発音が継続される。一方、条件(7)〜(9)の何れかが成立すると、ステップA110に進み、検査専用音の発音が終了し、このフローが終了する。なお、車両接近通報ECU1に入力される情報が変化しなかったとしても、条件(8)によって検査専用音の発音時間が第三所定時間Zに達すると検査音終了条件が成立するため、発音が停止する。
【0046】
ステップA120は、検査専用音に係る条件が成立しないときに進むステップであり、ここでは通常発音制御部2において、通報音条件が成立するか否かが判定される。すなわち、車速Vが所定範囲内である場合にはステップA130へ進み、所定速度以上であればステップA140へ進む。
【0047】
ステップA130では、通常発音制御部2から発音信号が出力され、スピーカ4から接近通報音が発音されて、このフローは終了する。また、ステップA140では発音信号の出力が停止し、接近通報音の発音が終了して、このフローは終了する。これらの何れのステップに進んだ場合であってもフローが終了し、所定の周期で再び制御がステップA10から実行される。
したがって、車両10の起動後しばらくの間は常に第一検査音開始条件や第二検査音開始条件の判定がなされ、これらの条件が成立した場合には検査専用音の発音が接近通報音の発音に優先される。
【0048】
[4.効果]
上記の車両接近通報装置では、第一検査音開始条件及び第二検査音開始条件の成立時に、通常の接近通報音とは異なる検査専用音を発音させる制御が実施される。したがって、車両接近通報ECU1に検査機能を付与することができ、結線状態や車両接近通報ECU1の動作を容易に確認することができる。また、接近通報音とは異なる任意の音を検査専用音として設定することが可能となり、検査者が音を容易に確認及び識別することができる。さらに、検査専用音を発音するための条件と接近通報音を発音するための条件とが相違するため、検査時にのみ検査専用音を発音させることができる。
【0049】
また、上記の車両接近通報装置では、検査専用音を発音するための条件が二重に(二種類)設定されるため、誤操作による検査音の発音を防止することができる。さらに、条件(1)〜(6)に示すように、第一検査音開始条件及び第二検査音開始条件は、車速Vの入力パターン,ブレーキスイッチ7の出力信号のパターン及びシフトポジションセンサ6の出力信号のパターンの組み合わせに基づいて判定される。したがって、検査時以外で検査専用音が発音されるような事態を回避しやすくすることができる。
【0050】
また、検査専用音を発音するための入力パターンの受付時間は、図2に示すように、最大でもスタートスイッチ5のオン操作から時間X+Yが経過するまでの間に限定される。これにより、車両10の走行中に意図せず検査専用音が発音されるような事態を確実に防止することができる。
さらに、接近通報音の発音よりも優先的に検査専用音の発音が制御されるため、確実に検査による動作確認をすることができ、製品検査の作業性を向上させることができる。
【0051】
[5.変形例]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
上述の実施形態では、車速V,ブレーキペダルの踏み込み操作及びシフトレバーの操作の組み合わせを用いて検査専用音の発音の開始条件を判定するものを例示したが、具体的な条件の設定手法はこれに限定されない。以下の制動操作のパターン,車速パターンに基づく条件判定例を示す。
【0052】
[5−1.制動操作のパターン]
図4(a)に示す車両接近通報ECU1は、上述のブレーキスイッチ7及び車輪速センサ8と、駐車ブレーキスイッチ9とが接続されたものである。なお、上述の実施形態と同一の要素に関しては同一の符号を付して説明を省略する。
【0053】
駐車ブレーキスイッチ9(制動検出手段の一つ)は、車両10の駐車ブレーキレバーへの操作の有無を検出するものである。ここでは、駐車ブレーキレバーが引き上げられているとき(パーキング状態のとき)にオン信号(PBR=1)が出力され、駐車ブレーキレバーが引き上げられていないとき(パーキング状態が解除されているとき)にオフ信号(PBR=0)が出力される(あるいは、オン信号が出力されない状態となる)。
【0054】
また、検査発音制御部3の第一条件判定部3aで判定される第一検査音開始条件として、以下の条件(10),(11)が設定され、第二条件判定部3bで判定される第二検査音開始条件として、以下の条件(12)が設定される。
(10)車速Vが0[km/h]である
(11)駐車ブレーキレバーが引き上げられている
(12)上記の(10),(11)の成立中かつ所定時間内に
ブレーキペダルが三回踏み込まれる
【0055】
条件(12)のブレーキペダルの踏み込み操作は、ブレーキスイッチ7から出力される信号に基づいて判定される。例えば、オン信号(BR=1)とオフ信号(BR=0)とが交互に繰り返し三回検出された場合に、ブレーキペダルが三回踏み込まれたと判定する。
【0056】
このような車両接近通報ECU1においても、制動操作と車速の入力パターンとの組み合わせに基づいて検査専用音を発音させることが可能となり、官能検査の作業性を向上させることが可能となる。なお、条件(12)で判定される操作パターンは、通常の車両10の運転操作時に検出されない特殊なパターンであることが好ましい。例えば、オン信号(BR=1)とオフ信号(BR=0)とを繰り返す回数が多いほど、検査時以外に検査専用音が発音される可能性を低下させることができる。
【0057】
[5−2.車速パターン]
より簡便な構成として、図4(b)に示す車両接近通報ECU1は、車輪速センサ8のみが接続されたものである。ここでは、検査発音制御部3の第一条件判定部3aで判定される第一検査音開始条件として以下の条件(13)が設定され、第二検査音開始条件として以下の条件(14)が設定される。
(13)車速Vが0[km/h]である
(14)車速Vが所定の変動パターンを示す
【0058】
条件(14)で判定される車速Vの変動パターンとは、例えば図4(c)に示すように、複数の車速状態(車速Vの値)が所定時間ずつ順に検出されるようなパターンとすることが考えられ、また通常の運転操作時には見られない特殊な変動パターンとすることが好ましい。
なお、官能検査時には図4(b)中に示すように、検査用の走行台11の上で車輪を回転させて、車輪速に対応する車速Vを車輪速センサ8から出力させればよい。または、検査用のテスター等を接続して車両接近通報ECU1に模擬車速信号を入力してもよい。このような車両接近通報ECU1においても、車速Vの入力パターンに基づいて検査専用音を発音させることが可能となり、官能検査の作業性を向上させることが可能となる。
【0059】
[5−3.その他]
検査専用音を発音させるための条件判定に係る操作入力は、通常の運転操作時に入力されない(又は入力されにくい)ものであれば任意に設定することができる。一方、通常発音制御部2で実施される接近通報音の制御との関連性が希薄なパラメータ(例えば、アクセル操作量や操舵角といったパラメータ)を用いたのでは、車両接近通報ECU1に係る入出力装置の結線状態を確認できない。
【0060】
このことから、接近通報音の制御との関連性が強いパラメータを検出し、そのパラメータの入力パターン(時間変動パターン)に基づいて検査専用音を発音する構成とすればよい。少なくとも、車速Vを検出する手段と、車速Vに応じて接近通報音を発音する手段と、車速Vの入力パターンに基づいて検査専用音を発音する手段とを備えれば、上述の実施形態の車両接近通報ECU1と同様の効果を奏するものとなる。
【0061】
なお、上記のアクセル操作量や操舵角といったパラメータは、通常発音制御部2で実施される接近通報音の制御との関連性が希薄なパラメータとして例示したものであって、これらのパラメータを用いた入力パターンの判定制御を排除する意図はない。すなわち、アクセル操作量を用いて接近通報音の制御を実施するような車両接近通報装置にあっては、このアクセル操作量の入力パターンを検査専用音の制御に用いることが好ましい。
【0062】
また、検査専用音を発音するための条件が複雑であるほど、通常の運転操作時における入力のされにくくなる。例えば、ブレーキ操作と車速とを組み合わせた入力パターンを用いて検査専用音を発音する構成とすれば、検査時以外で検査専用音が発音されるような事態を回避しやすくすることが可能となる。同様に、シフトレバー操作と車速とを組み合わせた入力パターンを用いて検査専用音を発音する構成とすることで、検査時以外での検査専用音の発音が回避しやすくなる。
【0063】
さらに、車両接近通報ECU1に検査用のダイアグコネクタが設けられている場合には、そのダイアグコネクタに検査用ダイアグ信号が入力されているときに、検査専用音が発音される構成とすることが考えられる。この場合、検査時以外の状態での検査専用音の発音を確実に防止することができる。
【0064】
また、車輪速センサ8で検出される車速Vの情報の代わりに(又はこれに加えて)、模擬車速信号を用いて制御を実施する構成としてもよい。この場合、例えばダイアグコネクタを介して車両接近通報ECU1と通信可能な検査機器(外部検査手段)を接続し、この検査機器から模擬車速信号を出力させることが考えられる。あるいは、汎用テスター(外部検査機器)を車両接近通報ECU1に直接的に接続し、特定のプロトコル(例えばKWP2000 on CAN)を用いて車両接近通報ECU1を強制駆動してもよい。これらのような構成により、車両10を走行させずに検査を実施することも可能となり、製品検査の作業性をさらに向上させることができる。
【0065】
また、上述の実施形態及び変形例では、第一検査音開始条件や第二検査音開始条件の中で車速Vの大きさを判定するものを例示したが、車速Vの代わりに車輪速や車両10の加速度を用いてもよい。また、上述のブレーキスイッチ7はブレーキペダルの踏み込み操作の有無を検出するものとしたが、これに加えて(又は代えて)ブレーキペダルの踏み込み量を検出するストロークセンサを用いてもよい。この場合、踏み込み量の入力パターンを第一検査音開始条件,第二検査音開始条件で判定することが可能となる。
【0066】
また、上述の実施形態及び変形例では、車両10の外部に対して発音するためのスピーカ4のみを備えたものを例示したが、検査専用音の発音先は車両10の外部でなくてもよい。例えば、車両接近通報ECU1と車室内の音響装置とを接続し、検査専用音を車室内に発音させる構成とすることも考えられる。これにより確認作業がより容易となり、製品検査の作業性をさらに向上させることができる。
【0067】
また、上述の実施形態及び変形例では、車両接近通報ECU1を電気自動車に適用したものを例示したが、適用対象となる車両の種類はこれに限定されず、少なくとも駆動用の電動モータを備えた車両への適用が可能である。例えば、電動モータを搭載した燃料電池自動車やハイブリッド車両に車両接近通報ECU1を適用してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 車両接近通報ECU
2 通常発音制御部(第一発音手段)
3 検査発音制御部(第二発音手段)
3a 第一条件判定部
3b 第二条件判定部
4 スピーカ
5 スタートスイッチ
6 シフトポジションセンサ(変速検出手段)
7 ブレーキスイッチ(制動検出手段)
8 車輪速センサ(車速検出手段)
9 駐車ブレーキスイッチ(制動検出手段)
10 車両
図1
図2
図3
図4